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Gemini Enterprise for Legalは日本の弁護士業務に活用できるか―Preview条項と導入条件(AI作成)

第1 対象と結論

1 対象時点と検討範囲

本記事は,令和8年8月27日時点の公開情報に基づき,Gemini Enterprise for Legalを日本の法律事務所で利用する場合の一般的な判断材料を整理するものである。
Google Cloudの製品ページには「In preview」と表示されており,Google Cloudの発表及びReutersの報道も,法務向け機能がPreviewとして公表されたことを伝えている。

検討の対象は,公開された製品説明,Google Cloudの契約条件,日本の弁護士に適用される法令及び会規並びに個人情報保護委員会の公表資料である。
実際の注文書,製品固有の利用条件及び営業資料は確認していないため,個別の導入可否は契約書面を取得した後に改めて判断する必要がある。

2 現時点の結論

公開情報,架空データ又は依頼者情報を含まない事務所内テンプレートを用い,外部への書込みを行わない限定パイロットには活用の余地がある。
他方,実在する依頼者の秘密又は個人データを用いる本番運用は,Previewに適用される一般条項と,日本法に関する性能及び接続先の未確認事項が解消するまで見合わせるのが相当である。

したがって,令和8年8月27日時点の答えは,「限定された検証には活用できるが,実依頼者データを扱う本番利用を直ちに開始できるとは確認できない」という条件付きのものである。
この結論は,個別の契約書面にPre-GA条項の例外が明記され,データ処理及び日本法の精度に関する検証が完了した場合には変わり得る。

第2 Gemini Enterprise for Legalの仕組み

1 Gemini Enterprise内の法務プラグイン

Googleの説明によれば,Gemini Enterprise for Legalは独立した法律相談アプリではなく,Gemini Enterpriseのアプリ内で利用する法務向けプラグインである。
中核となる要素は,①法務業務の手順を再利用できる「スキル」,②既存システムへ接続するコネクタ,③複数工程を処理するエージェント,④外部事業者を含むパートナー群,⑤これらを管理する統制基盤である。

この構造は,汎用チャットへ文書を貼り付ける使い方よりも,法律事務所の文書管理,権限設定及び業務手順へAIを組み込むことを重視している。
そのため,導入判断ではモデルの回答能力だけでなく,接続先ごとの権限,ログ,保存,削除及び外部実行の範囲を確認する必要がある。

2 想定されている法務ワークフロー

Googleは,契約書をプレイブックと照合するレビュー及び修正案の作成,規制動向の監視,プレイブック作成,法務調査,データ主体からの請求への対応等を想定業務として掲げている。
また,検索結果へ追跡可能な引用を付し,原資料へ戻って確認できる設計を説明している。

もっとも,これらは提供者による用途及び機能の説明であり,日本の法令,判例及び法律文書を用いた正確性,重要な論点の欠落率又は弁護士の確認時間を示す独立した評価結果ではない。
日本の弁護士業務における実用性は,対象業務ごとに検証用資料と正解基準を定めて測る必要がある。

3 Googleが説明するセキュリティ機能

Googleは,依頼者データ,プロンプト,文書及び出力を基盤モデルの学習に使用しないこと,コネクタが元のシステムのアクセス権限を引き継ぐこと,VPC Service Controls及び顧客管理暗号鍵を利用できることを説明している。
これらは,法律事務所が確認すべき重要な製品仕様である。

ただし,公開ページの説明は,個別契約におけるデータ処理条項,保存場所,保持期間,再委託先,事故通知,監査可能性及びサービス終了時の返還・削除を当然に確定するものではない。
提供者の説明による事実と,契約書面によって確保される権利義務を分けて確認する必要がある。

第3 Preview条項が本番利用を制約する理由

1 Pre-GA Offerings Termsの適用

Google Cloud Service Specific TermsのGeneral Service Terms第5項は,「Preview」を一般提供前の機能等であるPre-GA Offeringsに含めている。
令和8年7月29日最終更新版では,Pre-GA Offeringsは現状有姿で提供され,事前通知なく変更,停止又は終了され得ること,サービスレベル合意及びGoogleの補償の対象外であることが定められている。

また,書面による通知又はGoogleの文書に別段の明示がない限り,通常のデータ所在地に関する条項はPre-GA Offeringsへ適用されない。
法務向け製品ページがセキュリティ機能を掲げていても,LegalのPreviewへどの契約保護が適用されるかは,個別文書で確認しなければならない。

2 データ処理条項と個人データ

同第5項は,別段の明示がない限り,Cloud Data Processing Addendumを含むデータ処理条項がPre-GA Offeringsに適用されず,個人データ又は法令上若しくは規制上の遵守対象となるデータの処理に利用すべきでないとしている。
この記載は,実依頼者データを用いるかどうかを判断する上で最も重要な制約である。

法律事務所の事件記録には,個人データに加え,弁護士の守秘義務の対象となる情報が広く含まれ得る。
個別の注文書,Scope of Useその他のGoogle文書で明確な例外を確認できない段階では,製品の法務特化という名称だけから実事件データの処理が許容されると判断することはできない。

3 学習不使用と契約上の保護は別問題

入力データを基盤モデルの学習に使わないという説明は重要であるが,学習不使用は,データが保存されないこと,国外で処理されないこと,再委託されないこと又は事故時の契約上の救済が確保されることと同じではない。
保存,アクセス,処理目的,保持期間,削除,監査及び事故対応は,それぞれ別に確認すべき事項である。

製品ページのセキュリティ説明とPre-GA条項は,異なる問題を扱っている。
したがって,導入時にはLegal固有の注文書及び利用条件を入手し,Pre-GA条項に対する例外の有無と適用範囲を文書で確定する必要がある。

第4 日本の弁護士業務で確認すべき規律

1 守秘義務と事件記録の管理

弁護士法23条は,弁護士又は弁護士であった者が職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負うことを定めている。
弁護士職務基本規程23条も,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならないとしている。

同規程18条は事件記録の保管及び廃棄における秘密等への注意を求め,19条は事務職員等に秘密を漏らし,又は利用させないための指導監督を求めている。
これらの規定は特定のクラウド製品の利用可否を直接定めるものではないが,AIへ事件情報を接続する際にも,取扱主体,目的,権限及び管理方法を明確にする必要があることを示している。

生成AIへの入力がどのような場合に秘密情報の第三者への開示として問題となるかについては,学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるかで整理している。
Gemini Enterprise for Legalについても,「学習オフ」だけでなく,契約上の取扱いと実際のデータフローを確認する必要がある。

2 弁護士情報セキュリティ規程

弁護士情報セキュリティ規程は,取り扱う情報の漏えい,滅失又は毀損等を防ぐため,リスクに応じた組織的,人的,物理的及び技術的な安全管理措置を講じることを求めている。
また,情報の取得から廃棄までのライフサイクル,継続的な改善及び事故発生時の対応を含む管理を求めている。

したがって,製品に暗号化又はアクセス制御の機能があるという確認だけでは足りない。
法律事務所側でも,対象データ,利用者,接続先,操作権限,ログ確認,削除手順及び事故対応を具体化し,運用後も見直す必要がある。

3 個人情報保護法上の委託先監督

個人情報保護法23条及び25条は,個人データの安全管理措置と,取扱いを委託する場合の委託先に対する必要かつ適切な監督を求めている。
同法27条5項1号により,利用目的の達成に必要な範囲の委託に伴う個人データの提供は第三者への提供に当たらないが,これによって安全管理及び委託先監督が不要になるわけではない。

個人情報保護委員会の通則編ガイドラインは,個人データの入力,編集,分析又は出力等の処理を行う場合も委託の例として挙げ,委託先の選定,契約,取扱状況の把握及び再委託先の監督を示している。
国外の事業者又は設備が関与する場合には,処理の構成に応じて,同法28条の外国にある第三者への提供に関する規律が問題となるかも確認する必要がある。

個人情報保護委員会の生成AIに関する注意喚起は,個人情報を含む入力が利用目的の範囲内かを確認し,応答生成以外の目的で取り扱われる場合には,機械学習への利用の有無等を十分に確認するよう求めている。
もっとも,機械学習への不使用を確認できても,Previewにおけるデータ処理条項の適用問題は別に残る。

第5 現時点で考えられる活用範囲

1 データと権限による段階分け

公開資料と契約条件を踏まえると,導入はデータの機密性とエージェントの権限に応じて段階を分けるのが合理的である。
次の表は,令和8年8月27日時点の公開資料から導いた一般的な目安であり,Googleが保証又は認定した利用区分ではない。

段階使用するデータ権限現時点の判断
公開情報又は架空データコネクタなし,又は読取りのみ限定パイロットが可能
依頼者情報を含まない事務所内テンプレート及び公開資料最小権限の限定コネクタ保存・削除・ログを確認した上で条件付きで可能
仮名化又は最小化した依頼者情報読取り中心製品固有のデータ処理条項及びPre-GAの例外を確認するまで保留
実依頼者の秘密,要配慮個人情報その他の高機密情報外部への書込み又は実行を含む現時点では採用しない

段階0又は1でも,入力内容を事前に点検し,出力をそのまま法律判断又は対外文書に使用しないことが前提である。
段階を上げる判断は,契約確認,権限テスト及び日本法の精度評価を通過した後に行う必要がある。

2 日本法の調査及び起案に関する未確認事項

Gemini Enterpriseの公式コネクタ一覧では,iManage,NetDocumentsその他の法律業務に関係する接続先が掲げられている。
しかし,令和8年8月27日に確認した公開一覧では,e-Gov法令検索,LEX/DBインターネット,D1-Law.com,Westlaw Japan及び判例秘書の名称は確認できなかった。

この確認結果は,日本の法律情報へ接続できないことを意味しない。
カスタムコネクタ,個別契約又は将来の追加があり得る一方,少なくとも公開一覧だけから日本の主要な法令・判例データベースとの標準接続を確認することはできないという意味である。

また,日本語の製品紹介ページがあることは,日本法に関する正確性又は網羅性の評価結果を意味しない。
実務で試す場合は,現行法令及び確認済み裁判例から検証用の問題を作り,引用先へ到達できる割合,誤った引用,重要論点の欠落及び人による修正量を業務別に測る必要がある。

3 権限継承とエージェント実行の注意点

Googleは,コネクタが元のシステムに設定されたアクセス権限を引き継ぎ,弁護士が許可された情報だけを取得すると説明している。
しかし,元の文書管理システムに過大な権限が設定されていれば,その権限も引き継がれ得るため,接続前の権限棚卸しが必要である。

また,検索及び要約を行う読取り権限と,メール送信,文書更新,承認経路への送信等を行う実行権限では,誤作動の影響が異なる。
最初の検証では接続先と操作を許可リストで限定し,外部への書込みを禁止し,弁護士による承認を必須とするのが相当である。

第6 導入前の確認事項と限定パイロット

1 契約及びデータ処理に関する質問

営業担当者又は契約担当者には,少なくとも次の事項を文書で確認する必要がある。
口頭説明又は一般的な製品ページだけでなく,実際に適用される注文書,Scope of Use,データ処理条項及び製品文書へ回答を反映させることが重要である。

①Gemini Enterprise for Legalに適用される製品名,SKU,提供地域及びPreviewの範囲並びにPre-GA Offerings Terms第5項に対する書面上の例外の有無
②Cloud Data Processing Addendumの適用,処理目的,データ所在地,保持期間,バックアップを含む削除手順及びサービス終了時のデータ返還
③再委託先と処理国,アクセスできる担当者,暗号鍵,ログ,監査資料,セキュリティ事故の通知時期及び責任分担
④入力,文書及び出力の学習利用の有無,接続先ごとの権限継承方法,外部への書込みを制限する方法及び人による承認機能
⑤サービスの変更又は終了時の移行方法,技術支援,サービスレベル合意,補償及び利用停止後の検証可能性

2 限定パイロットで測る事項

最初のパイロットでは,公開済みの法令,公表資料及び架空の契約書を用い,正解と参照資料を事前に固定する。
調査,契約レビュー及び文書整理を別々に評価し,出力の流暢さではなく,弁護士が検証を終えるまでの全工程を測る必要がある。

評価項目は,①引用先へ到達できた割合,②誤った引用及び重要な欠落の件数,③人が修正又は再調査した時間,④権限のない資料を取得しなかったこと,⑤ログと削除の再現性,⑥1件当たりの費用及び処理時間である。
成果物を外部へ送信し,又は事件記録へ保存する前には,担当弁護士が原資料と法的評価を確認する運用を維持する必要がある。

3 利用範囲を広げない停止基準

異なる案件の情報が検索結果へ混入した場合,引用元を再現できない場合,存在しない法令又は裁判例を引用した場合,重要な反対論点を反復して落とす場合には,利用範囲を広げるべきでない。
また,削除及びログの確認ができない場合,Pre-GAのデータ処理条件が文書で解消されない場合,又は人による確認時間を含めると合理的な効果が得られない場合も同様である。

停止基準に該当したときは,データ又は権限を追加して解決を試みるのではなく,接続を停止し,原因,影響範囲及び代替手段を確認する必要がある。
契約条件又は技術的統制で解消できない事項が残る場合は,当該用途の採用を見送ることになる。

第7 まとめ

Gemini Enterprise for Legalは,法務向けスキル,権限を引き継ぐコネクタ及び専用エージェントを一つの管理基盤で扱う構想であり,日本の法律事務所でも公開情報等を用いた限定パイロットの対象にはなり得る。
しかし,現時点ではPreviewの一般条項がデータ処理を強く制約し,日本法の精度及び主要データベースとの接続も公開一次資料から確認できないため,実依頼者データを用いる本番利用は保留すべきである。

導入判断は,「学習に使われないか」だけで終わらせず,適用契約,データフロー,権限,ログ,削除,事故対応及び日本法の検証結果を一体として行う必要がある。
一般提供への移行又は製品固有の契約文書の公表後には,本記事の結論を再確認する必要がある。

第8 出典・参考資料

1 製品,契約条件及び報道

①Google Cloud「Now introducing Gemini Enterprise for Legal」,令和8年8月26日,Google Cloud Blog
②Google Cloud「Gemini Enterprise for Legal」,令和8年8月27日確認,製品ページ
③Google Cloud「Service Specific Terms」,General Service Terms第5項「Pre-GA Offerings Terms」,令和8年7月29日最終更新,契約条件
④Google Cloud「Gemini Enterprise connectors」,令和8年8月27日確認,公式コネクタ一覧
⑤Reuters「グーグル,企業向け生成AI基盤に法律業界用の新機能追加」,令和8年8月25日,Reuters記事

2 法令及び会規

弁護士法23条,e-Gov法令検索,令和8年8月27日確認
個人情報の保護に関する法律23条,25条,27条5項1号及び28条,e-Gov法令検索,令和8年8月27日確認
③日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」18条,19条及び23条,資料5頁~8頁(PDF3頁~4頁),公式PDF
④日本弁護士連合会「弁護士情報セキュリティ規程」,資料1頁(PDF1頁),公式PDF

3 個人情報保護委員会資料

①個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」,3-4-4,令和8年6月一部改正,公式掲載ページ
②個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」,令和5年6月2日,1頁~3頁(PDF1頁~3頁),公式掲載ページ

4 関連記事

①山中弁護士ブログ「学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるか(AI作成)」,令和8年8月26日