第1 本記事の対象と基準日
本記事は,テレビCM,インターネット広告,チラシ等に表示された低価格の葬儀プランを見て葬儀社に依頼したところ,見積額や請求額が広告の価格を大きく上回ったという場面を扱う。
想定する読者は,葬儀の見積もりや請求に納得できない遺族と,死後事務や相続の相談の中でこの種の相談を受ける弁護士である。
まず,令和8年9月18日に消費者庁が株式会社金宝堂に対して行った措置命令と,平成29年以降に葬儀業者に対して行われた景品表示法の処分例を,消費者庁の公表資料に基づいて整理する。
次に,国民生活センターが公表した相談統計と事例を確認した上で,相談を受けたときに検討する法律(特定商取引法,消費者契約法,民法及び景品表示法)と,葬儀社と遺族の間の裁判例を取り上げる。
本記事の基準日は令和8年9月20日である。
条文はe-Gov法令検索で基準日時点の現行条文を確認した。
個別の事業者名は,消費者庁が公表した処分の対象となった事業者に限って記載する。
取り上げる下級審の裁判例は,いずれも個別の事案についての判断であり,同種の事案で同じ結論になることを保証するものではない。
第2 金宝堂に対する措置命令(令和8年9月18日)
1 命令の対象となった表示と実際の価格
(1) テレビCMの表示
消費者庁は,令和8年9月18日,株式会社金宝堂(東京都渋谷区)に対し,景品表示法7条1項に基づく措置命令(消表対第807号)を行った。
違反とされたのは,価格その他の取引条件についての有利誤認表示を禁止する同法5条2号である。
対象は,「小さな森の家」という屋号で提供する「貸切ホールを用いる家族葬に係る葬儀サービス」であり,表示媒体は地上波放送のテレビCMである。
表示期間は,令和7年3月1日から同年5月31日までのうちの一部の期間である。
CMでは,花飾りを背景に,「1日1組限定」との音声と共に「1日1組 貸切ホール」との文字,「選べるホールがこんなに」との音声と共に「えらべるホールがこんなに」との文字が映され,続いて「お得なプランがこの価格から」との音声と共に「家族葬 10.45万円~ (税込)」との文字が映された。
消費者庁は,これにより,あたかも貸切ホールを用いる家族葬が「最低料金として10万4500円で提供されるかのように表示していた」と認定した。
(2) 実際の最低額と報道の「約3倍」
これに対し,実際には,貸切ホールを用いる家族葬の提供を受けるには,「僅かな場合を除き,30万8000円以上の費用が必要であった」と認定されている。
一部の報道はこれを「約3倍」と伝えたが,30万8000円を10万4500円で割ると約2.95倍であり,「約3倍」は丸めた表現である。
消費者庁の発表資料及び命令書には「3倍」という語はない。
2 CM画面の注記と命令の内容
(1) 別紙の画像に写る注記
消費者庁の発表資料の別紙には,CMの画面が画像で添付されている(PDF7頁)。
その画像を見ると,「家族葬 10.45万円~」の画面の下部に,小さな文字で,「会員割引適用価格」,「こちらの料金は火葬式プランになります。」,「10.45万円のプランはお付き添い面会はできません。」,「火葬料金は別途お客様負担になります。」,「事前に資料請求と会員登録が必要です。」,「資料請求・会員登録・年会費無料」という注記が表示されている。
この読み取りは,本記事が別紙の画像から行ったものであり,消費者庁が命令書の中で認定した事実ではない。
命令書の本文は注記に言及しておらず,注記が付されていても,表示全体として5条2号に当たると判断されたものと考えられる。
画像の注記によれば,10.45万円は火葬式プランの会員割引価格であり,CMが音声と映像で強調していた「貸切ホール」の家族葬の価格ではなかったと読める。
音声と大きな文字で強調された内容と,画面下部の小さな文字の注記との関係は,第4で取り上げる消費者庁の打消し表示についての考え方と重なる。
(2) 命令の内容と広告制作の委託
命令の内容は,①表示が景品表示法に違反するものであった旨を一般消費者に周知徹底すること(周知の方法は消費者庁長官の事前承認を要する。),②再発防止策を講じて従業員に周知徹底すること,③今後同様の表示をしないこと,④周知徹底と再発防止策について文書で消費者庁長官に報告することである。
発表資料には,課徴金納付命令についての記載はない。
命令書は,金宝堂が「テレビコマーシャルの表示内容の決定について広告制作等を行う事業者に委ねることにより,当該表示内容の決定に関与している」と認定している。
広告の制作を外部に任せていても,広告主である葬儀業者が表示の主体として扱われることが分かる。
第3 葬儀業者に対する景品表示法の処分の系譜
1 平成29年から令和8年までの7件
消費者庁の報道発表で確認できる葬儀業者に対する景品表示法の処分は,次のとおりである(都道府県の措置は調査していない。)。
いずれも5条2号(有利誤認)に当たるとされたものであり,5つの事業者に対する7件の処分である。
| 公表日 | 事業者 | 処分 | 表示の要旨と実際 |
|---|---|---|---|
| 平成29年12月22日 | イオンライフ株式会社(「イオンのお葬式」) | 措置命令 | 新聞広告で「追加料金不要」と記載した上で「火葬式198,000円(税込)」等と表示したが,一定の場合には追加料金が発生した。 |
| 平成30年12月21日 | 株式会社ユニクエスト(「小さなお葬式」) | 措置命令 | 自社ウェブサイトで「追加料金一切不要のお葬式 総額188,000円(税込) 資料請求割引価格」等と表示したが,一定の場合には追加料金が発生した。 |
| 令和元年6月14日 | 株式会社よりそう(「シンプルなお葬式」等) | 措置命令 | 自社ウェブサイトで「必要なものが全てコミコミだから安心 この金額で葬儀ができます」等と表示したが,一定の場合には追加料金が発生した。 |
| 令和2年3月27日 | 株式会社よりそう | 課徴金納付命令(417万円) | 上記表示のうち「家族葬仏式プラン」に係るもの。同じウェブページに別の表示があったが,離れた箇所にあり,打消し表示とは認められなかった。 |
| 令和3年7月2日 | 株式会社ユニクエスト | 課徴金納付命令(1億180万円) | 上記表示のうち4つの葬儀サービスに係るもの。追加料金が生じる場合の記載は「よくある質問」等のリンク先にしかなく,打消し表示とは認められなかった。 |
| 令和6年5月30日 | 株式会社那覇直葬センター | 措置命令 | チラシで供花や仏具がある部屋に安置された棺の写真等と共に「火葬プラン77,000円(税込)」と表示したが,個室での面会等には追加料金が発生した。ウェブサイトの「通常価格」には提供の実績がなかった。 |
| 令和8年9月18日 | 株式会社金宝堂(「小さな森の家」) | 措置命令 | 第2のとおり。 |
ユニクエストに対する課徴金の額は,消費者庁の発表資料では「1億180万円」であり,これと異なる額を記載する解説もあるので,引用するときは原資料の数字を確認する必要がある。
課徴金の額は,原則として,課徴金対象期間の対象役務の売上額に100分の3を乗じた額である(景品表示法8条1項)。
2 処分例に共通する表示の型
(1) 「追加料金不要」「コミコミ」の表示
平成29年から令和3年までの5件は,いずれも,広告の価格以外に追加料金が発生しないかのように表示していたのに,実際には追加料金が発生する場合があったというものである。
ユニクエストに対する課徴金納付命令の別表では,追加料金が発生する場合として,寝台車又は霊柩車の搬送距離が50kmを超える場合,安置日数が設定日数を超える場合,火葬場利用料が市民料金を超える場合等が挙げられている。
いずれも,亡くなった場所や火葬場の利用状況,故人の住所地等によって生じ得る事情であり,遺族が自由に避けられるとは限らないと考えられる。
(2) 広告の最低価格では希望する形式の葬儀ができない表示
那覇直葬センターと金宝堂の事件は,広告で見せた葬儀の形式(個室での面会,貸切ホールでの家族葬)と,広告の価格で実際に提供される内容とが違っていたというものである。
また,ユニクエストの「資料請求割引価格」,よりそうの「更に資料請求で5,000円引」,金宝堂のCM画面の「会員割引適用価格」のように,資料請求や会員登録を条件とする割引価格を広告の前面に出す表示も繰り返し見られる。
遺族が葬儀社を選ぶときは,広告の価格がどの形式の葬儀についての,どの条件の下での価格かを確認することになる。
第4 打消し表示についての消費者庁の考え方
1 動画広告の打消し表示
(1) 打消し表示が含まれる画面の表示時間
消費者庁は,平成30年6月,「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」を公表した。
これは景品表示法に基づく告示や指針ではなく,消費者庁が実態調査を踏まえて景品表示法上の考え方を整理した資料である。
同資料は,動画広告について,表示されている時間が限られること,文字以外の音声等にも視聴者の注意が引きつけられること等の特徴を挙げた上で,打消し表示が含まれる画面の表示時間が短い場合には,一般消費者が打消し表示に気付かなかったり,読み終えることができなかったりすることがあるとしている(同資料6頁~7頁)。
(2) 音声で強調し,文字だけで打ち消す表示
同資料は,強調表示が音声により強調されている一方,打消し表示が音声で表示されていない場合,一般消費者は音声で強調された表示に注意が向き,打消し表示に注意が向かないと考えられるとする。
その例として,文字と音声の両方で表示された強調表示に注意が向けられ,文字のみで表示された打消し表示に注意が向かないような場合には,打消し表示の内容を一般消費者が正しく認識できないと考えられるとし,こうした表示方法により著しく有利であると誤認されるときは,景品表示法上問題となるおそれがあるとしている(同資料8頁)。
金宝堂のCMは,「お得なプランがこの価格から」という音声と大きな文字で価格を強調し,注記は画面下部の小さな文字だけであったから,この資料が示す類型と同じ構図であったと考えられる。
2 追加料金型の打消し表示
同資料は,打消し表示の内容についても,「全て込み」などと追加の料金が発生しないかのように強調している一方,別に追加料金が発生する旨が打消し表示に記載されており,一般消費者が読んでもその内容を理解できない場合には,一般消費者は当該価格以外に追加料金が発生しないという認識を抱くと考えられるとしている(同資料21頁)。
第3で見た「追加料金不要」「コミコミ」型の処分例は,この類型に当たる。
よりそうの事件では同じウェブページ内でも離れた箇所の記載,ユニクエストの事件では「よくある質問」等のリンク先の記載が,いずれも打消し表示として認められなかった。
注記を置いていたという事情だけでは,広告の価格の表示が正当化されるわけではないことが分かる。
第5 国民生活センターの相談統計と事例
1 相談件数と相談内容
国民生活センターは,令和8年6月3日,「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル-『家族葬だから安い』と思っていませんか?-」を公表した。
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された「葬儀サービス」に関する相談件数は,2019年度632件,2022年度951件,2024年度978件,2025年度917件である(いずれも令和8年3月31日までの登録分)。
「高価格・料金」に関する相談の割合は,2019年度の33.2%から2025年度の52.6%へ上昇している。
2025年度の主な相談内容(複数回答,n=917)は,「高価格・料金」482件,「説明不足」346件,「見積もり(全般)」194件,「契約書・書面(全般)」178件,「販売態度」111件の順である。
平均契約購入金額は,2025年度で約109万円とされている。
相談件数は登録の基準日によって変わるので,他の資料の件数と比べるときは基準日を揃える必要がある。
2 公表された3つの事例
(1) ネット広告の50万円プランと搬送費20万円
施設で亡くなった母親の遺体を搬送する必要があり,インターネット広告に記載されていた50万円のプランで申し込むと連絡して葬儀場まで搬送してもらったところ,翌日の打合せで120万円のプランを提案された。
キャンセルしたいと伝えると,葬儀をしないのであれば搬送費用として20万円を請求すると言われ,約120万円の契約書に署名した。
後で広告を見直すと,打合せの上で依頼しない場合は搬送費用を受け取らない旨が書かれていたという事例である(2026年1月受付)。
(2) チラシの一日葬約30万円と約80万円の契約
チラシに「通夜を行わない告別式のみの一日葬は約30万円」と書かれていた葬儀社に,電話で2度確認した上で遺体の引取りを依頼したところ,翌日に80万円以上の見積もりを出され,約80万円で契約したという事例である(2025年5月受付)。
請求書には,チラシでは料金に含まれるとされていた仏具や仏衣に関係する費用も含まれていた。
(3) 家族葬50万円の表示と明細のない見積書
「家族葬が50万円」と表示していた葬儀社を訪問したところ,低価格のプランは無宗教の人向けだと言われ,読経を希望したため140万円のプランを承諾した。
見積書にはプラン名と「一式」としか記載がなく,会食等の追加費用を含めて総額200万円を超えたという事例である(2025年11月受付)。
3 国民生活センターの助言
国民生活センターは,消費者へのアドバイスとして,①前もって情報収集を行い,事前に複数の葬儀社を比較すること,②葬儀社との打合せは親族や第三者など複数人で行うこと,③契約前に必ず見積書を受領し,明細をよく確認すること,④不安に思った場合やトラブルが生じた場合は,すぐに消費生活センター等(消費者ホットライン188)に相談することを挙げている。
また,「家族葬」「一日葬」の範囲は葬儀社によって異なることがあるとして,言葉のイメージにとらわれず,参列者の人数,葬儀の実施日数,料金等の具体的な内容を確認するよう呼び掛けている。
第6 相談を受けたときの法的構成
1 クーリング・オフは原則として使えない
(1) 特定商取引法26条4項2号と施行令15条4号
葬儀社との契約が病院や自宅等で結ばれた場合,特定商取引法の訪問販売(同法2条1項)に当たり得る。
しかし,同法26条4項は,「第九条及び第二十四条の規定は,次の販売又は役務の提供で訪問販売又は電話勧誘販売に該当するものについては,適用しない。」と定め,同項2号は「契約の締結後速やかに提供されない場合には,その提供を受ける者の利益を著しく害するおそれがある役務として政令で定める役務の提供」を挙げる。
これを受けた特定商取引法施行令15条4号は,「葬式のための祭壇の貸与その他の便益の提供」を定めている。
したがって,葬儀の契約は,訪問販売や電話勧誘販売に当たる場合でも,クーリング・オフ(訪問販売について9条,電話勧誘販売について24条)の対象にならない。
「クーリング・オフできますか」と聞かれたときは,原則としてできないと答えるのが出発点になる。
(2) 外れるのは9条と24条だけ
もっとも,26条4項が適用を除外しているのは9条と24条だけであり,訪問販売に関するその他の規定まで外しているわけではない。
特に,10条1項は,訪問販売に当たる契約が解除されたときは,損害賠償額の予定や違約金の定めがあっても,同項各号の額に法定利率による遅延損害金を加えた金額を超える金銭の支払を請求できないとしている。
役務の提供の開始後の解除であれば「提供された当該役務の対価に相当する額」(同項3号),開始前の解除であれば「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」(同項4号)が基準になる。
病院等で結ばれた葬儀の契約が訪問販売に当たるなら,搬送だけが済んだ段階での解約について,高額なキャンセル料の請求をこの規定で制限できる場合があると考えられる。
なお,消費者契約法11条2項は,他の法律に別段の定めがあるときはその定めによるとしている。
(3) 自宅へ来てもらって契約した場合
一方,特定商取引法26条6項1号は,「その住居において売買契約若しくは役務提供契約の申込みをし又は売買契約若しくは役務提供契約を締結することを請求した者に対して行う訪問販売」には,4条から10条までを適用しないとしている。
遺族が自ら葬儀社に自宅へ来て契約するよう求めた場合には,10条の上限も使えない可能性がある。
相談を受けたときは,契約した場所と,葬儀社が来ることになった経緯を最初に確認することになる。
2 消費者契約法による取消し
(1) 不実告知と不利益事実の不告知
消費者契約法4条1項1号は,事業者が勧誘に際して「重要事項について事実と異なることを告げること」により消費者が誤認して契約したときは,契約を取り消すことができるとしている。
重要事項には,「対価その他の取引条件」であって契約するか否かの判断に通常影響を及ぼすべきものが含まれる(同条5項2号)。
また,同条2項は,事業者が重要事項について消費者の利益となる旨を告げ,かつ,不利益となる事実を故意又は重大な過失によって告げなかったため,消費者がその事実が存在しないと誤認して契約したときも,取消しを認めている。
「この価格で葬儀ができる」と告げながら,その価格では必要最低限の内容が含まれていなかった場合には,これらの規定を検討する余地があると考えられる。
ただし,取消しの対象は勧誘に際しての告知であり,広告の表示それ自体が直ちに勧誘に当たるかどうかは事案ごとに判断されることになる。
(2) 契約前の搬送と「キャンセルなら費用を請求する」という告知
消費者契約法4条3項9号は,消費者が契約の申込み又は承諾をする前に,「当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部若しくは一部を実施し,又は当該消費者契約の目的物の現状を変更し,その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること」によって困惑して契約したときの取消しを定めている。
同項10号は,契約前に事業者が契約の締結を目指した事業活動を実施した場合に,正当な理由がないのに,「当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げること」を取消事由としている。
第5の事例(1)のように,契約前に遺体を搬送した上で,断るなら搬送費を請求すると告げた場合には,搬送を義務の一部の先行実施とみれば9号,準備行為の費用の補償を求める告知とみれば10号の問題になると考えられる。
もっとも,いずれも,その行為によって消費者が「困惑し」,それによって契約したことが要件である。
第7の2で取り上げる裁判例は,契約前の搬送を義務の一部の実施と認めながら,困惑して契約したとは認められないとして取消しを否定している。
(3) 取消権の行使期間
消費者契約法4条1項から4項までの取消権は,追認をすることができる時から1年間行わないとき,又は契約の締結の時から5年を経過したときに消滅する(同法7条1項。同法4条3項8号に係る取消権は別の期間である。)。
葬儀後に請求書を見て疑問を持ったときは,早めに書面を集めて検討を始める必要がある。
3 キャンセル料の一部無効
葬儀の契約は,葬儀社が葬儀という仕事を完成し,遺族がその結果に報酬を支払う点で請負(民法632条)の性質を持つと考えられ,注文者は,仕事が完成するまでは,損害を賠償して契約を解除することができる(同法641条)。
問題は,解除したときの損害賠償額やキャンセル料の額である。
消費者契約法9条1項1号は,解除に伴う損害賠償額の予定や違約金を定める条項のうち,解除の事由,時期等の区分に応じ,同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき「平均的な損害の額」を超える部分を無効としている。
同条2項は,事業者がキャンセル料等を請求する場合に,消費者から説明を求められたときは,算定の根拠の概要を説明するよう努めなければならないとしている。
平均的な損害の考え方と裁判例は,無断キャンセル(ノーショー)のキャンセル料はいくらまで請求できるかで詳しく扱っている。
4 景品表示法違反と被害者個人の請求
景品表示法は,消費者庁長官等による措置命令や課徴金納付命令によって不当表示を規制する法律であり,不当表示によって契約した個々の消費者に損害賠償請求権や取消権を与える規定は置いていない。
同法34条1項が定める差止請求も,適格消費者団体が不特定かつ多数の一般消費者に対する表示の停止等を求めるものである。
広告の表示に問題があると考えるときは,消費者庁への情報提供や消費生活センターへの相談をする一方,個別の契約については,消費者契約法,特定商取引法又は民法で争うことになる。
景品表示法の仕組みの全体は,景品表示法の仕組みを参照されたい。
第7 葬儀社と遺族の紛争に関する裁判例
1 契約の当事者は誰か
(1) 東京地方裁判所平成17年8月29日判決の事案と判断
東京地方裁判所平成17年8月29日判決(平成16年(ワ)第27992号,葬儀費用請求事件。裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書で全文確認)は,喪主と葬儀社との間に葬儀請負契約が成立したと認めた事例である。
死亡当日,葬儀社の担当者が病院に到着し,故人の長男と共に遺体を葬祭センターへ搬送・安置した後,長男だけが打合せに出席して,通夜・告別式の日時と長男が喪主となることが決まり,「御葬儀打ち合わせ事項及び見積書」を作成しながら費用を合意し,その複写が長男に交付された。
長男は,喪主は父(故人の夫)であり,自分は当日欠席した父に代わって葬儀社の指示の下で喪主を代行しただけであると主張して契約の成立を否認したが,判決は,その供述は「そもそもあいまいである上,上記各証拠に照らして不自然」であるとして採用しなかった。
判決は,葬儀請負契約の成立を認め,料理代,返礼品代及び生花代を含む194万4119円の支払を命じた。
葬儀後に金額の報告を受けた長男が,金額について苦情を述べていなかったことも認定されている。
(2) 相談を受けたときの意味
打合せに出席して見積書を受け取り,喪主を務めた者は,葬儀社との契約の当事者とされやすい。
葬儀社との打合せの前に,誰の名義で契約するか,費用を相続財産から支払うのか,兄弟姉妹で分担するのかを決めておくことが考えられる。
費用の最終的な分担は,後記4の問題である。
2 契約前の搬送と困惑による取消し
(1) 東京地方裁判所令和4年10月18日判決の事案と判断
東京地方裁判所令和4年10月18日判決(令和4年(レ)第213号,葬儀請負代金請求控訴事件。裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書で全文確認)は,助葬事業を営む社会福祉法人が,火葬のみのプラン等の葬儀代金46万3881円を遺族に請求した事件の控訴審である。
支払督促から通常訴訟に移行し,原審は請求を全部認容し,控訴審も控訴を棄却した。
判決は,内容と項目別の金額を記載した見積書を提示し,遺族がこれを確認して了承した日に契約が成立したとしている。
遺族は,契約前に遺体を搬送したことを理由に,消費者契約法4条3項7号(当時の号番号であり,現行法の同項9号に当たる。)による取消しを主張した。
判決は,契約前の搬送について「本件契約上の義務の一部を実施した」と認めた。
しかし,業者は初回の打合せで,「地元の葬儀業者に依頼した方が安価」であること,「寝台車料金が発生し葬儀費用の合計金額が50ないし60万円近くになる」ことを説明し,遺族は地元の葬儀業者数名と話した上で依頼を決めていた。
判決は,この経緯から,義務の一部の実施によって「困惑して本件契約を締結したと認めることはできない」として,取消しの主張を退けた。
また,見積りと事後に異なった項目は業者が請求額から控除していたとして,違法性を否定した。
(2) 相談を受けたときの意味
この判決によれば,「もう搬送した」という事情があっても,それだけで取消しが認められるわけではなく,困惑して契約したといえるかどうかが問われる。
相談では,①搬送の前後に料金の説明があったか,②他の葬儀社と比べる機会があったか,③見積書をいつ示されたか,④断った場合に費用を請求すると告げられたか,を具体的に聞き取ることになる。
第5の事例(1)のように,断るなら搬送費を請求すると言われ,他社を検討する余地がなかった場合は,この判決の事案とは事実関係が異なると考えられる。
3 生活保護葬での意向確認と慰謝料
(1) 東京地方裁判所令和元年8月20日判決の事案と判断
東京地方裁判所令和元年8月20日判決(平成30年(ワ)第17407号,損害賠償請求事件。裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書で全文確認)は,助葬事業を営む社会福祉法人が行った生活保護受給者の葬儀(火葬のみ)で,業者が「納棺の儀」についての遺族の意向を確認せず,依頼された「旅支度」も施さなかったことについて,遺族2名の宗教感情を害した不法行為に当たるとした事例である。
請求は各165万円であったが,認容額は各11万円(慰謝料各10万円及び弁護士費用各1万円)にとどまった。
判決は,減額の方向の事情として,遺族が火葬前に旅支度がされていないことを認識し,業者に訴える機会があったのに,葬儀の進行等を優先してあえてしなかったこと,業者が繰り返し謝罪し,費用負担での法要を提案し,調停で法要費用20万円の支払意向を表明したことを挙げている。
(2) 相談を受けたときの意味
葬儀の内容について遺族の意向を確認しなかったことが,代金の問題とは別に,慰謝料の対象となり得ることを示した事例である。
他方で,認容額は請求額を大きく下回っており,事後の謝罪や補償の申出,遺族がその場で申し出なかった事情が考慮されている。
葬儀の内容に不満がある場合は,その場で葬儀社に伝え,やり取りを記録しておくことが考えられる。
4 葬儀費用の最終的な負担者
名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決(平成23年(ネ)第968号,貸金返還等請求控訴事件)は,裁判所ウェブサイトの判示事項の要旨によれば,「葬儀に要する費用については同葬儀を主宰した者が負担し,そのうち埋葬等の行為に要する費用は祭祀主催者が負担するものとされた事例」である。
葬儀社との関係で契約当事者となる者と,相続人の間で費用を最終的に誰が負担するかは,別の問題である。
葬儀費用の負担者と葬儀・火葬の手続の全体は,葬儀・火葬の実施で扱っている。
第8 Googleマップの口コミの見方
葬儀社を選ぶときに,Googleマップ等の口コミを参考にすることがある。
景品表示法5条3号に基づく告示「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号,令和5年10月1日施行)は,いわゆるステルスマーケティングを不当表示として指定している。
消費者庁は,この告示に基づき,Googleマップの口コミについて,医療法人社団祐真会(令和6年6月6日措置命令)と医療法人社団スマイルスクエア(令和7年3月17日措置命令)に措置命令を行った。
前者は来院者に星5又は星4の投稿を条件にワクチン接種費用を割り引くと伝え,後者は星5の投稿等を条件にギフトカードの提供や治療費の割引を行っていた事案である。
いずれも葬儀業者の事案ではない。
消費者庁の「ステルスマーケティングに関するQ&A」のQ6は,口コミ投稿を条件にサービスを割引価格で提供するだけであれば,通常は「事業者の表示」に当たらず告示に違反しないと考えられる一方,「星5」を付けることを条件とする場合は「事業者の表示」に当たると考えられ,事業者の表示であることを明瞭にしなければ告示に違反するとしている。
口コミを見るときには,「口コミを書けば割引」にとどまらず「星5で特典」のような告知がされていないかが,一つの手掛かりになる。
第9 互助会の解約と結婚式場のキャンセル料との違い
冠婚葬祭互助会に加入して掛金を積み立てていた場合には,葬儀社との個別の契約とは別に,互助会契約の解約と解約手数料の問題が生じる。
互助会の解約手数料については,消費者契約法9条1項1号の「平均的な損害」をめぐって,適格消費者団体による差止訴訟の裁判例が複数あり,高等裁判所の判断も分かれている。
詳しくは,冠婚葬祭互助会の解約手数料と裁判例で扱っている。
結婚式場のキャンセル料も,消費者契約法9条1項1号の「平均的な損害」が問題になる点は共通する。
ただし,結婚式場の契約は挙式日より前に結ばれ,解除の時期によって再販売の見込みが変わり得る点で,死亡直後に短時間で契約する葬儀とは事情が異なる。
結婚式場のキャンセル料については,結婚式場のキャンセル料と裁判例で扱っている。
第10 実務のチェックリスト
1 葬儀社を決める前
事前の相談や死後事務の相談の段階では,次の点を確認しておくことが考えられる。
①広告の最低価格が,火葬式,一日葬,家族葬のどの形式についての価格か,会員登録や資料請求等の条件が付いているか。
②見積書を,プラン名と「一式」ではなく,搬送,安置,ドライアイス,式場,火葬料,飲食,返礼品等の明細で受け取ること。
③総額と,追加料金が発生する条件(搬送距離,安置日数,火葬場の料金区分等)を書面で確かめること。
④契約前にキャンセルした場合と契約後に解約した場合の費用を,署名前に確かめること。
⑤誰の名義で契約するかを決め,打合せには複数人で出席すること。
生前に死後事務委任契約を結ぶ場合は,葬儀の形式や予算の上限を契約書に書いておくことも考えられる。
死後事務委任契約については死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点,配偶者の死亡直後の手続の全体については同居の配偶者が死亡した後1週間に相続人がすることを参照されたい。
2 契約後にトラブルになったとき
葬儀の後に請求額に納得できない場合は,次の順序で検討することが考えられる。
①見積書,契約書,請求書,広告の画面(ウェブページの保存やCM・チラシの写し),葬儀社とのやり取りの記録を集める。
②契約した場所と経緯を確認し,特定商取引法の訪問販売に当たるか,26条6項1号の除外に当たるかを検討する。
③勧誘時の説明と実際の内容を比べ,消費者契約法4条による取消し(不実告知,不利益事実の不告知,契約前の義務の実施等による困惑)を検討する。
④キャンセル料や解約時の請求があれば,消費者契約法9条1項1号の平均的な損害を超える部分の無効と,特定商取引法10条の上限を検討する。
⑤消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談し,広告の表示に問題があると考えるときは消費者庁に情報を提供する。
取消権には第6の2(3)の期間制限があるので,葬儀後の混乱の中でも,書面の保全だけは早めに行う必要がある。
第11 関連記事
①葬儀・火葬の実施
②同居の配偶者が死亡した後1週間に相続人がすること
③死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点
④冠婚葬祭互助会の解約手数料と裁判例
⑤結婚式場のキャンセル料と裁判例
⑥無断キャンセル(ノーショー)のキャンセル料はいくらまで請求できるか
⑦消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法等の違いと主な制度
⑧消費者契約法に関する最高裁判例
⑨消費者契約法の見直しに関する中間取りまとめ
⑩景品表示法の仕組み
第12 出典
1 法令・告示
①不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)5条,7条,8条,34条
②特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)2条,9条,10条,26条
③特定商取引に関する法律施行令(昭和51年政令第295号)15条
④消費者契約法(平成12年法律第61号)4条,7条,9条,11条
⑤民法(明治29年法律第89号)632条,641条
⑥一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(令和5年内閣府告示第19号)
2 裁判例
①名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決(平成23年(ネ)第968号)
②東京地方裁判所平成17年8月29日判決(平成16年(ワ)第27992号)裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書(LLI/DB,L06033122)で全文確認
③東京地方裁判所令和元年8月20日判決(平成30年(ワ)第17407号)裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書(LLI/DB,L07431922)で全文確認
④東京地方裁判所令和4年10月18日判決(令和4年(レ)第213号)裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書(LLI/DB,L07733023)で全文確認
3 行政処分(消費者庁の報道発表)
①株式会社金宝堂に対する景品表示法に基づく措置命令について(令和8年9月18日)(PDF1頁~15頁。CM画面の画像は別紙のPDF7頁)
②イオンライフ株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について(平成29年12月22日)
③株式会社ユニクエストに対する景品表示法に基づく措置命令について(平成30年12月21日)
④株式会社よりそうに対する景品表示法に基づく措置命令について(令和元年6月14日)
⑤株式会社よりそうに対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について(令和2年3月27日)
⑥株式会社ユニクエストに対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について(令和3年7月2日)
⑦株式会社那覇直葬センターに対する景品表示法に基づく措置命令について(令和6年5月30日)
⑧医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について(令和6年6月7日公表)
⑨医療法人社団スマイルスクエアに対する景品表示法に基づく措置命令について(令和7年3月18日公表)
②から⑤までは,基準日時点で消費者庁ウェブサイトの当初の掲載先では閲覧できず,インターネット上の保存版で原資料を確認した。
4 所管行政機関の資料・Q&A
①消費者庁「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」(平成30年6月)6頁~8頁,21頁(PDF9頁~11頁,24頁)
②消費者庁「ステルスマーケティングに関するQ&A」Q6
5 統計・相談事例
①国民生活センター「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル-『家族葬だから安い』と思っていませんか?-」(令和8年6月3日)