第1 結論とこの記事の対象第2 消える前に保存する資料1 アカウントとプロフィール2 メッセージの前後関係3 送金・決済と現実の行動第3 削除・ブロック・機種変更より先にすること1 LINEで先に保存するもの2 Tinderで先に保存するもの3 事業者の保有と開示を同一視しない第4 スクリーンショットの証拠評価1 証拠として出せるかと信用できるかは別である2 表示・書出し・受信ファイルを区別する3 ハッシュ値が証明する範囲4 改変可能性と具体的な改変を区別する5 アカウントと投稿者の同一性第5 交際中の金銭移動を法的に分類する1 貸金か贈与か2 投資詐欺と不当利得3 独身表示と貞操権侵害4 被害事実の公開は別の紛争を生み得る第6 適法な取得と安全の確保第7 弁護士相談に持参する資料第8 裁判所へ提出するときの整理第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所資料2 サービス提供者の公式資料3 判例・文献の確認範囲
第1 結論とこの記事の対象
SNS,マッチングアプリ又はメッセージアプリを介した交際で,貸金,贈与,立替金,投資勧誘,不貞又は婚姻意思をめぐる紛争が生じた場合,最初にすることは,相手を論破することではなく,自分が適法に閲覧できる資料を消える前の状態で保存することである。
プロフィールの一画面又は問題発言だけではなく,アカウントの特定資料,やり取りの前後関係,送金・決済履歴及び現実の行動を同じ時系列に置く必要がある。
この記事は,令和8年9月14日現在の法令及び公表資料を基準として,民事紛争に備える最小限の証拠保全を扱う。
サービスの保存・書出し機能は変更され得るため,実行時には各サービスの最新の公式ヘルプを確認する必要がある。
後記第10のとおり,裁判所ウェブサイトの有界検索に加え,判例秘書の認証済み環境で判決本文を確認した。
スクリーンショットの真正,アカウントと投稿者の同一性,マッチングアプリを介した貸金・贈与,不当利得,投資詐欺及び貞操権侵害について参考となる下級審裁判例があるため,本記事では各裁判例の具体的事情と射程を区別して紹介する。
第2 消える前に保存する資料
1 アカウントとプロフィール
まず,①サービス名,②表示名,③ユーザーID,④プロフィールURL,⑤登録電話番号又はメールアドレスのうち自分に表示されるもの,⑥プロフィール全文,⑦写真,⑧認証済み表示その他のバッジ,⑨表示した日時を保存する。
表示名と写真だけでは,同名の別人,名称変更又はなりすましとの区別が難しいためである。
プロフィールは,一部分だけを切り取らず,サービス名,画面遷移又はURLが分かる画面から問題部分まで連続して撮影する。
長い画面は複数枚に分け,重複部分を残して順序が分かるようにする。
2 メッセージの前後関係
メッセージは,問題となる一文だけでなく,①当事者名又はアカウント,②日付と時刻,③直前と直後の発言,④引用・返信関係,⑤編集又は削除の表示,⑥既読表示の有無が分かる範囲を保存する。
「返す」「あげる」「預かる」といった短い表現の意味は,その前後にある目的,期限,条件及び相手の応答によって変わり得る。
可能であれば,画面のスクリーンショットに加え,サービスの公式機能によるテキスト又はデータの書出しも行う。
ただし,書出しデータにプロフィール写真,削除表示,返信関係又は添付ファイルが含まれないことがあるため,書出しだけで十分とは限らない。
写真,動画,音声又は文書を受信した場合は,アプリ上の表示画面と,取得できる受信ファイルを分けて保存する。
ファイル名を整理するために上書き保存又は再圧縮を繰り返す前に,最初に取得したファイルを読み取り専用の保全用複製として残すのが安全である。
3 送金・決済と現実の行動
金銭紛争では,メッセージだけでなく,①銀行振込明細,②クレジットカード又は決済アプリの利用明細,③商品・航空券・宿泊等の注文番号と領収書,④暗号資産を用いた場合の取引所記録及びトランザクション情報,⑤返済又は返金の履歴を保存する。
カード番号,認証コード及び秘密鍵等,立証に不要な秘密情報は他人へ送付してはならない。
対面で会った事実又は婚姻・交際の実態が問題となる場合は,交通,宿泊,カレンダー,写真の撮影日時,家族・知人との交流及び関係者との連絡を時系列に対応させる。
一つの資料だけで結論を出すのではなく,独立した資料が同じ出来事を指すかを確認する。
第3 削除・ブロック・機種変更より先にすること
1 LINEで先に保存するもの
LINEの標準バックアップは,同じOS間の引継ぎに用いる機能であり,保存対象はテキストメッセージだけである。
LYPプレミアムのプレミアムバックアップは,写真,動画,ファイル及びボイスメッセージを含むリアルタイム保存と異なるOS間の引継ぎに対応するが,会員資格を解約すると保存データが削除されると案内されている。
PINコード又はQRコードを用いる引継ぎで復元できるのは,現行の公式ヘルプ上,直近14日間のトーク履歴である。
また,トーク履歴のテキスト書出しは復元用バックアップではなく,PC版では画面に表示されているトーク履歴だけが保存対象となるため,スクリーンショット,テキスト書出し,画像・動画等の受信ファイル及びバックアップを相互に代用できるものと考えてはならない。
送信取消しと削除は異なり,削除は原則として自分の端末側だけに影響するが,公式ヘルプは,いずれの操作後も元に戻せないと案内している。
LINEアカウントを削除すると全データが削除されて復元できず,アプリのアンインストールだけでもバックアップしていない端末内のトーク履歴を失う可能性があるため,これらの操作より先に必要資料を保存する必要がある。
2 Tinderで先に保存するもの
Tinderでは,個々のメッセージだけを削除することはできず,マッチを解除すると双方のマッチリストから相手と会話が消え,元に戻すことはできない。
マッチが突然消えた画面は,相手がマッチを解除した場合とアカウントを削除した場合のいずれでも生じ得るため,その画面だけから原因を断定してはならない。
個人データのダウンロード機能は,そのアカウントで利用した範囲のメールアドレス,電話番号,プロフィール写真,メッセージ及び設定等を対象とし,申請後に送られるダウンロードリンクは24時間で無効となる。
アカウント削除後はダウンロードできないため,プロフィール及び会話の画面保存と公式データの申請を先に行うべきである。
ID認証又は写真認証のバッジは,対象機能の範囲で身分証明書,プロフィール写真及び実在人物の対応を示す一事情にはなるが,公式ヘルプも身分証明書の真正又は利用者の安全を完全に保証するものではないと注意している。
バッジだけで法律上の氏名,独身であること,説明内容の真実性又は取引の安全性まで立証できるものではない。
3 事業者の保有と開示を同一視しない
令和8年3月31日適用のTinderプライバシーポリシーは,アカウント閉鎖後の安全保持期間とデータの種類に応じた個別の保持期間に加え,法的に有効な保全要請又は手続に対応するため保持期間を延長する場合に言及している。
もっとも,事業者内にデータが保持されていることと,一般利用者又は民事事件の当事者が実際に開示を受けられることは別問題である。
(続きを読む...)SNS・マッチングアプリで知り合った相手との紛争と証拠保全―メッセージ・プロフィール・決済履歴を消す前に(AI作成)