目次
第1 まず依頼の種類と文書所持者を確認する1 相手方の要請と裁判所の手続を分ける2 顧客と税理士のどちらが所持しているか第2 守秘義務と文書提出義務を順に検討する1 税理士法38条と国税庁の解釈2 民事訴訟法197条の職種と秘密の類型第3 文書提出義務の根拠を特定する1 220条各号を一括して扱わない2 証明する事実と必要な範囲を対応させる第4 顧客の許諾と第三者の秘密を切り分ける1 許諾の対象と範囲を記録する2 顧客の利益と税理士自身の秘密を区別する第5 部分提出と秘密保護の手続を検討する1 全部提出と全部拒否の二択にしない2 イン・カメラ手続と提出後の閲覧を区別する第6 税理士と訴訟代理人が共有する確認事項1 受領時から提出までの記録2 決定への対応と役割分担第7 関連する解説と根拠資料1 関連記事2 法令と国税庁資料
第1 まず依頼の種類と文書所持者を確認する
税理士が顧客の帳簿,申告資料又は相談記録の提出を求められたときは,依頼者の秘密を守ることと,裁判所の適法な命令に対応することの双方を検討する必要がある。
「税理士の守秘義務がある」という説明だけでも,「裁判に関係する資料である」という説明だけでも,提出の可否は決まらない。
本記事は,民事訴訟で税理士が文書所持者として提出を求められる場面を対象とする。
税務調査,捜査機関の捜索・差押え及び弁護士会照会は,それぞれの根拠法と手続を別に確認する必要がある。
1 相手方の要請と裁判所の手続を分ける
相手方本人又は代理人弁護士からの任意の提出要請,裁判所による文書送付嘱託,文書提出命令の申立て及び提出を命ずる決定は,別のものである。
申立書が届いた段階で,提出を命ずる決定が出たと扱ってはならない。
受付時には,差出人,事件番号,裁判所,書面の名称,提出を求められた文書,対象期間,回答又は不服申立てに関する期限を確認する。
書面の添付資料を含めて保存し,電話での説明だけで対象を広げない。
2 顧客と税理士のどちらが所持しているか
顧客が自ら保管する帳簿と,税理士が保管する相談記録や受領資料は,所持者が異なる。
原本,写し及び電子データの所在を確認し,顧客が訴訟で述べたことと,税理士に提出義務が生じることを分けて検討する。
例えば,民事訴訟法220条1号は,当事者が訴訟で引用し,自ら所持する文書を対象とする。
顧客が資料の内容を引用したという事情だけで,第三者である税理士の所持文書について,同号の提出義務が当然に成立するわけではない。
第2 守秘義務と文書提出義務を順に検討する
1 税理士法38条と国税庁の解釈
税理士法38条は,正当な理由なく,税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし,又は窃用することを禁じている。
税理士でなくなった後も同様である。
国税庁の税理士法基本通達38-1は,この「正当な理由」を,本人の許諾又は法令に基づく義務があることと説明している。
これは国税庁が示す法令解釈であり,個々の資料について文書提出義務があるかを判断する条文に代わるものではない。
したがって,まず民事訴訟法に基づく提出義務と提出範囲を検討し,その結論と守秘義務の関係を確認する。
裁判所から書面が届いたというだけで,関連する顧客資料一式を任意に開示する扱いにはしない。
2 民事訴訟法197条の職種と秘密の類型
民事訴訟法197条1項2号は,医師,弁護士等の列挙された職種について,職務上知り得た黙秘すべき事実に関する証言拒絶を定めている。
税理士は,同号の職種として列挙されていない。
他方,同項3号は,技術又は職業の秘密に関する事項について証言拒絶を定めている。
税理士が所持する資料についても,この類型に該当する具体的な秘密があるかを検討する必要がある。
税理士法上の秘密であることと,民事訴訟法上の提出拒否の要件を満たすことを,同一視しないことが大切である。