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民事訴訟・証拠

AIによる準備書面の最終査読―6観点の点検と依頼者向け報告書の作り方(AI作成)

目次第1 最終査読の目的と対象版1 ファイル名だけで版を決めない2 整理資料から原資料へ戻る第2 6観点の点検1 用紙サイズと判読性2 書証・従前書面の特定と引用3 内部矛盾と帰属4 数値・計算5 見出し・目次・表記・書式6 判例の実在・引用内容・適用範囲第3 指摘表と「問題なし」の書き方1 同じ原因をまとめても出現箇所を消さない2 分母・手法・未確認範囲を残す第4 依頼者向け報告書と内部記録1 内容面を先に説明する2 内部メモと更新工程を分ける第5 出典・関連する確認手順
第1 最終査読の目的と対象版

準備書面の最終査読では,主張の筋道が伝わることと,引用・計算・提出形式が正確であることを別々に確かめる必要がある。
AIを利用する場合も,担当弁護士が採用した主張を前提に,誤りと未確認事項を発見する工程として設計する。
以下の6観点,指摘表及び報告書の構成は,確認漏れを減らすための運用提案であり,その分け方自体が法令上の義務という趣旨ではない。

最終査読を,新たな起案,証拠採否の決定,又は争点整理ノートの更新と同時に行わせると,点検中に対象自体が変わりやすい。
確認する工程と,指摘を採用して修正する工程を分ける。
AIに専門家や裁判官の視点を指定しても,資格者の査読又は実際の裁判官の判断を受けたことにはならない。

1 ファイル名だけで版を決めない

準備書面,証拠説明書,別紙及び提出予定書証について,所在,ファイル名,確認時の更新日時,頁数,変更履歴の有無を記録する。
同じ名前のまま編集されることもあるため,必要に応じてSHA-256等のハッシュ値を残す。
ハッシュ値はファイルの同一性の手掛かりであり,内容の正しさ又は提出済みの状態を証明しない。
確認日は,法令適用の基準日や提出期限の代わりにはならない。

2 整理資料から原資料へ戻る

争点整理ノート,資料目録及び既存点検表は,原資料を探す索引として利用できる。
引用文,数値及び重要な事実については,実際の書証や従前書面へ戻る。
原資料とノートが食い違う場合は,双方の記載と根拠を残し,推測で統一しない。

最終版から引用元へ戻る確認に加え,記録側から,重要事実,抗弁,反対証拠及び回答すべき争点が最終版に残っているかを確認する。
引用が一致していても,取り上げるべき争点自体を落とした場合は,引用照合だけでは検出できない。
担当弁護士が争点・重要資料を指定し,実質的な採否判断と形式・引用の点検を分けて結果を対応させる。

資料は,①提出済み,②担当弁護士が使用・提出予定を採用した未提出資料,③採否未決の候補,④提出状況不明に分ける。
日付や号証らしいファイル名だけで提出済みと扱わない。
未提出資料に基づく主張が直ちに不適切となるわけではないが,取調べ済みであるかのような記載,内部の仮番号又は未採用候補の混入を点検する。
読めなかった資料の範囲を「問題なし」に含めない。

第2 6観点の点検
1 用紙サイズと判読性

準備書面だけでなく,証拠説明書,別紙及び提出予定書証も対象に含める。
全頁の寸法,縦横,サイズ混在を機械的に確認し,実際の頁を表示して文字・表・図の切れ及び縮小による判読性を調べる。
寸法がA4にそろっていても,小さい文字を読めるとは限らない。

民事事件等の電子情報処理組織の使用に関する細則2条は,対象となる電磁的記録について,出力する用紙の大きさを日本産業規格A4又はA3とする条件を定めている。

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Wordの変更履歴で法律文書を添削する方法―承諾後・却下後の照合と版管理(AI作成)

目次第1 添削モードで何を残すか第2 原本と基準本文を保全する1 編集する版を決める2 以前から履歴がある場合の基準第3 記録と表示,本文と書式を分ける1 履歴を非表示にしても消えない2 採用済みの主張と書式を尊重する第4 承諾後・却下後の全文を照合する1 二つの検証用コピーを作る2 期待本文と基準本文を比較する3 Wordの比較機能を併用する第5 完成版と関連書面を読み直す1 頁割り・目次・出力結果2 証拠説明書と報告書への反映第6 コメント・隠し情報と外部提供用コピー第7 出典
第1 添削モードで何を残すか

法律文書の添削では,完成後の本文に加え,どの箇所を何の理由で変えたかを確認できることが重要である。
Wordの変更履歴はそのための機能であるが,履歴を付けただけで修正範囲の正しさや復元可能性が保証されるわけではない。
本記事は,Windowsのデスクトップ版Wordの公式説明を踏まえた運用提案であり,メニュー名や機能は版・言語・利用環境で確認する必要がある。

第2 原本と基準本文を保全する
1 編集する版を決める

編集前に原本のコピーを保存し,ファイル名,所在,更新日時及び必要に応じてSHA-256等のハッシュ値を記録する。
原本を直接編集する指示がある場合も先に退避版を確保する。
同じファイル名でも内容が変わるため,版番号だけで同一性を決めない。

履歴付きのレビュー版と,担当者が承認した完成版を区別する。
修正前・修正後,理由,原資料及び判断事項を対応させた指摘表を付けると,承諾対象が明確になる。
証拠採否,認否,請求内容又は推認の強さを変える修正は,表記修正とは分けて判断する。

2 以前から履歴がある場合の基準

受領時点で履歴やコメントがある場合は,誰のどの変更が未確定かを確認する。
今回分と以前の変更を区別せず「すべて元に戻す」を実行すると,以前の変更まで取り消される。
そのため,添削前に画面で読んでいた本文と全履歴を元に戻した本文が違っていても,直ちに今回の添削ミスとは限らない。

担当者と基準を決め,既存履歴を保持する原本とは別に,比較用コピーで状態を固定する。
今回分を元に戻した状態が,定義した添削前の基準本文と一致するかを照合する。
今回分を判別できない場合は,履歴全体の状態も比較し,確認の限界を記録する。

第3 記録と表示,本文と書式を分ける
1 履歴を非表示にしても消えない

Microsoftの変更履歴の説明によれば,記録を有効にして変更を追跡し,挿入・削除や書式の表示を選択できる。
「変更履歴なし」や「オリジナル」の表示で隠しても,未処理の変更やコメントは文書内に残る。
表示の切替えを,承諾,元に戻す操作又は削除と混同しない。

開始時に記録が有効であることを確認し,必要な本文・書式変更が履歴に残るかを小さい変更で確かめる。
校閲者や変更種類の表示を絞っていると履歴が見えないことがあるため,レビュー時の表示設定も確認する。
履歴の作成者表示や時刻だけを本人の承認の証拠として扱わない。

2 採用済みの主張と書式を尊重する

引用内は原資料の句読点,数字及び送り仮名を尊重する。

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補助参加と後訴の判決効―援用する人・相手・判断内容・手続保障の確認(AI作成)

目次第1 後の訴訟では「誰が誰に何を援用するか」を先に決める第2 既判力と参加的効力を分ける1 補助参加したことだけで既判力が及ぶとはいえない2 参加的効力は理由中の判断にも及ぶが,限界がある第3 援用の方向が変わると,追加の論証が要る1 被参加人から補助参加人への援用2 補助参加人から被参加人への援用3 前の訴訟の相手方と補助参加人との関係第4 46条の例外は,訴訟の経過と結び付けて確認する第5 訴訟告知をした場合も,参加の利益と判断の範囲を確認する第6 後の訴訟の準備書面に落とし込む確認手順第7 出典
第1 後の訴訟では「誰が誰に何を援用するか」を先に決める

補助参加をした訴訟の判決が確定しても,その判決のすべての判断を,関係者の誰にでも援用できるわけではない。
後の訴訟で判決を使うときは,①援用する人,②援用される相手,③拘束を求める判断,④その判断を争う機会の有無を,順に確認する必要がある。
この順序を守ると,既判力,参加的効力,判決書の証拠としての利用を混同しにくくなる。

本記事は,通常の補助参加を対象として,民事訴訟法46条による参加的効力と,補助参加人から被参加人に対する援用が問題になる場合の確認手順を扱う。
調査基準日は令和8年10月4日であり,民事訴訟法は同日時点の施行中の条文を確認した。
共同訴訟的補助参加その他の特別な判決効については,それぞれの制度と条文による検討が必要である。

第2 既判力と参加的効力を分ける
1 補助参加したことだけで既判力が及ぶとはいえない

民事訴訟法114条1項は,確定判決の既判力を,主文に包含するものに限って認めている。
相殺のために主張した請求については,同条2項の特則がある。
誰に効力が及ぶかは,同法115条などの規定によって確認する。
補助参加人は,補助参加したという理由だけで115条1項1号の当事者になるわけではなく,参加的効力とは別に検討する必要がある。

2 参加的効力は理由中の判断にも及ぶが,限界がある

最高裁昭和45年10月22日判決の原文は,旧民事訴訟法70条の効力を,既判力とは異なる特殊な効力とし,判決確定後に補助参加人が被参加人に対して判決の不当を主張することを禁ずるものと説明している。
同判決は,補助参加人が協力し,又は協力し得たのに被参加人が敗訴した場合に,敗訴の責任を分担させることが衡平にかなうという理由を示す。
その効力は,主文だけでなく,その前提となる理由中の事実認定や先決的権利関係の判断にも及ぶ。

最高裁平成14年1月22日判決の原文は,理由中の判断の範囲を,主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限っている。
判決の結論に影響しない傍論まで拘束力を持つわけではない。
判決書の一文を取り出す前に,その判断が主文へ至る過程でどの役割を果たしたかを確認する。

第3 援用の方向が変わると,追加の論証が要る
1 被参加人から補助参加人への援用

民事訴訟法46条の柱書は,例外に当たる場合を除いて,裁判が補助参加人に対しても効力を有するという構造である。
昭和45年判決が示したのは,被参加人との後の訴訟で,補助参加人が前の判決の不当を主張できなくなるという効力である。
この方向で援用するときも,対象となる判断の範囲と,46条各号の例外を確認しなければならない。

2 補助参加人から被参加人への援用

補助参加人の側が,被参加人との後の訴訟で前の判決を援用する場合は,条文が想定する通常の方向と逆になる。
昭和45年判決を引用しただけで,この逆方向の援用まで当然に認められると説明することはできない。

令和5年司法試験の採点実感の民事系第3問・設問3課題2は,この逆方向の援用を検討対象とし,参加的効力の根拠と46条の文言の双方を踏まえて結論を論証することを求めている(22~23頁)。

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確定判決の後に取消し・相殺・解除・建物買取請求をして争い直せるか―基準時後の形成権行使と既判力に関する最高裁判例5件(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 既判力の基準時と遮断の仕組み1 既判力は基準時の判断に生じる2 条文上の手掛かり3 なぜ遮断されるのか第3 最高裁判例5件1 取消権:基準時後に行使しても争えない(最高裁昭和55年10月23日判決)2 白地手形の補充権:特段の事情がない限り争えない(最高裁昭和57年3月30日判決)3 相殺:口頭弁論終結後の相殺は請求異議の事由になる(最高裁昭和40年4月2日判決)4 建物買取請求権:判決確定後に行使して請求異議で主張できる(最高裁平成7年12月15日判決)5 別の取得原因:前の訴訟で主張しなかった相続も争えない(最高裁平成9年3月14日判決)6 5件の整理第4 解除権と,判決確定後に初めて分かった事実1 解除権について判例は見当たらない2 基準時後に生じた解除原因は別である3 期待可能性説とその限界第5 実務での対応1 前の訴訟の段階で行うこと2 判決確定後に相談を受けたときの確認手順3 勝訴した側の対応第6 関連記事第7 出典1 法令2 判例3 公的資料
第1 この記事の結論

民事訴訟で判決が確定した後に,相手方に対する取消し,相殺,解除,建物買取請求等の意思表示をして,判決の結論を争い直したいという相談がある。
本記事は,この場面について,最高裁判所の判例5件を判決原文で確認し,実務上の確認事項を整理したものである。

結論は,次のとおりである。
①確定判決の既判力は,事実審の口頭弁論終結時(基準時)の権利関係についての判断に生じ,基準時より前に存在した事由に基づいてその判断を争う主張は,後の訴訟では原則として許されない。
②基準時の後に意思表示をしても,それだけでは「基準時後の事由」にならない。
判例は,取消権と白地手形の補充権については後の主張を許さず,相殺と借地上の建物の買取請求については請求異議の事由として主張できるとしている。
③前の訴訟で主張しなかった別の取得原因(相続による共有持分の取得等)を後の訴訟で主張することも,既判力に抵触するとされている。
④基準時前から存在した解除原因に基づく解除を判決確定後に主張できるかを正面から判断した最高裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見当たらなかった。
⑤前の訴訟で主張することがおよそ期待できなかった事由には既判力による遮断が及ばないとする見解(期待可能性説)があるが,強い批判もあり,これに頼ることを前提に訴訟を組み立てるのは危険である。
⑥したがって,前の訴訟の段階で,取消し・解除・相殺等の原因を全部調べ,必要なものは予備的にでも主張しておくことが最も確実な対応である。

第2 既判力の基準時と遮断の仕組み
1 既判力は基準時の判断に生じる

確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する(民事訴訟法114条1項)。
給付訴訟や確認訴訟の判決の主文は,事実審の口頭弁論終結時における権利関係の存否を判断したものと理解されている。
当事者が攻撃防御の資料を提出できるのは口頭弁論の終結時までだからである。

既判力は,後の訴訟の裁判所が,基準時の権利関係について前の判決の判断を前提にしなければならないという形で働く。
その結果として,当事者が基準時より前に存在した事由を持ち出して前の判断と矛盾する主張をしても,その主張は排斥される。
これが,いわゆる既判力の遮断効である。

2 条文上の手掛かり

民事執行法35条2項は,確定判決についての請求異議の事由は「口頭弁論の終結後に生じたものに限る」と定めている。
確定判決に基づく強制執行を止めようとする債務者は,基準時より前の事由を請求異議の訴えで主張できないことになる。
確定判決の効力が及ぶ人の範囲は,当事者,当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人,口頭弁論終結後の承継人等である(民事訴訟法115条1項)。

3 なぜ遮断されるのか

遮断の根拠は,二つの面から説明されている。
一つは,確定判決による紛争の解決を蒸し返させず,勝訴した当事者の地位と法的安定を守るという制度的な面である。
もう一つは,前の訴訟で主張立証の機会が与えられていたのに,これを使わなかった以上,その結果は自分の責任として引き受けるべきだという面である。

この二つは,第4の3で触れる期待可能性説をどう評価するかに関わる。

第3 最高裁判例5件

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判例を実務に使うための読み方―結論・理由・事実・射程を分け,原文で確かめる手順(AI作成)

目次第1 資料の役割を分けて読む1 研究者の回想から得られる学習の手掛かり2 学説の説明と判決の判断を区別する第2 判例を読む順序1 事件と請求を特定する2 事実・理由・主文を往復する3 自分の事件との共通点と相違点を示す第3 背信的悪意者からの転得者の判決で確かめる1 第二買主と転得者の関係を分ける2 破棄差戻しを最終的な勝訴と読まない3 認識という言葉の対象を明らかにする第4 原文確認と確認状況の記録1 公開検索で見つからないことと不存在を区別する2 判例秘書などの本文と公式公開資料を照合する3 図と確認メモを更新する第5 出典と関連記事

判例を相談,交渉又は準備書面に使うときは,結論だけでなく,どの請求について,どの事実を前提に,どの理由で判断したかを確認する必要がある。
本記事は,公開された法学研究者の回想を学習方法の手掛かりとし,裁判所が公開する判決を使って,原文の確認と事案の比較の手順を整理する。

第1 資料の役割を分けて読む
1 研究者の回想から得られる学習の手掛かり

松岡久和教授オーラルヒストリーは,立命館法学2025年5・6号に掲載された公開資料である。
授業で得た説明を自分の言葉で整理し,具体的な問題について議論し,疑問を調べ直す経験や,同じ結論でも裁判の理由が異なることに着目した研究の経緯が語られている(PDF6頁及び11~12頁)。

この経験から,判例を読んだ後に,自分で法律関係を図にし,結論が変わる条件を問い直すという学習方法を考えられる。
これは本記事の実務上の提案であり,回想だけで学習効果が実証されたわけではない。

2 学説の説明と判決の判断を区別する

研究者が判例の理由を批判し,又は別の理論で説明できると述べていても,その理論を裁判所が採用したことにはならない。
判決を引用する際は,裁判所自身が述べた理由と,評釈者が示した理解を別々に記録する。

裁判所の判決原文,法令の公式条文及び立法過程の公式資料には,それぞれ確認できる対象がある。
判決原文は当該事件の判断を確認する資料であり,議事録は発言や審議の経緯を確認する資料である。
議事録に提案が載っているというだけで,提案が現行法になったと扱わない。

第2 判例を読む順序
1 事件と請求を特定する

最初に,裁判所,裁判年月日,事件番号及び事件名を記録する。
同日の別事件や,下級審と上級審を取り違えないようにする。

次に,当事者が何を請求し,原審がどの請求を認め,上級審がどの部分を維持又は変更したかを確認する。
登記請求,明渡請求及び損害賠償請求などが一つの判決に含まれる場合は,請求ごとに主文と理由を対応させる。

2 事実・理由・主文を往復する

事実関係では,裁判所の認定した事実,当事者の主張及びまだ判断されていない事項を分ける。
契約,支払,占有,登記及び各人の認識を時系列に並べると,どの事実が法律上の要件に関係するかを確かめやすい。

理由では,一般的な判断基準と,当該事件への当てはめを分けて読む。
その上で主文に戻り,理由中の判断が,請求の認容,棄却又は差戻しのどれにつながったかを確認する。

3 自分の事件との共通点と相違点を示す

判例の射程とは,その判断をどの範囲の事案に使えるかという問題である。
似た用語が出てくるというだけで結論を移さず,請求の根拠,権利取得の順序,登記の有無,認識の対象及び判断の相手方を比べる。

準備書面では,判例の判断を示した後に,本件で共通する事実と,結論を左右し得る相違点を書く。

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当事者照会の作り方と不回答への対応―質問の特定・拒絶理由・求釈明・提出命令(AI作成)

目次第1 当事者照会で何を明らかにするか1 本記事の対象と基準日2 先に争点と不足情報を整理する第2 照会できる事項とできない事項1 163条1項の六つの除外事由2 秘密を含むときの検討第3 照会書の記載事項と質問の例1 書面で照会するときの基本事項2 送信の有無が争点となる場合の仮例第4 電子メールでの照会・回答1 照会する側の承諾確認2 回答方法の選択と電子回答の承諾第5 照会を受けた側の回答と拒絶理由1 回答書を項目に対応させる2 回答拒絶は条項と理由を具体化する第6 不回答又は不十分な回答の後に検討すること1 質問と拒絶理由を見直す2 求釈明と既存記録の取得へつなげる第7 制度改正の議論との区別第8 関連する山中弁護士ブログの記事第9 出典
第1 当事者照会で何を明らかにするか
1 本記事の対象と基準日

当事者照会は,訴訟の係属中,相手方に対して,主張又は立証を準備するために必要な事項を照会する制度である(民事訴訟法163条)。
裁判所への証拠申出や,相手方に既存文書の提出を命ずる手続とは区別して利用する。
本記事は令和8年10月3日時点の条文と裁判所公表の民事訴訟規則を基準に,照会書の作成,受領側の回答及び不回答後の選択を説明する。

2 先に争点と不足情報を整理する

照会前に,①明らかにしたい事実,②本案での証明責任の所在,③既に提出された証拠から分かること,④不足する情報,⑤回答を得た後の主張又は証拠収集の方針を整理する。
例えば,特定の通知メールが送信されたかが争点なら,送信日時,宛先及び送信記録の有無など,その争点に結び付く事項へ絞る。
「相手方の対応の全部を説明せよ」という広い質問から始めるべきではない。

照会への回答で事実関係を知ることと,その事実を裁判所に証明することは同じではない。
必要に応じて,回答の根拠となった記録を特定し,書証その他の証拠調べにつなげる。

第2 照会できる事項とできない事項
1 163条1項の六つの除外事由

民事訴訟法163条1項は,次の照会を除外している。
① 具体的又は個別的でない照会
② 相手方を侮辱し,又は困惑させる照会
③ 既にした照会と重複する照会
④ 意見を求める照会
⑤ 回答するために不相当な費用又は時間を要する照会
⑥ 196条又は197条により証言を拒絶できる事項と同様の事項についての照会

「当社に対する態度を反省しているか」「契約違反だと認めるか」といった評価又は意見を求める質問ではなく,いつ,誰が,どの通知をしたのかという事実へ分解する。
全取引期間,全従業員,全アカウントを無限定に対象とする質問は,対象の不特定や作業負担が問題となるため,事件との関連性,対象期間及び担当部署を具体化する。

2 秘密を含むときの検討

営業秘密,職務上の秘密その他の保護の必要性があるときは,163条1項6号と196条・197条の要件との対応を検討する。
「秘密」「個人情報」という言葉だけで,すべての質問に一括して回答を拒めるとは限らない。
対象期間の限定,第三者名の省略,項目の分離などで必要な情報を得られるかを検討することが有用である。

提訴前照会には132条の2による別の要件・除外事項があるため,係属中の当事者照会と同じ書式をそのまま流用しない。
照会の段階と法的根拠を最初に確定する。

第3 照会書の記載事項と質問の例

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一部請求で負けた後に残額を請求・相殺できるか―既判力と信義則,係属中と確定後の違い(AI作成)

目次第1 残額に既判力が及ばないことだけでは結論は出ない第2 一部請求の敗訴確定後に残額を請求する場合1 最高裁平成10年6月12日判決2 「特段の事情」を抽象語で済ませない第3 係属中の一部請求の残額を相殺に使う場合1 最高裁平成10年6月30日判決の法廷意見2 既に別訴で請求している部分とは区別する第4 敗訴確定後の残額による相殺についての補足意見第5 相殺が排斥された被告の残額請求は,同じ問題か第6 判決を受け取った時点で確認すること第7 出典・関連記事
第1 残額に既判力が及ばないことだけでは結論は出ない

300万円の債権のうち100万円だけを明示して請求し,その訴訟で敗訴した場合,残りの200万円を改めて請求できるだろうか。
相手方に別の債権で訴えられたとき,その200万円を相殺に使うことはできるだろうか。
この問題では,既判力の範囲と,信義則による訴訟の制限を分けて検討する必要がある。

明示的一部請求については,訴訟物と既判力の範囲を請求された一部に限るという判例の考え方がある。
しかし,既判力が残額に及ばないことから,残額の請求や相殺が常に許されるとはいえない。
特に,まだ別件訴訟が係属している場合と,一部請求を棄却する判決が確定した場合を混同すると,訴訟方針を誤る。

この記事は令和8年10月3日時点の民事訴訟法と,以下にリンクする最高裁判決の公式全文を基礎とする。
判例の判断と,その判断から導く実務上の確認事項を分けて説明する。

第2 一部請求の敗訴確定後に残額を請求する場合
1 最高裁平成10年6月12日判決

最高裁平成10年6月12日判決は,金銭債権の数量的一部請求で敗訴した原告による残部請求を,特段の事情がない限り信義則に反して許されないとした。
同判決は,数量的一部請求であっても,通常は債権全体について審理した上で一部請求の当否が判断されること,敗訴後の残部請求は実質的な紛争の蒸し返しになることを重視する。
被告が紛争は解決したと期待することや,再び応訴を強いられる負担も理由となる。

したがって,裁判所が債権全体の不存在を認定して一部請求を棄却し,その判決が確定した場合に,「今度は残りの部分なので別の請求である」とだけ説明して再提訴することはできない。
これは残部に既判力が及ぶという説明ではなく,後の訴えが信義則によって制限されるという説明である。
同判決では残部請求の訴えが却下された。

2 「特段の事情」を抽象語で済ませない

判例は特段の事情がある場合を留保している。
ただし,「新しい証拠を見つけた」「前の主張を工夫し直した」と言えば必ず再提訴できる,という判断ではない。
この判決だけから,例外の類型を網羅的に確定することもできない。
前訴の請求範囲,争点,審理経過,棄却理由及び確定時期を記録によって確認し,後訴を許すべき事情を具体的に示す必要がある。

また,請求棄却と,訴訟要件を欠くことによる訴え却下,訴えの取下げ,和解は同じではない。
前の事件の終了方法を確認せず,一部請求の敗訴確定後の判例をすべてに当てはめてはならない。

第3 係属中の一部請求の残額を相殺に使う場合
1 最高裁平成10年6月30日判決の法廷意見

最高裁平成10年6月30日判決は,一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起した場合,残部を自働債権として他の訴訟で相殺を主張することを,権利濫用などの特段の事情がない限り許容した。
相殺は,相手方の提訴を契機として提出する防御手段であり,両者の債権を簡易・迅速・確実に決済する機能があることを考慮した判断である。

もっとも,この判決で実際に相殺の主張が許されたのは,違法仮処分による損害賠償請求権のうち弁護士報酬相当額の損害である。

(続きを読む...)一部請求で負けた後に残額を請求・相殺できるか―既判力と信義則,係属中と確定後の違い(AI作成)

相手方の相殺にどう反論するか―弁済の再抗弁,訴訟外の相殺通知と債権を失うリスク(AI作成)

目次第1 相殺への反論は,自分の債権を使う前に整理する第2 まず,乙債権の成立と弁済を争えるか確認する1 請求された債権と,相殺に使われた債権を分ける2 弁済の再抗弁に必要な資料をそろえる第3 訴訟上の相殺に,訴訟上の相殺を重ねることはできない第4 訴訟外の相殺通知を送る前に確認すること1 相殺通知は,相手方への意思表示である2 使う債権と消費する金額を先に確定する第5 訴訟外の相殺が実際に認められた事例第6 実体法上の消滅と,既判力の範囲は別に計算する第7 依頼者と決めておく訴訟方針第8 出典・関連記事
第1 相殺への反論は,自分の債権を使う前に整理する

相手方から相殺を主張されたとき,別の債権を持っているからといって,直ちにそれで相殺し返すのは危険である。
訴訟上の相殺と訴訟外の相殺では,債権が消滅する仕組みが異なるからである。
以下では,XがYに対して200万円の甲債権を請求し,YがXに対する300万円の乙債権で相殺を主張した場合を考える。
Xは,乙債権が既に弁済されていると反論できるほか,Yに対する別の300万円の丙債権を持っているものとする。
金額の違いを見やすくするため,利息等を除き,各債権の当事者・相殺適状には問題がない場合を前提とする。

この記事は令和8年10月3日時点の法令を基準とし,裁判所が公表する判決全文に基づいて説明する。
金額例と依頼者への説明項目は,条文と判例を踏まえた実務上の整理であり,その数値例を直接判断した判決の紹介ではない。

第2 まず,乙債権の成立と弁済を争えるか確認する
1 請求された債権と,相殺に使われた債権を分ける

甲債権の発生原因・支払期限と,乙債権の発生原因・金額・支払期限を別々に整理する。
相殺に使う自己の債権を自働債権,相殺によって消滅させる相手方の債権を受働債権という。
Yの相殺では乙が自働債権,甲が受働債権になる。
乙の契約が成立していない,金額が違う,既に支払済みであるといった反論と,Xが丙を使って乙を消滅させる主張とは,事実も証拠も異なる。

2 弁済の再抗弁に必要な資料をそろえる

乙について支払済みと主張する場合は,支払日,支払者,受領者,金額,どの債務への支払だったかを特定する。
振込明細だけでなく,請求書,領収書,送金前後の連絡,複数債務がある場合の充当合意も確認する。
振込があったことと,乙が消滅したことは同じではない。
乙が弁済によって消滅していると認められれば,丙を消費せずにYの相殺を排斥できる。
この選択肢の検討を終える前に丙による相殺通知を送ると,後から弁済の証拠が見つかっても,通知の法的効果が別に問題になる。

第3 訴訟上の相殺に,訴訟上の相殺を重ねることはできない

最高裁平成10年4月30日判決は,訴訟上の相殺の抗弁に対して,原告が別の債権による訴訟上の相殺を再抗弁として主張することを許さなかった。
訴訟上の相殺は,その相殺について裁判所が判断することを条件に実体法上の効果が生じるという性質を持つ。
これを重ねると仮定的な判断が積み重なり,審理が複雑になることに加え,再抗弁の債権の判断にまで既判力を広げる根拠がないことが理由である。

ただし,同判決は,訴訟外で相殺の意思表示をして確定的に相殺の効果が生じたことを,再抗弁として主張する方法まで禁止していない。
また,原告は別の債権について訴えの追加的変更又は別訴の提起をする方法も検討できる。
「相殺の再抗弁はできない」とだけ説明せず,禁止される方法と,実体法上の効果を先に発生させてその消滅事実を主張する方法を区別する必要がある。

第4 訴訟外の相殺通知を送る前に確認すること
1 相殺通知は,相手方への意思表示である

(続きを読む...)相手方の相殺にどう反論するか―弁済の再抗弁,訴訟外の相殺通知と債権を失うリスク(AI作成)

証明責任を負わない側の訴訟対応―否認・反証・抗弁・証拠協力をどう分けるか(AI作成)

目次第1 証明責任を負わないことと,何もしなくてよいことは違う1 本記事の対象と基準日2 最終的な不利益と,審理中の対応を分ける第2 否認,不知及び抗弁を区別する1 認否は事実ごとに具体化する2 否認と弁済の抗弁は別の防御である第3 反証の目的と,相手方提出証拠の利用1 本証と反証2 相手方の証拠も利用できる第4 証明責任を負わない側にも関係する個別の規律1 文書提出と当事者本人の尋問2 当事者照会と一般的な事案解明義務の議論第5 依頼を受けたときの整理と行動1 争点ごとの内部管理表を作る2 記録の保存と提出前の確認第6 関連する山中弁護士ブログの記事第7 出典と確認範囲
第1 証明責任を負わないことと,何もしなくてよいことは違う
1 本記事の対象と基準日

民事訴訟で,相手方が証明責任を負う事実を争う場合にも,認否,反証,自分の抗弁の立証及び証拠収集への対応を検討する必要がある。
本記事は令和8年10月3日時点の民事訴訟法と裁判所公表の民事訴訟規則を基準に,これらを区別して説明するものである。
以下の貸金の例は説明のための仮例であり,具体的な要件事実は請求の内容,契約の種類及び特約によって確認する。

2 最終的な不利益と,審理中の対応を分ける

客観的証明責任とは,裁判所が証拠調べを経ても,ある事実が存在するかどうかを確定できない場合に,その事実を要件とする法律効果を認めないことによる不利益を誰が負うかという問題である。
証明責任を負わない側は,その事実について相手方の証明が成功しなければ有利な判断を受け得るが,相手方の証拠によって裁判所が事実の存在を認めれば,証明責任の配分だけで防御することはできない。

相手方に有利な証拠が出たため反証が必要になっても,それだけで客観的証明責任が移転したわけではない。
最終的な真偽不明の処理と,現在の証拠関係の下で何を追加すべきかという訴訟上の判断を分けることが重要である。

第2 否認,不知及び抗弁を区別する
1 認否は事実ごとに具体化する

相手方が主張する事実について,認めるのか,否認するのか,知らないのかを明らかにする。
民事訴訟法159条は,相手方の主張事実を争うことを明らかにしない場合の自白の擬制を定めているが,弁論の全趣旨により争ったと認めるべき場合を除いている。
不知の陳述は争ったものと推定されるが,自分が関与した取引については,記録や担当者への確認を踏まえて認否を具体化するのが適切である。

民事訴訟規則79条3項・80条は,準備書面で否認する場合の理由の記載や,答弁書での具体的な認否・抗弁の記載を求めている。
「原告が証明すべきである」とだけ記載せず,例えば,借入れの申込みをしていない,署名をしていない,振込みは別取引の代金であるなど,争う内容と理由を示す。
認否のための調査と,結論を相手方に有利にする虚偽の説明をしないことは,証明責任の配分とは別の問題である。

2 否認と弁済の抗弁は別の防御である

貸金返還請求について「借りていない」と争う場合は,相手方の請求を基礎付ける事実を否認する場面である。
これに対して「借入れはあったが,既に返済した」という主張は,弁済という別の事実に基づく抗弁であり,通常は弁済を主張する側がその事実の証明責任を負う。
被告であるというだけで,事件中のすべての事実について証明責任を負わないわけではない。

弁済の抗弁を提出するなら,支払日,金額,相手先及びどの債務への支払かを明確にし,領収書,送金記録及び関連する連絡を対応させる。
口座から現金を引き出した事実だけでは,相手方へ支払ったことまで当然には分からないため,資料が直接示す事実と,そこから推認する事実を区別する。

第3 反証の目的と,相手方提出証拠の利用
1 本証と反証

自分が証明責任を負う事実の存在を裁判所に認めてもらうための立証が本証であり,相手方が証明責任を負う事実について,その証明を揺るがすための立証が反証である。
反証では,常に反対の事実を積極的に証明し尽くす必要があるわけではなく,相手方の証明が成功したといえない状態にすることが目標となる。

例えば,相手方がメールを根拠に合意成立を主張する場合,後続のメールに未合意の条件が残っていることを示す,送信者に権限がなかったことを争う,抜粋の前後を提出するなどが考えられる。

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民事訴訟で「唯一の証拠方法」を調べないことが許される場合―重要証拠不採用、再尋問、所在不明と終結時の対応(AI作成)

目次第1 結論―「唯一」「重要」「既に調べた」を分ける第2 唯一性は,何を証明する証拠かに即して判断する1 事件全体の証拠の数だけでは判断できない2 「他に主張立証はない」と,申出の撤回は区別する第3 所在不明など,取調べに不定期間の障害がある場合1 唯一の証拠方法でも例外はある2 呼出しと所在調査の経過を具体化する第4 第一審で既に尋問した者の再尋問第5 唯一ではない重要証拠の不採用が違法となる場合1 証拠の採否には裁量がある2 平成20年判決は,供述の食い違いを調べる必要性を問題にした第6 事案を比較するときの確認表第7 証拠申出・終結時・上訴での対応1 証拠説明では立証命題と既存証拠の不足を対応させる2 終結時は,未処理の申出を維持するか明示する3 上訴では,不取調べと結論への影響を結び付ける第8 責問権との関係・出典の範囲第9 関連記事
第1 結論―「唯一」「重要」「既に調べた」を分ける

民事訴訟では,申し出た証拠をすべて取り調べなければならないわけではない。
民事訴訟法181条1項は,必要でないと認める証拠について,取調べを要しないと定める。
しかし,特定の主張に関する唯一の証拠方法を,特段の事情なく取り調べないことは,判例上,許されない。
また,形式的に唯一ではない証拠であっても,重要な供述の食い違いを検証するために必要な尋問を省略したことが,審理不尽となる場合がある。

一方,唯一の証人でも取調べに不定期間の障害がある場合や,第一審で同一の立証事項について既に尋問した者を控訴審で再度申し出た場合は,別の検討が必要である。
本記事は,令和8年10月3日現在の条文と最高裁判決6件の原文を基に,これらの違いと,代理人が申出・終結時・上訴時に具体化すべき事項を説明する。

第2 唯一性は,何を証明する証拠かに即して判断する
1 事件全体の証拠の数だけでは判断できない

最高裁昭和53年3月23日第一小法廷判決は,土地について相手方会社が完全な所有権を有するのではなく,共有持分を有するにすぎないとの主張を立証するための,当事者本人尋問の申出を扱った。
最高裁は,その主張に関する唯一の証拠方法である以上,特段の事情がない限り取り調べる必要があるとした。
原審は採否を明示しないまま弁論を終結しており,最高裁は判決への影響が明らかな違法を認め,関係部分を破棄差戻しとした。

この判決から実務上導かれるのは,事件に書証や別の証人が存在するかという数の確認だけでは足りないということである。
「契約成立」「所有権の範囲」「説明の有無」など,具体的な立証命題ごとに,既存証拠が何を示し,申し出た尋問がどの不足を埋めるかを説明する必要がある。
本人尋問であることだけを理由に,唯一の証拠方法に関する問題から除外することもできない。

2 「他に主張立証はない」と,申出の撤回は区別する

昭和53年判決では,弁論終結時に双方が「他に主張立証はない。」と述べていた。
最高裁は,この発言をもって,既に申し出ていた唯一の証拠方法を取り調べなくてよい特段の事情とすることはできないとした。
したがって,この事案では,追加の主張立証がない旨の発言から,未処理の尋問申出が当然に撤回されたと扱うことはできなかった。

もっとも,同判決は,責問権の放棄可能性又は民訴法90条による異議権の喪失を一般的に判示したものではない。
発言の解釈,証拠申出の維持・撤回,手続違反に対する異議権の喪失を,それぞれ分けて検討する必要がある。

第3 所在不明など,取調べに不定期間の障害がある場合
1 唯一の証拠方法でも例外はある

最高裁昭和30年9月9日第二小法廷判決では,唯一の証人を尋問するため2回呼出状を発送したが,いずれも転居先不明で送達できなかった。
2回目には郵便集配手が再度調査したことなども認定されている。
最高裁は,旧民訴法260条の不定期間の障害に該当し,唯一の証拠方法であっても同条の適用は妨げられないとして,尋問をせず弁論を終結した措置を適法とした。

最高裁昭和37年4月27日第二小法廷判決も,転貸承諾についての唯一の証人を扱う。
第一審では,送達後の不出頭と,次の呼出状の転居先不明があった。
控訴審は,尋問のため一旦終結した弁論を再開し,証人作成の証明書に記載された新住所へ発送したが,再び転居先不明となり,郵便集配手も数度調査していた。

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釈明義務違反・証人尋問の不採用を控訴・上告受理申立てで争う方法―審理経過、失われた立証機会、判決への影響(AI作成)

目次第1 手続上の不満を上訴理由にするための基本第2 釈明義務違反を主張する場合1 裁判所が採用した法的構成と審理経過を対照する2 失われた機会を具体的な主張・証拠で示す第3 証人尋問の不採用を争う場合1 証拠の必要性と裁量の限界2 目撃証人に準ずる証人を調べなかった事例3 期日中の申出に盛り込む事項4 唯一の証拠方法・再尋問・実施の障害を分ける第4 控訴・上告・上告受理申立ての区別1 手続違反を述べるだけでは上訴経路は決まらない2 上訴理由の記載順序第5 責問権と調書をどう位置付けるか1 違法・異議権の喪失・判決への影響を順に検討する第6 調査範囲と出典
第1 手続上の不満を上訴理由にするための基本

釈明が足りなかったことや証人尋問が採用されなかったことは,それだけで判決の取消し・破棄を導くものではない。
争うべき点は,審理経過に照らして裁判所にどのような対応が求められ,その欠如によってどの反論・立証機会が失われ,それが判決のどの判断に影響したかである。
本記事は令和8年10月3日現在の民事訴訟法と裁判所が公開する判決原文に基づき,民事事件の代理人が期日中及び判決後に確認すべき事項を説明する。

同じ手続上の問題でも,期日中の求釈明・異議,終局判決に対する控訴,最高裁判所への上告及び上告受理申立ては,対象と要件が異なる。
手続中の異議を述べたことだけで,独立の抗告が可能になるわけではない。
基本的な手段の区別は,求釈明・訴訟指揮への異議・責問権と期日の記録も参照されたい。

第2 釈明義務違反を主張する場合
1 裁判所が採用した法的構成と審理経過を対照する

民訴法149条による釈明には裁判所の判断が伴うが,審理経過に照らして釈明すべき義務が生じる場合がある。
裁判所が当事者と異なる法律評価をしたというだけで直ちに違法となるものではなく,その構成が当事者に予測可能であったか,主張・反論・反証の機会を与えられていたかを確認する必要がある。

最高裁平成22年10月14日第一小法廷判決(平成20年(受)第1590号・集民235号1頁)は,定年を80歳とする合意の成否が争われた事件において,原審が,合意を認めない一方,定年退職の1年前までに定年規程の厳格な適用と再雇用をしない旨を告知すべき信義則上の義務を認め,具体的な告知から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係で定年退職の効果を主張できないとして,一定期間の賃金支払を命じた場面を扱った。
当事者双方はその義務の存否を争点とせず,従前の争点整理と審理も合意の成否を中心としていた。
最高裁は,その構成を採用するのであれば,原告にその主張をするかどうか釈明するとともに,被告にも反論・反証の機会を与えるべきであったとし,釈明義務違反を理由に破棄差戻しとした(判決PDF1頁~4頁)。

この判決から,すべての事件で裁判所が判決前に結論や心証を開示する義務を負うとはいえない。
重視すべき点は,新しい構成に固有の攻撃防御をする機会が,実際の審理過程で確保されていたかである。
法的観点指摘義務と事実主張を促すこととの違いも併せて確認する必要がある。

2 失われた機会を具体的な主張・証拠で示す

上訴理由では,「不意打ちであった」との評価に先立ち,争点整理の内容,双方の主張,裁判所の発言,判決で初めて採用された判断枠組みを,記録の所在とともに示す。
その上で,機会があれば提出した反論,追加して主張した事実,申し出た証拠,その証拠により判断が変わり得る理由を特定することが有用である。

例えば,信義則上の義務を争点とするのであれば,義務の基礎とされた言動の趣旨・時期・権限,相手方の認識,信頼を否定又は限定する事情について,どの資料や尋問で反証したかを説明する。
これは一般的な記載の考え方であり,上記判決がすべての反論について提出可能性を認定したという意味ではない。
失われた機会と判決の判断を結び付けることで,抽象的な不公平感と,結論に関係する審理上の欠落とを区別できる。

第3 証人尋問の不採用を争う場合
1 証拠の必要性と裁量の限界

民訴法181条1項は,必要でないと認める証拠を取り調べることを要しないと定める。
申出があることだけで実施が義務付けられるわけではなく,立証命題,争点との関係,既存証拠では解明できない点を具体化する必要がある。

最高裁昭和56年11月13日第二小法廷判決(昭和56年(オ)第715号・集民134号227頁)は,唯一の証拠方法でない限り証拠申出の採否は裁判所の裁量に属する旨を述べ,当該事件では申出に係る証人尋問が唯一の証拠方法ではないことなどから違法を否定した(判決PDF1頁~2頁)。
しかし,証拠が複数あることを理由に,重要な尋問を省略する判断が常に適法になるものではない。

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引換給付判決を実行する方法―反対給付の提供・証明,弁済供託と還付の実務(AI作成)

目次第1 最初に判決主文と執行方法を確認する第2 反対給付を「提供する」とは何か第3 提供・履行を証明する資料を作る1 受領された場合と拒絶された場合2 第三者による記録と提出先への確認第4 登記手続を命ずる判決では証明する段階が異なる第5 受領拒絶がある場合の弁済供託1 供託原因・金額・供託所を確認する2 反対給付の内容を曖昧にしない3 固定事案による供託書・添付資料の記載例第6 申請・納付・正本の受領・通知を区別する第7 引換額の提供と代金債務全額の消滅は別問題である第8 供託金の還付では反対給付を「した」ことが問題となる第9 参照資料と個別事件で残る確認事項

引換給付判決を得ても,相手方が任意に履行するとは限らない。強制執行に進むためには,判決主文が定める反対給付を履行し,又は提供したことを証明する必要がある。ただし,登記手続を命ずる判決には特別の扱いがあり,弁済供託の成立や供託金の還付にも別の要件がある。

本記事は,現行の民法,民事執行法,供託法及び法務省の供託Q&Aを基に,何を準備し,何を証明するかを整理する。個別事件で受け付けられる証明資料は,給付の内容と提出先に即して確認する必要がある。

第1 最初に判決主文と執行方法を確認する

「代金500万円の支払と引換えに物を引き渡せ」という判決であれば,執行開始のために確認する反対給付は,まず主文に記載された500万円である。判決書,確定証明書又は仮執行宣言,送達証明書,執行文の要否及び給付の目的物を確認する。仮執行が可能かどうかは,個々の判決と執行の種類による。

物の引渡し等の執行と,所有権移転登記手続等の意思表示を命ずる判決は,同じ手順ではない。前者では民事執行法31条1項による執行開始要件が問題となり,後者では同法177条2項による執行文付与の段階で反対給付の証明が必要となる。提出先を取り違えないことが出発点となる。

第2 反対給付を「提供する」とは何か

民法493条本文は,債務の本旨に従った現実の提供を原則とする。金銭であれば,支払うべき金額,支払場所,支払時期及び支払方法を確認し,受領できる状態で差し出すことが基本となる。単に資金を保有していることや,「いつでも払う」と通知することだけで当然に現実の提供になるわけではない。

相手方があらかじめ受領を拒んでいる場合,又は履行について相手方の行為を要する場合には,同条ただし書により,弁済の準備をしたことを通知し,受領を催告する方法が認められる。拒絶の発言や連絡,準備した資金,通知及び催告の内容を一組の資料として残す。相手方の協力を要する事情も具体的に特定する。

振込みについては,送金先の指定,契約上の支払方法,着金の有無及び返金の経緯を確認する。振込予約の画面と,実際の着金を示す資料は区別する。送金ができなかった場合にも,その理由が受領拒絶なのか,口座情報の誤りなのかによって評価が異なる。

第3 提供・履行を証明する資料を作る
1 受領された場合と拒絶された場合

受領された場合は,領収書,振込結果,入金の確認及び相手方の受領確認を整理する。領収書には,受領者,日付,金額,対象となる債務及び事件を特定できる情報を記載してもらう。代理人等に支払うときは,その受領権限も確認する。

受領を拒絶された場合は,いつ,どこで,誰が,何を,どのように差し出し,相手方がどう応答したかを記録する。通知書,配達証明,連絡記録,写真その他の資料は,それぞれ証明できる事実が異なる。内容証明郵便は通知内容を裏付ける資料となるが,それだけで現金を差し出した事実まで証明するものではない。

2 第三者による記録と提出先への確認

事実実験公正証書も検討対象となる。公証人が直接見聞した事実を記録するものであり,弁済提供の状況を残す用途がある。ただし,公正証書を作成すれば,その提供が債務の本旨に適合することや,執行開始要件を満たすことまで自動的に確定するわけではない。丸の内公証役場の事実実験に関する説明も参照されたい。

履行・提供の方法を決める前に,担当する執行機関又は執行文付与を担当する裁判所書記官に,給付内容と予定する証明資料を示して確認することが有用である。録音や自己作成の報告書等について,一般的に必ず受け付けられるとは断定できない。相手方が争うことを想定し,直接裏付ける資料を重ねて準備する。

口頭の提供の証拠化を考える参考となるのが,東京地裁平成19年10月19日判決(平成19年(ワ)第7138号,判例秘書L06234603)である。裁判上の和解による不動産売買の決済について,登記必要書類の準備,決済日時・場所・担当司法書士の回答を求めたFAX及び通知先の前訴代理人の受領権限を具体的に検討し,口頭の提供を認めた。

この判決は,請求異議訴訟において実体法上の提供を認定したものである。執行官がFAXだけで民事執行法31条1項の証明を認めた事件ではない。実務では,①給付を実行できる準備,②準備の通知と受領の催告,③通知の到達,④代理人に通知した場合の受領権限をそれぞれ裏付ける資料を残す。前訴の訴訟代理人であったという事実だけから,和解後の通知を受領する権限まで当然に認めない。

第4 登記手続を命ずる判決では証明する段階が異なる

民事執行法177条1項は,意思表示を命ずる判決について,原則として確定時に意思表示をしたものとみなす。同条2項は,債務者の意思表示が反対給付との引換えである場合等には,所定の執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなすと定める。

この場合には,債権者が反対給付を履行し,又は提供したことを証する文書を提出して,執行文の付与を受ける。「判決が確定したから直ちに登記に進める」と処理しない。執行文付与のための資料と,登記申請自体に必要な書類をそれぞれ確認する。

東京高裁昭和54年12月25日決定(昭和54年(ラ)第731号,判例タイムズ407号83頁・判例時報958号73頁)は,50万円の支払と引換えの所有権移転登記・建物明渡判決について,別の確定貸金債権による相殺を主張して登記用の執行文を得た後にも,明渡執行官は独立して反対給付の履行・提供を調査判断するとした。登記が済んだことだけで,明渡しの執行開始要件の証明まで済んだと扱うことはできない。

同決定は,相殺について実体的な要件・効力の判断が必要となることから,相手方が相殺を認める書面等の特段の事情がない限り,その主張を反対給付の履行の証明とすることはできないとした。相殺が実体法上常に無効という判断ではない。確定貸金判決と相殺通知を用意しただけで,当然に明渡執行を開始できると説明しない。旧民事訴訟法下の決定であり,現在の執行官室への個別照会回答と区別する。

第5 受領拒絶がある場合の弁済供託
1 供託原因・金額・供託所を確認する

民法494条は,弁済の提供に対して債権者が受領を拒んだ場合,債権者が受領できない場合等に弁済供託を認める。供託原因によって必要な事実が異なるため,受領拒絶,受領不能又は債権者不確知のどれに当たるかを特定する。受領拒絶を理由にする場合は,第2で述べた提供の要件を確認する。

同法495条1項により,供託は債務の履行地の供託所にする。供託額は,判決主文の引換額だけを見るのではなく,何の債務を消滅させる目的で供託するのかを明確にして検討する。利息,遅延損害金その他の付随する債務の有無も確認する。

2 反対給付の内容を曖昧にしない

同時履行関係にある場合には,相手方に求める反対給付の内容を供託手続上どう記載するかも確認する。民法498条2項は,債権者が反対給付をすべきときは,その反対給付をしなければ供託物を受け取れないと定める。金銭を供託したことと,相手方が自由に還付を受けられることは別の問題となる。

(続きを読む...)引換給付判決を実行する方法―反対給付の提供・証明,弁済供託と還付の実務(AI作成)

反訴か別訴か―重複起訴,併合審理,請求の関連性と債務名義から考える選択(AI作成)

目次第1 抗弁と請求を区別する1 同時履行の抗弁だけでは回収できない2 相殺で消すことと残額を請求することも異なる第2 別訴が重複起訴になるかの判断1 関連する事件というだけでは禁止されない2 相殺が関わる場合は別に検討する第3 反訴の要件と別訴を選ぶ余地1 関連性と審理の遅延を確認する2 反訴が可能であることは一般的な義務を意味しない第4 別訴と弁論の併合1 別訴の適法性と併合の必要性を分ける2 共通する証拠と食い違う進行を示す第5 前訴の確定後に別訴を起こす場合1 先に既判力の範囲を確認する2 信義則を反訴の一般的強制にしない第6 依頼者と決めておくこと1 勝訴の意味と必要な債務名義2 提出前に一枚で整理する第7 出典・関連記事1 公式資料2 関連記事

訴えられた被告が相手方に対する請求を持っているとき,その請求を必ず反訴として提起しなければならないわけではありません。他方,抗弁として述べるだけでは,相手方に支払等を命じる判決を得られない場合があります。
反訴と別訴を選ぶ前に,自分の目的が相手の請求を防ぐことか,自分の請求について債務名義を得ることかを確認します。本記事は,第一審の通常の民事訴訟を中心に,請求の同一性,関連性,審理の進み方,管轄及び回収の必要性を整理します。

第1 抗弁と請求を区別する
1 同時履行の抗弁だけでは回収できない

買主が売主に目的物の引渡しを請求し,売主が「代金の提供があるまで引き渡さない」と抗弁を出す場合を考えます。抗弁が認められて引換給付判決がされても,それは通常,売主に条件付きで引渡しを命じる判決です。
その判決が当然に買主に代金の支払を命じるわけではありません。売主が預金差押え等によって代金を回収するには,支払請求を反訴又は別訴として審判対象にし,その請求に対応する債務名義を得る必要があります。

2 相殺で消すことと残額を請求することも異なる

相殺の抗弁は,相手方の請求債権を自分の債権と対当額で消滅させるための主張です。相殺によって防御できても,自分の債権の残額について,相手方に支払を命じる判決が当然にされるわけではありません。
また,民事訴訟法114条2項による既判力の範囲と,反訴として求める支払請求の範囲を確認します。相殺と反訴を併用する場合は,同じ額を二重に回収する請求にならないよう,主張の順序と請求額を整理します。

例えば,相手方の本訴請求200万円に対して自己の300万円の債権を用い,相殺が全部認められたとき,本訴の支払を免れても,残100万円の給付判決・債務名義が当然に得られるわけではない。
相殺に用いた債権が全部弁済済みとして抗弁が排斥された場合は,対抗額200万円の不存在判断に既判力が生じるが,残100万円への既判力の当然の拡張とは区別する。前訴の弁済認定や信義則が後訴で問題となる余地は別に検討する。
本訴債権の不存在を理由に相殺を判断せず請求を棄却したときは,自己の債権について相殺判断の既判力は生じない。
相殺で全部勝訴しても自働債権を失う場合には,上訴の利益が問題となる。依頼者には,本訴の支払額,自己の債権の残額,既判力が生じる額及び必要な債務名義を分けて説明する。

貸金請求を受けたときの時効の抗弁と,違法な取立て・提訴による損害賠償の反訴は,目的が異なる。
時効の抗弁は本訴の貸金請求を退けるための主張であり,それだけで相手方に弁護士費用・慰謝料の支払を命じてもらえるわけではない。損害賠償を求める場合は,反訴又は別訴という別個の請求として,不法行為の要件と損害を主張立証する。

大阪地裁令和7年11月25日判決(令和7年(レ)第256号,判例秘書L08051156)の事件では,第一審で損害賠償の反訴が提起され,本訴の貸金請求が放棄された後も反訴が審理・判断された。
請求放棄,訴えの取下げ及び敗訴判決は同じ手続ではない。本訴が終了したという事実だけで,違法性,故意・過失,損害及び因果関係が当然に立証されたことにもならない。
反訴で認められた費用・慰謝料と取立て・提訴の事情は,古い借金の請求・訴状が届いたら―時効の確認,時効の主張後の取立て・提訴と弁護士費用・慰謝料を参照されたい。

第2 別訴が重複起訴になるかの判断
1 関連する事件というだけでは禁止されない

民事訴訟法142条は,裁判所に係属する事件について,更に訴えを提起することを禁止しています。しかし,同じ当事者間の同じ契約を巡る紛争であっても,すべて同一事件になるわけではありません。
目的物引渡請求権と代金支払請求権は,契約上関連していても,通常は別の権利です。一方が引渡しを請求していることだけから,他方の代金支払請求の別訴が142条に反すると結論付けることはできません。
逆に,既に反訴で求めている代金について,同じ範囲の支払を別訴でも求める場合は,重複起訴の問題になります。給付請求とその債務の不存在確認などでは,当事者の立場の逆転や請求の形式だけで同一性を否定しないようにします。

2 相殺が関わる場合は別に検討する

別訴で請求している債権を,もう一つの訴訟で相殺の自働債権として主張する場合は,同時履行の抗弁とは異なる検討が必要です。相殺の判断には114条2項の既判力が生じ得るため,審理と判断の重複・抵触が問題になるからです。
本訴と反訴が併合審理されている場合の相殺や,相殺の抗弁が先に出された場合を含め,裁判例ごとの射程を確認します。別訴係属債権による相殺についての結論を,「関連する別訴はすべて禁止」という説明に広げないようにします。

第3 反訴の要件と別訴を選ぶ余地
1 関連性と審理の遅延を確認する

民事訴訟法146条1項は,本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求について,口頭弁論終結まで,本訴が係属する裁判所への反訴を認めています。ただし,他の裁判所の専属管轄や,著しい訴訟手続の遅滞等の制限があります。

(続きを読む...)反訴か別訴か―重複起訴,併合審理,請求の関連性と債務名義から考える選択(AI作成)

引換給付判決で何が確定するか―同時履行の抗弁,反対債権の既判力,代金回収と強制執行(AI作成)

目次第1 同時履行の抗弁と引換給付判決1 抗弁は履行を拒めるという主張である2 反対債権を述べただけでは足りない第2 主文に書かれた引換額と既判力1 主文の文言と審判の対象を区別する2 相殺の抗弁には別の規定がある第3 強制執行を始める条件と代金を回収する権限1 引渡しの執行では買主の反対給付を確認する2 売主に代金の債務名義ができるわけではない第4 後訴で代金額を争えるか1 既判力がないことだけで結論を出さない2 不利益な事情と主張を許す事情の両方を見る3 裁判例の事案と判断対象を分ける第5 500万円と1000万円の事例で考える1 前訴で命じられた給付を確かめる2 回収のための請求と金額の蒸し返しを分ける第6 訴訟代理人が確認する記録と方針1 判決前に回収まで含めて方針を決める2 判決後は請求と履行の状況を並べる第7 出典・関連記事1 公式資料2 関連記事

「代金500万円の支払を受けるのと引換えに,絵画を引き渡せ」という確定判決があっても,売主がその判決を使って買主の預金を差し押さえられるとは限りません。誰の請求について,誰に何を命じた判決かを確認する必要があります。
引換給付判決では,目的物の引渡請求についての既判力,反対給付の金額についての判断,強制執行を始める条件,反対給付を回収するための債務名義を区別します。本記事は,売買に基づく目的物引渡請求を中心に,これらの違いと訴訟記録の確認方法を説明します。

第1 同時履行の抗弁と引換給付判決
1 抗弁は履行を拒めるという主張である

売買契約では,目的物の引渡しと代金の支払が同時履行の関係にある場合があります。民法533条に基づく同時履行の抗弁は,相手方の履行の提供があるまで,自分の債務の履行を拒絶するためのものです。相手方の債務がまだ弁済期にない場合などは別に検討します。
買主から引渡しを求められた売主が「代金の提供があるまで引き渡さない」と主張することと,「買主に代金の支払を命じてほしい」と請求することは,訴訟上の意味が異なります。

2 反対債権を述べただけでは足りない

司法研修所「4訂 紛争類型別の要件事実」8頁は,同時履行の抗弁を権利抗弁とし,権利を行使することが要件であると説明しています。反対債権の存在に触れたというだけで,履行拒絶の意思まで明らかになったと決め付けないことが大切です。
売主の代金支払請求に対する買主の抗弁と,買主の引渡請求に対する売主の抗弁では,請求と抗弁の向きが逆になります。具体的な契約内容,先履行の合意,既にされた履行又は提供も確認します。

第2 主文に書かれた引換額と既判力
1 主文の文言と審判の対象を区別する

民事訴訟法114条1項は,確定判決が既判力を有する範囲を主文に包含するものに限定しています。ただし,主文に書かれた言葉のすべてが,独立した権利についての確定判断になるわけではありません。
買主が売買契約に基づく絵画の引渡しを請求し,売主が同時履行の抗弁だけを出した場合,審判の対象である訴訟物は,買主の引渡請求権です。代金支払請求権は,反訴などで別に請求されない限り,その訴訟物にはなりません。
したがって,「500万円と引換えに引き渡せ」という主文だけから,売主の代金債権が500万円であり,これを超える部分は存在しないと既判力によって確定した,とはいえません。

最高裁昭和39年2月4日判決(民集18巻2号233頁)は,訴訟物ではない反対債権の存在及び金額について,引換給付判決による既判力は生じないと判断しています。引換額が主文に書かれることと,その反対債権自体が審判対象になることを区別する直接の根拠となる判決です。ただし,判決後に同じ代金債権を増額請求することの信義則上の許否まで判断した判決ではありません。

2 相殺の抗弁には別の規定がある

民事訴訟法114条2項は,相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額の範囲で既判力を認めています。同時履行の抗弁について,同じ規定が置かれているわけではありません。
相殺は対当額の債権を消滅させるための主張,同時履行は履行を拒むための主張です。「反対債権を裁判で使った」という共通点だけで,その効果を同一視しないようにします。

第3 強制執行を始める条件と代金を回収する権限
1 引渡しの執行では買主の反対給付を確認する

民事執行法31条1項は,債務者の給付が反対給付と引換えにされる場合,債権者が反対給付又はその提供があったことを証明したときに限って,強制執行を開始できると定めています。
上の例で引渡しを受ける側の買主は,判決で示された代金の給付又は提供を証明する必要があります。この規律によって,訴訟で認められた給付の牽連性が執行段階でも保たれます。単に「支払うつもりがある」と述べるだけで当然に執行を開始できるわけではありません。
提供の方法や証明資料は,債務の内容と執行方法に応じて確認します。弁済供託の必要性や適法性も,受領拒絶等の事情を踏まえて別に判断します。

所有権移転登記手続等の意思表示を命ずる判決には,民事執行法177条2項の特則があります。反対給付との引換えである場合には,履行又は提供を証する文書を提出して執行文の付与を受け,その時に意思表示をしたものとみなされます。物の引渡しの執行開始要件と,登記判決の執行文付与要件を同じ手順として説明しないことが必要です。

2 売主に代金の債務名義ができるわけではない

買主の引渡請求だけについてされた引換給付判決は,売主に絵画の引渡しを命じるものです。その引換額を記載したことによって,買主に代金の支払を命じる判決が同時にできるわけではありません。
売主が買主の預金等を差し押さえて代金を回収したいのであれば,代金支払を命じる反訴判決又は別訴判決など,回収する権利に対応する債務名義を確保する必要があります。判決の確定又は仮執行宣言,執行文,送達等の条件も,その名義に即して確認します。

第4 後訴で代金額を争えるか
1 既判力がないことだけで結論を出さない

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民事訴訟の進行に異議があるとき―求釈明・訴訟指揮への異議・責問権と期日の記録(AI作成)

目次第1 異議の前に対象と求める対応を特定する1 期日で確認する四つの事項2 応答時間が足りないときの伝え方第2 求釈明と訴訟指揮等に対する異議1 求釈明は不明確な事項を明らかにするための手段である2 150条の異議は対象が限定されている第3 責問権と「意見・異議なし・同意」を区別する1 90条は手続違反に対する異議権の喪失を定める2 意見聴取と同意要件は同じではない3 放棄できない違反と補正・追認を区別する4 認識可能性を,違反の種類と審理経過に即して検討する第4 期日の記録と調書の内容への異議1 自分のメモと裁判所の調書は役割が異なる2 記録を求める事項を具体的にする3 調書への異議は元の手続への異議を代替しない第5 証拠申出と上訴を見据えた準備1 尋問の必要性を判断対象と対応させる2 その場の異議と上訴の可否を分けて検討する3 上訴では失われた機会と判決への影響を示す4 「追加立証なし」と,既存の尋問申出の撤回を分ける第6 出典と本記事の対象範囲
第1 異議の前に対象と求める対応を特定する

民事訴訟の期日では,裁判所が予定する進行について意見を求められることがある。
進行への希望,相手方の説明を明確にするための求釈明,裁判長の命令等への異議,手続違反についての異議,調書の内容への異議は,目的と根拠が異なる。
「異議があります」とだけ述べるよりも,誰の,いつの,どの行為が問題なのか,何を変更し,又は確認してほしいのかを明らかにする必要がある。
本記事は,条文上の区別と期日の準備・記録の方法を整理したものであり,個々の異議が認められるかを一律に示すものではない。

1 期日で確認する四つの事項

① 対象となる行為は,裁判長の進行上の命令,裁判所の証拠に関する判断,相手方の主張,書記官の処分のどれか。
② 現在の手続は,口頭弁論,弁論準備手続,書面による準備手続等のどれか。
③ 求める対応は,説明の明確化,応答機会の確保,命令の変更,手続違反の是正,調書内容に対する異議の記録のどれか。
④ その対応が必要な理由と,実施に必要な期間・資料は何か。

2 応答時間が足りないときの伝え方

例えば,相手方の新たな主張にその場で回答できないときは,対象の書面・頁・主張を示し,確認を要する事実,依頼者への照会,追加資料の収集等を具体的に説明する。
「検討期間がほしい」という希望だけではなく,「この点について認否・反論をするには契約原本の確認が必要であり,○日までに書面を提出したい」と,必要な手続と期限を提案する方法が考えられる。
これは実務上の伝え方の例であり,その希望が当然に採用されるという意味ではない。
異議を述べる場合には,進行についての希望と,問題とする命令又は手続違反を分けて伝える。

第2 求釈明と訴訟指揮等に対する異議
1 求釈明は不明確な事項を明らかにするための手段である

民事訴訟法149条3項は,当事者が口頭弁論の期日又は期日外において,裁判長に対して必要な発問を求めることができると定める。
相手方の主張について求釈明をする場合には,不明確な箇所,明らかにしてほしい事項,その回答が認否・立証に必要な理由を対応させる。
例えば,「どの時点の,誰の発言を,契約成立の根拠として主張するのか」を明確にするよう発問を求めることが考えられる。
求釈明は,裁判所に自分の主張を作成してもらう手続でも,相手方に自分が望む回答をさせる手続でもない。

2 150条の異議は対象が限定されている

民訴法150条は,口頭弁論の指揮に関する裁判長の命令,又は149条1項・2項による裁判長若しくは陪席裁判官の処置に対し,当事者が異議を述べたときは,裁判所が決定で裁判すると定める。
異議の対象を「先ほどの発言を止める旨の命令」等と特定し,その理由と,求める変更を示すことが必要である。
裁判所のあらゆる判断が150条の対象になるわけではない。
特に,証拠申出の採否については,裁判長の進行上の命令なのか,裁判所の証拠に関する判断なのかを確認し,150条の異議と同一視しない。
弁論準備手続については,170条5項による149条・150条等の準用を確認する必要がある。
受命裁判官が担当する場合も含め,手続の種類と命令等の主体を確認して対応する。

第3 責問権と「意見・異議なし・同意」を区別する

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最高裁民事破棄判決等の実情(平成元年度~令和2年度)―年度別記事と判例時報の掲載号の一覧(AI作成)

目次第1 この記事の位置付け1 年次解説と年度別記事2 年度別記事を読むときの注意第2 年度別一覧1 平成元年度~平成15年度2 平成16年度~令和2年度第3 年度を横断して使うための記事第4 令和3年度以降の年次解説(参考)第5 関連記事
第1 この記事の位置付け
1 年次解説と年度別記事

判例時報には、毎年、最高裁判所調査官が、前年中に最高裁判所でされた民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を紹介する記事が掲載されている。
題名は、平成10年度分までは「最高裁民事破棄判決の実情」、平成11年度分以降は「最高裁民事破棄判決等の実情」である。

本記事は、平成元年度分から令和2年度分までの年次解説について、判例時報の掲載号と、当ブログの年度別記事を一覧にしたハブ記事である。
年度別記事は、原則として年次解説を年度全体の索引として用い、代表的な判決・決定を裁判所ウェブサイト等の全文で照合した上で、弁護士実務の観点から整理したものである。

平成25年4月以降に最高裁判所がした破棄判決等の一覧表は、最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分)に掲載している。

2 年度別記事を読むときの注意

年次解説は、最高裁判所調査官が執筆した有力な二次資料であるが、個々の判決・決定の原文そのものではない。
個別事件で引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。
各年度別記事は、裁判所公式全文等で確認した判決と、年次解説の記述によるだけで個別の本文を照合していない判決とを区別して記載することを基本としている。

年次解説が示す破棄判決の割合は、年度によって分母が異なる。
例えば、平成2年度分は判決により終結した事件数を分母とし、平成29年度分以降の年次解説は、上告と上告受理申立ての並行申立てを1件と換算した既済件数を分母としている。
いずれも特定年度の歴史的統計であり、現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いることはできない。

古い年度の判決には、旧民事訴訟法、改正前の民法その他の旧法を前提とするものが多い。
判旨が現在も参考になることと、判決当時の条文がそのまま現在の事件を規律することとは別であり、現行の条文、経過措置及び後続判例を確認する必要がある。

第2 年度別一覧
1 平成元年度~平成15年度

掲載号欄は判例時報の号数である。平成8年度分及び平成14年度分の掲載号は、本記事では確認していない。

年度判例時報の掲載号年度別記事平成元年度1353号以下(全6回)39件から学ぶ手続入口・証拠推論・時系列・一部無効と差戻審実務平成2年度1386号・1387号・1389号・1390号・1392号25件から学ぶ信義則・時間軸・危険管理と差戻審実務平成3年度1419号・1420号39件から学ぶ手続入口・証拠推論・行政不作為及び差戻し実務平成4年度1448号・1450号・1451号29件から学ぶ訴訟要件・証拠評価・主文設計平成5年度1507号・1508号・1510号・1511号・1513号・1514号60件から学ぶ証拠評価・手続保障・差戻審実務平成6年度1522号・1523号・1525号・1526号・1529号・1530号68件から学ぶ当事者・主張立証・証拠評価及び損害論平成7年度1553号・1554号・1556号・1557号55件から学ぶ原判決監査と差戻審実務平成8年度―47件から学ぶ原判決の誤りと上告・差戻審実務平成9年度1636号・1638号・1639号・1641号・1642号・1644号72件から学ぶ理由不備・経験則違反・主文設計の実務平成10年度1678号・1680号・1681号75件から学ぶ手続入口・判断遺脱・証拠推論及び現行法への読替え平成11年度1707号・1708号・1710号・1711号・1713号・1714号74件の破棄判決・5件の破棄決定から学ぶ訴訟実務平成12年度1744号・1745号・1747号・1748号65件から学ぶ上告審・証拠評価・差戻しの実務平成13年度1783号・1784号・1786号・1787号・1789号70件から学ぶ原判決の誤りと上告・抗告実務平成14年度―95件から学ぶ訴訟入口・経験則・期間・救済の誤り平成15年度1859号以下(全4回)破棄判決97件・破棄決定4件から学ぶ訴訟実務
2 平成16年度~令和2年度
年度判例時報の掲載号年度別記事平成16年度1895号・1896号・1898号・1899号・1901号88件の破棄判決・9件の破棄決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応平成17年度1932号・1933号・1935号・1936号75件の破棄判決・9件の破棄決定から学ぶ訴訟実務平成18年度1966号・1967号・1969号・1970号110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務平成19年度2009号・2010号57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務平成20年度2043号・2044号52判決・3決定から学ぶ訴訟の入口・損害額認定・損益相殺と差戻審実務平成21年度2082号・2083号68件・4決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応平成22年度2115号・2116号・2118号67判決・3決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応平成23年度2161号・2162号71件・8決定から学ぶ原判決監査平成24年度2188号・2189号・2191号処理統計・主要判例・実務チェック平成25年度2224号・2225号34件の破棄判決・7件の破棄決定から学ぶ手続・証拠・差戻し実務平成26年度2258号・2259号42判決・4決定から学ぶ訴訟入口・証拠・特別法・差戻し実務平成27年度2306号原判決監査・破棄自判と差戻し・一次資料確認平成28年度2342号・2343号39判決・2決定から学ぶ訴訟実務平成29年度2374号22判決・9決定から学ぶ訴訟承継・損害審理・割増賃金と差戻審実務平成30年度2420号24判決から学ぶ訴えの利益・相続分譲渡・労働条件と差戻審実務令和元年度2442号27判決・4決定から学ぶ訴訟入口・証拠・差戻し実務令和2年度2498号35判決・5決定から学ぶ訴えの利益・時効中断・同一労働同一賃金と差戻審実務
第3 年度を横断して使うための記事

年度別記事を横断して使うときは、次の記事も参照されたい。

① 平成21年度から令和6年度までの最高裁民事破棄判決の分析:件数の推移、反復する分野及び破棄理由を横断的に分析している。
② 最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリスト:原判決を点検する順序を整理している。
③ 民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証:破棄差戻し後の審理を整理している。
④ 上告審に関するメモ書き

第4 令和3年度以降の年次解説(参考)

(続きを読む...)最高裁民事破棄判決等の実情(平成元年度~令和2年度)―年度別記事と判例時報の掲載号の一覧(AI作成)

令和2年度最高裁民事破棄判決等の実情―35判決・5決定から学ぶ訴えの利益・時効中断・同一労働同一賃金と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 35判決・5決定という数字の読み方第2 35判決・5決定の一覧第3 40件から見える五つの監査領域1 訴えの利益・確認の利益2 時効の中断と期間の起算点3 不法行為と使用者・専門家の責任4 割増賃金と同一労働同一賃金5 行政・税・家事第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 被用者から使用者への求償―損害の公平な分担という見地から求償できる2 ふるさと納税の不指定―総務省告示の規定の一部は委任の範囲を逸脱して無効3 タクシー乗務員の歩合給―残業手当等の額がそのまま歩合給の減額につながる仕組み4 アルバイト職員の賞与―不支給が不合理とはいえないとされた事例5 郵便局の時給制契約社員の病気休暇―有給と無給の相違は不合理第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

令和2年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、家原尚秀・池原桃子「最高裁民事破棄判決等の実情―令和2年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、令和2年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2498号16頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨等を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 35判決・5決定という数字の読み方

年次解説によれば、令和2年の新受件数は、上告事件1789件、上告受理申立て事件2169件の合計3958件であり、並行申立てを1件と換算すると2392件である。既済件数は、上告事件1862件、上告受理申立て事件2296件の合計4158件であり、換算後は2517件である。許可抗告事件は新受28件(このほかに最高裁判所に直接申し立てられた事件が19件ある。)、既済23件であった。

破棄判決は35件(判決書単位)であり、換算後の既済件数2517件を分母とした割合は1・4%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)、平成30年24件(0・9%)、令和元年27件(1・0%)、令和2年35件(1・4%)と示している。
破棄判決35件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が15件、自判(一部自判を含む。)が20件である。論旨に基づく破棄が34件、職権による破棄が1件であり、民集に登載されたものが7件、集民に登載されたものが21件、いずれにも登載されなかったものが7件である。

破棄決定は5件(決定書単位)であり、全て許可抗告事件(うち1件は特別抗告事件を兼ねる。)である。許可抗告事件の既済件数23件を分母とした割合は21・7%である。結果は差戻し4件、自判1件であり、論旨に基づく破棄が4件、職権による破棄が1件である。

これらは特定年度の判決書・決定書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 35判決・5決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも令和2年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月21日・三小平成30年(受)第1711号盗難自動車による物損事故について盗難に遭った会社に過失があるか自判2月25日・三小平成30年(行ヒ)第215号経過観察を受けている被爆者が被爆者援護法10条1項の「現に医療を要する状態」にあるか自判2月25日・三小平成30年(行ヒ)第191号同上(別件)自判2月28日・二小平成30年(受)第1429号被用者が使用者の事業の執行について第三者に加えた損害を賠償した場合における被用者の使用者に対する求償の可否差戻し3月6日・二小平成31年(受)第6号所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士の委任者以外の者との関係における注意義務違反差戻し3月19日・一小平成31年(行ヒ)第99号固定資産評価基準の画地計算法を適用する場合の各筆の宅地の評点数の算出方法自判3月24日・三小平成30年(受)第388号家屋の評価の誤りによる固定資産税等の過大決定と損害賠償請求権の除斥期間の起算点一部差戻し3月24日・三小平成31年(行ヒ)第96号同上(別件)差戻し3月24日・三小平成30年(行ヒ)第422号取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項の「その時における価額」の評価方法差戻し3月30日・一小平成30年(受)第908号歩合給の計算に当たり残業手当等相当額を控除する賃金規則に基づく残業手当等の支払により割増賃金が支払われたといえるか差戻し3月30日・一小平成30年(受)第761号同上(別件)差戻し3月30日・一小令和元年(受)第1922号同上(別件)差戻し4月7日・三小平成31年(受)第606号強制執行の費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号の費目のものを不法行為の損害として主張することの許否一部自判6月26日・二小令和元年(行ヒ)第252号被相続人に既に告知された地方団体の徴収金につき相続人に納付等を求める通知と消滅時効の中断一部自判6月30日・三小令和2年(行ヒ)第68号ふるさと納税制度に係る平成31年総務省告示第179号2条3号の規定の法適合性自判7月2日・一小平成31年(行ヒ)第61号制限超過利息等の不当利得返還請求権に係る破産債権が確定した場合に受領日の属する事業年度の益金の額を減額する計算方法の適否自判7月6日・一小平成31年(行ヒ)第97号いじめで受傷した生徒に医師へ虚偽の説明をするよう指示したこと等を理由とする市立中学校教諭の停職処分の適否自判7月7日・三小平成31年(受)第184号法例改正法(平成元年法律第27号)施行前の嫡出でない子と母との間の分娩による親子関係の成立の準拠法一部差戻し7月14日・三小平成31年(行ヒ)第40号複数の公務員が国家賠償法1条2項による求償債務を連帯して負う場合一部自判9月3日・一小平成31年(受)第558号事業協同組合の理事選挙の取消しの訴えに後任理事等を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合における先行選挙の取消しを求める訴えの利益の有無差戻し9月7日・二小平成31年(受)第619号特許権者の第三者に対する特許権侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴えの確認の利益一部自判9月8日・三小平成31年(受)第133号不当利得返還請求訴訟の係属中に不法行為に基づく損害賠償請求を追加したことにより消滅時効中断効が生ずるか一部自判9月8日・三小平成31年(受)第61号破産者の支払停止前の請負契約に基づく注文者の違約金債権と破産法72条2項2号の「前に生じた原因」、相殺の許否自判9月11日・二小平成30年(受)第2064号請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴、他方を反訴の請求債権とする本訴・反訴の係属中に、反訴請求債権を自働債権とする相殺の抗弁の許否自判9月18日・二小平成31年(受)第310号区分所有法所定の先取特権を有する債権者の配当要求により消滅時効中断効が生ずるための要件一部差戻し10月9日・二小令和元年(受)第877号・第878号少年保護事件を題材として家庭裁判所調査官が執筆した論文の公表とプライバシー侵害一部自判10月9日・二小平成30年(受)第2032号家庭裁判所調査官が執筆した論文の執筆届の決裁に係る家庭裁判所職員の注意義務の有無等自判10月13日・三小令和元年(受)第1055号・第1056号賞与に関する労働条件の相違と労働契約法(平成30年法律第71号による改正前)20条一部自判10月13日・三小令和元年(受)第1190号・第1191号退職金に関する労働条件の相違と同条一部自判10月15日・一小令和元年(受)第777号・第778号私傷病による病気休暇に関する労働条件の相違と同条一部差戻し10月15日・一小令和元年(受)第794号・第795号年末年始勤務手当等に関する労働条件の相違と同条一部差戻し10月20日・三小令和2年(行ツ)第130号訴えの利益の消滅自判11月27日・二小令和元年(受)第1900号公認会計士協会の上場会社監査事務所名簿への登録を認めない旨の決定の前提となる監査の基準不適合の事実差戻し12月15日・三小令和2年(受)第887号同一当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務がある場合の充当指定のない一部弁済と消滅時効の中断一部自判12月22日・三小平成30年(受)第1961号有価証券届出書の虚偽記載と元引受けの金融商品取引業者等の金商法21条2項3号による免責の要件一部差戻し

破棄決定5件は、年次解説の破棄事件決定一覧表によれば、次のとおりである(9月2日の決定は職権による破棄である。)。

決定日・法廷事件番号内容結果1月23日・一小平成31年(許)第1号婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚した場合における婚姻費用分担請求権の帰すう差戻し3月24日・三小令和元年(許)第12号捜査段階の鑑定書の法律関係文書該当性差戻し4月16日・一小令和元年(許)第14号ハーグ条約実施法117条1項の類推適用の可否差戻し8月6日・一小令和元年(許)第16号財産分与における給付命令の許否差戻し9月2日・二小令和2年(ク)第275号・令和2年(許)第11号売却許可決定に対する執行抗告の許否自判
第3 40件から見える五つの監査領域
1 訴えの利益・確認の利益

令和2年度は、訴えの利益・確認の利益に関する破棄が目立つ。市道に越境する樹木等の除却命令の差止めの訴えは、原判決言渡し後に除却命令がされたことにより訴えの利益が失われたとして、最高裁が職権で原判決を破棄し、訴えを却下した(10月20日第三小法廷判決)。年次解説によれば、上告審で訴えが不適法になった場合にも、口頭弁論を経ずにその旨の判決をすることができると説明されている。

このほか、事業協同組合の理事選挙の取消しの訴えに後任理事等を選出する後行選挙の効力を争う訴えが併合されている場合の訴えの利益(9月3日第一小法廷判決)、特許権者の第三者に対する損害賠償請求権の不存在確認の利益(9月7日第二小法廷判決)、本訴・反訴の係属中の相殺の抗弁の許否(9月11日第二小法廷判決)等、手続の入口に関する判断が続いた。

受任時と上訴前には、訴訟の係属中に処分がされるなどして訴えの利益が失われていないか、確認の対象が適切かを、請求の内容とは別に点検しておくとよい。

2 時効の中断と期間の起算点

時効に関しては、不当利得返還請求訴訟の係属中に不法行為に基づく損害賠償請求を追加した場合(9月8日第三小法廷判決)、区分所有法上の先取特権に基づく配当要求(9月18日第二小法廷判決)、充当の指定のない一部弁済(12月15日第三小法廷判決)、地方団体の徴収金の相続人に対する納付の通知(6月26日第二小法廷判決)と、いずれも「時効の中断」が問題となる判断が4件ある。家屋の評価の誤りによる固定資産税等の過大決定についての損害賠償請求権の除斥期間の起算点(3月24日第三小法廷判決2件)も破棄されている。

これらは時効の「中断」や除斥期間といった判決当時の制度を前提とする判断であるから、現在の事件で用いるときは、現行の規定と経過措置を確認する必要がある。

3 不法行為と使用者・専門家の責任

被用者が第三者に損害を賠償した場合の使用者に対する求償(2月28日第二小法廷判決、第4の1)のほか、盗難自動車による物損事故と盗難に遭った会社の過失(1月21日第三小法廷判決)、登記申請の委任を受けた司法書士の委任者以外の者に対する注意義務(3月6日第二小法廷判決)、有価証券届出書の虚偽記載と元引受けの金融商品取引業者等の免責(12月22日第三小法廷判決)等、責任の主体と範囲を問う判断が多い。

家庭裁判所調査官が少年保護事件を題材に執筆した論文の公表とプライバシー侵害(10月9日第二小法廷判決2件)も破棄されている。

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平成30年度最高裁民事破棄判決等の実情―24判決から学ぶ訴えの利益・相続分譲渡・労働条件と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 24判決・破棄決定0件という数字の読み方第2 24判決の一覧第3 24判決から見える五つの監査領域1 訴えの入口と手続の土台2 相続と財産3 労働条件と企業の責任4 交通事故・人身保護・刑事施設5 行政・公金・公務員第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 グループ会社の相談窓口―求められた対応をしなかったことだけで義務違反とはいえない2 無償の相続分譲渡―原則として民法903条1項の「贈与」に当たる3 弁護士会照会―報告義務の確認を求める訴えは確認の利益を欠く4 業務手当と割増賃金―労働者が直ちに請求できる仕組みがないことだけで否定しない5 有期契約労働者の手当―労働契約法20条違反でも無期契約と同一の労働条件にはならない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成30年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、松田敦子・中島崇「最高裁民事破棄判決等の実情―平成30年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成30年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2420号5頁以下)。
民集又は集民に登載された判決は判示事項と判決要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 24判決・破棄決定0件という数字の読み方

年次解説によれば、平成30年の新受件数は、上告事件2116件、上告受理申立て事件2562件の合計4678件であり、並行申立てを1件と換算すると2844件である。既済件数は、上告事件2112件、上告受理申立て事件2528件の合計4640件であり、換算後は2812件である。許可抗告事件は新受15件、既済11件であった。

破棄判決は24件(判決書単位)であり、換算後の既済件数2812件を分母とした割合は0・9%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成26年42件(1・1%)、平成27年32件(0・9%)、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)、平成30年24件(0・9%)と示している。
破棄判決24件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が10件、自判(一部自判を含む。)が15件であり、そのうち1件は一部差戻しと一部自判の双方を含む。論旨に基づく破棄が23件、職権による破棄が1件である。民集に登載されたものが10件、集民に登載されたものが9件、いずれにも登載されなかったものが5件である。

平成30年には、民事の破棄決定は特別抗告事件・許可抗告事件のいずれも0件であった。年次解説が示す許可抗告事件の破棄決定は、平成26年4件、平成27年7件、平成28年2件、平成29年7件であり、過去4年はいずれも1件以上あった。

これらは特定年度の判決書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 24判決の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成30年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月19日・二小平成29年(行ヒ)第46号内閣官房報償費の支出に関する行政文書の情報と情報公開法5条3号・6号の不開示情報一部自判1月19日・二小平成28年(行ヒ)第218号同上(別件)一部自判1月19日・二小平成28年(行ヒ)第228号同上(別件)一部自判2月15日・一小平成28年(受)第2076号親会社が子会社従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことと信義則上の義務違反自判3月15日・一小平成29年(受)第2015号国境を越えて日本へ連れ去られた子の人身保護請求と、意思能力のある子に対する監護の「拘束」該当性等差戻し3月30日・二小平成30年(オ)第93号法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(職権破棄)差戻し4月26日・一小平成29年(行ヒ)第216号県議会議長の議員に対する発言取消命令の適否は司法審査の対象となるか自判6月1日・二小平成28年(受)第2099号・第2100号有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違と労働契約法20条一部差戻し6月1日・二小平成29年(受)第442号同上(別件)一部自判・一部差戻し7月17日・三小平成29年(受)第1738号民法248条による償金請求権等に基づいて支払うべき利益の現存額自判7月17日・三小平成28年(行ヒ)第406号接する街路が建築基準法42条1項3号の道路に当たることを前提とする固定資産の価格決定差戻し7月19日・一小平成28年(受)第563号国歌斉唱時の起立斉唱の職務命令違反を理由に再任用等の選考で不合格としたことの適法性自判7月19日・一小平成29年(受)第842号業務手当が割増賃金に当たるか差戻し9月27日・一小平成29年(受)第659号・第660号交通事故の被害者の自賠法16条1項の直接請求権と国が代位取得した直接請求権との優先関係等一部差戻し9月28日・二小平成28年(受)第1978号無権代理人が民法117条1項に基づく債務の履行を拒むことの可否自判10月19日・二小平成29年(受)第1735号共同相続人間の無償による相続分の譲渡と民法903条1項の「贈与」差戻し10月23日・三小平成29年(行ヒ)第185号住民訴訟の係属中にされた市の請求権を放棄する市議会の議決の適法性自判10月25日・一小平成29年(受)第990号保護室に収容中の未決拘禁者との面会を、申出を本人に告げずに許さなかった刑事施設の長の措置の違法性差戻し11月6日・三小平成29年(行ヒ)第320号勤務時間中のわいせつ行為等を理由とする停職6月の懲戒処分の適法性自判11月6日・三小平成29年(行ヒ)第226号財産の譲渡の議案を可決する議決と地方自治法237条2項の議会の議決自判11月16日・二小平成29年(行ヒ)第404号政務活動費等の収支報告書上の支出の一部が架空でも不当利得返還義務を負わない場合自判12月17日・一小平成30年(受)第16号・第17号依頼を受けて自動車の名義上の所有者兼使用者となった者と自賠法3条の運行供用者差戻し12月18日・三小平成29年(行ヒ)第292号不正受給者に対する生活保護法(改正前)78条の費用徴収額と基礎控除相当額自判12月21日・二小平成29年(受)第1793号弁護士会照会をした弁護士会が相手方の報告義務の確認を求める利益自判
第3 24判決から見える五つの監査領域
1 訴えの入口と手続の土台

平成30年度唯一の職権破棄は、法律に従って判決裁判所を構成しなかったという絶対的上告理由に当たる事件である(3月30日第二小法廷判決)。判決裁判所の構成のような手続の土台に関する誤りが、職権で取り上げられた例である。

県議会議長の議員に対する発言取消命令の適否が司法審査の対象となるか(4月26日第一小法廷判決)、弁護士会照会をした弁護士会が相手方の報告義務の確認を求める利益があるか(12月21日第二小法廷判決、第4の3)は、いずれも本案に入る前の入口の問題である。

受任時には、裁判所が判断できる紛争か、確認の利益など訴えの利益があるか、判決裁判所の構成に問題がないかを、請求の内容とは別に点検しておくとよい。

2 相続と財産

共同相続人間の無償による相続分の譲渡が民法903条1項の「贈与」に当たるか(10月19日第二小法廷判決、第4の2)は、遺留分の算定に直結する判断である。

また、無権代理人が民法117条1項に基づく債務の履行を拒むことの可否(9月28日第二小法廷判決)や、民法248条による償金請求権等に基づいて支払うべき利益の現存額(7月17日第三小法廷判決)も、財産関係の基本的な規律が問題となった事件である。

3 労働条件と企業の責任

平成30年度は、労働分野の判断が多い。有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違と労働契約法20条(6月1日第二小法廷判決2件、第4の5)、業務手当が割増賃金に当たるか(7月19日第一小法廷判決、第4の4)、親会社が子会社従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことと信義則上の義務違反(2月15日第一小法廷判決、第4の1)である。

いずれも、契約書や規程の文言だけでなく、手当の趣旨、運用の実態、相談窓口の仕組みの具体的内容等の事実関係によって結論が左右されている。

4 交通事故・人身保護・刑事施設

自賠法の分野では、被害者の直接請求権と国が代位取得した直接請求権との優先関係等(9月27日第一小法廷判決)と、依頼を受けて自動車の名義上の所有者兼使用者となった者が運行供用者に当たるか(12月17日第一小法廷判決)が破棄されている。

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平成29年度最高裁民事破棄判決等の実情―22判決・9決定から学ぶ訴訟承継・損害審理・割増賃金と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 22判決・9決定という数字の読み方第2 22判決・9決定の一覧第3 31件から見える五つの監査領域1 訴訟の入口と手続の土台2 損害と事実の審理を省略しない3 相続・家族と財産4 労働・取引の契約条項の効力5 行政・税・公金第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 節税目的の養子縁組―それだけで縁組意思がないとはいえない2 共同相続された定期預金・定期積金―相続開始と同時に当然には分割されない3 個人情報の漏えい―プライバシー侵害の精神的損害を審理しないまま棄却しない4 タクシー乗務員の歩合給―公序良俗違反とするだけで割増賃金の審理を省略しない5 認定司法書士の裁判外の和解―弁護士法72条違反でも当然には無効とならない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成29年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、齋藤毅・中丸隆「最高裁民事破棄判決等の実情―平成二九年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成29年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2374号3頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 22判決・9決定という数字の読み方

年次解説によれば、平成29年の新受件数は、上告事件2235件、上告受理申立て事件2727件の合計4962件であり、並行申立てを1件と換算すると3046件である。既済件数は、上告事件2255件、上告受理申立て事件2782件の合計5037件であり、換算後は3111件である。許可抗告事件は新受33件、既済52件であった。

破棄判決は22件(判決書単位)であり、換算後の既済件数3111件を分母とした割合は0・7%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成25年34件(0・9%)、平成26年42件(1・1%)、平成27年32件(0・9%)、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)と示している。
破棄判決22件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が11件、自判(一部自判を含む。)が11件であり、全て論旨に基づく破棄で、職権による破棄はない。民集に登載されたものが7件、集民に登載されたものが11件、いずれにも登載されなかったものが4件である。

破棄決定は9件(決定書単位)であり、その内訳は特別抗告事件2件、許可抗告事件7件である。許可抗告事件の既済件数52件を分母とした割合は13・4%である。結果は差戻し2件、自判4件、その他3件であり、論旨に基づく破棄が6件、職権による破棄が1件、論旨及び職権の両方による破棄が2件である。

これらは現行民事訴訟法下の数字であるが、特定年度の判決書・決定書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 22判決・9決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成29年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月31日・三小平成28年(受)第1255号専ら相続税の節税のための養子縁組と民法802条1号の「縁組をする意思がないとき」自判2月21日・三小平成27年(受)第659号名義貸しの立替払契約における販売業者の告知と割賦販売法の「購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」差戻し2月21日・三小平成27年(受)第660号同上(別件)差戻し2月28日・三小平成27年(受)第1876号商標法4条1項10号の無効審判が請求されないまま5年経過した後の権利濫用の抗弁一部差戻し2月28日・三小平成28年(行ヒ)第169号私道の用に供されている宅地(歩道状空地)の相続税評価差戻し2月28日・三小平成27年(受)第1998号タクシー乗務員の歩合給から残業手当等相当額を控除する賃金規則の効力差戻し3月13日・二小平成28年(受)第944号主たる債務者への支払督促が、同じ当事者間の保証契約に基づく保証債務履行請求権の消滅時効を中断するか自判4月6日・一小平成27年(行ヒ)第349号じん肺管理区分(管理一)決定の取消訴訟の係属中に原告が死亡した場合の訴訟承継差戻し4月6日・一小平成28年(受)第579号共同相続された定期預金債権・定期積金債権は相続開始と同時に当然に分割されるか一部自判4月21日・二小平成28年(行ヒ)第14号特別支給の老齢厚生年金の額の改定(退職改定)の要件自判7月7日・二小平成28年(受)第222号医師の年俸に時間外労働等の割増賃金を含める合意一部差戻し7月24日・一小平成28年(受)第1463号認定司法書士が弁護士法72条に違反して締結した裁判外の和解契約の効力自判9月8日・二小平成28年(行ヒ)第371号水俣病認定患者が原因企業から損害賠償を受けた場合の公害健康被害補償法上の障害補償費自判9月14日・一小平成28年(受)第1187号工業用水道の使用廃止者の負担金と地方自治法の「分担金」差戻し9月15日・二小平成28年(行ヒ)第33号教員採用試験の不正関与者に対する県の求償権の不行使一部差戻し10月17日・三小平成28年(受)第2009号株主でないとの判決が確定した原告による株主代表訴訟の適法性自判10月23日・二小平成28年(受)第1892号個人情報の漏えいによる精神的損害の有無等差戻し10月24日・三小平成28年(行ヒ)第224号シンガポール子会社の地域統括業務とタックス・ヘイブン対策税制の適用除外自判12月18日・一小平成28年(行ヒ)第404号の1被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消訴訟等の係属中に原告が死亡した場合の訴訟承継一部自判12月18日・一小平成28年(行ヒ)第404号の2同上(別件)一部自判12月18日・一小平成29年(受)第84号マンション管理組合の理事会の決議による理事長の解職差戻し12月19日・三小平成28年(受)第1797号差押え後の第三債務者の弁済と破産法162条1項の否認一部自判

破棄決定9件は、年次解説の破棄事件決定一覧表によれば、次のとおりである(12月22日の2件は特別抗告事件、その余の7件は許可抗告事件である。)。

決定日・法廷事件番号内容結果5月17日・二小平成28年(許)第49号父母が戸籍に記載されていないことと戸籍法104条3項の「責めに帰することができない事由」自判9月5日・三小平成28年(許)第40号訴訟上の救助を受けた者の猶予費用の取立てをすることができる額の算定方法差戻し10月5日・一小平成29年(許)第6号破産者の依頼を承諾したことのある弁護士が破産管財人を原告とする訴訟で被告の訴訟代理人となることと弁護士法25条1号自判10月10日・三小平成28年(許)第46号債権差押命令の申立日の翌日以降の遅延損害金も取立金の充当の対象となるか自判12月12日・三小平成28年(許)第43号仲裁人の開示義務(仲裁法18条4項)違反の要件差戻し12月13日・二小平成29年(許)第27号上告受理申立て理由の記載の有無破棄12月19日・三小平成29年(行フ)第3号資格決定処分を受けた村議会議員が、補欠選挙を争わなくても効力停止決定又は取消判決により地位を回復し得るか自判12月22日・二小平成29年(ク)第898号特別抗告を却下した原決定の当否破棄12月22日・二小平成29年(ク)第899号抗告を許可しなかった原決定の当否破棄
第3 31件から見える五つの監査領域
1 訴訟の入口と手続の土台

平成29年度は、原告が訴訟の係属中に死亡した場合の訴訟承継が2つの分野で問題となった。じん肺管理区分の決定の取消訴訟(4月6日第一小法廷判決)と、被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消訴訟等(12月18日第一小法廷判決2件)である。年次解説によれば、じん肺管理区分の事件では、原審が原告の死亡により訴訟は当然に終了したとして訴訟終了宣言をしたのに対し、最高裁は、労働者災害補償保険法11条1項に規定する者が訴訟を承継するとして、原判決を破棄し差し戻した。
本記事では、原告の死亡によって訴訟が当然に終了するかどうかは、争われている地位が一身専属的なものにとどまるか、相続人等が引き継ぐべき法律上の利益を伴うかによって分かれると整理する。

また、株主でないとの判決が確定した原告による株主代表訴訟の適法性(10月17日第三小法廷判決)、上告受理申立て理由の記載の有無(12月13日第二小法廷決定)、特別抗告・抗告許可の申立てを却下・不許可とした原決定の当否(12月22日第二小法廷決定2件)等、手続の入口に関する破棄が目立つ。

受任時、争点整理終結時及び上訴前には、当事者の死亡・承継の可能性、当事者適格、上訴理由書の記載事項及び申立ての方式を一覧にして点検するとよい。

2 損害と事実の審理を省略しない

個人情報の漏えいによる損害賠償請求事件(10月23日第二小法廷判決)では、不快感や不安を超える損害の主張立証がないことだけを理由に請求を棄却した原審の判断に、審理不尽の違法があるとされた(第4の3)。

同じく差戻しとなった私道の用に供されている宅地(歩道状空地)の相続税評価(2月28日第三小法廷判決)、工業用水道の使用廃止者の負担金(9月14日第一小法廷判決)、マンション管理組合の理事長の解職(12月18日第一小法廷判決)等も、年次解説の一覧表では差戻しとされている。

損害や評価が争点となる事件では、「損害がない」「区別できない」という結論に直行せず、どの事実を立証すれば損害の有無と程度が判断できるかを、証拠と結び付けて整理しておくべきである。

3 相続・家族と財産

(続きを読む...)平成29年度最高裁民事破棄判決等の実情―22判決・9決定から学ぶ訴訟承継・損害審理・割増賃金と差戻審実務(AI作成)

平成20年度最高裁民事破棄判決等の実情―52判決・3決定から学ぶ訴訟の入口・損害額認定・損益相殺と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 52判決・3決定という数字の読み方第2 52判決・3決定の一覧第3 55件から見える五つの監査領域1 訴訟の入口と手続の土台2 事実認定と損害額の認定3 不当利得・過払金と損益相殺4 契約・会社・取引の外観5 行政・税・公金第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 国籍法3条1項の違憲判断―準正要件を除いた要件で国籍を取得する2 土地区画整理事業計画の決定の処分性―早い段階で争う道を開く3 ヤミ金融業者の貸付けと損益相殺―民法708条の趣旨4 採石権侵害と民訴法248条―損害額が分からないことを理由に請求を棄却しない5 会社分割とゴルフクラブの名称続用―会社法22条1項の類推適用第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成20年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、増森珠美・清野正彦「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成二〇年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成20年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2043号3頁以下、2044号14頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 52判決・3決定という数字の読み方

年次解説によれば、平成20年の新受件数は、上告事件2257件、上告受理申立て事件2653件の合計4910件であり、並行申立て(1801件)を1件と換算すると3109件である。既済件数は合計4634件であり、並行申立て(1682件)を1件と換算すると2952件である。許可抗告事件は新受58件、既済54件であった。

破棄判決は52件、破棄決定は3件である。この52件は判決書単位の数であり、上告と上告受理申立ての並行申立てがされた事件や、複数の当事者からの上訴を併合した事件を一通の判決書で処理したものは1件と数えている。年次解説の目次では、判決はすべて「論旨に基づいて破棄された判決」に分類されている。

年次解説の破棄事件判決一覧表の結果欄を数えると、差戻し(一部破棄差戻しを含む。)が28件、自判(一部破棄自判を含む。)が24件である。ただし、「自判」には、第一審判決を取り消して第一審へ差し戻したもの(土地区画整理事業計画の判決及び入会権確認の判決)も含まれている。

これらは旧来の上告制度ではなく現行民事訴訟法下の数字であるが、それでも、特定年度の判決書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 52判決・3決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成20年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月18日・二小平成18年(受)第2268号第一の基本契約に係る過払金を第二の基本契約の借入金債務に充当することの可否差戻し1月18日・二小平成17年(行ヒ)第304号土地開発公社が市との委託契約に基づいて先行取得した土地について市がその義務の履行として同公社から同土地を買い取る売買契約を締結することが違法となる場合差戻し1月24日・一小平成18年(受)第1572号遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得する時期一部自判1月24日・一小平成18年(受)第1154号労働者が労働基準法76条所定の休業補償と同一の事由について休業補償給付を受けるべき場合における使用者の休業補償義務の範囲自判1月28日・二小平成17年(受)第1372号融資を実行した銀行の取締役の責任(拓銀栄木関係)一部自判1月28日・二小平成17年(受)第1440号融資を実行した銀行の取締役の責任(拓銀カブトデコム関係)自判2月15日・二小平成18年(受)第2084号有価証券募集の際の不実の目論見書の使用者の損害賠償責任差戻し2月18日・一小平成19年(行ヒ)第138号原爆被爆者に対する援護に関する法律に基づく健康管理手当の受給権につき地方自治法236条の消滅時効を主張することの可否自判2月19日・三小平成15年(行ツ)第157号・同年(行ヒ)第164号輸入しようとした写真集の関税定率法(平成17年法律第22号による改正前)21条1項4号「風俗を害すべき書籍、図画」該当性一部自判2月22日・二小平成19年(受)第528号会社の貸付けと商行為性の推定差戻し2月28日・一小平成19年(受)第733号保険金請求権の消滅時効と約款に基づく履行期の合意による延長差戻し2月28日・一小平成17年(行ヒ)第47号生活保護開始決定の変更決定の適否自判2月29日・二小平成19年(受)第955号他の相続人に無断で相続財産を葬儀費用に支出した相続人が不法行為責任を負うか一部差戻し2月29日・二小平成18年(受)第192号賃料自動改定特約のある建物賃貸借契約の相当賃料額算定に当たり経済事情の変動等を考慮すべき期間差戻し3月6日・一小平成19年(オ)第403号・同年(受)第454号住基ネットと憲法13条自判3月7日・二小平成19年(受)第980号競売建物につき法定地上権を考慮せずに代金額を算定した原審の判断の当否一部差戻し3月17日・一小平成18年(行ヒ)第168号公金の支出から1年を経過して住民監査請求がされたことについての正当な理由の有無差戻し3月18日・三小平成18年(受)第2056号いわゆるわらの上からの養子に対する親子関係不存在確認請求と韓国法における権利濫用差戻し3月27日・一小平成18年(受)第1870号労災に基づく損害賠償請求事件における使用者側の過失相殺の主張の可否差戻し3月27日・一小平成18年(行ヒ)第102号土地の譲渡所得が確定申告において税額の計算の基礎とされていなかったことについての正当な理由の有無一部自判4月15日・三小平成18年(受)第263号弁護士と受刑者との接見を許可しなかった刑務所長の措置の違法性自判4月18日・二小平成19年(受)第1180号小学校の教室内の事故につき担任教諭の過失を認めた原審の判断の当否自判4月24日・一小平成18年(受)第1632号チーム医療の総責任者の説明義務差戻し6月4日・大法廷平成18年(行ツ)第135号国籍法3条1項の憲法適合性と日本国籍の取得の可否(退去強制令書発付処分取消等)自判6月4日・大法廷平成19年(行ツ)第164号国籍法3条1項の憲法適合性と日本国籍の取得の可否(国籍確認)自判6月10日・三小平成18年(受)第265号採石権侵害の不法行為による損害と民訴法248条一部差戻し6月10日・三小平成19年(受)第569号ヤミ金融業者による高利の貸付けと損益相殺差戻し6月10日・三小平成18年(受)第890号会社分割後のゴルフクラブの名称続用と会社法22条1項の類推適用自判6月12日・一小平成19年(受)第808号ほか5件取材を受けた者が放送内容等について抱いた期待、信頼が侵害されたことを理由とする不法行為の成否自判6月24日・三小平成19年(受)第1146号投資資金名目の詐欺と損益相殺差戻し7月4日・二小平成19年(受)第1401号コンビニのフランチャイザーの加盟店に対する報告義務差戻し7月4日・二小平成19年(受)第1386号・同年(オ)第1515号パトカーと衝突した自動二輪車の運転者の過失を同乗者の過失として過失相殺することの可否差戻し7月8日・三小平成18年(受)第1214号パチンコ店開業妨害目的で診療所を開設するなどした医師等の不法行為責任一部差戻し7月10日・一小平成19年(受)第1985号債権の一部についての前訴の確定判決の既判力差戻し7月10日・一小平成19年(行ヒ)第318号特許異議申立事件係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合の許否の判断一部自判7月15日・三小平成18年(受)第1877号瑕疵ある建物について建築士が不法行為責任を負う場合差戻し7月17日・一小平成18年(受)第1818号訴え提起に同調しない入会権者を被告に加えた入会権確認の訴えの当事者適格自判9月8日・二小平成19年(受)第46号不真正連帯債務関係にある被告らのうち一名に対する関係でのみ相殺の効力を認めた原審の判断の当否一部自判9月8日・二小平成19年(行ヒ)第223号土人形等を指定商品とする商標の類否差戻し9月10日・大法廷平成17年(行ヒ)第397号市町村施行の土地区画整理事業の事業計画の決定の行政処分該当性自判9月12日・二小平成19年(オ)第1344号代表権の欠缺差戻し9月12日・二小平成19年(受)第1040号子の友人が運転中に起こした事故と父親の自賠法3条にいう「運行供用者性」差戻し10月7日・三小平成20年(受)第12号被害者側加入の人身傷害保険金を過失相殺後の損害額から控除した原審の判断の当否差戻し10月10日・二小平成19年(受)第152号振込の原因となる法律関係が存在しない場合における預金の払戻請求と権利濫用差戻し10月10日・二小平成19年(行ヒ)第68号20歳未満で統合失調症を発症したが医師の診断を受けた時点で20歳に達していた大学の学生等の障害基礎年金の受給権の有無自判10月24日・二小平成19年(行ヒ)第285号都民税の減額更正により生じた過納金に係る還付加算金の起算日一部差戻し11月7日・二小平成19年(受)第1878号目撃者に準ずる者の証人尋問を行わずに痴漢行為を認定した原審の判断の当否差戻し11月25日・三小平成19年(行ヒ)第91号建築基準法42条2項所定の「現に建築物が立ち並んでいる道」該当性自判11月27日・一小平成19年(行ヒ)第215号普通地方公共団体の予算執行職員等が地方自治法(平成18年法律第53号による改正前)243条の2第1項後段による損害賠償責任を負う場合自判12月11日・一小平成20年(行ヒ)第29号遺産分割調停調書を添付してされた建物の所有権移転登記申請についての登記原因証明情報の提供の有無自判12月19日・二小平成19年(行ヒ)第222号市町村施行の土地区画整理事業の事業計画の変更決定の行政処分該当性自判12月19日・二小平成19年(受)第670号過払金返還の際に悪意の受益者が付すべき利息の利率差戻し

破棄決定3件は、いずれも許可抗告事件であり、次のとおりである。

決定日・法廷事件番号内容結果3月26日・二小平成19年(許)第34号上告受理申立て理由書に所定の理由の記載がないとして上告受理申立てを却下した原決定の当否破棄7月18日・二小平成20年(許)第12号簡易裁判所の管轄に属する訴訟について、被告の移送申立てを却下する地方裁判所の判断と裁量自判12月16日・三小平成20年(許)第46号同上(専属的管轄合意に係る簡易裁判所への移送申立て)自判
第3 55件から見える五つの監査領域
1 訴訟の入口と手続の土台

代表権の欠缺が問題となった9月12日第二小法廷判決は、適式に選任された代表者による追認の主張について更に審理させるため、原判決を破棄して差し戻した。年次解説が摘記する判決文は、訴訟行為をするのに必要な授権の有無は職権探知事項であるとしている。

入会権確認の訴えについての7月17日第一小法廷判決は、入会集団の一部の構成員が、訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に対して入会権確認の訴えを提起することができるとして、原告適格を欠くとして訴えを却下した原判決を破棄し、第一審へ差し戻した。固有必要的共同訴訟であっても、非同調者がいることだけで権利確認の道が閉ざされるわけではない。

市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定(9月10日大法廷判決)及びその変更決定(12月19日第二小法廷判決)は、いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとされた。

破棄決定では、上告受理申立て理由書に経験則違反等の記載があるのに、所定の理由の記載がないとして申立てを却下した原決定が破棄された(3月26日第二小法廷決定)。簡易裁判所への移送申立てを却下する地方裁判所の判断は、専属的管轄の合意がある場合を含め、地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられるとされた(7月18日第二小法廷決定、12月16日第三小法廷決定)。

受任時、争点整理終結時及び上訴前には、代表権・授権、当事者の配置、処分性、上訴理由書の記載事項及び管轄を一覧にして点検するとよい。

2 事実認定と損害額の認定

痴漢行為の有無が争われた損害賠償請求事件(11月7日第二小法廷判決)では、目撃者が見付からない中で、電話を通じて当事者の発言を聞いていた人物が目撃証人に準ずる立場にある唯一の人物であったのに、その証人尋問をしないまま一方当事者の供述の信用性を肯定した原審の判断に、審理不尽の違法があるとされた。客観的証拠が乏しく、供述の信用性が正面から対立する事件では、その対立を解く鍵となる人証の申出を、採否の理由とともに記録に残すことが重要である。

一部請求後の残部請求が問題となった7月10日第一小法廷判決は、前訴において一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたとして、前訴の確定判決の既判力が後訴に及ばないとした。どのような場合に一部請求であることの明示があったといえるかの事例判断である。

採石権侵害の事件(6月10日第三小法廷判決)は、損害の発生が明らかな以上、損害額の立証が極めて困難であっても、民訴法248条により相当な損害額が認定されなければならないとした(第4の4)。

3 不当利得・過払金と損益相殺

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平成2年度最高裁民事破棄判決等の実情―25件から学ぶ信義則・時間軸・危険管理と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 25件という数字の読み方第2 25件の一覧第3 25件から見える四つの監査領域1 訴えの入口と手続の土台2 信義則・権利濫用を抽象的に使わない3 時効・時間軸を固定する4 危険管理と過失割合第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表4判決1 固定資産評価審査委員会の口頭審理―評価根拠をどこまで知らせるか2 共済組合の貸付金控除と否認―徴収の形式ではなく弁済の実質を見る3 スキー場のクレバス転落―管理者責任を結果責任にしない4 有責配偶者の離婚請求―別居期間を年数の比率だけで判断しない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成2年度の最高裁民事破棄判決を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決の判断のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、富越和厚「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(5・完)―平成二年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表4判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、当時の最高裁判所調査官が、平成2年度に言い渡された民事破棄判決を破棄事由ごとに分類し、判決文の関係部分を摘記して紹介したものである(判例時報1386号8頁、1387号6頁、1389号12頁、1390号3頁、1392号17頁)。一つの判決に二つ以上の破棄事由があるときは、主要な事由の箇所に分類し、他の事由の箇所では枝番を付けて紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する4判決である。残る21判決は年次解説の記述によるものであり、個別判決本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 25件という数字の読み方

年次解説によれば、平成2年度に判決により終結した事件は1921件(裁判集民事登載69件、うち民集登載30件)であり、そのうち破棄判決は25件で、終結事件の1・3パーセントであった。内訳は、破棄差戻し14件、破棄自判11件である。差戻し・自判が一部かどうかは、原判決の主文全体ではなく、上告の範囲を基準としている。

破棄判決のうち、職権で破棄されたものが2件、上告理由に応えたものが24件である。破棄事由の内容では、訴訟法関係が2件、実体法関係が24件である。判文上の破棄事由では、法令の解釈適用の誤りが24件、理由不備が5件、審理不尽が8件である。複数の事由を持つ判決があるため、これらを合計しても25件にはならない。

この割合は、旧民事訴訟法下の特定年度に最高裁で判決終結した事件を分母とする歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 25件の一覧

年次解説の「破棄判決一覧表(言渡期日順)」及び各判決の紹介に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成2年)。内容欄は年次解説の内容見出しを要約したものである。

判決日・法廷事件番号内容結果1月18日・一小昭和59年(行ツ)第46号県立高校教諭に対する懲戒処分と懲戒権者の裁量権自判1月18日・一小昭和61年(行ツ)第138号固定資産の評価登録価格に対する不服と評価根拠の開示差戻し1月22日・二小昭和62年(オ)第452号土地の一番抵当権設定後に要件を充足した法定地上権の成否一部自判・一部差戻し1月22日・二小平成元年(オ)第1546号仮処分の違法執行を理由とする損害賠償請求差戻し2月20日・三小昭和59年(オ)第1088号改正前の割賦販売法下での抗弁の切断差戻し3月6日・三小昭和63年(オ)第960号過失相殺における過失割合の裁量違反差戻し3月20日・三小昭和63年(オ)第717号破産廃止から免責決定確定までの強制執行と不当利得自判4月12日・一小昭和59年(オ)第846号担保保存義務免除特約と信義則自判4月12日・一小昭和62年(行ツ)第22号住民訴訟の対象となる財産管理行為自判4月17日・三小昭和60年(オ)第1529号取締役選任の株主総会の不存在とその後の手続の瑕疵一部差戻し6月1日・二小昭和62年(オ)第134号詐害行為取消権の時効消滅自判6月5日・三小平成元年(オ)第854号試用期間付雇用契約の法的性質差戻し6月5日・三小昭和63年(行ツ)第152号錯誤による概算経費選択と実額経費による修正申告自判6月5日・三小昭和63年(オ)第357号仮登記権利者の本登記請求権の消滅時効と抵当権者の援用自判7月19日・一小昭和63年(オ)第1457号国家公務員共済組合の貸付金控除と否認権差戻し7月19日・一小昭和62年(オ)第1083号地方公務員共済組合の貸付金控除と否認権自判7月19日・一小平成元年(オ)第545号婿養子における婚姻関係の破綻と養親子関係の破綻差戻し7月20日・二小昭和60年(オ)第1576号日本で登録したポパイ商標権による損害賠償請求自判7月20日・二小昭和63年(オ)第1519号自白の取消要件、仮執行の結果の考慮、相殺と信義則差戻し9月27日・一小昭和63年(オ)第1570号約束手形への裏書と原因債務の保証一部差戻し11月8日・一小昭和60年(オ)第617号ベテランスキーヤーのクレバス転落とスキー場管理者の過失自判11月8日・一小昭和61年(オ)第255号無謀運転の自動車の県道から国鉄軌道敷への転落と国鉄の責任差戻し11月8日・一小昭和61年(オ)第256号同じ事故と県の責任自判11月8日・一小平成元年(オ)第1039号有責配偶者からの離婚請求で別居期間を考慮する趣旨差戻し12月13日・一小昭和63年(オ)第791号多摩川水害訴訟差戻し
第3 25件から見える四つの監査領域
1 訴えの入口と手続の土台

住民訴訟の対象となる財産管理行為が問題となった平成2年4月12日第一小法廷判決では、最高裁は職権で調査し、道路工事の施行決定は道路行政上の判断であって財務会計上の財産管理行為に当たらないとして、訴えを却下した。実体判断の前に、訴訟類型ごとの対象・要件が満たされているかを確かめる必要がある。

平成2年7月20日第二小法廷判決は、自白の取消しには反真実と錯誤が必要であるのにその検討を欠いた点、及び仮執行宣言付きの第一審判決に基づく強制執行による弁済を本案で考慮した点を違法とした。取締役選任決議の不存在が問題となった平成2年4月17日第三小法廷判決は、不存在の決議によって選任された取締役で構成された取締役会を起点として、後続の決議も連鎖的に不存在となる場面と、その例外となる特段の事情を扱った。

手続の土台に関する誤りは、実体法上の結論が正しくても判決を維持できなくする。受任時、争点整理終結時及び上訴前に、訴訟類型、当事者、自白の範囲、仮執行の有無及び前提となる決議・処分の効力を一覧にして点検するとよい。

2 信義則・権利濫用を抽象的に使わない

平成2年度は、信義則・権利濫用の使い方を誤った原判決が目立つ。相殺と信義則(7月20日)では、相殺適状後に生じた利息・損害金を自働債権とする相殺を信義則違反とした原審について、金利差だけでなく、具体的な取引内容、相手方からの相殺の可否、相殺されなかった事情等の検討が必要であるとされた。

改正前の割賦販売法下の抗弁の切断(2月20日)では、売買当事者間の合意解除を理由に購入者があっせん業者の請求を当然に拒むことはできないとしつつ、拒み得る旨の特別の合意や、あっせん業者に不履行の結果を帰せしめるのが信義則上相当な特段の事情があれば別であるとして、その審理を欠いた原判決が破棄された。担保保存義務免除特約(4月12日)では、特約がある以上、担保差替えによる担保価値の減少だけでは信義則違反・権利濫用とはならないとして、原判決が破棄された。逆に、ポパイ商標事件(7月20日)では、著名な漫画の主人公の人物像に無償でただ乗りする商標権の行使が権利の濫用とされた。

信義則・権利濫用を主張し、又はこれを争うときは、一般条項の名前を挙げるだけでは足りない。合意の内容、当事者の認識、取引経過、代替手段及び結果の重大性を具体的な事実として整理し、それぞれに証拠を付ける必要がある。

3 時効・時間軸を固定する

仮登記権利者の本登記請求権の消滅時効(6月5日)では、所有権移転請求権保全の仮登記に後れて抵当権の設定を受けた者が、予約完結権の消滅時効を援用できるとされ、援用権者を限定した大審院判例が変更された。詐害行為取消権の時効消滅(6月1日)では、先行した債権者代位訴訟の提起・取下げが詐害行為取消権の行使の実質を持たず、時効の進行に影響しないとされた。

破産廃止から免責決定確定までの強制執行(3月20日)では、免責の効力は遡及しないから、免責決定確定前の強制執行による弁済は法律上の原因を欠くものではないとされた。有責配偶者の離婚請求(11月8日)も、別居期間を単なる年数ではなく、時の経過が当事者の事情に与える影響として評価する判断である。

時間軸が争点となる事件では、権利の発生、行使、取下げ、決定、確定、強制執行及び弁済の日付を一つの表に並べ、どの時点の法律関係を前提にするかを固定する必要がある。

4 危険管理と過失割合

スキー場のクレバス転落(11月8日)、県道から国鉄軌道敷への車両転落(同日の2件)及び多摩川水害(12月13日)は、いずれも管理者の責任を結果から逆算しない判断である。国鉄線路への転落事故では、運転者の行動が通常予測できない極めて異常かつ無謀な運転行為であったとして、県道及び鉄道施設の設置・管理の瑕疵が否定された。多摩川水害では、工事実施基本計画に準拠して改修・整備がされた河川について、同計画に定める規模の洪水の通常の作用から予測される災害を防止するに足りる安全性を備えるべきであるとして、改修途上の河川と同視した原判決が破棄された。

過失割合の裁量違反(3月6日)は、医師の資格のない断食道場の開業者がインシュリン注射等を中止させた結果、糖尿病患者が死亡した事案である。最高裁は、開業者の過失の重大さに比べて原審の過失割合が著しく低いとして、裁量の範囲を逸脱した違法を認めた。年次解説によれば、差戻審では過失割合が逆転している。

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平成5年度最高裁民事破棄判決等の実情―60件から学ぶ証拠評価・手続保障・差戻審実務(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論第2 資料の位置付けと確認範囲第3 平成5年度の件数と読み方第4 破棄理由から学ぶ原判決の点検第5 証拠評価と事実認定の実務第6 手続法上の実務第7 実体法上の主要な学び1 無権代理人による本人の共同相続2 遺族年金と損益相殺的調整3 故意免責条項と予期しない死亡結果4 担保不動産競売と民事執行法184条第8 差戻審に備える実務第9 利用上の注意第10 関連記事第11 出典と一次資料の確認状況

瀧澤泉「最高裁民事破棄判決の実情(平成5年度)」全6回を手掛かりに,平成5年度の最高裁民事破棄判決60件から得られる訴訟実務上の学びを整理する。年次解説は優れた二次資料であるが,判決全文そのものではない。本記事は,一次資料で全文を確認した事件,書誌・判示事項だけを確認した事件及び年次解説だけで検討した事項を区別して表示する。

第1 本記事の対象と結論

平成5年度の破棄事例から得られる中心的な学びは,最高裁が単に「結論」を変更するのではなく,証拠から要件事実・因果関係・損害額へ進む「推論の橋」が欠けている原判決を破棄しているという点である。

上告理由又は上告受理申立て理由を検討するときは,「事実認定が間違っている」と述べるだけでは足りない。①原審が確定した生の事実,②原審が暗黙に用いた経験則,③その経験則を弱める反対事実,④反対事実を評価せず結論へ進んだ箇所,⑤補充審理すべき事項を順に示す必要がある。

第2 資料の位置付けと確認範囲

資料区分今回の確認範囲記事での扱い

裁判所公表の判決全文平成5年1月21日,3月24日及び3月30日の各最高裁判決事案,規範,当てはめ,主文及び個別意見を直接確認
公的・出版社の書誌・判示事項平成5年12月17日判決(民事執行法184条)事件番号,掲載誌及び判示事項の範囲で利用
平成5年度年次解説全6回を通読60件の所在,破棄理由の類型及び論点候補を把握する二次資料として利用
判例秘書検索照会0件,ヒット件数不明,本文確認0件未収録とは評価しない

年次解説には,前置きの事件紹介が背景・争点を常に正確に示すとは限らないこと,掲載する判決文は抜粋であること,解説・意見は執筆者個人の見解であることが明記されている。したがって,個別事件の主文,事件番号,原審,反対意見,補足意見及び現在の射程を訴訟書面で用いるときは,判決全文と現行法を確認する。

第3 平成5年度の件数と読み方

年次解説によれば,判決で終局した事件は2,492件,破棄判決は60件,その割合は2.41%である。内訳は,職権破棄1件,上告理由に応答した破棄59件,手続法上の問題16件,実体法上の問題44件と整理されている。破棄差戻し23件,破棄自判38件という分類には重なりがあるため,単純に合計して事件数とはしない。

2.41%は平成5年度の歴史的な母集団を説明する数字であり,現在の上告受理率,破棄率又は個別事件の成功率を示すものではない。また,破棄されたことと,当事者が差戻審で最終的に勝訴したことは同じではない。

第4 破棄理由から学ぶ原判決の点検

原判決を点検するときは,次の5段階で読むと破棄理由を発見しやすい。

入口―当事者適格,訴えの利益,請求の趣旨,抗弁及び不利益変更禁止を確認する。
規範―条文の要件,判例の射程,旧法・現行法の別を確定する。
証拠―採用した証拠,排斥した証拠,証拠間の矛盾及び経験則を特定する。
当てはめ―認定事実から要件充足へ進む中間推論が説明されているかを確認する。
主文―認容額,遅延損害金,仮執行,差戻し又は自判の範囲が理由と整合するかを確認する。

特に,経験則違反を主張するときは,原審が用いた経験則を言語化し,それが一般的に成り立たない事情又は本件で例外となる事情を,記録中の証拠と結び付けて示す。別の事実認定もあり得るというだけでは,上告審で取り上げられる法令違反の形になりにくい。

第5 証拠評価と事実認定の実務

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平成6年度最高裁民事破棄判決等の実情―68件から学ぶ当事者・主張立証・証拠評価及び損害論(AI作成)

目次第1 本記事の対象と資料の読み方1 平成6年度の68件を横断する2 一次資料と年次解説を区別する第2 年度統計と数字の限界第3 当事者・請求・判断漏れの点検1 遺産確認訴訟と固有必要的共同訴訟2 主位的請求・予備的請求・黙示の主張第4 弁論主義と釈明の実務1 争いのない就労事実を裁判所が否定した事例2 弁論終結前に行う確認第5 証拠評価・経験則を分解する第6 損害と時効を時間軸に置く第7 登記・外観と契約解釈1 登記名義を残した建物譲渡人2 契約書を一通ずつ孤立して読まない第8 情報公開と住民訴訟の損害論1 知事交際費情報の公開・非公開2 違法性と地方公共団体の損害は別問題である第9 共同不法行為者の一人への免除第10 事件で再利用する破棄理由カード第11 現行法へ読み替えるときの注意第12 資料確認状況・出典・関連記事1 資料確認状況2 裁判所公式全文を確認した代表7判決3 関連記事

平成6年度の最高裁民事破棄判決等68件を横断すると,破棄理由は個別分野の法解釈だけではない。当事者を欠いたこと,予備的請求を判断しなかったこと,争いのない事実を否定したこと,証拠のない推論を置いたこと,損害・時効の時間軸を混同したことなど,現在の民事実務にもそのまま使える失敗類型が繰り返し現れる。

本記事は,高林龍「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)―平成六年度―」を年度全体の索引として用い,裁判所公式全文を確認できた代表7判決で具体化する。68件すべてについて一次資料を確認したものではないため,資料の確認段階を明示し,個別事件で判例を引用する際の限界も示す。

第1 本記事の対象と資料の読み方
1 平成6年度の68件を横断する

起点資料は,高林龍「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)―平成六年度―」(判例時報1522号,1523号,1525号,1526号,1529号及び1530号)である。同解説は,平成6年度の民事破棄事件を分野横断で並べ,原判決のどこが破棄理由になったかを読み取るのに適している。

年度を通じて読む目的は,個々の判例知識を増やすだけではない。受任時,第一審の弁論終結前,控訴理由書作成時,上告・上告受理申立て検討時及び差戻審準備時に,同じ種類の見落としを防ぐ監査項目へ変換することにある。

2 一次資料と年次解説を区別する

【年度解説確認】は,年次解説により事件の存在と破棄理由の概要を確認した段階を意味する。解説中に判決文の引用があっても,判決全文の一次資料確認と同じではない。

【裁判所公式全文確認済み】は,裁判所ウェブサイトの判決全文まで確認した段階を意味する。本記事では後記第12の2の7件がこれに当たる。判例集の頁,評釈の評価又はその後の判例変更まですべて確認したことを意味しない。

【判例秘書未確認】は,令和8年10月1日の作業で会員ログインを完了できず,照会0件,ヒット件数不明,本文確認0件であることを意味する。「判例秘書に収録がない」という意味ではない。

第2 年度統計と数字の限界

年次解説によれば,判決で終局した事件は2484件,破棄事件は68件であり,単純計算では約2.74%である。内訳は,破棄差戻し40件,破棄自判30件で,同一事件の一部を差し戻し,他の一部を自判した事件があるため合計は68件を超える。職権破棄5件,上告理由に基づく破棄64件にも重複がある。

掲載状況は,民集20件,裁判集15件,いずれにも登載されないもの33件とされる。公刊物に登載されない事件がほぼ半数あることは,判例集掲載判例だけでは破棄理由の実務的な全体像を捉えにくいことを示す。

もっとも,この約2.74%は平成6年度の「判決で終局した事件」を分母とする歴史的な集計である。現在の上告成功率,受理申立ての通過率又は個別事件の見通しを示す数字ではない。旧民事訴訟法下の上告制度であることにも注意が必要である。

第3 当事者・請求・判断漏れの点検
1 遺産確認訴訟と固有必要的共同訴訟

【裁判所公式全文確認済み】最高裁平成6年1月25日判決(平成5年(オ)第641号)は,遺産確認の訴えが共同相続人全員について合一に確定すべき固有必要的共同訴訟であることを前提に,共同被告の一部に対する訴えの取下げは効力を生じないとした。

実務では,受任時だけでなく,審級移行時にも当事者を再点検する。相続開始後の死亡・数次相続,法人の合併・解散,代表者変更,処分庁と被告行政主体の区別及び訴訟承継を確認し,「実体法上の権利者」と「訴訟上全員の関与が必要な者」を分けて一覧化する。

2 主位的請求・予備的請求・黙示の主張

【年度解説確認】年次解説には,主位的請求を排斥しながら予備的請求を判断しなかった例,主張の名称にとらわれて黙示の合意又は取得時効等の実質的な主張を取り上げなかった例が含まれる。これらは,請求・抗弁・再抗弁・予備的主張と判決理由の対応を一行ずつ照合する必要を示す。

弁論終結前には,①請求の趣旨,②請求原因,③抗弁,④再抗弁,⑤主位・予備の関係,⑥各要件事実に対応する証拠,⑦裁判所に求める判断を一枚に並べる。判決受領後は,同じ表に主文と判断箇所を追記し,空欄を判断遺脱候補として確認する。

第4 弁論主義と釈明の実務
1 争いのない就労事実を裁判所が否定した事例

【裁判所公式全文確認済み】最高裁平成6年6月13日判決(平成3年(オ)第63号)は,歩合給のうち通常の労働時間の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分を判別できないことを理由に,歩合給の支給だけでは割増賃金を支払ったとはいえないとした。

同判決はそれだけでなく,午前2時以後も労働者が雇用契約に基づいて勤務したことが当事者間に争いがなかったのに,原審が会社の指揮命令による勤務ではないと認定した点を,弁論主義違反とした。法的評価を争う前に,基礎事実の自白・否認を固定する重要性を示す。

固定残業代の判別可能性と,この弁論主義の判示は,固定残業代が有効になる要件で詳しく扱っている。

2 弁論終結前に行う確認

日ごとの始業・終業,所定時刻後の業務,休憩・中抜け,指示又は黙認,業務との関連及び金額計算について,相手方が認めた範囲と争う範囲を区分する。裁判所が争いのない事実と異なる前提を示したときは,求釈明又は準備書面により弁論終結前に確認する。

依頼者の目的に対して主張された法律構成が十分でないときは,代替的構成を検討する。ただし,釈明義務に期待して主張を省略するのではなく,事実関係に即した請求原因・抗弁を当事者側から明示することが基本である。

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平成3年度最高裁民事破棄判決等の実情―39件から学ぶ手続入口・証拠推論・行政不作為及び差戻し実務(AI作成)

目次

第1 資料の性質と確認範囲

1 年次論文は有力な索引であるが判決原文ではない
2 39件という数字の読み方

第2 破棄理由を読む七つの順序

1 入口から救済まで順に監査する
2 請求・抗弁・理由・主文を横に並べる

第3 証拠評価は推論の鎖に分解する

1 基礎事実から法律効果までを可視化する
2 記録の不存在と事実の不存在を区別する

第4 代表判例から得られる三つの実務知見

1 行政処分の遅延―期間だけで国賠違法を決めない
2 予防接種後障害―因果関係と禁忌者該当性を分ける
3 共同不法行為者間の求償―外部責任と内部負担を分ける

第5 破棄差戻し後まで見据える

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平成4年度最高裁民事破棄判決等の実情―29件から学ぶ訴訟要件・証拠評価・主文設計(AI作成)

目次

第1 対象資料と数字の読み方

1 対象とした年次解説
2 29件・1・2%の意味

第2 一次資料の確認状況
第3 29件から見える五つの監査領域

1 訴訟要件・当事者・送達
2 行政訴訟の入口と訴えの利益
3 契約解釈・財産関係・家族関係
4 専門分野の評価要素
5 主文・計算・差戻し範囲

第4 公式全文を確認した代表5判決

1 宗教団体内部の懲戒処分
2 もんじゅ訴訟の原告適格
3 新株発行不存在確認の利益
4 未熟児網膜症と医療水準
5 受取人が先に死亡した生命保険

第5 29件の論点別実務マップ
第6 受任事件で使う監査手順

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平成7年度最高裁民事破棄判決等の実情―55件から学ぶ原判決監査と差戻審実務(AI作成)

目次

第1 対象資料と確認範囲

1 年次解説の位置付け
2 55件という数字の読み方

第2 平成7年度の破棄理由から見える四つの監査領域

1 訴訟要件・当事者・並行手続
2 請求・抗弁・予備的主張の判断漏れ
3 証拠から主要事実までの推論
4 実体法上の判断枠組み

第3 裁判所公式全文を確認した代表3判決

1 スキー接触事故と上方滑走者の注意義務
2 退院時の説明・療養指導と受診遅延
3 新規治療法の普及と医療水準

第4 受任事件で使う三つの作業表

1 破棄理由カード
2 判断漏れ点検表
3 並行手続表

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外国判決の承認における間接管轄―侵害発生地・予見可能性と最高裁平成26年4月24日判決(AI作成)

目次

第1 外国判決を日本で承認・執行するための要件
第2 間接管轄とは何か
第3 最高裁平成26年4月24日判決
第4 不法行為地管轄の判断
第5 損害賠償請求と差止請求を分ける
第6 外国判決を扱う際の実務チェック
第7 判決の射程と注意点
第8 参考資料

外国裁判所の判決を日本で承認し、又は執行するには、外国裁判所が日本法の観点から裁判権を有していたこと、すなわち「間接管轄」が必要となる。最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決は、不法行為に基づく損害賠償及び差止めを命じた米国判決について、間接管轄の判断方法を示した。本記事では、直接管轄との違い、損害賠償請求と差止請求の区別及び主張立証の組み立て方を整理する。

第1 外国判決を日本で承認・執行するための要件

民事訴訟法118条は、外国裁判所の確定判決について、次の要件を全て満たす場合にその効力を認める。

① 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること
② 敗訴被告が訴訟開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けたこと、又は送達を受けなくても応訴したこと
③ 判決の内容及び訴訟手続が日本の公の秩序又は善良の風俗に反しないこと
④ 相互の保証があること

外国判決に基づいて日本で強制執行する場合は、これらの要件に加えて、民事執行法24条に基づく執行判決を得る必要がある。外国判決の内容を実質的に再審理する手続ではないが、118条各号の要件は日本の裁判所が審査する。

送達及び手続的公序については、外国欠席判決の承認と手続的公序―判決書不送達・控訴機会・ウェブ公開(AI作成)で説明している。

第2 間接管轄とは何か
1 直接管轄との違い

日本の裁判所に新たな訴えを提起できるかという問題は「直接管轄」である。これに対し、既に外国裁判所がした判決を日本で承認する場面で、その外国裁判所に裁判権があったと認められるかという問題が「間接管轄」である。

両者は参照する国際裁判管轄規定に共通部分があるが、問題となる時点と目的が異なる。直接管轄についての条文を機械的に当てはめるだけでなく、その外国判決を日本で承認することが適当かという観点を含めて検討する必要がある。

2 最高裁が示した判断枠組み

最高裁平成26年4月24日判決は、人事に関する訴え以外の訴えについて、間接管轄の有無は、基本的に日本の民事訴訟法が定める国際裁判管轄の規定に準拠しつつ、個々の事案の具体的事情に即し、外国判決を日本で承認することが適当かという観点から、条理に照らして判断するとした。

したがって、外国判決の国名、被告の住所又は契約書の管轄条項の一つだけで結論を出すのではなく、請求ごとに管轄原因と具体的事実を対応させる必要がある。

第3 最高裁平成26年4月24日判決
1 事案の概要

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平成9年度最高裁民事破棄判決の実情―72件から学ぶ理由不備・経験則違反・主文設計の実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の位置付け第2 平成9年の破棄判決の概況第3 72件から学ぶ5つの実務原則1 「理由不備・理由齟齬」の二つの用法を分ける2 経験則違反は推論の飛躍を特定する3 請求・抗弁・主文の対応表を作る4 形式要件の後に制度目的と具体的事情を見る5 古い判例は規範と旧制度を分離する第4 裁判所公式本文で確認した3判決第5 上告・判決点検での使い方第6 一次資料・判例秘書・二次資料の確認状態第7 出典・関連記事

平成9年中の最高裁民事破棄判決72件を,原審がどのような理由で破棄されたかという観点から整理する。個々の結論を並べるのではなく,理由不備・理由齟齬の読み分け,経験則違反,請求・抗弁と主文の対応及び旧法から現行法への接続という,現在の事件処理に再利用できる実務原則を抽出する。

第1 本記事の対象と資料の位置付け

入口とした資料は,野山宏「平成9年度最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)」(判例時報1636号,1638号,1639号,1641号,1642号及び1644号)の全6回・合計109頁である。論文名は「年度」であるが,対象は平成9年1月から12月までに言い渡された民事・行政・労働事件である。

同論文は,72件の所在,原審判断及び破棄理由を把握するための有力な二次資料である。しかし,判決そのものではない。本記事では,論文から把握した年度全体の件数・類型と,裁判所ウェブサイトの判決情報・本文で確認した3事件とを区別する。

72件はすべて旧民事訴訟法が適用された事件である。また,旧破産法その他の改正前法令を前提とする事件も含まれる。判決から思考方法を学ぶことと,当時の条文番号又は制度を現行事件へ直接適用することは別である。

第2 平成9年の破棄判決の概況

年次論文の集計によれば,平成9年中に判決で終結した民事事件は2973件,破棄判決は72件であり,破棄率は2.42%であった。72件の内訳は破棄差戻し35件,破棄自判37件である。職権破棄は5件,上告理由に応答した破棄は67件であり,民集登載28件,裁判集民事登載17件,いずれにも登載されなかったもの27件とされる。

この2.42%は,個別事件の「最高裁で勝てる確率」ではない。分母には事件類型,主張された上告理由及び審理状況の異なる事件が含まれる。破棄率は年度全体の概況であり,具体的事件では原判決の法令解釈,手続,事実認定の推論及び主文を個別に監査する必要がある。

第3 72件から学ぶ5つの実務原則
1 「理由不備・理由齟齬」の二つの用法を分ける

最高裁判決又は年次論文で用いられる「理由不備」「理由齟齬」は,常に旧民事訴訟法395条6号の絶対的上告理由を意味するわけではない。実体法の解釈適用を誤った結果,原判決の理由付けが不十分又は整合しないという慣用的な表現もある。

年次論文が同号の絶対的上告理由として整理したものは,第6事件から第8事件までの3件である。残る事件の判決文に「理由不備」等の文言があっても,その一語だけで絶対的上告理由と評価してはならない。①主文を導く理由が欠けるのか,②理由同士又は理由と主文が論理的に両立しないのか,③単なる法令解釈・事実認定の誤りに伴う表現なのかを分ける必要がある。

2 経験則違反は推論の飛躍を特定する

医療,労災,転落事故及び契約書の信用性等を扱う事件では,別の証拠評価も可能であると述べるだけでは足りない。原審の推論を,基礎事実,中間推認及び最終認定に分け,どの矢印が経験則又は専門知見に反するのかを示す。

専門家意見については,結論又は肩書だけでなく,前提事実,使用資料,競合原因,医学的・技術的な推論過程及び反対資料への応答を確認する。記録に検査所見がない場合も,検査・問診が実施されなかった結果である可能性を点検し,記録の不存在を直ちに症状の不存在と同一視しない。

3 請求・抗弁・主文の対応表を作る

平成9年の破棄事件には,複数請求の一部について理由を示さなかったもの,支払済みと認定しながら請求を認容したもの,価額弁償の抗弁と主文の対応が問題となったもの,相殺に供する自働債権の特定又は充当順序を欠いたものが含まれる。

最終準備書面と判決点検では,請求ごとの訴訟物,請求原因,抗弁,再抗弁,証拠,認定,金額計算及び主文を一表にする。相殺,既払金,価額弁償,遅延損害金,一部認容・棄却及び仮執行宣言まで照合することにより,実体判断が妥当でも生じ得る主文設計の不整合を発見しやすくなる。

4 形式要件の後に制度目的と具体的事情を見る

借地権の対抗力,保険約款,ゴルフ会員権及び契約解釈等では,登記・登録又は契約文言の形式確認が出発点となる。しかし,そこで検討を止めず,当事者の認識,取引経緯,権利者側の必要性,相手方の信頼及び制度目的を具体的事実に落とす必要がある。

形式要件を軽視するのではなく,形式要件を確認した後に,権利濫用,信義則,契約解釈その他の規範が働く具体的事情を主張立証するという順序が重要である。

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薬剤性疾患の原因薬剤を一つに特定できない場合の医療過誤訴訟―最高裁平成9年2月25日判決と因果関係・経験則違反(AI作成)

目次

第1 最高裁平成9年2月25日判決の概要第2 原因薬剤を一つに特定できない場合の因果関係第3 発症時期と記録欠落の評価第4 検査・治療を受けられるようにする配慮義務第5 主張立証を組み立てる7項目第6 患者側で確認する資料第7 医療側で確認する資料第8 経験則違反として上訴理由にする場合第9 資料の確認状態第10 出典・関連記事

薬剤性疾患では,複数の薬剤が同じ副作用を起こし得るため,原因薬剤を一つに特定できないことがある。最高裁平成9年2月25日判決は,鑑定の結論だけから唯一の起因剤と発症日を限定した原審判断を経験則違反とし,複数薬剤,検査所見の欠落及び診療経過を総合して因果関係と医師の義務を検討する必要を示した。

第1 最高裁平成9年2月25日判決の概要

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成7年(オ)第1205号,民集51巻2号502頁)は,顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤を長期間投与された患者について,薬剤と同症の因果関係,発症時期及び開業医の診療上の義務を扱った。

原審は,鑑定に依拠してネオマイゾンを唯一単独の起因剤とし,発症日を4月13日から14日朝と認定した。最高裁は,鑑定の内容,医学文献,投薬経過,症状及び診療経過を総合すると,そのように限定した認定には経験則違反があるとして原判決を破棄し,差し戻した。

第2 原因薬剤を一つに特定できない場合の因果関係

鑑定は,複数の薬剤のいずれも起因剤と断定するには難点があり,ネオマイゾンが最も疑われるが確証はないとした。また,複数薬剤の相互作用による発症はあり得るが,当該患者について医学的に具体的に証明されていないと述べるにとどまった。

最高裁は,この鑑定が複数薬剤の相互作用による発症の蓋然性を否定するものではなく,医学文献にも,病因論には未完成な部分が多く,個々の症例で起因剤を決定することは困難なことが多いとの記載があることを重視した。鑑定だけから一薬剤を唯一単独の原因とすることはできないとした。

この判決は,候補薬剤を列挙すれば因果関係の立証が不要になるというものではない。民事訴訟上は,投薬全体と発症との関係について,全証拠を総合し,通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性を示す必要がある。他方,自然科学的に一つの薬剤まで確定できないことを,直ちに因果関係不存在と同一視してはならない。

第3 発症時期と記録欠落の評価

原審鑑定は,4月14日より前の病歴に同症発症を確認できる検査所見・症候がないこと等から,発症日を4月13日から14日朝と推測した。しかし,最高裁は,それ以前に検査所見等がないのは,医師が同症特有の症状に注意した問診・診察をしなかった結果にすぎない可能性を指摘した。

診療録に記載がない場合は,症状が存在しなかったのか,質問・検査をしなかったのか,実施したが記録しなかったのかを分ける必要がある。相手方の検査・観察義務違反が情報不足を生じさせた可能性があるのに,その不足を当然に患者側の立証不足として扱うと,推論の前提を誤ることがある。

時系列表には,薬剤ごとの開始・中止・増減,発疹,発熱,咽頭痛その他の症状,白血球・顆粒球等の検査,受診時の問診・診察,紹介又は転送の検討及び病状悪化を日単位で記載する。

第4 検査・治療を受けられるようにする配慮義務

最高裁は,顆粒球減少症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者に,薬疹の可能性のある発疹を認めた場合,開業医は,自院又は他の診療機関で必要な検査・治療を速やかに受けられるよう相応の配慮をすべき義務があるとした。

これは,すべての発疹について常に高次医療機関へ転送すべき義務を一般化した判決ではない。投薬内容,副作用の重大性,症状,検査可能性,自院の設備・専門性,紹介先へのアクセス及び時間的緊急性を具体的に評価する必要がある。

義務違反と結果との因果関係も別に検討する。検査又は紹介がされていれば,いつ診断でき,どの薬剤を中止し,どの治療を開始でき,死亡又は重篤化をどの程度回避できたかを反実仮想として示す。

第5 主張立証を組み立てる7項目

投薬の特定:薬剤名,用量,開始・中止日,処方医及び併用薬を確定する。
既知の副作用:診療時点の添付文書,文献及びガイドラインを確認する。
症状の時系列:発疹,発熱,感染徴候及び血液検査値を日付順に並べる。
専門意見の前提:鑑定・意見書が前提とする投薬日,症状及び検査値が記録と一致するかを確認する。
競合原因:基礎疾患,感染症,他薬剤,相互作用その他の代替原因を検討する。

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平成8年度最高裁民事破棄判決等の実情―47件から学ぶ原判決の誤りと上告・差戻審実務(AI作成)

目次

第1 対象資料と確認範囲

1 年次解説の位置付け
2 数字を読む際の注意

第2 47件から見える破棄の三つの型

1 手続の土台が崩れている型
2 証拠から結論までの推論が飛躍する型
3 実体法の規範又は当てはめを誤る型

第3 判例秘書で本文を確認した代表7判決

1 医療過誤と医薬品添付文書
2 非疾患の身体的特徴と既往疾患
3 共同相続人による建物の無償使用
4 公の施設の利用拒否
5 税理士会の政治献金
6 誤振込と預金債権

第4 上告・原判決監査で用いる三つの作業表

1 請求・当事者・手続段階表
2 原審判断の推論表

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平成22年度最高裁民事破棄判決等の実情―67判決・3決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応(AI作成)

目次

第1 対象資料と読み方

1 対象は平成22年中の最高裁民事事件である
2 年次論文と一次資料を区別する

第2 平成22年の件数と破棄の内訳

1 新受・既済件数
2 破棄判決67件・破棄決定3件

第3 原判決を六段階で監査する
第4 手続入口と証拠評価の重要判例

1 固有必要的共同訴訟と不利益変更
2 説明書面の存在と契約前の交付は別である

第5 権利・価値を主体別・時間軸で分解する

1 所有権留保と別除権
2 相続時の価値と取得後の収益

第6 許可抗告では本案前の資格・通知・提出義務を確認する
第7 相談・上訴・差戻し後のチェックリスト

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平成12年度最高裁民事破棄判決等の実情―65件から学ぶ上告審・証拠評価・差戻しの実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の位置付け第2 平成12年の破棄判決・破棄決定の概況第3 65件から学ぶ7つの実務原則1 本案の前に手続の入口を点検する2 主位・予備的構成を既判力から逆算する3 供述の一致と独立した裏付けを区別する4 不作為の因果関係を時間軸で検討する5 契約の名称より解除後の経済的効果を見る6 責任の成否と金額調整を分ける7 破棄差戻しを最終勝訴と表現しない第4 一次資料で確認した8事件第5 上告審実務での使い方第6 現在の事件へ引用する際の注意第7 一次資料・二次資料・判例秘書の確認状態第8 出典・関連記事

平成12年中の最高裁民事破棄判決53件と破棄決定12件を,原審がどこで判断を誤ったのかという観点から整理する。結論を年代順に並べるのではなく,手続要件,主張整理,供述評価,不作為の因果関係,契約の実質,損害調整及び差戻審という再利用可能な実務原則を抽出する。

第1 本記事の対象と資料の位置付け

入口とした資料は,高部眞規子「平成12年度最高裁民事破棄判決等の実情(1)~(4・完)」(判例時報1744号,1745号,1747号及び1748号)の全4回・合計96頁である。同論文は破棄事件を網羅的に整理した有用な二次資料であるが,判決・決定そのものではなく,意見にわたる部分は執筆者の個人的見解とされている。

そこで,本記事では,同論文から把握した件数・類型と,裁判所ウェブサイトの公式PDFで本文まで照合した8事件とを区別する。残る事件を含む全65件を個別に一次資料照合したものではない。判例秘書もログイン後の検索・収録確認・本文照合を実施できていない。

「平成12年度」という論文名であるが,対象は会計年度ではなく平成12年中の事件である。また,旧民事訴訟法,旧破産法,改正前の親子法その他の当時法を前提とする事件が含まれる。判決から思考方法を学ぶことと,現在の事件へ当時の条文・結論を直接適用することは別である。

第2 平成12年の破棄判決・破棄決定の概況

論文の集計によれば,破棄判決は53件であり,旧法事件33件,新法事件20件であった。新法事件20件の内訳は,上告事件6件,上告受理事件14件である。差戻し17件,自判36件,職権破棄14件,論旨に基づく破棄42件であり,一部重複がある。

判決・決定により終局した事件から上告と上告受理申立ての併行申立てを調整した2896件に対する破棄判決53件の割合は,論文上1.83%である。しかし,これは個別事件の「上告成功率」ではない。分母には事件類型や理由の適法性が異なる事件が含まれ,申立て件数全体とも一致しないからである。

許可抗告の終局51件のうち破棄決定は12件で,論文上23.5%である。この数字も,一般の抗告申立て全体の認容率ではなく,許可を経て最高裁で終局した選別後の事件の内訳である。差戻しは7件,自判は5件であった。

第3 65件から学ぶ7つの実務原則
1 本案の前に手続の入口を点検する

平成12年の破棄事件には,訴えの利益,当事者適格,前置手続,請求の特定,上告理由と上告受理申立て理由の選別など,訴訟の入口に関する誤りが含まれる。職権調査事項は受任時に一度確認して終わりではなく,事実審口頭弁論終結時から判決時までの事情変化も含めて再点検する必要がある。

上告と上告受理申立てについても,憲法違反・絶対的上告理由,判例相反その他の法令解釈上の重要事項,適法な上告事件等における職権破棄の可能性を区別する。単なる法令違反をそのまま上告理由と表現してはならない。

2 主位・予備的構成を既判力から逆算する

相手方がある事実を述べていても,それだけで自らの請求原因又は予備的主張として提出したことにはならない。裁判所の釈明や職権判断に期待せず,請求と法的根拠,主位・予備的構成,各構成の主要事実,相手方の認否・抗弁,判断漏れが生じた場合の既判力上の不利益を一枚の表にする。

3 供述の一致と独立した裏付けを区別する

最高裁平成12年2月7日判決(平成7年(オ)第793号。いわゆる草加事件)は,少年らの供述について,秘密の暴露の有無,中核部分の変遷,誘導の可能性,客観証拠との不整合及び存在するはずの痕跡の不存在を検討した。

複数の供述が詳細に一致していても,情報共有や誘導により同じ内容が生成された可能性があれば,一致それ自体を独立した裏付けとは扱えない。供述源,取得状況,変遷,捜査側から知り得ない事実,独立した物証,客観証拠との矛盾及び欠けているはずのない証拠を分けて評価する。

4 不作為の因果関係を時間軸で検討する

医療,安全配慮義務及び事故回避の事案では,「何が起きたか」だけでなく,「義務どおりの行為がされていれば何が起きなかったか」という反実仮想を時間軸で示す。義務発生時,可能だった措置,措置に必要な時間,悪化時,結果回避又は症状軽減の蓋然性及び代替原因を並べる。

年次論文に掲載された最高裁平成12年9月7日判決(平成11年(受)第505号)は,今回,裁判所公式本文又は判例秘書で独立照合できていない。医療過誤事件に引用する場合は,認証データベース又は判例集で判決全文を確認する必要がある。

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平成14年度最高裁民事破棄判決等の実情―95件から学ぶ訴訟入口・経験則・期間・救済の誤り(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の読み方第2 平成14年度の件数と特徴第3 破棄理由から学べる6つの実務類型1 本案の前に訴訟の入口を確認する2 請求・対象行為・相手方・期間を分ける3 経験則違反は推論の矢印を攻撃する4 外部情報の肩書だけで相当性を認めない5 名称より契約・担保の経済的実質を見る6 救済方法と判決時点を取り違えない第4 一次資料で確認した9件第5 現行実務への橋渡し第6 代理人が最初に作る検討表第7 一次資料・二次資料・判例秘書の確認状態第8 出典・関連記事

平成14年度の最高裁民事破棄判決92件・破棄決定3件を,原審が何を取り違えたために破棄されたのかという観点から整理する。結論を年代順に並べるのではなく,訴訟の入口,対象行為と期間,証拠から結論への推論,契約・担保の実質及び救済方法を分け,後の事件処理に再利用できる形にすることを目的とする。

第1 本記事の対象と資料の読み方

入口とした資料は,判例時報に全6回掲載された「平成14年度最高裁民事破棄判決等の実情」合計136頁である。この論文は最高裁判所調査官が平成14年度の破棄事件を整理した二次資料であり,判決そのものではない。

そこで,本記事では,論文全体から抽出した件数・類型と,裁判所ウェブサイトの判決本文・裁判要旨まで照合した9件とを区別する。9件以外の事件については,事件番号,全文,少数意見,射程及び後続判例を個別に確認していない。判例秘書についても今回の調査ではログイン後の本文照合を実施できていない。

平成14年判決には,旧破産法,旧民法724条,法例,旧郵便法,改正前の地方自治法その他の当時法を前提とするものが含まれる。判決から抽象的な考え方を学ぶことと,現在の事件に当時の条文・結論を直接適用することとは別である。

第2 平成14年度の件数と特徴

論文の集計によれば,民事破棄判決は92件,破棄決定は3件である。旧民事訴訟法事件24件,新民事訴訟法事件68件,差戻し46件,自判50件であり,4件は一部差戻し・一部自判のため重複する。民集登載24件,裁判集のみ登載25件,いずれにも登載されないもの43件であった。

終局人員3264件に対する破棄判決率は2.82%であり,同論文によれば当時の過去10年で件数・率とも最大であった。もっとも,この数値は論文の集計であって,本記事が最高裁の公刊判例一覧から独自に全件を再集計したものではない。

重要なのは,最高裁で新しい法理が示された事件だけを見るのではなく,原審が当事者,請求,対象行為,期間,証拠評価又は救済を混同したために破棄された事件を,日常の訴訟準備へ戻すことである。

第3 破棄理由から学べる6つの実務類型
1 本案の前に訴訟の入口を確認する

平成14年度には,法律上の争訟,当事者適格,原告適格,訴えの利益,上訴の利益,必要的共同訴訟,重複訴訟,宗教上の教義判断など,訴訟の入口に関する破棄が目立つ。

最高裁平成14年7月9日判決(平成10年(行ツ)第239号)は,地方公共団体が行政上の義務の履行を求めた宝塚市パチンコ条例事件である。行政上の義務が存在することと,行政主体が裁判所にその履行を求める訴訟を提起できることは別の問題である。

実務では,請求原因を深掘りする前に,①具体的な権利義務又は法律関係か,②原告・被告は誰か,③訴えの利益が判決時まで残るか,④先行訴訟・共同訴訟・参加効の問題がないか,⑤裁判所の判断に教義その他の法律外の判断が不可欠でないかを確認する。

2 請求・対象行為・相手方・期間を分ける

住民監査請求・住民訴訟では,契約締結,支出負担行為,支出命令,支出及び損害賠償請求権の不行使が,それぞれ別の財務会計行為又は怠る事実となり得る。どの行為を対象とするかにより,当事者,期間の起算点及び必要証拠が変わる。

最高裁平成14年7月2日判決(平成10年(行ヒ)第51号)は,談合業者に対する不法行為債権の行使を怠る事実について,特定の財務会計行為の違法を判断しなければ監査できない関係にない場合,地方自治法242条2項の期間制限は適用されないとした。

「怠る事実」と書けば常に期間制限がなくなるわけではない。訴状・監査請求書を作成する前に,請求,対象行為又は怠る事実,被告・相手方,起算点・期間及び必要証拠を一枚の表にする。

3 経験則違反は推論の矢印を攻撃する

事実認定を争う場合,「証拠の評価がおかしい」と述べるだけでは足りない。原審の推論を「基礎事実→中間推認→最終認定」に分け,各矢印について経験則,専門知見,反証可能性及び見落とされた証拠を示す。

最高裁平成14年1月29日判決(平成10年(オ)第780号)は,新聞社間の記事提供関係や同一名称の新聞を知っていたことだけから,被害者が別紙への記事掲載を現実に認識したとするのは経験則に反するとした。消滅時効の起算点では,情報を知り得た可能性と,損害・加害行為を現実に知ったことを区別しなければならない。

4 外部情報の肩書だけで相当性を認めない

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平成13年度最高裁民事破棄判決等の実情―70件から学ぶ原判決の誤りと上告・抗告実務(AI作成)

目次第1 本記事の結論と資料状態第2 平成13年度の件数をどう読むか1 新受・既済・破棄件数2 「上告成功率」と読んではならない理由3 自判と差戻し第3 原判決に反復して現れる十の誤り第4 公式全文を確認した代表8判決第5 上告・抗告実務への落とし込み1 入口から確認する2 主張・証拠・推論を対応させる3 自判か差戻しかを先に設計する第6 旧法判例を現行事件に使う翻訳手順第7 関連記事第8 出典・確認範囲・限界
第1 本記事の結論と資料状態

平成13年度の最高裁民事破棄判決等は,破棄判決60件,破棄決定10件である。重要なのは件数自体より,原判決の誤りを,①手続入口,②法的根拠,③判断枠組み,④主要事実,⑤証拠評価,⑥理由・主文,⑦自判・差戻しという順序で監査できる点にある。

本記事の年度全体の整理は,矢尾渉「最高裁民事破棄判決等の実情―平成13年度」(判例時報1783号・1784号・1786号・1787号・1789号,5回連載,合計109頁)に基づく。これは最高裁判決そのものではなく,事件を発見し分類するための二次資料である。解説部分には筆者の見解が含まれるため,判旨と区別する。

代表8事件については,裁判所ウェブサイトの公式全文PDFを通読した。これらは【裁判所公式全文確認済み】である。他方,平成12年(受)第1956号事件等,年次論文本文で把握したが裁判所公式全文を確認できていない事件は【判例時報論文本文確認済み/一次資料未確認】として扱う。判例秘書は照会しておらず,照会0件,ヒット不明,本文確認0件である。

第2 平成13年度の件数をどう読むか
1 新受・既済・破棄件数

新受事件は,上告事件2293件,上告受理事件2314件の合計4607件であり,並行申立てを調整した年次論文上の新受件数は3327件である。既済事件は,旧法上告82件,新法上告2183件,上告受理2089件の合計4354件であり,並行申立てを一件として調整すると3028件である。

判決又は決定による終局処理の調整後件数は2945件で,破棄判決は60件,その割合は約2・04%である。破棄決定は10件であり,許可抗告既済53件に対する割合は約18・9%である。

破棄判決60件の結果は,差戻し24件,自判39件で,双方に該当する事件が3件ある。旧法事件24件,新法事件36件であり,新法事件は上告8件,上告受理28件である。職権破棄9件,論旨に基づく破棄53件で,重複が2件ある。民集登載18件,集民のみ14件,いずれにも登載されないものが28件である。

2 「上告成功率」と読んではならない理由

約2・04%は,平成13年度に判決又は決定で終局処理された事件を分母とし,破棄判決だけを分子とした年度集計比率である。依頼者の事件が破棄される確率を示すものではない。分母には棄却・却下・不受理等が含まれ,上告と上告受理申立ての並行事件も調整されている。

破棄決定10件の約18・9%は,許可抗告既済53件を分母とする別の比率である。破棄判決60件と破棄決定10件を足し,2945件で割って一つの「成功率」にすることは,手続と分母を混同する。

3 自判と差戻し

法律判断を訂正した後,原審が適法に確定した事実だけで結論を出せるときは自判が可能である。正しい判断枠組みによる事実認定,抗弁・再抗弁の審理又は損害額の算定が残るときは差戻しとなる。破棄を求める書面では,違法の指摘だけでなく,訂正後に残る争点を示す必要がある。

第3 原判決に反復して現れる十の誤り

①手続入口を本案より後に回す誤り:訴えの利益,当事者適格,既判力,不服申立ての利益及び抗告権者を,本案の正誤とは別に確認する。

②当事者が主張していない合意を判決の基礎にする誤り:請求原因,抗弁及び再抗弁の主要事実を準備書面の引用箇所まで対応させる。平成12年(受)第1956号事件はこの論点の探索材料であるが,今回の資料状態は【一次資料未確認】である。

③推論の鎖を示さず経験則を用いる誤り:認定事実,当時可能だった検査・行為,予見可能性,実際の措置及び結果を時系列でつなぐ。典型所見が一つ欠けることだけで結論を出さない。

④信義則を自由な割合調整に使う誤り:周知,情報格差,管理可能性,異常利用の検知時点,回収可能性及び最終負担者を先例と比較する。

⑤対称的な類推を当然視する誤り:不足の場合の法定責任があることから,超過の場合にも反対方向の請求権があるとは限らない。制度目的と不利益を受ける者を確認する。

⑥特別の期間と一般の消滅時効を二者択一にする誤り:通知・除斥期間,請求権の時効,形成権の行使期間,起算点,完成猶予・更新及び経過措置を別々に検討する。

⑦担保取引の四層を一つに潰す誤り:契約・担保権の成立と範囲,目的債権の特定,第三者対抗要件,取立て・実行・倒産時の処遇を分ける。

⑧未確立の選択肢を説明対象から外す誤り:患者の強い関心,相当数の実施例,適応可能性,医師の知識及び紹介可能性を具体的に確認する。

⑨事実・アイデアと創作的表現を混同する誤り:共通部分を,事実・アイデア,ありふれた表現,創作的表現に分解し,依拠性と本質的特徴の直接感得可能性を別に論証する。

⑩法定の方式を実質的合意で代替する誤り:合意の存在,契約上の効力及び法定の規範的効力を区別し,書面・署名又は記名押印・当事者権限を証拠化する。

第4 公式全文を確認した代表8判決
判決主題実務上の学び
最三小判平成13年3月13日
平成12年(受)第192号労働協約の方式実質的合意と労働組合法14条の規範的効力を分ける。
最三小判平成13年3月27日
平成7年(オ)第1659号ダイヤルQ2無断利用信義則上の請求制限は,情報格差,管理可能性及び異常利用の検知時点等の事実に結び付ける。

(続きを読む...)平成13年度最高裁民事破棄判決等の実情―70件から学ぶ原判決の誤りと上告・抗告実務(AI作成)

平成16年度最高裁民事破棄判決等の実情―88件の破棄判決・9件の破棄決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応(AI作成)

第1 本記事の対象と資料上の限界
第2 平成16年の破棄件数と数字の読み方
第3 原判決を監査する五つの順序
第4 破棄判決から得られる実務上の学び
第5 四つの具体例
第6 破棄差戻し後に直ちに行うこと
第7 事件記録へ適用する確認項目
第8 関連記事
第9 出典・資料確認状況

第1 本記事の対象と資料上の限界

本記事は,松並重雄・阪本勝「最高裁民事破棄判決等の実情―平成一六年度」全5回を通読し,平成16年中に最高裁判所でされた民事事件(行政事件及び労働事件を含む。)の破棄判決・破棄決定から,原判決の監査及び破棄差戻し後の訴訟活動に使える視点を整理するものである。
表題の「平成一六年度」は論文名に従ったものであり,対象は会計年度ではなく平成16年1月から12月までである。

同論文は,最高裁判所調査官が破棄事件を分野別・破棄理由別に説明した有用な二次資料である。しかし,論文の要約は個々の判決・決定本文そのものではない。事件番号,主文,判断の前提事実,原審の認定,破棄理由及び差戻し後の残存争点は,裁判所公表の全文又は判例集等の一次資料で確認する必要がある。

本記事では,最高裁判所ウェブサイトで本文を確認できた事件と,判例時報の年次論文だけを確認した事件を区別して記載する。判例秘書については,本調査時点で照会0件・本文確認0件であり,判例秘書による裏付けがあるという扱いはしていない。

第2 平成16年の破棄件数と数字の読み方

年次論文によれば,平成16年の破棄判決は,並行申立て事件及び複数当事者からの上訴を併合した事件を1件と換算すると88件である。複数当事者の上訴を上訴ごとに数えると98件となり,上告事件と上告受理申立て事件を調整した既済3598件に対する割合は2.7%である。

88件という数字と98件という数字は,分母や計数単位が異なる矛盾ではなく,同一事件の数え方を変えたものである。2.7%は個々の上告代理人の成功率でも,上告・上告受理申立て全体の一般的認容率でもない。どの事件を併合し,どの申立てを1件に換算したかを確認せずに,単に「上告が通る確率」と表示すべきではない。

破棄判決88件の結果には,差戻し(一部差戻しを含む。)49件,自判(一部自判を含む。)44件及び訴訟終了宣言2件が含まれる。1件の判決に差戻し部分と自判部分が併存し得るため,単純合計は88件と一致しない。

破棄決定は9件である。許可抗告事件の既済44件のうち破棄決定は8件(18.2%)であり,これとは別に特別抗告事件の破棄決定が2件あるが,そのうち1件は許可抗告と一通の決定書で処理されている。18.2%も,許可抗告申立て全体の認容率ではなく,年次論文の計数方法による既済事件の内訳である。

第3 原判決を監査する五つの順序

破棄理由を個別分野の知識だけで読むと,別事件への転用が難しい。実務では,次の五段階で原判決と記録を監査すると,再利用しやすい。

①手続の入口
管轄,当事者適格,訴えの利益,請求の特定,既判力,重複起訴,必要的併合,送達及び不服申立ての適法性を先に確認する。実体判断が精緻でも,入口の手続要件を誤れば判決全体が維持されないことがある。

(続きを読む...)平成16年度最高裁民事破棄判決等の実情―88件の破棄判決・9件の破棄決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応(AI作成)

外国国家を被告とする民事訴訟―国家免除,送達,欠席判決及び強制執行(AI作成)

目次

第1 外国国家免除の基本第2 平成14年判決と平成18年判決第3 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律第4 行為の目的より性質を見る第5 送達と欠席判決の特則第6 仮差押え・仮処分・強制執行第7 在日米軍関係の請求との接続第8 受任時の確認事項第9 資料の確認状態第10 出典・関連記事

外国国家を被告とする民事訴訟では,日本の裁判所に国際裁判管轄があるかという問題に加えて,外国国家が裁判権免除を受けるか,どの方法で送達するか,欠席判決を言い渡せるか,勝訴判決をどの財産に執行できるかを別々に検討する必要がある。

第1 外国国家免除の基本

国家免除とは,一国の裁判所が外国国家に対して裁判権を行使することを一定の場合に差し控える国際法上・国内法上の制度である。現在の日本法は,外国国家のすべての行為を免除する絶対免除主義ではなく,主権的行為と私法的・商業的行為を区別する制限免除主義を採用する。

裁判権免除と執行免除は別である。訴えを審理できても,外国国家の財産に当然に仮差押え又は強制執行ができるわけではない。

第2 平成14年判決と平成18年判決

最高裁平成14年4月12日第二小法廷判決は,米国の主権的行為について,慣習国際法上,日本の民事裁判権から免除されるとした。この判決は,在日米軍の行為が問題となった事案で,日米地位協定18条自体が米国の裁判権免除を定めたものではないことも示した。

最高裁平成18年7月21日第二小法廷判決は,従来の絶対免除主義を採用しないことを明確にし,外国国家の私法的又は業務管理的行為について,裁判権を行使することが外国国家の主権を侵害するおそれがあるなどの特段の事情がない限り,免除を認めないとした。

同判決は,外国国家が書面を日本の裁判所に提出して裁判権に服する意思を明確に表明した場合の扱いも示す。訴訟行為の内容と権限を確認し,単なる抗議又は免除主張と,明示の同意を混同しないことが必要である。

第3 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律

平成21年法律第24号「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」は,平成22年4月1日に施行された。同法は,外国等が原則として日本の民事裁判権から免除されることを出発点としつつ,明示の同意,商業的取引,労働契約,人の死傷・有体物の滅失損傷,不動産,知的財産権等について免除されない場合を定める。

平成18年判決は制限免除主義への転換を示す重要判例であるが,同法施行後の事件では,同法の要件,定義及び経過措置を先に確認する。判例の文言だけで現行事件を処理してはならない。

第4 行為の目的より性質を見る

外国国家が公共目的のために契約したというだけで,直ちに主権的行為になるわけではない。売買,請負,賃貸借,資金調達その他の取引について,私人も行い得る性質の行為か,国家に固有の権限行使かを検討する。

契約書では,当事者表示,署名権限,準拠法,裁判管轄,仲裁,免除放棄及び執行対象財産に関する条項を確認する。ただし,裁判権免除への同意があることから,執行免除まで当然に放棄されたと推論してはならない。

第5 送達と欠席判決の特則

外国国家に対する訴状等の送達は,通常の国外送達と同じ感覚で進めることができない。条約,外交上の経路,外国国家が指定した方法及び同法の特則を確認し,受領権限のない機関又は国内事務所への交付だけで有効な送達と扱わない。

外国国家が期日に出頭しない場合も,直ちに通常の欠席判決を求めるのではなく,送達方法,送達完了の証明,法定の経過期間,裁判権免除がないこと及び請求原因の立証を確認する。手続の瑕疵は,判決承認・執行の段階でも問題となり得る。

第6 仮差押え・仮処分・強制執行

外国国家の財産に対する保全処分及び強制執行には,裁判権免除とは別の厳格な要件がある。外国国家が明示的に同意した財産又は請求の満足に充てるために指定・留保した財産か,商業的目的に使用され,又は使用されることが予定される財産かを具体的に確認する。

大使館等の外交目的の財産,軍事的性質の財産,中央銀行の財産その他の公的目的財産には特別の保護が問題となる。名義だけでなく,財産の所在,管理主体,実際の用途,資金の入出金及び目的を裏付ける資料が必要である。

第7 在日米軍関係の請求との接続

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平成18年度最高裁民事破棄判決等の実情―110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の読み方第2 破棄判決・破棄決定の件数第3 平成18年の破棄理由から学べる7つの型1 請求・抗弁・判断対象の落ち2 証明責任の分配を誤る型3 経験則・採証法則に反する型4 審理・釈明が足りない型5 法的評価の前提を誤る型6 破棄差戻しで未確定事項が残る型7 旧法事件を現行実務に直結させない第4 一次資料で確認した代表例第5 代理人が作る4つの対応表第6 差戻しと自判を読み分ける第7 上告受理申立理由の組み立て第8 一次資料・二次資料・判例秘書の確認状態第9 出典・関連記事

平成18年中に最高裁判所が言い渡した民事事件(行政事件及び労働事件を含む。)の破棄判決107件と破棄決定3件を,原審が破棄された理由と代理人実務の観点から整理する。個別判決の結論を並べるのではなく,主張整理,証拠評価,審理運営及び差戻審準備に再利用できる形にすることを目的とする。

第1 本記事の対象と資料の読み方

入口とした資料は,宮坂昌利・谷口豊「最高裁民事破棄判決等の実情―平成18年度―」判例時報1966号,1967号,1969号及び1970号の全4回,合計89頁である。論文名は「年度」であるが,対象は会計年度ではなく,平成18年1月から12月までに言い渡された事件である。

この論文は,事件の所在,原審の判断,破棄理由及び差戻後の審理事項を一覧的に把握するための有力な二次資料である。しかし,論文自体は判決・決定ではない。個別事件の正確な判示,事実関係,射程及び裁判官意見を引用する場合は,裁判所公表の判決・決定本文その他の一次資料で確認する必要がある。

第2 破棄判決・破棄決定の件数

上記論文が扱うのは,破棄判決107件と破棄決定3件の合計110件である。破棄判決には,同一論点について同日に言い渡された多数の関連事件が含まれる。したがって,107という数字を独立した法的論点の数又は一般的な「最高裁で勝てる確率」と読むことはできない。

また,破棄差戻しと破棄自判では,最高裁判決後に残る作業が異なる。件数だけでなく,①最高裁が確定した法理,②原審判断のどこが違法とされたか,③差戻審でなお確定すべき事実・抗弁・損害を区分して読む必要がある。

第3 平成18年の破棄理由から学べる7つの型
1 請求・抗弁・判断対象の落ち

当事者が提出した請求原因,予備的請求,抗弁又は再抗弁の一部について,原審が判断しないまま結論を出した事件がある。準備書面ごとの記載を追うだけでなく,法律要件ごとに「主張の所在・相手方の認否・証拠・判断の有無」を一表にすることが,判断遺脱と審理漏れの発見に有効である。

2 証明責任の分配を誤る型

車両保険の水没・損傷事故では,約款上の「偶然な事故」に該当することを主張する保険金請求者に,事故が被保険者の意思に基づかないことまで立証させた原審判断が破棄された。他方,保険金請求者は,約款所定の保険事故の外形的事実及び損害の発生を立証する必要がある。立証責任の所在と,現実に提出すべき証拠の範囲を混同してはならない。

3 経験則・採証法則に反する型

医療訴訟では,専門家の意見書又は鑑定が存在することだけで結論を決めることはできない。最高裁平成18年1月27日判決はMRSA感染に対する抗菌薬投与の時機について,最高裁平成18年11月14日判決は出血量,ショック徴候及び死因について,原審が専門意見と客観的診療経過の関係を十分に検討しなかった点を問題とした。

攻撃又は反論では,専門家の肩書や結論ではなく,その意見が依拠する前提事実,検査値,バイタルサイン,診療録の時系列,他の意見との相違点及び医学文献との適合性を示す必要がある。

4 審理・釈明が足りない型

争点について必要な釈明をせず,専門家の相反する意見を比較する機会も十分に与えないまま口頭弁論を終結すると,単なる証拠評価の相違ではなく,審理不尽を伴う違法の問題になり得る。とりわけ専門訴訟では,意見書提出後の反論期間,反対尋問,追加鑑定及び争点整理の要否を明示的に求め,手続経過を記録に残すことが重要である。

5 法的評価の前提を誤る型

最高裁平成18年7月21日判決は,外国国家の行為について一律に民事裁判権を免除する絶対免除主義を改め,私法的・業務管理的行為には,主権を侵害する特段の事情がない限り裁判権免除を認めない制限免除主義を採用した。行為の目的だけでなく,行為の性質を見て分類する必要がある。

このように,事実を確定した後の規範選択又は法的分類が誤っていれば,証拠を追加しなくても原判決が維持できない場合がある。主張書面では,事実認定と法的評価を段階に分けるべきである。

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医療訴訟における経験則・採証法則違反―平成18年最高裁判決から見る専門意見の評価方法(AI作成)

目次

第1 本記事の問題意識第2 最高裁平成18年1月27日判決第3 最高裁平成18年11月14日判決第4 平成18年4月18日事件の確認範囲第5 説明義務判決との区別第6 専門意見を比較する7項目第7 証拠収集と尋問の設計第8 上告受理申立理由への落とし込み第9 資料の確認状態第10 出典・関連記事

医療訴訟では,複数の医師又は鑑定人の意見が対立することが多い。最高裁平成18年1月27日判決及び同年11月14日判決は,「どの専門家を信じるか」だけでなく,意見の前提となる客観的診療経過と推論過程を比較しなければならないことを示す。

第1 本記事の問題意識

事実審の証拠評価は原則として裁判所の自由心証に委ねられる。しかし,重要な専門意見を理由なく退け,客観的資料と整合しない中間評価から結論を導き,又は相反する意見を比較する審理を尽くさなかった場合,経験則・採証法則違反として破棄されることがある。

そこで,意見書の結論を引用するだけでなく,①何を証明する意見か,②どの事実を前提にするか,③どの資料を使用したか,④推論に飛躍がないかを分解する必要がある。

第2 最高裁平成18年1月27日判決

最高裁平成18年1月27日第二小法廷判決は,MRSA感染症を発症した患者に対するバンコマイシン投与の時機が問題となった医療訴訟である。

原審は,早期投与をしても救命できなかった可能性が高いとして医療側の責任を否定した。しかし,最高裁は,早期投与により救命できた可能性に関する医師の意見を十分に吟味せず,診療経過との関係も明らかにしないまま結論を出した原審判断に,経験則又は採証法則違反があるとした。

実務上は,抗菌薬の一般的有効性だけでなく,培養結果判明前後の症状,感染徴候,検査値,腎機能,用量,投与開始可能時点及び患者固有の予後を時系列で対応させる必要がある。一般論と当該患者についての因果関係を分けることが重要である。

第3 最高裁平成18年11月14日判決

最高裁平成18年11月14日第三小法廷判決は,手術後の出血とショック,その後の死亡との関係が争われた事案である。

原審は一方の専門意見に依拠したが,最高裁は,出血量,血圧,脈拍その他のショック徴候と意見の前提が整合するかを十分に検討せず,相反する二つの専門意見を比較しないまま,第1回口頭弁論期日に弁論を終結した審理経過も踏まえて,原審判断を維持できないとした。

重要なのは,「控訴審が独自鑑定を採用した」という形式ではない。各意見がどの数値・症状・時点を根拠にし,どの医学的機序を通じて死因又は過失を説明するのかを比較する機会が確保されたかである。

第4 平成18年4月18日事件の確認範囲

判例時報「最高裁民事破棄判決等の実情―平成18年度―」は,冠動脈バイパス手術後の腸管壊死等を扱った最高裁平成18年4月18日判決を紹介し,原審の専門的判断に対する検討不足を指摘している。

もっとも,本記事作成時点では,裁判所ウェブサイト上の対象判決本文を事件番号とともに確実に特定できていない。このため,本節は二次資料から把握できる問題構造の紹介にとどめ,正確な事実経過・判示を引用する際は,判例秘書その他の判例データベース又は掲載誌で判決全文を確認する必要がある。

第5 説明義務判決との区別

最高裁平成18年10月27日第二小法廷判決は,未破裂脳動脈瘤について,開頭術,血管内治療及び経過観察という複数の選択肢がある場合の説明義務を扱う。この判決は,専門意見の証拠評価を理由として破棄した判決ではない。

同判決が示したのは,複数の確立した治療法が存在し,いずれにも相応の危険があるとき,医師は各選択肢の内容と危険を説明し,患者が再度熟慮する機会を与えるべきであるという規範である。説明義務,過失,死亡等との因果関係,自己決定権侵害による損害を段階別に検討する。

第6 専門意見を比較する7項目

立証命題:過失,因果関係,後遺障害,余命又は損害のどれに関する意見か。
基礎資料:診療録,画像,検査値,病理,ガイドライン及び文献のどれを見たか。

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取引先・下請先が持つ設計図面等の文書提出命令―技術の秘密,保護に値する秘密の比較衡量,第三者の審尋・一部提出・インカメラ手続(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点1 想定する場面2 要点第2 第三者に対する文書提出命令の仕組み1 提出義務の根拠2 申立ての方式3 第三者の審尋と不服申立て第3 「技術の秘密」に当たるか1 定義2 具体的な主張が必要であること第4 保護に値する秘密かの比較衡量1 最高裁平成18年10月3日決定2 最高裁平成20年11月25日決定3 技術の秘密への当てはめ4 最高裁平成19年12月11日決定第5 所持者(取引先・下請先)の側が主張すべき事情第6 申立人の側が主張すべき事情第7 秘密を守るための手続1 一部を除いた提出命令2 インカメラ手続3 閲覧等の制限の限界第8 弁護士が写しを持っている場合第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 確認状態
第1 この記事の対象と要点
1 想定する場面

本記事は,製品の欠陥や工事の不具合をめぐる民事訴訟で,一方の当事者が,訴訟の当事者ではない取引先・下請先(第三者)が持つ設計図面,作業工程表,製造記録等の提出を求めて,文書提出命令を申し立てる場面を扱う。
申立てを受けた第三者の側は,自社の製造技術が相手方や同業者に知られることを避けるため,「技術の秘密」に当たるとして提出を拒むことを考える。
申立人の側は,欠陥の原因を明らかにするためにその文書が必要だと主張する。

本記事は,令和8年9月29日時点の民事訴訟法と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,第三者が提出を拒めるのはどのような場合か,双方が何を主張すべきか,秘密を守るためにどのような手続があるかを整理する。

2 要点
問題結論主な根拠第三者に提出を命じられるか民事訴訟法220条4号の除外事由に当たらなければ命じられる。命じる前に第三者を審尋する民事訴訟法220条4号・223条2項「技術の秘密」とは何か公開されると技術の社会的価値が下落し,これによる活動が困難になるもの最高裁平成12年3月10日決定技術の秘密に当たれば必ず拒めるか拒めるのは保護に値する秘密に限られ,秘密の側の不利益と裁判の側の必要性を比較衡量して判断する最高裁平成18年10月3日決定,最高裁平成20年11月25日決定所持者は何を主張すべきか情報の種類,性質及び開示による不利益の具体的内容最高裁平成12年3月10日決定秘密を守る手続一部を除く提出命令,裁判所だけが文書を見る手続(インカメラ手続)民事訴訟法223条1項後段・6項第三者が命令に従わないとき20万円以下の過料民事訴訟法225条1項
第2 第三者に対する文書提出命令の仕組み
1 提出義務の根拠

民事訴訟法220条は,文書の所持者が提出を拒むことができない場合を定める。
同条1号~3号は,当事者が訴訟で引用した文書,挙証者が引渡し又は閲覧を求めることができる文書,挙証者の利益のために作成され又は挙証者と所持者との間の法律関係について作成された文書を挙げる。
同条4号は,それら以外の文書についても,イ~ホに掲げる文書のいずれにも該当しないときは,所持者は提出を拒むことができないとする(一般的な提出義務)。

設計図面や作業工程表のように,所持者が自社の業務のために作った文書は,1号~3号に当たらないことが多く,4号が提出義務の根拠になる。
その場合,4号ハの「第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で,黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たるかが争点になる。
民事訴訟法197条1項3号は,証人が「技術又は職業の秘密に関する事項」について尋問を受ける場合に証言を拒めると定めており,文書提出命令でもこの基準が使われる。

2 申立ての方式

文書提出命令の申立ては,文書の表示,文書の趣旨,文書の所持者,証明すべき事実及び文書の提出義務の原因を明らかにしてしなければならない(民事訴訟法221条1項)。
4号を根拠とする申立ては,書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければすることができない(同条2項)。
文書の表示や趣旨を明らかにすることが著しく困難なときは,所持者がその文書を識別できる事項を明らかにすれば足り,裁判所に対し,所持者にそれらの事項を明らかにするよう求めることを申し出ることができる(民事訴訟法222条1項)。

3 第三者の審尋と不服申立て

裁判所は,第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には,その第三者を審尋しなければならない(民事訴訟法223条2項)。
取引先・下請先は,この審尋で,提出を拒む理由を具体的に述べる機会を与えられる。

文書提出命令の申立てについての決定に対しては,即時抗告をすることができる(民事訴訟法223条7項)。
第三者が文書提出命令に従わないときは,裁判所は,決定で,20万円以下の過料に処する(民事訴訟法225条1項)。
当事者が命令に従わないときに,文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができるとする規定(民事訴訟法224条)は,当事者に関するものであり,第三者には適用されない。

第3 「技術の秘密」に当たるか
1 定義

最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定(平成11年(許)第20号,民集54巻3号1073頁)は,民事訴訟法197条1項3号の「技術又は職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうとした。

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通常共同訴訟で他の被告の主張・証拠は自分にも効くか―共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条),主張共通の否定と証拠共通(最高裁昭和43年9月12日判決・昭和45年1月23日判決)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点1 想定する場面2 要点第2 通常共同訴訟と共同訴訟人独立の原則1 通常共同訴訟とは2 民事訴訟法39条の内容3 同時審判の申出がされた共同訴訟との違い第3 他の共同被告の主張は自分にも効くか(主張共通)1 最高裁昭和43年9月12日判決2 最高裁昭和45年1月23日判決3 主張共通を認めるべきだとする考え方第4 他の共同被告が出した証拠は自分にも効くか(証拠共通)第5 共同被告の一人が欠席したとき1 擬制自白2 弁論の分離と先行する判決第6 他の共同被告の主張を自分のものにする方法1 期日に出頭して援用する2 補助参加の申出3 訴訟告知第7 主たる債務者と保証人が共同被告になったときの注意1 保証人の側2 債権者の側第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 確認状態
第1 この記事の対象と要点
1 想定する場面

本記事は,債権者が主たる債務者と保証人を一緒に訴えた場合や,交通事故の被害者が運転者と使用者を一緒に訴えた場合のように,一つの訴訟に複数の被告(又は原告)がいるものの,判決の内容を全員について一致させることまでは求められていない訴訟を扱う。
このような訴訟は「通常共同訴訟」と呼ばれ,民事訴訟法38条が要件を定めている。

実務では,共同被告の一人が詳しい反論をしている一方で,他の共同被告が答弁書を出さず欠席していることがある。
このとき,欠席した共同被告も,他の共同被告の反論や証拠の恩恵を当然に受けられるのかが問題になる。
本記事は,令和8年9月29日時点の民事訴訟法と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,この問題を整理する。

2 要点
問題結論主な根拠共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の者に及ぶか及ばないのが原則である(共同訴訟人独立の原則)民事訴訟法39条他の共同被告の主張は自分の主張になるか自分で援用しない限りならない(主張共通の否定)最高裁昭和43年9月12日判決,最高裁昭和45年1月23日判決他の共同被告が出した証拠は自分の事件でも使われるか使われる(証拠共通)最高裁昭和45年1月23日判決共同被告の一人が欠席したらどうなるかその者は相手方の主張した事実を自白したものとみなされ得る民事訴訟法159条3項・1項他の共同被告の主張を自分のものにするには期日に出頭して援用するか,補助参加の申出をする民事訴訟法42条・45条,最高裁昭和43年9月12日判決
第2 通常共同訴訟と共同訴訟人独立の原則
1 通常共同訴訟とは

民事訴訟法38条は,訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき,同一の事実上及び法律上の原因に基づくとき,又は同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときは,その数人が共同訴訟人として訴え,又は訴えられることができると定める。
債権者が主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求を一つの訴えで行う場合は,この規定によって一つの訴訟にまとめられる。

これに対し,民事訴訟法40条は,訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合(必要的共同訴訟)について,一人の訴訟行為は全員の利益においてのみ効力を生ずる(1項),相手方の訴訟行為は全員に対して効力を生ずる(2項)などの特則を置いている。
主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求は,別々に訴えることもでき,判決の結論が食い違っても法律上は許されるから,40条の対象にはならない。

2 民事訴訟法39条の内容

民事訴訟法39条は,「共同訴訟人の一人の訴訟行為,共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為及び共同訴訟人の一人について生じた事項は,他の共同訴訟人に影響を及ぼさない」と定める(共同訴訟人独立の原則)。
通常共同訴訟は,本来別々に起こすことができた複数の訴えを,審理の便宜のために一つにまとめたものにすぎない。
そのため,各共同訴訟人は,他の共同訴訟人の訴訟追行に縛られず,自分の判断と責任で訴訟を追行し,その結果を受けることになる。

この原則から,例えば,共同被告の一人が請求を認諾したり,相手方の主張する事実を認めたりしても,他の共同被告についてその効果は生じない。
他方,後で見るとおり,他の共同被告が有利な主張をしてくれても,自分がそれを援用しない限り,自分の事件の判断資料にはならない。

3 同時審判の申出がされた共同訴訟との違い

民事訴訟法41条は,共同被告の一方に対する権利と他方に対する権利とが「法律上併存し得ない関係にある場合」に,原告の申出があれば,弁論及び裁判を分離しないでしなければならないと定める(同時審判申出共同訴訟)。
典型は,代理人と称する者が契約をした場合の,本人に対する契約上の請求と,代理人に対する無権代理人の責任の追及である。
主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求は,両方とも成り立ち得るから,この規定の対象ではなく,裁判所は弁論を分離することができる(民事訴訟法152条1項)。

第3 他の共同被告の主張は自分にも効くか(主張共通)
1 最高裁昭和43年9月12日判決

最高裁判所第一小法廷昭和43年9月12日判決(昭和42年(オ)第890号,民集22巻9号1896頁)は,土地の不法占有を理由とする損害賠償請求について,原審が,共同被告のうち二人がした賃料弁済の主張の効力を,その主張をしていない他の共同被告にも及ぼし,「共同訴訟人間の補助参加関係」があるとして請求を退けた事案である。

最高裁は,「通常の共同訴訟においては,共同訴訟人の一人のする訴訟行為は他の共同訴訟人のため効力を生じないのであつて,たとえ共同訴訟人間に共通の利害関係が存するときでも同様である」とした。

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電子契約で保証人に署名してもらうときの注意点―メール認証の電子署名で連帯保証人について契約書の成立が否定された東京地裁令和7年7月28日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 保証契約と電子契約1 書面要件と電磁的記録2 個人根保証の極度額3 保証意思宣明公正証書が必要な場合4 保証の委託をする主たる債務者の情報提供義務第3 電子署名と契約書の成立の真正1 電子署名法3条の推定2 民事訴訟法228条4項との関係3 メールアドレスによる認証と政府のQ&A第4 東京地方裁判所令和7年7月28日判決1 書誌2 事案3 主たる債務者側について成立の真正を認めた判断4 連帯保証人について成立の真正を否定した判断5 本判決から読み取れること第5 電子署名をした契約書が争われたその他の裁判例1 内容を確認した上での電子署名と契約の成立2 処分証書としての電子契約書3 裁判例の探し方と限界第6 保証人に電子署名をしてもらうときの実務1 送信先のメールアドレス2 保証人本人への意思確認3 認証の方法と本人確認4 記録の保存5 公正証書と情報提供の確認第7 相手方から電子契約の契約書を証拠として出されたとき第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,クラウド型の電子契約サービスを使って,主たる債務者と保証人の双方に電子署名をしてもらう場面を対象とする。
後になって保証人から「自分は署名していない」と争われたときに何が問題になり,契約の時点で何をしておけばよいかを,裁判例と政府の公表資料をもとに整理する。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
本記事で紹介する東京地方裁判所の判決3件は,いずれも裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見当たらず,判例秘書(LLI/DB)で判決本文を確認した。

電子署名法3条の推定が働く要件と,いわゆる立会人型の電子契約サービスに関する政府のQ&Aは,電子署名法3条の推定とはで詳しく扱っている。
本記事では,保証の場面と,電子署名をした契約書の成立が争われた裁判例に絞る。

2 結論

①保証契約は書面でしなければ効力を生じないが,その内容を記録した電磁的記録によってされた保証契約は,書面によってされたものとみなされる(民法446条2項・3項)。
したがって,電子契約で保証契約を結ぶこと自体はできる。

②東京地方裁判所令和7年7月28日判決は,メールアドレス認証による電子署名がされた債務承認弁済契約書について,内容を確認した上で署名した主たる債務者側については成立の真正を認め,連帯保証人については成立の真正を否定して,保証人に対する請求を棄却した。
保証人の名義の電子署名に使われたメールアドレスは,主たる債務者が業務に使っていたものであり,債権者は保証人本人に保証の意思を直接確認していなかった。

③同判決は,電子署名法3条の推定を適用して結論を出したのではなく,誰がそのメールアドレスを使って署名したか,署名した者が内容を確認していたかという事実を認定して判断している。

④他方,内容を画面で確認した上で電子署名をした当事者が,その書面はサービスの内容を確認するために取り交わしたものにすぎないと争っても,契約の成立は否定されにくい(東京地方裁判所令和5年2月1日判決)。
電子署名をした契約書の成立の真正が争いのない事案では,処分証書として,特段の事情がない限り記載どおりの行為がされたものと認めるべきであるとした判決もある(東京地方裁判所令和3年6月23日判決)。

⑤保証人に電子署名をしてもらうときは,保証人本人だけが使うメールアドレスに送ること,保証人本人に保証の意思を直接確認して記録を残すこと,2要素認証など本人確認の水準の高い方法を選ぶことが,後の紛争を防ぐ基本になる。

⑥事業のために負担した貸金等債務を個人が保証する場合は,原則として保証意思宣明公正証書が必要であり(民法465条の6第1項),電子契約をしただけでは保証契約の効力は生じない。

第2 保証契約と電子契約
1 書面要件と電磁的記録

民法446条2項は,「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」と定めている。
同条3項は,「保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。」と定めている。
電子契約サービスで作成した契約書のデータは,この「電磁的記録」に当たり得るので,紙の契約書に署名押印する方法でなくても,保証契約の書面要件を満たすことができる。

もっとも,書面要件を満たすことと,保証人本人がその契約を結んだと証明できることとは別の問題である。
電子契約で後に争いになるのは,多くの場合,後者である。

2 個人根保証の極度額

一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)で,保証人が法人でないものは,極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2第2項)。
同条3項は,極度額の定めについて446条2項・3項を準用しているので,極度額も電子契約の中で定めることができる。

3 保証意思宣明公正証書が必要な場合

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カルテ改ざんの法的効果―記載の信用性の否定,別個の不法行為としての慰謝料,改ざんが認められなかった例及び患者側の記録(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 カルテの記載義務と訂正第3 信用性が否定された例(東京地方裁判所平成24年10月25日判決)1 事案2 判決が挙げた不自然な点3 判断第4 改ざんを認定し,別個の不法行為とした例(東京地方裁判所令和3年4月30日判決)1 事案2 改ざんと認めた記載と認めなかった記載3 別個の不法行為と慰謝料第5 改ざんが認められなかった例と患者側の記録(東京地方裁判所平成21年3月18日判決)1 事案2 改ざんを認めなかった理由3 遺族側のメモの評価第6 記録の不提出・廃棄・改ざんと民事訴訟法224条1 条文と「証明妨害」2 カルテを提示しなかった歯科医師について,患者の供述を真実と認めた例3 真実擬制は否定しつつ,改ざんされた記録の証拠能力を否定し,慰謝料を認めた例4 類推適用をしなかった例5 紛失・所在不明の場合6 整理第7 記録の紛失と遺族の法的利益(東京地方裁判所平成22年1月28日判決)第8 刑事責任と行政処分1 刑法の条文2 医療事故の記録をめぐる刑事事件の例3 医師法の行政処分4 保険医の登録の取消し第9 裁判例から見える判断の手掛かり第10 訴訟での扱いと予防1 事実認定への影響2 損害賠償の対象3 真実擬制と記録の紛失4 患者側の準備5 医療側の予防第11 関連記事第12 出典1 裁判例2 法令3 行政機関の資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,医療事故の後に診療録(カルテ)が書き加えられ,又は書き換えられたと疑われる場合に,民事の損害賠償請求訴訟でどのような効果が生じるかを,裁判例に即して扱う。
取り上げる裁判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で確認したものと,裁判所ウェブサイトに掲載されていないため判例データベース(判例秘書)の判決全文で確認したものであり,いずれも令和8年9月28日に確認した。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。

カルテの記載を読むときの一般的な型(SOAP,時刻の区別,追記・訂正とログの確認)は,弁護士のためのカルテの読み方―SOAP・時系列・追記訂正・退院時要約の証拠評価で扱っている。
本記事は,そのうち改ざんが争われた場面に絞って,裁判所が何を手掛かりにしたか,改ざんが認められたときに何が起きるかを整理するものである。
記録の不提出・廃棄・紛失と民事訴訟法224条(第6・第7),刑事責任と医師の行政処分(第8)も扱う。

2 結論

①改ざんが疑われる記載は,意図的な改ざんと断定されなくても,信用性が極めて乏しいとして事実認定で重きを置かれなくなることがある。
東京地方裁判所平成24年10月25日判決は,新生児が大動脈弁狭窄症で死亡した事案で,カルテの該当部分の信用性を否定した上で,診療所側の注意義務違反を認めた。

②改ざんが認められると,それ自体が,本来の過失や説明義務違反とは別個の不法行為となり得る。
東京地方裁判所令和3年4月30日判決は,カルテの改ざんを説明義務違反とは別個の不法行為とし,慰謝料100万円と弁護士費用10万円を認めた。

③裁判所は,手術記録,看護記録,診療報酬明細書,母子手帳等の同時期の記録との整合・食い違い,挿入やはみ出しといった体裁,同じ医師の他の記載との書きぶりの違い,訂正前の記載が読めなくなる訂正の方法等を手掛かりにしている。

④他方,記載が途中から詳しくなったことや,診療報酬の請求との食い違いがあることだけでは,改ざんとは認められないことがある。
東京地方裁判所平成21年3月18日判決は,医師が家族の対応に不信感を持って記載を詳しくすることは後日の紛争に備えた対応として考えられるとして,改ざんを認めず,逆に,遺族が作成したメモについて,事後に書き替えが可能であり,書き替えが疑われる箇所もあること等から,遺族の供述の信用性を支えるものとはいえないとした。

⑤カルテの不提出・廃棄・改ざんから民事訴訟法224条等によって直ちに患者側の主張が真実と認められることは多くない。
裁判所が検証期日で存在を確認したカルテを歯科医師が提示しなかった事案で,当時の同条に当たる規定の趣旨に従い患者の供述を真実と認めた例(東京地方裁判所平成6年3月30日判決)がある一方,多くの判決は,改ざんされた記録の証拠能力や信用性を否定し,医療側に不利な事情として考慮するにとどめている。
それでも,改ざんと偽証工作を遺族に対する説明義務違反の不法行為として慰謝料1500万円を認めた例(甲府地方裁判所平成16年1月20日判決)や,開示を拒んで法的措置を促しながら,その後診療記録を紛失して訴訟に提出できなかった病院に慰謝料50万円を認めた例(東京地方裁判所平成22年1月28日判決)がある。

⑥刑事では,証拠隠滅罪(刑法104条)は「他人の刑事事件」の証拠を対象とし,医療事故の後に公立病院の院長が主治医と共謀して内容虚偽の死亡診断書等を作成・行使したとして,虚偽有印公文書作成・同行使等で有罪とされた例がある。
医師法の行政処分について,医道審議会医道分科会の「行政処分の考え方」は「診療録に真実を記載する義務」を医師の当然の義務に挙げている。
また,健康保険法上の保険医の登録取消しでは,カルテの事後の追記が処分理由とされ,その処分が適法とされた例がある。

⑦医療側は,訂正するなら元の記載が分かる方法で行い,事故の後に記載を変えない。
患者側は,改ざんの疑いを主張するなら,カルテ以外の同時期の客観的な記録を先に集め,記録の原本の状態を早期に確保する。

第2 カルテの記載義務と訂正

医師法24条1項は,医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないと定める。
同条2項は,病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関する診療録はその病院又は診療所の管理者が,その他の診療録はその医師が,5年間保存しなければならないとする。
医師法施行規則23条は,診療録の記載事項として,診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢,病名及び主要症状,治療方法(処方及び処置)並びに診療の年月日を定めている。

カルテは,医療訴訟で診療経過を認定するための中心的な証拠になる。

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平成19年度最高裁民事破棄判決等の実情―57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の読み方第2 件数と「破棄率」の限界第3 原審が破棄された7つの型1 手続の入口に問題がある型2 請求・抗弁・判断対象を取り違える型3 評価語から要件事実へ飛躍する型4 契約文言と締結・履行経過がずれる型5 証明責任と立証対象の配分を誤る型6 制度の保護目的を抽象論で狭める型7 破棄差戻しで未確定事実が残る型第4 破棄差戻しと破棄自判の対照第5 代理人が作る3つの作業表第6 分野別の実務上の着眼点第7 一次資料,二次資料及び判例秘書の状態第8 現行法へ接続する際の注意第9 出典・関連記事

第1 本記事の対象と資料の読み方

本記事は,平成19年中に最高裁判所で言い渡された民事事件(行政事件・労働事件を含む。)の破棄判決50件と破棄決定7件を,山中弁護士の訴訟実務に使える「破棄の型」として整理するものである。判例時報の論文名は「平成十九年度」であるが,対象は会計年度ではなく暦年の平成19年中の裁判である。

入口とした資料は,森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下・2010号9頁以下である。この論文は最高裁調査官による体系的な二次資料であり,事件の所在,原審判断及び破棄理由を把握するのに有用である。他方,個別事件の正確な判示,射程,反対意見・補足意見は,裁判所が公表する判決・決定本文で確認する必要がある。

第2 件数と「破棄率」の限界

上告及び上告受理申立てを並行した事件を1件に換算すると,新受は3004件,既済は3111件であった。破棄判決は判決書単位で50件であり,換算後の既済件数に対して1.6%であった。その内訳は,差戻し(一部差戻しを含む。)26件,自判(一部自判を含む。)25件で,両方を含むものが1件ある。

破棄決定は7件で,特別抗告1件,許可抗告6件であった。許可抗告の既済44件に対する破棄決定6件は13.6%である。

もっとも,これらの数字は,不受理・棄却事件の内容,事件の難易,申立て理由の構成などを統制したものではない。「最高裁で勝てる確率」や個々の代理人の成功率として用いることはできない。

第3 原審が破棄された7つの型
1 手続の入口に問題がある型

口頭弁論に関与していない裁判官が判決裁判所を構成した事件,当事者・代表権・中断が問題となった光華寮訴訟,死亡当事者の受継命令,最高裁への上告受理申立てを原裁判所が内容判断で却下した事件などがある。受任直後に,裁判体,当事者表示,代表権,死亡・組織変更,受継,送達及び上訴権限を点検する必要がある。

2 請求・抗弁・判断対象を取り違える型

不法行為構成だけを判断して債務不履行主張を落とした事件や,予備的相殺抗弁の趣旨を取り違えた事件がある。請求原因,認否・抗弁,再抗弁,裁判所の判断を対応させ,選択的請求や予備的抗弁の順位も明示する。

3 評価語から要件事実へ飛躍する型

精神科入院患者の誤嚥死事件では,「ショック状態」という評価を先に置き,意識レベル,全身状態,頻脈,血圧,出血量,感染性ショックの可能性を必要十分に確定しない事実認定が経験則違反とされた。結果から過去の義務違反を逆算せず,義務発生時点ごとに客観的な事実を並べる必要がある。

4 契約文言と締結・履行経過がずれる型

コンビニ・フランチャイズ契約の「売上商品原価」は,契約条項だけでなく,付属資料,契約締結前の説明及び従前の運用を総合して解釈された。土地賃貸借でも,後年の低額支払又は不払だけで無償使用と決めず,長期の定期支払と当時の領収証を見る必要がある。

5 証明責任と立証対象の配分を誤る型

自動車盗難保険では,保険金請求者が立証すべき外形的事実と,被保険者の意思に基づかないことが分けられた。「盗難と矛盾しない」だけでは足りない。主張書面では,誰が何を証明するか,直接事実と間接事実,反証可能性を分ける。

6 制度の保護目的を抽象論で狭める型

建物の設計・施工・工事監理者について,契約関係のない居住者,隣人及び通行人にも,建物の基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務が認められた。「強度の違法性」を要求した原審基準は狭すぎるとされた。

弁護士懲戒請求でも,不懲戒という結果だけで不法行為となるのではない。事実上・法律上の根拠を欠き,請求者が知っていたか通常の注意で知り得たのにあえて行い,制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くかを判断する。

7 破棄差戻しで未確定事実が残る型

破棄差戻しは,最高裁が当事者の実体法上の勝敗を最終確定したことを必ずしも意味しない。「最高裁が確定した法理」「原審判断の誤り」「差戻審で未確定の事実」を三分する必要がある。

第4 破棄差戻しと破棄自判の対照

最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決は,精神科入院患者の誤嚥死について,原審の事実認定が経験則に反するとし,患者が当該時点で自ら気道を確保することが困難な状態にあったか否かなどを追加審理させるため差し戻した。

これに対し,最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決は,競売前に先順位抵当権が消滅した事案における法定地上権の成立を認め,原審が確定した事実だけで結論を出せるとして,土地買受人の建物収去土地明渡請求を棄却する自判をした。

両判決の比較は,正しい法的枠組みを示した後に追加の事実審理が必要かどうかが,差戻しと自判の分水嶺となることを示す。

第5 代理人が作る3つの作業表

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医療訴訟における経験則違反―最高裁平成19年4月3日判決から見る事実認定の攻撃方法(AI作成)

目次

第1 結論と実務上の意義第2 事案と原審の判断第3 最高裁が指摘した事実の空白第4 「単なる事実認定の不服」との違い第5 診療経過を立体的に読む方法第6 破棄差戻しの射程第7 出典及び確認範囲

第1 結論と実務上の意義

医療訴訟で診断名や「ショック状態」という評価を置くには,その時点の意識レベル,全身状態,脈拍,血圧,出血量,代替原因などの基礎事実を確定する必要がある。結果が重大であったことから,過去の時点で医療従事者が重篤化を認識できたと逆算してはならない。

最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決(平成18年(受)第1547号)は,全身状態等を審理判断せずに患者がショックに陥り,自ら気道を確保できない状態にあったとした原審の事実認定を,経験則に反するとして破棄差戻しとした。

第2 事案と原審の判断

本件は,精神科病院に入院していた患者が,消化管出血により多量に吐血・嘔吐し,吐物を誤嚥して死亡したことについて,両親が病院に債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。

原審は,午後3時30分頃の発熱,脈微弱,酸素飽和度低下,唇色不良などから,患者がショックに陥っていたと認定した。そして,消化管出血に関連する原因でショックに陥ったと認識できたとし,転送義務又は気道確保義務の違反を認めた。

第3 最高裁が指摘した事実の空白

最高裁は,原審が「ショック」という評価に進む前に確定すべき事実を具体的に指摘した。

① 心拍数は78であり,頻脈とはいえなかった。
② 酸素吸入等の後の午後4時30分には,口唇・爪のチアノーゼや四肢冷感がなく,体動も見られた。
③ 午後3時30分頃の収縮期血圧は96であり,急激な低下の形跡はなかった。
④ 多量の消化管出血を疑わせる嘔吐,吐血,下血又は激しい腹痛はうかがわれなかった。
⑤ 病理解剖で空腸の穿孔は見られたが,腹膜炎などの所見はなかった。
⑥ 患者の意識レベルを含む全身状態について,原審は必要な審理判断をしていなかった。

これらの事実に照らすと,発熱等の症状があったことだけで,自ら気道を確保できないショック状態にあったとすることはできない。最高裁は,その事実認定を前提とする転送義務・気道確保義務違反の判断も維持できないとした。

第4 「単なる事実認定の不服」との違い

上告審は事実審ではないから,証拠の信用性や重みについて異なる評価を述べるだけでは足りない。平成19年判決は,原審の評価に対する抽象的な異論ではなく,原審が採用した因果連鎖の前提が,客観的なバイタルサインや病理所見と整合しないことを示した。

したがって,経験則違反を主張するときは,①原審が結論の前提とした中間事実,②その中間事実と両立し難い客観的事実,③検討されなかった代替原因,④未確定の事実が法的結論に与えた影響を対応させる必要がある。

第5 診療経過を立体的に読む方法

診療録は,時刻順に転記するだけでは足りない。各時点について,次の項目を横断的に整理する。

① 意識レベル・応答・体動
② 体温,脈拍,血圧,酸素飽和度その他のバイタルサイン
③ 吐血,嘔吐,下血,疼痛,出血量などの症状
④ 医師・看護師が得た情報とその時点での判断
⑤ 投薬,酸素吸入,点滴,転送手配などの措置
⑥ 措置後の変化及び結果
⑦ 当時想定できた複数の原因と,それぞれと整合する事実・整合しない事実

医学鑑定に依存する前に,診療録,看護記録,救急搬送記録,画像・検査データ,病理解剖報告などを,同じ時間軸で照合することが重要である。

第6 破棄差戻しの射程

最高裁は,病院側に過失がないと最終確定したのではない。患者が午後3時30分の時点で自ら気道を確保することが困難な状態にあったか否かなどについて,更に審理させるため事件を原審に差し戻した。

この判決を原告側の全面敗訴や病院側の最終勝訴として引用するのは正確でない。最高裁が確定したのは,原審の事実認定方法に経験則違反があり,その違法が判決に影響するという点である。

第7 出典及び確認範囲

① 最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決(平成18年(受)第1547号)
② 森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下(二次資料)
③ 民事訴訟法(e-Gov法令検索)

最高裁判決全文は裁判所ウェブサイトで確認済みである。判例秘書は照会0件/ヒット不明/本文確認0件であり,差戻審の結果及び下級審の同種判例の収録状況は本記事では確認していない。

外国欠席判決の承認と手続的公序―判決書不送達・控訴機会・ウェブ公開(AI作成)

目次第1 外国判決の承認要件第2 訴状送達と判決送達は別問題第3 最高裁平成31年判決第4 ウェブ公開と現実の防御機会第5 立証資料と出典

外国の裁判所が欠席判決をした後,判決書が被告に届かないまま上訴期間が経過した場合,その判決を日本で承認・執行できるか。本記事は,訴状の送達と判決書の送達を分け,民事訴訟法118条3号の手続的公序を中心に,令和8年9月28日現在の日本法を整理する。

第1 外国判決の承認要件

民事訴訟法118条は,外国裁判所の確定判決について,①外国裁判所の裁判権,②敗訴被告への訴訟開始文書等の送達又は応訴,③判決内容及び訴訟手続が日本の公序良俗に反しないこと,④相互の保証,を要求する。外国判決に基づいて日本で強制執行するには,別に民事執行法24条の執行判決が必要である。

①の外国裁判所の裁判権は,外国判決を日本で承認する場面における「間接管轄」の問題であり,日本の裁判所へ新たに訴えを提起できるかという「直接管轄」と区別する必要がある。間接管轄の判断方法,侵害発生地,差止請求及び予見可能性については,外国判決の承認における間接管轄―侵害発生地・予見可能性と最高裁平成26年4月24日判決(AI作成)で説明する。本記事は,主として②の送達及び③の手続的公序を扱う。

同条3号のうち,本記事が扱うのは,判決を知り上訴する現実の機会が与えられたかという手続的公序である。
これに対し,外国判決の内容自体が日本の法秩序の基本原則と相いれないかという実体的公序も別に問題となる。外国判決の懲罰的損害賠償部分を扱った最高裁平成9年7月11日判決及び既払金の充当を扱った最高裁令和3年5月25日判決は,加害者が得た利益を被害者は請求できるか―利益吐出し型損害賠償・懲罰的損害賠償と日本法で整理している。

第2 訴状送達と判決送達は別問題

訴状・呼出状の送達は118条2号の問題であり,被告が訴訟の開始を知って防御できたかに関わる。判決書の送達又は告知は,同号が直接列挙する文書ではない。しかし,判決を知らないまま上訴期間を失い,実質的な防御機会を奪われた場合は,同条3号の「訴訟手続」が公序に反するかが問題になる。

したがって,「訴状が適法に送達されたから必ず承認される」とも,「判決書が送達されなかったから必ず承認されない」ともいえない。

第3 最高裁平成31年判決

最高裁判所第二小法廷平成31年1月18日判決は,外国法上,判決書の送達が制度上予定されていないことだけで,直ちに118条3号違反になるものではないとした。他方,判決の内容を当事者に知らせることが可能であったのに実際には知らされず,又は実質的に上訴の機会が与えられないまま上訴期間が経過した等の事情により,手続保障の観点から日本の法秩序の基本原則に反すると認められる場合には,3号違反となり得るとの判断枠組みを示した。

判断の中心は,外国法に日本と同じ送達制度があるかではなく,当事者が判決内容を知り,上訴その他の防御手段を現実に利用できたかである。

第4 ウェブ公開と現実の防御機会

判決が裁判所ウェブサイトに掲載され,世界中から技術的に閲覧できたとしても,それだけで当事者に判決内容が実際に告知されたとは限らない。掲載の有無,掲載日,検索方法,当事者への掲載通知,通常の事件管理方法,代理人の選任状況,判決の写しが誤った住所へ送られた経緯,上訴期間の起算点及び期間回復制度を総合して判断する必要がある。

反対に,被告又は代理人がウェブ掲載を現実に知り,判決内容を取得して上訴できたのに放置した場合は,手続的公序違反を基礎付けにくい。単なる「アクセス可能性」と「現実の認識・実質的な上訴機会」を区別することが重要である。

第5 立証資料と出典

承認・執行事件では,外国判決の確定証明,訴状等の送達記録,判決書の発送記録,発送先住所,ウェブ掲載日時と通知方法,上訴期間・起算点・期間回復に関する外国法資料,当事者と代理人の連絡記録を確保する必要がある。外国法の内容は条文だけでなく,実務運用を示す専門家意見書も検討する。

一次資料は,e-Gov法令検索「民事訴訟法」118条,「民事執行法」24条,最高裁判所第二小法廷平成31年1月18日判決(平成29年(受)第2177号,民集73巻1号1頁),最高裁判所第二小法廷平成9年7月11日判決(平成5年(オ)第1762号,民集51巻6号2573頁)及び最高裁判所第三小法廷令和3年5月25日判決(令和2年(受)第170号,同年(オ)第135号,民集75巻6号2935頁)である。

船荷証券の国際裁判管轄条項―運送人の選択権・選択時期・専属性(AI作成)

目次第1 管轄条項を読む順序第2 民事訴訟法3条の7第3 選択権付き条項第4 選択時期と専属性第5 出典

船荷証券には,運送人の本店所在地,船積港又は陸揚港の裁判所から運送人が一つを選ぶ旨の条項が置かれることがある。この条項を理由に日本の訴えを却下できるかは,合意の方式,有効性,専属性,選択の時期及び指定裁判所の管轄を順に検討する必要がある。本記事は令和8年9月28日現在の日本法を前提とする。

第1 管轄条項を読む順序

最初に,①対象となる一定の法律関係,②候補となる国・裁判所,③選択権者,④専属管轄か付加的管轄か,⑤選択の方法と期限,⑥指定裁判所が実際に裁判権を行使できるかを条項の文言から確認する。「訴えることができる」というだけでは専属性が明らかでない場合がある。他方,他の裁判所を排除する趣旨が文言と契約全体から明白なら,専属的合意と解され得る。

第2 民事訴訟法3条の7

民事訴訟法3条の7第1項は,当事者が合意により,いずれの国の裁判所に訴えを提起できるかを定められるとする。同条2項により,合意は一定の法律関係に基づく訴えについて,書面でしなければ効力を生じない。電磁的記録も書面とみなされる(同条3項)。指定された外国裁判所が法律上又は事実上裁判権を行使できないときは,外国裁判所を専属管轄とする合意を援用できない(同条4項)。日本の専属管轄に属する事件を外国裁判所に委ねることもできない(同法3条の10)。

最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決は,船荷証券の管轄約款について,当事者の一方が作成した書面に特定国の裁判所が明示され,合意の存在と内容が明白であれば方式上足りるとした。また,外国裁判所だけを第一審の管轄裁判所とする合意は,日本の専属管轄事件でなく,指定裁判所がその外国法上管轄を有し,合意が著しく不合理で公序に反する等の事情がない限り有効であるとした。現在は3条の7の明文も踏まえて判断する。

第3 選択権付き条項

複数の候補地から運送人だけが選べる条項であっても,候補が客観的に特定され,いずれも運送契約と合理的関連を有し,運送人が恣意的に全く無関係の裁判所を指定できないなら,直ちに無効になるとは限らない。

東京地方裁判所平成20年9月24日判決(平成19年(ワ)第30011号)は,運送人が船荷証券所定の候補から台湾の裁判所を訴え提起後に選択し,本案前の抗弁として日本の訴えの却下を求めた事案で,その選択を是認して訴えを却下したと紹介されている。ただし,この判決は裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,本記事では公刊資料・専門誌索引による確認である。

第4 選択時期と専属性

訴え提起後の選択を許すと,原告は提訴時にどの国で審理されるかを確定できず,除斥期間又は時効の経過後に外国での再提訴を強いられるおそれがある。そのため,条項の文言に期限がなくても,信義則,権利濫用,予測可能性及び実効的な裁判を受ける機会の観点から,選択時期に限界があるとの議論が成り立つ。

もっとも,前記東京地裁判決は訴え提起後の選択を認めたとされる。個別事件では,候補地の合理性,原告が条項を認識できたか,運送人がいつ選択を通知したか,外国で再提訴できるか,証拠と関係者がどこにあるかを具体的に主張する必要がある。選択権付き条項を一律に有効又は無効と扱うのは適切でない。

第5 出典

①e-Gov法令検索「民事訴訟法」3条の7,3条の9,3条の10。
②最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決(昭和46年(オ)第648号,民集29巻10号1554頁)。
③東京地方裁判所平成20年9月24日判決(平成19年(ワ)第30011号。裁判所ウェブサイト未掲載)。判決の概要は,流通経済大学リポジトリ掲載「物流問題研究58号」及び増田史子「選択権付国際裁判管轄条項」ジュリスト1442号120頁以下で確認した。
④経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の国際裁判管轄合意の整理。

公海上の船舶衝突における国際裁判管轄・準拠法と責任保険の直接請求(AI作成)

目次第1 問題の所在第2 日本の国際裁判管轄第3 公海衝突の準拠法第4 責任保険者への直接請求第5 実務上の確認順序第6 出典と未確定部分

公海上で外国船同士が衝突したときは,「どの国で訴えるか」と「どの国の法を適用するか」を分けて検討する必要がある。さらに,船主の責任保険者に被害者が直接請求できるかは,直接請求権の法性決定を経なければ結論が出ない。本記事は,令和8年10月1日現在の日本法を前提に整理したものである。

第1 問題の所在

公海には領域主権を有する国がない。そのため,陸上の交通事故のように「事故地法」を直ちに選ぶことができない。船舶の旗国,損害船舶が最初に到達した地,船主の本店所在地,当事者の共通常居所地等のうち,どの事実を国際裁判管轄又は準拠法の連結点とするかを区別して考える必要がある。

第2 日本の国際裁判管轄

民事訴訟法3条の3第9号は,船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償請求について,「損害を受けた船舶が最初に到達した地が日本国内にあるとき」に日本の裁判所の管轄権を認める。予定された最初の寄港か,事故後の救難・応急修理のための緊急入港かを問わず,条文上は実際に最初に到達した地が基準になると解するのが自然である。ただし,単なる一時的接触しかなく,日本で審理することが当事者間の衡平又は適正・迅速な審理を著しく害する場合には,同法3条の9の「特別の事情」が別に問題になる。

同じ衝突でも,どの船舶が損害を受けた船舶であるか,誰が誰に請求するかにより,同号の適用関係は変わり得る。被告の主たる事務所等が日本にあるときは同法3条の2による管轄も検討する。

第3 公海衝突の準拠法

不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の結果が発生した地の法による(法の適用に関する通則法17条本文)。しかし,公海上の衝突には領域的な結果発生地法がない。この場合の処理について,通則法には海事不法行為専用の明文規定がない。

学説上は,①各船舶を旗国の領域に準じて扱う,②被害船の旗国法による,③双方の船舶が同一旗国ならその法による,④法廷地法による,⑤通則法20条の「明らかにより密接な関係がある地」の法を探す,といった構成が論じられてきた。双方が同一旗国であれば共通旗国法を基礎にする見解が有力である。他方,異なる旗国の船舶が公海上で衝突した事案について,東京高裁平成29年6月30日決定(平成29年(ラ)第310号,判例タイムズ1446号)は,損害賠償請求権の準拠法を双方の旗国法の累積適用とした。
同決定は保険金請求権への先取特権に基づく差押えをめぐる執行抗告事件で,損害賠償請求権の準拠法は先取特権の成立を判断する前提として論じられたものである。
公海衝突一般について最高裁の統一判断が示されたとまではいえないが,異国籍船の事件で日本の裁判所が審理するというだけで日本法を単独適用する説明は,同決定と整合しない。

準拠法が外国法であるときは,通則法22条による二重の制限も確認する。外国法上は不法でも日本法上不法でない行為について請求はできず,日本法が認める処分を超える請求もできない。

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民事訴訟法248条による損害額の認定―損害発生の立証と相当額認定の実務(AI作成)

目次

第1 民事訴訟法248条の役割
第2 最高裁平成20年6月10日判決

1 採石権侵害と損害額の区分困難
2 最高裁の判断

第3 適用のために分けて立証する事項
第4 原告側の主張立証
第5 被告側の対応
第6 判決・控訴審での確認事項
第7 一次資料

損害が発生したことは認められるのに、侵害行為と適法行為の混在等によって、損害の性質上、金額の厳密な証明が極めて困難な事件があります。この場合に、裁判所が「計算できない」という理由だけで請求を棄却することを避けるための規定が、民事訴訟法248条です。ただし、単に資料をなくしたという事情だけで、当然に本条を適用できるわけではありません。

第1 民事訴訟法248条の役割

民事訴訟法248条は、損害が生じたことが認められる場合に、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき、裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定できると定めています。

この規定は、損害発生の立証を不要にするものでも、裁判所が根拠なく自由な金額を決めることを認めるものでもありません。「損害の発生」と「損害額」を分け、前者を立証した上で、後者について利用可能な資料を可能な限り提出することが出発点です。

加害者が違法行為によって売上げ又は利益を得ている場合、その資料は相当額認定の基礎になり得ますが、民事訴訟法248条が独立の利益吐出し請求権を創設するわけではありません。加害者利益を損害額の推定に用いる特別法上の規定、通常の損害賠償、不当利得及び懲罰的損害賠償の違いは、加害者が得た利益を被害者は請求できるか―利益吐出し型損害賠償・懲罰的損害賠償と日本法で整理しています。

第2 最高裁平成20年6月10日判決
1 採石権侵害と損害額の区分困難

最高裁第三小法廷平成20年6月10日判決・平成18年(受)第265号は、採石業者が、他社による採石行為で採石権を侵害されたとして損害賠償を求めた事案です。

問題となった土地では、和解前には原告が採石権を有していましたが、和解後には被告会社が採石権を取得して採石していました。そのため、和解前の違法な採石量と和解後の適法な採石量とを明確に区別できないという事情がありました。原審は、違法な採石による損害額を算定できないとして、この部分の請求を棄却しました。

2 最高裁の判断

最高裁は、和解前の採石行為により損害が発生したことは明らかであり、違法採石量と適法採石量を明確に区別できず損害額の立証が極めて困難であっても、民事訴訟法248条により相当な損害額を認定しなければならないとしました。損害額を算定できないという理由で請求を棄却した原判決を破棄し、更なる審理のため差し戻しています。

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最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリスト(AI作成)

目次

第1 本記事の目的と結論
第2 破棄判決から原判決を監査する意味
第3 原判決監査チェックリスト
第4 七つの監査ゲート

1 入口―当事者・訴訟要件・手続
2 法的根拠―条文・権限・請求権
3 判断枠組み―要件・考慮要素・裁量密度
4 主要事実―時点・主体・対象・効果
5 証拠評価―経験則・採証法則
6 理由と主文―判断遺脱・理由の食違い
7 救済―破棄自判か破棄差戻しか

第5 代表判例による使い方
第6 上訴方針と証拠計画への落とし込み
第7 このチェックリストの限界
第8 出典及び確認範囲

第1 本記事の目的と結論

本記事は,民事事件の判決を受領した弁護士が,控訴・上告等の方針を決める前に,原判決の構造を監査するためのチェックリストである。単に「結論がおかしい」「証拠の評価が納得できない」と考えるだけでなく,最高裁判所が実際に原判決を破棄した理由の型に照らして,誤りの位置を特定することを目的とする。

本記事が扱うのは,原判決の適用法,判断枠組み,主要事実,証拠評価,理由及び主文の誤りを点検する「原判決の実体監査」である。上訴権者・代理権,送達日・期限,理由書の方式,記録編成及び秘匿処理を点検する「上訴手続の提出前監査」は,上告・上告受理申立ての提出前チェックリストで扱う。

監査の順序は,入口 → 法的根拠 → 判断枠組み → 主要事実 → 証拠評価 → 理由・主文 → 救済である。この順序で確認すると,事実評価への不満に先立ち,当事者適格,訴えの利益,適用条文,法的要件,判断の欠落及び主文との整合性を点検できる。

ただし,このチェックリストに該当する項目があるだけで上訴理由又は破棄が認められるわけではない。上告理由,上告受理申立て理由及び控訴理由では審査対象が異なるため,最終的には民事訴訟法312条・318条その他の根拠に対応させる必要がある。

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弁護士のためのカルテの読み方―SOAP・時系列・追記訂正・退院時要約の証拠評価(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と資料の位置付け
第2 診療録の記載義務と証拠評価は別の問題である
第3 SOAPは情報源・所見・評価・計画を分ける道具である
第4 時系列は出来事・認識・入力・追記を分ける
第5 計画・指示・実施・反応・再評価をつなぐ
第6 当時記録と退院時要約等を区別して照合する
第7 追記・訂正・複製記載・ログの確認
第8 記載がないことと実施されなかったことは同じではない
第9 弁護士が作る診療経過表と確認表
第10 出典・調査範囲・限界

カルテ(診療録)は,医療事件の時系列を組み立てる中心資料であるが,記載をそのまま事実認定表へ転記するだけでは足りない。

誰が得た情報か,患者の申告か医療者の観察か,診療当時の評価か後日の要約か,計画された処置か実施済みの処置かを分け,他の記録と照合する必要がある。

この記事は,弁護士が診療録,看護記録,指示記録,投薬記録,検査結果,画像,紹介状及び退院時要約を読む際の実務的な型を整理するものである。個別の診断又は治療の医学的妥当性は,診療時点の医学的知見と専門家の意見を別に確認する必要がある。
第1 この記事の対象と資料の位置付け
この記事の出発点とした佐藤健太『「型」が身につくカルテの書き方』(医学書院,2015年)は,研修医等が診療情報を整理して記載するための臨床実務書である。SOAP,時系列及び診療計画の整理には有用であるが,法令,裁判例又は法的な証拠評価基準そのものではない。

そこで,本記事では,書籍から得られる記録読解の型を,医師法,医師法施行規則,厚生労働省の指針及び裁判所ウェブサイト掲載判決(令和8年9月28日に追加した1件は判例秘書で本文を確認した判決)で照合した。下級審判決は具体的事案に即した判断であり,診療録一般について例外のない証拠法則を示したものとして扱わない。
第2 診療録の記載義務と証拠評価は別の問題である
医師法24条1項は,医師が診察をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないと定める。

医師法施行規則23条は,診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢,病名及び主要症状,治療方法,診療年月日を記載事項とする。医師法24条2項による保存期間は5年であり,病院又は診療所に勤務する医師の診療録はその管理者が,それ以外の診療録は医師が保存する。

もっとも,記載義務があることと,個々の記載内容が常に真実であることは別の問題である。また,記載がないことから,直ちに症状又は診療行為が存在しなかったと断定できるわけでもない。

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