メインコンテンツへスキップ

民事訴訟・証拠

民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証(AI作成)

目次

第1 結論と本記事の資料範囲
第2 破棄差戻しと破棄自判の違い

1 破棄差戻し
2 破棄自判

第3 差戻審を拘束する判断

1 民事訴訟法325条3項
2 拘束部分と残存争点を分ける方法
3 新たな口頭弁論の意味

第4 差戻し作業表の作り方
第5 最高裁判例から見る差戻しと自判

1 妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格事件
2 民事再生手続と相殺の事件
3 平成19年の差戻しと自判の対照
4 平成8年の後縦靱帯骨化症事件と誤振込事件

第6 差戻審の主張立証計画
第7 依頼者への説明
第8 出典及び確認範囲

(続きを読む...)民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証(AI作成)

医薬品の副作用と因果関係の立証―添付文書・処方歴・薬物動態・PMDA救済制度(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

1 対象
2 結論

第2 最初に分けるべき三つの問題

1 薬が使用されたか
2 その薬が症状を生じさせたか
3 誰がどの義務又は制度上の要件を満たすか

第3 薬理学からみた因果関係の検討順序

1 薬剤を特定する
2 用量だけでなく曝露量を考える
3 薬物動態と患者側の条件を確認する
4 薬力学と具体的機能を結び付ける
5 併用薬・相互作用・代替原因を検討する
6 中止・減量後の変化を慎重に評価する

第4 証拠収集と時系列表

1 受任直後に確保する資料
2 添付文書は当時版と現在版を分ける

(続きを読む...)医薬品の副作用と因果関係の立証―添付文書・処方歴・薬物動態・PMDA救済制度(AI作成)

許可抗告理由書の書き方―5日・14日の期限と「法令の解釈に関する重要な事項」(AI作成)

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 即時抗告・執行抗告・再抗告・特別抗告・許可抗告の期限,理由書期限及び執行停止(AIリライト)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

目次

第1 結論――5日と14日を分け,重要な法令解釈事項を示す
第2 許可抗告の仕組み

1 高等裁判所の許可が必要であること
2 特別抗告及び上告受理申立てとの違い

第3 期限管理――申立ては5日,理由書は通知書送達後14日

1 5日の不変期間
2 理由書の14日
3 受任直後の実務

第4 申立て前の4段階フィルター
第5 許可抗告理由書の組立て
第6 許可に結び付きにくい主張
第7 令和6年度の3決定から学ぶこと

1 取調べ録音・録画記録媒体
2 文化功労者年金
3 医療法人の社員総会招集

(続きを読む...)許可抗告理由書の書き方―5日・14日の期限と「法令の解釈に関する重要な事項」(AI作成)

交通事故の債務不存在確認訴訟―症状固定前の提訴と被害者側の対応(AI作成)

目次第1 結論の要旨第2 債務不存在確認訴訟とは1 加害者側から提起する訴訟2 確認の利益第3 確認の利益に関する裁判例1 東京高裁平成4年7月29日判決2 東京地裁平成9年7月24日中間判決3 東京高裁平成23年8月4日判決4 東京高裁平成28年11月2日判決第4 症状固定前に提訴された場合第5 被害者側の対応1 原告と訴訟物を確認する2 症状経過と医療資料を整理する3 反訴その他の手続選択第6 加害者側が提訴前に確認すること第7 出典
第1 結論の要旨

交通事故の加害者又は保険会社から被害者に対して、損害賠償債務が存在しないこと又は一定額を超えて存在しないことの確認を求める訴訟が提起されることがある。これを債務不存在確認訴訟という。
責任の有無又は損害額について現実の争いがあり、訴訟外の交渉では解決していない場合には、加害者側にも法律関係の不安定を解消する利益があるため、原則として確認の利益が認められる。もっとも、損害が流動的・未確定の段階での提訴、加害者側の著しく不誠実な交渉態度又は専ら被害者を困惑させる目的による提訴等では、確認の利益が否定される余地がある。

症状固定前の提訴であるという一事だけで、直ちに訴えが却下されるわけではない。東京高裁平成4年7月29日判決は、症状が固定していない場合には確認の必要性が問題となり得る一方、加害者側が被害者の言い分を正確に把握できず、訴訟で損害を確定する必要がある場合もあるとした。東京高裁平成28年11月2日判決は、症状固定の有無について原告に主張立証の機会を与えないまま訴えを却下した原判決を、審理不尽として取り消した。
被害者側では、誰が、どの債務の不存在確認を求めているかを最初に確認し、症状経過、通院、検査予定及び事故との因果関係を医療資料に基づいて整理する必要がある。

第2 債務不存在確認訴訟とは
1 加害者側から提起する訴訟

通常の交通事故訴訟では、被害者が原告となり、加害者等に損害賠償を請求する。債務不存在確認訴訟では、立場が逆になり、加害者側が原告となって、被害者に対する損害賠償債務が存在しないこと又は一定額を超えて存在しないことの確認を求める。
被害者が訴訟を提起しないまま多額の請求を維持している場合等に、加害者側が法律関係を確定させるために利用するものである。

2 確認の利益

確認の訴えが適法であるためには、判決によって現在の権利又は法律関係の不安定を除去する必要性・実効性がなければならない。交通事故の債務不存在確認訴訟では、被害者が当該債権を主張しているか、責任又は損害額に現実の争いがあるか、判決によって紛争を抜本的に解決できるかが問題となる。
確認の利益は、提訴時だけでなく、口頭弁論終結時の状態で判断される。被害者が反訴として損害賠償を請求した場合、債務不存在確認請求がどの範囲でなお必要かも整理される。

第3 確認の利益に関する裁判例
裁判例事案判断の要点東京高裁平成4年7月29日人身事故。被害者欠席の第1回口頭弁論で原審が訴えを却下責任・損害額に争いがあれば原則として確認の利益を肯定。必要な釈明・審理をせず却下した原判決を取消し東京地裁平成9年7月24日物損事故。休車損害額の交渉が1年以上続いたが合意できず原則肯定。ただし損害未確定、不誠実な交渉、困惑目的等で権利濫用となる場合は不適法となり得る東京高裁平成23年8月4日自賠責保険会社が被害者に直接請求権に基づく債務の不存在確認を請求被害者が保険会社に対する当該債権を主張していないため確認の利益を否定東京高裁平成28年11月2日被害者が脳脊髄液減少症の検査予定を主張。原審が送付嘱託を却下して訴えを却下症状固定等を主張立証する機会を原告に与えず却下したのは審理不尽として原判決を取消し、差戻し
1 東京高裁平成4年7月29日判決

東京高裁平成4年7月29日判決(平成4年(ネ)第1316号、判例タイムズ809号215頁、判例秘書L04720249)は、交通事故による責任の有無、損害額及び過失割合等に争いがあり、訴訟外で解決の見込みがない場合には、被害者が訴訟を提起しないことによる法律関係の不安定を除去するため、加害者側から債務不存在確認を求めることが許されるとした。
他方、症状が未固定で損害が拡大する余地がある場合、被害者から何ら請求されていない場合又は誠意ある協議が続いている場合には、確認の必要性・利益が問題となり得るとも述べた。ただし、それらの事情があれば直ちに確認の利益を否定するのではなく、当事者に主張立証の機会を与えて審理する必要があるとした。

2 東京地裁平成9年7月24日中間判決

東京地裁平成9年7月24日中間判決(平成8年(ワ)第643号、判例タイムズ958号241頁、判例秘書L05230238)は、物損事故の休車損害額について1年以上交渉しても双方の主張に隔たりが残った事案で、確認の利益を肯定した。
同判決は、責任又は損害額に争いがあれば特段の事情がない限り確認の訴えを許す一方、①被害が流動的・未確定の時期の提訴、②加害者側の著しく不誠実な交渉態度により訴訟外解決ができなかった場合、③専ら被害者を困惑させる動機による提訴等で権利濫用となる場合には、確認の利益を否定し得ると整理した。

3 東京高裁平成23年8月4日判決

東京高裁平成23年8月4日判決(平成23年(ネ)第3128号・第4581号、交通民集44巻4号851頁、判例秘書L06620757)は、自賠責保険会社が被害者に対し、自賠法16条1項の直接請求権に基づく支払債務が存在しないことの確認を求めた事案である。
同判決は、債務不存在確認訴訟には、被告が当該債権の存在を主張していることが必要であり、債権の要件事実の一つに争いがあるだけでは足りないとした。被害者は保険会社に対する当該直接請求権があるとは主張していなかったため、確認の利益がないとされた。
加害者本人の損害賠償債務と、自賠責保険会社に対する直接請求権は別の権利関係であるから、「誰が原告で、どの債務の不存在確認を求めているか」を区別する必要がある。

4 東京高裁平成28年11月2日判決

東京高裁平成28年11月2日判決(平成28年(ネ)第3199号、自保ジャーナル1990号62頁、判例秘書L07120895)は、被害者が脳脊髄液減少症の可能性を指摘され、専門医の検査を予定していると主張した事案である。
原審は、加害者側が申し立てた診療記録の送付嘱託を却下し、2回の口頭弁論で審理を終結して、確認の利益を欠くとして訴えを却下した。東京高裁は、既に治癒又は症状固定を一応推認させる証拠が提出されており、加害者側には、医療記録等に基づき、事故による脳脊髄液減少症の発症可能性がないことを主張立証する余地があったとして、主張立証の機会を与えないまま却下したのは審理不尽であると判断した。

第4 症状固定前に提訴された場合

症状固定は、治療を続けても症状の改善が見込みにくく、損害を算定する基礎となる状態が定まった時点をいう。症状固定前には、治療費、休業損害、通院慰謝料及び後遺障害の有無・程度が確定していないため、一度の判決で紛争を解決できるかが問題になる。

(続きを読む...)交通事故の債務不存在確認訴訟―症状固定前の提訴と被害者側の対応(AI作成)

双方連続不出頭による訴え取下げ擬制-民訴法263条後段と期日の延期(最高裁令和5年9月27日決定)

◯本記事はAIを利用して作成し,裁判所が公表する決定全文及び現行の民事訴訟法を確認して手直ししたものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

目次

第1 問題の所在
第2 民訴法263条の仕組み
第3 最高裁令和5年9月27日決定

1 事案の経過
2 原審の判断
3 最高裁の判断

第4 決定の射程
第5 訴訟代理人の提出前・期日前チェック
第6 まとめ
第7 出典と確認範囲

第1 問題の所在
当事者双方が口頭弁論又は弁論準備手続の期日に連続して出頭しなかった場合,民事訴訟法263条後段により,訴えの取下げがあったものとみなされることがあります。

では,2回目の期日に裁判所が審理継続の必要があるとして期日を延期し,新たな期日を指定した場合はどうなるのでしょうか。最高裁判所令和5年9月27日第三小法廷決定(令和4年(許)第21号)は,期日の延期・続行措置がとられたというだけで同条後段の適用が当然に排除されるわけではないことを示しました。

(続きを読む...)双方連続不出頭による訴え取下げ擬制-民訴法263条後段と期日の延期(最高裁令和5年9月27日決定)

民事訴訟の当事者が死亡したとき―訴訟手続の中断・受継,訴訟代理人がいる場合,中断中の判決と控訴期間(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断1 中断と受継の条文2 中断は法律上当然に生じる3 相続の対象にならない権利と人事訴訟第3 訴訟代理人がいる場合1 中断しない2 訴訟代理人は承継人の代理人になる3 中断しない理由と例外4 上訴には特別の委任が要る5 上訴の特別の委任もある場合第4 受継の手続1 相続の放棄をすることができる間は受け継げない2 受継の申立てと裁判所の調査3 相続放棄と受継決定の当否4 判決の送達後に中断した場合第5 中断中の判決と控訴期間1 中断中は期間が止まる2 判決の言渡しは中断中でもできる3 中断を見落としてされた判決4 死亡を知ったときに確かめること第6 関連記事第7 出典・参考資料1 裁判例2 法令3 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,民事訴訟の係属中に原告又は被告が死亡した場合に,訴訟手続がどうなるかを整理する。
具体的には,訴訟手続の中断と受継,訴訟代理人がいる場合の扱い,相続の放棄との関係,中断中の判決と控訴期間,中断を見落としてされた判決の是正方法を扱う。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し(同サイトに掲載のない高等裁判所の判決は判例秘書で確認した。),判例秘書で判決の本文を読んだものに限って紹介している(範囲は第7の3のとおり)。

2 結論

①訴訟代理人がいない当事者が死亡すると,訴訟手続は法律上当然に中断し,相続人等が訴訟手続を受け継ぐ(民事訴訟法124条1項1号)。
②訴訟代理人がいる間は,当事者が死亡しても訴訟手続は中断せず(同条2項),訴訟代理人は,その審級では相続人等の訴訟代理人として訴訟を続ける。
訴訟代理人が上訴の特別の委任も受けていた事案で,判決の送達後も訴訟手続は中断せず,控訴期間の経過で判決が確定したと認定した上で,その判決の既判力が相続人に及ぶとした高等裁判所の判決がある。
③相続人は,相続の放棄をすることができる間は,訴訟手続を受け継ぐことができない(同条3項)。
④受継の申立ては相手方もすることができ,裁判所は,申立てに理由があるかを職権で調べる。
⑤中断中は,控訴期間を含む期間の進行が止まり,受継の通知又は続行の時から新たに全期間が進行する(同法132条2項)。
⑥判決の言渡しは中断中でもすることができる(同条1項)が,中断を見落として口頭弁論期日を開き,弁論を終結して判決を言い渡すことは法令違反であり,最高裁判所は,旧民事訴訟法の下で,上告審でそのような判決を破棄している。
⑦離婚訴訟のような人事訴訟(人事訴訟法27条)や,未支給年金の支払を求める訴訟(第2の3)のように,当事者の死亡によって訴訟そのものが終了する場合がある。

第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断
1 中断と受継の条文

民事訴訟法124条1項は,各号の事由があるときは訴訟手続は中断し,各号に定める者が訴訟手続を受け継がなければならないと定める。
当事者の死亡について,同項1号は,受け継ぐべき者を「相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人その他法令により訴訟を続行すべき者」としている。
中断の間に口頭弁論期日を開いて手続を進めることは,法令違反となる(第5の3)。

2 中断は法律上当然に生じる

中断は,裁判所の決定を待たずに生じる。
最高裁判所第三小法廷平成19年3月27日判決(第7の1①)は,外国国家の代表権の消滅による中断について,「訴訟手続の中断は,中断事由の存在によって法律上当然に生ずるもの」であると述べている。
そのため,裁判所や相手方が死亡を知らないまま手続が進むと,後で手続のやり直しが必要になることがある(第5の3)。

3 相続の対象にならない権利と人事訴訟

相続人は,相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するが,被相続人の一身に専属したものは承継しない(民法896条)。
訴訟の対象が相続される権利義務であれば,相続人が訴訟手続を受け継ぐことになる。

最高裁判所第三小法廷平成7年11月7日判決(第7の1⑤)は,昭和60年改正前の国民年金法に基づく年金の受給資格を有する者が国に対して未支給年金の支払を求める訴訟の係属中に死亡し,その子が訴訟手続の受継を申し立てた事案である。
同判決は,未支給年金の請求は相続とは別の立場から一定の遺族に認められたものであり,遺族は社会保険庁長官に対する支給請求とこれに対する処分を経ないで訴訟上未支給年金を請求することはできないとして,原告の地位の当然承継を認めなかった。

(続きを読む...)民事訴訟の当事者が死亡したとき―訴訟手続の中断・受継,訴訟代理人がいる場合,中断中の判決と控訴期間(AI作成)

民事裁判で公開されない手続と公開停止―弁論準備手続の傍聴,裁判所外の尋問,当事者尋問等の公開停止及び記録の閲覧制限(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 公開が求められる範囲1 憲法82条と民事訴訟法2 公開が求められるのは純然たる訴訟事件の裁判第3 口頭弁論の公開停止1 憲法82条2項と裁判所法70条2 公開を禁止した口頭弁論の記録3 ウェブ会議による口頭弁論と公開第4 当事者尋問等の公開停止1 人事訴訟法22条2 特許法105条の7等3 最高裁判所の補足意見と文献4 秘密保持命令との違い第5 口頭弁論以外の手続1 弁論準備手続2 書面による準備手続3 進行協議期日4 和解5 裁判所外の証拠調べと受命裁判官等による尋問6 文書提出命令のインカメラ手続7 決定で完結すべき事件第6 家事事件と非訟事件第7 公開の法廷で行う尋問での保護の措置第8 記録の閲覧制限との違い第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国会会議録4 参考文献5 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,民事裁判のうち,公開の法廷で行われない手続と,公開の法廷で行う審理を例外的に公開しない制度(公開停止)を整理する。
依頼者から「裁判は誰でも傍聴できるのか」「家族や会社の担当者は期日に同席できるのか」「私生活上の秘密や営業秘密を公開の法廷で話さなければならないのか」と尋ねられたときに確認すべき条文と判例をまとめている。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,最高裁判所規則は裁判所ウェブサイトに掲載された条文で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書で判決・決定の全文を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①憲法82条1項は,裁判の対審及び判決を公開法廷で行うと定め,民事訴訟法は,訴訟について裁判所で口頭弁論をしなければならないとし(87条1項本文),口頭弁論の公開の規定に違反したことを上告の理由としている(312条2項5号)。
②最高裁判所の大法廷は,憲法82条にいう裁判は,当事者の主張する実体的権利義務の存否を終局的に確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判のみを指すとしている。
③口頭弁論の対審は,裁判官の全員一致で公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には公開しないで行うことができるが,判決を言い渡すときは再び公衆を入廷させなければならない。
ウェブ会議による口頭弁論についても,裁判官が所在する法廷を公開して行うとの国会答弁がある。
④人事訴訟,特許権・実用新案権・育成者権の侵害に係る訴訟並びに不正競争防止法及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律の不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟には,私生活上の重大な秘密又は営業秘密に係る事項の尋問を公開しないで行う制度(当事者尋問等の公開停止)がある。
法務大臣は,人事訴訟法案の審議で,人事訴訟において裁判の公開を困難とする真にやむを得ない事情があるなどの例外的な場合には,「公の秩序を害する虞がある」ものとして憲法上も公開停止が許容されると答弁している。
⑤弁論準備手続は,当事者双方が立ち会うことができる期日で行われ,第三者の傍聴は裁判所が許した場合に限られるが,当事者が申し出た者は,手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認められる場合を除いて傍聴を許される。
⑥書面による準備手続は当事者の出頭なしに書面の提出等で争点等を整理する手続であり,進行協議期日(民事訴訟規則95条)も口頭弁論の期日外に行われ,裁判所外の証拠調べや受命裁判官等による尋問は裁判所外で行われ,文書提出命令のインカメラ手続で提示された文書は何人も開示を求めることができない。
最高裁判所は,情報公開訴訟において本案の判断のための証拠調べとしてインカメラ審理を行うことは,明文の規定がない限り許されないとしている。
⑦決定で完結すべき事件では,口頭弁論をするか否かを裁判所が定め,家事事件と非訟事件の手続は法律上公開しないとされている。
⑧期日を公開しないことと訴訟記録の閲覧を制限することは別の制度であり,公開の法廷で審理された事件でも,秘密保護のための閲覧等の制限により,秘密が記載された部分の閲覧等を請求できる者が当事者に限られることがある。

第2 公開が求められる範囲
1 憲法82条と民事訴訟法

憲法82条1項は,「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と定める。
民事訴訟法は,当事者は訴訟について裁判所において口頭弁論をしなければならないとし(87条1項本文),口頭弁論の公開の規定に違反したことを上告の理由の一つとしている(312条2項5号)。
このため,公開が問題となる中心は口頭弁論と判決の言渡しである。

最高裁判所大法廷平成元年3月8日判決(レペタ事件)は,憲法82条1項の趣旨を「裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある」とした。
同判決は,同項が「各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより」,傍聴人がメモを取ることを権利として保障するものでもないとしている。
同判決は,裁判の公開を,傍聴人の個別の権利としてではなく,制度として保障されるものと位置付けている。

2 公開が求められるのは純然たる訴訟事件の裁判

最高裁判所大法廷昭和35年7月6日決定は,憲法は「純然たる訴訟事件の裁判については、前記のごとき公開の原則の下における対審及び判決によるべき旨を定めたのであつて」と述べ,純然たる訴訟事件についてされた調停に代わる裁判を憲法82条及び32条に照らし違憲とした。

最高裁判所大法廷昭和40年6月30日決定は,「法律上の実体的権利義務自体につき争があり、これを確定するには、公開の法廷における対審及び判決によるべきものと解する」とした上で,夫婦の同居に関する審判は「本質的に非訟事件の裁判であつて、公開の法廷における対審及び判決によつて為すことを要しない」とした。

(続きを読む...)民事裁判で公開されない手続と公開停止―弁論準備手続の傍聴,裁判所外の尋問,当事者尋問等の公開停止及び記録の閲覧制限(AI作成)

電子署名法3条の推定とは―民事訴訟法228条4項との関係,立会人型電子署名のQ&A及び立証の実務(AI作成)

目次第1 本記事の対象と基準日1 対象2 基準日と資料第2 条文の構造1 電子署名法3条の文言2 「電子署名」の定義3 民事訴訟法228条4項との対応第3 3条の推定が働くための要件1 3条Q&Aが示す2つの要件2 固有性の要件3 本人の意思に基づくこと第4 立会人型の電子契約サービスの位置付け1 どのようなサービスか2 2条の電子署名に当たるための条件3 3条の電子署名に当たるための条件4 「符号及び物件」の適正な管理第5 訴訟で成立の真正が争われたときの立証1 利用者と作成名義人の同一性2 身元確認の水準とサービスの選択3 推定以外の立証手段4 実務上の留意点5 契約成立日,文書の真正及び権限を区別する第6 認定認証業務との関係第7 出典1 法令2 公的資料3 文献4 裁判例
第1 本記事の対象と基準日
1 対象

本記事は,電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)3条が定める電磁的記録の真正な成立の推定について,条文の構造,民事訴訟法228条4項との関係,いわゆる立会人型(事業者署名型)の電子契約サービスに関する政府のQ&A,及び訴訟で成立の真正が争われたときの立証の考え方を整理するものである。
紙の契約書では,本人の署名又は押印があれば文書が真正に成立したものと推定されるが,電子契約では,どのような電子署名があれば同じような推定が働くのかが問題になる。

2 基準日と資料

本記事の調査基準日は令和8年9月26日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で同日に確認した。
令和8年10月3日に,契約成立日を扱った東京地裁令和8年1月20日判決を判例秘書で追加確認し,第5に契約成立・文書の真正・権限の区別を追記した。
電子契約サービスについては,総務省・法務省・経済産業省が令和2年9月4日に公表し,デジタル庁・法務省が令和6年1月9日に一部改定した「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(以下「3条Q&A」という。)の原文による。
電子署名法3条の推定の成否を判断した裁判例は,令和8年9月28日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認した範囲では見当たらなかった。
メールアドレス認証による電子署名がされた契約書について,判例秘書で本文を確認した東京地方裁判所令和7年7月28日判決(令和5年(ワ)第30803号)は,名義人本人がそのメールアドレスを使って署名したかという事実を認定して,主たる債務者側と連帯保証人とで結論を分けている。
この判決と,保証人に電子署名をしてもらうときの実務は,電子契約で保証人に署名してもらうときの注意点で扱っている。

第2 条文の構造
1 電子署名法3条の文言

電子署名法3条は,「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
推定の対象は,公務員が職務上作成したものを除く電磁的記録であり,推定が働くための前提は,本人による電子署名であって,本人だけが行うことができることとなるものが行われていることである。

2 「電子署名」の定義

電子署名法2条1項は,「電子署名」を,電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって,「当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。」及び「当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。」の2つの要件のいずれにも該当するものと定義している。
3条の電子署名は,この2条1項の電子署名に当たることを前提に,さらに「本人だけが行うことができることとなるもの」に限定されている。
電子署名法1条は,同法の目的として,電子署名に関し,電磁的記録の真正な成立の推定,特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めることを掲げている。

3 民事訴訟法228条4項との対応

民事訴訟法228条1項は,「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と定め,同条4項は,「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
電子署名法の法律案を内閣法制局第四部長として審査した山本庸幸元内閣法制局長官は,回想録の中で,同法3条を民事訴訟法228条4項のいわばデジタル版として置いたと説明している(山本庸幸『元内閣法制局長官・元最高裁判所判事回想録』(弘文堂,令和6年)265頁~266頁)。
押印された私文書について,印影が本人の印章によるものであれば本人の意思に基づく押印と事実上推定され,その上で228条4項の推定が働くという「二段の推定」については,二段の推定とはで扱っている。

令和8年5月21日に施行された民事訴訟法231条の3第1項は,電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べ(同法231条の2)について,「第二百二十条から第二百二十八条まで(同条第四項を除く。)」の規定を準用するとしている。
したがって,電子契約のデータを電磁的記録として証拠調べする場合には,228条4項の推定は準用されず,電子署名法3条の推定が働くかどうかと,民事訴訟法247条による自由な心証での判断が問題になる。

第3 3条の推定が働くための要件
1 3条Q&Aが示す2つの要件

3条Q&A問1は,電子署名法3条の規定が適用されるためには,次の2つの要件が満たされる必要があるとしている。
①電子文書に電子署名法3条に規定する電子署名が付されていること。

(続きを読む...)電子署名法3条の推定とは―民事訴訟法228条4項との関係,立会人型電子署名のQ&A及び立証の実務(AI作成)

上告不受理決定は原判決を正しいと認めたことになるか―受理の判断要素,軽審議及び反対意見付きの不受理(AI作成)

目次第1 本記事の概要1 結論2 資料と基準日第2 上告受理申立て制度の仕組み1 上告と上告受理申立ての違い2 申立ての期間と理由書3 上告審の調査範囲第3 最高裁判所の審理の流れ1 約95%は持ち回り審議で処理される2 第三小法廷の軽審議3 期日審議第4 受理・不受理の判断要素1 条文上の要件2 宇賀氏が挙げる七つの判断要素3 判断の機が熟していないことを理由とする不受理4 経験則違反・採証法則違反による受理第5 不受理決定の意味と読み方1 不受理決定は原審判断を是認したものではない2 不受理決定に反対意見を付けることをめぐる議論3 反対意見付きの不受理の件数と令和3年の表記変更第6 受理決定と論旨の排除・職権調査1 受理決定での論旨の一部排除2 申立て理由に書かれていない誤りは取り上げられない3 職権調査事項は申立て理由に拘束されない4 条約違反の主張の扱い第7 口頭弁論期日の指定の意味1 口頭弁論が開かれる場合2 棄却見込みでも弁論を開く運用3 期日指定後の和解・取下げ第8 代理人・当事者の実務上の留意点1 理由書では七つの判断要素に即して重要性を示す2 拾ってほしい誤りはすべて論旨にする3 依頼者への説明第9 出典1 法令2 裁判例3 文献第10 関連記事
第1 本記事の概要
1 結論

上告不受理決定は,最高裁判所が原判決の判断を正しいと認めたことを意味するものではない。
不受理決定は,上告受理の申立ての理由に「法令の解釈に関する重要な事項」を含むとは認められないとして,最高裁判所が事件に介入しないことを示すものにとどまる。
宇賀克也最高裁判所判事(当時。令和7年7月定年退官)も,著書で,原審の判断に問題があると考えつつ介入するほどではないとして不受理とされることや,判断の機が熟していないことを理由に不受理とされることがあると説明している(宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)35頁~36頁)。

本記事は,上告受理の申立てをした当事者,申立てを受けた相手方及びその代理人を読者として想定し,①上告受理申立て制度の条文上の仕組み,②最高裁判所の内部での審理の流れ,③受理・不受理の判断要素,④不受理決定の意味と反対意見付きの不受理,⑤受理決定での論旨の排除と職権調査,⑥口頭弁論期日の指定の意味,⑦依頼者への説明を含む実務上の留意点を順に説明する。
本記事は,AIを用いて作成したものである。

2 資料と基準日

条文は,令和8年9月25日にe-Gov法令検索で確認した民事訴訟法及び裁判所法の現行条文による。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し,判決文は同サイト掲載の全文PDFから引用した。

最高裁判所の内部の運用については,宇賀氏の前掲書に依拠する。
同氏は,平成31年3月に最高裁判所判事に就任し,令和7年7月に定年退官するまで第三小法廷に所属していた(宇賀・前掲2頁,10頁)。
内部の運用は公的資料では裏付けられないため,本記事では,本書に依拠する部分を「宇賀氏は……と述べている」などの形で示し,条文や判決文から確認できる事項と区別する。
本書が説明する運用は,著者の在任期間中のもの,特に第三小法廷のものであり,他の小法廷や現在の運用が同じであるとは限らない。

第2 上告受理申立て制度の仕組み
1 上告と上告受理申立ての違い
(1) 上告の理由は憲法違反と絶対的上告理由に限られる

高等裁判所の判決に対して最高裁判所に不服を申し立てる方法には,上告と上告受理の申立ての二つがある。
民事訴訟法312条1項は,「上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。」と定める。
同条2項は,判決裁判所の構成の違法,代理権の欠缺,判決の理由不備・理由の食違い等の事由(いわゆる絶対的上告理由)を掲げる。
最高裁判所への上告では,単なる法令違反は上告の理由にならない。

(2) 上告受理は最高裁判所の裁量による

上告受理申立ては,すべての法令違反を審査させる制度ではない。判例相反その他の法令解釈に関する重要な事項を含む事件について,最高裁判所に受理を求める制度である。
民事訴訟法318条1項は,「上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。」と定める。
同条2項は,上告受理の申立てにおいては「第三百十二条第一項及び第二項に規定する事由を理由とすることができない。」と定めており,憲法違反・絶対的上告理由は上告で主張し,それ以外の法令違反は,判例相反又は法令解釈上の重要性を備える場合に上告受理申立ての対象となる。
条文は「受理することができる」と定めており,受理するかどうかは最高裁判所の判断に委ねられている。
宇賀氏も,受理のハードルは高く,大半の申立ては不受理になると述べている(宇賀・前掲32頁)。

2 申立ての期間と理由書
(1) 申立ては2週間の不変期間内にする

(続きを読む...)上告不受理決定は原判決を正しいと認めたことになるか―受理の判断要素,軽審議及び反対意見付きの不受理(AI作成)

訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備え(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 訴訟告知の要件と方式1 誰が誰に告知できるか2 告知書の記載3 告知の時期第3 告知の効力―参加的効力1 条文2 既判力とは異なる効力3 効力が及ぶ理由中の判断の範囲4 法律上の利害関係がなければ効力は生じない5 効力が及ばない場合(46条各号)6 既判力と参加的効力の比較第4 効力はどちらの向きに働くか第5 訴訟告知を検討する場面1 敗訴すると第三者へ請求することになる場合2 共同被告との関係3 告知だけでは相手に対する債務名義にならない第6 法律が訴訟告知を義務付けている場面第7 訴訟告知を受けた側の対応第8 告知書を出す前の確認事項第9 本記事で扱わなかった事項第10 関連記事第11 出典
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,民事訴訟の当事者が,訴訟の係属中に第三者へ訴訟告知をするのはどのような場合か,告知をするとどのような効力が生じるかを扱う。
典型は,敗訴した場合に第三者へ求償又は損害賠償を請求することになる当事者が,後の訴訟で同じ事実を一から争われないようにするために告知をする場面である。

当初の調査基準日は令和8年9月25日であり,第4の援用の方向について令和8年10月4日に公開資料に基づく修正をした。
条文はe-Gov法令検索の現行条文を,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で全文を確認した最高裁判例を用いた。
前の訴訟の判決を後の訴訟でどう使うか(既判力,裁判上の自白及び証拠価値)は別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるかで,補助参加の具体例は遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加で扱っている。

2 結論

①訴訟告知は,当事者が,訴訟の係属中に,その訴訟に参加することができる第三者に対してするものであり,理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してする(民事訴訟法53条1項・3項)。
②告知を受けた者が参加しなかった場合も,参加することができた時に参加したものとみなされ,補助参加人に対する裁判の効力を受ける(同法53条4項,46条)。
③この効力は既判力ではなく,判決の確定後に,補助参加人(告知を受けた者)が被参加人(告知をした者)に対して,その判決が不当であると主張することを禁ずる効力である。
判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の判断にも及ぶ(最高裁昭和45年10月22日判決)。
④もっとも,効力が及ぶ理由中の判断は,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限られ,傍論には及ばない。
また,告知を受けた者が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合でなければ,効力は生じない(最高裁平成14年1月22日判決)。
⑤既判力は当事者等の間に生じるもので(同法115条1項),同じ原告から訴えられた共同被告どうしの間には当然には生じない。
後で求償や損害賠償を請求する相手との関係は,前の訴訟の段階で手当てを考える必要がある。
⑥債権者代位訴訟,詐害行為取消訴訟及び株主代表訴訟では,法律が訴訟告知を義務付けている(民法423条の6,424条の7第2項,会社法849条4項)。

第2 訴訟告知の要件と方式
1 誰が誰に告知できるか

民事訴訟法53条1項は,「当事者は、訴訟の係属中、参加することができる第三者にその訴訟の告知をすることができる。」と定める。
告知をするのは訴訟の当事者であり,告知を受けるのは,その訴訟に参加することができる第三者である。
訴訟告知を受けた者は,更に訴訟告知をすることができる(同条2項)。

「参加することができる第三者」の中心は,補助参加をすることができる者である。
補助参加は,「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」が,当事者の一方を補助するためにする参加である(同法42条)。
最高裁平成14年1月22日判決は,ここにいう法律上の利害関係を有する場合とは,「当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合」をいうとしている(同判決は最高裁平成13年1月30日決定を参照している。)。
単に事実上又は経済上の影響を受けるというだけでは足りない。

2 告知書の記載

訴訟告知は,その理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してしなければならない(民事訴訟法53条3項)。
「理由」には,告知を受ける者がなぜその訴訟に参加することができるのか,すなわち,その訴訟の判決が告知を受ける者のどの法的地位に影響するのかを具体的に書く。

(続きを読む...)訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備え(AI作成)

請求の追加・変更で裁判上の自白はどうなるか―主要事実・間接事実・不利益要件・自白の撤回(AI作成)

目次第1 結論第2 裁判上の自白の対象と効果第3 請求の追加・変更で事実の役割が変わる第4 先行自白と不利益要件第5 自白の撤回が許される場合第6 実務上の主張整理第7 出典と調査範囲

第1 結論

ある事実を認めた時点では請求原因と直接関係しない間接事実であっても、その後に請求が追加又は変更されると、新しい請求の主要事実になることがある。この場合、以前の陳述が新しい請求との関係でも裁判上の自白として拘束力を持つかが問題となる。

結論を出すには、①いつ、どの手続で、どの文言を陳述したか、②陳述時と請求追加後の各訴訟物・要件事実、③相手方がその陳述を援用したか、④裁判上の自白に「陳述時に自己に不利益であること」を必要とするか、⑤相手方が証明不要との信頼を形成したか、⑥撤回原因があるかを順に確認する。

単に「一度認めたから撤回できない」とも、「当時は間接事実だったから自由に撤回できる」とも即断できない。事実の同一性、陳述の訴訟上の意味及び相手方の手続的信頼を具体的に分析する必要がある。

第2 裁判上の自白の対象と効果

民事訴訟法179条は、裁判所において当事者が自白した事実は証明を要しないと定めている。一般に、裁判上の自白が成立すると、相手方はその事実を証明する必要がなくなり、裁判所も当事者間に争いのない主要事実として扱う。

対象は具体的な事実である。法律関係の存否、法的評価、証拠の信用性に関する意見又は単なる抽象的評価は、それ自体として自白の対象にならない。陳述を切り取らず、準備書面の前後、認否の対象となった相手方の主張、期日調書及び釈明応答を併せて読む。

また、主要事実についての自白と、間接事実又は補助事実を認める陳述は区別される。間接事実についての陳述は証拠評価を拘束しないのが原則であるが、後に訴訟構造が変われば、同一の具体的事実が新請求の要件事実になることがある。

第3 請求の追加・変更で事実の役割が変わる
1 陳述時の位置付け

まず、従前の請求について訴訟物と要件事実を特定し、問題の事実が主要事実、間接事実又は背景事情のいずれであったかを確認する。答弁書で「認める」と記載されていても、何を認めたのかが抽象的であれば、自白の対象となる具体的事実を特定できない場合がある。

2 請求追加後の位置付け

次に、追加された請求の法律要件を分解し、以前に認めた事実がどの要件を基礎付けるかを示す。例えば、当初は契約上の請求だけが審理されていたところ、後に不法行為請求が追加されると、行為主体、故意・過失又は因果関係に関する事実の重要性が変わり得る。

3 事実の同一性

以前の陳述と相手方が新請求で援用する事実が本当に同一かを確認する。「関与した」「了承した」「受領した」などの表現は、時期、対象、行為態様及び認識内容を欠くことがある。新請求の要件事実として必要な具体性を備えなければ、以前の抽象的陳述をそのまま自白とすることはできない。

4 請求追加の時点

請求追加前に陳述が撤回されたか、相手方が援用する前か後か、裁判所が争いのない事実として整理したかを時系列で確認する。請求追加と同時に認否を整理し直す機会が与えられたかも重要である。

第4 先行自白と不利益要件

相手方が主張する前に、自らある事実を陳述し、後に相手方がこれを援用する場合は先行自白が問題となる。裁判上の自白を「相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述」と捉える見解では、後の援用によって自白が成立し得る。

他方、裁判上の自白を「相手方の主張する不利益事実を争わない旨の陳述」と捉える見解では、陳述時に自己に不利益な事実として認識されず、争う対象にもなっていなかった場合に、自白の成立を否定する余地がある。

請求の追加によって初めて不利益性が生じた場合、前者は事実の同一性と相手方の援用を重視し、後者は陳述時の争点と不利益性の認識を重視することになる。どちらの立場でも、相手方が証明活動を省略したか、争点整理で争いのない事実として扱われたかは、撤回制限の根拠を考える上で重要である。

裁判所公開裁判例の中には、抽象的な「保育への関与」が過失を基礎付ける具体性を欠く間接事実にとどまり、撤回前に相手方が援用していなかったことから、自白の成立を否定した下級審判決がある。これは事案判断であり、請求追加により事実の法的役割が変わる全場面を一律に解決するものではない。

第5 自白の撤回が許される場合

司法研修所の教材は、要件事実について成立した自白の撤回が許される場合として、①相手方の同意があるとき、②自白の内容が真実に反し、かつ錯誤によってされたとき、③刑事上罰すべき他人の行為によって自白したときを挙げている。

(続きを読む...)請求の追加・変更で裁判上の自白はどうなるか―主要事実・間接事実・不利益要件・自白の撤回(AI作成)

争点整理後に新しい主張・証拠が出た場合―民事訴訟法157条・167条と却下申立て(AI作成)

目次

第1 結論
第2 時機に後れた攻撃防御方法の三要件
第3 「時機に後れた提出」を時系列で示す
第4 故意又は重大な過失
第5 訴訟完結の遅延を具体化する
第6 理由説明要求と提出期限徒過の説明
第7 却下申立ての書き方
第8 新主張・証拠を提出する側の対応
第9 実務チェックリスト
第10 関連記事
第11 出典と調査範囲

第1 結論

争点整理後又は口頭弁論終結に近い時期に,新しい主張・証拠が出たというだけで,当然に却下されるわけではない。民事訴訟法157条1項による却下には,①時機に後れて提出したこと,②提出者に故意又は重大な過失があること,③その提出により訴訟の完結が遅延することが必要である。

相手方としては,「もっと早く出せたはずだ」と抽象的に述べるのではなく,入手時期,従前の釈明・争点整理,提出予告,必要となる反論・反証,再尋問又は追加鑑定及び予定していた審理終結への影響を一つの時系列で示す。

準備的口頭弁論又は弁論準備手続の終結後であれば,同法167条・174条により,整理手続終了前に提出できなかった理由の説明を求めることができる。説明の拒絶又は不合理な説明は,却下を自動的に生じさせるものではないが,時機後れ又は重大な過失を認定する資料となり得る。

第2 時機に後れた攻撃防御方法の三要件

民事訴訟法157条1項は,当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法について,それにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたとき,裁判所が申立て又は職権で却下できると定める。

三要件は累積的に検討する。提出が遅く見えても,新たな証拠調べを要せず予定期日に弁論を終結できるなら,遅延要件を欠くことがある。反対に,法律構成だけの追加でも,相手方の防御のため審理続行が必要なら,攻撃防御方法として問題となり得る。

第3 「時機に後れた提出」を時系列で示す

次の時点を表にする。

主張又は証拠の基礎事実を知った時期
資料を入手できた時期
裁判所又は相手方が関連事項を指摘した時期

(続きを読む...)争点整理後に新しい主張・証拠が出た場合―民事訴訟法157条・167条と却下申立て(AI作成)

訴訟中に目的物・権利を譲り受けた者への訴訟引受け―民事訴訟法50条と訴訟状態承認義務(AI作成)

目次

第1 結論
第2 民事訴訟法50条・51条の手続
第3 誰が「承継人」に当たるか
第4 紛争の主体たる地位を三段階で確認する
第5 訴訟状態承認義務(承継効)
第6 承継効の例外を検討する場合
第7 申立て前に固定する事実と証拠
第8 申立てを受けた側の反論
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論

訴訟の係属中に,目的物,権利又は義務に関係する地位が第三者へ移った場合,従前の当事者との訴訟をそのまま続けても,判決による実効的解決ができないことがある。民事訴訟法50条・51条は,一定の場合に,その第三者を訴訟へ引き受けさせる仕組みを置いている。

ただし,「紛争を一回で解決できるから」という理由だけで承継人とすることはできない。①従前の当事者を適切な当事者にしていた実体法上の地位,②その地位を第三者へ移した事実,③その地位が第三者を新たな請求の適切な当事者にする理由を順に示す必要がある。

引受け後の第三者が従前の訴訟状態にどこまで拘束されるかは,「訴訟状態承認義務」又は「承継効」の問題である。相手方が従前訴訟で得た地位の保護と,前主に与えられた主張立証機会によって承継人の手続保障を代替できるかを中心に,承継原因発生時を基準として検討する。

第2 民事訴訟法50条・51条の手続

民事訴訟法50条1項は,訴訟係属中に第三者が訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したとき,当事者の申立てにより,裁判所が決定で第三者に訴訟を引き受けさせることができると定める。裁判所は,当事者と第三者を審尋しなければならない(同条2項)。

同法51条は,義務承継人による参加と,訴訟係属中に第三者が訴訟の目的である権利の全部又は一部を譲り受けた場合の訴訟引受けについて,47条から50条までの規定を準用する。誰が申立人となり得るか,権利承継か義務承継か,引受決定後に従前当事者が残るかという手続は,具体的な申立ての種類と準用条文を確認する。

訴訟引受けは,当事者表示を単に書き換える手続ではない。引受決定を求める申立書では,係属事件,従前の請求,承継原因,承継した地位及び第三者に対する請求内容を特定する。

第3 誰が「承継人」に当たるか

「訴訟の目的である権利又は義務」を,従前の訴訟物と完全に同一の権利義務だけに限定すると,訴訟中の処分によって相手方が従前訴訟で得た地位を失う場合がある。他方,紛争に関係する第三者を広く承継人にすると,第三者の手続保障を害する。

そこで,形式的な訴訟物の同一性だけでなく,従前当事者が紛争の適切な主体であった実体法上の地位が第三者へ移り,その第三者が同じ紛争について適切な相手方となったかを検討する。例えば,建物所有者に対する建物収去・土地明渡請求の係属中に第三者が建物を取得して占有した場合,第三者への請求が建物退去・土地明渡しとなり,給付内容が完全には一致しないことがある。それでも,建物所有・占有を通じて土地明渡義務を現実に左右する地位が移ったかが問題になる。

第4 紛争の主体たる地位を三段階で確認する

申立てでは,次の三段階を一文ずつ示すと,抽象的な「紛争主体の承継」で終わりにくい。

(続きを読む...)訴訟中に目的物・権利を譲り受けた者への訴訟引受け―民事訴訟法50条と訴訟状態承認義務(AI作成)

訴訟資料に著作物を利用する場合の著作権―複製・mints提出・引用・事件外共有を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける
第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
第3 裁判手続のための複製
第4 mints提出と公衆送信等
第5 引用として利用する場合
第6 鑑定書・意見書と画像
第7 事件外共有・広報・研修への転用
第8 提出前チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける

訴状、準備書面、証拠説明書、鑑定書又は意見書に他人の論文、写真、図面、ウェブ画面等を使う場合、「裁判だから自由に使える」と一括してはいけない。少なくとも、①資料を取得する、②紙又はPDFへ複製する、③裁判所・相手方へ提出又は送信する、④法廷で表示する、⑤事件外で依頼者・関係者・研修参加者等へ共有する、という行為を分ける。

著作権法41条の2は裁判手続に必要な利用を認める重要な規定であるが、必要な限度と著作権者の利益を不当に害しないことが条件である。違法に入手した資料の取得を適法化したり、事件外の公表・二次利用を当然に許したりする規定ではない。

第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
確認事項具体例
著作物性論文本文、写真、図表、設計図、地図、ソフト画面の創作的表現
保護されない部分単なる事実、法令、裁判所の判決そのもの、ありふれた短文
権利者著作者、勤務先、出版社、写真提供者、共同著作者
利用行為複製、公衆送信、上映・口述、譲渡、翻案
入手経路正規購入、契約DB、依頼者提供、公開ウェブ、第三者からの流出
契約条件データベース利用規約、ライセンス、秘密保持、個人情報

著作権法上利用できる場合でも、契約上の利用制限、営業秘密、個人情報、プライバシー、訴訟記録の閲覧等制限は別に検討する。

第3 裁判手続のための複製

著作権法41条の2第1項は、裁判手続のために必要と認められる場合、必要と認められる限度で著作物を複製できる旨を定める。ただし、著作物の種類・用途、複製部数・態様等に照らして著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。

「必要」は、争点との関連性だけでなく、全文が必要か該当頁で足りるか、カラー高精細画像が必要か、提出部数が適切かという範囲にも及ぶ。証明対象、立証趣旨、必要部分を先に書き出すと、過剰な複製を避けやすい。

裁判手続のための複製は、資料を適法に取得する権利まで与えるものではない。ID・パスワードの不正使用、アクセス制御の回避、秘密情報の不正取得等は別問題である。

第4 mints提出と公衆送信等

(続きを読む...)訴訟資料に著作物を利用する場合の著作権―複製・mints提出・引用・事件外共有を分ける(AI作成)

AIで証拠説明書を作成・監査する方法―原資料・援用箇所・立証趣旨・頁の四点照合(AI作成)

目次

第1 AIで証拠説明書を作るときの基本方針
第2 原資料・援用箇所・立証趣旨・頁を四点照合する
第3 作成前に証拠台帳を作る
第4 各欄を原資料に基づいて記載する

1 号証
2 標目
3 原本・写し・電磁的記録の区別
4 作成年月日及び作成者
5 立証趣旨

第5 準備書面の援用箇所から逆算する
第6 引用頁を二つの資料で照合する
第7 内部確認表と提出用書面を分ける
第8 完成ファイルを開き直して確認する
第9 提出直前と提出後に確認する
第10 AIを使っても人が判断すべき事項
第11 出典・参考資料

AIは,書証の候補を整理し,証拠説明書の下書きを作り,号証・標目・頁の不一致を探す作業に利用できる。
しかし,提出する書証の採否,立証すべき事実の選択及び完成版の確認は,事件記録と原資料を確認できる人が行う必要がある。

本記事は,AIを利用して民事訴訟の証拠説明書を作成・監査するときの一般的な手順を扱う。
調査の基準日は令和8年9月23日であり,同日に施行されている民事訴訟法及び民事訴訟規則並びに同日までに公表された裁判所資料を確認した。

(続きを読む...)AIで証拠説明書を作成・監査する方法―原資料・援用箇所・立証趣旨・頁の四点照合(AI作成)

同名会社・商号変更がある民事訴訟の当事者確定―自白の撤回・法人格濫用・別訴併合(AI作成)

第1 結論―名称より先に法人そのものを特定する
第2 同名会社・商号変更を見分ける資料
第3 表示の訂正と別法人への請求は異なる
第4 法人格濫用による責任追及
第5 裁判上の自白を撤回できる場合
第6 訴訟中に別法人を追加したい場合
第7 実務チェックリスト
第8 法令・裁判例

第1 結論―名称より先に法人そのものを特定する

同じ商号の会社が複数存在する場合や、契約後に商号・本店・代表者が変わった場合には、現在の商号だけで被告を決めてはならない。訴えを提起する前に、契約時から提訴時までの法人の同一性を、法人番号、会社法人等番号、設立年月日、本店及び商号の履歴によって確認する必要がある。

訴状では、当事者欄だけでなく、請求の趣旨、請求原因、契約日、契約書上の表示、振込先及び履行主体が同じ法人を指すように記載する。名称の誤記を直す場合と、別の法人へ請求相手を変更する場合とでは、手続が異なる。

第2 同名会社・商号変更を見分ける資料

国税庁法人番号公表サイトで確認できる13桁の法人番号は、商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地と法人を照合するために有用である。ただし、訴訟上の代表権や過去の登記履歴を証明するものではない。

株式会社については、現在事項証明書だけで判断せず、必要に応じて履歴事項全部証明書及び閉鎖事項証明書を取得する。12桁の会社法人等番号、設立年月日、組織変更、合併、会社分割、本店移転、商号変更及び代表者の就退任を時系列にする。

登記だけでなく、契約書、注文書、請求書、領収書、振込口座名義、電子メールのドメイン、店舗の占有、ウェブサイト及び顧客向け通知も照合する。事業を行っていた会社と、代金を受領した会社が異なる場合には、その理由を確認する。

徳島地裁平成25年7月31日判決(平成21年(ワ)第607号、判例秘書L06850816)は、同じ商号の複数会社が関係した事業移転後の保証請求につき、保証契約書に実際の保証会社の本店・代表者が明記され、債権者もその会社を認識していたとして、名板貸責任の前提となる誤認を否定した。旧会社の名板貸責任を会社法22条で新会社が承継するという主張もあったが、判決はこの一般論を積極的に認めたものではない。契約書の商号だけでなく、本店・代表者、締結時の認識まで確認する必要がある。判例秘書の判決本文で確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

第3 表示の訂正と別法人への請求は異なる

民事訴訟法133条2項1号は、訴状に当事者の表示を記載することを求めている。表記の一部に誤りがあっても、訴状全体から当初から意図された法人が一つに定まるときは、表示の訂正として扱う余地がある。

最高裁平成19年3月27日第三小法廷判決は、訴状の原告欄に「中華民国」と表示されていた事件で、訴状の表示のほか、訴訟代理権を授与した者や当事者の主張の経過等の事実も踏まえて、原告として確定されるべき者を国家としての中国とした。このように、当事者の確定では、訴状の表示を出発点としつつ、その記載全体と関係する事実が考慮されることがある。同判決の内容は、光華寮訴訟とは―中国政府の承認,原告の確定及び訴訟手続の中断・受継で整理している。

これと異なり、本人の知らないうちに、偽造の委任状によって訴訟がされる場合もある。大審院昭和10年10月28日判決(昭和7年(オ)第2872号、大審院民事判例集14巻20号1785頁)の判決要旨は、偽造の委任状による訴訟代理人が訴えを提起し、裁判所が本人に対して言い渡した判決が確定したときは、本人は再審の訴えを提起できるとしている。また、最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決は、甲が乙と通謀して丙を相手方とする支払命令等を申し立て、乙が丙本人のように装ってその正本等を受領し、裁判を確定させた事案で、その債務名義の効力は丙に対しては及ばず、丙に対する関係では無効であるとした。同判決は、甲と乙が故意に丙の防御の機会を奪った点を理由とし、単に丙が事実上訴訟行為等に関与できなかった場合とは異なるとしている。本人が関与しないまま判決が確定した場合の救済は、訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)の「追完の期間も過ぎた場合」で整理している。

これに対し、訴状全体が旧会社を被告としており、後から新会社も責任を負うと分かった場合には、単なる商号訂正ではない。別法人を被告とする訴えを提起し、その法人へ訴状を送達して防御の機会を保障する必要がある。

誤った法人について得た判決を、別法人の財産に当然に執行できるわけではない。訴訟開始時に法人の同一性を固定することは、送達、判決の効力及び強制執行の対象を一致させるために重要である。

第4 法人格濫用による責任追及

最高裁昭和48年10月26日第二小法廷判決は、旧会社が債務免脱の意図で企業の形態・内容を実質的に維持した新会社を設立した事案で、法人格の濫用を理由に、新会社が旧会社と別法人であることを債権者に主張できないとした。

この法理は、二つの会社を同一法人として表示訂正するものではない。別法人であることを前提に、設立目的、支配者、事業、従業員、店舗、資産、取引先及び債務処理の連続性から、別法人であることを盾に責任を免れる主張が許されるかを判断するものである。

したがって、訴状では、当事者の確定と法人格濫用の主張を分ける。法人格濫用を主張する場合には、会社間の関係を抽象的に述べるだけでなく、資産移転の時期・対価、営業主体の表示、債権者への説明及び旧会社に残された財産を具体化する。

第5 裁判上の自白を撤回できる場合

民事訴訟法179条により、当事者が裁判所で自白した事実については証明を要しない。答弁書や準備書面で「認める」と述べた事実を、訴訟上不利になったという理由だけで自由に撤回することはできない。

(続きを読む...)同名会社・商号変更がある民事訴訟の当事者確定―自白の撤回・法人格濫用・別訴併合(AI作成)

民事訴訟における法的観点指摘義務―弁論主義・釈明権・事実主張を促すこととの違い(AI作成)

目次第1 結論第2 弁論主義・釈明権・法的観点指摘義務の区別第3 最高裁昭和55年2月7日判決―主張のない主要事実を認定できない場合第4 最高裁平成22年10月14日判決―不意打ちとなる法的構成を採用する場合第5 法的観点を指摘すべき必要性が高まる事情第6 事実主張を促すこととの違い第7 代理人がとるべき実務対応1 判決後は失われた反論・反証の機会を特定する2 求釈明の不申出と責問権の喪失を同一視しない第8 令和7年司法試験から得られる学び第9 確認用チェックリスト第10 調査範囲と留保第11 関連記事第12 出典

第1 結論

民事訴訟では,裁判所が当事者の主張していない主要事実を判決の基礎にすることと,当事者が主張した事実に別の法的評価を与えることは,同じ問題ではない。

前者は弁論主義の第一原則との関係で問題となる。
後者は,法律の適用が原則として裁判所の職責に属するとしても,当事者にとって予測できない法的構成によって結論を出すなら,反論・反証の機会を実質的に保障するために,裁判所がその法的観点を指摘すべき場合がある。

もっとも,「法的観点指摘義務」は,裁判所が当事者に代わって請求原因や抗弁の事実を作る義務ではない。
事実の提出主体と法律評価の主体を分け,さらに,訴訟の経過から本当に不意打ちとなるかを具体的に検討する必要がある。

第2 弁論主義・釈明権・法的観点指摘義務の区別

民事訴訟法149条1項は,裁判長が訴訟関係を明瞭にするため,事実上及び法律上の事項について当事者に問いを発し,又は立証を促すことができると定めている。
これが釈明権である。

これに対し,弁論主義の第一原則(主張原則)は,裁判所が当事者の主張していない主要事実を判決の基礎にしてはならないという原則である。
条文に同じ表現の規定があるわけではなく,民事訴訟の基本原則として判例・学説上認められている。

また,民事訴訟法246条は,裁判所が当事者の申し立てていない事項について判決できないと定める。
これは処分権主義に関する規定であり,請求の範囲の問題である。
主要事実の提出に関する弁論主義とは区別しなければならない。

法的観点指摘義務は,当事者が提出した事実に裁判所が予想外の法律構成を与えようとする場面で,釈明権の適切な行使や当事者の弁論権の実質的保障が問題となるものである。
名称だけを暗記するより,①誰が提出すべき事実か,②どの法的構成が審理の対象になっていたか,③反論・反証の機会が与えられたかを分けて考える方が実務的である。

第3 最高裁昭和55年2月7日判決―主張のない主要事実を認定できない場合

最高裁昭和55年2月7日第一小法廷判決(昭和52年(オ)第1144号,民集34巻2号123頁,判例秘書L03510014)は,不動産の相続取得をめぐる事件である。

原告らは,被相続人が土地を買い受け,その死亡により共同相続したと主張した。
被告は,土地を買ったのは被相続人ではなく被告の亡夫であると主張した。
ところが原審は,被相続人が土地を買った後,被告の亡夫に死因贈与したと認定して原告らの請求を排斥した。

最高裁は,被相続人による所有権喪失原因は,相続取得を争う側が抗弁として主張立証すべき事実であると整理した。
その上で,被告が抗弁として主張していない死因贈与の事実を原審が認定したことは,弁論主義に違反するとした。

この判決の核心は,「証拠上うかがわれる事実なら裁判所が自由に採用できる」とはいえない点である。
証拠は主張された主要事実を認定する資料であり,証拠に現れたからといって,主張されていない主要事実が当然に判決の基礎になるわけではない。

もっとも,最高裁昭和33年7月8日第三小法廷判決(昭和31年(オ)第764号,民集12巻11号1740頁)は,当事者本人間で契約が成立したとの主張に対し,原審が代理人との間で契約が締結されたと認定した事案で,契約が本人によってされたか代理人によってされたかで法律効果に変わりはないとして,弁論主義に反しないとした。
代理の事実が主張されないまま証言に現れた場合,この判例があるため,弁論主義違反を理由とする上訴が当然に通るとはいえない。
代理人としては,証拠調べで代理の事実が現れた段階で,これを主張に取り込むか,争うかを準備書面で明示しておくことが望ましい。

第4 最高裁平成22年10月14日判決―不意打ちとなる法的構成を採用する場合

最高裁平成22年10月14日第一小法廷判決(平成20年(受)第1590号,集民235号1頁,判例秘書L06510107)は,大学教授が雇用契約上の地位確認と賃金等の支払を求めた事件である。

当事者間で実際に争われていた中心は,定年を80歳とする合意があったかどうかであった。
第一審は弁論準備手続で争点をその点に絞り,本人・証人尋問を行った上で合意を認めず請求を棄却した。
控訴審でも,控訴理由と答弁は専ら合意の存否に関するものであった。

それにもかかわらず控訴審は,当事者双方が主張していなかった信義則違反という法律構成を採用し,定年退職の1年前までに定年規程の厳格な適用と再雇用をしない旨を告知すべき義務を認め,具体的な告知から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係で定年退職の効果を主張できないとして賃金請求の一部を認容した。

最高裁は,控訴審が原告に信義則違反を主張するか明らかにするよう促し,被告に十分な反論・反証の機会を与える措置をとらないまま判断したことには,釈明権の行使を怠った違法があるとした。

この判決は,裁判所が当事者の主張した事実に法を適用する権限を一般に否定したものではない。
争点整理,証拠調べ,第一審判決,控訴理由及び答弁という具体的な訴訟経過の下で,信義則違反という新たな法的観点が不意打ちとなり,攻撃防御の機会が欠けたことを重視した事例判決である。

第5 法的観点を指摘すべき必要性が高まる事情

平成22年判決及び令和7年司法試験の出題趣旨を踏まえると,次の事情が重なるほど,法的観点を事前に示して当事者に意見・立証の機会を与える必要性が高まると考えられる。

(続きを読む...)民事訴訟における法的観点指摘義務―弁論主義・釈明権・事実主張を促すこととの違い(AI作成)

任意的訴訟担当とは―最高裁大法廷昭和45年11月11日判決と共同事業・多数債権者の訴え(AI作成)

第1 任意的訴訟担当とは第2 最高裁大法廷昭和45年11月11日判決第3 認められるための三つの確認第4 共同事業・共有者・多数債権者での使い分け第5 訴訟代理との違いと実務資料第6 出典・参考資料
第1 任意的訴訟担当とは

任意的訴訟担当とは,権利義務の主体ではない者が,本人から訴訟追行権の授与を受け,自己の名で本人の権利について訴訟を追行する仕組みである。
訴訟代理人は本人の名で訴訟行為をするのに対し,訴訟担当者は自らが当事者となる点が異なる。

民事訴訟法には任意的訴訟担当を一般的に認める明文規定はない。
しかも,同法54条1項本文は地方裁判所以上の訴訟代理人を原則として弁護士に限り,信託法10条は訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止している。
そのため,本人が自由に第三者を「名目上の原告」にできるわけではない。

第2 最高裁大法廷昭和45年11月11日判決

最高裁大法廷昭和45年11月11日判決(昭和42年(オ)第1032号,民集24巻12号1854頁,判例秘書L02510245)は,民法上の組合の業務執行組合員が,他の組合員から訴訟追行権を授与されて組合財産に関する給付訴訟を追行できるかを扱った。

判決は,弁護士代理の原則又は訴訟信託禁止の趣旨を回避・潜脱するおそれがなく,かつ,任意的訴訟担当を認める合理的必要性がある場合には,許容されることがあるとした。
その上で,業務執行組合員が組合財産について実体法上の管理権・対外的業務執行権を有し,訴訟追行権も授与されていた事案で原告適格を認めた。
判決は,選定当事者の規定(当時の民事訴訟法47条,現在の30条)は任意的訴訟担当が許容される原則的な場合を示すにとどまるとした。
そして,組合規約に基づいて業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には,単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく,実体上の管理権,対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているから,弁護士代理の原則等を潜脱するものとはいえず,特段の事情のない限り合理的必要を欠くものとはいえないとしている。

この判例の意味は,「授権があれば足りる」とした点にはない。
実体法上の地位,訴訟をまとめて追行する必要性,弁護士代理原則等を潜脱しないことを組み合わせて判断した点にある。

第3 認められるための三つの確認

検討順序では,まず本人から訴訟追行権を授与されたかという前提要件を確認し,次に,授権があっても任意的訴訟担当を許容できるかを判断する。授権の存否と,非潜脱要件・合理的必要性を満たすかは別の問題であり,「委任状があるから適法」とはならない。

第1に,権利主体から訴訟追行権が授与されている必要がある。
対象となる権利,請求,相手方及び審級を特定した授権書を作成し,担当者が和解・請求放棄・控訴等をどこまで行えるかも明らかにする。

第2に,担当者の実体法上の地位と訴訟追行の必要性を確認する。
共同事業の業務執行者,債券管理者など,権利の管理や回収を継続的に担う者であることは重要な事情になる。
単に本人より訴訟に詳しい,本人が出廷を面倒に感じるというだけでは足りない。

第3に,弁護士代理原則又は訴訟信託禁止の潜脱にならないことを確認する。
訴訟だけを目的に権利者と無関係の者を当事者に据えること,報酬目的で多数の他人の請求を集めること,本人と担当者の利益相反を放置することは,否定方向の事情となる。

第4 共同事業・共有者・多数債権者での使い分け

共同事業では,組合契約,業務執行者の選任,財産管理権及び対外的権限を確認する。
最高裁判決は民法上の組合の業務執行組合員を扱ったものであり,名称だけが「代表者」である者に当然に原告適格を認めたものではない。

共有物に関する訴えでは,保存行為として各共有者が単独で行える請求,共有者全員でなければならない請求,代表者による任意的訴訟担当を検討する請求を分ける。
まず実体法上,誰が請求権を行使できるかを確認すべきであり,任意的訴訟担当を最初から万能な解決策として用いない。

多数の債権者については,最高裁第一小法廷平成28年6月2日判決(平成26年(受)第949号)が,ソブリン債の管理会社について,債券保有者からの授権,債券の性質,管理会社の規制・監督,公平誠実義務及び善管注意義務等を踏まえて任意的訴訟担当を認めた。
多数人の権利行使が事実上困難で,適切な管理主体に集約する制度的必要があることが重視されている。

合理的必要性は,任意的訴訟担当を使わない場合と比較して判断する。各権利者が個別に提訴できるか,民事訴訟法30条の選定当事者を利用できるか,全員が弁護士へ委任すれば足りるか,人数・地域・費用・管理権限・利益相反の点で集約する必要があるかを比較する。権利者が数名にすぎず,一人の提訴でも目的を達成できる場合は,合理的必要性を弱める事情になり得る。

第5 訴訟代理との違いと実務資料

任意的訴訟担当が成立すると,担当者が当事者となり,判決の効力は民事訴訟法115条1項2号により担当された本人にも及ぶ。
誰が費用を負担し,和解内容を誰が承認し,回収金をどう分配するかを内部契約で定めておく必要がある。

実務では,①本人と担当者の関係を示す契約書・規約,②実体法上の管理権限を示す資料,③訴訟追行権授与書,④合理的必要性を示す人数・地域・管理実態,⑤利益相反を管理する条項を揃える。
これらが欠けると,本案に入る前に当事者適格を争われ,訴えを却下される危険がある。

令和6年司法試験公式資料による補足:授権と許容要件の区別,個別提訴・選定当事者・弁護士委任との比較及び合理的必要性に関する補足は,第3問設問1の公式整理に基づく。
民事系科目の論文式試験問題,論文式試験出題の趣旨(民事系科目)及び採点実感(民事系科目)(法務省)を確認した。

共同相続人の一人に賃貸建物の管理と明渡訴訟を任せる取決めがある場合に,この判例をどう当てはめるかは,令和6年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目で検討している。

第6 出典・参考資料

①民事訴訟法54条,115条(e-Gov法令検索)
②信託法10条(e-Gov法令検索)
③最高裁大法廷昭和45年11月11日判決(昭和42年(オ)第1032号,民集24巻12号1854頁,判例秘書L02510245。裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した)
④最高裁第一小法廷平成28年6月2日判決(平成26年(受)第949号,民集70巻5号1157頁,裁判所ウェブサイト)

別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるか――既判力,裁判上の自白,証拠価値及び証拠説明書

目次第1 判決主文と判決理由中の認定の違い第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味第4 先行訴訟の準備書面・上申書・陳述書の扱い第5 「その主張をした事実」と「主張内容が真実であること」の区別第6 裁判上の自白と単なる不利益陳述の区別第7 後訴で引用する前に確認する記録第8 証拠説明書の立証趣旨の記載例第9 先行主張と現在の主張が異なる場合の説明方法第10 まとめ第11 出典・関連記事

別件判決又は先行訴訟の準備書面を現在の訴訟で使うときは,①確定判決の主文に生じる既判力,②先行訴訟でされた主張又は判断という訴訟経過,③記載内容が真実かという証拠評価,④現在の訴訟における裁判上の自白を区別する必要がある。本記事では,判決書,準備書面,上申書及び陳述書を後訴で利用する前に確認すべき記録と,証拠説明書の立証趣旨の書き方を整理する。

第1 判決主文と判決理由中の認定の違い

判決書は,主文と理由から成る。主文は,当事者の請求について,認容,棄却又は訴えの却下等の結論を示す部分である。理由は,その結論に至った事実認定及び法律判断を示す。

民事訴訟法114条1項は,「確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する。」と定めている。したがって,前訴判決の理由中にある個々の事実認定又は法律判断が,その記載だけで一律に後訴を拘束するわけではない。

もっとも,どの権利又は法律関係について判断されたかを確定するには,主文だけでなく,請求の趣旨,請求原因及び判決理由を読み,前訴の訴訟物と基準時を特定する必要がある。「理由に書いてあるから既判力がない」と短絡することも,「前の判決が認定したから後の裁判所も従う」と短絡することもできない。

判決理由だけを不服として控訴できるかという別の問題は,全部勝訴した当事者に民事控訴の利益はあるか――判決理由だけを争える場合と争えない場合で説明している。

第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外

既判力が生じるのは,原則として,前訴の口頭弁論終結時を基準として主文に包含された訴訟物についての判断である。後訴が前訴と同じ訴訟物を対象とするとき,又は前訴の判断を先決関係として覆すことになるときは,既判力との抵触を検討する。

判決理由中の判断については,民事訴訟法114条2項が明文の例外を置いている。同項は,「相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は,相殺をもって対抗した額について既判力を有する。」と定めている。

例えば,被告が反対債権を自働債権として相殺を主張し,裁判所がその成立又は不成立を判断した場合は,相殺をもって対抗した額の範囲で,その理由中判断にも既判力が生じる。相殺の抗弁に関する整理は,相殺の抗弁に関するメモ書きで説明している。

例えば,目的物引渡請求について「代金500万円と引換えに引き渡せ」とされた場合,引換額が主文に記載されていても,反訴等で代金請求が審判対象になっていなければ,代金支払請求権についての既判力がその記載だけから生じるわけではない。引換額は引渡しの強制執行を開始する条件として意味を持ち,売主に代金回収の債務名義を与えるものではない。「主文に包含するもの」と「主文に書かれた文言のすべて」を同一視しない。

このほか,既判力の範囲外であっても,前訴で十分に争われた事項を後訴で蒸し返すことが信義則に反すると評価される場合がある。これは114条の既判力そのものとは別の問題であるため,前訴と後訴の当事者,請求,争点,審理の程度及び訴訟経過を個別に確認する。

具体的には,前訴で当該事項が主要な争点になったか,双方に主張立証の機会があったか,その判断が結論にどう関わったか,前訴後の履行や相手方の信頼,主張を変える理由等を確認する。他方で,前訴では後訴の請求自体が審判対象ではなかったこと,反訴を提起するかどうかは当事者の訴訟上の選択であることなど,後訴の主張を許す方向の事情も検討する。反訴を提起できたこと自体を,直ちに後訴を許す理由又は禁止する理由として扱わない。「前訴で争えた」という一事情だけで一律に後訴を禁止しない。

既判力が作用する関係にある後訴では,前訴基準時前に存在した事由によって,既判力ある判断と矛盾する主張をすることは原則として遮断される。単に前訴基準時前から存在した事実というだけで,異なる請求に関する後訴の主張がすべて遮断されるわけではない。もっとも,遮断効の実質的根拠を,前訴で十分な主張立証の機会を与えられながら行使しなかった自己責任に求め,前訴での主張立証がおよそ期待できなかった事実には遮断効が及ばないとする「期待可能性説」がある。

この説には,①既判力による法的安定と勝訴者の地位を害する,②民事訴訟法338条1項5号は刑事罰を科される他人の行為で主張立証を妨げられた場合にも再審制度で処理しており,単なる期待可能性欠如で既判力を縮小すると境界が曖昧になる,③後訴裁判所の審理負担が重くなるとの批判がある。採用する場合も,「知らなかった」「思い付かなかった」だけで例外とせず,資料へのアクセス,前訴の争点・進行,主張を妨げた事情及び相手方の信頼を具体的に検討する必要がある。

また,基準時後に形成権を行使したという形式だけで,基準時前から存在した解除原因等を当然に後訴へ持ち込めるとは限らない。形成権行使の時期と,その基礎となる事由が基準時前後のいずれに存在したかを分け,期待可能性説,制度的効力説及び信義則を相互に混同しない。基準時後に取消権,相殺,建物買取請求権又は白地手形の補充権を行使した場合と,前訴で主張しなかった別の取得原因を後訴で主張する場合の最高裁判例は,確定判決の後に取消し・相殺・解除・建物買取請求をして争い直せるかで整理している。

既判力が及ぶ人の範囲も限られる。確定判決は,当事者,当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人,口頭弁論終結後の承継人等に対して効力を有する(民事訴訟法115条1項)。同じ原告から訴えられた共同被告どうしの間には,当然には既判力は生じない。前訴の共同被告の一方が他方へ求償や損害賠償を請求する後訴で,前訴判決の理由中の認定を既判力によって持ち込むことはできないのが出発点である。

これとは別に,補助参加人に対する裁判の効力(民事訴訟法46条)がある。訴訟告知を受けた者が参加しなかった場合も,参加することができた時に参加したものとみなされる(同法53条4項)。最高裁昭和45年10月22日判決は,この効力は既判力ではなく,判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であり,判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断にも及ぶとした。最高裁平成14年1月22日判決は,その理由中の判断を,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限り,訴訟告知を受けたが参加しなかった者に効力が及ぶのは,その者が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られるとした。

したがって,前訴で敗訴した場合に第三者へ求償又は損害賠償を請求する見込みがあるときは,前訴の係属中にその第三者へ訴訟告知をしておくことが,後訴で前訴の判断を争わせないための基本的な手段となる。自分が相手方の訴訟に補助参加しても,それは参加した自分の側が判断を争えなくなる関係であり,自分が求償しようとする相手を拘束する手段にはならない。効力の向きは,「誰が誰に対して,前訴のどの判断を援用するか」で確認する。訴訟告知の方式,効力の範囲及び告知を検討する場面は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えで整理している。公証人の補助参加を例にした説明は,遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加でも扱っている。

例えば,本訴請求200万円に対して300万円の反対債権で相殺を主張し,反対債権が全部弁済済みと判断された場合でも,相殺をもって対抗した額は200万円である。残100万円に既判力が当然に及ぶわけではない。
他方,全部弁済という前訴の判断と証拠は,残100万円の後訴における証拠評価や信義則の検討で問題となり得る。既判力の範囲と,残額の主張が実体法上理由を持つか,後訴が信義則に反するかを別に判断する。
訴訟外相殺による消滅が再抗弁として判断された場合も,再抗弁に用いた別債権には,その理由中の判断だけで114条2項の既判力が生じるわけではない。

第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味

別件判決の理由中の認定に既判力がない場合でも,判決書を後訴で書証として提出することはできる。後訴の裁判所は,民事訴訟法247条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により事実を判断する。

別件判決書から直接分かるのは,まず,別の裁判所が,特定の当事者及び請求について,記載された主文及び理由の判断をしたという事実である。判決が確定していれば,確定した主文の範囲では既判力の問題が加わる。未確定判決であれば,その時点の判決が存在することは示せても,確定判決としての既判力は生じていない。

他方,判決理由に認定された基礎事実が後訴でも真実であるかは,別の問題である。前訴で用いられた証拠,争点,認否,反対尋問の有無及び当事者の範囲が後訴と異なることがある。後訴の裁判所は別件判決書の証拠価値を評価するが,理由中認定だけを切り出して現在の争点が当然に証明されたものとして扱うべきではない。

特に,別件判決が一方当事者の準備書面又は陳述書を引用している場合は,その文書が実際に提出又は取調べされたのか,単に当事者の主張として摘示されたのかを,前訴記録で区別する。

(続きを読む...)別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるか――既判力,裁判上の自白,証拠価値及び証拠説明書

東京地裁医療集中部とは-担当部,発足経緯,審理運営及び鑑定制度(AI作成)

目次第1 東京地裁医療集中部の概要1 医療集中部の意味2 本記事の基準時と資料の読み方第2 現在の担当部1 民事第14部,第30部,第34部及び第35部2 担当裁判官と担当部の確認第3 発足までの経緯1 平成10年から平成13年まで2 発足の目的第4 医療集中部の審理運営1 提訴前の調査と訴状2 診療経過と争点の可視化3 証人尋問の位置付け第5 医学的知見を審理へ取り入れる方法1 医学文献と協力医の意見書2 専門委員3 鑑定とカンファレンス方式第6 和解と統計の読み方1 和解の機能2 令和7年の全国統計第7 制度を利用する際の注意点1 集中部であることと立証責任2 古い運用資料と現在情報の区別第8 主な出典及び参考資料1 裁判所及び国会図書館の資料2 判例タイムズ掲載論文
第1 東京地裁医療集中部の概要
1 医療集中部の意味

東京地裁医療集中部とは,医療行為の当否が争点となり,審理に医学的知見を要する民事事件を集中的に担当する東京地方裁判所の民事部である。独立した裁判所又は特別な訴訟類型ではなく,専門性の高い事件について知識と審理運営の経験を蓄積するための事件配点上の仕組みである。
医療集中部に配点されたこと自体は,医療機関の過失,因果関係又は患者側の請求が認められることを意味しない。責任の有無は,各事件の主張及び証拠に基づいて判断される。

2 本記事の基準時と資料の読み方

本記事は,令和8年(2026年)9月22日現在の裁判所公開資料と,判例タイムズ1495号及び1497号に掲載された令和4年(2022年)のシンポジウム記録を区別して整理するものである。
シンポジウム記録にある件数,割合及び運用は,当時の実務報告であり,現在も同一であると断定できない。現在の担当部は最新の裁判所資料で確認し,個別事件の進行は担当部の指示に従う必要がある。

第2 現在の担当部
1 民事第14部,第30部,第34部及び第35部

東京地裁が公開している霞が関庁舎のダイヤルイン一覧では,民事第14部,第30部,第34部及び第35部に「通常・医療部」と表示されている。したがって,東京地裁本庁の医療事件を集中的に担当する部は,この4か部であると確認できる。
東京地裁霞が関庁舎のダイヤルイン一覧には各部の係別電話番号も掲載されている。ただし,問い合わせ先は事件の係属部及び担当係を確認した上で選ぶ必要がある。

2 担当裁判官と担当部の確認

東京地方裁判所の民事部担当裁判官一覧は,令和8年4月24日現在のものとして,民事第14部,第30部,第34部及び第35部の担当裁判官を掲載している。同一覧自体には各部が医療集中部であるとの表示がないため,医療部であることは前記ダイヤルイン一覧と突き合わせて確認するのが安全である。
裁判官の異動,部の担当事務及び電話番号は変更され得る。提出又は照会の直前に裁判所ウェブサイトの最新版を再確認すべきである。

第3 発足までの経緯
1 平成10年から平成13年まで

国立国会図書館の調査資料によれば,平成10年(1998年)に医療関係訴訟の運営に関する司法研究が始まり,平成11年(1999年)に東京地裁の委員会が医療事件の集中処理を提案した。東京地裁は平成12年(2000年)4月から民事第14部,第30部,第34部及び第35部で試行し,平成13年(2001年)4月に医療集中部を発足させた。
判例タイムズ1495号21頁のシンポジウム記録も,1年間の試行を経て平成13年4月に4か部が発足したと説明している。発足時には,裁判長が争点整理に主体的に関与できるよう配点を調整し,4か部で早期に共通の審理運営を形成することが意識されていた。

2 発足の目的

最高裁判所医事関係訴訟委員会の答申は,東京及び大阪の地方裁判所に平成13年4月から医療関係訴訟の集中部が設けられたとし,審理上のノウハウを蓄積するとともに,地域の医療界との連絡窓口として機能することが期待されると述べている。
したがって,集中部の意義は,単に事件を同じ部へ集める点だけにない。争点整理,医学的知見の獲得,鑑定人確保及び医療界との継続的な協議を一体として改善するところにある。

第4 医療集中部の審理運営
1 提訴前の調査と訴状

判例タイムズ1497号19頁から20頁では,医療事件では,提訴前に診療録に基づく診療経過の整理,医学文献の調査,協力医への相談及び医療機関への照会を行い,具体的な注意義務違反と因果関係を絞り込む必要性が繰り返し指摘されている。
集中部は当事者の調査又は立証を代行する制度ではない。争点を特定しないまま提訴すると,争点整理に長期間を要し,専門委員を早期に選任しても,当事者が負う主張立証の不足を当然に補えるわけではない。

2 診療経過と争点の可視化

判例タイムズ1495号21頁から22頁によれば,医療集中部の審理は,基本的書証を早期に提出し,診療経過一覧表によって時系列を共有し,当事者が参加して争点整理表を作成した上で,集中証拠調べへ進むという考え方を基礎としている。
同号25頁は,令和4年当時の取組として,訴え提起後2,3か月以内に実質的な答弁を踏まえた第1回期日を開くこと,ウェブ会議前に注意義務違反の内容等を記載したアジェンダを共有し,期日後に議論の到達点と次回までの準備事項を共有することを紹介している。これらは,期日間の準備を明確にし,争点整理を口頭議論だけで終わらせないための工夫である。

3 証人尋問の位置付け

(続きを読む...)東京地裁医療集中部とは-担当部,発足経緯,審理運営及び鑑定制度(AI作成)

和解のために出した試算書は後の訴訟で不利に使われるか――裁判上の自白との違いと,自分の書面を書証にするときの注意(AI作成)

目次第1 結論第2 裁判上の自白とは何か1 条文2 対象は「事実」である3 「裁判所において」された陳述であること4 争わないことによる効果も当該訴訟限りである5 場面ごとの対照第3 前の訴訟で出した書面は,後の訴訟の自白にならない1 訴訟が違えば陳述にならない2 書証として出された場合の扱い3 和解の過程の譲歩を証拠から排除する規定はない4 和解が成立した場合との違い第4 書面に書いた数字がどう読まれるか1 上限の表示2 仮定の表示3 前提が変われば上限も動く4 主張額,上限額及び和解の提示額を混ぜない第5 自分が作った書面を自ら書証にするときの注意1 全部が相手方の目に入る2 立証趣旨で前提を特定する3 書面の一部だけを引用しない4 抄本で出すかどうか5 書証の申出の仕方第6 相手方が前の訴訟の書面を出してきたとき1 文書の成立の真正2 書面の全体を読ませる3 反対の記載を探す4 相手方又は第三者が持っている書面を出させる方法第7 和解のための書面を作るときの書き方第8 指摘を受けたときの返し方第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例の引用について
第1 結論

和解の協議の中で,「こちらの計算では,多めに見積もっても相手方の損害は○円にとどまる」という趣旨の試算書を出すことがある。
その事件が和解で終わらず,あるいは別の事件が後から起きたとき,この試算書が相手方の手に渡り,「相手方自身が○円を認めている」と主張される場面がある。

結論としては,次の三つを分けて考えるのが整理しやすい。

①その書面は,後の訴訟における裁判上の自白ではない。裁判上の自白は,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続における陳述であることを要するからである(民事訴訟法179条参照)。

②しかし,書証として提出されれば,裁判所の自由な心証の対象にはなる。民事訴訟法には,和解の過程における譲歩を証拠から排除する規定が置かれていない。

③したがって,実際に効いてくるのは「自白かどうか」ではなく,「その書面が何を前提とした,どういう性質の数字を示したものとして読まれるか」である。

本記事では,この三つを条文に即して整理し,和解のための書面を作るとき,自分の書面を自ら書証として提出するとき及び相手方が前の訴訟の書面を出してきたときの実務上の注意を示す。

第2 裁判上の自白とは何か
1 条文

民事訴訟法179条は,「裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は,証明することを要しない。」と定めている。

同法159条1項は,「当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には,その事実を自白したものとみなす。ただし,弁論の全趣旨により,その事実を争ったものと認めるべきときは,この限りでない。」と定めている。
同条2項は,「相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は,その事実を争ったものと推定する。」としている。

自白が成立すると,その事実について証明が不要になる。
争点整理の場面では,どの事実に自白が成立しているかが,証拠調べの対象を決める。

2 対象は「事実」である

179条も159条1項も,対象を「事実」としている。
そのため,法律上の効果に関する意見,計算方法の当否についての見解及び評価の当否は,それ自体では自白の対象にならない。

遺留分侵害額,損害額,過失割合のような数字は,その内実が①算定の基礎となる事実と②その事実への法規の当てはめとに分かれる。
「○円である」という記載が,どこまで事実の陳述で,どこからが当てはめの結論かは,書面の文脈で決まる。

したがって,相手方から「その書面で○円を認めているではないか」と言われたときは,まずその数字がどの層の主張なのかを切り分ける。

3 「裁判所において」された陳述であること

179条は「裁判所において当事者が自白した事実」としている。
すなわち,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続の期日における陳述であることが前提になる。

訴訟の外で作った文書,交渉の場で相手方に渡した書面,別の事件で提出した書面は,この要件を満たさない。
これらは,講学上,裁判外の自白として,証拠資料の一つとして扱われるにとどまる。

もっとも,弁論準備手続には,民事訴訟法170条5項により,争うことを明らかにしない事実を自白したものとみなす159条等が準用される。
したがって,弁論準備手続で準備書面の事実主張を正式に陳述し,相手方がそれを争わないときは,裁判上の自白又は擬制自白が問題となり得る。

同じ期日で和解協議が行われても,協議用の試算を示しただけのことと,準備書面の事実主張を訴訟上の主張として陳述したことは区別する。

(続きを読む...)和解のために出した試算書は後の訴訟で不利に使われるか――裁判上の自白との違いと,自分の書面を書証にするときの注意(AI作成)

建築訴訟の審理モデル―東京地裁民事第22部が示した6類型の主張立証と一覧表・付調停による2年審理(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 審理モデルとは2 6本の論稿第2 審理モデルのねらいと全体像1 2年で終えるためのスケジュール2 一覧表は「手段」であり,二往復で打ち止める3 専門的知見は調停で取り入れる第3 追加変更工事1 要件と典型的な争点2 追加性3 有償合意4 代金額の相当性5 追加変更工事一覧表第4 工事の瑕疵1 瑕疵の意義と主張の組み立て2 設計の瑕疵と施工の瑕疵3 審理計画と瑕疵一覧表第5 出来高1 出来高の審理の流れ2 既施工部分の証拠3 報酬額の算定方式4 中途終了の原因と着地点第6 設計・監理1 報酬請求と契約の成否2 設計・監理の債務不履行第7 第三者被害型(振動・地盤沈下による近隣被害)第8 付調停と現地調査1 付調停の時期と訴訟との並進2 現地調査第9 一覧表の書式第10 代理人の実務上の対応第11 関連記事第12 出典1 法令2 論稿3 裁判所の資料4 裁判例
第1 この記事の対象と資料
1 審理モデルとは

東京地方裁判所民事第22部は,建築訴訟を専門に扱う部である。
同部に所属し又は所属していた裁判官らが,建築訴訟の審理を効率化するため,事件の類型ごとに「審理モデル」を作り,判例タイムズに6回に分けて発表している。
最高裁判所の建築関係訴訟委員会でも,東京地裁が基本3類型の審理モデルを判例タイムズに掲載したことが報告されている(第19回議事要旨)。

本記事は,この6本の論稿を判例秘書の判例タイムズ電子復刻版で読み,代理人が訴状の作成から和解・調停までの各段階で押さえるべき点を整理するものである。
論稿の中の法解釈や手続に関する意見は,執筆した裁判官らの私見であるとされている。

2 6本の論稿

①「建築訴訟の審理モデル~追加変更工事編~」判例タイムズ1453号5頁(2018年12月)
②「建築訴訟の審理モデル~工事の瑕疵編~」判例タイムズ1454号5頁(2019年1月)
③「建築訴訟の審理モデル~出来高編~」判例タイムズ1455号5頁(2019年2月)
④「建築訴訟の審理モデル~設計・監理の報酬請求編~」判例タイムズ1489号5頁(2021年12月)
⑤「建築訴訟の審理モデル~設計・監理の債務不履行・不法行為編~」判例タイムズ1490号5頁(2022年1月)
⑥「建築訴訟の審理モデル~不法行為(第三者被害型)編~」判例タイムズ1495号5頁(2022年6月)

①から③は,民法の債権法改正(令和2年4月1日施行)の前に執筆され,改正の内容は盛り込まれていない。
「瑕疵担保責任」「民法634条」等の記述は,現行民法の契約不適合責任(民法559条,562条~564条)に読み替える必要がある。
④から⑥は,改正後の民法を前提としている。

建築訴訟で鑑定人や専門家がどう選ばれるかは,建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるかで,統計は建築訴訟の統計(令和6年)で扱っている。

第2 審理モデルのねらいと全体像
1 2年で終えるためのスケジュール

審理モデルは,建築訴訟についても,知財訴訟や医療訴訟のように効率的な審理のやり方を確立し,「2年で終える」ことを目指すものとされている(判タ1453号6頁)。
論稿は,建築訴訟が長くかかる背景として,中小規模の裁判所では建築事件のノウハウが蓄積されにくいことと,「建築訴訟は時間がかかっても仕方がない」という意識が当事者にも裁判所にもあることを挙げている。

基本3類型(追加変更工事,工事の瑕疵,出来高)について示された進行の目安は,次のとおりである(判タ1453号7頁)。
①訴状の審査:1か月程度
②主張の整理:最長8か月程度
③調停:6か月から10か月程度
④人証調べ:5か月程度
⑤判決:2か月程度

2 一覧表は「手段」であり,二往復で打ち止める

(続きを読む...)建築訴訟の審理モデル―東京地裁民事第22部が示した6類型の主張立証と一覧表・付調停による2年審理(AI作成)

建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるか―建築関係訴訟委員会の推薦ルート,鑑定料の考え方及び専門家選定の情報(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 使用した資料と読み方の注意第2 建築関係訴訟委員会とは1 設置の経緯と規則2 推薦の流れ第3 推薦依頼の件数と期間1 件数2 期間第4 推薦依頼書と専門分野の伝え方1 推薦依頼書の記載事項2 専門分野を具体的に伝える3 利害関係の確認第5 鑑定料の考え方1 「鑑定料の検討に当たり考慮することが考えられる要素」2 代理人の対応第6 鑑定以外の手段―専門家調停と専門委員第7 事件類型の動向第8 代理人の実務上の対応第9 関連記事第10 出典1 法令・規則2 建築関係訴訟委員会の資料
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,建築紛争の訴訟で鑑定が必要になったとき,裁判所がどのように鑑定人を探すのか,鑑定料はどう決まるのか,調停委員や専門委員を含む建築の専門家をどう選ぶのかを,最高裁判所の建築関係訴訟委員会の公開資料から整理するものである。
施主側と施工者・設計者側のどちらの代理人にとっても,鑑定や専門家調停を申し出る前に知っておくと見通しを立てやすくなる事項である。

建築関係訴訟の件数,審理期間,終局区分,瑕疵の種別,鑑定率及び付調停率は,建築訴訟の統計(令和6年)にまとめた。
医療訴訟について同じ仕組みを扱った記事として,医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるかがある。

2 使用した資料と読み方の注意

資料は,最高裁判所の建築関係訴訟委員会のページに掲載された,第1回(平成13年7月19日)から第21回(令和6年12月19日)までの議事要旨,分科会の議事要旨,添付資料,平成17年6月の答申,中間取りまとめ,委員会規則及び統計である(令和8年9月20日に取得)。
議事要旨の発言は委員又はオブザーバーの意見であり,委員会の結論や裁判所の運用そのものではない。
本記事では,資料に書かれた事実と,委員等の意見とを区別して書く。

期間や件数の一部は,議事要旨に添付された「鑑定人候補者推薦依頼一覧」から本記事で集計したものである。
一覧は月単位でしか日付を示していないため,集計した期間には1か月程度の誤差がある。

第2 建築関係訴訟委員会とは
1 設置の経緯と規則

建築関係訴訟委員会は,建築関係訴訟委員会規則(平成13年最高裁判所規則第6号)に基づき,平成13年に最高裁判所に置かれた委員会である。
設置の前から,最高裁判所事務総局民事局と日本建築学会との間で意見交換が行われ,平成12年6月には学会の中に司法支援建築会議が作られていた(答申)。

規則2条は,民事訴訟事件又は民事調停事件のうち争点若しくは証拠の整理又は裁判をするについて建築の専門的知識経験を必要とするものを「建築紛争事件」と定め,委員会の事務として,運営に関する共通的な事項の調査審議のほか,次の3つの候補者の選定を掲げている。
①鑑定人の候補者(2条3号)
②民事調停委員の候補者(同条4号)
③専門委員の候補者(同条5号)

規則は委員を20人以内とし(3条),鑑定人等候補者選定分科会を置いている(7条)。
令和6年12月19日現在の委員名簿には,建築系の研究者を中心に,実務家,弁護士及び法学研究者の11名が掲載されている。

2 推薦の流れ

推薦の流れは,概略図と第3回委員会(平成14年3月5日)の資料によれば,次のとおりである。
①事件を担当する地方裁判所等が,推薦依頼を最高裁判所事務総局民事局(委員会の事務局)に送る。
②事務局が,日本建築学会(司法支援建築会議)等に推薦を依頼する。
③学会の推薦は,同じ経路を逆にたどって裁判所に届く。
④裁判所が候補者に連絡し,鑑定人に選任するかを判断する。

概略図には,推薦は法的な強制によるものではなく,推薦された候補者を選任するかどうかは各裁判所の判断に委ねられることが注記されている。

(続きを読む...)建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるか―建築関係訴訟委員会の推薦ルート,鑑定料の考え方及び専門家選定の情報(AI作成)

医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるか―医事関係訴訟委員会の推薦ルート,期間,費用及び鑑定人質問の実情(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 使用した資料と読み方の注意第2 医事関係訴訟委員会とは1 設置の経緯2 現在の位置付け第3 鑑定人候補者の推薦ルート1 手続の流れ2 委員会ルートを使う事案3 推薦依頼書に書かれる事項4 「推薦に当たっての希望」欄の書き方第4 件数,依頼先の学会及び所要期間1 件数の推移2 依頼先の学会3 所要期間4 推薦が難航する類型第5 医療過誤以外の事件での利用第6 鑑定事項と鑑定資料1 答えにくい鑑定事項2 複数の診療科にまたがる事案3 鑑定資料の渡し方第7 鑑定の方式と費用1 単独鑑定,複数鑑定及びカンファレンス鑑定2 鑑定料と費用負担第8 鑑定書が出た後―補充鑑定と鑑定人質問1 鑑定人質問はほとんど行われていない2 補充鑑定と鑑定人質問の条文第9 代理人の実務上の対応1 受任時と鑑定の申出前の説明2 鑑定の申出で準備しておくこと第10 関連記事第11 出典1 法令2 医事関係訴訟委員会の資料3 統計・報告書
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,医療訴訟で鑑定が必要になったのに鑑定人が見つからないとき,裁判所がどのような経路で鑑定人候補者を探すのかを,最高裁判所の医事関係訴訟委員会の公開資料から整理するものである。
あわせて,鑑定事項の立て方,鑑定資料の渡し方,鑑定の方式と費用,鑑定書が出た後の補充鑑定と鑑定人質問について,同委員会で議論された内容を紹介する。
患者側と医療機関側のどちらの代理人にとっても,鑑定の申出の前に知っておくと見通しを立てやすくなる事項である。

鑑定事項書そのものの書き方は,民事訴訟の鑑定事項書の作り方で扱っている。
医療訴訟の件数,審理期間,和解率及び認容率は,医療訴訟の統計(令和7年)にまとめた。

2 使用した資料と読み方の注意

資料は,最高裁判所の医事関係訴訟委員会についてのページに掲載された,第1回(平成13年7月13日)から第37回(令和8年5月27日)までの議事要旨とその添付資料,平成17年6月頃の答申,委員会の規則及び統計である(令和8年9月19日に取得)。
議事要旨の「主な発言」は委員又はオブザーバーの意見であり,委員会の結論や裁判所の運用そのものではない。
本記事では,資料に書かれた事実と,委員等の意見とを区別して書く。

期間や件数の一部は,議事要旨に添付された「推薦依頼事案の経過一覧表」から本記事で集計したものである。
一覧表は月単位でしか日付を示していないため,集計した期間には1か月程度の誤差がある。
この種の数値には,本文で「本記事の集計」と明記する。

第2 医事関係訴訟委員会とは
1 設置の経緯

医事関係訴訟委員会は,医事関係訴訟委員会規則(平成13年最高裁判所規則第5号)に基づき,平成13年7月に最高裁判所に置かれた委員会である。
医学界の委員,法曹界の委員及び一般の有識者で構成され,医事関係訴訟の運営に関する一般的な問題を審議することと,鑑定人候補者を選ぶことを主な任務とする。
鑑定人候補者の選定は,委員会に置かれた鑑定人等候補者選定分科会と合同で行われ,第3回以降の会議は分科会との合同開催になっている。

委員会の答申によれば,設置前の意見交換で,医学界の側から,医師が鑑定人を引き受けない理由として次のような事情が挙げられていた。
①時間をかけて鑑定をしても裁判の結果が知らされず,鑑定が役に立ったのかが分からないこと
②法廷で,人格を非難されたと受け取られるような質問がされることがあったこと
③要約書面もなしに記録の写しをそのまま送られ,不適切な鑑定事項について鑑定を求められること

これを受けて,事件が終わったときに裁判所から鑑定人へ結果を通知する運用が定着し,委員会からも学会と鑑定人に結果を通知して礼状を送るようになった。
後で見る鑑定人質問の運用の変化も,この経緯と関係している。

2 現在の位置付け

委員会の規則は,委員を20人以内とし(3条),鑑定人等候補者選定分科会を置くことを定めている(7条)。
令和8年9月14日現在の委員名簿には,委員長を含む12名が掲載されている。

委員会ルートは,各裁判所の努力で鑑定人を見つけられない事案のための仕組みである。

(続きを読む...)医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるか―医事関係訴訟委員会の推薦ルート,期間,費用及び鑑定人質問の実情(AI作成)

民事裁判はどのくらいかかるか―事件類型別・代理人の有無別の平均審理期間と長くなる要因(令和6年)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 使用する資料と対象期間2 平均値を依頼者への説明に使うときの前提第2 民事第一審全体の審理期間1 令和6年の平均と分布2 平均を押し下げている事件第3 代理人・人証調べ・合議で変わる期間1 代理人の付き方2 人証調べ・鑑定・合議3 訴額第4 事件類型別の審理期間第5 手続段階と期日1 第1回口頭弁論期日までの期間2 期日の回数と間隔第6 大阪地方裁判所管内の数値第7 代理人の活動で審理期間が変わる場面1 訴状と初期の書面2 期日間の投稿と書面の提出期限3 合議体と付合議の上申第8 依頼者へ見通しを説明するときの注意1 数値を選ぶ順序2 控訴審を含めた期間第9 関連記事第10 出典1 法令2 統計・データ
第1 この記事の対象と資料
1 使用する資料と対象期間

本記事は,最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)の統計を基に,地方裁判所の民事第一審訴訟がどのくらいの期間で終わっているかを整理するものである。
対象は令和6年に終局した事件であり,統計は令和7年4月15日現在の数値である。
同報告書は,裁判の迅速化に関する法律8条1項に基づき,最高裁判所が2年ごとに公表している検証結果である。
事件類型ごとの細かな数値は,同報告書の資料2-2-1(事件類型別平均審理期間等)及び資料2-6・2-9(地方裁判所管内別の数値)から取った。

「民事第一審訴訟」には,地方裁判所の通常訴訟のほか人事訴訟も含まれる(報告書45頁注1)。
平均審理期間は,訴えの受理から終局までの期間の平均である。
報告書の本文が「前回」と書くときは第10回報告書,すなわち令和4年の数値を指し,前年の令和5年の数値ではない。

2 平均値を依頼者への説明に使うときの前提

裁判の迅速化に関する法律2条1項は,「第一審の訴訟手続については二年以内のできるだけ短い期間内にこれを終局させ」ることを目標として掲げている。
これは目標であり,個々の事件を2年以内に終わらせる義務を裁判所に課す規定ではない。
平均審理期間は既に終わった事件の平均であり,係属中の事件がいつ終わるかを示すものでもない。

平均値は,短期間で終わる事件が多いと大きく下がる。
そのため,本記事では,全体の平均よりも,代理人の付き方・人証調べの有無・事件類型に分けた数値を重視する。

第2 民事第一審全体の審理期間
1 令和6年の平均と分布

令和6年の既済事件は13万9370件で,平均審理期間は9.2月であった(報告書47頁)。
平均審理期間は,平成20年の6.5月まで短くなった後に長期化し,令和3年・4年の10.5月を経て,令和6年は9.2月に短縮した。

審理期間の分布は,6月以内が58.1%,6月超1年以内が17.8%,1年超2年以内が16.5%,2年超が7.6%であった(報告書49頁,資料2-6)。
2年を超える割合は,前回(令和4年)の9.9%から下がっている。

2 平均を押し下げている事件

全体の平均が9.2月にとどまるのは,争いがほとんどなく短期間で終わる事件が多いためである。
例えば,建物の明渡し等の「建物」事件は4万0474件あり,平均審理期間は3.8月であった(資料2-2-1)。
判決で終局した事件のうち,被告が出頭しない欠席判決は平均3.4月で終わっている。

報告書は,第9回報告書から,過払金返還請求等の事件を統計から除く処理をやめ,全体の統計だけを分析している(報告書45頁注2)。
したがって,「民事裁判の平均は9.2月」という数値を,当事者双方が争う事件の目安として使うことはできない。

第3 代理人・人証調べ・合議で変わる期間
1 代理人の付き方

(続きを読む...)民事裁判はどのくらいかかるか―事件類型別・代理人の有無別の平均審理期間と長くなる要因(令和6年)(AI作成)

民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)(AI作成)

目次第1 本記事の対象と資料1 資料と対象期間2 「代理事件数」と「代理割合」第2 地方裁判所の民事第一審通常訴訟1 代理事件数の推移2 令和6年の代理の状況3 建物事件の増加4 事件類型別の代理割合第3 簡易裁判所の民事第一審訴訟1 双方本人が8割を超える2 「双方本人」には司法書士が代理した事件を含む第4 人事訴訟と家事事件1 人事訴訟(離婚訴訟を含む)2 遺産分割事件(調停・審判)3 婚姻関係事件(調停・審判)第5 数字を読むときの注意1 全国の数値であること2 出典の時点による差3 平成15年以前の地裁の合計第6 関連記事第7 出典・参考資料1 統計・データ
第1 本記事の対象と資料
1 資料と対象期間

本記事は,法務省が法曹養成制度改革連絡協議会の第26回(令和8年3月3日開催)に提出した資料1-2「裁判事件数調査関係資料」に基づき,民事訴訟と家事事件で弁護士が代理人に付いている割合の推移を整理するものである。
資料1-2の代理人に関する図表は,いずれも司法統計を基に作成されたもの(令和7年6月時点)であり,平成元年から令和6年までの36年分の全国の数値を掲げている。
大阪地裁その他の裁判所ごとの数値は,この資料には含まれていない。

2 「代理事件数」と「代理割合」
(1) 代理事件数

資料1-2の「代理事件数」は,既済事件を,双方に弁護士が付いた事件(双方代理),原告側だけに付いた事件(原告代理),被告側だけに付いた事件(被告代理)及びどちらにも付いていない事件(双方本人)の4つに分けて数えたものである。
本記事では,この4区分の件数と,その合計に対する割合(本記事で計算したもの)を示す。

(2) 代理割合

資料1-2の「代理割合」は,弁護士が当事者に代理人として付いた数(双方代理の事件は2,一方だけの事件は1と数える)を,既済事件数の2倍で割ったものである。
代理割合は当事者の側ごとに数えた指標であり,「少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合」とは異なる。
例えば,令和6年の地裁の代理割合は約66%であるが,少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合は約91.5%である。

第2 地方裁判所の民事第一審通常訴訟
1 代理事件数の推移

表1は,資料1-2の図表17(地裁の民事第一審通常訴訟の代理事件数)の全年を並べたものである。
括弧内の割合は,4区分の合計に対する割合を本記事で計算したものである。
平成9年までは再審の件数を含むと注記されている。

年双方代理原告だけ代理被告だけ代理双方本人計平成元年51,660(47.4%)37,301(34.2%)3,351(3.1%)16,755(15.4%)109,067平成2年53,235(50.4%)34,367(32.6%)3,191(3.0%)14,730(14.0%)105,523平成3年51,689(49.2%)35,336(33.6%)3,035(2.9%)15,046(14.3%)105,106平成4年51,676(44.5%)40,710(35.1%)3,543(3.1%)20,101(17.3%)116,030平成5年53,336(40.7%)46,358(35.4%)4,137(3.2%)27,200(20.8%)131,031平成6年54,546(39.7%)48,761(35.5%)4,753(3.5%)29,384(21.4%)137,444平成7年57,000(40.9%)48,901(35.1%)4,690(3.4%)28,818(20.7%)139,409平成8年57,610(41.6%)48,829(35.3%)4,809(3.5%)27,236(19.7%)138,484平成9年58,270(41.7%)48,767(34.9%)4,847(3.5%)27,719(19.9%)139,603平成10年59,671(40.1%)51,148(34.4%)5,625(3.8%)32,183(21.7%)148,627平成11年59,137(40.5%)49,234(33.7%)6,115(4.2%)31,548(21.6%)146,034平成12年60,876(40.6%)48,688(32.5%)6,893(4.6%)33,478(22.3%)149,935平成13年57,002(38.4%)51,251(34.6%)7,371(5.0%)32,699(22.0%)148,323平成14年55,463(38.0%)50,922(34.9%)7,192(4.9%)32,486(22.2%)146,063平成15年55,492(37.3%)51,423(34.6%)7,124(4.8%)34,626(23.3%)148,665平成16年53,906(38.4%)49,849(35.5%)6,499(4.6%)30,170(21.5%)140,424平成17年52,963(39.8%)47,678(35.8%)5,719(4.3%)26,645(20.0%)133,005平成18年54,305(38.0%)52,258(36.6%)5,989(4.2%)30,424(21.3%)142,976平成19年56,262(32.5%)68,153(39.4%)7,308(4.2%)41,162(23.8%)172,885平成20年58,420(30.4%)77,157(40.1%)8,426(4.4%)48,230(25.1%)192,233平成21年59,812(27.9%)91,243(42.5%)9,086(4.2%)54,370(25.3%)214,511平成22年63,148(27.8%)102,983(45.3%)8,390(3.7%)52,914(23.3%)227,435平成23年63,672(30.0%)92,114(43.3%)8,721(4.1%)47,985(22.6%)212,492平成24年63,308(37.6%)65,070(38.7%)7,382(4.4%)32,469(19.3%)168,229平成25年60,700(40.5%)58,080(38.7%)5,849(3.9%)25,301(16.9%)149,930平成26年60,124(42.6%)54,430(38.6%)5,012(3.6%)21,442(15.2%)141,008平成27年62,286(44.2%)54,899(38.9%)4,689(3.3%)19,099(13.5%)140,973平成28年64,197(43.4%)55,582(37.5%)4,389(3.0%)23,855(16.1%)148,023平成29年64,686(44.3%)54,391(37.3%)4,032(2.8%)22,874(15.7%)145,983平成30年63,055(45.5%)53,490(38.6%)3,803(2.7%)18,336(13.2%)138,684令和元年61,750(46.9%)54,719(41.6%)3,896(3.0%)11,193(8.5%)131,558令和2年54,635(44.5%)54,796(44.6%)3,440(2.8%)9,892(8.1%)122,763令和3年67,397(48.5%)57,296(41.2%)4,146(3.0%)10,181(7.3%)139,020令和4年63,169(47.9%)54,904(41.7%)4,005(3.0%)9,725(7.4%)131,803令和5年58,959(42.8%)64,524(46.9%)3,953(2.9%)10,173(7.4%)137,609令和6年56,385(40.5%)67,205(48.2%)3,978(2.9%)11,802(8.5%)139,370
2 令和6年の代理の状況
(1) 9割を超える事件で少なくとも一方に弁護士が付いている

令和6年の地裁の既済事件139,370件のうち,双方に弁護士が付いた事件は56,385件(40.5%),原告側だけに付いた事件は67,205件(48.2%),被告側だけに付いた事件は3,978件(2.9%)であった。
どちらにも弁護士が付いていない事件は11,802件(8.5%)であり,少なくとも一方に弁護士が付いた事件は91.5%になる。
少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合は,令和元年から令和6年まで毎年91%から93%の間にある。

(2) 双方本人の減少

双方本人の割合は,平成21年の25.3%(54,370件)が最も高く,令和元年に8.5%(11,193件)へ下がった後は,7%から9%の間で推移している。
平成21年前後は過払金返還請求訴訟の多かった時期であり,資料1-2は,その多くが含まれる事件類型を「金銭のその他」と説明している。

(3) 双方代理の割合の低下

双方代理の割合は,令和3年の48.5%から令和6年の40.5%へ下がり,代わりに原告だけに弁護士が付いた事件の割合が41.2%から48.2%へ上がっている。

(続きを読む...)民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)(AI作成)

訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 訴えの提起による完成猶予と更新(民法147条)1 条文の構造2 完成猶予が始まる時点3 改正前民法との対応第3 明示的一部請求と残部の時効1 最高裁昭和34年2月20日判決(先例)2 最高裁昭和43年6月27日判決(踏襲)3 一部であることを明示していない場合(最高裁昭和45年7月24日判決)4 残部についての裁判上の催告(最高裁平成25年6月6日判決)5 現行法の下での考え方第4 訴えの取下げと却下1 現行法の規律2 最高裁昭和50年11月28日判決(取下げ後も効力が存続する場合)第5 訴えの変更・別の請求権と裁判上の請求1 不法行為から不当利得への変更(最高裁平成10年12月17日判決)2 手形金請求と原因債権(最高裁昭和62年10月16日判決)3 被告として権利を主張する場合(最高裁昭和38年10月30日大法廷判決)第6 支払督促・和解・調停・倒産手続参加1 支払督促2 訴え提起前の和解と調停3 破産手続参加等第7 時効管理の実務上の注意1 提訴前に確認すること2 訴訟係属中に確認すること3 判決確定後第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,訴えの提起その他の裁判上の請求等(民法147条)によって消滅時効の完成が猶予され,又は更新される仕組みを,裁判所ウェブサイトで全文を確認できた最高裁判例に沿って整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行条文によっている。

扱うのは,①訴えの提起による完成猶予と更新の基本構造,②債権の一部だけを請求した場合(一部請求)の残部の時効,③訴えの取下げ,④訴えの変更・請求の追加,⑤支払督促・和解・調停等である。
催告(民法150条)と協議を行う旨の合意(民法151条)の詳細は「内容証明による催告と協議を行う旨の合意―6か月の完成猶予,再度の催告及び民法151条の使い方」,強制執行等による完成猶予・更新は「強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求」で扱う。
消滅時効全体の見取り図は「消滅時効に関するメモ書き」にある。

2 結論

訴えを提起すると,訴訟が続いている間は時効が完成せず(完成猶予),判決等で権利が確定すると,訴訟が終わった時から時効が新たに進行を始める(更新)。
権利が確定しないまま訴えを取り下げ,又は訴えが却下されたときでも,その時から6か月を経過するまでは時効が完成しない(民法147条1項括弧書)。

債権の一部だけを,一部であることを明示して請求した場合,裁判上の請求としての効力はその一部についてだけ生じ,残部には及ばない(最高裁昭和34年2月20日判決。最高裁昭和43年6月27日判決もこれを踏襲した)。
一部であることを明示していなければ,債権の同一性の範囲内で全部に効力が及ぶ(最高裁昭和45年7月24日判決)。
明示的一部請求の訴えは,特段の事情のない限り,残部について「裁判上の催告」としての効力を持つが,時効期間が経過した後の再度の催告にすぎない場合には時効の完成を妨げない(最高裁平成25年6月6日判決)。

したがって,残部を請求する可能性があるなら,時効期間が満了する前に請求を拡張するか,残部について別に訴えを提起しておくことが最も確実である。
施行日(令和2年4月1日)前に生じた時効の中断事由の効力は,なお改正前民法による(平成29年法律第44号附則10条2項)。

第2 訴えの提起による完成猶予と更新(民法147条)
1 条文の構造

民法147条1項は,「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。」と定める。
掲げられた事由は,①裁判上の請求,②支払督促,③民事訴訟法275条1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停,④破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加の4つである。

同条2項は,「前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。」と定める。
すなわち,裁判上の請求等は,手続の係属中は完成猶予の効果を持ち,権利が確定すれば更新の効果を持つ。
確定判決等によって確定した権利の時効期間は,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても10年となる(民法169条1項)。
この点は「判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違い」で扱う。

2 完成猶予が始まる時点

民事訴訟法147条は,「訴えが提起されたとき、又は第百四十三条第二項(第百四十四条第三項及び第百四十五条第四項において準用する場合を含む。)の書面が裁判所に提出されたときは、その時に時効の完成猶予又は法律上の期間の遵守のために必要な裁判上の請求があったものとする。」と定める。
訴状が被告に送達された時ではなく,訴えを提起した時が基準である。
訴訟の途中で請求を拡張し,又は新たな請求を追加する場合は,訴えの変更の書面(民事訴訟法143条2項)を裁判所に提出した時が基準となる。

3 改正前民法との対応

改正前民法は,「請求」を時効の中断事由とし(改正前民法147条1号),「裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。」と定めていた(改正前民法149条)。

(続きを読む...)訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更(AI作成)

売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるか―民事訴訟法5条1号の義務履行地と振込払いの裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の結論と対象1 結論2 本記事の対象と基準日第2 義務履行地の裁判籍の仕組み1 民事訴訟法4条及び5条1号2 売買代金債務の履行場所3 持参債務の原則と義務履行地の裁判籍第3 振込みによる支払と義務履行地に関する裁判例1 東京高裁昭和53年4月21日決定(売掛代金)2 大阪高裁平成10年4月30日決定(賃金の口座振込)3 松山地裁宇和島支部昭和60年8月8日決定(送金債務)4 金融機関の支店の所在地が義務履行地とされた例第4 振込先の支店の所在地を義務履行地と主張できる場合1 弁済場所についての明示の合意がある場合2 「振り込んで支払う」とだけ定める条項3 約款で支払場所を定める条項の限界第5 実務上の対応1 売主が訴えを提起する場合2 買主が訴えられた場合3 契約書を作成する段階第6 出典1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の結論と対象
1 結論

売買代金を売主の指定する預金口座へ振り込んで支払う約束があるだけでは,その口座を管理する金融機関の支店の所在地は,民事訴訟法5条1号の義務履行地にはならないと考えられる。
大阪高裁平成10年4月30日決定は,銀行振込を義務履行のための一つの方法にすぎないとし,東京高裁昭和53年4月21日決定は,売掛代金が売主本店の口座への振込みで支払われていたことから支払場所を本店とする暗黙の合意の成立を推認することは困難であるとしており,いずれもこの考え方に沿うものである。

売買代金債務の履行場所は,弁済場所についての別段の意思表示がない限り,民法484条1項により債権者の現在の住所となり,商行為によって生じた債務であれば商法516条により債権者の現在の営業所となる。
したがって,売主は,自らの住所又は営業所の所在地を義務履行地として民事訴訟法5条1号の管轄を主張するのが通常であり,これとは別に振込先の支店の所在地を管轄の根拠とする意味は乏しい。

振込先の支店の所在地が義務履行地となり得るのは,その支店を弁済場所とする明示の合意がある場合など,当事者の意思表示によって弁済場所が特定されている場合に限られると考えられる。
もっとも,売買代金の事案で振込先の支店の所在地を義務履行地と認めた裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらなかった。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,令和8年9月18日現在の法令並びに本記事で確認した裁判例及び文献に基づき,国内の売買代金(売掛金)請求訴訟の土地管轄を対象とする。
国際裁判管轄,手形又は小切手による金銭の支払の請求(民事訴訟法5条2号),消費者契約に特有の問題及び個別の契約条項の有効性の判断は,本記事の対象外とする。

本記事で取り上げる裁判例には,賃金,保険金,銀行取引等,売買代金以外の債務に関するものが含まれる。
これらは義務履行地の考え方を示すものとして参照するものであり,売買代金の事案にそのまま当てはまるとは限らない。

第2 義務履行地の裁判籍の仕組み
1 民事訴訟法4条及び5条1号

民事訴訟法4条1項は,訴えは被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属すると定め,同条4項は,法人の普通裁判籍は主たる事務所又は営業所により定まるとしている。
これに対し,同法5条柱書き及び1号は,財産権上の訴えについて,義務履行地を管轄する裁判所にも訴えを提起することができると定めている。

売買代金の支払を求める訴えは財産権上の訴えであるから,買主の普通裁判籍の所在地のほか,代金支払債務の義務履行地にも管轄が生じる。
そのため,代金支払債務の義務履行地がどこかが,売主がどこの裁判所に訴えを提起できるかを左右する。

2 売買代金債務の履行場所
(1) 民法484条1項

民法484条1項は,「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」と定めている。
金銭債務である売買代金債務は「その他の弁済」に当たるから,別段の意思表示がなければ,売主の現在の住所が履行場所となり,これを持参債務の原則という(我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権―〔第6版〕』(日本評論社,2019年)968頁)。

同書は,別段の意思表示がない場合にも,債権発生行為の性質上弁済地が特定される場合には,民法484条の適用はないと説明している(同書969頁)。

(2) 商法516条

商法516条は,商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質又は当事者の意思表示によって定まらないときは,特定物の引渡し以外の債務の履行は「債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)」においてしなければならないと定めている。
事業者間の売掛金は通常これに当たるから,売主の現在の営業所が履行場所となる。

(3) 民法574条

民法574条は,売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならないと定めている。

(続きを読む...)売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるか―民事訴訟法5条1号の義務履行地と振込払いの裁判例(AI作成)

民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法―弁護士会照会・調査嘱託・文書送付嘱託・文書提出命令の使い分け(AI作成)

目次第1 証拠収集手段を選ぶ前に整理する事項1 本記事の対象2 立証命題から逆算する3 事実の回答と既存資料の送付を区別する第2 本人による取得と任意の開示請求1 取得できることと取得してよいことを分ける2 本人取得と任意請求を具体化する第3 弁護士会照会1 制度の仕組み2 回答が保証される制度ではない第4 提訴前照会と提訴前の証拠収集処分1 提訴前照会2 提訴前の証拠収集処分第5 当事者照会第6 調査嘱託第7 文書送付嘱託第8 文書提出命令1 申立てに必要な事項2 提出義務と除外文書3 命令に従わない場合第9 各制度の比較第10 電磁的記録,個人情報及び秘密への対応1 電磁的記録2 個人情報を含むことだけで取得できなくなるわけではない3 法律相談通信と既存資料を混同しない第11 よくある失敗と申立て前の確認事項1 よくある失敗2 申立て前の確認事項第12 証拠収集法制の見直しとの関係第13 一次資料と裁判例の確認範囲第14 出典1 法令・裁判例2 法改正関係資料
第1 証拠収集手段を選ぶ前に整理する事項
1 本記事の対象

民事事件で必要な資料が相手方や第三者の手元にある場合,利用できる制度は一つではない。
弁護士会照会,提訴前照会,提訴前の証拠収集処分,当事者照会,調査嘱託,文書送付嘱託及び文書提出命令は,対象,利用できる時期,求める内容,強制力及び不回答時の効果が異なる。

本記事は,これらの制度を現行の民事訴訟法及び弁護士法に沿って比較し,制度を選ぶ前に整理すべき事項をまとめるものである。
条文は令和8年9月17日時点のe-Gov法令検索で確認した。
申立てさえすれば裁判所や弁護士会が必要な証拠を網羅的に探してくれる制度はないから,最初に「何を証明するため,誰が,どの資料又は情報を持っているか」を具体化し,本人による取得や任意交渉で足りるかを確認した上で,目的に合う制度を選ぶ必要がある。

2 立証命題から逆算する

最初に決めるべきなのは制度名ではなく,証明したい事実である。
例えば「取引の経過」を証明する場合でも,契約書,注文履歴,入出金記録,電子メール,アクセスログ等では,保有者,保存期間及び適切な取得手段が異なる。

資料候補ごとに,少なくとも次の事項を整理する。
① 証明すべき事実
② 資料又は情報の名称,内容及び対象期間
③ 作成者,保有者,担当部署及び保存システム
④ 契約番号,口座,端末,日時等の識別情報
⑤ 本人が取得できるか,既に取得を試みたか
⑥ 保存期間,上書き又は消去の可能性
⑦ 第三者の個人情報,営業秘密その他の秘密を含むか
⑧ 本案の証明責任を誰が負うか
⑨ 甲乙双方の既提出証拠で足りる部分と,不足している証明対象は何か

3 事実の回答と既存資料の送付を区別する

「特定日の登録住所を回答してほしい」という要求と,「特定期間の取引明細を送ってほしい」という要求は性質が違う。
前者は一定事項の報告を求める照会又は調査嘱託に適し,後者は既存文書の送付嘱託又は提出命令が問題になりやすい。
新しい意見書や調査報告書を作らせることと,既に存在する資料を送らせることも分けて検討する。

第2 本人による取得と任意の開示請求
1 取得できることと取得してよいことを分ける

資料を物理的・技術的に開けることと,その資料を取得・閲覧・複製してよい権限があることは別である。本人取得を選ぶ前に,端末・アカウント・媒体の名義及び管理者,ロック又はパスワードの有無,同意の有無と範囲,業務用か私用か,第三者の秘密を含むかを確認する。

対象を期間・相手・ファイル名等で絞り,取得前の状態,日時,取得者及び取得方法を記録する。電子データは原本を上書きせず,必要に応じて複製のハッシュ値を保存する。第三者の医療・家族・営業情報を含む場合や,退職者の会社端末,死亡者のロック端末,共有アカウント等は,裁判上の必要性だけで正当化できるとは限らないため,任意開示,照会,嘱託又は提出命令という代替手段も比較する。

取得方法に問題がある資料については,証拠能力・証明力の問題と,取得者の民事・刑事・懲戒上の責任を分けて検討する。日本の民事訴訟で違法収集証拠が常に一律排除されるとの明文規定はないが,具体的な許容限界は事案依存である。判例秘書を含む関連裁判例の網羅検索は本記事の今回の追記では実施していないため,個別事件では取得前に追加調査を行う。

(続きを読む...)民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法―弁護士会照会・調査嘱託・文書送付嘱託・文書提出命令の使い分け(AI作成)

ウェブ会議による民事裁判期日を録音・録画・撮影できるか―民事訴訟規則77条と弁護士の確認事項(AI作成)

目次
第1 結論
第2 令和8年5月21日施行の民事訴訟規則77条
第3 ウェブ会議にも許可が必要となる理由
第4 裁判所が作成する録音・録画との違い
第5 刑事事件及び庁舎内撮影との区別
第6 弁護士の実務チェックリスト
第7 一次資料及び関連記事

第1 結論
1 本記事が扱うのは,当事者又は代理人が,ウェブ会議その他の民事裁判期日を私物端末等で録音,録画又は画面撮影する場面です。報道機関による法廷内カメラ取材は,「法廷内写真撮影」及び「最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領」で扱います。
2 現行の民事訴訟規則77条は,民事訴訟に関する手続の期日における写真撮影,速記,録音,録画又は放送について,裁判長,受命裁判官又は受託裁判官の許可を必要としています。
3 規制対象は従前の「法廷」に限られません。ウェブ会議で参加する弁論準備手続その他の期日でも,無断の録音,録画又はスクリーンショットをしてよいことにはなりません。
4 当事者双方が同意していること,端末に録画機能があること又は自分の発言だけを記録する目的であることは,裁判長等の許可に代わるものではありません。必要がある場合は,目的,方法,保存期間及び利用範囲を示して事前に許可を求めるべきです。

第2 令和8年5月21日施行の民事訴訟規則77条
1 裁判所が公表する現行民事訴訟規則77条は,対象を「民事訴訟に関する手続の期日」と定め,写真撮影,速記,録音,録画又は放送について許可を要求しています。
2 同条後段は,期日外の審尋及び民事訴訟法176条2項に基づく書面による準備手続の協議についても同じ扱いとしています。
3 令和8年5月21日より前の条文は「法廷における」撮影等を対象としていました。古い条文を現在のウェブ会議にそのまま当てはめると,適用範囲を誤るおそれがあります。

第3 ウェブ会議にも許可が必要となる理由
1 民事規則制定諮問委員会資料は,ウェブ会議等の利用場面が拡大する一方で,旧条文では裁判所が行う弁論準備手続期日や書面による準備手続の協議に一律の規律が及ばないという問題を説明しています。
2 画面撮影又は録画には,裁判官,裁判所職員,当事者,代理人,証人,通訳人,資料及び画面通知などが記録される可能性があります。情報漏えいだけでなく,発言萎縮,手続運営及び証人隔離への影響も生じ得ます。
3 規則77条は許可制であり,条文上「常に不許可」とされているわけではありません。ただし,許可の有無及び条件は個別の手続で確認する必要があります。

第4 裁判所が作成する録音・録画との違い
1 民事訴訟規則76条は,裁判所が必要と認めるときに,申立て又は職権で口頭弁論の陳述を録音装置により録取できることを定めています。
2 簡易裁判所では,所定の場合に裁判所書記官が証人等の陳述又は検証結果を録音・録画した電磁的記録を作成する制度もあります。
3 これらは裁判所が訴訟記録又は当事者の裁判上の利用のために作成する公式記録の制度です。当事者又は代理人が私物端末で記録することとは,根拠,管理主体,利用目的及び開示範囲が異なります。

(続きを読む...)ウェブ会議による民事裁判期日を録音・録画・撮影できるか―民事訴訟規則77条と弁護士の確認事項(AI作成)

控訴権の濫用―民訴法303条の金銭納付命令と代理人弁護士の懲戒(AI作成)

目次

第1 民訴法303条の目的

1 濫用的控訴への手続的対応
2 敗訴見込みだけでは足りない

第2 金銭納付命令

1 命令の内容
2 不納付の効果

第3 濫用判断の資料

1 控訴理由と訴訟経過
2 正当な権利行使との区別

第4 代理人弁護士の懲戒との区別

1 当事者の控訴と弁護士の職務行為
2 懲戒判断

第5 根拠資料及び注意

(続きを読む...)控訴権の濫用―民訴法303条の金銭納付命令と代理人弁護士の懲戒(AI作成)

民事控訴における必要的共同訴訟と共同訴訟的補助参加―当事者の地位,控訴期間及び取下げ(AI作成)

目次第1 必要的共同訴訟の控訴1 一部の者による控訴の効力2 形式的な当事者表示だけで決めない第2 主要な最高裁判例1 全員が控訴人となる例2 被控訴人となる例3 いずれにもならない例4 合一確定のため不利益変更が必要となる例第3 通常の補助参加と共同訴訟的補助参加1 まず参加の根拠を三層に分ける2 控訴行為と被参加人との抵触第4 実務上の確認事項1 当事者目録2 控訴期間と取下げ第5 根拠資料及び注意
第1 必要的共同訴訟の控訴
1 一部の者による控訴の効力

必要的共同訴訟では,共同訴訟人の一人の訴訟行為が他の者にも影響し得る。ただし,一部の者が控訴した場合に全員が控訴人となるか,被控訴人となるか,又はいずれにもならないかは,訴訟の類型と紛争構造により異なる。

2 形式的な当事者表示だけで決めない

固有必要的共同訴訟か類似必要的共同訴訟か,誰の権利関係を合一に確定すべきかを確認し,当事者の地位を決める。

第2 主要な最高裁判例
1 全員が控訴人となる例

最高裁昭和38年3月12日判決は,事案の必要的共同訴訟性を踏まえ,一人の被告の控訴により他の被告も控訴人の地位を取得するとした。

2 被控訴人となる例

最高裁平成11年11月9日判決は,境界確定訴訟の当事者関係を踏まえ,共有者の一部が被控訴人の地位に立つとした。

3 いずれにもならない例

最高裁平成9年4月2日大法廷判決は,住民訴訟で自ら上訴しなかった共同訴訟人をその意思に反して上訴人にする効力までは生じないとした。

4 合一確定のため不利益変更が必要となる例

最高裁平成22年3月16日第三小法廷判決(平成20年(オ)第999号,民集64巻2号498頁)は,共同相続人全員の間で合一にのみ確定する相続人たる地位不存在確認請求を固有必要的共同訴訟とした上で,原告が上訴又は附帯上訴をしていなくても,合一確定に必要な限度では原判決を当事者に不利益に変更できるとした。
控訴審では,誰が控訴したかだけで処分範囲を決めず,①訴訟共同の類型,②判決効を合一に確定すべき範囲,③上訴不可分の範囲,④各当事者に対する審理の程度を図示してから,原判決のどの部分を維持又は変更できるかを検討する必要がある。

第3 通常の補助参加と共同訴訟的補助参加
1 まず参加の根拠を三層に分ける

通常の補助参加は,民事訴訟法42条が定める「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」に認められる。ここでいう法律上の利害関係は,判決主文が直接及ぶ場合だけに限られないが,単なる事実上・経済上の影響とも区別される。参加人の法的地位にどのような影響が及ぶかを具体化する。

これとは別に,確定判決の効力が第三者にも及ぶため,共同訴訟人に準じた地位を与えるべき共同訴訟的補助参加が問題となる。①判決効が及ぶか,②通常の補助参加に必要な法律上の利害関係があるか,③後の別訴でどの事項が争われるかを分け,名称だけで参加類型を決めない。訴訟告知を受けた第三者が参加しなかった場合の効力(民事訴訟法53条4項)は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えで整理している。

2 控訴行為と被参加人との抵触

通常の補助参加人は,民事訴訟法43条2項により上訴審でも参加でき,同法45条1項により上訴その他の訴訟行為をすることができる。ただし,同条2項により,参加人の訴訟行為が被参加人の訴訟行為と抵触するときは効力を有しない。

共同訴訟的補助参加では,判決効の拡張を根拠に,参加人の独立性を通常の補助参加より強く認めるべきかが問題となる。最高裁昭和40年6月24日判決などを踏まえ,誰が控訴したか,被参加人が控訴又は取下げをしたか,両者の行為がどの点で抵触するか,判決効が参加人へ及ぶ根拠は何かを個別に確認する。

第4 実務上の確認事項
1 当事者・参加人と判決効の一覧

第一審の当事者,参加人,控訴をした者,控訴の効力が及ぶ者及び送達先を一覧化する。その際,①判決効,②参加の法律上の利害関係,③後の別訴への影響を別欄にし,補助参加決定があるというだけで共同訴訟的補助参加と扱わない。

2 行為者・時点・効果・救済

各人の判決送達日,控訴状提出日,独立した控訴期間の有無,控訴又は取下げをした者,必要な授権及び他の当事者・参加人への効力を時系列で確認する。期間徒過や取下げが問題になるときは,誰のどの行為がいつ効力を生じ,その後に残る救済が何かまで分ける。

第5 根拠資料及び注意

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び上記最高裁判例を確認した。

(続きを読む...)民事控訴における必要的共同訴訟と共同訴訟的補助参加―当事者の地位,控訴期間及び取下げ(AI作成)

民事控訴の利益とは―全部勝訴判決でも控訴できる場合と上訴の適法性(AI作成)

目次第1 控訴の利益の基本1 第一審主文と申立てを比較する2 理由中の判断だけを争うことはできない3 相殺判断に既判力が生じる場合第2 最高裁令和5年3月24日判決1 事案の特殊性2 一般化には注意が必要である第3 控訴の利益を確認する手順1 申立てと主文を対照する2 不利益の法的性質を特定する第4 不適法控訴のリスク1 期間内でも利益がなければ却下される2 相手方の附帯控訴第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴の利益の基本
1 第一審主文と申立てを比較する

控訴の利益は,原則として第一審で求めた裁判と実際の主文を比較して判断する。請求が全部認容された原告は,理由に不満があっても通常は控訴できない。

2 理由中の判断だけを争うことはできない

判決理由に不利な認定があっても,主文で全部勝訴していれば,その理由だけの変更を求める控訴は原則として許されない。既判力その他の効果が問題となる場合は,別途検討する。

3 相殺判断に既判力が生じる場合

民事訴訟法114条1項により,判決理由中の判断には原則として既判力が生じない。しかし,同条2項は,相殺のため主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額の範囲で既判力を認める。

そのため,支払額が同じでも,相殺判断の既判力が生じるかが変われば,判決の法的効果は同じではない。
例えば,本訴債権200万円を認めた上で被告の相殺を容れて請求を全部棄却した場合,被告は支払を免れる一方,自働債権について対抗額の範囲で不利な既判力を受ける。このため,相殺によって全部勝訴した被告にも例外的に控訴の利益が認められると解される。
逆に,本訴債権の不存在を理由とする第一審の請求棄却を,原告の控訴に対して,本訴債権は存在するが相殺で消滅したとして請求棄却に改める場合は,相殺判断の既判力を伴うため,単に控訴を棄却するのではなく,原判決を取り消して改めて請求棄却判決をするという整理になる。

最高裁昭和61年9月4日判決の公式全文は,相殺による請求棄却に対して原告だけが控訴し,被告が控訴も附帯控訴もしなかった場合,本訴債権の不存在を理由とする請求棄却に改めると原告が得た自働債権不存在の既判力を失わせるため,不利益変更禁止により第一審判決を維持すべきとした。
被告が自働債権を守りたいときは,原告の控訴に応答するだけで足りると考えず,自らの控訴又は附帯控訴の要否を確認する。

控訴の利益,控訴審の審判範囲,判決主文及び既判力の範囲は別々に確認する。相殺の既判力については,相殺の抗弁に関するメモ書き―既判力・再訴・相殺の抗弁相互の関係も参照されたい。

第2 最高裁令和5年3月24日判決
1 事案の特殊性

最高裁令和5年3月24日判決は,事件を審理した裁判官が判決書の原本に基づかずに判決を言い渡したという重大な手続問題がある事案で,全部勝訴した原告の控訴の利益を認めた。

2 一般化には注意が必要である

この判決は,全部勝訴者が理由に不満を持つだけで控訴できるとしたものではない。判決としての適法性に関わる特殊な事情を踏まえて理解する必要がある。

第3 控訴の利益を確認する手順
1 申立てと主文を対照する

第一審の最終的な請求の趣旨,訴えの変更,請求の放棄・認諾及び主文を対照する。予備的請求がある場合は,主位的請求との関係も確認する。

2 不利益の法的性質を特定する

経済的不満ではなく,主文又は判決の法的効力による不利益を特定する。控訴以外の手段で解決すべき問題かも検討する。

第4 不適法控訴のリスク
1 期間内でも利益がなければ却下される

控訴期間内の申立てであっても,控訴の利益を欠けば不適法となる。控訴状では,どの主文部分についてどのような変更を求めるかを明示する。

2 相手方の附帯控訴

自分の控訴により,相手方が附帯控訴をして第一審判決より有利な変更を求める可能性がある。控訴の利益と訴訟戦略は分けて検討する。

相殺通知を送る前の確認事項は,相手方の相殺にどう反論するか―弁済の再抗弁,訴訟外の相殺通知と債権を失うリスク(AI作成)で説明している。
一部請求の残額を請求又は相殺に使う場合は,一部請求で負けた後に残額を請求・相殺できるか―既判力と信義則,係属中と確定後の違い(AI作成)で,係属中と敗訴確定後,法廷意見と補足意見を分けて整理している。

第5 根拠資料及び関連記事

(続きを読む...)民事控訴の利益とは―全部勝訴判決でも控訴できる場合と上訴の適法性(AI作成)

民事控訴審の審理の流れ―原審口頭弁論の結果陳述,一回結審及び和解(AI作成)

目次第1 控訴提起から第一回期日まで1 控訴状と記録送付2 控訴理由書と答弁書第2 第一審口頭弁論の結果陳述1 控訴審へ第一審の訴訟資料を引き継ぐ2 陳述範囲を曖昧にしない第3 一回結審と続行1 第一回期日で終結することがある2 続行が必要な場合第4 和解1 控訴審でも和解は可能である2 仮執行・担保・関連紛争も確認する第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴提起から第一回期日まで
1 控訴状と記録送付

控訴状は第一審裁判所に提出され,適法な控訴として整理された後,記録が控訴裁判所へ送られる。電子事件ではmintsによる提出・送達等の現行運用を確認する。

2 控訴理由書と答弁書

控訴人は定められた期間内に控訴理由書を提出し,被控訴人はこれに対する答弁を準備する。新証拠,訴えの変更又は附帯控訴がある場合は,第一回期日前に手続を明確にする。

第2 第一審口頭弁論の結果陳述
1 控訴審へ第一審の訴訟資料を引き継ぐ

民事訴訟法296条2項により,当事者は第一審の口頭弁論の結果を陳述する。これは第一審で提出した主張・証拠を控訴審の判断資料として引き継ぐための手続である。

2 陳述範囲を曖昧にしない

最高裁昭和41年11月10日判決は,「第一審判決事実摘示のとおり」との陳述では,判決の事実摘示に記載されていない主張が控訴審で陳述されたことにならないとした。判決に現れていない重要主張は,控訴審書面で明示するのが安全である。

第3 一回結審と続行
1 第一回期日で終結することがある

控訴審は提出書面と原審記録を事前に検討し,第一回期日で弁論を終結することがある。重要な主張・証拠を「期日後に出す」前提で準備してはならない。

2 続行が必要な場合

新たな争点,証拠調べ,訴えの変更又は和解協議が必要なときは続行され得る。続行を求める場合は,必要な審理事項と予定期間を具体的に示す。

第4 和解
1 控訴審でも和解は可能である

控訴審では第一審判決を踏まえて法的・経済的リスクが具体化しているため,和解が試みられることがある。

2 仮執行・担保・関連紛争も確認する

和解条項では,支払方法,遅延時の取扱い,仮執行による既払金,強制執行の停止・取下げ,訴訟費用及び関連事件を漏れなく確認する。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法296条以下(e-Gov法令検索)を確認した。
手続の現行化は,大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法及びmintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法を参照されたい。

民事控訴審の不利益変更禁止―不服申立ての範囲と附帯控訴の注意点(AI作成)

目次第1 不利益変更禁止の基本1 変更は不服申立ての限度に限られる2 主文上の不利益を基準に考える第2 控訴人だけが控訴した場合1 控訴人をより不利にできない2 請求の一部控訴3 過失相殺率が有利でも最終額が増えれば違反すること第3 被控訴人が変更を求める方法1 附帯控訴2 訴えの変更との関係第4 相殺の抗弁と不利益変更禁止1 相殺判断には特別の既判力がある2 最高裁昭和61年9月4日判決第5 提出前の確認1 対照表を作る2 例外的問題第6 根拠資料及び関連記事
第1 不利益変更禁止の基本
1 変更は不服申立ての限度に限られる

民事訴訟法304条は,第一審判決の取消し及び変更を不服申立ての限度に限る。控訴審は,当事者が争っていない部分まで自由に変更するものではない。

2 主文上の不利益を基準に考える

一般に,判決理由の評価ではなく,主文で認められた権利義務と控訴の範囲を基準にする。理由中の判断に不満があるだけでは,通常は独立した控訴の利益がない。

もっとも,相殺の抗弁については,民事訴訟法114条2項により,理由中の判断にも例外的に既判力が生ずる。このため,同じ請求棄却の主文でも,請求債権を否定した棄却と,相殺で消滅したとする棄却とでは,判決の法的効果が異なり得る。

第2 控訴人だけが控訴した場合
1 控訴人をより不利にできない

相手方が控訴又は附帯控訴をしていない場合,控訴人の不服申立てを契機として第一審判決より控訴人に不利な主文又は法的効果へ変更することはできない。

2 請求の一部控訴

一部だけ控訴した場合,控訴審の審判対象も原則としてその範囲に限られる。控訴状の「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す」といった表現と,具体的な請求額・対象を整合させる。

3 過失相殺率が有利でも最終額が増えれば違反すること

伊藤正晴・上村考由「最高裁民事破棄判決等の実情―平成25年度―」(判例時報2224号・2225号)によれば,最高裁平成25年2月15日第二小法廷判決(平成23年(受)第302号)は,不法行為に基づく損害賠償請求で被告だけが控訴した事案を扱った。控訴審は,過失割合を被告に有利に変更した一方,過失相殺前の損害額を第一審より大きく認定したため,結論として被告の支払額を第一審より増加させた。最高裁は,このような変更は民事訴訟法304条の不利益変更禁止に反するとしたと整理されている。

したがって,不利益変更の有無は,過失割合その他の個別要素だけで判定してはならない。第一審主文,不服申立ての範囲,控訴審が認定した損害項目・基礎額・過失割合・既払額及び最終認容額を一つの計算表にし,控訴した当事者の最終的な負担が増えていないかを確認する必要がある。

資料上の注意:上記判決の事件番号,判決日,法廷,結論及び事案の概要は同年度論文で確認した。今回の調査では裁判所ウェブサイトの判決全文及び判例秘書の全文を確認できていないため,準備書面等で判旨を直接引用するときは原典を追加確認する必要がある。

第3 被控訴人が変更を求める方法
1 附帯控訴

被控訴人が第一審判決より自己に有利な主文又は法的効果を求めるには,附帯控訴が必要である。単に控訴棄却を求める答弁だけでは,自己の敗訴部分の変更を求めたことにならない。

2 訴えの変更との関係

被控訴人が請求又は訴訟物を追加・変更する場合も,附帯控訴の要否を検討する。名称ではなく,実質として第一審判決より有利な裁判を求めるかで判断する。

第4 相殺の抗弁と不利益変更禁止
1 相殺判断には特別の既判力がある

民事訴訟法114条2項は,相殺のため主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額に限り既判力が生ずると定める。したがって,請求債権が存在しないとして請求を棄却する判決と,請求債権は存在するが相殺によって消滅したとして請求を棄却する判決は,主文が同じでも,将来に残る既判力の範囲が異なる。

控訴審では,第一審の主文だけでなく,①請求債権の存否,②相殺に供された反対債権の存否,③民事訴訟法114条2項の既判力及び④誰が控訴・附帯控訴をしたかを一つの表にして確認する必要がある。

2 最高裁昭和61年9月4日判決

最高裁昭和61年9月4日第一小法廷判決は,第一審が請求債権の成立を認めた上で相殺により消滅したとして請求を棄却し,原告だけが控訴した事案について,控訴審が請求債権自体の成立を否定すると,原告に不利益となるとして許されないとした。

第一審判決には,相殺に供された被告の反対債権が相殺額の限度で不存在となるという原告に有利な既判力が含まれる。原告だけの控訴によってその利益を失わせることは,不利益変更禁止に反するからである。控訴審が請求債権の成立を否定すべきだと考えても,結論として控訴を棄却し,第一審判決を維持する。

逆に,第一審が請求債権の不存在だけを理由に請求を棄却したのに,控訴審が請求債権の成立と相殺を認める場合には,相殺判断の既判力が新たに生ずる。主文が請求棄却のままでも法的効果が変わるため,原判決を取り消した上で請求を棄却するという処理を検討する。

第5 提出前の確認

(続きを読む...)民事控訴審の不利益変更禁止―不服申立ての範囲と附帯控訴の注意点(AI作成)

民事控訴審における反訴―相手方の同意,異議,移送・却下及び手数料(AI作成)

目次第1 控訴審の反訴に追加される要件1 原則として相手方の同意が必要である2 異議なく本案弁論をすると同意とみなされる第2 同意を要しない場合1 第一審の審判を受ける利益を失わせない場合2 人事訴訟の特則第3 相手方が同意しない場合1 移送説と却下説がある2 書面で明確にする事項第4 手数料1 第一審が本訴を判断した場合2 第一審が本訴を判断していない場合第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴審の反訴に追加される要件
1 原則として相手方の同意が必要である

控訴審でも反訴は提起できるが,第一審の反訴要件に加え,相手方の同意を要する(民事訴訟法300条1項)。これは反訴について第一審の審判を受ける利益を保護するためである。

2 異議なく本案弁論をすると同意とみなされる

相手方が異議を述べず反訴の本案について弁論したときは,同意したものとみなされる(同条2項)。反訴を受けた側は,本案に入る前に同意の有無と異議を明確にする必要がある。

第2 同意を要しない場合
1 第一審の審判を受ける利益を失わせない場合

最高裁昭和38年2月21日判決は,相手方から第一審の審判を受ける利益を実質上奪うおそれがない場合には,同意を要しないとした。
反訴と本訴の争点・証拠の重なりや,第一審での審理状況を具体的に示す必要がある。

2 人事訴訟の特則

人事訴訟の控訴審における反訴については,人事訴訟法18条の特則があり,相手方の同意を要しない。一般民事訴訟と混同してはならない。

第3 相手方が同意しない場合
1 移送説と却下説がある

過去の下級審裁判例には,管轄権を有する第一審裁判所へ移送した例と,不適法として却下した例がある。反訴状送達前の段階から,担当裁判官と進行を確認することが重要である。

2 書面で明確にする事項

反訴状には,請求の趣旨・原因だけでなく,控訴審で反訴を許すべき理由,相手方の同意の有無,同意不要と主張する根拠及び本訴との関連性を記載する。

第4 手数料
1 第一審が本訴を判断した場合

原則として控訴提起手数料を基準に算定し,本訴と目的を同じくする反訴では一定の控除が問題となる。

2 第一審が本訴を判断していない場合

訴え提起手数料を基準とする取扱いが問題となる。訴額と本訴との目的同一性を示し,提出前に裁判所へ確認するのが安全である。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索),人事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)を確認した。
電子提出の一般的な扱いは,mintsで反訴・訴えの変更をする方法を参照されたい。

民事控訴審で請求を追加・変更する方法―訴えの変更,附帯控訴及び送達(AI作成)

目次第1 控訴審でも請求の追加・変更は問題となる1 請求の趣旨と訴訟物を区別する2 独立した表題を付ける第2 控訴人と被控訴人で手続が異なる1 控訴人による変更2 被控訴人による変更と附帯控訴第3 許否を左右する事情1 著しい訴訟遅延2 第一審が本案判断をしていない場合3 新訴に対する裁判第4 手数料と提出前確認1 手数料2 チェック項目第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴審でも請求の追加・変更は問題となる
1 請求の趣旨と訴訟物を区別する

請求額又は請求内容を変える場合だけでなく,請求の趣旨が同じでも新たな請求原因を加えて訴訟物が変わる場合は,訴えの変更として扱う必要がある。
控訴理由書又は準備書面の中に変更部分を埋め込むと,裁判所と相手方が送達及び手数料を判断しにくい。

2 独立した表題を付ける

控訴人が変更する場合は「訴え変更申立書」又は「控訴理由書兼訴え変更申立書」など,変更が一見して分かる表題と独立項目を設けるのが実務上安全である。

第2 控訴人と被控訴人で手続が異なる
1 控訴人による変更

控訴人の請求追加・変更は,民事訴訟法143条が控訴審に準用されることを前提に,同一性,審理遅延及び二審制の利益への影響が検討される。変更書面は相手方への送達が必要となる。

2 被控訴人による変更と附帯控訴

被控訴人が第一審判決より自己に有利な裁判を求める場合は,附帯控訴を要する。請求の趣旨を変えない場合でも,訴訟物を追加又は変更して自己に有利な変更を求めるときは,附帯控訴の要否を検討する。

第3 許否を左右する事情
1 著しい訴訟遅延

相手方の陳述した事実に基づく変更であっても,著しく訴訟手続を遅滞させる場合は許されない(最高裁昭和42年10月12日判決)。

2 第一審が本案判断をしていない場合

訴え却下判決に対する控訴審で追加的新訴を持ち込むと,第一審の審判を受ける利益との関係が問題となる。知財高裁平成31年2月19日判決及び同年3月4日判決は,それぞれの事案で追加的変更を許さなかった。

3 新訴に対する裁判

控訴審で訴えの変更により新訴が係属した場合,控訴裁判所は新訴について事実上第一審として裁判すべきであり,単なる控訴棄却では処理できない(最高裁昭和31年12月20日判決)。

第4 手数料と提出前確認
1 手数料

第一審が変更前の請求を判断したか否かにより,控訴手数料基準と訴え提起手数料基準のどちらを用いるかが変わり得る。実額は変更前後の訴額を示して裁判所書記官に確認するのが安全である。

2 チェック項目

①変更前後の請求の趣旨,②請求原因,③附帯控訴の要否,④相手方への送達,⑤手数料,⑥審理遅延,⑦第一審の審判を受ける利益を確認する。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)を確認した。
電子提出を含む現行実務については,mintsで反訴・訴えの変更をする方法も参照されたい。

民事控訴審の控訴理由書の書き方―原判決の誤り,証拠評価及び主張の組み立て(AI作成)

目次第1 控訴理由書で最初に示す事項1 結論を変える判断点を特定する2 不服の範囲を主文と対応させる第2 事実認定の誤りの書き方1 証拠と認定事実を一対一で対応させる2 新証拠の役割を説明する第3 法令適用の誤りと文章構成1 規範・要件・事実・結論を分ける2 推奨する並び順第4 提出前チェック1 形式面2 内容面第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴理由書で最初に示す事項
1 結論を変える判断点を特定する

民事控訴審は続審であるが,控訴理由書では第一審の主張を単に再掲するのでは足りない。原判決の主文を支える主要な判断を分解し,どの判断が変われば結論が変わるのかを先に示す必要がある。
原判決の認定事実,証拠評価,法令解釈及び当てはめを区別し,各項目について原判決の該当頁を特定すると,裁判体が争点を追いやすい。

2 不服の範囲を主文と対応させる

控訴の趣旨,控訴状及び控訴理由書の結論は一致させる。請求の一部だけを争う場合は,第一審判決のどの部分について変更を求めるかを明示する。
被控訴人が自己に不利益な変更を求める場合は,単なる答弁ではなく附帯控訴が必要となることがある。

第2 事実認定の誤りの書き方
1 証拠と認定事実を一対一で対応させる

「証拠の評価が不当である」とだけ書くのではなく,①原判決が認定した事実,②根拠とした証拠,③見落とした反対証拠,④経験則又は論理則上の問題,⑤正しく認定すべき事実,⑥結論への影響を順に記載する。
供述証拠については,変遷,客観証拠との整合性,利害関係及び知覚・記憶の条件を具体的に示す。

2 新証拠の役割を説明する

新証拠を提出する場合は,証拠の内容だけでなく,どの争点のどの認定を動かすのか,第一審で提出できなかった事情及び立証趣旨を説明する。
控訴審の期日が短期間で終結する場合もあるため,提出予定の証拠は理由書と同時又はできる限り早期に整理する。

第3 法令適用の誤りと文章構成
1 規範・要件・事実・結論を分ける

法令適用の誤りは,適用条文,解釈上の規範,要件事実,原判決の認定及び正しい当てはめを分けて書く。判例を引用する場合は,結論だけでなく事案との共通点と相違点を示す。

2 推奨する並び順

実務上は,①控訴の趣旨,②結論を左右する要点,③原判決の判断構造,④争点ごとの誤り,⑤新証拠,⑥求める結論の順で構成すると読みやすい。
提出期限の考え方は,控訴理由書・上告理由書の提出期限を参照されたい。

第4 提出前チェック
1 形式面

①事件番号,当事者及び提出先が正しいか,②控訴の趣旨と理由が対応しているか,③引用した原判決の頁が正しいか,④証拠番号と立証趣旨が一致するか,⑤訴えの変更又は附帯控訴を含んでいないかを確認する。

2 内容面

各控訴理由について,「その誤りがなければ主文が変わる」ことまで説明できているかを確認する。周辺的な誤記の指摘だけでは,原判決変更の理由にならない。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟規則(e-Gov法令検索)を確認した。
民事控訴審全体の案内は,控訴審の手続と主要論点を参照されたい。
本記事は一般的な整理であり,個別事件では控訴の範囲,記録及び提出先裁判所の運用を確認する必要がある。

(続きを読む...)民事控訴審の控訴理由書の書き方―原判決の誤り,証拠評価及び主張の組み立て(AI作成)

大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法―mints後も残る実務と旧紙運用(AI作成)

目次第1 結論及び資料の位置付け1 結論2 対象資料第2 令和8年5月21日前後で取扱いを分ける必要1 新事件2 旧事件3 民事執行等第3 旧紙運用を現在の実務へ読み替える方法1 提出方法,手数料及び郵便費用2 送達及び通知3 副本及び記録送付4 閲覧制限,秘密保持及び記録保存第4 電子化後も有用な主任決議集の学び1 書面の表題より内容を見ること2 当事者及び参加人ごとに期限を管理すること3 上訴理由書を自己完結させること4 記録の所在と緊急性を引き継ぐこと5 証明書等は目的から逆算すること第5 法律事務所の確認チェックリスト1 事件及び適用法令2 提出及び送達3 記録及び証拠第6 一次資料による裏付けの状況1 確認できた事項2 資料に記載されているが,現在の運用とは限らない事項3 本記事の推論4 未確認事項第7 関連記事及び出典1 関連記事2 出典
第1 結論及び資料の位置付け
1 結論

大阪高裁民事部の主任決議集からは,書類の題名ではなく内容に応じて処理すること,当事者及び参加人ごとに送達・提出期限を管理すること,記録の所在を確かめて緊急処理を引き継ぐことなど,電子化後も有用な実務上の視点を学ぶことができる。

他方,同決議集には,紙の事件記録,郵便切手,ファクシミリ,書類の編てつ及び紙の副本を前提とする記載が多い。令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則の下では,これらを現在の取扱いとしてそのまま用いることはできない。

したがって,同決議集は,現在の法令又は大阪高裁の現行運用を証明する資料ではなく,令和3年3月15日時点の内部事務資料として読み,現行法令及び裁判所の公式案内と照合して利用すべきである。

2 対象資料

本記事の対象は,大阪高裁民事部の主任決議集(令和3年3月15日改訂)である。

このPDFは,大阪高裁民事部における主任書記官の決議又は申合せを集約したものと読める。しかし,裁判所ウェブサイトで公開された法令・通達又は裁判例ではなく,大阪高裁の現行版原本との同一性も確認できていない。

そのため,個別事件で裁判所の取扱いを予測する資料としては有用であるものの,法的根拠を示す場合は,民事訴訟法,民事訴訟規則,裁判所の公式案内及び必要に応じて判例を別途確認する必要がある。

第2 令和8年5月21日前後で取扱いを分ける必要
1 新事件

裁判所の「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」によれば,令和8年5月21日に改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則が施行された。

改正後の新事件では,弁護士等の訴訟代理人は原則としてオンラインで申立てその他の提出をし,手数料及び裁判所が定める費用も電子納付する。裁判所のシステムを利用した送達,電子訴訟記録の閲覧及び事件管理が制度の中心となる。

したがって,新事件について,主任決議集の郵便切手,紙の正本・副本,ファクシミリ提出,紙記録の編てつ順序等の記載を現在の通常運用として引用するのは適切でない。

2 旧事件

令和8年5月21日より前に提起された事件には経過措置がある。旧事件の上訴であっても,手続の各場面について新旧いずれの規定が適用されるかを,施行日だけで一律に判断することはできない。

とりわけ,上告,上告受理申立て,抗告並びに費用の予納については,改正後の民事訴訟規則及び附則に個別の経過措置がある。そのため,事件の第一審提起日,現在の審級及び対象手続を組み合わせて確認する必要がある。

3 民事執行等

裁判所の公式案内によれば,民事訴訟のデジタル化が全面施行された後も,民事執行,民事保全,倒産及び家事事件等のデジタル化は別の施行日程に従う。

主任決議集の内容を検討するときは,「民事訴訟がデジタル化されたから,全ての関連手続が同じ取扱いになった」と考えず,対象となる手続類型を先に確定する必要がある。

第3 旧紙運用を現在の実務へ読み替える方法
1 提出方法,手数料及び郵便費用

主任決議集では,窓口又は郵送による提出,収入印紙,郵便切手及びファクシミリを前提とする記載が多い。

現在は,まず事件が新事件か旧事件か,提出者がオンライン提出義務者か,対象書面がシステム提出の対象かを確認する。その上で,手数料及び費用の電子納付の要否,紙提出が許される例外並びに旧事件の取扱いを確認する。

上訴の具体的な提出先,提出時期及びmints上の操作は,mintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法で整理している。

2 送達及び通知

主任決議集の郵便送達及びファクシミリ送信に関する記載は,現在のシステム送達へ機械的に置き換えることはできない。

現行の民事訴訟規則189条は,上告提起通知書について,原則として裁判所の使用に係る電子計算機から送達すべき電子書類を当事者のファイルへ記録する方法を定める。もっとも,システム送達の通知メールは送達そのものではなく,送達の効力発生時点は法令に従って別に判定する必要がある。

期限管理では,メール受信日時だけでなく,事件管理画面の送達記録及び対象書類を確認する。詳しくは,mintsのシステム送達と期限管理で説明している。

(続きを読む...)大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法―mints後も残る実務と旧紙運用(AI作成)

大阪高裁民事部「執務上の留意事項(集約版)」から学ぶ民事訴訟の事故防止(AI作成)

目次第1 資料の位置付けと限界第2 事件・当事者・代理権第3 提出・申出・採否・取調べ第4 期日後の調書・目録第5 送達・期限第6 判決・和解調書を債務名義として点検する第7 秘匿情報・個人番号第8 家事事件の別事件資料第9 紙手続からmintsへの読み替え第10 弁護士向けチェックリスト第11 根拠・資料レベル第12 関連記事

大阪高等裁判所民事部の「執務上の留意事項(集約版)」には,事件表示,送達,証拠目録,調書,判決書及び家事事件の記録などについて,裁判所内部で経験された事務上の事故と確認事項がまとめられています。本記事は,その記載を弁護士側の事故防止策へ読み替えます。ただし,同文書は法令,最高裁判所規則又は裁判例ではなく,掲載PDFの取得経路・真正も本記事作成時点では独立に確認していません。したがって,文書の記載,法的根拠及び本記事の実務提案を区別します。2026年9月16日現在の内容です。

第1 資料の位置付けと限界

対象資料は,平成30年度から令和4年度までの「執務上の留意事項」を集約した,令和6年3月の大阪高等裁判所民事部の文書と表示されています。各項目は,裁判所の内部事務における留意点を示したものであり,当事者又は代理人の手続上の権利義務を直接定めるものではありません。

本記事では,情報の性質を次のように分けます。

法令で確認できる事項―民事訴訟法,民事訴訟規則等に根拠があるもの。
資料の記載―対象資料が過去の事故又は留意事項として述べるもの。
本記事の実務提案―資料の記載から弁護士側の確認工程を導いたもの。
未確認事項―個別の裁判例,現在の全国統一運用又は掲載PDFの来歴について一次資料の確認が終わっていないもの。

第2 事件・当事者・代理権

訴状,答弁書,委任状,登記事項証明書及び裁判所から届いた書面を横断して,次の事項を照合します。

裁判所,部係,事件番号及び事件名
当事者の氏名・名称,住所,本店所在地及び法人番号
代表者の資格,役職及び変更の有無
代理人の委任範囲,復代理及び特別授権の要否
送達場所及び送達受取人

同姓同名,法人の商号変更,合併,代表者変更又は関連事件がある場合には,「名称が似ている」ことを照合の根拠にせず,事件番号と登記事項等の客観的識別子を用います。

第3 提出・申出・採否・取調べ

証拠ファイル又は写しを提出したことと,期日で証拠申出がされ,裁判所が採否を判断し,実際に証拠調べが行われたことは別です。代理人側の管理表には,少なくとも次の欄を分けて設けるのが安全です。

提出日,提出先及び提出方法
相手方への直送又は閲覧可能性

(続きを読む...)大阪高裁民事部「執務上の留意事項(集約版)」から学ぶ民事訴訟の事故防止(AI作成)

上告・上告受理申立ての提出前チェックリスト―代理権・送達・理由書・記録・秘匿(AI作成)

目次第1 本記事の目的及び資料の位置付け第2 最初に確認する当事者・代表者及び代理権1 当事者の同一性と上訴の主体2 法人等の代表者3 代理権及び特別授権第3 送達と期限を確定する1 上訴期間と理由書提出期間を分ける2 送達日と送達先を記録する第4 理由書で区別すべき三つの場面1 期限内に法定理由が存在しない場合2 法定理由はあるが記載方式が不備の場合3 理由の当否及び受理の重要性を判断する場合第5 理由書を自足的にする1 上告と上告受理申立てを区別する2 他の書面又は他人の理由へ丸投げしない第6 不服の範囲と記録の完全性1 主文と不服申立ての範囲2 裁判体,期日及び調書3 引用判例の同一性と射程第7 閲覧制限・秘匿及びマスキング第8 代理人用の提出前チェックリスト第9 関連記事第10 出典
第1 本記事の目的及び資料の位置付け

本記事は,最高裁判所へ送付された上告事件及び上告受理申立て事件の記録について指摘された事項を,代理人側の提出前チェックに置き換えて整理するものである。
中心資料は,上告審から見た書記官事務の留意事項(令和6年分)である。

本記事が扱うのは,上訴権者・代理権,送達日・期限,理由書の方式,記録編成及び秘匿処理を点検する「上訴手続の提出前監査」である。原判決の適用法,判断枠組み,主要事実,証拠評価,理由及び主文の誤りを探す「原判決の実体監査」は,最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリストで扱う。

同資料は,当事者・代表者・代理権,送達,理由書,記録編成,閲覧制限及び秘匿等について,実際に生じやすい不備を広く挙げている。
もっとも,同資料には作成部署,決裁主体及び配布範囲を示す表紙又は発出文書が収録されていないため,裁判所の公式通達又は一般的な法解釈そのものとして扱うことはできない。

そこで,法令及び裁判例に関する結論は,現行の民事訴訟法,裁判所が公表する民事訴訟規則及び確認できた裁判例で裏付ける。
同資料だけで確認した事項は,「同資料は」と主語を明示して紹介する。

第2 最初に確認する当事者・代表者及び代理権
1 当事者の同一性と上訴の主体

上訴状を作成する前に,原判決の当事者欄,主文,訴訟承継,参加,脱退及び選定当事者に関する記録を突き合わせる必要がある。
名称が似ている者,途中で地位を承継した者又は複数の選定者がいる事件では,原審の表示を機械的に転記するだけでは足りない。

選定当事者については,選定書,選定者全員,自己選定の有無,選定の取消し及び資格喪失の有無を確認する。
必要的共同訴訟である可能性があるときは,上訴しなかった共同訴訟人を含めて通知及び記録送付の対象に漏れがないかを検討する。

2 法人等の代表者

法人,医療法人,社会福祉法人,事業協同組合及び地方公共団体等については,名称や通常の代表者だけから訴訟上の代表者を決めない。
請求の相手方及び内容によって代表権者が変わることがあるため,根拠法令,登記,定款又は規約を確認する。

特に,会社と取締役又は退任取締役との間の訴えでは,監査役設置会社か,監査役の監査範囲を会計に限定する定款の定めがあるか等によって検討が分かれる。
上訴段階では,第一審開始時だけでなく,上訴時点の代表資格も確認する必要がある。

3 代理権及び特別授権

委任状が提出されていることだけでなく,当該訴訟代理権が上訴提起,取下げ又は和解等の対象行為まで及ぶかを確認する。
訴訟代理権の消滅又は終了の通知が相手方に到達しているかによって,その効力及び送達先の判断が変わり得る。

上告提起通知書等が本人と代理人のいずれに送達されるべきかは,代理権の存否と一体で確認する。
当事者表示,代理権証明及び送達先を別々のチェック項目にせず,一つの連鎖として点検することが重要である。

第3 送達と期限を確定する
1 上訴期間と理由書提出期間を分ける

判決書の送達を受けた日から2週間の上告期間と,上告提起通知書の送達を受けた日から50日の上告理由書提出期間は,起算点も期間の性質も異なる。
上告期間は不変期間である一方,理由書提出期間は不変期間ではない。

現行の民事訴訟規則194条は,電子上告提起通知書の送達を受けた日から50日を上告理由書の提出期間と定めている。

(続きを読む...)上告・上告受理申立ての提出前チェックリスト―代理権・送達・理由書・記録・秘匿(AI作成)

東京高裁の民事控訴-原判決の取消・変更率,和解率及び審理期間(令和7年度)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料の読み方1 対象となる資料2 統計を「控訴成功率」と読まないこと第2 民事控訴事件の終局内訳1 令和6年の通年値2 令和7年1月から9月まで第3 第一審判決の取消し・変更率1 令和6年及び令和7年の数値2 個別事件の見通しに使う場合の限界3 全国の民事控訴審との比較第4 民事控訴事件の審理期間1 令和6年に終局した事件2 令和6年末の未済事件第5 家事抗告事件と多数冊事件1 家事抗告事件の増加2 多数冊事件の基準変更第6 弁護士実務への示唆1 依頼者への説明2 受任時及び控訴理由作成時の確認事項第7 出典及び関連記事1 一次資料2 関連記事
第1 この記事の対象と資料の読み方
1 対象となる資料

1 この記事は,東京高裁民事部が作成した「令和7年度民事事件概況説明資料」(令和7年12月19日付け。以下「本資料」といいます。)のうち,民事控訴事件の終局区分,第一審判決の取消し・変更,審理期間,家事抗告事件及び多数冊事件に関する部分を整理したものです。
2 本資料の令和7年の数値は,原則として同年9月30日までの実績又はその時点の事件を対象としています。令和6年の通年値と令和7年1月から9月までの値を比較するときは,対象期間が異なることに注意する必要があります。
3 以下で「資料記載」とした部分は本資料の記載又は表から直接確認できる事項,「計算値」とした部分は本資料の数値から私が計算した事項です。

2 統計を「控訴成功率」と読まないこと

1 本資料の「取消・変更率」は,当審判決のうち,第一審判決が取り消され,又は変更されたものの割合です。控訴審で終局した全事件を分母にした割合ではありません。
2 また,取消し・変更には,請求の全部が認められた場合だけでなく,一部変更その他の類型が含まれ得ます。そのため,この率を,控訴人が全面的に勝った割合又は個別事件の見通しと読み替えることはできません。
3 和解,取下げその他によって終局した事件も相当数あるため,判決だけを見ても控訴審全体の解決像は分かりません。

第2 民事控訴事件の終局内訳
1 令和6年の通年値

1 本資料16頁の第11表の1によれば,令和6年に東京高裁で終局した民事控訴事件は5995件でした。
2 内訳は,判決3826件(63.8%),和解1566件(26.1%),取下げその他603件(10.1%)です。判決以外による終局が合計36.2%を占めています。
3 したがって,控訴審の説明では,判決結果だけでなく,和解による解決可能性及び取下げ等による終局も別に検討する必要があります。

2 令和7年1月から9月まで

1 本資料16頁によれば,令和7年1月から9月までに終局した民事控訴事件は4468件でした。
2 内訳は,判決2754件(61.6%),和解1239件(27.7%),取下げその他475件(10.6%)です。各割合の合計が100%にならないのは,表示上の端数処理によります。
3 これは9か月分の途中集計であり,令和7年の通年値ではありません。

第3 第一審判決の取消し・変更率
1 令和6年及び令和7年の数値

1 本資料13頁の第9表の1及び14頁の第9表の2によれば,令和6年は,当審判決3826件のうち755件で第一審判決が取り消され,又は変更され,その割合は19.7%でした。
2 令和7年1月から9月までは,当審判決2754件のうち537件で第一審判決が取り消され,又は変更され,その割合は19.5%でした。
3 いずれも分母は「当審判決」であり,和解,取下げその他を含む全既済事件ではありません。

2 個別事件の見通しに使う場合の限界

1 取消し・変更率は,事件類型,争点,証拠関係,控訴理由の内容及び原判決の認定判断によって大きく意味が変わります。
2 したがって,19.5%又は19.7%という全体値だけから,特定事件の控訴結果を予測することはできません。
3 実務上は,原判決のどの認定又は法的評価を問題とするのか,新たな主張又は証拠を提出できるのか,変更を求める範囲をどのように特定するのかを,記録に即して検討する必要があります。
4 本記事は統計資料の読み方を整理するものであり,民事控訴の法的要件又は個別判例の射程を論じるものではありません。そのため,本記事の統計値について判例秘書は使用していません。

3 全国の民事控訴審との比較

(続きを読む...)東京高裁の民事控訴-原判決の取消・変更率,和解率及び審理期間(令和7年度)(AI作成)

民事訴訟の証拠収集法制見直し―早期開示・文書提出命令・秘密保護の現在地(AI作成)

目次第1 法制審議会への諮問後の現在地第2 見直しが検討された背景第3 提訴前の証拠収集手続1 現行法の入口2 被告の特定・送達先情報第4 提訴後の当事者間情報取得1 三つの案2 交通事故等で想定される利用場面第5 文書提出命令の見直し1 現行法の構造2 自己利用文書等の見直し3 文書を特定する手続4 法律相談通信と訴訟準備資料の扱い第6 専門家その他の第三者の知見第7 秘密保持命令と第三者の秘密保護1 検討案の内容2 現行実務での対応第8 弁護士実務で今から準備できること第9 一次資料と裁判例の確認状態第10 出典
第1 法制審議会への諮問後の現在地

公益社団法人商事法務研究会の「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会」は,令和8年2月に報告書を取りまとめ,同年4月28日に誤植訂正版を公表した。
同報告書は,民事訴訟における情報・証拠収集を,①準備としての収集,②立証としての収集,③専門家等の知見の収集,④秘密の保護という段階に分けて検討している。

令和7年度実務協議会(冬季)資料も,同研究会で文書等の早期開示制度や文書提出命令の見直し等が検討されていることを紹介している(PDF実頁14頁)。
もっとも,研究会報告書は立法上の検討資料であり,同報告書の案がそのまま成立法又は施行済み制度になったわけではない。

その後,令和8年9月14日に開催された法制審議会第206回会議において,法務大臣から発せられた「民事訴訟制度の見直しに関する諮問第131号」を,新設の「民事訴訟法(証拠収集等関係)部会」に付託して審議することとされた。
同会議の配布資料は,主な検討事項として,訴えの提起前における証拠等の収集手続,訴状の送達前における被告に関する情報の収集手続,訴え提起後における当事者間での情報の収集手続,文書提出命令,専門的知見の収集手続及び秘密の保護を挙げている。
現在の段階は,研究会報告書を踏まえて法制審議会の部会で審議が始まる段階であり,部会での審議,要綱案,答申,法案の提出,成立,公布及び施行は区別して追う必要がある。

したがって,以下では,現行民事訴訟法に基づく制度と研究会の検討案を分けて説明する。
「早期開示を請求すれば相手方に提出義務がある」などと,検討案を現在の権利として主張することはできない。

第2 見直しが検討された背景

報告書は,平成8年改正による文書提出義務の一般義務化と当事者照会の新設,平成13年・15年の改正後も,真実解明のための手段を充実させる必要性が指摘されてきたと説明する。
また,情報・証拠収集制度の強化,既存制度の実効性及び秘密保護を一体として検討する必要性を挙げる(報告書PDF実頁2頁~3頁)。

証拠収集を広げれば,当事者が事案を早期に把握し,争点を絞りやすくなる。
一方,広すぎる開示義務は,探索的な要求,営業秘密・私生活上の秘密の流出,第三者の負担及び審理の遅延を生じさせ得る。
このため,開示の必要性,対象の特定,負担,除外事由及び秘密保護を組み合わせて制度設計することが課題となる。

第3 提訴前の証拠収集手続

1 現行法の入口

現行民事訴訟法132条の2以下は,訴え提起前の照会及び証拠収集の処分を定めている。
報告書は,これらの手続が実務上あまり利用されていないという認識を示し,提訴予告通知,申立期間,必要性及び当事者自身による収集困難性等の要件や効果を見直すかを引き続き検討するとした(報告書PDF実頁3頁~5頁)。

報告書は,提訴予告通知を不要とする案について制度趣旨や他制度との均衡に問題があり,具体的方向を見いだすまでに至らなかったことも明記している。
したがって,「提訴前手続が廃止される」「通知なしで相手方に開示を強制できるようになる」と確定的に説明することはできない。

2 被告の特定・送達先情報

報告書は,訴状送達前に,裁判所が官公署等へ被告の氏名・住所等を調査嘱託する新制度や,執行官が送達場所を調査する制度を提案している(報告書PDF実頁5頁~19頁)。
インターネット取引や詐欺被害で相手方の氏名・住所を把握しにくい事案を背景とする。

これも検討案である。
現時点の受任事件では,把握している相手方情報,弁護士会照会,住民票等の職務上請求,既存の調査嘱託,送達方法等を現行法に基づいて検討し,将来制度の利用を前提に提訴期限や保全を遅らせてはならない。

(続きを読む...)民事訴訟の証拠収集法制見直し―早期開示・文書提出命令・秘密保護の現在地(AI作成)

簡易裁判所の民事訴訟―地方裁判所との違いと交通事故事件の争点整理(AI作成)

目次第1 簡易裁判所で扱う民事事件第2 通常訴訟,少額訴訟及び民事調停を選び分ける第3 簡易裁判所の通常訴訟にある特則1 口頭による訴え等2 司法委員の関与第4 交通事故事件の争点整理1 四つの欄を先に作る2 事故態様は時系列と図面を一致させる3 過失と損害を混ぜない第5 地裁の書式を参考にする場合の注意第6 資料の限界と裁判例の確認状態第7 出典
第1 簡易裁判所で扱う民事事件

簡易裁判所は,原則として訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求事件について第一審の裁判権を有する。
もっとも,簡易裁判所で利用できる手続には通常訴訟,少額訴訟,民事調停及び支払督促があり,目的と進め方が異なる。

令和8年2月の令和7年度実務協議会(冬季)資料は,本人訴訟の難化と,弁護士保険の普及を背景とした交通損害賠償訴訟等の弁護士関与事件の増加を簡裁の課題として挙げる。
その上で,地裁の審理・判決に慣れた弁護士にも,簡裁の簡易迅速な役割と手続上の特則を理解してもらう必要があるとしている(PDF実頁6頁)。

法務省が法曹養成制度改革連絡協議会第26回(令和8年3月3日)に提出した司法統計の資料によれば,令和6年の簡裁の民事第一審訴訟の既済事件417,083件のうち,当事者の双方に弁護士が付いていない事件は343,612件(82.4%)であった。
この数には司法書士が代理した事件も含まれる。
地裁との比較や推移は,民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)で扱っている。

この資料は司法行政上の課題認識を示すものであり,個別事件の証明度,過失割合又は損害額を定めるものではない。
簡易迅速という目的から,必要な主要事実や証拠を省略してよいという結論も導かれない。

第2 通常訴訟,少額訴訟及び民事調停を選び分ける

手続主な対象・特徴選択時に確認する事項通常訴訟判決による権利判断を求める。簡裁には簡易な手続の特則がある事実・法律上の争点,証拠調べ,控訴の可能性少額訴訟60万円以下の金銭請求について原則1回の審理で解決を図る最初の期日までの全主張・証拠,即時に調べられる証拠,通常手続への移行可能性民事調停非公開の話合いにより,実情に即した合意を目指す金額以外の条件,履行可能性,関係維持,合意できない場合の次の手続支払督促書類審査から金銭等の支払を求める相手方の異議見込み,送達先,訴訟移行時の対応

少額訴訟は,60万円以下の金銭請求について原則1回の審理で紛争解決を図る制度である。
最初の期日までに全ての言い分と証拠を提出し,証拠はその場ですぐに調べられるものに限られるため,単に金額が少ないという理由だけで選ぶべきではない。

交通事故事件で事故態様,因果関係,休業損害,後遺障害等に多くの争いがあり,追加の証拠調べを要する場合には,通常訴訟又は他の手続が適することがある。
少額訴訟の判決に異議が申し立てられた場合は同じ簡易裁判所で通常手続による審理が行われ,その異議後の判決に対する控訴は認められていない。

第3 簡易裁判所の通常訴訟にある特則

1 口頭による訴え等

民事訴訟法は,簡易裁判所の訴訟手続について,口頭による訴えの提起,請求原因に代えて紛争の要点を明らかにする方法,準備書面を提出しない場合の口頭弁論前の準備等の特則を置いている。
これらは本人にも利用しやすい手続を整える趣旨である。

弁護士が関与する事件では,特則があることを踏まえつつ,相手方と裁判所が短時間で争点を把握できる書面を提出することが望ましい。
特則の存在は,請求原因や抗弁の要件を曖昧にしてよいという意味ではない。

2 司法委員の関与

簡易裁判所は,必要があると認めるとき,司法委員を審理に立ち会わせて和解を試みる補助をさせ,事件について意見を聴くことができる。
司法委員の役割,選任,忌避及び裁判例は,既存記事「簡易裁判所の司法委員―役割,選任,忌避及び関連裁判例(AI作成)」で説明している。

(続きを読む...)簡易裁判所の民事訴訟―地方裁判所との違いと交通事故事件の争点整理(AI作成)

民事訴訟の争点整理―主要事実・証拠・判決の道筋を期日前に整理する方法(AI作成)

目次第1 争点整理は判決に必要な判断対象を明らかにする作業である第2 主要事実,間接事実及び証拠を分ける1 請求原因・抗弁等から主要事実を取り出す2 認否と理由を事実ごとに対応させる3 証拠から事実までの推認過程を書く第3 期日前に確認する事項第4 検討結果を準備書面と期日の説明へ反映する1 一つの節で一つの判断対象を扱う2 期日で確認する事項を絞る3 期日間の投稿と書面の提出期限4 争点整理後の新主張・証拠を処理する5 進行への希望,求釈明及び異議を区別して記録する第5 証拠説明書及び新様式判決との関係第6 判決受領後の六段階監査第7 法的根拠と資料の限界第8 出典
第1 争点整理は判決に必要な判断対象を明らかにする作業である

争点整理では,当事者の主張を短くすること自体ではなく,裁判所が判決をするために判断しなければならない事実と法律問題を明らかにする。
令和8年2月5日・6日の令和7年度実務協議会(冬季)資料「民事・行政事件の現状と課題」は,審理の序盤に主要事実レベルの争点と今後の主張立証の見通しを口頭で協議し,中盤には判決の結論・理由の道筋を意識して判断対象を共有するという審理運営を示している(PDF実頁5頁)。

同資料は裁判所内部の実務協議会資料の公開写しであり,法令又は判決ではない。
本記事は,この問題意識を代理人の準備へ応用した確認方法を説明するものであり,裁判所が指定する証拠説明書その他の書式とは区別している。

第2 主要事実,間接事実及び証拠を分ける

1 請求原因・抗弁等から主要事実を取り出す

主要事実とは,請求原因,抗弁,再抗弁等の法律効果の発生に直接必要となる具体的事実である。
まず,請求,抗弁等の法的構成を選び,その要件ごとに主要事実を一文で記載する。

契約書があるという事実や供述が信用できるという評価は,それだけでは請求原因ではない。
法的要件,主要事実,主要事実を推認させる間接事実及び証拠を別欄に置くと,書面の不足を発見しやすくなる。

2 認否と理由を事実ごとに対応させる

相手方の主張については,認める,否認する,不知のいずれかだけで終わらせず,否認する主要事実には可能な範囲で理由を対応させる。
複数の事実をまとめて「争う」とだけ記載すると,どの事実が証拠調べの対象になるのかが見えにくい。

認否を整理すると,当事者間で一致している事実,証拠が必要な事実及び法律評価だけが争われている部分を区別できる。
期日では,この区別を前提に,次に何を主張・立証すれば判断可能になるかを確認する。

3 証拠から事実までの推認過程を書く

証拠欄には証拠番号だけでなく,引用する頁,段落,日付,メール件名又は画像上の位置まで記載する。
次に,その記載又は映像から,どの事実を,どのような経験則で推認するのかを書く。

同じ証拠でも,契約締結そのものを直接示す場合と,当事者の行動から契約締結を間接的に推認させる場合とがある。
証拠が直接示す内容と,そこから導く評価を分ければ,推論の飛躍や反証の必要性を点検できる。

第3 期日前に確認する事項

期日前には,①請求・抗弁等の法的構成,②主要事実,③相手方の認否と理由,④証拠の該当箇所,⑤証拠から事実への推認過程,⑥不利な事情・反証,⑦未解決点,⑧次回までの作業という順序で確認する。
この順序で検討すると,証拠を先に大量に並べた後で立証対象が分からなくなる事態を避けやすい。

(続きを読む...)民事訴訟の争点整理―主要事実・証拠・判決の道筋を期日前に整理する方法(AI作成)

SNS・マッチングアプリで知り合った相手との紛争と証拠保全―メッセージ・プロフィール・決済履歴を消す前に(AI作成)

第1 結論とこの記事の対象第2 消える前に保存する資料1 アカウントとプロフィール2 メッセージの前後関係3 送金・決済と現実の行動第3 削除・ブロック・機種変更より先にすること1 LINEで先に保存するもの2 Tinderで先に保存するもの3 事業者の保有と開示を同一視しない第4 スクリーンショットの証拠評価1 証拠として出せるかと信用できるかは別である2 表示・書出し・受信ファイルを区別する3 ハッシュ値が証明する範囲4 改変可能性と具体的な改変を区別する5 アカウントと投稿者の同一性第5 交際中の金銭移動を法的に分類する1 貸金か贈与か2 投資詐欺と不当利得3 独身表示と貞操権侵害4 被害事実の公開は別の紛争を生み得る第6 適法な取得と安全の確保第7 弁護士相談に持参する資料第8 裁判所へ提出するときの整理第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所資料2 サービス提供者の公式資料3 判例・文献の確認範囲

第1 結論とこの記事の対象

SNS,マッチングアプリ又はメッセージアプリを介した交際で,貸金,贈与,立替金,投資勧誘,不貞又は婚姻意思をめぐる紛争が生じた場合,最初にすることは,相手を論破することではなく,自分が適法に閲覧できる資料を消える前の状態で保存することである。
プロフィールの一画面又は問題発言だけではなく,アカウントの特定資料,やり取りの前後関係,送金・決済履歴及び現実の行動を同じ時系列に置く必要がある。

この記事は,令和8年9月14日現在の法令及び公表資料を基準として,民事紛争に備える最小限の証拠保全を扱う。
サービスの保存・書出し機能は変更され得るため,実行時には各サービスの最新の公式ヘルプを確認する必要がある。

後記第10のとおり,裁判所ウェブサイトの有界検索に加え,判例秘書の認証済み環境で判決本文を確認した。
スクリーンショットの真正,アカウントと投稿者の同一性,マッチングアプリを介した貸金・贈与,不当利得,投資詐欺及び貞操権侵害について参考となる下級審裁判例があるため,本記事では各裁判例の具体的事情と射程を区別して紹介する。

第2 消える前に保存する資料
1 アカウントとプロフィール

まず,①サービス名,②表示名,③ユーザーID,④プロフィールURL,⑤登録電話番号又はメールアドレスのうち自分に表示されるもの,⑥プロフィール全文,⑦写真,⑧認証済み表示その他のバッジ,⑨表示した日時を保存する。
表示名と写真だけでは,同名の別人,名称変更又はなりすましとの区別が難しいためである。

プロフィールは,一部分だけを切り取らず,サービス名,画面遷移又はURLが分かる画面から問題部分まで連続して撮影する。
長い画面は複数枚に分け,重複部分を残して順序が分かるようにする。

2 メッセージの前後関係

メッセージは,問題となる一文だけでなく,①当事者名又はアカウント,②日付と時刻,③直前と直後の発言,④引用・返信関係,⑤編集又は削除の表示,⑥既読表示の有無が分かる範囲を保存する。
「返す」「あげる」「預かる」といった短い表現の意味は,その前後にある目的,期限,条件及び相手の応答によって変わり得る。

可能であれば,画面のスクリーンショットに加え,サービスの公式機能によるテキスト又はデータの書出しも行う。
ただし,書出しデータにプロフィール写真,削除表示,返信関係又は添付ファイルが含まれないことがあるため,書出しだけで十分とは限らない。

写真,動画,音声又は文書を受信した場合は,アプリ上の表示画面と,取得できる受信ファイルを分けて保存する。
ファイル名を整理するために上書き保存又は再圧縮を繰り返す前に,最初に取得したファイルを読み取り専用の保全用複製として残すのが安全である。

3 送金・決済と現実の行動

金銭紛争では,メッセージだけでなく,①銀行振込明細,②クレジットカード又は決済アプリの利用明細,③商品・航空券・宿泊等の注文番号と領収書,④暗号資産を用いた場合の取引所記録及びトランザクション情報,⑤返済又は返金の履歴を保存する。
カード番号,認証コード及び秘密鍵等,立証に不要な秘密情報は他人へ送付してはならない。

対面で会った事実又は婚姻・交際の実態が問題となる場合は,交通,宿泊,カレンダー,写真の撮影日時,家族・知人との交流及び関係者との連絡を時系列に対応させる。
一つの資料だけで結論を出すのではなく,独立した資料が同じ出来事を指すかを確認する。

第3 削除・ブロック・機種変更より先にすること
1 LINEで先に保存するもの

LINEの標準バックアップは,同じOS間の引継ぎに用いる機能であり,保存対象はテキストメッセージだけである。
LYPプレミアムのプレミアムバックアップは,写真,動画,ファイル及びボイスメッセージを含むリアルタイム保存と異なるOS間の引継ぎに対応するが,会員資格を解約すると保存データが削除されると案内されている。

PINコード又はQRコードを用いる引継ぎで復元できるのは,現行の公式ヘルプ上,直近14日間のトーク履歴である。
また,トーク履歴のテキスト書出しは復元用バックアップではなく,PC版では画面に表示されているトーク履歴だけが保存対象となるため,スクリーンショット,テキスト書出し,画像・動画等の受信ファイル及びバックアップを相互に代用できるものと考えてはならない。

送信取消しと削除は異なり,削除は原則として自分の端末側だけに影響するが,公式ヘルプは,いずれの操作後も元に戻せないと案内している。
LINEアカウントを削除すると全データが削除されて復元できず,アプリのアンインストールだけでもバックアップしていない端末内のトーク履歴を失う可能性があるため,これらの操作より先に必要資料を保存する必要がある。

2 Tinderで先に保存するもの

Tinderでは,個々のメッセージだけを削除することはできず,マッチを解除すると双方のマッチリストから相手と会話が消え,元に戻すことはできない。
マッチが突然消えた画面は,相手がマッチを解除した場合とアカウントを削除した場合のいずれでも生じ得るため,その画面だけから原因を断定してはならない。

個人データのダウンロード機能は,そのアカウントで利用した範囲のメールアドレス,電話番号,プロフィール写真,メッセージ及び設定等を対象とし,申請後に送られるダウンロードリンクは24時間で無効となる。
アカウント削除後はダウンロードできないため,プロフィール及び会話の画面保存と公式データの申請を先に行うべきである。

ID認証又は写真認証のバッジは,対象機能の範囲で身分証明書,プロフィール写真及び実在人物の対応を示す一事情にはなるが,公式ヘルプも身分証明書の真正又は利用者の安全を完全に保証するものではないと注意している。
バッジだけで法律上の氏名,独身であること,説明内容の真実性又は取引の安全性まで立証できるものではない。

3 事業者の保有と開示を同一視しない

令和8年3月31日適用のTinderプライバシーポリシーは,アカウント閉鎖後の安全保持期間とデータの種類に応じた個別の保持期間に加え,法的に有効な保全要請又は手続に対応するため保持期間を延長する場合に言及している。
もっとも,事業者内にデータが保持されていることと,一般利用者又は民事事件の当事者が実際に開示を受けられることは別問題である。

(続きを読む...)SNS・マッチングアプリで知り合った相手との紛争と証拠保全―メッセージ・プロフィール・決済履歴を消す前に(AI作成)

訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)―控訴期間を過ぎた場合の救済,送達日の誤認,通知メールの見落とし及び事務所内の事務処理(AI作成)

目次第1 本記事の対象1 扱う問い2 結論の要旨第2 不変期間と追完の規定1 不変期間とは何か2 民事訴訟法97条の文言3 追完の仕方第3 最高裁判所の判例に見る追完の成否1 公示送達で訴訟を知らなかった場合2 送達受取人の受領記録の誤りで送達日を取り違えた場合3 訴訟代理人や法律事務所の事務員の過失4 郵便の遅れ第4 システム送達と追完1 システム送達の効力が生じる時2 閲覧等ができない期間の不算入3 通知メールの見落としと追完第5 事務所内の事務処理と自動化の誤り1 判例から読み取れること2 知的財産高等裁判所平成31年3月18日判決(特許法の「正当な理由」)3 事務所で決めておくこと第6 追完の期間も過ぎた場合第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象
1 扱う問い

本記事は,控訴期間のような不変期間を過ぎてしまった場合の救済である訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)を扱う。
追完が認められるのはどのような場合か,送達された日を取り違えた場合やシステム送達の通知メールを見落とした場合はどうなるか,法律事務所内の受付処理や自動化した仕組みの誤りは救済されるかを,条文と最高裁判所の判例に即して整理する。
法令の内容は,令和8年9月13日時点で確認したものである。

2 結論の要旨

追完ができるのは,当事者の責めに帰することができない事由によって不変期間を守れなかった場合に限られ,その事由が消滅した後1週間以内にしなければならない。
最高裁判所は,公示送達のために訴訟が起きたこと自体を知らなかった場合や,所属弁護士会が送達受取人として送達日を実際と違う日で記録していたために訴訟代理人が送達日を取り違えた場合について,責めに帰することができない事由に当たることを認める方向の判断をしている。
他方で,訴訟を起こされたことを知りながら判決の有無を調べなかった場合や,訴訟代理人の過失,同じ法律事務所に常勤する弁護士や書生・事務員による受領・取次ぎの誤りによって期間を守れなかった場合には,追完を認めていない。
したがって,法律事務所が自ら設計し運用する受付処理や自動化の仕組みの誤りは,追完では救われない前提で運用を組むのが安全だと考えられる。

第2 不変期間と追完の規定
1 不変期間とは何か

裁判所は,法定の期間又は裁判所が定めた期間を伸長し又は短縮することができるが,不変期間については伸縮できない(民事訴訟法96条1項)。
不変期間については,遠隔の地に住所又は居所を有する者のために付加期間を定めることができるにとどまる(同条2項)。
代表的な不変期間は,控訴期間(判決書等の送達を受けた日から2週間,同法285条),上告期間(同法313条による準用),即時抗告期間(裁判の告知を受けた日から1週間,同法332条)及び再審期間(再審の事由を知った日から30日,同法342条1項)である。

2 民事訴訟法97条の文言
(1) 現行の条文

民事訴訟法97条1項は,「当事者が裁判所の使用に係る電子計算機の故障その他その責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には、その事由が消滅した後一週間以内に限り、不変期間内にすべき訴訟行為の追完をすることができる。ただし、外国に在る当事者については、この期間は、二月とする。」と定める。
同条2項は,「前項の期間については、前条第一項本文の規定は、適用しない。」と定めており,追完のための1週間も裁判所が伸縮することはできない。

(2) 令和8年5月21日の改正で加わった例示

e-Gov法令検索の時点指定で比べると,令和8年5月20日時点の97条1項には「裁判所の使用に係る電子計算機の故障」という文言がなく,令和8年5月21日時点の条文から加わっている。
これは民事裁判手続のIT化に伴う改正であり,同じ言い回しは,訴訟代理人のオンライン提出義務を解除する同法132条の11第3項にも使われている。
もっとも,この文言は例示であり,裁判所側のシステム故障以外の事由でも,当事者の責めに帰することができないものであれば追完の対象になる。

3 追完の仕方

追完は,期間内にすべきであった訴訟行為そのもの(控訴であれば控訴の提起)をすることで行う。
後記第3の2の最高裁判所昭和46年4月20日判決は,原審が「訴訟行為追完の申立もない」として控訴を却下したのに対し,追完事由があることが原判決の認定事実からうかがえる以上,追完事由を主張するかどうかについて釈明を求めるべきであったとして,原判決を破棄している。
実務上は,期間経過後に提出する控訴状等に,責めに帰することができない事由の内容と,その事由が消滅した日(通常は判決を知った日)を具体的に記載し,裏付け資料を添えておくことが考えられる。

第3 最高裁判所の判例に見る追完の成否

以下の判例の多くは,平成8年の民事訴訟法全面改正前の159条(現行97条に当たる規定)の下のものである。

(続きを読む...)訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)―控訴期間を過ぎた場合の救済,送達日の誤認,通知メールの見落とし及び事務所内の事務処理(AI作成)

医療記録の文書送付嘱託―申立ての対象指定、カルテ・画像の回収確認、患者同意と提出拒否(AI作成)

目次第1 医療記録の文書送付嘱託で最初に決めること1 何を証明するための記録かを先に決める2 送付嘱託・調査嘱託・提出命令を区別する第2 申立ての対象を具体的に指定する1 患者・医療機関・診療範囲・種類・期間を組み合わせる2 診療録等と画像を分け,他院作成資料の扱いも明らかにする3 対象期間と全診療科の必要性を説明する4 対象文書の表示を作る際の整理例第3 患者同意と医師の黙秘義務1 個人情報保護法上の第三者提供の例外2 同意の内容と提出を拒む理由を確認する3 名古屋高裁平成25年5月27日決定の射程第4 送付に応じてもらえない場合1 未回答・不保有・一部送付・提出拒否を分ける2 提出命令を検討する際の整理第5 カルテ・画像の回収確認1 送付されたことと必要な資料が揃ったことを分ける2 CD-Rを受け取った後の確認3 費用を三つに分ける4 返還対象を区別する第6 令和8年改正とmintsによる証拠提出1 新旧法と紙・電磁的記録を区別する2 所定形式に変換できないデータと証拠説明書第7 取得後の秘密保護と実務上の確認順序第8 出典
第1 医療記録の文書送付嘱託で最初に決めること

医療記録の文書送付嘱託では,必要な記録を裁判所に取り寄せる対象指定と,届いた資料の不足確認を一続きで考える必要がある。
本記事では,民事訴訟における医療記録の収集について,カルテ・看護記録・画像の指定,患者同意,送付に応じてもらえない場合及び証拠提出までを説明する。
法令・裁判所資料の確認基準日は令和8年9月10日であり,対象の指定例と回収管理表は実務上の提案である。

1 何を証明するための記録かを先に決める

収集の出発点は,傷病名,症状の推移,治療内容,事故との因果関係,既往症との区別など,争点となる具体的な事実である。
まず手元の診断書,診療記録,通院一覧等から不足を整理し,どの医療機関の,いつの,どの種類の記録を追加すればその不足を埋められるかを検討する。
病院にある全資料の取得自体を目的にすると,無関係な病歴まで対象とする問題と,必要な画像等が抽出されない問題の双方が生じ得る。

患者側で既に必要な資料を持っている場合は,取得済み資料の利用や,本人による追加開示の手続を先に検討することが考えられる。
私立病院等の個人情報取扱事業者に対する本人開示については,個人情報保護法33条が保有個人データの開示請求を定め,同法39条はその請求に係る訴えを予定している。

もっとも,民事訴訟法226条ただし書が送付嘱託の対象から除くのは,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合である。
個人情報保護法33条の対象は保有個人データであり,開示方法の変更や一部不開示があり得るため,病院が本人開示に応じるというだけで同ただし書が当然に適用されるとは考えにくい。

電磁的記録について,民事訴訟法231条の3第1項は,同ただし書の「正本又は謄本の交付」を,情報の内容の全部を証明した書面の交付又は電磁的記録の提供と読み替えている。
本人開示で得られるものが,対象記録の全内容を証明したものか,閲覧又は一部をマスキングした複製にとどまるかを確認する必要がある。
この関係を直接判断した公刊裁判例は確認できず,以上は条文構造に基づく整理である。

なお,国立大学法人や地方独立行政法人等が開設する病院では,個人情報保護法の公的部門の規律が適用される場合がある。
開設主体を確認し,適用条文と交付方法を個別に確認する必要がある。

2 送付嘱託・調査嘱託・提出命令を区別する

民事訴訟法226条は,文書の所持者に送付を嘱託することを申し立てる方法を定めている。
同条ただし書は,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合を除いている。
既存の診療録等を取り寄せる場面では,まず対象文書とその所持者を特定することになる。

これに対し,同法186条の調査嘱託は,裁判所が官公署その他の団体等に必要な調査を嘱託する制度である。
既存資料の送付を求めたいのか,記録中の不明点について回答を得たいのかを整理して申出の内容を決めるべきであり,送付嘱託の名目で新しい医学意見書の作成まで当然に求められるものとは扱わない。

文書提出命令は,同法220条の提出義務等を前提に,同法223条により裁判所が提出を命ずる手続である。
第三者が文書提出命令に従わない場合の20万円以下の過料は同法225条に規定されているが,この制裁を,送付嘱託に応じなかったというだけの段階へそのまま当てはめることはできない。

第2 申立ての対象を具体的に指定する
1 患者・医療機関・診療範囲・種類・期間を組み合わせる

対象文書の表示は,病院が患者と記録を特定でき,裁判所と相手方が必要性を検討できる内容にする。
次の表は,申立て前に情報を整理するための例であり,全国共通の必須様式を示すものではない。

確認する項目
記載・確認の内容
避けたい不明確さ

患者
氏名・ふりがな・生年月日,必要に応じ住所・患者番号
「本件原告」だけで病院に特定を委ねること

(続きを読む...)医療記録の文書送付嘱託―申立ての対象指定、カルテ・画像の回収確認、患者同意と提出拒否(AI作成)

民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方-確認・給付・清算・執行のチェックリスト(AI作成)

第1 和解案と和解条項案は分けて作る1 和解案は「何を交換して事件を終わらせるか」を決めるもの2 和解条項案は「合意を実現できる文言」にするもの3 依頼者の承認と代理権を最後に確認する4 条項を作る前に支払原資を確認する第2 条項は七つの層に分けて点検する1 当事者及び対象を特定する2 確認条項又は形成条項を置く3 給付条項は主語,相手方,目的物及び給付文言を明確にする4 期限,方法,費用及び履行順序を決める5 不履行時の効果を独立して書く6 請求放棄,清算及び費用を分ける7 関連する手続及び資料の処理を残さない第3 金銭支払条項の作り方1 一括払いの基本形2 分割払いは合計額と各回を照合する3 和解成立前までの利息及び遅延損害金を忘れない第4 非金銭給付条項の作り方1 明渡し,収去及び撤去2 登記手続3 不作為,秘密保持及び廃棄第5 清算条項は最も慎重に作る1 「誰と誰の間」を明記する2 「何に関する債権債務か」を定義する3 履行と清算の効力発生時期をそろえる第6 裁判所を介した成立方法を選ぶ1 ウェブ会議等を利用する和解2 和解条項案の書面による受諾3 裁判所が定める和解条項第7 最終チェックリスト1 合意内容2 給付及び不履行3 紛争の終了範囲4 事件終了後の実行第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所公表実務資料
第1 和解案と和解条項案は分けて作る

本記事は,民事訴訟の係属中に解決条件を検討し,裁判所へ提出する和解条項案を作成する場面を扱う。
調査の基準日は令和8年9月15日であり,同日に施行されている民事訴訟法,民法及び民事執行法並びに同日までに確認できた裁判所公表資料を基礎とする。

1 和解案は「何を交換して事件を終わらせるか」を決めるもの

和解は,当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約することによって効力を生ずる(民法695条)。
裁判所は訴訟のどの段階でも和解を試みることができる(民事訴訟法89条)。

和解案は,金額だけを示す書面ではない。
誰が,誰に対し,何を,いつまでに行うか,その代わりに何を免除し,どこまで紛争を終了させるかという解決条件の組合せである。
最初に,①対象となる請求及び反対請求,②支払額その他の給付,③履行時期及び方法,④同時履行又は先履行の関係,⑤不履行時の処理,⑥放棄又は清算の範囲,⑦別訴,保全,担保及び供託等の処理を一枚の条件表に整理するとよい。

2 和解条項案は「合意を実現できる文言」にするもの

訴訟上の和解が電子調書に記録されると,その記載は確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法267条)。
しかし,抽象的な約束が書かれていれば,どのような内容でもそのまま強制執行できるわけではない。

和解条項案では,合意内容を,①確認条項又は形成条項,②給付条項,③期限・条件等の付款,④違反時の条項,⑤請求放棄・清算・費用,⑥関連手続の処理という順序で,特定可能な文言へ変換する。
司法研修所民事弁護教官室の「民事弁護実務の基礎~はじめての和解条項~」は,まず和解対象の権利関係を定め,給付請求権の存在を明らかにする確認条項又は形成条項を置いた後に,給付条項を置くという論理的順序を示している(6頁~7頁)。

3 依頼者の承認と代理権を最後に確認する

訴訟代理人が和解をするには特別の委任が必要である(民事訴訟法55条2項2号)。
実務上は,委任状に和解の特別授権があることだけでなく,金額,支払時期,非金銭条項,清算範囲及び不履行時の効果について,依頼者が最終案を理解して承認したことを確認する。
法人その他の団体では必要な内部決裁の有無を確認し,訴訟当事者でない保証人,共同債務者その他の者にも義務又は利益を及ぼすのであれば,その者を合意の当事者又は利害関係人として参加させる必要があるかを検討する。

4 条項を作る前に支払原資を確認する

金銭条項では,請求額又は合意額を決める前に,義務者が期限までに何を原資として支払うのかを確認する。
資産の名目額だけでなく,①現在の時価,②換価可能性,③所有・処分権限,④担保債務・税金・売却費用控除後の正味額,⑤資金化に要する期間,⑥支払期限との関係を分けて点検する。

債務者側は,残高証明,証券資料,不動産査定,ローン残高,融資審査資料及び月次収支など,支払計画を裏付ける資料を準備する。
債権者側は,表示された資産額だけでなく,名義,基準日,担保,直近の異動及び任意履行がなかった場合の執行対象を確認する。

資産別の確認方法,財産分与及び代償分割との違いは,資産額と「実際に払える額」は違うを参照されたい。

第2 条項は七つの層に分けて点検する
1 当事者及び対象を特定する

最初の層は,誰と誰の間の,どの権利関係を解決するかの特定である。
事件番号及び訴訟物だけで足りるか,契約日,事故日,物件目録,対象製品,対象行為又は債権発生原因まで書く必要があるかを検討する。
当事者が複数いる場合は,全員の関係を一括して書かず,原告と各被告,被告相互,当事者と利害関係人のどの関係を処理するのかを分ける。

2 確認条項又は形成条項を置く

既に存在する権利義務を明らかにする場合は「支払義務があることを認める」等の確認条項を用いる。
和解によって契約を終了させ,所有権を移転し,債務を免除するなど法律関係を変動させる場合は,その変動を端的に示す形成条項を用いる。

賃貸借契約を和解時に終了させるなら「合意解約したことを確認する」ではなく,原則として「合意解約する」と現在形で書く。
終了日は,賃料と賃料相当損害金の境界にもなるため明示することが多い(前記司法研修所教材18頁~21頁)。

3 給付条項は主語,相手方,目的物及び給付文言を明確にする

金銭なら金額,物なら物件,行為なら行為内容を特定し,義務者と権利者を明示する。
給付文言は「支払う」「明け渡す」「登記手続をする」のように端的に書く。
前記司法研修所教材は,金銭給付について「支払う」と明記し,「支払うこととする」「支払うものとする」「支払わなければならない」という表現は,給付意思が不明確となって強制執行できない可能性があるとしている(7頁~8頁)。

4 期限,方法,費用及び履行順序を決める

支払期限は年月日又は各回の期日で特定し,振込口座及び振込手数料の負担も決める。
物の引渡し,建物の明渡し,登記書類の交付その他の反対給付がある場合は,一方が先に履行するのか,同時に履行するのか,条件成就後に履行するのかを明記する。

条件を付けるときは,誰が,どの資料により,いつ条件成就を確認するのかまで決める。
「協議の上」「誠実に対応する」とだけ書くと,合意はできても履行内容及び強制執行の対象が定まらないことがある。

5 不履行時の効果を独立して書く

金銭債務の遅延損害金を債務名義に含めたい場合は,元本,利率,始期及び終期を条項に書く。
分割払いでは,どの程度の遅滞で期限の利益を失うかと,当然に失うのか債権者の請求によって失うのかを分けて決める。

「2回以上怠ったとき」は,連続2回か通算2回かが明確でない。
各回の額が異なる場合の「2回分」も曖昧になり得るため,「支払を怠り,その額が金○円に達したとき」のように金額で特定する方法がある(前記司法研修所教材11頁~13頁)。

6 請求放棄,清算及び費用を分ける

(続きを読む...)民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方-確認・給付・清算・執行のチェックリスト(AI作成)

民事訴訟の鑑定事項書の作り方-鑑定人が答えやすく裁判所が評価できる質問設計(AI作成)

目次

第1 鑑定事項書の位置付け1 当事者が案を出し、裁判所が鑑定事項を定めること2 鑑定申出書、私的鑑定書及び専門委員との違い第2 鑑定事項書を作る前の三つの整理1 専門的判断がなければ決められない事実を特定すること2 前提事実を三つに分けること3 必要な専門分野と人数を先に確かめること第3 鑑定事項書の基本構成1 事件表示、鑑定の目的及び資料2 前提事実と資料の対応を示すこと3 鑑定事項を階層化すること第4 答えやすく検証可能な質問文の作り方1 対象、時点及び判断基準を明記すること2 観察、原因、評価及び代替仮説を分けること3 法的結論を丸ごと委ねないこと4 方法、根拠資料、不確実性及び回答限界を求めること第5 鑑定事項書の汎用書式例1 冒頭部分のひな形2 鑑定事項のひな形3 質問文の書換え例第6 鑑定人候補者との協議と資料の渡し方1 鑑定事項を確定する前に実行可能性を確認すること2 記録全体ではなく、質問に対応する資料地図を渡すこと第7 鑑定書提出後の補充と質問1 補充意見を求める場合2 口頭で質問する場合第8 裁判例から分かる鑑定事項と鑑定書の関係1 甲府地方裁判所平成17年9月16日判決の鑑定事項2 裁判所が鑑定結果を採用しなかった理由第9 提出前のチェックリスト1 質問と資料の点検2 提出を急がず協議すべき場合第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令及び最高裁判所規則2 裁判例3 裁判所の答申、報告書及び運用資料

第1 鑑定事項書の位置付け

1 当事者が案を出し、裁判所が鑑定事項を定めること

鑑定事項書は、民事訴訟で鑑定人に何を判断してもらうかについて、当事者が具体的な案を示す書面である。
民事訴訟規則129条1項は、鑑定の申出をするときは、やむを得ない事由がある場合を除き、同時に鑑定を求める事項を記載した書面を提出しなければならないと定めている。
もっとも、最終的に鑑定事項を定めるのは裁判所であり、同条4項は、裁判所が相手方の意見を考慮して鑑定事項を定め、その内容を鑑定人に送付するとしている。

民事訴訟法213条によれば、鑑定人を指定するのも裁判所である。
したがって、鑑定事項書は、当事者が選んだ専門家に一方的な結論を求める依頼書ではなく、裁判所と相手方の検討を経て中立な鑑定人に渡される質問案として作る必要がある。

2 鑑定申出書、私的鑑定書及び専門委員との違い

鑑定の申出では、鑑定の必要性や立証趣旨を説明する部分と、鑑定人への質問を具体化する部分を分けると理解しやすい。
鑑定事項書が主として後者を担うのに対し、鑑定書は、確定した鑑定事項に対して鑑定人が意見と根拠を示す書面である。

当事者が依頼した専門家の意見書である私的鑑定書と、裁判所が指定した鑑定人による鑑定も区別される。
この区別については、文書鑑定(AIリライト)で説明している。

専門委員は、専門的知見に基づく説明によって手続を補助する者であるが、その説明自体は証拠資料ではない。
これに対し、鑑定人は裁判所が定めた鑑定事項について意見を述べ、その意見は証拠資料となると知的財産高等裁判所の専門委員制度と鑑定人制度の説明に明記されている。
専門委員制度については、裁判所の専門委員制度-専門的知見による手続補助と鑑定との違い(AI作成)も参照されたい。

第2 鑑定事項書を作る前の三つの整理

1 専門的判断がなければ決められない事実を特定すること

最初に、要件事実や争点をそのまま鑑定事項へ移すのではなく、裁判所の法的判断と専門家の専門的判断との境界を引く必要がある。

(続きを読む...)民事訴訟の鑑定事項書の作り方-鑑定人が答えやすく裁判所が評価できる質問設計(AI作成)