目次第1 判決主文と判決理由中の認定の違い第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味第4 先行訴訟の準備書面・上申書・陳述書の扱い第5 「その主張をした事実」と「主張内容が真実であること」の区別第6 裁判上の自白と単なる不利益陳述の区別第7 後訴で引用する前に確認する記録第8 証拠説明書の立証趣旨の記載例第9 先行主張と現在の主張が異なる場合の説明方法第10 まとめ第11 出典・関連記事
別件判決又は先行訴訟の準備書面を現在の訴訟で使うときは,①確定判決の主文に生じる既判力,②先行訴訟でされた主張又は判断という訴訟経過,③記載内容が真実かという証拠評価,④現在の訴訟における裁判上の自白を区別する必要がある。本記事では,判決書,準備書面,上申書及び陳述書を後訴で利用する前に確認すべき記録と,証拠説明書の立証趣旨の書き方を整理する。
第1 判決主文と判決理由中の認定の違い
判決書は,主文と理由から成る。主文は,当事者の請求について,認容,棄却又は訴えの却下等の結論を示す部分である。理由は,その結論に至った事実認定及び法律判断を示す。
民事訴訟法114条1項は,「確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する。」と定めている。したがって,前訴判決の理由中にある個々の事実認定又は法律判断が,その記載だけで一律に後訴を拘束するわけではない。
もっとも,どの権利又は法律関係について判断されたかを確定するには,主文だけでなく,請求の趣旨,請求原因及び判決理由を読み,前訴の訴訟物と基準時を特定する必要がある。「理由に書いてあるから既判力がない」と短絡することも,「前の判決が認定したから後の裁判所も従う」と短絡することもできない。
判決理由だけを不服として控訴できるかという別の問題は,全部勝訴した当事者に民事控訴の利益はあるか――判決理由だけを争える場合と争えない場合で説明している。
第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外
既判力が生じるのは,原則として,前訴の口頭弁論終結時を基準として主文に包含された訴訟物についての判断である。後訴が前訴と同じ訴訟物を対象とするとき,又は前訴の判断を先決関係として覆すことになるときは,既判力との抵触を検討する。
判決理由中の判断については,民事訴訟法114条2項が明文の例外を置いている。同項は,「相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は,相殺をもって対抗した額について既判力を有する。」と定めている。
例えば,被告が反対債権を自働債権として相殺を主張し,裁判所がその成立又は不成立を判断した場合は,相殺をもって対抗した額の範囲で,その理由中判断にも既判力が生じる。相殺の抗弁に関する整理は,相殺の抗弁に関するメモ書きで説明している。
例えば,目的物引渡請求について「代金500万円と引換えに引き渡せ」とされた場合,引換額が主文に記載されていても,反訴等で代金請求が審判対象になっていなければ,代金支払請求権についての既判力がその記載だけから生じるわけではない。引換額は引渡しの強制執行を開始する条件として意味を持ち,売主に代金回収の債務名義を与えるものではない。「主文に包含するもの」と「主文に書かれた文言のすべて」を同一視しない。
このほか,既判力の範囲外であっても,前訴で十分に争われた事項を後訴で蒸し返すことが信義則に反すると評価される場合がある。これは114条の既判力そのものとは別の問題であるため,前訴と後訴の当事者,請求,争点,審理の程度及び訴訟経過を個別に確認する。
具体的には,前訴で当該事項が主要な争点になったか,双方に主張立証の機会があったか,その判断が結論にどう関わったか,前訴後の履行や相手方の信頼,主張を変える理由等を確認する。他方で,前訴では後訴の請求自体が審判対象ではなかったこと,反訴を提起するかどうかは当事者の訴訟上の選択であることなど,後訴の主張を許す方向の事情も検討する。反訴を提起できたこと自体を,直ちに後訴を許す理由又は禁止する理由として扱わない。「前訴で争えた」という一事情だけで一律に後訴を禁止しない。
既判力が作用する関係にある後訴では,前訴基準時前に存在した事由によって,既判力ある判断と矛盾する主張をすることは原則として遮断される。単に前訴基準時前から存在した事実というだけで,異なる請求に関する後訴の主張がすべて遮断されるわけではない。もっとも,遮断効の実質的根拠を,前訴で十分な主張立証の機会を与えられながら行使しなかった自己責任に求め,前訴での主張立証がおよそ期待できなかった事実には遮断効が及ばないとする「期待可能性説」がある。
この説には,①既判力による法的安定と勝訴者の地位を害する,②民事訴訟法338条1項5号は刑事罰を科される他人の行為で主張立証を妨げられた場合にも再審制度で処理しており,単なる期待可能性欠如で既判力を縮小すると境界が曖昧になる,③後訴裁判所の審理負担が重くなるとの批判がある。採用する場合も,「知らなかった」「思い付かなかった」だけで例外とせず,資料へのアクセス,前訴の争点・進行,主張を妨げた事情及び相手方の信頼を具体的に検討する必要がある。
また,基準時後に形成権を行使したという形式だけで,基準時前から存在した解除原因等を当然に後訴へ持ち込めるとは限らない。形成権行使の時期と,その基礎となる事由が基準時前後のいずれに存在したかを分け,期待可能性説,制度的効力説及び信義則を相互に混同しない。基準時後に取消権,相殺,建物買取請求権又は白地手形の補充権を行使した場合と,前訴で主張しなかった別の取得原因を後訴で主張する場合の最高裁判例は,確定判決の後に取消し・相殺・解除・建物買取請求をして争い直せるかで整理している。
既判力が及ぶ人の範囲も限られる。確定判決は,当事者,当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人,口頭弁論終結後の承継人等に対して効力を有する(民事訴訟法115条1項)。同じ原告から訴えられた共同被告どうしの間には,当然には既判力は生じない。前訴の共同被告の一方が他方へ求償や損害賠償を請求する後訴で,前訴判決の理由中の認定を既判力によって持ち込むことはできないのが出発点である。
これとは別に,補助参加人に対する裁判の効力(民事訴訟法46条)がある。訴訟告知を受けた者が参加しなかった場合も,参加することができた時に参加したものとみなされる(同法53条4項)。最高裁昭和45年10月22日判決は,この効力は既判力ではなく,判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であり,判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断にも及ぶとした。最高裁平成14年1月22日判決は,その理由中の判断を,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限り,訴訟告知を受けたが参加しなかった者に効力が及ぶのは,その者が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られるとした。
したがって,前訴で敗訴した場合に第三者へ求償又は損害賠償を請求する見込みがあるときは,前訴の係属中にその第三者へ訴訟告知をしておくことが,後訴で前訴の判断を争わせないための基本的な手段となる。自分が相手方の訴訟に補助参加しても,それは参加した自分の側が判断を争えなくなる関係であり,自分が求償しようとする相手を拘束する手段にはならない。効力の向きは,「誰が誰に対して,前訴のどの判断を援用するか」で確認する。訴訟告知の方式,効力の範囲及び告知を検討する場面は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えで整理している。公証人の補助参加を例にした説明は,遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加でも扱っている。
例えば,本訴請求200万円に対して300万円の反対債権で相殺を主張し,反対債権が全部弁済済みと判断された場合でも,相殺をもって対抗した額は200万円である。残100万円に既判力が当然に及ぶわけではない。
他方,全部弁済という前訴の判断と証拠は,残100万円の後訴における証拠評価や信義則の検討で問題となり得る。既判力の範囲と,残額の主張が実体法上理由を持つか,後訴が信義則に反するかを別に判断する。
訴訟外相殺による消滅が再抗弁として判断された場合も,再抗弁に用いた別債権には,その理由中の判断だけで114条2項の既判力が生じるわけではない。
第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味
別件判決の理由中の認定に既判力がない場合でも,判決書を後訴で書証として提出することはできる。後訴の裁判所は,民事訴訟法247条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により事実を判断する。
別件判決書から直接分かるのは,まず,別の裁判所が,特定の当事者及び請求について,記載された主文及び理由の判断をしたという事実である。判決が確定していれば,確定した主文の範囲では既判力の問題が加わる。未確定判決であれば,その時点の判決が存在することは示せても,確定判決としての既判力は生じていない。
他方,判決理由に認定された基礎事実が後訴でも真実であるかは,別の問題である。前訴で用いられた証拠,争点,認否,反対尋問の有無及び当事者の範囲が後訴と異なることがある。後訴の裁判所は別件判決書の証拠価値を評価するが,理由中認定だけを切り出して現在の争点が当然に証明されたものとして扱うべきではない。
特に,別件判決が一方当事者の準備書面又は陳述書を引用している場合は,その文書が実際に提出又は取調べされたのか,単に当事者の主張として摘示されたのかを,前訴記録で区別する。
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