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民事訴訟・証拠

平成30年度最高裁民事破棄判決等の実情―24判決から学ぶ訴えの利益・相続分譲渡・労働条件と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 24判決・破棄決定0件という数字の読み方第2 24判決の一覧第3 24判決から見える五つの監査領域1 訴えの入口と手続の土台2 相続と財産3 労働条件と企業の責任4 交通事故・人身保護・刑事施設5 行政・公金・公務員第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 グループ会社の相談窓口―求められた対応をしなかったことだけで義務違反とはいえない2 無償の相続分譲渡―原則として民法903条1項の「贈与」に当たる3 弁護士会照会―報告義務の確認を求める訴えは確認の利益を欠く4 業務手当と割増賃金―労働者が直ちに請求できる仕組みがないことだけで否定しない5 有期契約労働者の手当―労働契約法20条違反でも無期契約と同一の労働条件にはならない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成30年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、松田敦子・中島崇「最高裁民事破棄判決等の実情―平成30年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成30年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2420号5頁以下)。
民集又は集民に登載された判決は判示事項と判決要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 24判決・破棄決定0件という数字の読み方

年次解説によれば、平成30年の新受件数は、上告事件2116件、上告受理申立て事件2562件の合計4678件であり、並行申立てを1件と換算すると2844件である。既済件数は、上告事件2112件、上告受理申立て事件2528件の合計4640件であり、換算後は2812件である。許可抗告事件は新受15件、既済11件であった。

破棄判決は24件(判決書単位)であり、換算後の既済件数2812件を分母とした割合は0・9%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成26年42件(1・1%)、平成27年32件(0・9%)、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)、平成30年24件(0・9%)と示している。
破棄判決24件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が10件、自判(一部自判を含む。)が15件であり、そのうち1件は一部差戻しと一部自判の双方を含む。論旨に基づく破棄が23件、職権による破棄が1件である。民集に登載されたものが10件、集民に登載されたものが9件、いずれにも登載されなかったものが5件である。

平成30年には、民事の破棄決定は特別抗告事件・許可抗告事件のいずれも0件であった。年次解説が示す許可抗告事件の破棄決定は、平成26年4件、平成27年7件、平成28年2件、平成29年7件であり、過去4年はいずれも1件以上あった。

これらは特定年度の判決書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 24判決の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成30年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月19日・二小平成29年(行ヒ)第46号内閣官房報償費の支出に関する行政文書の情報と情報公開法5条3号・6号の不開示情報一部自判1月19日・二小平成28年(行ヒ)第218号同上(別件)一部自判1月19日・二小平成28年(行ヒ)第228号同上(別件)一部自判2月15日・一小平成28年(受)第2076号親会社が子会社従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことと信義則上の義務違反自判3月15日・一小平成29年(受)第2015号国境を越えて日本へ連れ去られた子の人身保護請求と、意思能力のある子に対する監護の「拘束」該当性等差戻し3月30日・二小平成30年(オ)第93号法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(職権破棄)差戻し4月26日・一小平成29年(行ヒ)第216号県議会議長の議員に対する発言取消命令の適否は司法審査の対象となるか自判6月1日・二小平成28年(受)第2099号・第2100号有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違と労働契約法20条一部差戻し6月1日・二小平成29年(受)第442号同上(別件)一部自判・一部差戻し7月17日・三小平成29年(受)第1738号民法248条による償金請求権等に基づいて支払うべき利益の現存額自判7月17日・三小平成28年(行ヒ)第406号接する街路が建築基準法42条1項3号の道路に当たることを前提とする固定資産の価格決定差戻し7月19日・一小平成28年(受)第563号国歌斉唱時の起立斉唱の職務命令違反を理由に再任用等の選考で不合格としたことの適法性自判7月19日・一小平成29年(受)第842号業務手当が割増賃金に当たるか差戻し9月27日・一小平成29年(受)第659号・第660号交通事故の被害者の自賠法16条1項の直接請求権と国が代位取得した直接請求権との優先関係等一部差戻し9月28日・二小平成28年(受)第1978号無権代理人が民法117条1項に基づく債務の履行を拒むことの可否自判10月19日・二小平成29年(受)第1735号共同相続人間の無償による相続分の譲渡と民法903条1項の「贈与」差戻し10月23日・三小平成29年(行ヒ)第185号住民訴訟の係属中にされた市の請求権を放棄する市議会の議決の適法性自判10月25日・一小平成29年(受)第990号保護室に収容中の未決拘禁者との面会を、申出を本人に告げずに許さなかった刑事施設の長の措置の違法性差戻し11月6日・三小平成29年(行ヒ)第320号勤務時間中のわいせつ行為等を理由とする停職6月の懲戒処分の適法性自判11月6日・三小平成29年(行ヒ)第226号財産の譲渡の議案を可決する議決と地方自治法237条2項の議会の議決自判11月16日・二小平成29年(行ヒ)第404号政務活動費等の収支報告書上の支出の一部が架空でも不当利得返還義務を負わない場合自判12月17日・一小平成30年(受)第16号・第17号依頼を受けて自動車の名義上の所有者兼使用者となった者と自賠法3条の運行供用者差戻し12月18日・三小平成29年(行ヒ)第292号不正受給者に対する生活保護法(改正前)78条の費用徴収額と基礎控除相当額自判12月21日・二小平成29年(受)第1793号弁護士会照会をした弁護士会が相手方の報告義務の確認を求める利益自判
第3 24判決から見える五つの監査領域
1 訴えの入口と手続の土台

平成30年度唯一の職権破棄は、法律に従って判決裁判所を構成しなかったという絶対的上告理由に当たる事件である(3月30日第二小法廷判決)。判決裁判所の構成のような手続の土台に関する誤りが、職権で取り上げられた例である。

県議会議長の議員に対する発言取消命令の適否が司法審査の対象となるか(4月26日第一小法廷判決)、弁護士会照会をした弁護士会が相手方の報告義務の確認を求める利益があるか(12月21日第二小法廷判決、第4の3)は、いずれも本案に入る前の入口の問題である。

受任時には、裁判所が判断できる紛争か、確認の利益など訴えの利益があるか、判決裁判所の構成に問題がないかを、請求の内容とは別に点検しておくとよい。

2 相続と財産

共同相続人間の無償による相続分の譲渡が民法903条1項の「贈与」に当たるか(10月19日第二小法廷判決、第4の2)は、遺留分の算定に直結する判断である。

また、無権代理人が民法117条1項に基づく債務の履行を拒むことの可否(9月28日第二小法廷判決)や、民法248条による償金請求権等に基づいて支払うべき利益の現存額(7月17日第三小法廷判決)も、財産関係の基本的な規律が問題となった事件である。

3 労働条件と企業の責任

平成30年度は、労働分野の判断が多い。有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違と労働契約法20条(6月1日第二小法廷判決2件、第4の5)、業務手当が割増賃金に当たるか(7月19日第一小法廷判決、第4の4)、親会社が子会社従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことと信義則上の義務違反(2月15日第一小法廷判決、第4の1)である。

いずれも、契約書や規程の文言だけでなく、手当の趣旨、運用の実態、相談窓口の仕組みの具体的内容等の事実関係によって結論が左右されている。

4 交通事故・人身保護・刑事施設

自賠法の分野では、被害者の直接請求権と国が代位取得した直接請求権との優先関係等(9月27日第一小法廷判決)と、依頼を受けて自動車の名義上の所有者兼使用者となった者が運行供用者に当たるか(12月17日第一小法廷判決)が破棄されている。

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平成29年度最高裁民事破棄判決等の実情―22判決・9決定から学ぶ訴訟承継・損害審理・割増賃金と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 22判決・9決定という数字の読み方第2 22判決・9決定の一覧第3 31件から見える五つの監査領域1 訴訟の入口と手続の土台2 損害と事実の審理を省略しない3 相続・家族と財産4 労働・取引の契約条項の効力5 行政・税・公金第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 節税目的の養子縁組―それだけで縁組意思がないとはいえない2 共同相続された定期預金・定期積金―相続開始と同時に当然には分割されない3 個人情報の漏えい―プライバシー侵害の精神的損害を審理しないまま棄却しない4 タクシー乗務員の歩合給―公序良俗違反とするだけで割増賃金の審理を省略しない5 認定司法書士の裁判外の和解―弁護士法72条違反でも当然には無効とならない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成29年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、齋藤毅・中丸隆「最高裁民事破棄判決等の実情―平成二九年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成29年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2374号3頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 22判決・9決定という数字の読み方

年次解説によれば、平成29年の新受件数は、上告事件2235件、上告受理申立て事件2727件の合計4962件であり、並行申立てを1件と換算すると3046件である。既済件数は、上告事件2255件、上告受理申立て事件2782件の合計5037件であり、換算後は3111件である。許可抗告事件は新受33件、既済52件であった。

破棄判決は22件(判決書単位)であり、換算後の既済件数3111件を分母とした割合は0・7%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成25年34件(0・9%)、平成26年42件(1・1%)、平成27年32件(0・9%)、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)と示している。
破棄判決22件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が11件、自判(一部自判を含む。)が11件であり、全て論旨に基づく破棄で、職権による破棄はない。民集に登載されたものが7件、集民に登載されたものが11件、いずれにも登載されなかったものが4件である。

破棄決定は9件(決定書単位)であり、その内訳は特別抗告事件2件、許可抗告事件7件である。許可抗告事件の既済件数52件を分母とした割合は13・4%である。結果は差戻し2件、自判4件、その他3件であり、論旨に基づく破棄が6件、職権による破棄が1件、論旨及び職権の両方による破棄が2件である。

これらは現行民事訴訟法下の数字であるが、特定年度の判決書・決定書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 22判決・9決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成29年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月31日・三小平成28年(受)第1255号専ら相続税の節税のための養子縁組と民法802条1号の「縁組をする意思がないとき」自判2月21日・三小平成27年(受)第659号名義貸しの立替払契約における販売業者の告知と割賦販売法の「購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」差戻し2月21日・三小平成27年(受)第660号同上(別件)差戻し2月28日・三小平成27年(受)第1876号商標法4条1項10号の無効審判が請求されないまま5年経過した後の権利濫用の抗弁一部差戻し2月28日・三小平成28年(行ヒ)第169号私道の用に供されている宅地(歩道状空地)の相続税評価差戻し2月28日・三小平成27年(受)第1998号タクシー乗務員の歩合給から残業手当等相当額を控除する賃金規則の効力差戻し3月13日・二小平成28年(受)第944号主たる債務者への支払督促が、同じ当事者間の保証契約に基づく保証債務履行請求権の消滅時効を中断するか自判4月6日・一小平成27年(行ヒ)第349号じん肺管理区分(管理一)決定の取消訴訟の係属中に原告が死亡した場合の訴訟承継差戻し4月6日・一小平成28年(受)第579号共同相続された定期預金債権・定期積金債権は相続開始と同時に当然に分割されるか一部自判4月21日・二小平成28年(行ヒ)第14号特別支給の老齢厚生年金の額の改定(退職改定)の要件自判7月7日・二小平成28年(受)第222号医師の年俸に時間外労働等の割増賃金を含める合意一部差戻し7月24日・一小平成28年(受)第1463号認定司法書士が弁護士法72条に違反して締結した裁判外の和解契約の効力自判9月8日・二小平成28年(行ヒ)第371号水俣病認定患者が原因企業から損害賠償を受けた場合の公害健康被害補償法上の障害補償費自判9月14日・一小平成28年(受)第1187号工業用水道の使用廃止者の負担金と地方自治法の「分担金」差戻し9月15日・二小平成28年(行ヒ)第33号教員採用試験の不正関与者に対する県の求償権の不行使一部差戻し10月17日・三小平成28年(受)第2009号株主でないとの判決が確定した原告による株主代表訴訟の適法性自判10月23日・二小平成28年(受)第1892号個人情報の漏えいによる精神的損害の有無等差戻し10月24日・三小平成28年(行ヒ)第224号シンガポール子会社の地域統括業務とタックス・ヘイブン対策税制の適用除外自判12月18日・一小平成28年(行ヒ)第404号の1被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消訴訟等の係属中に原告が死亡した場合の訴訟承継一部自判12月18日・一小平成28年(行ヒ)第404号の2同上(別件)一部自判12月18日・一小平成29年(受)第84号マンション管理組合の理事会の決議による理事長の解職差戻し12月19日・三小平成28年(受)第1797号差押え後の第三債務者の弁済と破産法162条1項の否認一部自判

破棄決定9件は、年次解説の破棄事件決定一覧表によれば、次のとおりである(12月22日の2件は特別抗告事件、その余の7件は許可抗告事件である。)。

決定日・法廷事件番号内容結果5月17日・二小平成28年(許)第49号父母が戸籍に記載されていないことと戸籍法104条3項の「責めに帰することができない事由」自判9月5日・三小平成28年(許)第40号訴訟上の救助を受けた者の猶予費用の取立てをすることができる額の算定方法差戻し10月5日・一小平成29年(許)第6号破産者の依頼を承諾したことのある弁護士が破産管財人を原告とする訴訟で被告の訴訟代理人となることと弁護士法25条1号自判10月10日・三小平成28年(許)第46号債権差押命令の申立日の翌日以降の遅延損害金も取立金の充当の対象となるか自判12月12日・三小平成28年(許)第43号仲裁人の開示義務(仲裁法18条4項)違反の要件差戻し12月13日・二小平成29年(許)第27号上告受理申立て理由の記載の有無破棄12月19日・三小平成29年(行フ)第3号資格決定処分を受けた村議会議員が、補欠選挙を争わなくても効力停止決定又は取消判決により地位を回復し得るか自判12月22日・二小平成29年(ク)第898号特別抗告を却下した原決定の当否破棄12月22日・二小平成29年(ク)第899号抗告を許可しなかった原決定の当否破棄
第3 31件から見える五つの監査領域
1 訴訟の入口と手続の土台

平成29年度は、原告が訴訟の係属中に死亡した場合の訴訟承継が2つの分野で問題となった。じん肺管理区分の決定の取消訴訟(4月6日第一小法廷判決)と、被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消訴訟等(12月18日第一小法廷判決2件)である。年次解説によれば、じん肺管理区分の事件では、原審が原告の死亡により訴訟は当然に終了したとして訴訟終了宣言をしたのに対し、最高裁は、労働者災害補償保険法11条1項に規定する者が訴訟を承継するとして、原判決を破棄し差し戻した。
本記事では、原告の死亡によって訴訟が当然に終了するかどうかは、争われている地位が一身専属的なものにとどまるか、相続人等が引き継ぐべき法律上の利益を伴うかによって分かれると整理する。

また、株主でないとの判決が確定した原告による株主代表訴訟の適法性(10月17日第三小法廷判決)、上告受理申立て理由の記載の有無(12月13日第二小法廷決定)、特別抗告・抗告許可の申立てを却下・不許可とした原決定の当否(12月22日第二小法廷決定2件)等、手続の入口に関する破棄が目立つ。

受任時、争点整理終結時及び上訴前には、当事者の死亡・承継の可能性、当事者適格、上訴理由書の記載事項及び申立ての方式を一覧にして点検するとよい。

2 損害と事実の審理を省略しない

個人情報の漏えいによる損害賠償請求事件(10月23日第二小法廷判決)では、不快感や不安を超える損害の主張立証がないことだけを理由に請求を棄却した原審の判断に、審理不尽の違法があるとされた(第4の3)。

同じく差戻しとなった私道の用に供されている宅地(歩道状空地)の相続税評価(2月28日第三小法廷判決)、工業用水道の使用廃止者の負担金(9月14日第一小法廷判決)、マンション管理組合の理事長の解職(12月18日第一小法廷判決)等も、年次解説の一覧表では差戻しとされている。

損害や評価が争点となる事件では、「損害がない」「区別できない」という結論に直行せず、どの事実を立証すれば損害の有無と程度が判断できるかを、証拠と結び付けて整理しておくべきである。

3 相続・家族と財産

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平成20年度最高裁民事破棄判決等の実情―52判決・3決定から学ぶ訴訟の入口・損害額認定・損益相殺と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 52判決・3決定という数字の読み方第2 52判決・3決定の一覧第3 55件から見える五つの監査領域1 訴訟の入口と手続の土台2 事実認定と損害額の認定3 不当利得・過払金と損益相殺4 契約・会社・取引の外観5 行政・税・公金第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 国籍法3条1項の違憲判断―準正要件を除いた要件で国籍を取得する2 土地区画整理事業計画の決定の処分性―早い段階で争う道を開く3 ヤミ金融業者の貸付けと損益相殺―民法708条の趣旨4 採石権侵害と民訴法248条―損害額が分からないことを理由に請求を棄却しない5 会社分割とゴルフクラブの名称続用―会社法22条1項の類推適用第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成20年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、増森珠美・清野正彦「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成二〇年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成20年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2043号3頁以下、2044号14頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 52判決・3決定という数字の読み方

年次解説によれば、平成20年の新受件数は、上告事件2257件、上告受理申立て事件2653件の合計4910件であり、並行申立て(1801件)を1件と換算すると3109件である。既済件数は合計4634件であり、並行申立て(1682件)を1件と換算すると2952件である。許可抗告事件は新受58件、既済54件であった。

破棄判決は52件、破棄決定は3件である。この52件は判決書単位の数であり、上告と上告受理申立ての並行申立てがされた事件や、複数の当事者からの上訴を併合した事件を一通の判決書で処理したものは1件と数えている。年次解説の目次では、判決はすべて「論旨に基づいて破棄された判決」に分類されている。

年次解説の破棄事件判決一覧表の結果欄を数えると、差戻し(一部破棄差戻しを含む。)が28件、自判(一部破棄自判を含む。)が24件である。ただし、「自判」には、第一審判決を取り消して第一審へ差し戻したもの(土地区画整理事業計画の判決及び入会権確認の判決)も含まれている。

これらは旧来の上告制度ではなく現行民事訴訟法下の数字であるが、それでも、特定年度の判決書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 52判決・3決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成20年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月18日・二小平成18年(受)第2268号第一の基本契約に係る過払金を第二の基本契約の借入金債務に充当することの可否差戻し1月18日・二小平成17年(行ヒ)第304号土地開発公社が市との委託契約に基づいて先行取得した土地について市がその義務の履行として同公社から同土地を買い取る売買契約を締結することが違法となる場合差戻し1月24日・一小平成18年(受)第1572号遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得する時期一部自判1月24日・一小平成18年(受)第1154号労働者が労働基準法76条所定の休業補償と同一の事由について休業補償給付を受けるべき場合における使用者の休業補償義務の範囲自判1月28日・二小平成17年(受)第1372号融資を実行した銀行の取締役の責任(拓銀栄木関係)一部自判1月28日・二小平成17年(受)第1440号融資を実行した銀行の取締役の責任(拓銀カブトデコム関係)自判2月15日・二小平成18年(受)第2084号有価証券募集の際の不実の目論見書の使用者の損害賠償責任差戻し2月18日・一小平成19年(行ヒ)第138号原爆被爆者に対する援護に関する法律に基づく健康管理手当の受給権につき地方自治法236条の消滅時効を主張することの可否自判2月19日・三小平成15年(行ツ)第157号・同年(行ヒ)第164号輸入しようとした写真集の関税定率法(平成17年法律第22号による改正前)21条1項4号「風俗を害すべき書籍、図画」該当性一部自判2月22日・二小平成19年(受)第528号会社の貸付けと商行為性の推定差戻し2月28日・一小平成19年(受)第733号保険金請求権の消滅時効と約款に基づく履行期の合意による延長差戻し2月28日・一小平成17年(行ヒ)第47号生活保護開始決定の変更決定の適否自判2月29日・二小平成19年(受)第955号他の相続人に無断で相続財産を葬儀費用に支出した相続人が不法行為責任を負うか一部差戻し2月29日・二小平成18年(受)第192号賃料自動改定特約のある建物賃貸借契約の相当賃料額算定に当たり経済事情の変動等を考慮すべき期間差戻し3月6日・一小平成19年(オ)第403号・同年(受)第454号住基ネットと憲法13条自判3月7日・二小平成19年(受)第980号競売建物につき法定地上権を考慮せずに代金額を算定した原審の判断の当否一部差戻し3月17日・一小平成18年(行ヒ)第168号公金の支出から1年を経過して住民監査請求がされたことについての正当な理由の有無差戻し3月18日・三小平成18年(受)第2056号いわゆるわらの上からの養子に対する親子関係不存在確認請求と韓国法における権利濫用差戻し3月27日・一小平成18年(受)第1870号労災に基づく損害賠償請求事件における使用者側の過失相殺の主張の可否差戻し3月27日・一小平成18年(行ヒ)第102号土地の譲渡所得が確定申告において税額の計算の基礎とされていなかったことについての正当な理由の有無一部自判4月15日・三小平成18年(受)第263号弁護士と受刑者との接見を許可しなかった刑務所長の措置の違法性自判4月18日・二小平成19年(受)第1180号小学校の教室内の事故につき担任教諭の過失を認めた原審の判断の当否自判4月24日・一小平成18年(受)第1632号チーム医療の総責任者の説明義務差戻し6月4日・大法廷平成18年(行ツ)第135号国籍法3条1項の憲法適合性と日本国籍の取得の可否(退去強制令書発付処分取消等)自判6月4日・大法廷平成19年(行ツ)第164号国籍法3条1項の憲法適合性と日本国籍の取得の可否(国籍確認)自判6月10日・三小平成18年(受)第265号採石権侵害の不法行為による損害と民訴法248条一部差戻し6月10日・三小平成19年(受)第569号ヤミ金融業者による高利の貸付けと損益相殺差戻し6月10日・三小平成18年(受)第890号会社分割後のゴルフクラブの名称続用と会社法22条1項の類推適用自判6月12日・一小平成19年(受)第808号ほか5件取材を受けた者が放送内容等について抱いた期待、信頼が侵害されたことを理由とする不法行為の成否自判6月24日・三小平成19年(受)第1146号投資資金名目の詐欺と損益相殺差戻し7月4日・二小平成19年(受)第1401号コンビニのフランチャイザーの加盟店に対する報告義務差戻し7月4日・二小平成19年(受)第1386号・同年(オ)第1515号パトカーと衝突した自動二輪車の運転者の過失を同乗者の過失として過失相殺することの可否差戻し7月8日・三小平成18年(受)第1214号パチンコ店開業妨害目的で診療所を開設するなどした医師等の不法行為責任一部差戻し7月10日・一小平成19年(受)第1985号債権の一部についての前訴の確定判決の既判力差戻し7月10日・一小平成19年(行ヒ)第318号特許異議申立事件係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合の許否の判断一部自判7月15日・三小平成18年(受)第1877号瑕疵ある建物について建築士が不法行為責任を負う場合差戻し7月17日・一小平成18年(受)第1818号訴え提起に同調しない入会権者を被告に加えた入会権確認の訴えの当事者適格自判9月8日・二小平成19年(受)第46号不真正連帯債務関係にある被告らのうち一名に対する関係でのみ相殺の効力を認めた原審の判断の当否一部自判9月8日・二小平成19年(行ヒ)第223号土人形等を指定商品とする商標の類否差戻し9月10日・大法廷平成17年(行ヒ)第397号市町村施行の土地区画整理事業の事業計画の決定の行政処分該当性自判9月12日・二小平成19年(オ)第1344号代表権の欠缺差戻し9月12日・二小平成19年(受)第1040号子の友人が運転中に起こした事故と父親の自賠法3条にいう「運行供用者性」差戻し10月7日・三小平成20年(受)第12号被害者側加入の人身傷害保険金を過失相殺後の損害額から控除した原審の判断の当否差戻し10月10日・二小平成19年(受)第152号振込の原因となる法律関係が存在しない場合における預金の払戻請求と権利濫用差戻し10月10日・二小平成19年(行ヒ)第68号20歳未満で統合失調症を発症したが医師の診断を受けた時点で20歳に達していた大学の学生等の障害基礎年金の受給権の有無自判10月24日・二小平成19年(行ヒ)第285号都民税の減額更正により生じた過納金に係る還付加算金の起算日一部差戻し11月7日・二小平成19年(受)第1878号目撃者に準ずる者の証人尋問を行わずに痴漢行為を認定した原審の判断の当否差戻し11月25日・三小平成19年(行ヒ)第91号建築基準法42条2項所定の「現に建築物が立ち並んでいる道」該当性自判11月27日・一小平成19年(行ヒ)第215号普通地方公共団体の予算執行職員等が地方自治法(平成18年法律第53号による改正前)243条の2第1項後段による損害賠償責任を負う場合自判12月11日・一小平成20年(行ヒ)第29号遺産分割調停調書を添付してされた建物の所有権移転登記申請についての登記原因証明情報の提供の有無自判12月19日・二小平成19年(行ヒ)第222号市町村施行の土地区画整理事業の事業計画の変更決定の行政処分該当性自判12月19日・二小平成19年(受)第670号過払金返還の際に悪意の受益者が付すべき利息の利率差戻し

破棄決定3件は、いずれも許可抗告事件であり、次のとおりである。

決定日・法廷事件番号内容結果3月26日・二小平成19年(許)第34号上告受理申立て理由書に所定の理由の記載がないとして上告受理申立てを却下した原決定の当否破棄7月18日・二小平成20年(許)第12号簡易裁判所の管轄に属する訴訟について、被告の移送申立てを却下する地方裁判所の判断と裁量自判12月16日・三小平成20年(許)第46号同上(専属的管轄合意に係る簡易裁判所への移送申立て)自判
第3 55件から見える五つの監査領域
1 訴訟の入口と手続の土台

代表権の欠缺が問題となった9月12日第二小法廷判決は、適式に選任された代表者による追認の主張について更に審理させるため、原判決を破棄して差し戻した。年次解説が摘記する判決文は、訴訟行為をするのに必要な授権の有無は職権探知事項であるとしている。

入会権確認の訴えについての7月17日第一小法廷判決は、入会集団の一部の構成員が、訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に対して入会権確認の訴えを提起することができるとして、原告適格を欠くとして訴えを却下した原判決を破棄し、第一審へ差し戻した。固有必要的共同訴訟であっても、非同調者がいることだけで権利確認の道が閉ざされるわけではない。

市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定(9月10日大法廷判決)及びその変更決定(12月19日第二小法廷判決)は、いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとされた。

破棄決定では、上告受理申立て理由書に経験則違反等の記載があるのに、所定の理由の記載がないとして申立てを却下した原決定が破棄された(3月26日第二小法廷決定)。簡易裁判所への移送申立てを却下する地方裁判所の判断は、専属的管轄の合意がある場合を含め、地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられるとされた(7月18日第二小法廷決定、12月16日第三小法廷決定)。

受任時、争点整理終結時及び上訴前には、代表権・授権、当事者の配置、処分性、上訴理由書の記載事項及び管轄を一覧にして点検するとよい。

2 事実認定と損害額の認定

痴漢行為の有無が争われた損害賠償請求事件(11月7日第二小法廷判決)では、目撃者が見付からない中で、電話を通じて当事者の発言を聞いていた人物が目撃証人に準ずる立場にある唯一の人物であったのに、その証人尋問をしないまま一方当事者の供述の信用性を肯定した原審の判断に、審理不尽の違法があるとされた。客観的証拠が乏しく、供述の信用性が正面から対立する事件では、その対立を解く鍵となる人証の申出を、採否の理由とともに記録に残すことが重要である。

一部請求後の残部請求が問題となった7月10日第一小法廷判決は、前訴において一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたとして、前訴の確定判決の既判力が後訴に及ばないとした。どのような場合に一部請求であることの明示があったといえるかの事例判断である。

採石権侵害の事件(6月10日第三小法廷判決)は、損害の発生が明らかな以上、損害額の立証が極めて困難であっても、民訴法248条により相当な損害額が認定されなければならないとした(第4の4)。

3 不当利得・過払金と損益相殺

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平成2年度最高裁民事破棄判決等の実情―25件から学ぶ信義則・時間軸・危険管理と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 25件という数字の読み方第2 25件の一覧第3 25件から見える四つの監査領域1 訴えの入口と手続の土台2 信義則・権利濫用を抽象的に使わない3 時効・時間軸を固定する4 危険管理と過失割合第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表4判決1 固定資産評価審査委員会の口頭審理―評価根拠をどこまで知らせるか2 共済組合の貸付金控除と否認―徴収の形式ではなく弁済の実質を見る3 スキー場のクレバス転落―管理者責任を結果責任にしない4 有責配偶者の離婚請求―別居期間を年数の比率だけで判断しない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成2年度の最高裁民事破棄判決を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決の判断のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、富越和厚「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(5・完)―平成二年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表4判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、当時の最高裁判所調査官が、平成2年度に言い渡された民事破棄判決を破棄事由ごとに分類し、判決文の関係部分を摘記して紹介したものである(判例時報1386号8頁、1387号6頁、1389号12頁、1390号3頁、1392号17頁)。一つの判決に二つ以上の破棄事由があるときは、主要な事由の箇所に分類し、他の事由の箇所では枝番を付けて紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する4判決である。残る21判決は年次解説の記述によるものであり、個別判決本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 25件という数字の読み方

年次解説によれば、平成2年度に判決により終結した事件は1921件(裁判集民事登載69件、うち民集登載30件)であり、そのうち破棄判決は25件で、終結事件の1・3パーセントであった。内訳は、破棄差戻し14件、破棄自判11件である。差戻し・自判が一部かどうかは、原判決の主文全体ではなく、上告の範囲を基準としている。

破棄判決のうち、職権で破棄されたものが2件、上告理由に応えたものが24件である。破棄事由の内容では、訴訟法関係が2件、実体法関係が24件である。判文上の破棄事由では、法令の解釈適用の誤りが24件、理由不備が5件、審理不尽が8件である。複数の事由を持つ判決があるため、これらを合計しても25件にはならない。

この割合は、旧民事訴訟法下の特定年度に最高裁で判決終結した事件を分母とする歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 25件の一覧

年次解説の「破棄判決一覧表(言渡期日順)」及び各判決の紹介に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成2年)。内容欄は年次解説の内容見出しを要約したものである。

判決日・法廷事件番号内容結果1月18日・一小昭和59年(行ツ)第46号県立高校教諭に対する懲戒処分と懲戒権者の裁量権自判1月18日・一小昭和61年(行ツ)第138号固定資産の評価登録価格に対する不服と評価根拠の開示差戻し1月22日・二小昭和62年(オ)第452号土地の一番抵当権設定後に要件を充足した法定地上権の成否一部自判・一部差戻し1月22日・二小平成元年(オ)第1546号仮処分の違法執行を理由とする損害賠償請求差戻し2月20日・三小昭和59年(オ)第1088号改正前の割賦販売法下での抗弁の切断差戻し3月6日・三小昭和63年(オ)第960号過失相殺における過失割合の裁量違反差戻し3月20日・三小昭和63年(オ)第717号破産廃止から免責決定確定までの強制執行と不当利得自判4月12日・一小昭和59年(オ)第846号担保保存義務免除特約と信義則自判4月12日・一小昭和62年(行ツ)第22号住民訴訟の対象となる財産管理行為自判4月17日・三小昭和60年(オ)第1529号取締役選任の株主総会の不存在とその後の手続の瑕疵一部差戻し6月1日・二小昭和62年(オ)第134号詐害行為取消権の時効消滅自判6月5日・三小平成元年(オ)第854号試用期間付雇用契約の法的性質差戻し6月5日・三小昭和63年(行ツ)第152号錯誤による概算経費選択と実額経費による修正申告自判6月5日・三小昭和63年(オ)第357号仮登記権利者の本登記請求権の消滅時効と抵当権者の援用自判7月19日・一小昭和63年(オ)第1457号国家公務員共済組合の貸付金控除と否認権差戻し7月19日・一小昭和62年(オ)第1083号地方公務員共済組合の貸付金控除と否認権自判7月19日・一小平成元年(オ)第545号婿養子における婚姻関係の破綻と養親子関係の破綻差戻し7月20日・二小昭和60年(オ)第1576号日本で登録したポパイ商標権による損害賠償請求自判7月20日・二小昭和63年(オ)第1519号自白の取消要件、仮執行の結果の考慮、相殺と信義則差戻し9月27日・一小昭和63年(オ)第1570号約束手形への裏書と原因債務の保証一部差戻し11月8日・一小昭和60年(オ)第617号ベテランスキーヤーのクレバス転落とスキー場管理者の過失自判11月8日・一小昭和61年(オ)第255号無謀運転の自動車の県道から国鉄軌道敷への転落と国鉄の責任差戻し11月8日・一小昭和61年(オ)第256号同じ事故と県の責任自判11月8日・一小平成元年(オ)第1039号有責配偶者からの離婚請求で別居期間を考慮する趣旨差戻し12月13日・一小昭和63年(オ)第791号多摩川水害訴訟差戻し
第3 25件から見える四つの監査領域
1 訴えの入口と手続の土台

住民訴訟の対象となる財産管理行為が問題となった平成2年4月12日第一小法廷判決では、最高裁は職権で調査し、道路工事の施行決定は道路行政上の判断であって財務会計上の財産管理行為に当たらないとして、訴えを却下した。実体判断の前に、訴訟類型ごとの対象・要件が満たされているかを確かめる必要がある。

平成2年7月20日第二小法廷判決は、自白の取消しには反真実と錯誤が必要であるのにその検討を欠いた点、及び仮執行宣言付きの第一審判決に基づく強制執行による弁済を本案で考慮した点を違法とした。取締役選任決議の不存在が問題となった平成2年4月17日第三小法廷判決は、不存在の決議によって選任された取締役で構成された取締役会を起点として、後続の決議も連鎖的に不存在となる場面と、その例外となる特段の事情を扱った。

手続の土台に関する誤りは、実体法上の結論が正しくても判決を維持できなくする。受任時、争点整理終結時及び上訴前に、訴訟類型、当事者、自白の範囲、仮執行の有無及び前提となる決議・処分の効力を一覧にして点検するとよい。

2 信義則・権利濫用を抽象的に使わない

平成2年度は、信義則・権利濫用の使い方を誤った原判決が目立つ。相殺と信義則(7月20日)では、相殺適状後に生じた利息・損害金を自働債権とする相殺を信義則違反とした原審について、金利差だけでなく、具体的な取引内容、相手方からの相殺の可否、相殺されなかった事情等の検討が必要であるとされた。

改正前の割賦販売法下の抗弁の切断(2月20日)では、売買当事者間の合意解除を理由に購入者があっせん業者の請求を当然に拒むことはできないとしつつ、拒み得る旨の特別の合意や、あっせん業者に不履行の結果を帰せしめるのが信義則上相当な特段の事情があれば別であるとして、その審理を欠いた原判決が破棄された。担保保存義務免除特約(4月12日)では、特約がある以上、担保差替えによる担保価値の減少だけでは信義則違反・権利濫用とはならないとして、原判決が破棄された。逆に、ポパイ商標事件(7月20日)では、著名な漫画の主人公の人物像に無償でただ乗りする商標権の行使が権利の濫用とされた。

信義則・権利濫用を主張し、又はこれを争うときは、一般条項の名前を挙げるだけでは足りない。合意の内容、当事者の認識、取引経過、代替手段及び結果の重大性を具体的な事実として整理し、それぞれに証拠を付ける必要がある。

3 時効・時間軸を固定する

仮登記権利者の本登記請求権の消滅時効(6月5日)では、所有権移転請求権保全の仮登記に後れて抵当権の設定を受けた者が、予約完結権の消滅時効を援用できるとされ、援用権者を限定した大審院判例が変更された。詐害行為取消権の時効消滅(6月1日)では、先行した債権者代位訴訟の提起・取下げが詐害行為取消権の行使の実質を持たず、時効の進行に影響しないとされた。

破産廃止から免責決定確定までの強制執行(3月20日)では、免責の効力は遡及しないから、免責決定確定前の強制執行による弁済は法律上の原因を欠くものではないとされた。有責配偶者の離婚請求(11月8日)も、別居期間を単なる年数ではなく、時の経過が当事者の事情に与える影響として評価する判断である。

時間軸が争点となる事件では、権利の発生、行使、取下げ、決定、確定、強制執行及び弁済の日付を一つの表に並べ、どの時点の法律関係を前提にするかを固定する必要がある。

4 危険管理と過失割合

スキー場のクレバス転落(11月8日)、県道から国鉄軌道敷への車両転落(同日の2件)及び多摩川水害(12月13日)は、いずれも管理者の責任を結果から逆算しない判断である。国鉄線路への転落事故では、運転者の行動が通常予測できない極めて異常かつ無謀な運転行為であったとして、県道及び鉄道施設の設置・管理の瑕疵が否定された。多摩川水害では、工事実施基本計画に準拠して改修・整備がされた河川について、同計画に定める規模の洪水の通常の作用から予測される災害を防止するに足りる安全性を備えるべきであるとして、改修途上の河川と同視した原判決が破棄された。

過失割合の裁量違反(3月6日)は、医師の資格のない断食道場の開業者がインシュリン注射等を中止させた結果、糖尿病患者が死亡した事案である。最高裁は、開業者の過失の重大さに比べて原審の過失割合が著しく低いとして、裁量の範囲を逸脱した違法を認めた。年次解説によれば、差戻審では過失割合が逆転している。

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平成5年度最高裁民事破棄判決等の実情―60件から学ぶ証拠評価・手続保障・差戻審実務(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論第2 資料の位置付けと確認範囲第3 平成5年度の件数と読み方第4 破棄理由から学ぶ原判決の点検第5 証拠評価と事実認定の実務第6 手続法上の実務第7 実体法上の主要な学び1 無権代理人による本人の共同相続2 遺族年金と損益相殺的調整3 故意免責条項と予期しない死亡結果4 担保不動産競売と民事執行法184条第8 差戻審に備える実務第9 利用上の注意第10 関連記事第11 出典と一次資料の確認状況

瀧澤泉「最高裁民事破棄判決の実情(平成5年度)」全6回を手掛かりに,平成5年度の最高裁民事破棄判決60件から得られる訴訟実務上の学びを整理する。年次解説は優れた二次資料であるが,判決全文そのものではない。本記事は,一次資料で全文を確認した事件,書誌・判示事項だけを確認した事件及び年次解説だけで検討した事項を区別して表示する。

第1 本記事の対象と結論

平成5年度の破棄事例から得られる中心的な学びは,最高裁が単に「結論」を変更するのではなく,証拠から要件事実・因果関係・損害額へ進む「推論の橋」が欠けている原判決を破棄しているという点である。

上告理由又は上告受理申立て理由を検討するときは,「事実認定が間違っている」と述べるだけでは足りない。①原審が確定した生の事実,②原審が暗黙に用いた経験則,③その経験則を弱める反対事実,④反対事実を評価せず結論へ進んだ箇所,⑤補充審理すべき事項を順に示す必要がある。

第2 資料の位置付けと確認範囲

資料区分今回の確認範囲記事での扱い

裁判所公表の判決全文平成5年1月21日,3月24日及び3月30日の各最高裁判決事案,規範,当てはめ,主文及び個別意見を直接確認
公的・出版社の書誌・判示事項平成5年12月17日判決(民事執行法184条)事件番号,掲載誌及び判示事項の範囲で利用
平成5年度年次解説全6回を通読60件の所在,破棄理由の類型及び論点候補を把握する二次資料として利用
判例秘書検索照会0件,ヒット件数不明,本文確認0件未収録とは評価しない

年次解説には,前置きの事件紹介が背景・争点を常に正確に示すとは限らないこと,掲載する判決文は抜粋であること,解説・意見は執筆者個人の見解であることが明記されている。したがって,個別事件の主文,事件番号,原審,反対意見,補足意見及び現在の射程を訴訟書面で用いるときは,判決全文と現行法を確認する。

第3 平成5年度の件数と読み方

年次解説によれば,判決で終局した事件は2,492件,破棄判決は60件,その割合は2.41%である。内訳は,職権破棄1件,上告理由に応答した破棄59件,手続法上の問題16件,実体法上の問題44件と整理されている。破棄差戻し23件,破棄自判38件という分類には重なりがあるため,単純に合計して事件数とはしない。

2.41%は平成5年度の歴史的な母集団を説明する数字であり,現在の上告受理率,破棄率又は個別事件の成功率を示すものではない。また,破棄されたことと,当事者が差戻審で最終的に勝訴したことは同じではない。

第4 破棄理由から学ぶ原判決の点検

原判決を点検するときは,次の5段階で読むと破棄理由を発見しやすい。

入口―当事者適格,訴えの利益,請求の趣旨,抗弁及び不利益変更禁止を確認する。
規範―条文の要件,判例の射程,旧法・現行法の別を確定する。
証拠―採用した証拠,排斥した証拠,証拠間の矛盾及び経験則を特定する。
当てはめ―認定事実から要件充足へ進む中間推論が説明されているかを確認する。
主文―認容額,遅延損害金,仮執行,差戻し又は自判の範囲が理由と整合するかを確認する。

特に,経験則違反を主張するときは,原審が用いた経験則を言語化し,それが一般的に成り立たない事情又は本件で例外となる事情を,記録中の証拠と結び付けて示す。別の事実認定もあり得るというだけでは,上告審で取り上げられる法令違反の形になりにくい。

第5 証拠評価と事実認定の実務

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平成6年度最高裁民事破棄判決等の実情―68件から学ぶ当事者・主張立証・証拠評価及び損害論(AI作成)

目次第1 本記事の対象と資料の読み方1 平成6年度の68件を横断する2 一次資料と年次解説を区別する第2 年度統計と数字の限界第3 当事者・請求・判断漏れの点検1 遺産確認訴訟と固有必要的共同訴訟2 主位的請求・予備的請求・黙示の主張第4 弁論主義と釈明の実務1 争いのない就労事実を裁判所が否定した事例2 弁論終結前に行う確認第5 証拠評価・経験則を分解する第6 損害と時効を時間軸に置く第7 登記・外観と契約解釈1 登記名義を残した建物譲渡人2 契約書を一通ずつ孤立して読まない第8 情報公開と住民訴訟の損害論1 知事交際費情報の公開・非公開2 違法性と地方公共団体の損害は別問題である第9 共同不法行為者の一人への免除第10 事件で再利用する破棄理由カード第11 現行法へ読み替えるときの注意第12 資料確認状況・出典・関連記事1 資料確認状況2 裁判所公式全文を確認した代表7判決3 関連記事

平成6年度の最高裁民事破棄判決等68件を横断すると,破棄理由は個別分野の法解釈だけではない。当事者を欠いたこと,予備的請求を判断しなかったこと,争いのない事実を否定したこと,証拠のない推論を置いたこと,損害・時効の時間軸を混同したことなど,現在の民事実務にもそのまま使える失敗類型が繰り返し現れる。

本記事は,高林龍「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)―平成六年度―」を年度全体の索引として用い,裁判所公式全文を確認できた代表7判決で具体化する。68件すべてについて一次資料を確認したものではないため,資料の確認段階を明示し,個別事件で判例を引用する際の限界も示す。

第1 本記事の対象と資料の読み方
1 平成6年度の68件を横断する

起点資料は,高林龍「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)―平成六年度―」(判例時報1522号,1523号,1525号,1526号,1529号及び1530号)である。同解説は,平成6年度の民事破棄事件を分野横断で並べ,原判決のどこが破棄理由になったかを読み取るのに適している。

年度を通じて読む目的は,個々の判例知識を増やすだけではない。受任時,第一審の弁論終結前,控訴理由書作成時,上告・上告受理申立て検討時及び差戻審準備時に,同じ種類の見落としを防ぐ監査項目へ変換することにある。

2 一次資料と年次解説を区別する

【年度解説確認】は,年次解説により事件の存在と破棄理由の概要を確認した段階を意味する。解説中に判決文の引用があっても,判決全文の一次資料確認と同じではない。

【裁判所公式全文確認済み】は,裁判所ウェブサイトの判決全文まで確認した段階を意味する。本記事では後記第12の2の7件がこれに当たる。判例集の頁,評釈の評価又はその後の判例変更まですべて確認したことを意味しない。

【判例秘書未確認】は,令和8年10月1日の作業で会員ログインを完了できず,照会0件,ヒット件数不明,本文確認0件であることを意味する。「判例秘書に収録がない」という意味ではない。

第2 年度統計と数字の限界

年次解説によれば,判決で終局した事件は2484件,破棄事件は68件であり,単純計算では約2.74%である。内訳は,破棄差戻し40件,破棄自判30件で,同一事件の一部を差し戻し,他の一部を自判した事件があるため合計は68件を超える。職権破棄5件,上告理由に基づく破棄64件にも重複がある。

掲載状況は,民集20件,裁判集15件,いずれにも登載されないもの33件とされる。公刊物に登載されない事件がほぼ半数あることは,判例集掲載判例だけでは破棄理由の実務的な全体像を捉えにくいことを示す。

もっとも,この約2.74%は平成6年度の「判決で終局した事件」を分母とする歴史的な集計である。現在の上告成功率,受理申立ての通過率又は個別事件の見通しを示す数字ではない。旧民事訴訟法下の上告制度であることにも注意が必要である。

第3 当事者・請求・判断漏れの点検
1 遺産確認訴訟と固有必要的共同訴訟

【裁判所公式全文確認済み】最高裁平成6年1月25日判決(平成5年(オ)第641号)は,遺産確認の訴えが共同相続人全員について合一に確定すべき固有必要的共同訴訟であることを前提に,共同被告の一部に対する訴えの取下げは効力を生じないとした。

実務では,受任時だけでなく,審級移行時にも当事者を再点検する。相続開始後の死亡・数次相続,法人の合併・解散,代表者変更,処分庁と被告行政主体の区別及び訴訟承継を確認し,「実体法上の権利者」と「訴訟上全員の関与が必要な者」を分けて一覧化する。

2 主位的請求・予備的請求・黙示の主張

【年度解説確認】年次解説には,主位的請求を排斥しながら予備的請求を判断しなかった例,主張の名称にとらわれて黙示の合意又は取得時効等の実質的な主張を取り上げなかった例が含まれる。これらは,請求・抗弁・再抗弁・予備的主張と判決理由の対応を一行ずつ照合する必要を示す。

弁論終結前には,①請求の趣旨,②請求原因,③抗弁,④再抗弁,⑤主位・予備の関係,⑥各要件事実に対応する証拠,⑦裁判所に求める判断を一枚に並べる。判決受領後は,同じ表に主文と判断箇所を追記し,空欄を判断遺脱候補として確認する。

第4 弁論主義と釈明の実務
1 争いのない就労事実を裁判所が否定した事例

【裁判所公式全文確認済み】最高裁平成6年6月13日判決(平成3年(オ)第63号)は,歩合給のうち通常の労働時間の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分を判別できないことを理由に,歩合給の支給だけでは割増賃金を支払ったとはいえないとした。

同判決はそれだけでなく,午前2時以後も労働者が雇用契約に基づいて勤務したことが当事者間に争いがなかったのに,原審が会社の指揮命令による勤務ではないと認定した点を,弁論主義違反とした。法的評価を争う前に,基礎事実の自白・否認を固定する重要性を示す。

固定残業代の判別可能性と,この弁論主義の判示は,固定残業代が有効になる要件で詳しく扱っている。

2 弁論終結前に行う確認

日ごとの始業・終業,所定時刻後の業務,休憩・中抜け,指示又は黙認,業務との関連及び金額計算について,相手方が認めた範囲と争う範囲を区分する。裁判所が争いのない事実と異なる前提を示したときは,求釈明又は準備書面により弁論終結前に確認する。

依頼者の目的に対して主張された法律構成が十分でないときは,代替的構成を検討する。ただし,釈明義務に期待して主張を省略するのではなく,事実関係に即した請求原因・抗弁を当事者側から明示することが基本である。

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平成3年度最高裁民事破棄判決等の実情―39件から学ぶ手続入口・証拠推論・行政不作為及び差戻し実務(AI作成)

目次

第1 資料の性質と確認範囲

1 年次論文は有力な索引であるが判決原文ではない
2 39件という数字の読み方

第2 破棄理由を読む七つの順序

1 入口から救済まで順に監査する
2 請求・抗弁・理由・主文を横に並べる

第3 証拠評価は推論の鎖に分解する

1 基礎事実から法律効果までを可視化する
2 記録の不存在と事実の不存在を区別する

第4 代表判例から得られる三つの実務知見

1 行政処分の遅延―期間だけで国賠違法を決めない
2 予防接種後障害―因果関係と禁忌者該当性を分ける
3 共同不法行為者間の求償―外部責任と内部負担を分ける

第5 破棄差戻し後まで見据える

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平成4年度最高裁民事破棄判決等の実情―29件から学ぶ訴訟要件・証拠評価・主文設計(AI作成)

目次

第1 対象資料と数字の読み方

1 対象とした年次解説
2 29件・1・2%の意味

第2 一次資料の確認状況
第3 29件から見える五つの監査領域

1 訴訟要件・当事者・送達
2 行政訴訟の入口と訴えの利益
3 契約解釈・財産関係・家族関係
4 専門分野の評価要素
5 主文・計算・差戻し範囲

第4 公式全文を確認した代表5判決

1 宗教団体内部の懲戒処分
2 もんじゅ訴訟の原告適格
3 新株発行不存在確認の利益
4 未熟児網膜症と医療水準
5 受取人が先に死亡した生命保険

第5 29件の論点別実務マップ
第6 受任事件で使う監査手順

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平成7年度最高裁民事破棄判決等の実情―55件から学ぶ原判決監査と差戻審実務(AI作成)

目次

第1 対象資料と確認範囲

1 年次解説の位置付け
2 55件という数字の読み方

第2 平成7年度の破棄理由から見える四つの監査領域

1 訴訟要件・当事者・並行手続
2 請求・抗弁・予備的主張の判断漏れ
3 証拠から主要事実までの推論
4 実体法上の判断枠組み

第3 裁判所公式全文を確認した代表3判決

1 スキー接触事故と上方滑走者の注意義務
2 退院時の説明・療養指導と受診遅延
3 新規治療法の普及と医療水準

第4 受任事件で使う三つの作業表

1 破棄理由カード
2 判断漏れ点検表
3 並行手続表

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外国判決の承認における間接管轄―侵害発生地・予見可能性と最高裁平成26年4月24日判決(AI作成)

目次

第1 外国判決を日本で承認・執行するための要件
第2 間接管轄とは何か
第3 最高裁平成26年4月24日判決
第4 不法行為地管轄の判断
第5 損害賠償請求と差止請求を分ける
第6 外国判決を扱う際の実務チェック
第7 判決の射程と注意点
第8 参考資料

外国裁判所の判決を日本で承認し、又は執行するには、外国裁判所が日本法の観点から裁判権を有していたこと、すなわち「間接管轄」が必要となる。最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決は、不法行為に基づく損害賠償及び差止めを命じた米国判決について、間接管轄の判断方法を示した。本記事では、直接管轄との違い、損害賠償請求と差止請求の区別及び主張立証の組み立て方を整理する。

第1 外国判決を日本で承認・執行するための要件

民事訴訟法118条は、外国裁判所の確定判決について、次の要件を全て満たす場合にその効力を認める。

① 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること
② 敗訴被告が訴訟開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けたこと、又は送達を受けなくても応訴したこと
③ 判決の内容及び訴訟手続が日本の公の秩序又は善良の風俗に反しないこと
④ 相互の保証があること

外国判決に基づいて日本で強制執行する場合は、これらの要件に加えて、民事執行法24条に基づく執行判決を得る必要がある。外国判決の内容を実質的に再審理する手続ではないが、118条各号の要件は日本の裁判所が審査する。

送達及び手続的公序については、外国欠席判決の承認と手続的公序―判決書不送達・控訴機会・ウェブ公開(AI作成)で説明している。

第2 間接管轄とは何か
1 直接管轄との違い

日本の裁判所に新たな訴えを提起できるかという問題は「直接管轄」である。これに対し、既に外国裁判所がした判決を日本で承認する場面で、その外国裁判所に裁判権があったと認められるかという問題が「間接管轄」である。

両者は参照する国際裁判管轄規定に共通部分があるが、問題となる時点と目的が異なる。直接管轄についての条文を機械的に当てはめるだけでなく、その外国判決を日本で承認することが適当かという観点を含めて検討する必要がある。

2 最高裁が示した判断枠組み

最高裁平成26年4月24日判決は、人事に関する訴え以外の訴えについて、間接管轄の有無は、基本的に日本の民事訴訟法が定める国際裁判管轄の規定に準拠しつつ、個々の事案の具体的事情に即し、外国判決を日本で承認することが適当かという観点から、条理に照らして判断するとした。

したがって、外国判決の国名、被告の住所又は契約書の管轄条項の一つだけで結論を出すのではなく、請求ごとに管轄原因と具体的事実を対応させる必要がある。

第3 最高裁平成26年4月24日判決
1 事案の概要

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平成9年度最高裁民事破棄判決の実情―72件から学ぶ理由不備・経験則違反・主文設計の実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の位置付け第2 平成9年の破棄判決の概況第3 72件から学ぶ5つの実務原則1 「理由不備・理由齟齬」の二つの用法を分ける2 経験則違反は推論の飛躍を特定する3 請求・抗弁・主文の対応表を作る4 形式要件の後に制度目的と具体的事情を見る5 古い判例は規範と旧制度を分離する第4 裁判所公式本文で確認した3判決第5 上告・判決点検での使い方第6 一次資料・判例秘書・二次資料の確認状態第7 出典・関連記事

平成9年中の最高裁民事破棄判決72件を,原審がどのような理由で破棄されたかという観点から整理する。個々の結論を並べるのではなく,理由不備・理由齟齬の読み分け,経験則違反,請求・抗弁と主文の対応及び旧法から現行法への接続という,現在の事件処理に再利用できる実務原則を抽出する。

第1 本記事の対象と資料の位置付け

入口とした資料は,野山宏「平成9年度最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)」(判例時報1636号,1638号,1639号,1641号,1642号及び1644号)の全6回・合計109頁である。論文名は「年度」であるが,対象は平成9年1月から12月までに言い渡された民事・行政・労働事件である。

同論文は,72件の所在,原審判断及び破棄理由を把握するための有力な二次資料である。しかし,判決そのものではない。本記事では,論文から把握した年度全体の件数・類型と,裁判所ウェブサイトの判決情報・本文で確認した3事件とを区別する。

72件はすべて旧民事訴訟法が適用された事件である。また,旧破産法その他の改正前法令を前提とする事件も含まれる。判決から思考方法を学ぶことと,当時の条文番号又は制度を現行事件へ直接適用することは別である。

第2 平成9年の破棄判決の概況

年次論文の集計によれば,平成9年中に判決で終結した民事事件は2973件,破棄判決は72件であり,破棄率は2.42%であった。72件の内訳は破棄差戻し35件,破棄自判37件である。職権破棄は5件,上告理由に応答した破棄は67件であり,民集登載28件,裁判集民事登載17件,いずれにも登載されなかったもの27件とされる。

この2.42%は,個別事件の「最高裁で勝てる確率」ではない。分母には事件類型,主張された上告理由及び審理状況の異なる事件が含まれる。破棄率は年度全体の概況であり,具体的事件では原判決の法令解釈,手続,事実認定の推論及び主文を個別に監査する必要がある。

第3 72件から学ぶ5つの実務原則
1 「理由不備・理由齟齬」の二つの用法を分ける

最高裁判決又は年次論文で用いられる「理由不備」「理由齟齬」は,常に旧民事訴訟法395条6号の絶対的上告理由を意味するわけではない。実体法の解釈適用を誤った結果,原判決の理由付けが不十分又は整合しないという慣用的な表現もある。

年次論文が同号の絶対的上告理由として整理したものは,第6事件から第8事件までの3件である。残る事件の判決文に「理由不備」等の文言があっても,その一語だけで絶対的上告理由と評価してはならない。①主文を導く理由が欠けるのか,②理由同士又は理由と主文が論理的に両立しないのか,③単なる法令解釈・事実認定の誤りに伴う表現なのかを分ける必要がある。

2 経験則違反は推論の飛躍を特定する

医療,労災,転落事故及び契約書の信用性等を扱う事件では,別の証拠評価も可能であると述べるだけでは足りない。原審の推論を,基礎事実,中間推認及び最終認定に分け,どの矢印が経験則又は専門知見に反するのかを示す。

専門家意見については,結論又は肩書だけでなく,前提事実,使用資料,競合原因,医学的・技術的な推論過程及び反対資料への応答を確認する。記録に検査所見がない場合も,検査・問診が実施されなかった結果である可能性を点検し,記録の不存在を直ちに症状の不存在と同一視しない。

3 請求・抗弁・主文の対応表を作る

平成9年の破棄事件には,複数請求の一部について理由を示さなかったもの,支払済みと認定しながら請求を認容したもの,価額弁償の抗弁と主文の対応が問題となったもの,相殺に供する自働債権の特定又は充当順序を欠いたものが含まれる。

最終準備書面と判決点検では,請求ごとの訴訟物,請求原因,抗弁,再抗弁,証拠,認定,金額計算及び主文を一表にする。相殺,既払金,価額弁償,遅延損害金,一部認容・棄却及び仮執行宣言まで照合することにより,実体判断が妥当でも生じ得る主文設計の不整合を発見しやすくなる。

4 形式要件の後に制度目的と具体的事情を見る

借地権の対抗力,保険約款,ゴルフ会員権及び契約解釈等では,登記・登録又は契約文言の形式確認が出発点となる。しかし,そこで検討を止めず,当事者の認識,取引経緯,権利者側の必要性,相手方の信頼及び制度目的を具体的事実に落とす必要がある。

形式要件を軽視するのではなく,形式要件を確認した後に,権利濫用,信義則,契約解釈その他の規範が働く具体的事情を主張立証するという順序が重要である。

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薬剤性疾患の原因薬剤を一つに特定できない場合の医療過誤訴訟―最高裁平成9年2月25日判決と因果関係・経験則違反(AI作成)

目次

第1 最高裁平成9年2月25日判決の概要第2 原因薬剤を一つに特定できない場合の因果関係第3 発症時期と記録欠落の評価第4 検査・治療を受けられるようにする配慮義務第5 主張立証を組み立てる7項目第6 患者側で確認する資料第7 医療側で確認する資料第8 経験則違反として上訴理由にする場合第9 資料の確認状態第10 出典・関連記事

薬剤性疾患では,複数の薬剤が同じ副作用を起こし得るため,原因薬剤を一つに特定できないことがある。最高裁平成9年2月25日判決は,鑑定の結論だけから唯一の起因剤と発症日を限定した原審判断を経験則違反とし,複数薬剤,検査所見の欠落及び診療経過を総合して因果関係と医師の義務を検討する必要を示した。

第1 最高裁平成9年2月25日判決の概要

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成7年(オ)第1205号,民集51巻2号502頁)は,顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤を長期間投与された患者について,薬剤と同症の因果関係,発症時期及び開業医の診療上の義務を扱った。

原審は,鑑定に依拠してネオマイゾンを唯一単独の起因剤とし,発症日を4月13日から14日朝と認定した。最高裁は,鑑定の内容,医学文献,投薬経過,症状及び診療経過を総合すると,そのように限定した認定には経験則違反があるとして原判決を破棄し,差し戻した。

第2 原因薬剤を一つに特定できない場合の因果関係

鑑定は,複数の薬剤のいずれも起因剤と断定するには難点があり,ネオマイゾンが最も疑われるが確証はないとした。また,複数薬剤の相互作用による発症はあり得るが,当該患者について医学的に具体的に証明されていないと述べるにとどまった。

最高裁は,この鑑定が複数薬剤の相互作用による発症の蓋然性を否定するものではなく,医学文献にも,病因論には未完成な部分が多く,個々の症例で起因剤を決定することは困難なことが多いとの記載があることを重視した。鑑定だけから一薬剤を唯一単独の原因とすることはできないとした。

この判決は,候補薬剤を列挙すれば因果関係の立証が不要になるというものではない。民事訴訟上は,投薬全体と発症との関係について,全証拠を総合し,通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性を示す必要がある。他方,自然科学的に一つの薬剤まで確定できないことを,直ちに因果関係不存在と同一視してはならない。

第3 発症時期と記録欠落の評価

原審鑑定は,4月14日より前の病歴に同症発症を確認できる検査所見・症候がないこと等から,発症日を4月13日から14日朝と推測した。しかし,最高裁は,それ以前に検査所見等がないのは,医師が同症特有の症状に注意した問診・診察をしなかった結果にすぎない可能性を指摘した。

診療録に記載がない場合は,症状が存在しなかったのか,質問・検査をしなかったのか,実施したが記録しなかったのかを分ける必要がある。相手方の検査・観察義務違反が情報不足を生じさせた可能性があるのに,その不足を当然に患者側の立証不足として扱うと,推論の前提を誤ることがある。

時系列表には,薬剤ごとの開始・中止・増減,発疹,発熱,咽頭痛その他の症状,白血球・顆粒球等の検査,受診時の問診・診察,紹介又は転送の検討及び病状悪化を日単位で記載する。

第4 検査・治療を受けられるようにする配慮義務

最高裁は,顆粒球減少症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者に,薬疹の可能性のある発疹を認めた場合,開業医は,自院又は他の診療機関で必要な検査・治療を速やかに受けられるよう相応の配慮をすべき義務があるとした。

これは,すべての発疹について常に高次医療機関へ転送すべき義務を一般化した判決ではない。投薬内容,副作用の重大性,症状,検査可能性,自院の設備・専門性,紹介先へのアクセス及び時間的緊急性を具体的に評価する必要がある。

義務違反と結果との因果関係も別に検討する。検査又は紹介がされていれば,いつ診断でき,どの薬剤を中止し,どの治療を開始でき,死亡又は重篤化をどの程度回避できたかを反実仮想として示す。

第5 主張立証を組み立てる7項目

投薬の特定:薬剤名,用量,開始・中止日,処方医及び併用薬を確定する。
既知の副作用:診療時点の添付文書,文献及びガイドラインを確認する。
症状の時系列:発疹,発熱,感染徴候及び血液検査値を日付順に並べる。
専門意見の前提:鑑定・意見書が前提とする投薬日,症状及び検査値が記録と一致するかを確認する。
競合原因:基礎疾患,感染症,他薬剤,相互作用その他の代替原因を検討する。

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平成8年度最高裁民事破棄判決等の実情―47件から学ぶ原判決の誤りと上告・差戻審実務(AI作成)

目次

第1 対象資料と確認範囲

1 年次解説の位置付け
2 数字を読む際の注意

第2 47件から見える破棄の三つの型

1 手続の土台が崩れている型
2 証拠から結論までの推論が飛躍する型
3 実体法の規範又は当てはめを誤る型

第3 判例秘書で本文を確認した代表7判決

1 医療過誤と医薬品添付文書
2 非疾患の身体的特徴と既往疾患
3 共同相続人による建物の無償使用
4 公の施設の利用拒否
5 税理士会の政治献金
6 誤振込と預金債権

第4 上告・原判決監査で用いる三つの作業表

1 請求・当事者・手続段階表
2 原審判断の推論表

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平成22年度最高裁民事破棄判決等の実情―67判決・3決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応(AI作成)

目次

第1 対象資料と読み方

1 対象は平成22年中の最高裁民事事件である
2 年次論文と一次資料を区別する

第2 平成22年の件数と破棄の内訳

1 新受・既済件数
2 破棄判決67件・破棄決定3件

第3 原判決を六段階で監査する
第4 手続入口と証拠評価の重要判例

1 固有必要的共同訴訟と不利益変更
2 説明書面の存在と契約前の交付は別である

第5 権利・価値を主体別・時間軸で分解する

1 所有権留保と別除権
2 相続時の価値と取得後の収益

第6 許可抗告では本案前の資格・通知・提出義務を確認する
第7 相談・上訴・差戻し後のチェックリスト

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平成12年度最高裁民事破棄判決等の実情―65件から学ぶ上告審・証拠評価・差戻しの実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の位置付け第2 平成12年の破棄判決・破棄決定の概況第3 65件から学ぶ7つの実務原則1 本案の前に手続の入口を点検する2 主位・予備的構成を既判力から逆算する3 供述の一致と独立した裏付けを区別する4 不作為の因果関係を時間軸で検討する5 契約の名称より解除後の経済的効果を見る6 責任の成否と金額調整を分ける7 破棄差戻しを最終勝訴と表現しない第4 一次資料で確認した8事件第5 上告審実務での使い方第6 現在の事件へ引用する際の注意第7 一次資料・二次資料・判例秘書の確認状態第8 出典・関連記事

平成12年中の最高裁民事破棄判決53件と破棄決定12件を,原審がどこで判断を誤ったのかという観点から整理する。結論を年代順に並べるのではなく,手続要件,主張整理,供述評価,不作為の因果関係,契約の実質,損害調整及び差戻審という再利用可能な実務原則を抽出する。

第1 本記事の対象と資料の位置付け

入口とした資料は,高部眞規子「平成12年度最高裁民事破棄判決等の実情(1)~(4・完)」(判例時報1744号,1745号,1747号及び1748号)の全4回・合計96頁である。同論文は破棄事件を網羅的に整理した有用な二次資料であるが,判決・決定そのものではなく,意見にわたる部分は執筆者の個人的見解とされている。

そこで,本記事では,同論文から把握した件数・類型と,裁判所ウェブサイトの公式PDFで本文まで照合した8事件とを区別する。残る事件を含む全65件を個別に一次資料照合したものではない。判例秘書もログイン後の検索・収録確認・本文照合を実施できていない。

「平成12年度」という論文名であるが,対象は会計年度ではなく平成12年中の事件である。また,旧民事訴訟法,旧破産法,改正前の親子法その他の当時法を前提とする事件が含まれる。判決から思考方法を学ぶことと,現在の事件へ当時の条文・結論を直接適用することは別である。

第2 平成12年の破棄判決・破棄決定の概況

論文の集計によれば,破棄判決は53件であり,旧法事件33件,新法事件20件であった。新法事件20件の内訳は,上告事件6件,上告受理事件14件である。差戻し17件,自判36件,職権破棄14件,論旨に基づく破棄42件であり,一部重複がある。

判決・決定により終局した事件から上告と上告受理申立ての併行申立てを調整した2896件に対する破棄判決53件の割合は,論文上1.83%である。しかし,これは個別事件の「上告成功率」ではない。分母には事件類型や理由の適法性が異なる事件が含まれ,申立て件数全体とも一致しないからである。

許可抗告の終局51件のうち破棄決定は12件で,論文上23.5%である。この数字も,一般の抗告申立て全体の認容率ではなく,許可を経て最高裁で終局した選別後の事件の内訳である。差戻しは7件,自判は5件であった。

第3 65件から学ぶ7つの実務原則
1 本案の前に手続の入口を点検する

平成12年の破棄事件には,訴えの利益,当事者適格,前置手続,請求の特定,上告理由と上告受理申立て理由の選別など,訴訟の入口に関する誤りが含まれる。職権調査事項は受任時に一度確認して終わりではなく,事実審口頭弁論終結時から判決時までの事情変化も含めて再点検する必要がある。

上告と上告受理申立てについても,憲法違反・絶対的上告理由,判例相反その他の法令解釈上の重要事項,適法な上告事件等における職権破棄の可能性を区別する。単なる法令違反をそのまま上告理由と表現してはならない。

2 主位・予備的構成を既判力から逆算する

相手方がある事実を述べていても,それだけで自らの請求原因又は予備的主張として提出したことにはならない。裁判所の釈明や職権判断に期待せず,請求と法的根拠,主位・予備的構成,各構成の主要事実,相手方の認否・抗弁,判断漏れが生じた場合の既判力上の不利益を一枚の表にする。

3 供述の一致と独立した裏付けを区別する

最高裁平成12年2月7日判決(平成7年(オ)第793号。いわゆる草加事件)は,少年らの供述について,秘密の暴露の有無,中核部分の変遷,誘導の可能性,客観証拠との不整合及び存在するはずの痕跡の不存在を検討した。

複数の供述が詳細に一致していても,情報共有や誘導により同じ内容が生成された可能性があれば,一致それ自体を独立した裏付けとは扱えない。供述源,取得状況,変遷,捜査側から知り得ない事実,独立した物証,客観証拠との矛盾及び欠けているはずのない証拠を分けて評価する。

4 不作為の因果関係を時間軸で検討する

医療,安全配慮義務及び事故回避の事案では,「何が起きたか」だけでなく,「義務どおりの行為がされていれば何が起きなかったか」という反実仮想を時間軸で示す。義務発生時,可能だった措置,措置に必要な時間,悪化時,結果回避又は症状軽減の蓋然性及び代替原因を並べる。

年次論文に掲載された最高裁平成12年9月7日判決(平成11年(受)第505号)は,今回,裁判所公式本文又は判例秘書で独立照合できていない。医療過誤事件に引用する場合は,認証データベース又は判例集で判決全文を確認する必要がある。

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平成14年度最高裁民事破棄判決等の実情―95件から学ぶ訴訟入口・経験則・期間・救済の誤り(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の読み方第2 平成14年度の件数と特徴第3 破棄理由から学べる6つの実務類型1 本案の前に訴訟の入口を確認する2 請求・対象行為・相手方・期間を分ける3 経験則違反は推論の矢印を攻撃する4 外部情報の肩書だけで相当性を認めない5 名称より契約・担保の経済的実質を見る6 救済方法と判決時点を取り違えない第4 一次資料で確認した9件第5 現行実務への橋渡し第6 代理人が最初に作る検討表第7 一次資料・二次資料・判例秘書の確認状態第8 出典・関連記事

平成14年度の最高裁民事破棄判決92件・破棄決定3件を,原審が何を取り違えたために破棄されたのかという観点から整理する。結論を年代順に並べるのではなく,訴訟の入口,対象行為と期間,証拠から結論への推論,契約・担保の実質及び救済方法を分け,後の事件処理に再利用できる形にすることを目的とする。

第1 本記事の対象と資料の読み方

入口とした資料は,判例時報に全6回掲載された「平成14年度最高裁民事破棄判決等の実情」合計136頁である。この論文は最高裁判所調査官が平成14年度の破棄事件を整理した二次資料であり,判決そのものではない。

そこで,本記事では,論文全体から抽出した件数・類型と,裁判所ウェブサイトの判決本文・裁判要旨まで照合した9件とを区別する。9件以外の事件については,事件番号,全文,少数意見,射程及び後続判例を個別に確認していない。判例秘書についても今回の調査ではログイン後の本文照合を実施できていない。

平成14年判決には,旧破産法,旧民法724条,法例,旧郵便法,改正前の地方自治法その他の当時法を前提とするものが含まれる。判決から抽象的な考え方を学ぶことと,現在の事件に当時の条文・結論を直接適用することとは別である。

第2 平成14年度の件数と特徴

論文の集計によれば,民事破棄判決は92件,破棄決定は3件である。旧民事訴訟法事件24件,新民事訴訟法事件68件,差戻し46件,自判50件であり,4件は一部差戻し・一部自判のため重複する。民集登載24件,裁判集のみ登載25件,いずれにも登載されないもの43件であった。

終局人員3264件に対する破棄判決率は2.82%であり,同論文によれば当時の過去10年で件数・率とも最大であった。もっとも,この数値は論文の集計であって,本記事が最高裁の公刊判例一覧から独自に全件を再集計したものではない。

重要なのは,最高裁で新しい法理が示された事件だけを見るのではなく,原審が当事者,請求,対象行為,期間,証拠評価又は救済を混同したために破棄された事件を,日常の訴訟準備へ戻すことである。

第3 破棄理由から学べる6つの実務類型
1 本案の前に訴訟の入口を確認する

平成14年度には,法律上の争訟,当事者適格,原告適格,訴えの利益,上訴の利益,必要的共同訴訟,重複訴訟,宗教上の教義判断など,訴訟の入口に関する破棄が目立つ。

最高裁平成14年7月9日判決(平成10年(行ツ)第239号)は,地方公共団体が行政上の義務の履行を求めた宝塚市パチンコ条例事件である。行政上の義務が存在することと,行政主体が裁判所にその履行を求める訴訟を提起できることは別の問題である。

実務では,請求原因を深掘りする前に,①具体的な権利義務又は法律関係か,②原告・被告は誰か,③訴えの利益が判決時まで残るか,④先行訴訟・共同訴訟・参加効の問題がないか,⑤裁判所の判断に教義その他の法律外の判断が不可欠でないかを確認する。

2 請求・対象行為・相手方・期間を分ける

住民監査請求・住民訴訟では,契約締結,支出負担行為,支出命令,支出及び損害賠償請求権の不行使が,それぞれ別の財務会計行為又は怠る事実となり得る。どの行為を対象とするかにより,当事者,期間の起算点及び必要証拠が変わる。

最高裁平成14年7月2日判決(平成10年(行ヒ)第51号)は,談合業者に対する不法行為債権の行使を怠る事実について,特定の財務会計行為の違法を判断しなければ監査できない関係にない場合,地方自治法242条2項の期間制限は適用されないとした。

「怠る事実」と書けば常に期間制限がなくなるわけではない。訴状・監査請求書を作成する前に,請求,対象行為又は怠る事実,被告・相手方,起算点・期間及び必要証拠を一枚の表にする。

3 経験則違反は推論の矢印を攻撃する

事実認定を争う場合,「証拠の評価がおかしい」と述べるだけでは足りない。原審の推論を「基礎事実→中間推認→最終認定」に分け,各矢印について経験則,専門知見,反証可能性及び見落とされた証拠を示す。

最高裁平成14年1月29日判決(平成10年(オ)第780号)は,新聞社間の記事提供関係や同一名称の新聞を知っていたことだけから,被害者が別紙への記事掲載を現実に認識したとするのは経験則に反するとした。消滅時効の起算点では,情報を知り得た可能性と,損害・加害行為を現実に知ったことを区別しなければならない。

4 外部情報の肩書だけで相当性を認めない

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平成13年度最高裁民事破棄判決等の実情―70件から学ぶ原判決の誤りと上告・抗告実務(AI作成)

目次第1 本記事の結論と資料状態第2 平成13年度の件数をどう読むか1 新受・既済・破棄件数2 「上告成功率」と読んではならない理由3 自判と差戻し第3 原判決に反復して現れる十の誤り第4 公式全文を確認した代表8判決第5 上告・抗告実務への落とし込み1 入口から確認する2 主張・証拠・推論を対応させる3 自判か差戻しかを先に設計する第6 旧法判例を現行事件に使う翻訳手順第7 関連記事第8 出典・確認範囲・限界
第1 本記事の結論と資料状態

平成13年度の最高裁民事破棄判決等は,破棄判決60件,破棄決定10件である。重要なのは件数自体より,原判決の誤りを,①手続入口,②法的根拠,③判断枠組み,④主要事実,⑤証拠評価,⑥理由・主文,⑦自判・差戻しという順序で監査できる点にある。

本記事の年度全体の整理は,矢尾渉「最高裁民事破棄判決等の実情―平成13年度」(判例時報1783号・1784号・1786号・1787号・1789号,5回連載,合計109頁)に基づく。これは最高裁判決そのものではなく,事件を発見し分類するための二次資料である。解説部分には筆者の見解が含まれるため,判旨と区別する。

代表8事件については,裁判所ウェブサイトの公式全文PDFを通読した。これらは【裁判所公式全文確認済み】である。他方,平成12年(受)第1956号事件等,年次論文本文で把握したが裁判所公式全文を確認できていない事件は【判例時報論文本文確認済み/一次資料未確認】として扱う。判例秘書は照会しておらず,照会0件,ヒット不明,本文確認0件である。

第2 平成13年度の件数をどう読むか
1 新受・既済・破棄件数

新受事件は,上告事件2293件,上告受理事件2314件の合計4607件であり,並行申立てを調整した年次論文上の新受件数は3327件である。既済事件は,旧法上告82件,新法上告2183件,上告受理2089件の合計4354件であり,並行申立てを一件として調整すると3028件である。

判決又は決定による終局処理の調整後件数は2945件で,破棄判決は60件,その割合は約2・04%である。破棄決定は10件であり,許可抗告既済53件に対する割合は約18・9%である。

破棄判決60件の結果は,差戻し24件,自判39件で,双方に該当する事件が3件ある。旧法事件24件,新法事件36件であり,新法事件は上告8件,上告受理28件である。職権破棄9件,論旨に基づく破棄53件で,重複が2件ある。民集登載18件,集民のみ14件,いずれにも登載されないものが28件である。

2 「上告成功率」と読んではならない理由

約2・04%は,平成13年度に判決又は決定で終局処理された事件を分母とし,破棄判決だけを分子とした年度集計比率である。依頼者の事件が破棄される確率を示すものではない。分母には棄却・却下・不受理等が含まれ,上告と上告受理申立ての並行事件も調整されている。

破棄決定10件の約18・9%は,許可抗告既済53件を分母とする別の比率である。破棄判決60件と破棄決定10件を足し,2945件で割って一つの「成功率」にすることは,手続と分母を混同する。

3 自判と差戻し

法律判断を訂正した後,原審が適法に確定した事実だけで結論を出せるときは自判が可能である。正しい判断枠組みによる事実認定,抗弁・再抗弁の審理又は損害額の算定が残るときは差戻しとなる。破棄を求める書面では,違法の指摘だけでなく,訂正後に残る争点を示す必要がある。

第3 原判決に反復して現れる十の誤り

①手続入口を本案より後に回す誤り:訴えの利益,当事者適格,既判力,不服申立ての利益及び抗告権者を,本案の正誤とは別に確認する。

②当事者が主張していない合意を判決の基礎にする誤り:請求原因,抗弁及び再抗弁の主要事実を準備書面の引用箇所まで対応させる。平成12年(受)第1956号事件はこの論点の探索材料であるが,今回の資料状態は【一次資料未確認】である。

③推論の鎖を示さず経験則を用いる誤り:認定事実,当時可能だった検査・行為,予見可能性,実際の措置及び結果を時系列でつなぐ。典型所見が一つ欠けることだけで結論を出さない。

④信義則を自由な割合調整に使う誤り:周知,情報格差,管理可能性,異常利用の検知時点,回収可能性及び最終負担者を先例と比較する。

⑤対称的な類推を当然視する誤り:不足の場合の法定責任があることから,超過の場合にも反対方向の請求権があるとは限らない。制度目的と不利益を受ける者を確認する。

⑥特別の期間と一般の消滅時効を二者択一にする誤り:通知・除斥期間,請求権の時効,形成権の行使期間,起算点,完成猶予・更新及び経過措置を別々に検討する。

⑦担保取引の四層を一つに潰す誤り:契約・担保権の成立と範囲,目的債権の特定,第三者対抗要件,取立て・実行・倒産時の処遇を分ける。

⑧未確立の選択肢を説明対象から外す誤り:患者の強い関心,相当数の実施例,適応可能性,医師の知識及び紹介可能性を具体的に確認する。

⑨事実・アイデアと創作的表現を混同する誤り:共通部分を,事実・アイデア,ありふれた表現,創作的表現に分解し,依拠性と本質的特徴の直接感得可能性を別に論証する。

⑩法定の方式を実質的合意で代替する誤り:合意の存在,契約上の効力及び法定の規範的効力を区別し,書面・署名又は記名押印・当事者権限を証拠化する。

第4 公式全文を確認した代表8判決
判決主題実務上の学び
最三小判平成13年3月13日
平成12年(受)第192号労働協約の方式実質的合意と労働組合法14条の規範的効力を分ける。
最三小判平成13年3月27日
平成7年(オ)第1659号ダイヤルQ2無断利用信義則上の請求制限は,情報格差,管理可能性及び異常利用の検知時点等の事実に結び付ける。

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平成15年度最高裁民事破棄判決等の実情―破棄判決97件・破棄決定4件から学ぶ訴訟実務(AI作成)

目次第1 本記事の対象と資料の位置付け1 対象は平成15年中の最高裁民事事件である2 件数の読み方3 一次資料と二次資料を区別する第2 平成15年の破棄事例から得られる横断的な学び1 上告審でも原判決後の事情を更新する2 本案の前に入口要件を固定する3 最低基準と契約上の特別仕様を分ける4 資金源と預金債権の帰属を混同しない5 個人情報は秘密性の高さだけで判断しない6 保全と不服申立期間を事件単位・当事者単位で管理する7 名称や外観から法的効果を飛躍させない第3 裁判所公表本文で確認した主要判例1 同一被保全債権による追加仮差押え2 遺産分割審判の即時抗告期間3 大学が収集した参加者名簿の警察への提供4 弁護士名義口座の預金債権の帰属5 労災就学援護費不支給決定の処分性第4 訴訟・相談で使うチェックリスト1 受任時2 事実審係属中3 上告・抗告段階第5 現行法へ接続するときの留保第6 出典と確認状況1 入口資料2 確認した一次資料3 判例秘書その他の確認状況
第1 本記事の対象と資料の位置付け
1 対象は平成15年中の最高裁民事事件である

本記事は、本多知成「最高裁民事破棄判決等の実情―平成15年度―」判例時報1859号以下(全4回、合計98頁)を入口資料として、平成15年(2003年)中の最高裁民事事件から訴訟実務上の教訓を整理するものである。論文名は「平成15年度」であるが、対象は会計年度ではなく平成15年中の事件である。

同論文は破棄判決・破棄決定の所在と破棄理由を横断的に把握するために有用であるが、判決書・決定書そのものではなく二次資料である。本記事では、数字と個別判例の射程を同じ確度で扱わず、裁判所公表本文で確認した事項と、同論文による整理にとどまる事項を分けて記載する。

2 件数の読み方

同論文の概観によれば、平成15年の民事事件(行政・労働事件を含む。)は、新受4830件、既済4753件であり、上告と上告受理申立ての並行申立てを1件に換算した調整後の件数は、新受3190件、既済3142件であった。破棄判決は97件、破棄決定は4件である。

これらは当該年の事件処理を概観する数字であり、「上告をすれば何%勝てる」という成功率ではない。行政・労働を含む集計であること、上告と上告受理申立ての並行申立ての調整前後で母数が異なること、破棄事件の中には同種多数事件が含まれ得ることを踏まえる必要がある。

3 一次資料と二次資料を区別する

本記事でいう「一次資料確認済み」は、裁判所ウェブサイトで判決・決定本文を確認したことを意味する。判例時報の年次論文、判例評釈、書籍、データベースの要約及びAI要約は、所在確認・論点発見の入口であって、主文、事案、要件、限定句及び差戻し後の残存争点を確定する資料ではない。

特に、破棄差戻しは上告人の最終勝訴を意味しない。差戻審で追加の主張立証又は基準時までの事情の審理が残る事件については、最高裁が確定した法理と、差戻し後に決めるべき事実を分ける。

第2 平成15年の破棄事例から得られる横断的な学び
1 上告審でも原判決後の事情を更新する

年次論文が扱う事件には、原判決後の申請撤回、処分の失効、特許訂正その他の事情によって、訴えの利益又は判断の前提が変わったものがある。上告理由書を提出した後も、対象処分、登記、許認可、当事者の存否、関連手続及び審決の時系列を更新する必要がある。

この点は、上告審だけの問題ではない。事実審口頭弁論終結時を判断基準時とする請求では、差押え後又は提訴後の事情が結論を変えることがある。

2 本案の前に入口要件を固定する

破棄事例には、処分性、原告適格、訴えの利益、監査請求前置、期間、裁判形式、判断遺脱及び再審事由など、本案の前段階にある問題が少なくない。相談初期には、請求原因だけでなく、対象となる処分又は裁判、当事者、前置手続、期間の起算点、期間末日及び不服申立ての種類を一枚の時系列にする。

3 最低基準と契約上の特別仕様を分ける

年次論文が扱う建築請負事件では、特に約定された太い鉄骨を施工者が無断で細い鉄骨に変更したことが問題となった。法定又は技術上の最低安全基準を満たすことと、当事者が契約上特に重要とした性能・仕様を満たすことは別問題である。

建築、製造、システム開発等では、見積書、仕様書、設計図、変更履歴、打合せ記録、仕様の重要性を示す発言及び変更への承諾の有無を保存する。なお、この事件の事件番号・日付・法理は裁判所の建築関係訴訟委員会答申で確認したが、本記事作成時に対象判決全文までは確認していない。

4 資金源と預金債権の帰属を混同しない

預金の原資を誰が出したかだけで、銀行に対する預金債権の帰属が当然に決まるわけではない。口座名義、銀行との契約主体、代理権、通帳・届出印の管理、入出金の決定権、委任又は信託の内容を分解して検討する。

また、預金債権の私法上の帰属と、弁護士が職務上守るべき預り金の分別管理・精算義務は別問題である。平成15年判決の法理を、現在の預り金管理の適否を直接正当化する根拠にしてはならない。

5 個人情報は秘密性の高さだけで判断しない

学籍番号、氏名、住所、電話番号のような個人識別情報でも、本人が望まない相手へみだりに開示されたくないという合理的期待は保護対象となる。収集目的、本人の合理的期待、第三者提供の目的、同意取得の容易性、提供範囲及び代替手段を検討する。

具体的な二次被害が確認できないことや、提供目的に正当性・必要性があることだけで、無断の目的外提供が当然に適法になるわけではない。ただし、現在の事案では民法上の不法行為に加え、現行の個人情報保護法、ガイドライン及び守秘義務を別途確認する。

6 保全と不服申立期間を事件単位・当事者単位で管理する

同一の被保全債権について既に仮差押命令があっても、別の目的物を追加しなければ完全な弁済に足りる強制執行ができなくなるおそれ又は著しい困難があるときは、追加の仮差押えを申し立てることができる。既存の目的物の価値、先順位負担、換価可能性、債権残額及び新たに判明した財産を具体的に疎明する。

他方、遺産分割・寄与分審判の即時抗告期間は、各相続人について各自が告知を受けた日から進行する。最後の相続人への告知日まで審判が確定しないことと、各人の抗告期間が最後の告知日に揃うことを混同してはならない。

7 名称や外観から法的効果を飛躍させない

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平成16年度最高裁民事破棄判決等の実情―88件の破棄判決・9件の破棄決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応(AI作成)

第1 本記事の対象と資料上の限界
第2 平成16年の破棄件数と数字の読み方
第3 原判決を監査する五つの順序
第4 破棄判決から得られる実務上の学び
第5 四つの具体例
第6 破棄差戻し後に直ちに行うこと
第7 事件記録へ適用する確認項目
第8 関連記事
第9 出典・資料確認状況

第1 本記事の対象と資料上の限界

本記事は,松並重雄・阪本勝「最高裁民事破棄判決等の実情―平成一六年度」全5回を通読し,平成16年中に最高裁判所でされた民事事件(行政事件及び労働事件を含む。)の破棄判決・破棄決定から,原判決の監査及び破棄差戻し後の訴訟活動に使える視点を整理するものである。
表題の「平成一六年度」は論文名に従ったものであり,対象は会計年度ではなく平成16年1月から12月までである。

同論文は,最高裁判所調査官が破棄事件を分野別・破棄理由別に説明した有用な二次資料である。しかし,論文の要約は個々の判決・決定本文そのものではない。事件番号,主文,判断の前提事実,原審の認定,破棄理由及び差戻し後の残存争点は,裁判所公表の全文又は判例集等の一次資料で確認する必要がある。

本記事では,最高裁判所ウェブサイトで本文を確認できた事件と,判例時報の年次論文だけを確認した事件を区別して記載する。判例秘書については,本調査時点で照会0件・本文確認0件であり,判例秘書による裏付けがあるという扱いはしていない。

第2 平成16年の破棄件数と数字の読み方

年次論文によれば,平成16年の破棄判決は,並行申立て事件及び複数当事者からの上訴を併合した事件を1件と換算すると88件である。複数当事者の上訴を上訴ごとに数えると98件となり,上告事件と上告受理申立て事件を調整した既済3598件に対する割合は2.7%である。

88件という数字と98件という数字は,分母や計数単位が異なる矛盾ではなく,同一事件の数え方を変えたものである。2.7%は個々の上告代理人の成功率でも,上告・上告受理申立て全体の一般的認容率でもない。どの事件を併合し,どの申立てを1件に換算したかを確認せずに,単に「上告が通る確率」と表示すべきではない。

破棄判決88件の結果には,差戻し(一部差戻しを含む。)49件,自判(一部自判を含む。)44件及び訴訟終了宣言2件が含まれる。1件の判決に差戻し部分と自判部分が併存し得るため,単純合計は88件と一致しない。

破棄決定は9件である。許可抗告事件の既済44件のうち破棄決定は8件(18.2%)であり,これとは別に特別抗告事件の破棄決定が2件あるが,そのうち1件は許可抗告と一通の決定書で処理されている。18.2%も,許可抗告申立て全体の認容率ではなく,年次論文の計数方法による既済事件の内訳である。

第3 原判決を監査する五つの順序

破棄理由を個別分野の知識だけで読むと,別事件への転用が難しい。実務では,次の五段階で原判決と記録を監査すると,再利用しやすい。

①手続の入口
管轄,当事者適格,訴えの利益,請求の特定,既判力,重複起訴,必要的併合,送達及び不服申立ての適法性を先に確認する。実体判断が精緻でも,入口の手続要件を誤れば判決全体が維持されないことがある。

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主権免除とは―国家免除の原則・例外と外国国家への民事訴訟(AI作成)

目次

第1 主権免除(国家免除)とは第2 平成14年判決と平成18年判決第3 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律第4 行為の目的より性質を見る第5 送達と欠席判決の特則第6 仮差押え・仮処分・強制執行第7 在日米軍関係の請求との接続第8 受任時の確認事項第9 よくある質問と個別事件の確認事項第10 出典・関連記事

本記事は,国際公法のうち国家免除と日本の民事訴訟手続との接点を解説する。国際法全体の位置付けは,国際公法とは―国際法・国際私法との違いと基本事項を参照。外交官個人の免除との比較は,外交官の民事裁判権免除を参照。過去問を論点から探す場合は,司法試験の国際公法―過去問・答案と論点別ガイドにまとめている。

外国国家を被告とする民事訴訟では,日本の裁判所に国際裁判管轄があるかという問題に加えて,外国国家が裁判権免除を受けるか,どの方法で送達するか,欠席判決を言い渡せるか,勝訴判決をどの財産に執行できるかを別々に検討する必要がある。

第1 主権免除(国家免除)とは

主権免除(国家免除)とは,外国国家とその財産について,他国の裁判所の裁判権からの免除が認められる制度である。
日本の民事事件では,裁判手続の免除と,財産に対する保全・執行の免除を分けて確認する。
本稿は,日本の対外国民事裁判権法を中心に,外国国家を被告とする訴訟の原則・例外と手続を説明する。

絶対免除主義は外国国家の行為を広く免除する考え方であり,制限免除主義は主権的行為と私法的・商業的行為等を区別する考え方である。
現在の日本法では,外国等の免除を原則としつつ,同意,商業的取引,労働契約等について法律が定める免除されない場合を検討する。
外国国家による行為がすべて免除されるわけでも,私人が関係する取引なら常に免除されないわけでもない。

免除の有無は,債務や損害賠償責任の実体法上の存否とは別の問題である。
免除により訴えが却下されることと,請求の内容を審理した結果として請求が棄却されることを区別する必要がある。
国際裁判管轄,準拠法,請求原因及び立証も別に確認する。

裁判権免除と執行免除は別である。訴えを審理できても,外国国家の財産に当然に仮差押え又は強制執行ができるわけではない。

外国国家に対する請求と外交官個人に対する請求,さらに公館財産への強制措置は,次のように分けて確認する。
同じ「大使館に関係する紛争」でも,請求の相手方と財産の用途を特定しなければならない。

場面先に特定するもの主な根拠注意点国家に対する訴訟被告の資格,行為・取引の性質外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律等同法3条が維持する条約等の特権・免除にも注意する。外交官個人に対する訴訟身分,行為・提訴の時点,活動の実態外交関係条約31・32・38・39条等国家の商業的取引の基準をそのまま転用しない。公館財産への捜索・差押え等公館該当性,対象財産・輸送手段外交関係条約22条3項等裁判権の有無と具体的な強制措置の可否は別である。

条約全体の制度は外交関係に関するウィーン条約の総合解説で,公館の不可侵と保護義務は同条約22条の解説で説明している。

外国国家との具体的な取引では,契約相手の特定,裁判権免除の例外及び回収方法を順に確認する必要がある。
物品の納品や外注業務の代金については,大使館への未払代金は請求できるか―契約相手・主権免除・差押えの確認点:https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/24/taishikan-mibarai-daikin-shuken-menjo/で,契約・発注・検収資料と送達・執行の区別を説明する。

日本国内の建物を大使館として貸している場合は,不動産に関する11条と,外交関係に関するウィーン条約による公館の不可侵を併せて検討する。
大使館の家賃滞納と明渡し―賃貸人が確認する主権免除と公館の不可侵:https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/24/taishikan-yachin-akewatashi-shuken-menjo/では,賃料請求・明渡訴訟と実際の執行を分けて説明する。

第2 平成14年判決と平成18年判決

最高裁平成14年4月12日第二小法廷判決は,米国の主権的行為について,慣習国際法上,日本の民事裁判権から免除されるとした。この判決は,在日米軍の行為が問題となった事案で,日米地位協定18条自体が米国の裁判権免除を定めたものではないことも示した。

最高裁平成18年7月21日第二小法廷判決は,従来の絶対免除主義を採用しないことを明確にし,外国国家の私法的又は業務管理的行為について,裁判権を行使することが外国国家の主権を侵害するおそれがあるなどの特段の事情がない限り,免除を認めないとした。

同判決は,外国国家が私人との間の書面契約に含まれる明文の規定によって,当該契約から生じた紛争を日本の裁判所で裁判することを約し,裁判権に服する意思を明確に表明したときも,原則として免除されないとした。
通常は主権侵害のおそれがなく,免除を認めれば契約当事者間の公平を欠き信義則に反することを理由とする。

(続きを読む...)主権免除とは―国家免除の原則・例外と外国国家への民事訴訟(AI作成)

平成18年度最高裁民事破棄判決等の実情―110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の読み方第2 破棄判決・破棄決定の件数第3 平成18年の破棄理由から学べる7つの型1 請求・抗弁・判断対象の落ち2 証明責任の分配を誤る型3 経験則・採証法則に反する型4 審理・釈明が足りない型5 法的評価の前提を誤る型6 破棄差戻しで未確定事項が残る型7 旧法事件を現行実務に直結させない第4 一次資料で確認した代表例第5 代理人が作る4つの対応表第6 差戻しと自判を読み分ける第7 上告受理申立理由の組み立て第8 一次資料・二次資料・判例秘書の確認状態第9 出典・関連記事

平成18年中に最高裁判所が言い渡した民事事件(行政事件及び労働事件を含む。)の破棄判決107件と破棄決定3件を,原審が破棄された理由と代理人実務の観点から整理する。個別判決の結論を並べるのではなく,主張整理,証拠評価,審理運営及び差戻審準備に再利用できる形にすることを目的とする。

第1 本記事の対象と資料の読み方

入口とした資料は,宮坂昌利・谷口豊「最高裁民事破棄判決等の実情―平成18年度―」判例時報1966号,1967号,1969号及び1970号の全4回,合計89頁である。論文名は「年度」であるが,対象は会計年度ではなく,平成18年1月から12月までに言い渡された事件である。

この論文は,事件の所在,原審の判断,破棄理由及び差戻後の審理事項を一覧的に把握するための有力な二次資料である。しかし,論文自体は判決・決定ではない。個別事件の正確な判示,事実関係,射程及び裁判官意見を引用する場合は,裁判所公表の判決・決定本文その他の一次資料で確認する必要がある。

第2 破棄判決・破棄決定の件数

上記論文が扱うのは,破棄判決107件と破棄決定3件の合計110件である。破棄判決には,同一論点について同日に言い渡された多数の関連事件が含まれる。したがって,107という数字を独立した法的論点の数又は一般的な「最高裁で勝てる確率」と読むことはできない。

また,破棄差戻しと破棄自判では,最高裁判決後に残る作業が異なる。件数だけでなく,①最高裁が確定した法理,②原審判断のどこが違法とされたか,③差戻審でなお確定すべき事実・抗弁・損害を区分して読む必要がある。

第3 平成18年の破棄理由から学べる7つの型
1 請求・抗弁・判断対象の落ち

当事者が提出した請求原因,予備的請求,抗弁又は再抗弁の一部について,原審が判断しないまま結論を出した事件がある。準備書面ごとの記載を追うだけでなく,法律要件ごとに「主張の所在・相手方の認否・証拠・判断の有無」を一表にすることが,判断遺脱と審理漏れの発見に有効である。

2 証明責任の分配を誤る型

車両保険の水没・損傷事故では,約款上の「偶然な事故」に該当することを主張する保険金請求者に,事故が被保険者の意思に基づかないことまで立証させた原審判断が破棄された。他方,保険金請求者は,約款所定の保険事故の外形的事実及び損害の発生を立証する必要がある。立証責任の所在と,現実に提出すべき証拠の範囲を混同してはならない。

3 経験則・採証法則に反する型

医療訴訟では,専門家の意見書又は鑑定が存在することだけで結論を決めることはできない。最高裁平成18年1月27日判決はMRSA感染に対する抗菌薬投与の時機について,最高裁平成18年11月14日判決は出血量,ショック徴候及び死因について,原審が専門意見と客観的診療経過の関係を十分に検討しなかった点を問題とした。

攻撃又は反論では,専門家の肩書や結論ではなく,その意見が依拠する前提事実,検査値,バイタルサイン,診療録の時系列,他の意見との相違点及び医学文献との適合性を示す必要がある。

4 審理・釈明が足りない型

争点について必要な釈明をせず,専門家の相反する意見を比較する機会も十分に与えないまま口頭弁論を終結すると,単なる証拠評価の相違ではなく,審理不尽を伴う違法の問題になり得る。とりわけ専門訴訟では,意見書提出後の反論期間,反対尋問,追加鑑定及び争点整理の要否を明示的に求め,手続経過を記録に残すことが重要である。

5 法的評価の前提を誤る型

最高裁平成18年7月21日判決は,外国国家の行為について一律に民事裁判権を免除する絶対免除主義を改め,私法的・業務管理的行為には,主権を侵害する特段の事情がない限り裁判権免除を認めない制限免除主義を採用した。行為の目的だけでなく,行為の性質を見て分類する必要がある。

このように,事実を確定した後の規範選択又は法的分類が誤っていれば,証拠を追加しなくても原判決が維持できない場合がある。主張書面では,事実認定と法的評価を段階に分けるべきである。

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医療訴訟における経験則・採証法則違反―平成18年最高裁判決から見る専門意見の評価方法(AI作成)

目次

第1 本記事の問題意識第2 最高裁平成18年1月27日判決第3 最高裁平成18年11月14日判決第4 平成18年4月18日事件の確認範囲第5 説明義務判決との区別第6 専門意見を比較する7項目第7 証拠収集と尋問の設計第8 上告受理申立理由への落とし込み第9 資料の確認状態第10 出典・関連記事

医療訴訟では,複数の医師又は鑑定人の意見が対立することが多い。最高裁平成18年1月27日判決及び同年11月14日判決は,「どの専門家を信じるか」だけでなく,意見の前提となる客観的診療経過と推論過程を比較しなければならないことを示す。

第1 本記事の問題意識

事実審の証拠評価は原則として裁判所の自由心証に委ねられる。しかし,重要な専門意見を理由なく退け,客観的資料と整合しない中間評価から結論を導き,又は相反する意見を比較する審理を尽くさなかった場合,経験則・採証法則違反として破棄されることがある。

そこで,意見書の結論を引用するだけでなく,①何を証明する意見か,②どの事実を前提にするか,③どの資料を使用したか,④推論に飛躍がないかを分解する必要がある。

第2 最高裁平成18年1月27日判決

最高裁平成18年1月27日第二小法廷判決は,MRSA感染症を発症した患者に対するバンコマイシン投与の時機が問題となった医療訴訟である。

原審は,早期投与をしても救命できなかった可能性が高いとして医療側の責任を否定した。しかし,最高裁は,早期投与により救命できた可能性に関する医師の意見を十分に吟味せず,診療経過との関係も明らかにしないまま結論を出した原審判断に,経験則又は採証法則違反があるとした。

実務上は,抗菌薬の一般的有効性だけでなく,培養結果判明前後の症状,感染徴候,検査値,腎機能,用量,投与開始可能時点及び患者固有の予後を時系列で対応させる必要がある。一般論と当該患者についての因果関係を分けることが重要である。

第3 最高裁平成18年11月14日判決

最高裁平成18年11月14日第三小法廷判決は,手術後の出血とショック,その後の死亡との関係が争われた事案である。

原審は一方の専門意見に依拠したが,最高裁は,出血量,血圧,脈拍その他のショック徴候と意見の前提が整合するかを十分に検討せず,相反する二つの専門意見を比較しないまま,第1回口頭弁論期日に弁論を終結した審理経過も踏まえて,原審判断を維持できないとした。

重要なのは,「控訴審が独自鑑定を採用した」という形式ではない。各意見がどの数値・症状・時点を根拠にし,どの医学的機序を通じて死因又は過失を説明するのかを比較する機会が確保されたかである。

第4 平成18年4月18日事件の確認範囲

判例時報「最高裁民事破棄判決等の実情―平成18年度―」は,冠動脈バイパス手術後の腸管壊死等を扱った最高裁平成18年4月18日判決を紹介し,原審の専門的判断に対する検討不足を指摘している。

もっとも,本記事作成時点では,裁判所ウェブサイト上の対象判決本文を事件番号とともに確実に特定できていない。このため,本節は二次資料から把握できる問題構造の紹介にとどめ,正確な事実経過・判示を引用する際は,判例秘書その他の判例データベース又は掲載誌で判決全文を確認する必要がある。

第5 説明義務判決との区別

最高裁平成18年10月27日第二小法廷判決は,未破裂脳動脈瘤について,開頭術,血管内治療及び経過観察という複数の選択肢がある場合の説明義務を扱う。この判決は,専門意見の証拠評価を理由として破棄した判決ではない。

同判決が示したのは,複数の確立した治療法が存在し,いずれにも相応の危険があるとき,医師は各選択肢の内容と危険を説明し,患者が再度熟慮する機会を与えるべきであるという規範である。説明義務,過失,死亡等との因果関係,自己決定権侵害による損害を段階別に検討する。

第6 専門意見を比較する7項目

立証命題:過失,因果関係,後遺障害,余命又は損害のどれに関する意見か。
基礎資料:診療録,画像,検査値,病理,ガイドライン及び文献のどれを見たか。

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取引先・下請先が持つ設計図面等の文書提出命令―技術の秘密,保護に値する秘密の比較衡量,第三者の審尋・一部提出・インカメラ手続(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点1 想定する場面2 要点第2 第三者に対する文書提出命令の仕組み1 提出義務の根拠2 申立ての方式3 第三者の審尋と不服申立て第3 「技術の秘密」に当たるか1 定義2 具体的な主張が必要であること第4 保護に値する秘密かの比較衡量1 最高裁平成18年10月3日決定2 最高裁平成20年11月25日決定3 技術の秘密への当てはめ4 最高裁平成19年12月11日決定第5 所持者(取引先・下請先)の側が主張すべき事情第6 申立人の側が主張すべき事情第7 秘密を守るための手続1 一部を除いた提出命令2 インカメラ手続3 閲覧等の制限の限界第8 弁護士が写しを持っている場合第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 確認状態
第1 この記事の対象と要点
1 想定する場面

本記事は,製品の欠陥や工事の不具合をめぐる民事訴訟で,一方の当事者が,訴訟の当事者ではない取引先・下請先(第三者)が持つ設計図面,作業工程表,製造記録等の提出を求めて,文書提出命令を申し立てる場面を扱う。
申立てを受けた第三者の側は,自社の製造技術が相手方や同業者に知られることを避けるため,「技術の秘密」に当たるとして提出を拒むことを考える。
申立人の側は,欠陥の原因を明らかにするためにその文書が必要だと主張する。

本記事は,令和8年9月29日時点の民事訴訟法と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,第三者が提出を拒めるのはどのような場合か,双方が何を主張すべきか,秘密を守るためにどのような手続があるかを整理する。

2 要点
問題結論主な根拠第三者に提出を命じられるか民事訴訟法220条4号の除外事由に当たらなければ命じられる。命じる前に第三者を審尋する民事訴訟法220条4号・223条2項「技術の秘密」とは何か公開されると技術の社会的価値が下落し,これによる活動が困難になるもの最高裁平成12年3月10日決定技術の秘密に当たれば必ず拒めるか拒めるのは保護に値する秘密に限られ,秘密の側の不利益と裁判の側の必要性を比較衡量して判断する最高裁平成18年10月3日決定,最高裁平成20年11月25日決定所持者は何を主張すべきか情報の種類,性質及び開示による不利益の具体的内容最高裁平成12年3月10日決定秘密を守る手続一部を除く提出命令,裁判所だけが文書を見る手続(インカメラ手続)民事訴訟法223条1項後段・6項第三者が命令に従わないとき20万円以下の過料民事訴訟法225条1項
第2 第三者に対する文書提出命令の仕組み
1 提出義務の根拠

民事訴訟法220条は,文書の所持者が提出を拒むことができない場合を定める。
同条1号~3号は,当事者が訴訟で引用した文書,挙証者が引渡し又は閲覧を求めることができる文書,挙証者の利益のために作成され又は挙証者と所持者との間の法律関係について作成された文書を挙げる。
同条4号は,それら以外の文書についても,イ~ホに掲げる文書のいずれにも該当しないときは,所持者は提出を拒むことができないとする(一般的な提出義務)。

設計図面や作業工程表のように,所持者が自社の業務のために作った文書は,1号~3号に当たらないことが多く,4号が提出義務の根拠になる。
その場合,4号ハの「第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で,黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たるかが争点になる。
民事訴訟法197条1項3号は,証人が「技術又は職業の秘密に関する事項」について尋問を受ける場合に証言を拒めると定めており,文書提出命令でもこの基準が使われる。

2 申立ての方式

文書提出命令の申立ては,文書の表示,文書の趣旨,文書の所持者,証明すべき事実及び文書の提出義務の原因を明らかにしてしなければならない(民事訴訟法221条1項)。
4号を根拠とする申立ては,書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければすることができない(同条2項)。
文書の表示や趣旨を明らかにすることが著しく困難なときは,所持者がその文書を識別できる事項を明らかにすれば足り,裁判所に対し,所持者にそれらの事項を明らかにするよう求めることを申し出ることができる(民事訴訟法222条1項)。

3 第三者の審尋と不服申立て

裁判所は,第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には,その第三者を審尋しなければならない(民事訴訟法223条2項)。
取引先・下請先は,この審尋で,提出を拒む理由を具体的に述べる機会を与えられる。

文書提出命令の申立てについての決定に対しては,即時抗告をすることができる(民事訴訟法223条7項)。
第三者が文書提出命令に従わないときは,裁判所は,決定で,20万円以下の過料に処する(民事訴訟法225条1項)。
当事者が命令に従わないときに,文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができるとする規定(民事訴訟法224条)は,当事者に関するものであり,第三者には適用されない。

第3 「技術の秘密」に当たるか
1 定義

最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定(平成11年(許)第20号,民集54巻3号1073頁)は,民事訴訟法197条1項3号の「技術又は職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうとした。

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通常共同訴訟で他の被告の主張・証拠は自分にも効くか―共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条),主張共通の否定と証拠共通(最高裁昭和43年9月12日判決・昭和45年1月23日判決)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点1 想定する場面2 要点第2 通常共同訴訟と共同訴訟人独立の原則1 通常共同訴訟とは2 民事訴訟法39条の内容3 同時審判の申出がされた共同訴訟との違い第3 他の共同被告の主張は自分にも効くか(主張共通)1 最高裁昭和43年9月12日判決2 最高裁昭和45年1月23日判決3 主張共通を認めるべきだとする考え方第4 他の共同被告が出した証拠は自分にも効くか(証拠共通)第5 共同被告の一人が欠席したとき1 擬制自白2 弁論の分離と先行する判決第6 他の共同被告の主張を自分のものにする方法1 期日に出頭して援用する2 補助参加の申出3 訴訟告知第7 主たる債務者と保証人が共同被告になったときの注意1 保証人の側2 債権者の側第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 確認状態
第1 この記事の対象と要点
1 想定する場面

本記事は,債権者が主たる債務者と保証人を一緒に訴えた場合や,交通事故の被害者が運転者と使用者を一緒に訴えた場合のように,一つの訴訟に複数の被告(又は原告)がいるものの,判決の内容を全員について一致させることまでは求められていない訴訟を扱う。
このような訴訟は「通常共同訴訟」と呼ばれ,民事訴訟法38条が要件を定めている。

実務では,共同被告の一人が詳しい反論をしている一方で,他の共同被告が答弁書を出さず欠席していることがある。
このとき,欠席した共同被告も,他の共同被告の反論や証拠の恩恵を当然に受けられるのかが問題になる。
本記事は,令和8年9月29日時点の民事訴訟法と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,この問題を整理する。

2 要点
問題結論主な根拠共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の者に及ぶか及ばないのが原則である(共同訴訟人独立の原則)民事訴訟法39条他の共同被告の主張は自分の主張になるか自分で援用しない限りならない(主張共通の否定)最高裁昭和43年9月12日判決,最高裁昭和45年1月23日判決他の共同被告が出した証拠は自分の事件でも使われるか使われる(証拠共通)最高裁昭和45年1月23日判決共同被告の一人が欠席したらどうなるかその者は相手方の主張した事実を自白したものとみなされ得る民事訴訟法159条3項・1項他の共同被告の主張を自分のものにするには期日に出頭して援用するか,補助参加の申出をする民事訴訟法42条・45条,最高裁昭和43年9月12日判決
第2 通常共同訴訟と共同訴訟人独立の原則
1 通常共同訴訟とは

民事訴訟法38条は,訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき,同一の事実上及び法律上の原因に基づくとき,又は同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときは,その数人が共同訴訟人として訴え,又は訴えられることができると定める。
債権者が主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求を一つの訴えで行う場合は,この規定によって一つの訴訟にまとめられる。

これに対し,民事訴訟法40条は,訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合(必要的共同訴訟)について,一人の訴訟行為は全員の利益においてのみ効力を生ずる(1項),相手方の訴訟行為は全員に対して効力を生ずる(2項)などの特則を置いている。
主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求は,別々に訴えることもでき,判決の結論が食い違っても法律上は許されるから,40条の対象にはならない。

2 民事訴訟法39条の内容

民事訴訟法39条は,「共同訴訟人の一人の訴訟行為,共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為及び共同訴訟人の一人について生じた事項は,他の共同訴訟人に影響を及ぼさない」と定める(共同訴訟人独立の原則)。
通常共同訴訟は,本来別々に起こすことができた複数の訴えを,審理の便宜のために一つにまとめたものにすぎない。
そのため,各共同訴訟人は,他の共同訴訟人の訴訟追行に縛られず,自分の判断と責任で訴訟を追行し,その結果を受けることになる。

この原則から,例えば,共同被告の一人が請求を認諾したり,相手方の主張する事実を認めたりしても,他の共同被告についてその効果は生じない。
他方,後で見るとおり,他の共同被告が有利な主張をしてくれても,自分がそれを援用しない限り,自分の事件の判断資料にはならない。

3 同時審判の申出がされた共同訴訟との違い

民事訴訟法41条は,共同被告の一方に対する権利と他方に対する権利とが「法律上併存し得ない関係にある場合」に,原告の申出があれば,弁論及び裁判を分離しないでしなければならないと定める(同時審判申出共同訴訟)。
典型は,代理人と称する者が契約をした場合の,本人に対する契約上の請求と,代理人に対する無権代理人の責任の追及である。
主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求は,両方とも成り立ち得るから,この規定の対象ではなく,裁判所は弁論を分離することができる(民事訴訟法152条1項)。

第3 他の共同被告の主張は自分にも効くか(主張共通)
1 最高裁昭和43年9月12日判決

最高裁判所第一小法廷昭和43年9月12日判決(昭和42年(オ)第890号,民集22巻9号1896頁)は,土地の不法占有を理由とする損害賠償請求について,原審が,共同被告のうち二人がした賃料弁済の主張の効力を,その主張をしていない他の共同被告にも及ぼし,「共同訴訟人間の補助参加関係」があるとして請求を退けた事案である。

最高裁は,「通常の共同訴訟においては,共同訴訟人の一人のする訴訟行為は他の共同訴訟人のため効力を生じないのであつて,たとえ共同訴訟人間に共通の利害関係が存するときでも同様である」とした。

(続きを読む...)通常共同訴訟で他の被告の主張・証拠は自分にも効くか―共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条),主張共通の否定と証拠共通(最高裁昭和43年9月12日判決・昭和45年1月23日判決)(AI作成)

電子契約で保証人に署名してもらうときの注意点―メール認証の電子署名で連帯保証人について契約書の成立が否定された東京地裁令和7年7月28日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 保証契約と電子契約1 書面要件と電磁的記録2 個人根保証の極度額3 保証意思宣明公正証書が必要な場合4 保証の委託をする主たる債務者の情報提供義務第3 電子署名と契約書の成立の真正1 電子署名法3条の推定2 民事訴訟法228条4項との関係3 メールアドレスによる認証と政府のQ&A第4 東京地方裁判所令和7年7月28日判決1 書誌2 事案3 主たる債務者側について成立の真正を認めた判断4 連帯保証人について成立の真正を否定した判断5 本判決から読み取れること第5 電子署名をした契約書が争われたその他の裁判例1 内容を確認した上での電子署名と契約の成立2 処分証書としての電子契約書3 裁判例の探し方と限界第6 保証人に電子署名をしてもらうときの実務1 送信先のメールアドレス2 保証人本人への意思確認3 認証の方法と本人確認4 記録の保存5 公正証書と情報提供の確認第7 相手方から電子契約の契約書を証拠として出されたとき第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,クラウド型の電子契約サービスを使って,主たる債務者と保証人の双方に電子署名をしてもらう場面を対象とする。
後になって保証人から「自分は署名していない」と争われたときに何が問題になり,契約の時点で何をしておけばよいかを,裁判例と政府の公表資料をもとに整理する。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
本記事で紹介する東京地方裁判所の判決3件は,いずれも裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見当たらず,判例秘書(LLI/DB)で判決本文を確認した。

電子署名法3条の推定が働く要件と,いわゆる立会人型の電子契約サービスに関する政府のQ&Aは,電子署名法3条の推定とはで詳しく扱っている。
本記事では,保証の場面と,電子署名をした契約書の成立が争われた裁判例に絞る。

2 結論

①保証契約は書面でしなければ効力を生じないが,その内容を記録した電磁的記録によってされた保証契約は,書面によってされたものとみなされる(民法446条2項・3項)。
したがって,電子契約で保証契約を結ぶこと自体はできる。

②東京地方裁判所令和7年7月28日判決は,メールアドレス認証による電子署名がされた債務承認弁済契約書について,内容を確認した上で署名した主たる債務者側については成立の真正を認め,連帯保証人については成立の真正を否定して,保証人に対する請求を棄却した。
保証人の名義の電子署名に使われたメールアドレスは,主たる債務者が業務に使っていたものであり,債権者は保証人本人に保証の意思を直接確認していなかった。

③同判決は,電子署名法3条の推定を適用して結論を出したのではなく,誰がそのメールアドレスを使って署名したか,署名した者が内容を確認していたかという事実を認定して判断している。

④他方,内容を画面で確認した上で電子署名をした当事者が,その書面はサービスの内容を確認するために取り交わしたものにすぎないと争っても,契約の成立は否定されにくい(東京地方裁判所令和5年2月1日判決)。
電子署名をした契約書の成立の真正が争いのない事案では,処分証書として,特段の事情がない限り記載どおりの行為がされたものと認めるべきであるとした判決もある(東京地方裁判所令和3年6月23日判決)。

⑤保証人に電子署名をしてもらうときは,保証人本人だけが使うメールアドレスに送ること,保証人本人に保証の意思を直接確認して記録を残すこと,2要素認証など本人確認の水準の高い方法を選ぶことが,後の紛争を防ぐ基本になる。

⑥事業のために負担した貸金等債務を個人が保証する場合は,原則として保証意思宣明公正証書が必要であり(民法465条の6第1項),電子契約をしただけでは保証契約の効力は生じない。

第2 保証契約と電子契約
1 書面要件と電磁的記録

民法446条2項は,「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」と定めている。
同条3項は,「保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。」と定めている。
電子契約サービスで作成した契約書のデータは,この「電磁的記録」に当たり得るので,紙の契約書に署名押印する方法でなくても,保証契約の書面要件を満たすことができる。

もっとも,書面要件を満たすことと,保証人本人がその契約を結んだと証明できることとは別の問題である。
電子契約で後に争いになるのは,多くの場合,後者である。

2 個人根保証の極度額

一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)で,保証人が法人でないものは,極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2第2項)。
同条3項は,極度額の定めについて446条2項・3項を準用しているので,極度額も電子契約の中で定めることができる。

3 保証意思宣明公正証書が必要な場合

(続きを読む...)電子契約で保証人に署名してもらうときの注意点―メール認証の電子署名で連帯保証人について契約書の成立が否定された東京地裁令和7年7月28日判決(AI作成)

カルテ改ざんの法的効果―記載の信用性の否定,別個の不法行為としての慰謝料,改ざんが認められなかった例及び患者側の記録(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 カルテの記載義務と訂正第3 信用性が否定された例(東京地方裁判所平成24年10月25日判決)1 事案2 判決が挙げた不自然な点3 判断第4 改ざんを認定し,別個の不法行為とした例(東京地方裁判所令和3年4月30日判決)1 事案2 改ざんと認めた記載と認めなかった記載3 別個の不法行為と慰謝料第5 改ざんが認められなかった例と患者側の記録(東京地方裁判所平成21年3月18日判決)1 事案2 改ざんを認めなかった理由3 遺族側のメモの評価第6 記録の不提出・廃棄・改ざんと民事訴訟法224条1 条文と「証明妨害」2 カルテを提示しなかった歯科医師について,患者の供述を真実と認めた例3 真実擬制は否定しつつ,改ざんされた記録の証拠能力を否定し,慰謝料を認めた例4 類推適用をしなかった例5 紛失・所在不明の場合6 整理第7 記録の紛失と遺族の法的利益(東京地方裁判所平成22年1月28日判決)第8 刑事責任と行政処分1 刑法の条文2 医療事故の記録をめぐる刑事事件の例3 医師法の行政処分4 保険医の登録の取消し第9 裁判例から見える判断の手掛かり第10 訴訟での扱いと予防1 事実認定への影響2 損害賠償の対象3 真実擬制と記録の紛失4 患者側の準備5 医療側の予防第11 関連記事第12 出典1 裁判例2 法令3 行政機関の資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,医療事故の後に診療録(カルテ)が書き加えられ,又は書き換えられたと疑われる場合に,民事の損害賠償請求訴訟でどのような効果が生じるかを,裁判例に即して扱う。
取り上げる裁判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で確認したものと,裁判所ウェブサイトに掲載されていないため判例データベース(判例秘書)の判決全文で確認したものであり,いずれも令和8年9月28日に確認した。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。

カルテの記載を読むときの一般的な型(SOAP,時刻の区別,追記・訂正とログの確認)は,弁護士のためのカルテの読み方―SOAP・時系列・追記訂正・退院時要約の証拠評価で扱っている。
本記事は,そのうち改ざんが争われた場面に絞って,裁判所が何を手掛かりにしたか,改ざんが認められたときに何が起きるかを整理するものである。
記録の不提出・廃棄・紛失と民事訴訟法224条(第6・第7),刑事責任と医師の行政処分(第8)も扱う。

2 結論

①改ざんが疑われる記載は,意図的な改ざんと断定されなくても,信用性が極めて乏しいとして事実認定で重きを置かれなくなることがある。
東京地方裁判所平成24年10月25日判決は,新生児が大動脈弁狭窄症で死亡した事案で,カルテの該当部分の信用性を否定した上で,診療所側の注意義務違反を認めた。

②改ざんが認められると,それ自体が,本来の過失や説明義務違反とは別個の不法行為となり得る。
東京地方裁判所令和3年4月30日判決は,カルテの改ざんを説明義務違反とは別個の不法行為とし,慰謝料100万円と弁護士費用10万円を認めた。

③裁判所は,手術記録,看護記録,診療報酬明細書,母子手帳等の同時期の記録との整合・食い違い,挿入やはみ出しといった体裁,同じ医師の他の記載との書きぶりの違い,訂正前の記載が読めなくなる訂正の方法等を手掛かりにしている。

④他方,記載が途中から詳しくなったことや,診療報酬の請求との食い違いがあることだけでは,改ざんとは認められないことがある。
東京地方裁判所平成21年3月18日判決は,医師が家族の対応に不信感を持って記載を詳しくすることは後日の紛争に備えた対応として考えられるとして,改ざんを認めず,逆に,遺族が作成したメモについて,事後に書き替えが可能であり,書き替えが疑われる箇所もあること等から,遺族の供述の信用性を支えるものとはいえないとした。

⑤カルテの不提出・廃棄・改ざんから民事訴訟法224条等によって直ちに患者側の主張が真実と認められることは多くない。
裁判所が検証期日で存在を確認したカルテを歯科医師が提示しなかった事案で,当時の同条に当たる規定の趣旨に従い患者の供述を真実と認めた例(東京地方裁判所平成6年3月30日判決)がある一方,多くの判決は,改ざんされた記録の証拠能力や信用性を否定し,医療側に不利な事情として考慮するにとどめている。
それでも,改ざんと偽証工作を遺族に対する説明義務違反の不法行為として慰謝料1500万円を認めた例(甲府地方裁判所平成16年1月20日判決)や,開示を拒んで法的措置を促しながら,その後診療記録を紛失して訴訟に提出できなかった病院に慰謝料50万円を認めた例(東京地方裁判所平成22年1月28日判決)がある。

⑥刑事では,証拠隠滅罪(刑法104条)は「他人の刑事事件」の証拠を対象とし,医療事故の後に公立病院の院長が主治医と共謀して内容虚偽の死亡診断書等を作成・行使したとして,虚偽有印公文書作成・同行使等で有罪とされた例がある。
医師法の行政処分について,医道審議会医道分科会の「行政処分の考え方」は「診療録に真実を記載する義務」を医師の当然の義務に挙げている。
また,健康保険法上の保険医の登録取消しでは,カルテの事後の追記が処分理由とされ,その処分が適法とされた例がある。

⑦医療側は,訂正するなら元の記載が分かる方法で行い,事故の後に記載を変えない。
患者側は,改ざんの疑いを主張するなら,カルテ以外の同時期の客観的な記録を先に集め,記録の原本の状態を早期に確保する。

第2 カルテの記載義務と訂正

医師法24条1項は,医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないと定める。
同条2項は,病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関する診療録はその病院又は診療所の管理者が,その他の診療録はその医師が,5年間保存しなければならないとする。
医師法施行規則23条は,診療録の記載事項として,診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢,病名及び主要症状,治療方法(処方及び処置)並びに診療の年月日を定めている。

カルテは,医療訴訟で診療経過を認定するための中心的な証拠になる。

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平成19年度最高裁民事破棄判決等の実情―57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の読み方第2 件数と「破棄率」の限界第3 原審が破棄された7つの型1 手続の入口に問題がある型2 請求・抗弁・判断対象を取り違える型3 評価語から要件事実へ飛躍する型4 契約文言と締結・履行経過がずれる型5 証明責任と立証対象の配分を誤る型6 制度の保護目的を抽象論で狭める型7 破棄差戻しで未確定事実が残る型第4 破棄差戻しと破棄自判の対照第5 代理人が作る3つの作業表第6 分野別の実務上の着眼点第7 一次資料,二次資料及び判例秘書の状態第8 現行法へ接続する際の注意第9 出典・関連記事

第1 本記事の対象と資料の読み方

本記事は,平成19年中に最高裁判所で言い渡された民事事件(行政事件・労働事件を含む。)の破棄判決50件と破棄決定7件を,山中弁護士の訴訟実務に使える「破棄の型」として整理するものである。判例時報の論文名は「平成十九年度」であるが,対象は会計年度ではなく暦年の平成19年中の裁判である。

入口とした資料は,森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下・2010号9頁以下である。この論文は最高裁調査官による体系的な二次資料であり,事件の所在,原審判断及び破棄理由を把握するのに有用である。他方,個別事件の正確な判示,射程,反対意見・補足意見は,裁判所が公表する判決・決定本文で確認する必要がある。

第2 件数と「破棄率」の限界

上告及び上告受理申立てを並行した事件を1件に換算すると,新受は3004件,既済は3111件であった。破棄判決は判決書単位で50件であり,換算後の既済件数に対して1.6%であった。その内訳は,差戻し(一部差戻しを含む。)26件,自判(一部自判を含む。)25件で,両方を含むものが1件ある。

破棄決定は7件で,特別抗告1件,許可抗告6件であった。許可抗告の既済44件に対する破棄決定6件は13.6%である。

もっとも,これらの数字は,不受理・棄却事件の内容,事件の難易,申立て理由の構成などを統制したものではない。「最高裁で勝てる確率」や個々の代理人の成功率として用いることはできない。

第3 原審が破棄された7つの型
1 手続の入口に問題がある型

口頭弁論に関与していない裁判官が判決裁判所を構成した事件,当事者・代表権・中断が問題となった光華寮訴訟,死亡当事者の受継命令,最高裁への上告受理申立てを原裁判所が内容判断で却下した事件などがある。受任直後に,裁判体,当事者表示,代表権,死亡・組織変更,受継,送達及び上訴権限を点検する必要がある。

2 請求・抗弁・判断対象を取り違える型

不法行為構成だけを判断して債務不履行主張を落とした事件や,予備的相殺抗弁の趣旨を取り違えた事件がある。請求原因,認否・抗弁,再抗弁,裁判所の判断を対応させ,選択的請求や予備的抗弁の順位も明示する。

3 評価語から要件事実へ飛躍する型

精神科入院患者の誤嚥死事件では,「ショック状態」という評価を先に置き,意識レベル,全身状態,頻脈,血圧,出血量,感染性ショックの可能性を必要十分に確定しない事実認定が経験則違反とされた。結果から過去の義務違反を逆算せず,義務発生時点ごとに客観的な事実を並べる必要がある。

4 契約文言と締結・履行経過がずれる型

コンビニ・フランチャイズ契約の「売上商品原価」は,契約条項だけでなく,付属資料,契約締結前の説明及び従前の運用を総合して解釈された。土地賃貸借でも,後年の低額支払又は不払だけで無償使用と決めず,長期の定期支払と当時の領収証を見る必要がある。

5 証明責任と立証対象の配分を誤る型

自動車盗難保険では,保険金請求者が立証すべき外形的事実と,被保険者の意思に基づかないことが分けられた。「盗難と矛盾しない」だけでは足りない。主張書面では,誰が何を証明するか,直接事実と間接事実,反証可能性を分ける。

6 制度の保護目的を抽象論で狭める型

建物の設計・施工・工事監理者について,契約関係のない居住者,隣人及び通行人にも,建物の基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務が認められた。「強度の違法性」を要求した原審基準は狭すぎるとされた。

弁護士懲戒請求でも,不懲戒という結果だけで不法行為となるのではない。事実上・法律上の根拠を欠き,請求者が知っていたか通常の注意で知り得たのにあえて行い,制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くかを判断する。

7 破棄差戻しで未確定事実が残る型

破棄差戻しは,最高裁が当事者の実体法上の勝敗を最終確定したことを必ずしも意味しない。「最高裁が確定した法理」「原審判断の誤り」「差戻審で未確定の事実」を三分する必要がある。

第4 破棄差戻しと破棄自判の対照

最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決は,精神科入院患者の誤嚥死について,原審の事実認定が経験則に反するとし,患者が当該時点で自ら気道を確保することが困難な状態にあったか否かなどを追加審理させるため差し戻した。

これに対し,最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決は,競売前に先順位抵当権が消滅した事案における法定地上権の成立を認め,原審が確定した事実だけで結論を出せるとして,土地買受人の建物収去土地明渡請求を棄却する自判をした。

両判決の比較は,正しい法的枠組みを示した後に追加の事実審理が必要かどうかが,差戻しと自判の分水嶺となることを示す。

第5 代理人が作る3つの作業表

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医療訴訟における経験則違反―最高裁平成19年4月3日判決から見る事実認定の攻撃方法(AI作成)

目次

第1 結論と実務上の意義第2 事案と原審の判断第3 最高裁が指摘した事実の空白第4 「単なる事実認定の不服」との違い第5 診療経過を立体的に読む方法第6 破棄差戻しの射程第7 出典及び確認範囲

第1 結論と実務上の意義

医療訴訟で診断名や「ショック状態」という評価を置くには,その時点の意識レベル,全身状態,脈拍,血圧,出血量,代替原因などの基礎事実を確定する必要がある。結果が重大であったことから,過去の時点で医療従事者が重篤化を認識できたと逆算してはならない。

最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決(平成18年(受)第1547号)は,全身状態等を審理判断せずに患者がショックに陥り,自ら気道を確保できない状態にあったとした原審の事実認定を,経験則に反するとして破棄差戻しとした。

第2 事案と原審の判断

本件は,精神科病院に入院していた患者が,消化管出血により多量に吐血・嘔吐し,吐物を誤嚥して死亡したことについて,両親が病院に債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。

原審は,午後3時30分頃の発熱,脈微弱,酸素飽和度低下,唇色不良などから,患者がショックに陥っていたと認定した。そして,消化管出血に関連する原因でショックに陥ったと認識できたとし,転送義務又は気道確保義務の違反を認めた。

第3 最高裁が指摘した事実の空白

最高裁は,原審が「ショック」という評価に進む前に確定すべき事実を具体的に指摘した。

① 心拍数は78であり,頻脈とはいえなかった。
② 酸素吸入等の後の午後4時30分には,口唇・爪のチアノーゼや四肢冷感がなく,体動も見られた。
③ 午後3時30分頃の収縮期血圧は96であり,急激な低下の形跡はなかった。
④ 多量の消化管出血を疑わせる嘔吐,吐血,下血又は激しい腹痛はうかがわれなかった。
⑤ 病理解剖で空腸の穿孔は見られたが,腹膜炎などの所見はなかった。
⑥ 患者の意識レベルを含む全身状態について,原審は必要な審理判断をしていなかった。

これらの事実に照らすと,発熱等の症状があったことだけで,自ら気道を確保できないショック状態にあったとすることはできない。最高裁は,その事実認定を前提とする転送義務・気道確保義務違反の判断も維持できないとした。

第4 「単なる事実認定の不服」との違い

上告審は事実審ではないから,証拠の信用性や重みについて異なる評価を述べるだけでは足りない。平成19年判決は,原審の評価に対する抽象的な異論ではなく,原審が採用した因果連鎖の前提が,客観的なバイタルサインや病理所見と整合しないことを示した。

したがって,経験則違反を主張するときは,①原審が結論の前提とした中間事実,②その中間事実と両立し難い客観的事実,③検討されなかった代替原因,④未確定の事実が法的結論に与えた影響を対応させる必要がある。

第5 診療経過を立体的に読む方法

診療録は,時刻順に転記するだけでは足りない。各時点について,次の項目を横断的に整理する。

① 意識レベル・応答・体動
② 体温,脈拍,血圧,酸素飽和度その他のバイタルサイン
③ 吐血,嘔吐,下血,疼痛,出血量などの症状
④ 医師・看護師が得た情報とその時点での判断
⑤ 投薬,酸素吸入,点滴,転送手配などの措置
⑥ 措置後の変化及び結果
⑦ 当時想定できた複数の原因と,それぞれと整合する事実・整合しない事実

医学鑑定に依存する前に,診療録,看護記録,救急搬送記録,画像・検査データ,病理解剖報告などを,同じ時間軸で照合することが重要である。

第6 破棄差戻しの射程

最高裁は,病院側に過失がないと最終確定したのではない。患者が午後3時30分の時点で自ら気道を確保することが困難な状態にあったか否かなどについて,更に審理させるため事件を原審に差し戻した。

この判決を原告側の全面敗訴や病院側の最終勝訴として引用するのは正確でない。最高裁が確定したのは,原審の事実認定方法に経験則違反があり,その違法が判決に影響するという点である。

第7 出典及び確認範囲

① 最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決(平成18年(受)第1547号)
② 森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下(二次資料)
③ 民事訴訟法(e-Gov法令検索)

最高裁判決全文は裁判所ウェブサイトで確認済みである。判例秘書は照会0件/ヒット不明/本文確認0件であり,差戻審の結果及び下級審の同種判例の収録状況は本記事では確認していない。

外国欠席判決の承認と手続的公序―判決書不送達・控訴機会・ウェブ公開(AI作成)

目次第1 外国判決の承認要件第2 訴状送達と判決送達は別問題第3 最高裁平成31年判決第4 ウェブ公開と現実の防御機会第5 立証資料と出典

外国の裁判所が欠席判決をした後,判決書が被告に届かないまま上訴期間が経過した場合,その判決を日本で承認・執行できるか。本記事は,訴状の送達と判決書の送達を分け,民事訴訟法118条3号の手続的公序を中心に,令和8年9月28日現在の日本法を整理する。

第1 外国判決の承認要件

本記事が扱うのは,外国の裁判所がした判決を日本で承認・執行する場面である。
日本の裁判所から海外の相手へ訴状等を送達する手続を調べている場合は,外国送達の方法,送達条約及び公示送達を参照されたい。

民事訴訟法118条は,外国裁判所の確定判決について,①外国裁判所の裁判権,②敗訴被告への訴訟開始文書等の送達又は応訴,③判決内容及び訴訟手続が日本の公序良俗に反しないこと,④相互の保証,を要求する。外国判決に基づいて日本で強制執行するには,別に民事執行法24条の執行判決が必要である。

①の外国裁判所の裁判権は,外国判決を日本で承認する場面における「間接管轄」の問題であり,日本の裁判所へ新たに訴えを提起できるかという「直接管轄」と区別する必要がある。間接管轄の判断方法,侵害発生地,差止請求及び予見可能性については,外国判決の承認における間接管轄―侵害発生地・予見可能性と最高裁平成26年4月24日判決(AI作成)で説明する。本記事は,主として②の送達及び③の手続的公序を扱う。

同条3号のうち,本記事が扱うのは,判決を知り上訴する現実の機会が与えられたかという手続的公序である。
これに対し,外国判決の内容自体が日本の法秩序の基本原則と相いれないかという実体的公序も別に問題となる。外国判決の懲罰的損害賠償部分を扱った最高裁平成9年7月11日判決及び既払金の充当を扱った最高裁令和3年5月25日判決は,加害者が得た利益を被害者は請求できるか―利益吐出し型損害賠償・懲罰的損害賠償と日本法で整理している。

第2 訴状送達と判決送達は別問題

訴状・呼出状の送達は118条2号の問題であり,被告が訴訟の開始を知って防御できたかに関わる。判決書の送達又は告知は,同号が直接列挙する文書ではない。しかし,判決を知らないまま上訴期間を失い,実質的な防御機会を奪われた場合は,同条3号の「訴訟手続」が公序に反するかが問題になる。

したがって,「訴状が適法に送達されたから必ず承認される」とも,「判決書が送達されなかったから必ず承認されない」ともいえない。

第3 最高裁平成31年判決

最高裁判所第二小法廷平成31年1月18日判決は,外国法上,判決書の送達が制度上予定されていないことだけで,直ちに118条3号違反になるものではないとした。他方,判決の内容を当事者に知らせることが可能であったのに実際には知らされず,又は実質的に上訴の機会が与えられないまま上訴期間が経過した等の事情により,手続保障の観点から日本の法秩序の基本原則に反すると認められる場合には,3号違反となり得るとの判断枠組みを示した。

判断の中心は,外国法に日本と同じ送達制度があるかではなく,当事者が判決内容を知り,上訴その他の防御手段を現実に利用できたかである。

第4 ウェブ公開と現実の防御機会

判決が裁判所ウェブサイトに掲載され,世界中から技術的に閲覧できたとしても,それだけで当事者に判決内容が実際に告知されたとは限らない。掲載の有無,掲載日,検索方法,当事者への掲載通知,通常の事件管理方法,代理人の選任状況,判決の写しが誤った住所へ送られた経緯,上訴期間の起算点及び期間回復制度を総合して判断する必要がある。

反対に,被告又は代理人がウェブ掲載を現実に知り,判決内容を取得して上訴できたのに放置した場合は,手続的公序違反を基礎付けにくい。単なる「アクセス可能性」と「現実の認識・実質的な上訴機会」を区別することが重要である。

第5 立証資料と出典

承認・執行事件では,外国判決の確定証明,訴状等の送達記録,判決書の発送記録,発送先住所,ウェブ掲載日時と通知方法,上訴期間・起算点・期間回復に関する外国法資料,当事者と代理人の連絡記録を確保する必要がある。外国法の内容は条文だけでなく,実務運用を示す専門家意見書も検討する。

一次資料は,e-Gov法令検索「民事訴訟法」118条,「民事執行法」24条,最高裁判所第二小法廷平成31年1月18日判決(平成29年(受)第2177号,民集73巻1号1頁),最高裁判所第二小法廷平成9年7月11日判決(平成5年(オ)第1762号,民集51巻6号2573頁)及び最高裁判所第三小法廷令和3年5月25日判決(令和2年(受)第170号,同年(オ)第135号,民集75巻6号2935頁)である。

船荷証券の国際裁判管轄条項―運送人の選択権・選択時期・専属性(AI作成)

目次第1 管轄条項を読む順序第2 民事訴訟法3条の7第3 選択権付き条項第4 選択時期と専属性第5 出典

船荷証券には,運送人の本店所在地,船積港又は陸揚港の裁判所から運送人が一つを選ぶ旨の条項が置かれることがある。この条項を理由に日本の訴えを却下できるかは,合意の方式,有効性,専属性,選択の時期及び指定裁判所の管轄を順に検討する必要がある。本記事は令和8年9月28日現在の日本法を前提とする。

第1 管轄条項を読む順序

最初に,①対象となる一定の法律関係,②候補となる国・裁判所,③選択権者,④専属管轄か付加的管轄か,⑤選択の方法と期限,⑥指定裁判所が実際に裁判権を行使できるかを条項の文言から確認する。「訴えることができる」というだけでは専属性が明らかでない場合がある。他方,他の裁判所を排除する趣旨が文言と契約全体から明白なら,専属的合意と解され得る。

第2 民事訴訟法3条の7

民事訴訟法3条の7第1項は,当事者が合意により,いずれの国の裁判所に訴えを提起できるかを定められるとする。同条2項により,合意は一定の法律関係に基づく訴えについて,書面でしなければ効力を生じない。電磁的記録も書面とみなされる(同条3項)。指定された外国裁判所が法律上又は事実上裁判権を行使できないときは,外国裁判所を専属管轄とする合意を援用できない(同条4項)。日本の専属管轄に属する事件を外国裁判所に委ねることもできない(同法3条の10)。

なお,船荷証券のような事業者間の契約と異なり,消費者契約や労働契約について将来生ずる紛争を対象とする管轄合意は,同条5項・6項により,効力を有する場合が限られている。例えば,雇用契約の締結時に外国の裁判所だけを指定した条項は,労働契約の終了の時にされた合意である場合,労働者が合意された国の裁判所に訴えを提起した場合又は事業主から訴えられた労働者が合意を援用した場合でなければ,効力を有しない(同条6項)。労働契約の管轄条項と準拠法については,外国企業に雇われて日本で働く人の労働紛争―管轄条項の効力(民訴法3条の7第6項),準拠法と日本の強行規定(通則法12条),国外払い給与の確定申告で整理している。

最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決は,船荷証券の管轄約款について,当事者の一方が作成した書面に特定国の裁判所が明示され,合意の存在と内容が明白であれば方式上足りるとした。また,外国裁判所だけを第一審の管轄裁判所とする合意は,日本の専属管轄事件でなく,指定裁判所がその外国法上管轄を有し,合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は格別,原則として有効であるとした。現在は3条の7の明文も踏まえて判断する。

第3 選択権付き条項

複数の候補地から運送人だけが選べる条項であっても,候補が客観的に特定され,いずれも運送契約と合理的関連を有し,運送人が恣意的に全く無関係の裁判所を指定できないなら,直ちに無効になるとは限らない。

東京地方裁判所平成20年9月24日判決(平成19年(ワ)第30011号)は,運送人が船荷証券所定の候補から台湾の裁判所を訴え提起後に選択し,本案前の抗弁として日本の訴えの却下を求めた事案で,その選択を是認して訴えを却下したと紹介されている。ただし,この判決は裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,本記事では公刊資料・専門誌索引による確認である。

第4 選択時期と専属性

訴え提起後の選択を許すと,原告は提訴時にどの国で審理されるかを確定できず,除斥期間又は時効の経過後に外国での再提訴を強いられるおそれがある。そのため,条項の文言に期限がなくても,信義則,権利濫用,予測可能性及び実効的な裁判を受ける機会の観点から,選択時期に限界があるとの議論が成り立つ。

もっとも,前記東京地裁判決は訴え提起後の選択を認めたとされる。個別事件では,候補地の合理性,原告が条項を認識できたか,運送人がいつ選択を通知したか,外国で再提訴できるか,証拠と関係者がどこにあるかを具体的に主張する必要がある。選択権付き条項を一律に有効又は無効と扱うのは適切でない。

第5 出典

①e-Gov法令検索「民事訴訟法」3条の7,3条の9,3条の10。
②最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決(昭和45年(オ)第297号,民集29巻10号1554頁)。
③東京地方裁判所平成20年9月24日判決(平成19年(ワ)第30011号。裁判所ウェブサイト未掲載)。判決の概要は,流通経済大学リポジトリ掲載「物流問題研究58号」及び増田史子「選択権付国際裁判管轄条項」ジュリスト1442号120頁以下で確認した。
④経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の国際裁判管轄合意の整理。

公海上の船舶衝突における国際裁判管轄・準拠法と責任保険の直接請求(AI作成)

目次第1 問題の所在第2 日本の国際裁判管轄第3 公海衝突の準拠法第4 責任保険者への直接請求第5 実務上の確認順序第6 出典と未確定部分

公海上で外国船同士が衝突したときは,「どの国で訴えるか」と「どの国の法を適用するか」を分けて検討する必要がある。さらに,船主の責任保険者に被害者が直接請求できるかは,直接請求権の法性決定を経なければ結論が出ない。本記事は,令和8年10月1日現在の日本法を前提に整理したものである。

第1 問題の所在

公海には領域主権を有する国がない。そのため,陸上の交通事故のように「事故地法」を直ちに選ぶことができない。船舶の旗国,損害船舶が最初に到達した地,船主の本店所在地,当事者の共通常居所地等のうち,どの事実を国際裁判管轄又は準拠法の連結点とするかを区別して考える必要がある。

第2 日本の国際裁判管轄

民事訴訟法3条の3第9号は,船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償請求について,「損害を受けた船舶が最初に到達した地が日本国内にあるとき」に日本の裁判所の管轄権を認める。予定された最初の寄港か,事故後の救難・応急修理のための緊急入港かを問わず,条文上は実際に最初に到達した地が基準になると解するのが自然である。ただし,単なる一時的接触しかなく,日本で審理することが当事者間の衡平又は適正・迅速な審理を著しく害する場合には,同法3条の9の「特別の事情」が別に問題になる。

同じ衝突でも,どの船舶が損害を受けた船舶であるか,誰が誰に請求するかにより,同号の適用関係は変わり得る。被告の主たる事務所等が日本にあるときは同法3条の2による管轄も検討する。

第3 公海衝突の準拠法

不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の結果が発生した地の法による(法の適用に関する通則法17条本文)。しかし,公海上の衝突には領域的な結果発生地法がない。この場合の処理について,通則法には海事不法行為専用の明文規定がない。

学説上は,①各船舶を旗国の領域に準じて扱う,②被害船の旗国法による,③双方の船舶が同一旗国ならその法による,④法廷地法による,⑤通則法20条の「明らかにより密接な関係がある地」の法を探す,といった構成が論じられてきた。双方が同一旗国であれば共通旗国法を基礎にする見解が有力である。他方,異なる旗国の船舶が公海上で衝突した事案について,東京高裁平成29年6月30日決定(平成29年(ラ)第310号,判例タイムズ1446号)は,損害賠償請求権の準拠法を双方の旗国法の累積適用とした。
同決定は保険金請求権への先取特権に基づく差押えをめぐる執行抗告事件で,損害賠償請求権の準拠法は先取特権の成立を判断する前提として論じられたものである。
公海衝突一般について最高裁の統一判断が示されたとまではいえないが,異国籍船の事件で日本の裁判所が審理するというだけで日本法を単独適用する説明は,同決定と整合しない。

準拠法が外国法であるときは,通則法22条による二重の制限も確認する。外国法上は不法でも日本法上不法でない行為について請求はできず,日本法が認める処分を超える請求もできない。

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民事訴訟法248条による損害額の認定―損害発生の立証と相当額認定の実務(AI作成)

目次

第1 民事訴訟法248条の役割
第2 最高裁平成20年6月10日判決

1 採石権侵害と損害額の区分困難
2 最高裁の判断

第3 適用のために分けて立証する事項
第4 原告側の主張立証
第5 被告側の対応
第6 判決・控訴審での確認事項
第7 一次資料

損害が発生したことは認められるのに、侵害行為と適法行為の混在等によって、損害の性質上、金額の厳密な証明が極めて困難な事件があります。この場合に、裁判所が「計算できない」という理由だけで請求を棄却することを避けるための規定が、民事訴訟法248条です。ただし、単に資料をなくしたという事情だけで、当然に本条を適用できるわけではありません。

第1 民事訴訟法248条の役割

民事訴訟法248条は、損害が生じたことが認められる場合に、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき、裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定できると定めています。

この規定は、損害発生の立証を不要にするものでも、裁判所が根拠なく自由な金額を決めることを認めるものでもありません。「損害の発生」と「損害額」を分け、前者を立証した上で、後者について利用可能な資料を可能な限り提出することが出発点です。

加害者が違法行為によって売上げ又は利益を得ている場合、その資料は相当額認定の基礎になり得ますが、民事訴訟法248条が独立の利益吐出し請求権を創設するわけではありません。加害者利益を損害額の推定に用いる特別法上の規定、通常の損害賠償、不当利得及び懲罰的損害賠償の違いは、加害者が得た利益を被害者は請求できるか―利益吐出し型損害賠償・懲罰的損害賠償と日本法で整理しています。

第2 最高裁平成20年6月10日判決
1 採石権侵害と損害額の区分困難

最高裁第三小法廷平成20年6月10日判決・平成18年(受)第265号は、採石業者が、他社による採石行為で採石権を侵害されたとして損害賠償を求めた事案です。

問題となった土地では、和解前には原告が採石権を有していましたが、和解後には被告会社が採石権を取得して採石していました。そのため、和解前の違法な採石量と和解後の適法な採石量とを明確に区別できないという事情がありました。原審は、違法な採石による損害額を算定できないとして、この部分の請求を棄却しました。

2 最高裁の判断

最高裁は、和解前の採石行為により損害が発生したことは明らかであり、違法採石量と適法採石量を明確に区別できず損害額の立証が極めて困難であっても、民事訴訟法248条により相当な損害額を認定しなければならないとしました。損害額を算定できないという理由で請求を棄却した原判決を破棄し、更なる審理のため差し戻しています。

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最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリスト(AI作成)

目次

第1 本記事の目的と結論
第2 破棄判決から原判決を監査する意味
第3 原判決監査チェックリスト
第4 七つの監査ゲート

1 入口―当事者・訴訟要件・手続
2 法的根拠―条文・権限・請求権
3 判断枠組み―要件・考慮要素・裁量密度
4 主要事実―時点・主体・対象・効果
5 証拠評価―経験則・採証法則
6 理由と主文―判断遺脱・理由の食違い
7 救済―破棄自判か破棄差戻しか

第5 代表判例による使い方
第6 上訴方針と証拠計画への落とし込み
第7 このチェックリストの限界
第8 出典及び確認範囲

第1 本記事の目的と結論

本記事は,原判決を受領した後に,入口,法的根拠,判断枠組み,主要事実,証拠評価,理由・主文及び救済という七つの監査ゲートで点検する記事である。その前提となる訴訟追行の失敗を22事例から四段階に整理したものは,最高裁破棄判決とは―22の失敗事例から学ぶ主張・立証・事実認定の実務である。

本記事は,民事事件の判決を受領した弁護士が,控訴・上告等の方針を決める前に,原判決の構造を監査するためのチェックリストである。単に「結論がおかしい」「証拠の評価が納得できない」と考えるだけでなく,最高裁判所が実際に原判決を破棄した理由の型に照らして,誤りの位置を特定することを目的とする。

本記事が扱うのは,原判決の適用法,判断枠組み,主要事実,証拠評価,理由及び主文の誤りを点検する「原判決の実体監査」である。上訴権者・代理権,送達日・期限,理由書の方式,記録編成及び秘匿処理を点検する「上訴手続の提出前監査」は,上告・上告受理申立ての提出前チェックリストで扱う。

監査の順序は,入口 → 法的根拠 → 判断枠組み → 主要事実 → 証拠評価 → 理由・主文 → 救済である。この順序で確認すると,事実評価への不満に先立ち,当事者適格,訴えの利益,適用条文,法的要件,判断の欠落及び主文との整合性を点検できる。

ただし,このチェックリストに該当する項目があるだけで上訴理由又は破棄が認められるわけではない。上告理由,上告受理申立て理由及び控訴理由では審査対象が異なるため,最終的には民事訴訟法312条・318条その他の根拠に対応させる必要がある。

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弁護士のためのカルテの読み方―SOAP・時系列・追記訂正・退院時要約の証拠評価(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と資料の位置付け
第2 診療録の記載義務と証拠評価は別の問題である
第3 SOAPは情報源・所見・評価・計画を分ける道具である
第4 時系列は出来事・認識・入力・追記を分ける
第5 計画・指示・実施・反応・再評価をつなぐ
第6 当時記録と退院時要約等を区別して照合する
第7 追記・訂正・複製記載・ログの確認
第8 記載がないことと実施されなかったことは同じではない
第9 弁護士が作る診療経過表と確認表
第10 出典・調査範囲・限界

カルテ(診療録)は,医療事件の時系列を組み立てる中心資料であるが,記載をそのまま事実認定表へ転記するだけでは足りない。

誰が得た情報か,患者の申告か医療者の観察か,診療当時の評価か後日の要約か,計画された処置か実施済みの処置かを分け,他の記録と照合する必要がある。

この記事は,弁護士が診療録,看護記録,指示記録,投薬記録,検査結果,画像,紹介状及び退院時要約を読む際の実務的な型を整理するものである。個別の診断又は治療の医学的妥当性は,診療時点の医学的知見と専門家の意見を別に確認する必要がある。
第1 この記事の対象と資料の位置付け
この記事の出発点とした佐藤健太『「型」が身につくカルテの書き方』(医学書院,2015年)は,研修医等が診療情報を整理して記載するための臨床実務書である。SOAP,時系列及び診療計画の整理には有用であるが,法令,裁判例又は法的な証拠評価基準そのものではない。

そこで,本記事では,書籍から得られる記録読解の型を,医師法,医師法施行規則,厚生労働省の指針及び裁判所ウェブサイト掲載判決(令和8年9月28日に追加した1件は判例秘書で本文を確認した判決)で照合した。下級審判決は具体的事案に即した判断であり,診療録一般について例外のない証拠法則を示したものとして扱わない。
第2 診療録の記載義務と証拠評価は別の問題である
医師法24条1項は,医師が診察をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないと定める。

医師法施行規則23条は,診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢,病名及び主要症状,治療方法,診療年月日を記載事項とする。医師法24条2項による保存期間は5年であり,病院又は診療所に勤務する医師の診療録はその管理者が,それ以外の診療録は医師が保存する。

もっとも,記載義務があることと,個々の記載内容が常に真実であることは別の問題である。また,記載がないことから,直ちに症状又は診療行為が存在しなかったと断定できるわけでもない。

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民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証(AI作成)

目次

第1 結論と本記事の資料範囲
第2 破棄差戻しと破棄自判の違い

1 破棄差戻し
2 破棄自判

第3 差戻審を拘束する判断

1 民事訴訟法325条3項
2 拘束部分と残存争点を分ける方法
3 新たな口頭弁論の意味

第4 差戻し作業表の作り方
第5 最高裁判例から見る差戻しと自判

1 妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格事件
2 民事再生手続と相殺の事件
3 平成19年の差戻しと自判の対照
4 平成8年の後縦靱帯骨化症事件と誤振込事件
5 令和7年判決の三つの差戻し類型

第6 差戻審の主張立証計画
第7 依頼者への説明
第8 出典及び確認範囲

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医薬品の副作用と因果関係の立証―添付文書・処方歴・薬物動態・PMDA救済制度(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

1 対象
2 結論

第2 最初に分けるべき三つの問題

1 薬が使用されたか
2 その薬が症状を生じさせたか
3 誰がどの義務又は制度上の要件を満たすか

第3 薬理学からみた因果関係の検討順序

1 薬剤を特定する
2 用量だけでなく曝露量を考える
3 薬物動態と患者側の条件を確認する
4 薬力学と具体的機能を結び付ける
5 併用薬・相互作用・代替原因を検討する
6 中止・減量後の変化を慎重に評価する

第4 証拠収集と時系列表

1 受任直後に確保する資料
2 添付文書は当時版と現在版を分ける

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許可抗告理由書の書き方―5日・14日の期限と「法令の解釈に関する重要な事項」(AI作成)

◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 即時抗告・執行抗告・再抗告・特別抗告・許可抗告の期限,理由書期限及び執行停止(AIリライト)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

目次

第1 結論――5日と14日を分け,重要な法令解釈事項を示す
第2 許可抗告の仕組み

1 高等裁判所の許可が必要であること
2 特別抗告及び上告受理申立てとの違い

第3 期限管理――申立ては5日,理由書は通知書送達後14日

1 5日の不変期間
2 理由書の14日
3 受任直後の実務

第4 申立て前の4段階フィルター
第5 許可抗告理由書の組立て
第6 許可に結び付きにくい主張
第7 令和6年度の3決定から学ぶこと

1 取調べ録音・録画記録媒体
2 文化功労者年金
3 医療法人の社員総会招集

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交通事故の債務不存在確認訴訟―症状固定前の提訴と被害者側の対応(AI作成)

目次第1 結論の要旨第2 債務不存在確認訴訟とは1 加害者側から提起する訴訟2 確認の利益第3 確認の利益に関する裁判例1 東京高裁平成4年7月29日判決2 東京地裁平成9年7月24日中間判決3 東京高裁平成23年8月4日判決4 東京高裁平成28年11月2日判決第4 症状固定前に提訴された場合第5 被害者側の対応1 原告と訴訟物を確認する2 症状経過と医療資料を整理する3 反訴その他の手続選択第6 加害者側が提訴前に確認すること第7 出典
第1 結論の要旨

交通事故の加害者又は保険会社から被害者に対して、損害賠償債務が存在しないこと又は一定額を超えて存在しないことの確認を求める訴訟が提起されることがある。これを債務不存在確認訴訟という。
責任の有無又は損害額について現実の争いがあり、訴訟外の交渉では解決していない場合には、加害者側にも法律関係の不安定を解消する利益があるため、原則として確認の利益が認められる。もっとも、損害が流動的・未確定の段階での提訴、加害者側の著しく不誠実な交渉態度又は専ら被害者を困惑させる目的による提訴等では、確認の利益が否定される余地がある。

症状固定前の提訴であるという一事だけで、直ちに訴えが却下されるわけではない。東京高裁平成4年7月29日判決は、症状が固定していない場合には確認の必要性が問題となり得る一方、加害者側が被害者の言い分を正確に把握できず、訴訟で損害を確定する必要がある場合もあるとした。東京高裁平成28年11月2日判決は、症状固定の有無について原告に主張立証の機会を与えないまま訴えを却下した原判決を、審理不尽として取り消した。
被害者側では、誰が、どの債務の不存在確認を求めているかを最初に確認し、症状経過、通院、検査予定及び事故との因果関係を医療資料に基づいて整理する必要がある。

第2 債務不存在確認訴訟とは
1 加害者側から提起する訴訟

通常の交通事故訴訟では、被害者が原告となり、加害者等に損害賠償を請求する。債務不存在確認訴訟では、立場が逆になり、加害者側が原告となって、被害者に対する損害賠償債務が存在しないこと又は一定額を超えて存在しないことの確認を求める。
被害者が訴訟を提起しないまま多額の請求を維持している場合等に、加害者側が法律関係を確定させるために利用するものである。

2 確認の利益

確認の訴えが適法であるためには、判決によって現在の権利又は法律関係の不安定を除去する必要性・実効性がなければならない。交通事故の債務不存在確認訴訟では、被害者が当該債権を主張しているか、責任又は損害額に現実の争いがあるか、判決によって紛争を抜本的に解決できるかが問題となる。
確認の利益は、提訴時だけでなく、口頭弁論終結時の状態で判断される。被害者が反訴として損害賠償を請求した場合、債務不存在確認請求がどの範囲でなお必要かも整理される。

第3 確認の利益に関する裁判例
裁判例事案判断の要点東京高裁平成4年7月29日人身事故。被害者欠席の第1回口頭弁論で原審が訴えを却下責任・損害額に争いがあれば原則として確認の利益を肯定。必要な釈明・審理をせず却下した原判決を取消し東京地裁平成9年7月24日物損事故。休車損害額の交渉が1年以上続いたが合意できず原則肯定。ただし損害未確定、不誠実な交渉、困惑目的等で権利濫用となる場合は不適法となり得る東京高裁平成23年8月4日自賠責保険会社が被害者に直接請求権に基づく債務の不存在確認を請求被害者が保険会社に対する当該債権を主張していないため確認の利益を否定東京高裁平成28年11月2日被害者が脳脊髄液減少症の検査予定を主張。原審が送付嘱託を却下して訴えを却下症状固定等を主張立証する機会を原告に与えず却下したのは審理不尽として原判決を取消し、差戻し
1 東京高裁平成4年7月29日判決

東京高裁平成4年7月29日判決(平成4年(ネ)第1316号、判例タイムズ809号215頁、判例秘書L04720249)は、交通事故による責任の有無、損害額及び過失割合等に争いがあり、訴訟外で解決の見込みがない場合には、被害者が訴訟を提起しないことによる法律関係の不安定を除去するため、加害者側から債務不存在確認を求めることが許されるとした。
他方、症状が未固定で損害が拡大する余地がある場合、被害者から何ら請求されていない場合又は誠意ある協議が続いている場合には、確認の必要性・利益が問題となり得るとも述べた。ただし、それらの事情があれば直ちに確認の利益を否定するのではなく、当事者に主張立証の機会を与えて審理する必要があるとした。

2 東京地裁平成9年7月24日中間判決

東京地裁平成9年7月24日中間判決(平成8年(ワ)第643号、判例タイムズ958号241頁、判例秘書L05230238)は、物損事故の休車損害額について1年以上交渉しても双方の主張に隔たりが残った事案で、確認の利益を肯定した。
同判決は、責任又は損害額に争いがあれば特段の事情がない限り確認の訴えを許す一方、①被害が流動的・未確定の時期の提訴、②加害者側の著しく不誠実な交渉態度により訴訟外解決ができなかった場合、③専ら被害者を困惑させる動機による提訴等で権利濫用となる場合には、確認の利益を否定し得ると整理した。

3 東京高裁平成23年8月4日判決

東京高裁平成23年8月4日判決(平成23年(ネ)第3128号・第4581号、交通民集44巻4号851頁、判例秘書L06620757)は、自賠責保険会社が被害者に対し、自賠法16条1項の直接請求権に基づく支払債務が存在しないことの確認を求めた事案である。
同判決は、債務不存在確認訴訟には、被告が当該債権の存在を主張していることが必要であり、債権の要件事実の一つに争いがあるだけでは足りないとした。被害者は保険会社に対する当該直接請求権があるとは主張していなかったため、確認の利益がないとされた。
加害者本人の損害賠償債務と、自賠責保険会社に対する直接請求権は別の権利関係であるから、「誰が原告で、どの債務の不存在確認を求めているか」を区別する必要がある。

4 東京高裁平成28年11月2日判決

東京高裁平成28年11月2日判決(平成28年(ネ)第3199号、自保ジャーナル1990号62頁、判例秘書L07120895)は、被害者が脳脊髄液減少症の可能性を指摘され、専門医の検査を予定していると主張した事案である。
原審は、加害者側が申し立てた診療記録の送付嘱託を却下し、2回の口頭弁論で審理を終結して、確認の利益を欠くとして訴えを却下した。東京高裁は、既に治癒又は症状固定を一応推認させる証拠が提出されており、加害者側には、医療記録等に基づき、事故による脳脊髄液減少症の発症可能性がないことを主張立証する余地があったとして、主張立証の機会を与えないまま却下したのは審理不尽であると判断した。

第4 症状固定前に提訴された場合

症状固定は、治療を続けても症状の改善が見込みにくく、損害を算定する基礎となる状態が定まった時点をいう。症状固定前には、治療費、休業損害、通院慰謝料及び後遺障害の有無・程度が確定していないため、一度の判決で紛争を解決できるかが問題になる。

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双方連続不出頭による訴え取下げ擬制-民訴法263条後段と期日の延期(最高裁令和5年9月27日決定)

◯本記事はAIを利用して作成し,裁判所が公表する決定全文及び現行の民事訴訟法を確認して手直ししたものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 令和5年度最高裁民事破棄判決等の実情-19判決・8決定の一覧と代表判例(AI作成)

目次

第1 問題の所在
第2 民訴法263条の仕組み
第3 最高裁令和5年9月27日決定

1 事案の経過
2 原審の判断
3 最高裁の判断

第4 決定の射程
第5 訴訟代理人の提出前・期日前チェック
第6 まとめ
第7 出典と確認範囲

第1 問題の所在
当事者双方が口頭弁論又は弁論準備手続の期日に連続して出頭しなかった場合,民事訴訟法263条後段により,訴えの取下げがあったものとみなされることがあります。

では,2回目の期日に裁判所が審理継続の必要があるとして期日を延期し,新たな期日を指定した場合はどうなるのでしょうか。最高裁判所令和5年9月27日第三小法廷決定(令和4年(許)第21号)は,期日の延期・続行措置がとられたというだけで同条後段の適用が当然に排除されるわけではないことを示しました。

(続きを読む...)双方連続不出頭による訴え取下げ擬制-民訴法263条後段と期日の延期(最高裁令和5年9月27日決定)

民事訴訟の当事者が死亡したとき―訴訟手続の中断・受継,訴訟代理人がいる場合,中断中の判決と控訴期間(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断1 中断と受継の条文2 中断は法律上当然に生じる3 相続の対象にならない権利と人事訴訟第3 訴訟代理人がいる場合1 中断しない2 訴訟代理人は承継人の代理人になる3 中断しない理由と例外4 上訴には特別の委任が要る5 上訴の特別の委任もある場合第4 受継の手続1 相続の放棄をすることができる間は受け継げない2 受継の申立てと裁判所の調査3 相続放棄と受継決定の当否4 判決の送達後に中断した場合第5 中断中の判決と控訴期間1 中断中は期間が止まる2 判決の言渡しは中断中でもできる3 中断を見落としてされた判決4 死亡を知ったときに確かめること第6 関連記事第7 出典・参考資料1 裁判例2 法令3 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,民事訴訟の係属中に原告又は被告が死亡した場合に,訴訟手続がどうなるかを整理する。
具体的には,訴訟手続の中断と受継,訴訟代理人がいる場合の扱い,相続の放棄との関係,中断中の判決と控訴期間,中断を見落としてされた判決の是正方法を扱う。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し(同サイトに掲載のない高等裁判所の判決は判例秘書で確認した。),判例秘書で判決の本文を読んだものに限って紹介している(範囲は第7の3のとおり)。

2 結論

①訴訟代理人がいない当事者が死亡すると,訴訟手続は法律上当然に中断し,相続人等が訴訟手続を受け継ぐ(民事訴訟法124条1項1号)。
②訴訟代理人がいる間は,当事者が死亡しても訴訟手続は中断せず(同条2項),訴訟代理人は,その審級では相続人等の訴訟代理人として訴訟を続ける。
訴訟代理人が上訴の特別の委任も受けていた事案で,判決の送達後も訴訟手続は中断せず,控訴期間の経過で判決が確定したと認定した上で,その判決の既判力が相続人に及ぶとした高等裁判所の判決がある。
③相続人は,相続の放棄をすることができる間は,訴訟手続を受け継ぐことができない(同条3項)。
④受継の申立ては相手方もすることができ,裁判所は,申立てに理由があるかを職権で調べる。
⑤中断中は,控訴期間を含む期間の進行が止まり,受継の通知又は続行の時から新たに全期間が進行する(同法132条2項)。
⑥判決の言渡しは中断中でもすることができる(同条1項)が,中断を見落として口頭弁論期日を開き,弁論を終結して判決を言い渡すことは法令違反であり,最高裁判所は,旧民事訴訟法の下で,上告審でそのような判決を破棄している。
⑦離婚訴訟のような人事訴訟(人事訴訟法27条)や,未支給年金の支払を求める訴訟(第2の3)のように,当事者の死亡によって訴訟そのものが終了する場合がある。

第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断
1 中断と受継の条文

民事訴訟法124条1項は,各号の事由があるときは訴訟手続は中断し,各号に定める者が訴訟手続を受け継がなければならないと定める。
当事者の死亡について,同項1号は,受け継ぐべき者を「相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人その他法令により訴訟を続行すべき者」としている。
中断の間に口頭弁論期日を開いて手続を進めることは,法令違反となる(第5の3)。

2 中断は法律上当然に生じる

中断は,裁判所の決定を待たずに生じる。
最高裁判所第三小法廷平成19年3月27日判決(第7の1①)は,外国国家の代表権の消滅による中断について,「訴訟手続の中断は,中断事由の存在によって法律上当然に生ずるもの」であると述べている。
そのため,裁判所や相手方が死亡を知らないまま手続が進むと,後で手続のやり直しが必要になることがある(第5の3)。

3 相続の対象にならない権利と人事訴訟

相続人は,相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するが,被相続人の一身に専属したものは承継しない(民法896条)。
訴訟の対象が相続される権利義務であれば,相続人が訴訟手続を受け継ぐことになる。

最高裁判所第三小法廷平成7年11月7日判決(第7の1⑤)は,昭和60年改正前の国民年金法に基づく年金の受給資格を有する者が国に対して未支給年金の支払を求める訴訟の係属中に死亡し,その子が訴訟手続の受継を申し立てた事案である。
同判決は,未支給年金の請求は相続とは別の立場から一定の遺族に認められたものであり,遺族は社会保険庁長官に対する支給請求とこれに対する処分を経ないで訴訟上未支給年金を請求することはできないとして,原告の地位の当然承継を認めなかった。

(続きを読む...)民事訴訟の当事者が死亡したとき―訴訟手続の中断・受継,訴訟代理人がいる場合,中断中の判決と控訴期間(AI作成)

民事裁判で公開されない手続と公開停止―弁論準備手続の傍聴,裁判所外の尋問,当事者尋問等の公開停止及び記録の閲覧制限(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 公開が求められる範囲1 憲法82条と民事訴訟法2 公開が求められるのは純然たる訴訟事件の裁判第3 口頭弁論の公開停止1 憲法82条2項と裁判所法70条2 公開を禁止した口頭弁論の記録3 ウェブ会議による口頭弁論と公開第4 当事者尋問等の公開停止1 人事訴訟法22条2 特許法105条の7等3 最高裁判所の補足意見と文献4 秘密保持命令との違い第5 口頭弁論以外の手続1 弁論準備手続2 書面による準備手続3 進行協議期日4 和解5 裁判所外の証拠調べと受命裁判官等による尋問6 文書提出命令のインカメラ手続7 決定で完結すべき事件第6 家事事件と非訟事件第7 公開の法廷で行う尋問での保護の措置第8 記録の閲覧制限との違い第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国会会議録4 参考文献5 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,民事裁判のうち,公開の法廷で行われない手続と,公開の法廷で行う審理を例外的に公開しない制度(公開停止)を整理する。
依頼者から「裁判は誰でも傍聴できるのか」「家族や会社の担当者は期日に同席できるのか」「私生活上の秘密や営業秘密を公開の法廷で話さなければならないのか」と尋ねられたときに確認すべき条文と判例をまとめている。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,最高裁判所規則は裁判所ウェブサイトに掲載された条文で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書で判決・決定の全文を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①憲法82条1項は,裁判の対審及び判決を公開法廷で行うと定め,民事訴訟法は,訴訟について裁判所で口頭弁論をしなければならないとし(87条1項本文),口頭弁論の公開の規定に違反したことを上告の理由としている(312条2項5号)。
②最高裁判所の大法廷は,憲法82条にいう裁判は,当事者の主張する実体的権利義務の存否を終局的に確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判のみを指すとしている。
③口頭弁論の対審は,裁判官の全員一致で公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には公開しないで行うことができるが,判決を言い渡すときは再び公衆を入廷させなければならない。
ウェブ会議による口頭弁論についても,裁判官が所在する法廷を公開して行うとの国会答弁がある。
④人事訴訟,特許権・実用新案権・育成者権の侵害に係る訴訟並びに不正競争防止法及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律の不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟には,私生活上の重大な秘密又は営業秘密に係る事項の尋問を公開しないで行う制度(当事者尋問等の公開停止)がある。
法務大臣は,人事訴訟法案の審議で,人事訴訟において裁判の公開を困難とする真にやむを得ない事情があるなどの例外的な場合には,「公の秩序を害する虞がある」ものとして憲法上も公開停止が許容されると答弁している。
⑤弁論準備手続は,当事者双方が立ち会うことができる期日で行われ,第三者の傍聴は裁判所が許した場合に限られるが,当事者が申し出た者は,手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認められる場合を除いて傍聴を許される。
⑥書面による準備手続は当事者の出頭なしに書面の提出等で争点等を整理する手続であり,進行協議期日(民事訴訟規則95条)も口頭弁論の期日外に行われ,裁判所外の証拠調べや受命裁判官等による尋問は裁判所外で行われ,文書提出命令のインカメラ手続で提示された文書は何人も開示を求めることができない。
最高裁判所は,情報公開訴訟において本案の判断のための証拠調べとしてインカメラ審理を行うことは,明文の規定がない限り許されないとしている。
⑦決定で完結すべき事件では,口頭弁論をするか否かを裁判所が定め,家事事件と非訟事件の手続は法律上公開しないとされている。
⑧期日を公開しないことと訴訟記録の閲覧を制限することは別の制度であり,公開の法廷で審理された事件でも,秘密保護のための閲覧等の制限により,秘密が記載された部分の閲覧等を請求できる者が当事者に限られることがある。

初めて裁判所へ行く場合は,次の区別を出発点として,本記事の各条文と例外を確認されたい。予定の調べ方や傍聴券等の実際の準備は,裁判所の傍聴方法で説明している。以下の整理に関係する民事訴訟法169条2項及び家事事件手続法33条は,令和8年10月11日に現行条文を確認した。

手続一般傍聴の基本的な扱い民事の口頭弁論・判決公開が原則。公開停止や期日の種類を確認する。弁論準備手続一般に自由傍聴できる手続ではない。裁判所の許可と当事者が申し出た者の取扱いを確認する。家事調停・審判非公開。裁判所が相当と認める者に傍聴を許す制度は別にある。事件記録の閲覧・謄写期日の傍聴とは別の制度。記録の種類,申請者及び閲覧制限を確認する。
第2 公開が求められる範囲
1 憲法82条と民事訴訟法

憲法82条1項は,「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と定める。
民事訴訟法は,当事者は訴訟について裁判所において口頭弁論をしなければならないとし(87条1項本文),口頭弁論の公開の規定に違反したことを上告の理由の一つとしている(312条2項5号)。
このため,公開が問題となる中心は口頭弁論と判決の言渡しである。

最高裁判所大法廷平成元年3月8日判決(レペタ事件)は,憲法82条1項の趣旨を「裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある」とした。
同判決は,同項が「各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより」,傍聴人がメモを取ることを権利として保障するものでもないとしている。
同判決は,裁判の公開を,傍聴人の個別の権利としてではなく,制度として保障されるものと位置付けている。

2 公開が求められるのは純然たる訴訟事件の裁判

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電子署名法3条の推定とは―民事訴訟法228条4項との関係,立会人型電子署名のQ&A及び立証の実務(AI作成)

目次第1 本記事の対象と基準日1 対象2 基準日と資料第2 条文の構造1 電子署名法3条の文言2 「電子署名」の定義3 民事訴訟法228条4項との対応第3 3条の推定が働くための要件1 3条Q&Aが示す2つの要件2 固有性の要件3 本人の意思に基づくこと第4 立会人型の電子契約サービスの位置付け1 どのようなサービスか2 2条の電子署名に当たるための条件3 3条の電子署名に当たるための条件4 「符号及び物件」の適正な管理第5 訴訟で成立の真正が争われたときの立証1 利用者と作成名義人の同一性2 身元確認の水準とサービスの選択3 推定以外の立証手段4 実務上の留意点5 契約成立日,文書の真正及び権限を区別する第6 認定認証業務との関係第7 出典1 法令2 公的資料3 文献4 裁判例
第1 本記事の対象と基準日
1 対象

本記事は,電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)3条が定める電磁的記録の真正な成立の推定について,条文の構造,民事訴訟法228条4項との関係,いわゆる立会人型(事業者署名型)の電子契約サービスに関する政府のQ&A,及び訴訟で成立の真正が争われたときの立証の考え方を整理するものである。
紙の契約書では,本人の署名又は押印があれば文書が真正に成立したものと推定されるが,電子契約では,どのような電子署名があれば同じような推定が働くのかが問題になる。

2 基準日と資料

本記事の調査基準日は令和8年9月26日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で同日に確認した。
令和8年10月3日に,契約成立日を扱った東京地裁令和8年1月20日判決を判例秘書で追加確認し,第5に契約成立・文書の真正・権限の区別を追記した。
電子契約サービスについては,総務省・法務省・経済産業省が令和2年9月4日に公表し,デジタル庁・法務省が令和6年1月9日に一部改定した「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(以下「3条Q&A」という。)の原文による。
電子署名法3条の推定の成否を判断した裁判例は,令和8年9月28日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認した範囲では見当たらなかった。
メールアドレス認証による電子署名がされた契約書について,判例秘書で本文を確認した東京地方裁判所令和7年7月28日判決(令和5年(ワ)第30803号)は,名義人本人がそのメールアドレスを使って署名したかという事実を認定して,主たる債務者側と連帯保証人とで結論を分けている。
この判決と,保証人に電子署名をしてもらうときの実務は,電子契約で保証人に署名してもらうときの注意点で扱っている。

第2 条文の構造
1 電子署名法3条の文言

電子署名法3条は,「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
推定の対象は,公務員が職務上作成したものを除く電磁的記録であり,推定が働くための前提は,本人による電子署名であって,本人だけが行うことができることとなるものが行われていることである。

2 「電子署名」の定義

電子署名法2条1項は,「電子署名」を,電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって,「当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。」及び「当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。」の2つの要件のいずれにも該当するものと定義している。
3条の電子署名は,この2条1項の電子署名に当たることを前提に,さらに「本人だけが行うことができることとなるもの」に限定されている。
電子署名法1条は,同法の目的として,電子署名に関し,電磁的記録の真正な成立の推定,特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めることを掲げている。

3 民事訴訟法228条4項との対応

民事訴訟法228条1項は,「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と定め,同条4項は,「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
電子署名法の法律案を内閣法制局第四部長として審査した山本庸幸元内閣法制局長官は,回想録の中で,同法3条を民事訴訟法228条4項のいわばデジタル版として置いたと説明している(山本庸幸『元内閣法制局長官・元最高裁判所判事回想録』(弘文堂,令和6年)265頁~266頁)。
押印された私文書について,印影が本人の印章によるものであれば本人の意思に基づく押印と事実上推定され,その上で228条4項の推定が働くという「二段の推定」については,二段の推定とはで扱っている。

令和8年5月21日に施行された民事訴訟法231条の3第1項は,電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べ(同法231条の2)について,「第二百二十条から第二百二十八条まで(同条第四項を除く。)」の規定を準用するとしている。
したがって,電子契約のデータを電磁的記録として証拠調べする場合には,228条4項の推定は準用されず,電子署名法3条の推定が働くかどうかと,民事訴訟法247条による自由な心証での判断が問題になる。

第3 3条の推定が働くための要件
1 3条Q&Aが示す2つの要件

3条Q&A問1は,電子署名法3条の規定が適用されるためには,次の2つの要件が満たされる必要があるとしている。
①電子文書に電子署名法3条に規定する電子署名が付されていること。

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上告不受理決定は原判決を正しいと認めたことになるか―受理の判断要素,軽審議及び反対意見付きの不受理(AI作成)

目次第1 本記事の概要1 結論2 資料と基準日第2 上告受理申立て制度の仕組み1 上告と上告受理申立ての違い2 申立ての期間と理由書3 上告審の調査範囲第3 最高裁判所の審理の流れ1 約95%は持ち回り審議で処理される2 第三小法廷の軽審議3 期日審議第4 受理・不受理の判断要素1 条文上の要件2 宇賀氏が挙げる七つの判断要素3 判断の機が熟していないことを理由とする不受理4 経験則違反・採証法則違反による受理第5 不受理決定の意味と読み方1 不受理決定は原審判断を是認したものではない2 不受理決定に反対意見を付けることをめぐる議論3 反対意見付きの不受理の件数と令和3年の表記変更第6 受理決定と論旨の排除・職権調査1 受理決定での論旨の一部排除2 申立て理由に書かれていない誤りは取り上げられない3 職権調査事項は申立て理由に拘束されない4 条約違反の主張の扱い第7 口頭弁論期日の指定の意味1 口頭弁論が開かれる場合2 棄却見込みでも弁論を開く運用3 期日指定後の和解・取下げ第8 代理人・当事者の実務上の留意点1 理由書では七つの判断要素に即して重要性を示す2 拾ってほしい誤りはすべて論旨にする3 依頼者への説明第9 出典1 法令2 裁判例3 文献第10 関連記事
第1 本記事の概要
1 結論

上告不受理決定は,最高裁判所が原判決の判断を正しいと認めたことを意味するものではない。
不受理決定は,上告受理の申立ての理由に「法令の解釈に関する重要な事項」を含むとは認められないとして,最高裁判所が事件に介入しないことを示すものにとどまる。
宇賀克也最高裁判所判事(当時。令和7年7月定年退官)も,著書で,原審の判断に問題があると考えつつ介入するほどではないとして不受理とされることや,判断の機が熟していないことを理由に不受理とされることがあると説明している(宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)35頁~36頁)。

本記事は,上告受理の申立てをした当事者,申立てを受けた相手方及びその代理人を読者として想定し,①上告受理申立て制度の条文上の仕組み,②最高裁判所の内部での審理の流れ,③受理・不受理の判断要素,④不受理決定の意味と反対意見付きの不受理,⑤受理決定での論旨の排除と職権調査,⑥口頭弁論期日の指定の意味,⑦依頼者への説明を含む実務上の留意点を順に説明する。
本記事は,AIを用いて作成したものである。

2 資料と基準日

条文は,令和8年9月25日にe-Gov法令検索で確認した民事訴訟法及び裁判所法の現行条文による。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し,判決文は同サイト掲載の全文PDFから引用した。

最高裁判所の内部の運用については,宇賀氏の前掲書に依拠する。
同氏は,平成31年3月に最高裁判所判事に就任し,令和7年7月に定年退官するまで第三小法廷に所属していた(宇賀・前掲2頁,10頁)。
内部の運用は公的資料では裏付けられないため,本記事では,本書に依拠する部分を「宇賀氏は……と述べている」などの形で示し,条文や判決文から確認できる事項と区別する。
本書が説明する運用は,著者の在任期間中のもの,特に第三小法廷のものであり,他の小法廷や現在の運用が同じであるとは限らない。

第2 上告受理申立て制度の仕組み
1 上告と上告受理申立ての違い
(1) 上告の理由は憲法違反と絶対的上告理由に限られる

高等裁判所の判決に対して最高裁判所に不服を申し立てる方法には,上告と上告受理の申立ての二つがある。
民事訴訟法312条1項は,「上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。」と定める。
同条2項は,判決裁判所の構成の違法,代理権の欠缺,判決の理由不備・理由の食違い等の事由(いわゆる絶対的上告理由)を掲げる。
最高裁判所への上告では,単なる法令違反は上告の理由にならない。

(2) 上告受理は最高裁判所の裁量による

上告受理申立ては,すべての法令違反を審査させる制度ではない。判例相反その他の法令解釈に関する重要な事項を含む事件について,最高裁判所に受理を求める制度である。
民事訴訟法318条1項は,「上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。」と定める。
同条2項は,上告受理の申立てにおいては「第三百十二条第一項及び第二項に規定する事由を理由とすることができない。」と定めており,憲法違反・絶対的上告理由は上告で主張し,それ以外の法令違反は,判例相反又は法令解釈上の重要性を備える場合に上告受理申立ての対象となる。
条文は「受理することができる」と定めており,受理するかどうかは最高裁判所の判断に委ねられている。
宇賀氏も,受理のハードルは高く,大半の申立ては不受理になると述べている(宇賀・前掲32頁)。

2 申立ての期間と理由書
(1) 申立ては2週間の不変期間内にする

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訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備え(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 訴訟告知の要件と方式1 誰が誰に告知できるか2 告知書の記載3 告知の時期第3 告知の効力―参加的効力1 条文2 既判力とは異なる効力3 効力が及ぶ理由中の判断の範囲4 法律上の利害関係がなければ効力は生じない5 効力が及ばない場合(46条各号)6 既判力と参加的効力の比較第4 効力はどちらの向きに働くか第5 訴訟告知を検討する場面1 敗訴すると第三者へ請求することになる場合2 共同被告との関係3 告知だけでは相手に対する債務名義にならない第6 法律が訴訟告知を義務付けている場面第7 訴訟告知を受けた側の対応第8 告知書を出す前の確認事項第9 本記事で扱わなかった事項第10 関連記事第11 出典
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,民事訴訟の当事者が,訴訟の係属中に第三者へ訴訟告知をするのはどのような場合か,告知をするとどのような効力が生じるかを扱う。
典型は,敗訴した場合に第三者へ求償又は損害賠償を請求することになる当事者が,後の訴訟で同じ事実を一から争われないようにするために告知をする場面である。

当初の調査基準日は令和8年9月25日であり,第4の援用の方向について令和8年10月4日に公開資料に基づく修正をした。
条文はe-Gov法令検索の現行条文を,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で全文を確認した最高裁判例を用いた。
前の訴訟の判決を後の訴訟でどう使うか(既判力,裁判上の自白及び証拠価値)は別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるかで,補助参加の具体例は遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加で扱っている。

2 結論

①訴訟告知は,当事者が,訴訟の係属中に,その訴訟に参加することができる第三者に対してするものであり,理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してする(民事訴訟法53条1項・3項)。
②告知を受けた者が参加しなかった場合も,参加することができた時に参加したものとみなされ,補助参加人に対する裁判の効力を受ける(同法53条4項,46条)。
③この効力は既判力ではなく,判決の確定後に,補助参加人(告知を受けた者)が被参加人(告知をした者)に対して,その判決が不当であると主張することを禁ずる効力である。
判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の判断にも及ぶ(最高裁昭和45年10月22日判決)。
④もっとも,効力が及ぶ理由中の判断は,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限られ,傍論には及ばない。
また,告知を受けた者が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合でなければ,効力は生じない(最高裁平成14年1月22日判決)。
⑤既判力は当事者等の間に生じるもので(同法115条1項),同じ原告から訴えられた共同被告どうしの間には当然には生じない。
後で求償や損害賠償を請求する相手との関係は,前の訴訟の段階で手当てを考える必要がある。
⑥債権者代位訴訟,詐害行為取消訴訟及び株主代表訴訟では,法律が訴訟告知を義務付けている(民法423条の6,424条の7第2項,会社法849条4項)。

第2 訴訟告知の要件と方式
1 誰が誰に告知できるか

民事訴訟法53条1項は,「当事者は、訴訟の係属中、参加することができる第三者にその訴訟の告知をすることができる。」と定める。
告知をするのは訴訟の当事者であり,告知を受けるのは,その訴訟に参加することができる第三者である。
訴訟告知を受けた者は,更に訴訟告知をすることができる(同条2項)。

「参加することができる第三者」の中心は,補助参加をすることができる者である。
補助参加は,「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」が,当事者の一方を補助するためにする参加である(同法42条)。
最高裁平成14年1月22日判決は,ここにいう法律上の利害関係を有する場合とは,「当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合」をいうとしている(同判決は最高裁平成13年1月30日決定を参照している。)。
単に事実上又は経済上の影響を受けるというだけでは足りない。

2 告知書の記載

訴訟告知は,その理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してしなければならない(民事訴訟法53条3項)。
「理由」には,告知を受ける者がなぜその訴訟に参加することができるのか,すなわち,その訴訟の判決が告知を受ける者のどの法的地位に影響するのかを具体的に書く。

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請求の追加・変更で裁判上の自白はどうなるか―主要事実・間接事実・不利益要件・自白の撤回(AI作成)

目次第1 結論第2 裁判上の自白の対象と効果第3 請求の追加・変更で事実の役割が変わる第4 先行自白と不利益要件第5 自白の撤回が許される場合第6 実務上の主張整理第7 出典と調査範囲

第1 結論

ある事実を認めた時点では請求原因と直接関係しない間接事実であっても、その後に請求が追加又は変更されると、新しい請求の主要事実になることがある。この場合、以前の陳述が新しい請求との関係でも裁判上の自白として拘束力を持つかが問題となる。

結論を出すには、①いつ、どの手続で、どの文言を陳述したか、②陳述時と請求追加後の各訴訟物・要件事実、③相手方がその陳述を援用したか、④裁判上の自白に「陳述時に自己に不利益であること」を必要とするか、⑤相手方が証明不要との信頼を形成したか、⑥撤回原因があるかを順に確認する。

単に「一度認めたから撤回できない」とも、「当時は間接事実だったから自由に撤回できる」とも即断できない。事実の同一性、陳述の訴訟上の意味及び相手方の手続的信頼を具体的に分析する必要がある。

第2 裁判上の自白の対象と効果

民事訴訟法179条は、裁判所において当事者が自白した事実は証明を要しないと定めている。一般に、裁判上の自白が成立すると、相手方はその事実を証明する必要がなくなり、裁判所も当事者間に争いのない主要事実として扱う。

対象は具体的な事実である。法律関係の存否、法的評価、証拠の信用性に関する意見又は単なる抽象的評価は、それ自体として自白の対象にならない。陳述を切り取らず、準備書面の前後、認否の対象となった相手方の主張、期日調書及び釈明応答を併せて読む。

また、主要事実についての自白と、間接事実又は補助事実を認める陳述は区別される。間接事実についての陳述は証拠評価を拘束しないのが原則であるが、後に訴訟構造が変われば、同一の具体的事実が新請求の要件事実になることがある。

第3 請求の追加・変更で事実の役割が変わる
1 陳述時の位置付け

まず、従前の請求について訴訟物と要件事実を特定し、問題の事実が主要事実、間接事実又は背景事情のいずれであったかを確認する。答弁書で「認める」と記載されていても、何を認めたのかが抽象的であれば、自白の対象となる具体的事実を特定できない場合がある。

2 請求追加後の位置付け

次に、追加された請求の法律要件を分解し、以前に認めた事実がどの要件を基礎付けるかを示す。例えば、当初は契約上の請求だけが審理されていたところ、後に不法行為請求が追加されると、行為主体、故意・過失又は因果関係に関する事実の重要性が変わり得る。

3 事実の同一性

以前の陳述と相手方が新請求で援用する事実が本当に同一かを確認する。「関与した」「了承した」「受領した」などの表現は、時期、対象、行為態様及び認識内容を欠くことがある。新請求の要件事実として必要な具体性を備えなければ、以前の抽象的陳述をそのまま自白とすることはできない。

4 請求追加の時点

請求追加前に陳述が撤回されたか、相手方が援用する前か後か、裁判所が争いのない事実として整理したかを時系列で確認する。請求追加と同時に認否を整理し直す機会が与えられたかも重要である。

第4 先行自白と不利益要件

相手方が主張する前に、自らある事実を陳述し、後に相手方がこれを援用する場合は先行自白が問題となる。裁判上の自白を「相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述」と捉える見解では、後の援用によって自白が成立し得る。

他方、裁判上の自白を「相手方の主張する不利益事実を争わない旨の陳述」と捉える見解では、陳述時に自己に不利益な事実として認識されず、争う対象にもなっていなかった場合に、自白の成立を否定する余地がある。

請求の追加によって初めて不利益性が生じた場合、前者は事実の同一性と相手方の援用を重視し、後者は陳述時の争点と不利益性の認識を重視することになる。どちらの立場でも、相手方が証明活動を省略したか、争点整理で争いのない事実として扱われたかは、撤回制限の根拠を考える上で重要である。

裁判所公開裁判例の中には、抽象的な「保育への関与」が過失を基礎付ける具体性を欠く間接事実にとどまり、撤回前に相手方が援用していなかったことから、自白の成立を否定した下級審判決がある。これは事案判断であり、請求追加により事実の法的役割が変わる全場面を一律に解決するものではない。

第5 自白の撤回が許される場合

司法研修所の教材は、要件事実について成立した自白の撤回が許される場合として、①相手方の同意があるとき、②自白の内容が真実に反し、かつ錯誤によってされたとき、③刑事上罰すべき他人の行為によって自白したときを挙げている。

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争点整理後に新しい主張・証拠が出た場合―民事訴訟法157条・167条と却下申立て(AI作成)

目次

第1 結論
第2 時機に後れた攻撃防御方法の三要件
第3 「時機に後れた提出」を時系列で示す
第4 故意又は重大な過失
第5 訴訟完結の遅延を具体化する
第6 理由説明要求と提出期限徒過の説明
第7 却下申立ての書き方
第8 新主張・証拠を提出する側の対応
第9 実務チェックリスト
第10 関連記事
第11 出典と調査範囲

第1 結論

争点整理後又は口頭弁論終結に近い時期に,新しい主張・証拠が出たというだけで,当然に却下されるわけではない。民事訴訟法157条1項による却下には,①時機に後れて提出したこと,②提出者に故意又は重大な過失があること,③その提出により訴訟の完結が遅延することが必要である。

相手方としては,「もっと早く出せたはずだ」と抽象的に述べるのではなく,入手時期,従前の釈明・争点整理,提出予告,必要となる反論・反証,再尋問又は追加鑑定及び予定していた審理終結への影響を一つの時系列で示す。

準備的口頭弁論又は弁論準備手続の終結後であれば,同法167条・174条により,整理手続終了前に提出できなかった理由の説明を求めることができる。説明の拒絶又は不合理な説明は,却下を自動的に生じさせるものではないが,時機後れ又は重大な過失を認定する資料となり得る。

第2 時機に後れた攻撃防御方法の三要件

民事訴訟法157条1項は,当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法について,それにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたとき,裁判所が申立て又は職権で却下できると定める。

三要件は累積的に検討する。提出が遅く見えても,新たな証拠調べを要せず予定期日に弁論を終結できるなら,遅延要件を欠くことがある。反対に,法律構成だけの追加でも,相手方の防御のため審理続行が必要なら,攻撃防御方法として問題となり得る。

第3 「時機に後れた提出」を時系列で示す

次の時点を表にする。

主張又は証拠の基礎事実を知った時期
資料を入手できた時期
裁判所又は相手方が関連事項を指摘した時期

(続きを読む...)争点整理後に新しい主張・証拠が出た場合―民事訴訟法157条・167条と却下申立て(AI作成)

訴訟中に目的物・権利を譲り受けた者への訴訟引受け―民事訴訟法50条と訴訟状態承認義務(AI作成)

目次

第1 結論
第2 民事訴訟法50条・51条の手続
第3 誰が「承継人」に当たるか
第4 紛争の主体たる地位を三段階で確認する
第5 訴訟状態承認義務(承継効)
第6 承継効の例外を検討する場合
第7 申立て前に固定する事実と証拠
第8 申立てを受けた側の反論
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論

訴訟の係属中に,目的物,権利又は義務に関係する地位が第三者へ移った場合,従前の当事者との訴訟をそのまま続けても,判決による実効的解決ができないことがある。民事訴訟法50条・51条は,一定の場合に,その第三者を訴訟へ引き受けさせる仕組みを置いている。

ただし,「紛争を一回で解決できるから」という理由だけで承継人とすることはできない。①従前の当事者を適切な当事者にしていた実体法上の地位,②その地位を第三者へ移した事実,③その地位が第三者を新たな請求の適切な当事者にする理由を順に示す必要がある。

引受け後の第三者が従前の訴訟状態にどこまで拘束されるかは,「訴訟状態承認義務」又は「承継効」の問題である。相手方が従前訴訟で得た地位の保護と,前主に与えられた主張立証機会によって承継人の手続保障を代替できるかを中心に,承継原因発生時を基準として検討する。

第2 民事訴訟法50条・51条の手続

民事訴訟法50条1項は,訴訟係属中に第三者が訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したとき,当事者の申立てにより,裁判所が決定で第三者に訴訟を引き受けさせることができると定める。裁判所は,当事者と第三者を審尋しなければならない(同条2項)。

同法51条は,義務承継人の訴訟参加について47条から49条までを,訴訟係属中に訴訟の目的である権利の全部又は一部を譲り受けた第三者への訴訟引受けについて50条を準用する。誰が申立人となり得るか,権利承継か義務承継か,引受決定後に従前当事者が残るかという手続は,具体的な申立ての種類と準用条文を確認する。

訴訟引受けは,当事者表示を単に書き換える手続ではない。引受決定を求める申立書では,係属事件,従前の請求,承継原因,承継した地位及び第三者に対する請求内容を特定する。

第3 誰が「承継人」に当たるか

「訴訟の目的である権利又は義務」を,従前の訴訟物と完全に同一の権利義務だけに限定すると,訴訟中の処分によって相手方が従前訴訟で得た地位を失う場合がある。他方,紛争に関係する第三者を広く承継人にすると,第三者の手続保障を害する。

そこで,形式的な訴訟物の同一性だけでなく,従前当事者が紛争の適切な主体であった実体法上の地位が第三者へ移り,その第三者が新たな請求の適切な相手方となったかを検討する。最高裁昭和41年3月22日第三小法廷判決は,建物収去・土地明渡訴訟の係属中に,土地賃借人が所有する建物の一部を賃借して建物部分と敷地の占有を承継した者について,旧民事訴訟法74条の承継人に当たるとした。建物所有権を取得した者の事案と混同しない。

同判決は,収去義務に退去部分が含まれること,占有承継によってその部分の紛争が第三者との間に移ること,第三者の占有の適否が従前の土地賃貸借に関する訴訟資料に依存することを理由にした。第三者への請求が土地所有権に基づく物上請求で,従前被告への請求が契約上の請求であるという相違も明示している。現在の50条を検討するときも,この判示の対象と,移転した地位・請求との対応を確認する。

第4 紛争の主体たる地位を三段階で確認する

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訴訟資料に著作物を利用する場合の著作権―複製・mints提出・引用・事件外共有を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける
第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
第3 裁判手続のための複製
第4 mints提出と公衆送信等
第5 引用として利用する場合
第6 鑑定書・意見書と画像
第7 事件外共有・広報・研修への転用
第8 提出前チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける

訴状、準備書面、証拠説明書、鑑定書又は意見書に他人の論文、写真、図面、ウェブ画面等を使う場合、「裁判だから自由に使える」と一括してはいけない。少なくとも、①資料を取得する、②紙又はPDFへ複製する、③裁判所・相手方へ提出又は送信する、④法廷で表示する、⑤事件外で依頼者・関係者・研修参加者等へ共有する、という行為を分ける。

著作権法41条の2は裁判手続に必要な利用を認める重要な規定であるが、必要な限度と著作権者の利益を不当に害しないことが条件である。違法に入手した資料の取得を適法化したり、事件外の公表・二次利用を当然に許したりする規定ではない。

第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
確認事項具体例
著作物性論文本文、写真、図表、設計図、地図、ソフト画面の創作的表現
保護されない部分単なる事実、法令、裁判所の判決そのもの、ありふれた短文
権利者著作者、勤務先、出版社、写真提供者、共同著作者
利用行為複製、公衆送信、上映・口述、譲渡、翻案
入手経路正規購入、契約DB、依頼者提供、公開ウェブ、第三者からの流出
契約条件データベース利用規約、ライセンス、秘密保持、個人情報

著作権法上利用できる場合でも、契約上の利用制限、営業秘密、個人情報、プライバシー、訴訟記録の閲覧等制限は別に検討する。

第3 裁判手続のための複製

著作権法41条の2第1項は、裁判手続のために必要と認められる場合、必要と認められる限度で著作物を複製できる旨を定める。ただし、著作物の種類・用途、複製部数・態様等に照らして著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。

なお、著作権法47条の6第1項2号は、41条の2の規定により著作物を利用することができる場合に、その例により行える利用の方法として「翻訳」だけを定めており、翻案を挙げていない。資料の内容を要約して書面に記載するときは、事実や論旨の要約にとどめ、原文の表現を用いる部分は引用(32条1項)として区別して示すのが無難である。

「必要」は、争点との関連性だけでなく、全文が必要か該当頁で足りるか、カラー高精細画像が必要か、提出部数が適切かという範囲にも及ぶ。証明対象、立証趣旨、必要部分を先に書き出すと、過剰な複製を避けやすい。

裁判手続のための複製は、資料を適法に取得する権利まで与えるものではない。ID・パスワードの不正使用、アクセス制御の回避、秘密情報の不正取得等は別問題である。

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AIで証拠説明書を作成・監査する方法―原資料・援用箇所・立証趣旨・頁の四点照合(AI作成)

目次

第1 AIで証拠説明書を作るときの基本方針
第2 原資料・援用箇所・立証趣旨・頁を四点照合する
第3 作成前に証拠台帳を作る
第4 各欄を原資料に基づいて記載する

1 号証
2 標目
3 原本・写し・電磁的記録の区別
4 作成年月日及び作成者
5 立証趣旨

第5 準備書面の援用箇所から逆算する
第6 引用頁を二つの資料で照合する
第7 内部確認表と提出用書面を分ける
第8 完成ファイルを開き直して確認する
第9 提出直前と提出後に確認する
第10 AIを使っても人が判断すべき事項
第11 出典・参考資料

AIは,書証の候補を整理し,証拠説明書の下書きを作り,号証・標目・頁の不一致を探す作業に利用できる。
しかし,提出する書証の採否,立証すべき事実の選択及び完成版の確認は,事件記録と原資料を確認できる人が行う必要がある。

本記事は,AIを利用して民事訴訟の証拠説明書を作成・監査するときの一般的な手順を扱う。
調査の基準日は令和8年9月23日であり,同日に施行されている民事訴訟法及び民事訴訟規則並びに同日までに公表された裁判所資料を確認した。

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同名会社・商号変更がある民事訴訟の当事者確定―自白の撤回・法人格濫用・別訴併合(AI作成)

第1 結論―名称より先に法人そのものを特定する
第2 同名会社・商号変更を見分ける資料
第3 表示の訂正と別法人への請求は異なる
第4 法人格濫用による責任追及
第5 裁判上の自白を撤回できる場合
第6 訴訟中に別法人を追加したい場合
第7 実務チェックリスト
第8 法令・裁判例

第1 結論―名称より先に法人そのものを特定する

同じ商号の会社が複数存在する場合や、契約後に商号・本店・代表者が変わった場合には、現在の商号だけで被告を決めてはならない。訴えを提起する前に、契約時から提訴時までの法人の同一性を、法人番号、会社法人等番号、設立年月日、本店及び商号の履歴によって確認する必要がある。

訴状では、当事者欄だけでなく、請求の趣旨、請求原因、契約日、契約書上の表示、振込先及び履行主体が同じ法人を指すように記載する。名称の誤記を直す場合と、別の法人へ請求相手を変更する場合とでは、手続が異なる。

第2 同名会社・商号変更を見分ける資料

国税庁法人番号公表サイトで確認できる13桁の法人番号は、商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地と法人を照合するために有用である。ただし、訴訟上の代表権や過去の登記履歴を証明するものではない。

株式会社については、現在事項証明書だけで判断せず、必要に応じて履歴事項全部証明書及び閉鎖事項証明書を取得する。12桁の会社法人等番号、設立年月日、組織変更、合併、会社分割、本店移転、商号変更及び代表者の就退任を時系列にする。

登記だけでなく、契約書、注文書、請求書、領収書、振込口座名義、電子メールのドメイン、店舗の占有、ウェブサイト及び顧客向け通知も照合する。事業を行っていた会社と、代金を受領した会社が異なる場合には、その理由を確認する。

徳島地裁平成25年7月31日判決(平成21年(ワ)第607号、判例秘書L06850816)は、同じ商号の複数会社が関係した事業移転後の保証請求につき、保証契約書に実際の保証会社の本店・代表者が明記され、債権者もその会社を認識していたとして、名板貸責任の前提となる誤認を否定した。旧会社の名板貸責任を会社法22条で新会社が承継するという主張もあったが、判決はこの一般論を積極的に認めたものではない。契約書の商号だけでなく、本店・代表者、締結時の認識まで確認する必要がある。判例秘書の判決本文で確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

第3 表示の訂正と別法人への請求は異なる

民事訴訟法134条2項1号は、訴状に当事者の表示を記載することを求めている。表記の一部に誤りがあっても、訴状全体から当初から意図された法人が一つに定まるときは、表示の訂正として扱う余地がある。

最高裁平成19年3月27日第三小法廷判決は、訴状の原告欄に「中華民国」と表示されていた事件で、訴状の表示のほか、訴訟代理権を授与した者や当事者の主張の経過等の事実も踏まえて、原告として確定されるべき者を国家としての中国とした。このように、当事者の確定では、訴状の表示を出発点としつつ、その記載全体と関係する事実が考慮されることがある。同判決の内容は、光華寮訴訟とは―中国政府の承認,原告の確定及び訴訟手続の中断・受継で整理している。

これと異なり、本人の知らないうちに、偽造の委任状によって訴訟がされる場合もある。大審院昭和10年10月28日判決(昭和7年(オ)第2872号、大審院民事判例集14巻20号1785頁)の判決要旨は、偽造の委任状による訴訟代理人が訴えを提起し、裁判所が本人に対して言い渡した判決が確定したときは、本人は再審の訴えを提起できるとしている。また、最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決は、甲が乙と通謀して丙を相手方とする支払命令等を申し立て、乙が丙本人のように装ってその正本等を受領し、裁判を確定させた事案で、その債務名義の効力は丙に対しては及ばず、丙に対する関係では無効であるとした。同判決は、甲と乙が故意に丙の防御の機会を奪った点を理由とし、単に丙が事実上訴訟行為等に関与できなかった場合とは異なるとしている。本人が関与しないまま判決が確定した場合の救済は、訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)の「追完の期間も過ぎた場合」で整理している。

これに対し、訴状全体が旧会社を被告としており、後から新会社も責任を負うと分かった場合には、単なる商号訂正ではない。別法人を被告とする訴えを提起し、その法人へ訴状を送達して防御の機会を保障する必要がある。

誤った法人について得た判決を、別法人の財産に当然に執行できるわけではない。訴訟開始時に法人の同一性を固定することは、送達、判決の効力及び強制執行の対象を一致させるために重要である。

第4 法人格濫用による責任追及

最高裁昭和48年10月26日第二小法廷判決は、旧会社が債務免脱の意図で企業の形態・内容を実質的に維持した新会社を設立した事案で、法人格の濫用を理由に、新会社が旧会社と別法人であることを債権者に主張できないとした。

この法理は、二つの会社を同一法人として表示訂正するものではない。別法人であることを前提に、設立目的、支配者、事業、従業員、店舗、資産、取引先及び債務処理の連続性から、別法人であることを盾に責任を免れる主張が許されるかを判断するものである。

したがって、訴状では、当事者の確定と法人格濫用の主張を分ける。法人格濫用を主張する場合には、会社間の関係を抽象的に述べるだけでなく、資産移転の時期・対価、営業主体の表示、債権者への説明及び旧会社に残された財産を具体化する。

第5 裁判上の自白を撤回できる場合

民事訴訟法179条により、当事者が裁判所で自白した事実については証明を要しない。答弁書や準備書面で「認める」と述べた事実を、訴訟上不利になったという理由だけで自由に撤回することはできない。

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