目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 24判決・破棄決定0件という数字の読み方第2 24判決の一覧第3 24判決から見える五つの監査領域1 訴えの入口と手続の土台2 相続と財産3 労働条件と企業の責任4 交通事故・人身保護・刑事施設5 行政・公金・公務員第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 グループ会社の相談窓口―求められた対応をしなかったことだけで義務違反とはいえない2 無償の相続分譲渡―原則として民法903条1項の「贈与」に当たる3 弁護士会照会―報告義務の確認を求める訴えは確認の利益を欠く4 業務手当と割増賃金―労働者が直ちに請求できる仕組みがないことだけで否定しない5 有期契約労働者の手当―労働契約法20条違反でも無期契約と同一の労働条件にはならない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態
平成30年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、松田敦子・中島崇「最高裁民事破棄判決等の実情―平成30年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。
第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない
年次解説は、平成30年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2420号5頁以下)。
民集又は集民に登載された判決は判示事項と判決要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。
もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。
本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。
2 24判決・破棄決定0件という数字の読み方
年次解説によれば、平成30年の新受件数は、上告事件2116件、上告受理申立て事件2562件の合計4678件であり、並行申立てを1件と換算すると2844件である。既済件数は、上告事件2112件、上告受理申立て事件2528件の合計4640件であり、換算後は2812件である。許可抗告事件は新受15件、既済11件であった。
破棄判決は24件(判決書単位)であり、換算後の既済件数2812件を分母とした割合は0・9%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成26年42件(1・1%)、平成27年32件(0・9%)、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)、平成30年24件(0・9%)と示している。
破棄判決24件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が10件、自判(一部自判を含む。)が15件であり、そのうち1件は一部差戻しと一部自判の双方を含む。論旨に基づく破棄が23件、職権による破棄が1件である。民集に登載されたものが10件、集民に登載されたものが9件、いずれにも登載されなかったものが5件である。
平成30年には、民事の破棄決定は特別抗告事件・許可抗告事件のいずれも0件であった。年次解説が示す許可抗告事件の破棄決定は、平成26年4件、平成27年7件、平成28年2件、平成29年7件であり、過去4年はいずれも1件以上あった。
これらは特定年度の判決書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。
第2 24判決の一覧
年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成30年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。
判決日・法廷事件番号内容結果1月19日・二小平成29年(行ヒ)第46号内閣官房報償費の支出に関する行政文書の情報と情報公開法5条3号・6号の不開示情報一部自判1月19日・二小平成28年(行ヒ)第218号同上(別件)一部自判1月19日・二小平成28年(行ヒ)第228号同上(別件)一部自判2月15日・一小平成28年(受)第2076号親会社が子会社従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことと信義則上の義務違反自判3月15日・一小平成29年(受)第2015号国境を越えて日本へ連れ去られた子の人身保護請求と、意思能力のある子に対する監護の「拘束」該当性等差戻し3月30日・二小平成30年(オ)第93号法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(職権破棄)差戻し4月26日・一小平成29年(行ヒ)第216号県議会議長の議員に対する発言取消命令の適否は司法審査の対象となるか自判6月1日・二小平成28年(受)第2099号・第2100号有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違と労働契約法20条一部差戻し6月1日・二小平成29年(受)第442号同上(別件)一部自判・一部差戻し7月17日・三小平成29年(受)第1738号民法248条による償金請求権等に基づいて支払うべき利益の現存額自判7月17日・三小平成28年(行ヒ)第406号接する街路が建築基準法42条1項3号の道路に当たることを前提とする固定資産の価格決定差戻し7月19日・一小平成28年(受)第563号国歌斉唱時の起立斉唱の職務命令違反を理由に再任用等の選考で不合格としたことの適法性自判7月19日・一小平成29年(受)第842号業務手当が割増賃金に当たるか差戻し9月27日・一小平成29年(受)第659号・第660号交通事故の被害者の自賠法16条1項の直接請求権と国が代位取得した直接請求権との優先関係等一部差戻し9月28日・二小平成28年(受)第1978号無権代理人が民法117条1項に基づく債務の履行を拒むことの可否自判10月19日・二小平成29年(受)第1735号共同相続人間の無償による相続分の譲渡と民法903条1項の「贈与」差戻し10月23日・三小平成29年(行ヒ)第185号住民訴訟の係属中にされた市の請求権を放棄する市議会の議決の適法性自判10月25日・一小平成29年(受)第990号保護室に収容中の未決拘禁者との面会を、申出を本人に告げずに許さなかった刑事施設の長の措置の違法性差戻し11月6日・三小平成29年(行ヒ)第320号勤務時間中のわいせつ行為等を理由とする停職6月の懲戒処分の適法性自判11月6日・三小平成29年(行ヒ)第226号財産の譲渡の議案を可決する議決と地方自治法237条2項の議会の議決自判11月16日・二小平成29年(行ヒ)第404号政務活動費等の収支報告書上の支出の一部が架空でも不当利得返還義務を負わない場合自判12月17日・一小平成30年(受)第16号・第17号依頼を受けて自動車の名義上の所有者兼使用者となった者と自賠法3条の運行供用者差戻し12月18日・三小平成29年(行ヒ)第292号不正受給者に対する生活保護法(改正前)78条の費用徴収額と基礎控除相当額自判12月21日・二小平成29年(受)第1793号弁護士会照会をした弁護士会が相手方の報告義務の確認を求める利益自判
第3 24判決から見える五つの監査領域
1 訴えの入口と手続の土台
平成30年度唯一の職権破棄は、法律に従って判決裁判所を構成しなかったという絶対的上告理由に当たる事件である(3月30日第二小法廷判決)。判決裁判所の構成のような手続の土台に関する誤りが、職権で取り上げられた例である。
県議会議長の議員に対する発言取消命令の適否が司法審査の対象となるか(4月26日第一小法廷判決)、弁護士会照会をした弁護士会が相手方の報告義務の確認を求める利益があるか(12月21日第二小法廷判決、第4の3)は、いずれも本案に入る前の入口の問題である。
受任時には、裁判所が判断できる紛争か、確認の利益など訴えの利益があるか、判決裁判所の構成に問題がないかを、請求の内容とは別に点検しておくとよい。
2 相続と財産
共同相続人間の無償による相続分の譲渡が民法903条1項の「贈与」に当たるか(10月19日第二小法廷判決、第4の2)は、遺留分の算定に直結する判断である。
また、無権代理人が民法117条1項に基づく債務の履行を拒むことの可否(9月28日第二小法廷判決)や、民法248条による償金請求権等に基づいて支払うべき利益の現存額(7月17日第三小法廷判決)も、財産関係の基本的な規律が問題となった事件である。
3 労働条件と企業の責任
平成30年度は、労働分野の判断が多い。有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違と労働契約法20条(6月1日第二小法廷判決2件、第4の5)、業務手当が割増賃金に当たるか(7月19日第一小法廷判決、第4の4)、親会社が子会社従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことと信義則上の義務違反(2月15日第一小法廷判決、第4の1)である。
いずれも、契約書や規程の文言だけでなく、手当の趣旨、運用の実態、相談窓口の仕組みの具体的内容等の事実関係によって結論が左右されている。
4 交通事故・人身保護・刑事施設
自賠法の分野では、被害者の直接請求権と国が代位取得した直接請求権との優先関係等(9月27日第一小法廷判決)と、依頼を受けて自動車の名義上の所有者兼使用者となった者が運行供用者に当たるか(12月17日第一小法廷判決)が破棄されている。
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