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AIで証拠説明書を作成・監査する方法―原資料・援用箇所・立証趣旨・頁の四点照合(AI作成)

AIは,書証の候補を整理し,証拠説明書の下書きを作り,号証・標目・頁の不一致を探す作業に利用できる。
しかし,提出する書証の採否,立証すべき事実の選択及び完成版の確認は,事件記録と原資料を確認できる人が行う必要がある。

本記事は,AIを利用して民事訴訟の証拠説明書を作成・監査するときの一般的な手順を扱う。
調査の基準日は令和8年9月23日であり,同日に施行されている民事訴訟法及び民事訴訟規則並びに同日までに公表された裁判所資料を確認した。

第1 AIで証拠説明書を作るときの基本方針

AIに最初から文章を書かせるのではなく,次の順で作業させる方が誤りを発見しやすい。

  1. 提出候補のうち,実際に提出することが決まった資料を確定する。
  2. 各資料の号証,標目,作成年月日,作成者,提出方法及び該当頁を原資料で確認する。
  3. 訴状又は準備書面で実際に援用する箇所を確認する。
  4. 原資料の記載と援用箇所の双方に対応する立証趣旨を作る。
  5. 完成したWord又はPDFを開き直し,全頁の表示と内容を確認する。

AIが「提出した方がよい」と提案したことと,代理人又は当事者が提出を決めたことは別である。
提出が決まっていない資料を,AIの判断だけで証拠説明書に加えてはならない。

また,確認できない作成日,作成者又は頁を推測で補わない。
確認できた事項,資料に書かれている事項,そこからの推認及び未確認事項を区別することが重要である。

第2 原資料・援用箇所・立証趣旨・頁を四点照合する

証拠説明書の監査では,次の四点が対応しているかを確認する。

  1. 原資料―実際の書証に何が記載されているか。
  2. 援用箇所―訴状又は準備書面のどの主張で,その書証のどの部分を引用するか。
  3. 立証趣旨―当該書証によって証明しようとする具体的事実は何か。
  4. ―援用する記載が,提出する書証の何頁にあるか。

この四点のうち一つでもずれていれば,もっともらしい文章であっても提出用の立証趣旨としては不正確になり得る。
例えば,準備書面がメールの送信日時と回答内容だけを援用しているのに,証拠説明書で交渉経過全体や因果関係まで立証しようとすると,原資料によって直接確認できる範囲を超えることがある。

第3 作成前に証拠台帳を作る

証拠説明書を作る前に,内部用の証拠台帳を作ると,号証の重複や資料の取り違えを防ぎやすい。
少なくとも,次の事項を資料ごとに整理する。

  • 候補資料と正式号証の対応
  • 資料名,作成年月日及び作成者
  • 紙の原本,紙の写し又は電磁的記録のいずれとして申し出るか
  • 準備書面等の援用箇所
  • 書証の該当頁
  • 対応する争点及び要証事実
  • 成立の真正,原資料の所在,個人情報及び不利な記載に関する確認事項
  • 確認状態(確認済み,条件付き確認又は未確認)

資料を開けなかったこと,検索で見つからなかったこと又は担当者がまだ確認していないことは,資料が存在しないことを意味しない。
確認できない項目だけを未確認として残し,必要な資料又は確認方法を明記する方が安全である。

第4 各欄を原資料に基づいて記載する

1 号証

裁判所の新法適用事件用の「証拠説明書の記載要領・記載例」は,号証欄に「甲001」,枝番がある場合に「甲002-1」などと記載する例を示している。
英数字は半角とし,証拠説明書の号証,証拠データの右上,ファイル名及びmintsの証拠番号を一致させる。

準備書面等の文章中では「甲第1号証」などと表記することがあるため,文章中の呼称と,mints等へ入力する証拠番号を区別する必要がある。
号証・枝番・ファイル名の付け方は「mintsで証拠を提出する方法-甲001・枝番・ファイル名・提出前チェック」で説明している。

2 標目

標目は,証拠の名称を記載する欄である。
表紙,題名,件名,発行主体その他の原資料の表示を確認し,提出する資料を識別できる名称を付ける。

ファイル名を標目として利用する運用を採る場合でも,先頭の号証表示,末尾の拡張子,空白,全角・半角及び記号をどのように扱うかを,作業開始前に定める必要がある。
ただし,これは事務所又は案件ごとの作業規則であって,あらゆる事件でファイル名をそのまま標目にしなければならないという法令上の規則ではない。

3 原本・写し・電磁的記録の区別

紙の文書を書証として申し出る場合と,電磁的記録に記録された情報の内容について証拠調べを申し出る場合とでは,標目及び備考の記載が異なる。
裁判所の記載例では,紙の原本又は写しを書証として申し出る場合は標目に「原本」又は「写し」を付け,電磁的記録として提出する場合は標目にこれらを付けない。
紙を電子化した電磁的記録については,備考に「紙を電子化」と記載する例が示されている。

詳しくは「mintsの証拠説明書の作り方・提出方法-標目・原本・写し・記録外データ」を参照されたい。

4 作成年月日及び作成者

作成年月日及び作成者は,スキャン日,ダウンロード日又は代理人がPDFを作った日ではなく,元の証拠の作成年月日及び作成者を基準にする。
メールであれば送信日時及び送信者,契約書であれば契約書上の日付及び作成名義,公刊物であれば奥付等を確認する。

原資料から確定できない場合は,推測で補わず,「不明」等とした上で,確認できた表示又は取得経緯を内部確認表に残す。

5 立証趣旨

立証趣旨は,「原告の主張が正しいこと」などの抽象的な結論ではなく,その書証によって証明しようとする具体的事実を記載する。
長い文書の一部だけを援用する場合は,頁,段落,日時又は見出しによって該当箇所を特定する。

一つの項目で一つの事実を扱うことは,立証趣旨と原資料の対応を点検しやすくする実務上の作成方法である。
ただし,「一項目一事実」という表現自体が法令上の定型文であるわけではない。

立証趣旨を作る際は,次の三つを区別する。

  1. 資料に直接記載された事実―契約日,金額,発言内容,送受信日時など
  2. 資料から推認しようとする事実―認識,目的,経過又は因果関係など
  3. 法律評価―契約の成否,過失,違法性又は損害賠償責任など

資料の記載から直ちに導けない因果関係又は法律評価まで広げない。
また,立証趣旨に書いたことと,裁判所がその事実を認定することは別であり,成立の真正,証拠力及び反対証拠も検討する必要がある。

第5 準備書面の援用箇所から逆算する

準備書面が完成又は概ね確定した段階で,各書証がどこで援用されているかを抽出する。
その上で,援用箇所に書かれた事実が,原資料の該当頁に本当に記載されているかを確認する。

立証趣旨は,準備書面で当該書証を援用する範囲を含む必要がある一方,原資料によって証明できない事項まで広げてはならない。
準備書面の主張,立証趣旨及び原資料の記載が互いに循環参照できる状態にする。

専門書,ガイドライン又は論文のマーカー部分を援用する場合,マーカーは確認箇所を探す手掛かりにすぎない。
前後の文章,定義,適用条件,例外,留保及び反対説明も読み,結論に不利な限定を落としていないかを確認する。

第6 引用頁を二つの資料で照合する

頁は,準備書面の引用頁と,実際に提出する書証の双方で照合する。
原本に印字された頁とPDFビューアに表示される通し頁が異なることがあるため,どちらを記載したかを区別する。

例えば,「原本印字12頁(PDF通し15頁)」のように内部確認表へ対応関係を残しておけば,差替え又は結合後のPDFで頁がずれた場合に発見しやすい。
OCRのテキストだけに依存せず,実際の頁画像を開いて,見出し,脚注,表及び前後の文章も確認する。

第7 内部確認表と提出用書面を分ける

提出用の証拠説明書には,裁判所及び相手方に示す必要事項だけを記載する。
他方,内部確認表には,次のような検討過程を残す。

  • 候補資料と正式号証の対応
  • 争点,要証事実及び準備書面の援用箇所
  • 原資料の短い引用及び該当頁
  • 推認の限界及び不利な記載
  • 成立の真正,原資料,個人情報及びマスキングに関する確認事項
  • 確認済み,条件付き確認又は未確認の別

検討メモ,警告文又はAIの説明を,誤って提出用の証拠説明書へ混入させない。

第8 完成ファイルを開き直して確認する

AIが編集したデータを同じ処理の中で読み返すだけでは,Word又はPDFの表示崩れを発見できないことがある。
保存後の完成ファイルを別に開き直し,次の事項を確認する。

  • 号証順,重複行及び行の欠落
  • 号証,標目,原本・写しの別,作成年月日,作成者及び立証趣旨
  • 準備書面の援用箇所と書証の頁との対応
  • 表の列ずれ,文字切れ,不自然な空白及び改頁崩れ
  • 提出対象の書証及び証拠説明書の添付漏れ

Wordファイルは全項目を読み戻し,さらに全頁を画像又はPDFとして表示して目視確認する。
この工程は特定の事務所書式に限らず,最終成果物が提出時の見た目を保っているかを確認するために必要である。

裁判所提出書面をAIで作成するときの一般的な確認方法は「山中弁護士がClaudeコードを使って裁判所提出書面を作成するときに行っているハルシネーション防止方法」で説明している。

第9 提出直前と提出後に確認する

提出直前には,証拠説明書の号証,証拠データ右上,ファイル名及びmintsの証拠番号が一致しているかを確認する。
原本又はオリジナルデータの所在,個人情報のマスキング,ファイルの開封可否及び相手方への直送も確認する。

mintsへ提出したファイルは,提出者が自由に削除できるとは限らない。
アップロード直後に記録一覧を開き,番号,ファイル名,頁数,提出状態及び直送の完了を確認する。

第10 AIを使っても人が判断すべき事項

AIを利用しても,次の判断は事件を担当する弁護士又は当事者が行う必要がある。

  • どの資料を提出するか
  • どの事実を主要な立証対象とするか
  • 不利な記載を踏まえても提出するか
  • 原本確認又は成立の真正にどのように対応するか
  • 個人情報,営業秘密その他の非公開情報をどの範囲で提出するか
  • 完成した証拠説明書を最終版として提出してよいか

AIは確認作業を補助できるが,読めなかった資料又は未確認の事実を,自動的に確認済みへ変えることはできない。

第11 出典・参考資料