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後見・保佐・補助

認知症者が第三者に損害を与えた場合の家族・成年後見人等の責任―民法714条とJR東海事件(AI作成)

目次

第1 結論
第2 民法713条・714条・709条の関係
第3 JR東海事件の事案と結論
第4 家族・成年後見人が当然に責任を負うわけではない
第5 法定監督義務者に準ずべき者の判断要素
第6 民法709条による自己の過失責任
第7 被害者側・家族側の主張立証
第8 成年後見制度改正との関係
第9 確認資料と未確認事項

認知症その他の精神上の障害により責任能力を欠く人が第三者へ損害を与えても,同居の配偶者,子又は成年後見人が,その肩書だけで民法714条の賠償責任を負うわけではありません。

最高裁平成28年3月1日判決は,まず法定の監督義務者に当たる法的根拠を確認し,それがない場合には,監督を引き受けたと評価できる特段の事情があるかを具体的な生活・介護状況から判断するという枠組みを示しました。もっとも,家族自身に具体的な危険を防止すべき注意義務違反があれば,民法709条の責任が別に問題となります。

第1 結論

本人に責任能力がなければ,本人は民法713条により原則として賠償責任を負いません。
民法714条は,責任無能力者を監督する法定の義務を負う者又は法定の監督義務者に代わって監督する者の責任を定めます。
配偶者,子,成年後見人又は介護に関与する親族というだけで,当然に714条責任を負うものではありません。
法定の監督義務者でなくても,監督を引き受けたとみるべき特段の事情がある者には,714条1項が類推適用されることがあります。
714条の責任主体でなくても,家族又は事業者自身の具体的な過失があれば,709条責任は別に成立し得ます。

第2 民法713条・714条・709条の関係
1 本人の責任能力―民法713条

民法713条本文は,精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態で他人に損害を加えた者は,賠償責任を負わないと定めています。診断名だけで決まるものではなく,加害行為時に,当該行為の責任を理解する能力があったかが問題です。

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令和8年成年後見制度改正の施行準備―権限・必要性台帳,年次見直し及び旧後見・旧保佐から新補助への移行(AI作成)

目次第1 施行前から準備すべき理由1 包括的な制度区分から個別の権限設計へ移る2 開始後も権限の必要性を見直す第2 権限・必要性台帳の作り方1 課題を行為単位で記録する2 事実・評価・未確認事項を分ける第3 必要な保護を三つに分ける1 特定の行為に対する同意権・取消権2 特定補助3 代理権第4 本人の意向を手続と記録に組み込む1 意向尊重は一度の意見聴取ではない2 本人の意向と安全確保が衝突する場合第5 旧後見・旧保佐・旧補助の経過措置1 旧後見・旧保佐は自動的に新補助へ移らない2 旧補助は新補助とみなされる3 旧事件にも適用される新しい職務規律がある第6 年次見直しと終了支援1 毎年の報告を権限監査の機会にする2 終了後の支援を先に設計する第7 任意後見との併存を検討する第8 施行前の実務チェックリスト第9 出典と未確定事項1 確認した一次資料2 実務参考資料とその限界3 令和8年9月27日現在の未確定事項

令和8年法律第45号による成年後見制度の改正では,法定後見が「補助」に一元化され,家庭裁判所が必要な同意権・取消権,特定補助又は代理権を個別に定める仕組みに変わる。補助人には本人の意向を把握・尊重する義務と年1回の報告義務が置かれ,不要になった権限を外し,必要に応じて補助人を交代させる制度も整備される。

もっとも,令和8年9月27日現在,成年後見関係改正の具体的施行日は確定していない。この記事は,公布済みの法律と関係法律整備法から確認できる事項を基礎に,相談・申立て・受任中事件について今から作成できる「権限・必要性台帳」と,施行後の見直し手順を整理するものである。改正内容の全体像は,令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で説明している。

第1 施行前から準備すべき理由
1 包括的な制度区分から個別の権限設計へ移る

改正前は,本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助を選ぶ制度である。改正後は補助に一元化され,具体的な法律行為について,どの保護がなぜ必要かを示す必要がある。

したがって,「認知症だから後見」「財産が多いから保佐」という説明では足りない。預金払戻し,不動産売却,遺産分割,施設契約又は訴訟行為等の課題ごとに,本人だけでは何が難しく,どの権限があれば不利益を防げるかを記録する必要がある。

2 開始後も権限の必要性を見直す

改正法は,判断能力の回復だけでなく,個別の権限又は特定補助の必要性がなくなった場合にも,審判の全部又は一部を取り消すことができる。補助人は年1回,家庭裁判所が命じた事項を報告し,家庭裁判所は必要に応じて職権で取消しを行うことができる。

このため,申立時だけでなく,受任中も「現在必要な権限」「不要になった権限」「新たに必要となった権限」を説明できる記録が重要となる。

第2 権限・必要性台帳の作り方
1 課題を行為単位で記録する

本人の生活上又は財産上の課題を,次の項目に分けて記録する。

①対象となる法律行為又は生活上の課題
②現時点で本人ができることと,支援があればできること
③支援がない場合に生じる具体的な不利益
④本人への説明方法,表明された意向及び反対理由
⑤家族,福祉サービス,日常生活自立支援事業,財産管理契約等の代替手段
⑥必要と考える権限と,それより制限の少ない手段では足りない理由
⑦裏付け資料と情報源
⑧見直し時期と,終了・追加・交代を検討する条件

「将来何か起きるかもしれない」という抽象的な不安と,期限のある契約,滞納,財産被害又は現に進行する手続等の具体的な必要性を区別する。

2 事実・評価・未確認事項を分ける

台帳には,観察できた事実,申立人・親族・支援者の説明,弁護士の法的評価及び未確認事項を混在させない。例えば,「本人は契約を理解できない」とだけ書くのではなく,説明した情報,質問への回答,選択肢の比較,援助後の理解,過去の同種取引及び医学資料を分けて残す。

判断能力,同意能力及び意思表示能力は,場面と時点によって異なり得る。診断名だけから必要な権限を決めず,対象行為との関係を示す必要がある。

第3 必要な保護を三つに分ける
1 特定の行為に対する同意権・取消権

通常の補助では,重要な財産上の行為のうち家庭裁判所が定めた行為について,補助人に同意権が付与され,本人が補助人の同意なく行った行為を取り消すことができる。

本人以外の者が申し立てる場合は,本人が意思表示できないときを除き,本人の同意が必要である。対象行為を広く書くのではなく,現に保護が必要な行為と期間を具体化する。

2 特定補助

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交通事故で成年後見制度が必要になった場合の費用は損害になるか―申立費用,申立代理人費用,後見人・監督人報酬(AI作成)

◯本ブログ記事は専ら,AIで作成したものです。

目次

第1 この記事の結論と対象
第2 区別すべき三つの費用1 申立てに要する実費2 申立代理人の弁護士費用3 選任後の後見人・監督人報酬
第3 裁判例から分かること
第4 請求の組み立て方
第5 立証資料と二重計上の防止
第6 成年後見制度の改正との関係
第7 調査範囲と出典

第1 この記事の結論と対象

交通事故によって被害者の判断能力が低下し,示談,訴訟,保険金の受領又は多額の賠償金の管理のために成年後見制度を利用する場合,その費用が直ちに全額,交通事故による損害になるわけではない。事故との相当因果関係,制度利用の必要性,現実の支出又は将来支出の蓋然性,金額及び期間の相当性を,費目ごとに立証する必要がある。

特に,①申立手数料・登記手数料・郵便料・診断書料・鑑定費用等の申立実費,②申立代理人の弁護士費用,③選任後の成年後見人又は成年後見監督人の継続的な報酬は,法的根拠と判断要素が異なる。家庭裁判所が本人の財産から後見人報酬を支給する審判をすることと,加害者に不法行為損害として賠償を命じることも別の問題である。

成年後見人等の報酬額そのものについては,成年後見人等の報酬額の目安を参照されたい。本記事は,その金額を交通事故の損害に計上できるかという別の問題を扱う。

第2 区別すべき三つの費用
1 申立てに要する実費

後見開始の申立てには,収入印紙,登記手数料,郵便料,診断書料等が必要になり,事案によっては鑑定費用も生じる。事故前には必要でなかった申立てが,事故による高次脳機能障害,遷延性意識障害その他の精神上の障害のために必要になったことを示せれば,相当因果関係のある損害として認められる余地がある。

もっとも,申立時に支出した額を領収書で示すだけでなく,事故による障害と判断能力低下との関係,家族が本人を当然に代理できないこと,示談・訴訟又は賠償金管理のために法定代理人が必要であったことも整理する必要がある。

2 申立代理人の弁護士費用

申立代理人に支払う弁護士費用は,裁判所に納める実費とは別である。申立ての難易度,親族関係,財産の内容,緊急性,申立代理人が行った事務及び報酬額の相当性を示す必要があり,申立てをしたという事実だけから全額が当然に認められるものではない。

3 選任後の後見人・監督人報酬

後見人報酬は,民法862条に基づき,家庭裁判所が後見人及び本人の資力その他の事情を考慮し,本人の財産から相当額を与えるものである。大阪家庭裁判所の「報酬額のめやす」も,個別審判を拘束する料金表ではない。

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高齢者施設から入院した後の退所・再入所―特養の3か月基準,有料老人ホームの契約及び成年後見人の対応(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 最初に確認する施設の種類と書類1 同じ「老人ホーム」でも法的な枠組みが異なること2 入院直後に確保すべき書類第3 指定介護老人福祉施設の入院期間中の取扱い1 入院後おおむね3か月以内の基準2 満床は当然に「やむを得ない事情」にならないこと3 退院可能となったときの速やかな再入所への努力第4 有料老人ホームの契約解除と入院中の費用1 入居契約が判断の出発点になること2 事業者側の解除条件の限界3 入院中の費用と前払金第5 成年後見人が関与するとき1 契約上の行為と医療同意を区別すること2 居住用不動産の処分許可との関係3 後見人が署名前に確認すべきこと第6 救急搬送・看取り方針と施設契約1 看取り方針があっても契約問題は別に残ること2 施設契約に記載しておくべき連携事項第7 紛争になったときの確認事項1 時系列を作ること2 施設へ求める説明3 相談先第8 弁護士が依頼者から聴取すべき事項第9 出典・参考資料1 法令2 厚生労働省資料
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う場面

特別養護老人ホーム,有料老人ホームその他の高齢者施設の入所者が病院へ入院したとき,施設から「長期入院になるので退所してほしい」,「退院しても元の施設へ戻れない」又は「入院中も居室料等がかかる」と説明されることがある。本人又は家族は,入院すれば施設契約が当然に終了するのか,退院時に再入所できるのか,どの費用を負担するのかを短期間で判断しなければならない。

しかし,取扱いは施設の種類によって異なる。指定介護老人福祉施設については介護保険法上の運営基準があり,有料老人ホームについては入居契約,重要事項説明書及び都道府県等の指導指針の確認が中心となる。「3か月」という言葉も,特養の入院期間中の取扱いと,有料老人ホームの前払金に関する短期解約特例とで意味が異なる。

本記事は,令和8年9月22日現在の法令及び厚生労働省資料に基づき,入院後の退所,再入所,契約解除,費用,救急搬送方針及び成年後見人の対応を整理するものである。

2 結論の要旨

第一に,入院しただけで施設との契約が当然に終了するとは限らない。契約終了には,法令上の基準,入居契約の解除条項,意思表示及び所定の手続を確認する必要がある。

第二に,指定介護老人福祉施設では,入院後おおむね3か月以内に退院することが明らかに見込まれるときは,本人及び家族の希望等を考慮し,やむを得ない事情がある場合を除いて円滑に再入所できるようにしなければならない。単に当初の退院予定日に満床であるという施設側の事情だけでは,「やむを得ない事情」には当たらないと解釈されている。

第三に,特別養護老人ホームには,協力医療機関等から退院可能となった入所者を速やかに再入所させられるよう努める規定もある。3か月を超えたことだけから,再入所への配慮が直ちに消滅すると整理すべきではない。

第四に,有料老人ホームでは一律の再入所ルールではなく,入居契約の内容が出発点となる。事業者側の解除条件が入居者の権利を不当に狭めていないか,入院中の費用,居室保持,退院後の受入条件及び前払金の返還を個別に確認する必要がある。

第2 最初に確認する施設の種類と書類
1 同じ「老人ホーム」でも法的な枠組みが異なること

「施設」又は「老人ホーム」という呼び方だけでは,適用される基準を判断できない。少なくとも,①指定介護老人福祉施設として介護保険法上の指定を受けた特別養護老人ホーム,②介護付き又は住宅型の有料老人ホーム,③サービス付き高齢者向け住宅,④介護老人保健施設,⑤介護医療院等を区別する必要がある。

本記事が詳しく扱うのは,指定介護老人福祉施設としての特養と,有料老人ホームである。サービス付き高齢者向け住宅は,建物賃貸借,生活支援サービス及び介護サービスの契約が分かれていることがあるため,契約ごとの終了条件を確認する必要がある。

2 入院直後に確保すべき書類

施設へは,少なくとも次の書類の交付又は写しの提供を求める。

①入居契約書又は施設利用契約書

②重要事項説明書及び管理規程

③料金表並びに入院中の費用に関する定め

④契約解除,退所及び再入所に関する規程

⑤施設サービス計画,緊急時対応方針及び協力医療機関との連携方法

⑥施設から退所又は契約解除を求める書面,その理由及び根拠条項

口頭で「3か月を超えれば自動退所」と説明された場合でも,直ちに同意書へ署名せず,どの法令又は契約条項に基づく説明かを確認することが重要である。

第3 指定介護老人福祉施設の入院期間中の取扱い
1 入院後おおむね3か月以内の基準

指定介護老人福祉施設の人員,設備及び運営に関する基準19条は,入所者について病院又は診療所への入院が必要となり,入院後おおむね3か月以内に退院することが明らかに見込まれるときは,本人及び家族の希望等を勘案して必要に応じ適切な便宜を供与し,やむを得ない事情がある場合を除き,退院後に円滑に再入所できるようにしなければならないと定める。

「おおむね3か月」は,入院した瞬間から3か月分の居室を必ず空けておくという意味でも,3か月を1日超えれば再入所の可能性がなくなるという意味でもない。まず,主治医への確認等により,3か月以内の退院が明らかに見込まれるかを判断するための基準である。

2 満床は当然に「やむを得ない事情」にならないこと

厚生労働省の解釈通知は,「やむを得ない事情」について,単に当初予定された退院日に施設が満床であることだけでは足りず,退院が予定より早まってベッドの確保が間に合わない場合等を指すとする。施設側の都合は基本的に該当しない。

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DNARは何を意味するか―心肺蘇生,救急搬送,再入院,抗菌薬,輸液及び人工呼吸器の個別確認(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う問題2 結論の要旨第2 DNARが対象とするもの1 心停止時の心肺蘇生2 DNARと終末期医療は同義でないこと3 Partial DNARを用いないこと第3 個別に確認すべき治療・対応1 救急搬送2 再入院3 気管挿管及び人工呼吸器4 抗菌薬5 輸液6 人工的水分・栄養補給7 苦痛緩和第4 本人意思を確認する手順1 本人による決定を基本とすること2 ACPとして繰り返し話し合うこと3 本人の意思を確認できない場合4 成年後見人の役割第5 救急現場とDNAR記録1 施設内方針だけで救急隊の活動は決まらないこと2 事前に地域の手順を確認すること第6 意思確認票の作り方1 一つの包括的な欄にまとめないこと2 各項目に記録する事項3 原本,写し及び更新履歴第7 紛争予防及び事後検証のための記録第8 弁護士が相談を受けたときの確認事項第9 出典・参考資料1 公的ガイドライン等2 裁判例
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う問題

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)は,心停止時に心肺蘇生を試みないという方針である。ところが,実務では「DNARだから救急車を呼ばない」,「DNARだから抗菌薬や輸液もしない」,「看取り希望だから再入院させない」など,心肺蘇生以外の治療方針まで一括して決めたものとして扱われることがある。

日本集中治療医学会は,DNAR指示は心停止時にのみ有効であり,心肺蘇生不開始以外の医療・看護は別に議論すべきであると勧告している。本人の意思を正確に反映するためには,救急搬送,再入院,気管挿管・人工呼吸器,抗菌薬,輸液,人工的水分・栄養補給及び苦痛緩和を個別に確認しなければならない。

本記事は,令和8年9月22日現在の厚生労働省,日本集中治療医学会及び総務省消防庁の資料に基づき,DNARの範囲,意思決定の手順,救急現場との接続及び記録の方法を整理するものである。

2 結論の要旨

第一に,DNARが直接決めるのは,心停止時に心肺蘇生を開始しないことだけである。心停止前の酸素投与,抗菌薬,輸液,栄養,人工呼吸器又はICU入室等を自動的に差し控え又は中止する根拠にはならない。

第二に,DNARと人生の最終段階における治療の差控え・中止は別の合意形成を要する。本人の病状,治療目標,期待できる効果及び負担を示し,各治療項目について判断する必要がある。

第三に,救急隊が現場で蘇生を中止できるかは,地域のメディカルコントロール協議会及び消防本部の手順によって異なる。施設内のDNAR記録があるだけで,119番通報後に当然に蘇生又は搬送が行われないとは限らない。

第四に,意思確認書は選択肢へ一度チェックを付けるだけの書面ではなく,誰が,いつ,どの病状と説明を前提に決め,どの場面で再確認するかを記録する必要がある。

第2 DNARが対象とするもの
1 心停止時の心肺蘇生

DNARは,「心停止が起きたとき,心肺蘇生を試みない」という医療方針である。ここでいう心肺蘇生には,胸骨圧迫,電気的除細動,蘇生薬の投与,気道確保その他の蘇生処置が含まれる。

「急変時には何もしない」という曖昧な指示に置き換えてはならない。心停止前の呼吸困難,発熱,脱水,意識障害,出血又は疼痛には,原因と本人の意向に応じた診察・治療が必要となり得る。

2 DNARと終末期医療は同義でないこと

日本集中治療医学会の勧告は,DNARと終末期医療を同義とせず,それぞれの合意形成を別個に行うよう求めている。終末期にDNARを選択することはあるが,DNARがある患者について心肺蘇生以外の治療を差し控え又は中止する場合は,改めてその治療方針について合意形成を行う。

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は,本人の意思決定を基本とし,医療・ケアの開始,不開始,内容の変更及び中止を,医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を踏まえて慎重に判断する枠組みを示している。DNARの記載だけでこの過程を省略することはできない。

3 Partial DNARを用いないこと

日本集中治療医学会は,胸骨圧迫は行うが気管挿管は行わないなど,心肺蘇生の一部だけを実施する「Partial DNAR」を行わないよう勧告している。心停止時の蘇生処置は一つの救命行為として評価し,実施するか,DNARとするかを決める。

一方,心停止前の治療について,気管挿管は希望しないが抗菌薬は希望する,入院は希望しないが施設内での酸素投与や苦痛緩和は希望するという選択はあり得る。これはPartial DNARではなく,心停止前の治療目標を項目別に決める問題である。

令和8年9月28日に公表された「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」のQ&A集も,DNARは心停止時に心肺蘇生を行わないという限定的な指示であり,肺炎に対する抗菌薬,酸素投与,鎮痛・鎮静,脱水に対する補液等はDNARの有無にかかわらず適切に行われるべき医療であるとしている(Q37)。さらに,入院時のルーチン,業務効率又は急変対応の簡略化を理由とする便宜的・画一的なDNARの運用を明確に否定し,胸骨圧迫はするが気管挿管はしない等の曖昧な運用も適切な医療提供を妨げるリスクがあるとしている(Q39)。同ガイドラインの内容は,救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン(令和8年9月)―法的位置付け,判断の手順,診療録の記載事項及び裁判例の読み方(AI作成)で整理している。

第3 個別に確認すべき治療・対応
1 救急搬送

「心肺蘇生を希望しない」ことと「119番通報又は救急搬送を希望しない」ことは同じではない。骨折,窒息,出血,強い疼痛等,心停止とは異なる救急事態について治療を希望することがある。

救急搬送については,①どの症状なら主治医へ連絡するか,②どの症状なら119番通報するか,③夜間・休日の連絡先,④施設内で対応できる範囲,⑤搬送先候補を確認する。「急変時は搬送しない」とだけ記載せず,想定する病状と例外を具体化する。

2 再入院

本人が施設又は自宅での療養を希望していても,症状緩和,骨折治療,短期間の感染症治療等のために入院を選ぶことがある。反対に,治療効果より移動・せん妄・身体拘束等の負担が大きいと本人が考え,再入院を望まないこともある。

再入院の方針は,病名を問わず一律に決めるのではなく,治療による回復可能性,治療期間,侵襲,退院後の生活及び本人が重視することを基に検討する。

3 気管挿管及び人工呼吸器

(続きを読む...)DNARは何を意味するか―心肺蘇生,救急搬送,再入院,抗菌薬,輸液及び人工呼吸器の個別確認(AI作成)

胃瘻後に入退院を繰り返すときの本人意思―ACP,家族の関与,治療の差控え・中止及び成年後見人の役割(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 分けて考えるべき四つの問題1 胃瘻の使用と急性疾患の治療は同じ問題ではないこと2 導入しないこと,変更すること及び中止すること3 救急時の一時的な治療と長期方針4 DNARと他の治療方針を混同しないこと第3 本人の意思を中心に置く判断手順1 現在の意思を確認できるか2 ACPと事前の意思表示を現在の判断に結び付けること3 本人の意思を確認できない場合の家族等の役割4 家族等がいない場合又は意見が対立する場合第4 胃瘻の導入後に再評価すべき事項1 造設時の目的を確認すること2 反復入院を再評価の合図にすること3 継続・変更・中止を検討する観点第5 成年後見人と家族ができること・できないこと1 成年後見人には一般的な医療同意権がないこと2 成年後見人が担い得る実務上の役割3 同意書又は確認書への署名を求められたとき第6 弁護士が相談を受けたときの資料と質問1 最初に集める資料2 医療・ケアチームに確認する事項3 本人・家族・後見人に確認する事項4 時系列表で残すべき事項第7 判断を誤らないための留意点1 高齢又は認知症だけを理由に治療を控えないこと2 治療の差控え・中止と積極的安楽死を区別すること3 ガイドラインの限界4 不明な点を不明なまま区別すること第8 治療の差控え・中止に関する裁判例と法的責任1 川崎協同病院事件の最高裁決定2 東京地方裁判所平成31年1月18日判決3 民事責任を検討するときの観点4 ガイドラインに沿うために必要な記録第9 胃瘻,誤嚥性肺炎,抗菌薬治療及び予後について医学文献が示すこと1 対象疾患を分ける必要があること2 胃瘻は誤嚥性肺炎を完全には防がないこと3 抗菌薬は生存と安楽に同じ影響を与えるとは限らないこと4 反復感染と予後の説明第10 施設退所・再入所,救急搬送及び看取り方針と契約1 施設類型を最初に確認すること2 特別養護老人ホームにおける入院後の再入所3 有料老人ホーム等では契約条項を確認すること4 救急搬送方針は施設内の実行手順まで決めること第11 実務書式の使い方1 一枚の包括同意書にまとめないこと2 治療項目別意思確認票3 「説明を受けた」確認書4 定期的な更新と版管理第12 出典・参考資料1 厚生労働省の資料2 日本老年医学会の資料3 裁判例・法制度4 施設契約・救急搬送5 医学文献6 救急・集中治療の学会ガイドライン
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う場面

胃瘻(いろう)を造設した後も,誤嚥性肺炎,尿路感染症,脱水その他の急性疾患によって入退院を繰り返すことがある。このときは,「胃瘻を続けるか」という一つの問いだけでなく,①今回の感染症等をどこまで治療するか,②救急搬送や再入院を今後も繰り返すか,③人工的水分・栄養補給の方法及び量を維持・変更するか,④心肺蘇生,気管挿管,人工呼吸器等を行うか,⑤療養場所を病院,施設又は自宅のどこにするかという複数の問題が同時に生じる。

胃瘻の造設時に家族が同意書へ署名していても,その一枚の書面によって将来のすべての医療方針が決まるわけではない。本人の状態,治療の見込み及び負担は変化し,本人の意思も変化し得るため,各分岐点で説明,話合い,方針決定及び記録を繰り返す必要がある。

本記事は,厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」,日本老年医学会の人工的水分・栄養補給に関するガイドライン及び同学会の「立場表明2025」等を基礎に,胃瘻後の反復入院を念頭に置いて意思決定の順序と弁護士が確認すべき記録を整理するものである。基準日は令和8年9月22日である。

2 結論の要旨

第一に,判断の出発点は家族又は成年後見人の希望ではなく,本人の現在の意思である。本人が医療の内容を完全には理解できなくても,苦痛,生活場所,大切にしたいこと等を表明できる場合があるため,意思決定能力を一括して否定してはならない。

第二に,本人の現在の意思を確認できない場合,家族等は本人に代わって自分の希望を決める者ではなく,本人の従前の言動,人生観及び価値観を医療・ケアチームに伝える者として関与する。日本老年医学会の「立場表明2025」は,この役割を「代理決定」ではなく「代弁」と整理している。

第三に,胃瘻の導入,継続,減量,方法変更及び中止は,医学的効果だけでなく,本人の苦痛,生活の質,療養場所及び本人が大切にしてきたことを含めて検討する。反復入院は,造設時の判断を機械的に維持する理由ではなく,治療目標と本人意思を再確認する重要な契機となる。

第四に,成年後見人には一般的な医療同意権がない。もっとも,本人の意思の推定に役立つ情報の提供,説明の場への参加,診療契約や費用の処理,医療・介護・福祉関係者の連絡調整及び記録の確保は,後見事務として重要な役割になり得る。

第2 分けて考えるべき四つの問題
1 胃瘻の使用と急性疾患の治療は同じ問題ではないこと

胃瘻から栄養を投与している本人が肺炎を発症した場合,胃瘻の継続と肺炎に対する抗菌薬,酸素投与又は入院治療は別の医療行為である。胃瘻を維持する方針であっても再入院を望まないことがあり,反対に胃瘻の投与量を見直しながら今回の感染症は治療することもあり得る。

したがって,「延命治療をするか」という抽象的な二択でまとめず,個々の医療行為について,目的,期待できる効果,負担,代替手段及び行わない場合の見通しを確認する必要がある。

2 導入しないこと,変更すること及び中止すること

厚生労働省のガイドラインは,人生の最終段階における医療・ケア行為について,開始,不開始,内容の変更及び中止を挙げ,いずれも医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきものとしている。

日本老年医学会の平成24年ガイドラインも,人工的水分・栄養補給(AHN)の導入だけでなく,導入後の減量・中止について同じ意思決定プロセスを基本とする。ただし,これらのガイドラインが開始,不開始,変更及び中止を同一の手続で検討対象にしていることは,個別事案における法的責任が当然に同じになるという意味ではない。事実経過,説明内容,医学的評価及び記録を個別に検討する必要がある。

3 救急時の一時的な治療と長期方針

予期しない急変時には,治療効果を直ちに見通せないことがある。日本老年医学会の「立場表明2025」は,このような場合に,一定期間だけ治療を試み,あらかじめ定めた時点と評価項目により効果を見直す「time-limited trial(期間を区切った治療の試行)」を示している。

この方法を採る場合は,開始時に,①何を目標とするか,②いつ見直すか,③どの状態なら継続するか,④どの状態なら縮小又は終了を検討するか,⑤苦痛をどのように緩和するかを共有する必要がある。単に「とりあえず治療する」とだけ記録すると,惰性的な継続又は早すぎる打切りの双方を防ぎにくい。

4 DNARと他の治療方針を混同しないこと

心肺停止時に心肺蘇生を試みないというDNARの方針は,抗菌薬,酸素,輸液,胃瘻栄養,苦痛緩和その他の治療を一律に行わないという意味ではない。どの医療行為を行い,どの医療行為を差し控えるかは,それぞれについて目的と本人の意向を確認する必要がある。

第3 本人の意思を中心に置く判断手順
1 現在の意思を確認できるか

成年後見が開始していること,認知症の診断があること,又は発語が乏しいことだけで,医療に関する意思を表明できないとは限らない。説明の言葉を簡単にする,写真や図を用いる,痛みや不快の少ない時間帯に尋ねる,普段から本人を知る支援者に同席してもらうなど,意思表明を支える工夫を先に行うべきである。

本人が治療の詳細を理解できなくても,「病院へ行くのはつらい」,「施設に戻りたい」,「口から少しでも食べたい」,「苦しい処置は避けたい」といった意向を表明できることがある。その意向は,治療方針を組み立てる重要な資料となる。

2 ACPと事前の意思表示を現在の判断に結び付けること

厚生労働省は,人生会議(ACP)を,望む医療やケアについて前もって考え,家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い,共有する取組と説明している。ACPは一度作成した書面そのものではなく,対話と見直しの過程である。

事前指示書,エンディングノート,施設の意向確認書,診療録中の発言,家族やケアマネジャーに語った内容等がある場合は,作成時期,想定していた病状,説明を受けた内容及びその後の変更の有無を確認する。令和6年度厚生労働行政推進調査事業の報告書も,意向表明文書を作成した後の定期的な再確認,変更理由の記録及び医療機関との共有を重視している。

(続きを読む...)胃瘻後に入退院を繰り返すときの本人意思―ACP,家族の関与,治療の差控え・中止及び成年後見人の役割(AI作成)

判断能力を欠く人に対する時効の完成猶予―民法158条の類推適用と最高裁平成26年3月14日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 民法158条の内容1 条文2 改正前民法との関係3 規定の趣旨第3 最高裁平成26年3月14日判決1 事案2 判断3 日付で見た当てはめ4 判断の射程第4 平成10年6月12日判決との関係1 除斥期間への民法158条の法意の適用2 両判決の違い3 現行民法724条2号との関係第5 実務上の対応1 時効の満了前に後見開始を申し立てる2 審判前の保全処分3 就職から6か月以内に権利を行使する4 後見人に対する権利(民法158条2項)5 債務者の側が判断能力を欠く場合第6 その他の権利者側の事情による完成猶予1 夫婦間の権利(民法159条)2 相続財産(民法160条)3 天災等(民法161条)第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,認知症や精神障害等で判断能力を欠く人が権利を持っている場合に,その権利の消滅時効がどのように扱われるかを,民法158条と最高裁判所第二小法廷平成26年3月14日判決を中心に整理するものである。
あわせて,民法159条から161条までの権利者側の事情による完成猶予と,除斥期間について民法158条の法意を用いた最高裁判所第二小法廷平成10年6月12日判決との関係にも触れる。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行民法等の本文と照合し,判決は裁判所ウェブサイトの詳細頁と全文で確認した。
消滅時効全体の見取り図は消滅時効に関するメモ書きにある。

2 結論

民法158条1項は,時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは,法定代理人が就職した時等から6か月を経過するまで,その人に対して時効は完成しないと定める。
後見開始の審判をまだ受けていない人は,判断能力を欠いていても,条文上の「成年被後見人」には当たらない。
しかし,平成26年判決は,時効の期間の満了前6か月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人に法定代理人がない場合において,少なくとも,時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは,民法158条1項の類推適用により,成年後見人が就職した時から6か月を経過するまでの間は,その人に対して時効は完成しないとした。
この救済を受けるには,①満了前6か月以内に判断能力を欠く常況にあったこと,②満了前に後見開始の申立てがされたこと,③その申立てに基づいて後見開始の審判がされたことが必要であり,④成年後見人は就職から6か月以内に権利を行使しなければならない。
時効の満了前に申立てがされていない場合に類推適用が認められるかは,平成26年判決の判断の外にある。
したがって,判断能力を欠く親族の権利について時効の満了が迫っているときは,満了前に後見開始の申立てをしておくことが決定的に重要である。

第2 民法158条の内容
1 条文

民法158条1項は「時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。」と定める。
同条2項は「未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。」と定める。
いずれも,時効の完成を猶予する規定であり,時効期間を振り出しに戻す更新の効果はない。
完成猶予と更新の区別は,時効の完成猶予と更新の違い―旧法の中断・停止との対応関係と事由の一覧で整理している。

2 改正前民法との関係

改正前民法158条は,見出しが「時効の停止」であったほかは,現行民法158条と同じ文言である。
平成29年法律第44号附則10条2項は,施行日(令和2年4月1日)前に改正前民法158条から161条までの時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については,なお従前の例によるとしている。
もっとも,民法158条の文言は改正の前後で変わっていないから,平成26年判決の考え方は現行法の下でもそのまま参考になる。

3 規定の趣旨

平成26年判決は,民法158条1項の趣旨について,成年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから,法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとして,これを保護するところにあると述べている。
同判決は,さらに,同項が成年被後見人等だけを掲げているのは,その該当性や法定代理人の選任の有無・時期が形式的・画一的に確定し得る事実であり,時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないからであると説明している。
この二つの観点,すなわち権利者保護の必要性と,時効を援用しようとする者の予見可能性が,類推適用の可否を分ける基準になっている。

第3 最高裁平成26年3月14日判決
1 事案

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成年後見人は本人の古い借金を返してよいか――債務の存否の確認,消滅時効の援用及び家庭裁判所への連絡票(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 大阪家裁ハンドブックの記載と記載例1 ハンドブックの説明2 連絡票の記載例63 記載例6に書かれていないこと第3 債務が本当に存在するかを確かめる1 貸付けか贈与か2 確認に使う資料と聴取3 金額の食い違い第4 消滅時効が完成しているかを確かめる1 改正前の民法が適用される2 時効期間と起算点3 中断の事由を確かめる第5 後見人が返済し又は債務を認めると援用できなくなる1 時効完成後の承認2 承認後に再び10年が経過した場合3 後見人の行為は本人の行為になる第6 援用するか返済するかの判断1 後見人は本人に代わって時効を援用できる2 本人の意思を確かめる3 返済を選ぶ場合の位置付け4 善管注意義務と責任第7 家庭裁判所への連絡票1 事前に連絡する2 連絡票に書く事項3 書き方の例4 その後の報告5 他の家庭裁判所の扱い第8 貸主が後見人自身である場合第9 保佐人・補助人及び令和8年改正第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が,成年被後見人(以下「本人」という。)の親族等から「昔,本人にお金を貸した」と申し出を受けたときに,本人の財産から返済してよいか,返済する前に何を確かめ,家庭裁判所にどう連絡すべきかを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文と,平成29年法律第44号による改正前の条文を,いずれもe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索及び判例秘書で確認した。
家庭裁判所の運用は,大阪家庭裁判所が後見人等に交付している「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。

2 結論

①成年後見人は本人の債務を本人の財産から返済しなければならないが,貸主が金融機関以外で契約書がない場合には,まず本当に債務があるのかを確かめる必要がある(大阪家裁ハンドブック17頁)。
②古い借金であれば,消滅時効が完成していないかを確かめる必要がある。
令和2年4月1日より前に生じた貸金債権の時効期間は改正前の民法によるから,10年である。
③時効完成後に後見人が返済し,又は債務を認めると,本人は時効完成を知らなかったとしても時効を援用できなくなる(最高裁昭和41年4月20日大法廷判決)。
④時効を援用するか,道義的な理由から返済するかは,本人の意思を踏まえて後見人が判断するが,時効を検討しないまま返済することは避けるべきである。
⑤返済する場合も援用する場合も,債務の内容,存否の判断,時効の検討結果,本人の意思及び後見人の方針を書いた連絡票を,事前に家庭裁判所へ出す。
⑥後見人自身が本人に対する貸付金を主張する場合には,自分への返済を自分だけで判断して実行することは避け,後見監督人がいなければ特別代理人の選任を申し立てて,債務の存否や時効の援用を特別代理人に判断させるのが安全である(第8)。

第2 大阪家裁ハンドブックの記載と記載例
1 ハンドブックの説明

大阪家裁ハンドブックは,本人の財産から支出できるものの一つとして,本人が第三者に対して負っている債務の返済を挙げている(16頁)。
他方で,本人が経済的に困っていた時期に身内から証書も作らずに受け取った金員のように,贈与なのか借金なのかがあいまいなものもあるとして,次のように述べている(17頁)。
「したがって、貸主が金融機関以外の場合で、正式な契約書等が残っていないような場合については、被後見人が本当に債務を負っているかどうか十分確認する必要があります。」
その上で,「いずれにせよ、被後見人の債務を返済する場合には、必ず、誰に対する、どのような債務につき、いくら返済するのかを簡潔に記載し、債務の存否を判断しかねる場合にはその旨も記載した上で、連絡票を用いて裁判所に連絡をしてください」としている(17頁)。

債務の返済は,事前に連絡票で裁判所に連絡すべき事項の一つとして挙げられており,添付資料は借用書の写しなどとされている(大阪家裁ハンドブック25頁,41頁)。

2 連絡票の記載例6

大阪家裁ハンドブックの書式集には,連絡票の記載例(No.6-2)があり,その記載例6は「債務を返済する場合」である。
内容は,本人が兄から昭和の時期に300万円を借りていたことが判明したこと,当時本人は離婚の慰謝料などで金が必要だったらしいこと,借用書は残っていないが昭和の時期に本人名義の口座へ250万円が振り込まれていることから,兄の話を信用して一括返済したい,というものである。

3 記載例6に書かれていないこと

記載例6は,連絡票の書き方の見本であり,法的な判断の見本として作られたものではないと考えられる。
そのまま自分の事案に当てはめると,少なくとも次の三つの確認が抜け落ちる。
①振り込まれた250万円が,貸付けなのか贈与なのか。
②申出の300万円と振込額の250万円の差額50万円の説明。

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相続人が遺産を受け取らないとき――成年後見人の引継ぎ,受領の催告,供託,民法897条の2の相続財産管理人(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 引継ぎの法的な構造1 管理の計算と引継ぎの義務2 相続人の1人に対して行えば足りる3 引き継ぐのは現金,動産及び徴表書類である4 どこまで相続人を探すか第3 受領を拒まれるまでにしておくこと1 円満な引継ぎの試みと原則への立ち返り2 大阪家庭裁判所への報告期限との関係3 相続人間の合意を待つ場合の中間報告4 引継ぎの前に清算しておくもの第4 受領の催告(弁済の提供)1 口頭の提供で足りる2 催告書に書くこと3 受領拒絶の効果と,それでも残る債務4 催告の回数と間隔第5 財産の種類ごとの出口1 預貯金・株式・不動産――徴表書類は引継ぎを要しない2 現金――弁済供託3 動産――寄託・換価・廃棄4 管理計算報告の債務第6 民法897条の2の相続財産管理人1 条文と旧918条2項との関係2 ただし書で使えない場面3 大阪家庭裁判所が想定する二つの類型4 要件その1――紛争性が極めて高いこと5 要件その2――選任の必要性6 スライド選任はしない7 申立てまでの手順8 大阪家庭裁判所の申立書式第7 相続人がいない・全員が放棄する見込みの場合1 民法952条の相続財産清算人2 大阪家庭裁判所の少額事案の運用(本書掲載)第8 保佐人・補助人の場合第9 本書の記述で現在は変わっている点第10 令和8年改正後の扱い1 後見・保佐の廃止と経過措置2 補助人の死後の権限と補助の計算3 出口の規定は変わらない第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人等(以下「本人」という。)が死亡した後,成年後見人,保佐人又は補助人であった者(以下,本人の死亡後も含めて「後見人等」という。)が相続人に財産を引き継ごうとしたところ,相続人が受け取らない場合に,後見人等がどこまでの事務をし,どのような方法で引継ぎの義務から解放されるかを整理するものである。
具体的には,相続人1人に対する履行の提供,受領の催告,現金の弁済供託,通帳等の徴表書類の扱い,動産の寄託・換価・廃棄,民法897条の2第1項の相続財産管理人の選任,相続人がいない場合や財産が少額の場合の出口を扱う。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表している法律案本文及び新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)226頁~239頁及び254頁~258頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載(平成29年5月号~)を書籍化したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載し,一部だけを令和6年6月時点に修正している(本書1頁)。
本記事が扱う部分の初出は,連載第6回(平成30年4月号),第7回(平成30年6月号)及び第21回(令和2年10月号)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)及び同庁が公開している申立書式で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

民法873条の2の死後事務(火葬契約,債務の弁済,3号許可)の全体は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む場面は親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないときで,死亡後に大阪家庭裁判所へ出す報告書類とその期限は本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限で扱っている。
本記事は,これらと重複する説明を置かず,相続人が財産を受け取らない場面に絞る。
本書の該当部分には裁判例の引用がなく,令和8年9月19日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「相続財産の保存に必要な処分」を全文検索した結果(2件)にも元後見人等の引継ぎを扱ったものはなかったため,本記事は条文と大阪家庭裁判所自身が公表した運用の説明及び書式を根拠とする。

2 結論

①後見人等は,任務終了から2か月以内に管理の計算をし(民法870条),相続人に財産を引き継ぐ義務を負うが,本書は,管理計算の報告も財産の引継ぎも相続人の1人に対して行えば足りると説明している。
②「引継ぎ」の対象は,現金,動産及び権利を徴表する書類(通帳,証書,鍵等)であり,預貯金や不動産の権利そのものは本人の死亡により既に相続人の共有となっている。
③相続人が受け取らないときは,引渡しの準備をしたことを通知して受領を催告すれば弁済の提供となり(民法493条ただし書),後見人等は以後,不履行の責任を負わない(民法492条)。ただし,引継ぎの債務そのものは消えない。
④現金は,受領拒絶を理由に弁済供託をすれば債務が消滅する(民法494条1項1号)。
⑤通帳・証書・登記関係書類等は権利の徴表にすぎないので,本書は引継ぎを要しないとし,一定期間の経過後に廃棄してよいとも回答している。
⑥動産だけは,受領拒絶が続く限り引継ぎの債務が残る。本書は,月1回程度の催告を重ねた上で,民法897条の2第1項の「相続財産の保存に必要な処分」として寄託・換価・廃棄を求める申立てをし,換価金から報酬を控除した残金を供託して終える道を示している。
⑦相続財産管理人の選任は,紛争性が極めて高く,かつ継続的な弁済や管理が必要な事案に限られる。代表者を決めさせるだけの選任は必要性が否定され,後見人等をそのまま管理人に選任すること(スライド選任)も想定されていない。
⑧民法897条の2は「いつでも」処分を命ずることができるが,相続人が1人で単純承認をしたとき,遺産の全部の分割がされたとき,及び相続財産の清算人が選任されているときは使えない(同条1項ただし書)。
⑨相続人がいないとみられる場合でも,本書は,最後報酬の支払後に本人名義の財産が30万円未満であれば相続財産清算人の選任を求めず,現金を供託して終える大阪家庭裁判所の運用を紹介している。ただし,この基準は現在の公開資料では確認できなかった。
⑩令和8年改正により後見・保佐は補助に一元化されるが,改正法の施行前に開始した後見・保佐には原則として従前の例が適用される。引継ぎの出口となる民法492条~494条,897条の2及び952条は改正されない。

第2 引継ぎの法的な構造
1 管理の計算と引継ぎの義務

民法870条は,「後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。」と定める。
保佐人と補助人にも,民法876条の5第3項及び876条の10第2項により同条が準用される。
後見監督人があるときは,後見の計算はその立会いをもってしなければならない(民法871条)。

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本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 素材とした本と,その記述の時点3 結論第2 本人の死亡で終わるものと残る義務1 後見等の終了と代理権の消滅2 相続人に対する管理の計算と引継ぎ3 家庭裁判所に対する報告4 法務局に対する終了登記第3 死亡直後の連絡1 大阪家庭裁判所の現在の案内2 本書の説明――「直ちに」と「連絡後2週間以内」第4 その後の書類を決める三つの分岐1 三つの分岐2 引継ぎが不要な場合3 本書が示す期限4 現在の期限は事務連絡で確認する第5 死亡時3点セットと報酬付与申立て1 死亡時3点セットの中身2 後見等事務報告書は定期報告と同じ書式で作る3 財産目録の基準日は死亡時4 報酬付与申立ての時期と費用5 死後事務についての付加報酬第6 死後収支報告書1 書式2 死亡時から引継時までの全ての収支を書く3 5万円を超える収支の裏付け資料4 財産が残らない場合第7 引継書と引継時の財産目録1 引継書の書式2 引継ぎの相手が相続人であることの説明3 引継書別紙の財産目録は引継時が基準日4 三つの書類の検算5 引継ぎの際の実務上の注意第8 4か月以内に引継ぎが終わらないとき1 進捗状況の報告2 連絡がないときの口座凍結の指示3 相続人間の紛争で合意を待つ場合の中間報告4 長期間が経過した後の相続債務の弁済第9 死後事務の許可申立てと報告との関係1 3号許可の申立て2 許可を得なかったことが当然に違法となるわけではない場面3 払戻しを求める金額は債務額に限る4 報酬の精算のための払戻し5 保佐人・補助人の場合第10 後見等監督人が選任されている場合1 書類は監督人を経由する2 監督人が確認すべきこと第11 本書の記述のうち現在は変わった点と確認できない点1 変わった点2 現在の公開資料では確認できない点第12 令和8年改正後の扱い1 補助への一元化と終了時の条文2 死後事務の規定3 施行日と経過措置第13 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人,被保佐人又は被補助人(以下「本人」という。)が死亡した後に,成年後見人,保佐人又は補助人(以下「後見人等」という。)が大阪家庭裁判所へ提出する報告書類について,提出の順序,書類ごとの作り方,期限及び誤りやすい点を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,e-Gov法令検索の未施行版と法務省が公表した法律案本文で確認した。

本人死亡後に元後見人が何をどの根拠で行うことができるか(民法873条の2の死後事務,応急処分及び事務管理)は,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で扱っている。
相続人が遺産を受け取らない場合の受領の催告,供託及び相続財産管理人の選任は,相続人が遺産を受け取らないとき――成年後見人の引継ぎ,受領の催告,供託,民法897条の2の相続財産管理人で扱う。
遺体・遺骨の引取りをめぐる親族との調整は,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき及び成年後見人の死後事務と遺骨の引取りで扱っている。
本記事は,これらと重複する説明を置かず,家庭裁判所に対する報告の側だけを対象とする。

2 素材とした本と,その記述の時点

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された「大阪家裁後見センターだより」の第1回から第41回までを再編したものであり,本記事が主に扱うのは,連載第8回(平成30年8月号初出),第19回(令和2年6月号初出),第21回(令和2年10月号初出),第22回(令和2年12月号初出)と,書記官の視点による小窓3本(連載第11回・平成31年2月号,第16回・令和元年12月号,第29回・令和4年2月号の各初出)である(本書240頁~268頁)。
本書1頁は,書籍化に当たって現在では取扱いが変わっているもの等について若干の修正や加筆をしたが,原則として初出当時の運用等を記載した記事であることに注意するよう求めている。
そこで本記事は,大阪家庭裁判所の成年後見のページ(令和8年9月19日確認)と「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で現在も確認できる事項と,本書の記載にとどまる事項とを分けて書く。
なお,連載は第42回以降も続いており,第42回は本人死亡後の事務の監督を扱っているが(大阪家裁後見センターだよりの一覧参照),本書には収録されておらず,本記事の素材には含めていない。

3 結論

①本人が死亡すると後見等は終了し,後見人等の代理権は消滅するが,相続人に対しては2か月以内に管理の計算をして財産を引き継ぐ義務が残り,家庭裁判所に対しては引継ぎまでの報告が求められる。
②大阪家庭裁判所の現在の案内は,本人が亡くなったら,2週間以内に死亡診断書又は除籍謄本のコピーを添えて裁判所に亡くなった旨を連絡し,その他に必要な書類は追って送付される事務連絡に従う,というものである。
③本書が説明する流れは,死亡を証する書面の提出→死亡時3点セット(死亡時までの後見等事務報告書,死亡時を基準日とする財産目録,裏付け資料)を添付した報酬付与申立て→報酬付与審判→死後収支報告書,引継書及び引継時の財産目録の提出,である。
④本書が示す期限は,引継ぎが必要な事案で本人死亡から4か月以内,報酬付与申立てをした結果として財産が残らない事案で報酬付与審判から1か月以内,報酬付与申立てをしないで財産が残らない事案で本人死亡から2か月以内である。
ただし,大阪家庭裁判所は現在これらの期限を一般には公表しておらず,個別の事務連絡で案内するとしているから,実際の期限は事務連絡で確認する必要がある。
⑤誤りが多いのは,死亡時の財産目録の基準日を作成日にしてしまうこと,死後の収支報告書に手持現金の収支だけを書くこと,引継書別紙の財産目録に死亡時の目録を流用することである。
死亡時の財産目録の預貯金・現金の合計に死後収支報告書の収支を加減すると,引継時の財産目録の合計になるはずであり,この検算で誤りの多くは防げる。
⑥引継書,死後の収支報告書及び報酬付与申立ての書類は,大阪家庭裁判所の成年後見のページと裁判所の後見ポータルサイトに掲載されている最新の書式を使う。
⑦令和8年改正後は,後見・保佐が補助に一元化され,管理の計算は民法876条の23,死後事務は民法876条の26に規定されるが,施行日前に開始した後見・保佐は原則として従前の例による。

第2 本人の死亡で終わるものと残る義務
1 後見等の終了と代理権の消滅

代理権は本人の死亡によって消滅する(民法111条1項1号)。
本書254頁注4は,死亡と同時に法定後見が終了し,本人の権利義務は相続人に帰属し,後見人等は管理権限を失うという重大な効果が発生すると説明している。

(続きを読む...)本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限(AI作成)

成年後見事件の記録の閲覧・謄写――家事事件手続法47条,親族・相続人からの請求と非開示の申出(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 家事事件手続法47条の仕組み1 手続の非公開と記録の閲覧等2 許可を要しない審判書等の交付3 録音テープ等と執務上の制限4 手数料と申請書式第3 「当事者」からの申立て1 後見等事件の「当事者」は誰か2 原則許可と不許可事由3 却下に対する即時抗告第4 「利害関係を疎明した第三者」からの申立て1 誰が第三者として申し立てるか2 相当と認めるときの許可3 即時抗告はできない第5 事件ごとに記録が分かれることの意味1 積み重なる後見等事件2 当事者性は事件ごとに判断される3 事実の調査がされた部分4 最高裁令和4年6月20日決定5 後見等開始事件の申立人への当てはめ第6 後見人等の側からみた情報管理1 記録は見られる前提で作る2 不要な個人情報を出さない3 非開示の申出4 提出の都度の申出と既提出書面の特定5 申出の効果と限界第7 親族・相続人の側からみた閲覧謄写1 親族2 本人死亡後の相続人3 解任を求める場合第8 秘匿制度との違い1 家事事件手続法38条の22 非開示の申出との比較第9 本書の記述と現在の違い第10 今後の法改正1 令和8年改正2 民事関係手続のIT化第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見・保佐・補助(以下「後見等」という。)の事件記録を,後見人等,本人,親族,相続人等が家庭裁判所で閲覧し,又は謄写(コピー)する手続と,後見人等が提出書類に含まれる情報を一定の者に見せたくない場合に行う「非開示の申出」について,大阪家庭裁判所の運用を中心に説明するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文,法律案本文及びe-Gov法令検索の未施行版で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)309頁~317頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載を再編したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載したものである(本書1頁)。
本記事で扱う部分は,連載第33回(令和4年12月号初出)の「事件記録の閲覧謄写について,非開示希望の申出について」(本書309頁~316頁)と,連載第20回(令和2年8月号初出)の小窓「非開示希望の申出」(本書317頁)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。),現在掲載されている「非開示の申出書(後見事件用)」等で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

2 結論

①後見等事件の記録は,家事事件手続法47条により,「当事者」又は「利害関係を疎明した第三者」が,家庭裁判所の許可を得て閲覧・謄写を請求できる。
②後見等事件で「当事者」に当たるのは基本的に申立人(及び参加人)であり,本人は申立人又は参加人でない限り当事者ではない。
当事者の申立ては原則として許可され(同条3項),却下されれば即時抗告ができる(同条8項)。
③後見人等,後見監督人等,本人,親族,相続人等は「利害関係を疎明した第三者」として申し立てることになり,家庭裁判所が相当と認めるときに許可される(同条5項)。
却下されても即時抗告はできない。
④本書によれば,弁護士が後見人等として申し立てた場合は相当広範囲で許可されている一方,親族の手続代理人として申し立てた場合とは許可される範囲が異なる。
⑤後見等の記録は,開始事件,監督事件,報酬付与事件等の事件ごとに作られ,当事者に当たるかどうかも事件ごとに判断される。
最高裁令和4年6月20日決定を踏まえると,開始事件の申立人であっても,開始後に後見人等が提出した財産目録や報告書については第三者として申し立てるにとどまると考えられる。
⑥大阪家裁ハンドブックは,本人や親族から閲覧謄写の請求があった場合,特別の事情がある場合を除いて裁判官が許可をすれば閲覧・コピーができるとし,後見人等に対し,見られる可能性を前提に書類を作成するよう求めている。
⑦開示されたくない情報(本人・親族の住所,居所,就業場所,虐待に至る経緯等)があるときは,大阪家庭裁判所の「非開示の申出書(後見事件用)」を提出する。
申出は書類を提出する都度必要であるが,現在の書式では,既に提出した書面を日付や名称で特定して申し出ることもできる。
⑧非開示の申出は,家庭裁判所が閲覧謄写の許否を判断する際の資料であって,必ず非開示になるわけではない。
⑨これとは別に,家事事件手続法38条の2により,民事訴訟法の住所・氏名等の秘匿制度が家事事件にも一部準用されている。
⑩令和8年改正は家事事件手続法47条の文言を変えていない。
他方,民事関係手続のIT化に伴う改正により,同条は「非電磁的家事審判事件記録」の閲覧等の規定に改められ,電磁的記録の閲覧等の規定(47条の2)が新設される予定である(基準日現在は未施行)。

第2 家事事件手続法47条の仕組み
1 手続の非公開と記録の閲覧等

家事事件手続法33条は,「家事事件の手続は、公開しない。ただし、裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。」と定める。
後見等の事件記録には,本人の病状,財産,家族関係,施設や住所等の情報が多く含まれるから,誰でも自由に見られるものではない。

(続きを読む...)成年後見事件の記録の閲覧・謄写――家事事件手続法47条,親族・相続人からの請求と非開示の申出(AI作成)

任意後見と法定後見はどちらが優先するか――任意後見契約法10条1項・4条1項2号と裁判例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 優先関係を定める条文1 任意後見契約が先に登記されている場合2 法定後見が先に開始している場合3 任意後見契約が終了するかどうか4 併存を認めない理由5 利用の規模第3 前提問題――任意後見契約が有効であること1 有効な契約が任意後見監督人選任の前提となる2 公正証書と公証人の確認3 即効型で問題になりやすい4 有効性が争われた裁判例5 有効性の判断資料第4 「本人の利益のため特に必要」の意味1 特別の必要性2 立法担当者が挙げた例3 裁判例による類型化第5 裁判例の内容1 大阪高裁平成14年6月5日決定2 大阪高裁平成24年9月6日決定(第二の争点)3 福岡高裁平成29年3月17日決定4 高松高裁令和元年12月13日決定5 水戸家裁令和2年3月9日審判6 名古屋高裁平成26年2月7日決定7 結論の向き第6 大阪家裁後見センターの考え方1 受任者の適格性が中心となる2 親族間の対立だけでは足りない3 後見センターが挙げる2つの例4 相談を受けた弁護士の留意点第7 大阪家裁への任意後見監督人選任申立て1 申立先と手続の流れ2 必要書類3 法定後見の登記されていないことの証明書4 本書から変わった郵便料第8 令和8年改正後の優先関係1 施行時期2 任意後見開始の審判3 補助との関係4 経過措置第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,任意後見契約が登記されている本人について法定後見(後見・保佐・補助)の開始が申し立てられた場合,又は既に法定後見が開始している本人について任意後見監督人の選任が申し立てられた場合に,どちらの制度が優先するかを扱う。
中心となるのは,任意後見契約に関する法律(以下「任意後見契約法」という。)10条1項と4条1項2号にいう「本人の利益のため特に必要がある(である)と認めるとき」の意味と,その該当性が争われた裁判例である。
基準日は令和8年9月19日であり,条文は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律。以下「改正法」という。)による改正後の条文は,e-Gov法令検索の未施行版と改正法の法律案本文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)の第6章(任意後見)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載をまとめたもので,原則として各回の初出当時の運用を記載したものである(本書1頁)。
本記事で扱う回は,連載第9回(平成30年10月号初出,本書269頁~277頁),連載第10回(平成30年12月号初出,本書278頁~285頁),連載第38回(令和5年12月号初出,本書286頁~292頁)及び小窓「任意後見監督人選任申立てについて」(連載第10回初出,書籍化の際に令和6年6月時点の内容に更新,本書293頁)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の「任意後見制度」のページ,「提出書類一覧表(任意後見)」(令和8年2月)及び「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

移行型の任意後見契約の仕組みや濫用防止策は移行型の任意後見契約―通常委任からの移行,濫用防止及び令和8年改正で,独身の高齢者が任意後見契約を結ぶ意味は独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由で扱っているので,本記事では優先関係の判断に絞る。

2 結論

①任意後見契約が登記されていれば,任意後見監督人の選任の前後を問わず,家庭裁判所は「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り後見開始の審判等をすることができる(任意後見契約法10条1項)。
②既に法定後見が開始している本人について任意後見監督人の選任が申し立てられた場合は,法定後見の継続が「本人の利益のため特に必要であると認めるとき」を除き,任意後見監督人を選任して法定後見開始の審判を取り消す(同法4条1項2号・2項)。
③いずれの場面でも任意後見が原則であり,「特に必要」とは,任意後見契約の効力を否定して本人の自己決定が尊重されない結果となっても,なお法定後見を優先させるべき特別の必要性を意味すると本書は説明している(本書279頁)。
④裁判例は,代理権の範囲の不足,報酬の過大,受任者の不適格事由,契約の有効性への客観的な疑念,本人が法定後見を選ぶ意思を持っていることなど,任意後見契約によることが本人の保護に欠ける結果となる場合を「特に必要」に当たるとしている。
⑤実際に争われる事案の多くは親族間紛争であり,大阪家裁後見センターは,任意後見受任者の適格性に重点を置いて判断する例が多いとしている(本書290頁~291頁)。
もっとも,親族間に深刻な対立があるというだけでは,親族を任意後見人とすべきでない理由にはならないとも述べている(本書284頁注7)。
⑥本書が紹介する裁判例の結論は一方向ではなく,法定後見を優先させたもの(大阪高裁平成24年9月6日決定の判断内容,福岡高裁平成29年3月17日決定,水戸家裁令和2年3月9日審判)と,任意後見を優先させたもの(高松高裁令和元年12月13日決定)がある。
⑦大阪家裁への任意後見監督人選任申立ての郵便料は,本書の3,990円(令和6年6月現在)から,現在は郵便切手4,500円分,又は保管金5,000円と郵便切手1,100円分(本庁は切手不要)の選択制に変わっている。
⑧改正法の施行後は,任意後見の開始は「任意後見開始の審判」となり,法定後見は補助に一元化される。
登記された任意後見契約がある場合の補助開始は引き続き「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限られる(改正後の任意後見契約法14条1項)が,現行10条3項に当たる規定は置かれておらず,補助と任意後見の併存を前提とした構造に変わる。

第2 優先関係を定める条文
1 任意後見契約が先に登記されている場合
(1) 10条1項

任意後見契約法10条1項は,「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。」と定める。
「後見開始の審判等」は,後見開始,保佐開始又は補助開始の審判の総称である(同法4条2項)。
この規定は,任意後見監督人が選任される前(任意後見契約が発効する前)にも,選任された後にも適用される(本書278頁)。
任意後見契約が公正証書で締結され(同法3条),登記されている限り,法定後見の申立てをした親族の側が「特に必要」であることを示せなければ,法定後見は開始されない。

(続きを読む...)任意後見と法定後見はどちらが優先するか――任意後見契約法10条1項・4条1項2号と裁判例(AI作成)

本人による後見等開始の申立て――手続行為能力,申立意思の確認と説明状況報告書(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 本人申立ての位置付け1 本人は申立権者である2 本人申立ての件数3 本人申立てが問題になる場面第3 申立人である本人の手続行為能力1 家事事件手続法118条の意味2 「一時的な回復」が必要であるという考え方3 意思能力の判断枠組み4 本人が理解し得ることが求められる内容第4 大阪家庭裁判所後見センターの調査の着眼点1 普段の能力の程度2 専門職の説明内容と本人の反応3 意思能力の認定が困難となる例4 制度利用の必要性が高いほどかかるバイアス第5 申立意思の確認1 手続行為能力とは別に申立意思を確認する理由2 受理面接・調査官調査と説明状況報告書第6 説明状況報告書1 名称と沿革2 提出を求められる場面の拡大3 記載すべき5点4 代理権・同意権の説明5 説明の方法の工夫6 本人の反応の確かめ方と記載7 様式はなく,問答形式で書く8 後見開始以外の事件での活用第7 申立て前に整えるべき資料1 申立関係書類の精査と補充書面2 診断書3 本人情報シート4 診断書と申立ての類型が一致しない場合5 保佐・補助の申立てで気を付けること第8 本人の意思能力に疑義が残る場合1 親族申立て・市町村長申立てへの切替え2 親族申立ての場合の本人への説明3 取下げの制限第9 大阪家庭裁判所の受理面接と審理の現在1 受理面接の運用の変遷2 鑑定3 費用第10 本書の記述のうち現在は変わった点第11 令和8年改正後の本人申立て1 補助への一元化と本人の請求権2 本人の同意3 手続の規定4 説明すべき法律効果の変化5 施行日と経過措置第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見・保佐・補助を受けることになる本人自身が申立人となって後見等開始の審判を申し立てる場合(以下「本人申立て」という。)について,申立人である本人の手続行為能力,家庭裁判所による申立意思の確認,大阪家庭裁判所後見センターが提出を求めることがある「説明状況報告書」の書き方,申立て前に整えるべき診断書・本人情報シート等の資料,本人の能力に疑問がある場合の対応及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表している同法律の法律案本文及び新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された「大阪家裁後見センターだより」の第1回から第41回までを内容ごとに並べ替えて書籍化したものである。
本書1頁は,書籍化に当たり現在では取扱いが変わっているもの等について若干の修正・加筆をしたが,おおむね連載内容のままであり,原則として初出当時の運用等を記載したものであることに注意を求めている。
そのため,本記事では本書の記述ごとに連載回と初出の号を示し,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,申立てのチェック表(令和8年2月1日版)及び同庁が掲載する書式で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

2 結論

①本人は後見・保佐・補助のいずれについても開始の審判の申立権者であり(民法7条,11条,15条1項),令和7年の全国の統計では申立人の約24.8%を本人が占め,最も多い。
②もっとも,後見開始の審判事件で本人が自ら手続行為をすることができるのは,本人が意思能力を有する限りにおいてであり,意思能力を欠く本人は自ら申し立てることも,弁護士に手続を委任することもできない(本書29頁)。
③大阪家庭裁判所後見センターは,本人申立てが適法であるためには,事理弁識能力を欠く常況にある本人の能力が一時的に回復し,少なくとも申立ての時点で意思能力があったと認められる必要があると考えており,普段の能力の程度と,専門職による説明の内容及びそれに対する本人の反応に着目して一件記録を調査している(本書30頁~32頁)。
④家庭裁判所は,手続行為能力とは別に,本人が申立ての内容と法律効果を理解した上で実際に申し立てる意思(申立意思)を有しているかも確認している(本書44頁~45頁)。
⑤そのための資料として,大阪家庭裁判所後見センターは,本人に何をどう説明し,本人がどう反応したかを具体的に記載した「説明状況報告書」の提出を求めることがあり,令和6年4月以降は親族申立てや保佐・補助の申立ても含めて,やや広い範囲で提出を求める方針を示している(本書53頁~57頁)。
⑥説明状況報告書には,後見人等の選任,権限,行為能力の制限,報酬及び継続性の5点について,説明内容と本人の応答をできるだけ問答形式で記載する(本書51頁~52頁)。
⑦説明が福祉的な利点に偏り本人に不利益な効果を説明した形跡がないもの,本人の反応がうなずきや「はい」にとどまるものは,意思能力や申立意思の認定が困難になりやすい(本書32頁~33頁,47頁)。
⑧本人の意思能力に疑義が残る場合には,親族申立てや市町村長申立てを検討すべきであるというのが大阪家庭裁判所後見センターの考え方である(本書34頁~35頁)。
⑨令和8年改正後も,本人は補助開始の審判の請求権者であり続けるが,後見・保佐は補助に一元化され,説明すべき法律効果の中身や,家庭裁判所が必要がなくなった審判を取り消すことができる点が変わる。

第2 本人申立ての位置付け
1 本人は申立権者である

民法7条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」と定める。
保佐開始(民法11条)と補助開始(民法15条1項)についても,請求権者の最初に「本人」が挙げられている。
申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所であり(家事事件手続法117条1項),大阪家庭裁判所の成年後見のページは,申立先について「住民票のある住所ではありません」として,本人が現在住んでいる自宅,病院,介護施設などを基準としている。

2 本人申立ての件数

最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」4頁によれば,後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任事件の終局事件の申立人の関係別の総数42,829件のうち,本人は10,620件で約24.8%を占め,最も多い。
次いで市区町村長が10,139件(約23.7%),本人の子が約18.5%の順である。
なお,同概況の本人の件数には,比較的判断能力が保たれている保佐・補助の申立てや任意後見監督人選任の申立ても含まれるから,本人による後見開始の申立てがこれだけあるという意味ではない。

3 本人申立てが問題になる場面

(続きを読む...)本人による後見等開始の申立て――手続行為能力,申立意思の確認と説明状況報告書(AI作成)

成年後見人等の辞任と交代――正当な事由,後任選任の同時申立て,市民後見人へのリレー(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 辞任と交代の法的な枠組み1 辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要である2 辞任した後見人等は後任の選任を請求しなければならない3 「交代」は辞任と選任の組合せである4 辞任した後見人等に残る義務第3 「正当な事由」はどう判断されるか1 本書が示す4つの場面2 大阪家裁ハンドブックと申立書の記載3 本人が転居しても管轄は開始した家庭裁判所にある第4 大阪家庭裁判所への辞任許可と後任選任の申立て1 同時申立てが原則である2 費用3 添付資料4 本人の陳述聴取――陳述書と上申書5 候補者の意見聴取6 不服申立て第5 後任の後見人等がすること1 初回の財産目録と収支予定2 引継ぎの実際第6 大阪家庭裁判所が進める交代の考え方1 第二期成年後見制度利用促進基本計画2 交代の3つの類型3 交代の時期を最初に共有する4 「課題の解決」の意味5 身上保護が困難な事案での交代第7 専門職後見人の追加選任1 根拠条文2 親族後見人の事務に問題がある場合3 不正が疑われる事案で追加選任された専門職後見人の事務4 スポット的な選任5 複数の専門職後見人が選任された場合と課題解決後の辞任6 後見監督人から見た辞任と追加選任第8 市民後見人へのリレー1 大阪家庭裁判所管内の市民後見人2 市民後見人の選任に適した事案3 現行の書式「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」4 リレーの手順5 首長申立てでリレーを前提に専門職を推薦する運用6 リレーが進まない理由と後見センターの考え第9 令和8年改正後の辞任と交代1 施行の時期2 改正後の条番号3 解任事由3号が交代の道具になる4 既存の成年後見人・保佐人への経過措置5 お尋ねの書式と市民後見人のリレーはどうなるか第10 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,家庭裁判所が選任した成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という。)が途中で辞任し,別の者と交代する場面について,辞任の要件である「正当な事由」,大阪家庭裁判所への辞任許可と後任選任の同時申立て,本人の陳述聴取,専門職後見人の追加選任及び市民後見人へのリレーを取り上げるものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令APIで取得して確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文と法律案本文で確認した。
素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)の169頁~180頁,302頁~308頁及び156頁~161頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載を書籍にまとめたものであり,本書1頁は,原則として初出当時の運用を記載した記事であることに注意するよう求めている。
そのため,本記事では本書の記述ごとに連載の回と初出号を示し,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ(令和8年9月19日取得),「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)及び同ページ掲載の書式で確認できた範囲で書く。
解任については成年後見人の解任理由で扱っているので,本記事では辞任と交代に必要な限度でだけ触れる。

2 結論

①後見人等は,正当な事由があるときに限り,家庭裁判所の許可を得て辞任することができる(民法844条,876条の2第2項,876条の7第2項)。
②辞任によって新たな後見人等を選任する必要が生じたときは,辞任した後見人等は遅滞なく後任の選任を請求しなければならない(民法845条)。大阪家庭裁判所は,辞任許可の申立てと同時に後任選任の申立てをするよう求めている。
③本書(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後見人等の遠隔地への転居・老齢・疾病を原則として正当な事由とし,専門職が関与すべき課題が解決して親族や市民後見人に引き継げる場合も一般に正当な事由があるとする。他方で,本人や親族との信頼関係が築けないことは,それだけで直ちに正当な事由になるのではなく,総合的に判断するとしている。
④後任の選任には本人の陳述聴取が手続要件であり,大阪家庭裁判所は,本人が陳述できれば「本人の陳述書」,意思疎通ができない等の場合は「上申書」を添付するよう求めている。
⑤現在の費用は,辞任許可と後任選任を同時に申し立てる場合,収入印紙1,600円分,登記用収入印紙1,400円分及び郵便切手5,500円分(候補者1人の場合)である。
⑥本書(連載第31回・令和4年6月号初出)は,後見人等の交代を3つの類型に分け,専門職が課題を解決した後に親族や市民後見人へ引き継ぐことを「リレー」と呼び,専門職後見人に辞任の可否と時期の検討を求める機会が増えるとしていた。
⑦この考え方は,令和7年4月1日版の書式「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」として具体化されており,現在,大阪家庭裁判所は,専門職の成年後見人に対し,定期報告と報酬付与申立ての際にこの書式を提出するよう求めている。
⑧親族後見人の事務に問題がある場合,大阪家庭裁判所は,辞任・解任までの間などに専門職後見人を追加選任して権限を分掌させることがある。本書はこれをリレーの「テイクオーバーゾーン」に例えている。
⑨令和8年改正後は,辞任は改正後の民法876条の3,後任選任の請求は876条の4に移る。施行日前に開始した成年後見の成年後見人の辞任は従前の例によるが,解任は改正後の民法876条の5によるから,「本人の利益のため特に必要があるとき」(同条1項3号)という解任事由が,交代のもう一つの道具になる。

第2 辞任と交代の法的な枠組み
1 辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要である

民法844条は,「後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」と定める。
保佐人と補助人にも同条が準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。
成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人にも同条が準用されるから(民法852条,876条の3第2項,876条の8第2項),監督人の辞任にも正当な事由と許可が必要である。

本書169頁(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後見人等は,本人の心身の状態や生活・財産の状況,後見人等となる者の職業・経歴,利害関係の有無,本人の意見その他一切の事情を考慮して(民法843条4項等),後見等の事務の適任者として選任されているから,自由な辞任を認めると本人の利益が害されるおそれがあり,そのため辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要とされていると説明する。
大阪家裁ハンドブック(Q22)も,後見人は本人の保護のため裁判所から適任者と認められて選任されたのだから,自由に辞任できることにすると本人の利益を害するおそれがあると説明している。

2 辞任した後見人等は後任の選任を請求しなければならない

民法845条は,「後見人がその任務を辞したことによって新たに後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
保佐人・補助人にも同条が準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。

(続きを読む...)成年後見人等の辞任と交代――正当な事由,後任選任の同時申立て,市民後見人へのリレー(AI作成)

大阪家裁の総合支援型後見監督人――対象,9か月の支援期間,到達点,延長と「横滑り」(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 前提となる後見監督人の職務と従来型の監督1 後見監督人の職務と権限2 大阪家裁の従来の選任類型3 監督人が指導・助言をする際の留意点第3 総合支援型後見監督人の理念1 定義と運用開始2 なぜ家庭裁判所が親族後見人を支援するのか3 中核機関等の支援との違い4 「見張る人」から「支援する人」へ第4 対象事案,選任の手続及び報酬1 対象事案2 選任される専門職3 申立てから開始まで4 報酬第5 親族後見人の「到達点」1 到達点の位置付け2 到達点の内容(現行の文言)3 本書の文言との違い4 「後見人に求められる後見事務のポイント」第6 当初支援期間(9か月)の流れ1 選任直後2 初回報告3 初回報告から2回目報告まで4 2回目報告5 当初支援期間中に本人が死亡した場合第7 当初支援期間の終了と延長1 当初想定された延長の類型2 裁判所が判断する5つの類型3 運用の実績4 延長17件はいずれも支援商品の契約支援5 期間の経過前に支援を終えることは予定されていない6 9か月という期間の根拠第8 支援商品との関係1 報告書兼指示書を出す時期2 リレー方式との区別3 現行の書式第9 「横滑り」の可否1 問題の所在2 定期確認型への横滑りは原則として認めない3 個別課題支援型への横滑りは認めることがある4 専門職後見人への横滑りも原則として認めない第10 アンケートに見る実情と監督人の心構え1 アンケートの概要2 親族後見人への説明3 意思決定支援はどこまで求められるか4 報告事務の到達水準――「きれいな」報告は求めない5 支援商品の説明第11 本書の記述と現在の資料の対照第12 令和8年改正後の総合支援型後見監督人1 改正の内容2 同意権の規定の変化3 経過措置第13 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪家庭裁判所が令和4年2月から運用している「総合支援型後見監督人」について,その理念,対象事案,9か月の当初支援期間の流れ,親族後見人の「到達点」,支援期間の延長,支援商品(後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金)との関係,監督人の「横滑り」の可否及び令和8年改正後の見通しを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日である。
法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文と附則は,法務省が公表した新旧対照条文と法律案本文で確認した。
素材は,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)181頁~225頁である。
本書は月刊大阪弁護士会の連載をまとめたもので,原則として各回の初出当時の運用を記載している(本書1頁)。
本記事の範囲は,連載第27回(令和3年10月号),第28回(令和3年12月号),第29回(令和4年2月号),第30回,第39回(令和6年2月号)及び第41回前編・後編(令和6年6月号・7月号)の各初出記事である。
第30回の初出号は本文の表示が読み取れないが,同じ回の小窓(本書66頁)が令和4年4月号初出とされているから,同号と考えられる。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ(令和8年9月19日取得。以下「大阪家裁ページ」という。),「【総合支援型後見監督版】成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」(令和8年5月1日版。以下「総合支援型ハンドブック」という。),案内書面「後見開始の申立てをお考えの方へ~後見人支援のご案内~」(令和4年2月1日版。以下「後見人支援のご案内」という。)及び同ページ掲載の書式で確認し,確認できなかった点は本書の記載にとどまるものとして区別する。
後見監督人一般の選任基準,職務及び責任は後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編で,大阪家裁後見センターの組織と沿革は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っているので,本記事では総合支援型に固有の事項を中心に書く。

2 結論

①総合支援型後見監督人は,初めて後見人となった親族後見人の後見事務全般を監督するほか,積極的・能動的に指導・助言・相談対応を行って親族後見人を総合的に支援する専門職の後見監督人であり,大阪家庭裁判所は令和4年2月1日以降に申し立てられた後見開始事件でこれを選任する運用を続けている。
②法律上の制度ではなく,民法の後見監督人(民法849条)の職務の範囲内で行う運用上の工夫であり,監督人の「支援」は監督事務に付随する事実行為と位置付けられている。
③対象は,親族の後見人候補者がいる後見類型の事案のうち,本人の流動資産が比較的高額な事案である。
本書にも大阪家庭裁判所の現行の公表資料にも,流動資産の基準額は書かれていない。
④当初支援期間は9か月であり,監督人は審判確定日から2か月と1週間以内に初回の監督事務報告書を,9か月後に2回目の監督事務報告書を提出し,2回目の報告で親族後見人が「到達点」に達したかどうかと今後の後見体制について意見を述べる。
⑤到達点は,意思決定支援,財産管理事務,身上保護事務,報告事務及び地域における相談窓口理解の5つの観点で定められており,専門職の後見人と同程度の水準を求めるものではない。
地域における相談窓口理解の到達点は,令和8年5月版の総合支援型ハンドブックで表現が具体化されている。
⑥支援期間は,後見開始の審判確定から最長2年の範囲で延長されることがあるが,本書によれば,延長された17件はいずれも到達点に達した後の支援商品の契約支援が理由であった。
当初支援期間の経過前に到達と判断して支援を終えることは予定されていない。
⑦支援商品の報告書兼指示書は,到達点に達したことを前提とするので,早くても2回目報告の直前に,到達の判断理由と併せて提出すべきものとされている。
⑧支援終了後に同じ専門職を定期確認型の監督人又は専門職後見人として続けさせる「横滑り」は,特段の事情がない限り認められず,個別課題支援型の監督人への横滑りは事情により認められている。
⑨令和8年改正により後見類型は廃止されて補助に一元化され,成年後見監督人も補助監督人に一元化されるが,施行日前に後見開始の審判を受けた本人とその成年後見人・成年後見監督人には原則として従前の例が適用される。
改正後の対象事案をどう定めるかについて,大阪家庭裁判所の公表資料は基準日現在見当たらない。

第2 前提となる後見監督人の職務と従来型の監督
1 後見監督人の職務と権限

家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被後見人,その親族若しくは後見人の請求により又は職権で,後見監督人を選任することができる(民法849条)。
後見監督人の職務は,後見人の事務を監督すること,後見人が欠けた場合に遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること,急迫の事情がある場合に必要な処分をすること,及び利益相反行為について被後見人を代表することである(民法851条)。

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成年後見人は本人の財産から何に支出できるか――親族の交通費・祝い金・扶養・贈与と大阪家裁の考え方(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 支出の法的な枠組み1 包括的な財産管理権と代理権2 意思の尊重,身上配慮及び善管注意義務3 支出金額の予定と後見事務の費用4 家庭裁判所の監督と解任5 保佐人・補助人の場合第3 後見センターの監督の考え方の転換1 平成27年頃までの運用2 現在の考え方3 弁護士が選任される場面と裁量第4 本人の生活の質を高める支出1 原則として制約しない2 具体例第5 親族のための支出1 見舞いの旅費,外出同行の交通費・食事代2 孫・甥・姪への祝い金やお年玉3 生前贈与と保険契約4 親族の扶養5 贈与・祝儀を中止し又は減額できる場合第6 本書と大阪家裁ハンドブックの違いをどう読むか1 対象者の違い2 実務上の目安3 連絡票の書き方第7 事前の手続が必要な場面1 遺産分割と相続放棄2 居住用不動産の処分と利益相反3 債務の返済と消滅時効第8 定期報告での記載1 自主報告方式と報告遅滞2 想定上の現預貯金額との乖離3 本人以外の人のための支出の欄4 臨時支出と後見人等の報酬5 定期収支の変動と二重計上第9 本書の記述のうち現在変わった点第10 令和8年改正後の扱い1 補助への一元化と支出金額の予定2 意向の把握と尊重3 報告,解任及び金銭の消費4 経過措置第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人等が,成年被後見人等(以下「本人」という。)の財産から,本人以外の親族のための支出や,本人の生活の質を高めるための支出をすることができるかについて,民法の枠組み,大阪家庭裁判所後見センター(以下「後見センター」という。)の考え方及び定期報告での記載の仕方を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表した法律案本文と新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載(平成29年5月号~)を再編したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載し,書籍化の際に一部だけを令和6年6月時点に修正したものである(本書1頁)。
支出の考え方を正面から扱うのは連載第1回(平成29年5月号初出。本書71頁~76頁)であり,本書71頁の冒頭には,同回が主に後見等監督の基本的理念を説明した内容である旨の注記がある。
そのため,本記事では,本書の記述がいつの時点のものかを示し,現在の大阪家裁の運用は,同庁の成年後見のページと「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。

2 結論

①成年後見人は本人の財産を包括的に管理し,財産に関する法律行為について本人を代表する(民法859条1項)。何に支出してよいかを個別に列挙した条文はなく,支出の当否は,本人の意思の尊重・身上配慮(民法858条)と善管注意義務(民法869条,644条)の枠内での後見人の裁量の問題となる。
②後見センターは,連載第1回(平成29年5月号初出)で,後見等監督の対象は解任事由の存否であり,就職の初めに提出された収支予定(民法861条1項)の範囲内の支出の当否まで積極的に調査する必要はないとの考え方を示した(本書73頁)。
③同回は,専門職後見人等について,個室入院,介護用品,親族の見舞いの旅費や外出同行の交通費・食事代,財産に余裕がある場合の孫等への祝い金・お年玉は,連絡票による事前の相談なしに後見人の判断で支出してよいとし,毎年の生前贈与,本人を契約者とする保険契約及び親族の扶養は事前の相談も考えられるとした(本書74頁~76頁)。
④他方,現在の大阪家裁ハンドブックは,主に親族後見人を念頭に,本人の生活費・扶養義務を負う配偶者や未成年の子の生活費・債務の返済・後見事務費を支出できるものとして挙げ,常識的な範囲の香典や祝儀は支出してよい場合が多いとしつつ,50万円以上の支出は事前に連絡票で連絡し,配偶者や子,孫などへの贈与・貸付けは原則として認められないとしている(大阪家裁ハンドブック16頁~17頁,41頁)。専門職に限って事前相談を不要とする取扱いは,現在の公表資料では確認できなかった。
⑤事前相談が不要な支出でも,事後の報告は必要である。令和7年4月からの全国統一書式の定期報告書は,本人以外の人(親族や後見人等を含む)のために支出したものの有無を問い,いつ,誰のために,いくらを,どのような目的で,どのような理由で相当と判断して支出したかを支出ごとに記載させる。
⑥令和8年改正後は法定後見が補助に一元化され,補助の節には現行民法861条1項(支出金額の予定)に相当する規定は置かれていない。他方,補助人には意向の把握・尊重義務(改正後の民法876条の11)と毎年の報告義務(同法876条の21)が課される。

第2 支出の法的な枠組み
1 包括的な財産管理権と代理権

民法859条1項は,「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」と定める。
本人の財産から誰かに金銭を支払うこと,本人の名で贈与をすること,本人を契約者として保険契約を結ぶことは,いずれもこの包括的な権限の範囲内の行為である。
民法には,後見人が本人の財産から何に支出してよいかを列挙した規定はない。
居住用不動産の処分(民法859条の3)のように家庭裁判所の許可を要する行為や,利益相反行為(民法860条,826条)のように特別代理人等を要する行為を除けば,支出するかどうかは後見人が判断することになる。

2 意思の尊重,身上配慮及び善管注意義務

民法858条は,「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定める。
また,民法869条は644条を後見について準用しており,後見人は善良な管理者の注意をもって後見の事務を処理する義務を負う。
支出の当否は,本人の意思(推定的意思を含む。)と本人の生活の質,本人の財産の今後の見通しとを比べて判断することになる。

大阪家裁ハンドブック16頁(Q10)も,生活費の支出について,支出の必要性,本人の財産の総額,今後の収入の見込み,金額等から見た相当性を中長期的な展望に立って検討するよう求める一方で,これは現在ある財産をなるべく減らさないことだけを考えれば足りるという意味ではなく,本人の意向を踏まえ,本人がよりよい生活を送るためにはどうすればよいかという意識をもって判断するよう求めている。

3 支出金額の予定と後見事務の費用

民法861条1項は,「後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。」と定め,同条2項は,「後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。」と定める。

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成年後見人等が就任したら最初にすること――大阪家裁への初回報告(財産目録・収支予定表)の期限と作り方(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 就任直後の数週間にすること1 後見人等としての活動を始める時期2 後見人等であることの証明3 財産の引継ぎと調査4 基本事件番号と連絡票第3 初回報告の法的根拠1 成年後見人――民法853条・861条1項2 保佐人・補助人――民法863条による運用3 目録作成前の権限と債権債務の申出4 初回報告を求める趣旨第4 提出期限1 本書が記載する期限2 現行の公式資料で確認できる範囲3 起算点4 期限に間に合わないとき5 初回報告の後の定期報告第5 提出する書類1 現行の書類の組合せ2 添付資料3 後見等事務報告書(初回報告)の内容4 総合支援型後見監督人が選任されている場合第6 財産目録の作り方1 「不明」ばかりの目録は相当でない2 全体像の完全な解明までは求められない3 本人の財産が事実上の管理者の手元にある場合4 保佐人・補助人が本人から通帳を受け取れない場合5 多額の現金・貸金庫・施設預け金6 預り金口座での管理7 相続財産目録第7 収支予定表の作り方1 客観資料に基づいて作る2 特に裏付けが必要な費目3 記載の方法4 後見人等の報酬は支出予定に入れない5 本人の意思を踏まえた方針第8 就任直後の本人の状況把握1 申立ての段階で集めておく情報2 本人の意思・意向を報告に書く3 課題の進捗を報告する4 申立て前の説明不足が就任後に影響すること第9 本書の記述のうち現在は変わった点・確認できなかった点第10 令和8年改正後の初回報告1 財産目録の作成義務は特定補助人へ2 支出金額の予定と裁判所への報告3 意向の把握4 施行日と経過措置第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪家庭裁判所(以下「大阪家裁」という。)で成年後見人,保佐人又は補助人(以下「後見人等」という。)に選任された者が,就任直後に行う財産調査と,最初に家庭裁判所へ提出する報告(以下「初回報告」という。)について,法的根拠,提出期限,提出書類,財産目録と収支予定表の作り方及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文及び法律案本文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された記事を再編したものであり,本書1頁によれば,書籍化に当たって一部を修正・加筆したものの,原則として初出当時の運用を記載したものである。
そのため,本記事では,本書の記述を引くときは連載の回と初出号を示し,現在の運用は,大阪家裁の成年後見のページ(令和8年9月19日閲覧)及び「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」令和8年2月1日版(以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。
現行資料で確認できなかった点は,本書の記載にとどまるものとして区別する。

後見等事務報告書の各欄の書き方は令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で,大阪家裁後見センターの組織と沿革は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っているので,本記事では初回報告に固有の事項に絞る。

2 結論

①成年後見人は,遅滞なく本人の財産の調査に着手し,1か月以内に調査を終えて財産目録を作成しなければならず(民法853条1項),就任の初めに毎年支出すべき金額を予定しなければならない(民法861条1項)。
②保佐人・補助人にはこれらの規定が準用されていないが,大阪家裁は,民法863条1項(民法876条の5第2項,876条の10第1項で準用)を根拠に,預貯金に関する代理権を付与された保佐人・補助人にも初回報告を求めている(本書83頁~84頁)。
③提出期限は,審判書謄本に同封される「手続の流れ」に記載される(大阪家裁ハンドブック34頁)。本書(連載第40回・令和6年4月号初出)によれば,自薦の後見人等は審判確定日から1か月以内,専門職団体の推薦による後見人等は1か月と3週間以内,総合支援型後見監督人は2か月と1週間以内である。このうち現行の公式資料で確認できたのは,大阪家裁ハンドブックQ6の「後見人就任後、1か月以内」と,総合支援型後見監督人の「審判確定日から2か月と1週間以内」である。
④財産目録の作成期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることができるのは成年後見人(及び未成年後見人)だけであり,保佐人・補助人・監督人は,間に合わない事情と提出見込み時期を連絡票で知らせる。
⑤現在の初回報告は,後見等事務報告書(初回報告),財産目録(未分割の相続財産があれば相続財産目録を含む。),収支予定表及び添付資料の組合せである。本書の時点の「初回財産目録等」(財産目録と収支予定表)に,報告書が加わっている。
⑥大阪家裁は,財産の全体像を完全に解明することまでは求めないが,預貯金や現金の大半を「不明」とし,今後の調査の見通しも示さない財産目録は相当でないとする(本書86頁)。
⑦事実上の管理者から通帳の引渡しを受けられないことだけを理由に初回報告が大幅に遅れることも相当でなく,金融機関への通知と取引履歴の取得,年金受取口座の変更,郵便物の回送嘱託等を検討する(本書86頁~87頁)。
⑧収支予定表は通帳,保険証券,領収書等の客観資料に基づいて作り,後見人等の報酬は支出予定に入れず,受け取った時点の臨時支出として報告する(本書89頁,97頁,108頁)。
⑨初回報告の報告書では,本人の生活や財産についての方針が本人の意思に沿っているかを選択肢で答え,本人との面談等の状況も記載するから,就任直後から本人と支援者に会って意思・意向を把握しておく必要がある。
⑩令和8年改正後は,財産目録の作成義務は特定補助人に限って民法876条の15に置かれ,支出金額の予定の規定は補助には置かれない。ただし,施行日前に後見開始の審判を受けた本人の成年後見人には,原則として従前の例による(改正法附則2条1項)。

第2 就任直後の数週間にすること
1 後見人等としての活動を始める時期

後見開始の審判は,即時抗告をすることができる審判であるから,確定しなければ効力を生じない(家事事件手続法74条2項ただし書,123条1項1号)。
即時抗告の期間は2週間であり(家事事件手続法86条1項),審判の告知を受ける者でない者による即時抗告の期間は,成年後見人に選任される者が審判の告知を受けた日から進行する(同法123条2項)。
大阪家裁ハンドブック(Q5,9頁)も,後見人が審判書謄本を受け取ってから2週間が経過した後に正式に後見人として活動することができ,不服申立てがあれば裁判所から別途連絡がある,と説明している。
保佐・補助の場合は,本人と保佐人・補助人のうち遅く審判書謄本を受け取った日から2週間とされている(同頁)。

2 後見人等であることの証明

後見人等であることは,法務局で登記事項証明書の交付を受けて証明するのが原則である(大阪家裁ハンドブックQ5,9頁)。

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成年後見人と生活保護――申請の代理,世帯分離,資産の保有及び63条返還(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 生活保護の仕組みと最低生活費1 保護の要件と世帯単位の原則2 8種類の扶助と給付の方法3 生活扶助の構造4 入院したときの入院患者日用品費5 冬季加算6 障害者加算7 住宅扶助8 入院・入所中の住宅扶助の継続第3 保護の申請と成年後見人1 要否判定と開始時の手持金2 申請と14日・30日3 成年後見人による申請の代理第4 世帯認定と世帯分離1 同一世帯の原則2 入院・入所者の世帯分離3 生活保持義務関係の範囲4 配偶者だけが保護を受ける場合5 住宅扶助の世帯人員第5 資産の活用と保有の容認1 原則2 居住用不動産3 要保護世帯向け不動産担保型生活資金4 保険5 自動車6 保護費のやりくりによって生じた預貯金第6 扶養義務者による扶養と扶養照会1 扶養は保護の要件ではない2 扶養照会を行わない場合3 後見人の対応第7 保護費の支給と一時扶助1 経常的な保護費2 一時扶助3 転居費用と通院移送費第8 収入認定と自立更生控除1 届出義務2 臨時的収入の控除3 自立更生のために充てられる額第9 63条返還1 条文と趣旨2 収入認定か63条返還か3 遺産分割と63条返還4 返還額の決定と自立更生のための控除5 遡及して受給した年金6 78条の徴収との違い第10 市長申立ての手続費用の本人負担1 家事事件手続法28条2 財産目録の作成前は支払えない3 生活保護を受けている本人の場合4 大阪家裁の運用について第11 生活扶助基準の引下げを違法とした最高裁判決第12 令和8年改正後の変化1 補助への一元化と代理権2 生活保護法の改正3 申請代理の扱いは未定4 市町村長申立て第13 本書(2023年)の記載と現在の違い第14 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人の収入や資産では生活が成り立たないときに,成年後見人が生活保護をどう使い,受給中に何に気を付けるかを整理するものである。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)61頁~69頁の「生活保護」の節と,37頁~38頁の市長申立ての手続費用の記述である。
基準日は令和8年9月19日である。
生活保護法等の条文は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,保護の基準の金額は厚生労働省の法令等データベースに収録された「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)と厚生労働省の公表資料で確認できたものだけを書いた。
本書の金額は2022年時点のものであり,その後に改定されているので,本書の数値はそのまま引用しない。
確認できなかった金額は数値を書かず,仕組みだけを説明する。

2 結論

①成年後見人は,成年被後見人の代理人として生活保護の申請をすることができる。
厚生労働省は,令和3年9月1日付けの事務連絡で「生活保護問答集」の問9-2を改め,令和3年10月1日から,成年後見人による申請を生活保護法7条に基づく有効な申請として扱っている。
ただし,被保佐人・被補助人の保佐人・補助人はこの取扱いの対象外である。
②申請に対する決定は原則14日以内,特別な理由があるときは30日以内であり,30日以内に通知がなければ却下されたものとみなすことができる(生活保護法24条5項・7項)。
③本人が長期入院・施設入所をしている場合,配偶者等の出身世帯と分けて本人だけに保護を適用する「世帯分離」が認められることがある。
④居住用不動産,保険,自動車,保護費のやりくりで貯めた預貯金は,一定の要件の下で保有したまま保護を受けられる。
保護費と年金を原資とする預貯金を収入認定した保護変更処分を違法とした秋田地裁平成5年4月23日判決と,学資保険の満期保険金の収入認定を違法とした最高裁平成16年3月16日判決がある。
⑤扶養照会は,「扶養義務の履行が期待できない」親族には行わないのが原則であり,令和3年2月の改正で,例えば10年程度の音信不通は著しい関係不良とみなしてよいとされた。
⑥保険金・賠償金・遺産等を受け取ったときは,収入認定又は生活保護法63条の返還の対象になるが,自立更生のために充てる額は控除され得る。
課長通知は,成年後見人等の申立てや報酬に必要な経費を,自立更生計画なしで収入認定から除く扱いを定めている。
⑦市長申立てで本人負担とされた手続費用は,財産目録の作成が終わるまで支払えず,本人に資力がなければ分割・猶予・免除の交渉と成年後見制度利用支援事業の利用を検討する。
⑧令和8年の民法改正の施行後は,成年後見は補助に一元化される。
生活保護法30条3項と81条も改正されるが,同法7条は変わらず,補助人による保護の申請を厚生労働省がどう扱うかは,基準日現在,公表されていない。

第2 生活保護の仕組みと最低生活費
1 保護の要件と世帯単位の原則

生活保護法4条1項は,「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定める。
同条2項は,「民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」と定める。
同法10条は,「保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。」と定めている。
保護の額は,厚生労働大臣の定める基準で計算した最低生活費から,年金等の収入を差し引いた差額である(同法8条1項)。
厚生労働省の「生活保護制度」のページも,「最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給」されると説明している。

(続きを読む...)成年後見人と生活保護――申請の代理,世帯分離,資産の保有及び63条返還(AI作成)

保佐人・補助人の権限と実務――同意権・取消権・代理権,金融機関への届出及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 保佐と補助の基本構造1 保佐2 補助3 権限の比較第3 同意権と取消権1 保佐人の法定の同意権2 同意権の拡張と補助人の同意権3 同意に代わる許可4 取消権とその行使5 携帯電話・スマートフォンの契約第4 代理権の付与と本人の同意1 代理権付与の審判2 代理行為目録3 代理権と同意権・取消権の関係4 財産管理権第5 保佐人・補助人の義務1 意思尊重義務と身上配慮義務2 善管注意義務と第三者に対する責任第6 選任直後の実務1 本人と関係者への説明2 金融機関への届出3 郵便物4 財産目録と裁判所への報告第7 居住用不動産・利益相反・複数選任1 居住用不動産の処分2 臨時保佐人・臨時補助人3 複数の保佐人・補助人第8 報酬の回収第9 能力の変化への対応と終了1 権限の追加と取消し2 類型の変更3 終了事務と死後事務第10 令和8年改正1 保佐の廃止と補助への一元化2 同意権(改正民法9条)3 特定補助(改正民法10条)4 代理権(改正民法11条)と審判の取消し(改正民法12条)5 意向の尊重(改正民法876条の11)6 その他の変更7 経過措置8 施行時に既存の保佐人・補助人が検討すべきこと第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用1 本書刊行後に変わった点2 大阪家裁の運用第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,保佐人と補助人が,どのような権限を持ち,選任後に何をするのかを,同意権・取消権・代理権の三つの権限を軸に説明するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は令和8年9月18日にe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)の保佐人・補助人の章(149頁~184頁)と,能力の変化への対応(122頁~123頁)及び代理行為目録・同意行為目録の書式(259頁~262頁)である。
本書は2023年時点の記述なので,大阪家庭裁判所の運用は,現行の「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確かめられたものと,本書の記載にとどまるものを分けて書く。

令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)により,法定後見は補助に一元化され,保佐は廃止される。
成年後見部分の施行日は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日であり,基準日現在は未施行である。
本記事の第2から第9までは現行法の説明であり,改正後の姿と,既存の保佐人・補助人が施行時に検討すべきことは第10で扱う。
改正全体の構造は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。

2 結論

①保佐人は,民法13条1項各号の行為について当然に同意権と取消権を持つが,代理権は審判で付与された範囲に限られる。
補助人は,審判で定められた同意権(民法13条1項の行為の一部に限る。)と代理権の一方又は双方を持つにとどまる。
②代理権の付与は,本人以外の請求によるときは本人の同意が要件である(民法876条の4第2項,876条の9第2項)。
代理権が付与されても本人は自らその行為をすることができ,本人の行為を取り消せるのは同意権の対象行為に限られる。
③同意権しかない保佐人・補助人も,元本の領収(預貯金の払戻し)が同意の対象であれば,金融機関へ届け出るべきである。
もっとも,大阪家裁後見センターは,保佐・補助で本人が通帳を渡さないなど非協力的な場合には,金融機関に届け出ずに本人に預貯金の管理を委ねる例が多く,同意権だけを持つ保佐人等が金融機関に届け出て預貯金を管理する例はほとんど見られないとしている(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)87頁~88頁)。
同書は,その場合の初回報告は判明した範囲で提出し,必要に応じて代理権付与の審判の取消しも検討するとしている。
④成年後見人の郵便物の回送嘱託(民法860条の2),財産目録の作成期間(民法853条)及び死後事務(民法873条の2)の規定は,保佐人・補助人に準用されていない。
⑤報酬付与の審判は,報酬の支払を命ずる審判ではなく,民事執行法22条の債務名義に当たらないから,本人の預貯金を管理していない保佐人・補助人は,本人を説得して任意に支払を受けるほかない。
⑥令和8年改正の施行後も,施行日前に開始した保佐は原則として従前の例によって続くが,保佐人の解任と意向の尊重には改正後の規定が適用され,保佐人は補助開始の審判を請求することができる。
既存の補助は改正後の補助とみなされ,同意権・代理権の一つ一つについて必要性が問われることになる。

第2 保佐と補助の基本構造
1 保佐

民法11条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について,家庭裁判所が保佐開始の審判をすることができると定める。
保佐開始の審判を受けた者は被保佐人とされ,保佐人が付される(民法12条)。
本書149頁は,「著しく不十分」とは,後見相当ではないが,支援を受けなければ契約等の意味・内容を自ら理解し判断することができず,法律行為を行うに当たって常に援助が必要な場合をいうと説明する。
大阪家裁ハンドブック4頁(Q2)も,日常の買い物程度のことは自分でできても,重要な行為をするときは常に支援が必要となる人を被保佐人と説明している。

2 補助

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後見等開始の審判前の保全処分――財産の管理者,後見命令及び職務執行停止(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 審判前の保全処分の全体像1 なぜ保全処分が必要になるのか2 保全処分の種類と根拠条文3 共通の手続第3 虐待事案と市町村長申立て1 市町村長申立ての根拠2 保全処分との組合せ3 市町村長が申し立てられる保全処分第4 財産の管理者の選任1 要件と手続2 財産の管理者の権限3 財産の管理者の職務4 登記されないこと5 改任・終期・引継ぎ第5 事件の関係人に対する指示1 指示の内容2 指示の効力第6 後見命令・保佐命令・補助命令1 後見命令等を併せて申し立てる意味2 手続3 取り消すことのできる行為の範囲4 登記5 財産の管理者の役割と効力の終期第7 成年後見人等の解任を本案とする保全処分1 要件2 手続3 即時抗告の可否4 職務代行者の職務5 効力の終期と財産の引継ぎ第8 保全処分の取消し1 条文2 本書の説明と条文の文言第9 本書刊行後の変化と令和8年改正1 本書刊行後の現行法2 令和8年改正後の保全処分第10 大阪家裁の運用について第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見・保佐・補助の開始の申立てから開始の審判が効力を生ずるまでの間に使う審判前の保全処分(財産の管理者の選任,事件の関係人に対する指示,後見命令・保佐命令・補助命令)と,成年後見人等の解任の申立てから解任の審判が効力を生ずるまでの間に使う審判前の保全処分(職務の執行停止,職務代行者の選任)を扱うものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令はe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)125頁~126頁及び205頁~216頁であり,本書の記述を条文と照合した結果を示す。
解任の事由そのものは成年後見人の解任理由で,後見人による横領の実情は成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心にで扱っているので,本記事では保全処分の手続と効果に絞る。

2 結論

①開始の審判の前に本人の財産を守る手段は,財産の管理者の選任,事件の関係人に対する指示及び後見命令等の3種類である(家事事件手続法126条,134条,143条)。
②財産の管理者を選任しただけでは本人の行為能力は制限されず,本人がした契約を取り消せるようにするには,後見命令等を併せて申し立てる必要がある。
後見命令等を申し立てられるのは本案の申立人に限られる。
③財産の管理者の権限は民法103条の保存・利用・改良行為が原則であり,それを超える行為には家庭裁判所の許可が必要である(家事事件手続法126条8項による民法28条の準用)。
④財産の管理者の選任と事件の関係人に対する指示は,認容・却下のいずれに対しても即時抗告ができず,財産の管理者の選任だけでは登記されない。
これに対し,後見命令等と職務執行停止・職務代行者選任は後見登記等ファイルに記録される(後見登記等に関する法律4条)。
⑤虐待事案では,市町村長が老人福祉法32条等に基づいて後見開始等の審判を申し立てると同時に,財産の管理者の選任等の保全処分を申し立てることが,厚生労働省の対応マニュアルでも有効な手段として示されている。
⑥本書の記述のうち,職務執行停止の審判に対する即時抗告の可否,後見命令の登記の時期及び保全処分の取消しの申立権者の3点は,条文の文言と食い違っているように読めるので,第7及び第8で条文に即して説明する。
⑦令和8年法律第45号による改正後は,後見命令・保佐命令は廃止され,補助開始の審判事件を本案とする「補助命令」と,特定補助人を付する処分に対応する「特定補助命令」に再編される(改正後の家事事件手続法126条2項・3項)。
補助人の事務の監督の審判事件を本案とする職務執行停止・職務代行者選任も新設される(同法128条)。

第2 審判前の保全処分の全体像
1 なぜ保全処分が必要になるのか

本書205頁は,後見等開始の申立てから開始の審判により成年後見人等が選任されるまでには1~数か月を要し,即時抗告があると審判が長期間確定しないこともあるとする。
即時抗告のできる審判は確定しなければ効力を生じないから(家事事件手続法74条2項ただし書),その間,選任された成年後見人等は職務を行うことができない。
その間に本人の財産が散逸し,又は第三者に侵害されるおそれがある場合に,開始の審判の効力が生ずるまでのつなぎとして使うのが審判前の保全処分である。
本書205頁は,活用例として,①年金の振込口座を親族等が管理していて年金が本人のために使われていない経済的虐待の事案,②本人が不適当な資産の費消や高額な取引をしてしまいそうな事案,③入院中の本人の多額の財産が自宅に置いたままになっている事案を挙げている。

2 保全処分の種類と根拠条文
保全処分後見保佐補助財産の管理者の選任・事件の関係人に対する指示126条1項134条1項143条1項後見命令・保佐命令・補助命令126条2項134条2項143条2項職務の執行停止・職務代行者の選任127条135条144条

いずれも家事事件手続法の条文であり,保佐と補助の規定は後見の規定を準用し,又は後見の規定と同じ構造で定められている。
本書205頁は,家事事件手続法上の保全処分はこれらに限られるが,必要とされる内容によっては民事保全法による保全処分の利用も考えられないわけではないとしている。

3 共通の手続
(1) 本案の係属

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後見制度支援信託と後見制度支援預貯金――仕組み,専門職後見人の職務及び最新の利用状況(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 支援商品の仕組み1 支援信託2 支援預貯金3 指示書の位置付け4 両者の比較第3 導入の経緯と弁護士会の批判1 支援信託の開発2 本書が挙げる問題点3 日弁連・大阪弁護士会の意見と本格導入4 支援預貯金の開発第4 最新の利用状況(令和7年)1 年間の新規利用者数2 累計3 事件類型と金額の分布4 一時金交付の状況5 取扱金融機関の状況第5 保佐・補助への拡大(令和7年10月)1 最高裁判所の公表2 利用できる金融機関3 代理権型と同意権型の書式4 大阪家裁の案内第6 対象案件の選別と専門職後見人の選任1 検討対象となる三つの場面2 大阪家裁の基準額3 なぜ弁護士・司法書士が選任されるのか4 リレー方式・複数選任方式・監督人方式5 大阪弁護士会の推薦第7 検討のために選任された専門職後見人の職務1 初動2 利用に適さない事案3 親族後見人候補者の適性4 手元口座の額と定期交付金5 金融機関の選定6 報告書の提出と契約締結7 利用が相当でないと判断した場合8 辞任と引継ぎ第8 総合支援型後見監督人と支援商品1 大阪家裁の総合支援型後見監督人2 本書198頁・200頁が示す監督人の職務第9 利用開始後の後見事務1 一時金交付・払戻し2 定期交付額の変更・追加・解約3 家庭裁判所への報告第10 今後の拡大――本書の見通しと現状1 対象となる後見人の拡大2 基準額の引下げ3 類型の拡大第11 令和8年改正後の支援信託・支援預貯金1 改正法の概要と施行時期2 支援商品についての明文の手当ては見当たらない3 改正後の条文で関係しそうな規定4 施行日前に開始した後見・保佐の扱い第12 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見制度支援信託(以下「支援信託」という。)と後見制度支援預貯金(以下「支援預貯金」といい,両者を合わせて「支援商品」という。)について,仕組み,導入の経緯,家庭裁判所が利用を検討させる案件の選び方,検討のために選任された弁護士・司法書士の職務の流れ,最新の利用状況及び令和8年改正後の見通しを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日である。
法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文により,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は法務省の新旧対照条文とe-Govの未施行版で確認した。
素材とした大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)は2023年時点の記述なので,その後に変わった点は最高裁判所,金融庁及び大阪家庭裁判所の公表資料で確かめ,確かめられなかった点はその旨を書く。

2 結論

①支援商品は,本人の金銭のうち日常の支払に必要な分だけを後見人の手元に残し,残りを信託銀行等への信託又は特別な預貯金にして,払戻しや解約に家庭裁判所の指示書を必要とする仕組みである。
法律で作られた制度ではなく,家庭裁判所の後見監督と金融機関の商品設計を組み合わせた運用である。
②令和7年の新規利用は支援信託615人,支援預貯金2,005人で,新規の主力はすでに支援預貯金に移っている(令和7年12月末までの累計は支援信託31,234人,支援預貯金13,511人)。
③令和7年10月から,一部の金融機関で保佐・補助でも支援預貯金を利用できるようになった。
もっとも,最高裁判所の案内では,令和7年10月1日現在で利用できるのは静岡県内の信用金庫に限られており,大阪で利用できる金融機関があるかは公表資料では確認できなかった。
④家庭裁判所が利用を検討させる案件では,原則として弁護士又は司法書士が後見人に選任され,利用の適否,手元に残す額,定期交付額,利用する金融機関を検討し,報告書を出して指示書を受け,契約後に辞任して親族後見人に引き継ぐ。
本書は,報告書の提出時期を選任後4か月(遅くとも6か月)を目安とする。
⑤大阪家裁が利用を検討させる流動資産の基準額について,本書は1200万円とし,将来は500万円程度まで下がると考えられているとする。
1200万円という数字は,大阪家裁本庁後見センターが令和5年10月に作成したとみられる「よくある質問(FAQ)」にも記載があるが,大阪家裁の現在の成年後見のページ及びハンドブックでは確認できず,500万円程度への引下げを示す公表資料も確認できなかった。
⑥令和8年改正法の新旧対照条文には,支援信託・支援預貯金・指示書に触れる規定はない。
施行日前に開始した後見・保佐は原則として従前の例によるので,既存の利用分はそのまま続くと考えられるが,施行後に新たに開始する補助で支援商品をどう使うかは,公表資料からは分からない。

第2 支援商品の仕組み
1 支援信託

最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について―令和7年1月~12月―」(以下「令和7年利用状況」という。)は,支援信託を,成年被後見人又は未成年被後見人の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みであり,平成24年2月1日に導入されたと説明している。
信託財産を払い戻したり,信託契約を解約したりするには,あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要である。
支援信託の対象は成年後見と未成年後見だけであり,保佐,補助及び任意後見では利用できない。

信託協会の説明によれば,支援信託では元本補てん契約の付された指定金銭信託が使われ,これは預金保険制度の対象となる。
また,この信託は金銭しか信託できないので,支援信託で管理できる財産は金銭に限られる。
成年後見の場合の信託期間は原則として本人が亡くなるまでであり,本人が亡くなると信託は終了し,信託財産は相続財産として相続人に承継される。

本書138頁は,民法859条1項が後見人に本人の財産の包括的な管理権を与えていることを前提に,不正を防ぐには後見人による預貯金の払戻しを制限する必要があるという発想から支援信託が作られたと説明している。
民法859条1項は,「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」と定める。
後見人は本人の法定代理人として信託契約を結ぶので,信託契約を解約する権限も持つが,契約上,解約には家庭裁判所の指示書が必要とされているため,解約の理由と必要性が家庭裁判所のチェックを受けることになる(本書138頁)。

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成年後見人への郵便物の回送嘱託と開披――民法860条の2・860条の3の要件,大阪家裁の申立て及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 制度の概要1 平成28年改正で新設された制度2 条文3 郵便局への転居届との違い4 対象となる郵便物等第3 回送嘱託が認められる場合1 「必要があると認めるとき」2 任意の方法で把握できる場合は認められない3 申立書の三つの類型4 6か月の上限と再度の申立て5 申立ての時期第4 申立ての手続1 申立人と申立先2 本人の陳述の聴取3 大阪家裁での必要書類と費用4 集配郵便局の特定5 審判の効力と不服申立て第5 回送された郵便物等の扱い1 開いて見ることができる2 事務に関しないものは速やかに交付する3 本人の閲覧請求4 受領の記録第6 変更と取消し1 事情変更による取消し・変更2 転居したときは変更の申立てが必要3 任務終了のときは必ず取り消される第7 回送嘱託と組み合わせる送付先の届出1 役所への送付先変更の届出2 年間計画表3 財産調査の手がかり第8 任務終了後の郵便物第9 保佐人・補助人・任意後見人の場合(現行法)1 回送嘱託は準用されていない2 代理権の範囲内での送付先変更第10 令和8年改正後1 回送嘱託は特定補助人だけの制度になる2 家事事件手続法の対応規定3 施行日前に開始した後見の扱い4 特定補助人でない補助人が郵便物を把握する方法第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用1 申立書は全国共通の書式になった2 郵便料3 確認できなかった事項第12 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が家庭裁判所の審判を得て成年被後見人宛ての郵便物等を自分の事務所に配達してもらう「回送嘱託」(民法860条の2)と,受け取った郵便物等の開披・交付・閲覧(民法860条の3)について,要件,手続,大阪家庭裁判所での申立ての方法,役所等への送付先の届出との使い分け,任務終了後の郵便物の扱い,保佐人・補助人との違い及び令和8年改正後の姿を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
素材として,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)35頁~36頁,42頁,46頁,48頁,137頁及び162頁を用いた。
本書は2023年時点の記述であるから,現在の法令・書式・費用は,裁判所ウェブサイト,法務省ウェブサイト及びe-Govで確かめた範囲で書き,確かめられなかった点はその旨を示す。

2 結論

①郵便局への転居届(郵便法35条)は本人が住所又は居所を移したときに本人の新しい居場所へ転送する制度であり,成年後見人の事務所へ転送させることはできない。成年後見人が本人宛ての郵便物を直接受け取るには,家庭裁判所の回送嘱託の審判が必要である。
②回送嘱託は,成年後見人が任意の方法では本人宛ての郵便物等の存在と内容を把握できず,後見事務に支障が生ずる場合に限って認められる。施設や親族の協力で郵便物を受け取れる場合は認められない。
③嘱託の期間は6か月を超えることができず(民法860条の2第2項),変更の審判で伸長することもできない(同条3項ただし書)。再度の申立ては可能であるが,前回の期間内に財産・収支の状況を把握できなかった具体的事情を示す必要がある。
④成年後見人は受け取った郵便物等を開いて見ることができるが,後見事務に関しないものは速やかに本人に交付しなければならず,本人は閲覧を求めることができる(民法860条の3)。
⑤大阪家裁での申立ては,後見ポータルサイトの全国共通の申立書に,収入印紙800円分,郵便料(郵便切手なら1,440円分,現金・電子納付なら2,000円),本人の陳述書又は上申書と陳述聴取状況報告書等を添えて行う。
⑥回送嘱託は保佐人・補助人・任意後見人には認められていない。令和8年改正後は,法定後見が補助に一元化され,回送嘱託は「特定補助人」だけが利用できる制度(改正後の民法876条の16・876条の17)になる。特定補助人でない補助人は,代理権の範囲内での送付先変更の届出等,回送嘱託以外の方法で郵便物を把握することになる。

第2 制度の概要
1 平成28年改正で新設された制度

回送嘱託と開披の規定は,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号)によって新設された。
同法は平成28年4月13日に公布され,附則が「この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。」と定めていることから,平成28年10月13日に施行された(法務省「「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。」)。
同じ法律で,成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限(民法873条の2)も新設されている。
死後事務については成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で扱っている。

法務省の上記Q&Aは,新設の理由として,本人宛ての郵便物等には株式の配当通知,外貨預金の入出金明細,クレジットカードの利用明細等の財産に関するものが含まれ,成年後見人が同居の親族以外の者である場合に,本人が郵便物を自ら管理できないと財産管理に支障を来すおそれがあるとの指摘があったことを挙げている。
同時に,期間を制限するなど,本人の通信の秘密(憲法21条2項後段)に一定の配慮をしたと説明している。
憲法21条2項は,「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と定めている。
本書35頁も,回送嘱託は通信の秘密に対する制約であるため期間は原則として6か月であると説明している。

2 条文

民法860条の2第1項は,「家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。」と定める。
同条2項は「前項に規定する嘱託の期間は、六箇月を超えることができない。」と定める。
同条3項は,審判の後に事情の変更を生じたときは,成年被後見人,成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で,嘱託を取り消し,又は変更することができるとし,ただし書で「その変更の審判においては、同項の規定による審判において定められた期間を伸長することができない。」と定める。
同条4項は「成年後見人の任務が終了したときは、家庭裁判所は、第一項に規定する嘱託を取り消さなければならない。」と定める。

3 郵便局への転居届との違い

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成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 民法859条の3の内容1 条文2 趣旨3 許可は効力要件である4 後見監督人がいる場合の同意第3 「居住の用に供する建物又はその敷地」1 生活実態による実質判断2 典型的な場面第4 「処分」の範囲1 条文に列挙された処分2 「これらに準ずる処分」3 施設の入所契約の解除4 遺産分割との関係5 迷ったら予防的に許可を得る第5 処分をするかどうかの判断1 処分を検討する場面2 相続税対策や親族のための建築・増改築3 本人の意思の確認第6 大阪家庭裁判所への許可申立て1 申立人と申立先2 申立てのタイミング3 費用4 必要書類5 申立書の記載事項第7 審理と審判1 審理の観点2 審判の主文3 不服申立てはできない4 審判の効力の発生第8 許可後の手続――登記と印鑑証明書1 登記申請には許可書を添付する2 家庭裁判所が作成する後見人の印鑑証明書第9 成年後見人が本人の自宅を買う場合1 利益相反行為になる2 特別代理人等も許可を得る必要がある3 大阪家庭裁判所での特別代理人選任申立ての費用第10 リバースモーゲージとリースバック1 不動産担保型生活資金2 民間のリバースモーゲージ3 許可が必要であること4 リースバック第11 売却後の税・年金・保険料1 譲渡所得の申告2 20歳前障害による障害基礎年金の支給停止3 社会保険料と収支予定第12 保佐人・補助人の場合(現行法)1 代理権が付与されている場合2 代理権がない場合3 本人が自ら処分する場合4 任意後見人には同じ規定がない第13 令和8年改正後の扱い1 民法876条の13への移動2 誰に及ぶか3 利益相反の規定4 施行日と経過措置第14 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が,成年被後見人(以下「本人」という。)の自宅を売却し,賃貸し,借家の賃貸借契約を解除し,又は自宅に抵当権を設定するときに必要となる家庭裁判所の許可(民法859条の3)について,許可が必要な場面,大阪家庭裁判所への申立ての方法,審判とその後の登記手続,売却後の税・年金への影響,保佐人・補助人の場合及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文とe-Gov法令検索の未施行版で確認した。
素材として,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は2023年時点の記述であるから,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページと「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

2 結論

①成年後見人が本人に代わって本人の居住用の建物又はその敷地を売却,賃貸,賃貸借の解除,抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには,家庭裁判所の許可が必要であり,許可のない処分は無効と解されている。
②「居住用」は住民票上の住所ではなく生活の実態で判断され,施設入所中で現に住んでいない自宅や,過去に生活の本拠であった建物も含まれ得る。
③「これらに準ずる処分」には,贈与,使用貸借,建物の取壊し等が含まれると解されており,施設の入所契約の解除や,本人が相続人となる遺産分割にも許可の要否が問題となるものがある。判断に迷う場合は予防的に許可を得ておくのが安全である。
④大阪家庭裁判所では,事前に連絡票で相談した上で取引の交渉を進め,取引が成立する一歩前の段階で申し立てる運用である。現在の費用は収入印紙800円分と郵便切手110円分である。
⑤許可の審判に対しても却下の審判に対しても,即時抗告はできない。
⑥成年後見人自身が本人の自宅を買う場合は利益相反行為となり,特別代理人(又は後見監督人)による代理と許可の両方が問題となる。
⑦売却すると翌年に譲渡所得の申告が必要となり,所得の増加により20歳前障害による障害基礎年金の支給停止や社会保険料の増加が生じることがある。
⑧現行法では,保佐人・補助人も,居住用不動産の処分について代理権を付与されている場合に限り,同じ許可が必要である。令和8年改正後は,この規律は民法876条の13に移り,代理権を付与された補助人に適用される。

第2 民法859条の3の内容
1 条文

民法859条の3は,「成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
成年後見人は,本人の財産を管理し,財産に関する法律行為について本人を代表する包括的な権限を持つ(民法859条1項)。
本条は,その包括的な代理権のうち,居住用不動産の処分についてだけ,家庭裁判所の許可という制約を加えたものである。
家事事件手続法では,この許可は別表第一の11項(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)の審判事項である。

2 趣旨

本書54頁は,本条について,居住関係の変化が本人の身上面(心身の状態や生活の状況等)に与える影響の重大さに鑑み,特に身上保護の観点から成年後見人の財産行為上の代理権を制限したものであると説明している。
大阪家裁ハンドブック19頁も,本人にとって居住環境が変われば,その心身や生活に重大な影響が生じることになるので,特に慎重を期すため裁判所の許可を得なければならないとされていると説明している。
つまり,この許可は,売却価格が適正かという財産上の観点だけでなく,住み慣れた家を失うことが本人の生活にどう影響するかという観点から審査される。
成年後見人は,事務を行うに当たって本人の意思を尊重し,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(民法858条)から,本条はこの身上配慮義務を手続の面から担保するものといえる。

3 許可は効力要件である

本書55頁は,家庭裁判所の許可は処分行為の効力要件であるから,許可を欠く処分行為は無効であると解されているとしている。

(続きを読む...)成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)(AI作成)

最高裁家庭局第二課長書簡「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」(平成31年1月24日)の内容と現在の運用(AI作成)

目次第1 この記事の対象第2 書簡の位置付けと構成1 本文が述べていること2 別添の構成第3 後見人等の選任イメージ(別添1-1・1-2)1 検討の順序2 選任イメージの性格と注記3 中核機関の支援が期待できない場合の運用第4 専門職の関与が必要な事案と期待される役割(別添1-3)1 専門職を後見人に選任する事案2 専門職を監督人に選任する事案第5 新たな報酬算定基準の参考資料(別添1-4・1-5)1 たたき台としての位置付けと基本的な考え方2 事務の時期区分と基本的事務・付加的事務3 報酬の加減要素4 報告の在り方第6 専門職団体の意見(別添2-1~2-4)1 日本弁護士連合会2 日本司法書士会連合会3 成年後見センター・リーガルサポート4 日本社会福祉士会第7 現在の運用との比較1 選任の考え方2 報酬の算定3 報告書式と報酬実績の公表4 令和8年改正法との関係第8 出典・参考資料1 法令2 裁判所の文書・資料3 成年後見制度利用促進専門家会議の資料4 統計5 関連記事
第1 この記事の対象

本記事は,最高裁判所事務総局家庭局第二課長が平成31年1月24日付けで高等裁判所事務局長及び家庭裁判所事務局長に宛てた書簡の内容を,本文と別添ごとに整理するものである。
この書簡の写し(全61頁)は,本ブログに成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方に関する文書(平成31年1月24日付の最高裁判所家庭局第二課長の書簡)として掲載している。
書簡自体には表題が付いておらず,「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」は,本文が扱う二つの事項を示す名称として本ブログが付けたものである。

書簡は,後見人等の選任の考え方と報酬付与の在り方について,最高裁判所と専門職団体との議論の到達点を各家庭裁判所へ伝えたものであり,その後の運用改善の出発点となった。
他方で,書簡から7年以上が経過し,報酬の決め方は書簡の案どおりには進まなかった。
そこで本記事は,書簡の内容を紹介した上で,令和8年9月18日現在の公表資料により,現在の運用と同じ点と違う点を確認する。
生成AIを用いて書簡の全頁と関係資料を通読し,本文の記載を原資料と照合して構成した。

第2 書簡の位置付けと構成
1 本文が述べていること
(1) 選任と専門職の役割は「概ね共有」された

書簡の本文によれば,最高裁判所家庭局は,日本弁護士連合会,日本司法書士会連合会,公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート及び公益社団法人日本社会福祉士会(以下「専門職団体」という。)との間で,成年後見制度利用促進基本計画を踏まえた後見人等の選任と専門職に期待する役割等について議論を重ねてきた。
その結果について,本文は,「後見人等の選任及び専門職に期待する役割についてその基本的な考え方が概ね共有されました」と述べ,その内容を別添1-1から1-3までに示している。
その上で本文は,各家庭裁判所に対し,専門職団体の単位会等との間で,後見人等の選任及び専門職に期待する役割について認識の共有に向けた協議を行うよう求めている。

(2) 報酬は最高裁の案に対する意見の段階にとどまった

報酬付与の在り方について,本文は,家庭局が作成した資料(別添1-4・1-5)に対して専門職団体から意見(別添2-1から2-4まで)が示された段階であるとしている。
本文は,「各家庭裁判所が後見事務の内容に応じた報酬の付与という基本的な方向性に基づいて検討をしていくことについて専門職団体の理解を得られた」とする一方で,具体的な後見事務の評価,評価の対象となる事務の内容や負担,その前提となる報告事務の在り方については様々な意見が示されているとし,各家庭裁判所に対して地域の実情を踏まえた意見交換等を求めている。
つまり,選任については考え方の共有まで進んだが,報酬については方向性の理解を得た段階にとどまっていたことが,書簡の本文から読み取れる。

2 別添の構成

書簡の記に掲げられた別添は,次のとおりである。
①別添1-1 基本計画を踏まえた裁判所における後見人等の選任イメージ
②別添1-2 「基本計画を踏まえた裁判所における後見人等の選任イメージ」の補足説明
③別添1-3 専門職の関与を必要とする事案と専門職に期待する役割
④別添1-4 新たな報酬算定基準検討のための参考資料
⑤別添1-5 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」の補足説明
⑥別添2-1 最高裁判所の後見人報酬に係る提案について(日本弁護士連合会作成)
⑦別添2-2 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」に関する意見(日本司法書士会連合会作成)
⑧別添2-3 最高裁判所「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」及びその補足説明並びに「新たな後見報酬算定に向けた考え方(案)」に対する意見書(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート作成)
⑨別添2-4 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」(補足説明含む)への意見(公益社団法人日本社会福祉士会作成)

(続きを読む...)最高裁家庭局第二課長書簡「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」(平成31年1月24日)の内容と現在の運用(AI作成)

病院での虐待と高齢者虐待防止法-病院が「養介護施設」に含まれないことの意味と相談・通報先(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 高齢者虐待防止法の構造1 二つの類型2 「養介護施設」の列挙に病院はない3 通報義務と市町村の対応4 65歳未満の障害者のみなし規定5 国マニュアルの説明6 病院も「早期発見」の主体ではある7 統計の見方第3 障害者虐待防止法1 三つの類型2 医療機関は通報義務の類型にない3 附則2条の検討規定第4 精神科病院の特則-精神保健福祉法40条の2以下1 令和4年改正と施行日2 各条の内容3 「発見した者」は誰でもよい4 通報先は都道府県(指定都市では指定都市)5 「精神科病院」の範囲6 苦情との区別と退院等の請求7 公表状況と大阪府・大阪市の窓口第5 一般の病院で虐待が疑われるときの相談・通報先1 医療安全支援センター2 医療法25条の立入検査3 刑事4 民事5 市町村・地域包括支援センターに相談した場合6 身体拘束の違法性に関する裁判例第6 「病院に見えて」高齢者虐待防止法の対象になる施設第7 成年後見人・家族が訴えを受けたときの実務(私見)1 基本姿勢2 手順3 精神科病院での通報義務と後見人4 後見人の権限との関係5 家庭裁判所の関与6 訴えが事実でなかった場合7 診療記録の開示請求第8 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 裁判例4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,入院中の高齢者や障害者について,家族や成年後見人が「病院で虐待されている」と訴え,又はそのような訴えを受けた場面を念頭に,どの法律が適用され,どこに相談・通報すべきかを整理するものである。
想定している読者は,成年後見人,成年後見事件に関わる弁護士及び入院中の高齢者の家族である。
基準日は令和8年9月18日であり,法令は同日にe-Gov法令APIで取得した現行条文により,厚生労働省の公表資料は同日に取得したものにより確認した。
本記事は,公表されている条文と行政資料を整理した一般的な解説であり,個別の事案について虐待の有無を判断するものではない。
第7は筆者の私見を含む実務上の手順であり,その旨を明示している。

2 結論

①高齢者虐待防止法の「養介護施設従事者等による高齢者虐待」の対象施設は2条5項に限定列挙されており,医療法上の病院は含まれない。
②厚生労働省の国マニュアルも,医療機関における高齢者への虐待は高齢者虐待防止法の対象外であり,医療法に基づいて都道府県等が検査・指導を行うものと説明している。
③障害者虐待防止法でも,医療機関は通報義務の対象となる類型に入っておらず,医療機関の管理者に虐待防止措置を講じさせる規定(31条)と,附則2条の検討規定があるにとどまる。
④精神科病院については,令和4年の精神保健福祉法改正により,令和6年4月1日から,業務従事者による障害者虐待を受けたと思われる精神障害者を発見した者に都道府県(指定都市を含む。)への通報義務が課されている(40条の3)。
⑤精神科病院以外の病院で虐待が疑われるときは,医療安全支援センター,医療法25条の立入検査権限を持つ都道府県等,警察,民事上の責任追及を場面に応じて使い分けることになる。
⑥訴えを受けた後見人は,訴えを放置も鵜呑みもせず,内容を具体化し,記録し,病院に事実確認を求め,必要に応じて外部の窓口につなぎ,家庭裁判所に報告するのが基本である。

第2 高齢者虐待防止法の構造
1 二つの類型

高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号。以下「高齢者虐待防止法」という。)は,「高齢者」を65歳以上の者と定義している(2条1項)。
同法の「高齢者虐待」は,「養護者による高齢者虐待」と「養介護施設従事者等による高齢者虐待」の二つに限られている(2条3項)。
「養護者」とは,高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外のものをいう(2条2項)。
虐待の内容は,身体的虐待,介護等の放棄,心理的虐待,性的虐待及び経済的虐待であり,養護者によるものは2条4項,養介護施設従事者等によるものは2条5項に定められている。

2 「養介護施設」の列挙に病院はない

2条5項1号は,次の施設を「養介護施設」と定義している。
①老人福祉法5条の3に規定する老人福祉施設(老人デイサービスセンター,老人短期入所施設,養護老人ホーム,特別養護老人ホーム,軽費老人ホーム,老人福祉センター及び老人介護支援センター)
②老人福祉法29条1項に規定する有料老人ホーム
③介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設,介護老人福祉施設,介護老人保健施設及び介護医療院
④介護保険法115条の46第1項に規定する地域包括支援センター

2条5項2号は,老人居宅生活支援事業や介護保険法上の居宅サービス事業等を「養介護事業」と定義している。
この列挙の中に,医療法1条の5第1項に規定する「病院」や同条2項に規定する「診療所」は含まれていない。
他方で,介護老人保健施設と介護医療院は,医療法1条の2第2項では病院・診療所と並ぶ「医療提供施設」とされているが,高齢者虐待防止法の上では養介護施設に含まれる。

(続きを読む...)病院での虐待と高齢者虐待防止法-病院が「養介護施設」に含まれないことの意味と相談・通報先(AI作成)

親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 三つの場面の区別1 引取りを拒む場合2 条件を付ける場合3 連絡がつかない場合第3 民法873条の2の「相続人の意思に反することが明らかなとき」1 条文2 相続人の同意は要件ではない3 「引き取らない」と「火葬に反対する」は違う4 条件付きの拒否をどう読むか第4 DNA鑑定などの条件に後見人は応じるべきか1 後見人には検体採取に同意する権限がない2 法律上の親族関係は戸籍と裁判手続で決まる3 親族に渡すべきものは鑑定ではなく戸籍4 死亡後の遺体からの検体第5 連絡がつかない場合1 死後事務はできる2 本人の資力で道を分ける3 死亡届と火葬の時間軸第6 遺骨を引き取らない場合1 納骨まで3号許可で行える2 合祀すると取り出せなくなることがある3 後日に争いになったときの決着の道第7 危篤の段階でしておくこと1 意向照会書を送る2 意向照会書の文例3 短い期限だけを区切った通知の限界4 家庭裁判所への事前連絡と原資の確保5 病院・葬儀社・火葬場との事前調整第8 親族から苦情が寄せられているとき1 書面で問い,書面で答えてもらう2 虐待の訴えがあった場合第9 死亡後の流れと引継ぎ1 死亡後の流れ2 相続財産の受領を拒まれた場合3 令和8年改正後第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人が危篤となり,又は死亡したときに,相続人となる親族が,遺体や遺骨の引取りを拒み,引取りに条件を付け,又は連絡がつかないという場面で,成年後見人が何をどの順序で行うかを整理するものである。
基準日は令和8年9月18日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
元後見人の死後事務の権限の全体像は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で,墓地埋葬法・葬祭扶助・遺骨の帰属・葬儀費用の負担は葬儀・火葬の実施で扱っている。
本記事はこれらと重複する説明を最小限にとどめ,親族が「動かない」「条件を付ける」「つかまらない」という場面に絞る。

2 結論

①親族が「引き取らない」と言っていることは,それだけでは,後見人が火葬や納骨をすることに反対する意思表示とは限らない。
②「DNA鑑定をしなければ引き取らない」といった条件には,後見人は応じる権限を持たない。法律上の親族関係は戸籍と裁判手続で決まり,鑑定結果だけで当然に変わるものではない。
③相続人と連絡がつかないことは,民法873条の2に基づく死後事務の妨げにならない。
④最も効果があるのは,本人の危篤の段階で,火葬への異議の有無,遺骨の引取りの有無,引き取らない場合の納骨の方法を分けて書面で尋ね,回答がないときの方針まで伝えておくことである。

第2 三つの場面の区別
1 引取りを拒む場合

親族が「自分は引き取らない」「関わりたくない」と言う場面である。
遠方に住んでいる,本人と長く疎遠だった,費用の負担を避けたいなど,理由はさまざまである。
この場面で問題になるのは,親族の言葉が「自分は動かない」という意味なのか,「火葬も納骨もするな」という意味なのかである。

2 条件を付ける場合

親族が「本当に血がつながっているか分からないので,DNA鑑定をしてくれなければ引き取らない」「こちらの指定する葬儀をしなければ引き取らない」などと,引取りに条件を付ける場面である。
条件の中身が,後見人の権限の中で実現できるものか,そもそも権限の外にあるものかを見分ける必要がある。
また,条件付きの拒否には,火葬そのものを止めてほしいという意思が含まれていることがあるので,その点を確かめる必要がある。

3 連絡がつかない場合

相続人の所在は分かっているが電話に出ない,郵便を送っても返事がない,死亡の連絡をしても応答がないという場面である。
「反対されている」のではなく「連絡が取れない」のであれば,扱いは大きく異なる。

第3 民法873条の2の「相続人の意思に反することが明らかなとき」
1 条文

民法873条の2は,「成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
3号は「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)」である。
したがって,民法873条の2に基づいて火葬や納骨に関する契約を結ぶには家庭裁判所の許可(以下「3号許可」という。)が必要であり,かつ,相続人の意思に反することが明らかなときはできない。
ただし,大阪家裁後見センターは,時間的制約等から3号許可を得ずに応急処分(民法874条,654条)等を根拠として火葬契約を結んだ場合でも当然に違法となるわけではなく,これを違法視・問題視した事案も報告されていないとして,この点を誤解した3号許可の申立てに注意を促している(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)250頁)。

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令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方(AI作成)

第1 この記事の対象と結論
第2 令和7年4月の全国統一書式

1 全国で内容が統一された書式
2 各家庭裁判所の追加書式等は残る

第3 後見等事務報告書の書き方

1 報告書の目的
2 本人の心身・生活状況及び支援者
3 ①から㉑までの事務
4 本人の意思確認及び面談等
5 本人の財産状況と本人以外の人のための支出
6 後見人等自身に関する事項

第4 報酬付与申立事情説明書の書き方

1 報酬を求める期間等
2 考慮してもらいたい事情の有無
3 事務ごとに別紙を作成する

第5 事情説明書別紙に書く六つの事項

1 事務内容及び現在の状況
2 本人が得た利益又は回避した不利益

(続きを読む...)令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方(AI作成)

独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由―申立人の不在,受任者の選び方及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨第2 独身の高齢者に起きること1 一人暮らしの高齢者は増え続けている2 判断能力が低下すると本人名義の手続が滞る3 申立人がいなければ市区町村長の申立てに頼ることになる第3 任意後見契約が独身の高齢者に適する理由1 受任者と代理権の範囲を自分で決められる2 登記された任意後見契約は法定後見に優先する3 権限は契約に書いた範囲に限られる第4 独身の高齢者が任意後見契約でつまずきやすい点1 契約しても発効しないまま終わることがある2 受任者が先に亡くなり,又は衰えることがある3 任意後見監督人の報酬がかかる4 葬儀などの死亡後の事務は任意後見の範囲外である5 医療行為への同意と身元保証も解決しない第5 任意後見契約と組み合わせるもの1 見守りと財産管理の委任2 死後事務委任契約と遺言3 公的支援と民間の事業者4 契約の手順と費用第6 令和8年改正で独身の高齢者に何が変わるか1 施行時期と既存の契約への適用2 発効の申立てを託す人を公正証書で指定できる3 受任者が欠けたときの次順位を決められる4 任意後見監督人を選任しない場合がある5 補助が始まっても任意後見契約は終了しない第7 独身の高齢者が任意後見契約を結ぶときの確認事項第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料・行政ガイドライン4 統計・調査5 職能団体の資料6 文献

第1 本記事の対象と結論の要旨

1 本記事の対象

本記事は,配偶者も子もいない高齢者,又は親族はいても日常的に頼れる関係にない高齢者(以下「独身の高齢者」という。)について,判断能力の低下に備えて任意後見契約を結ぶ必要があるかを扱う。
記載は令和8年9月10日時点の法令及び公表資料に基づき,同月11日に加筆した部分は同日時点の法令及び公表資料による。
令和8年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は,成年後見制度の部分がまだ施行されていないため,現行法による説明と改正後の説明を分けて記載する。

移行型の任意後見契約の仕組み,通常委任の段階の濫用防止条項及び移行型に関する裁判例は,移行型の任意後見契約―通常委任からの移行,濫用防止及び令和8年改正で扱っている。
本記事は,独身であることによって生じる問題,すなわち判断能力が低下したときに誰が本人のために動くのかという点に絞って検討する。

2 結論の要旨

独身の高齢者にとって,任意後見契約の必要性は高い。
判断能力が低下した後に預貯金の管理や施設入所の契約を本人に代わって行う人を,配偶者や子のいる人のように家族の中に見込むことができないためである。
任意後見契約がないまま判断能力が低下すると,本人が自ら申し立てるか,親族や市区町村長が申し立てるまで法定後見は始まらず,申立てがされても後見人等は家庭裁判所が選ぶ。

もっとも,任意後見契約は結んだだけでは効力を生じない。
現行法では,家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力を生じ,その申立てができるのは本人,配偶者,四親等内の親族及び任意後見受任者に限られる。
独身の高齢者の場合,申立てを担えるのが事実上受任者だけということがあり,受任者が同世代であれば本人より先に亡くなることもある。
任意後見は本人の死亡で終わり,医療行為への同意や身元保証も引き受けない。

そのため,独身の高齢者が任意後見契約を結ぶときは,受任者の年齢と代わりの受任者,判断能力の低下に誰が気付き誰が申立てをするか,代理権の範囲,監督人報酬を含む費用及び死亡後の事務を,併せて設計することが考えられる。
令和8年改正法が施行されると,発効の申立てを託す人を公正証書で指定し,次順位の受任者を定めることができるようになり,これらの問題の一部に制度上の手当てがされる。

第2 独身の高齢者に起きること

1 一人暮らしの高齢者は増え続けている

内閣府の令和8年版高齢社会白書によれば,65歳以上の一人暮らしの者が65歳以上人口に占める割合は,令和2年に男性15.0%,女性22.1%であり,令和32年には男性26.1%,女性29.3%になると見込まれている。
65歳以上の一人暮らしの者の数も,令和2年の約672万人から,令和32年には約1,084万人になると推計されている。

この統計の「一人暮らし」は単独世帯等を指し,未婚の人や子のいない人の数を直接示すものではない。
配偶者と死別して子と別居している人が含まれる一方,未婚でもきょうだいと同居している人は含まれない。
それでも,判断能力が低下したときに同じ家で異変に気付く家族がいない高齢者が増えていることは,この統計から読み取れる。

2 判断能力が低下すると本人名義の手続が滞る

最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」によれば,成年後見関係事件の主な申立ての動機は,預貯金等の管理・解約が93.4%,身上保護が74.2%,介護保険契約が45.7%,不動産の処分が36.3%であった。
預貯金の払戻し,介護サービスや施設入所の契約,自宅の売却といった手続は,本人が内容を理解して判断できることを前提としており,判断能力が低下すると本人に代わって行う人が必要になる。

(続きを読む...)独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由―申立人の不在,受任者の選び方及び令和8年改正(AI作成)

精神科病院入院中の成年被後見人が他科を受診するときの付添い――後見人の義務、病院との役割分担、介護保険・障害福祉・自費サービス(AI作成)

目次第1 結論と検討の対象第2 最初に「付添い」の内容を分ける1 移送と介助は別の機能である2 医療同意とも区別する第3 成年後見人の義務と限界1 民法858条及び859条2 最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決3 大阪家裁後見センターだよりの整理第4 精神科病院との役割分担1 病院に最初に確認すべき事項2 他医療機関受診に関する診療上の連携3 全国一律の付添い分担規定は確認できない第5 介護保険の通院等乗降介助1 居宅が始点又は終点となることが基本である2 老健からの受診例をそのまま当てはめない3 実際の確認先第6 障害福祉サービス1 通院等介助にも居宅起点・終点の制約がある2 入院中の重度訪問介護と移送を混同しない3 65歳以上では介護保険との関係も確認する第7 地域の外出支援と自費サービス1 寝屋川市の外出援助サービス2 自費の付添いサービス3 移送部分には道路運送法上の確認が必要である第8 費用負担と後見事務の記録1 本人の必要性と財産から判断する2 記録に残す事項第9 実務上の手順1 病院との打合せ2 公的サービスの照会3 自費サービスの選定4 受診後の引継ぎ第10 判例及び一次資料の到達点第11 出典1 法令及び裁判例2 行政資料3 文献
第1 結論と検討の対象

本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び公的資料に基づき,精神科病院に入院中の成年被後見人が整形外科等の他の医療機関を受診するとき,誰が付添いを担うのかを整理するものである。
結論からいえば,成年後見人であるというだけで,後見人本人が車椅子を押し,移動中及び待合室で見守り,診察に付き添う事実行為まで当然に行う義務を負うわけではない。
もっとも,本人が必要な診療を安全に受けられるよう,病院と必要な支援内容を確認し,利用可能なサービスを調査し,必要な契約及び支払を行うことは,後見事務となり得る。

付添い方法は,精神疾患の診断名だけで決めるべきではない。
本人ごとの歩行・移乗能力,転倒又は離院のおそれ,意思疎通の方法,服薬及び急変時の対応,入院形態並びに受診先が求める支援を確認して決める必要がある。

第2 最初に「付添い」の内容を分ける
1 移送と介助は別の機能である

「病院への付添い」という一語には,複数の異なる仕事が含まれる。
少なくとも,①精神科病院から受診先までの車両による移送,②病室から車両まで及び車両から診察室までの歩行・車椅子・移乗介助,③車内及び待合室での見守り,④受付・保険資格確認・会計,⑤診察時の意思疎通支援,⑥診療情報及び処方内容の受渡し,⑦急変又は離院時の対応に分けて考える必要がある。

これらを一人又は一事業者が全部担わなければならないわけではない。
例えば,移送は許可又は登録のあるタクシー等,乗降及び待合室の支援は自費の付添い事業者,診療情報の作成及び帰院後の治療継続は入院先病院という分担も考えられる。

2 医療同意とも区別する

診察に同席して説明を聞くことと,医的侵襲に同意することは別である。
成年後見人には一般的な医療同意権がないと整理されており,後見人が付添いに行くことから直ちに手術,注射その他の医療行為への同意権が生じるわけではない。
この点は,別稿「成年後見人の医療行為の同意」で詳しく扱っている。

第3 成年後見人の義務と限界
1 民法858条及び859条

民法858条は,成年後見人が生活,療養看護及び財産管理に関する事務を行うに当たり,本人の意思を尊重し,心身の状態及び生活の状況に配慮すべきことを定めている。
同法859条1項は,成年後見人が本人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について本人を代表することを定めている。

したがって,受診の必要性,安全な実施方法,本人の意向及び費用負担を確認し,必要なサービス契約を締結し,本人の財産から適正な費用を支払うことは,成年後見人の職務に含まれ得る。
他方,条文に「療養看護」とあることから,後見人が自ら介護職又は看護職の代わりとなり,身体介護や継続的見守りを行う義務まで直ちに導くことはできない。

2 最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決

最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決(平成26年(受)第1434号・第1435号)は,認知症高齢者の鉄道事故をめぐる民法714条の監督義務者責任を扱った判決である。
同判決は,民法858条が成年後見人に事実行為として本人の現実の介護を行うことや本人の行動を監督することを求めるものではない旨を判示した。

この判決は,他科受診の付添い義務を直接判断したものではない。
しかし,「身上配慮義務」と「本人に対する現実の介護・行動監督」を区別する必要があることを示す一次資料として重要である。

3 大阪家裁後見センターだよりの整理

大阪家裁後見センターだより第32回「第二期計画下における身上保護事務について」は,身上保護事務は契約等の法律行為に関する事項である限り,一身専属的な事項を除いて身上監護に関するあらゆる事項(法律行為に当然伴う事実行為を含む。)を対象とする一方,身体に対する強制を伴う事項(健康診断の受診の強制・入院の強制,施設への入所の強制,介護の強制等),一身専属的な事項及び現実の介護・看護行為(事実行為としての介護・看護)は身上保護事務に含まれないという共通の理解を示している(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)137頁~138頁)。

(続きを読む...)精神科病院入院中の成年被後見人が他科を受診するときの付添い――後見人の義務、病院との役割分担、介護保険・障害福祉・自費サービス(AI作成)

成年後見人の死後事務と遺骨の引取り-大阪市立斎場の保管,誓約書及び合同埋蔵(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 大阪市の要綱が対象とする遺骨1 すべての身寄りのない遺骨が対象になるわけではないこと2 遺体の火葬と火葬後の遺骨は別の段階であること第3 保管から合同埋蔵までの流れ1 火葬の日から1年間の保管2 南霊園への引継ぎ3 慰霊祭と合同埋蔵4 保管中の参拝第4 誰が遺骨を引き取ることができるか1 行旅死亡人又は生活保護の取扱いによる場合2 親族による引取り3 施設長,病院長又は成年後見人等による引取り4 瓜破霊園合葬式墓地の使用許可を受けていた場合5 親族以外の関係人による引取り第5 成年後見人等が引き取る場合の注意点1 斎場使用申込時の申出を記録に残すこと2 誓約書等の内容は公開資料だけでは確定できないこと3 大阪市の引渡要件と民法上の死後事務権限を分けること4 家庭裁判所の公開案内が明示している範囲5 保佐人,補助人その他の者第6 実務上の確認事項1 斎場使用申込時2 火葬後の保管中3 南霊園への引継ぎが近い場合第7 公開資料だけでは確定できない事項1 斎場への個別確認が必要な事項2 日程を「法律上の権利行使期限」と扱わないこと3 判例の位置付け第8 出典・参考資料1 法令2 大阪市の例規及び要綱3 裁判所の手続案内4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪市立斎場で火葬された後,引き取る人がいないため斎場で保管される遺骨について,引渡し,保管及び合同埋蔵の流れを整理するものである。
令和8年9月9日に閲覧した大阪市の例規,要綱及び裁判所の公開資料を基準とする。
大阪市例規データベースは,内容現在を令和8年4月1日と表示している。

2 結論

大阪市の制度では,引取り手のない遺骨が直ちに合同埋蔵されるわけではない。
対象となる遺骨は斎場で一定期間保管され,所定の時点で南霊園に引き継がれた後,無縁堂に合同埋蔵される。
親族のほか,所定の場合には成年後見人等や親族以外の関係人も引取りを申し出ることができるが,申出の時期や誓約書等の条件が異なる。

大阪市の要綱に基づいて遺骨の引渡しを受けられることと,死亡後に納骨その他の契約を締結する民法上の権限があることは別問題である。
成年後見人であった人にとっては,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理(AI作成)も併せて確認対象となる。

第2 大阪市の要綱が対象とする遺骨
1 すべての身寄りのない遺骨が対象になるわけではないこと

大阪市立斎場保管遺骨取扱要綱が対象とするのは,大阪市の行旅死亡人関係の細則その他これに準じる規定に基づいて大阪市立斎場で火葬され,引き取る人がいない,又は引き取る人が分からないため保管された遺骨である。
したがって,大阪市内に身寄りのない人が死亡した場合の遺骨をすべて一律に扱う要綱ではない。
実際の案件では,誰の依頼で,どの制度に基づいて,どの大阪市立斎場で火葬されたかが最初の確認事項となる。

2 遺体の火葬と火葬後の遺骨は別の段階であること

墓地,埋葬等に関する法律9条は,死体の埋葬又は火葬を行う人がいない,又は分からない場合の市町村長の対応を定めている。
これに対し,本記事で扱う大阪市の要綱は,火葬が済んだ後に斎場で保管されている遺骨の取扱いを定めるものである。
本記事では,火葬前の手続と火葬後の引取りを分けて検討する。

第3 保管から合同埋蔵までの流れ
1 火葬の日から1年間の保管

大阪市例規データベースに掲載されている大阪市行旅病人及行旅死亡人取扱法施行細則10条は,市立斎場において火葬した遺骨について,火葬の日から1年間保管し,その後に適宜の処置をする旨を定めている。
この1年という期間は,国の行旅病人及行旅死亡人取扱法ではなく,大阪市の細則に置かれた基準である。

2 南霊園への引継ぎ

大阪市立斎場保管遺骨取扱要綱2条によれば,斎場で保管している遺骨は,保管期間の経過後,最初に到来する9月1日以降に処理することが原則である。
斎場から南霊園へ遺骨と火葬許可証が引き継がれる。

「火葬から1年後に直ちに合同埋蔵される」という仕組みではなく,1年経過後の最初の9月1日が行政上の節目となる。
引取りを検討している場合は,火葬日だけでなく,この日程を斎場へ事前に確認することが重要である。

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成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象,基準日及び他の記事との分担2 結論第2 本人の死亡で消えるもの,残るもの1 代理権は消滅する2 民法873条の2の死後事務3 民法874条が準用する654条の応急処分4 民法697条以下の事務管理5 三つの関係――873条の2は上限ではない第3 民法873条の2の柱書の要件1 「必要があるとき」2 「相続人の意思に反することが明らかなとき」3 「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」第4 1号及び2号――家庭裁判所の許可を要しない行為1 1号の保存行為2 2号の弁済3 払戻しが必要になった時点で3号許可が要る第5 3号許可の対象――「相続財産の保存に必要な行為」1 判定の基準2 火葬,埋葬及び納骨3 残置動産の廃棄と借家の明渡し4 後見人報酬及び後見事務費の精算5 申立ての実際第6 葬儀ができないときの経路1 3号許可の対象外とされる理由2 大阪家庭裁判所の取扱い3 事務管理による経路4 親族から依頼された場合第7 原資の確保1 死亡前の引出し2 死亡後の払戻し3 年金受給口座と残す口座第8 管理計算と引継ぎ1 管理の計算2 引継ぎは相続人1人で足りる3 相続人の調査4 受領を拒絶された場合5 相続財産管理人と相続財産清算人第9 監督,報酬及び終了登記第10 保佐人及び補助人第11 令和8年法律第45号による改正1 民法876条の26の構造2 施行日前に開始した後見の扱い第12 実務上の確認手順と停止基準1 死亡の連絡を受けた時点で確認する事項2 根拠を選ぶ順序3 高負担の手続へ進まない基準4 結論を左右し得る不確実な要素第13 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 家庭裁判所の資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象,基準日及び他の記事との分担

本記事は,成年被後見人が死亡した直後に,成年後見人であった者が何を,どの根拠で,どの順序で行うことができるかを整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月7日であり,法令は同日現在のe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
引用する家庭裁判所の資料は平成29年から平成30年までに公表されたもの,実務書は令和5年に発行されたものであり,資料の対象期間はこの範囲である。
令和8年法律第45号による改正法は本記事の作成時点で施行されておらず,改正後の姿は第11で別に扱う。

火葬許可証の交付手続そのものは火葬許可証で,遺骨の帰属及び葬儀費用の終局的な負担者は葬儀・火葬の実施で,本人の生前に締結する契約は死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点で扱っている。
本記事はこれらと重複する説明を置かず,後見人の側の判断だけを対象とする。

この論点には,参照できる裁判例がほとんどない。
裁判所ウェブサイトの裁判例検索を令和8年9月7日に行ったところ,全文検索の語を「民法873条の2」としたときの該当件数は0件,「八百七十三条の二」としたときも0件であった。
「873条の2」では2件が該当したが,いずれも著作権に関する知的財産の事件であって条文の引用として一致したものではない。
同じ検索式で「成年後見人」を検索すると102件が該当するから,検索の仕組み自体は動いている。
裁判所ウェブサイトに掲載がないことは裁判例が存在しないことの証明にはならないが,公開されている範囲で民法873条の2の解釈が正面から争われた例は見当たらないため,本記事は条文と,家庭裁判所自身が公表した運用の説明及び実務書の記述を根拠として組み立てている。

2 結論

本人の死亡により後見は終了し,成年後見人の代理権は消滅する。
それでも元後見人が死後の事務を行うことができる根拠は,①民法873条の2の死後事務,②民法874条が準用する同法654条の応急処分,③民法697条以下の事務管理の三つに分かれる。
どの根拠で動いているかによって,家庭裁判所の許可の要否,費用の求償先及び裁判所への報告の内容が変わる。

実務上の分岐点は三つである。
第一に,凍結された預貯金口座から金銭を払い戻す必要があるかどうかであり,払戻しが必要になった時点で民法873条の2第3号の家庭裁判所の許可(以下「3号許可」という。)が必要になる。
第二に,葬儀を行うかどうかであり,葬儀は3号許可の対象とされていないため,葬儀を行うのであれば事務管理の構成によることになる。
第三に,相続人が引継ぎを受けるかどうかであり,引継ぎは相続人の1人に対して行えば足りるが,その1人すら受け取らないときは弁済供託又は相続財産管理人の選任という別の出口が要る。

第2 本人の死亡で消えるもの,残るもの
1 代理権は消滅する

民法111条1項1号は,代理権が本人の死亡によって消滅すると定める。
民法653条1号も,委任が委任者又は受任者の死亡によって終了すると定めている。
大阪家庭裁判所家事第4部後見係「大阪家裁後見センターだより」第3回(月刊大阪弁護士会2017年10月号54頁~55頁)も,後見人は被後見人の死亡により代理権等の権限を失うことを出発点として説明している。
したがって,本人が死亡した後の元後見人の行為は,いずれも例外規定の上に立つことになる。

2 民法873条の2の死後事務

民法873条の2は,「成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限」という見出しの下に,「成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
掲げられている行為は,①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為(1号),②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済(2号),③その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)(3号)の三つである。
この規定は,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号。以下「円滑化法」という。)により新設され,平成28年10月13日に施行された。

3 民法874条が準用する654条の応急処分

民法874条は,民法654条及び655条を後見について準用する。
民法654条は,「委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない」と定めている。
条文の文言が「しなければならない」である以上,これは権限であると同時に義務であり,家庭裁判所の許可を要しない。

4 民法697条以下の事務管理

民法697条1項は,義務なく他人のために事務の管理を始めた者が,その事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法によって事務の管理をしなければならないと定める。
元後見人が相続人らのために事務管理を行い,その費用を民法702条1項の有益費償還請求により清算する,という構成である。
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編「【全訂版】成年後見人の実務2023」(大阪弁護士協同組合,2023年)131頁~132頁は,この方法によれば裁判所の許可を得る必要はなく,事後的な報告で足りるとする。
もっとも,民法697条2項及び700条ただし書があるため,相続人の意思に反する対応はできない。

5 三つの関係――873条の2は上限ではない

重要なのは,民法873条の2が従前の対応を制限する規定ではないという点である。
前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,円滑化法の施行以前も,後見終了時の応急処分(民法654条)や相続人全員のための事務管理(民法697条)を根拠として一定の範囲の死後事務を行うことは可能であると解されていたとした上で,円滑化法は従前から行うことのできていた行為を制限する趣旨とは解されないので,応急処分等の要件を満たす行為は施行後も家庭裁判所の許可なくして適法に行うことが可能であるとする。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁も,民法873条の2は保存行為の範囲内で成年後見人に権限があることを確認したものであって,これらが成年後見人の義務となるものではなく,従前の事務管理法理等による対応が否定されるものでもないと述べている。
したがって,3号許可が得られないことは,元後見人が何もできないことを意味しない。

第3 民法873条の2の柱書の要件
1 「必要があるとき」

前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,「必要があるとき」とは,相続人ではなく後見人が当該事務を行わなければならない場合をいうとする。
同回が挙げる例は,入院費等の支払を請求されているが,相続人の連絡先が不明で,成年後見人が支払をしないと相当期間債務の支払がされないこととなる場合である。
相続人が現に対応できる状況であれば,この要件は満たされない。

2 「相続人の意思に反することが明らかなとき」

同回は,これを,後見人が死後事務を行うことについて相続人が明確に反対の意思表示をしている場合をいうとし,相続人が不存在の場合や存否が明らかでない場合,相続人と連絡が取れない場合はこれに当たらないとする。
他方,相続人が複数いる場合には,一人でも反対の意思表示を明らかにしているときはこれに当たると考えられる旨が,同回の注に記されている。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁~129頁も,相続人の意思を確認することは求められていないから,相続人はいるがすぐに連絡が取れないなどの場合であれば死後事務を行うことは可能であるとする。
実務上は,「連絡が取れない」のか「反対されている」のかを,時期と方法を含めて記録の上で区別しておくことが要点になる。

親族が遺体や遺骨を「引き取らない」と述べている場合も,それだけでは,後見人が死後事務を行うことへの明確な反対の意思表示とは限らない。
自分では遺体を引き取らず火葬も手配しないという意思と,後見人が火葬や納骨をすることに反対する意思とは,別のものだからである。
「DNA鑑定をしなければ引き取らない」のように条件を付けた拒否も同様であり,「鑑定が済むまで火葬するな」とまで明言されたかどうかを,親族の言葉どおりに記録しておくことになる。
この場面の具体的な対応と,危篤の段階で送る意向照会書の文例は,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書(AI作成)で扱っている。

3 「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」

同書128頁は,相続人に引継ぎができる状況となったときは速やかに引継ぎをしてその後の対応は相続人に委ねるべきであるから,死後事務を行うことができるのはそれまでに限られるとする。
民法873条の2の権限は,引継ぎまでの暫定的なものである。

第4 1号及び2号――家庭裁判所の許可を要しない行為
1 1号の保存行為

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成年後見人のマイナンバーカード管理-電子証明書の更新・期限切れ・資格確認書(AI作成)

第1 カードと2種類の電子証明書を区別する1 用途と暗証番号の違い2 期限はカード本体と別に確認する第2 後見開始・住所変更で何が変わるか1 署名用の発行と既存証明書の失効は別問題である2 通常の住所変更と転入手続の未了を分ける第3 成年後見人による更新と暗証番号の再設定1 受付開始日と通知書の有無を確認する2 法定代理人の手続として持ち物を確認する第4 電子証明書が期限切れになったときの受診1 期限満了後の取扱いには期間と機能の制限がある2 資格確認書の交付対象と到達を確認する3 顔認証マイナンバーカードも選択肢となる第5 後見人と施設で管理方法を決める1 本人の意向・利用目的・受診手段を記録する2 カードの預かりと暗証番号の共有を分ける3 紛失したときと見つかったときの手順も決めておく第6 出典1 法令2 国・発行主体・保険者の説明資料3 自治体の手続案内4 関連記事5 文献

成年後見人がマイナンバーカードを管理する際は,カード本体と2種類の電子証明書を区別し,本人が使う機能と受診時に提示する書類を確認することが出発点となる。
電子証明書を更新する手続と,資格確認書によって受診を続ける方法を把握した上で,本人の意向や生活状況に応じて管理方法を選ぶ。

本記事は,令和8年9月4日現在(第5の3は同月11日現在)の公表資料に基づき,国内に居住する成年被後見人のマイナンバーカードを扱う。
成年後見人が法定代理人として行う手続を対象とし,保佐・補助・任意後見の個別の代理権に基づく手続は別に検討する。

第1 カードと2種類の電子証明書を区別する
1 用途と暗証番号の違い

マイナンバーカードには,署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書を搭載できる。
大阪市の電子証明書の案内と東淀川区の暗証番号の案内による用途の違いは,次のとおりである。

対象主な用途暗証番号・確認事項カード本体券面による本人確認カード自体の有効期限を確認する利用者証明用電子証明書マイナポータルへのログイン,コンビニ交付,マイナ保険証数字4桁。顔認証マイナンバーカードでは設定しない署名用電子証明書電子申請等で電子文書に署名する大文字の英字と数字を組み合わせた6~16文字

数字4桁の暗証番号には,利用者証明用のほか,住民基本台帳用及び券面事項入力補助用もある。
同じ4桁であることだけでは用途を特定できないため,窓口に相談する際は,どの暗証番号が分からないのかを伝える。

2 期限はカード本体と別に確認する

J-LISの更新案内によれば,電子証明書の有効期限は原則として発行後5回目の誕生日であり,満了まで3か月未満となった日から満了日までに更新した場合は,発行後6回目の誕生日までとなる。
ただし,J-LISのFAQが示すカード自体の有効期限等による上限もあるため,一律に「発行日から5年間」と計算せず,実際の期限を確認する。

デジタル庁の案内では,カード本体の期限は券面に印字され,電子証明書の期限は券面に記入する扱いとされている。
電子証明書の記入がない場合は,カード本体の印字された期限で代用せず,市区町村窓口で確認する方法を検討する。

第2 後見開始・住所変更で何が変わるか
1 署名用の発行と既存証明書の失効は別問題である

大阪市は,成年被後見人には署名用電子証明書を原則として発行しないと案内している。
一方,公的個人認証法15条・34条の失効事由には,後見開始そのものは独立した事由として列挙されていない。
したがって,発行に関する取扱いから,既存の証明書が後見開始だけで当然に失効すると結論付けることはできない。

署名用の発行について,横浜市は,原則不発行としつつ,本人と法定代理人が一緒に窓口で申請した場合に限り発行すると説明している。
これに対し,川崎市の案内は,成年被後見人には発行できないという表現を用いている。
案内の記載に差があるため,横浜市の説明を全国共通の受付条件とせず,申請先へ本人の来庁可否と必要な利用目的を伝えて確認する。

2 通常の住所変更と転入手続の未了を分ける

J-LISのFAQは,氏名・住所等の変更により署名用電子証明書は失効するが,利用者証明用電子証明書はその変更だけでは失効しないと説明している。
法的には,署名用について,公的個人認証法12条・15条により,所定の変更を受けた機構の失効情報の記録が失効に結び付く。

利用者証明用も,転出届を出した後,転入届を行わずに転出予定日から30日を経過した場合などは別の失効事由となる(同法31条・34条)。
施設入所に伴って住所を移す際は,通常の住所変更による影響と,転入・カード継続利用の手続が済んでいるかを分けて確認する。

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成年後見制度利用支援事業とは―後見人報酬・申立費用の自治体助成を比較する(AI作成)

第1 成年後見制度利用支援事業とは

1 制度の内容――申立費用と後見人等の報酬を市区町村が助成する
2 高齢者向けと障害者向けで法律上の位置づけが異なる

(1) 高齢者向け――介護保険法の任意事業
(2) 障害者向け――障害者総合支援法上の地域生活支援事業

第2 助成を受けられるのはどのような場合か

1 資力要件
2 対象となる申立人の範囲
3 後見人等が親族である場合の扱い

第3 実際にいくら助成されるか――7市の実例

1 報酬助成の上限額
2 申立費用の助成対象
3 申請期限に注意する

第4 自治体によってどれだけ違うか――全国調査からみる実態

1 助成制度自体がない自治体も存在する

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要介護認定の結果に納得できない場合の資料収集と争い方―認定調査票・主治医意見書・一次判定・二次判定の読み方(AI作成)

目次

第1 最初に確認すること

1 結論

2 結果だけでなく資料の流れを確認する理由

3 期間制限

第2 認定調査から処分までの資料の流れ

1 法定の手続

2 一次判定は最終結論ではない

3 処分時点と現在時点を分ける

第3 最初に集める資料

1 行政側の資料

2 大阪市の情報提供手続

3 本人側で作る資料

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令和8年成年後見制度改正で弁護士の後見業務は採算が悪化するか(AI作成)

目次

第1 結論と記事の対象

1 結論

2 この記事が扱う範囲

第2 1件当たりの継続収益を低下させる改正

1 必要な権限がなければ補助を開始しない仕組み

2 毎年の必要性確認と補助人の交代

3 任意後見監督人を選任しない場合

第3 報酬算定は令和8年改正だけでは説明できない

1 改正民法876条の19

2 令和7年4月に始まった報告書式の変更

3 報酬は二方向へ動き得る

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大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務(AI作成)

第1 この記事が扱う対象と検索意図
第2 大阪家裁後見センターの組織的な位置付け
第3 沿革――発足から現在までの展開
第4 大阪独自の制度① 総合支援型後見監督人
第5 大阪独自の制度② 市民後見人へのリレー
第6 本人死亡後の後見等監督
第7 法定後見と任意後見の優劣が問題となった裁判例

1 大阪高裁決定平成14年6月5日
2 大阪高裁決定平成24年9月6日
3 福岡高裁・高松高裁・水戸家裁の裁判例

第8 後見人等の解任事由と後見法改正の動き
第9 東京家裁後見センターとの異同
第10 後見人等に交付されるハンドブックが示す日常の運用
出典

第1 この記事が扱う対象と検索意図
大阪家庭裁判所には,成年後見関係事件(後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任の各申立事件並びにその後の監督事務)を集中的に扱う部門があり,実務上「大阪家裁後見センター」と呼ばれている。この記事は,大阪家裁後見センターの組織上の位置付け,発足からの沿革,及び他庁にはみられない独自の運用実務を,大阪家庭裁判所自身が作成した公文書に基づいて整理するものである。

中心的な資料は,大阪弁護士会報「月刊大阪弁護士会」に平成29年から連載されている「大阪家裁後見センターだより」である。これは大阪家庭裁判所家事第4部が執筆する連載であり,司法行政文書開示請求によって全51回分の原本を確認することができた。あわせて,同センターの組織的位置付けを示す司法行政文書,関連する裁判例及び現行の民法・家事事件手続法の条文を確認した上で,東京家庭裁判所後見センターとの異同にも触れる。連載の第1回から第41回までは,内容ごとに並べ替えた上で書籍化されており(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)。以下「書籍版」という。),本記事は書籍版も参照している。書籍版は,原則として初出当時の運用を記載したもので,書籍化の際に一部を修正・加筆したものである(書籍版1頁)。
第2 大阪家裁後見センターの組織的な位置付け
「後見センター」は通称であり,正式な組織上の名称は大阪家庭裁判所家事第4部である。この点は,大阪家裁自身が作成した複数の司法行政文書のレターヘッドで確認できる。たとえば,平成30年7月付けで書記官室が作成した本人死亡後の監督に関する説明文書には「大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)」と記載され,令和元年7月付けの相続財産管理人選任事件に関する説明文書には「大阪家庭裁判所家事第4部財産管理係書記官室」と記載されている。

これらの記載から,家事第4部は,後見等関係事件を担当する後見センターと,相続財産管理人選任等の事件を担当する財産管理係という,少なくとも二つの係を内包する部であることが分かる。東京家庭裁判所の後見関係事件を扱う部門(家事第一部第二係)も,同じ家事第一部の中に財産管理を扱う第一係とハーグ条約関係事件を扱う第三係を置く構成になっており,後見と財産管理を同一部内の別係が分担するという組織設計は両庁に共通している(東京家裁後見センターの詳細については後掲リンク先の記事を参照)。

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身元保証人等がいない場合の入院拒否は医師法19条違反か――応招義務と高齢者等終身サポート事業の規制(AI作成)

第1 この記事が対象とする問題と検索意図

1 検討の対象と時点

第2 医師法19条の応招義務と身元保証人の不存在

1 医師法19条1項の「正当な事由」
2 平成30年通知――身元保証人等がいないことのみを理由とする入院拒否
3 令和元年通知――応招義務の法的性質
4 介護保険施設における並行規律

第3 身元保証人・身元引受人・連帯保証人の法的性格

1 身元保証ニ関スル法律は入院患者に適用されない
2 入院保証書の連帯保証条項と極度額規制
3 医療同意権限との峻別
4 成年後見人が身元保証人欄への署名を求められたとき

第4 身元保証等高齢者サポート事業の規制の展開

1 日本ライフ協会の経営破綻と消費者委員会の建議
2 総務省行政評価局による実態調査
3 高齢者等終身サポート事業者ガイドラインの策定
4 身元保証契約と死因贈与契約を組み合わせた契約をめぐる規律

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後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編(AI作成)

第1 後見監督人とは何か

1 この記事が扱う範囲と時点
2 後見監督人,保佐監督人,補助監督人及び任意後見監督人の関係

第2 選任の基準と実務の運用

1 条文上の選任基準
2 選任される事案の実情
3 選任率の低さという構造的な課題

第3 後見監督人の職務と権限

1 後見人の事務の監督及び後任選任の請求
2 同意権とこれを欠く行為の取消し
3 利益相反行為における被後見人の代表
4 急迫の事情がある場合の処分

第4 報酬,辞任及び解任

1 報酬
2 辞任
3 解任

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東京家庭裁判所後見センター――組織上の位置付け,沿革及び運用実務(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 対象とする組織及び一次資料

第2 組織上の位置付け

1 正式名称は家事第一部第二係である
2 所在地及び立川支部後見係との分担

第3 沿革――2003年の開設からの推移

1 2003年開設時の実情
2 管理事件数の増加と2016年の内閣府への報告

第4 後見監督の事務プロセス
第5 後見人・後見監督人の選任基準

1 成年後見人の選任について
2 成年後見監督人の選任について

第6 後見人の「裁量」の範囲
第7 近時の運用変化――令和7年から令和8年

1 全国統一書式の導入と身上保護事務の報告

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成年後見事件における親族の意向の取扱い――選任,職務遂行及び解任の各場面における法的地位(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 検討の対象と時点
2 対象とする文献の基本情報

第2 後見人の選任における親族の法的地位

1 選任の考慮要素(民法843条4項)
2 陳述及び意見の聴取の対象(家事事件手続法120条)
3 選任の結果に対する不服申立ての不存在(家事事件手続法123条)

第3 後見人の職務遂行と親族――「他人」という整理

1 意思尊重及び身上配慮義務の対象(民法858条)
2 判例タイムズ掲載論文が示す実務上の整理

第4 解任の場面における親族の位置づけ
第5 家庭裁判所の運用における転換――「身近な親族」を優先する選任方針

1 平成31年専門家会議が示した選任の基本的考え方
2 第二期成年後見制度利用促進基本計画における権利擁護支援チーム

第6 令和8年改正後の位置づけと他の場面との比較

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成年後見人等の報酬額の目安――大阪家裁の基準,令和7年全国実績及び申立手続(AIリライト)

第1 成年後見人等の報酬を考える前提

1 家庭裁判所が本人の財産から支給する額を定める

2 「めやす」「全国実績」「助成上限額」は別の数字である

3 交通事故の損害として請求する場合は別問題である

第2 大阪家庭裁判所の報酬額のめやす

1 成年後見人等の基本報酬

2 成年後見監督人等の基本報酬

3 付加報酬及び複数選任

4 他の家庭裁判所の取扱い

第3 令和7年の全国集計から見た実際の報酬額

1 集計の対象と注意点

2 財産額別の代表的な分布

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令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備(AI作成)

目次

第1 令和8年改正の対象と現在の適用関係

1 二つの法律を分けて読む必要がある
2 公布済みであるが成年後見部分は未施行である
3 改革の出発点は包括的な権利制限の縮小である

第2 法定後見を補助へ一元化する仕組み

1 判断能力の三類型から必要な権限の選択へ移る
2 三つの権限は効果が異なる
3 必要性がなくなれば能力回復前でも終了できる
4 意思尊重と任意後見の位置付けも変わる

第3 関係法律整備法が行う五つの接続

1 身分名称の削除と接続先の選択
2 民事訴訟は身分から訴訟能力の個別判断へ移る
3 会社法,信託法及び消費者契約法への影響
4 福祉,医療及び行政手続は一般的な医療同意権を設けない

第4 法律第46号が整備する61法律
第5 旧後見,旧保佐及び旧補助の経過措置

1 旧後見及び旧保佐は一律に新制度へ移らない

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移行型の任意後見契約―通常委任からの移行,濫用防止及び令和8年改正(AI作成)

目次

第1 移行型の任意後見契約とは何か

1 本記事の対象

2 二つの委任契約を組み合わせる仕組み

3 将来型及び即効型との違い

第2 現行法下での開始と終了

1 通常委任の開始

2 任意後見を開始する条件と申立て

3 任意後見監督人の選任後

4 通常委任をいつ終了させるか

第3 移行型に固有の危険

1 公的監督へ移らない移行不全

2 包括的代理権と事後検証の困難

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成年後見人の医療行為の同意(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う問題2 結論の要旨第2 現行法における後見人の権限と医療同意1 民法が定める後見人の権限の範囲2 医的侵襲への同意が代理になじまないとされる理由3 実務書が紹介する限定的肯定説4 受診の付添いと後見事務の区別第3 行政ガイドラインが示す実務の到達点1 身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定のガイドライン2 意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン3 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスのガイドライン4 看取り介護の同意書を求められたとき第4 個別の特別法における関与規定1 精神保健福祉法の医療保護入院2 予防接種法の「保護者」と同意の取得3 母体保護法・臓器移植法・感染症法・医療観察法第5 本人の同意能力と緊急時の対応1 医療同意能力は行為能力とは別に判断されること2 緊急時に本人の同意を得られない場合3 身元保証人・身元引受人の問題との区別第6 立法の動向と令和8年改正が残した課題1 利用促進法と基本計画による対応2 法制審部会における検討と立法の見送り3 令和8年改正後に残る課題第7 弁護士が相談を受けたときの実務的検討1 相談類型に応じた手続の選択2 依頼者・関係者から聴取すべき事項3 同意書要求への対応と関連する場面第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う問題

認知症,知的障害又は精神障害により判断能力が低下した本人について,手術,輸血,内視鏡検査その他の身体への侵襲を伴う医療(以下「医的侵襲」という。)が必要になる場面は多い。
このとき,医療機関が成年後見人に対して同意書への署名を求めることがあり,後見人が対応に迷って弁護士に相談する例は少なくない。

本記事は,後見人自身,病院を顧問する立場又は本人の家族から相談を受ける弁護士を念頭に,成年後見人の医療同意に関する現行法の枠組み,行政ガイドラインが示す実務の到達点,個別の特別法における関与規定,本人の同意能力及び緊急時の扱い,並びに令和8年の法改正を含む立法の動向を,条文及び公的資料に即して整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日現在のe-Gov法令検索で確認した条文による。

2 結論の要旨

現行の民法は,成年後見人に対し,本人に代わって医的侵襲に同意する権限(医療同意権)を与える明文を置いていない。
厚生労働省及び最高裁判所等が関与して作成された複数の行政ガイドラインも,医療同意は成年後見人等の業務に含まれないという立場を明示している。

もっとも,精神保健福祉法の医療保護入院や予防接種法など,個別の特別法が特定の場面で後見人・保佐人又は「保護者」を関与主体として定めている例があり,これらは一般的な医療同意権を認めたものではない。
両者を区別して考える必要がある。
予防接種については,令和6年度から高齢者の新型コロナワクチンがB類疾病の定期接種になり,令和8年9月1日には予防接種実施規則の同意の方法が改正されたため,成年後見人の関与の仕方を改めて確認する必要がある。
後見・保佐を廃止して補助に一元化する令和8年の民法改正でも,医療同意権は創設されなかった。

第2 現行法における後見人の権限と医療同意
1 民法が定める後見人の権限の範囲

成年後見人の代理権について,民法859条1項は,後見人が「被後見人の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為について被後見人を代表する」と定めている。
民法858条は,後見人が生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たり,本人の意思を尊重し,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないと定めるが,これは一般的な義務を定める規定であり,特定の権限を積極的に付与する規定ではない。

後見人の権限が明文で拡張されている例外は,成年被後見人の死亡後の事務に関する民法873条の2である。
同条は,必要があるときに,相続財産の保存に必要な行為,弁済期の到来した債務の弁済及び死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結(火葬・埋葬の契約は家庭裁判所の許可を要する。)をすることができると定める。
このように死後事務については明文の手当てがされているのに対し,生前の医的侵襲への同意については,これに対応する規定が置かれていない。

療養看護に関する事務の代理として,診療契約(医療契約)や入院契約の締結,医療費の支払,診療情報の受領やカルテの開示請求を行うことは,財産に関する法律行為又はその付随事務として後見人の権限に含まれると考えられる。
しかし,契約を締結することと,その履行として実施される個々の医的侵襲に同意することは別の問題である。
本記事では,前者は後見人の事務に含まれるが,後者は含まれないと整理する。

受診に必要な保険資格の確認に関し,電子証明書の期限切れや資格確認書の取扱いについては,別稿「成年後見人のマイナンバーカード管理」で整理している。

2 医的侵襲への同意が代理になじまないとされる理由

医的侵襲への同意は,本人の身体という一身専属的な法益の処分であり,日本国憲法13条に由来する自己決定権の行使としての性質を持つ。
財産に関する法律行為の代理を予定した民法859条1項の枠組みには,このような判断は含まれないと解される。

この自己決定権の性質は,裁判例にもあらわれている。
最高裁平成12年2月29日判決・民集54巻2号582頁は,宗教上の信念から輸血を拒否する固い意思を有する患者について,医師が他に救命手段がない場合には輸血する方針を採っていることを説明せず手術・輸血をした事案において,「意思決定をする権利」を奪われたことによる精神的苦痛について不法行為責任を認めた。

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成年後見人の解任理由(AI作成)

目次第1 成年後見人の解任とは1 この記事の対象と基準日2 解任・辞任・欠格の区別3 誰が解任を求めることができるか(請求権者と職権)第2 解任事由――民法846条の3類型1 条文の構造2 不正な行為3 著しい不行跡4 その他後見の任務に適しない事由5 なぜ解任事由は限定されているか第3 保佐人・補助人・任意後見人などへの広がり第4 解任の手続1 別表第一の審判事件2 後見人の陳述聴取3 審判前の保全処分(職務執行停止・職務代行者)4 不服申立て(即時抗告)第5 解任の効果第6 数字で見る後見人の不正(最高裁の実情調査)第7 令和8年改正による解任事由の見直し1 見直しの背景2 改正の内容3 既存の成年後見人への適用第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 成年後見人の解任とは
1 この記事の対象と基準日

成年後見人が法律上その職を離れるのは,本人(成年被後見人)の判断能力の回復による後見開始の審判の取消し等のほかは,辞任又は解任による。
もっとも,大阪家庭裁判所後見センターは,第二期成年後見制度利用促進基本計画の下で,専門職が関与すべき課題が解決した後に親族や市民後見人へ交代することや,専門職の追加選任を積極的に検討しており(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)169頁~180頁),交代は例外的な出来事ではなくなっている。
後見人に一定の事由があるときは,家庭裁判所が後見人を「解任」してその職を解くことができる。
本記事は,成年後見人の解任について,根拠となる民法846条の解任事由(3類型),解任を求めることができる者,家庭裁判所での手続,解任の効果,実務上の不正の実情,そして令和8年に成立した改正法による見直しまでを,条文と公的資料に即して整理するものである。
保佐人・補助人・任意後見人にも同じ枠組みが及ぶ点は第3で扱う。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日現在のe-Gov法令検索で確認した条文による。

2 解任・辞任・欠格の区別

成年後見人が交代する場面は,「辞任」「解任」「欠けた場合の選任」の3つの規定の組合せで整理できる。
いずれも家庭裁判所が関与し,後見人が自由に辞めたり,本人や親族が自由に交代させたりできる仕組みにはなっていない。

①辞任(民法844条)は,後見人の側から離脱する場合である。
「正当な事由があるとき」に,家庭裁判所の許可を得て任務を辞することができる。
後見人が職業上の必要から遠隔地に転居して事務に支障が生じた場合,老齢・疾病で事務に支障が生じた場合,本人やその親族との間に不和が生じた場合などが,正当な事由の例として想定されている。
ただし,前記の書籍170頁は,後見人等が本人やその親族と適切に信頼関係を構築できていない場合について,安易な辞任は認められない一方,その後見人等に事務を続けさせることが本人の利益に適うともいい難いとして,本人の意向,後見人等と本人・親族との関係,事務遂行上の課題の有無と内容,後任候補者の適格性などを総合的に考慮して判断するとしている。
同書171頁は,専門職が関与すべき課題が解決又は消滅し,事務を引き継げる親族等や市民後見人がいる場合にも,一般に正当な事由が認められるとしている。
辞任の手続,後任の選任及び市民後見人へのリレーは,成年後見人等の辞任と交代――正当な事由,後任選任の同時申立て,市民後見人へのリレーで扱っている。
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)124頁は,弁護士後見人の場合には,弁護士登録の抹消のほか,任官や期限付き公務員となった場合なども正当な事由として考えられるとしている。
②解任(民法846条)は,後見人の意思に反してでも,家庭裁判所がその職を解く処分である。
本記事の中心で,一定の解任事由が必要である。
③欠けた場合の選任(民法843条2項)は,解任や辞任などで後見人が欠けたときに,家庭裁判所が職権又は請求によって新たな後見人を選任するものである。

辞任と解任は,「後見人自身の意思に沿うかどうか」で区別される。
後見人は本人保護のために家庭裁判所から選ばれた者であり,自由な辞任も一方的な交代も認めると本人の利益を害するおそれがあるため,辞任には「正当な事由」,解任には後述の「解任事由」がそれぞれ要求されている。

3 誰が解任を求めることができるか(請求権者と職権)

民法846条は,解任を求めることができる者を,後見監督人,被後見人本人,その親族,検察官に限定している。
これに加えて,家庭裁判所が職権で(請求を待たずに)解任することもできる。
後見人の事務は家庭裁判所や後見監督人が監督しており(民法863条),監督の過程で問題が把握された場合に職権発動につながる。

市区町村長は,条文上,解任そのものの請求権者としては挙げられていない。
もっとも,成年後見の申立て自体は市区町村長申立ての事案が多く,実務では,本人・親族からの情報や監督を通じて家庭裁判所の職権解任が働くことになる。

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成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心に(AI作成)

目次第1 後見人の財産管理義務と横領の責任構造1 この記事の対象と基準日2 善管注意義務と家庭裁判所の監督3 横領が生じさせる責任の全体像第2 刑事責任──業務上横領罪と親族相盗例の不準用1 罪名と適用条文2 親族相盗例の準用を否定する最高裁決定3 準用否定の射程と未確定の領域第3 民事責任と被害の回復1 損害賠償・不当利得と使い込みの利息2 相続人による追及と回収の限界3 弁護士後見人の横領に備える二つの仕組み第4 監督者の責任──後見監督人と家庭裁判所1 後見監督人の職務と責任2 家庭裁判所の監督と国家賠償第5 統計から見た親族後見人と第三者後見人1 選任割合と不正発生の逆転構造2 家庭裁判所管内別の親族比率3 統計を用いる際の留保第6 不正防止の制度と令和8年改正1 後見制度支援信託・後見制度支援預貯金2 利用促進法と後見人交代の柔軟化第7 弁護士の実務対応1 手続選択──解任・監督人選任・財産調査2 依頼者からの事情聴取と証拠の収集3 想定される相手方の主張と対応第8 出典1 法令2 裁判例3 統計・公的資料4 文献5 関連記事
第1 後見人の財産管理義務と横領の責任構造
1 この記事の対象と基準日

本記事は,家庭裁判所から選任された成年後見人が被後見人の財産を横領した場合の刑事・民事の責任及び監督者の責任と,その予防・是正・回復のための実務対応を,親族後見人と第三者(弁護士,司法書士,社会福祉士等の専門職)後見人の違いに着目して整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日現在のe-Gov法令検索で確認した条文による。

2 善管注意義務と家庭裁判所の監督

成年後見人は,被後見人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について被後見人を代表する(民法859条1項)。
その権限行使に当たっては,民法869条が委任に関する644条を準用しており,後見人は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負う。
この義務は,後見人が被後見人と親族関係にあるか否かによって区別されない。

横領の予防・発見・是正を支える手続的な仕組みも,民法に置かれている。
後見人は,就職後遅滞なく財産の調査に着手し,1箇月以内に財産目録を作成しなければならず,後見監督人があるときはその立会いがなければ効力を生じない(民法853条)。
後見監督人又は家庭裁判所は,いつでも後見人に事務の報告若しくは財産目録の提出を求め,又は事務若しくは財産の状況を調査することができ,家庭裁判所は必要な処分を命ずることができる(民法863条)。
居住用不動産の売却,賃貸,抵当権設定その他これらに準ずる処分には,家庭裁判所の許可を要する(民法859条の3)。
この許可の対象と審理は,居住用不動産処分の許可で扱っている。

これらの規定は,後見人による財産の私的流用を制度的に抑止し,発覚後の是正を可能にするための基礎である。
横領の局面では,これらの規定が事後的な責任追及の前提事実(義務違反の有無,監督の履践状況)としても機能する。

3 横領が生じさせる責任の全体像

後見人による横領は,3つの責任を生じさせる。
第一に,後見人自身の刑事責任(業務上横領罪)である。
第二に,後見人自身の民事責任(損害賠償及び不当利得返還)である。
第三に,監督にあたる後見監督人又は家庭裁判所の責任(善管注意義務違反又は国家賠償)である。

親族後見人と第三者後見人とで結論が分かれ得る局面は,主として次の点にある。
刑事における親族相盗例の準用の可否,民事における被害回復の実効性(横領者の資力及び被害弁償の仕組みの有無),そして選任の母数と不正発生の統計的な分布である。
以下,この順序で検討する。

第2 刑事責任──業務上横領罪と親族相盗例の不準用
1 罪名と適用条文

後見人は,被後見人の財産を継続的に管理する立場で金銭その他の財物を占有する。
そのため,これを不法に領得する行為は,原則として業務上横領罪に当たる。
刑法253条は,業務上自己の占有する他人の物を横領した者を10年以下の拘禁刑に処すると定め,単純横領を定める刑法252条1項(5年以下の拘禁刑)よりも重い法定刑を置いている。
占有を伴わない権限濫用によって本人に財産上の損害を与える類型は背任(刑法247条)の問題となるが,管理下の金銭を費消・領得する典型的な事案は横領として捉えられる。

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大阪家裁後見センターだより

目次
1 大阪家裁後見センターだより
2 関連記事その他

1 大阪家裁後見センターだより
(1) バックナンバーは新しい順に以下のとおりです(「大阪家裁後見センターだより第40回(申立て準備段階における意思決定支援の意義及び説明状況報告書の提出)」といったファイル名で掲載しています。)。
第51回:統一書式の策定経緯や目的等
第50回:後見人等の解任
第49回:後見センターからみた大阪府下における市民後見人の養成や活動の実際
第48回:チームの一員としての後見人等,後見人等のチームへの関わり方についての監督における考え方
第47回:後見法改正における大きな方向性
第46回:後見人等又は後見人等監督人が在職中に死亡した場合の事務処理
第45回:総合支援型後見監督人の事務フローや留意点
第44回:専門職後見人から市民後見人への引継ぎ
第43回:後見等事務報告に係る書式等の統一に至る経緯・理由,大阪家裁後見センターにおける統一書式利用の留意点
第42回:本人死亡後の事務の監督
第41回:総合支援型後見監督人選任の運用についての今後の課題等(前編及び後編があります。)
第40回:申立て準備段階における意思決定支援の意義及び説明状況報告書の提出
第39回:総合支援型後見監督人の運用状況
第38回:法定後見と任意後見の優劣に関する新たな裁判例
第37回:後見監督人等の不正対応,不正が疑われる事案における専門職の関与,弁護士成年後見人信用保証制度
第36回:意思決定支援
第35回:大阪家裁管内における市民後見人の養成・活動支援の概要,専門職後見人から市民後見人へ引き継ぐリレー方式
第34回:保佐開始や補助開始の審判を申し立てる場合についての留意点
第33回:家事事件手続法上の閲覧等の規律,非開示希望の申出
第32回:身上保護事務
第31回:後見人等の交代
第30回:総合支援型後見監督人の運用の在り方等
第29回:総合支援型後見監督人の運用の在り方等
第28回:総合支援型後見監督人の運用の在り方等

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平成17年以降の,成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数)

目次
1 成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数一覧)
2 管理継続中の本人数一覧表(家裁本庁,支部別/事件類型別内訳)
3 関連記事その他

1 成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数一覧)
(令和時代)
令和 元年分,令和 2年分,令和 3年分
令和 4年分,令和 5年分,令和 6年分
令和 7年分,
(平成時代)
平成17年分,平成18年分,平成19年分
平成20年分,平成21年分,平成22年分
平成23年分,平成24年分,平成25年分
平成26年分,平成27年分,平成28年分
平成29年分,平成30年分

* 「「成年後見関係事件の概況-令和5年1月~同年12月-」家裁管内別件数一覧」といったファイル名です。

2 管理継続中の本人数一覧表(家裁本庁,支部別/事件類型別内訳)
(令和時代)
令和元年12月末日,令和2年12月末日
令和3年12月末日,令和4年12月末日
令和5年12月末日,令和6年12月末日
令和7年12月末日,
(平成時代)
平成29年12月末日,平成30年12月末日,

* 「令和4年12月末日 管理継続中の本人数一覧表(家裁本庁,支部別/事件類型別内訳)」といったファイル名です。

(続きを読む...)平成17年以降の,成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数)