第1 成年後見人等の報酬を考える前提
1 家庭裁判所が本人の財産から支給する額を定める
成年後見人,保佐人,補助人,成年後見監督人,保佐監督人,補助監督人及び任意後見監督人が職務の対価を受けるには,家庭裁判所による報酬付与の審判が必要である。
成年後見人等が本人との合意又は自己判断だけで報酬を取得することはできない。
民法862条は,家庭裁判所が本人の財産の中から相当な報酬を与えることができると定めるが,全国一律の定額表を設けていない。
実際の報酬額は,対象期間,後見事務の内容,管理財産額,身上保護の状況,特に労力を要した事務及び本人と後見人等の資力その他の事情を踏まえて個別に定められる。
親族が成年後見人等である場合も報酬付与を申し立てることができる。
2 「めやす」「全国実績」「助成上限額」は別の数字である
家庭裁判所が公表する報酬額のめやすは,個別審判を拘束する料金表ではない。
最高裁判所が公表する実情調査は,過去に認容された事件の分布であり,将来の事件に適用される基準ではない。
市町村の成年後見制度利用支援事業が定める金額は,本人に資力がない場合の助成上限額であり,家庭裁判所が定める報酬額そのものではない。
以下では,この三つを区別して説明する。
第2 大阪家庭裁判所の報酬額のめやす
1 成年後見人等の基本報酬
大阪家庭裁判所の「成年後見人等の報酬額のめやす」令和7年4月版によれば,成年後見人が通常の後見事務を行った場合の基本報酬のめやすは次のとおりである。
| 管理する流動資産の合計額 | 基本報酬のめやす |
|---|---|
| 1000万円以下 | 月額2万円 |
| 1000万円超5000万円以下 | 月額3万円~4万円 |
| 5000万円超 | 月額5万円~6万円 |
流動資産とは,主として預貯金及び有価証券等を指す。
継続的な財産管理権を付与された保佐人及び補助人についても同じめやすが示されている。
2 成年後見監督人等の基本報酬
成年後見監督人の基本報酬のめやすは次のとおりである。
| 管理する流動資産の合計額 | 基本報酬のめやす |
|---|---|
| 5000万円以下 | 月額1万円~2万円 |
| 5000万円超 | 月額2万5000円~3万円 |
保佐監督人,補助監督人及び任意後見監督人についても同じめやすが示されている。
もっとも,総合支援型後見監督人の報酬はこのめやすの対象外である。
3 付加報酬及び複数選任
財産管理又は身上保護について特別困難な事情があり,通常の事務を超える特別の労力を要した場合は,基本報酬に付加報酬が加えられることがある。
付加報酬を求める場合は,事務の内容,発生した問題,対応期間,作業量及び本人にもたらした結果を事情説明書と裏付資料で具体的に示す必要がある。
高額の財産を管理していることだけで付加報酬が当然に認められるわけではない。
複数の成年後見人等が選任されている場合は,事務分担その他の事情を考慮して各人の報酬額が定められる。
したがって,人数分だけ基本報酬が機械的に加算されるわけではない。
4 他の家庭裁判所の取扱い
報酬額のめやすを公表するかどうかは,家庭裁判所によって異なる。
東京家庭裁判所及び東京家庭裁判所立川支部が平成25年1月1日付けで作成した同名の「成年後見人等の報酬額のめやす」は,大阪家庭裁判所のめやすと同一の金額体系を示している。
もっとも,令和8年8月28日現在,東京家庭裁判所の成年後見制度のページには金額を示す資料が掲載されておらず,「報酬額のめやす」の項目では最高裁判所事務総局家庭局の実情調査を参照するよう案内されている。
令和7年4月版の成年後見人・保佐人・補助人ハンドブックにも,報酬額の目安となる金額は記載されていない。
平成25年付けの資料はウェブサイト上に残っているため,検索によって到達した場合に現在の案内と取り違えないよう注意を要する。
したがって,第2で示した金額は大阪家庭裁判所が公表しているめやすであり,他の家庭裁判所における目安を示すものではない。
第3 令和7年の全国集計から見た実際の報酬額
1 集計の対象と注意点
最高裁判所事務総局家庭局は,「報酬に関する実情調査の集計結果について―令和7年7月~12月―」を公表している。
調査対象は,令和7年4月1日以降に申し立てられ,同年7月から12月までに認容で終局した全国の報酬付与事件10万2466件である。
内訳は,成年後見人6万6111件,保佐人2万3320件,補助人6885件,監督人4793件及び任意後見監督人1357件である。
この集計には,報酬対象期間が12か月未満又は12か月を超える事件と,複数の成年後見人等が選任された事件も含まれる。
したがって,公表された報酬付与額を12で除して月額の実績とみなすことはできない。
また,報酬付与額は審判で認められた額であり,全額が実際に本人財産から受領されたかまでは調査されていない。
集計上の流動資産額は,現金,預貯金及び有価証券の合計額から後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金を除いた額である。
「親族以外」には,弁護士,司法書士及び社会福祉士等の専門職だけでなく,市民後見人及び法人も含まれる。
「付加報酬の求め有り」は,事情説明書で考慮事情があると回答された区分であり,その事情が審判で付加報酬として認められたことを意味しない。
2 財産額別の代表的な分布
次の表は,成年後見人について,属性,付加報酬の求め及び流動資産額ごとに最も割合が高かった報酬付与額帯を抜粋したものである。
| 成年後見人の属性 | 付加報酬の求め | 流動資産額 | 最頻の報酬付与額帯 | その割合 |
|---|---|---|---|---|
| 親族 | 無し | 100万円未満 | 20万円台 | 56.6% |
| 親族 | 無し | 100万円以上500万円未満 | 20万円台 | 63.0% |
| 親族 | 無し | 1000万円以上5000万円未満 | 30万円台 | 30.6% |
| 親族 | 無し | 5000万円以上1億円未満 | 40万円台 | 29.0% |
| 親族以外 | 無し | 100万円未満 | 20万円台 | 73.9% |
| 親族以外 | 無し | 100万円以上500万円未満 | 20万円台 | 80.2% |
| 親族以外 | 無し | 1000万円以上5000万円未満 | 30万円台 | 54.0% |
| 親族以外 | 無し | 5000万円以上1億円未満 | 60万円台 | 50.3% |
| 親族以外 | 無し | 1億円以上 | 70万円台 | 43.0% |
| 親族以外 | 有り | 1000万円以上5000万円未満 | 40万円台 | 32.2% |
| 親族以外 | 有り | 5000万円以上1億円未満 | 60万円台 | 32.5% |
| 親族以外 | 有り | 1億円以上 | 80万円台 | 21.2% |
この表は標準額を示すものではなく,各区分の中で最も件数が多かった金額帯を示すにすぎない。
割合が50%未満の行では,最頻帯以外の事件を合計した件数の方が多い。
同じ属性及び財産額でも他の金額帯の事件が相当数あるため,個別事件の報酬額をこの表から確定することはできない。
3 平均額33万4737円の位置付け
従前の最高裁判所調査では,報酬付与申立てがあった成年後見人,保佐人及び補助人を合算した「後見人等」3671件の平均額が33万4737円であった。
成年後見人だけを取り出した2607件の平均額は34万4147円であった。
したがって,33万4737円を「成年後見人の全体平均」とする説明は,母集団の名称を取り違えている。
さらに,内閣の令和7年12月23日答弁書が説明するとおり,旧調査は令和4年度に報酬付与の審判がされた事件の一部を対象としたものである。
現在の報酬実務を説明するには,古い単一平均値よりも,令和7年の全国集計を属性,財産額及び付加報酬の求めに分けて読む方が正確である。
第4 報酬付与の申立てと支払
1 申立人,時期及び提出書類
裁判所の全国共通案内によれば,成年後見人,保佐人,補助人及び各監督人は,その選任事件を担当する家庭裁判所に報酬付与を申し立てる。
申立ての基本書類は,報酬付与申立書,報酬付与申立事情説明書,後見等事務報告書及び財産目録である。
個別の書式は,裁判所の報酬付与申立書式ページで確認できる。
付加報酬を求める事情がある場合は,事情説明書別紙及び裏付資料も提出する。
大阪家庭裁判所の案内では,本人の誕生日が属する月に毎年の定期報告を提出し,これと同時に報酬付与を申し立てる運用が示されている。
本人が判断能力を回復した場合又は死亡した場合は,誕生月を待たず速やかに報告及び報酬付与申立てを行う。
任務の途中又は終了後のいずれでも申立ては可能であるが,将来分の報酬を前払いの形で求めることはできない。
本人が死亡した場合は,本人財産を相続人へ引き継ぐ前に申し立てなければ,審判後の支払が困難になることがある。
2 申立費用及び受領方法
申立手数料は収入印紙800円であり,連絡用の郵便料は家庭裁判所ごとに異なる。
大阪家庭裁判所が案内する郵便料は110円分である。
報酬付与の審判が確定した後に,成年後見人等が審判で定められた額を本人財産から受領する。
本人財産から支払うことが困難であっても,そのことだけで家庭裁判所への申立てが不要になるわけではない。
自治体の助成を利用する場合も,原則として報酬付与審判書が必要となる。
3 報酬と職務費用の違い
報酬は職務の対価であり,家庭裁判所の審判によって定められる。
これに対し,郵便料,交通費及び各種証明書の取得費用等の後見事務に必要な費用は,民法861条2項に基づき本人財産から支出する。
必要費を精算することと報酬を受け取ることは別の問題であるため,帳簿及び領収資料でも区分する必要がある。
第5 報酬額に対する不服申立て
1 即時抗告はできない
家事事件手続法85条1項は,審判に対する即時抗告を法律に特別の定めがある場合に限っている。
成年後見人等の報酬付与事件は同法別表第一の事件であるが,成年後見関係事件の即時抗告を定める同法123条は報酬付与審判を対象に含めていない。
このため,申立人である成年後見人等,本人及び親族は,認められた報酬額が少ない場合,報酬額が多いと考える場合又は申立てが認められない場合のいずれも即時抗告をすることができない。
2 職権による取消し又は変更は限定的である
家事事件手続法78条1項は,家庭裁判所が自らした審判を不当と認めるときは,原則として職権で取り消し又は変更できると定めている。
関係人が事情を記載した書面を提出して職権発動を促すことはあり得る。
もっとも,これは法定の不服申立権ではなく,提出者に再審査を求める権利を与える制度ではない。
家庭裁判所に必ず応答し,又は新たな審判をする義務が生じるわけでもない。
後見事務に不正又は著しい不当がある場合に報酬が認められないことと,成年後見人の解任の要件及び手続は別に検討する必要がある。
第6 成年後見制度利用支援事業による報酬助成
1 全国の市町村における実施状況
厚生労働省の令和7年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査によれば,高齢者関係で報酬助成を実施する自治体は1690団体であり,全1741自治体の97.1%であった。
このうち1613団体は助成上限額を設けており,報酬助成を実施する自治体の95.4%に当たる。
他方,監督人を助成対象に含める自治体は386団体であり,報酬助成を実施する自治体の22.8%にとどまる。
障害者関係で報酬助成を実施する自治体は1689団体であり,全1741自治体の97.0%であった。
制度の対象者,申立人,後見人等の属性,所得要件,居住地要件,上限額及び申請期限は自治体ごとに異なる。
本人の住所地又は福祉サービスの実施主体となる市町村の最新の要綱を確認する必要がある。
2 大阪市の助成制度
大阪市の成年後見制度利用支援事業は,生活保護受給者又はこれに準じる要保護者で報酬の支払が困難な者を対象としている。
令和2年度からは,大阪市長による申立てだけでなく,本人又は親族等による申立ても対象とされている。
ただし,大阪市長以外の市区町村長による申立ては対象外である。
申請期限は報酬付与審判の日から3か月以内である。
助成上限額は,在宅の場合に月額2万8000円,施設入所の場合に月額1万8000円である。
この金額は大阪市の助成上限額であり,全国共通の報酬基準ではない。
家庭裁判所が定めた報酬額と助成額の差額が当然に免除されるわけでもない。
大阪市以外の自治体における助成額・対象範囲の比較及び後見監督人の報酬助成の状況は,別稿「成年後見制度利用支援事業とは――後見人報酬・申立費用の自治体助成を比較する」で扱っている。
第7 令和8年改正法と今後の取扱い
1 改正法が定める報酬の考慮要素
令和8年法律第45号は,令和8年6月24日に公布された。
改正後の民法876条の19は,家庭裁判所が補助人の報酬を定める際に,補助の事務の内容,補助人及び本人の資力その他の事情を考慮することを明文化している。
事務の内容を条文上の考慮要素として明示する点は,令和7年4月からの報酬運用の方向と整合する。
2 改正法はまだ施行されていない
成年後見制度本体の改正部分は,公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令が定める日に施行される。
令和8年8月28日現在,施行期日を定める政令は確認できないため,現在の報酬付与は現行民法862条による。
また,施行日前に後見開始の審判を受けた本人,成年後見人及び成年後見監督人には,附則の特則を除き,原則として従前の例によるとの経過措置が置かれている。
既存事件を含む全事件が施行日に一律に新制度へ移行するわけではない。
施行政令,裁判所規則,新書式及び施行後の報酬運用が公表された段階で改めて確認する必要がある。
改正による選任期間,報酬及び弁護士の後見業務の採算への影響については,令和8年成年後見制度改正で弁護士の後見業務は採算が悪化するかで検討している。
第8 出典
1 法令
① e-Gov法令検索・民法852条,861条,862条,876条の5及び876条の10
② e-Gov法令検索・家事事件手続法78条,85条,123条及び別表第一
③ 令和8年法律第45号・民法等の一部を改正する法律新民法876条の19(PDF12頁)及び附則1条・2条(PDF47頁~48頁)
2 裁判所及び行政資料
① 大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」令和7年4月版1頁
② 東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部「成年後見人等の報酬額のめやす」平成25年1月1日1頁
④ 東京家庭裁判所後見センター・東京家庭裁判所立川支部後見係「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」令和7年4月57頁(PDF62頁)
⑤ 最高裁判所事務総局家庭局「報酬に関する実情調査の集計結果について―令和7年7月~12月―」PDF2頁~6頁
⑨ 福岡家庭裁判所「成年後見人のためのQ&A」20頁(PDF23頁)
⑩ 最高裁判所事務総局家庭局「後見人等の報酬の額等に関する調査」(厚生労働省ウェブサイト掲載)8頁~9頁
⑫ 厚生労働省「令和7年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査・詳細版」23頁~31頁(PDF26頁~33頁)
3 書籍
① 梶村太市ほか編『家事事件手続Ⅰ』青林書院,2024年,177頁~180頁
② 松原正明・浦木厚利編著『実務成年後見法』勁草書房,2020年,178頁~179頁及び189頁
③ 額田洋一『成年後見実務マスター』新日本法規出版,2023年,111頁~114頁,302頁,324頁,336頁及び432頁
④ 松本博之『民事・家事抗告審ハンドブック』日本加除出版,2020年,483頁~485頁,506頁,509頁及び539頁
⑤ 秋武憲一・片岡武編著『コンメンタール家事事件手続法Ⅰ』青林書院,2021年,330頁~332頁