目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 協定の位置付けと発効要件1 1951年防衛協定の改正・補足2 発効要件第3 主な条項1 防衛区域(IV条)2 無人軍事施設(V条)3 移動,上空通過,着陸及び海中アクセス(VI条)4 防衛区域周辺の土地利用と防諜(VII条)5 第三国の軍事施設の禁止(IX条)第4 投資審査条項(X条)の読み方1 規制の対象と内容2 例外は三者の合意による3 執行はグリーンランドの投資審査法令による第5 日本企業への影響1 日本は「NATOのパートナー」に当たると考えられること2 確認すべき事項第6 主権・自決権と各政府の説明第7 期限のない協定と独立の場合(XI条)第8 似た仕組み―クック諸島とニュージーランドの防衛安全保障宣言第9 関連記事と今後の検討1 関連記事2 別の機会に掘り下げる点第10 出典1 協定・宣言の本文2 法令3 NATO・解説4 報道
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
2026年9月22日,ニューヨークの国連総会の機会に,米国政府,デンマーク王国政府及びグリーンランド自治政府は,1951年のグリーンランド防衛協定を改正・補足する協定に署名した。
正式名称は,「Agreement between the Government of the United States of America and the Government of the Kingdom of Denmark together with the Government of Greenland to amend and supplement the Agreement of 27 April 1951 pursuant to the North Atlantic Treaty between the Government of the United States of America and the Government of the Kingdom of Denmark on the Defense of Greenland (1951 Defense Agreement), including all relevant subsequent agreements related thereto」(訳:北大西洋条約に基づくグリーンランドの防衛に関する米国政府とデンマーク王国政府との間の1951年4月27日の協定(1951年防衛協定)及びこれに関連する全ての後続協定を改正し補足するための,米国政府とデンマーク王国政府及びグリーンランド政府との間の協定)である。
本記事は,令和8年10月4日を基準日として,ホワイトハウスが公表した協定の英文本文を基に,主な条項,特に外国からの投資を制限するX条の内容と,日本企業にとっての意味を整理する。
各国首脳の発言と協定の発効手続の進み具合は報道によっており,その旨を明記する。
2 結論
米国はグリーンランドを購入しておらず,協定の前文は,デンマーク王国の主権と領土の一体性,及びグリーンランドの人々が国際法上の自決権を持つ人民であることを確認している。
その上で,協定は,米国に,既存のピトゥフィク宇宙基地の近代化・拡張,南部のナルサスアークと東部のメスタースヴィークの防衛区域の設置,グリーンランド全域での航空機の上空通過・着陸及び領海での公船の海中アクセスを認めている。
経済面で重要なのはX条である。
NATO加盟国,NATOのパートナー又はEU加盟国のいずれでもない国とその投資家は,重要インフラや資源の採掘を含む「特に機微な分野又は活動」(Particularly Sensitive Sectors or Activities)で,支配,重大な影響力又は安全保障上の脅威となり得る非公開情報へのアクセスを持つことを認められない。
例外は三者の合意がある場合に限られ,その執行はグリーンランドの投資審査法令による。
協定には期限がなく,改正には三者の合意が必要であり,グリーンランドが独立した場合も,独立国家がNATOに残り協定上の権利義務を引き継ぐことを,デンマークとグリーンランドが確保することとされている。
所有権を移さずに,特定の事項についての拒否権を長期間確保する点で,会社の黄金株と似た構造を持つ(本記事の見方である。)。
日本はNATOの「パートナー」に当たると考えられるが,協定は「NATOのパートナー」を定義していないため,日本企業がグリーンランドの資源・インフラ案件に関与する場合は,X条の適用の有無と今後のグリーンランドの立法を確認する必要がある。
第2 協定の位置付けと発効要件
1 1951年防衛協定の改正・補足
協定は,1951年4月27日に米国とデンマークの間で結ばれたグリーンランド防衛協定と,その後の改正・補足協定(附属書1に列挙された1968年の交換公文,1991年の了解覚書,2004年のイガリク協定等)を合わせた「防衛取決め(Defense Arrangements)」を改正し,補足するものである。
前文は,グリーンランドの独立の手続が2009年6月12日のグリーンランド自治法(Act no. 473)21条に定められていることに触れている。
また,米国による「ゴールデン・ドーム」防衛システムの設置を含め,北大西洋条約地域,グリーンランド及び米州大陸を防衛するために必要な範囲で米国がグリーンランドの領域へ軍事的にアクセスすることについての共通の利益を確認している。
2 発効要件
協定は,デンマーク王国がグリーンランドとともに必要な議会の手続を完了したことを米国に通知する外交上の公文の日に効力を生ずる(XII条)。
署名日に発効したのではない。
基準日の時点で,デンマーク議会とグリーンランド議会の手続が完了したことは確認できていない。
協定は英語,デンマーク語及びグリーンランド語で作成され,各版の間に曖昧さ又は抵触があるときは英語版が優先する。
第3 主な条項
1 防衛区域(IV条)
IV条は,①米国がピトゥフィク宇宙基地での活動を近代化し拡張すること,②三者が相互に合意する方式と技術的詳細に従って,ナルサスアークとメスタースヴィークに防衛区域を設けること,③更に防衛区域を設け,軍事活動又は施設を強化することを認めている。
新たな防衛区域は,いずれの当事者も提案でき,1991年の了解覚書で設けられた常設委員会で協議して合意により実施の詳細を決める。
(続きを読む...)米国・デンマーク・グリーンランド防衛協定(2026年9月22日署名)の内容―投資審査条項,第三国の軍事施設の禁止,期限のない協定及び日本企業への影響(AI作成)