第1 結論
買収防衛策として差別的な行使条件又は取得条項を付けた新株予約権を株主に無償割当てする場合、主な差止事由は、①株主平等原則の趣旨に反する法令違反として会社法247条1号に当たるか、②発行目的・決定過程・手段が「著しく不公正な方法」として同条2号に当たるか、の二つである。
両者は重なるが同じではない。1号では会社法109条1項の株主平等原則の趣旨と差別的取扱いの必要性・相当性が中心となり、2号では経営陣の保身目的、決定主体、発動時期、手続、情報開示及び手段の過剰性が中心となる。
最高裁平成19年8月7日決定(ブルドックソース事件)は、株主総会の承認があれば買収防衛策が常に適法になるとしたものではない。株主総会判断の正当性を失わせる重大な瑕疵がないこと、企業価値・株主共同の利益を守る必要性、買収者への価値補償及び措置の相当性を具体的に検討した決定である。
第2 新株予約権無償割当てと差止請求
会社法277条以下は、株主に対する新株予約権無償割当てを定めている。会社は、割り当てる新株予約権の内容・数、効力発生日その他の事項を会社法278条に従って決定する。
会社法247条は、新株予約権の発行が、①法令又は定款に違反する場合、又は②著しく不公正な方法により行われる場合に、株主が不利益を受けるおそれがあるとき、発行をやめるよう請求できると定めている。差止めを求める株主は、発行前に迅速に保全手続を選択する必要がある。
防衛策の仕組みを先に図解する。誰に何個を割り当て、誰が行使できず、会社がどの新株予約権をどの対価で取得し、結果として持株比率がどの程度変わるのかを数値で示さなければ、法的評価の前提が定まらない。
第3 株主平等原則のルート
会社法109条1項は、株式会社が株主を、その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないと定めている。最高裁平成19年8月7日決定は、この原則の趣旨が新株予約権の無償割当てにも及ぶとした。
同決定によれば、特定株主による経営支配権取得によって企業価値が毀損され、株主共同の利益が害される場合、その防止のために当該株主を差別的に取り扱うことは、衡平の理念に反し相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に反しない。
したがって、①企業価値・株主共同の利益を害する具体的危険、②差別的取扱いによってその危険を防ぐ必要性、③買収者が被る経済的不利益、④価値補償、⑤より制限的でない代替手段を検討する。
第4 著しく不公正な方法のルート
会社法247条2号では、発行目的と手段を検討する。防衛策が企業価値・株主共同の利益を守るためではなく、専ら現経営陣又はこれを支持する特定株主の支配権を維持するために行われる場合、著しく不公正な方法に当たる方向に働く。
判断要素は、①取締役会だけで決定したか株主総会の承認を得たか、②買収提案と防衛策について十分な情報が開示されたか、③買収者に意見を述べる機会があったか、④利害関係を有する株主の議決権をどのように扱ったか、⑤発動期間と撤回条件、⑥希釈化の程度、⑦買収者への補償、⑧対抗措置の必要性が失われた場合に撤回できるか、である。
1号で株主平等原則の趣旨に反しないとしても、2号の目的・方法の審査を省略することはできない。
第5 ブルドックソース事件の判断
最高裁判所第二小法廷平成19年8月7日決定(平成19年(許)第30号、民集61巻5号2215頁)は、買収者及びその関係者には行使できない新株予約権を割り当てる一方、会社がその新株予約権を金銭で取得できる設計を対象とした。
最高裁は、買収者側を除くほとんどの株主が、適法に開催された株主総会で防衛策を承認したこと、買収者側が経営方針や投下資本の回収方針を十分に明らかにしていなかったこと、買収者側にも意見を述べる機会があったこと、会社が交付する金員が新株予約権の価値に見合うことなどを重視した。
その上で、株主総会の判断に正当性を失わせる重大な瑕疵はなく、差別的取扱いは衡平の理念に反して相当性を欠くものではないとして、会社法247条1号に当たらないとした。また、緊急の事態に対処するため株主総会が必要と判断した措置で、専ら経営陣等の支配権維持を目的とするものではないとして、同条2号にも当たらないとした。
第6 株主総会判断を尊重する限界
同決定は、特定株主による経営支配権取得が企業価値を毀損し株主共同の利益を害するかについて、株主総会における株主自身の判断の正当性を失わせる重大な瑕疵がない限り、その判断を尊重すべきであるとした。
もっとも、尊重の対象となるのは、十分な情報と適正な手続に基づく株主判断である。重要情報が欠落又は歪曲されていた、買収者の説明機会が不当に奪われた、利害関係者だけで結論が形成された、必要性が消滅したのに発動を続けたなどの事情があれば、尊重の前提が失われ得る。
また、株主総会が必要性を判断したとしても、買収者に与える不利益が過大でないかという相当性審査は残る。総会承認は、価値補償や希釈化の程度を無関係にするものではない。
第7 必要性・相当性の確認項目
①買収提案の内容、価格、資金調達及び買収後の経営方針
②企業価値・株主共同の利益を害する危険の具体性
③取締役・大株主その他の利害関係
④取締役会及び株主総会に提供された情報
⑤買収者の説明・反論機会
⑥株主総会の定足数、賛成割合及び議決権処理
⑦新株予約権の割当数、行使条件及び取得条項
⑧買収者の持株比率低下と経済的損失
⑨金銭その他の価値補償
⑩代替手段と、必要性消滅時の撤回条件
申立書又は反論書では、109条1項の趣旨に反するかというルートと、247条2号の著しく不公正な方法かというルートを別見出しにし、最後に株主の不利益のおそれと保全の必要性へ接続する。
第8 出典と調査範囲
①e-Gov法令検索「会社法」109条、247条、277条、278条。
②最高裁判所第二小法廷平成19年8月7日決定(平成19年(許)第30号、民集61巻5号2215頁)。
③東京高等裁判所平成19年7月9日決定(平成19年(ラ)第917号)。
④裁判所ウェブサイト「裁判例を調べる」。
本記事はブルドックソース事件を中心とする一般的整理である。買収防衛策は設計、決定主体、発動時期、開示及び市場状況によって評価が変わるため、個別案件では最新の裁判例、金融商品取引所規則及び実務指針を追加確認する必要がある。