第1 会社の廃業と個人保証の整理を分けて準備する
会社が事業をやめ,リース物件を返したとしても,それだけで経営者個人の保証債務が消えるわけではない。
廃業を考える場合には,会社側のリース契約の処理と,経営者個人の保証債務の整理を並行して確認する必要がある。
リース事業協会の自主的ルールは,会員会社のリース契約に付いた経営者保証について,ガイドラインの趣旨に沿った整理を扱っている。
本記事は,令和8年10月17日に公開資料を確認したものであり,保証人が弁済しない計画の可能性と,その条件及び実務上の準備を説明する。
第2 リース会社を債権者一覧から落とさない
1 契約・物件・保証人を結び付ける
銀行借入れだけでなく,リース契約,保証契約,物件の所在,残リース料,物件返還後の精算方法及び現在の請求先を確認する。
会社名義の契約でも,経営者個人に保証債務が生じているものを,個人の債権者一覧に反映する必要がある。
物件を返還すれば残債務が当然にゼロになるとは限らない。
物件の処分価額や保険金が債権額にどう反映されるかを確かめ,同じ回収額を二重に控除したり,逆に精算に反映し忘れたりしないようにする。
2 対象債権者との調整を早期に始める
協会の自主的ルール第6項とQ&AのQ16は,他の対象債権者から保証債務整理への協力を求められた場合の対応を扱っている。
要件を満たすか明らかでない段階でも,個別事情に応じた誠実な対応が示されているため,銀行との調整が終わってからリース会社に初めて連絡する進め方は避けたい。
会社側の計画だけで個人保証も処理できたと考えず,対象となる保証債権者の同意と,保証人に対する請求の処理を確認する必要がある。
経営者保証に関するガイドラインは,自主的な準則に基づく整理であり,反対する保証債権者を当然に多数決で拘束する制度ではない。
第3 ゼロ円の弁済計画はあり得るが,自動的に認められない
1 弁済能力と整理条件に基づいて判断する
協会のQ&AのQ17は,自由財産以外の資産がない場合など,保証人の弁済能力に応じ,弁済額がゼロ円となる場合もあると説明している。
会社が廃業したことだけで保証が免除されるという意味ではなく,財産の開示,整理手続,債権者にとっての経済合理性等の条件を確認し,計画に合意する必要がある。
協会の自主的ルール第6項では,適用対象に関する条件に加え,主たる債務の整理手続,債権者にとっての経済合理性及び一定の免責不許可事由がないこと等が問題になる。
無保証審査の四つの検討事項を全て満たす必要はないというQ9の説明を,整理手続の条件まで不要とする根拠にしてはならない。
2 過去の延滞だけで結論を出さない
Q&AのQ7は,過去の延滞や財務情報の不正確さだけから,一律に対象外とする扱いを採っていない。
金額,動機,資金の流用の有無,説明及び是正状況等を踏まえて検討することになる。
他方で,財産の隠匿や虚偽説明を容認するものではなく,現在の資産・負債を正確に開示する必要がある。
第4 残せる財産とリース物件を混同しない
破産手続で自由財産に当たるものは,ガイドラインによる整理でも重要な検討対象となる。
経営者保証ガイドラインのQ&AのQ7-23は,99万円以下の現金だけでなく,差押禁止財産,自由財産の拡張等にも言及している。
ただし,預金を現金と同一に扱ったり,全ての地域・事件で同じ範囲の拡張が認められたりすると考えることはできない。
一定期間の生計費や華美でない自宅等を残すことについては,早期の事業再生・廃業の着手,回収見込額,保証人の事情等を踏まえた別の検討が必要となる。
自宅を必ず残せる制度,又は一定額を一律に残せる制度として利用を見込むことは適切でない。
会社が使用しているリース物件は,経営者が自由財産として保有する財産とは別である。
所有者,契約終了の条件,返還・撤去費用及び第三者に売却できる権限を確認し,保証人の判断だけで処分しないことが重要である。
第5 保証免除の税務と,資産売却による保証履行の税務を分ける
1 保証を免除された場合
国税庁が公表する平成26年1月16日付けの課税関係の整理は,一定の経営者保証ガイドラインに基づく整理の事例について,保証債務の免除に経済的利益が生じないという取扱いを示している。
この説明は,保証の整理に関する具体的な前提の下でのものであり,主たる債務そのものの免除や併存的債務引受による債務の免除まで同じに扱うものではない。
誰の,どの債務が免除されるかを確認し,会社の債務免除益,保証人側の所得及び債権者側の損失処理を分けて検討する必要がある。
過去の資料の通達番号や説明を,全ての保証免除にそのまま当てはめないことが重要である。
2 資産を売って保証債務を支払う場合
保証人が資産を売り,その代金で保証債務を履行する場合には,保証の免除とは別に,資産の譲渡所得等が問題になる。
所得税法64条2項の特例については,保証履行のための譲渡であること及び履行に伴う求償権の行使不能等を確認する必要がある。
国税庁の令和4年4月1日付け文書回答は,所定の廃業型私的整理手続で保証債務を履行し,会社側と保証人側の弁済計画に従って,取得した求償権を書面で放棄する場面を扱っている。
任意に求償権を放棄すれば常に特例を受けられるというものではない。
具体的な要件と資料は,保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の課税特例 https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/23/guarantee-debt-asset-sale-income-tax-64-2/を参照されたい。
第6 相談時に揃える資料
会社と保証人それぞれの債権者一覧,リース契約書・約款・保証契約書,残高証明,督促書面及び物件の明細・所在資料を揃える。
併せて,会社の清算方針,預金・不動産・保険等の財産資料,資金移動の記録,保険金及び物件処分の見込額を整理する。
資産売却と保証履行を予定する場合には,売却契約,代金の入出金,保証履行額,求償権の内容及び弁済計画上の放棄条項も残す。
法的な整理条件と税務処理を同じ資料で確認できるようにすることが,計画成立後の申告や説明にも役立つ。
第7 根拠資料
リース事業協会の自主的ルール第3項・第6項(PDF2頁・4頁)及びQ&AのQ7・Q16からQ18(PDF2頁・4頁・5頁)。
https://www.leasing.or.jp/docs/guide20230228_01.pdf
https://www.leasing.or.jp/docs/guide20230228_02.pdf
経営者保証に関するガイドラインQ&AのQ7-23(PDF34頁・本文26頁)及び廃業時の基本的考え方の残存資産・弁済計画に関する説明(PDF7頁・本文6頁)。
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_qa.pdf
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_bc.pdf
国税庁「経営者保証に関するガイドライン」に基づき保証債務の整理を行った場合の課税関係について(PDF2頁から9頁)及び令和4年4月1日付け文書回答の別紙Ⅰ3・Ⅴ。
https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/220311_02/04.pdf
https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/220311_02/index.htm
https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/220311_02/besshi.htm