目次第1 結論第2 未登記建物とは何か1 表題登記の申請義務2 表題部所有者と所有権の登記名義人3 所有権の保存の登記第3 固定資産課税台帳の名義は所有権の証明ではない1 地方税法の定め2 死亡した者の名義が残っている場合3 使用者を所有者とみなす場合4 名義・台帳・登記の対応第4 誰が原始取得したか1 自分の費用と材料で建てた場合2 親が資金を出した場合3 増築及び改築4 借地の上にある建物第5 未登記建物を譲渡した場合1 対抗要件2 贈与又は売買をしたまま登記をしていない場合第6 遺言の対象に含まれるか1 「その余の不動産」型の条項2 物件の表示と実際の建物の食い違い3 付言事項が手掛かりになること第7 遺産分割及び遺留分での扱い1 遺産に属するかどうかを先に決める2 評価3 相続登記の申請義務との関係第8 登記の手続第9 実務の確認手順第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 結論
相続の場面では,登記記録に現れない建物が出てくることがある。
古い母屋,増築した離れ,作業場,倉庫,農機具小屋などである。
未登記であることは,所有者がいないことを意味しない。
建物は,建築によって誰かが所有権を原始取得しており,登記はその公示にすぎない。
したがって,未登記建物についても,①誰が原始取得したか,②その後に贈与,売買又は相続で移転したか,③遺言の対象に含まれるか,を順に確定する必要がある。
固定資産課税台帳(家屋補充課税台帳)に誰の名義で登録されているかは,手掛かりにはなるが,所有権の帰属を決めるものではない。
遺言の物件の表示と実際の建物が合わないことも多い。
本記事では,条文に即して確認の順序を示す。
第2 未登記建物とは何か
1 表題登記の申請義務
不動産登記法47条1項は,「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は,その所有権の取得の日から一月以内に,表題登記を申請しなければならない。」と定めている。
この申請を正当な理由なく怠ったときは,同法164条1項により十万円以下の過料に処せられる。
もっとも,実際には表題登記がされないまま何十年も経過している建物がある。
2 表題部所有者と所有権の登記名義人
不動産登記法27条は,建物の表示に関する登記の登記事項を定めており,その3号は,「所有権の登記がない不動産…については,所有者の氏名又は名称及び住所並びに所有者が二人以上であるときはその所有者ごとの持分」を掲げている。
この欄に記録された者が表題部所有者である。
表題部所有者は,権利部に記録される所有権の登記名義人とは別の概念である。
表題登記だけがされている建物は,権利部が存在しない状態であり,所有権の移転の登記をすることができない。
3 所有権の保存の登記
不動産登記法74条1項は,所有権の保存の登記を申請できる者を,①表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人,②所有権を有することが確定判決によって確認された者,③収用によって所有権を取得した者に限っている。
そのため,表題登記がない建物について権利の登記をするには,まず表題登記をして表題部所有者を記録し,その上で保存の登記を申請するという二段階の手続を踏む。
相続人が申請するときは,被相続人を表題部所有者とする表題登記をした上で,相続を原因として保存の登記をする方法が採られることが多い。
第3 固定資産課税台帳の名義は所有権の証明ではない
1 地方税法の定め
地方税法343条1項は,固定資産税を「固定資産の所有者」に課するとしている。
同条2項は,その「所有者」について,「土地又は家屋については,登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者…として登記又は登録がされている者をいう。」と定めている。
未登記の建物は登記簿に記録がないため,家屋補充課税台帳に登録された者が「所有者」として扱われる。
これは課税のための擬制であって,私法上の所有権の帰属を決めるものではない。