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親族・相続

相続放棄とは―期限・手続き・費用・デメリットと判断のポイント(AI作成)

目次

第1 相続放棄を考えたら最初に確認すること第2 相続放棄・単純承認・限定承認の違い1 資産と債務を一緒に考える2 遺産分割で何も受け取らないこととの違い第3 相続放棄の期限は原則3か月1 死亡日から一律に数えない2 調査が間に合わない場合と3か月を過ぎた場合第4 手続きと費用の見通し1 家庭裁判所への申述から受理まで2 800円だけで全て終わるわけではない第5 相続放棄のデメリットと放棄後に残る問題1 資産も失い,自由には撤回できない2 次の順位の相続人と自分自身の債務を区別する3 放棄した家や遺品をそのまま捨ててよいとは限らない第6 よくある疑問と相談のタイミング1 死亡保険金や未支給年金も全て受け取れなくなるか2 既に預金を引き出した・遺品を整理した場合3 早めに専門家へ相談した方がよい場合第7 出典と詳しい記事
第1 相続放棄を考えたら最初に確認すること

相続放棄は,亡くなった人の借金を引き継がないためだけの制度ではない。家庭裁判所に申述し,有効に放棄すると,その相続について初めから相続人でなかったものとして扱われる。預貯金や土地を残して借金だけを放棄することはできない。
まず,自分の期限,相続財産・債務の状況及び既にした行為を確認し,財産を売る,払い戻して使う,遺産分割協議書に署名するといった行為を急がないことが重要である。

確認すること最初の対応いつ死亡と自分の相続人性を知ったか日付と連絡の経緯を記録し,通知書・封筒・メールを保存する。財産と借金がどこまで分かっているか預貯金,不動産,借入れ,保証債務等の資料を分け,分からない部分を残す。預金を引き出したり遺品を処分したりしたか日時,対象,金額,原資,使途及び領収書を整理し,追加の処分を止める。3か月以内に判断できるか調査が終わらない場合は,期限前の期間伸長を検討する。

本記事は,放棄するかどうかを考える段階の案内である。申述書や戸籍の詳しい準備は相続放棄の手続を自分でする方法で説明している。

第2 相続放棄・単純承認・限定承認の違い
1 資産と債務を一緒に考える

民法896条は,被相続人の財産に属した権利義務を原則として相続人が承継すると定める。資産だけでなく債務も調べた上で,承認又は放棄を選択する必要がある。

選択基本的な効果判断の際の注意単純承認被相続人の権利義務を無限に承継する。相続人自身の財産も債務の責任財産になる。法律上,承認したとみなされる場合もある。相続放棄その相続について初めから相続人でなかったものとみなされる。資産も承継しない。各人で選択できるが,家庭裁判所への申述を要する。限定承認相続で得た財産の限度で債務・遺贈を弁済することを留保する。共同相続人がいる場合は全員で行い,目録提出や清算手続も必要になる。

限定承認は,財産が残る可能性はあるが債務の全体が分からない場合に検討の余地がある。ただし,放棄より常に有利又は簡単な制度ではない。清算の負担も含めて判断し,具体的な手順は限定承認の手続と換価を参照されたい。

2 遺産分割で何も受け取らないこととの違い

親族間で「財産を受け取らない」と合意したり,遺産分割協議書にその旨を書いたりしても,家庭裁判所への相続放棄の申述の代わりにはならない。親族間の負担の合意だけで,債権者に対する責任が当然に消えると考えてはならない。
また,遺産の帰属を決める協議への参加が,法定単純承認の問題を生むことがある。借金の有無が分からないまま,形式だけの署名を求められても,先に相続放棄との関係を確認すべきである。

第3 相続放棄の期限は原則3か月
1 死亡日から一律に数えない

民法915条1項の熟慮期間は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月である。通常は,死亡と,その死亡により自分が法律上の相続人になったことの双方を知った時が問題になる。
死亡を後から知った場合や,先順位者の放棄により後順位者が相続人になった場合は,死亡日だけを見て期限を決められない。家族全員に同じ期限があるとも限らない。

2 調査が間に合わない場合と3か月を過ぎた場合

期限内に財産・債務の調査をしても判断材料が得られない場合は,家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることを検討する。債権者との交渉や戸籍の取寄せをしているだけで,期限が自動的に止まるわけではない。
死亡から3か月が過ぎていても,実際の起算点を確認せずに諦めるべきではない。他方,借金を後から知れば必ず新たな3か月が始まるわけでもない。最高裁昭和59年4月27日判決の例外は,相続財産が全くないと信じたことと,そのように信じる相当な理由等を要する。
具体的な期間計算,必要資料,例外の限界は相続放棄の3か月はいつからかで説明している。

第4 手続きと費用の見通し
1 家庭裁判所への申述から受理まで

提出先は,被相続人の最後の住所地の家庭裁判所である。自分の相続順位と管轄を確認し,申述書,戸籍等及び費用を準備して提出する。裁判所から照会や追加資料の求めがあれば,指定された期限までに,実際の事実に即して回答する。
受理された後は,受理を知らせる書面を保管し,必要に応じて受理証明書を取得する。請求してきた債権者には受理の事実と資料を伝え,後順位者にも自分の放棄によって相続人になる可能性があることを連絡するのが実務的である。
申述の受理は,後の民事訴訟で放棄の効力が一切争われなくなることを意味しない。裁判所から訴状等が届いたときは,受理済みという理由で放置しない。

2 800円だけで全て終わるわけではない

裁判所の全国案内では,申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便料を要する。これに戸籍・住民票除票等の交付手数料や郵送請求費用が加わる。専門家に依頼する場合は,別に報酬等が必要になる。
郵便料や戸籍の提出方法は提出先の案内を確認する。複数人の申述でも,手数料は各人ごとに必要である。共通書類の重複提出を省ける場合と,申述自体が1人分になることを混同してはならない。

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相続放棄した家・空き家はどうなるか―保存義務と相続財産清算人への引渡し(AI作成)

目次

第1 相続放棄後も家の対応が必要になる場合第2 保存義務の条件・範囲・終わり方1 放棄時に現に占有していた財産が対象になる2 処分する権限とは区別する3 受理通知だけで保存義務が終わるわけではない第3 放棄前後にしておく保存と記録1 現状・占有・危険を記録する2 保存のための措置と大きな処分を分ける3 自分が業者と契約する場合の費用にも注意する第4 相続人への引渡しと全員が放棄した場合1 他の相続人が承継する場合2 全員が放棄しても直ちに国が管理するわけではない第5 相続財産清算人の選任と引渡し1 申立ての資料と費用を確認する2 引渡しを記録する第6 よくある疑問と早めに相談すべき場合1 放棄すれば住み続けられるか2 どのような場合に相談を急ぐべきか第7 出典
第1 相続放棄後も家の対応が必要になる場合

相続放棄が有効であれば,放棄者はその相続について初めから相続人でなかったものとして扱われる。しかし,故人の家に住んでいる,家財を手元に保管しているといった場合には,放棄後の保存と引渡しを別に考える必要がある。
現行民法940条の対象は,放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している者である。「放棄した人は全員いつまでも管理する義務がある」とも,「受理されたら家をそのまま捨ててよい」とも説明できない。
本記事は,故人所有の家や家財を放棄した者が,現状を保ち引き渡すまでに確認すべき事項を扱う。放棄自体の書類・期限は相続放棄の手続を自分でする方法を参照されたい。

相続放棄の意味,単純承認・限定承認との比較及び放棄するかどうかの判断は,相続放棄とは―期限・手続き・費用・デメリットと判断のポイントで説明している。

第2 保存義務の条件・範囲・終わり方
1 放棄時に現に占有していた財産が対象になる

民法940条1項は,放棄時に現に占有していた財産について,相続人又は同法952条1項の相続財産清算人に引き渡すまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務を定める。
故人の家に同居していた,家財を自宅へ移して保管していた,建物を事実上管理していたといった事情は,占有の判断で確認すべき事実である。鍵を1本持っているという事実だけで,全ての家や家財の占有を一律に決めるべきではない。実際の使用,立入り,管理,他人の支配及び引渡しの経過を確認する。
遠方に住み,その家を現に占有していなかった者に,親族又は放棄者であるという理由だけで,同項の保存義務が当然に生じるわけではない。ただし,自分で締結した契約や自分の行為による責任まで,この条文だけで全て否定できるわけではない。

2 処分する権限とは区別する

保存義務は,家を自分のものとして売却し,解体し,家財を自由に譲渡・廃棄する権限を与える制度ではない。放棄後の隠匿・私的消費等には民法921条3号の問題もある。
放棄前に売却や廃棄をした場合は,同条1号による法定単純承認が問題になり得る。保存と処分の境界は行為の目的・対象・程度によるため,大掛かりな工事や片付けは,必要性だけでなく権限と費用負担も先に確認する。
行為ごとの判断は相続放棄と法定単純承認を参照されたい。

3 受理通知だけで保存義務が終わるわけではない

条文上の終期は,相続人又は相続財産清算人への当該財産の引渡しである。受理通知を受け取った日,家から引っ越した日,又は鍵を処分した日を,当然に義務の終了日として扱ってはならない。
誰が相続人として承継するかを確認し,引渡しが可能な相手と方法を具体化する。引渡し先がいない又は相続人のあることが明らかでない場合は,相続財産清算人の選任が必要になることがある。

第3 放棄前後にしておく保存と記録
1 現状・占有・危険を記録する

家の所在,鍵の保管者,住んでいる人,現に管理している人,雨漏りや破損,家財の所在等を,写真と日付入りの一覧で記録する。故人の物と自分の物を分け,持ち出した物や処分した物があれば,その日時と理由も残す。
近隣からの連絡や自治体の文書は,封筒を含めて保存する。危険が切迫している場合は,人の安全を優先し,必要に応じて自治体・消防等へ連絡した上で,行った措置と範囲を記録する。
これらは一律に法律で定められた書式ではなく,占有状況,保存の必要性及び引渡しの経過を説明するための実務上の備えである。

2 保存のための措置と大きな処分を分ける
場面対応の考え方施錠や現状確認が必要現実の占有状況と危険を確認し,財産の状態を保つための必要な措置を検討する。雨漏り・破損の応急措置が必要写真,見積り,必要性,工事範囲と原資を残す。規模が大きい工事は権限・費用負担を先に相談する。家財を売る・譲る・廃棄したい経済的価値と処分権限を確認する。業者に一括処分を依頼する前に,相続放棄との関係を検討する。家を解体・売却したい保存のためという理由だけで放棄者が実行できるとは限らない。相続人・清算人による処理と裁判所の許可の要否を確認する。

遺品整理業者の許可や委託契約の注意点は遺品整理業者の許可・選び方と相続放棄・残置物処理の注意点で説明している。適切な許可のある業者を選ぶことと,放棄者に処分権限があることは別の問題である。

3 自分が業者と契約する場合の費用にも注意する

故人の債務を相続しないことと,放棄者が新しく業者へ工事や片付けを依頼することは別である。自分が発注者となれば,その契約の代金を誰が負担するかが問題になる。
民法940条2項は,報告,受け取った物の引渡し及び必要費の償還等に関する委任の規定を準用する。しかし,支出すれば全額・直ちに戻ると考えてはならない。保存に必要な費用か,金額と支出の根拠を示せるか,相続財産から回収できるかを区別する。
領収書,見積書,契約書及び支払記録を保管し,故人の財産と自分の財産を混同しない。故人の預金を払い戻して支払う前には,預貯金の払戻しと法定単純承認の問題も確認する。

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相続したゴルフ会員権を売却するときの税務―取得費の引継ぎ,名義書換料及び損益通算(AI作成)

目次

第1 相続税評価額で取得費を置き換えない第2 被相続人の資料と相続人の支出を合わせて確認する第3 名義書換料を認めた最高裁判決の射程第4 所得の計算と損失の通算を二段階にする第5 売却前の確認順序第6 関連記事と根拠の範囲

親が買ったゴルフ会員権を相続して売却するとき,相続税評価額,親の購入代金,相続人の名義書換料及び売却時の手取額は,それぞれ役割の異なる数字である。個人が通常の相続によって取得した会員権を売却する場面について,令和8年10月10日に確認した法令,最高裁判決及び国税庁資料に基づいて整理する。

第1 相続税評価額で取得費を置き換えない

所得税法60条1項は,通常の相続や贈与によって取得した資産の売却について,「その者が引き続きこれを所有していたものとみなす」と定める。相続によって,その時の評価額で新たに購入したものとして計算する制度ではない。

被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐため,相続した時の評価額より安く売却しても,元の取得費が低ければ譲渡益が生じ得る。相続税の評価と,売却時の所得税計算を別の表へ記録する方がよい。限定承認に係る相続は同項の通常の引継ぎから除かれるため,限定承認と税金を参照されたい。

第2 被相続人の資料と相続人の支出を合わせて確認する

被相続人の購入契約,入会時の明細,名義書換料,仲介手数料及び支払記録を集める。その上で,相続人が承継のために支出した金額と,売却のための支出を分ける。相続人が買ったわけではないという理由だけで,親の購入資料を不要としない。

所得税法38条1項は取得費を,資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額とする。請求書の名称だけではなく,その支出が権利取得のために必要だったか,売却に直接対応するか,保有中の支出かを検討する必要がある。

会員権の種類,承継条件,名義変更の要否及び費用負担は,会則と個別契約で確認する。相続人が自ら会員となってから売却する場合と,相続関係を証明して第三者への売却を進める場合とで,必要な手続・支払が同じとは限らない。

第3 名義書換料を認めた最高裁判決の射程

最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決は,父からゴルフ会員権の贈与を受けた子が,名義書換手数料を支払い,その後会員権を売却した事案である。相続そのものの事案ではない。

最高裁は,所得税法60条1項の趣旨を増加益への課税の繰延べと捉え,贈与の際の権利取得に必要な付随費用を無視する扱いを否定した。受贈者が会員権を取得するために支払った当該手数料を取得費に含めた。

相続の場合も,60条1項による取得費の引継ぎだけを理由として,相続人の付随費用を一律に除外する考え方は採れない。他方,相続後に支出した金額がすべて取得費となるわけでもない。名義書換料の支払者,支払目的,会則上の効果,承継との関係及び領収書をそろえて判断する。

同判決が譲渡時の売却手数料ではなく,贈与時の取得付随費用を扱ったことにも注意する。不動産の相続登記費用等との比較は,相続した不動産を売却したときの譲渡所得を参照されたい。

第4 所得の計算と損失の通算を二段階にする

国税庁No.3158は,ゴルフ会員権の売却益を原則として総合課税の譲渡所得とし,取得費と譲渡費用を控除した上で,保有期間に応じた計算を示している。営利目的で継続して売買する場合は,事業所得又は雑所得の問題となり,同じ計算を機械的に使わない。

取得費に名義書換料を含められるかという問題と,計算した譲渡損失を給与等から差し引けるかという問題は別である。取得費の認定に成功しても,損益通算ができるとは限らない。

現行の所得税法69条2項及び62条1項と施行令178条は,生活に通常必要でない資産の損失を制限する。主として趣味・娯楽等のために持つ会員権について,No.3158は給与所得等との損益通算を原則として認めないと説明している。取引先との利用があったという事情だけで,当然に制限を外せるとはしない。

平成17年の最高裁判決は平成9年分の課税を扱っている。そこで譲渡損失が認められたという結論を,現在の給与との通算へそのまま移すことはできない。過去の判決による取得費の解釈と,売却年に適用される損失制限を分ける必要がある。

第5 売却前の確認順序

①会員権証書,会則,相続関係資料及び相続人間の取得者を確認する。
②被相続人の取得日,購入代金と付随費用を証憑に結び付ける。
③相続人の名義書換料等を,取得,維持又は売却のどの段階の支出かに区分する。
④売却契約,売却代金,仲介手数料及び入金明細をそろえる。
⑤譲渡所得の区分・金額と,損益通算の可否を別々に判定する。
⑥申告が必要となる場合の資料と担当を,売却前に決める。

弁護士は承継権限,会則,遺産分割及び売買条件を,税理士は所得区分,取得費,保有期間及び損益通算を照合する運用が有用である。これは専門職連携の提案であり,会則や事実が異なる全案件への一律の結論ではない。

ゴルフ場の経営破綻等で預託金債権や施設利用権の内容が変わった場合は,売った権利と元の会員権の同一性から確認する。通常の相続・売却の計算だけで完結させない。

第6 関連記事と根拠の範囲

令和6年司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目は,相続時の名義書換料と,娯楽目的の会員権の損益通算を別設問で扱っている。試験答案の検討順序を確認するための案内である。

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海外の共同名義口座は遺産に含まれるか―生存者取得,遺留分と日本の相続税・贈与税(AI作成)

目次

第1 共同名義だけでは帰属と税金は決まらない第2 生前の帰属と死亡後の取得を分ける1 ハワイ州法の例2 口座書類と資金履歴をそろえる第3 日本での準拠法と遺留分第4 日本の課税は別に判定する1 国外口座でも課税範囲を確認する2 遺産の外に移る場合にもみなし贈与を検討する第5 弁護士と税理士が共有する資料第6 関連記事と出典
第1 共同名義だけでは帰属と税金は決まらない

海外の銀行口座に夫婦の名前が並んでいても,残高の半分ずつが各人の財産であるとは限らない。また,一方の死亡後に生存者が口座を取得できる制度であっても,日本で相続税・贈与税がかからないとは限らない。
確認する順序は,①生前の資金と権利の帰属,②死亡による権利の移転,③遺産・遺留分との関係,④日本と現地の課税である。銀行が払戻しを認める人と,相続人間で財産を取得できる人とを同一視しないことが出発点となる。

第2 生前の帰属と死亡後の取得を分ける
1 ハワイ州法の例

ハワイ州法のHRS §560:6-103(a)は,共同名義口座について,名義人全員の生存中は各人の純拠出額に応じて帰属し,異なる意思について明白かつ説得的な証拠がある場合を例外とする。名義人数だけで持分を均等にする規定ではない。

他方,HRS §560:6-104(a)は,一方の死亡時の残高について,口座開設時に異なる意思があったことの明白かつ説得的な証拠がない限り,被相続人の遺産との関係では生存名義人に帰属すると定める。同条(e)では,契約等に基づく生存者の権利を遺言によって変更できないとしている。

これはハワイ州の当該規定の説明である。他国,他州,証券口座,信託口座及び単なる払戻し代理人の登録へそのまま広げることはできない。

2 口座書類と資金履歴をそろえる

口座の名称に「joint」があるだけでは足りない。開設申込書,署名カード,口座契約,生存者取得条項,名義変更・受取人変更の履歴及び適用される約款の版を取得する。
その上で,各名義人が入れた資金,払戻し,払戻金の使途及び死亡前後の残高を確認する。銀行の「生存者へ支払う」という回答と,その支払の法的性質や日本の税務上の評価は別に記録する。

第3 日本での準拠法と遺留分

法の適用に関する通則法36条は,「相続は、被相続人の本国法による。」と定める。地域ごとに法が異なる国の本国法は,同法38条3項により,その国の規則に従って指定される地域の法を選び,そのような規則がなければ本人に最も密接な関係がある地域の法を選ぶ。同法41条の日本法への反致も確認する。

これとは別に,口座契約の成立・効力には同法7条以下,夫婦間の財産関係には同法26条などが問題となる。どの法律関係を判断しているかを明示し,銀行との契約について選択された法だけで相続全体を処理しない。消費者契約に当たる場合には同法11条の適用条件も検討する。

個別財産の準拠法と相続準拠法をどう適用して遺産の構成を決めるかは,争点となり得る。現地法上の生存者取得が認められることだけで,日本で遺留分の問題がなくなるとは断定できない。相続の準拠法を定め,遺留分に相当する制度の有無,対象となる処分,算定財産,請求の相手方及び期間を検討する。

国際裁判管轄,反致及び遺言方式の基本は,外国籍・国外財産がある相続と遺言で説明している。

第4 日本の課税は別に判定する
1 国外口座でも課税範囲を確認する

相続税法1条の3・1条の4等により,取得者の納税義務の範囲を確認する。取得者と被相続人・贈与者の住所,国籍,過去の日本居住期間及び在留資格が関係するため,「海外居住」「外国銀行」という情報だけで課税対象外と判断しない。
国税庁「相続人が外国に居住しているとき」も,日本に住所がない取得者であっても,一定の場合には国外財産が相続税の課税対象になると説明している。財産の所在は相続税法10条の財産別の基準で確認する。

2 遺産の外に移る場合にもみなし贈与を検討する

相続税法9条は,対価を支払わないで利益を受けた場合等について,原則として利益の価額相当額を贈与により取得したものとみなす規定であり,遺言による行為の場合には遺贈とみなす。死亡を契機とする取得であることだけから,常に遺贈と扱う規定ではない。
相続税法基本通達9-1は,「利益を受けた」場合について,おおむね財産の増加又は債務の減少があった場合等と説明している。

税務大学校の研究論文中澤直人「国外における夫婦間の多様な財産保有形態に対する相続税法上の取扱いについて」の要約は,想定したハワイ州の共同名義口座の生存者取得について,同条による贈与税課税が相当との見解を示す。相続開始時に夫婦が日本に住所を有し,相続人は生存配偶者のみ等の前提を置いた研究である。
国税庁のサイトに掲載された研究論文であることをもって,すべての共同名義口座について確定した行政上の取扱いが示されたとは扱わない。実際の契約,準拠法,拠出額,取得時点,他の相続財産及び納税義務の範囲に当てはめる必要がある。

第5 弁護士と税理士が共有する資料

① 名義人全員の国籍,住所履歴,在留資格及び夫婦財産契約
② 口座契約,生存者取得条項,署名カード及び変更履歴
③ 各人の拠出と払戻しの全履歴,死亡日残高及び現在残高

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成年後見人等の身上保護事務とチーム支援―ケース会議への参加,役割分担,苦情への対応と家庭裁判所の評価(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 身上保護事務とは何か1 法律上の根拠2 従来の共通理解3 「配慮し続けること」自体が身上保護の本質であるという見方第3 家庭裁判所の評価の在り方第4 チーム支援の意義1 チームとは何か2 チームで支援することのメリット3 後見人等がチームの一員となる必要性第5 就任後のチームへの関わり方1 就任直後にすること2 チームが距離を置いてしまう場合3 メンバーが入れ替わったとき4 負担の軽減にもつながる第6 監督における考え方――ケース会議への欠席第7 本人・親族からの苦情とチームでの対応1 苦情の例2 本人の金銭管理3 親族もチームの一員である4 家庭裁判所の対応第8 記録と報告1 家庭裁判所は報告書と連絡票で把握する2 統一書式で指摘されている課題第9 身上保護が困難な事案と後見人等の交代第10 関連記事第11 出典1 法令2 大阪家裁後見センターだより
第1 この記事の要点

本記事は,成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という。)の身上保護事務と,本人を支える支援チームへの関わり方について,大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)が月刊大阪弁護士会に連載している大阪家裁後見センターだよりの説明を中心に整理するものである。

結論は次のとおりである。
①身上保護事務は,本人の身体に対する強制を伴わず,契約等の法律行為に関する事項を中心とするが,法律行為の前提となる広範な事実行為も含み得る。
他方,現実の介護・看護行為そのものや,身体に対する強制,一身専属的な事項は含まれないと理解されてきた。
②後見センターは,身上保護事務を個々の事務の積み上げとしてではなく,本人にとって最善の対応策は何かについて配慮し続けることを含む一連のプロセスとして捉える視点が重要であるとし,財産管理に偏りがちであった従来の評価を改め,身上保護事務を十分に評価していくとしている。
③後見人等は,多くの場合,既に形成されている本人の支援チームに後から加わる。
就任後は早めにケース会議等に参加し,支援方針を共有した上で,役割分担と振返りの方法を確認することが求められている。
④後見人等はチームの上司ではなく,他のメンバーと対等な立場で役割を分担する。
本人の生活拠点の変化や人事異動でメンバーが変わったときは,ケアマネジャーや相談支援専門員等に働き掛けて次のチームの構築を支える。
⑤ケース会議を一度でも欠席すれば解任事由になるというわけではないが,合理的な理由なく長期間欠席していることは,身上保護事務が十分に行われていないのではないかとの疑念を生じさせる事情に当たり得るとされている。
⑥本人や親族からの苦情(小遣いが少ない,通帳を見せてもらえない等)には,後見人等が一人で抱え込まずチームで対応することが勧められている。
親族も,虐待をした養護者に当たる等の特別な事情がない限り,チームの一員と考えられている。
⑦家庭裁判所は,身上保護事務の内容を主に後見等事務報告書や連絡票から把握する。
統一書式の報告では,身上保護面の記載にチェック漏れが多いことが指摘されている。

本記事の基準日は令和8年10月10日である。
素材として,大阪家裁後見センターだよりの第32回(身上保護事務)本文1頁~6頁,第48回(チームの一員としての後見人等,後見人等のチームへの関わり方についての監督における考え方)本文1頁~9頁及び第51回(統一書式の策定経緯や目的等)本文1頁~7頁を用いた。
本人の意思決定を支援する具体的な手順(支援チームの編成,プレミーティング,代行決定の条件)は,別稿の成年後見人等の意思決定支援―大阪版ガイドライン(令和6年12月補訂)の原則,支援チームの手順と代行決定の条件で扱っており,本記事では繰り返さない。

第2 身上保護事務とは何か
1 法律上の根拠

民法858条は,「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定める。
保佐人については民法876条の5第1項が同じ趣旨を定め,補助人には同項が準用される(民法876条の10第1項)。

第32回1頁注3は,「身上保護」は「身上監護」と同義であるが,成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)3条1項が「身上の保護」と呼称していることを説明している。

2 従来の共通理解

第32回1頁~2頁は,身上保護事務について,これまで一般的には次のような共通の理解があったとする。

①本人の身体に対する強制を伴わず,かつ,契約等の法律行為に関する事項である限り,一身専属的な事項を除き,身上監護に関するあらゆる事項(法律行為に当然伴う事実行為を含む。)を対象として含む。
②身体に対する強制を伴う事項(健康診断の受診の強制,入院の強制,施設への入所の強制,介護の強制,教育・リハビリの強制等),一身専属的な事項(臓器移植の同意等)及び現実の介護・看護行為(事実行為としての介護・看護)は,身上保護事務に含まれない。

したがって,例えば,介護サービスの利用契約を結び,サービスが契約どおり提供されているかを確認することは後見人等の事務であるが,後見人等自身が食事や入浴の介助をすることまでは求められていない。
入院中の本人の他科受診の付添いのように,事実行為と後見人等の事務の境界が問題になる場面は,精神科病院入院中の成年被後見人が他科を受診するときの付添いで扱っている。

(続きを読む...)成年後見人等の身上保護事務とチーム支援―ケース会議への参加,役割分担,苦情への対応と家庭裁判所の評価(AI作成)

成年後見人等の意思決定支援―大阪版ガイドライン(令和6年12月補訂)の原則,支援チームの手順と代行決定の条件(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 意思決定支援の位置付け1 法律上の根拠2 大阪版ガイドラインと全国版ガイドライン3 ガイドラインと法律上の権限第3 意思決定支援の六つの原則第4 ガイドラインで用いられる用語1 意思決定支援と本人中心主義2 エンパワメント3 意思決定能力4 代行決定と最善の利益第5 意思決定支援の手順1 日常生活上の意思決定と環境整備2 状況把握と支援者の輪への参加3 支援チームの編成4 プレミーティング(事前打合せ)5 チームミーティング6 意思決定能力の評価第6 代行決定1 基本的な考え方2 代行決定が検討されるべき場合3 客観的に実現困難というだけで代行決定に移らない4 代行決定における留意点5 全国版ガイドラインとの比較第7 居所の決定の例第8 家庭裁判所での使われ方と報告書への書き方1 大阪版ガイドラインが想定する用法2 統一書式の意思確認欄第9 令和8年改正との関係第10 関連記事第11 出典1 法令2 ガイドライン3 大阪家裁後見センターだより
第1 この記事の要点

本記事は,成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という。)が本人の意思決定を支援するときの考え方と手順を,大阪意思決定支援研究会の「意思決定支援を踏まえた成年後見人等の事務に関するガイドライン」(令和6年12月補訂版。以下「大阪版ガイドライン」という。)と,大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)が月刊大阪弁護士会に連載している大阪家裁後見センターだよりに即して整理するものである。

結論は次のとおりである。
①後見人等は,本人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たり,本人の意思を尊重しなければならない(民法858条,876条の5第1項,876条の10第1項)。
意思決定支援は,この義務を実践するための考え方と手順である。
②大阪版ガイドラインは,全ての人は意思決定能力がないと評価されない限り能力があると推定されること,意思決定能力は「その時点」で「その課題」ごとに判断され,精神上の障害や後見等の開始だけで能力を欠くとされないことなど,六つの原則を掲げている。
③非日常的な課題(居所の決定,重要な財産行為等)については,課題ごとに本人を中心とする支援チームを編成し,プレミーティングで準備した上で,本人を交えたチームミーティングで本人の意思を引き出し,読み取る。
④意思決定能力は,情報の理解,記憶保持,情報の比較考察及び意思の表現の4要素について,支援を受けてもなお満たせないものがあるかを踏まえ,支援チーム全員の意見として評価する。
⑤代行決定は最後の手段であり,課題に期限があることを前提に,本人の意思表明が得られず意思決定能力がないと判定された場合,本人に見過ごすことのできない重大な影響を与える場合(三つの事情を全て満たす場合),又は第三者の権利を侵害する場合に検討される。
本人の希望が客観的に実現困難であるというだけで代行決定に移ることには慎重であるべきとされている。
⑥代行決定は後見人等が行うが,その内容は本人の意向,感情,価値観等に基づく最善の利益(主観的最善の利益)に基づき,支援チームで検討する。
⑦大阪版ガイドラインは研究会が示した行動指針であり,後見人等の代理権・同意権の範囲を広げるものではない。
代行決定の結論を実行する場合も,後見人等が法律上有する権限の範囲内で,必要な許可等を得て行うことになる。

本記事の基準日は令和8年10月10日である。
大阪版ガイドラインは,大阪弁護士会のウェブサイトに掲載されたPDF(42頁)を用い,主に本文1頁~26頁(総論,意思決定支援の手順及び代行決定)によった。
巻末のアセスメントシートと個別事例の検討は,本記事では手順の説明に必要な限度でしか触れない。
大阪家裁後見センターだよりは,第36回(意思決定支援),第48回(チームの一員としての後見人等)及び第51回(統一書式の策定経緯や目的等)を用いた。

第2 意思決定支援の位置付け
1 法律上の根拠

民法858条は,「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定める。
保佐人については民法876条の5第1項が同じ趣旨を定め,補助人には同項が準用される(民法876条の10第1項)。

第36回1頁は,成年後見制度利用促進基本計画(平成29年3月24日閣議決定)が,以前には成年後見人の職務として財産管理が重視され,必要な場面で本人に意思決定させ,それを支援したり,本人の意思を把握・推測したりすることが疎かにされてきたのではないかと指摘したことを紹介している。
第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定)でも,意思決定支援は権利擁護支援の重要な要素とされている(第36回1頁)。

2 大阪版ガイドラインと全国版ガイドライン

大阪版ガイドラインは,大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)の裁判官及び家庭裁判所調査官と,三士会(大阪弁護士会,大阪司法書士会・公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート大阪支部,公益社団法人大阪社会福祉士会)所属の専門職らが結成した大阪意思決定支援研究会が,平成30年3月に策定したものである(大阪版ガイドラインはしがき)。
その後,令和2年3月と令和6年12月に補訂された。
令和6年12月補訂版は,表現を改めたほか,後記の全国版ガイドラインとの関係に関する記述を盛り込み,代行決定の位置付けやその際の考慮要素等の記述を新しくしたとしている(同補訂版はしがき)。

これとは別に,最高裁判所,厚生労働省,日本弁護士連合会,リーガルサポート及び日本社会福祉士会で構成された意思決定支援ワーキング・グループが,令和2年10月30日に「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(以下「全国版ガイドライン」という。)を公表している(大阪版ガイドライン6頁,第36回2頁)。
大阪版ガイドラインは,全国版ガイドラインについて,その基本思想と方向性は大阪版ガイドラインと軌を一にするものであり,運用に当たっても大いに参考とされるべきものであるとしている(大阪版ガイドライン6頁)。

(続きを読む...)成年後見人等の意思決定支援―大阪版ガイドライン(令和6年12月補訂)の原則,支援チームの手順と代行決定の条件(AI作成)

成年後見人等が在職中に死亡したとき―後任の選任,管理財産の引継ぎと相続人による報酬付与申立て(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 後見人等の死亡で何が終わるか1 「欠けた」場合として後見等が相対的に終了する2 後見人等が複数いる場合3 後見等監督人が死亡した場合第3 後見人等の相続人に残る法律上の義務1 管理の計算2 管理財産の返還・引継ぎ義務3 急迫の事情がある場合の必要な処分第4 大阪家庭裁判所後見センターの取扱い1 相続人に管理計算報告を原則として促さない2 後任の選任3 家庭裁判所は後見人等の死亡を当然には知らない第5 万一に備えて平時にしておくこと1 後見センターの依頼2 具体的な備え第6 本人の死後事務の途中で後見人等が死亡した場合第7 在職中の事務についての報酬1 民法862条と家庭裁判所の裁量2 相続人に報酬を与えることができるとする実務3 大阪家裁後見センターが求める申立ての方法4 この取扱いの理由5 申立ての準備第8 令和8年改正との関係第9 関連記事第10 出典1 法令2 大阪家裁後見センターの資料
第1 この記事の要点

本記事は,家庭裁判所が選任した成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という。)又はその監督人(以下「後見等監督人」という。)が,任務の途中で死亡した場合の事務処理を整理するものである。
本人(成年被後見人・被保佐人・被補助人)が死亡した場合の後見人等の事務とは,死亡する者も,続く手続も異なる。

結論は次のとおりである。
①後見人等の死亡は,後見人等が「欠けた」場合として後見等の相対的な終了事由となり,家庭裁判所は後任の後見人等を選任する(民法843条2項,876条の2第2項,876条の7第2項)。
②後見人等が複数選任されていて,そのうちの一人が死亡しただけであれば,後見人等が「欠けた」場合には当たらない。
③後見人等の相続人は,後見人等になるわけではない。
他方,民法上は,管理の計算(民法870条)と,管理していた本人の財産を返還又は引き継ぐ義務を相続人が負うと解されている。
④大阪家庭裁判所後見センター(以下「後見センター」という。)は,相続人に管理計算報告を促すことを原則としてせず,速やかに後任を選任して管理財産の引継ぎを受けさせる取扱いをしている。
これは家庭裁判所から報告を促さないという運用であって,法律上の義務がなくなるという意味ではない。
⑤在職中の事務については,家庭裁判所が後見人等の相続人に報酬を与えることができるとするのが実務の扱いである。
後見センターは,相続人による報酬付与の申立てについて,相続関係の資料と,相続人全員による申立て又は他の相続人全員の同意書を求めることを原則としている。
⑥家庭裁判所は後見人等の死亡を当然には知ることができないから,専門職の後見人等には,管理財産の内容と所在を第三者にも分かるようにし,死亡時の連絡と事実上の引継ぎを担う者を定めておくことが求められている。
⑦本人の死亡後,死後事務を終える前に後見人等が死亡した場合は,後任の後見人等を選任することができず,通常の後任選任とは扱いが異なる。

本記事の基準日は令和8年10月10日である。
条文はe-Gov法令APIで取得した現行の民法によった。
素材とした大阪家裁後見センターだよりは,大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)が月刊大阪弁護士会に連載しているものであり,本記事では主に第46回「後見人等又は後見等監督人が在職中に死亡した場合の事務処理」(以下「第46回」という。)の本文1頁~7頁を用いた。
同回8頁~9頁の小窓(郵便料の電子納付)は令和7年6月現在の別の話題であり,本記事では扱わない。

第2 後見人等の死亡で何が終わるか
1 「欠けた」場合として後見等が相対的に終了する

民法843条2項は,「成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。」と定める。
この規定は保佐人と補助人に準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。

第46回1頁は,後見人等の死亡は,後見人等が「欠けた」場合として後見等の相対的終了事由となり,民法870条や654条などの規定が適用又は準用されると説明している。
「相対的終了」とは,本人について後見等そのものが終わるのではなく,その後見人等の任務だけが終わり,後見等は後任の後見人等によって続いていくという意味である。
この点で,本人の死亡によって後見等そのものが終わる場合(絶対的終了)とは異なる。

2 後見人等が複数いる場合

第46回1頁注3は,後見人等が一人でない場合には,そのうちの何人かが死亡したとしても後見人等が「欠けた」場合には当たらないから,相対的終了事由にはならないとしている。
この場合は,残る後見人等がそのまま事務を続けることになる。

もっとも,成年後見人が数人ある場合には,家庭裁判所が職権で,共同して又は事務を分掌して権限を行使すべきことを定めることができる(民法859条の2第1項)。

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失踪宣告と相続・相続税―死亡とみなされる時点,相続人の変動,申告期限,取消し及び外国が関わる場合(AI作成)

目次

第1 この記事の対象第2 失踪の宣告の要件と死亡とみなされる時点1 普通失踪と危難失踪2 死亡とみなされるのは審判の日ではない3 手続の概要第3 相続への影響1 相続は死亡とみなされる時点で開始する2 他の相続との先後で相続人が変わる第4 相続税の申告期限と財産の評価1 申告期限は審判の確定を知った日から数える2 財産は相続開始の時の価額で評価する3 失踪の宣告・取消しによる相続人の異動と更正の請求第5 失踪の宣告の取消し第6 外国が関わる場合1 日本の裁判所が失踪の宣告をすることができる場合2 死亡とみなされる時点と相続・婚姻への影響3 失踪の宣告の取消しの管轄4 外国の裁判所がした失踪の宣告5 不在者財産管理を選ぶ場合第7 最初に確認すること第8 関連記事第9 出典1 法令2 通達・公的資料
第1 この記事の対象

本記事は,家族が行方不明となって生死が分からない場合に家庭裁判所がする失踪の宣告(民法30条)について,相続と相続税の実務で問題となる点を整理するものである。

失踪の宣告では,死亡したものとみなされる時点が審判の日ではなく過去の時点になる。
そのため,誰が相続人になるか,相続税の申告期限がいつから進むか,財産をいつの価額で評価するかの判断が,通常の死亡の場合と異なる。

行方不明者が外国籍である場合や外国に住んでいた場合には,日本の裁判所が失踪の宣告をすることができる範囲が限られることがあり,外国の裁判所がした失踪の宣告を日本でどう扱うかも問題となる。

条文はe-Gov法令検索の現行条文(令和8年10月時点)で,通達は国税庁ホームページの相続税法基本通達で確認した。

第2 失踪の宣告の要件と死亡とみなされる時点
1 普通失踪と危難失踪

不在者の生死が7年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により,失踪の宣告をすることができる(民法30条1項)。
戦地に臨んだ者,沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が,戦争が止んだ後,船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも,同様である(同条2項)。

2 死亡とみなされるのは審判の日ではない

普通失踪の宣告を受けた者は7年の期間が満了した時に,危難失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に,死亡したものとみなされる(民法31条)。
審判は申立てから公告等を経てされるため,死亡したものとみなされる日は,審判の日や戸籍に記載される日より前になる。

失踪の宣告の裁判が確定したときは,その裁判を請求した者が,裁判が確定した日から10日以内に,裁判の謄本を添付して届け出なければならない(戸籍法94条,63条1項)。
この届書には,民法31条の規定によって死亡したとみなされる日も記載する(戸籍法94条)。

3 手続の概要

失踪の宣告の審判事件は,不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する(家事事件手続法148条1項)。
家庭裁判所は,申立てがあったこと,不在者は一定の期間までに生存の届出をすべきこと,届出がないときは失踪の宣告がされること,及び不在者の生死を知る者は一定の期間までに届出をすべきことを公告する(同条3項)。
その期間は,普通失踪では3か月,危難失踪では1か月を下ってはならず,期間が経過しなければ失踪の宣告の審判をすることができない(同項)。
失踪の宣告の審判は,不在者に告知することを要しない(同条4項)。

第3 相続への影響
1 相続は死亡とみなされる時点で開始する

相続は,死亡によって開始する(民法882条)。
失踪の宣告を受けた者の相続は,民法31条により死亡したものとみなされる時点で開始し,相続人の範囲や相続分もその時点を基準に判断する。

2 他の相続との先後で相続人が変わる

行方不明者自身が,親などの相続人となるべき立場にある場合には,死亡したものとみなされる時点と,その親の死亡の時点との先後によって結論が変わる。

例えば,子Aが行方不明となってから12年後に親Cが死亡した場合,Aについて普通失踪の宣告がされると,Aは行方不明となってから7年が満了した時に死亡したものとみなされ,Cより先に死亡したことになる。
この場合,AはCの相続人とならず,Aの子がAを代襲してCの相続人となる(民法887条2項)。
Aに子その他の直系卑属がいなければ,Aの系統からはCの相続人が出ないことになる(同条3項参照)。

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遺言書の執行とは―見つけた後の検認,遺言執行者,財産別の手続及び執行できない場合(AI作成)

目次

第1 遺言書の執行で最初に確認すること1 遺言書の執行とは2 遺言書があっても全ての手続を遺言執行者が行うとは限らない第2 遺言書を探し,原本又は証明書を確保する1 自宅,公証役場及び法務局を分けて調べる2 複数の遺言があるときは作成日と抵触関係を確認する第3 家庭裁判所の検認が必要かを確認する1 自宅等で保管された自筆証書遺言は原則として検認が必要である2 公正証書遺言と法務局保管の遺言は検認が不要である第4 遺言の種類と執行対象を確定する1 文言だけでなく遺言書全体から法的性質を判断する2 遺言執行者の権限は執行対象となる財産に限られる第5 遺言執行者の就任,選任及び初動1 指定された遺言執行者は就任意思を明らかにする2 遺言執行者がいないときは家庭裁判所へ選任を申し立てられる3 財産目録を作成し,管理経過を記録する第6 財産ごとの執行手続1 不動産2 預貯金3 株式,投資信託その他の有価証券4 保険金,年金その他の契約上の給付第7 相続人による処分,妨害及び情報請求への対応1 相続人は遺言の執行を妨げる行為をすることができない2 通知,財産目録及び報告を分けて行う第8 遺言書どおりに執行できない場合1 遺言の有効性又は文言の解釈が争われている場合2 受益者が先に死亡し,放棄し,又は資格を失った場合3 目的財産がなくなり,又は性質が変わった場合4 遺言執行者が就任できず,又は途中で職務を行えなくなった場合5 負担付遺贈の負担が履行されない場合第9 分配,費用,税務及び任務終了1 費用と報酬を区別する2 最終分配前に未処理事項を確認する第10 遺言書執行の確認順序第11 関連記事第12 出典1 法令及び公的資料2 裁判例3 実務書
第1 遺言書の執行で最初に確認すること
1 遺言書の執行とは

遺言書の執行とは,遺言者の死亡によって効力を生じた遺言の内容を読み取り,必要な調査,通知,財産管理,名義変更,換価及び分配を行って,遺言が定めた法律関係を現実のものにすることである。
遺言書を発見したからといって,直ちに預貯金を払い戻したり,不動産を処分したりしてよいわけではない。
遺言書の方式,検認の要否,後の遺言の有無,遺言条項の法的性質,遺言執行者の有無及び権限を順番に確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月9日現在の民法,裁判所及び法務省等の公開資料に基づき,相続人,受遺者及び遺言執行者が遺言書を見つけた後に確認する一般的な順序を整理するものである。
個別の遺言では,文言,作成年月日,財産の現状及び関係者によって結論が変わる。

2 遺言書があっても全ての手続を遺言執行者が行うとは限らない

遺言で遺言執行者が指定されていても,その権限は遺言の内容を実現するために必要な範囲に限られる(民法1012条)。
反対に,遺言執行者の指定がなくても,遺言の内容によっては受益者が自ら名義変更等を進められる場合がある。

したがって,「遺言書があるか」「遺言執行者がいるか」だけでは足りず,個々の条項が,特定財産承継遺言,特定遺贈,包括遺贈,相続分の指定,遺産分割方法の指定,清算型の条項その他のどれに当たるかを確認することが出発点となる。

第2 遺言書を探し,原本又は証明書を確保する
1 自宅,公証役場及び法務局を分けて調べる

自宅等で保管された自筆証書遺言のほかに,公正証書遺言又は法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言が存在することがある。
自宅で見つかった遺言だけを最終の遺言と決めつけず,公証役場及び法務局の制度も確認する。

日本公証人連合会の説明によれば,平成元年以降に作成された遺言公正証書については,遺言の効力発生後,相続人等の利害関係人が全国の公証役場で遺言検索を申し出ることができる。
法務局保管の遺言については,相続人,受遺者,遺言執行者等が遺言書保管事実証明書又は遺言書情報証明書を請求できる(法務省「証明書について」)。

2 複数の遺言があるときは作成日と抵触関係を確認する

後の遺言が前の遺言と抵触するときは,抵触する部分について前の遺言を撤回したものとみなされる(民法1023条1項)。
もっとも,作成日が新しい遺言が前の遺言の全てを当然に消すわけではない。
財産ごと,条項ごとに両立するかを確認し,両立する部分は併存し得る。

遺言後の生前処分その他の法律行為が遺言と抵触する場合も,抵触する部分について撤回が問題となる(民法1023条2項)。
遺言書と一緒に,売買契約書,贈与契約書,登記事項証明書,通帳及び証券残高等を確認する必要がある。

第3 家庭裁判所の検認が必要かを確認する
1 自宅等で保管された自筆証書遺言は原則として検認が必要である

遺言書の保管者は,相続の開始を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,検認を請求しなければならず,保管者がない場合に遺言書を発見した相続人も同様である(民法1004条1項)。
封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの下に開封する(同条3項)。
自宅で封を開けたり,書込みをしたりせず,発見時の状態を保つことが重要である。

裁判所の検認案内は,検認について,相続人に遺言の存在及び内容を知らせ,検認時点の形状,訂正等の状態,日付及び署名等を明確にして偽造・変造を防ぐための手続であると説明している。

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相続開始後の継続契約と口座振替を整理する方法―通信,放送,保険,地代及び賃貸物件設備(AI作成)

目次

第1 結論―口座振替の停止と契約の終了を分ける
第2 最初に四つの状態を分ける

1 必要性,契約,支払及び権限を別欄にする
2 口座凍結だけで解約済みと判断しない

第3 継続契約を漏れなく探す

1 郵便物,通帳及び建物設備から探す
2 契約台帳に記録する事項

第4 契約を利用目的で分類する

1 被相続人の生活に関する契約
2 賃貸物件の運営に必要な契約
3 保険,地代及び借入れ

第5 連絡,承継及び解約の順序

1 死亡連絡と最終手続を分ける
2 手続権限と提出書類を確認する

第6 貸与機器,売却及び建替えを確認する

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日常家事代理と表見代理―配偶者の代理権,信頼の対象と契約前の確認事項(AI作成)

目次

第1 配偶者の代理人として契約するときの検討順序第2 日常家事代理権と夫婦の財産の帰属1 民法761条の責任と代理権2 婚姻と個別の財産処分の権限は分ける第3 日常家事の範囲は目的だけで決まらない1 夫婦ごとの生活状況と行為の種類・性質2 代金の使途と財産処分の性質を別に確認する第4 権限を越えた行為と信頼の対象1 110条の一般的な検討と区別する2 日常家事の範囲内だと信じた理由を検討する3 実印や委任状の資料としての役割第5 契約前に整理する資料と確認事項1 確認する問いと資料を対応させる2 本人への確認と条件の明確化第6 無断で契約された本人が確認する事項第7 出典・関連記事と確認範囲1 法令・裁判例2 関連記事
第1 配偶者の代理人として契約するときの検討順序

夫婦の一方が,他方の代理人として契約する場面では,配偶者であること,実印や印鑑登録証明書を持っていること,個別の契約について代理権を与えられていることを分けて確認する必要がある。
特に,日常の家事に関する代理権だけを根拠とする場合,権限を越えた行為について問題となる信頼の対象は,その行為が当該夫婦の日常家事の範囲に属することである。個別の代理権があると信じた理由だけで,この問いを置き換えることはできない。

本記事は,現行民法と最高裁昭和44年12月18日第一小法廷判決の判断枠組みに基づき,契約の相手方と,無断で契約された本人の双方が確認する事項を整理するものである。登記手続を任せた場合など,日常家事とは別の基本代理権がある場面は,後掲の関連記事で扱う。

第2 日常家事代理権と夫婦の財産の帰属
1 民法761条の責任と代理権

民法761条本文は,夫婦の一方が日常家事について第三者と法律行為をした場合に,そこから生じた債務を他方も連帯して負担すると定める。ただし,第三者に責任を負わない旨を予告した場合の例外も,同条ただし書に置かれている。
昭和44年判決は,同条が責任を定めるだけでなく,夫婦が日常家事に関する法律行為について相互に他方を代理する権限も定めていると解した。

もっとも,日常家事債務の連帯責任と,他方の代理人としてした契約の効力は,検討する問いが異なる。誰を契約当事者として表示したか,どの債務の負担又はどの財産の処分が問題なのかを最初に確定する必要がある。

2 婚姻と個別の財産処分の権限は分ける

民法762条1項は,婚姻前から有する財産と,婚姻中に自己の名で得た財産を,その夫婦の一方の特有財産とする。同条2項の帰属不明財産の共有推定も別の規律である。
したがって,婚姻関係だけから,相手の名義の財産を処分する一般的な代理権を導くことはできない。財産の帰属,日常家事の範囲,個別に与えられた代理権を分けて調べることになる。

第3 日常家事の範囲は目的だけで決まらない
1 夫婦ごとの生活状況と行為の種類・性質

昭和44年判決は,共同生活を営む上で通常必要な法律行為を日常家事とし,具体的な範囲は,夫婦の社会的地位,職業,資産,収入,地域の慣習などによって異なるとした。
同時に,内部的な生活事情や個別の目的だけで判断せず,行為の種類・性質も客観的に考慮する必要があるとした。第三者の保護を目的とする規定であるためである。

2 代金の使途と財産処分の性質を別に確認する

契約によって得た金銭を生活のために使うという説明と,その契約行為自体が通常の共同生活に必要な行為かという評価は,同じではない。
実務では,使途だけでなく,処分する財産の種類,契約の内容・金額,その夫婦の生活との関係を整理することが有用である。これは判決の判断要素を契約確認へ落とし込んだ実務上の整理であり,一定額を越えると日常家事ではなくなるという一律の基準を示すものではない。

第4 権限を越えた行為と信頼の対象
1 110条の一般的な検討と区別する

民法110条は,代理人が権限外の行為をした場合でも,相手方にその代理人の権限があると信じる正当な理由があれば,110条が準用する109条1項本文の効果を認める規定である。
しかし昭和44年判決は,日常家事代理権を基礎に,広く一般的に110条の表見代理を認めることは,夫婦の財産的独立を損なうおそれがあるとして否定した。

2 日常家事の範囲内だと信じた理由を検討する

判決が示したのは,日常家事とは別の代理権が授与されていない場合に,相手方が当該行為をその夫婦の日常家事の範囲内だと信じる正当な理由があるときに限り,110条の趣旨を類推して保護するという枠組みである。
したがって,この類推の場面では,個別の処分について代理権があると信じたことと,行為が日常家事に属すると信じたことを分ける必要がある。正当な理由の判断では,どちらの信頼を,どの資料が支えているかを明確にする。

3 実印や委任状の資料としての役割

実印,印鑑登録証明書,委任状等が示されたときは,誰が,どの目的で交付・作成し,どの権限を示すものなのかを確認する必要がある。
それらが個別の代理権の存在を検討する資料になることと,処分行為の種類・性質が日常家事に変わることは別である。反対に,資料の内容から実際の授権を認められる場合まで,日常家事の範囲だけで処理するべきではない。

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破産手続開始後の相続放棄と破産法238条――相続不動産の売却・登記・税務(AI作成)

目次

第1 問題と結論1 本記事が扱う時系列2 結論の要旨第2 破産法238条の効力1 破産財団に対する相対的な限定承認効2 破産管財人が放棄の効力を認める場合3 破産財団は相続財産法人ではない第3 破産管財人による分別管理と売却1 破産法242条による分別管理2 不動産の任意売却と裁判所の許可3 後順位相続人の放棄第4 相続不動産の登記1 登記で現れる二つの法律関係2 事前照会のための二つの候補案3 法務局に示す資料4 類似例は同一事案ではない第5 税務及び会計の確認1 破産財団を別の納税主体としない2 個人の譲渡所得と強制換価手続の非課税3 破産法上の限定承認効と所得税法59条4 消費税と取得費・譲渡費用第6 実務チェックリスト第7 資料の裏付けと限界1 一次資料で確認した事項2 一次資料の裏付けが得られていない事項出典・参考資料
第1 問題と結論

1 本記事が扱う時系列

本記事は,被相続人の死亡,相続人の破産手続開始決定,その相続人による相続放棄の順にできごとが生じた場合を扱う。
具体的には,破産手続開始決定前に相続が始まり,決定後に破産者が家庭裁判所で相続放棄をした場合である。

この時系列では,民法上の相続放棄の効力だけで結論を出すことができない。
破産法238条が相続放棄の効力を破産財団との関係で修正し,同法242条が破産管財人に相続財産の分別管理及び処分を求めているからである。

2 結論の要旨

第1に,破産手続開始決定後の相続放棄は,破産財団に対しては限定承認の効力を有するにとどまる。
そのため,破産管財人が放棄の効力を認める手続をとらない限り,相続財産の換価価値を破産手続の外へ出すことはできない。

第2に,この効果は破産財団との関係に限られる。
破産財団が民法951条の相続財産法人になるわけではなく,破産管財人が当然に相続財産清算人の地位を取得するわけでもない。

第3に,相続不動産の任意売却には破産法78条2項1号の裁判所の許可が必要であり,売却後の登記は事案ごとに管轄法務局と事前協議すべきである。
公刊資料の範囲では,この時系列と完全に一致する登記先例を確認できなかったため,本記事の登記申請の構成は確定的な先例ではなく,事前照会のための候補案として示す。

第2 破産法238条の効力

1 破産財団に対する相対的な限定承認効

破産法238条1項は,破産手続開始決定前に破産者のために相続が始まり,破産者が開始決定後に単純承認又は相続放棄をした場合,それぞれ破産財団に対しては限定承認の効力を有するとする。
相続財産が債務超過であるときの単純承認と,資産超過であるときの相続放棄のどちらによっても,破産債権者の配当原資が害されないようにする趣旨である。

ここで重要なのは,条文が「破産財団に対しては」と限定していることである。
民法939条による相続放棄の一般的効果を全面的に否定するのではなく,破産手続の配当原資との関係でのみ,限定承認と同様に扱うものである。

2 破産管財人が放棄の効力を認める場合

破産法238条2項は,破産管財人が相続放棄の効力を認めることを許している。
この場合,破産管財人は,相続放棄があったことを知った時から3か月以内に,その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

したがって,当該相続財産を換価する前に,破産管財人が同項の申述をしたか,その申述が受理されたか,受理の審判が確定したかを確認する必要がある。
この点は,破産者本人の相続放棄申述受理証明書だけでは判断できない。

3 破産財団は相続財産法人ではない

国税庁が公開する名古屋高裁金沢支部平成20年6月16日判決(平成19年(行コ)第17号)は,破産法238条1項は破産手続との関係で限定承認と同様の効力を付与するものにすぎず,破産財団を法人とするものではないと判示した。
破産者は財産の帰属主体たる地位を失わず,破産管財人は管理処分権を専属的に行使するという区別である。

他方,民法951条は,相続人のあることが明らかでないときに相続財産が法人となることを定めている。
これは破産法238条とは根拠も要件も異なる制度であり,両者を同一視してはならない。

第3 破産管財人による分別管理と売却

1 破産法242条による分別管理

(続きを読む...)破産手続開始後の相続放棄と破産法238条――相続不動産の売却・登記・税務(AI作成)

こども性暴力防止法とは―日本版DBSの対象・義務・令和8年12月25日の施行準備(AI作成)

目次

第1 こども性暴力防止法の結論と基準日1 令和8年12月25日に施行される2 対象事業・対象従事者・措置の三つを分けて確認する3 本記事の確認基準日は令和8年10月8日である第2 対象事業者は二つの仕組みに分かれる1 学校設置者等は法律上の義務対象である2 民間教育保育等事業者には認定制度がある3 業務委託先や施設利用者も契約関係だけで決めない第3 誰が犯罪事実確認等の対象になるか1 支配性・継続性・閉鎖性の三要件が中心になる2 正規職員だけが対象になるわけではない3 対象者リストは職名簿ではなく業務台帳として作る第4 事業者に求められる主な措置1 未然防止のための行動基準と研修を整える2 相談・報告と早期把握の経路を作る3 犯罪事実確認と防止措置を採用・配置に接続する4 疑いが生じたときは安全確保・調査・支援を分ける5 犯罪事実確認記録等を厳格に管理する第5 令和8年12月25日までの準備1 制度周知と責任者の指定2 不適切な行為と対象従事者の範囲を確定する3 就業規則・募集要項・契約書を見直す4 相談・報告・事案対応の規程と研修を整える5 情報管理規程と技術的措置を実装する第6 採用・労務管理で誤りやすい点1 一般的な犯罪歴調査の制度ではない2 情報の確認と人事上の判断を分ける3 「該当者はいない」という人数情報も外部へ自由に出せない第7 施行準備の最終確認表1 事業・従事者の範囲2 規程・人事・研修3 犯罪事実確認・情報管理第8 出典・確認範囲1 法令2 こども家庭庁の資料3 個別判断で追加確認が必要な事項
第1 こども性暴力防止法の結論と基準日
1 令和8年12月25日に施行される

こども家庭庁が「こども性暴力防止法」と呼んでいる制度は,「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(令和6年法律第69号)である。
同法は令和6年6月19日に成立し,同月26日に公布され,令和8年12月25日に施行される。
「日本版DBS」はこの制度の通称として用いられるが,犯罪事実確認だけでなく,日常の未然防止,早期把握,疑いが生じた場合の調査・保護・支援及び情報管理までを一体として整える法律である。

2 対象事業・対象従事者・措置の三つを分けて確認する

実務では,①どの事業が法律上の対象となるか,②その事業で誰が対象業務従事者となるか,③各事業者がどの措置をいつまでに行うかを分けて確認する必要がある。
法人全体が一括して対象になるとは限らず,同じ法人の中でも施設やサービスによって取扱いが異なり得る。
また,職名や雇用形態だけで対象者を決めるのではなく,実際の業務における児童等との接し方を確認しなければならない。

3 本記事の確認基準日は令和8年10月8日である

本記事は,令和8年10月8日現在の法令,令和8年9月改訂の施行ガイドライン及びQ&A,同年10月1日付けの監督等指針並びに義務事業者用準備ガイドVer.1.1に基づく。
制度の運用資料,申請画面及びひな型は施行までに更新される可能性があるので,実際に準備を行う時点でこども家庭庁「こども性暴力防止法」の最新資料を確認する必要がある。

第2 対象事業者は二つの仕組みに分かれる
1 学校設置者等は法律上の義務対象である

学校,認定こども園,児童福祉施設その他の法律が定める学校設置者等には,対象業務従事者に対する犯罪事実確認を含む各措置が法律上義務付けられる。
どの施設・事業が学校設置者等に該当するかは,名称や法人格だけでなく,根拠法令,認可・届出の種類及び実際に提供する役務により確認する。
地方公共団体や一つの法人が複数の施設を運営する場合には,事業所ごとの対象性と,誰が申請・情報管理を担当するかを対応表にしておく必要がある。

2 民間教育保育等事業者には認定制度がある

学習塾,スポーツクラブ,放課後活動,民間の学習支援等の事業については,法律が定める要件を満たす民間教育保育等事業者が認定を受け,学校設置者等と同等の措置を実施する仕組みが設けられている。
「こどもにサービスを提供している」というだけで直ちに同一の義務対象になるわけではないが,認定を受ける場合には,対象事業,対象従事者,規程,研修,相談体制及び情報管理を一体として整備することになる。
認定の要否を検討する事業者は,利用者への表示だけでなく,申請後に継続して実施できる人員・権限・予算があるかを先に確認すべきである。

3 業務委託先や施設利用者も契約関係だけで決めない

学校や保育所の事業として外部事業者へ水泳指導等を委託する場合には,外部の指導者であっても学校設置者等が犯罪事実確認を行う必要があると,令和8年9月29日改訂Q&Aは説明している。
これに対し,施設を貸しているにとどまり,別事業者が独立した英会話教室等を行う場合には,その事業の実施主体と認定の有無を確認することになる。
契約書上の「委託」「場所貸し」という名称だけに依存せず,誰の事業として,誰の指揮・管理の下で,児童等へ役務を提供しているかを整理する必要がある。

第3 誰が犯罪事実確認等の対象になるか
1 支配性・継続性・閉鎖性の三要件が中心になる

対象従事者の範囲は,法令上明記された職種に加え,実際の業務が支配性,継続性及び閉鎖性の三要件を満たすかによって判断される。
支配性とは,指導やコミュニケーション等を通じて児童等に対して優越的な立場に立つ機会があることをいう。

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YouTuber・配信者の著作権・広告収益に相続税はかかるか―財産評価基本通達148と営業権(AI作成)

目次

第1 結論―チャンネルを一つの財産として評価しない1 権利・収益・アカウントを分ける2 最初に作る五つの一覧第2 動画の著作権と著作者人格権1 アップロードした人が全権利者とは限らない2 著作権は承継できるが著作者人格権は承継しない3 共同相続後の管理を決める第3 Google・YouTube・AdSenseの手続1 法的な承継とログイン権限は同じではない2 ブランドアカウントとチャンネル権限を区別する3 未払AdSense収益の受領手続第4 未払収益と死亡後の収益を分ける1 死亡時までに発生した未払収益2 死亡後に生じる収益第5 著作権の相続税評価―財産評価基本通達1481 著作権は相続税の課税対象となり得る2 通達148の算式3 固定倍率を使い回さない第6 営業権の評価と個人の才能への依存1 個人事業の営業権2 死亡とともに消滅する営業権は評価しない第7 法人運営と非上場株式1 権利者と契約名義を確認する2 二重計上を防ぐ第8 弁護士・税理士が集める資料1 初動で保存する資料2 共同作業の分担第9 裁判例・資料の確認状況1 直接の公表裁判例を前提にしない第10 出典・参考資料1 法令・国税庁資料2 Google・YouTube公式資料3 二次資料
第1 結論―チャンネルを一つの財産として評価しない
1 権利・収益・アカウントを分ける

YouTuber,動画配信者又はインフルエンサーが死亡した場合,「YouTubeチャンネルを相続できるか」だけを検討しても,民事,税務及びプラットフォーム上の手続を整理できない。
少なくとも,①動画等の著作権,②死亡時までに発生した未払収益,③死亡後に著作権又は事業から生ずる収益,④Google・YouTube・ブランドアカウント及びAdSenseの管理権限,⑤法人が事業主体である場合の株式に分ける必要がある。

国税庁は,著作権を含む金銭に見積もることができる経済的価値のある財産が相続税の課税対象になると説明している。
しかし,アカウント名や登録者数そのものを直ちに一つの相続財産として評価するのではなく,死亡時に誰がどの権利を有し,どの将来収益がその権利に帰属するかを確定する必要がある。

2 最初に作る五つの一覧

実務では,次の五つを別々の一覧にすると整理しやすい。
①動画,台本,写真,楽曲,サムネイル,ロゴ等の権利一覧
②AdSense,メンバーシップ,Super Chat,スポンサー料,物販代金等の未払額一覧
③Googleアカウント,ブランドアカウント,YouTube Studio及びAdSenseの権限一覧
④制作費,外注費,出演料,音源利用料,返金その他の債務一覧
⑤個人事業か法人事業か,法人の場合は株主,役員,契約名義及び知的財産の帰属を示す一覧

第2 動画の著作権と著作者人格権
1 アップロードした人が全権利者とは限らない

動画には,映像,台本,写真,音楽,イラスト,ロゴ,出演者の実演その他の複数の素材が含まれ得る。
チャンネルの開設者又は動画の投稿者が,これらすべての著作権者であるとは限らない。

撮影・編集された動画は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,物に固定されていれば,映画の著作物に当たり得る(著作権法2条3項)。
映画の著作物の著作者は,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその全体的形成に創作的に寄与した者であり(同法16条),撮影や編集を外注した場合は,外注先の撮影者・編集者が著作者となることがある。
もっとも,著作者が映画製作者(映画の著作物の製作に発意と責任を有する者。同法2条1項10号)に対し製作への参加を約束しているときは,その映画の著作物の著作権は映画製作者に帰属する(同法29条1項)。
この場合も著作者人格権は著作者に残るので(同法59条),外注契約の内容から,著作権が投稿者側と外注先のどちらにあるかを確認する。
相続税の課税対象となる著作権の範囲は,この帰属によって決まる。

雇用又は法人名義の制作,外注,著作権譲渡,利用許諾,共同制作及び第三者素材の利用がある場合は,契約書,発注書,請求書,制作データ及び公開時の表示から権利の帰属と利用範囲を確認する。
相続の対象を決める前提として,被相続人が有していた権利だけを特定する必要がある。

2 著作権は承継できるが著作者人格権は承継しない

著作権法61条は著作権の譲渡を予定しており,民法896条による包括承継の対象にもなり得る。
これに対し,著作者人格権は著作者の一身に専属し,譲渡することができないため,相続されない(著作権法59条)。

もっとも,著作者の死後も,著作者が生存していれば著作者人格権の侵害となるべき行為を原則としてしてはならない(著作権法60条)。
相続人が著作権を取得したからといって,故人の氏名表示を変え,内容を自由に改変し,又は第三者の権利を無視して再公開できるわけではない。

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相続事件の弁護士費用と税務―遺産分割,相続登記,共同売却及び金銭回収の費用区分(AI作成)

目次

第1 弁護士費用は,何の税金で何のための費用かを分ける第2 相続税の債務控除―死亡時の債務と相続人の費用は異なる1 被相続人の債務が対象となる2 死亡前の依頼による未払報酬は事実を確認する第3 取得費―相続登記の費用と遺産分割の費用を分ける1 原則として被相続人の取得費を引き継ぐ2 非業務用不動産の相続登記費用3 遺産分割の訴訟費用等は土地の取得費にならない第4 共同売却と金銭回収―代金から支払うことだけでは決まらない1 売却のために直接要した費用を確認する2 売却代金の回収費用は譲渡費用と区別する第5 賃貸業務等の必要経費は別に検討する第6 委任契約と請求明細で残しておきたい事項1 報酬の合意と税務上の区分をつなぐ資料2 一括報酬を区分する場合第7 関連記事と出典
第1 弁護士費用は,何の税金で何のための費用かを分ける

相続事件の弁護士費用については,「相続で支払った費用だから遺産から差し引ける」「不動産を取得したから取得費になる」「売却代金から払ったから譲渡費用になる」とは一律にいえない。
相続税の債務控除,譲渡所得の取得費・譲渡費用,不動産所得等の必要経費は,それぞれ要件が異なる。

また,委任契約で成功報酬を計算するための「経済的利益」と,税務上の取得費や課税価格は別の概念である。
報酬が取得財産の総額又は回収額の一定割合で計算される場合でも,その計算式だけで税務上の費用区分は決まらない。

本記事は,個人の通常の相続と,相続した土地・建物の売却を中心に整理する。限定承認,法人,非居住者及び国外財産には,別の検討が必要である。
法令・国税庁資料の確認日は令和8年10月7日である。国税庁の説明に加え,契約書や請求明細を整える実務上の提案を示す。

費用の内容検討する税務区分最初に確認する点相続開始後に相続人が依頼した遺産分割の弁護士費用相続税の債務控除・将来の譲渡所得被相続人の死亡時の債務とは異なる。遺産分割の訴訟費用等は土地の取得費にならない。非業務用不動産の相続登記に要する費用譲渡所得の取得費当該不動産に対応する通常必要な費用か。概算取得費5%を用いる場合は別扱いとなる。相続不動産の売却のために直接必要な費用譲渡所得の譲渡費用売却のための業務と,遺産分割・維持管理・代金回収の業務を区別する。売却後の代金回収の弁護士費用譲渡費用との区別代金回収費用は,国税庁の質疑応答では譲渡費用に含まれない。賃貸業務に関する紛争の弁護士費用不動産所得等の必要経費業務との関係,資産取得・譲渡に関する費用との区別,私的な相続紛争との混在を確認する。

各行の根拠と例外は以下のとおりである。表だけで費用の全額を申告書へ転記しないことが重要である。

第2 相続税の債務控除―死亡時の債務と相続人の費用は異なる
1 被相続人の債務が対象となる

相続税法13条1項1号は,控除対象を「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)」と定め,同法14条1項は,控除する債務を確実と認められるものに限る。
国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」も,死亡時に現に存在する被相続人の借入金・未払金等を説明している。

相続開始後に相続人が遺産分割のため弁護士へ依頼して負担した報酬は,そのことだけで被相続人の死亡時の債務にはならない。
相続人全員で費用を負担したこと,遺産口座から支払ったこと又は協議書で「遺産から控除する」と合意したことだけでも,税法上の債務控除の要件を満たすわけではない。

2 死亡前の依頼による未払報酬は事実を確認する

被相続人自身が死亡前に弁護士へ依頼し,死亡時に未払報酬がある場合は,死亡後の相続人による依頼と区別する。
契約,業務の履行,報酬の発生条件,死亡時の債務の存在・確実性及び誰が負担する部分かを確認する必要がある。
「請求書の発行が死亡後である」という一事だけで結論を決めず,死亡時点の法律関係を調べる。

葬式費用には別の控除の制度があるが,遺産分割の弁護士費用が葬式費用に変わるものではない。

第3 取得費―相続登記の費用と遺産分割の費用を分ける
1 原則として被相続人の取得費を引き継ぐ

所得税法60条1項は,通常の相続等で取得した資産について,譲渡所得の計算上,前所有者から引き続き所有していたものとみなす。
相続した土地・建物を売却するときの取得費は,原則として被相続人の取得費を引き継ぐのであり,相続税評価額をそのまま購入代金のように扱うものではない。
建物では減価償却相当額の調整も必要となる(国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)。

売買契約書,建築請負契約書,領収書,改良費の資料及び過去の申告資料は,遺産分割の価格交渉とは別の目的でも保存しておく必要がある。

2 非業務用不動産の相続登記費用

国税庁No.3270は,相続等で取得した土地・建物について,相続人が支払った登記費用等を取得費へ算入できることを説明している。ただし,業務用資産について必要経費に算入される費用との区別がある。
所得税基本通達60-2は,相続等による取得のため通常必要と認められる費用のうち,当該資産に対応する金額について定める。

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相続人がいない共有持分は誰に帰属するか―特別縁故者,民法255条,登記手続及び相続税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 共有持分が他の共有者に帰属するまで1 相続人不存在だけでは直ちに帰属しない2 特別縁故者への分与が先行する3 区分所有建物の敷地利用権第3 民法255条による登記1 相続財産名義への表示変更2 持分全部移転と登記原因3 登記原因日と旧法の13か月注記4 共同申請と添付情報第4 特別縁故者分与との使い分け第5 相続税第6 実務上の煩雑さと準備第7 出典1 法令2 裁判例3 通達・公的資料4 参考文献
第1 この記事の対象と結論

本記事は,共有者の一人が相続人なく死亡した場合に,その共有持分が誰に帰属し,どのような登記と相続税の問題が生じるかを整理するものである。令和8年10月6日時点の法令,最高裁判例,法務省の不動産登記記録例及び国税庁資料を確認して作成した。

共有持分は,相続人の不存在が明らかになっただけで直ちに他の共有者へ移るわけではない。相続債権者・受遺者への清算を経た後,まず特別縁故者への相続財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者へ帰属する。

登記実務では,相続財産名義への登記名義人表示変更を前提に,「亡○○相続財産持分全部移転」,登記原因「特別縁故者不存在確定」とする記録例が示されている。手続は段階的であるが,必要な期間経過・審判の確定と登記資料を整理すれば,制度上予定された処理である。

第2 共有持分が他の共有者に帰属するまで
1 相続人不存在だけでは直ちに帰属しない

民法255条は,共有者の一人がその持分を放棄したとき,又は死亡して相続人がないときは,その持分は他の共有者に帰属すると定める。しかし,相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は法人となり,相続財産清算人が相続人の捜索,債権者・受遺者への弁済その他の清算を行う(民法951条以下)。

したがって,死亡と同時に共有名義を書き換えることはできず,相続人不存在の確定と清算手続を待つ必要がある。

2 特別縁故者への分与が先行する

最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決は,共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者への清算が終了したときは,その持分が特別縁故者への財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者へ帰属するとした。

最高裁判決は,民法255条を,残余財産が国庫に帰属する原則に対する例外と位置付けた。特別縁故者分与の手続を経ないまま,共有持分が当然に他の共有者へ帰属したとして登記を求めることはできない。

3 区分所有建物の敷地利用権

専有部分と分離して処分できない敷地利用権については,民法255条は適用されない(建物の区分所有等に関する法律24条)。戸建ての共有持分と,区分所有建物の敷地利用権とを区別する必要がある。

第3 民法255条による登記
1 相続財産名義への表示変更

法務省民事局長平成28年6月8日付け法務省民二第386号「不動産登記記録例の改正について(通達)」別添85~86頁の記録例222は,まず死亡した共有者の登記名義を「亡乙某相続財産」に変更する例を掲げる。登記原因は「相続人不存在」である。

同記録例の注1は,民法255条による持分移転登記をする前提として,相続財産名義への氏名又は名称・住所の変更登記がされていなければならないとしている。

2 持分全部移転と登記原因

次の段階では,登記の目的を「亡乙某相続財産持分全部移転」,登記原因を「特別縁故者不存在確定」とし,権利者として他の共有者を記録する例が示されている。

複数の共有者がいる場合の帰属割合は,民法255条により他の共有者の持分割合に従うと解される。個別の申請では,現在の登記記録,持分割合及び当事者表示を確認する必要がある。

3 登記原因日と旧法の13か月注記

記録例222の注2は,特別縁故者への分与申立期間が満了した日の翌日,又は分与申立てを却下する審判が確定した日の翌日を登記原因日とする旨を示す。また,平成3年の先例を引用し,「原因日付は,死亡の日から13か月を経過していることを要する」と記載する。

ただし,この13か月という記載は,当時の民法958条及び958条の3による公告・申立期間を前提とした旧法の説明である。令和5年4月1日に施行された現行制度では,民法952条2項の相続人捜索公告の期間満了,民法958条の2第2項の3か月の申立期間及び,申立てがあった場合の審判確定を基準に判断すべきであり,死亡から13か月という数字を機械的に用いることはできない。

4 共同申請と添付情報

実務書では,民法255条による持分移転登記は,相続財産法人を義務者,他の共有者を権利者とする共同申請として整理されている。相続財産清算人は相続財産法人を代表する。

登記原因を証する情報として,特別縁故者分与の申立期間の経過又は申立却下審判の確定を示す家庭裁判所の証明書等を準備する。相続財産名義への表示変更,清算人の権限を示す情報,固定資産評価その他の申請資料も必要になり得るため,具体的事件では管轄法務局に確認するのが安全である。この段落は通達の記録例そのものではなく,実務書による補充説明である。

第4 特別縁故者分与との使い分け

他の共有者自身が特別縁故者分与を申し立てることはあり得るが,分与の相当性は,被相続人との生活関係,療養看護,費用負担,生前の財産管理その他の事情から判断される。民法255条の登記手続を省略できることは,民法958条の2の要件ではない。

したがって,清算人は,登記の便宜を理由として事実評価を曲げるのではなく,分与の相当性について証拠に基づく意見を述べるべきである。分与しないとの結論になった場合は,それとは別に民法255条の登記を進める。

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特別縁故者に対する相続財産分与と清算人の意見書―介護,費用負担及び生前の預金払戻し(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 特別縁故者への分与の法的枠組み1 特別縁故者に当たるか2 分与することが相当か3 分与する財産と額第3 清算人の意見書で分けて検討する事項第4 介護・費用負担と預金払戻しの証拠評価1 介護と費用負担2 判断能力低下後の預金払戻し3 時系列表と収支表第5 裁判例から分かること第6 共有持分と民法255条との関係第7 清算人の実務チェックリスト第8 出典1 法令及び裁判所資料2 裁判例3 参考文献
第1 この記事の対象と結論

本記事は,特別縁故者に対する相続財産分与の申立てがされた場合に,相続財産清算人がどのような資料を集め,どのように意見を組み立てるかを整理するものである。令和8年10月6日時点の法令,裁判所資料及び裁判例を確認して作成した。

清算人は,申立人が特別縁故者に当たるか,分与が相当か,分与するとして対象財産と額をどう定めるかを分けて検討する必要がある。介護や費用負担の主張だけで結論を出すのではなく,被相続人自身の収入・資産,施設や第三者が提供した介護,申立人による預金払戻しの金額・時期・使途及び返還状況を客観資料で突き合わせるべきである。

対象財産が共有持分であり,分与がなければ民法255条により他の共有者へ帰属する見込みであっても,登記手続の便宜だけを理由に分与相当とするのは妥当でない。民法958条の2の判断と,分与がされない場合の民法255条による帰属処理は別の問題である。

第2 特別縁故者への分与の法的枠組み
1 特別縁故者に当たるか

家庭裁判所は,相続人として権利を主張する者がないとき,相当と認める場合に,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求により,清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる(民法958条の2第1項)。

同居や親族関係があるだけで当然に特別縁故者となるわけではない。生活関係,療養看護の期間・頻度・内容,被相続人との精神的・経済的結び付き及び死後の対応等を具体的に確認する必要がある。

2 分与することが相当か

特別縁故者に当たることと,残余財産を分与することが相当であることは同じではない。縁故の内容,被相続人の意思,申立人が受けた生前贈与その他の利益,被相続人に対する債務又は清算すべき金銭関係,残余財産の内容等を総合して判断される。

清算人は,申立人に有利な事情と不利な事情を同じ基準で調査し,家庭裁判所が裁量判断をするための材料を過不足なく示す立場にある。

3 分与する財産と額

分与が相当であっても,残余財産の全部を分与するとは限らない。寄与の期間・程度,負担した実費,被相続人から既に受けた利益,申立人の不適切な財産管理によって生じた損害その他の事情を踏まえ,対象財産と額を検討する。

相続財産に申立人に対する返還請求権又は損害賠償請求権がある場合には,その回収可能性と評価も残余財産の範囲に関係する。

第3 清算人の意見書で分けて検討する事項

家庭裁判所は,特別縁故者に対する相続財産分与の審判をする場合,清算人の意見を聴かなければならない(家事事件手続法205条)。実務上は,少なくとも次の事項を分けて記載すると判断過程が明確になる。

① 申立人と被相続人の関係及び特別縁故者該当性
② 申立てで主張された療養看護,生活費・医療費等の負担その他の縁故の具体的内容
③ 各主張を裏付ける資料と,資料がない又は反対資料がある事項
④ 被相続人の収入,資産,生活費及び介護費の実際の負担者
⑤ 申立人が管理又は払い戻した預貯金の全取引と使途
⑥ 相続財産の現況,債務及び未回収の請求権
⑦ 分与の相当性並びに相当とする場合の対象財産・額
⑧ 不利な事情を含む結論の理由

意見書は,当事者の主張を要約するだけでは足りない。主張,客観資料,資料から認定できる事実,評価及び結論を区別して記載することが重要である。

第4 介護・費用負担と預金払戻しの証拠評価
1 介護と費用負担

大阪家庭裁判所の手引きは,特別な縁故を示す資料として,手紙,日記,写真,陳述書及び各種費用の領収書等を挙げ,申立書のどの回答をどの資料が裏付けるかを明らかにするよう求めている。

清算人は,これらに加え,介護認定資料,介護施設の記録,病院の診療録,入退院記録,請求書・領収書,金融機関の取引履歴,年金・給与その他の収入記録,公共料金の支払記録等を照合する。申立人が費用を立て替えたのか,被相続人の口座から支払われたのか,被相続人に十分な収入・資産があったのかを区別する必要がある。

2 判断能力低下後の預金払戻し

認知症,入院又は施設入所後に申立人が預金を払い戻している場合,払戻しが直ちに不正となるわけではない。しかし,申立人が介護等を理由に分与を求める以上,清算人は,払戻日,金額,受領者,具体的使途,領収書等の裏付け,残金の保管状況及び相続財産への返還状況を確認すべきである。

説明のない払戻しがある場合は,申立人に書面照会をし,回答と資料を得た上で,被相続人のための支出,申立人への正当な弁済又は贈与,保管金,不当利得又は不法行為に基づく返還対象等に分類する。刑事上の評価を先取りせず,民事上の返還請求権の有無と分与相当性への影響を分けて検討することが望ましい。

3 時系列表と収支表

実務上は,①被相続人の健康状態・判断能力,②同居・入院・施設入所,③収入と定期支出,④申立人の介護行為,⑤申立人が主張する立替払い,⑥預金払戻しを同じ時系列に並べると矛盾が見えやすい。

預金については,対象期間の入出金を一覧化し,被相続人のための支出として裏付けがある額,説明はあるが裏付けが不十分な額,使途不明額及び返還済額を区分する。現金で保管したとの説明があるときは,保管場所,残高,入出金及び返還時期も確認する。

第5 裁判例から分かること

(続きを読む...)特別縁故者に対する相続財産分与と清算人の意見書―介護,費用負担及び生前の預金払戻し(AI作成)

オーバーローンの自宅と財産分与―他の財産との通算,衡平調整と離婚後の返済(AI作成)

目次第1 自宅だけを見て財産分与なしと決めない1 オーバーローンと分与対象全体の評価2 すべての借金を差し引くわけではない第2 東京高裁令和6年8月21日判決1 通算と衡平調整の考え方2 この事件では財産分与を認めなかった第3 計算と生活への影響を分けて示す1 通算の計算例2 衡平調整を求めるなら事情を具体化する第4 金融機関への責任と夫婦間の清算1 家を渡す合意だけでローンから抜けられない2 別居後・離婚後の返済を記録する第5 期限と合意前の確認事項1 離婚日によって家裁への請求期間が違う2 資料と合意条項をそろえる第6 出典・確認範囲
第1 自宅だけを見て財産分与なしと決めない
1 オーバーローンと分与対象全体の評価

住宅ローンの残高が自宅の価額を上回る状態を,オーバーローンという。自宅だけなら差引きの価値はマイナスになるが,預貯金など他の分与対象財産があれば,それを含めた評価が必要となる。「住宅がオーバーローンなら,住宅とローンを計算から外して預金だけを半分にする」「住宅がオーバーローンなら,一切の財産分与ができない」と一律に扱うべきではない。
東京高等裁判所令和6年8月21日判決は,他の対象財産と住宅ローンを通算する考え方と,通算が当事者間の衡平を害する場合の調整を述べた。本記事は,この判決の掲載全文と,令和8年10月5日現在の民法を基に説明する。

2 すべての借金を差し引くわけではない

まず,住宅及びローンが財産分与の対象となるかを確認する。婚前取得,相続・贈与を原資とする部分,借入れの使途,婚姻中の取得・維持への協力等を整理する必要がある。配偶者の個人的な浪費や婚姻共同生活と無関係の借金まで,自動的に他方へ負担させる趣旨ではない。
登記持分,ローンの契約名義及び現実の返済割合も記録する。所有名義だけで財産分与の額が決まるわけではなく,現行民法768条3項は,取得・維持への寄与が異なることが明らかでないときは,寄与の程度を等しいものとする。

第2 東京高裁令和6年8月21日判決
1 通算と衡平調整の考え方

東京高等裁判所令和6年8月21日判決(令和6年(ネ)第710号,判例タイムズ1539号60頁)は,財産分与の対象不動産の評価額を住宅ローンが上回る場合,他の対象積極財産と評価額を通算し,分与額・方法を定める考え方を示した。
一方で,機械的な通算が当事者間の衡平を害する事情がある場合には,異なる額・方法を定めることにも合理性があるとした。自宅を取得して返済を続ける側は,完済後に負債のない不動産を保有し得るのに対し,他方は住居も積極財産も得られない場合があること等を踏まえた説明である。
これは一つの高裁判決の判断であり,全国のすべての事件で同じ計算方法が適用されると保証するものではない。通算の計算だけでなく,誰がどの資産と負担を引き受け,離婚後の生活がどうなるかを具体的に示す必要がある。

2 この事件では財産分与を認めなかった

本件では,自宅のローンが評価額の3倍を超え,対象財産全体の総評価額は約193万円の債務超過であった。裁判所は,退職金支給の不確実性等も検討し,財産分与申立ての却下を維持した。
判決は,婚姻破綻についての責任や住居を離れた経緯等も,本件の衡平調整の要否を判断する事情として検討している。しかし,これを「不貞をした配偶者には財産分与がない」「家を出た配偶者は分与を受けられない」という一般的な制裁の規則にすることはできない。
また,本判決自体は,ペアローン商品の契約構造を正面から判断した判決ではない。ペアローンの事件で参考にするときも,通算・衡平に関する考え方と,各ローン契約・保証契約の処理を分ける必要がある。

第3 計算と生活への影響を分けて示す
1 通算の計算例

以下は計算の仕組みを示す仮定例であり,裁判例の金額又は確定的な分与額ではない。自宅とローン及び預金の全額が分与対象となり,価額に争いがないと仮定する。

項目評価額自宅2000万円住宅ローンマイナス2500万円対象預金800万円通算後の純額300万円

この例では,住宅とローンだけの差額はマイナス500万円であるが,他の対象預金と通算すると純額は300万円となる。寄与を2分の1とする単純計算では,各人の純取得額の目安は150万円となる。ただし,現物を誰が取得するか,その人が既に保有している対象財産と負担は何かを踏まえて,清算金を計算する必要がある。各人に150万円を追加で払えばよいという意味ではない。

2 衡平調整を求めるなら事情を具体化する

通算結果と異なる分与を求める場合は,自宅の取得・居住継続,完済後の利益,離婚後の返済能力,双方の転居費用,収入,健康及び他の財産の状況を示す。負担だけでなく,保有資産や将来の利益を含む説明が必要である。
現行民法768条3項は,離婚後の財産上の衡平を図るため,対象財産と寄与,婚姻期間,生活水準,協力・扶助,年齢,心身の状況,職業,収入等を考慮すると定めている。「公平にしてほしい」という抽象的な希望にとどめず,通算結果のどの点がどの事情によって不均衡になるのかを明示する。

第4 金融機関への責任と夫婦間の清算
1 家を渡す合意だけでローンから抜けられない

夫婦間で,自宅を一方が取得し,その一方が残りのローンを払うと合意しても,金融機関に対する債務者や連帯保証人の地位が当然に変わるわけではない。民法472条の免責的債務引受には,債権者との契約又は債権者の承諾など,金融機関の関与が必要となる。
住宅金融支援機構も,離婚による債務者・持分の変更について審査が必要であり,希望どおり認められないことや,一部繰上返済等が必要となることがあると案内している。夫婦間の分与内容を決める前に,借換え,債務者変更,保証の解除及び売却の可否を,契約先へ確認する。
ペアローンの仕組みと金融機関との調整は,ペアローンを組んだ夫婦の離婚と財産分与で詳しく扱っている。

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別居3年で離婚できるか―婚姻破綻の判断事情,修復行動と第一審・控訴審の比較(AI作成)

目次第1 別居3年という法律上の基準はない1 生死不明の3年と別居期間は別である2 裁量棄却と有責配偶者の問題を分ける第2 同じ事件で第一審と控訴審の結論が分かれた例1 別居3年5か月で請求を棄却した第一審2 別居4年10か月で離婚を認めた控訴審第3 別居期間と一緒に確認する事情1 住所の違いと共同生活の実態2 修復希望と具体的な行動3 子との関係と離婚後の生活第4 相談・訴訟で準備する資料1 出来事と裏付けを時系列にする2 訴えを起こした時の資料を更新する第5 判決の集計を個別事件の勝訴率にしない第6 令和8年改正と古い判決の読み方第7 出典・関連記事
第1 別居3年という法律上の基準はない
1 生死不明の3年と別居期間は別である

相手方が離婚に応じない場合,「別居を3年続ければ裁判で離婚できる」と考えることがある。しかし,令和8年10月5日現在の民法770条に,別居3年を独立の離婚原因とする規定はない。同条1項3号の3年以上という期間は,配偶者の生死が明らかでない場合の要件である。所在や生存が分かっている配偶者との別居とは異なる。
別居を通じた婚姻破綻は,通常,同項4号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」の問題として検討する。期間だけでなく,同居していた期間,別居に至る経緯,別居後の生活・交流,修復の可能性などを具体的に見る必要がある。

2 裁量棄却と有責配偶者の問題を分ける

現行770条2項の裁量棄却は,同条1項1号から3号までの事由がある場合の規定である。4号の婚姻破綻については,重大な事由が認められるかという判断と,破綻について専ら又は主として責任を負う配偶者からの請求を信義則上認められるかという問題を区別する。
有責配偶者からの請求では,最高裁大法廷昭和62年9月2日判決の枠組みに従い,別居期間を双方の年齢・同居期間との対比で評価し,未成熟子の有無や,相手方を極めて苛酷な状態に置く等の特段の事情も検討する。同判決の結論は破棄差戻しである。有責性を争われている事件に,一般の別居事例の年数をそのまま当てはめることはできない。
詳しくは,有責配偶者からの離婚請求を参照されたい。

第2 同じ事件で第一審と控訴審の結論が分かれた例
1 別居3年5か月で請求を棄却した第一審

東京家庭裁判所立川支部平成27年1月20日判決(平成25年(家ホ)第235号)は,妻からの離婚請求を棄却した。判決が認定した別居期間は約3年5か月であり,それまでの同居期間は約10年であった。
第一審は,夫の修復希望,子と夫との良好な関係等を踏まえ,婚姻関係に回復可能性がないとまでは認めなかった。妻が主張した暴力等についても,その主張どおりの事実が認められた事案ではない。この判断を,「暴力があっても3年では離婚できない」という一般論へ広げることはできない。

2 別居4年10か月で離婚を認めた控訴審

同事件の控訴審である東京高等裁判所平成28年5月25日判決(平成27年(ネ)第1064号,判例タイムズ1432号97頁)は,離婚請求を棄却した部分を取り消し,離婚を認めた。
控訴審は,別居が約4年10か月に及んだこと,妻の強い離婚意思,夫に具体的な修復行動がないこと等を検討した。夫が婚姻継続を希望しながら,命じられた婚姻費用を十分に支払っていなかった点も,その希望を評価する事情となっている。
この比較からは,年月の経過に加えて,修復の言葉と実際の行動,生活費の負担等を証拠で示すことが重要といえる。「第一審で棄却されたから控訴しても同じ」「4年10か月に達すれば必ず認められる」という理解は,どちらも判決の検討内容に合わない。

第3 別居期間と一緒に確認する事情
1 住所の違いと共同生活の実態

別居の開始日は,住民票の異動日だけでなく,実際に共同生活を終えた経緯と資料で確認する。単身赴任,入院,介護等による一時的な住居の分離と,夫婦関係を解消するための別居は,住所が違うというだけでは同じ評価にならない。
家庭内別居を主張する場合も,寝室,食事,家事,家計,連絡及び子の世話の実態を説明する必要がある。途中で再同居した,旅行へ行った,家計を一部共同にしていた等の事情があれば,その目的と経過を併せて整理する。

2 修復希望と具体的な行動

婚姻の継続を希望する側は,いつ,どのような方法で話合いを提案し,関係悪化の原因を改善したのかを具体化する。離婚を求める側は,修復の提案があったか,応じなかった理由,話合いや調停を経ても関係が回復しなかった経過を説明する。
生活費については,合意・審判等で定められた額と,現実の支払日・支払額を区別する。支払が足りない場合には,収入減等の理由や,変更を求めた経過も確認する。婚姻費用の不足だけで直ちに婚姻破綻又は悪意の遺棄が成立するという一律の基準ではない。
DV,虐待,威圧又は保護命令等が関係する事件では,直接連絡や同居再開を安易に勧めるべきではない。連絡を避ける理由と安全確保の必要性を踏まえ,代理人や裁判所を通じて事実と意向を整理する。

3 子との関係と離婚後の生活

子の監護,親子交流,通学,健康及び生活費を確認する。子と片方の親が良好な関係を持つことと,夫婦関係が回復できることは,当然に同じ問題ではない。夫婦関係の評価と,子の生活をどう守るかをそれぞれ説明する。
別居後の住居,収入,療養,家計及び扶養の状況も整理する。有責配偶者からの請求では,離婚後の苛酷な状態を判断するため,経済的給付の内容と履行可能性が特に重要となる。

第4 相談・訴訟で準備する資料
1 出来事と裏付けを時系列にする

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財産分与の錯誤取消しと不動産の転売―課税の誤解,民法95条4項の第三者と登記,取消し後の買主(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 財産分与の課税と錯誤1 財産分与をした側に課税される2 課税の誤解は基礎事情の錯誤3 「表示されていた」といえるか4 重要性と重大な過失5 取消しの方法と効果第3 取消し前に買った第三者1 民法95条4項による保護2 登記まで要るか3 実務上の意味第4 取消し後に利害関係を持った者第5 保護された第三者と,取消し後に分与者から買った者1 問題の形2 二つの説明3 民法94条2項との関係4 実務上の帰結第6 財産分与をするときの確認事項第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 公式資料4 確認状態
第1 この記事の結論

本記事は,離婚に伴う財産分与で不動産を相手方に譲渡した者が,自分に課税されないと誤解していたことを理由に財産分与を取り消した場合に,その不動産を買った第三者や,取消し後に元の所有者から買った者との関係がどうなるかを,民法の条文と判例に沿って整理するものである。
結論は次のとおりである。
①財産分与として不動産を譲渡した分与者には,譲渡所得課税がされる(最高裁昭和50年5月27日判決)。
②分与者が自分に課税されないことを契約の前提とし,相手方もそれを了解していた場合は,民法95条1項2号・2項の錯誤として取り消せることがある(最高裁平成元年9月14日判決は,改正前の民法の下で,黙示の表示を認めた)。
③取消し前にその不動産を買った善意無過失の第三者には,取消しを対抗できない(民法95条4項)。登記まで要するかは見解が分かれ,詐欺取消しについての判例は対抗要件を要しないとしている。
④取消し後に利害関係を持った者との関係は,登記の先後によることになる(詐欺取消しについての大審院昭和17年9月30日判決の判決要旨)。
⑤取消し前の第三者が保護された後に,分与者がさらに別の者へ売った場合の優劣は,第三者保護の仕組みをどう理解するかで結論が分かれる。

本記事は,令和6年司法試験論文式試験民事系科目第1問の設問2がこの事例を素材としたことを機に,同試験の出題の趣旨・採点実感と判決本文を照合して作成した。

第2 財産分与の課税と錯誤
1 財産分与をした側に課税される

最高裁昭和50年5月27日判決は,財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合,分与者は分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきであるとし,財産分与としてされた不動産の譲渡は譲渡所得課税の対象となるとした。
課税されるのは分与を受けた側ではなく,分与をした側である。
分与を受けた側の贈与税の扱いなどは,離婚時の財産分与と税金で詳しく扱っている。

2 課税の誤解は基礎事情の錯誤

分与者は,相手方に不動産を譲渡するという意思で財産分与をしており,意思と表示は一致しているから,民法95条1項1号の錯誤ではない。
自分に課税されないという認識が真実に反していた点は,同項2号の「法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」に当たり得る。
財産分与を内容とする契約の意思表示も,売買の意思表示と同様に同条1項の適用を受ける。
採点実感は,この点を明示的に論じた答案が極めて少数であったとしている。

3 「表示されていた」といえるか

基礎事情の錯誤による取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限りすることができる(民法95条2項)。
「表示」の意味には見解があり,令和6年司法試験の出題の趣旨は,例えば,表意者が一方的に表示しただけでは足りず,その事情がなければ意思表示の効力が否定されることについて相手方の了解が必要とする見解を挙げ,どの考え方を採ってもよいとしている。
最高裁平成元年9月14日判決は,改正前の民法の下で,財産分与の際に夫が妻に課税されることを心配して気遣う発言をし,妻も自己に課税されるものと理解していたなどの事情の下では,他に特段の事情がない限り,夫は自己に課税されないことを当然の前提とし,かつ,その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえないとして,原判決を破棄し差し戻した。
同判決は,錯誤の成立を最終的に認めたものではなく,要素の錯誤の成否や重大な過失の有無をさらに審理させたものである。

4 重要性と重大な過失

錯誤は,法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものでなければならない(民法95条1項柱書)。
分与者の資産や収入の状況と課税額の大きさは,重要性を判断する事情になる。
錯誤が表意者の重大な過失によるときは原則として取り消せないが,相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは,重大な過失があっても取り消せる(民法95条3項2号)。
相手方も,分与者には課税されないという点を同じように誤解していた場合は,この例外に当たり得る。ただし,同一の錯誤は重大な過失による取消制限の例外であり,重要性や基礎事情の表示まで不要にするものではない。

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他人の土地を無断で貸した者を所有者が相続したとき―賃借人は明渡しを拒めるか,損害賠償及び留置権(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 他人の物の賃貸借はどこまで有効か1 貸主と借主の間では有効2 所有者には賃借権を主張できない3 無権代理との違い第3 所有者が貸主を相続した場合1 地位は併存し,所有者は履行を拒める2 信義則に反する特別の事情3 無権代理と相続の判例との関係4 所有者が追認した場合第4 借主の救済―損害賠償1 履行不能と損害賠償2 履行を拒めることと責任を負うことは矛盾しない第5 留置権で明渡しを拒めるか1 物と債権の牽連関係2 他人物売買の判例3 相続で債務者と所有者が同じ人になっても変わらない4 同時履行の抗弁も使えない第6 実務上の確認事項1 借りる側2 所有者側第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 公式資料4 確認状態
第1 この記事の結論

本記事は,所有者に無断で他人の土地や建物を自分の名で貸した者(例えば親の土地を子が勝手に貸した場合)が死亡し,所有者がその者を相続したときに,賃借人が所有者からの明渡請求を拒めるかを,最高裁判例と民法の条文に沿って整理するものである。
結論は次のとおりである。
①他人の物を自分の名で貸す契約(他人物賃貸借)も,貸主と借主の間では有効であるが,所有者に対しては,借主は賃借権を主張できない。
②所有者が貸主を相続しても,所有者としての地位と相続した貸主としての地位は併存し,所有者は,信義則に反すると認められるような特別の事情がない限り,貸主としての債務の履行を拒むことができると考えられる(最高裁大法廷昭和49年9月4日判決の考え方による)。
③所有者が履行を拒むと,相続した貸主の債務は履行不能となり,所有者は相続人として借主に損害賠償責任を負う。
④借主は,その損害賠償請求権を理由に,土地を留置して明渡しを拒むことはできない(最高裁昭和51年6月17日判決の考え方による)。
⑤所有者が貸したことを追認すれば,賃貸借は所有者との関係でも効力を持つ。

本記事は,令和6年司法試験論文式試験民事系科目第1問がこの事例を素材としたことを機に,同試験の出題の趣旨・採点実感と判決本文を照合して作成した。
実際の事件では,契約書,登記,相続関係及び当事者の言動を確認した上で個別に判断する必要がある。

第2 他人の物の賃貸借はどこまで有効か
1 貸主と借主の間では有効

民法561条は,他人の権利を売買の目的としたときは,売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負うと定め,同法559条により,この規定は売買以外の有償契約にも準用される。
賃貸借(民法601条)も有償契約であるから,他人の物を自分の名で貸した貸主は,所有者から貸す権限を取得し,その権限に基づいて借主に使用収益させる義務を負う。
令和6年司法試験の出題の趣旨も,このような他人物賃貸借について,民法601条,559条による561条の準用を挙げている。

2 所有者には賃借権を主張できない

所有者は,他人物賃貸借の当事者ではない。
そのため,借主は,貸主に対して賃借権を主張できても,所有者に対しては,その賃借権を占有の権原として主張することができない。
借主が土地上に登記された建物を所有していても,借地借家法10条1項は,有効に成立した借地権を第三者に対抗するための規定であるから,賃貸する権限のない者から借りた場合の問題を解決しない。
採点実感も,同項を理由に所有者へ借地権を主張できるとする答案について,そもそも有効な占有権原が成立していないから第三者への対抗も問題にならないと指摘している。

3 無権代理との違い

貸主が所有者の代理人として契約したのであれば,無権代理(民法113条)の問題になり,所有者が追認しなければ所有者に効力を生じず,代理人は無権代理人の責任(民法117条)を負う。
これに対し,貸主が自分の名で契約したときは,貸主自身が賃貸人であり,無権代理ではない。
採点実感は,自分の名で貸した事例を無権代理の事案と捉える答案を,不良の例として挙げている。
契約書の賃貸人欄に誰の名前があるか,代理人として署名したのかを最初に確認する。

第3 所有者が貸主を相続した場合
1 地位は併存し,所有者は履行を拒める

最高裁大法廷昭和49年9月4日判決は,他人の権利の売主が死亡し,その権利者が売主を相続した場合について,権利者は相続により売主の義務ないし地位を承継するが,そのために権利者自身が売買契約を締結したことになるものではなく,権利が当然に買主に移転するものでもないとした。
その上で,権利者は,相続前と同様にその権利の移転について諾否の自由を保有し,信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り,売主としての履行義務を拒否することができると判断した。

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損害賠償・養育費で使う賃金統計の選び方―民間給与実態統計と賃金センサス,平均・中央値の違い(AI作成)

目次第1 統計を選ぶ前に,何を確かめるか1 実収入と統計による推計を分ける2 本記事の対象と基準日第2 民間給与実態統計と賃金センサスの違い1 民間給与実態統計の「平均給与」2 賃金センサスの月額と賞与3 正社員と一般労働者は同じ区分ではない第3 平均・中央値と将来収入の読み方1 平均額は「多くの人の年収」とは限らない2 年齢別平均は同じ人を追跡した結果ではない第4 事件の種類に応じた使い方1 養育費・婚姻費用の収入推計2 交通事故の逸失利益3 財産分与・相続と世帯の貯蓄統計第5 主張・説明に使う前の確認事項第6 出典
第1 統計を選ぶ前に,何を確かめるか
1 実収入と統計による推計を分ける

交通事故の逸失利益,養育費又は婚姻費用の検討で「平均給与」を参照するときは,まず,何を確かめようとしているかを明らかにする必要がある。
現在の実収入,事故がなければ得られた将来収入,就労によって得ることのできる収入,世帯の家計状況は,それぞれ異なる問題である。
統計は比較や推計の補助資料であり,平均額を示しただけで当事者の年収又は将来収入が確定するものではない。

給与所得者の実収入については,源泉徴収票,給与・賞与明細,課税資料及び勤務先の資料を確認する。
裁判所の養育費・婚姻費用算定表の説明も,給与収入について源泉徴収票の「支払金額」等を確認する方法を説明している。
資料がない場合,資料の対象年が古い場合,転職・休職・副業等がある場合は,不足する情報を特定した上で統計との比較を行うことになる。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,令和8年10月4日に確認した国税庁,厚生労働省,総務省及び裁判所の公表資料を基に,統計を取り違えないための確認手順を説明するものである。
個別事件でどの統計・区分を採用すべきかという判断は,事件の争点と証拠関係によって異なる。
統計の公表年だけで選択せず,対象年,観察期間,集計の単位及び金額の定義まで確認する必要がある。

第2 民間給与実態統計と賃金センサスの違い
1 民間給与実態統計の「平均給与」

国税庁の令和7年分民間給与実態統計調査によると,1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は487万円である。
これは,民間の事業所に勤務する給与所得者についての集計であり,全日本人の所得,公務員を含む全就業者の収入,個人事業主の事業所得又は世帯年収の平均ではない。

調査上の用語の説明では,給与は給料・手当と賞与から構成され,給与所得控除前の収入金額である。
非課税の通勤手当等は含まれないため,手取り額とも,支給項目を区別しない給与明細の総支給額とも,無条件に一致するとは限らない。
複数の勤務先がある人の実年収を確認するときは,各勤務先の資料を集め,重複計上や集計漏れを防ぐことが必要である。

民間給与実態統計調査は,事業所を抽出し,その事業所に属する給与所得者を調べる二段抽出である。
同一人が年中に複数の事業所に勤務してそれぞれから給与を得た場合,公表統計上も各事業所の給与所得者として複数人に数えられ得る。
この母集団,集計単位及び抽出率の読み方は,国税庁の税務統計の読み方―民間給与・会社・申告所得税の標本調査と税務調査事績(AI作成)で整理している。

2 賃金センサスの月額と賞与

賃金センサスは,厚生労働省の賃金構造基本統計調査を指す。
令和7年調査の概要によると,令和7年6月分の賃金等を調査し,賞与・期末手当等は原則として令和6年1月から12月までの1年間を対象としている。
同じ調査の中でも,月額と賞与の観察期間は一致していない。

概況の用語の定義にいう「賃金」は,6月分の所定内給与額の平均であり,超過労働給与を除いた所得税等控除前の金額である。
詳細表には異なる給与項目があるため,「所定内給与額」なのか「きまって支給する現金給与額」なのか,年間賞与等を加えるのかを,採用する表の見出しで確かめる必要がある。
概況の月額を単に12倍した金額を,賞与を含む年間給与と同じものとして扱ってはならない。

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第十二回特別弔慰金の請求と記名国債―遺族の順位,令和10年3月の請求期限,相続人・成年後見人の手続と差押禁止(AI作成)

目次第1 制度の概要1 第十二回特別弔慰金の内容2 5年後にもう一度の支給が予定されている第2 誰が受けられるか1 公務扶助料や遺族年金を受ける人がいないこと2 遺族の順位3 同順位の遺族が複数いる場合第3 請求の手続1 提出先と裁定2 必要な書類第4 相続人と成年後見人の請求1 請求前に権利者が死亡した場合2 国債の記名者が死亡した場合3 成年後見人等の請求第5 記名国債と特別弔慰金の保護1 譲渡・担保・差押えの制限2 非課税と印紙税第6 不服申立てと裁判例1 審査請求2 却下処分の取消訴訟第7 弁護士が相談で確認すること第8 本記事で扱わない事項第9 出典・関連記事1 検討した資料2 法令3 裁判例4 関連記事
第1 制度の概要
1 第十二回特別弔慰金の内容

戦没者等の遺族に対する特別弔慰金は,先の大戦で公務等のため亡くなった軍人軍属等の遺族に対し,国として改めて弔慰の意を表すために支給されるものである。
根拠は,戦没者等の遺族に対する特別弔慰金支給法(昭和40年法律第100号。以下「法」という。)である。

令和7年法律第18号による改正により,令和7年4月1日を基準日とする第十二回特別弔慰金が支給されている。
厚生労働省の案内と法の規定によれば,その内容は次のとおりである。

項目内容根拠基準日令和7年4月1日法2条・3条額戦没者等1人につき27万5000円法5条1項交付の方法5年以内に償還する無利子の記名国債法5条1項・3項国債の発行日令和7年9月1日令和7年法律第18号附則2条2項償還令和8年から毎年1回,償還日(4月15日)以降に5万5000円ずつ厚生労働省の案内請求期間令和7年4月1日から令和10年3月31日まで厚生労働省の案内時効行使できる時から3年法9条

請求先は住所地の市区町村の援護担当課であり,郵送やマイナポータルの電子申請(請求書と現況申立書のみ)でも請求できる。
請求期間を過ぎると第十二回特別弔慰金を受けることができなくなるとされているので,確認日(令和8年10月4日)から見ると,残りは約1年半である。

2 5年後にもう一度の支給が予定されている

令和7年法律第18号は,附則1条ただし書により,法2条等の基準日を令和12年4月1日に改める改正を,同日から施行するとしている。
e-Gov法令検索に収録された令和12年4月1日施行の条文では,基準日が令和12年4月1日となり,額は同じく27万5000円,5年以内に償還する記名国債とされている。
財務省に提出された厚生労働省の令和7年度税制改正要望も,特別弔慰金を「5年償還の記名国債を5年ごとに2回交付」と説明し,今回発行する国債の推計件数を約60万件としている。

令和12年の支給の請求期間等は,確認日現在は公表されていない。

第2 誰が受けられるか
1 公務扶助料や遺族年金を受ける人がいないこと

特別弔慰金は,基準日において,その戦没者等の死亡に関し,恩給法の公務扶助料,戦傷病者戦没者遺族等援護法(以下「援護法」という。)の遺族年金等を受ける権利を有する遺族がいる場合には支給されない(法3条ただし書)。
厚生労働省の案内も,これらを受ける人(戦没者等の妻や父母等)がいない場合に,先順位の遺族1人に支給するとしている。

2 遺族の順位

法2条1項は,「戦没者等の遺族」を,基準日までに援護法による弔慰金を受ける権利を取得した者で,基準日に日本の国籍を有しているものとしている。
厚生労働省の案内は,戦没者等の死亡当時の遺族の順位を次のように整理している。
①令和7年4月1日までに援護法による弔慰金の受給権を取得した者
②戦没者等の子(死亡当時の胎児を含む。)
③戦没者等の父母,孫,祖父母,兄弟姉妹(死亡当時に生計関係を有していたか等の要件により順番が入れ替わる。)
④①から③以外の三親等内の親族(甥,姪等)。ただし,戦没者等の死亡時まで引き続き1年以上の生計関係を有していた者に限る。

条文の上では,弔慰金の受給権者が基準日に死亡している場合等に子を受給権者とみなし(法2条3項),子もいない場合に父母,孫,祖父母,兄弟姉妹の順で(法2条の2第1項・2項),さらにそれもいない場合に三親等内の親族のうち葬祭を行った者等の順で(同条3項),遺族とみなす仕組みになっている。
配偶者については,戦没者等の死亡後に遺族以外の者と婚姻した場合等に除かれる規定がある(法2条1項ただし書)。
先順位者が基準日に生死不明で,その後2年以上生死不明が続く場合には,次順位の者の申請により,その者を遺族とみなすことができる(法2条の3)。

3 同順位の遺族が複数いる場合

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令和8年成年後見制度改正と金融機関の権限確認―代理権・同意権・特定補助及び経過措置(AI作成)

目次第1 金融取引では肩書と取引ごとの権限を分けて確認する第2 代理権・同意権・特定補助の違い1 本人を代理して取引をする権限2 本人の取引に同意する権限3 特定補助人の選任だけで包括的な代理権は生じない第3 旧制度の利用者に一律の切替えを求めない1 旧後見・旧保佐と旧補助で経過措置が違う2 証明書の肩書だけで処理しない第4 弁護士と金融機関が準備しておく記録1 任意代理の消滅事由を補助開始と区別する2 変更の記録と連絡を取引ごとに管理する3 通知の受領者と取引の代理人を区別する4 代理権確認と犯罪収益移転防止法上の確認を分ける第5 出典・関連記事と本記事の範囲1 公開された一次資料と関連記事2 本記事で扱わない事項
第1 金融取引では肩書と取引ごとの権限を分けて確認する

令和8年の成年後見制度改正は,後見・保佐・補助の三類型を補助に一元化し,必要な範囲で権限を付与する制度へ改めるものである。
金融機関が改正後の補助人から預金の払戻し等を求められたときは,補助人という肩書だけで代理取引を受け付けることはできない。
本人が取引をするのか,補助人が本人を代理するのかを区別し,対象となる取引が審判による権限の範囲に含まれるかを確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月4日に確認した法務省の成立法と概要資料に基づき,改正後の制度と施行準備の確認事項を説明する。
令和8年法律第45号は同年6月24日に公布されたが,成年後見制度の主要な改正規定は,公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日から施行される。
公布日や遺言に関する先行施行日と,成年後見制度の施行日を混同してはならない。
本記事では具体的な政令指定日を確認できていないため,日付を断定しない。

第2 代理権・同意権・特定補助の違い
1 本人を代理して取引をする権限

改正後の民法11条では,家庭裁判所が必要と認めるときに,特定の法律行為について代理権を付与する。
したがって,口座に関する取引をまとめて一つの権限として扱う前に,代理行為目録等で,払戻し,振込み,口座の開設・解約,定期預金の取扱い等のうち何が認められているかを確かめる。
ある取引に代理権があることから,別の取引にも当然に代理権があるとはいえない。

2 本人の取引に同意する権限

改正後の民法9条は,必要がある場合に,同条2項の行為の一部について補助人の同意を要する旨の審判をする仕組みである。
同項には預貯金の預入れ・払戻しや借財・保証などが掲げられているが,補助開始の審判だけで,列挙された行為のすべてに同意が必要になるわけではない。
本人が取引を行い,補助人が必要な同意を与える場面と,補助人が代理人として取引を行う場面は,権限の根拠が異なる。
日用品の購入その他日常生活に関する行為は,同条の同意を要する行為から除外される。

3 特定補助人の選任だけで包括的な代理権は生じない

改正後の民法10条の特定補助は,事理を弁識する能力を欠く常況にあり,必要が認められる場合に付される。
同条5項による特定補助人の権限は,取消権の行使,意思表示の受領及び財産に関する保存行為であり,預金の払戻し等を包括的に代理する権限が当然に与えられる制度ではない。
代理による取引については,民法11条による代理権付与の有無と範囲を別途確認する。
また,特定補助による取消しの対象となる行為からも,日常生活に関する行為は除外される。

第3 旧制度の利用者に一律の切替えを求めない
1 旧後見・旧保佐と旧補助で経過措置が違う

令和8年法律第45号附則2条・3条によれば,施行日前に開始された後見・保佐は,附則の特則を除き,従前の制度が続く。
施行日に全員が自動的に新制度の補助へ移るわけではない。
新制度の補助開始の審判がされる場合には,従前の後見・保佐開始の審判を取り消す仕組みである。

これに対し,附則4条は,旧補助開始の審判と,旧制度による同意権・代理権の審判を,それぞれ改正後の対応する審判とみなす。

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離婚後の共同親権の国際比較-決定権・居住・DV対応の違い(AI作成)

目次

第1 共同親権を比較するための区別1 対象と比較の範囲2 責任・決定権と居住の比較表第2 日本の親権者指定と親権行使1 離婚時に共同・単独のいずれを定めるか2 双方が親権者となった後の行使方法第3 外国の決定権と居住の仕組み1 フランスの共同行使と交互居住2 ドイツの重要事項と日常事項3 イングランド・ウェールズの親の関与4 豪州の2024年改正と共同決定命令5 カリフォルニア州の法的監護と身体的監護第4 DV・虐待への対応の条件と効果1 調停提案の除外と接触の安全判断2 子の福祉への危険と安全の考慮3 カリフォルニア州の過去5年のDV認定第5 子の意向を考慮する仕組み第6 日本の離婚・養育費・取決め文書の関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 行政機関の制度解説3 裁判所の制度解説・司法手続の運用資料
第1 共同親権を比較するための区別
1 対象と比較の範囲

離婚後の共同親権を比較するときは,①子について誰が法的な責任・権限を持つか,②どの事項を共同で決めるか,③子がどこで,どのような日程で暮らすかを分けて読む必要がある。
父母双方が権限を持つことから,居住時間を半分ずつにすることや,日常の行為まで常に双方の同意を得ることが当然に導かれるわけではない。

本記事は,令和8年10月3日を基準日として,日本,フランス,ドイツ,イングランド・ウェールズ,オーストラリアの連邦法及び米国カリフォルニア州の条文・公的解説を比較する。
英国全体,米国全州又は西オーストラリア州の別個の法制度へ一般化するものではなく,世界の採用率,制度の実効性及び子への心理的効果は対象としない。
外国法の日本語説明は原文の要約・仮訳であり,公定訳ではない。

2 責任・決定権と居住の比較表

フランスのautorité parentale,ドイツのelterliche Sorge,英国・豪州のparental responsibilityは,各法域の法律上の概念である。
カリフォルニア州ではlegal custodyとphysical custodyを区別するため,同じ「共同親権」という日本語だけで法律効果を揃えることはできない。

法域法的責任・決定権居住・時間との区別日本離婚時に双方又は一方を親権者に指定し,双方なら共同行使が基本で,単独行使の規定もある監護者・監護の分掌,親子交流及び費用分担は別に定めるフランス別離は親権行使の帰属規則を変えないが,子の利益のため単独行使も認められる交互居住又は一方の親の住所での居住を定め得るドイツ共同配慮を持つ別居父母の重要事項は合意を要し,日常事項とは扱いが異なる決定権の分担に関する規定だけでは,居住時間の割合は決まらないイングランド・ウェールズ政府案内は,重要決定への他方の関与と,日常決定の扱いを区別して説明する法律上の父母の関与に関する推定は,特定の時間配分を意味しない豪州連邦法各親の親責任は別離後も存続して裁判所命令に従い,重要事項の共同・単独決定命令が可能共同決定と平等な時間配分は異なり,司法長官省は平等な時間を過ごす法的権利はないと説明するカリフォルニア州裁判所案内は,重要決定に関するlegal custodyに共同・単独の形があると説明する居住に関するphysical custodyとは別の概念であり,生活日程は別に確認する

表は各制度の対応関係を示すものであり,共同の制度の有無だけによる優劣の評価ではない。
日常事項の単独決定,父母が合意できない場合の処理及び安全への対応は,以下の各規定と併せて読む。

第2 日本の親権者指定と親権行使
1 離婚時に共同・単独のいずれを定めるか
(1) 父母双方又は一方の指定

離婚後の親権に関する改正は,令和8年4月1日に施行された。
現行の民法819条1項・2項は,協議離婚又は裁判離婚の際に,父母の双方又は一方を親権者に定めるものとしている。

(2) 裁判所が単独親権にしなければならない場合

民法819条7項は,裁判所が親権者を指定する際,子の利益のため,父母と子の関係,父母相互の関係その他一切の事情を考慮するものとしている。
父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合や,一方が他方から暴力等を受けるおそれの有無,協議が調わない理由その他の事情を考慮して親権の共同行使が困難と認める場合等,共同親権により子の利益を害すると認められるときは,父母の一方を親権者に定めなければならない。

したがって,共同行使の規定があることと,裁判所が親権者を指定する際に共同を一律に優先することは別の問題である。
親権者の指定は,日々の行為を誰が決めるかという次の問題とも区別される。

2 双方が親権者となった後の行使方法
(1) 共同行使と単独でできる行為

民法824条の2第1項・第2項では,双方が親権者である場合の共同行使を基本としつつ,監護・教育に関する日常の行為については単独行使を認めている。
子の利益のため急迫の事情がある場合も,一方が親権を行う。

(2) 合意できない特定事項の単独行使

共同で決めるべき特定事項について協議が調わない場合,民法824条の2第3項により,家庭裁判所は,父又は母の請求に基づき,子の利益のため必要と認めるときに一方が単独で親権を行使できる旨を定められる。

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遺言による金銭信託の受益権を放棄した場合―代替取得者・遺産分割協議・課税関係(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論第2 銀行の遺言信託と遺言による信託第3 信託が効力を生ずる時期第4 受益権放棄と遺言の代替条項第5 相続人全員の協議で変更する場合第6 相続税・贈与税の検討順序第7 設例による整理第8 実務上の確認資料第9 関連記事と出典
第1 問題の所在と結論

遺言に「一定の金銭を信託し,甲を受益者とする」と書かれているとき,甲が受益権を放棄することと,信託銀行に遺言執行を依頼しないことは別の行為である。遺言が「甲が受益権を放棄した場合は信託を設定せず,その金銭を乙らに分ける」と定めていれば,代替条項の文言,信託の効力が生じた時期,受託者への通知と引受け,乙らの取得原因を順に確認する必要がある。受益権の放棄だけで,常に遺産全体が未分割に戻るとはいえない。

税務上も「遺言を執行しなかったから贈与税はない」「全員で協議したから常に相続税だけである」とは決められない。遺言の代替条項による被相続人からの取得なのか,成立後の信託に関する権利の無償移転なのか,信託終了による残余財産取得なのか,別の取得原因なのかを,民事上の経過とともに検討する。本記事は一般的な整理であり,代替条項を伴う遺言による信託の受益権全部放棄について,同一事実関係の税務判断を示した裁決・判決を確認したものではない。

第2 銀行の遺言信託と遺言による信託

銀行の商品名である「遺言信託」は,遺言書の保管・遺言執行等のサービスをいうことがある。他方,信託法3条2号の遺言による信託は,遺言により受託者に財産を管理・処分させ,受益者に受益権を与える制度である。一つの遺言に両方が登場することもあるため,銀行が「遺言執行者」なのか「受託者」なのかを条項ごとに特定する。遺言執行契約を解約しても,それだけで信託の設定条項や代替取得者の指定が消えるわけではない。

第3 信託が効力を生ずる時期

信託法4条2項は,遺言による信託は遺言の効力の発生によって効力を生ずると定める。受託者への送金を信託の成立時点と当然に捉えてはならない。受託者となるべき者が引き受けない場合は信託法5条の手続と遺言の代替条項を確認する。受託者の不引受けと受益者の放棄は当事者も法的効果も異なる。

信託法4条4項は,信託行為に停止条件又は始期が付されている場合,その成就又は到来によって信託が効力を生ずると定める。したがって,遺言の効力発生時に当然に信託が効力を生ずるという原則と,条項に基づく例外を区別する。受託者への送金前であるという事実だけでは,信託が未発効であることの根拠にならない。

第4 受益権放棄と遺言の代替条項

信託法99条1項は,受益者が信託行為の当事者である場合を除き,受託者に対する意思表示によって受益権を放棄できるとし,同条2項は放棄した者が初めから受益権を有しなかったものとみなす。したがって,放棄の相手方,時期,書面の到達を記録する必要がある。もっとも,この民事上の遡及効から,あらゆる税務関係が自動的に相続開始時に遡って決まると即断できない。

遺言に「受益者が放棄した場合は信託を設定しない」とあるときは,その文言が信託設定の条件・失効事由をどう定めるか,既に効力を生じた信託の扱いをどう整理するかが問題となる。さらに,代替条項が指定する取得者と割合を確認する。代替条項により他の相続人が金銭を取得するなら,単に「信託をやめる」案でも,遺産全体の取得割合が変わり得る。

遺言本文に「受益権を放棄した場合は信託を設定せず,金銭を指定した者に取得させる」とある一方,遺言に組み込まれた別紙信託条項に「受益権放棄により信託が終了し,残余財産を指定した者に分配する」とある場合,両条項の整合性を検討しなければならない。前者は遺言者からの直接の代替取得を,後者は効力を生じた信託の終了と残余財産の取得を示す読み方があり,同じ取得者・割合であっても取得原因は同じとは限らない。本文と別紙の一体性,適用順序,信託の効力発生条件,放棄の意思表示の到達及び執行状況を確認する。このような併存条項に対する判断を,文言の一部又は送金の有無だけで確定しない。

第5 相続人全員の協議で変更する場合

遺言と異なる最初の相続人全員の協議を行う場合,預貯金,証券,不動産を財産別に特定し,信託に充てる予定の金銭と受益権の扱いも明記する。遺言執行者への指図だけで,既に生じた受益権や受託者との法律関係を変更したことにはならない。必要な受益者・受託者の意思表示や信託行為の変更・終了の可否を別途検討する。

国税庁No.4176は「特定の相続人に全部の遺産を与える」遺言と異なる全員協議の例であり,金銭信託の代替条項と受益権放棄が組み合わさる事例を直接判断していない。金融資産だけ遺言どおり執行して残りを協議する場合には,財産ごとの取得時点・取得原因・金銭の移動を追える資料を残す。

第6 相続税・贈与税の検討順序

相続税法9条の2第1項は,受益者等が適正な対価を負担せずに信託に関する権利を取得した場合,信託の効力が生じた時に,委託者から贈与又は遺贈により取得したものとみなす。受益者が後に放棄し,別の人が対価なしで利益を受けるなら,同条2項・3項・4項のどの場面に当たるかを調べる。国税庁の相続税法基本通達9の2-4は,一部の権利の放棄・消滅後に他の受益者等が取得したものとみなされる場合を説明する。国税庁の解説は全部放棄にも同様の課税関係が生じ得ると述べる一方,信託の終了事由にもなり得るとする。

遺言の代替条項によって遺言者から直接金銭を取得する場合は,その相続又は遺贈について相続税を検討する。一方,受益者等の存する信託が終了し,他の者が適正な対価を負担せずに残余財産を受けるべき又は帰属すべき者となる場合には,相続税法9条の2第4項により,終了直前の受益者等からの贈与とみなされることが問題となる。終了直前の受益者等であった取得者が,従前の信託に関する権利に相当する残余財産を取得する部分は除かれる。従前の受益者等の死亡に基因する終了の場合は,みなし遺贈となる。遺言者の死亡後に受益者が放棄したというだけで,その終了が受益者等の死亡に基因するものになるわけではない。

相続税法基本通達9の2-5は,同項の対象を,信託行為で指定された残余財産受益者等に限定していない。受益権を他の相続人へ譲渡する契約がなくても,信託終了と残余財産取得によるみなし贈与の問題は残る。信託法99条2項の民事上の遡及効と,税法上の取得時点・移転元の判定を同一視しない。ただし,遺言本文の不設定条項と別紙の終了条項が併存する場合に,どちらの取得原因として取り扱うべきかを直接判断した同一事実関係の裁決・判決は,本記事で確認できていない。上記の一般規定だけから個別事案の贈与税を確定しない。

第7 設例による整理

遺言者が金銭の一部を信託してAを受益者とし,「Aが受益権を放棄するときは信託を設定せず,その金銭をA・B・Cに所定割合で取得させる」と定めたとする。まずAが放棄しなければ,原則としてAの受益権と受託者の地位を確認する。Aが放棄する場合は,放棄の意思表示と到達,代替条項の発動,金銭の帰属を確認する。B・Cが金銭を取得するなら,Aが放棄したこととB・Cが無償で利益を得たことの税法上の関係も検討する。A・B・Cがその後に遺産全体の別の配分を協議する場合は,先の取得と後の協議を時系列で記録する。

例えば,本文が放棄時の金銭の直接取得を定め,別紙が放棄による信託終了と同じ割合の残余財産分配を定める設例では,まず双方の条項を対照して取得原因を確定する。直接の相続・遺贈と整理できる場合は相続税の検討となり,既に効力を生じた信託の終了と整理される場合は相続税法9条の2第4項を検討する。金銭額に分配割合を掛けただけで,各取得者の贈与税の課税価格が直ちに確定するわけではない。信託終了直前の受益者等,従前の権利に相当する部分の除外,財産評価及び取得時点を確認する。

第8 実務上の確認資料

確認する資料は,①遺言全文と変更遺言,②信託設定条項・放棄時の代替条項,遺言本文と別紙信託条項の対応表,停止条件・始期及び終了条項,③遺言執行者と受託者の就職・引受け・辞退資料,④受益権放棄書と受託者への到達記録,⑤信託口座と一般の遺産口座の移動記録,⑥全員協議書案,⑦相続税評価資料と申告書の取得者別内訳である。協議前の段階では,放棄や送金を先行させることで選択肢が変わらないかを確かめる。

第9 関連記事と出典

関連記事:清算型遺言の清算金から信託を設定する場合,遺言を一部執行し残りを遺産分割協議で変更する場合,遺言と異なる遺産分割協議はできるか。

法令:信託法3条,4条,5条,99条,163条,164条,182条。相続税法9条の2。
国税庁:相続税法基本通達9の2関係,同通達9の2関係の解説,信託終了時の課税に関する通達解説,タックスアンサーNo.4176。

再婚禁止期間を理由とする国家賠償請求の後続裁判例―平成30年東京地裁・高裁判決、消滅時効と損害の立証(AI作成)

目次第1 平成27年大法廷判決の射程第2 平成30年東京地裁・高裁判決1 届出、請求と結論2 判決が判断していないこと第3 消滅時効を調べる順序1 適用法と起算点2 実務で集める資料第4 損害額と因果関係の立証第5 時期による戸籍実務と調査の限界

最高裁大法廷は平成27年12月16日、旧民法733条1項の再婚禁止期間のうち100日を超える部分が平成20年当時には違憲であったと判断した。しかし、国会がその時点まで改廃しなかったことについては国家賠償法上の違法性を否定し、賠償請求を棄却した。違憲判断と個別の賠償請求の成否は別の問題である。本稿は、判例秘書収録の判決本文で確認できた一つの後続訴訟の第一審・控訴審を紹介し、時効と損害立証の検討方法を示す。

第1 平成27年大法廷判決の射程

大法廷は、平成20年に前婚を解消した女性の事件で、100日超過部分の違憲性を認めた。他方、国会議員による立法不作為が国家賠償法1条1項上違法となるには、違憲性が明白であるのに正当な理由なく長期にわたって改廃を怠ったといえる場合などであるとし、平成20年当時についてその要件を満たさないと判断した。判決が慰謝料を算定したわけではなく、請求は棄却された。平成27年大法廷判決全文を参照されたい。

平成7年判決との違いは、再婚禁止期間の平成7年・平成27年最高裁判決と国家賠償で検討した。本稿で扱う平成30年の二判決は、これら最高裁判決とは別の事件であり、同じ訴訟の第一審と控訴審である。

第2 平成30年東京地裁・高裁判決
1 届出、請求と結論

東京地裁平成30年3月13日判決(平成27年(ワ)第28945号、判例秘書文献番号L07331663)によれば、女性は平成27年5月15日に離婚し、同年7月10日に新たな相手との婚姻届を提出したが受理されず、同年11月22日に婚姻した。7月10日の届出は離婚から約56日後であり、100日を経過する前である。この時点の不受理を、最高裁が違憲とした「100日超過部分」による不受理と表現してはならない。

女性、新たな配偶者及び子がそれぞれ100万円の慰謝料を請求したが、東京地裁は請求を棄却した。請求額の合計300万円は認容額ではない。判決は、100日経過後も再婚できなかったという主張も検討した上で、当該時期の立法不作為について国賠法上の違法性を認めなかった。

東京高裁平成30年9月27日判決(平成30年(ネ)第1602号、判例秘書文献番号L07320602)も控訴を棄却した。高裁判決の事件番号と年月日は東京高裁の特別保存事件一覧でも確認できる。ただし、同一覧は判決理由を掲載する資料ではない。本稿の地裁・高裁の認定及び判断は判例秘書収録の各判決本文による。

2 判決が判断していないこと

両判決は立法不作為の国賠法上の違法性を否定して請求を退けた。消滅時効の起算点や完成の有無を確定した事例でも、慰謝料の相当額を算定した事例でもない。したがって、「平成30年判決が時効は3年と判断した」「慰謝料を1人100万円と認定した」という紹介は誤りである。

平成27年(ワ)の事件番号から、訴えの提起年は平成27年と分かるが、提訴の具体的な月日をこの番号だけで確定できない。「平成27年大法廷判決後に提起された訴訟」とも断定しない。

第3 消滅時効を調べる順序
1 適用法と起算点

国家賠償法4条により、同法に特別の規定がない事項には民法を適用する。令和2年4月1日の改正民法施行前の不法行為に係る旧民法724条は、損害及び加害者を知った時から3年、行為時から20年という期間を定めていた。改正後の民法724条も一般の不法行為について主観的起算点から3年、行為時から20年を定め、724条の2は生命・身体侵害による損害賠償請求の主観的期間を5年とする。改正法附則の経過措置も確認する必要がある。

精神的苦痛を請求するというだけで724条の2の5年になるわけではない。また、最高裁の平成27年判決が出た日を一律に時効の起算日とする根拠もない。届出の不受理、100日経過後の取扱い、婚姻が成立した日、損害を認識した経緯、請求権者ごとの認識及び訴訟上の手続を時系列に置き、適用法・経過措置・時効の完成猶予や更新の有無を個別に調べる。

2 実務で集める資料

戸籍謄本、離婚届と婚姻届の写し、不受理証明又は窓口の記録、届出時の説明、再提出の記録、当事者間の連絡、婚姻が遅れたことによる具体的な不利益の資料を確保する。損害の発生・認識時期が争われるときは、単なる後日の陳述だけに依存しない。各請求権者について何をいつ知ったかを分けて記録する。

第4 損害額と因果関係の立証

違憲とされた規定が適用された事実だけで慰謝料額は決まらない。受理されなかった届出が100日以内か以後か、100日経過後に再届出したか、他の婚姻障害がなかったか、いつ婚姻できたか、どの不利益が行政の取扱い又は立法不作為と結び付くかを確認する。婚姻できなかった期間、生活上・身分上の影響、支出の領収書、精神的苦痛を裏付ける資料を整理し、請求権者ごとの損害と因果関係を主張立証する。

平成27年大法廷事件の請求額や平成30年東京訴訟の「各100万円」は当事者の請求であり、裁判所の賠償額の相場ではない。ここで確認した判決に認容例はなく、違法性が否定されたため、損害額についての裁判所の積極的な算定判断も得られない。

第5 時期による戸籍実務と調査の限界

平成27年大法廷判決後、法務省は改正までの間、離婚から100日経過後の婚姻届を受理する取扱いを市区町村に通知した。法務省の判決説明資料にその旨が記されている。平成28年6月7日に禁止期間は法定の100日に短縮され、令和6年4月1日に廃止された。過去の不受理を評価するときは、各届出日の法令と通知、実際の窓口対応を分ける。平成28年改正の法務省説明及び令和6年施行の法務省説明を参照されたい。

本稿の後続裁判例の確認範囲は、判例秘書で確認した前記一訴訟の二判決と、裁判所ウェブサイト等で確認できた資料である。未掲載判決や和解、訴訟外の解決を含め、全国の請求例がこれだけであるとは断定できない。両判決の本文は判例秘書で照合したが、裁判所ウェブサイトの判決全文は確認できていない。個別事件を扱う際は判決原本・訴訟記録と、適用時点の法令・通知を追加で確認する。

再婚禁止期間の平成7年・平成27年最高裁判決と国家賠償―違憲と立法不作為の違法性(AI作成)

目次第1 二つの判決の結論1 平成7年12月5日第三小法廷判決2 平成27年12月16日大法廷判決第2 平成7年判決の射程第3 平成27年判決の二段階の判断1 規定の違憲性2 国会議員の職務上の義務違反第4 多数意見と反対意見の分岐第5 国家賠償を検討する実務上の手順第6 法改正との関係と資料

再婚禁止期間をめぐる最高裁判決は、平成7年も平成27年も国への損害賠償請求を認めなかった。しかし、両判決の憲法判断は同じではない。平成7年判決は旧民法733条の合憲性を確定せず、平成27年判決は100日を超える部分を違憲とした上で国家賠償法上の違法性を否定した。この区別が、過去の立法不作為を論じる出発点となる。

第1 二つの判決の結論
1 平成7年12月5日第三小法廷判決

女性のみに6か月の再婚禁止期間を設けた当時の民法733条について、再婚届の不受理による精神的損害等を主張する当事者が、国会による改廃をしないことなどを理由に国家賠償を請求した。最高裁は請求を退けた。この判決で問題となった立法不作為の判断時点は平成元年である。請求棄却を「6か月の禁止は合憲」と言い換えてはならない。

2 平成27年12月16日大法廷判決

平成20年に前婚を解消した女性の請求について、最高裁は当時の6か月の禁止のうち100日を超える部分が、遅くとも同年当時には憲法14条1項・24条2項に違反していたとした。他方、当時の100日以内の部分は違憲としなかった。それでも国会による改廃の遅れは国家賠償法1条1項上違法と評価できないとして、賠償請求を棄却した。

第2 平成7年判決の射程

平成7年判決は、国会議員の立法行為について、憲法の一義的な文言に反する立法をあえて行うような例外的な場合でなければ国家賠償法上違法と評価されない、という先例の枠組みを引用した。そして、旧733条の元来の目的を、父性の推定の重複を避け、父子関係の紛争を予防する点に求めた上、改廃しないことが直ちにその例外に当たるとはいえないと判断した。判決文は6か月の期間のすべてについて憲法適合性を審査し、合憲と結論したものではない。

平成27年判決も、この先例を「立法不作為について国賠法上の違法性を否定した判断」として扱う。千葉勝美裁判官の補足意見は、平成7年判決が引用した「憲法の一義的な文言に反する」という例は、国賠法上の違法となる全ての場合を尽くしたものではないと説明している。両判決を、単純な合憲判決から違憲判決への変更と整理するのは不正確である。

第3 平成27年判決の二段階の判断
1 規定の違憲性

当時の民法772条では、前婚解消後300日以内と後婚成立後200日経過後に出生した子について父性の推定が重なり得た。この重複を避けるには計算上100日の禁止で足りる。大法廷は、旧法制定時に6か月という幅を設けたことまで不合理とはしなかったが、医療・科学技術や婚姻・家族の社会状況の変化を踏まえると、平成20年には100日を超える制約を正当化できなくなっていたと判断した。

2 国会議員の職務上の義務違反

規定が違憲でも、国会議員の立法行為・立法不作為が直ちに国家賠償法上違法になるわけではない。大法廷は、違憲であることが明白なのに国会が正当な理由なく長期にわたり改廃を怠った場合などに、個々の国民に対する職務上の法的義務違反として例外的に違法となり得るとした。

本件では、平成7年判決が違憲との判断を示さず立法不作為の国賠責任を否定していた。平成6年の改正要綱試案と平成8年の法律案要綱は100日への短縮を提案したが、100日超過部分が違憲であるとの前提で作成されたとはうかがわれない。その後も同部分を違憲とする司法判断はなかった。多数意見は、平成20年時点で違憲性が国会にとって明白だったとはいえず、国賠法上の違法性を否定した。

第4 多数意見と反対意見の分岐

山浦善樹裁判官は反対意見で、再婚禁止期間の全部が違憲であり、遅くとも平成13年には違憲となっていたと考えた。平成7年判決の判断時点は平成元年であり、平成20年を問う本件の妨げにならないという。科学技術の進歩、社会状況、諸外国の法改正、国際機関の勧告等から、平成20年より相当前に国会に違憲性が明白となり、改廃に技術的困難もなかったとして、立法不作為の違法性と過失を認め、賠償請求を認容すべきだと述べた。これは多数意見の結論ではない。

対立点は、婚姻の自由をどこまで制約できるかに加え、いつ、何を根拠に、違憲性が国会にとって明白になったと評価できるかにある。平成8年の100日短縮案を、政策提案とみるか、違憲状態の認識を裏付ける事情とみるかでも評価が分かれた。

第5 国家賠償を検討する実務上の手順

① まず、婚姻届の不受理等がいつ起き、どの時点の旧法が適用されたかを戸籍・届書等で確定する。平成7年事件の平成元年と平成27年事件の平成20年を混同しない。

② 次に、憲法上の制約の内容・違憲となった時期と、国会議員の職務上の義務違反を別々に検討する。先例、法制審議会資料、国会審議、司法判断、当時の科学的・社会的知見を時系列で整理し、違憲性の明白性と正当な理由のない不作為の期間を立証する。改正提案が存在した事実だけで、国賠責任が成立するわけではない。

③ 最後に、個別の届出経過、再婚できなかった期間、損害と因果関係、請求権の期間制限を検討する。平成27年判決は平成20年時点の立法不作為の違法性を否定したのであり、全ての時期・全ての事案について国賠責任の有無を一括して決めたものではない。一方、同判決の違憲判断だけを根拠に賠償が自動的に認められるわけでもない。

後続裁判例として、東京地裁平成30年3月13日判決(平成27年(ワ)第28945号、判例秘書文献番号L07331663)とその控訴審である東京高裁同年9月27日判決(平成30年(ネ)第1602号、同L07320602)がある。女性、新たな配偶者及び子は各100万円を請求したが、いずれも棄却された。これは一訴訟の二判決であり、請求額を認容額と取り違えてはならない。両判決は消滅時効の成否や慰謝料の相当額を判断していない。事実経過と判断の限界は再婚禁止期間を理由とする国家賠償請求の後続裁判例で詳述した。

時効を検討するときは、国家賠償法4条と適用時点の民法724条、改正法の経過措置を確認し、損害及び加害者を知った時期を請求権者ごとに検討する。平成27年大法廷判決の言渡日が一律に時効の起算日となるわけではない。精神的苦痛の請求というだけで民法724条の2の5年の期間が適用されるわけでもない。

第6 法改正との関係と資料

平成27年大法廷判決後は、改正前でも離婚から100日を経過した婚姻届を受理する取扱いが市区町村に通知された(法務省の判決説明資料)。平成28年改正で法定の期間は100日に短縮され、令和6年4月1日からは再婚禁止期間自体が廃止された。後の法改正と、過去の特定時点における国家賠償責任の成否は分けて論じる。現行の戸籍・父の推定については再婚禁止期間の廃止と父の推定、違憲判決の一覧は最高裁判所における違憲判決の一覧を参照されたい。

関連する平成15年度旧司法試験の問題文・出題趣旨・模範答案は、平成15年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説に掲載している。

一次資料:最高裁平成7年12月5日第三小法廷判決(平成4年(オ)第255号、裁判集民事177号243頁。判例秘書収録本文・文献番号L05010101を令和8年10月1日に照合)。最高裁平成27年12月16日大法廷判決(平成25年(オ)第1079号、民集69巻8号2427頁)の判決全文。平成7年判決の公開掲載本文も参照できるが、本稿の本文確認は判例秘書収録本文に基づく。

特定財産承継遺言と異なる最初の相続人全員の協議――登記原因と課税関係(AI作成)

目次第1 検討の対象と結論1 「最初の協議」であることの意味2 本記事の資料上の限界第2 まず確認すべき判決・裁決1 最高裁平成3年4月19日判決――遺言による取得の時点2 さいたま地裁平成14年2月7日判決――最初の全員協議の民事上の効力3 最高裁平成22年12月16日判決――中間の権利移転を省略する登記の限界4 国税不服審判所の裁決――後のやり直しを「最初の協議」と混同しない第3 事例別にみた協議の位置付け1 特定財産承継遺言があり、執行・登記前に最初の全員協議をする場合2 全遺産を一人に取得させる遺言を、最初の分割で変更する場合3 一部の財産について遺言を執行し、残部だけを協議する場合4 遺言どおりの取得後、又は最初の分割後に変更する場合5 金銭信託の代替条項がある場合第4 登記原因の検討1 民事上の有効性と登記原因は別の確認事項である2 登記前に確認する資料第5 課税関係の検討1 真正な代償分割である場合2 別個の低額譲渡・贈与と評価される場合3 後の再分割・申告訂正の場合第6 実務上の確認順序1 合意前に作る資料第7 出典
第1 検討の対象と結論
1 「最初の協議」であることの意味

特定の財産を特定の相続人に「相続させる」と定めた遺言がある場合でも、相続開始後、相続人全員がその財産を別の相続人に取得させることについて最初に合意することがある。この合意を、有効な遺産分割として扱えるか、遺言によりいったん取得した相続人からの贈与・交換・譲渡として扱うべきかは、登記と税務の双方に影響する。
結論を先に述べると、「全員による最初の協議」という形式だけで登記原因や課税関係が一律に確定するわけではない。遺言の文言、対象財産の範囲、遺言執行の状況、全員の合意内容、対価の性質及び従前の申告・登記を分けて確認する必要がある。

2 本記事の資料上の限界

本記事で確認した裁判例・裁決には、特定財産承継遺言がある不動産について、最初の全員協議により別の相続人が代償金を支払って取得した事案の登記原因と相続税・贈与税・所得税のすべてを一体として確定したものはない。民事上の協議の効力を認めた判決を、直ちに税務又は登記の先例として扱うことはできない。
以下では、資料が直接判断した事項と、実務上検討すべき事項を区別する。

第2 まず確認すべき判決・裁決
1 最高裁平成3年4月19日判決――遺言による取得の時点

最高裁平成3年4月19日判決は、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言について、特段の事情がない限り、その遺産は被相続人の死亡時に直ちに当該相続人に承継されると判断した。後の協議を検討する出発点は、遺言によるこの権利移転である。
もっとも、この判決自体は、その後の相続人全員による最初の合意の効力、登記原因又は課税関係を判断したものではない。

2 さいたま地裁平成14年2月7日判決――最初の全員協議の民事上の効力

同判決の事案では、土地全部を一人の相続人に相続させる遺言があったが、相続人全員は、別の相続人に土地の74%、残る二人に各13%を帰属させる内容の協議をした。裁判所は、遺言が協議を禁じておらず、第三者の権利も害しないなどの事実関係の下で、協議の効力を認めた。判決は、その合意に贈与や交換を含む混合契約の性質があり得ることにも触れた上で、通常の遺産分割と同様に取り扱うことが適切と述べている。
これは当該協議の民事上の効力に関する判断である。登記申請の原因を一律に「遺産分割」とできることや、贈与税・譲渡所得税が生じないことまで判示したものではない。また、代償金を伴う事案の税務を判断したものでもない。

3 最高裁平成22年12月16日判決――中間の権利移転を省略する登記の限界

同判決は、贈与を受けた者が死亡して相続が生じた事案について、贈与と相続という中間の権利移転を飛ばし、最終取得者に「真正な登記名義の回復」を原因として直接移転登記をすることは認められないとした。
これは特定財産承継遺言と全員協議の事案ではない。したがって、同判決をそのまま当てはめることはできないが、実際に生じた権利移転と異なる登記原因を便宜的に選べないことを検討する資料となる。

4 国税不服審判所の裁決――後のやり直しを「最初の協議」と混同しない

平成17年12月15日裁決では、有効に成立した最初の遺産分割の後で、錯誤を理由に再分割したと主張された事案につき、贈与税の課税が維持された。平成23年12月6日裁決は、全財産を各2分の1とする遺言、相続税申告後の紛争及び遺留分をめぐる和解に関するもので、相続税法55条等の適用が争われた。
両裁決は「遺言と異なる最初の全員協議」そのものを判断したものではない。協議がいつ成立したのか、従前の申告・分割が何を前提にしていたかによって論点が変わることを示す資料である。

第3 事例別にみた協議の位置付け
1 特定財産承継遺言があり、執行・登記前に最初の全員協議をする場合

相続人全員の合意により遺言と異なる帰属を定める協議は、さいたま地裁判決のように民事上有効と評価され得る。ただし、遺言による死亡時の権利承継を踏まえると、合意の法的構成にはなお検討を要する。対象財産の取得者を変更した理由、他の遺産との調整、支払金の位置付け、第三者の権利及び遺言執行者の権限を確認すべきである。
協議書の表題を「遺産分割協議書」としたことだけで、登記及び税務の取扱いは決まらない。

2 全遺産を一人に取得させる遺言を、最初の分割で変更する場合

国税庁タックスアンサーNo.4176は、遺言で財産全部を一人の相続人に取得させることとされていたが、相続人全員の協議で遺言と異なる分割をした場合、取得財産について相続税の課税対象として扱い、相続人間の贈与税の問題は生じないと説明する。関連する質疑応答は、全財産の包括遺贈を題材にしている。
この説明を、特定の土地だけを取得させる遺言と、別途執行される預貯金等がある事案へ無条件に拡張することはできない。個別の遺言と協議の構造を示して税務上の確認を要する。

3 一部の財産について遺言を執行し、残部だけを協議する場合

預貯金等は遺言どおりに払い戻し、土地だけを別の相続人が金銭を支払って取得する場合、土地の移転を遺産全体の分割調整として説明できるかが問題となる。協議書に「代償金」と記載しただけでは、遺言に基づいて土地を承継した者からの別個の移転という評価を排除できない。

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被相続人の未納の国税は相続人がどう引き継ぐか―国税通則法5条の相続分による承継,遺産分割との関係,納付責任額,限定承認・相続放棄及び大阪国税局の承継マニュアル(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」3 関連記事第2 相続人が引き継ぐ国税1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費2 誰が引き継ぐか第3 相続人が2人以上いるときの承継税額1 法定相続分・代襲相続分・指定相続分だけで按分する2 遺産分割は承継税額を変えない3 遺言による相続分の指定と遺留分第4 納付責任額1 相続で得た財産が承継税額より多い相続人の責任2 マニュアルの計算例3 他の相続人が納めた場合の納付責任4 相続税の連帯納付義務とは別の制度第5 限定承認・相続放棄・相続人不存在1 限定承認2 相続放棄3 相続人不存在・全員の相続放棄第6 相続財産に対する滞納処分1 単純承認をした相続人の固有財産2 遺産分割前の相続財産3 差押えの後の遺産分割第7 相続人の調査と通知1 国税側の相続人調査2 相続人への通知第8 マニュアルを読むときに注意する点1 令和3年7月以後の改正等2 表記の誤り等第9 相続人の側の実務の手順第10 出典1 法令2 通達3 裁判例4 公的資料第11 本記事で扱わない事項
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,被相続人が納めていなかった国税(所得税,消費税等)を相続人がどのように引き継ぐかについて,国税通則法5条の仕組み,相続人が2人以上いる場合の承継税額と納付責任額の計算,遺産分割・遺言との関係,限定承認・相続放棄・相続人不存在の場合の扱い及び相続財産への滞納処分を整理するものである。
令和8年10月1日時点で,国税通則法,国税徴収法,民法等の条文,国税庁の法令解釈通達,税務大学校の公表資料及び裁判例を確認して作成した。

2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」

本記事の出発点は,大阪国税局徴収部徴収課が令和3年7月に作成した「相続による納税義務の承継マニュアル」である。
本ブログに掲載しているPDFは,表紙・凡例・目次を含めて46枚,本文の印字頁は1頁~42頁である。
第1章(相続の意義と効果),第2章(相続による納税義務の承継),第3章(具体的な相続人調査方法)及び第4章(納税義務の承継手続)から成り,徴収職員が滞納者の死亡を把握した後に相続人を調べ,承継税額と納付責任額を計算し,相続人に通知するまでの手順を説明している。

(1) 開示されていない部分

第3章の相続開始の事実の把握と相続人等の把握の手順(20頁~21頁),相続人等の調査の具体的な流れの一部(27頁~28頁),外国籍の被相続人の相続人調査フロー(18頁),被相続人について納税の猶予等を行っている場合等の取扱い(39頁)及び承継手続の具体的な流れ(42頁)等は黒塗りである。
本記事では,黒塗りの部分の内容を推測しない。

(2) 資料の性質

このマニュアルは国税局内部の事務の手引であり,法令解釈通達そのものではない。
本記事では,マニュアルの記載を国税通則法基本通達(徴収部関係)及び国税徴収法基本通達の現在の本文と照合し,食い違う点や令和3年7月以後の改正で読み替えが要る点を第8で挙げた。

3 関連記事

相続人のあることが明らかでない場合の税金は「相続財産清算人と税金―滞納国税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,準確定申告,固定資産税及び特別縁故者の相続税」で,限定承認をした場合のみなし譲渡所得等は「限定承認と税金――みなし譲渡,準確定申告,相続税及び住民税」で整理している。
被相続人の死亡年分の所得税の申告は「準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税」で,生前贈与と国税徴収法39条の第二次納税義務は「相続放棄と生前贈与スキームの限界」で扱っている。

第2 相続人が引き継ぐ国税
1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費

相続(包括遺贈を含む。)があった場合には,相続人(包括受遺者を含む。)又は民法951条の相続財産法人は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは徴収されるべき国税(滞納処分費を含む。)を納める義務を承継する(国税通則法5条1項前段)。
相続税と違って財産を取得したことに課される税ではなく,被相続人が負っていた租税債務そのものを引き継ぐ制度である。
国税通則法基本通達(徴収部関係)は,三つの国税を次のように説明している(第5条関係4~6)。
①「課されるべき国税」は,相続開始の時において,被相続人について納付義務は成立しているが,納付すべき税額が確定していない国税である(例えば,死亡した年の所得税で申告がされていないもの)。
②「納付すべき国税」は,相続開始の時において,納付すべき税額が確定している国税である(例えば,申告済みで未納の所得税や,決定・更正を受けた税額)。
③「徴収されるべき国税」は,被相続人が源泉徴収義務者として徴収すべきであった源泉所得税等で,相続開始時までに徴収がされていないものである。

(1) 税務上の地位も引き継ぐ

承継によって,相続人は,被相続人の国税について申告,申請又は不服申立て等をする主体となり,税務署長がする更正・決定,納税の告知,督促,滞納処分及び還付の相手方となる(マニュアル14頁)。
被相続人に対して既にされていた納期限の延長,延納,納税の猶予,換価の猶予,滞納処分の停止,物納の許可,これらの申請及び担保の提供も,相続人はその状態のまま国税を承継する(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係7)。

(2) 被相続人が連帯納付義務者・第二次納税義務者であった場合

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相続人がいない遺産を国に引き継ぐ手続―最高裁家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(昭和41年),引継ぎの時期と財務局への引継ぎ(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 資料の名称と入手の経緯第2 通知の内容1 家庭局長通知の本文2 別紙:大蔵省国有財産局長の要望3 要望の契機となった事案4 資料から分かることと分からないこと第3 当時の条文と現在の条文1 相続財産管理人から相続財産清算人へ2 公告の手続の変化第4 国庫に帰属する時期―最高裁昭和50年10月24日判決1 判決の内容2 事案3 実務上の意味第5 現在の引継ぎの手続1 不動産2 金銭3 共有持分4 引き継げない財産が残る場合第6 清算人と申立人が確認すべき事項1 清算人が引継ぎの前に確認すること2 申立人と関係者が知っておくこと第7 出典1 提供資料2 法令3 裁判例4 公的資料
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,相続人のあることが明らかでない相続財産のうち,清算と特別縁故者への分与を経てなお残った財産を国に引き継ぐ手続について,昭和41年3月24日付けの最高裁判所家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(家二第48号)を手掛かりに整理するものである。
通知の内容を紹介した上で,当時の条文と現在の条文の違い,国庫に帰属する時期についての最高裁判例,及び現在の引継ぎの手続を説明する。
令和8年10月6日時点のe-Gov法令検索,裁判所ウェブサイトの判例情報,法務省の不動産登記記録例,財務省の通達及び家庭裁判所の公開資料等を確認して作成した。

相続財産清算人の選任から国庫への引継ぎまでの手続の全体は「相続人がいない場合の相続財産清算人」で,不動産が国庫に帰属した後の管理と処分は「国庫帰属した不動産のその後」で,それぞれ整理している。

2 資料の名称と入手の経緯

本記事で扱う資料は,最高裁判所家庭局長が家庭裁判所長に宛てた昭和41年3月24日家二第48号の通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」であり,大蔵省国有財産局長の昭和41年3月8日付け要望書(蔵国有第565号)が別紙として付いている。
この文書は,平成31年1月10日付けの司法行政文書の開示の申出に対し,最高裁判所が平成31年2月8日付けの司法行政文書開示通知書(最高裁秘書第532号)で開示したものである(開示文書のPDF)。

開示通知書によれば,開示された文書は片面で1枚であり,相続人が存在しない物件の所在,権利関係等の個人識別情報が記載された部分は,行政機関情報公開法5条1号に定める不開示情報に相当するとして開示されていない。
そのため,別紙の「物件の所在、区分、数量」と「経緯」の欄は全部が黒塗りであり,個別の事案の内容は分からない。
「系図」の項目も見出しだけで,内容は付いていない。

第2 通知の内容
1 家庭局長通知の本文

家庭局長通知の本文は,大蔵省国有財産局長から別紙のとおり要望があったとした上で,次のことを家庭裁判所長に求めている。
① 家庭裁判所が民法952条の相続財産管理人を選任したときは,管理人に対し,その職務内容をはじめ,清算手続,家庭裁判所の監督権限,特別縁故者への相続財産処分制度及び国庫帰属財産の引継手続などを説明すること
② 国庫に帰属した財産を速やかに所轄財務局長等に引き継がせるよう,周知徹底を図ること

通知は,選任の際に管理人へ説明する事項として,清算の手続だけでなく,特別縁故者への分与の制度と,国庫に帰属する財産の引継ぎの手続までを挙げている。
特別縁故者への分与の制度は,昭和37年法律第40号による民法の改正で設けられたものであり(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決の判決理由),この通知は,その改正から約4年後に出されたものである。
本記事では,新しい制度の運用が始まって間もない時期に,選任の段階で手続の終わりまでを管理人に説明させることで,引継ぎの遅れを防ごうとしたものと考えられる。

2 別紙:大蔵省国有財産局長の要望

別紙の要望書(蔵国有第565号)は,最高裁判所事務総局家庭局長に宛てたもので,「相続人不存在財産について」という表題である。
要望書は,相続人不存在財産(不動産)が国庫に帰属する場合には,相続財産管理人から当該財産の所在地を管轄する財務局長に引き継ぐことになっているとした上で,所要の手続をとって国庫に帰属させるべき財産を,管轄の財務局長に引き継がないで放置するおそれがあることを指摘している。
そして,相続人不存在財産が生じた場合には,遅滞なく所要の手続をとり,国庫に帰属することとなったものは,速やかに当該財産の所在地を管轄する財務局長等に引き継ぐ手続をとるよう,周知徹底を求めている。

大蔵省国有財産局は,昭和39年の大蔵省設置法の改正(昭和39年法律第105号)で管財局を改めて置かれた局であり,昭和43年の行政機構の簡素化等のための総理府設置法等の一部を改正する法律(昭和43年法律第99号)13条により大蔵省設置法5条1項から削られ,国有財産の管理及び処分に関する事務は理財局が所掌することになった。
現在,国有財産の事務を所管するのは財務省理財局である。

3 要望の契機となった事案

要望書は,その契機として,相続財産管理人が民法957条の公告及び民法958条の公告の請求を行わないで,南九州財務局長に売払申請書を提出してきた事案があったことを挙げている。
南九州財務局は熊本に置かれていた財務局であり,昭和56年4月1日に廃止され,同日に九州財務局が置かれた(財務省大臣官房地方課『財務省財務局七十年史』(令和元年6月)の歴代財務局幹部職員名簿)。

(続きを読む...)相続人がいない遺産を国に引き継ぐ手続―最高裁家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(昭和41年),引継ぎの時期と財務局への引継ぎ(AI作成)

再婚禁止期間の廃止と父の推定―婚姻日・出生日で判定する戸籍と相談実務(AI作成)

目次第1 結論と確認する日付第2 再婚禁止期間の変遷第3 平成27年大法廷判決の読み方第4 出生時期による父の推定と経過措置第5 戸籍・相談実務での手順第6 関連判例・記事と出典

女性の再婚禁止期間は令和6年4月1日から廃止された。ただし、過去の婚姻と出生を調べる際は、再婚禁止期間の適用には婚姻日、改正後の嫡出推定の適用には子の出生日をそれぞれ確認する必要がある。両者を同じ基準日で処理すると、戸籍上の父を誤るおそれがある。本稿は令和8年10月1日現在の法令・公的資料を基準に、国内法が適用される典型例を整理する。

第1 結論と確認する日付

最初に、前婚の解消・取消日、再婚の届出日、子の出生日を戸籍と出生証明書で確かめる。離婚後300日以内の出生か、出生時までに再婚していたかも確認する。懐胎時期、当事者の国籍、認知・養子縁組の有無、父と推定される者の生死は、争う手続を選ぶ段階で別に確認する。

令和6年4月1日以後の婚姻には、改正前民法733条の女性の再婚禁止期間は適用されない。一方、改正民法772条の新しい父の推定は、原則として同日以後に生まれた子に適用される(令和4年法律第102号附則3条)。したがって、令和6年3月31日以前に生まれた子の父を、後の改正規定だけで決め直すことはできない。

第2 再婚禁止期間の変遷
1 平成28年6月6日まで

改正前民法733条1項は、女性について前婚の解消又は取消しの日から6か月の再婚禁止期間を定めていた。これは当時の民法772条が、前婚解消後300日以内と後婚成立後200日を経過した後の出生について父の推定が重なる事態を避ける趣旨と説明されていた。ただし、旧733条2項には前婚解消前から懐胎していた場合の出産後の例外があった。

ただし、法定の6か月という文言と、平成27年12月16日の大法廷判決後の戸籍事務上の取扱いは区別する。同判決後、平成28年改正法の施行前であっても、前婚解消・取消しから100日を経過した婚姻届を受理するよう市区町村に通知された(法務省の判決後の取扱い)。この時期の個別の届出の成否は、届出日と不受理・受理の記録で確認する。

2 平成28年6月7日から令和6年3月31日まで

平成28年法律第71号は、再婚禁止期間を6か月から100日に短縮し、平成28年6月7日に公布・施行された。前婚解消・取消しの時に懐胎していなかった場合、又はその後に出産した場合には、100日以内でも同期間の規定を適用しない。期間内の婚姻届については、当時必要とされた証明資料を含め、法務省の平成28年改正案内と当時の戸籍記録を確認する。

3 令和6年4月1日以後

令和4年法律第102号により女性の再婚禁止期間は廃止された。この廃止は、法務省の改正の概要によれば、令和6年4月1日以後にされる婚姻に適用される。前婚解消から100日以内という理由だけで、現在の婚姻届を旧733条に基づいて拒むことはできない。

第3 平成27年大法廷判決の読み方

最高裁平成27年12月16日大法廷判決(平成25年(オ)第1079号)は、平成20年に離婚した女性が国に賠償を求めた事件である。判決は、当時の6か月の再婚禁止期間のうち100日を超える部分は、平成20年当時には憲法14条1項・24条2項に違反するに至っていたとした。他方、当時の100日以内の部分は違憲としなかった。これは令和6年の全面廃止後の現行法について、100日間の禁止を認めた判断ではない。

同判決は、立法不作為について国家賠償法1条1項上の違法性を否定し、賠償請求を棄却した。規定の違憲性と国家賠償責任は別の判断である。判決は、平成7年の第三小法廷判決について、国会が733条を改廃しなかった立法不作為が直ちに国家賠償法上違法となる例外的な場合に当たらないと判断したものと説明し、同判決が733条を合憲と判示したとは扱っていない。判決が挙げた医療・科学技術や社会状況の変化も、違憲性の判断時点を読む際の事情であり、個々のDNA鑑定だけで法律上の父を決める趣旨ではない。

第4 出生時期による父の推定と経過措置
1 令和6年4月1日以後に生まれた子

改正民法772条は、婚姻前に懐胎して婚姻成立後に生まれた子も、その婚姻の夫の子と推定する。同条3項は、懐胎から出生までに二以上の婚姻をした場合、出生の直近の婚姻の夫の子と推定する。したがって、前婚解消後300日以内であっても、母が再婚した後に生まれた子は、原則として再婚後の夫の子と推定される。再婚していなければ、300日以内の出生について前夫の子との推定が問題になる。裁判所の嫡出否認調停案内も両者を区別している。

2 令和6年3月31日以前に生まれた子

新772条は出生に遡って適用されず、旧法の父の推定を確認する。子と母には施行日から1年間、施行日前出生の子について嫡出否認の訴えを提起できる特例が設けられた(同法附則4条2項)。この特例期間は令和7年3月31日までで、現在は経過している。ただし、それだけで全ての親子関係の救済手段がなくなるわけではない。嫡出推定が及ばない事情があれば、親子関係不存在確認など別の手続が問題になり得る。父による否認も、施行日前出生の子には従前の例によるため、個別の起算点と期間を確認する。

3 推定と血縁が食い違う場合

嫡出推定が及ぶ父子関係は、科学的証拠で生物学上の父子関係がないことが判明しただけでは、親子関係不存在確認の訴えで争えない(最高裁平成26年7月17日判決)。改正後は、子・母・一定の場合の前夫にも嫡出否認権が認められ、原則的な出訴期間は3年である。子には一定の要件の下で21歳までの特則もある。申立権者、起算点、代理行使の可否及び例外を、裁判所の案内と適用される条文で確認する。

第5 戸籍・相談実務での手順

① 戸籍全部事項証明書、離婚・婚姻の各受理日、出生証明書を集め、婚姻日と出生日を別々に区切って適用法を特定する。推定が及ぶかは、前婚解消日から300日以内か、再婚の有無・時期、懐胎時の外形的事情を整理して判断する。

② 出生届をまだ出していない場合は、戸籍に載る父の見込みを戸籍窓口又は法務局に確認する。離婚後に懐胎したことが医師の証明書で明らかな場合など、嫡出推定が及ばないことが戸籍事務上明白なときには、裁判を経ずに元夫の子としない取扱いが可能な場合がある。詳しくは法務省の無戸籍に関するFAQを参照する。

③ 推定が及ぶ場合は嫡出否認、外形的事情により推定が及ばない場合は親子関係不存在確認など、手続の入口を分ける。家事調停の申立て、合意に相当する審判の可否、訴えの相手方と期間を事案ごとに確認する。裁判所の無戸籍者向け案内は手続の違いを説明している。

④ 国籍が絡む場合は準拠法を先に調べる。ここで述べた民法772条以下を全件に機械的に当てはめない。生物学上の父の認知、養子縁組、相続も別個に検討する。裁判で親子関係が争われている間も、私的なDNA鑑定の結果だけで戸籍を訂正したり相続人から除外したりしない。

第6 関連判例・記事と出典

法令:民法772条、774条、777条、778条の2及び令和4年法律第102号附則。改正の適用関係は法務省「民法等の一部を改正する法律について」及び同省「改正の概要」、平成28年改正は同省の案内で確認した。

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遺言を一部執行し残りを遺産分割協議で変更する場合―代償金・税務・信託銀行報酬(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論第2 最初に財産ごとに確認すること1 遺言による帰属と執行の対象2 遺言執行者の就職と契約上の範囲第3 協議の範囲と順序1 遺産全体について最初の協議をする場合2 金融資産を執行し,別の財産だけ協議する場合3 協議が成立しない場合4 遺言に金銭信託と放棄時の代替条項がある場合第4 代償金の性質と相続税1 真正な代償分割の場合2 評価方法による課税価格の違い第5 低額譲渡と評価される場合の税務第6 信託銀行報酬を含む三つの選択肢1 比較する三つの案2 報酬額と作業範囲を三列で照合する第7 協議書と税務申告に残す資料第8 関連記事第9 出典
第1 問題の所在と結論

遺言に預貯金・有価証券と不動産の取得者がそれぞれ指定されているとき,金融資産だけを遺言どおりに移し,不動産について相続人全員の協議で取得者を変更する案がある。この場合,金融資産を移した事実だけで不動産についての協議が無効になるわけではないが,「残りは未分割の遺産である」「代償金と書けば必ず相続税だけで済む」ともいえない。遺言の文言,遺産の帰属,遺言執行の進捗,協議の当事者と対象,金銭支払の実質を分けて確認する必要がある。

相続税について,国税庁の「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」は,「特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言」があり,相続人全員で異なる分割をした事例への回答である。複数の財産について取得者を定めた遺言の一部を執行し,別の財産だけについて協議する事例を直接扱っていない。この違いを踏まえずに贈与税の心配はないと断定すべきではない。

第2 最初に財産ごとに確認すること
1 遺言による帰属と執行の対象

まず,財産目録の各行について,①遺言のどの条項が取得者を定めるか,②遺言執行者は誰か,③実際に執行の対象となるか,④払戻し・名義変更・登記がどこまで進んだかを照合する。「その他一切の財産」などの残余財産条項も確認する。遺言の特定財産承継条項がある財産を,手続が済んでいないという理由だけで当然に未分割財産と扱うことはできない。

2 遺言執行者の就職と契約上の範囲

信託銀行が遺言で指定されていても,就職の有無,受任・辞退・辞任の段階,対象財産,すでに行った手続を確認する。銀行の一般的な案内でも,相続人と財産の状況を確認してから遺言執行者に就職し,調査対象は遺言執行対象財産に限ると説明されている(三菱UFJ信託銀行「お手続きの流れ」)。個別の遺言と契約の内容が優先するため,公開案内だけで当該銀行の義務や報酬を決めることはできない。

第3 協議の範囲と順序
1 遺産全体について最初の協議をする場合

相続人全員と必要な受遺者が,遺言と異なる取得関係を遺産全体について合意できる見込みがあるなら,執行前に協議書をまとめる方法がある。各財産の最終取得者,代償金,支払期限,費用負担,遺言執行者への連絡を一通の協議書と別紙財産一覧で示しやすい。ただし,遺言執行者が就職済みの場合はその権限との関係を先に整理し,銀行の辞退・辞任に要する条件と費用も確認する。

2 金融資産を執行し,別の財産だけ協議する場合

協議の対象を一部の財産に限ること自体は検討できるが,「遺言による金融資産の取得」と「別の財産の協議による取得」を時系列で説明できるようにする必要がある。協議書には対象財産と対象外財産を具体的に分け,先行する執行,遺言による取得,代償金の趣旨,残余財産の扱いを明記する。遺言で特定の人への帰属が既に定められている財産については,協議の名称だけで相続税上の取得原因まで確定するわけではない。

3 協議が成立しない場合

全員の合意が得られなければ,遺言の内容と遺言執行者の権限を基礎に手続を進めることになる。成立するか不明の段階で,協議が成立したことを前提に金融機関への指図,代償金の送金,登記を先行させるべきではない。法定の申告・登記の期限がある場合は,合意待ちと期限対応を別に管理する。

4 遺言に金銭信託と放棄時の代替条項がある場合

遺言に金融資産の取得者を指定するだけでなく,その一部から金銭信託を設定し,受益者が受益権を放棄したときの代替取得者まで定めている場合は,銀行の遺言執行サービスと信託法上の信託を分けて扱う。銀行に遺言執行を依頼しないだけでは,信託設定条項や代替条項は消えない。遺言による信託は遺言の効力発生により効力を生ずる(信託法4条2項)。受益権放棄は,受益者が信託行為の当事者である場合を除き,受託者への意思表示による(同法99条)。放棄時に別の相続人が金銭を取得する遺言なら,その者の金融資産の取得額も変わり得る。

受益権放棄後の課税は,遺言の代替条項に基づく被相続人からの取得か,成立後の信託に関する権利の移転かを検討する。相続税法9条の2及び国税庁の基本通達9の2関係を確認し,遺言全文,放棄の記録,銀行・受託者の地位,実際の金銭移動を税理士に示す。詳しくは遺言による金銭信託の受益権を放棄した場合を参照。

第4 代償金の性質と相続税
1 真正な代償分割の場合

国税庁の「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」は,現物を取得した人が他の共同相続人等に債務を負担する代償分割について,支払者の課税価格から代償財産の価額を控除し,受取者の課税価格に加算する取扱いを示す。代償金を支払者の固有の現金から出すこと自体は,この説明と矛盾しない。ただし,固有の現金で支払えば必ず代償分割になる,という意味ではない。代償金を支払うこと自体が贈与税を生じさせるわけでもない。代償金のない合意と代償金のある合意で,取得原因の判断を機械的に逆転させない。

民事上の代償金は,具体的相続分と現物取得額の差額と機械的に一致しなければならないものではない。寄与分・特別受益,評価の違い,紛争解決のための譲歩などを踏まえて合意する余地がある。一方,金額を自由に合意できるという民事上の問題と,その金銭が税務上も相続に伴う代償債務と認められるかという問題は別である。協議前に遺言で定められた帰属,遺産全体の取得額,評価資料,金額の算定経緯を確認する必要がある。

2 評価方法による課税価格の違い

代償金が対象財産の分割時の通常の取引価額を基に決められた場合,相続税の課税価格に算入する代償財産の額は,単純な支払額と異なり得る。国税庁No.4173は,相続開始時の相続税評価額と分割時の通常取引価額との割合を用いる例を示している。協議書には,時価,評価基準日,評価根拠,代償金の算定方法を残し,申告書との整合を税理士と確認する。

第5 低額譲渡と評価される場合の税務

遺言で特定の人が財産を取得した後,別の人に金銭と引換えに移したと評価されれば,後の移転は真正な代償分割と異なる課税関係になり得る。国税庁の「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」によれば,個人間で財産を著しく低い価額で譲り受けた場合,時価と対価との差額は贈与により取得したものとみなされる。判定は個々の事案による。法人向けの「時価の2分の1未満」という基準を,個人間取引の一律の安全基準にすることはできない。

土地については通常の取引価額がこの検討の出発点になる。ただし,見積もった時価から代償金を差し引いた全額が直ちに課税される,と計算することもできない。まず取得原因が相続に伴う分割なのか,遺言による取得後の有償移転なのかを検討し,土地の権利関係と評価の妥当性,遺産全体の配分と他の負担,金銭の実際の授受を調べる必要がある。有償移転と整理される場合には,譲渡した側の所得税・住民税の検討も別途必要となる。

第6 信託銀行報酬を含む三つの選択肢
1 比較する三つの案

①銀行が対象の金融資産について遺言を執行し,別財産は関係者が協議する案,②執行前に遺産全体について協議し,銀行の就職や対象変更を調整する案,③協議が不成立なら遺言どおり執行する案を並べる。①には金融機関との手続を任せる便益がある一方,協議書・登記・税務申告は別の担当者と費用が必要になり得る。②は法律関係を一通の協議書と一覧表で示しやすいが,全員の合意が前提である。③は合意不成立時の現実的な経路として残る。

2 報酬額と作業範囲を三列で照合する

報酬を比較するときは,①報酬計算の基礎に入る財産,②銀行が実際に執行する財産,③相続人・他の専門家に残る仕事と費用を分けて確認する。銀行が金融資産だけを扱うことが,直ちに不合理とはいえない。口座数や証券の種類,換価・送金の負担,銀行の専門性,合意成立の見込みによって便益が変わる。一方,高額の報酬に見合う作業がどこまで含まれるかは,個別契約で確かめなければならない。

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節税目的の養子縁組は無効か―最高裁平成29年1月31日判決と相続税上の養子数制限(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論第2 最高裁平成29年1月31日判決1 民法802条1号2 最高裁の判断3 動機と法律行為の意思を分ける第3 養子縁組の民法上の効果第4 相続税上の養子数制限1 民法上の相続人と相続税計算上の人数は同じとは限らない2 実子として扱われる養子がある3 相続税法63条による否認第5 孫養子と相続税額の2割加算第6 縁組意思をめぐる主張立証1 証拠化する事項2 意思能力と縁組意思は別に検討する第7 相続対策として検討する際の注意第8 出典・参考資料
第1 本記事の対象と結論

本記事は,相続税の節税を主な目的として行われた養子縁組が民法上無効となるかを,最高裁平成29年1月31日第三小法廷判決(平成28年(受)第1255号),現行民法及び相続税法から整理するものである。
法令及び国税庁資料の基準日は令和8年10月1日である。

最高裁は,節税の動機と縁組意思は併存し得るため,専ら相続税の節税目的で養子縁組をしたというだけで,直ちに民法802条1号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとはいえないとした。

もっとも,民法上の縁組が有効であることと,相続税計算で養子をどの範囲まで法定相続人の数に算入できるかは別問題である。
税務上は養子数の制限,相続税額の2割加算及び相続税法63条による否認可能性を分けて確認する必要がある。

第2 最高裁平成29年1月31日判決

1 民法802条1号

民法802条1号は,人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき,養子縁組を無効とする。
問題は,節税を目的とすることが,親子関係を作る意思と両立するかである。

2 最高裁の判断

最高裁は,養子縁組をすることによる相続税の節税効果を発生させることを動機として縁組をする場合でも,直ちに縁組意思がないとはいえず,節税の動機と縁組意思は併存し得るとした。
そして,専ら相続税の節税目的で縁組をしたというだけで,直ちに民法802条1号の無効事由に当たるとはいえないと判断した。

本判決は,「節税目的の養子縁組は常に有効」と判示したものではない。
個別の事実から当事者間に縁組意思がなかったと認められる場合は,同号による無効が問題となり得る。

3 動機と法律行為の意思を分ける

相続税額を下げたいという動機があっても,当事者が法律上の親子関係を成立させる意思を有していれば,両者は併存し得る。
逆に,届出の外形があり税務資料が作成されていても,当事者が親子関係を作る意思を欠いていたと立証されれば,縁組無効の余地は残る。

したがって,訴訟では「節税目的だったか」だけでなく,「届出時に法律上の親子関係を成立させる意思があったか」を,直接・間接事実から検討する。

第3 養子縁組の民法上の効果

民法809条は,養子が縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得すると定める。
そのため,普通養子は原則として養親の子として相続人となり,実親との親族関係も原則として残る。

養子縁組の有効性を検討するときは,縁組意思だけでなく,年齢,配偶者の同意,未成年者を養子とする場合の家庭裁判所の許可その他の成立要件を個別に確認する。
本判決は,これら他の要件を不要とするものではない。

第4 相続税上の養子数制限

1 民法上の相続人と相続税計算上の人数は同じとは限らない

相続税法15条2項は,遺産に係る基礎控除などの計算に用いる「相続人の数」について,一定の普通養子を算入できる人数を制限している。
国税庁の説明によれば,被相続人に実子がいる場合は1人まで,実子がいない場合は2人までが原則である。

この制限は,人数を超える養子縁組を民法上無効にする制度ではない。
養子が民法上の相続人であることと,相続税の基礎控除,生命保険金・死亡退職金の非課税限度額及び相続税総額の計算で何人を算入するかを分ける必要がある。

2 実子として扱われる養子がある

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国境を越えて連れ去られた子の意思と人身保護請求―情報環境・心理的影響と返還決定(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁平成30年3月15日判決
第3 年齢だけでは自由意思を判断できない
第4 情報環境と心理的影響を検討する
第5 人身保護請求における拘束と顕著な違法性
第6 ハーグ条約の返還決定との関係
第7 証拠収集と子への配慮
第8 申立て・防御のチェックリスト
第9 出典と確認範囲

国境を越えて連れ去られた子が同居親のもとに残りたいと述べていても,年齢と発言だけで自由意思による滞在と決めることはできません。最高裁平成30年3月15日判決は,子が多面的・客観的な情報を得ているか,同居親の心理的影響を受けていないかを具体的に検討しました。

第1 結論

子の意思を扱う実務では,次の三層を分けます。

子が言葉として何を述べているか。
その判断の前提となる情報が多面的・客観的だったか。
監護親への依存,情報遮断,反復説明その他の心理的影響により,発言が自由意思に基づかない状態になっていないか。

また,ハーグ条約実施法による子の返還手続は,監護権の最終的な帰属を決める手続ではありません。常居所地国へ子を返すかを判断する手続と,親権・監護権の本案を混同しないことが重要です。

第2 最高裁平成30年3月15日判決

最高裁判所第一小法廷平成30年3月15日判決は,国外への子の返還を命じる確定決定があるのに返還が実現していない事案で,人身保護請求の成否を判断しました。

最高裁は,意思能力のある子が監護親のもとにとどまる意思を示していても,子が自由意思に基づいてそこにいるとはいえない特段の事情があれば,監護親による「拘束」を認め得るとしました。そして,返還決定に従わない監護の継続について顕著な違法性を検討し,原審を破棄して差し戻しました。

第3 年齢だけでは自由意思を判断できない

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共同相続人間の無償の相続分譲渡と特別受益―相続放棄との違い,債務を含む評価及び遺留分(AI作成)

目次

第1 結論
第2 相続分譲渡と相続放棄は異なる
第3 最高裁平成30年10月19日判決
第4 債務を含む相続分の評価
第5 譲渡人の相続における特別受益
第6 旧法の遺留分減殺と現行法の遺留分侵害額請求
第7 証拠収集と主張の組立て
第8 実務チェックリスト
第9 出典と確認範囲

共同相続人間で相続分を無償譲渡した場合,「最初の相続の遺産分割から抜けただけ」と考えると,後に生じる譲渡人の相続で特別受益を見落とすことがあります。最高裁平成30年10月19日判決は,相続分が積極財産と消極財産を包括することを前提に,財産的価値がない場合を除き,無償譲渡を民法903条1項の贈与として扱いました。

第1 結論

共同相続人の一人が他の共同相続人へ相続分を無償で譲渡したときは,次の二つの相続を分けて検討します。

最初の相続では,譲受人が譲渡人の相続分を取得し,遺産分割に参加します。
譲渡人が後に死亡したときは,譲受人が譲渡人の相続人である場合,無償譲渡の財産的価値が特別受益として持戻しの対象になるかを検討します。

相続放棄とは効果も手続も異なります。評価に当たっては最初の相続の不動産・預貯金だけでなく,債務その他の消極財産も確認し,「額面上の相続分割合」をそのまま贈与額にしません。

第2 相続分譲渡と相続放棄は異なる

相続分譲渡は,共同相続人が遺産全体に対して有する包括的な持分を他人へ移す行為です。遺産分割前に,共同相続人間で行われることも,第三者に対して行われることもあります。

これに対し,相続放棄は,家庭裁判所への申述によって初めから相続人でなかったものと扱われる制度です。原則として自己のために相続開始があったことを知った時から3か月以内という熟慮期間があり,単なる合意書への署名では足りません。

「私は遺産を要らない」との家族内合意が,相続放棄,相続分譲渡,遺産分割で取得をゼロとする合意のどれに当たるのかを,書面の題名だけでなく,作成時期,家庭裁判所の受理の有無,対価及び当事者の行動から確定します。

第3 最高裁平成30年10月19日判決

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性別の取扱いの変更審判―生殖不能要件違憲決定後の要件・申立て・必要資料(AI作成)

目次

第1 最高裁令和5年10月25日大法廷決定の結論第2 現在の要件をどう読むか第3 外観要件は別問題である第4 申立人・管轄・費用第5 申立てに必要な書類第6 申立て前の確認手順第7 審判後の取扱い第8 実務上の注意点第9 出典と確認範囲

最高裁大法廷は,令和5年10月25日,性別の取扱いの変更審判について,生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠くことを求める要件を憲法13条に違反し無効と判断しました。ただし,外観要件まで多数意見が無効と判断したわけではありません。申立てでは,最高裁決定が無効とした要件,現在も裁判所案内に掲げられている要件,必要書類を分けて確認する必要があります。

第1 最高裁令和5年10月25日大法廷決定の結論

最高裁令和5年10月25日大法廷決定(令和2年(ク)第993号)は,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号の生殖不能要件を,憲法13条に違反し無効としました。

最高裁は,医学的知見の進展により,必要な治療を受けたかどうかが性別適合手術の有無だけで決まるものではなくなったと指摘しました。その上で,生殖腺除去手術を受けるか,性自認に従った法令上の性別の取扱いを受ける重要な法的利益を断念するかという過酷な二者択一を迫ることは,必要かつ合理的な制約ではないと判断しました。

条文が形式上残っていても,違憲無効とされた生殖不能要件を満たさないことを理由に性別変更審判を拒むことはできません。

第2 現在の要件をどう読むか

裁判所の「性別の取扱いの変更」案内は,令和8年10月1日現在,次の事項を掲げています。

2人以上の医師により,法律上の「性同一性障害者」に該当すると診断されていること
18歳以上であること
現に婚姻していないこと
現に未成年の子がいないこと
生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること

このうち5番目の生殖不能要件について,裁判所案内自体が,最高裁大法廷決定により憲法13条に違反し無効と判断されたと注記しています。実務では,単に条文又は古い書式を読むのではなく,この違憲無効判断を反映して要件を整理します。

第3 外観要件は別問題である

同法3条1項5号の外観要件は,「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」を求めます。令和5年大法廷決定の多数意見は,原審がこの要件に関する申立人の主張を判断していなかったため,更に審理させる目的で事件を原審に差し戻しました。

反対意見には外観要件も違憲無効とする見解がありますが,多数意見の判断ではありません。現在の裁判所案内も外観要件を掲げています。そのため,「最高裁決定により性別適合手術に関する要件はすべてなくなった」と説明するのは正確ではありません。

外観要件への該当性,必要な医療資料及び申立先家庭裁判所の運用は,申立て時点で個別に確認します。令和5年大法廷決定後の差戻審や下級審実務を援用する場合は,報道や二次資料だけでなく,入手可能な裁判書本文で射程を確認する必要があります。

第4 申立人・管轄・費用

申立人:性別の取扱いの変更を求める本人です。
申立先:申立人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

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養子縁組無効確認の訴えの利益―包括受遺者・相続人と最高裁平成31年3月5日判決(AI作成)

目次

第1 結論第2 養子縁組無効確認の訴えの入口1 無効事由と訴えの利益は別問題である2 判例が用いる基準第3 最高裁平成31年3月5日判決1 事案と原審の判断2 最高裁の判断3 民法990条との関係第4 包括受遺者・相続人・親族の区別1 包括受遺者2 相続人たる地位3 親族であることだけでも足りない第5 財産紛争との手続の切り分け第6 受任時の確認順序第7 本判決を使うときの注意第8 出典と確認状況1 一次資料2 専門誌目次で所在を確認した資料3 判例秘書
第1 結論

養子縁組無効確認の訴えを提起できるかは,その人が養子縁組の無効によって自己の身分関係上の地位に直接影響を受けるかで判断する。相続財産全部の包括受遺者であり,養子から遺留分請求を受ける可能性があるという財産上の利害だけでは,訴えの利益は直ちに認められない。

最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決は,包括受遺者が常に養子縁組無効確認の訴えを提起できないとしたものではない。「包括受遺者である」という事実だけでは足りず,別に身分関係上の地位への直接影響があるかを検討すべきであるとした判決である。

第2 養子縁組無効確認の訴えの入口

1 無効事由と訴えの利益は別問題である

民法802条は,当事者間に縁組をする意思がないときなどを養子縁組の無効事由として定める。しかし,養子縁組に無効事由があるかという本案の問題と,ある第三者がその無効確認を求められるかという訴えの利益の問題は別である。

無効の主張が実体的に正しくても,原告が身分関係上の地位に直接影響を受けないなら,養子縁組無効確認の訴えは不適法となり得る。そのため,証拠収集より前に原告適格・訴えの利益を点検する必要がある。

2 判例が用いる基準

最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決(平成30年(受)第1197号)は,最高裁昭和63年3月1日第三小法廷判決(昭和59年(オ)第236号,民集42巻3号157頁)を参照し,養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けない者は,訴えにつき法律上の利益を有しないとした。

この基準では,原告が縁組当事者の財産に経済的利害を有するかだけでなく,養子縁組の存在又は不存在が原告自身の親族関係,相続人たる地位その他の身分関係を直接変えるかを確認する。

第3 最高裁平成31年3月5日判決

1 事案と原審の判断

原告は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者であった。原審は,原告が養子から遺留分減殺請求を受け得ることなどから,養親の相続に関する法的地位を有し,養子縁組無効確認の訴えの利益があるとした。

2 最高裁の判断

最高裁は,遺贈は遺言によって受遺者に財産権を与える意思表示であり,包括受遺者が養子から遺留分減殺請求を受けるとしても,養子縁組の無効によって影響を受けるのは財産上の権利義務にすぎないとした。

原告は養親との親族関係がなく,養子の側とも義兄という2親等の姻族関係があるにすぎなかった。そのため,養子縁組の無効により自己の身分関係上の地位に直接影響を受けず,訴えの利益を有しないと判断した。最高裁は原判決を破棄し,訴えを却下した第1審判決を維持する自判をした。

3 民法990条との関係

民法990条は,包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有すると定める。しかし,同条により包括受遺者が相続財産に関して相続人に近い地位を持つことと,身分訴訟の訴えの利益を有することは同じではない。

包括受遺者という財産法上の地位を,身分関係上の地位と読み替えないことが本判決の要点である。

第4 包括受遺者・相続人・親族の区別

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財産分与審判で不動産の明渡しも命じられる場合―家事事件手続法154条2項4号と最高裁令和2年8月6日決定(AI作成)

第1 結論とこの記事の対象第2 最高裁令和2年8月6日決定の事案1 争われた点2 原審と最高裁の結論第3 明渡しを命じる法的根拠1 家事事件手続法154条2項4号2 財産分与を実効的にするための給付命令第4 命令できる場合とできない場合を分ける1 最高裁が示した場合2 当然に明渡しが命じられるわけではない3 第三者占有等は別に検討する第5 申立て・主張・証拠の組み立て1 対象不動産と占有関係を特定する2 分与の帰属と明渡しの必要性を一体で示す3 金銭給付・住宅ローン・明渡時期を調整する第6 審判後と強制執行を見据えた確認事項第7 関連記事第8 出典・確認状況

離婚後の財産分与審判で、夫婦の一方名義の不動産を他方が占有し、その不動産を占有者へ分与しないと判断される場合、家庭裁判所は、必要があると認めれば、占有者に対して名義人への明渡しを命じることができます。
最高裁令和2年8月6日第一小法廷決定は、明渡しは必ず民事訴訟で別に請求しなければならないという原審の理解を否定しました。ただし、財産分与審判をしただけで明渡命令が当然に付くという判断ではありません。

第1 結論とこの記事の対象

実務上の要点は、財産分与の対象・帰属・評価だけでなく、審判後に誰が不動産を占有し、どの給付を命じなければ判断した権利関係を実現できないかまで申立て段階から示すことです。

本記事は、離婚した当事者間の財産分与審判において、一方当事者名義の不動産を他方当事者が占有している場合を対象とします。賃借人、同居親族、会社その他の第三者が占有している場合や、所有権自体が第三者との間で争われている場合は、別の手続・当事者・請求原因を検討する必要があります。

第2 最高裁令和2年8月6日決定の事案
1 争われた点

抗告人と相手方は平成12年に婚姻し、平成29年に離婚しました。婚姻中に協力して得た財産として抗告人名義の建物等があり、その建物を相手方が占有していました。

財産分与の審判で、家庭裁判所がその建物を相手方へ分与しないと判断した場合に、家事事件手続法154条2項4号に基づいて、相手方に対し抗告人への建物明渡しを命じることができるかが争点となりました。

2 原審と最高裁の結論

原審は、明渡請求は所有権に基づくものとして民事訴訟で審理判断されるべきであり、家事審判では命じることができないとしました。

最高裁は、この判断を破棄し、東京高裁へ差し戻しました。財産分与の内容に沿った権利関係を実現するため必要と認められるときは、家庭裁判所が財産分与審判の中で明渡しを命じることができるとしたためです。

第3 明渡しを命じる法的根拠
1 家事事件手続法154条2項4号

家事事件手続法154条2項は、財産分与に関する処分の審判を含む一定の審判で、当事者に対し、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命じることができると定めています。

財産分与については、民法768条により、家庭裁判所が分与の額だけでなく方法も定めます。令和8年4月1日以後に離婚した場合は、離婚後に財産分与を求められる期間が原則5年となっており、同日前に離婚した場合の原則2年とは異なります。

2 財産分与を実効的にするための給付命令

最高裁は、財産分与審判が分与の要否・額・方法を定めるだけにとどまると、当事者は、その内容に沿った権利関係を実現するため、審判後に改めて給付訴訟等を提起しなければならないと指摘しました。

同号は、この迂遠な手続を避け、財産分与審判を実効的なものとする趣旨です。条文は、財産を他方へ分与する場合だけに給付命令を限定していません。そのため、他方当事者へ分与しない財産についても、判断した権利関係の実現に必要な給付を命じることができます。

第4 命令できる場合とできない場合を分ける
1 最高裁が示した場合

最高裁が明示したのは、①当事者双方が婚姻中の協力によって得た財産であり、②一方当事者の所有名義の不動産を、③他方当事者が占有し、④その不動産を他方当事者へ分与しないと判断した場合です。この場合に、その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認められれば、他方当事者に名義人への明渡しを命じることができます。

2 当然に明渡しが命じられるわけではない

決定の文言は「命ずることができる」であり、「必ず命じなければならない」ではありません。明渡しの必要性、分与する金銭との関係、転居準備の要否、子その他の同居者の生活、合意や使用権原の有無など、個別事情に即した審理が必要です。

また、最高裁は原審を破棄して差し戻したものであり、自ら具体的な明渡時期や条件を定めたものではありません。破棄差戻しという手続結果と、差戻審での最終的な給付内容を混同しないことが必要です。

3 第三者占有等は別に検討する

同決定は、財産分与審判の当事者である元配偶者が占有していた事案です。第三者が独自の賃借権その他の権原を主張する場合、抵当権実行や任意売却が予定される場合、共有者がいる場合には、その第三者の手続保障と権利関係を別に検討します。

財産分与審判の給付命令を、審判当事者でない者に対する一般的な明渡命令として扱うことはできません。

第5 申立て・主張・証拠の組み立て
1 対象不動産と占有関係を特定する

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無権代理人が本人を共同相続した場合―追認権,相続分と信義則(最高裁平成5年1月21日判決)(AI作成)

目次第1 結論第2 最高裁平成5年1月21日判決の事案第3 無権代理と追認の基本第4 無権代理人が本人を共同相続した場合第5 単独相続の場合との違い第6 当事者別の主張立証1 相手方・債権者側2 無権代理人以外の共同相続人側3 無権代理人側第7 保証・担保設定・売買での実務チェック第8 反対意見と判決の読み方第9 関連記事第10 出典と確認状況

無権代理人が本人を他の相続人と共同相続したとき,無権代理人の相続分だけ契約が当然に有効になるのか,追認権は誰が行使するのかを,最高裁平成5年1月21日第一小法廷判決の全文に基づいて整理する。法令は令和8年10月1日現在の民法を前提とする。

第1 結論

① 無権代理人が本人を他の相続人と共同相続した場合,追認権は,その性質上,共同相続人全員に不可分的に帰属する。
② 共同相続人全員が共同して追認しない限り,無権代理行為は本人との関係で有効にならない。
③ 無権代理人が承継した相続分に相当する部分だけが,何らの追認もなく当然に有効になるものでもない。
④ ただし,無権代理人以外の共同相続人全員が追認した場合に,無権代理人だけが追認を拒むことは,信義則上許されないことがある。
⑤ したがって,「無権代理人も相続人になった」という一事だけで債務の一部を認めたり否定したりせず,共同相続人の範囲,各人の追認・追認拒絶の意思表示,その時期及び信義則を基礎付ける事実を分けて確認する必要がある。

第2 最高裁平成5年1月21日判決の事案

本人の子は,本人から代理権を与えられていないのに,預かっていた本人の実印を用い,本人名義で850万円の貸金債務を連帯保証する契約を締結した。本人はその後死亡し,妻と無権代理人である子が各2分の1の割合で共同相続した。

原審は,無権代理人が相続した本人の地位の限度では,本人が自ら契約したのと同様の効果が生じるとして,無権代理人に請求額の2分の1を支払うよう命じた。

最高裁はこの判断を破棄し,請求を棄却した。共同相続人全員による追認の主張立証がない以上,無権代理人の2分の1の相続分に相当する部分についても,連帯保証契約が当然に有効になったとはいえないとしたためである。

第3 無権代理と追認の基本

民法113条1項は,代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は,本人が追認をしなければ本人に対して効力を生じないと定める。追認は,相手方に対してしなければ,相手方が追認の事実を知ったときを除き,相手方に対抗することができない(同条2項)。

相手方は,本人に対し,相当の期間を定めて追認するかどうかを確答するよう催告でき,期間内に確答がなければ追認を拒絶したものとみなされる(民法114条)。本人が追認しない間,相手方は,契約時に無権代理であることを知っていた場合を除き,契約を取り消すことができる(同法115条)。

無権代理人は,代理権を証明し,又は本人の追認を得た場合を除き,相手方の選択に従い,履行又は損害賠償の責任を負う(民法117条1項)。もっとも,相手方の悪意・過失や無権代理人の行為能力について同条2項の例外がある。本人に対する契約上の請求と無権代理人に対する117条の請求は,根拠と要件を分けて検討する必要がある。

第4 無権代理人が本人を共同相続した場合

最高裁は,追認には,本人に対して効力を生じていなかった法律行為を,本人との関係で有効にする効果があることを出発点とした。そのため,共同相続が生じたときの追認権は,相続分に応じて分割される金銭債権のようなものではなく,共同相続人全員に不可分的に帰属するとした。

この不可分性から,次の順序で結論が導かれる。

本人が死亡し,追認権を複数の相続人が承継する。
共同相続人全員が共同して追認権を行使しない限り,無権代理行為は有効にならない。
無権代理人が共同相続人の一人であっても,その相続分だけが当然に有効になるわけではない。
他の共同相続人全員が追認した場合には,無権代理人だけの追認拒絶が信義則に反しないかを検討する。

連帯保証債務が相続により法定相続分に応じて承継され得ることと,追認前の無権代理行為が相続分の限度で当然に有効になるかは別問題である。まず契約が本人との関係で有効になったかを確定し,その後に相続による債務承継を検討する。

第5 単独相続の場合との違い

無権代理人が本人を単独相続した場合については,最高裁昭和40年6月18日第二小法廷判決(民集19巻4号986頁)が,本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じるとした。

共同相続の場合には,無権代理人以外の相続人が本人の保護のための追認権を承継している。無権代理人の事情だけで契約の一部を有効とすると,他の相続人の追認権を害するため,平成5年判決は単独相続の法理をそのまま相続分ごとに分割して適用しなかった。

したがって,相続関係の調査では,戸籍により法定相続人を確定するだけでなく,相続放棄,相続分の譲渡,遺産分割,数次相続及び遺言の有無を確認し,追認時点で追認権を有する者を確定する必要がある。

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有責配偶者からの離婚請求―別居期間は何年なら認められるのか,最高裁平成2年11月8日判決から考える(AI作成)

目次

第1 昭和62年大法廷判決の基本枠組み
第2 最高裁平成2年11月8日判決
第3 別居年数だけでは決まらない
第4 判断の基準時は現在に近い
第5 離婚請求者側の主張立証
第6 相手方配偶者側の主張立証
第7 有責性と財産・生活保障を混同しない
第8 受任時のチェックリスト
第9 現行民法との関係
第10 出典及び確認状況

不貞行為や一方的な別居等によって婚姻関係の破綻について主として責任を負う配偶者から離婚を請求する場合,「別居が何年続けば離婚できるか」という質問を受けることが多い。しかし,最高裁判例は,別居期間だけで自動的に結論を出す年数基準を採用していない。

最高裁昭和62年9月2日大法廷判決が示した枠組みを前提に,最高裁平成2年11月8日判決は,原審が約8年の別居期間を短いとした判断を破棄し,口頭弁論終結時の事情を十分に審理すべきであるとした。重要なのは,別居年数,夫婦の年齢・同居期間,未成熟子の有無,離婚後の生活の苛酷性及び離婚請求者が行ってきた経済的配慮等を総合することである。

第1 昭和62年大法廷判決の基本枠組み

最高裁大法廷昭和62年9月2日判決・昭和61年(オ)第260号は,有責配偶者からの離婚請求であっても,夫婦が相当の長期間別居し,その間に未成熟の子が存在せず,相手方配偶者が離婚によって精神的,社会的又は経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等の著しく社会正義に反する特段の事情がないときは,請求を認容し得るとした。

「相当の長期間」は固定された年数ではない。夫婦の年齢,同居期間,別居に至った経緯,別居後の交流及び生活関係等と比較して評価される。未成熟子がいるか否かも重要であるが,それだけが独立した機械的要件ではなく,子の監護・生活の実情を含む全体事情の中で検討される。

第2 最高裁平成2年11月8日判決

最高裁第一小法廷平成2年11月8日判決・平成元年(オ)第1039号は,有責配偶者である夫からの離婚請求について,原審が,別居期間約8年は同居期間及び当事者の年齢との対比で短く,請求は許されないと判断した事案である。

最高裁は,別居期間が約8年に及んでいること等を踏まえ,別居期間だけを形式的に比較して請求を排斥するのではなく,原審口頭弁論終結時における諸事情を審理判断すべきであるとした。そして,離婚により相手方配偶者が精神的,社会的又は経済的に極めて苛酷な状態に置かれるか等の点について審理が尽くされていないとして,原判決を破棄し,事件を原審へ差し戻した。

この判決は,「別居8年なら必ず離婚が認められる」としたものではない。最高裁は離婚を自判で認容せず,総合判断に必要な事実の審理が不足しているとしたのである。

第3 別居年数だけでは決まらない

別居期間は重要な事情であるが,開始日と年数を数えるだけでは足りない。次の事情を同じ時間軸に並べる必要がある。

① 婚姻日,同居期間及び実質的に共同生活が失われた時期
② 別居開始の経緯,別居を継続させた事情及び修復に向けた協議
③ 当事者の年齢,健康状態,就労能力及び収入
④ 未成熟子の年齢,監護状況,教育費及び親子交流

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死亡直前の生命保険金受取人変更は有効か―意思能力,本人確認,変更請求書,保険会社の記録及び立証方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 受取人変更の法律上の要件1 生命保険契約2 保険者への通知と到達時期3 被保険者の同意4 古い契約と約款第3 意思能力と署名の真正は別の争点である第4 保険会社から収集する資料第5 医療・介護記録と関係者の供述第6 変更前後の経過を一つの時系列にする第7 争う側・有効性を主張する側の進め方第8 遺言による変更及び特別受益との区別第9 出典・参考資料

死亡直前に生命保険金受取人が変更されている場合,変更後の受取人が保険金を受け取ったという結果だけで有効性を判断することはできない。契約者による変更の意思表示,保険者への通知,被保険者の同意,意思能力及び署名・手続の真正を分け,変更請求書,受付記録,通話録音,本人確認資料,担当者記録及び診療録を時間順に照合する必要がある。

第1 この記事の対象と結論

本記事は,保険契約者が生前に生命保険金受取人を変更したとされる場面を扱う。遺言による受取人変更は別の要件があるため,第8で区別する。

主な検討順序は,次のとおりである。

契約日,保険種類,契約者,被保険者,変更前後の受取人及び約款を確定する。
誰が,いつ,どの方法で変更の意思表示をしたかを確定する。
保険者へ通知が到達した日時と,死亡等の保険事故の日時を比較する。
被保険者の同意が必要な契約では,その有無と時期を確認する。
変更時の意思能力と,署名・押印・オンライン操作を本人が行ったかを別々に検討する。

保険会社所定の書式や本人確認手続を経ていることは有効性を支える重要な事情になり得るが,それだけで意思能力又は本人性に関する反対証拠が排除されるわけではない。他方,死亡直前という時期だけで直ちに無効になるものでもない。

第2 受取人変更の法律上の要件
1 生命保険契約

保険法43条1項は,保険契約者は保険事故が発生するまでは保険金受取人を変更できると定める。同条2項によれば,受取人変更は保険者に対する意思表示によってする。ただし,契約上の権利関係は契約日,保険種類,約款及び特約によって確認する必要がある。

2 保険者への通知と到達時期

保険法43条3項は,受取人変更の意思表示が保険者に到達した場合,その通知を発した時に遡って効力を生ずるとする。ただし,その到達前に保険者が変更前の受取人へ保険給付をしたときは,その給付の効力を妨げない。

したがって,変更請求書の日付だけでなく,投函又は送信の日時,保険会社の受付日時,審査完了日,変更通知の発送日及び被保険者の死亡日時を分けて確認する。電話で問い合わせただけなのか,変更の意思表示として受け付けられたのかも記録から判断する。

3 被保険者の同意

保険法45条は,他人を被保険者とする死亡保険契約において保険金受取人を変更する場合,原則として被保険者の同意を要求する。契約者と被保険者が同一人か,別人かを先に確認し,同意書,電話確認又はオンライン記録の有無を調べる。

4 古い契約と約款

保険法は平成22年4月1日に施行された。施行前に締結された契約については,経過措置,旧商法及び約款が問題となることがある。現在の保険法の条文だけで処理せず,契約締結時と変更時の約款を取り寄せる。

第3 意思能力と署名の真正は別の争点である

民法3条の2は,法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は無効とすると定める。受取人変更でも,変更の意味と結果を理解して判断できたかが問題となる。

意思能力の有無と,変更請求書等を本人が作成又は承認したかは別の争点である。本人に判断能力があっても第三者が無断で署名した可能性はあり,反対に,身体が不自由で代筆を用いたことだけで本人の意思が否定されるわけでもない。次の事項を分けて整理する。

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賃貸アパートの所有者が死亡した直後の相続実務―家賃,管理会社,敷金,火災保険,修繕及び税務(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 最初に確認する権利関係1 遺言書,登記及び相続人を確認する2 遺言執行者の有無と権限を確認する第3 死亡後の家賃は誰に帰属するか1 遺産分割前の賃料債権2 遺言で取得者が定まっている場合3 管理口座と精算表を分ける第4 管理会社及び入居者への連絡第5 敷金,修繕及び賃貸借契約1 敷金返還債務2 必要な修繕と大きな方針変更3 新規契約,更新及び解約第6 火災保険その他の継続契約

1 契約の存続と支払方法を分ける
2 賃貸物件に付随する契約と貸与設備

第7 所得税及び相続税1 準確定申告2 死亡後の不動産所得3 相続税申告第8 実務上の進め方第9 出典・参考資料

賃貸アパートの所有者が死亡した直後は,所有権の承継だけでなく,毎月発生する家賃,管理会社との委託関係,入居者から預かった敷金,修繕,火災保険及び税務を止めずに処理する必要がある。本記事は,相続開始直後から遺産分割又は遺言執行が落ち着くまでに確認すべき事項を,民法,最高裁判例,国税庁及び保険会社の公表資料に基づいて整理する。

第1 この記事の対象と結論

最初にすべきことは,管理会社へ一人の相続人を新所有者として届け出ることではない。①遺言書の有無と内容,②法定相続人,③土地・建物の登記,④賃貸借契約及び管理委託契約,⑤家賃の入金口座,⑥敷金台帳,⑦借入金,⑧火災保険,⑨遺言執行者の指定及び就職の有無を確認する必要がある。

権利関係が確定するまでの間も,入居者の安全確保,漏水等の緊急修繕,家賃の受領及び帳簿の保存は必要である。そこで,相続人間で暫定的な管理担当者,入金口座,支出の範囲及び報告方法を文書で定め,所有権の帰属,収益の帰属及び管理実務を混同しないことが重要である。

第2 最初に確認する権利関係
1 遺言書,登記及び相続人を確認する

民法896条によれば,相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。共同相続の場合,相続財産は相続人の共有に属する(民法898条)。もっとも,特定の不動産を特定の相続人に相続させる遺言,遺贈又は遺産分割方法の指定がある場合には,法定相続分だけを前提に管理を始めることはできない。

登記事項証明書だけでは,相続開始後の実体上の帰属まで分からない。遺言書,戸籍,固定資産課税資料,売買契約書,借地契約書,金融機関の担保資料及び遺産分割協議の有無を合わせて確認する。土地と建物の承継先が異なる可能性があるときは,建物所有者が土地を使用する根拠と条件も別に確認する。

2 遺言執行者の有無と権限を確認する

遺言執行者が指定されていても,指定された者が就職を承諾して任務を開始したかは別に確認する。遺言執行者の権限は,遺言の内容と対象財産の範囲によって決まる。遺言執行者であることだけから,遺言の対象外の賃貸物件について恒常的な管理,賃貸借の更新又は売却を当然に行えるとは限らない。

相続人が管理する場合も,遺言執行者が管理する場合も,管理会社に対しては,戸籍又は法定相続情報一覧図,遺言書,遺言執行者の就職通知,登記事項証明書等のうち何を提出したかを記録し,誰がどの権限で指示を出しているかを明確にする。

第3 死亡後の家賃は誰に帰属するか
1 遺産分割前の賃料債権

最高裁判所第一小法廷平成17年9月8日判決は,遺産である賃貸不動産から相続開始後に生じた賃料債権は遺産とは別個の財産であり,各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,後の遺産分割の影響を受けないとした。

したがって,遺言等によって取得者が定まっていない未分割の賃貸不動産について,一人の相続人が管理上まとめて家賃を受領しても,その全額がその相続人の固有収入になるわけではない。後日の精算に備え,月別・物件別に収入,管理料,修繕費,固定資産税その他の支出を記録する必要がある。

2 遺言で取得者が定まっている場合

特定財産承継遺言等により相続開始時から不動産の取得者が定まる場合は,前記判決が扱った未分割共有の事案と同じ処理になるとは限らない。遺言の文言,遺留分侵害額請求の有無,登記及び賃貸借契約上の地位を確認した上で,死亡後の家賃の帰属を判断する。

3 管理口座と精算表を分ける

実務上,一つの口座で家賃を受領すること自体はあり得るが,管理の便宜と最終的な権利帰属は別である。被相続人の死亡後に凍結される可能性がある口座へ入金を続けるのか,新たな管理口座を用いるのかを金融機関及び管理会社と確認し,口座変更の通知,入金開始月及び入居者ごとの未収額を保存する。

第4 管理会社及び入居者への連絡

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認知症者が第三者に損害を与えた場合の家族・成年後見人等の責任―民法714条とJR東海事件(AI作成)

目次

第1 結論
第2 民法713条・714条・709条の関係
第3 JR東海事件の事案と結論
第4 家族・成年後見人が当然に責任を負うわけではない
第5 法定監督義務者に準ずべき者の判断要素
第6 民法709条による自己の過失責任
第7 被害者側・家族側の主張立証
第8 成年後見制度改正との関係
第9 確認資料と未確認事項

認知症その他の精神上の障害により責任能力を欠く人が第三者へ損害を与えても,同居の配偶者,子又は成年後見人が,その肩書だけで民法714条の賠償責任を負うわけではありません。

最高裁平成28年3月1日判決は,まず法定の監督義務者に当たる法的根拠を確認し,それがない場合には,監督を引き受けたと評価できる特段の事情があるかを具体的な生活・介護状況から判断するという枠組みを示しました。もっとも,家族自身に具体的な危険を防止すべき注意義務違反があれば,民法709条の責任が別に問題となります。

第1 結論

本人に責任能力がなければ,本人は民法713条により原則として賠償責任を負いません。
民法714条は,責任無能力者を監督する法定の義務を負う者又は法定の監督義務者に代わって監督する者の責任を定めます。
配偶者,子,成年後見人又は介護に関与する親族というだけで,当然に714条責任を負うものではありません。
法定の監督義務者でなくても,監督を引き受けたとみるべき特段の事情がある者には,714条1項が類推適用されることがあります。
714条の責任主体でなくても,家族又は事業者自身の具体的な過失があれば,709条責任は別に成立し得ます。

第2 民法713条・714条・709条の関係
1 本人の責任能力―民法713条

民法713条本文は,精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態で他人に損害を加えた者は,賠償責任を負わないと定めています。診断名だけで決まるものではなく,加害行為時に,当該行為の責任を理解する能力があったかが問題です。

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相続した株式を遺言執行者が売却した場合の税金―法定相続分による申告と確定申告の方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論3 最初に確認する順序第2 誰が譲渡所得を申告するか1 国税庁が法定相続分による申告とした事例2 法定相続分が常に結論となるわけではないこと3 遺言執行者本人の所得にはならないこと4 売却後に疑問が生じた場合第3 各相続人の譲渡所得の計算1 基本式と按分2 取得費は相続税評価額ではないこと3 相続税の取得費加算は各人ごとに計算すること4 上場株式等と一般株式等を分けること5 税率第4 遺言執行者が作成・交付する資料1 共通計算書2 各人に渡す資料3 売却代金の分配と所得税第5 各相続人による確定申告の具体的方法1 申告前の準備2 確定申告書等作成コーナー又はe-Taxを利用する場合3 書面で提出する場合4 申告期限と納付第6 計算例1 法定相続分で申告する例2 分配割合と申告割合が異なる可能性第7 特に注意を要する場合1 特定口座と源泉徴収2 NISA口座の株式3 譲渡損失4 相続した非上場株式を発行会社へ売る場合5 限定承認,国外居住者及び外国証券第8 関連する記事1 遺言執行者による換価実務2 換金指定のある遺言と現物取得第9 出典1 法令2 国税庁の質疑応答・解説・手引き3 研究資料
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

本記事は,被相続人が所有していた株式を遺言執行者が売却し,その代金を相続人又は受遺者に分配する場面を対象とする。
遺言執行者が売却名義人であるため遺言執行者が一括して申告するのか,各相続人が法定相続分で申告するのか,遺言で定めた分配割合によるのかが問題となる。

2 結論

国税庁の質疑応答事例には,遺言執行者が遺産である不動産及び有価証券を換価した事案について,譲渡所得は法定相続分に応じて各相続人が申告するとしたものがある。
したがって,当該事例と同様に,売却時まで株式が共同相続人に帰属し,遺言執行者の処分の効果が相続人に直接生ずると整理できる事案では,各相続人が法定相続分に応じて確定申告するのが基本となる。遺言執行者が遺言執行者名義で一括申告するものではない。
もっとも,この結論は遺言執行者が売却したという一点だけから常に導かれるものではない。遺言が特定の者に換価代金のみを遺贈する趣旨か,包括遺贈か,相続分又は遺産分割方法を指定したものかによって,売却時の権利帰属と所得の帰属が異なり得る。

3 最初に確認する順序

①遺言の全文と遺言執行者の権限,②売却時に株式が誰に帰属していたか,③譲渡所得の申告者と割合,④各人に配分する売却代金・取得費・売却費用,⑤各人固有の取得費加算・損益通算等の順に確認する。
分配割合をそのまま申告割合と考えたり,相続税評価額を取得費と考えたりすると誤りやすい。

第2 誰が譲渡所得を申告するか
1 国税庁が法定相続分による申告とした事例

国税庁「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」は,遺言執行者が遺産である不動産及び有価証券を売却した事例について,遺産の換価処分は遺言執行者の職務として行われ,その権限内の行為は相続人に直接効力を生ずることを理由に,「法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があります」と回答している。
この事例に従う場合,各相続人は自分の法定相続分だけを自分の確定申告書に計上する。遺言執行者は,各人が同じ基礎資料に基づいて申告できるように,共通の計算書と証拠資料を交付する。

2 法定相続分が常に結論となるわけではないこと

前記の国税庁ページは,照会された事実関係を前提とする一般的な回答であり,具体的な取引では異なる課税関係が生ずることがあると明記している。
小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」(税務大学校論叢85号)は,換価遺言を一律に捉えず,不特定物である金銭の遺贈,包括遺贈又は相続分・遺産分割方法の指定のいずれと解するかを検討する必要があるとする。そして,金銭の遺贈と解される類型では,受遺者を譲渡所得の納税義務者とする見解を示している。
これは税務大学校の研究論文であり,前記の質疑応答事例と同じ位置付けの公式回答ではない。しかし,遺言の型によって納税義務者の検討が変わることを示す重要な資料である。

3 遺言執行者本人の所得にはならないこと

遺言執行者は,遺言の内容を実現するために株式を管理・処分する者であり,売却代金を自分のために取得する者ではない。
したがって,遺言執行者が注文を出し,売却代金を遺言執行者名義の管理口座で受領したという外形だけで,遺言執行者個人の譲渡所得になるものではない。遺言執行者自身が相続人又は受遺者でもある場合は,その者として帰属する部分を個人の申告に含める。

4 売却後に疑問が生じた場合

既に売却済みでも,まず遺言書,遺言執行者の就職・権限を示す書類,証券会社の相続手続書類,売却報告書,換価代金の分配計算書及び相続関係を揃える。
申告期限前に税理士又は所轄税務署へ事実関係を具体的に示して確認し,誰がどの割合で申告するかを相続人間で統一して記録する。同じ売却について重複申告又は申告漏れが生じないようにする。

第3 各相続人の譲渡所得の計算
1 基本式と按分

国税庁タックスアンサーNo.1463によれば,株式等の譲渡所得等は,譲渡価額から取得費と委託手数料等を差し引いて計算する。
法定相続分で申告する事案では,各人の譲渡価額,取得費及び売却に直接要した費用を同じ法定相続分で按分するのが出発点となる。すなわち,「各人の譲渡所得等=売却代金×申告割合-被相続人の取得費×申告割合-売却手数料等×申告割合」である。

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国際養育費の請求と回収―準拠法・日本の裁判管轄・外国裁判の承認と強制執行(AI作成)

目次
第1 最初に決める四つの事項
第2 誰の権利を,どの手続で行使するか
第3 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか
第4 養育費の準拠法を決める
第5 外国の養育費裁判を日本で使う
第6 日本の判断を外国で回収に使う場合
第7 日本国内の財産から回収する場合
第8 受任時にそろえる資料
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

国際的な養育費事件では,「どの国の法で支払義務を判断するか」が分かっても,直ちにお金を回収できるわけではない。誰が誰に請求するのか,日本の裁判所に管轄があるのか,既存の外国裁判を利用できるのか,債務者の財産がどの国にあるのかを順に確認する。本記事は,令和8年10月1日現在の日本法と裁判所の公開資料を基礎に,受任から回収までの判断順序を整理する。

第1 最初に決める四つの事項

最初に,①請求権者と相手方,②新たな取決め又は裁判が必要か,③日本と外国のどちらで裁判をし,どちらの財産から回収するか,④適用される法律と既存裁判の効力を記録する。国際裁判管轄,準拠法,外国裁判の承認,強制執行は別の判断である。日本法が準拠法となっても日本で裁判できるとは限らず,日本で裁判できても外国にある給与や預金を日本の執行手続だけで差し押さえることはできない。

第2 誰の権利を,どの手続で行使するか

離婚に伴い監護親が他方の親へ子の監護費用の分担を求める場合,子自身の扶養料請求権を行使する場合,既にある外国裁判に基づいて支払を求める場合では,権利者,申立人,必要な書類及び手続が異なる。受任時には,合意書,調停調書,審判書,判決書のどれがあるか,その文書で誰が債権者とされ,どの期間・金額の支払が命じられているかを先に読む。

扶養義務の準拠法に関する法律6条は,扶養権利者のためにその権利を行使できる者の範囲等を扶養義務の準拠法に委ねる。親権者や監護者であるというだけで,常に自己名義で子の扶養請求権を行使できると決めない。外国の親権・監護裁判の効力,子の手続行為能力,法定代理及び利益相反も区別して調べる。日本の家事事件での申立人は,監護費用分担の手続か子の扶養請求の手続かに応じて確認する。

第3 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか

離婚訴訟に子の監護費用の分担に関する裁判を附帯して求める場合は,人事訴訟法3条の4を確認する。これとは別に養育費又は扶養について審判を求める場合,家事事件手続法3条の10は,申立人でない扶養義務者,又は扶養権利者(監護費用分担では子の監護者若しくは子)の住所が日本国内にあることを管轄原因とする。住所がないか知れないときは居所を確認する。調停の国際裁判管轄は同法3条の13,特別の事情による申立ての却下は同法3条の14で別に確認する。

ここでいう管轄の住所・居所と,後述する準拠法の連結点である常居所を混同しない。子が日本国籍であること,日本に一時滞在したことだけで日本の管轄を断定せず,住所の資料,転居の経緯,相手方の所在,証拠の所在地をそろえる。日本に国際裁判管轄があると分かった後も,どの家庭裁判所へ申し立てるかという国内の土地管轄を別に確認する。神戸家庭裁判所の案内も,離婚に伴う養育費の管轄と準拠法を分けて示している。

第4 養育費の準拠法を決める

親子間の扶養義務の準拠法は,親権等の親子関係を扱う通則法32条から直ちに決めず,扶養義務の準拠法に関する法律2条を確認する。扶養権利者の常居所地法が第一順位であり,その法によって扶養を受けられなければ当事者の共通本国法,それでも扶養を受けられなければ日本法へ進む。単に前順位法による金額が低いという理由で,次の法を自由に選べるわけではない。

子が重国籍の場合,扶養法には通則法38条1項のような国籍一本化規定がない。共通に有する国籍の法が共通本国法となり得ること,その判断が同法2条1項ただし書の解釈であることを確認する。扶養法2条2項は重国籍者の特則ではなく,日本法へ進むための規定である。外国法で扶養を受けられるかを判断する際は,成年年齢,教育中の子への扶養,障害,期間及び権利行使者を,条文の施行日とともに調べる。詳しくは国際扶養の準拠法を参照されたい。

第5 外国の養育費裁判を日本で使う

外国に養育費を命じる裁判があるときは,新たな日本の本案裁判を起こす前に,その裁判の確定性,給付を命じる部分,債権者・債務者,対象期間を確認する。家事事件手続法79条の2は,外国裁判所の家事事件についての確定した裁判等につき,性質に反しない限り民事訴訟法118条を準用する。同条の承認要件は,外国裁判所の裁判権,敗訴者への適法な呼出し又は応訴,内容と手続の公序,相互の保証である。外国で裁判を得たことだけで日本における効力を断定しない。

承認され得ることと,その裁判に基づき日本で強制執行できることも別である。民事執行法24条による執行判決の要否・管轄を確認する。家事事件の裁判に係る執行判決を求める訴えは,原則として家庭裁判所が管轄する。執行判決を得た後,国内の給与・預金等について債務名義に基づく執行を検討する。外国の文書が判決・審判・公的機関の判断のどれに当たるか,給付部分が確定しているかは,原文と外国法資料で確認する。

第6 日本の判断を外国で回収に使う場合

債務者の給与や預金が外国にしかないときは,日本の調停調書や審判・判決を得るだけでは回収工程は終わらない。執行先国でその判断が承認又は執行の対象になるか,同国の手続,必要な確定証明・送達記録・翻訳及び現地代理人を確認する。日本の執行判決や差押命令を外国の財産へそのまま及ぼすとは説明しない。

外国の制度と二国間・多国間の枠組みの適用は相手国ごとに異なる。本記事は特定国で日本の養育費判断を執行できると保証するものではない。受任時には,執行先の候補国と財産の種類を確定し,現地の公的資料又は弁護士を通じて必要書類・期間・費用を調べる。

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戸籍の名字の異字体を正字体に戻す方法―申出・氏の変更許可・戸籍訂正の区別(AI作成)

目次第1 結論―文字の関係によって手続が三つに分かれる1 最初に確認すべき三つの経路2 「異体字」という呼び方だけでは決められない理由第2 同じ字種の正字へ直す市区町村への申出1 申出で処理できる範囲2 自治体が示している具体例3 個別の文字を窓口で確認する方法第3 申出人,提出先及び変更の効果1 申出人と提出先2 一つの戸籍ごとの確認3 一度直した文字を元へ戻す場合第4 別の字種へ変える場合の氏の変更許可1 戸籍法107条の手続になる場合2 申立人,申立先,費用及び資料3 許可後の届出第5 現在の戸籍記載自体が誤っている場合の戸籍訂正1 市区町村長による戸籍法24条の訂正2 家庭裁判所の許可を得る戸籍法113条の訂正第6 手続を進める順序1 現在の文字と希望する文字を固定する2 本籍地へ確認する質問3 変更後に確認する事項第7 よくある疑問1 「髙」を「高」にする場合も申出だけで済むか2 正字へ直せば全ての名義が自動的に変わるか3 電子手続で異体字を入力できない問題とは同じか第8 まとめ第9 出典及び確認日1 法令2 裁判所及び自治体の公式案内3 行政研究資料及び文字情報

戸籍の名字に使われている異字体を一般的な正字へ直したい場合,最初から家庭裁判所へ申し立てるとは限りません。
現在の文字と希望する文字が戸籍実務上で同じ字種の対応関係にあれば,市区町村への申出で処理できることがあります。
別の字種への変更であれば氏の変更許可,現在の戸籍記載そのものが誤っていれば戸籍訂正が問題となるため,三つの経路を区別する必要があります。

第1 結論―文字の関係によって手続が三つに分かれる
1 最初に確認すべき三つの経路

戸籍の文字を正字へ直す手続は,おおむね次のように整理できます。
ただし,個々の文字がどの類型に当たるかは見た目だけでは決められないため,本籍地の市区町村に現在の一字と希望する一字を示して確認する必要があります。

確認結果主な手続主な窓口・根拠同じ字種の俗字・誤字・旧字体から対応する正字・通用字体へ直す場合市区町村長の職権訂正を促す申出又は更正の申出原則として本籍地の市区町村現在の氏の記載は正しいが,別の字種の氏へ変えたい場合氏の変更許可を得た後の届出戸籍法107条,住所地の家庭裁判所出生届などの原始資料と異なる文字が記載されたなど,現在の戸籍に錯誤・遺漏がある場合市区町村長による訂正又は家庭裁判所の許可を得た戸籍訂正戸籍法24条・113条
2 「異体字」という呼び方だけでは決められない理由

日常用語では,旧字体,俗字,誤字,別体,フォントのデザイン差及び外字をまとめて「異体字」と呼ぶことがあります。
しかし,戸籍実務では,その呼び方よりも,二つの文字が同じ字種に属する対応字であるか,異なる字種であるかが重要です。

戸籍の文字は法務省の通達や文字情報に基づいて扱われており,漢字辞典やパソコンの変換候補だけで手続を確定することはできません。
令和6年5月にも誤字俗字・正字一覧表の一部改正が公表資料で確認できるため,特定の文字の組合せは現在の窓口運用で確認するのが安全です。

第2 同じ字種の正字へ直す市区町村への申出
1 申出で処理できる範囲

戸籍に氏又は名が俗字等若しくは誤字で記載されており,対応する同じ字種の正字等へ直す場合は,市区町村長限りで文字を訂正できる取扱いがあります。
また,通用字体と異なる字体を通用字体へ改める更正の申出として扱われる場合もあります。

この申出は,新しい氏を自由に選ぶための届出ではありません。
市区町村長に対して,現在の戸籍文字と対応正字との関係を確認した上で職権訂正を求める手続であり,対応関係に疑義があれば法務局への照会が行われることがあります。

2 自治体が示している具体例

岸和田市の公式案内は,氏の文字である「澤」を「沢」に,「邊」を「辺」に直す例を,申出によって変更できる例として掲げています。
同案内は,誤字から正字,俗字から正字,旧字体から通用字体への変更が可能である一方,「埜」から「野」のように字種・字体が全く異なる文字への変更は氏又は名の変更になると説明しています。

豊川市の公式案内も,誤字や俗字を正しい字に訂正でき,旧字体を対応する新字体へ訂正できると案内しています。
鹿嶋市の公式案内は,「濱」などの旧字体を正字又は通用字体へ直す申出を例示しています。

3 個別の文字を窓口で確認する方法

相談時には,「異体字を普通の字にしたい」とだけ伝えるのではなく,①戸籍全部事項証明書に記載された現在の文字,②希望する文字,③その文字が記載された経緯,④筆頭者と配偶者の状況を示すと,手続の分類を確認しやすくなります。
細かなはね,点,線の長短などはフォントによって見え方が変わるため,戸籍証明書の字形と希望字形を紙面で並べて示すのが実務的です。

法務省の「戸籍統一文字情報」は文字を調べる手掛かりになりますが,検索結果だけで申出の可否が決まるわけではありません。
最終的には,本籍地の市区町村が現行の通達・一覧表に照らして判断します。

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公正証書遺言と異なる遺産分割協議が相続税の申告期限までに成立しない場合の申告方法(AI作成)

目次第1 結論1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない2 遺言によって取得者が確定している財産3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合4 遺言の対象外となる財産第3 申告期限時点の状況別の申告方法1 遺言と異なる協議が成立している場合2 遺言で全部の取得者が確定し,協議が未成立の場合3 取得者が確定した財産と未分割財産が混在する場合4 遺言が相続分又は包括遺贈の割合だけを定める場合第4 未分割申告と分割見込書1 相続税法55条による仮の計算2 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例3 申告期限後3年以内の分割見込書を付ける範囲第5 申告後に遺言と異なる合意が成立した場合1 真に未分割であった財産の後日分割2 遺言で取得済みであった財産の分け直し3 平成23年12月6日裁決が示す注意点第6 申告期限までに行う実務上の確認第7 設例による整理1 全財産を長男に相続させる遺言2 長男3分の2,長女3分の1とする遺言3 自宅だけを配偶者に相続させる遺言第8 よくある誤解第9 関連記事第10 出典1 法令・裁判例・裁決2 国税庁資料3 文献
第1 結論
1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない

公正証書遺言と異なる分け方を相続人らが話し合っていても,相続税の申告期限までに合意が成立しなければ,予定している分け方で申告することはできない。

相続税の申告期限は,原則として,相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内である。

協議中であること,遺産分割調停を申し立てたこと又は遺言執行者との調整が続いていることだけでは,この期限は延長されない。

2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる

申告期限時点で遺言と異なる合意が成立していない場合には,まず,遺言によって既に取得者が確定している財産と,なお共同相続人間で分割されていない財産とを分ける。

遺言によって取得者が確定している財産は,原則として遺言どおりに取得したものとして申告する。

これに対し,真に未分割である財産は,相続税法55条により,民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って各人が取得したものとして課税価格を計算する。

したがって,「協議が成立していないから,遺産全部を一律に法定相続分で申告する」という処理は正確でない。

第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する
1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない

公正証書遺言は遺言の方式であり,公正証書であること自体から相続税申告の取得割合が決まるわけではない。

申告方法を決めるのは,遺言の各条項が,①特定の財産を特定の相続人に相続させる特定財産承継遺言,②特定遺贈,③包括遺贈,④相続分の指定,⑤遺産分割方法の指定,⑥残余財産条項のいずれに当たるかである。

遺言の表題や一部の文言だけでなく,遺言全文,予備的条項,債務・費用の負担及び遺言執行者の権限まで確認する必要がある。

2 遺言によって取得者が確定している財産

最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言について,特段の事情のない限り,何らの行為を要せず,被相続人の死亡時に直ちに当該相続人へ承継されると判示した。

また,特定遺贈は受遺者が放棄すれば遺言者の死亡時に遡って効力を失うが,放棄されていない限り,遺贈の目的財産は遺言に基づいて取得される。

「全財産を長男に相続させる」,「自宅不動産を妻に相続させる」,「全財産を甲に包括遺贈する」など,遺言によって取得者が確定する財産は,単に別の分け方を交渉中であるという理由で未分割財産にはならない。

3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合

「長男の相続分を3分の2,長女の相続分を3分の1とする」など,割合だけを指定し,個々の財産の取得者を定めていない遺言では,個々の遺産はなお未分割となり得る。

その場合,相続税法55条による仮の計算では,遺言による指定相続分を含む民法上の相続分又は包括遺贈の割合を確認する。

法定相続分を機械的に用いるのではなく,遺言による割合指定と包括遺贈の有無を先に確認する必要がある。

4 遺言の対象外となる財産

遺言作成後に取得した財産,記載漏れの預金,遺言条項の解釈上対象に含まれない財産その他の残余財産について,取得者を定める条項がなければ,その部分は未分割となり得る。

他方,死亡保険金,死亡退職金その他の相続税法上のみなし相続財産は,相続税の課税対象となっても,通常の遺産分割の対象とは限らない。

遺言の対象財産,民法上の遺産及び相続税の課税財産の三つを同じ一覧に混在させないことが重要である。

第3 申告期限時点の状況別の申告方法
1 遺言と異なる協議が成立している場合

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旧法の遺留分減殺訴訟における価額弁償の抗弁―誰が選択するか,条件付判決,金銭判決及び評価基準時(AI作成)

目次第1 結論第2 本記事が扱う旧法事案第3 価額弁償の抗弁の基本構造第4 訴訟の三つの分岐第5 平成9年最高裁判決の条件付判決第6 遺留分権利者が価額弁償請求権を行使した場合第7 裁判所の釈明・鑑定と当事者の選択第8 価額弁償額の評価基準時第9 主張立証で確認すべき事項第10 関連記事及び出典
第1 結論

令和元年6月30日までに開始した相続へ適用される旧法の遺留分減殺訴訟では,裁判所が当事者に代わって「現物返還ではなく金銭で解決する」と選択することはできない。

受遺者又は受贈者が旧民法1041条の価額弁償を選択し,裁判所が定める額を速やかに支払う意思を表明してその額の確定を求めた場合,裁判所は,その額が支払われなかったことを条件として現物返還請求を認容する条件付判決をすることができる。これは単純な「引換給付判決」ではない。

他方,受遺者又は受贈者が価額を弁償する旨を表明しただけで,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使していない場合,裁判所は無条件の金銭支払を命じることができない。金銭請求権を確定的に取得するには,遺留分権利者による権利行使の意思表示が必要である。

第2 本記事が扱う旧法事案

平成30年法律第72号附則2条により,令和元年7月1日の施行日前に開始した相続には原則として従前の例が適用される。本記事は,旧民法1031条以下の遺留分減殺請求と旧民法1041条の価額弁償を扱う。

令和元年7月1日以後に開始した相続では,民法1046条により当初から遺留分侵害額に相当する金銭請求権が生じるため,本記事の物権的減殺,現物返還及び価額弁償の抗弁という構造は適用されない。

第3 価額弁償の抗弁の基本構造

旧法の遺留分減殺請求には物権的効力があり,減殺の意思表示によって,侵害の限度で目的物の所有権又は共有持分が遺留分権利者へ帰属する。したがって,訴訟の出発点は現物返還又は持分移転登記である。

旧民法1041条は,減殺を受ける受遺者又は受贈者に,目的物の価額を弁償して返還義務を免れる選択肢を与えた。価額弁償は裁判所の裁量による代償分割ではなく,受遺者又は受贈者が行使する抗弁である。

第4 訴訟の三つの分岐
当事者の意思表示権利関係判決の形受遺者等が価額弁償の抗弁を出さない遺留分権利者は現物の権利を有する現物返還・持分移転登記受遺者等が裁判所の定める額を速やかに支払う意思を表明し,額の確定を求める支払までは現物返還請求権が残る不払を条件とする現物返還の条件付判決さらに遺留分権利者が価額弁償請求権を行使する現物の権利を遡って失い,金銭請求権を確定的に取得する金銭支払判決
第5 平成9年最高裁判決の条件付判決

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1746号,民集51巻2号448頁)は,受遺者が事実審口頭弁論終結前に,裁判所が定めた価額を速やかに支払う意思を表明し,その額の確定を求めたときは,その主張を価額弁償の抗弁として扱うことができるとした。

同判決が示した主文は,受遺者が裁判所の定めた額を支払わなかったことを条件として,遺留分権利者の現物返還請求を認容するものである。支払と登記を同時履行とする通常の引換給付とは,条件の置き方が異なる。

第6 遺留分権利者が価額弁償請求権を行使した場合

最高裁平成20年1月24日第一小法廷判決(平成18年(受)第1572号,民集62巻1号63頁)は,受遺者等が価額を弁償する旨を表明し,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使したとき,遺留分権利者は目的物の所有権及び現物返還請求権を遡って失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得するとした。

最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和6年(受)第2号)は,受遺者が価額弁償の意思を表明していても,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使していない場合,裁判所は無条件の金銭支払を命じることができないと明確にした。

第7 裁判所の釈明・鑑定と当事者の選択

裁判所が,価額弁償の可能性,評価基準時,鑑定の要否又は和解による金銭解決について見解を示すことはある。しかし,その釈明・争点整理・証拠採否だけで,受遺者等の価額弁償の抗弁又は遺留分権利者の価額弁償請求権行使がされたことにはならない。

訴訟記録上は,誰が,いつ,どの意思表示をし,どの請求又は抗弁として陳述したかを区別する必要がある。裁判所が現在価額の鑑定を検討しているという事情だけから,現物返還の法律関係が金銭債権へ変わったと扱うことはできない。

第8 価額弁償額の評価基準時

最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決(昭和50年(オ)第920号,民集30巻7号768頁)は,現実に価額弁償がされる場合はその時の目的物価額により,訴訟で裁判所が額を定める場合はこれに最も近い事実審口頭弁論終結時の価額によるとした。

この基準時は,遺留分侵害の有無及び減殺割合を計算する相続開始時評価とは別である。地価が相続開始後に上昇又は下落していても,両者の評価目的を混同してはならない。

第9 主張立証で確認すべき事項

実務上は,①相続開始日,②減殺の意思表示と到達日,③減殺によって取得した権利の内容,④受遺者等の価額弁償の意思表示,⑤裁判所の定める額を速やかに支払う意思と額の確定を求める陳述,⑥遺留分権利者による価額弁償請求権行使,⑦評価対象,評価時点及び評価資料を時系列で整理する。

準備書面では,「価額弁償の抗弁」「条件付判決を求める陳述」「価額弁償請求権を行使する意思表示」を同じものとして記載せず,主体,時点及び法律効果を分ける必要がある。

第10 関連記事及び出典

評価基準時の全体像は,旧法事案の遺留分減殺請求における遺産の評価基準時を参照されたい。減殺請求後に換地処分があった土地については,相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)で説明している。

(続きを読む...)旧法の遺留分減殺訴訟における価額弁償の抗弁―誰が選択するか,条件付判決,金銭判決及び評価基準時(AI作成)

親子交流は調停と審判のどちらで決めるか―間接強制ができる定め方,試行的実施及び統計(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論の要点第2 親子交流を定める手続1 協議,調停及び審判2 交流の試行的実施第3 調停と審判の終わり方1 全国の統計(令和7年)2 東京家庭裁判所の説明第4 間接強制ができる定め方(最高裁平成25年3月28日決定)1 判断基準2 間接強制が認められた定め(平成24年(許)第48号)3 間接強制が認められなかった定め4 子が交流を拒んでいる場合第5 取決めが守られないときの手段1 履行勧告2 間接強制3 定めの変更第6 調停で決めるか審判で決めるか1 調停で決める場合の注意点2 審判を求める場合の注意点第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 統計・裁判所の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面

本記事は,別居や離婚によって子と離れて暮らす親と子との交流(親子交流)を,家庭裁判所の調停で決めるか審判で決めるかを考える際に,知っておくべき法令,最高裁の判断及び統計を整理する。
令和6年の民法等の改正(令和6年法律第33号。令和8年4月1日施行)により,民法766条1項の「父又は母と子との面会及びその他の交流」は「父又は母と子との交流」と改められ,裁判所の手続案内でも「親子交流調停」の語が用いられている。
本記事の統計と裁判例は改正前のものであり,そこでは「面会交流」の語が使われているので,引用する箇所ではその語をそのまま用いる。

以下,最高裁の決定にならい,子を監護している親を「監護親」,子を監護していない親を「非監護親」という。
本記事の条文は,令和8年9月28日時点の現行法をe-Gov法令検索で確認した。

2 結論の要点

①令和7年に全国の家庭裁判所で終局した面会交流の事件1万2135件のうち,調停成立は6508件(53.6%),審判による認容は1495件(12.3%)であった。
②調停調書でも審判でも,面会交流の日時又は頻度,各回の時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められ,監護親がすべき給付が特定されていれば,間接強制ができる(最高裁平成25年3月28日決定)。
③最高裁は同時に,面会交流は柔軟に対応できる条項に基づき,監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましいとも述べている。
そのため,取決めでは,協力による柔軟な実施と,守られない場合に備えた特定とをどう両立させるかが問題になる。
④改正法により,審判事件と調停事件で家庭裁判所が当事者に交流の試行的実施を促す規定が設けられた(家事事件手続法152条の3,258条3項)。
⑤取決めが守られないときは,履行勧告,間接強制,定めの変更の申立てを使い分けることになる。

第2 親子交流を定める手続
1 協議,調停及び審判
(1) 民法の定め

民法766条1項は,父母が協議上の離婚をするときは,「子の監護をすべき者又は子の監護の分掌、父又は母と子との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と定める。
同条2項は,協議が調わないとき又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が同項の事項を定めるとする。
離婚前の別居中の交流など,766条の場合のほかの交流については,民法817条の13第1項・2項が,父母の協議で定め,協議が調わないときは家庭裁判所が父又は母の請求により定めるとしている。
祖父母等の父母以外の親族と子との交流は,祖父母等と子との交流―最高裁令和3年3月29日決定と民法766条の2で扱っている。

(2) 調停から審判へ

家庭裁判所の手続は,通常,親子交流調停の申立てから始まる。
裁判所の「親子交流調停」の案内は,「話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には審判手続が開始され、裁判官が、一切の事情を考慮して、判断(審判)をすることになります。」と説明している。
家事調停の申立てから終了までの流れは,家事調停の申立て,進行,ウェブ会議及び終了後の手続で扱っている。

2 交流の試行的実施

家事事件手続法152条の3第1項は,「家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判事件(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判事件を除く。)において、子の心身の状態に照らして相当でないと認める事情がなく、かつ、事実の調査のため必要があると認めるときは、当事者に対し、子との交流の試行的実施を促すことができる。」と定める。
同条2項により,家庭裁判所は,交流の方法,日時,場所,家庭裁判所調査官その他の者の立会いの有無を定め,子の心身に有害な影響を及ぼす言動の禁止等の条件を付けることができ,同条3項により,結果の報告を求めることができる。
この規定は,子の監護に関する処分の調停事件(養育費に関するものを除く。)と離婚調停事件に準用される(同法258条3項)。

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