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成年後見人等が就任したら最初にすること――大阪家裁への初回報告(財産目録・収支予定表)の期限と作り方(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,大阪家庭裁判所(以下「大阪家裁」という。)で成年後見人,保佐人又は補助人(以下「後見人等」という。)に選任された者が,就任直後に行う財産調査と,最初に家庭裁判所へ提出する報告(以下「初回報告」という。)について,法的根拠,提出期限,提出書類,財産目録と収支予定表の作り方及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文及び法律案本文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された記事を再編したものであり,本書1頁によれば,書籍化に当たって一部を修正・加筆したものの,原則として初出当時の運用を記載したものである。
そのため,本記事では,本書の記述を引くときは連載の回と初出号を示し,現在の運用は,大阪家裁の成年後見のページ(令和8年9月19日閲覧)及び「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」令和8年2月1日版(以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。
現行資料で確認できなかった点は,本書の記載にとどまるものとして区別する。

後見等事務報告書の各欄の書き方は令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で,大阪家裁後見センターの組織と沿革は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っているので,本記事では初回報告に固有の事項に絞る。

2 結論

①成年後見人は,遅滞なく本人の財産の調査に着手し,1か月以内に調査を終えて財産目録を作成しなければならず(民法853条1項),就任の初めに毎年支出すべき金額を予定しなければならない(民法861条1項)。
②保佐人・補助人にはこれらの規定が準用されていないが,大阪家裁は,民法863条1項(民法876条の5第2項,876条の10第1項で準用)を根拠に,預貯金に関する代理権を付与された保佐人・補助人にも初回報告を求めている(本書83頁~84頁)。
③提出期限は,審判書謄本に同封される「手続の流れ」に記載される(大阪家裁ハンドブック34頁)。本書(連載第40回・令和6年4月号初出)によれば,自薦の後見人等は審判確定日から1か月以内,専門職団体の推薦による後見人等は1か月と3週間以内,総合支援型後見監督人は2か月と1週間以内である。このうち現行の公式資料で確認できたのは,大阪家裁ハンドブックQ6の「後見人就任後、1か月以内」と,総合支援型後見監督人の「審判確定日から2か月と1週間以内」である。
④財産目録の作成期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることができるのは成年後見人(及び未成年後見人)だけであり,保佐人・補助人・監督人は,間に合わない事情と提出見込み時期を連絡票で知らせる。
⑤現在の初回報告は,後見等事務報告書(初回報告),財産目録(未分割の相続財産があれば相続財産目録を含む。),収支予定表及び添付資料の組合せである。本書の時点の「初回財産目録等」(財産目録と収支予定表)に,報告書が加わっている。
⑥大阪家裁は,財産の全体像を完全に解明することまでは求めないが,預貯金や現金の大半を「不明」とし,今後の調査の見通しも示さない財産目録は相当でないとする(本書86頁)。
⑦事実上の管理者から通帳の引渡しを受けられないことだけを理由に初回報告が大幅に遅れることも相当でなく,金融機関への通知と取引履歴の取得,年金受取口座の変更,郵便物の回送嘱託等を検討する(本書86頁~87頁)。
⑧収支予定表は通帳,保険証券,領収書等の客観資料に基づいて作り,後見人等の報酬は支出予定に入れず,受け取った時点の臨時支出として報告する(本書89頁,97頁,108頁)。
⑨初回報告の報告書では,本人の生活や財産についての方針が本人の意思に沿っているかを選択肢で答え,本人との面談等の状況も記載するから,就任直後から本人と支援者に会って意思・意向を把握しておく必要がある。
⑩令和8年改正後は,財産目録の作成義務は特定補助人に限って民法876条の15に置かれ,支出金額の予定の規定は補助には置かれない。ただし,施行日前に後見開始の審判を受けた本人の成年後見人には,原則として従前の例による(改正法附則2条1項)。

第2 就任直後の数週間にすること

1 後見人等としての活動を始める時期

後見開始の審判は,即時抗告をすることができる審判であるから,確定しなければ効力を生じない(家事事件手続法74条2項ただし書,123条1項1号)。
即時抗告の期間は2週間であり(家事事件手続法86条1項),審判の告知を受ける者でない者による即時抗告の期間は,成年後見人に選任される者が審判の告知を受けた日から進行する(同法123条2項)。
大阪家裁ハンドブック(Q5,9頁)も,後見人が審判書謄本を受け取ってから2週間が経過した後に正式に後見人として活動することができ,不服申立てがあれば裁判所から別途連絡がある,と説明している。
保佐・補助の場合は,本人と保佐人・補助人のうち遅く審判書謄本を受け取った日から2週間とされている(同頁)。

2 後見人等であることの証明

後見人等であることは,法務局で登記事項証明書の交付を受けて証明するのが原則である(大阪家裁ハンドブックQ5,9頁)。
登記が完了するまでの間は,審判書謄本と審判の確定証明書で代えることができ,確定証明書は後見センターの書記官室に交付を申請し,手数料は1通150円である(同頁)。
ただし,金融機関の取扱いは一様ではないから,各金融機関に問い合わせる必要がある(同頁,Q9,15頁)。
預貯金口座の名義は,本人名義か「(本人名)成年後見人(後見人名)」とし,後見人個人や親族の名義にしてはならない(大阪家裁ハンドブックQ9,15頁)。

3 財産の引継ぎと調査

大阪家裁ハンドブック(Q6,10頁)は,後見人の最初の仕事として,①財産の内容や収支状況の調査,②後見開始前に事実上財産を管理していた者からの通帳,証書等の引継ぎ,③本人の意思を踏まえた身上保護の基本方針の策定,④後見等事務報告書の作成,⑤財産目録の作成を挙げている。
本書(連載第26回・令和3年8月号初出,85頁)は,手続代理人弁護士が候補者となっている場合には申立ての段階で財産の調査や収支の計画を十分に行い,弁護士会の推薦を受けて就任する場合には申立人や入所施設の職員等の本人のキーパーソンに早く面会の約束を取ることを求めている。
申立時の資料には財産の手掛かりが集まっているから,第三者として選任された後見人等は,まず申立人から通帳・証書の引継ぎを受けると同時に,申立時の財産目録と照合して漏れを洗い出すのが効率的である。

4 基本事件番号と連絡票

後見センターは,本人ごとに「基本事件番号」を定めて事件を管理しており,成年後見・保佐・補助では原則として開始事件が基本事件となる(本書68頁。連載第5回・平成30年2月号初出)。
途中で後見人等に選任された者についても,基本事件は自分の選任事件ではなく開始事件であるから,提出書面には開始事件の番号を正確に書く(同頁)。
現在の報告書と連絡票の書式も,冒頭に開始事件又は基本事件の事件番号欄を置いている(大阪家裁ハンドブック書式集No.1-1,No.6-1)。

裁判所への相談や報告は,電話や窓口ではなく連絡票に資料を添えて行う(大阪家裁ハンドブック40頁)。
回答が必要なときは連絡票の「要回答」にチェックを入れ,裁判所は連絡票を受け取ってから2週間を目途に電話で連絡し,それを待てない事情があるときは「要急」にチェックを入れて事情を書く(同頁,書式集No.6-1)。
本書(69頁。連載第1回・平成29年5月号,第15回・令和元年10月号初出)は,回答まで1週間程度を見込むよう求め,連絡票はFAXでの提出でもよいとしていたが,現行の大阪家裁ハンドブックは「2週間を目途」とし,提出方法は「郵送又は持参」と記載している(40頁)。
初回報告が期限に間に合わない場合の連絡も,この連絡票で行う(第4の4)。

第3 初回報告の法的根拠

1 成年後見人――民法853条・861条1項

民法853条1項は,「後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、一箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。」と定める。
後見監督人があるときは,財産の調査と目録の作成は,その立会いをもってしなければ効力を生じない(同条2項)。
就任後に本人が相続等で包括財産を取得した場合にも,同条が準用される(民法856条)。

民法861条1項は,「後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。」と定める。
本書(84頁注5)は,新版注釈民法(25)433頁が同項を「後見予算」の支出金額の予定を定めた規定と指摘していることを紹介している。
大阪家裁の初回報告の財産目録は民法853条1項の目録に,収支予定表は民法861条1項の予定に,それぞれ対応する。

2 保佐人・補助人――民法863条による運用

保佐人・補助人については,民法853条と861条1項は準用されていない。
民法876条の5第2項が保佐の事務に準用するのは民法644条,859条の2,859条の3,861条2項,862条及び863条であり,民法876条の10第1項が補助の事務に準用する規定も同様である。
民法863条1項は,「後見監督人又は家庭裁判所は、いつでも、後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。」と定める。

本書(83頁~84頁)によれば,大阪家裁後見センターは,この民法863条1項の準用を根拠に,預貯金に関する代理権を付与された保佐人・補助人にも初回報告を求めている。
現在の大阪家裁ハンドブック(Q6,11頁)も,代理権付与の審判を受けた保佐人・補助人は,その代理権の範囲内で速やかに財産の内容や収支状況を調査し,財産目録や収支予定表を提出するよう求めている。
他方,現行の初回報告書の書式は,財産管理に関する代理権を付与されていない保佐人・補助人や,権限分掌により財産管理に関する権限がない成年後見人は,財産状況の記載,財産目録及び収支予定表の提出並びに資料の添付を要しないとしている(大阪家裁ハンドブック書式集No.1-1)。
保佐人・補助人の権限の全体像は保佐人・補助人の権限と実務――同意権・取消権・代理権,金融機関への届出及び令和8年改正で扱っている。

3 目録作成前の権限と債権債務の申出

民法854条は,「後見人は、財産の目録の作成を終わるまでは、急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。」と定める。
本書(87頁注6)は,事実上の管理者が本人の財産を費消する危険がある事案では,初回の財産目録を作成する前であっても,金融機関への通知,年金受取口座の変更,口座の解約,通帳の再発行,改印届等を「急迫の必要がある行為」としてすることができると考えられるとしている。
また,後見人が本人に対して債権を有し又は債務を負う場合に後見監督人があるときは,財産の調査に着手する前に後見監督人に申し出なければならず,債権があることを知って申し出ないときはその債権を失う(民法855条)。
親族が後見人となり,本人のために立て替えた費用がある場合等には,この規定に注意が必要である。

4 初回報告を求める趣旨

本書(連載第26回,84頁~85頁)は,初回報告を求める趣旨を次のように説明している。
後見人等は,後見等開始直後の本人の財産を正確に把握し,その財産状況を前提に増減の計画を立てなければ適切な事務を始めることができず,初回の財産目録と収支予定は,国家予算の策定にたとえられる。
後見センターは,初回報告から監督上の課題(多額の流動資産の管理,遺産分割,居住用不動産の処分等)の有無を確認し,後見制度支援信託・後見制度支援預貯金の利用,監督人の選任,後見人等の追加選任の要否といった監督の方針を検討する。
その後の定期報告と併せて見ることで,財産管理が当初の予定どおり進んでいるか,不適切な処理や解任事由(民法846条)がうかがわれないかを判断する資料にもなる。
つまり,初回報告は,その後の毎年の定期報告で「想定どおりか」を点検される基準線となる。
後見制度支援信託・支援預貯金は後見制度支援信託と後見制度支援預貯金――仕組み,専門職後見人の職務及び最新の利用状況で,監督人の職務は後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編で扱っている。

第4 提出期限

1 本書が記載する期限

本書は,初回報告の期限について次のように記載している。

区分本書の記載本書の頁(初出)
自薦の後見人等(監督人を含む)審判確定日から1か月以内90頁(第8回・平成30年8月),91頁(第40回・令和6年4月号)
専門職団体の推薦による後見人等審判確定日から1か月と3週間以内83頁(第26回・令和3年8月号),90頁,91頁
総合支援型後見監督人審判確定日から2か月と1週間以内91頁(第40回)
未成年後見人・任意後見監督人審判書謄本の送達日から起算91頁(第40回)

本書(90頁)は,監督人として選任されている場合等は期限の定めが異なり,詳細は審判書謄本に同封される書面で確認するよう求めている。

2 現行の公式資料で確認できる範囲

現在の大阪家裁ハンドブックは,初回報告の提出時期を,審判書謄本とともに同封される「手続の流れ」に記載された「後見等事務報告書、財産目録、収支予定表及び資料の提出期限」までとしている(34頁)。
また,Q6(10頁)は,後見等事務報告書を作成して「後見人就任後、1か月以内」に提出し,財産目録と収支予定表を一緒に提出するよう求めている。
大阪家裁の成年後見のページは,総合支援型後見監督人に選任された専門職は,監督事務報告書(初回)【総合支援型】を「審判確定日から2か月と1週間以内」に提出するよう案内している。

これに対し,専門職団体の推薦による後見人等の「1か月と3週間」は,大阪家裁の成年後見のページと大阪家裁ハンドブックでは確認できなかった。
「手続の流れ」は審判書謄本とともに個別に送付される書面であり公開されていないから,実際の期限は,手元に届いた「手続の流れ」で確認するほかない。

3 起算点

後見・保佐・補助の開始審判と同時に後見人等が選任される場合は,前記のとおり審判の確定によって効力が生じるから,本書の「確定日」起算はこれに対応する。
これに対し,本書(91頁)は,未成年後見人や任意後見監督人の選任の審判は告知と同時に効力が発生するため,審判書謄本の送達日から起算した期限になると注意している。
即時抗告をすることができない審判は,告知によって効力を生ずるのが原則である(家事事件手続法74条2項本文)。
例えば,開始後に後見人等を追加選任する審判を受けた場合も,起算日は「手続の流れ」の記載で確認する必要がある。

4 期限に間に合わないとき

本書(91頁)は,登記事項証明書の取得手続,金融機関での手続,郵便事情等から期限内の提出が難しい場合もあるとした上で,期限内の提出が難しい特別な事情があるときは,①その事情と②提出見込み時期を記載した連絡票を提出するよう求めている。
現在の大阪家裁ハンドブック(34頁)も,期限までに提出することができない場合は,①提出が間に合わない理由と②提出が可能になる見込みの年月日を裁判所に連絡するよう求めている。

(1) 成年後見人――期間伸長の申立て

成年後見人の財産目録の作成期間は,家庭裁判所において伸長することができる(民法853条1項ただし書)。
この伸長は,家事事件手続法別表第一の9項(成年後見に関する財産の目録の作成の期間の伸長)の審判事項である。
本書(90頁)は,財産目録の作成が提出期限に間に合わない場合は期間伸長の申立てを検討するよう求め,申立てができるのは成年後見人と未成年後見人に限られるとしている。

(2) 保佐人・補助人・監督人――連絡票による報告

保佐人・補助人には民法853条が準用されていないから,期間伸長の申立てという手続はない。
本書(90頁~91頁)は,保佐,補助及び任意後見にはこうした手続がなく,保佐人・補助人・各監督人は連絡票等で提出が間に合わない旨を報告するよう求めている。
期限を過ぎてから報告するのではなく,期限前に,事情と見込み時期を具体的に書いて連絡票を出すことが重要である。

5 初回報告の後の定期報告

初回報告の後は,年に1回,本人の誕生月の1日から末日までに,裁判所からの依頼を待たずに自主的に定期報告を提出する(大阪家裁ハンドブックQ16,23頁,36頁)。
報告基準日は誕生月の前月末日である(同36頁)。
期限内に提出がない場合は,後見事務に問題があるものとみなされ,解任されて専門職の後見人と交代することや,調査人を付して調査すること(その報酬は本人の財産から支払われる。)があるとされている(同23頁)。

本書(91頁。連載第40回・令和6年4月号初出)は,初回報告の提出から6か月以内に誕生月が来る場合は,報告時期が近接していることから翌年の誕生月に報告してよいとしているが,この取扱いは現行の大阪家裁ハンドブックと大阪家裁の成年後見のページでは確認できなかった。
また,同頁は,総合支援型後見監督人には審判確定日から9か月後に2回目の報告を求めているとしており,大阪家裁の成年後見のページにも監督事務報告書(2回目)【総合支援型】の書式が掲載されている。

第5 提出する書類

1 現行の書類の組合せ

現在の大阪家裁ハンドブック(34頁)が初回報告の必要書類として挙げるのは,次のものである。
①後見等事務報告書(成年後見人・保佐人・補助人用 初回報告)(書式集No.1-1)
②財産目録(未分割の相続財産がある場合は相続財産目録を含む。)(書式集No.2-1)
③収支予定表(書式集No.3-1)
④添付資料

本書(連載第26回,83頁)の時点では,初回に提出を求める書面は財産目録と収支予定表(「初回財産目録等」)であり,後見等事務報告書は毎年の定期報告で提出するものとされていた。
現在は初回から後見等事務報告書の提出を求める運用になっており,令和7年4月以降,この報告書は全国統一書式である。

2 添付資料

大阪家裁ハンドブック(34頁)は,必ず提出する資料として,記帳した上での預貯金通帳の写し(①表紙と見開きページ,②申立て時に提出した部分以降の記帳部分全て)を挙げ,大きな金額の入出金があった場合はお金の流れが分かる説明文書や資料を添付するよう求めている。
そのほか,申立て後に新たな財産が判明するなどして財産目録に変動がある場合は不動産全部事項証明書(原本)や証書の写しを,収支予定に変動がある場合は年金額改定通知書や納税通知書等の写しを,1回10万円以上の臨時収入・臨時支出がある場合は振込通知書や領収書の写しを添付する(同頁)。
申立て時に提出済みの通帳以外の資料で内容に変更がないものは,改めて提出する必要はない(同Q6,10頁)。

資料は,A4判縦の片面コピーとし,左側に3センチ程度のとじしろを設け,通帳サイズに切ったりB判の用紙を使ったりしない(大阪家裁ハンドブック33頁)。
提出された書類は裁判所の記録となって返還されず,本人や親族から閲覧謄写の請求があれば,特別の事情がない限り許可されることがあるから,本人や親族に見られる可能性を前提に作成するよう注意されている(同35頁)。

3 後見等事務報告書(初回報告)の内容

現行の初回報告書(書式集No.1-1)は,第1「本人の心身や生活の状況について」,第2「後見等事務の方針について」,第3「本人の支援者について」,第4「本人や支援者との面談等の状況について」,第5「その他」で構成されている。
第2では,本人の生活や財産(収支)についての今後の方針を記載した上で,その方針が本人の意思に沿ったものかを,①本人が表明した意思に沿っている,②推定した意思に沿っている,③意思が推定できないため本人にとって最も良い方法を検討した,④本人の意思及び推定の意思と異なる判断をした,⑤その他の中から選び,意思の確認・推定の方法や理由を書かせる。
第4では,本人との面談,支援者からの聴取,関係者の話合いへの参加等の有無を問い,面談等を行っていない場合はその理由を書かせる。
つまり,初回報告の時点で,財産の数字だけでなく,本人に会って意思を確認したかどうかが問われる。
各欄の書き方は令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で扱っている。

4 総合支援型後見監督人が選任されている場合

大阪家裁は,令和4年2月1日以降に申し立てられた後見開始事件で,親族後見人を総合的に支援する「総合支援型後見監督人」を選任する運用を行っている。
この場合,親族後見人は,初回報告を裁判所ではなく後見監督人に提出し,書式は後見等事務報告書(初回)【総合支援型】,財産目録及び収支予定表である(【総合支援型後見監督版】成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック令和8年5月1日版I頁,V頁,大阪家裁の成年後見のページ)。
期限までに提出することができない場合は,後見監督人に相談する(同V頁)。
後見監督人は,監督事務報告書(初回)【総合支援型】を審判確定日から2か月と1週間以内に裁判所に提出する(大阪家裁の成年後見のページ)。
総合支援型後見監督人の運用の全体は大阪家裁の総合支援型後見監督人――対象,9か月の支援期間,到達点,延長と「横滑り」で扱う。

第6 財産目録の作り方

1 「不明」ばかりの目録は相当でない

本書(連載第26回,86頁)は,財産調査が困難であるとして,今後の調査の見通しも示さずに資産等を「不明」とした初回の財産目録が提出される例があるとし,これでは初回報告を求める趣旨が全うされず,後見等開始後の本人の生活や療養看護が確保されているのか不明であるといわざるを得ない,としている。
後見センターは,そのような初回報告が提出されたときは修正や裏付け資料の追完を求めている(本書85頁)。

2 全体像の完全な解明までは求められない

他方で,本書(86頁)は,後見人等の情報収集能力には権限上・時間上の制約や労力の限界があることも否定できないとして,後見人等が,事案に応じ,所定の期限までに可能な範囲で財産調査を行い,明らかになった結果を報告すれば足りると考えている,とする。
初回報告は,当該事案で適切な事務を開始できる程度に本人の財産を把握し,その増減の計画を立てられるものであれば足り,本人の財産の全体像を完全に明らかにしなければならないわけではなく,その後も必要かつ可能な範囲で調査して結果を定期報告で報告すればよい(同頁)。
現在の大阪家裁ハンドブック(Q6,10頁)も,初回報告までに記載が困難な項目については,その事情や理由を具体的に記載するよう求めている。
したがって,未判明の財産があるときは,「不明」と書くだけでなく,何を照会中で,いつ頃判明する見込みかを書き添えるのがよい。

3 本人の財産が事実上の管理者の手元にある場合

本書(86頁~87頁)は,本人に対する経済的虐待等が申立ての端緒となった事案では,後見人等が事実上の財産管理者から通帳等の引渡しを円滑に受けられず,申立て時点で財産調査がされていないことがあるとする。
しかし,このような事案は本人の財産を保護する必要性も高いから,事実上の管理者と交渉中であることだけを理由に初回報告が大幅に遅れることは相当ではない,とする(87頁)。
その上で,本書(87頁)は,遅滞なく金融機関等に後見等の開始を通知して取引履歴等を入手するなどして財産を調査すること,年金受取口座の変更,口座の解約,通帳の再発行又は改印届を行うことも考えられること,後見の場合は郵便物等の回送嘱託(民法860条の2)の申立てを検討することを挙げている。
事実上の管理者が財産を費消する危険がある事案では,これらを目録作成前の「急迫の必要がある行為」(民法854条)としてすることができると考えられることは,第3の3のとおりである(本書87頁注6)。
回送嘱託の要件と申立ては成年後見人への郵便物の回送嘱託と開披――民法860条の2・860条の3の要件,大阪家裁の申立て及び令和8年改正で,親族による使い込みが疑われる場合の問題は成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心にで扱っている。

4 保佐人・補助人が本人から通帳を受け取れない場合

本書(87頁~88頁)は,財産管理に関する代理権を持つ保佐人・補助人が,本人が非協力的なために通帳等の引渡しを受けられない事案について,金融機関に保佐・補助の開始を通知すると本人が取引を制限され,本人の意思や信頼関係が損なわれるのは相当でないという考えから,本人に預貯金の管理を委ねている例が多いようだ,としている。
同頁注7は,同意権を付与された保佐人・補助人が,同意権を行使する機会を確保するために金融機関に通知して本人の預貯金を管理する例はほとんど見られないとする。
このような場合,後見センターは,本人とのやり取りで明らかになった範囲で,不完全であっても初回報告を提出するよう求め,期限までに提出できない事情と今後の財産調査の方針を報告するよう求めている(88頁)。
同頁注8は,通帳は本人に委ねつつ一定の時期に確認する方法や,財産の大部分は保佐人・補助人の管理する口座で管理し,本人が管理する口座に定期的に送金してその口座には関与しない方法の例を挙げ,注9は,事案によっては預貯金に関する代理権付与の審判の取消しを申し立てることも検討する必要があるとしている。
これらは本書(令和3年8月号初出)の記載であり,現行の大阪家裁ハンドブックには同じ記述は見当たらない。

5 多額の現金・貸金庫・施設預け金

本書(88頁)は,現金は預貯金と異なり収支が客観的な記録に残らず,紛失等の危険もあるから,後見人等が多額の現金を管理する場合には事務の適正さに疑義が生じることがあるとする。
多額の現金を保管して管理する手法が不合理で裁量を逸脱・濫用すると判断されれば,現金の全部又は一部を預貯金口座に預け入れるなどの改善を指示することがあり,特段の事情もないのに1か月の現金流量を大幅に超える現金は管理の問題があるといえる場合が多い,としている(同頁)。
貸金庫で保管している場合も同様の問題があり(同頁注10),本人が入所する施設が管理している預け金は,施設に受領書を発行してもらって裏付け資料として提出する必要がある(同頁注11)。
例えば,自宅から多額の現金が見つかった場合には,金額を確認した上で本人名義又は「(本人名)成年後見人(後見人名)」名義の口座に入金し,その経過を初回報告で説明しておくのが無難である。

6 預り金口座での管理

本書(88頁)は,後見人等が金融機関に開設した預り金口座で,本人の財産と他の依頼者から受け取った預り金を一緒に管理する事案を見ることがあるが,本人の財産を他人の財産と混同して管理するものであり,後見人等が採る方法として相当でないとする。
大阪家裁ハンドブック(Q8,14頁,Q9,15頁)も,本人の財産を後見人や第三者の財産と区別して管理し,口座の名義を本人名義又は「(本人名)成年後見人(後見人名)」とするよう求めている。
弁護士が後見人等となる場合,就任直後の入金を一時的に預り金口座で受けることがあり得るが,そのまま本人の財産の管理に使い続けるべきではない。

7 相続財産目録

本人が相続人となっている未分割の相続財産がある場合は,財産目録とは別に相続財産目録を作成して提出する(本書83頁注3,大阪家裁ハンドブック34頁)。
遺産分割は,大阪家裁ハンドブックが事前に裁判所へ連絡すべき事項として挙げるものであり(34頁),初回報告から監督上の課題として把握される(本書84頁)。

第7 収支予定表の作り方

1 客観資料に基づいて作る

本書(連載第26回,89頁)は,収支の予定は,本人や親族等から事情を聴取した上で,預貯金通帳,保険証券,医療機関の領収書等の客観的資料に基づいて立てる必要があるとする。
裏付け資料が乏しい収支予定表では,その収支を前提とした本人の生活が現実的なものか,後見人等がどのような根拠に基づいて事務を行う予定かが不明であり,適切な事務を開始するための資料として十分でない,とされる(同頁)。
本書(90頁。連載第8回・平成30年8月初出)も,収支予定表は裁判所が監督をしていく上で審査に必要不可欠なものであり,本人の生活状況を把握するための重要な資料でもあるから,各費目について裏付け資料を確認して作成するよう求めている。
現在の大阪家裁ハンドブック(Q7,13頁)も,収支予定表には年金額通知書,給与明細書,税金の納付書その他計算の元とした資料を添付するよう求めている。

2 特に裏付けが必要な費目

本書(89頁)は,支出には予測判断が含まれ厳密な金額の記載は困難であり,具体的な管理の在り方は後見人等の判断に委ねられる部分が大きいことを認めつつ,とりわけ申立て時から変動のある費目(年金の受給額,施設利用料等)と,生活費・日用品費等以外の費目(保険料等)について裏付け資料を欠くことがないよう注意を促している。
例えば,申立て後に施設に入所した場合は,申立時の在宅の生活費ではなく施設利用料の請求書に基づいて支出を組み直す必要がある。

3 記載の方法

現行の収支予定表(大阪家裁ハンドブック書式集No.3-1)は,「1 本人の定期的な収入」と「2 本人の定期的な支出」に分け,月額と年額を記載し,入金先口座や引落口座を財産目録の預貯金の番号で特定させる形式である。
国民健康保険料等が控除された後の年金受取額を記載する場合は,年金の「天引き後」と保険料等の「天引き」にチェックを付し,保険料等の金額は0円と記載する(同書式の注記)。
資料の写しには,収支予定表との対応関係が分かるように,例えば「収1-2」のように対応する番号を右上に付す(同)。
2か月ごと,四半期ごと,1年に1回の収入などは月額に按分した金額を記載する(同書式の記載例)。
天引きと別途支払を二重に計上すると,定期報告のときに想定残高と実際の残高がずれる原因になる。

4 後見人等の報酬は支出予定に入れない

本書(108頁。連載第4回・平成29年12月号初出)は,収支予定表を作成する際に後見人等の報酬を月々の支出予定に組み込む例があるが,報酬は家庭裁判所がその額を定めるものであり,収支予定表の支出欄に記載するのは相当でないとする。
報酬は,報酬付与の審判を受けて本人の財産から引き出した時点での臨時支出として,後見等事務報告書の臨時支出欄に記載する(同頁,97頁注6)。
現行の定期報告書の書式にも,「臨時支出には、後見人等や監督人の報酬が含まれます。」と明記されている(大阪家裁ハンドブック書式集No.4-1)。
なお,本書(97頁注6)は,任意後見人の報酬は任意後見契約に基づいて支払われるものであるから,定期支出として計上するのが相当な場合が多いとしている。
報酬額の目安と申立ては成年後見人等の報酬額の目安――大阪家裁の基準,令和7年全国実績及び申立手続で扱っている。

5 本人の意思を踏まえた方針

大阪家裁ハンドブック(Q7,12頁)は,収支計画を立てるに当たっては,まず本人の意思を踏まえて財産の管理に関する基本的な方針を策定し,赤字が予想される場合の節約的な方針,黒字が予想される場合に本人がよりよい生活を送ることができるよう財産を活用する方針等を,本人に分かりやすく説明した上でその意思を十分に確認して策定するよう求めている。
黒字が予想される場合は,本人の意向を踏まえ,本人ができるだけ快適な日常生活を送れるようにするための財産の具体的な活用方法も検討するよう求めている(同13頁)。
収支予定表は,財産を減らさないための計画ではなく,本人の生活をどう支えるかの計画でもある。
本人の財産からどのような支出ができるかは成年後見人は本人の財産から何に支出できるか――親族の交通費・祝い金・扶養・贈与と大阪家裁の考え方で扱う。

第8 就任直後の本人の状況把握

1 申立ての段階で集めておく情報

本書(連載第5回・平成30年2月号初出,13頁)は,家庭裁判所が「本人の意思を尊重し、財産管理のみならず身上保護の観点も踏まえた後見事務を行い得る後見人」を選任することが求められているとして,申立人から提供されるべき情報として次のものを挙げている。
①行政による障害認定・介護認定等の区分
②同居者の有無・関係,別居の親族との関わり,後見制度の利用についての親族の意向,親族間紛争の有無
③在宅・施設の別,利用中の介護サービスの内容,現在の生活の問題点
④行政による支援の有無,申立代理人が関与に至った経緯,制度の利用を考えたきっかけ
⑤今後の生活についての本人の意向・希望の有無・内容
⑥本人の財産状況,収支の状況
本書(13頁~14頁)は,弁護士が申立代理人として関与する場合には,申立てに先立って本人や親族等と面談して資料を集め,これらの情報を申立書等に記載することを期待し,それができる申立代理人であれば身上保護も含めて適切な事務を行い得る適格性ある候補者といえるとしている。
申立代理人が候補者となる場合,これらの情報は,そのまま初回報告書の第1(本人の心身や生活の状況)から第3(支援者)までの記載の基礎になる。

2 本人の意思・意向を報告に書く

本書(15頁)は,施設入所等の身上保護の重要な決定や不動産処分等の重要な財産行為について事前相談のために提出される連絡票に,後見人等の意見や根拠となる事実の記載はあっても本人の意思・意向に触れていないものが見受けられるとし,意思尊重・身上配慮義務(民法858条)は後見人の基本的な義務であるから,本人の意思・意向を把握することが望まれるとしている。
民法858条は,「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定める。
平成30年2月当時のこの指摘は,現在の初回報告書で,方針が本人の意思に沿っているかを選択肢で答えさせ,本人との面談等の状況を記載させる形に具体化されているといえる(第5の3)。
就任直後に本人に会わないまま初回報告を出すと,第4の欄に「面談等は行っていない」と理由を書くことになるから,期限までに少なくとも一度は本人に面会し,支援者からも話を聴いておく必要がある。

3 課題の進捗を報告する

本書(15頁)は,後見センターが,①財産管理が複雑・困難な事案,②親族間紛争等のある事案,③不正行為が疑われる事案での追加選任等で弁護士を後見人に選任しているとし,弁護士後見人には,事案の課題を意識して対処し,定期報告以外にも進捗に応じて適宜報告するよう,課題の解決が進んでいない場合もその旨を報告するよう求めている。
初回報告の報告書に記載した方針は,その後の定期報告で進捗を問われる出発点になる。

4 申立て前の説明不足が就任後に影響すること

本書(14頁)は,申立人から「後見人等に自分が選任されないならば取り下げたい」「後見人等報酬が発生するとは思っていなかった」という声があり,親族後見人等から「遺産分割等の当初の目的は達したので利用をやめたい」と言われることがあるとし,誤解を理由とする申立ての取下げは許可できない結果,専門職後見人の選任に親族が不満を抱き,事務に非協力的となる例も見られるとしている。
第三者として選任された後見人等が,就任直後に親族から通帳の引渡しを拒まれる背景には,こうした誤解があることが少なくない。
就任直後の親族との面談では,後見人等の役割,報酬の仕組み,後見が本人の死亡等まで続くことを説明し,通帳等の引継ぎへの協力を求めることが,初回報告を期限内に出すための前提となる。
親族の意向の法的な位置付けは成年後見事件における親族の意向の取扱い――選任,職務遂行及び解任の各場面における法的地位で扱っている。

第9 本書の記述のうち現在は変わった点・確認できなかった点

事項本書の記載現在の資料
初回に提出する書面財産目録と収支予定表(83頁)後見等事務報告書(初回報告)も提出(大阪家裁ハンドブック10頁,34頁)
報告書・目録の書式大阪家裁の最新書式を使う(82頁)報告書は令和7年4月から全国統一書式,後見ポータルサイトに掲載
連絡票の回答時期1週間程度(69頁,令和元年当時)2週間を目途(大阪家裁ハンドブック40頁,書式集No.6-1)
連絡票の提出方法FAXも可(69頁)郵送又は持参(大阪家裁ハンドブック40頁)。FAXの可否は記載なし
専門職団体推薦の期限確定日から1か月と3週間(83頁,90頁,91頁)公開資料では確認できず,「手続の流れ」による
初回報告後6か月以内の誕生月翌年の誕生月でよい(91頁)公開資料では確認できず
総合支援型後見監督人の期限確定日から2か月と1週間(91頁)同じ(大阪家裁の成年後見のページ)
期間伸長の申立て成年後見人・未成年後見人のみ(90頁~91頁)同じ(民法853条1項ただし書,876条の5第2項,876条の10第1項)
報酬の計上方法臨時支出として報告(97頁,108頁)同じ(定期報告書の書式に明記)

本書(82頁。連載第2回・平成29年8月号初出)の留意点のうち,報告書作成の基準日を報告月の前月末日とすること,10万円以上の臨時収支を記載すること,本人死亡後の報酬付与申立て時にも報告書が必要であることは,現行の大阪家裁ハンドブック(36頁)及び大阪家裁の成年後見のページの記載と一致する。

第10 令和8年改正後の初回報告

1 財産目録の作成義務は特定補助人へ

令和8年法律第45号による改正で,法定後見は補助に一元化され,後見と保佐は廃止される。
改正後の民法853条は「未成年後見人は、遅滞なく未成年被後見人の財産の調査に着手し、一箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。」と未成年後見人だけを対象とする規定になる(法務省の新旧対照条文)。
これに代わって,補助の節に民法876条の15が新設され,同条1項は,「特定補助人は、特定補助人として付され、又は定められた後、遅滞なく、第十条第一項の規定による審判を受けた者の財産の調査に着手し、一箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。」と定める。
補助監督人があるときはその立会いを要し(同条2項),本人が包括財産を取得した場合にも準用される(同条3項)。

特定補助人とは,本人が精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にあり,必要があると認めるときに,改正後の民法10条1項の審判で付される補助人であり,その権限は,取消権の行使,本人に対する意思表示の受領及び本人の財産に関する保存行為である(改正後の民法10条5項)。
したがって,改正後は,法律上の財産目録の作成義務と期間伸長の申立ては特定補助人に限られ,代理権を付与されただけの補助人には及ばないことになる。

2 支出金額の予定と裁判所への報告

改正後の民法861条1項は未成年後見人だけを対象とする規定になり,新旧対照条文で確認した範囲では,補助の節に「毎年支出すべき金額を予定」する旨の規定は置かれていない。
新旧対照条文で確認した範囲では,財産目録の作成前の権限を制限する民法854条に相当する規定も,補助の節には置かれていない。
他方,改正後の民法876条の20第1項は,「補助監督人又は家庭裁判所は、いつでも、補助人に対し補助の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は補助の事務若しくは補助開始の審判を受けた者の財産の状況を調査することができる。」と定める。
現在,保佐人・補助人に民法863条1項の準用を根拠として初回報告を求めている大阪家裁の運用(第3の2)からすると,改正後も,代理権を付与された補助人に対し,民法876条の20第1項を根拠に財産目録や収支予定表の提出を求める運用が考えられるが,基準日現在,その運用は公表されていない。

改正後の民法876条の21第1項は,「補助人は、家庭裁判所の定めるところにより、毎年一回一定の時期に、補助開始の審判を受けた者の状況その他家庭裁判所の命ずる事項を家庭裁判所に報告しなければならない。」と定め,毎年の定期報告を法律上の義務とする。
家庭裁判所は,その報告を受けて,改正後の民法12条1項から5項までに規定するときに該当するときは,職権で同条の審判をすることができる(同条2項)。

3 意向の把握

改正後の民法876条の11第1項は,補助人は,補助の事務を行うに当たっては,本人の心身の状態に応じて,事務に関する情報の提供をして本人の陳述を聴取することその他の適切な方法により,その事務に関する意向を把握するようにしなければならないと定め,同条2項は,把握した意向を尊重し,心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないと定める。
初回報告書で本人の意思の確認方法を問う現在の運用(第5の3)は,改正後はこの意向把握義務の履行状況を報告させるものとして位置付けられると考えられる。

4 施行日と経過措置

改正法の成年後見部分は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行され,基準日現在は未施行である(改正法附則1条)。
施行日前に後見開始の審判を受けた本人とその成年後見人・成年後見監督人に関する民法の規定の適用は,附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例による(改正法附則2条1項)から,施行後も既存の成年後見人には現行の民法853条・861条1項が適用されると考えられる。
ただし,その成年後見人による本人の意向の尊重と心身の状態・生活の状況への配慮については,改正後の民法876条の11が適用される(改正法附則2条3項)。
保佐も同様である(改正法附則3条1項・2項)。
施行日前にされた補助開始の審判は施行日以後は改正後の補助開始の審判とみなされ(改正法附則4条1項),既存の補助人には施行日以後は改正後の規定が適用されると考えられる。
改正制度の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。

第11 出典・参考資料

1 法令

民法(644条,846条,853条~856条,858条,859条,860条の2,861条,863条,876条の5,876条の10) e-Gov法令検索
家事事件手続法(74条,86条,123条,別表第一) e-Gov法令検索
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)による改正後の民法(10条,853条,861条,876条の11,876条の15,876条の20,876条の21),同法附則1条~4条 e-Gov法令検索(民法)
法務省「民法等の一部を改正する法律 新旧対照条文」 法務省
法務省「民法等の一部を改正する法律案」(法律案本文) 法務省

2 公的資料

大阪家庭裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」(令和8年9月19日閲覧) 裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版)9頁~15頁,23頁,25頁,33頁~36頁,40頁,書式集No.1-1,No.3-1,No.4-1,No.6-1 裁判所
大阪家庭裁判所「【総合支援型後見監督版】成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」(令和8年5月1日版)I頁~II頁,V頁 裁判所
裁判所「後見ポータルサイト」 裁判所

3 文献

大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)1頁,13頁~17頁,68頁~69頁,82頁~91頁,97頁,108頁

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