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歯の欠損・咀嚼障害・言語障害の後遺障害等級-歯科補綴の歯数と4種の語音(AI作成)

第1 結論の要旨と本記事の対象

1 本記事の対象と基準日

(1) 対象とする障害と基準日

本記事は,交通事故で歯を失い,又はかむこと(咀嚼)や話すこと(言語)に障害が残った場合に,自賠責保険でどの後遺障害等級に当たるか,その等級が損害賠償の場面でどのように扱われるかを整理するものである。
基準日は令和8年9月18日である。
自賠法施行令と労災保険法施行規則(以下「労災則」という。)の条文は同日にe-Gov法令検索で確認し,労災の障害等級認定基準(昭和50年9月30日基発第565号別冊。以下「認定基準」という。)の「口」の項も同日に厚生労働省の法令等データベースで原文を確認した。

(2) 資料の性質

本記事は,小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門 認定から訴訟まで』(青林書院,平成30年)の「口の障害」の章(247頁~267頁)と総論の歯牙障害の項(23頁)を手掛かりにしている。
ただし,等級,号数,認定基準の文言及び金額は,同書ではなく,e-Gov法令検索,厚生労働省の法令等データベース及び国土交通省掲載の支払基準で確認したものを記載している。
同書が紹介する下級審裁判例は,裁判所ウェブサイトで全文を確認できたものに限って取り上げる。
味覚障害と嗅覚障害は,嗅覚・味覚の後遺障害の記事で扱う。

2 結論の要旨

(1) 等級の決まり方

歯の障害(歯牙障害)は,歯科補綴を加えた歯の数によって,3歯以上の14級2号から14歯以上の10級4号までの5段階に分かれる。
咀嚼と言語の機能障害は,食べられる物の範囲と,4種の語音のうち発音できないものの数によって程度が決まり,咀嚼と言語の両方か一方かによって,1級2号から10級3号までの6段階に分かれる。
等級表にない声のかすれ,開口障害による食事時間の延長及び飲み込みの障害は,認定基準によって12級又は咀嚼の等級を準用して扱われる。

(2) 損害賠償の場面での扱い

自賠責保険の支払基準は,等級に応じた労働能力喪失率で逸失利益を算定する。
これに対し,訴訟では,歯科補綴によって歯の機能は回復するとして逸失利益が否定されることが多く,不利益は後遺障害慰謝料で考慮される傾向にあると前記の書籍は整理している。
他方で,義歯やブリッジ,インプラントの作り替えの費用は,将来の治療費として請求できる場合がある。

第2 口の障害の類型と等級表

1 口の障害の三つの類型

(1) 咀嚼機能障害・言語機能障害・歯牙障害

認定基準は,口の障害について,等級表が「そしゃく及び言語機能障害並びに歯牙障害について等級を定めている」とし,嚥下障害や味覚脱失など等級表に掲げていない口の障害は,障害の程度に応じて他の障害に準じて等級を認定するとしている。
認定基準の障害系列表も,口の障害を「そしゃく及び言語機能障害」と「歯牙障害」の二つの系列に分けている。

(2) 自賠責保険が労災の認定基準に準じること

自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3は,「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めている。
そのため,歯の数え方や4種の語音の意味は,労災の認定基準によって確認することになる。

2 自賠法施行令別表第二の等級と保険金額

(1) 等級表

自賠法施行令別表第二が定める口の障害の号と保険金額,これに対応する労災則別表第一の号は,次のとおりである。

等級自賠責の号(自賠法施行令別表第二)後遺障害労災の号(労災則別表第一)保険金額
1級2号咀嚼及び言語の機能を廃したもの第1級の23000万円
3級2号咀嚼又は言語の機能を廃したもの第3級の22219万円
4級2号咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの第4級の21889万円
6級2号咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの第6級の21296万円
9級6号咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの第9級の6616万円
10級3号咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの第10級の2461万円
10級4号十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの第10級の3461万円
11級4号十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの第11級の3の2331万円
12級3号七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの第12級の3224万円
13級5号五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの第13級の3の2139万円
14級2号三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの第14級の275万円

2級,5級,7級及び8級には口の障害の号がない。
咀嚼と言語の両方に障害がある場合の号が置かれているのは,1級,4級及び9級である。

(2) 自賠責と労災の号数の違いと旧号数

10級から14級では,自賠責と労災で号数が一致しないものが多い。
例えば,咀嚼又は言語の機能に障害を残すものは,自賠責では10級3号,労災では第10級の2である。
また,平成16年6月30日以前に発生した事故では,自賠責の咀嚼又は言語の機能の障害は10級2号,14歯以上の歯科補綴は10級3号,5歯以上の歯科補綴は13級4号であった。
号数の対照と読替えの方法は,後遺障害等級の号数の読み方で説明している。

第3 歯牙障害と歯科補綴の歯数

1 「歯科補綴を加えたもの」の意味

(1) 認定基準の定義

認定基準は,「歯科補てつを加えたもの」を,「現実にそう失又は著しく欠損した歯牙に対する補てつをいう。」と定めている。
補綴とは,失った歯や欠けた部分を人工物で補うことであり,前記の書籍(252頁~253頁)は,抜歯後の入れ歯やブリッジ(架橋義歯),欠損部分を合金やレジン等で補う方法を挙げている。
抜歯した歯も,喪失した歯に含まれる。

(2) 歯冠部の体積の4分の3以上の欠損と治療上の切除

前記の書籍(252頁)は,「著しく欠損した歯牙」を歯冠部の体積の4分の3以上を欠損したものとし,歯科技工上,残った歯冠部の一部を切除したために歯冠部の大部分を欠損したのと同じ状態になった歯に補綴した場合も含むとしている。
同書266頁に掲載された自賠責保険の後遺障害診断書(歯科用)も,事故で喪失又は歯冠部の体積の4分の3以上を欠損した歯と,治療の必要上,抜歯又は歯冠部の体積の4分の3以上を切除して歯科補綴を施した歯を,別の欄に記入させる形式になっている。
歯の一部が欠けて詰め物や被せ物をしただけでは,歯冠部の4分の3以上の欠損又は切除に当たらない限り,補綴歯として数えられないことになる。

2 数えない歯

(1) 支台冠・鈎の装着歯とポスト・インレー

認定基準は,「有床義歯又は架橋義歯等を補てつした場合における支台冠又は鈎の装着歯やポスト・インレーを行うに留まった歯牙は、補てつ歯数に算入せず」としている。
ブリッジを支えるために両隣の健康な歯を削って冠をかぶせた場合でも,その支えの歯は,喪失や著しい欠損がない限り,歯科補綴を加えた歯として数えないということである。
入れ歯のばね(鈎)をかけた歯も同じである。

(2) 喪失した歯数と義歯の数が異なる場合

認定基準は,喪失した歯が大きいか,歯と歯の間に隙間があったため,喪失した歯数と義歯の歯数が異なる場合は,喪失した歯数によって等級を認定するとしている。
その例として,「3歯のそう失に対して、4本の義歯を補てつした場合は、3歯の補てつとして取り扱う。」としている。

(3) 親知らずと乳歯

前記の書籍(253頁)は,第3大臼歯(親知らず)は認定の対象とならないとしている。
同書267頁に掲載された後遺障害診断書(歯科用)の記入上の注意も,第三大臼歯は後遺障害の対象としていないので記入の必要はないとし,乳歯の損傷は原則として後遺障害の対象としていないとしている。
ただし,同じ注意書きは,事故により乳歯を欠損し,永久歯の萌出が見込めない歯は記入の対象とし,萌出が見込めない理由を書くよう求めている。
これらは診断書の記入上の注意であり,本記事では,現在の様式が同書に掲載された様式と同じであるかは確認できていない。

3 事故前から補綴していた歯がある場合の加重

(1) 加重の考え方

認定基準は,「何歯かについて歯科補てつを加えていた者が、さらに歯科補てつを加えた結果、上位等級に該当するに至ったときは、加重として取り扱うこと。」と定めている。
自賠法施行令2条2項は,既に後遺障害のある者が同一部位について後遺障害の程度を加重した場合の保険金額を,加重後の等級の金額から既にあった後遺障害の等級の金額を控除した額としている。
認定基準の総論は,同一部位に新たな障害が加わっても,現存する障害が既存の障害より重くならなければ加重に当たらないとしている。

(2) 計算の例

前記の書籍(253頁)は,事故前から既存障害として5歯があり,事故により4歯に補綴を加えた場合を例に挙げ,合計9歯として12級3号に当たるが,既存障害として13級5号を控除するとしている。
これを自賠法施行令2条2項に当てはめると,自賠責保険の保険金額は,12級の224万円から13級の139万円を控除した85万円となる。
他方,事故前から3歯の補綴があり,事故で1歯を補綴した場合は,合計4歯で14級2号のままであり,上位等級に至らないので加重に当たらないことになる。
同書(253頁)は,重い虫歯(C4の状態)の歯も既存障害として認定するとしており,後遺障害診断書(歯科用)の記入上の注意も,事故前からC4の状態であった歯を,事故前に歯冠部の大部分を欠損していた歯の欄に記入させている。

(3) 既存の補綴歯が認定に記載された例

福岡地方裁判所平成16年10月25日判決(平成13年(ワ)第413号)は,平成7年9月20日の交通事故の被害者について,自動車保険料率算定会が,「第10級3号現症19歯に歯科補綴を加えたもの(第13級4号既存6歯に歯科補綴を加えていたもの)」と認定したことを前提事実として記載している。
事故が平成16年6月30日以前であるため,号数は旧号数であり,現行の号数では10級4号と13級5号に当たる。
既存の補綴歯の数と等級は,事故前の歯科の診療録から明らかになることが多く,事故前の歯の状態を整理しておくことが,等級の見通しを立てるうえで必要になる。

第4 咀嚼機能障害と言語機能障害

1 咀嚼機能障害の程度

(1) 食べられる物による三段階

認定基準は,咀嚼機能の障害を「上下咬合及び排列状態並びに下顎の開閉運動等により、総合的に判断すること。」としたうえで,次の三段階を定めている。
①「そしゃく機能を廃したもの」は,流動食以外は摂取できないもの
②「そしゃく機能に著しい障害を残すもの」は,粥食又はこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないもの
③「そしゃく機能に障害を残すもの」は,固形食物の中にそしゃくができないものがあること又はそしゃくが十分にできないものがあり,そのことが医学的に確認できる場合

(2) 医学的に確認できる場合

認定基準は,③の「医学的に確認できる場合」を,不正咬合,そしゃく関与筋群の異常,顎関節の障害,開口障害,歯牙損傷(補てつができない場合)等,咀嚼ができないものがあること等の原因が医学的に確認できることをいうとしている。
また,固形食物の中に咀嚼ができないものがある例として,ごはん,煮魚,ハム等は咀嚼できるが,たくあん,らっきょう,ピーナッツ等の一定の固さの食物の中に咀嚼ができないものがある場合を挙げている。
前記の書籍(255頁~256頁)は,咀嚼障害の認定では,障害の原因となる器質的変化についての客観的所見が重要であり,エックス線写真等の画像や診断内容を詳しく記載した診断書が重要になるとしている。

2 言語機能障害と4種の語音

(1) 4種の語音

認定基準は,子音を構音部位によって次の4種類に分類している。
①口唇音(ま行音,ぱ行音,ば行音,わ行音,ふ)
②歯舌音(な行音,た行音,だ行音,ら行音,さ行音,しゅ,し,ざ行音,じゅ)
③口蓋音(か行音,が行音,や行音,ひ,にゅ,ぎゅ,ん)
④喉頭音(は行音)

(2) 発音できない語音の数による三段階

認定基準は,言語機能の障害について次の三段階を定めている。
①「言語の機能を廃したもの」は,4種の語音のうち,3種以上の発音不能のもの
②「言語の機能に著しい障害を残すもの」は,4種の語音のうち2種の発音不能のもの又は綴音機能に障害があるため,言語のみを用いては意思を疎通することができないもの
③「言語の機能に障害を残すもの」は,4種の語音のうち,1種の発音不能のもの
綴音とは,語音が一定の順序に連絡され,特殊の意味が付けられて言語ができあがることをいうと認定基準は説明している。
前記の書籍(251頁)は,言語機能障害の認定では,医師だけでなく言語聴覚士による検査も有用であるとしている。

3 等級表に組合せのない場合の準用

(1) 併合の方法による準用等級

等級表は,咀嚼と言語の程度が同じ場合の組合せ(例えば,両方を廃したものは1級)しか定めていない。
認定基準は,等級表上組合せのない咀嚼及び言語機能障害については,各障害の該当する等級により併合の方法を用いて準用等級を定めるとしている。
その例として,咀嚼機能の著しい障害(第6級の2)と言語機能の障害(第10級の2)がある場合は,第5級とするとしている。

(2) 序列を乱す場合

認定基準は,咀嚼機能を廃し(第3級の2),言語機能に著しい障害(第6級の2)がある場合について,併合すると第1級となるが,序列を乱すこととなるので,第2級とするとしている。
咀嚼と言語の両方を廃した場合が1級であるから,一方を廃し他方に著しい障害が残った場合を同じ1級とすることはできないという趣旨である。

4 12級の準用

(1) 声帯麻痺による著しいかすれ声

認定基準は,「声帯麻痺による著しいかすれ声については、第12級を準用すること。」としている。
かすれ声は4種の語音の発音不能とは異なるため,言語機能障害の等級ではなく,この準用によって扱われる。

(2) 開口障害等を原因として咀嚼に相当時間を要する場合

認定基準は,「開口障害等を原因としてそしゃくに相当時間を要する場合は、第12級を準用すること。」としている。
「開口障害等を原因として」とは,開口障害,不正咬合,そしゃく関与筋群の脆弱化等を原因として,咀嚼に相当時間を要することが医学的に確認できることをいい,「そしゃくに相当時間を要する場合」とは,日常の食事において食物の咀嚼はできるものの,食物によっては咀嚼に相当時間を要することがあることをいうとされている。
さらに,開口障害等の原因から咀嚼に相当時間を要することが合理的に推測できれば,「相当時間を要する」に該当するものとして取り扱って差し支えないとされている。
固い物がかめない(10級3号)とまではいえないが,口が十分に開かず食事に時間がかかる場合は,この準用が検討されることになる。

5 嚥下障害と味覚障害

(1) 嚥下障害

認定基準は,舌の異常,咽喉支配神経の麻痺等によって生ずる嚥下障害については,その障害の程度に応じて,咀嚼機能障害に係る等級を準用するとしている。
飲み込みの障害で流動食しかとれない場合は,咀嚼機能を廃したものに準じて扱われることになる。
前記の書籍(254頁~255頁)は,嚥下の検査として,簡易検査のほか,嚥下内視鏡検査,嚥下造影検査及び嚥下圧検査を挙げ,嚥下造影検査を最も信頼性が高いものとしている。

(2) 味覚障害

認定基準は,頭部外傷その他顎周囲組織の損傷及び舌の損傷によって生じた味覚脱失を第12級,味覚減退を第14級の準用としている。
検査方法と認定の時期は,嗅覚・味覚の後遺障害の記事で説明している。

第5 歯牙障害と咀嚼・言語機能障害の関係

1 併合と上位の等級の選択

(1) 歯以外の原因による咀嚼・言語の障害は併合

認定基準は,咀嚼又は言語機能障害と歯牙障害がある場合で,咀嚼又は言語機能障害が歯牙障害以外の原因(例えば,顎骨骨折や下顎関節の開閉運動制限等による不正咬合)に基づく場合は,併合して等級を認定するとしている。
前記福岡地方裁判所平成16年10月25日判決の事案では,上下顎骨骨折による咀嚼機能障害が6級2号,歯科補綴が旧号数の10級3号とされ,外貌醜状等と合わせて併合4級とされている。

(2) 歯の損傷に基づく障害は上位の等級

認定基準は,歯科補綴を行った後に,なお歯牙損傷に基づく咀嚼又は言語機能障害が残った場合は,各障害に係る等級のうち,上位の等級をもって認定するとしている。
歯を失ったことが原因でかめないという場合に,歯の本数の等級と咀嚼の等級を併合して繰り上げると,同じ障害を二重に評価することになるからである。
咀嚼障害の原因が歯にあるのか,顎の骨や関節にあるのかによって結論が変わるため,画像や診断書で原因を明らかにしておく必要がある。

2 自賠責保険の保険金額の計算

(1) 併合の規定

自賠法施行令2条1項3号は,13級以上の後遺障害が二以上ある場合は重い等級の1級上位の等級(8級以上が二以上なら2級上位,5級以上が二以上なら3級上位)の金額とし,1級上位の場合は各等級の金額の合算額を上限としている。
例えば,顎関節の開閉運動制限による咀嚼機能の障害(10級3号,461万円)と7歯の歯科補綴(12級3号,224万円)が併存する場合は,併合9級として616万円となる。
咀嚼障害が歯の喪失だけによるものであれば,前記のとおり上位の10級3号の461万円となる。

(2) 併合の計算の詳細

併合と加重の計算の全体は,前記の号数の記事の併合と加重の基本で説明している。
外貌の醜状と歯牙障害が併存することも多く,顔の傷あとの等級は顔・首の傷あと(外貌醜状)の後遺障害等級で扱っている。

第6 後遺障害診断書と認定の準備

1 診断書の使い分け

(1) 後遺障害診断書(自賠調18号様式)の咀嚼・言語の欄

損害保険会社が掲載する自賠責保険後遺障害診断書(自賠調18号様式)には,⑥欄としてそしゃく・言語の障害の欄があり,原因と程度(摂食可能な食物,発音不能な語音など)を記入するよう求めている。
同じ様式は,「歯牙障害については、歯科後遺障害診断書を使用してください。」としている。
診断書の作成時期と記載項目の全体は,交通事故の後遺障害診断書で説明している。

(2) 後遺障害診断書(歯科用)の三つの欄

前記の書籍266頁~267頁に掲載された後遺障害診断書(歯科用)は,①事故前に喪失又は歯冠部の大部分を欠損していた歯(補綴済みの歯,C4の状態の歯を含む。),②事故により喪失又は歯冠部の大部分を欠損した歯,③事故による歯の治療の必要上,抜歯又は歯冠部の大部分を切除し,歯科補綴を施した歯の三つの欄に,該当する歯を○で囲んで総数を記入する形式である。
記入上の注意は,同一の歯が複数の欄に記入されることはないとし,③欄に記入する歯については抜歯・切除の理由を記入するよう求めている。
①欄が加重の既存障害の根拠になり,②欄と③欄の合計が事故による補綴歯数になるので,歯科医師に事故前の状態を正確に記入してもらうことが重要になる。

2 立証の要点

(1) 咀嚼・言語の障害の立証

前記の書籍(255頁~256頁)は,咀嚼障害について,歯の上下の咬合や配列状態,下顎の開閉運動などを総合的に評価し,摂取できる飲食物の制限があるかによって判断されるとし,原因となる器質的変化の客観的所見に加え,実際の咀嚼状況の主張が重要であるとしている。
客観的所見が得られない場合でも,被害者本人の陳述書,医師作成の咀嚼状況の報告書,飲食の様子を録画した動画等で実際の咀嚼状況を示すことは有用であるとしている。
口からこぼれる,唇がしびれてうまく話せないといった症状があっても,摂取できる食物の制限や4種の語音の発音不能に当たらない場合は,咀嚼や言語の機能障害には当たらないことになる。

(2) 歯牙障害と因果関係

前記の書籍(256頁)は,歯牙障害は歯科医師が補綴の有無を診断するため,後遺障害の存在自体が争われることは少ないとしている。
他方で,事故直後に歯科を受診していないと,事故と歯科治療の因果関係が争われることがあるから,入院中で歯科治療を受けられなかった等の事情があれば,その経過を記録しておく必要がある。
認定結果に不服がある場合は,自賠責保険に異議申立てをすることができる。

第7 逸失利益,慰謝料及び将来の補綴費

1 自賠責保険の支払基準

(1) 慰謝料の額と労働能力喪失率

自賠責保険の支払基準は,令和2年4月1日以後に発生した事故について,口の障害の各等級の後遺障害慰謝料の額と労働能力喪失率を次のとおり定めている。

等級後遺障害慰謝料(支払基準)労働能力喪失率(支払基準別表Ⅰ)
1級1150万円100/100
3級861万円100/100
4級737万円92/100
6級512万円67/100
9級249万円35/100
10級190万円27/100
11級136万円20/100
12級94万円14/100
13級57万円9/100
14級32万円5/100

1級と3級で被扶養者がいるときの慰謝料は,それぞれ1350万円と1005万円である。
保険金額は,逸失利益と慰謝料等を合わせた後遺障害による損害について,自賠責保険から支払われる額の上限となる。

(2) 支払基準と訴訟の違い

支払基準は,歯牙障害についても等級に応じた労働能力喪失率で逸失利益を算定する仕組みであり,歯牙障害を理由に逸失利益を制限する定めは置いていない。
これに対し,訴訟では,後遺障害が実際に労働能力に影響するかが個別に判断される。
最高裁判所第三小法廷昭和56年12月22日判決(昭和54年(オ)第354号,民集35巻9号1350頁)は,後遺症の程度が比較的軽微で,職業の性質からみて現在又は将来の収入の減少も認められないときは,特段の事情のない限り,労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められないとしている。

2 訴訟での逸失利益と慰謝料

(1) 逸失利益が否定されやすい理由

前記の書籍(23頁)は,工場法の時代には歯牙障害も労働能力に影響すると考えられていたが,デスクワーク中心となった現代では,多くの労働において歯牙障害は労働能力に直接影響せず,労働能力の喪失が否定されることが多いとしている。
同書(257頁)も,咀嚼,言語,味覚及び嚥下の各障害は他の障害と比べて直接労働能力に影響することが少ないとして逸失利益が否定される傾向にあり,歯牙障害は歯科補綴によって歯の機能が回復すると考えられることから,逸失利益が否定されることが多いとしている。
もっとも,同書は,被害者が従事している職業や将来の職業選択の可能性,日常の家事に与える影響等を考慮して逸失利益を認める場合もあり,その場合でも労働能力喪失率や喪失期間が制限されることがあるとしている。
歯を食いしばって重い物を持つ作業,食材を扱う調理や接客,話すことが中心の職業などでは,具体的な支障を示して逸失利益を主張する余地がある。
減収のない被害者の逸失利益の立証方法は,交通事故の後遺障害逸失利益で説明している。

(2) 慰謝料での考慮と裁判例

前記の書籍(259頁)は,逸失利益が否定された場合でも,諸般の事情を考慮して後遺障害慰謝料で考慮されることがあるとしている。
大津地方裁判所平成14年5月27日判決(平成13年(ワ)第134号)は,県道の路側帯から自転車ごと転落して下顎骨骨折と歯の破折等を負った事案で,3歯の歯科補綴と1歯の抜歯,男子の外貌の醜状及び顎関節の関節突起の偏位について,現在は開口運動や咬合に問題がなく咀嚼機能に支障を来しているとは認められないとして逸失利益を認めなかった。
そのうえで,同判決は,「3歯以上の歯科補綴と男子の外貌の醜状」が残り,高齢時に下顎に障害が生じるおそれがあることを考慮して,後遺障害慰謝料を250万円としている。
前記福岡地方裁判所平成16年10月25日判決は,咀嚼機能障害(6級2号)や外貌醜状等に高次脳機能障害が加わった事案で,咀嚼障害について「労働意欲等に与える影響も軽視できない」ことも考慮し,全体として労働能力喪失率を80%としている。

3 将来の補綴費とインプラント費用

(1) 義歯やブリッジの作り替え

前記の書籍(260頁)は,義歯等に耐用年数がある程度予想される場合や,矯正等により治療完了まで期間を要する場合には,将来の治療費が認められることがあるとしている。
将来の費用は中間利息を控除して現在の額に引き直すことになり,令和2年4月1日以後に損害賠償請求権が生じた事故では,控除の利率は法定利率(令和8年9月現在は年3%)による。

(2) インプラント治療費

同書(260頁)は,かつてはインプラント治療費が認められにくい傾向にあったが,近時は医師によってインプラント治療が最善の方法であると診断された場合に,将来分も含めて認める事例も少なくないとしている。
インプラント治療の要否,費用の相当性,耐用年数とメンテナンス費用,事故前からの歯の状態による減額については,交通事故のインプラント治療費はどこまで損害になるかで詳しく論評している。
なお,最高裁判所第三小法廷平成8年10月29日判決(平成5年(オ)第875号,民集50巻9号2474頁)は,被害者の身体的特徴が疾患に当たらないときは,特段の事情がない限り,損害賠償の額を定めるに当たりしんしゃくすることはできないとしており,事故前の歯の状態を理由とする減額の主張を検討する際の出発点になる。

第8 出典

1 法令

e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(2条及び別表第二を確認),令和8年9月18日閲覧。
e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」(別表第一を確認),令和8年9月18日閲覧。

2 告示・通達・様式

国土交通省掲載「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」,平成13年金融庁・国土交通省告示第1号,第3及び後遺障害の慰謝料等。
国土交通省掲載「労働能力喪失率表」(支払基準別表Ⅰ)。
厚生労働省「障害等級認定基準について」,昭和50年9月30日基発第565号別冊(口の項)。
厚生労働省「障害等級認定基準について」,昭和50年9月30日基発第565号別冊(障害系列表及び加重)。
自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(自賠調18号様式),損害保険会社掲載の様式。

3 裁判例

最高裁判所第三小法廷昭和56年12月22日判決・昭和54年(オ)第354号,民集35巻9号1350頁。
最高裁判所第三小法廷平成8年10月29日判決・平成5年(オ)第875号,民集50巻9号2474頁。
大津地方裁判所平成14年5月27日判決・平成13年(ワ)第134号,裁判所ウェブサイト。
福岡地方裁判所平成16年10月25日判決・平成13年(ワ)第413号,裁判所ウェブサイト。

4 書籍

①小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門 認定から訴訟まで』(青林書院,平成30年)23頁及び247頁~267頁。