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交通事故の難聴・耳鳴りの後遺障害等級-聴力検査の基準と12級・14級相当(AI作成)

第1 結論の要旨と本記事の対象

1 本記事の対象と基準日

(1) 対象とする障害と基準日

本記事は,交通事故で耳にけがをし,難聴,耳鳴り,耳漏(みみだれ)又は耳介(耳たぶを含む外側の耳)の欠損が残った場合に,自賠責保険でどの後遺障害等級に当たるか,その等級が損害賠償の場面でどのように扱われるかを整理するものである。
基準日は令和8年9月18日であり,自動車損害賠償保障法施行令(以下「自賠法施行令」という。)と労働者災害補償保険法施行規則(以下「労災則」という。)の条文は同日にe-Gov法令検索で確認し,労災の障害等級認定基準(通達)と自賠責保険の支払基準も同日に原文を確認した。

(2) 資料の性質

本記事は,小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門 認定から訴訟まで』(青林書院,平成30年)の「耳の障害」の章(215頁~227頁)の整理を手掛かりにしているが,等級,号数及び数値基準は,いずれも上記の一次資料で確認したものを記載している。
同書は平成30年6月末日現在の法令に基づくものであり,同書が引用する『労災補償障害認定必携』も第16版である。
同書が紹介する下級審の裁判例は,裁判所ウェブサイトに掲載されておらず本文を確認できていないため,本記事では取り上げていない。

2 結論の要旨

(1) 等級の決まり方

難聴の等級は,自賠法施行令別表第二の4級3号から14級3号までの14の号のいずれかに当たるかで決まり,その当否は,純音聴力検査による平均純音聴力レベル(デシベル)と語音聴力検査による最高明瞭度(%)という数値で判断される。
聴力検査は症状固定後に日を変えて3回行い,2回目と3回目の測定値の平均によって等級を認定するのが労災の認定基準であり,自賠責保険もこれに準じて認定する。
耳鳴りと耳漏は等級表に掲げられていないが,労災の認定基準により12級又は14級に準じて扱われ,自賠責保険では「12級相当」「14級相当」として認定される。
耳介の欠損は,耳の障害としての等級(12級4号)と外貌の醜状としての等級のいずれか上位の等級による。

(2) 損害賠償の場面での扱い

耳の障害は,事故の直後から症状を訴えていたかどうかによって事故との因果関係の判断が大きく左右され,突発性難聴,加齢による難聴又は事故前からの耳鳴りとの区別が争点になりやすい。
また,等級が認定されても,その等級の労働能力喪失率どおりに逸失利益が認められるとは限らず,職業や生活への具体的な影響の立証が求められる。
第7及び第8で説明する。

第2 耳の構造と障害の種類

1 耳の構造

(1) 外耳・中耳・内耳

耳は,外耳,中耳及び内耳に分けられる。
音は耳介で集められ,外耳道を通って鼓膜を振動させ,その振動が中耳の三つの耳小骨(ツチ骨,キヌタ骨,アブミ骨)を経て内耳の蝸牛に伝わる。
蝸牛の感覚細胞が振動を電気信号に変えて聴神経に伝え,大脳で音として認識される(前記『後遺障害入門』215頁)。
外耳と中耳は振動によって音を伝える器官(伝音器),内耳の感覚細胞と聴神経は振動を電気信号に変えて脳に伝える器官(感覚器)である。

(2) 平衡感覚をつかさどる器官

内耳には,音を伝える器官のほか,身体の回転運動や直線運動を感じて平衡を保つ三半規管と前庭がある(同書215頁~216頁)。
そのため,内耳のけがでは,難聴と並んでめまいや平衡機能の障害が残ることがあり,その等級の扱いは第5の3で説明する。

2 難聴・耳鳴り・耳漏

(1) 伝音難聴・感音難聴・混合難聴

難聴は,障害の生じた部位によって次の三つに分けられる(同書216頁)。
①伝音難聴は,外耳と中耳の障害で空気の振動が十分に伝わらないために生じる難聴であり,鼓膜の損傷や耳小骨の損傷等で生じ,手術で回復可能な場合が多いとされる。
②感音難聴は,内耳,聴神経又は脳の障害による難聴であり,音が聞こえにくいだけでなく音がゆがんだり言葉がはっきり聞こえなかったりし,治療による回復が難しい場合が多いとされる。
③混合難聴は,伝音難聴と感音難聴の両方の原因をもつ難聴である。

(2) 耳鳴りと耳漏

耳鳴りは,身体の外に音源がないのに音として感じられるものをいい,感音難聴には耳鳴りを伴う場合が多いとされる一方,原因を解明できないことも少なくないとされている(同書216頁~217頁)。
耳漏は,いわゆるみみだれであり,外耳道から分泌されるものをいう(同書217頁)。

第3 自賠法施行令の等級表と聴力の数値基準

1 等級表の構造

(1) 両耳の障害と1耳の障害

自賠法施行令別表第二は,聴力障害について,両耳の聴力障害の号と1耳の聴力障害の号を分けて定めている。
条文は「耳に接しなければ大声を解することができない程度」「一メートル以上の距離では小声を解することができない程度」のように聞こえ方で書かれているが,労災の障害等級認定基準(昭和50年9月30日基発第565号別冊。以下「認定基準」という。)が,それぞれを平均純音聴力レベルと最高明瞭度の数値に置き換えている。
自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3は,「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めているため,自賠責保険でもこの数値基準が用いられる。

(2) 労災の号数との違い

認定基準は「第6級の3の2」のように労災則別表第一の号数を用いるが,自賠法施行令別表第二の号数とは異なるものが多い。
例えば,1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったものは,自賠責では6級4号,労災則では6級3号の2であり,1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったものは,自賠責では14級3号,労災則では14級2号の2である。
本記事の表の号数は自賠責の号数である。
両者の対照は,後遺障害等級の号数の読み方-自賠責と労災の対照表,旧号数の読替え,相当・準用及び併合で説明している。

2 両耳の聴力障害

(1) 等級と数値基準

自賠法施行令別表第二の両耳の聴力障害の号と,認定基準が定める数値基準は次のとおりである。
「平均」は平均純音聴力レベル,「明瞭度」は最高明瞭度を指す。

自賠責の等級自賠法施行令別表第二の文言認定基準の数値基準
4級3号両耳の聴力を全く失つたもの両耳の平均が90dB以上,又は両耳の平均が80dB以上かつ明瞭度が30%以下
6級3号両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの両耳の平均が80dB以上,又は両耳の平均が50dB以上かつ明瞭度が30%以下
6級4号一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの1耳の平均が90dB以上かつ他耳の平均が70dB以上
7級2号両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの両耳の平均が70dB以上,又は両耳の平均が50dB以上かつ明瞭度が50%以下
7級3号一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの1耳の平均が90dB以上かつ他耳の平均が60dB以上
9級7号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの両耳の平均が60dB以上,又は両耳の平均が50dB以上かつ明瞭度が70%以下
9級8号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの1耳の平均が80dB以上かつ他耳の平均が50dB以上
10級5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの両耳の平均が50dB以上,又は両耳の平均が40dB以上かつ明瞭度が70%以下
11級5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの両耳の平均が40dB以上

(2) 両耳の障害は1耳ごとに併合しないこと

認定基準は,「両耳の聴力障害については、障害等級表に掲げている両耳の聴力障害の該当する等級により認定することとし、1耳ごとの等級により併合の方法を用いて準用等級を定める取扱いは行わないこと。」と定めている。
そのため,左右の耳がそれぞれ1耳の障害の号に当たる場合でも,1耳ごとの等級を併合して等級を繰り上げるのではなく,上の表の両耳の号のどれに当たるかで判断することになる。

3 1耳の聴力障害

(1) 等級と数値基準

1耳の聴力障害の号と数値基準は次のとおりである。

自賠責の等級自賠法施行令別表第二の文言認定基準の数値基準
9級9号一耳の聴力を全く失つたもの1耳の平均が90dB以上
10級6号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの1耳の平均が80dB以上
11級6号一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの1耳の平均が70dB以上,又は1耳の平均が50dB以上かつ明瞭度が50%以下
14級3号一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの1耳の平均が40dB以上

(2) 40dBが最も低い基準であること

両耳の障害でも1耳の障害でも,最も低い基準は平均純音聴力レベル40dB以上である。
平均純音聴力レベルが40dBに達しない場合は,難聴としてはどの号にも当たらず,耳鳴りの準用(第5の1)が問題になるにとどまる。

第4 聴力検査の方法

1 純音聴力検査と6分式

(1) 純音聴力検査

純音聴力検査は,単一の周波数の音(純音)を用いて,どの大きさの音から聞こえるかを周波数ごとに調べる検査であり,オージオメータを用いて行い,結果はオージオグラムに記録される(前記『後遺障害入門』220頁~221頁)。
空気の振動を耳から伝える気導の検査と,骨を通して伝える骨導の検査があり,両者を比べることで伝音難聴か感音難聴かの判断にも用いられる。
認定基準は,障害等級認定のための聴力検査は日本聴覚医学会制定の「聴覚検査法(1990)」により行うとしている。

(2) 平均純音聴力レベルの計算(6分式)

認定基準は,平均純音聴力レベルを,周波数500ヘルツ,1000ヘルツ,2000ヘルツ及び4000ヘルツの音に対する聴力レベルをそれぞれA,B,C及びDとして,「(A+2B+2C+D)/6」の式で求めるとしている。
1000ヘルツと2000ヘルツの値を2倍するため,会話の聞き取りに重要な帯域の聴力が重く評価される。
例えば,Aが30dB,Bが40dB,Cが50dB,Dが60dBであれば,(30+80+100+60)÷6=45dBとなり,1耳であれば14級3号の基準(40dB以上)に当たる。
4000ヘルツだけが大きく低下していても,式の中での重みは6分の1にとどまるため,平均純音聴力レベルが40dBに届かないことがある。

2 語音聴力検査

(1) 最高明瞭度

語音聴力検査は,日常の会話で使う語音を聞かせて聞き取れる割合を調べる検査であり,音の大きさにかかわらず最も高い正答率を最高明瞭度として%で表す(前記『後遺障害入門』221頁)。
認定基準は,語音聴力検査について,日本オージオロジー学会制定の「標準聴力検査法Ⅱ語音による聴力検査」により行うとしている。
第3の表のとおり,平均純音聴力レベルが50dB以上の場合には,最高明瞭度が低いことによって上位の等級に当たることがあるため,純音聴力検査だけでなく語音聴力検査の結果も必要である。

(2) 語音聴力検査の回数

認定基準は,聴力検査のうち語音による聴力検査の回数は,「検査結果が適正と判断できる場合には1回で差し支えないこと。」としている。

3 検査の時期と回数

(1) 症状固定後に日を変えて3回

認定基準は,騒音性難聴以外の難聴については,療養効果が期待できることから,「治ゆした後すなわち療養が終了し症状が固定した後に検査を行うこと。」としている。
また,聴力検査は日を変えて3回行い,検査と検査の間隔は7日程度あければ足りるとし,障害等級の認定は,「2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルの平均により行うこと。」としている。
1回目の測定値は,等級の認定には用いられない。

(2) 2回目と3回目の差が10dB以上の場合

認定基準は,2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルに10dB以上の差がある場合には,更に聴力検査を行い,2回目以降の検査の中で差が最も小さい二つの平均純音聴力レベル(差は10dB未満とする。)の平均により認定するとしている。
測定値がばらつく場合には追加の検査が必要になるため,症状固定の前後の通院の段階から,検査の日程を主治医と相談しておくことが考えられる。

(3) 平成14年の改正

これらの聴力検査の方法は,「耳及び口の障害に関する障害等級認定基準の一部改正について」(平成14年2月1日基発第0201001号)によって定められたものである。
同通達は,それまで職業性難聴と急性音響性聴器障害等に分けていた聴力検査の扱いを統一し,検査期間の短縮を図ったとしており,改正後の認定基準は平成14年4月1日以降に支給事由が生じたものに適用するとしている。

第5 耳鳴り・耳漏・外耳道狭窄・平衡機能障害

1 耳鳴り

(1) 12級相当と14級相当

耳鳴りは自賠法施行令別表第二に掲げられていないが,認定基準は,「耳鳴に係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるものについては第12級を、また、難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるものについては第14級を、それぞれ準用する。」と定めている。
自賠法施行令別表第二の備考六は,「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。」と定めており,自賠責保険では,耳鳴りは12級相当又は14級相当として認定される。
この耳鳴りの基準は,前記の平成14年2月1日基発第0201001号によって設けられたものであり,同通達は,それまで明記していなかった耳鳴に係る検査方法を明記し,耳鳴と難聴との関係等を明確化したとしている。

(2) 耳鳴に係る検査

認定基準は,「耳鳴に係る検査」とはピッチ・マッチ検査及びラウドネス・バランス検査をいうとし,これらの検査により耳鳴が存在すると医学的に評価できる場合には「著しい耳鳴」があるものとして取り扱うとしている。
ピッチ・マッチ検査は,耳鳴りがどの周波数の純音や雑音に最も似ているかを調べる検査であり,ラウドネス・バランス検査は,ピッチ・マッチ検査で得られた周波数の音を用いて,耳鳴りの大きさと検査音の大きさが等しくなる値を求める検査である(前記『後遺障害入門』221頁)。
12級相当の認定を求める場合には,これらの検査を受けてその結果を提出することが前提になる。

(3) 「難聴に伴い」の意味

12級相当と14級相当のいずれも「難聴に伴い」耳鳴りがあることが要件である。
認定基準は,騒音性難聴以外の難聴にあっては,当該難聴が業務上と判断され治ゆ後にも継続して当該難聴に伴い耳鳴がある場合をいうとしており,自賠責保険に当てはめれば,事故による難聴が症状固定後も続き,それに伴って耳鳴りがある場合ということになると考えられる。
前記『後遺障害入門』219頁は,『労災補償障害認定必携〔第16版〕』を引用して,ここでいう難聴は,平均純音聴力レベルが40dB未満(聴力障害の基準を満たさない程度)であっても,耳鳴りが存在するであろう周波数の聴力レベルが他の周波数の聴力レベルと比べて低下しているものをいうと説明している。
この説明によれば,難聴として等級に当たらない程度の聴力の低下でも,耳鳴りの周波数に対応する聴力の低下がオージオグラムで確認できれば,「難聴に伴い」の要件を満たし得ることになる。
現行の『労災補償障害認定必携』は第17版(令和2年)であり,本記事では第17版の該当箇所を確認できていない。

(4) 14級相当の「合理的に説明できる」と夜間のみの耳鳴り

認定基準は,「耳鳴のあることが合理的に説明できる」とは,耳鳴の自訴があり,かつ,耳鳴のあることが騒音ばく露歴や音響外傷等から合理的に説明できることをいうとしている。
交通事故では騒音ばく露歴や音響外傷が問題になることは少なく,頭部や耳のけがの態様,難聴の経過等から耳鳴りがあることを説明できるかが問われることになると考えられる。
また,認定基準は,耳鳴が常時存在するものの,昼間は外部の音に遮蔽されて自覚症状がなく,夜間のみ耳鳴の自覚症状を有する場合には,耳鳴が常時あるものとして取り扱うとしている。

2 耳漏と外耳道の狭窄

(1) 鼓膜の外傷性穿孔による耳漏

認定基準は,鼓膜の外傷性穿孔とそれによる耳漏は,手術的処置により治ゆを図り,その後に聴力障害が残ればその程度に応じて等級を認定するとしたうえで,聴力障害が障害等級に該当しない程度のものであっても,「常時耳漏があるものは第12級を、その他のものについては、第14級を準用すること。」としている。
自賠責保険では,それぞれ12級相当,14級相当となる。

(2) 外耳道の高度の狭窄

認定基準は,外傷による外耳道の高度の狭さくで耳漏を伴わないものについては,14級を準用するとしている。
耳介や外耳道のけがで外耳道が狭くなった場合には,この基準に当たるかが問題になる。

3 平衡機能障害

(1) 神経系統の機能の障害として評価されること

認定基準は,「内耳の損傷による平衡機能障害については、神経系統の機能の障害の一部として評価できるので、神経系統の機能の障害について定められている認定基準に準じて等級を認定すること。」としている。
昭和50年の認定基準の制定の際の通達は,それまで胸腹部臓器障害の等級に準じて取り扱っていたものを,神経系統の機能の障害として取り扱うことに改めたと説明している。

(2) めまいと平衡機能障害の段階

「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日基発第0808002号)は,失調,めまい及び平衡機能障害について,原因となる障害部位によって分けることが困難であるので総合的に認定するとし,次の段階を定めている。
通達は労災則の号数で書かれているので,表では自賠法施行令別表第二で同じ文言の号を示す。

自賠責の等級通達の基準(要旨)
3級3号高度の失調又は平衡機能障害のために労務に服することができないもの
5級2号著しい失調又は平衡機能障害のために,労働能力が一般平均人の4分の1程度しか残されていないもの
7級4号中等度の失調又は平衡機能障害のために,労働能力が一般平均人の2分の1以下程度に明らかに低下しているもの
9級10号めまいの自覚症状が強く,かつ,眼振その他平衡機能検査に明らかな異常所見が認められ,就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
12級13号めまいの自覚症状があり,かつ,眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの
14級9号めまいの自覚症状はあるが,眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないものの,めまいのあることが医学的にみて合理的に推測できるもの

12級13号と14級9号の違いは,眼振その他の平衡機能検査の異常所見の有無にある。
めまいを主張する場合には,自覚症状だけでなく,平衡機能検査の結果を資料として整えておくことが重要になる。

(3) 聴力障害との併合

認定基準は,内耳の機能障害のため,平衡機能障害のみでなく聴力障害も現存する場合には,併合の方法を用いて準用等級を定めるとしている。
内耳のけがでめまいと難聴の両方が残った場合には,それぞれの等級を定めたうえで併合することになる。

第6 耳介の欠損

1 耳の障害としての等級と外貌の醜状としての等級

(1) 12級4号の「耳殻の大部分」

自賠法施行令別表第二は,12級4号を「一耳の耳殻の大部分を欠損したもの」と定めている。
認定基準は,「耳介の大部分の欠損」とは,耳介の軟骨部の2分の1以上を欠損したものをいうとしている。

(2) いずれか上位の等級によること

認定基準は,耳介の大部分を欠損したものについては,耳介の欠損障害としてとらえた場合の等級と外貌の醜状障害としてとらえた場合の等級のうち,いずれか上位の等級に認定するとし,耳介の大部分の欠損は12級に当たるが,醜状障害としては7級に当たるので,外貌の醜状障害として7級に認定するという例を挙げている。
自賠責では,外貌に著しい醜状を残すものは7級12号である。
二つの等級を併合するのではなく,いずれか上位の等級による点に注意を要する。

(3) 軟骨部の2分の1に達しない欠損

認定基準は,耳介軟骨部の2分の1以上には達しない欠損であっても,これが「外貌の単なる醜状」の程度に達する場合は,12級(自賠責では12級14号の「外貌に醜状を残すもの」)とするとしている。
外貌の醜状の大きさの基準と認定手続は,顔・首の傷あと(外貌醜状)の後遺障害等級で説明している。

2 両耳の耳介の欠損と聴力障害との関係

(1) 両耳の耳介を欠損した場合

認定基準は,障害等級表が耳介の欠損障害について1耳のみの等級を定めているので,両耳の耳介を欠損した場合には,1耳ごとに等級を定め,これを併合して認定するとしている。
ただし,耳介の欠損を醜状障害としてとらえる場合は,この取扱いは行わないとしている。
聴力障害では両耳を同一部位とし1耳ごとに併合しない(第3の2)のに対し,耳介は左右で別の部位として扱われる点で異なる。

(2) 耳介の欠損と聴力障害が併存する場合

認定基準は,耳介の欠損障害と聴力障害が存する場合は,それぞれの該当する等級を併合して認定するとしている。
自賠責保険での併合の金額の計算は,前記の号数の記事で説明している。

第7 事故との因果関係と既往

1 因果関係が争われる場面

(1) 事故直後から症状を訴えているか

難聴の程度が等級の基準に当たるとしても,それが事故によるものでなければ後遺障害として認められない。
前記『後遺障害入門』223頁は,診療録等で事故当初から難聴や耳鳴りを訴えていることが立証できる場合には因果関係が認められる可能性は高いが,事故後一定期間が経過して発症した場合には,因果関係が認められにくくなるとしている。
事故の直後は頭部や頸部の治療が優先され,耳の症状が診療録に記載されないことがあるため,聞こえにくさや耳鳴りを自覚した時点で主治医に伝え,必要に応じて耳鼻咽喉科を受診しておくことが重要になる。

(2) 受傷の態様と画像

伝音難聴の原因となる鼓膜の損傷や耳小骨の損傷は,受傷の態様や画像検査によって確認できる場合がある。
前記『後遺障害入門』222頁は,聴覚障害の原因が中耳や内耳の振動伝達器官や組織の損傷による場合には,レントゲン検査,CT検査又はMRI等による検査を行う必要があるとしている。
側頭骨の骨折等の頭部のけがの有無と,その部位が聴力の低下した側と一致するかは,因果関係を説明するうえで重要な事情になると考えられる。

2 突発性難聴・加齢による難聴・事故前からの症状

(1) 突発性難聴

前記『後遺障害入門』223頁は,健康な耳に突然高度の感音難聴が起こる突発性難聴という疾患があり,原因が判然とせず,50歳代後半から60歳代前半での発症が多いとされていることを紹介し,傷害が難聴や耳鳴りを生じ得ることを示しても,突発性難聴の疑いを払拭できなければ十分な立証とはいえない場合があるとしている。
事故から時間がたって難聴を訴えた場合には,突発性難聴との区別が特に問題になる。

(2) 加齢による難聴と先天性の障害

同書は,被害者に先天性の聴覚障害があれば加害者側からそれが主な原因であると主張され得ること,被害者の年齢によっては加齢による難聴が悪化した可能性が主張され得ることを指摘している(同書223頁)。
事故前の健康診断の聴力検査の結果等,事故前の聴力を示す資料があれば,事故の前後で聴力が変化したことの立証に役立つと考えられる。

(3) 既存の障害と素因減額

自賠法施行令2条2項は,既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合には,現在の等級に応ずる金額から既にあった後遺障害の等級に応ずる金額を控除するとしている。
認定基準は,耳については両耳を同一部位としているので,1耳に聴力障害がある者が新たに他耳に聴力障害を生じた場合には加重として取り扱うとしている。
訴訟では,事故前からの耳の疾患や心因的な要因が損害の発生や拡大に寄与したとして,損害賠償額の減額(素因減額)が主張されることがある。
最高裁判所第一小法廷昭和63年4月21日判決(昭和59年(オ)第33号,民集42巻4号243頁)は,損害の拡大に被害者の心因的要因が寄与しているときは,民法722条2項を類推適用してその事情を斟酌することができるとしている。
他方,最高裁判所第三小法廷平成8年10月29日判決(平成5年(オ)第875号,民集50巻9号2474頁)は,被害者の平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴が疾患に当たらないときは,特段の事情がない限り,これを損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないとしている。
事故前の突発性難聴の治療歴や耳鳴りの既往が素因減額の理由として主張されることがあり得ることは,前記『後遺障害入門』223頁も指摘している。

第8 後遺障害慰謝料と逸失利益

1 自賠責保険の支払基準

(1) 保険金額,慰謝料及び労働能力喪失率

耳の障害に関係する等級について,自賠法施行令別表第二の保険金額と,令和2年4月1日以後に発生した事故に適用される支払基準の後遺障害慰謝料及び労働能力喪失率は,次のとおりである。

等級保険金額(自賠法施行令別表第二)後遺障害慰謝料(支払基準)労働能力喪失率(支払基準別表Ⅰ)
4級1889万円737万円92/100
6級1296万円512万円67/100
7級1051万円419万円56/100
9級616万円249万円35/100
10級461万円190万円27/100
11級331万円136万円20/100
12級224万円94万円14/100
14級75万円32万円5/100

保険金額は,逸失利益と慰謝料等から成る後遺障害による損害について自賠責保険から支払われる額の上限である。

(2) 相当等級も同じ等級として扱われること

耳鳴りや耳漏の12級相当・14級相当は,自賠法施行令別表第二の備考六により当該等級の後遺障害とされるので,保険金額,慰謝料及び労働能力喪失率も12級又は14級のものによる。

2 訴訟での慰謝料と逸失利益

(1) 訴訟で用いられる慰謝料の基準

訴訟では,自賠責保険の支払基準ではなく,『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(いわゆる赤い本)等の基準が用いられることが多い。
赤い本2026年版の後遺障害慰謝料の基準額は,7級1000万円,9級690万円,12級290万円,14級110万円であり,支払基準の額を大きく上回る。
最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決(平成17年(受)第1628号,民集60巻3号1242頁)は,自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払を求める訴訟でも,裁判所は支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができるとしている。

(2) 等級どおりの労働能力喪失率になりにくいこと

前記『後遺障害入門』224頁は,耳の障害では,等級の基準を満たしていても,労働能力喪失率表に記載されたとおりの労働能力喪失が認定されにくいことに留意すべきであるとしている。
同書は,聴力障害が10級又は11級に当たると認定された場合でも,直ちに収入が27%又は20%減少したとの認定になるわけではなく,職業の遂行や日常生活への影響と実際の減収の程度について具体的な主張立証を行わなければ,喪失率表どおりの労働能力喪失が認められる可能性は少ないとしている。
同書は,耳介の大部分の欠損(12級4号)についても同様であり,外貌の醜状の一種として,12級の14%の労働能力喪失が直ちには認定されない場合が少なくないとしている。
自賠責保険の認定基準は一般的な平均的労働能力を基準とするのに対し,訴訟では個々の被害者の労働能力の喪失が問題とされるためである(同書22頁)。

(3) 立証の方向

聴力障害の影響は,職業によって大きく異なる。
電話や対面での会話が多い仕事,周囲の音や警告音を聞き分ける必要がある運転や現場作業,音を扱う仕事等では,聴力の低下や耳鳴りが業務に及ぼす影響を具体的に説明しやすい。
他方,事務職で減収がない場合等には,昇進や配置転換への影響,業務上の工夫や努力によって減収を免れている事情等を示す必要がある。
減収のない被害者の逸失利益の立証方法は,交通事故の後遺障害逸失利益-減収のない会社員・家事従事者・自営業者の立証と計算で説明している。
労働能力の喪失が否定された場合に,それを慰謝料の増額として考慮するかどうかは別の問題であるとされている(前記『後遺障害入門』23頁)。

第9 後遺障害診断書と認定結果への不服

1 後遺障害診断書に書いてもらう事項

(1) 聴力と耳介の障害の欄

損害保険会社が掲載する自賠責保険後遺障害診断書の様式(自賠調18号様式)には,「聴力と耳介の障害」の欄があり,検査日,6分平均の聴力(右・左),最高明瞭度,難聴の種類(感音性難聴,伝音性難聴又は混合性難聴の別と右・左)を記入し,オージオグラムを添付する形式になっている。
同じ欄には耳鳴(右・左)と耳介の欠損(2分の1以上か未満か)の記入箇所もあり,耳介の欠損は醜状障害の欄に図示する形式である。
第4で説明した3回の聴力検査の検査日と測定値が記載されているか,オージオグラムが添付されているかを確認しておく必要がある。
診断書の作成時期と記載項目の全体は,交通事故の後遺障害診断書――症状固定後の作成,記載項目,必要資料及び認定申請で説明している。

(2) 耳鳴りと平衡機能障害の資料

前記『後遺障害入門』222頁は,耳鳴りについては後遺障害診断書に「右・左」の記載欄があるのみであり,認定基準の指定する検査を受けたうえで,その検査結果等の具体的な症状や程度が分かる書面を添付することが必要であるとしている。
耳鳴りの12級相当を求める場合にはピッチ・マッチ検査とラウドネス・バランス検査の結果,めまいや平衡機能障害を主張する場合には眼振その他の平衡機能検査の結果が,それぞれの等級の判断の基礎になる。
そのほか,等級の認定で考慮してもらいたい症状がある場合には,医師に別途の診断書や意見書に具体的に記載してもらうべきであるとされている(同書222頁)。

2 認定結果に不服がある場合

(1) 異議申立て

自賠責保険の認定結果に不服がある場合には,損害保険料率算出機構への異議申立てや自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理の申請をすることができる。
耳の障害では,3回の聴力検査が行われていない,2回目と3回目の差が大きい,語音聴力検査や耳鳴の検査が行われていないといった検査上の不足が認定結果に影響していることがあり,追加の検査結果を資料として提出することが考えられる。
異議申立ての方法は,自賠責保険の後遺障害等級認定への異議申立て-認定理由・追加資料・紛争処理の選び方で説明している。

(2) 訴訟での判断

自賠責保険の後遺障害の認定は,民事の損害賠償で裁判所を拘束するものではなく,裁判所は自賠責保険の認定と異なる判断をすることができる(前記『後遺障害入門』21頁)。
もっとも,同書は,耳に関する後遺障害等級の認定基準は相当明確に定められており,耳の後遺障害を主張する場合には,まずこれらの基準に当たることを立証しなければならないとしている(同書222頁)。
訴訟でも,認定基準に沿った検査の結果が主張の出発点になると考えられる。

第10 出典

1 法令

e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(2条2項及び別表第二(備考六を含む。)を確認),令和8年9月18日閲覧。
e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」(別表第一を確認),令和8年9月18日閲覧。

2 告示・通達

国土交通省掲載「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」,平成13年金融庁・国土交通省告示第1号,第3。
国土交通省掲載「労働能力喪失率表」(支払基準別表Ⅰ)。
厚生労働省「障害等級認定基準について」,昭和50年9月30日基発第565号及び別冊(第2の2「耳(内耳等及び耳介)」)。
厚生労働省「耳及び口の障害に関する障害等級認定基準の一部改正について」,平成14年2月1日基発第0201001号。
厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」,平成15年8月8日基発第0808002号(失調,めまい及び平衡機能障害)。

3 様式

自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(自賠調18号様式),損害保険会社掲載の様式。

4 裁判例

最高裁判所第一小法廷昭和63年4月21日判決・昭和59年(オ)第33号,民集42巻4号243頁。
最高裁判所第三小法廷平成8年10月29日判決・平成5年(オ)第875号,民集50巻9号2474頁。
最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決・平成17年(受)第1628号,民集60巻3号1242頁。

5 書籍

①小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門 認定から訴訟まで』(青林書院,平成30年)21頁~23頁及び215頁~224頁。
②公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(赤い本)2026年版』(後遺障害慰謝料の基準額)。