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後見等開始の審判前の保全処分――財産の管理者,後見命令及び職務執行停止(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,後見・保佐・補助の開始の申立てから開始の審判が効力を生ずるまでの間に使う審判前の保全処分(財産の管理者の選任,事件の関係人に対する指示,後見命令・保佐命令・補助命令)と,成年後見人等の解任の申立てから解任の審判が効力を生ずるまでの間に使う審判前の保全処分(職務の執行停止,職務代行者の選任)を扱うものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令はe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)125頁~126頁及び205頁~216頁であり,本書の記述を条文と照合した結果を示す。
解任の事由そのものは成年後見人の解任理由で,後見人による横領の実情は成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心にで扱っているので,本記事では保全処分の手続と効果に絞る。

2 結論

①開始の審判の前に本人の財産を守る手段は,財産の管理者の選任,事件の関係人に対する指示及び後見命令等の3種類である(家事事件手続法126条,134条,143条)。
②財産の管理者を選任しただけでは本人の行為能力は制限されず,本人がした契約を取り消せるようにするには,後見命令等を併せて申し立てる必要がある。
後見命令等を申し立てられるのは本案の申立人に限られる。
③財産の管理者の権限は民法103条の保存・利用・改良行為が原則であり,それを超える行為には家庭裁判所の許可が必要である(家事事件手続法126条8項による民法28条の準用)。
④財産の管理者の選任と事件の関係人に対する指示は,認容・却下のいずれに対しても即時抗告ができず,財産の管理者の選任だけでは登記されない。
これに対し,後見命令等と職務執行停止・職務代行者選任は後見登記等ファイルに記録される(後見登記等に関する法律4条)。
⑤虐待事案では,市町村長が老人福祉法32条等に基づいて後見開始等の審判を申し立てると同時に,財産の管理者の選任等の保全処分を申し立てることが,厚生労働省の対応マニュアルでも有効な手段として示されている。
⑥本書の記述のうち,職務執行停止の審判に対する即時抗告の可否,後見命令の登記の時期及び保全処分の取消しの申立権者の3点は,条文の文言と食い違っているように読めるので,第7及び第8で条文に即して説明する。
⑦令和8年法律第45号による改正後は,後見命令・保佐命令は廃止され,補助開始の審判事件を本案とする「補助命令」と,特定補助人を付する処分に対応する「特定補助命令」に再編される(改正後の家事事件手続法126条2項・3項)。
補助人の事務の監督の審判事件を本案とする職務執行停止・職務代行者選任も新設される(同法128条)。

第2 審判前の保全処分の全体像

1 なぜ保全処分が必要になるのか

本書205頁は,後見等開始の申立てから開始の審判により成年後見人等が選任されるまでには1~数か月を要し,即時抗告があると審判が長期間確定しないこともあるとする。
即時抗告のできる審判は確定しなければ効力を生じないから(家事事件手続法74条2項ただし書),その間,選任された成年後見人等は職務を行うことができない。
その間に本人の財産が散逸し,又は第三者に侵害されるおそれがある場合に,開始の審判の効力が生ずるまでのつなぎとして使うのが審判前の保全処分である。
本書205頁は,活用例として,①年金の振込口座を親族等が管理していて年金が本人のために使われていない経済的虐待の事案,②本人が不適当な資産の費消や高額な取引をしてしまいそうな事案,③入院中の本人の多額の財産が自宅に置いたままになっている事案を挙げている。

2 保全処分の種類と根拠条文

保全処分後見保佐補助
財産の管理者の選任・事件の関係人に対する指示126条1項134条1項143条1項
後見命令・保佐命令・補助命令126条2項134条2項143条2項
職務の執行停止・職務代行者の選任127条135条144条

いずれも家事事件手続法の条文であり,保佐と補助の規定は後見の規定を準用し,又は後見の規定と同じ構造で定められている。
本書205頁は,家事事件手続法上の保全処分はこれらに限られるが,必要とされる内容によっては民事保全法による保全処分の利用も考えられないわけではないとしている。

3 共通の手続

(1) 本案の係属

家事事件手続法105条1項は,保全処分を命ずることができるのは「本案の家事審判事件…が係属する家庭裁判所」であるとしている。
そのため,保全処分だけを単独で申し立てることはできず,本案(後見等開始の申立て又は解任の申立て)と同時か,本案の申立ての後に申し立てることになる(本書206頁)。

(2) 申立ての趣旨と疎明

同法106条1項は,保全処分の申立ては「その趣旨及び保全処分を求める事由を明らかにしてしなければならない」とし,同条2項は申立人が「保全処分を求める事由を疎明しなければならない」としている。
保全処分は「疎明に基づいてする」(同法109条1項)。
本書206頁は,保全処分を求める事由として,本案の審判がされる蓋然性と保全の必要性を挙げている。
厚生労働省のマニュアルも,審判開始の蓋然性と保全の必要性の二つが要件となるので,本案申立書,後見相当であることが分かる診断書,早急に財産管理人を付ける必要がある実態を記したケース記録等を添付するよう求めている(第3の2)。

(3) 陳述の聴取

同法107条は,保全処分のうち「仮の地位を定める仮処分」を命ずるものは,審判を受ける者となるべき者の陳述を聴かなければすることができないとしつつ,「その陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときは,この限りでない」としている。
本書は,財産の管理者の選任と事件の関係人に対する指示には本人の陳述の聴取は必要とされていないとし(206頁,210頁),後見命令等と職務執行停止・職務代行者選任には同条の陳述の聴取が必要であるとしている(211頁,213頁)。

(4) 効力の発生と即時抗告

同法109条2項は,保全処分には74条2項ただし書を適用しないとしている。
そのため,即時抗告ができる保全処分であっても,確定を待たずに,審判を受ける者に告知されることで効力を生ずる。
即時抗告については同法110条が定めており,①申立てを却下する審判に対しては申立人が即時抗告できるが,財産の管理者の選任・指示と職務代行者の選任の申立てを却下する審判は除かれ(同条1項ただし書),②保全処分を命ずる審判に対しては,本案の認容審判に対して即時抗告できる者が即時抗告できるが,財産の管理者の選任・指示と職務代行者の選任を命ずる審判は除かれている(同条2項)。

第3 虐待事案と市町村長申立て

1 市町村長申立ての根拠

老人福祉法32条は,「市町村長は、六十五歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第七条、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。」と定める。
知的障害者については知的障害者福祉法28条が,精神障害者については精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2が,同じ内容を定めている。
高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下「高齢者虐待防止法」という。)9条2項は,養護者による虐待の通報等があった場合に,市町村又は市町村長が,老人福祉法による措置を講じ,又は「適切に、同法第三十二条の規定により審判の請求をするものとする」としている。
同法27条2項は,財産上の不当取引の被害を受け,又は受けるおそれのある高齢者についても,市町村長が適切に老人福祉法32条の審判の請求をするものとしている。
障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律9条3項も,養護者による障害者虐待の通報等があった場合に,市町村長が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2又は知的障害者福祉法28条による審判の請求を適切にするものとしている。
虐待を受けた高齢者を一時的に保護する措置は,老人福祉法の「やむを得ない事由による措置」――契約によらない介護サービス提供の要件と裁判例で扱っている。

2 保全処分との組合せ

本書205頁は,実務で審判前の保全処分がよく活用されているのは,虐待事案の対応として市町村長が後見開始の審判を申し立てる場合であるとし,年金の確保を目的として財産の管理者に預金口座を管理させるための申立てが典型であるとしている。
厚生労働省老健局「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(令和8年3月改訂)第Ⅱ章78頁も,市町村長申立てが必要とされる場面の例として経済的虐待で年金等の収入や資産を確保する必要がある場合を挙げた上で,「緊急性が高く審判がおりる前に高齢者の財産が侵害されるおそれがある場合は、審判前の保全処分を検討することも有効です。」としている。
同頁は,虐待等の緊急事案では,戸籍調査を申立てと並行して行うことや,2親等内の親族である養護者への意向調査を省略することができるとの厚生労働省の通知(令和3年11月26日老認発1126第2号等)を引用している。

3 市町村長が申し立てられる保全処分

財産の管理者の選任と事件の関係人に対する指示は,家庭裁判所が「申立てにより又は職権で」することができ(家事事件手続法126条1項),申立人は本案の申立人に限定されていない(本書206頁,210頁)。
これに対し,後見命令は「当該申立てをした者の申立てにより」するとされており(同条2項),本案の申立人しか申し立てられない(本書211頁)。
市町村長が本案の申立人である場合は,市町村長が財産の管理者の選任と後見命令の両方を申し立てることができる。
親族が本案を申し立てている事案で市町村が後見命令まで必要と考えるときは,本案の申立人に後見命令の申立てを促すことになる。

第4 財産の管理者の選任

1 要件と手続

(1) 要件

家事事件手続法126条1項は,「後見開始の申立てがあった場合において、成年被後見人となるべき者の生活、療養看護又は財産の管理のため必要があるとき」に,家庭裁判所は,「申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し」ることができると定める。
保佐開始・補助開始の申立ての場合も同様である(同法134条1項,143条1項)。

(2) 告知・効力・不服申立て

財産の管理者の選任は,認容する審判も却下する審判も即時抗告ができない(同法110条1項1号,2項)。
そのため,審判を受ける者である財産の管理者に告知されれば直ちに効力が生じ(同法74条2項本文),財産の管理者として活動することになる(本書206頁)。
本書206頁は,審判は財産の管理者と申立人に告知されるとしている。

(3) 選任までの時間

本書206頁及び208頁は,財産の管理者や職務代行者として弁護士を選任する場合は,家庭裁判所から弁護士会に推薦依頼がされ,弁護士会の推薦を受けて選任されるため,その間に一定の期間を要しているとし,選任された弁護士は迅速に初動に当たる必要があるとしている。

2 財産の管理者の権限

(1) 保存行為と利用・改良行為

同法126条8項は,125条1項~6項と「民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)」を財産の管理者に準用している。
準用される民法28条は,管理人が「第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる」とし,民法103条は,権限の定めのない代理人の権限を「保存行為」と「代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為」に限っている。
つまり,財産の管理者の権限は不在者財産管理人と同じ構造である(本書208頁~209頁)。
本書209頁は,保存・管理行為の例として,貴重品の保管,自宅が賃借である場合の家賃の支払,預金の払戻しや預入れ,通帳紛失時の紛失届,通帳やキャッシュカードを第三者が持ち出している場合の出金停止の連絡,賃貸物件の家賃の回収,自宅不動産の緊急の修理のための工事請負契約の締結と支払,時効の完成を妨げるための催告を挙げている。

(2) 権限外行為の許可

保存・管理の範囲を超える行為は,本来は本案で選任された成年後見人等に委ねるべきであるが,それを待てない場合は,家庭裁判所の許可(権限外行為許可)を得て行うことができる(民法28条の準用。本書209頁)。
本書209頁は,権限外行為の例として,資産の売却,新たなアパートの賃借,アパートの賃貸借契約の解約と明渡し,新たな施設入所契約の締結,遺産分割協議の成立,訴訟の提起,和解を挙げている。
例えば,本人が相続人となっている遺産分割がある場合でも,財産の管理者の段階で協議を成立させるには許可が必要であり,通常は成年後見人等の選任を待つことになる(遺産分割の場面の全体は相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割を参照)。

(3) 判断が分かれるもの

本書209頁は,預金の払戻しは保存行為とされているものの,金融機関が処分行為に当たるとして裁判所の許可を求めることがあり,その場合は念のため権限外行為許可をとって進めざるを得ないとしている。
同頁は,権限外か否か迷う場合は家庭裁判所に相談してよく,成年後見人等が選任されてから行えばよいことは財産の管理者として行う必要はないとしている。

3 財産の管理者の職務

(1) 財産目録の作成

財産の管理者は,管理すべき財産の目録を作成しなければならず,その費用は本人の財産から支弁する(家事事件手続法126条8項による民法27条1項の準用)。
本書207頁は,申立人や関係者からの事情聴取,申立書類一式,関係機関への照会により財産を調査し,目録を2通作成して1通を家庭裁判所に提出するとしている。
同頁は,保全処分の緊急性から,目録の作成前でも財産管理を進めることができるとしている。

(2) 善管注意義務・報告・費用

同法126条8項が準用する125条6項により,民法644条(受任者の注意義務),646条,647条及び650条が財産の管理者に準用される。
家庭裁判所は財産の管理者に財産の状況の報告と管理の計算を命ずることができ,その費用は本人の財産から支弁する(同法125条2項・3項の準用)。
業務に必要な実費も本人の財産から支出できる(民法650条の準用。本書207頁)。

(3) 報酬

家庭裁判所は,本人の財産の中から相当な報酬を財産の管理者に与えることができる(民法29条2項の準用)。
本書208頁は,報酬を受けたい場合は報酬付与の申立てをするが,財産の管理者の報酬付与の申立ては家事事件手続法別表第一に挙がっていないため,申立印紙800円は不要であり,審判の返信用の郵便切手だけを予納すればよいとしている。
民事訴訟費用等に関する法律別表第一の15の項は,800円の手数料の対象を「家事事件手続法別表第一に掲げる事項についての審判の申立て」としているから,本書の説明は同項の文言と整合する。
予納する郵便切手の額は,令和6年10月の郵便料金改定後の額を家庭裁判所に確認する必要がある。

4 登記されないこと

後見登記等に関する法律4条1項は後見等の登記事項を,同条2項は後見命令等の登記事項を定めているが,財産の管理者の選任そのものを登記事項とする規定はない。
本書207頁は,財産の管理者は登記されないので,資格の証明は審判書謄本で行うとしている。
金融機関への届出等では,審判書謄本を示すことになる。
もっとも,後見命令等が併せて発令された場合は,後見命令等の登記事項として財産の管理者の氏名又は名称及び住所が記録される(同条2項3号)。
登記されないのは,財産の管理者の選任だけがされた場合である。

5 改任・終期・引継ぎ

家庭裁判所は,いつでも財産の管理者を改任することができる(家事事件手続法126条8項による125条1項の準用)。
本書206頁~207頁は,改任とは選任していた財産の管理者を解任して新たな財産の管理者を選任することであり,管理できない事情が生じた場合や不適切な財産管理がある場合にされるとしている。
財産の管理者の選任は「後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間」の処分であるから(同法126条1項),開始の審判の効力が生じたときに職務は終了する。
本書209頁は,管理していた財産は成年後見人又は管理権限のある保佐人・補助人に引き継ぐ必要があり,財産の管理者がそのまま成年後見人等に選任されることが多いが,その場合も就任時に改めて財産目録を作成する必要があるとしている(民法853条1項)。
同頁は,選任審判の取消し,改任,開始の申立ての却下の場合も職務が終了し,権限者に財産を引き継がなければならないとしている。

第5 事件の関係人に対する指示

1 指示の内容

家事事件手続法126条1項後段は,家庭裁判所が「事件の関係人に対し、成年被後見人となるべき者の生活、療養看護若しくは財産の管理に関する事項を指示することができる」と定める。
本書210頁は,事件の関係人として同居人や本人を囲い込んでいる親族を挙げ,指示の例として「○○(同居親族)は,治療のため本人を△△病院に通院させること」という主文を示している。
同頁は,申立人でない親族が本人を囲い込んで他の者に会わせず,後見開始の申立てに必要な診断書すら取れない場合に,本人を医療機関に受診させるようその親族に指示するという利用もあり得るとしている。

2 指示の効力

本書210頁は,この指示は本人や申立人ではなく事件の関係人に対するものであるから強制力はなく,勧告的効力を有するにとどまるとしている。
この保全処分も,認容・却下のいずれに対しても即時抗告ができないので(同法110条1項1号,2項),指示を受ける者に告知されれば直ちに効力が生ずる(本書210頁)。

第6 後見命令・保佐命令・補助命令

1 後見命令等を併せて申し立てる意味

家事事件手続法126条2項は,後見開始の申立てがあった場合に,「成年被後見人となるべき者の財産の保全のため特に必要があるとき」は,本案の申立人の申立てにより,開始の審判が効力を生ずるまでの間,本人の財産上の行為について財産の管理者の後見を受けることを命ずることができるとしている(後見命令)。
同条7項は,後見命令があったときは,本人と財産の管理者が本人のした財産上の行為を取り消すことができるとし,制限行為能力者の行為の取消しに関する民法の規定を準用している。
本書210頁~211頁は,財産の管理者を選任しただけでは本人の財産処分権に影響はなく,財産の管理者は本人の行為を取り消す権限を持たないが,後見命令により本人の財産処分権が制限され,財産の管理者が本人の行為を取り消せるようになる点に意味があるとしている。
本人が悪質な勧誘を受けて高額な契約を繰り返しているような事案では,財産の管理者の選任だけでは足りず,後見命令まで必要になる。

2 手続

(1) 申立権者と要件

後見命令等を申し立てることができるのは,本案の申立人に限られる(同法126条2項,134条2項,143条2項)。
要件は「財産の保全のため特に必要があるとき」であり,財産の管理者の選任の要件(「生活、療養看護又は財産の管理のため必要があるとき」)より加重されている。
補助命令は,補助開始と同時に「補助人の同意を得なければならない行為の定め」の申立てがあった場合に限られる(同法143条2項)。

(2) 陳述の聴取

後見命令等は,同法107条の陳述の聴取を要する保全処分として扱われている(本書211頁)。
ただし,後見命令については,本人の「心身の障害によりその者の陳述を聴くことができないとき」は,陳述を聴く手続を経ずにすることができる(同法126条3項)。

(3) 告知と効力の発生

後見命令は,財産の管理者(数人あるときはそのうちの一人)に告知することによって効力を生じ(同法126条4項),本人には「通知」しなければならないとされている(同条5項)。
保佐命令と補助命令は,74条1項の者のほか財産の管理者に告知しなければならない(同法134条3項,143条3項)。

(4) 即時抗告

後見命令等の申立てを却下する審判に対しては,申立人が即時抗告できる(同法110条1項本文)。
後見命令等を命ずる審判に対しては,本案の開始の審判に対して即時抗告できる者が即時抗告できる(同条2項)。
後見開始の審判に対して即時抗告できるのは,民法7条及び任意後見契約に関する法律10条2項に規定する者である(家事事件手続法123条1項1号)。
後見命令に対する即時抗告の期間は,告知を受ける者でない者については,財産の管理者が告知を受けた日から進行する(同法126条6項)。

3 取り消すことのできる行為の範囲

保全処分取消しの対象根拠
後見命令財産上の行為(民法9条ただし書の日常生活に関する行為を除く)家事事件手続法126条2項・7項
保佐命令民法13条1項に規定する行為で,財産の管理者の同意を得ないでしたもの同法134条2項・5項
補助命令民法13条1項に規定する行為のうち同意を要する行為の定めの申立てに係るもので,財産の管理者の同意を得ないでしたもの同法143条2項・5項

本書212頁は,後見命令等が発令されても取消権を行使できるようになるだけであり,財産の管理者が成年後見人等と同じ立場に立つわけではないことに注意が必要であるとしている。
本人に代わって契約を結ぶことや,保存・管理を超える行為をすることには,第4の2の権限外行為の許可が別に必要である。

4 登記

家事事件手続法116条2号は,審判前の保全処分が効力を生じ,又は効力を失った場合に,裁判所書記官が最高裁判所規則の定めるところにより後見登記等に関する法律に定める登記を嘱託しなければならないとしている。
後見登記等に関する法律4条2項は,家事事件手続法126条2項,134条2項又は143条2項の保全処分を「後見命令等」と総称し,その種別,保全処分をした裁判所,事件の表示及び「発効の年月日」,本人の氏名等,財産の管理者の氏名又は名称及び住所等を記録するとしている。
本書211頁は後見命令等は「審判が確定すると」嘱託により登記されるとしているが,前記のとおり保全処分は確定を待たずに効力を生じ(同法109条2項),登記事項も「発効の年月日」とされているから,条文上は,確定ではなく効力の発生を契機として嘱託されると読むのが自然である。
取引の相手方は,登記事項証明書で後見命令等の有無を確認できることになる。

5 財産の管理者の役割と効力の終期

本書212頁は,後見命令等が発令された場合,財産の管理者は,本人がどのような財産上の行為をする可能性があるかを確認しておき,本人が不利益な財産上の行為をしたときは適切に取消権を行使する必要があるとしている。
後見命令等は,本案の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間の処分である(同法126条2項,134条2項,143条2項)。
本書212頁は,本案の申立てが却下された場合は却下の審判が申立人に告知されたときに後見命令等も失効し,その後に本案の却下について即時抗告がされても効力は復活せず,申立ての取下げ等で本案が終了した場合も失効すると考えられているとして,金子修編著『逐条解説・家事事件手続法〔第2版〕』(商事法務)503頁を引用している。

第7 成年後見人等の解任を本案とする保全処分

1 要件

家事事件手続法127条1項は,「成年後見人の解任の審判事件が係属している場合において、成年被後見人の利益のため必要があるときは、成年後見人の解任の申立てをした者の申立てにより又は職権で、成年後見人の解任についての審判が効力を生ずるまでの間、成年後見人の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる」と定める。
成年後見監督人の解任の審判事件を本案とする場合も同様であり(同条5項),保佐人・補助人等についても準用されている(同法135条,144条)。
解任の申立権者は,民法846条により,後見監督人,被後見人若しくはその親族又は検察官であり,家庭裁判所は職権でも解任できる。
本書125頁は,不正がある成年後見人を審判まで後見業務に就かせておくのは相当でないから,解任の申立てと同時に保全処分を申し立てておくとよいとし,職権で解任を立件する場合は職権で保全処分をすることもできるとしている。
なお,本書125頁は保全処分の要件を「後見人の利益のため必要があると考えれば」と記載しているが,条文は「成年被後見人の利益のため」であり(本書213頁も「本人の利益のため」としている),125頁の記載は誤記と考えられる。

2 手続

(1) 陳述の聴取

本書213頁は,同法107条により,陳述を聴く手続を経ることで保全処分の目的を達することができない事情があるときを除き,職務執行停止の審判では成年後見人等の陳述を,職務代行者選任の審判では職務代行者として選任される者の陳述を聴かなければならないとしている。

(2) 告知と効力の発生

同法127条2項は,職務の執行を停止する審判は,「職務の執行を停止される成年後見人、他の成年後見人又は同項の規定により選任した職務代行者に告知することによって、その効力を生ずる」と定める。
本書125頁及び213頁は,これは停止される成年後見人が行方不明であったり受取を拒絶したりして告知できない事態に備えた規定であるとしている。
職務代行者選任の審判は,審判を受ける者である職務代行者に告知することによって効力を生ずる(同法74条2項本文)。

(3) 登記

後見登記等に関する法律4条1項9号は職務の執行を停止する保全処分がされた旨を,同項10号は職務代行者を選任する保全処分がされたときはその氏名又は名称及び住所を,後見等の登記事項としている。
本書213頁は,職務代行者の資格証明は登記事項証明書で行うとしている。
財産の管理者(登記されない)との違いに注意が必要である。

3 即時抗告の可否

家事事件手続法110条1項2号と2項により,職務代行者の選任については,申立てを却下する審判にも選任する審判にも即時抗告ができない。
職務執行停止の申立てを却下する審判に対しては,申立人が即時抗告できる(同条1項本文)。
問題は職務執行停止を命ずる審判である。
本書126頁は,職務執行停止の審判と職務代行者選任の審判のいずれについても即時抗告できないとしている。
しかし,同条2項が即時抗告の対象から除いているのは「前項各号に掲げる保全処分を命ずる審判」,すなわち財産の管理者の選任・指示と職務代行者の選任だけであり,職務執行停止は含まれていない。
そして,本案である成年後見人の解任の審判に対しては成年後見人が即時抗告できる(同法123条1項4号)。
そうすると,条文の文言上は,職務の執行を停止された成年後見人は,職務執行停止の審判に対して即時抗告をすることができると読める(保佐人・補助人についても同法132条1項6号,141条1項5号により同様である)。
もっとも,同法109条2項により,即時抗告があっても職務執行停止の効力は告知によって既に生じており,執行の停止を求めるには同法111条の要件(原審判の取消しの原因となることが明らかな事情と償うことができない損害を生ずるおそれの疎明)を満たす必要がある。

4 職務代行者の職務

本書214頁は,職務執行停止の審判があると当該成年後見人等は代理権等を行使できなくなり,職務代行者が当該成年後見人と同一の地位に立つとしている。
同頁は,職務代行者は,可能であれば停止された成年後見人等から事情を聴き,資料の引渡しを受けるべきであるが,協力が得られない事案も多いので,その場合は申立人や関係者からの事情聴取と家庭裁判所の記録をもとに事案を把握し,財産関係の資料の再発行を依頼するなどして速やかに財産管理の体制を整え,施設や病院への支払の滞りの解消など,不適切な活動を是正する活動を行うとしている。
家庭裁判所は,いつでも職務代行者を改任でき(同法127条3項),本人の財産の中から相当な報酬を与えることができる(同条4項)。
本書214頁は,職務代行者の報酬付与の申立ても家事事件手続法別表第一に挙がっていないため申立印紙800円は不要であるとし,成年後見人等が解任される場合は職務代行者として選任された者が成年後見人等にも選任されることが多いとしている。

5 効力の終期と財産の引継ぎ

職務執行停止と職務代行者選任は,「成年後見人の解任についての審判が効力を生ずるまでの間」の処分である(同法127条1項)。
本書214頁~215頁は,①解任の審判の効力が生じれば,職務代行者は新たに選任された成年後見人等に財産を引き継ぎ,②解任の申立てが却下された場合は,却下の審判が申立人に告知されたときに職務執行停止等も失効するので,職務代行者は財産を元の成年後見人に返還し又は引き継ぎ,③却下に対して即時抗告がされても職務執行停止等は失効したままであるから,必要があれば改めて申し立てるか,職権発動を促す必要があるとしている。
解任の審判に対して成年後見人が即時抗告をすると,解任の審判は確定するまで効力を生じないから(同法74条2項ただし書),その間は職務執行停止と職務代行者選任が続くことになる。
解任された後見人が欠格事由に当たり,他の事件でも後見人でなくなること(本書125頁,民法847条2号)は,成年後見人の解任理由で扱っている。

第8 保全処分の取消し

1 条文

家事事件手続法112条1項は,「審判前の保全処分が確定した後に、保全処分を求める事由の消滅その他の事情の変更があるときは」,本案の係属する家庭裁判所又は保全処分をした家庭裁判所は,「本案の家事審判の申立てについての審判(申立てを却下する審判を除く。)に対し即時抗告をすることができる者の申立てにより又は職権で」,保全処分の取消しの審判をすることができるとしている。
取消しの審判には同法109条1項・2項が準用され(同法112条3項),疎明に基づいてされ,確定を待たずに効力を生ずる。
なお,財産の管理者の選任については,同法125条7項(財産管理の必要がなくなったときの取消し)は126条8項で準用されていない。

2 本書の説明と条文の文言

本書216頁は,後見命令等の取消しは本案の開始の審判に対して即時抗告できる者の申立て又は職権によりすることができる一方,財産の管理者の選任と事件の関係人への指示は即時抗告ができないから,取消しの申立てはできず,職権による取消しのみができるとしている。
しかし,同法112条1項は,申立権者を「本案の家事審判の申立てについての審判…に対し即時抗告をすることができる者」と定めており,保全処分そのものに即時抗告ができるかどうかで申立権者を区別していない。
本記事では,条文の文言上は,財産の管理者の選任等についても,本案の開始の審判に対して即時抗告できる者が取消しを申し立てる余地があると考えるが,いずれにしても,事情の変更があれば家庭裁判所に職権の発動を求めることができる。
また,同条1項の取消しは保全処分が「確定した後」の手続であり,確定前の不服申立ては即時抗告(同法110条2項)によることになる。

第9 本書刊行後の変化と令和8年改正

1 本書刊行後の現行法

今回e-Govで取得した現行の家事事件手続法の105条~112条,116条,125条~127条,134条,135条,143条及び144条は,本書が引用する条項と内容が対応しており,保全処分の枠組みは本書刊行時から変わっていない。
変わったのは周辺の事情であり,郵便料金の改定(令和6年10月)により予納郵便切手の額が変わっている。

2 令和8年改正後の保全処分

(1) 後見命令・保佐命令の廃止と補助命令・特定補助命令

令和8年法律第45号による改正後は,後見・保佐が廃止されて補助に一元化され,家事事件手続法の129条から144条までは削除される。
改正後の同法126条は「補助開始の審判事件を本案とする保全処分」となり,1項で財産の管理者の選任と事件の関係人に対する指示を,2項で補助命令を,3項で特定補助命令を定める。
改正後の補助命令は,補助開始と補助人の同意を得なければならない行為の定めの申立てがあった場合に,申立人の申立てにより,改正後の民法9条1項に規定する行為で定めの申立てに係るものについて,財産の管理者の補助を受けることを命ずるものである(改正後の家事事件手続法126条2項)。
改正後の特定補助命令は,補助開始と特定補助人を付する処分の審判の申立てがあった場合に,申立人の申立てにより,改正後の民法9条2項各号に掲げる行為(日用品の購入その他日常生活に関する行為を除く。)について財産の管理者の補助を受けることを命ずるものである(改正後の家事事件手続法126条3項)。
特定補助命令は,現行の後見命令と同じく,財産の管理者に告知することで効力を生じ,本人には通知するものとされている(同条7項・8項)。
陳述を聴くことができない場合の例外は,補助命令と特定補助命令の両方に設けられる(同条4項)。
財産の管理者の権限については,現行と同じく民法27条~29条(27条2項を除く。)等が準用される(同条19項)。
特定補助人の権限(取消権,意思表示の受領,保存行為)は,保佐人・補助人の権限と実務で扱う。

(2) 解任の保全処分と新設の監督の保全処分

改正後の家事事件手続法127条は「補助人の解任の審判事件等を本案とする保全処分」となり,職務執行停止・職務代行者選任の内容は現行と同じ構造で維持される。
新たに128条として,補助の事務の監督の審判事件が係属している場合(代理権の付与の審判を受けた補助人に財産の目録の提出を命じた場合に限る。)に,補助人が財産の目録を提出するまでの間,補助人の職務の執行を停止し,又は職務代行者を選任することができる規定が設けられる。
改正後の補助人の解任事由は民法876条の5の1号~3号に整理され,即時抗告ができるのは1号・2号の事由で解任された場合に限られる(改正後の家事事件手続法123条1項9号)。
改正の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。

(3) 登記

改正後の後見登記等に関する法律4条2項は,改正後の家事事件手続法126条2項・3項の保全処分を「補助命令等」として登記し,同条1項11号・12号は,同法127条1項又は128条1項による職務執行停止と職務代行者選任を補助の登記事項とする。

(4) 市町村長申立て

改正後の老人福祉法32条は,市町村長が請求できる審判を「民法第七条第一項、第九条第一項、第十条第一項若しくは第三項又は第十一条第一項に規定する審判」と改める(関係法律整備法による。知的障害者福祉法28条も同様)。
市町村長が補助開始等の本案を申し立てれば,補助命令・特定補助命令を申し立てることもできる。

(5) 経過措置

令和8年法律第45号附則8条2項は,施行日前にされた後見開始の審判事件を本案とする保全処分(効力が消滅したものを除く。)について,旧法126条の規定がなお効力を有するものとし,「後見開始の申立て」を「補助開始の申立て」と読み替えるとしている。
同条3項は,施行日前にされた後見開始の審判事件を本案とする財産の管理者の選任等の申立てや後見命令の申立てで,施行日前に保全処分がされていないものは,施行日以後は改正後の126条1項・2項による補助開始の審判事件を本案とする保全処分の申立てとみなすとしている。
保佐についても同条4項・5項が同様に定める。
施行日前に開始した後見・保佐が従前の例によるとされる場合の家事審判の手続は,従前の例による(同条1項)。
施行日は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日であり(同法附則1条),基準日現在,政令は確認できていない。

第10 大阪家裁の運用について

本書206頁は,必要性と緊急性が疎明されていれば裁判所は即日でも保全処分の審判をするが,財産の管理者と職務代行者の選任は弁護士会等からの推薦を受ける手続をとるため時間を要するとしている。
今回確認した大阪家庭裁判所の成年後見関係のウェブページ(成年後見の案内,申立てに使用する書式等,開始後の各種申立ての書式)及び後見人ハンドブック(令和8年2月1日版)には,審判前の保全処分の手続や運用についての記載は見当たらなかった。
そのため,即日の発令や弁護士会への推薦依頼は,本書(2023年)の記載にとどまり,現行の大阪家裁の公式資料では確認できなかった運用として扱う。
実際に申し立てるときは,申立て前に家庭裁判所に事前に連絡して,必要な疎明資料と見込みの時間を確認することが実際的である。
大阪家裁後見センターの組織と独自の運用は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っている。

第11 出典・参考資料

1 法令

家事事件手続法(74条,105条~112条,115条,116条,123条,125条~127条,132条,134条,135条,141条,143条,144条,改正後の126条~128条) e-Gov法令検索
民法(7条,9条,13条,27条~29条,103条,846条,853条,改正後の7条・9条・10条・876条の5) e-Gov法令検索
後見登記等に関する法律(4条,改正後の4条) e-Gov法令検索
老人福祉法(32条,改正後の32条) e-Gov法令検索
知的障害者福祉法(28条) e-Gov法令検索
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(51条の11の2) e-Gov法令検索
高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(9条,27条,28条) e-Gov法令検索
障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律(9条) e-Gov法令検索
民事訴訟費用等に関する法律(別表第一の15の項) e-Gov法令検索
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)新旧対照条文 法務省
民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 新旧対照条文 法務省

2 公的資料

厚生労働省老健局「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(令和8年3月改訂)第Ⅱ章78頁 厚生労働省
市町村長による成年後見制度に基づく後見開始の審判等の請求に係る基準等の基本的考え方及び手続の例示について(令和3年11月26日老認発1126第2号等) 厚生労働省
大阪家庭裁判所「後見人ハンドブック」(令和8年2月1日版) 裁判所

3 文献

大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)125頁~126頁,205頁~216頁

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