第1 後見人の財産管理義務と横領の責任構造
1 この記事の対象と基準日
本記事は,家庭裁判所から選任された成年後見人が被後見人の財産を横領した場合の刑事・民事の責任及び監督者の責任と,その予防・是正・回復のための実務対応を,親族後見人と第三者(弁護士,司法書士,社会福祉士等の専門職)後見人の違いに着目して整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日現在のe-Gov法令検索で確認した条文による。
2 善管注意義務と家庭裁判所の監督
成年後見人は,被後見人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について被後見人を代表する(民法859条1項)。
その権限行使に当たっては,民法869条が委任に関する644条を準用しており,後見人は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負う。
この義務は,後見人が被後見人と親族関係にあるか否かによって区別されない。
横領の予防・発見・是正を支える手続的な仕組みも,民法に置かれている。
後見人は,就職後遅滞なく財産の調査に着手し,1箇月以内に財産目録を作成しなければならず,後見監督人があるときはその立会いがなければ効力を生じない(民法853条)。
後見監督人又は家庭裁判所は,いつでも後見人に事務の報告若しくは財産目録の提出を求め,又は事務若しくは財産の状況を調査することができ,家庭裁判所は必要な処分を命ずることができる(民法863条)。
居住用不動産の売却,賃貸,抵当権設定その他これらに準ずる処分には,家庭裁判所の許可を要する(民法859条の3)。
この許可の対象と審理は,居住用不動産処分の許可で扱っている。
これらの規定は,後見人による財産の私的流用を制度的に抑止し,発覚後の是正を可能にするための基礎である。
横領の局面では,これらの規定が事後的な責任追及の前提事実(義務違反の有無,監督の履践状況)としても機能する。
3 横領が生じさせる責任の全体像
後見人による横領は,3つの責任を生じさせる。
第一に,後見人自身の刑事責任(業務上横領罪)である。
第二に,後見人自身の民事責任(損害賠償及び不当利得返還)である。
第三に,監督にあたる後見監督人又は家庭裁判所の責任(善管注意義務違反又は国家賠償)である。
親族後見人と第三者後見人とで結論が分かれ得る局面は,主として次の点にある。
刑事における親族相盗例の準用の可否,民事における被害回復の実効性(横領者の資力及び被害弁償の仕組みの有無),そして選任の母数と不正発生の統計的な分布である。
以下,この順序で検討する。
第2 刑事責任──業務上横領罪と親族相盗例の不準用
1 罪名と適用条文
後見人は,被後見人の財産を継続的に管理する立場で金銭その他の財物を占有する。
そのため,これを不法に領得する行為は,原則として業務上横領罪に当たる。
刑法253条は,業務上自己の占有する他人の物を横領した者を10年以下の拘禁刑に処すると定め,単純横領を定める刑法252条1項(5年以下の拘禁刑)よりも重い法定刑を置いている。
占有を伴わない権限濫用によって本人に財産上の損害を与える類型は背任(刑法247条)の問題となるが,管理下の金銭を費消・領得する典型的な事案は横領として捉えられる。
2 親族相盗例の準用を否定する最高裁決定
刑法244条1項は,配偶者,直系血族又は同居の親族との間で犯した窃盗等について刑を免除すると定め,刑法255条はこの規定を横領の罪に準用する。
条文の文言だけを見れば,親族である後見人による横領は刑の免除の対象となり得るかにみえる。
ここが,親族後見人の横領における刑事上の中心論点である。
この点について,最高裁判所は準用を否定している。
まず,最高裁平成20年2月18日決定・刑集62巻2号37頁は,家庭裁判所から選任された未成年後見人が業務上占有する未成年被後見人の財物を横領した事案について,刑法244条1項は「親族間の一定の財産犯罪については,国家が刑罰権の行使を差し控え,親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき,その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず,その犯罪の成立を否定したものではない」とした上で(最高裁昭和25年12月12日判決・刑集4巻12号2543頁を引用),未成年後見人の後見の事務は「公的性格」を有するとして,刑法244条1項を準用して処罰を免れる余地はないと判断した。
次に,最高裁平成24年10月9日決定・刑集66巻10号981頁は,家庭裁判所から選任された成年後見人(成年被後見人の養父)が後見の事務として業務上預かり保管中の預貯金を引き出して横領した事案について,成年後見人の後見の事務も「公的性格」を有し,成年被後見人のために財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているとした。
その上で,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項を準用して処罰を免除することができないことはもとより,「その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではない」と判示した。
3 準用否定の射程と未確定の領域
2つの決定は,いずれも家庭裁判所から選任された後見人が業務上占有する財物を横領した事案に関するものである。
平成20年決定は未成年後見の事案で準用の有無を判断したのに対し,平成24年決定は成年後見の事案に同じ論理を及ぼし,かつ量刑上も親族関係を酌むべきでないとした点で,適用の場面を一歩進めている。
したがって,親族が家庭裁判所選任の成年後見人又は未成年後見人として被後見人の財産を業務上横領した場合には,刑の免除は認められないと考えられる。
他方で,射程が当然には及ばない領域がある。
任意後見人による横領,保佐人又は補助人による横領について,親族相盗例の準用の可否を判断した最高裁判所の裁判例は見当たらない。
任意後見は本人の契約に基づく制度であり,家庭裁判所の関与の程度が法定後見と異なることから,これらの類型に上記2決定の論理がそのまま及ぶかは,現時点では確定していない。
これらの類型が問題となる場合には,準用の可否を独立に検討する必要がある。
また,平成20年決定の被告人は未成年被後見人の祖母,平成24年決定の被告人は成年被後見人の養父であり,いずれも刑法244条1項所定の親族であった。
同条2項は,同条1項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は告訴がなければ公訴を提起することができないと定めるが,2つの決定はこの規定の準用については判断していない。
後見人が被後見人と同居していない兄弟姉妹,おい,めい等である場合には,この点も独立に検討する必要がある。
第3 民事責任と被害の回復
1 損害賠償・不当利得と使い込みの利息
後見人が善管注意義務(民法869条・644条)に違反して被後見人の財産を横領した場合,被後見人は債務不履行又は不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求でき,領得された金銭については不当利得(民法703条)の返還を請求できる。
横領(使い込み)については,民法873条2項が特則を置いている。
同項は,後見人が自己のために被後見人の金銭を消費したときは,その消費の時から利息を付さなければならず,なお損害があるときはその賠償の責任を負うと定める。
したがって,返還請求に当たっては,消費の時点を起点とする利息を併せて請求できる。
2 相続人による追及と回収の限界
被後見人が死亡した後は,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権は相続人が承継し,相続人が横領した後見人に対して追及することになる。
もっとも,請求権が認められても,横領した後見人からの回収はその資力に依存する。
この点で,親族後見人による横領と第三者後見人による横領とでは,被害回復の実効性に差が生じ得る。
ただし,後見人が横領した金銭を自己の借金の返済に充てた場合には,返済を受けた債権者も請求の相手方となり得る。
最高裁昭和49年9月26日判決(昭和45年(オ)第540号,民集28巻6号1243頁)は,騙取又は横領した金銭で自己の債権者に弁済した場合において,社会通念上被害者の金銭で債権者の利益を図ったと認められるだけの連結があり,債権者がその金銭の受領につき悪意又は重大な過失があるときは,債権者の金銭の取得は被害者に対する関係においては法律上の原因がなく,不当利得となるとした。
なお,最高裁昭和42年3月31日判決(民集21巻2号475頁)は,騙取した金銭による弁済を債権者が善意で受領したときは,被騙取者に対する関係で不当利得とならないとしている。
また,後見人がした借金の返済は,後見人が支払不能の時に,後見人と返済を受けた債権者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行ったものである場合に限り,詐害行為取消請求の対象となる(民法424条の3第1項)。
この場合は,被後見人の損害賠償請求権がその返済より前の原因に基づいて生じている必要がある(同法424条3項)。
二つの請求の要件と違いは,使い込まれたお金で借金を返してもらった債権者から取り戻せるか―騙取金・横領金による弁済と不当利得,最高裁昭和49年9月26日判決及び詐害行為取消しで説明している。
3 弁護士後見人の横領に備える二つの仕組み
第三者である専門職後見人による横領については,各専門職団体が被害弁償のための仕組みを設けている。
弁護士については,次の二つがある。
①日本弁護士連合会の依頼者見舞金制度は,弁護士が業務上預かった財産等を横領した場合に被害者へ見舞金を支給するもので,裁判所の選任等により弁護士が事務を処理する場合の関係者(後見人と被後見人の関係)も対象とされている。
支給は被害者1人当たり500万円の枠内,同じ弁護士の被害者が複数いる場合は弁護士1人につき総額2000万円の枠内で決定される。
②全国弁護士協同組合連合会の弁護士成年後見人信用保証制度は,日本弁護士連合会が考案し推奨する制度で,全国弁護士協同組合連合会が保証人となって,弁護士成年後見人等の不正による損害賠償債務を保証するものである。
保証の上限は弁護士後見人等1人当たり3000万円であり,保証料は年間9900円,保証期間は毎年10月1日から1年間である。
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)119頁~120頁は,この制度が令和2年10月から始まったこと,大阪弁護士会が弁護士賠償責任保険への加入とあわせてこの制度への加入を成年後見人等の推薦の要件としていることを紹介し,故意による着服は弁護士賠償責任保険の対象にならないため,被害者救済の手当てとして設けられたと説明している。
これに対し,親族後見人による横領には,このような団体による被害弁償の仕組みは及ばない。
回収の相手方は主として横領者本人となり,監督者(後記第4)や横領金で返済を受けた債権者(前記2)への請求は,それぞれの要件を満たす場合に限られる。
第二期成年後見制度利用促進基本計画が後見人等の故意による損害を補償する保険の導入の検討に言及しているのは,この差を埋める趣旨と考えられる(後記第6の2)。
第4 監督者の責任──後見監督人と家庭裁判所
1 後見監督人の職務と責任
家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被後見人,その親族若しくは後見人の請求により又は職権で,後見監督人を選任することができる(民法849条)。
選任は任意的であり,常に選任されるものではない。
後見監督人の職務は,後見人の事務の監督,後見人が欠けた場合の選任請求,急迫の事情がある場合の必要な処分,後見人と被後見人との利益が相反する行為についての被後見人の代表である(民法851条)。
後見監督人も民法852条により644条が準用され,善管注意義務を負う。
監督の実効性を確保するため,後見人の配偶者,直系血族及び兄弟姉妹は後見監督人となることができない(民法850条)。
後見監督人自身の責任が認められた例として,大阪地裁堺支部平成25年3月14日判決(金融・商事判例1417号22頁。裁判所HP未掲載)がある。
前記『【全訂版】成年後見人の実務2023』191頁によれば,同判決は,後見監督人として選任された後,一件記録の謄写をしただけで,その後3年5か月弱にわたって親族後見人らによる財産管理の状況を把握せず,その間に親族後見人らが多額の財産を横領していた事案で,後見監督人であった弁護士の善管注意義務違反を認めた。
同書は,これを踏まえ,後見監督人は少なくとも概ね3か月に1回程度は面談又は書面による報告を受け,監督の実効を期すべきであるとしている。
同判決の判示と後見監督人の職務の全体は,後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編で扱っている。
2 家庭裁判所の監督と国家賠償
後見人の横領について,家庭裁判所の選任又は後見監督の懈怠を理由とする国家賠償が問題となることがある。
この点を判断した裁判例として,広島高裁平成24年2月20日判決(平成22年(ネ)第450号,実践成年後見43号93頁)がある。
同判決は,知的障害のある親族が成年後見人に選任され,被後見人の預金から3794万3877円を横領した事案において,家事審判官の選任又は後見監督が被後見人との関係で国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは「具体的事情の下において,家事審判官に与えられた権限が逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる」と判示した。
同判決は,この基準を具体化し,選任の際に後見人が財産を横領することを認識し又は容易に認識し得たのに選任した場合や,横領を認識し又は容易に認識し得たのに更なる被害の発生を防止しなかった場合などに限られるとした。
その上で,本件では選任自体の違法は否定しつつ,横領を容易に認識し得た後の監督の懈怠を理由に,国に231万円の支払を命じた。
家事審判官による選任及び後見監督は,後見的な立場から行う行政作用に類するものであって争訟の裁判とは性質を異にするから,裁判官の裁判職務に関する国家賠償の「特別の事情」の法理は適用されないとも判示している。
もっとも,これは下級審の裁判例であり,家庭裁判所の監督責任に関する最高裁判所の判断は見当たらない。
同種の枠組みは後見人が親族か専門職かを問わず妥当し得ると考えられるが,違法性が認められる範囲は上記のとおり限定的であり,具体的な結論は選任時及び監督時に家庭裁判所が把握し又は把握し得た事情によって左右される。
第5 統計から見た親族後見人と第三者後見人
1 選任割合と不正発生の逆転構造
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況─令和7年1月~12月─」によれば,令和7年に成年後見人等と本人との関係別(後見等開始と同時選任の件数)で見た親族の割合は16.4パーセント(7014件),親族以外の割合は83.6パーセント(3万5718件)であった。
制度発足当初は親族が約9割を占めたが,平成24年に親族以外が親族を上回り,その後も親族の割合は低下している。
親族以外の内訳は,司法書士33.5パーセント,弁護士24.9パーセント,社会福祉士20.4パーセントの順であり,「第三者後見人」は複数の専門職の集合である。
他方,最高裁判所事務総局家庭局「後見人等による不正事例」は,不正の件数及び被害額を「専門職」と「専門職以外」に区分して公表している(親族のみを取り出した数値は公表されていない。専門職以外には親族のほか市民後見人等が含まれる。)。
同資料によれば,令和7年の総件数178件のうち専門職は26件,総被害額約7億9千万円のうち専門職は約1億6千万円であった。
件数及び被害額は,平成26年の831件・約56億7千万円をピークとして,その後大きく減少している。
この2つの統計を対照すると,選任の割合では少数である親族側(専門職以外)から,不正の件数及び被害額の大半が生じているという関係が読み取れる。
このことは,1件当たりの不正のリスクが親族後見人において構造的に高い可能性を示唆するが,後述のとおり発生率そのものを算出できる数値ではなく,示唆の域を出ない。
2 家庭裁判所管内別の親族比率
関係別件数を家庭裁判所の管内別に見ると,親族の比率には大きな地域差がある。
「成年後見関係事件の概況」の家裁管内別関係別件数表(資料10-1)に基づき,親族(配偶者,親,子,兄弟姉妹及びその他親族の合計)を管内の合計で除して算出すると,全国平均16.4パーセントに対し,管内別の親族比率は約8.0パーセントから約36.8パーセントまで分布する。
都市部の高件数庁で低く,地方の庁で高い傾向がみられる。
親族比率が低い(専門職への選任が進んでいる)主な管内は,次のとおりである。
| 家裁 | 合計 | 親族 | 親族比率 |
|---|---|---|---|
| 神戸 | 2199 | 177 | 8.0% |
| 釧路 | 377 | 35 | 9.3% |
| 岡山 | 1038 | 101 | 9.7% |
| 函館 | 193 | 21 | 10.9% |
| 京都 | 1497 | 166 | 11.1% |
| 横浜 | 3287 | 373 | 11.3% |
親族比率が高い主な管内は,次のとおりである。
| 家裁 | 合計 | 親族 | 親族比率 |
|---|---|---|---|
| 那覇 | 465 | 171 | 36.8% |
| 大分 | 304 | 86 | 28.3% |
| 仙台 | 447 | 118 | 26.4% |
| 高知 | 237 | 62 | 26.2% |
| 水戸 | 616 | 155 | 25.2% |
不正の大半を占める「専門職以外(親族が大半)」の分布は管内によって濃淡があるため,親族後見人事案の監督に振り向けるべき比重も地域によって異なると考えられる。
なお,各管内の合計は資料10-1の数値であり,親族比率は本記事において親族の合計を管内合計で除して算出したものである。
3 統計を用いる際の留保
上記の統計を実務で用いる際には,いくつかの留保がある。
第一に,親族後見人と専門職後見人それぞれの不正発生「率」は算出できない。
関係別件数は当該年の新規選任を単位とするのに対し,不正事例の件数は当該年に家庭裁判所が一連の対応を終えた事案を単位とし,過去に選任された後見人からの発生を含むため,分母と分子が対応しないからである。
第二に,「後見人等による不正事例」は,平成23年10月及び平成24年4月に報告対象事件の定義が変更されており,単純な年別比較はできず,数値はいずれも概数とされている。
第三に,専門職の1件当たり被害額は年によって大きく変動し,例えば平成26年は専門職22件で約5億6千万円に上るなど,件数の少なさが直ちに被害の軽微さを意味するものではない。
これらの点を踏まえ,統計は傾向の把握にとどめ,個別事案の評価に直結させないことが適切である。
第6 不正防止の制度と令和8年改正
1 後見制度支援信託・後見制度支援預貯金
後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金は,本人が日常的に使用しない金銭を信託銀行等に信託し又は金融機関に預け入れ,その払戻し又は解約に家庭裁判所の指示書を要する仕組みである。
最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について─令和7年1月~12月─」(令和8年5月29日掲載)によれば,令和7年12月末までの累計利用者数は支援信託が3万1234人(平成24年2月以降),支援預貯金が1万3511人(平成30年1月以降)であり,令和7年の新規利用者は支援信託615人,支援預貯金2005人であった。
新規利用は,金融機関で完結する支援預貯金へ移っている。
また,令和7年10月からは,一部の金融機関で保佐及び補助についても支援預貯金を利用できるようになった(同資料)。
これらは後見人の属性を問わず不正防止に資するもので,親族後見人の財産管理の負担を軽減する機能も持つ。
横領の予防を検討する場面では,管理下の流動資産をこれらの仕組みに移すことが選択肢となる。
仕組み,専門職後見人の職務及び利用に適さない事案は,後見制度支援信託と後見制度支援預貯金で扱っている。
2 利用促進法と後見人交代の柔軟化
成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)は,成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする(同法1条)。
同法に基づく第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定)は,「不正防止の徹底と利用しやすさの調和」を掲げ,後見制度支援信託・支援預貯金や後見監督人等の活用が難しい親族後見人等の事案を含めた適切な監督を求めるとともに,後見人等の故意による損害を補償する保険の導入の検討にも言及している。
制度面では,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律。令和8年6月24日公布,成年後見制度に関する部分の施行は公布から2年6月を超えない範囲内で政令で定める日)による見直しがある。
同改正は法定後見を補助の制度に一元化するとともに,補助人の解任事由を,①不正な行為をしたとき,②任務に著しく反したことにより職務を継続させることが相当でないとき,③本人の利益のため特に必要があるとき,の3号に組み直している(改正後の民法876条の5)。
施行後は,施行日前に選任された成年後見人の解任にもこの規定が適用される(同法附則2条2項)。
解任事由の改正の詳細は,成年後見人の解任理由で扱っている。
第7 弁護士の実務対応
1 手続選択──解任・監督人選任・財産調査
後見人による横領が疑われる場合の手続選択は,段階に応じて分岐する。
まず,家庭裁判所に対する後見監督の発動を促す方法がある。
民法863条により家庭裁判所は事務の報告及び財産目録の提出を求め,財産状況を調査し,必要な処分を命ずることができる。
後見監督人が選任されていない場合には,民法849条により後見監督人の選任を求めることも考えられる。
不正が確認できる場合には,民法846条による後見人の解任がある。
同条は,不正な行為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは,後見監督人,被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により,又は職権で解任できると定める。
解任の審判までの間に財産がさらに損なわれるおそれがあるときは,職務執行停止・職務代行者選任の保全処分(家事事件手続法127条1項)をあわせて求めることになる。
その手続は後見等開始の審判前の保全処分で扱っている。
あわせて,横領された財産の回復のため,民法873条2項・709条・703条に基づく損害賠償及び不当利得返還を検討し,業務上横領罪(刑法253条)としての刑事告訴を検討する。
前記のとおり,親族後見人であっても親族相盗例による免除は認められない。
居住用不動産が関係する場合には,処分に家庭裁判所の許可(民法859条の3)を要する点にも留意する。
大阪家庭裁判所後見センターは,親族後見人等の不正が疑われる事案では,解任の前段階として,弁護士を後見人に追加選任して財産管理を分掌させる運用を説明している(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)156頁~158頁)。
追加選任された弁護士は,直ちに既存の後見人と面談して資料の引継ぎを受け,財産の状況や使途不明金の有無を調査し,選任から1か月と3週間以内を目安に家庭裁判所へ報告する。
その上で,使い込みが判明したときは,返還を求めて債務名義を取得することや,解任・刑事告発についての意見を述べることが想定されている。
同書164頁は,通帳の写しを改ざんした事例があったことから,家庭裁判所や監督人が通帳の原本を確認する必要があるとしている。
2 依頼者からの事情聴取と証拠の収集
横領の主張及び立証に向けて,依頼者からは次の事項を聴取し,関係資料を収集することが有用である。
①後見開始の審判の内容,後見人の氏名・本人との関係,後見監督人の有無
②被後見人の財産の構成(預貯金口座,不動産,有価証券等)と,後見開始時の財産目録の記載
③問題とされる出金の時期,金額,方法(払戻し,振込み,口座解約等)と,その使途に関する説明の有無
④後見人が家庭裁判所に提出した後見等事務報告書及び財産目録の内容と,通帳・取引明細との整合
⑤後見制度支援信託・支援預貯金の利用の有無と,指示書に基づかない払戻しの有無
⑥被後見人が死亡している場合は,相続人の範囲及び請求権の帰属
⑦後見人が弁護士である場合は,弁護士成年後見人信用保証制度への加入の有無
これらのうち,金融機関の取引明細,家庭裁判所提出書類及び財産目録は,出金の事実と使途の不一致を裏づける中心的な証拠となる。
数値を扱う場面では,判決文,法令又は公的統計等の原典と照合し,二次資料の記載のみに依拠しないことが望ましい。
3 想定される相手方の主張と対応
相手方となる後見人の側からは,複数の反論が想定される。
第一に,親族であることを理由に親族相盗例による刑の免除又は量刑上の考慮を主張することが考えられるが,家庭裁判所選任の後見人については,前記の最高裁平成20年決定及び平成24年決定により免除は認められず,成年後見人については,平成24年決定により量刑上も親族関係を酌むべき事情とはされない。
第二に,出金は本人のための支出であって横領には当たらないとの主張が考えられ,これに対しては使途を裏づける資料の有無,本人の意思及び生活実態との整合を具体的に検討する必要がある。
家庭裁判所の監督責任を追及する国家賠償の局面では,国の側から,選任及び後見監督に権限の逸脱及び著しい不合理はないとの反論が想定される。
前記広島高裁判決の枠組みによれば,違法性が認められるのは限定的な場合であり,家庭裁判所が横領を認識し又は容易に認識し得た事情の有無が結論を左右し得る。
当てはめに当たっては,選任時及び監督時に家庭裁判所が把握し又は把握し得た具体的事情を確認することが必要である。
第8 出典
1 法令
刑法(244条1項,247条,252条1項,253条,255条) e-Gov法令検索
民法(424条,424条の3,644条,703条,709条,846条,847条,849条,850条,851条,852条,853条,859条1項,859条の3,863条,869条,873条2項) e-Gov法令検索
家事事件手続法(127条) e-Gov法令検索
成年後見制度の利用の促進に関する法律(1条) e-Gov法令検索
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)附則2条,同法による改正後の民法876条の5 法務省「新旧対照条文(民法等改正法)」
2 裁判例
最高裁平成20年2月18日決定・刑集62巻2号37頁(平成19年(あ)第1230号)──未成年後見人の業務上横領と刑法244条1項の準用の否定
最高裁平成24年10月9日決定・刑集66巻10号981頁(平成24年(あ)第878号)──成年後見人の業務上横領と刑法244条1項の準用の否定,及び量刑上の考慮の当否
最高裁昭和25年12月12日判決・刑集4巻12号2543頁──親族相盗例の性質(上記平成20年決定が引用する範囲で参照)
最高裁昭和42年3月31日判決・民集21巻2号475頁(昭和40年(オ)第295号)──騙取した金銭による弁済と,善意で受領した債権者の不当利得の不成立
最高裁昭和49年9月26日判決・民集28巻6号1243頁(昭和45年(オ)第540号)──騙取又は横領した金銭による弁済と,悪意又は重大な過失のある受領者の不当利得
広島高裁平成24年2月20日判決・実践成年後見43号93頁(平成22年(ネ)第450号)──成年後見人の横領と家庭裁判所の後見監督に関する国家賠償
大阪地裁堺支部平成25年3月14日判決・金融・商事判例1417号22頁(平成22年(ワ)第2795号ほか)──後見監督人の善管注意義務違反(裁判所HP未掲載)
3 統計・公的資料
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況─令和7年1月~12月─」 裁判所ウェブサイト
最高裁判所事務総局家庭局「後見人等による不正事例」 裁判所ウェブサイト
最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について─令和7年1月~12月─」 裁判所ウェブサイト
第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定) 厚生労働省
法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」 法務省
日本弁護士連合会「依頼者見舞金制度」 日本弁護士連合会
全国弁護士協同組合連合会「弁護士成年後見人信用保証制度」 全国弁護士協同組合連合会
4 文献
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)119頁~120頁,191頁
大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)156頁~158頁,164頁
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