第1 この記事の対象と資料
1 取り上げる資料
本記事は,税理士に対する懲戒処分が,税務署での端緒の把握から財務大臣の処分と公告に至るまで,どのような手続で行われるかを,国税当局の内部規程と現行法に沿って整理するものである。
調査の基準日は令和8年10月2日である。
中心となる資料は,当サイトに掲載している次の4点である。
①税理士懲戒処分等事務取扱規程(昭和57年7月8日大蔵省訓令特第13号。平成25年7月時点の写し)
②税理士法聴聞事務取扱規程(平成7年4月13日大蔵省訓令特第8号。平成25年7月現在の写し)
③税理士法事務取扱規程(昭和26年12月22日国税庁訓令特第29号。平成25年7月時点の写し)
④国税庁総務課の税理士事務提要(表紙は平成14年7月。本文は平成20年から平成23年までの事務運営指針等を引用しており,その頃までの改正を反映した版である)
税理士事務提要は,国税局及び税務署で税理士事務を担当する職員の標準的な事務手続を定めたものであり,総則,税理士会,情報の収集,調査等,指導,懲戒処分等,税理士法52条違反への対応,税理士登録に係る確認等,臨時の税務書類の作成等の許可,通知弁護士等,退職予定者に対する指導等,犯罪収益移転防止法及び中小企業等協同組合の各章から成る。
2 資料を読むときの注意
上記①から④までは,いずれも平成25年頃までの内容であり,その後の税理士法の改正を反映していない。
本記事では,資料に書かれた手続と,現行の税理士法,行政手続法,行政不服審査法及び財務省告示で確認できる事項とを区別して記載する。
特に注意すべき違いは,次の4点である。
①税理士業務の停止の上限は,資料では「1年以内」であるが,現行の税理士法44条2号は「二年以内」である。
②処分に対する不服申立ては,資料の通知書様式では財務大臣に対する異議申立てであるが,現行法では審査請求である。
③懲戒処分の公告は,資料では官報によるものとされているが,現行の税理士法47条の4は,財務省令で定める方法により閲覧できる状態に置く措置と官報による公告の両方を求めている。
④税理士であった者に対する「懲戒処分を受けるべきであつたことについての決定」(同法48条)と懲戒の除斥期間(同法47条の3)は,資料の作成後に設けられた制度である。
本記事で引用した税理士法,行政手続法及び行政不服審査法の条文は,e-Gov法令検索がメンテナンス中であったため,判例秘書の現行法令アーカイブ(令和8年8月1日現在)で確認した。
第2 懲戒処分の種類と対象となる行為
1 懲戒処分の種類
税理士法44条は,「税理士に対する懲戒処分は、次の三種とする。」とし,「戒告」,「二年以内の税理士業務の停止」及び「税理士業務の禁止」を掲げる。
処分をするのは財務大臣である(同法45条,46条)。
税理士業務の禁止の処分を受けた者は,処分を受けた日から3年を経過するまで税理士となる資格を有しない(同法4条6号)。
これに対し,業務の停止の処分を受けた者は,停止期間の満了によって税理士業務を再開することができる。
2 脱税相談等をした場合の懲戒(税理士法45条)
税理士法45条1項は,税理士が「故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は第三十六条の規定に違反する行為をしたとき」は,「二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる」と定める。
同条2項は,「相当の注意を怠り、前項に規定する行為をしたとき」は,「戒告又は二年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる」と定める。
同法36条は,脱税相談等の禁止の規定である。
故意の場合には戒告がなく,過失(相当の注意を怠った場合)の場合には業務の禁止がない,という区別が条文上設けられている。
3 一般の懲戒(税理士法46条)
税理士法46条は,45条に該当する場合を除くほか,税理士が,同法33条の2第1項若しくは第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき,又は「この法律若しくは国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したとき」は,44条に規定する懲戒処分をすることができると定める。
信用失墜行為の禁止(同法37条),非税理士に対する名義貸しの禁止(同法37条の2),秘密を守る義務(同法38条),帳簿作成の義務(同法41条),使用人等に対する監督義務(同法41条の2),退職した公務員の業務の制限(同法42条)等の違反は,この46条により懲戒の対象となる。
税理士事務提要の別表「違反行為等の態様」は,税理士本人の申告漏れ,納税資金の詐取・横領,名義貸し,業務の懈怠を,いずれも37条違反として46条の懲戒事由に該当する可能性がある行為に分類している。
4 税理士法人と通知弁護士
税理士法人に対しては,財務大臣が,戒告,2年以内の期間を定めた業務の全部若しくは一部の停止又は解散を命ずることができる(税理士法48条の20第1項)。
同条4項は,税理士法人を処分する場合に,社員である税理士に対して懲戒処分を併せて行うことを妨げないとしている。
所属弁護士会を経て国税局長に通知することにより税理士業務を行う弁護士(通知弁護士)は,税理士業務を行う範囲において,44条から46条まで(税理士業務の禁止の処分に関する部分を除く。)等の適用について税理士とみなされる(同法51条2項)。
したがって,通知弁護士も,税理士業務に関して財務大臣による戒告又は業務の停止の対象となり得る。
第3 端緒の把握から処分までの流れ
1 端緒の把握
(1) 税務署内部からの情報
税理士事務提要は,税理士事務担当者が,文書収受・応接の際,投書,探聞,新聞,雑誌等あらゆる機会を通じて税理士法違反のおそれのある行為等の情報を収集し,「税理士等情報連絡せん」を作成するものとしている(第3章)。
課税部門等から税理士監理官への情報提供は,別の事務運営指針(情報提供要領)に基づいて行われる。
局の税理士監理官は,集まった情報を検討し,①実態確認,②調査,③確認調査(税理士法52条違反が想定される者が対象),④継続管理,⑤情報蓄積のいずれかの処理方針を付けて活用署に回付する。
東京国税局の職員向け広報誌が,この情報せんの作成をどのように促しているかは,「東京国税局の税理士専門官だより(令和4年~令和6年)」で紹介している。
(2) 外部からの通知と求め
税理士法47条は,外部からの通知について次の3つを定める。
①地方公共団体の長は,地方税に関し45条又は46条に規定する行為又は事実があると認めたときは,財務大臣に通知するものとする(同条1項)。
②税理士会は,その会員について同様の行為又は事実があると認めたときは,財務大臣に通知しなければならない(同条2項)。
③何人も,税理士について同様の行為又は事実があると認めたときは,財務大臣に対し,「当該税理士の氏名及びその行為又は事実を通知し、適当な措置をとるべきことを求めることができる」(同条3項)。
税理士事務提要は,これらの通知又は請求があった場合にも情報連絡せんを作成し,税理士監理官を経て国税庁に連絡するものとしている(第6章第3節)。
同法47条3項は財務大臣に措置を「求めることができる」と定めるにとどまり,通知をした者が処分の結果について報告を受けることや不服を申し立てることを定めた規定は置かれていない。
2 実態確認と税理士法上の調査
(1) 実態確認
違反の事実が明らかでない段階では,署の税理士事務担当者が,対象者の協力を得て事務所に臨場し,「税理士等実態確認表」を使って業務の実態を確認する(税理士事務提要第4章第1節)。
同提要は,その根拠を国税庁の任務を定めた財務省設置法19条としている。
実態確認の対象者の選定基準には,情報連絡せんが多数ある者,使用人や関与先の概況が全く不明である者,会計法人を経営している者,関与先が大幅に増加している者,過去の指導事項の改善状況を確認する必要がある者,懲戒処分後に業務を再開した者等が挙げられている。
実態確認表の項目には,事務所の所在地,使用人の数,報酬の決済方法,関与先件数,税理士本人による関与先との接触頻度,署名押印の状況,税理士等の印鑑(認証カードを含む。)の保管・使用状況,業務処理簿の記載,使用人の源泉徴収をどこがしているか,犯罪収益移転防止法の遵守状況等がある。
(2) 懲戒処分を視野に入れた調査
税理士法に違反する行為等があると認められる税理士等に対しては,「懲戒処分を視野に入れて」,証拠資料の確実な収集を行う調査が実施される(税理士事務提要第4章第2節)。
根拠は,国税庁長官が税理士又は税理士法人から報告を徴し,当該職員に質問させ,業務に関する帳簿書類を検査させることができるとする税理士法55条1項である。
同条4項は,これらの権限が「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」と定める。
調査は,局の税理士専門官が主体となる局調査事案,税理士専門官の支援を得て署が行う支援調査事案及び署調査事案に区分される。
税理士事務提要は,懲戒処分を行う場合には収集した証拠資料とともに質問てん末書が重要な証拠となるとして,違反行為の事実や動機が明確になるよう問答形式で作成し,懲戒処分の可否と量定の判断に資するよう配意することを求めている。
(3) 調査後の処理と指導
調査を終えると調査事績書が作成され,署の事案は署長又は副署長が主宰する税理士等調査事案検討会で処理方針が決められる。
違反行為が軽微で,注意によって以後の業務が適正に行われると認められる者には,懲戒処分ではなく,国税局長,総務部長,税理士監理官又は税務署長等から口頭又は文書による指導が行われる(税理士事務提要第5章)。
同提要は,この指導が行政手続法の行政指導に当たり,趣旨,内容及び責任者(税務署長又は国税局長)を明示する必要があることに留意するよう求めている。
3 税務署長の報告から財務大臣への進達まで
税理士懲戒処分等事務取扱規程は,次の順序で事件を上げていくことを定めている。
①税務署長は,税理士に懲戒事由に当たる行為又は事実があると認めたときは,遅滞なく,税理士法違反行為等報告書に一件書類を添えて所轄国税局長に報告する(2条)。
②国税局長は,懲戒処分等に相当する違反行為等があると認めたときは,税理士法違反行為等進達書に一件書類と「いかなる懲戒処分等によることが適当であるか」に関する意見書を添えて国税庁長官に進達する(4条)。
③国税庁長官は,懲戒処分等に相当する違反行為等があると認めたときは,財務大臣に進達する(6条)。
各段階で懲戒処分等に相当しないと判断したときは,その旨と理由を報告した税務署長等に通知する(5条,7条,9条)。
税理士事務提要は,局が進達する前に国税庁の担当者と事前に協議し,進達書には質問てん末書の写し,住民票の写し及び課税調査資料等を添付するとしている(第6章第1節)。
4 予告通知と弁明又は聴聞
(1) 弁明と聴聞の振り分け
財務大臣は,懲戒処分等に相当する違反行為等があると認めたときは,あらかじめその旨を通知して,意見陳述の手続を執る(税理士懲戒処分等事務取扱規程8条1項)。
平成25年時点の同規程は,戒告又は1年以内の業務の停止に相当する場合は弁明の機会の付与,業務の禁止に相当する場合は聴聞としていた。
現行の業務の停止は2年以内であるが,行政手続法13条1項は,名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分等について聴聞を,それ以外の不利益処分について弁明の機会の付与を求めているので,業務の停止は弁明,業務の禁止は聴聞という振り分けは現在も同じと考えられる。
予告通知書は,国税庁長官及び進達をした国税局長を経由して送付され(同規程8条3項),税理士事務提要は,局又は署の税理士事務担当者が本人に直接交付し,その際に聴聞又は弁明の機会について十分説明するものとしている。
同提要は,予告通知書が本人に送達されたときに,税理士法47条の2の「懲戒の手続に付された」ことになるとしている。
(2) 弁明の機会の付与
弁明書は,通知書を受領した日から1月以内に国税局長宛てに提出する(同規程8条1項,別紙第3号様式)。
相当の理由があると認めたときに限り,更に1月の範囲内で期間が延長される(同条2項)。
提出された弁明書は,国税局長の「弁明内容に関する意見書」を添えて国税庁長官から財務大臣に進達される(同規程10条,11条)。
期間内に弁明書が提出されないときは,その旨が財務大臣に報告される(同規程12条)。
(3) 聴聞
聴聞は,税理士法聴聞事務取扱規程に従って行われる。
主な内容は次のとおりである。
①聴聞の期日は,聴聞の通知の日から起算して1月以内の日とする(2条1項)。
②主宰者は,当事者の事務所の所在地を管轄する国税局又は国税庁の職員から指名される(8条)。
③国税局長は,通知までに処分の証拠とした文書等を区分した閲覧資料と資料目録を作り,当事者の閲覧に供する(4条,5条)。
④主宰者は,聴聞の終結後,自己の判断を記載した聴聞結果報告書を作成し,聴聞調書の謄本を添えて国税局長に提出する(19条)。
聴聞の通知書(税理士懲戒処分等事務取扱規程の別紙第4号様式)は,聴聞で意見を述べ証拠書類等を提出できること,出頭に代えて陳述書等を提出できること,終結までの間は行政手続法18条に基づいて不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができることを教示している。
同条1項は,行政庁は「第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない。」と定める。
税理士懲戒処分等事務取扱規程12条の4第2項は,国税局長の意見書において「聴聞に付さない証拠をもって」業務の禁止の処分を相当とすることはできないとしている。
税理士法聴聞事務取扱規程21条も,聴聞の終結後に新たな証拠書類等を処分の理由とする場合には,その事実について聴聞を行わなければならないとしている。
5 国税審議会への諮問と処分
税理士法47条4項は,財務大臣は懲戒処分をしようとするときは「国税審議会に諮り、その議決に基づいてしなければならない。」と定める。
税理士懲戒処分等事務取扱規程は,弁明書や聴聞結果報告書等を添えて国税審議会に処分の可否と内容を諮問し(13条),処分が相当である旨の答申を受けたときは,その答申に基づいて処分をするとしている(14条1項)。
処分は,理由を付記した書面で通知される(税理士法47条5項)。
同規程の様式では,通知書(税理士懲戒処分通知書)も国税庁長官と国税局長を経由して送付される。
国税庁長官は,処分があったときは各国税局長及び日本税理士会連合会に通知する(同規程14条5項)。
6 公告と国税庁の公表
税理士法47条の4は,財務大臣は45条又は46条の規定により懲戒処分をしたときは,遅滞なくその旨を,財務省令で定める方法により「不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに、官報をもつて公告しなければならない。」と定める。
国税庁のウェブサイト「税理士等に対する懲戒処分等」は,令和6年3月31日以前の処分は官報掲載情報として,同年4月1日以後の処分は同条に基づく公告として,業務の禁止・解散,業務の停止及び戒告の別に,氏名,登録番号,事務所の所在地,処分の年月日又は停止期間等を掲載している。
同ページの会計年度別の処分等件数(令和8年9月11日現在)は,次のとおりである。
| 会計年度 | 処分等件数 | 禁止・解散 | 停止 | 戒告 |
|---|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 21 | 5 | 16 | 0 |
| 令和4年度 | 13 | 4 | 9 | 0 |
| 令和5年度 | 38 | 5 | 33 | 0 |
| 令和6年度 | 64 | 10 | 52 | 2 |
| 令和7年度 | 40 | 10 | 29 | 1 |
戒告が極めて少なく,業務の停止が大半を占めている。
処分の内容を個別に確認するときは,同ページから各処分の公告を開き,根拠条文(45条1項か46条か)と停止期間を見る。
第4 処分の量定
1 財務省告示の総則
懲戒処分の量定については,財務省告示「税理士等・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方」(平成20年財務省告示第104号。令和5年財務省告示第49号による改正後のもの)がある。
令和5年4月1日以後にした不正行為に適用され,それより前の不正行為には改正前の告示が適用される(附則)。
総則は,類型ごとの量定の考え方を基本としつつ,①不正行為の性質,態様,効果等,②税理士の不正行為の前後の態度,③懲戒処分等の前歴,④選択する懲戒処分等が他の税理士及び社会に与える影響,⑤その他個別事情を総合的に勘案して決定するとしている。
類型の異なる不正行為が2以上あるときは,それぞれの量定を合計したものが基本となり,業務の停止期間は1月を単位とする。
使用人等が不正行為を行った場合は,使用者である税理士がそれを認識していたときは本人が行ったものとして,認識していなかったときでも内部規律や内部管理体制の不備等により相当の責任があるときは過失により行ったものとして処分される。
これに当たらない場合でも,監督が適切でなかったときは,税理士法41条の2(使用人等に対する監督義務)の違反として処分される。
2 類型ごとの量定
告示が定める主な類型の量定は,次のとおりである。
| 類型 | 量定の判断要素 | 量定の範囲 |
|---|---|---|
| 故意による不真正税務書類の作成,脱税相談等(45条1項) | 不正所得金額等の額 | 6月以上2年以内の業務停止又は業務禁止 |
| 相当の注意を怠った場合(45条2項) | 申告漏れ所得金額等の額 | 戒告又は2年以内の業務停止 |
| 書面添付(33条の2)の虚偽記載 | 件数,虚偽の程度 | 戒告又は1年以内の業務停止 |
| 自己脱税 | 不正所得金額等の額 | 2年以内の業務停止又は業務禁止 |
| 調査妨害 | 行為の回数,程度 | 2年以内の業務停止又は業務禁止 |
| 業務の懈怠 | - | 戒告又は1年以内の業務停止 |
| 税理士会の会費の長期滞納 | - | 戒告 |
| 非税理士に対する名義貸し(37条の2) | 人数,書類の件数,期間,対価 | 2年以内の業務停止又は業務禁止 |
| 守秘義務違反(38条) | - | 2年以内の業務停止又は業務禁止 |
| 帳簿作成義務違反(41条) | - | 戒告 |
| 使用人等に対する監督義務違反(41条の2) | - | 戒告又は1年以内の業務停止 |
| 退職公務員の業務制限違反(42条) | 税務代理等の件数 | 2年以内の業務停止又は業務禁止 |
| 業務停止の処分に違反した業務 | - | 業務禁止 |
告示は,自己脱税,調査妨害,業務の懈怠及び会費の滞納を,税理士法37条(信用失墜行為の禁止)に違反する行為として位置付けている。
業務停止の処分に違反して業務を行った場合は,これとは別の類型として業務禁止とされており,刑事上も1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金の対象となる(同法60条3号)。
3 量定についての裁判例
大阪地方裁判所令和3年5月27日判決(令和元年(行ウ)第174号,金融・商事判例1625号38頁)は,関与税理士から相談を受けた税理士が,法人代表者の死後に債権放棄の額を減額して法人税の納税義務を免れることを提案した行為を税理士法36条の脱税相談に当たるとし,業務の禁止の処分を適法とした。
同判決は,懲戒処分をすべきか否か及びどの処分を選択すべきかの判断は財務大臣の合理的な裁量に委ねられ,社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したと認められる場合に限り違法となるとした上で,告示の量定の考え方は「合理性を有するものというべきである。」と判断した。
同判決は,判例秘書で全文を確認したが,裁判所ウェブサイトには掲載されていない。
東京地方裁判所平成26年9月30日判決(平成25年(行ウ)第561号)も,委嘱者の依頼により,提出された資料の売上金額の5割を申告上の売上金額とし,その3割を所得金額とする確定申告書を作成した行為を,「故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした」場合に当たるとし,業務の禁止の処分を適法とした(判例秘書で判示事項及び判決要旨を確認。裁判所ウェブサイト未掲載)。
いずれの判決も,懲戒処分歴がないことを考慮しても裁量権の逸脱濫用はないとしている。
処分を受ける側が量定を争うときは,告示の判断要素(不正所得金額等の額,行為の前後の態度等)に即した事実を具体的に示す必要がある。
第5 処分の効力と処分後の措置
1 効力の発生時期
最高裁判所第二小法廷昭和50年6月27日判決(昭和45年(行ツ)第93号,民集29巻6号867頁)は,税理士に対する懲戒処分の効力は処分が確定した時に生ずるとした。
同判決は,当時の税理士法が,欠格事由,税理士証票の返還,官報公告及び業務停止違反の処罰をいずれも処分の確定にかからせていたことを根拠としていた。
現行の税理士法4条6号は,欠格事由を「当該処分を受けた日から三年を経過しないもの」と定め,47条の4も「懲戒処分をしたときは」公告すると定めており,同判決が根拠とした「確定」の文言はない。
税理士事務提要も,処分の効力は通知書が本人に送達された日から発生し,業務の停止の場合はその日が停止期間の起算日になるとしている。
この点は,「弁護士と税理士の賠償責任の徹底比較」の第8でも取り上げている。
2 処分を受けた税理士への説明事項
税理士事務提要は,処分通知書を原則として直接交付し,業務の停止又は禁止の場合には,次の事項を説明するとしている(第6章第1節4)。
①停止期間が満了するまで(禁止の場合は再登録まで)税理士業務を行ってはならず,行った場合は懲戒処分又は刑罰の対象となること
②その間はe-Taxによる代理送信ができないこと
③税理士証票等を所属税理士会を経由して日本税理士会連合会に返還すること
④税理士事務所の看板を取り外すか完全に覆うこと
⑤関与先との委任契約等を直ちに解約又は中断し,関与先が新たな税理士と契約するときは円滑な引継ぎに協力すること
業務の停止の期間が経過したときは,署の担当者が出署を求めるなどして,税理士証票の再交付を受ける必要があること等を指導するとされている(第6章第2節2)。
3 登録抹消の制限,除斥期間及び税理士であった者に対する決定
税理士法47条の2は,日本税理士会連合会は,税理士が懲戒の手続に付された場合には,その手続が結了するまで,業務の廃止による登録の抹消をすることができないと定める。
同法47条の3は,「懲戒の事由があつたときから十年を経過したときは、懲戒の手続を開始することができない。」と定める。
同法48条1項は,財務大臣は,税理士であった者につき税理士であった期間内に45条又は46条に規定する行為又は事実があると認めたときは,「懲戒処分を受けるべきであつたことについて決定をすることができる」と定める。
国税庁長官は,この決定のため必要があるときは,税理士であった者に報告を求め,質問し,帳簿書類を検査させることができる(同法55条2項)。
業務の禁止を受けるべきであったとの決定を受けた者は,決定から3年間,税理士となる資格を有しない(同法4条7号)。
東京国税局の職員向け広報誌は,これらを令和4年度税制改正による「懲戒逃れ」への対応として紹介し,令和5年4月1日以後の違反行為に適用されると説明している。
第6 不服申立てと取消訴訟
平成25年時点の規程の通知書様式は,聴聞を経ないでされた処分について,処分があったことを知った日の翌日から60日以内に財務大臣に異議申立てができるとしていた。
現行の行政不服審査法では,処分庁が主任の大臣である場合の審査請求は当該処分庁にするものとされ(4条1号),審査請求期間は,原則として処分があったことを知った日の翌日から起算して3月である(18条1項)。
税理士法47条4項後段は,懲戒処分に係る審査請求について裁決をしようとするときも,国税審議会に諮り,その議決に基づいてしなければならないと定める。
取消訴訟は,国を被告として提起する。
処分の効力を争う間も業務の停止の期間は進行するので,業務の停止を受けた税理士が関与先の業務を継続する必要がある場合には,執行停止の申立ての要否を早期に検討する必要がある。
第7 実務上の着眼点
1 税理士の不正を疑う依頼者から相談を受けた場合
税理士法47条3項による通知は誰でもすることができるが,処分の結果を求める権利を与えるものではない。
通知をするときは,税理士の氏名と,45条又は46条に当たる行為又は事実を,申告書の控え,委任契約書,報酬の支払記録等の客観的な資料に基づいて特定する。
依頼者の損害の回復は,懲戒とは別に,損害賠償請求として検討する。
賠償責任の考え方は,「弁護士と税理士の賠償責任の徹底比較」で扱っている。
2 懲戒の手続に付された税理士を代理する場合
弁明の期間は通知書の受領から1月であり,延長も1月に限られる。
聴聞が予定される場合は,終結までの間に原因事実を証する資料の閲覧を求め,証拠とされた質問てん末書の内容を確かめることが出発点になる。
量定は,財務省告示の判断要素に沿って判断される。
不正所得金額等の額の算定に争いがあるか,行為の前後の態度(是正への協力,関与先への説明)をどう示せるか,複数の類型が合計されていないかを点検する。
3 通知弁護士として税理士業務を行う弁護士
通知弁護士は,税理士業務を行う範囲で税理士法の義務規定と懲戒規定の適用を受ける。
業務の禁止の処分は受けないが,戒告と業務の停止の対象にはなり得るので,税理士と同じく,帳簿作成,使用人の監督,名義貸しの禁止等の規律に注意する必要がある。
通知の手続は,「二回試験合格により得られる法令上の資格等」で取り上げている。
第8 別のセッションで掘り下げる点
本記事では,次の点を検討していない。
①平成25年7月より後に改正された税理士懲戒処分等事務取扱規程及び税理士法聴聞事務取扱規程の現行の文言(特に業務停止の年限と不服申立ての記載)
②現行の税理士事務提要(国税庁総務課)の構成と,平成14年版からの変更点
③国税審議会(税理士分科会)における懲戒処分の審議の実際と,答申が処分案と異なった例の有無
④懲戒処分の取消訴訟又は審査請求で処分が取り消された例と,執行停止が認められた例の有無
⑤最高裁判所第二小法廷昭和50年6月27日判決の後に,懲戒処分の効力の発生時期に関する規定がどの改正で現在の形になったか
第9 出典・関連記事
1 検討した資料
①税理士懲戒処分等事務取扱規程(平成25年7月時点)
②税理士法聴聞事務取扱規程(平成25年7月現在)
③税理士法事務取扱規程(平成25年7月時点)
④税理士事務提要(国税庁総務課)1/2及び2/2
2 法令及び告示
税理士法(e-Gov法令検索)
行政手続法(e-Gov法令検索)
行政不服審査法(e-Gov法令検索)
本記事で引用した上記3法の条文は,e-Gov法令検索がメンテナンス中であったため,令和8年10月2日に判例秘書の現行法令アーカイブ(令和8年8月1日現在)で確認した。
国税庁「税理士等・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方(令和5年4月1日以後にした不正行為に係る懲戒処分等に適用)」
国税庁「税理士等に対する懲戒処分等」
3 裁判例
最高裁判所第二小法廷昭和50年6月27日判決(昭和45年(行ツ)第93号,民集29巻6号867頁,判例秘書で全文確認)
大阪地方裁判所令和3年5月27日判決(令和元年(行ウ)第174号,金融・商事判例1625号38頁,判例秘書で全文確認,裁判所HP未掲載)
東京地方裁判所平成26年9月30日判決(平成25年(行ウ)第561号,判例秘書で判示事項及び判決要旨を確認,裁判所HP未掲載)
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