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相続人がいない遺産を国に引き継ぐ手続―最高裁家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(昭和41年),引継ぎの時期と財務局への引継ぎ(AI作成)

第1 この記事の対象と資料

1 この記事の対象

本記事は,相続人のあることが明らかでない相続財産のうち,清算と特別縁故者への分与を経てなお残った財産を国に引き継ぐ手続について,昭和41年3月24日付けの最高裁判所家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(家二第48号)を手掛かりに整理するものである。
通知の内容を紹介した上で,当時の条文と現在の条文の違い,国庫に帰属する時期についての最高裁判例,及び現在の引継ぎの手続を説明する。
令和8年10月1日時点の裁判所ウェブサイトの判例情報,財務省の通達,家庭裁判所の公開資料等を確認して作成した。
民法の改正の内容は,衆議院ウェブサイトに掲載された改正法の法律本文で確認した。
作成時点ではe-Gov法令検索がメンテナンス中で利用できなかったため,現行の条文は,e-Gov法令検索で改めて確認する必要がある。

相続財産清算人の選任から国庫への引継ぎまでの手続の全体は「相続人がいない場合の相続財産清算人」で,不動産が国庫に帰属した後の管理と処分は「国庫帰属した不動産のその後」で,それぞれ整理している。

2 資料の名称と入手の経緯

本記事で扱う資料は,最高裁判所家庭局長が家庭裁判所長に宛てた昭和41年3月24日家二第48号の通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」であり,大蔵省国有財産局長の昭和41年3月8日付け要望書(蔵国有第565号)が別紙として付いている。
この文書は,平成31年1月10日付けの司法行政文書の開示の申出に対し,最高裁判所が平成31年2月8日付けの司法行政文書開示通知書(最高裁秘書第532号)で開示したものである(開示文書のPDF)。

開示通知書によれば,開示された文書は片面で1枚であり,相続人が存在しない物件の所在,権利関係等の個人識別情報が記載された部分は,行政機関情報公開法5条1号に定める不開示情報に相当するとして開示されていない。
そのため,別紙の「物件の所在、区分、数量」と「経緯」の欄は全部が黒塗りであり,個別の事案の内容は分からない。
「系図」の項目も見出しだけで,内容は付いていない。

第2 通知の内容

1 家庭局長通知の本文

家庭局長通知の本文は,大蔵省国有財産局長から別紙のとおり要望があったとした上で,次のことを家庭裁判所長に求めている。
① 家庭裁判所が民法952条の相続財産管理人を選任したときは,管理人に対し,その職務内容をはじめ,清算手続,家庭裁判所の監督権限,特別縁故者への相続財産処分制度及び国庫帰属財産の引継手続などを説明すること
② 国庫に帰属した財産を速やかに所轄財務局長等に引き継がせるよう,周知徹底を図ること

通知は,選任の際に管理人へ説明する事項として,清算の手続だけでなく,特別縁故者への分与の制度と,国庫に帰属する財産の引継ぎの手続までを挙げている。
特別縁故者への分与の制度は,昭和37年法律第40号による民法の改正で設けられたものであり(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決の判決理由),この通知は,その改正から約4年後に出されたものである。
本記事では,新しい制度の運用が始まって間もない時期に,選任の段階で手続の終わりまでを管理人に説明させることで,引継ぎの遅れを防ごうとしたものと考えられる。

2 別紙:大蔵省国有財産局長の要望

別紙の要望書(蔵国有第565号)は,最高裁判所事務総局家庭局長に宛てたもので,「相続人不存在財産について」という表題である。
要望書は,相続人不存在財産(不動産)が国庫に帰属する場合には,相続財産管理人から当該財産の所在地を管轄する財務局長に引き継ぐことになっているとした上で,所要の手続をとって国庫に帰属させるべき財産を,管轄の財務局長に引き継がないで放置するおそれがあることを指摘している。
そして,相続人不存在財産が生じた場合には,遅滞なく所要の手続をとり,国庫に帰属することとなったものは,速やかに当該財産の所在地を管轄する財務局長等に引き継ぐ手続をとるよう,周知徹底を求めている。

大蔵省国有財産局は,昭和39年の大蔵省設置法の改正(昭和39年法律第105号)で管財局を改めて置かれた局であり,昭和43年の行政機構の簡素化等のための総理府設置法等の一部を改正する法律(昭和43年法律第99号)13条により大蔵省設置法5条1項から削られ,国有財産の管理及び処分に関する事務は理財局が所掌することになった。
現在,国有財産の事務を所管するのは財務省理財局である。

3 要望の契機となった事案

要望書は,その契機として,相続財産管理人が民法957条の公告及び民法958条の公告の請求を行わないで,南九州財務局長に売払申請書を提出してきた事案があったことを挙げている。
南九州財務局は熊本に置かれていた財務局であり,昭和56年4月1日に廃止され,同日に九州財務局が置かれた(財務省大臣官房地方課『財務省財務局七十年史』(令和元年6月)の歴代財務局幹部職員名簿)。
当時の民法は,相続財産管理人の選任の公告の後,管理人による相続債権者及び受遺者に対する請求申出の公告(957条)と,管理人又は検察官の請求により家庭裁判所が行う相続人捜索の公告(958条)を順に行う仕組みであった(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決の判決理由は,昭和37年改正前の民法が,951条から958条において,相続財産法人の成立,相続財産管理人の選任,相続債権者及び受遺者に対する債権申出の公告,相続人捜索の公告の手続を規定していたと述べている。)。
相続人捜索の公告の期間が満了しなければ相続人の不存在は確定せず,特別縁故者への分与の申立期間も始まらないから,その公告を経ないまま国に財産の買受けを申し出ることは,国庫に帰属させるまでの手続を飛ばすことになる。

要望書の「その他参考事項」には,次の3点が記載されている。
① 民法957条の規定に基づく公告は行っている。
② 本物件は,劣等で固定資産課税価格が免税点の2万円に満たないため,課税対象になっていない(地方税法351条)。
③ 系図(内容は付いていない。)

本文が「民法第957条の公告及び民法第958条の公告の請求を行なわないで」と述べる一方で,①は957条の公告は行っているとしているから,文書の中で記載が一致していない。
黒塗りの経緯の欄を見ることができないため,どちらが正しいかは資料からは分からない。
本記事では,少なくとも相続人捜索の公告(当時の958条)の請求がされていなかった事案と理解しておく。

4 資料から分かることと分からないこと

資料から分かるのは,昭和41年当時,相続人のいない不動産について,管理人が国庫帰属の手続を終えないまま放置するおそれを大蔵省が問題視し,最高裁判所家庭局を通じて家庭裁判所に周知を求めたことである。
また,課税されないほど価値の低い土地でも,相続人がいなければ国庫に帰属させる手続の対象になることが前提とされている。

これに対し,この通知が現在も効力を有するのか,その後に改正又は廃止されたのかは,開示文書からは分からない。
通知が前提とする条文(相続財産管理人,957条・958条の公告)は,後記第3のとおり令和5年4月1日に改められている。
財務局側の引継ぎの手続も,現在は後記第5の1の財務省の通達で定められている。

第3 当時の条文と現在の条文

1 相続財産管理人から相続財産清算人へ

民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号。令和5年4月1日施行)により,民法952条の「相続財産の管理人」は「相続財産の清算人」に改められた。
同じ改正で,相続財産の保存のための相続財産管理人の制度(民法897条の2)が別に設けられたため,現在の「相続財産管理人」は,相続人不存在の清算をする機関ではない。
昭和41年の通知が「民法第九百五十二条の相続財産管理人」と呼ぶものは,現在の相続財産清算人に当たる。

2 公告の手続の変化

令和3年法律第24号による改正は,旧958条(相続人捜索の公告)を削り,952条2項で,家庭裁判所が清算人の選任の公告と併せて相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告し,その期間は6か月を下ることができないものとした。
請求申出の公告(957条1項)は,清算人が2か月以上の期間を定めて行い,その期間は,952条2項により家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならないとされた。
また,特別縁故者への分与の規定(旧958条の3)は958条の2に繰り上がり,分与の請求は952条2項の期間の満了後3か月以内にしなければならない。

したがって,昭和41年の事案のように,選任された管理人が相続人捜索の公告の請求をしないまま手続を進めるという形の手続の飛ばし方は,現在はそのままの形では生じない。
清算人を選任したときは,家庭裁判所が,選任の旨と相続人捜索の旨を併せて公告することになったからである。
もっとも,請求申出の公告は清算人自身が行うものであり,これを怠れば,相続債権者及び受遺者への弁済の手順が崩れる点は現在も変わらない。

事項昭和41年当時現在(令和5年4月1日以降)
選任される者相続財産管理人(952条)相続財産清算人(952条)
相続人捜索の公告管理人又は検察官の請求により家庭裁判所が行う(旧958条)選任の公告と併せて家庭裁判所が行う(952条2項・6か月以上)
請求申出の公告管理人が行う(957条)清算人が2か月以上の期間を定めて行う(957条1項)
特別縁故者への分与旧958条の3958条の2(期間満了後3か月以内に請求)
国庫への帰属959条959条

第4 国庫に帰属する時期―最高裁昭和50年10月24日判決

1 判決の内容

特別縁故者に分与されなかった相続財産がいつ国庫に帰属するかについて,最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決(昭和49年(オ)第527号・民集29巻9号1483頁)は,その時期は,特別縁故者から分与の申立てがないまま申立期間が経過した時,又は分与の申立てを却下若しくは一部分与とする審判が確定した時ではなく,その後に相続財産管理人が残余相続財産を国庫に引き継いだ時であるとした。
したがって,残余相続財産の全部の引継ぎが完了するまでは,相続財産法人は消滅せず,相続財産管理人の代理権も,引継未了の相続財産についてはなお存続するとしている。

同判決は,民法959条について,法人の清算の場合の規定と同じく,残余相続財産の最終帰属者を国庫とすること,すなわち残余相続財産の最終帰属主体に関する規定であって,その帰属の時期を定めたものではないと述べている。

2 事案

この事案では,残余相続財産である建物の所有権とその敷地の賃借権が,相続財産管理人により昭和46年1月1日に国庫に引き継がれた。
土地の賃貸人は,それより前の昭和45年6月15日に到達した書面で,管理人に対し,延滞賃料の催告と,期限までに支払われないことを条件とする賃貸借契約の解除の意思表示をしていた。
原審は,特別縁故者に対する財産分与の審判が確定した時に国庫に帰属し,管理人の代理権も消滅したとして,管理人には意思表示を受領する権限がなかったと判断したが,最高裁は,引継ぎの時までは管理人が受領権限を有していたとして,原判決を破棄し,事件を原審に差し戻した。

3 実務上の意味

この判決によれば,特別縁故者への分与の手続が終わっても,清算人が国に引き継ぐまでは相続財産法人が存続し,清算人がその代理人であり続ける。
引継ぎを放置すると,その間の財産の管理,第三者からの意思表示の受領及び訴訟への対応は,引き続き清算人の責任で行わなければならない。
昭和41年の要望書が「引き継がないで放置するおそれ」を問題にしたのは,この判決より前のことであるが,引継ぎまで手続が終わらないという構造は,現在の実務にもそのまま当てはまる。

第5 現在の引継ぎの手続

1 不動産

昭和41年の要望書は,不動産を「当該財産の所在地を管轄する財務局長」に引き継ぐ扱いを前提にしていた。
現在,財務局側の事務は,財務省理財局長通達「国庫に帰属する不動産等の取扱いについて」(令和2年12月14日財理第3992号。令和5年12月22日財理第3436号まで改正)が定めている。
同通達は,相続財産清算人から残余不動産の引継ぎについて相談があった場合,財務局長等が,境界確定,測量,動産の撤去等の措置を依頼するとともに,財産目録,公図,実測図,登記事項証明書,清算人の資格証明書等の資料の提出を求めるものとしている(第3の1)。

要求資料の中には,民法952条2項(相続人捜索の公告に係る手続)及び957条の手続の完了を証する書類と,民法958条の2の審判の確定又は申立てがなかったことの裁判所の証明書が含まれている(第3の1の⑪・⑫)。
昭和41年の事案では,相続人捜索の公告の請求をしないまま財務局に売払いの申請がされたが,現在の通達の下では,公告と特別縁故者の手続が終わったことを書面で示さなければ,引継ぎの手続に入れない仕組みになっている。

現地調査と補完・要請事項の調整が終わると,清算人から国庫帰属不動産引継書(第4号様式)と添付資料を受領し,清算人と財務局長等との間で引継引受財産受渡証書(第5号様式)を取り交わす(第3の4)。
財務局長等は,受渡しを了したときは速やかに所有権移転登記を嘱託し,引継引受財産受渡証書に記載された受渡日をもって国有財産台帳に登載する(第3の5・6)。

同通達は,担保権が設定されたままの不動産は担保権の抹消登記がされるまで清算が終了していないから残余不動産に該当しないこと,相続財産法人を当事者とする訴訟で不動産の帰属が争われている場合は訴訟で残余不動産であることが確定した後に引継ぎの手続を行うことにも留意するよう求めている(第3の7)。
残余不動産に残された動産は清算人に撤去を依頼し,費用の支出が困難である等の事情で撤去できなかった動産は財務局等で廃棄するものとして扱うこと,民法897条1項に規定する系譜,祭具及び墳墓の所有権は残余財産とならないことも定めている(第3の3の注1・注2)。
また,財務局長等は,清算人から早い段階で相談を受けられるように,家庭裁判所等との協力体制の構築に努めるものとしている(第6)。
昭和41年の通知が家庭裁判所を通じて管理人への周知を求めたのと同じ方向の定めである。
国庫に帰属した後の管理と処分(賃貸借の承継,農地,売払い等)は,「国庫帰属した不動産のその後」で整理している。

2 金銭

金銭は財務局ではなく,家庭裁判所の手続を通じて国に納める。
熊本家庭裁判所後見センターが清算人に交付する説明文書「相続財産の清算人の職務について」は,預金は解約して現金化した後,決済用口座を新設して預金するか,自己宛小切手にするかのいずれかの処理をして引継ぎの準備をし,準備ができたらその旨を家庭裁判所に報告すると,家庭裁判所から納入告知書が送付されるので,これに基づいて日本銀行(代理店)に納入して国庫に引き継ぐと案内している。
同じ文書は,不動産については国庫帰属不動産引継書により所轄の財務局長に引き渡し,登記手続は国が行うとして,所轄の財務局に引継ぎについて相談するよう求めている。

清算人の選任の時に,職務内容,報告の時期,報酬の申立ての時期及び国庫への引継ぎの方法までを書面で説明するこの種の文書は,昭和41年の通知が家庭裁判所に求めた,選任の際に職務内容から国庫帰属財産の引継手続までを管理人に説明することの,現在の形と見ることができる。

納入告知書が家庭裁判所から送られることと整合して,国の財務書類では,相続人がいないために国庫に帰属した金銭は裁判所主管の歳入に現れる。
裁判所の「令和3年度 裁判所 省庁別財務書類」の附属明細書(主管の収納済歳入額の明細)は,款「諸収入」の項「雑入」(相手先は事件当事者等)を約648億円とし,「相続人不存在のため国庫帰属となった相続財産の収入金が主なものである」と注記している。
令和6年度の裁判所主管の歳入のうち(目)雑収の収納済歳入額は129,234,956,080円であり,財務省の決算参照も,その増減理由として相続人がいないために国庫に帰属した相続財産を挙げている(「裁判所の令和6年度予算-概算要求,当初予算,補正予算及び決算の突合」)。
もっとも,いずれも「主なもの」「等のため」という記載であり,全額が相続財産であるとはいえない。

3 共有持分

被相続人が不動産の共有持分を有していた場合について,最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決(昭和63年(行ツ)第40号・民集43巻10号1220頁)は,共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは,その持分は特別縁故者に対する財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者に帰属するとした。
同判決は,民法255条を,国と他の共有者との間に共有関係が生じる不便を避けるために設けられた,相続財産の国庫帰属に対する例外と位置付けている。
したがって,共有持分は,特別縁故者への分与がされない限り,国庫ではなく他の共有者に帰属し,財務局への引継ぎの対象にはならない。
ただし,区分所有建物の敷地利用権のうち専有部分と分離して処分することができないものには,民法255条は適用されない(建物の区分所有等に関する法律24条)。

4 引き継げない財産が残る場合

家庭裁判所は,管理すべき財産がなくなったときのほか,財産の管理を継続することが相当でなくなったときにも,清算人の選任の処分を取り消さなければならない(家事事件手続法208条,125条7項)。
換価も国への引継ぎもできない財産が残る場合には,この規定により,財産が処分されないまま手続が終わることがある。

第6 清算人と申立人が確認すべき事項

1 清算人が引継ぎの前に確認すること

以上を踏まえると,相続財産清算人が国への引継ぎに向けて確認すべき事項は,次のとおりである。
① 相続人捜索の公告(民法952条2項)の期間と,請求申出の公告(同法957条1項)の期間がいずれも満了していること
② 特別縁故者への分与の申立期間(952条2項の期間の満了後3か月)が経過し,申立てがあった場合はその審判が確定していること(財務局からは,裁判所の証明書の提出を求められる。)
③ 担保権の抹消登記が済んでいること,帰属を争う訴訟が係属していないこと
④ 共有持分は他の共有者に帰属し,国への引継ぎの対象にならないこと
⑤ 不動産の引継ぎが見込まれるときは,早い段階で所轄の財務局に相談し,境界確定,測量,動産の撤去等の依頼事項を確かめること
⑥ 清算人の報酬付与の申立ては,国庫に引き継ぐ前にすること(熊本家庭裁判所の前記文書も,国庫帰属型の事案では国庫に引き継ぐ前に申し立てる必要があるとしている。)
⑦ 引継ぎが完了するまでは相続財産法人が存続し,清算人がその代理人として賃料の催告や契約解除の意思表示を受ける立場にあること

2 申立人と関係者が知っておくこと

清算人の選任を申し立てる債権者,特別縁故者及び近隣の土地の所有者等にとっても,相続財産が国に引き継がれる時期は,清算人に連絡をすべき期間の終わりを意味する。
最高裁昭和50年判決の事案のように,賃料の催告や賃貸借の解除の意思表示は,引継ぎまでは清算人に対してすることになる。
国庫に帰属した後は,不動産であれば所轄の財務局が相手方になる。

昭和41年の要望書が「劣等で固定資産課税価格が免税点の2万円に満たない」土地を問題にしていたように,価値が低く課税もされない土地であっても,相続人がいなければ,清算と国への引継ぎの対象になる。
価値が低いことは,清算の手続を省いてよい理由にはならない。
なお,要望書は免税点を2万円としているが,地方税法351条の土地の免税点は,地方税法の一部を改正する法律(昭和41年法律第40号。昭和41年4月1日施行)により8万円に改められた。
現在の土地の免税点は30万円である(総務省「固定資産税の概要」)。
もっとも,換価も引継ぎもできない財産が残る場合には,前記第5の4のとおり,選任の処分の取消しによって手続が終わることがある。

第7 出典

1 提供資料

① 最高裁判所家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(昭和41年3月24日家二第48号)及び別紙・大蔵省国有財産局長「相続人不存在財産について」(昭和41年3月8日蔵国有第565号)並びに司法行政文書開示通知書(平成31年2月8日最高裁秘書第532号)

2 法令

① e-Gov法令検索・民法(255条,897条の2,951条~959条(958条の2を含む。))
② e-Gov法令検索・家事事件手続法(125条,208条)
③ e-Gov法令検索・建物の区分所有等に関する法律(24条)
④ 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)(衆議院ウェブサイトの法律本文。民法952条,957条,958条,958条の2及び958条の3の改正規定)
⑤ 大蔵省設置法の一部を改正する法律(昭和39年法律第105号)(衆議院ウェブサイトの法律本文)
⑥ 行政機構の簡素化等のための総理府設置法等の一部を改正する法律(昭和43年法律第99号)(衆議院ウェブサイトの法律本文。13条)
⑦ 地方税法の一部を改正する法律(昭和41年法律第40号)(衆議院ウェブサイトの法律本文。地方税法351条の改正規定)

3 裁判例

① 最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決・昭和49年(オ)第527号・民集29巻9号1483頁
② 最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決・昭和63年(行ツ)第40号・民集43巻10号1220頁

4 公的資料

① 財務省理財局長通達「国庫に帰属する不動産等の取扱いについて」(令和2年12月14日財理第3992号)
② 熊本家庭裁判所後見センター財産管理係「相続財産の清算人の職務について」
③ 裁判所「令和3年度 裁判所 省庁別財務書類」(附属明細書・主管の収納済歳入額の明細)
④ 裁判所の令和6年度予算-概算要求,当初予算,補正予算及び決算の突合(本ブログ。裁判所主管の歳入の(目)雑収と財務省の決算参照の増減理由)
⑤ 財務省大臣官房地方課『財務省財務局七十年史』(令和元年6月)(第5章資料編・歴代財務局幹部職員名簿)
⑥ 総務省「固定資産税の概要」(免税点)

第8 別のセッションで掘り下げるテーマと未検討点

本記事は,開示された昭和41年の通知を中心に,国庫への引継ぎの手続を整理したものである。
次の点は本記事では検討しておらず,別のセッションで掘り下げる余地がある。
① 昭和41年3月24日家二第48号の通知が現在も効力を有するか,その後に改正又は廃止されたか(最高裁判所への開示の申出等で確かめる必要がある。)
② 財理第3992号より前に財務局の引受事務を定めていた文書と,昭和41年当時の大蔵省の取扱い(財理第3992号には前身の通達を廃止する旨の定めがなく,熊本家庭裁判所の文書は同じ日付けの理財局国有財産業務課長事務連絡を参照しているため,両者の関係も確かめる必要がある。)
③ 動産,有価証券,債権その他の不動産及び金銭以外の財産を国に引き継ぐ方法
④ 各家庭裁判所の清算人向けの説明文書のうち,金銭の国庫への納付の方法の違い(本記事では熊本家庭裁判所の文書だけを確認した。)
⑤ 財務局が引き受けた相続人不存在の不動産の件数と,引継ぎの依頼に応じられないとされた事案の扱い