目次
第1 日本国への賠償,飛行差止め,米国への提訴を分ける第2 普天間の「爆音」と「騒音」の系列を区別する第3 賠償単価と賠償期間の比較1 単価は判決・審級ごとに確認する2 普天間令和7年控訴審は期間を延長した3 日割りと死亡日の処理にも違いがある第4 共通被害と個別の疾病・健康不安1 生活・睡眠妨害と事故への不安2 「健康被害を認めた・否定した」の二択では読めない3 低周波音・オスプレイの独立評価第5 古いコンターをどのように使うか第6 アンケートと居住実態の立証第7 住宅防音工事による減額第8 騒音を知って転居した場合の「危険への接近」1 普天間平成20年判決の個別事情2 嘉手納令和元年判決の例外的減額第9 外国籍の原告と相互保証第10 受任時に揃える資料と計算事項第11 出典と関連記事
嘉手納・普天間基地の騒音訴訟では,国に対する飛行差止めと損害賠償は別の請求である。賠償額を読む際にも,請求した単価と裁判所が認めた単価,賠償期間,防音工事による減額を分ける必要がある。
本記事は,平成20年から令和8年までの六つの個別判決を中心に,住民の共通被害,居住実態,騒音資料及び減額の判断を比較する。示す金額と結論は各判決の判断時点のものであり,すべての訴訟系列や最新の上訴状況を網羅するものではない。
第1 日本国への賠償,飛行差止め,米国への提訴を分ける
日本国に対する米軍基地騒音の賠償では,米軍が占有・所有・管理する工作物等の設置又は管理の瑕疵に関する民事特別法2条が問題となる。事故を起こした米兵個人への請求や,公務外事故についての米側補償と,同一の手続ではない。
求める救済検討の中心個別判決を読む際の注意日本国への損害賠償民事特別法,被害,居住期間,因果関係等認容単価と請求単価を区別する。日本国への米軍機飛行差止め国が米軍機の運航を規制できる法的立場にあるか賠償責任の認定だけで差止めが認められるわけではない。米国への直接提訴外国国家の裁判権免除等日本国への請求とは被告も判断の根拠も異なる。
嘉手納の令和8年1月23日判決は,一定の騒音被害への賠償を認める一方,二人の原告の差止請求を棄却した。国が米軍の運航を制限できる法的立場にないという判断であり,騒音被害が存在しないという判断ではない。
また,最高裁平成14年4月12日判決は,横田基地について米国を被告とした事件である。日米地位協定18条5項自体を免除の根拠とはせず,軍用機の活動の主権的性質と慣習国際法を理由に,訴えを却下すべきものとした原審の結論を是認した。嘉手納・普天間の対国訴訟の上告審として引用してはならない。
最高裁判例の枠組みは,米軍基地騒音訴訟の判例,米国への提訴は,外国国家を被告とする民事訴訟で整理している。
第2 普天間の「爆音」と「騒音」の系列を区別する
普天間では「爆音訴訟」と「騒音訴訟」の系列がある。「第2次」だけでは事件を特定できない。以下の比較では,裁判所,裁判日及び事件番号を併記する。
比較対象裁判所・裁判日事件番号普天間第1次爆音・一審那覇地裁沖縄支部・平成20年6月26日平成14年(ワ)513号,平成15年(ワ)171号普天間第2次爆音・控訴審福岡高裁那覇支部・平成31年4月16日平成29年(ネ)14号普天間第2次騒音・一審那覇地裁沖縄支部・令和4年3月10日平成30年(ワ)201号,令和2年(ワ)33号同・控訴審福岡高裁那覇支部・令和7年2月21日令和4年(ネ)100号嘉手納第3次対国・控訴審福岡高裁那覇支部・令和元年9月11日平成29年(ネ)72号嘉手納・令和8年一審那覇地裁沖縄支部・令和8年1月23日令和4年(ワ)15号
訴訟次数の呼び方は資料によって異なることもある。別の原告集団の事件,対国事件と対米事件,引用された先例を,当該事件の審級関係と取り違えないことが必要である。
普天間令和4年判決が紹介する第1次騒音訴訟の控訴審判決日には誤記があり,令和7年控訴審判決5頁⑶が「平成28年12月11日」を「平成28年12月1日」に訂正している。引用される原判決を読むときは,控訴審による訂正・補充も反映する。
第3 賠償単価と賠償期間の比較
1 単価は判決・審級ごとに確認する
以下は,防音工事等による個別減額前の慰謝料の単価である。Wは各事件で用いられたWECPNLによる区域を示す。単発の騒音のdB値と同じ指標ではない。表中のW75は75以上80未満,W80は80以上85未満という区分であり,最上位区分の扱いは各事件による。
判決W75区域W80区域その他の区域・注意普天間平成20年一審日100円日200円後続控訴審の単価と混同しない。普天間平成31年控訴審月4500円月9000円原審の月7000円・1万3000円から変更。普天間令和4年一審・令和7年控訴審月4500円月9000円月途中は日150円・300円。控訴審も単価を維持。嘉手納令和元年控訴審月4500円月9000円W85月1万3500円,W90月1万8000円,W95以上月2万2500円。嘉手納令和8年一審月4500円月9000円W85月1万3500円,W90月1万8000円。日割りは150円,300円,450円,600円。
嘉手納令和元年控訴審が紹介する平成29年一審の単価は,W75から順に月7000円,1万3000円,1万9000円,2万5000円,W95以上3万5000円である。控訴審はこれを引き下げた。一審の報道金額を,その後も維持された単価と扱うことはできない。
普天間令和4年一審では,住民が求めた月額はW75区域9000円,W80区域1万5000円である。嘉手納令和8年一審では,請求単価は認容単価の1.2倍だった。請求欄に記載された金額を,裁判所の認容額として引用しない。
2 普天間令和7年控訴審は期間を延長した
普天間令和7年控訴審は,国の控訴を棄却し,住民の控訴に基づいて原判決を変更した。賠償期間の終期は,原審の口頭弁論終結日である令和3年9月30日から,控訴審の口頭弁論終結日である令和6年9月27日まで延びた。単価は月4500円・9000円のままである。賠償総額の増加と単価の引上げは別である。
既往訴訟の原告については,前の訴訟との重複を避けるため,前の控訴審口頭弁論終結日の翌日を始期とした。第1次騒音訴訟の原告は平成28年7月27日,第2次爆音訴訟の原告は平成30年9月28日が始期となる。これらは判決日ではない。
嘉手納令和元年控訴審は平成31年1月31日まで,令和8年一審は平成31年2月1日から令和7年7月4日までを基本とした。原告ごとの居住期間,既往請求,死亡等を照合して初めて計算できる。
3 日割りと死亡日の処理にも違いがある
普天間平成20年一審は,転出の場合に転出前日,死亡の場合にも死亡前日までとした。他方,令和4年一審は,死亡日を含めて計算している。新しい事件に過去の計算式をそのまま流用しない。
月額方式では,一か月全部の居住について月額を用い,月途中の期間について日額を用いる。日額を30日・31日で単純に掛けた値が,常に月額と一致する制度ではない。計算表では,区域,転入・転出日,死亡日,月全体か端数期間かを別々の欄にする。
第4 共通被害と個別の疾病・健康不安
1 生活・睡眠妨害と事故への不安
普天間令和7年控訴審は,生活妨害,睡眠妨害,イライラ感・不快感及び航空機事故への不安感を共通被害として認めた。精神的影響に個人差があるという主張だけで,客観的な共通被害の認定を否定しなかった。
(続きを読む...)嘉手納・普天間基地の騒音訴訟―判決の比較と損害賠償の立証(AI作成)