第1 結論――参加の強制と業務との結び付きで分かれる
1 飲み会であることだけでは決まらない
(1) 判断の視点
職場の飲み会,歓送迎会,忘年会,接待又は会社の行事が「業務」に当たるかは,飲食を伴う会であるという外形だけでは決まらない。
参加が命じられ又は事実上強制されていたか,会の目的が事業の運営とどの程度結び付いていたか,費用や出勤扱いがどうなっていたかを,問題となる場面ごとに確認する必要がある。
(2) 三つの場面
問題となる場面は,主に次の三つである。
①その時間が労働基準法上の労働時間として賃金の対象になるか
②会の最中や帰り道の事故が労災保険の業務災害又は通勤災害になるか
③会の席での飲酒の強要や嫌がらせについて,パワーハラスメント又はセクシュアルハラスメントとして会社が措置義務を負い,又は損害賠償責任を負うか
三つの場面では,法律上の要件も判断の枠組みも異なる。
たとえば,会の費用を会社が負担していても,それだけで参加時間が労働時間になるわけではない。
他方,参加が任意の会であっても,その席での言動は,実質上職務の延長と評価されればハラスメントの「職場」での言動になり得る。
2 本記事の対象
(1) 基準日と対象
本記事は,令和8年9月26日現在の法令,厚生労働省の指針・通達及び裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例を基に,民間企業の労働者を中心に整理するものである。
公務員の公務災害は,地方公務員災害補償法等の別の制度によるため,裁判例を紹介する範囲でのみ触れる。
(2) 条番号の変更
パワーハラスメントの防止措置義務を定める労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」という。)の条番号は,令和8年10月1日から変わる。
本記事では,現行の30条の2を基本とし,同日以後の条番号を併記する。
第2 労働時間・残業代――参加が義務付けられているか
1 労働時間の判断基準
(1) 最高裁の定義
労働基準法32条は,休憩時間を除き1週間について40時間,1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めている。
ここでいう労働時間について,最高裁判所第一小法廷平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件)は,「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうとした。
同判決は,労働時間に当たるかどうかは,指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかにより客観的に定まり,労働契約や就業規則等の定めによって決まるものではないとしている。
同判決は,業務の準備行為等を使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,所定労働時間外に行うものとされていても,特段の事情のない限り指揮命令下に置かれたものと評価できるとした。
もっとも,同判決の事案は作業服の更衣や保護具の着脱等であり,懇親会を扱ったものではない。
(2) 厚生労働省のガイドライン
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)も,労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと」とし,使用者の明示又は黙示の指示により業務に従事する時間は労働時間に当たるとしている。
労働時間として扱わなければならない例として,「参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講」等の時間を挙げている。
同ガイドラインは懇親会や宴会には触れていない。
ただし,参加が義務付けられているかという判断の枠組みは,懇親会等への参加時間を考える際にも同じように当てはまると考えられる。
2 懇親会の時間が労働時間とされた例と否定された例
(1) 原則として含まれないとした一般論
東京地裁平成23年11月10日判決(平成21年(行ウ)第466号)は,製薬会社の臨床開発責任者の突然死について,過重な業務による労災かどうかを判断する前提として,懇親会等の時間が労働時間に入るかを検討した。
同判決は,懇親会等は業務終了後の会食ないしは慰労の場にすぎず,費用負担について使用者の承認があっても,出席は基本的に使用者の指揮命令下における行為とはいい難いとした。
そのうえで,懇親会等が予め業務の遂行上必要不可欠なものと客観的に認められ,かつ,出席・参加が事実上強制されているような場合を除き,懇親会等の時間は労働時間に含まれないとした。
同判決は,会社の経費承認についても,「当該費用を会社の経費扱いにすることに関するもの」であり,承認があったからといって直ちに指揮命令下で行われたことにはならないと述べている。
会社が費用を出したことだけでは,参加時間を労働時間とする理由にならないということである。
(2) 業務に組み込まれた懇親会は含まれた
もっとも,同判決は,会議の日程にあらかじめ組み込まれ,被災者が責任者として切り盛りする立場にあった懇親会については,業務の遂行上必要不可欠なものとして設定されたと認め,その参加時間を労働時間に含めた。
講演会の打ち上げとして責任者があらかじめ設定した食事会も含めた一方,二次会は含めなかった。
同じ一日の会合でも,業務との結び付きの強さによって扱いが分かれた例である。
東京地裁平成23年3月2日判決(平成19年(行ウ)第796号)も,労災の過重性を判断する中で,歓送迎会の所要時間は労働時間として評価できないとした。
ただし,同判決の理由付けは短く,事情の説示は乏しい。
3 残業代を請求する場合の注意
(1) 賃金請求の裁判例は見当たらない
裁判所ウェブサイトで検索した限りでは,懇親会,社員旅行又は運動会への参加時間を理由とする残業代(割増賃金)の請求を正面から判断した裁判例は見当たらなかった。
前記の東京地裁の2判決は,いずれも労災の過重性を判断する中で労働時間性を検討したものであり,賃金請求の判断ではない。
もっとも,労働時間の定義は同じであるから,参加が業務上義務付けられていたか,事実上強制されていたかという点が,賃金請求でも中心になると考えられる。
(2) 確かめるべき事情
請求を検討する側では,少なくとも次の事情を記録で確かめる必要がある。
①参加の指示の有無と方法(業務命令か,誘いか,出欠の確認のされ方)
②不参加の場合の扱い(評価や配置への影響の有無)
③会の目的と内容(取引先対応,会議の一部,研修の一部か)
④出勤扱い,時間外手当,旅費又は費用負担の有無
⑤本人の役割(幹事,責任者,運転手等)
時間外労働の割増率や請求の手順は,時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求で整理している。
休憩中の電話番が労働時間になるかという近い論点は,昼休みの電話番・来客対応は労働時間になるか―休憩と残業代の判断・立証で扱っている。
第3 労災――飲み会の最中と帰り道の事故
1 業務災害と通勤災害の区別
(1) 条文
労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)7条1項は,保険給付の対象として,1号で「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」(業務災害)を,3号で「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(通勤災害)を挙げている。
同条2項は,通勤を「労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うこと」とし,1号で「住居と就業の場所との間の往復」を挙げている。
飲み会の最中の事故であれば業務災害になるか,飲み会の後の帰宅途中の事故であれば通勤災害になるかが問題となる。
どちらも,その飲み会への参加が「業務」に当たるかどうかに左右される。
(2) 業務遂行性と業務起因性
業務災害に当たるかについて,大阪地裁令和元年5月29日判決(平成27年(行ウ)第491号)は,労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること(業務遂行性)を前提に,傷病等が業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したことによるものと評価できるか(業務起因性)によって決すべきであるとしている。
飲み会の事故では,まず,その場で事業主の支配下にあったといえるかが問題となる。
2 行政解釈――会社行事・接待・同僚との懇親会
(1) 業務とされる参加とされない参加
厚生労働省(当時は労働省)の昭和48年11月22日基発第644号「労働者災害補償保険法の一部を改正する法律等の施行について」の別紙「通勤災害の範囲について」は,通勤の要件である「就業に関し」の意味を説明する中で,どのような行事への参加が「業務」に当たるかを示している。
同通達は,「全職員について参加が命じられ、これに参加すると出勤扱いとされるような会社主催の行事に参加する場合等は業務と認められる」とし,「事業主の命をうけて得意先を接待し、あるいは、得意先との打合せに出席するような場合も、業務となる」としている。
他方で,「会社主催ではあるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事に参加するような場合には、業務とならない」とし,「事業主の命によって労働者が拘束されないような同僚との懇親会、同僚の送別会への参加等も、業務とはならない」としている。
(2) 通達の位置付け
同通達は通勤災害の説明であり,飲み会の最中の事故について業務災害に当たるかを一般的に定めたものではない。
厚生労働省の法令等データベースと安全衛生情報センターの通達検索で「宴会」「懇親会」「慰安旅行」等を検索した限りでは,宴会等の最中の災害の業務上外を一般的に定めた通達は見当たらなかった。
3 最高裁が業務災害と認めた例――行橋労基署長事件
(1) 事案
最高裁判所第二小法廷平成28年7月8日判決(平成26年(行ヒ)第494号,集民253号47頁)の事案では,資料の提出期限が翌日に迫っていた労働者が,いったんは歓送迎会への参加を断った。
しかし,上司から参加してほしいという強い意向を示されたため,作業を一時中断して会社の車で歓送迎会に途中から参加した。
その後,作業を再開するため職場へ戻る際に,同乗させた研修生を住居まで送る途上で交通事故に遭い,死亡した。
(2) 判断
最高裁は,業務災害に当たるには,労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態で災害が発生したことが必要であるとした。
そのうえで,労働者は上司の意向等により歓送迎会に「参加しないわけにはいかない状況に置かれ」ていたこと,歓送迎会は研修の目的を達成するために会社が企画した行事の一環であり,費用も会社の経費から支払われていたこと等を指摘した。
結論として,歓送迎会が事業場外で開かれ,アルコール飲料も出されたこと,研修生を送ることが上司の明示的な指示によるものとはうかがわれないこと等を考慮しても,労働者は事故の際になお会社の支配下にあったとし,遺族補償給付等を支給しない処分を取り消した。
(3) 射程
この判決は,歓送迎会への参加が一般に業務になると述べたものではない。
業務の途中で参加を強く求められ,終了後に業務を再開するため職場へ戻る途中だったという一連の行動を,会社が要請したものと評価した事例判断である。
なお,被災した労働者は,歓送迎会で飲酒していなかった。
4 業務災害を否定した例――会社負担の忘年会
(1) 控訴審の基準
これに対して,名古屋高裁金沢支部昭和58年9月21日判決(昭和57年(行コ)第3号)は,会社が全額を負担して温泉ホテルで開いた忘年会の終了後に,ホテルの玄関付近で負傷した事案について,業務遂行性を否定した。
同判決は,事業主が主催する懇親会等の社外行事への参加は通常労働契約の内容となっていないから,その行事が「事業運営上緊要なものと客観的に認められ、かつ労働者に対しこれへの参加が強制されているとき」に限り業務行為になるとした。
そのうえで,この忘年会は従業員の慰安と親睦を目的とするもので,社会一般に通常行われている忘年会と変わりはなく,参加の強制もなかったとした。
(2) 第一審の認定
第一審の福井地裁昭和57年5月28日判決(昭和55年(行ウ)第2号)の認定によれば,役員は参加者を当日出勤扱いにすると伝えていたが,旅費や時間外手当は支給されていなかった。
出勤扱いや会社の全額負担があっても,それだけで業務とは認められなかった例である。
5 飲み会の後の帰宅途中の事故
(1) 会合への出席が職務とされた例
東京地裁平成19年3月28日判決(平成17年(行ウ)第259号)は,月1回の主任会議の後に社内で開かれていた飲酒を伴う会合に出席した事務管理部次長が,帰宅途中に駅の階段から転落して死亡した事案で,通勤災害に当たるとした。
同判決は,会合は業務の円滑な遂行を確保することを目的とするものであり,酒類の提供は忌憚のない意見交換のためと解されるとした。
そして,一般には参加が任意であるとしても,少なくとも被災者にとっては,会合を主催する部の実質上の統括者としての職務に当たるとした。
(2) 長時間の飲酒と泥酔運転
前記の昭和48年基発第644号は,通勤の途中で「飲み屋やビヤホール等において、長時間にわたって腰をおちつけるに至った場合」を通勤の逸脱・中断の例として挙げている。
また,「自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合には、合理的な方法と認められない」としている。
職場の飲み会の後に私的な二次会へ移った場合や,飲酒後に運転した場合には,通勤災害として扱われない可能性が高くなる。
6 接待・社員との会合と過労死・精神障害
(1) 接待を業務の延長とした例
大阪地裁平成23年10月26日判決(平成21年(行ウ)第59号)は,会議後の会食中にくも膜下出血を発症した事務所長の死亡について,業務上の死亡と認めた。
同判決は,一般には接待は業務との関連性が不明であることが多く,直ちに業務性を肯定することは困難であると述べた。
しかし,この事案では,会社の承認と経費負担,頻度,業務上の必要性等の事情から,顧客関係者との飲食はほとんどの部分が業務の延長であったと推認した。
親睦を深める目的のあった社員との会合についても,会社の承認の下でその負担により行われていたことから,業務の延長と推認し,時間外労働に算入した。
(2) 飲み会での嫌がらせと精神障害
福岡高裁令和8年4月24日判決(令和7年(行コ)第28号)は,精神障害による死亡が労災に当たるかを判断する中で,飲み会で先輩社員から酒を上半身に掛けられた出来事について,「酔余の戯れとはいえ、Aへの不当な嫌がらせであったというべきである」とし,業務による心理的負荷の一つとして評価した。
同じ日の上司によるパワーハラスメントと合わせ,心理的負荷の強度が中程度の出来事が近接して複数生じたと評価している。
公務災害の例であるが,福岡地裁令和7年12月5日判決(令和4年(行ウ)第19号)も,市の係長の自殺について,業務の一環として外部団体等との懇親会等の酒席に列席せざるを得なかったことが,酒を飲まない本人にとって負担となったことを,負荷の一つとして考慮した。
ただし,同判決で主に重視されたのは異動による職務内容の変化や上司・部下の言動であり,酒席への列席は補助的な事情である。
労災保険の給付の種類と金額は,労災保険の給付内容―給付の種類,金額及び令和8年改正で整理している。
第4 飲酒の強要と宴席でのハラスメント
1 ハラスメントの「職場」と勤務時間外の懇親の場
(1) 法律と指針
労働施策総合推進法30条の2第1項(令和8年10月1日からは同法31条1項。文言は同じ)は,事業主に対し,「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう」,相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けている。
パワーハラスメント防止のための指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は,「職場」を,事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所とし,通常就業している場所以外でも業務を遂行する場所であれば含まれるとしている。
セクシュアルハラスメント防止のための指針(平成18年厚生労働省告示第615号)も,「取引先と打合せをするための飲食店」等であっても,業務を遂行する場所であれば職場に当たるとしている。
(2) 通達とQ&A
勤務時間外の懇親の場について明示しているのは,指針本文ではなく,厚生労働省の通達とQ&Aである。
パワーハラスメントに関する運用通達(令和2年2月10日雇均発0210第1号。令和8年10月1日からは令和8年4月24日雇均発0424第2号)は,勤務時間外の懇親の場,社員寮や通勤中等であっても,実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当するとしている。
その判断は,職務との関連性,参加者,参加や対応が強制的か任意か等を考慮して個別に行うものとされている。
セクシュアルハラスメントに関する男女雇用機会均等法の施行通達(令和8年4月24日雇均発0424第1号)も,同じ趣旨を定めている。
以前の施行通達は「宴会」という語を用いていたが,令和2年の改正で「懇親の場」に改められた。
また,厚生労働省の「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(令和8年4月24日)問25も,勤務時間外の懇親の場で生じた言動について,同じ考え方で職場に当たるかを判断するとしている。
したがって,参加が任意の飲み会であっても,上司と部下が参加し,業務の話題が中心で,事実上断りにくい会であれば,そこでの言動は職場でのハラスメントとして事業主の措置義務の対象になり得る。
(3) 指針に飲酒の例は無い
パワーハラスメント指針は,代表的な言動の類型として六つの類型を挙げているが,現行の指針にも令和8年10月1日から適用される改正後の指針にも,「飲酒」「酒」「宴会」という語は出てこない。
そのため,飲酒の強要が指針のどの類型の例に当たると明示されているわけではない。
飲酒の強要がパワーハラスメントに当たるかは,優越的な関係を背景とした言動か,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものか,就業環境が害されたかという三つの要素に照らして個別に判断することになる。
パワーハラスメントの三要素,六類型及び事業主の措置義務は,職場のハラスメント防止-種類・事業主の措置義務・主要最高裁判例で整理している。
2 飲酒の強要と会社の責任
(1) 出張先で上司が飲酒を強要した例
東京高裁平成25年2月27日判決(平成24年(ネ)第2402号,労判1072号5頁,いわゆるザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件)は,ホテルの運営会社の上司が,出張先で仕事上の失敗の反省会を兼ねて部下と入った居酒屋で,アルコールに極めて弱い部下に執拗に飲酒を求めた事案である。
部下は,仕事上の失敗で迷惑をかけた負い目から断り切れず,少量の酒でおう吐したが,上司は「酒は吐けば飲めるんだ」などと言って更に部下のコップに酒を注ぎ,その後もホテルのバーや自室で飲酒を勧めた。
同判決は,これを「単なる迷惑行為にとどまらず,不法行為法上も違法というべきである」とし,翌日,前夜の酒のために体調が悪いと断る部下にレンタカーを運転させたことも違法とした。
同判決は,夏季休暇中の部下に深夜「ぶっ殺すぞ」などと留守番電話に吹き込んだ行為等と合わせ,上司の一連の行為は「本来の勤務時間外における行為も含め,いずれも一審被告会社の業務に関連してされたものであることは明らかである」として,民法715条1項による会社の使用者責任を認め,慰謝料を150万円とした(第一審の認容額は70万円)。
他方,部下が発症した適応障害等と上司の行為との因果関係は認めなかった。
同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されておらず,本記事では判例秘書で本文を確認した。
(2) 労災として業務起因性を認めた例
前記の大阪地裁令和元年5月29日判決は,ホストクラブの従業員ホストが接客中に先輩ホストらから飲酒を強要されて多量に飲酒し,急性アルコール中毒で死亡した事案である。
同判決は,本人が先輩らによる飲酒の強要を「拒絶することは極めて困難な状況にあった」と認め,強要と多量の飲酒は,客観的かつ全体的にみてホストとしての業務に関連ないし付随して生じた事態であったとして,業務起因性を認めた。
また,業務起因性の有無は,その原因となった行為がパワーハラスメントに当たるかどうかとは制度趣旨も法的効果も異なり,両者の判断が必然的に結び付くものではないとも述べている。
(3) 民事で使用者責任を認めた例
同じ事故について遺族が会社等に損害賠償を求めた大阪地裁平成31年2月26日判決(平成27年(ワ)第7371号)は,店の主任が業務中の本人に暴力も伴いながら飲酒を強要し,泥酔状態に陥った本人を放置したことについて,客の接待中にされたものであるから会社の事業の執行について生じたとして,民法715条1項による会社の使用者責任を認めた。
認容額は,原告ら各自について3694万8301円である。
ただし,同判決は,会社自身の安全配慮義務違反(債務不履行)については,使用者責任を認めたため判断していない。
取締役個人については,過度の飲酒をしないよう定期的に指導していたこと等から,義務の懈怠を否定した。
大阪地裁の2判決は,いずれも飲酒が業務に組み込まれた接客業の事案であり,一般の会社の飲み会にそのまま当てはまるわけではない。
3 勤務時間外の会食・懇親会での言動と会社の責任
(1) 上位者に呼び出された会食
鳥取地裁米子支部令和7年9月25日判決(令和元年(ワ)第117号)は,業務上の接点のない上位の教授から業務時間外に飲食店での会食に呼び出され,約5時間にわたり同席させられ,威圧的な発言や身体接触を受けた職員について,教授の一連の行為が不法行為に当たるとした。
同判決は,職員が「業務上の付き合いにおいて通常伴い得る不快感を超えた精神的苦痛を受けた」と認め,この会食を含む複数の行為について雇用主の使用者責任を認めた(慰謝料は複数の行為の合計で50万円)。
(2) 飲み会の二次会等でのセクシュアルハラスメント
京都地裁平成13年3月22日判決(平成10年(ワ)第1467号等)は,支店長が勤務時間外に,接待や支店の飲み会の二次会等に頻繁に使っていた会員制クラブで部下にしたセクシュアルハラスメントについて,支店長としての職務と密接に関連するとして,銀行の使用者責任を認めた。
横浜地裁平成16年7月8日判決(平成15年(ワ)第32号)は,市の係長が係の歓送迎会や暑気払い,休日に課長宅で開かれたバーベキュー等でしたセクシュアルハラスメント発言について,市の賠償責任を認めた。
同判決は,勤務時間外に職場以外の場所で私費により行われる懇親会であっても,原則として職員全員の参加が想定され,職員相互の親睦を深めて円滑な職務遂行の基礎を形成することが主な目的であれば,職務行為の範囲内に属するとした。
この事案は公務員についての国家賠償法1条1項の判断であり,民法715条の判断ではないが,懇親会と職務との関連性についての考え方として参考になる。
京都地裁平成18年4月27日判決(平成17年(ワ)第761号)は,課長が勤務時間終了後に定期的に開かれていた係や地区の食事会で部下の太もも等を触った行為等について,課長と会社に連帯して110万円の支払を命じた。
同判決は,食事会について,「強制的とまではいえなかった」ものの,係長等から出席を求められ,やむを得ない事由がない限り所属員が出席していたと認定している。
ただし,会社の使用者責任を認めた理由(事業の執行について行われたといえる理由)は,判決中で説示されていない。
(3) 懇親会の場での同行の強制と二次会の帰り道
東京地裁令和2年3月3日判決(平成30年(ワ)第4347号)は,派遣先の役員が終業後のカラオケ店での懇親会で,役員らとの映画等への同行を内容とするくじを派遣労働者に引かせた行為について判断した。
同判決は,懇親会への参加自体は強制されていなかったとして,懇親会の開催や参加を違法とはしなかった。
一方で,くじ引きは,業務と無関係の行事への同行を実質的に強制しようとするものであるとして,人格権を侵害する違法行為に当たるとした(慰謝料5万円)。
同判決は,歓送迎会の二次会の帰りに,別の役員が駅のホームで派遣労働者の肩に複数回触れた行為も,不法行為に当たるとした(慰謝料5万円)。
この事件では会社の使用者責任は請求されておらず,派遣先と派遣元の就業環境に関する配慮義務の違反は否定された。
第5 実務上の対応
1 従業員の側
(1) 参加を断れるか
参加が任意とされ,業務と結び付かない懇親の会であれば,参加は労働契約上の義務ではないため,断ることで直ちに懲戒等の対象になるわけではないと考えられる。
他方,取引先の接待や会議の一部として組み込まれた会合への出席を命じられた場合は,業務として扱われる可能性がある。
その場合には,参加時間の賃金や帰り道の事故の扱いも業務を前提に考えることになる。
(2) 記録しておくこと
問題が生じたときに備え,誘い又は指示の文面(メール・チャット),出欠の確認のされ方,出勤扱い・手当・費用負担の有無,参加者と自分の役割,会の開始・終了時刻,飲酒を勧められた状況を,当日の記録として残しておくことが考えられる。
飲酒の強要や嫌がらせを受けた場合は,会社の相談窓口への相談記録も残す。
事故に遭った場合の労災の申請では,飲み会の目的と参加の経緯を,会社の資料で説明できるかが結論を左右しやすい。
2 会社の側
(1) 任意の会は任意として運用する
任意参加の懇親会とするなら,案内の段階で任意であることを明示し,不参加が評価や配置に影響しないことを徹底する。
出勤扱いにする,参加を事実上求める,業務の報告の場とするなどの運用をすれば,業務と評価されやすくなる。
その場合には,参加時間の賃金,移動手段,帰りの安全まで業務として管理する必要がある。
(2) 飲酒の強要を防ぐ
飲酒の強要,一気飲みのあおり,飲めない人への繰り返しの勧め,酔った上での身体接触等を,ハラスメントとして禁止することを就業規則や方針で明確にし,勤務時間外の懇親の場で起きた言動も相談の対象にすることが考えられる。
パワーハラスメントに関する運用通達(令和2年2月10日雇均発0210第1号)も,勤務時間外の懇親の場等でパワーハラスメントが生じた場合も幅広く相談の対象とすることが必要であるとしている。
泥酔者を放置しない,帰路の運転をさせないといった安全面の対応も,幹事や上位者の役割として定めておくことが望ましい。
(3) 費用の税務
社員旅行や懇親会の費用を福利厚生費として扱うか,交際費や給与として扱うかは,労働法上の業務性とは別の税務の問題である。
税務上の区分は,福利厚生費の税務上の取扱い-給与・交際費との区分と食事・社員旅行の基準で整理している。
第6 関連記事
労働保険の加入・保険料・労災給付・雇用保険の手続
地震後に私物を取りに職場へ戻った際のガス爆発は労災か
中途採用における使用者側の留意点――募集・選考・内定・試用期間の実務
労働基準法に関するメモ書き
第7 出典
1 法令
①労働基準法(昭和22年法律第49号)32条(e-Gov法令検索)
②労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)7条(e-Gov法令検索)
③労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)30条の2(令和8年10月1日からは31条。令和7年法律第63号による改正)(e-Gov法令検索)
④雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)11条(e-Gov法令検索)
⑤民法(明治29年法律第89号)715条(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①最高裁判所第一小法廷平成12年3月9日判決(平成7年(オ)第2029号,民集54巻3号801頁,裁判所ウェブサイト,三菱重工業長崎造船所事件)
②最高裁判所第二小法廷平成28年7月8日判決(平成26年(行ヒ)第494号,集民253号47頁,裁判所ウェブサイト,行橋労基署長事件)
③名古屋高裁金沢支部昭和58年9月21日判決(昭和57年(行コ)第3号,裁判所ウェブサイト)
④東京高裁平成25年2月27日判決(平成24年(ネ)第2402号,労判1072号5頁,判例秘書L06820168,裁判所ウェブサイト未掲載)
⑤福岡高裁令和8年4月24日判決(令和7年(行コ)第28号,裁判所ウェブサイト)
⑥福井地裁昭和57年5月28日判決(昭和55年(行ウ)第2号,裁判所ウェブサイト)
⑦京都地裁平成13年3月22日判決(平成10年(ワ)第1467号等,裁判所ウェブサイト)
⑧横浜地裁平成16年7月8日判決(平成15年(ワ)第32号,裁判所ウェブサイト)
⑨京都地裁平成18年4月27日判決(平成17年(ワ)第761号,裁判所ウェブサイト)
⑩東京地裁平成19年3月28日判決(平成17年(行ウ)第259号,裁判所ウェブサイト)
⑪東京地裁平成23年3月2日判決(平成19年(行ウ)第796号,裁判所ウェブサイト)
⑫大阪地裁平成23年10月26日判決(平成21年(行ウ)第59号,裁判所ウェブサイト)
⑬東京地裁平成23年11月10日判決(平成21年(行ウ)第466号,裁判所ウェブサイト)
⑭大阪地裁平成31年2月26日判決(平成27年(ワ)第7371号,裁判所ウェブサイト)
⑮大阪地裁令和元年5月29日判決(平成27年(行ウ)第491号,裁判所ウェブサイト)
⑯東京地裁令和2年3月3日判決(平成30年(ワ)第4347号,裁判所ウェブサイト)
⑰鳥取地裁米子支部令和7年9月25日判決(令和元年(ワ)第117号,裁判所ウェブサイト)
⑱福岡地裁令和7年12月5日判決(令和4年(行ウ)第19号,裁判所ウェブサイト)
3 厚生労働省の指針・通達・資料
①厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)
②昭和48年11月22日基発第644号「労働者災害補償保険法の一部を改正する法律等の施行について」別紙「通勤災害の範囲について」(厚生労働省法令等データベース)
③事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)及び令和8年10月1日適用版
④事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)
⑤令和2年2月10日雇均発0210第1号(パワーハラスメントに関する運用通達)及び令和8年4月24日雇均発0424第2号
⑥令和8年4月24日雇均発0424第1号「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」
⑦厚生労働省雇用機会均等課「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(令和8年4月24日)問25