第1 撮影への了解とインターネット公開への了解を分ける
運動会や社内行事の写真を広報に使うときは,写っている本人に関する権利と,写真そのものの著作権を分けて確認する。撮影者が写真を提供したことや,参加者がカメラに向かって笑顔を見せたことだけで,どの媒体にも無期限に掲載できると扱うべきではない。
会社内の掲示,参加者限定の共有,会社ホームページ及び一般公開のSNSでは,閲覧者と拡散の範囲が異なる。何のために,誰に,いつまで見せるかを具体化することが,掲載判断の出発点である。
本記事は,令和8年10月22日を基準とする,日本の民間事業者による一般的な行事写真の取扱いの整理である。行政機関等の取扱いや,医療・介護,学校等の個別分野では,適用される規律・指針を別に確認する必要がある。
第2 肖像権・プライバシーは個人情報保護法とは別に確認する
1 無断撮影・公表がすべて一律に違法となるわけではない
最高裁平成17年11月10日判決(平成15年(受)第281号・民集59巻9号2428頁)は,みだりに容ぼう等を撮影されず,写真を公表されない人格的利益を認めた。無断撮影の違法性については,地位,活動,場所,目的,態様,必要性等を総合し,社会生活上受忍すべき限度を超えるかを判断するとした。公開判決・本文4~5頁
これは刑事事件の法廷内での撮影等を扱った判決であり,運動会の集合写真を直接判断したものではない。行事の広報では,写真の大きさ,人物の扱われ方,説明文,公開範囲及び本人の了解の内容を,具体的な掲載画面に即して検討することになる。
2 会場にいたことから公開への包括的同意を推測しない
公開の場所で開催される行事であっても,個人を大きく写した写真を広告として使う場合と,会場全体の様子を伝える場合とでは,検討すべき事情が異なる。「屋外だから自由」「集合写真だから同意は不要」という一律の基準では判断できない。
同意を取得する場合も,行事の記録としての撮影と,採用広告や商品広告への転用を分ける。後から用途・媒体・対象者の範囲を広げる場合には,もとの説明と了解でその利用まで含まれているかを確認する必要がある。
第3 個人情報と個人データの違い
1 会社行事の写真に直接答えた個人情報保護委員会のQ&A
個人情報保護委員会のQ7-11は,会社行事の写真を社内で展示する場面を扱う。本人を判別できる写真は個人情報である一方,一般的には個人情報データベース等を構成する「個人データ」ではないとして,個人情報保護法27条1項との関係を説明している。ただし,利用目的の通知・公表は必要であり,肖像権やプライバシーへの配慮も求めている。個人情報保護委員会Q&A・Q7-11
この回答は,「社内展示だからどの写真でも自由」「ホームページやSNSでも同じ」という意味ではない。また,写真を名簿と対応させるなどして,個人を検索できるよう体系的に管理する場合には,個人データ該当性を具体的に確認する必要がある。
2 データの管理方法と公開先を確認する
個人データに該当する写真を第三者に提供するときは,法27条の本人同意原則と例外等を確認する。個人データに当たらない場合も,目的に応じた取扱いと,肖像・プライバシーの検討が残る。個人情報保護委員会の通則ガイドライン
なお,医療・介護関係のQ4-15にも,利用者の行事写真の掲載等に関する回答がある。しかし,適用分野と前提があるため,その回答だけからすべての企業行事の写真について同じ法的結論を出すことは避けるべきである。医療・介護関係のQ4-15
第4 撮影者の著作権も確認する
参加者本人が掲載に同意していても,他人が撮った写真の利用権限がなければ別の問題が生じる。撮影を外注した場合には,納品を受けたことと,写真の著作権を譲り受けたことを区別する。
文化庁の写真撮影に関する契約書作成支援システムは,撮影依頼に当たっての権利処理等を示している。主催者は,掲載媒体,利用期間,広告への転用,切抜きや加工,氏名表示及び再利用の範囲を,撮影者との契約・許諾に照らして確認するとよい。文化庁・写真撮影の契約上の注意事項
被写体の肖像に関する了解と,撮影者等の著作権上の許諾は,片方を得れば他方も当然に満たすという関係ではない。自由利用マークについての文化庁の説明も,写真中の人物への配慮を別に示している。ただし,同説明は自由利用マークを付ける場面のものであり,すべての写真掲載に関する一律の法定手続を示すものではない。文化庁・他人の肖像や著作物についての注意
第5 公開前の同意確認をどう設計するか
1 媒体・期間・用途を分けて示す
次は,行事運営のための実務上の提案である。法令がすべての主催者に同じ書式を義務付けるものではない。
開催案内には,撮影の目的,予定する掲載先,掲載期間及び問い合わせ先を示す。外部公開を予定する場合は,社内だけの記録利用と区別して,掲載を希望しない人が意思を伝えられる方法を用意する。申し出た人を不利益に扱わずに撮影・参加を調整できる運用が望ましい。
同意を得る際は,少なくとも次の情報を対応させて残す。
– 対象の写真又は対象となる撮影・行事
– 行事報告,採用広報,商品広告などの利用目的
– 会社ホームページ,特定のSNSアカウント,印刷物などの掲載先
– 一般公開か限定公開か,予定する掲載期間
– 氏名・所属等の併記,加工及び別の企画への再利用の範囲
– 掲載についての連絡窓口と,変更・停止を申し出る方法
包括的な同意が常に無効になるわけではないが,「広報に使います」という抽象的な説明で,後日のあらゆる利用が了解済みになったと扱わないことが重要である。
2 子どもや写り込みにも対応する
子どもの写真は,年齢や理解力に応じた本人への説明と保護者等への確認を検討する。すべての場合について一律の年齢だけで結論を出さず,対象者と利用内容に即して判断する。
集合写真では,中心人物だけでなく,背景の人,名札,掲示物及び位置情報等も確認する。顔をぼかしただけでは,服装,氏名又は説明文との組合せで本人が分かることがある。掲載を望まない人が含まれる場合は,別の写真の選択,切抜き,又は識別できない加工などを検討する。
第6 公開後の削除・変更の申し出に対応する
本人から申し出があったときは,対象URL・写真,申し出の内容,もとの同意及び現在の用途を確認する。契約上の公開停止,個人情報保護法上の請求及び人格的利益に基づく請求は,それぞれの要件を分けて検討する必要がある。「いつでも必ず全面削除できる」「一度同意したら永久に削除を求められない」のいずれも,一律の説明としては適切でない。
主催者が管理するページの公開停止と,他者が保存・転載した画像の回収は別の作業である。担当者は,必要な初動,連絡先,調査結果及び対応を記録する。公開前に掲載期間と停止窓口を決めておくことが,こうした対応にも役立つ。
肖像・声を生成AIに利用する契約は,肖像・合成音声のAI利用許諾と制作委託契約で扱っている。通常の行事写真をそのまま公開する場面と,AI学習・合成等へ利用する場面は,許諾の対象を区別して考えるべきである。