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判事補の海外留学状況―制度・選考・人数・予算・公表資料(AIリライト)

判事補の海外留学は,原則として全ての判事補に機会を与えるとされる外部経験の一つであり,外国の大学,ロースクール又は裁判所等で外国の司法制度や裁判実務を研究する制度である。
令和8年1月20日付の選考通知では,最高裁判所が直接実施する制度と人事院の行政官長期在外研究員制度を合わせて30人程度を募集している。

もっとも,「募集人数」,概算要求書の「積算人数」及び海外出張命令に現れる「実際の派遣者」は,それぞれ別の数字である。
この記事では,現行の選考,人数と予算,制度の沿革,公表済みの名簿,留学費用の償還を区別して整理する。

第1 判事補の海外留学の位置付け

1 外部経験制度の一つであること

最高裁判所は,多様で豊かな知識や経験を備えた裁判官を確保するため,原則として全ての判事補に外部経験の機会を与えるとしている。
外部経験の派遣先等には,民間企業,弁護士事務所,海外留学,行政官庁及び在外公館等が含まれる(最高裁判所「外部経験制度の利用(その2)」)。

したがって,海外留学だけが判事補の経験多様化の手段ではない。
判事補の任官後おおむね10年以内に,裁判所内部の職務とは異なる環境で経験を積む複数の仕組みのうち,在外研究を中心とするものが判事補の海外留学である。

2 制度の目的

判事補の海外留学では,外国の法制度及び裁判実務を現地で研究するとともに,異なる文化,社会及び組織に接することが想定されている。
外国法の知識だけでなく,幅広い視野,柔軟な思考及び多角的なものの見方を裁判実務へ還元することが制度の目的である。

もっとも,個々の留学がどの事件処理にどのような効果をもたらしたかを数量的に示す公表資料は確認できない。
制度の目的に関する説明と,個別の留学成果に対する評価は分けて読む必要がある。

第2 令和8年通知による選考の概要

1 2つの留学制度

令和8年1月20日付の最高裁判所事務総局人事局長通知は,判事補海外留学研究員の選考について,最高裁判所が直接実施する制度と,人事院が実施する行政官長期在外研究員制度を区別している。

(1) 最高裁判所が直接実施する制度

研究期間は,原則として令和9年7月頃から令和10年6月頃までの約1年間である。
ミュンヘン知的財産法センターについては,令和9年9月頃から令和10年8月頃までとされている。

外国の大学,ロースクール又は裁判所等で,外国の司法制度,裁判実務その他の研究を行う。
派遣国,研究先及び研究テーマは,選考後の調整を経て具体化するため,応募時点の希望がそのまま派遣先を決めるとは限らない。

(2) 人事院の行政官長期在外研究員制度

研究期間は,令和10年から始まる1年間又は2年間であり,2年間が原則とされている。
この制度を利用する場合も,判事補海外留学研究員の選考通知に基づく応募及び裁判所内の選考を経る。

「最高裁判所の制度は約30人,人事院の制度は約10人」と一律に説明することは,令和8年通知の内容とは一致しない。
現行通知が示す30人程度は,2つの制度を合わせた募集予定数である。

2 募集人数と応募対象

令和8年通知における募集人数は,2つの制度を合わせて30人程度である。
これは募集予定数であって,選考合格者数,予算上の積算人数又は実際に出国した人数ではない。

同通知では,最高裁判所が直接実施する制度について71期から76期まで,人事院の制度について76期及び77期が主な応募対象とされている。
ただし,従前の留学歴,裁判所の職務運営上の事情その他の要件があるため,司法修習期だけで応募資格が決まるものではない。

3 帰国後の取扱いと公務への還元

帰国後は,最高裁判所が指定する庁へ異動することが予定されている。
また,留学後に行政官庁又は在外公館等で別の外部経験を積む可能性も示されている。

選考通知は,公費による留学の成果を公務に還元すること及び国民の不信を招かないよう留意することを明記している。
海外留学を個人の資格取得又は私的なキャリア形成だけを目的とする制度として理解するのは正確でない。

第3 人数と予算の読み方

1 混同してはならない3種類の数字

  • ① 選考通知の募集人数は,選考前の予定数である。
  • ② 概算要求書の人数は,旅費等を算定するための積算上の単位である。
  • ③ 裁判官海外出張者名簿に記載された人数は,各年度に海外出張を命じられた者を示す。

これらは作成目的と基準時が異なる。
同じ年度に関する数字であっても,単純に一致するとは限らない。

2 平成31年3月22日の国会答弁

平成31年3月22日の衆議院法務委員会で,堀田眞哉最高裁判所長官代理者は,当時,毎年35人ないし40人程度の判事補が1年間又は2年間,海外のロースクールや裁判所等で研究していると答弁した。
さらに,それ以前10年間の判事補採用数が平均約90人であったこととの比較では,平均して約4割の判事補が海外留学していることになると説明した(衆議院「第198回国会法務委員会第5号」)。

この答弁は,平成31年当時に,過去10年間の採用数を基礎として行われた説明である。
現在の派遣人数又は現在の判事補全体に占める割合を示す統計として引用してはならない。

3 令和8年度歳出概算要求

最高裁判所の「令和8年度歳出概算要求書」33頁~34頁では,判事補海外留学研究として1億2094万円が要求されている。
内訳は,令和8年度派遣の新規分8676万9000円と,令和7年度派遣の継続分3417万1000円である。

積算内訳に現れる人数単位を合計すると,新規分は22人,継続分は21人である。
もっとも,これは概算要求額を計算するための人数であり,最終的な予算額,選考合格者数又は実際の派遣人数そのものではない。

第4 制度の沿革

1 昭和47年に始まった特別留学制度

矢口洪一『最高裁判所とともに』(有斐閣,1993年)90頁によれば,かつては司法研修所の試験合格者による1年間の米国留学と,人事院による2年間の政府留学があったものの,枠は2人又は3人程度であった。
同書は,昭和47年から判事補を英国,米国,ドイツ及びフランスへ派遣する特別留学制度が始まり,刊行当時には年間十数人の枠へ拡大したと述べている。

これは制度の形成に関与した者による回顧であり,平成初期までの状況を示す資料である。
令和8年の制度内容又は人数を説明する根拠としては,現行の選考通知及び予算資料を優先すべきである。

2 外部経験制度の中での位置付け

判事補の経験多様化が進められる中で,海外留学は,弁護士職務経験,民間企業への派遣,行政官庁及び在外公館での勤務等と並ぶ外部経験の一つとして位置付けられた。
現在の最高裁判所の説明も,原則として全ての判事補に外部経験の機会を与えるという枠組みの中に海外留学を掲げている。

したがって,海外留学歴の有無だけで裁判官としての能力,人事上の評価又は将来の職位を判断することはできない。
公開された選考通知にも,海外留学を特定の昇進コースとする記載はない。

第5 公表資料から実際の留学状況を調べる方法

1 年度別の裁判官海外出張者名簿

(1) 海外出張を命じられた裁判官,研究先,研究対象,派遣国及び期間は,各年度の裁判官海外出張者名簿から確認できる。
近年分として,次の資料を掲載している。
令和2年度令和3年度令和4年度令和5年度令和6年度

(2) 過去分は,平成元年度から平成17年度まで及び平成18年度から平成26年度までの各まとめと,平成29年度の資料から確認できる。

平成27年度平成28年度平成30年度及び平成31年度の資料も掲載している。

2 年度別の選考通知

応募対象,募集人数,研究期間及び帰国後の取扱いは,実際の派遣名簿ではなく,各年の選考通知で確認する必要がある。
近年の通知は次のとおりである。
令和4年1月7日付6月17日付の追加募集),
令和5年1月27日付令和6年1月25日付令和7年1月21日付
令和8年1月20日付

3 資料を読む際の注意点

選考通知は応募前の制度設計を示し,裁判官海外出張者名簿は個別の海外出張命令を示す。
その間には,選考,研究先との調整,予算,査証,渡航時期その他の事情があるため,募集予定数から実派遣人数を推計するのは適切でない。

また,海外出張者名簿には,判事補海外留学研究員以外の裁判官又は裁判所職員が含まれる年度がある。
氏名,官職,期間及び研究先を確認するときは,名簿の表題だけでなく各行の制度及び職名まで読む必要がある。

第6 留学経験に関する公表資料

1 裁判所が公表している外部経験の説明

最高裁判所の「外部経験制度の利用(その2)」では,関口恒が,米国での1年間の在外研究と,その後の在米日本国大使館勤務について説明している。
同稿は,外国司法の調査だけでなく,行政,外交,組織運営及び異文化の中での経験を外部経験の効用として挙げている。

この体験談は制度の目的を具体化する資料であるが,説明及び評価にわたる部分は執筆者個人の理解であることも明記されている。
個人の経験を,全ての留学者に共通する成果として一般化すべきではない。

2 個別の留学経験

前者は留学先での学修と比較法的な気付きに重点を置き,後者は留学の職務上の効用を批判的に検討している。
制度の長所だけでなく,経験者によって評価が異なることを確認できる資料である。

第7 公費留学と留学費用の償還

1 国家公務員の留学費用の償還に関する法律

国家公務員の留学費用の償還に関する法律2条2項の「留学」に該当する公費留学については,留学中又は留学終了後の在職期間が5年に達するまでの間に離職したとき,原則として,国が支出した留学費用の全部又は一部を償還しなければならない(同法3条)。
死亡その他の同条所定の例外があるため,留学後5年以内の離職で常に償還義務が生じるわけではない。

同法10条は,裁判官を含む裁判所職員について同法を準用している。
ただし,判事補の全ての海外研究が同法2条2項の「留学」に該当するかは,利用した制度及び費用負担の根拠を個別に確認する必要がある。

2 人事院の最新統計とその射程

人事院「国家公務員の留学の実施等に関する状況」(令和7年9月3日公表)によれば,令和6年度に新たに留学を開始した国家公務員の件数は450件であり,そのうち在外は273件,国内は177件である。
平成18年6月19日以降の累計は7764件である。

同年度に新たに償還義務が発生した件数は96件であり,累計は757件である。
ただし,公表された研修別内訳から判事補又は裁判所職員の件数を取り出すことはできないため,これらを判事補固有の統計として表示してはならない。

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第9 出典