第1 基本情報と本記事の対象
1 現在の役職及び生年月日
阿多博文(あた・ひろふみ)裁判官は,昭和35年5月14日生まれであり,司法修習42期の弁護士として活動した後,令和8年2月2日に最高裁判所判事へ就任した。
令和8年8月28日現在,最高裁判所第一小法廷に所属している。
本記事は,裁判所の公式略歴,最高裁判所判事任命の閣議書,就任記者会見,裁判所ウェブサイトの裁判例及び公刊された執筆情報に基づき,経歴と活動を整理したものである。
裁判所ウェブサイトの裁判例検索は全ての裁判例を収録するものではないため,後記の関与裁判は同サイトで氏名検索により確認できた範囲である。
2 同じ司法修習期の阿多麻子裁判官との区別
司法修習42期には,阿多博文裁判官のほか,阿多麻子裁判官がいる。
なお,阿多麻子裁判官は判事補任官時には横田麻子という氏名であった。
第2 学歴,弁護士登録及び主要な経歴
1 経歴の一覧
| 年月等 | 経歴 |
|---|---|
| 昭和59年 | 同志社大学法学部卒業 |
| 昭和61年 | 司法試験合格 |
| 昭和63年 | 京都大学大学院法学研究科修士課程修了,司法修習生 |
| 平成2年 | 弁護士名簿登録(大阪弁護士会) |
| 平成13年 | 大阪市情報公開審査会委員,大阪市出資等法人情報公開審査会委員 |
| 平成14年 | 法務省法制審議会会社法(株券の不発行等関係)部会委員 |
| 平成16年 | 同志社大学法科大学院専任教授 |
| 平成17年 | 大阪市監理団体評価委員会専門委員(平成19年4月以降は大阪市外郭団体等評価委員会) |
| 平成22年 | 大阪市特定団体経営監視委員会委員,司法試験考査委員(商法),大阪市会情報公開審査委員会委員 |
| 平成25年 | 大阪市外郭団体評価委員会委員 |
| 平成28年 | 法務省法制審議会民事執行法部会委員 |
| 平成29年 | 大阪市大規模事業リスク管理会議委員 |
| 平成30年 | 同志社大学法科大学院客員教授 |
| 令和2年 | 法務省法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会委員 |
| 令和8年2月2日 | 最高裁判所判事 |
上表は,最高裁判所の公式略歴を基本とし,阿多博文最高裁判所判事任命の閣議書によって就任前の経歴を補ったものである。
任命の閣議書には非開示部分があるため,公職歴の全てを示すものではない。
2 弁護士としての所属及び専門分野
阿多裁判官は,弁護士登録後,色川法律事務所で実務経験を重ねた。
最高裁判所判事就任記者会見では,会社法に大学院時代から継続して関わり,先例の少ない企業再編等を扱ったと説明している。
訴訟以外では,金融機関の合併,会社分割,地方公営企業の株式会社化及び大阪・関西万博の運営主体に関する法律事務に関与したことを明らかにしている。
他方,訴訟事件については依頼者及び相手方への配慮から具体的な説明を控えており,公開資料から個別事件との対応関係を推測すべきではない。
3 同志社大学法科大学院での教育活動
阿多裁判官は,平成16年に同志社大学法科大学院専任教授となり,平成30年から最高裁判所判事就任前まで同法科大学院客員教授を務めた。
同志社大学法科大学院の公表によれば,商法分野及び実務系科目を担当していた。
就任記者会見では,最高裁判所判事の就任前に客員教授を辞職し,担当科目の採点を終えた上で就任したと説明している。
同志社大学は公式Xで,同大学法学部の卒業生が最高裁判所判事に就任したのは初めてであると公表している。
第3 法制審議会及び大阪市での公職
1 3回の法制審議会部会委員
阿多裁判官は,会社法(株券の不発行等関係)部会,民事執行法部会及び民事訴訟法(IT化関係)部会の委員を務めた。
就任記者会見では,これらを①株券の電子化,②第三者からの情報取得手続等を含む債務者財産の調査,③民事訴訟手続のデジタル化に関する法改正への関与として説明している。
三部会の審議,確認できる阿多委員の発言,成立法及び現行制度の対応関係は,阿多博文最高裁判事が関与した三つの民事法改正で詳しく整理している。
法制審議会での経験については,自分の考えを他の委員に理解してもらうことに加え,他の委員や推薦母体の考えと背景を理解し,調整して合意を形成することの重要性を学んだと述べている。
また,最高裁判例と異なる方向の改正を検討する場合には,判例の事案,射程及び時代背景の変化を踏まえて合理性を慎重に検討したとしている。
2 民事裁判手続のデジタル化
令和4年の民事訴訟法改正による民事訴訟手続のデジタル化は,令和8年5月21日に全面施行された。
阿多裁判官は就任直前まで,弁護士の立場から各地で説明会を行い,裁判所と運用方法を協議していたと説明している。
阿多裁判官が執筆時に弁護士として寄稿した「弁護士の視点から(1)―電子申立て等」は,『ジュリスト』令和8年3月号に掲載されている。
法改正への関与,施行準備及び弁護士実務からの論考が連続して確認できる点は,経歴上の特徴である。
3 大阪市の情報公開及び外郭団体に関する公職
阿多裁判官は,大阪市情報公開審査会,大阪市会情報公開審査委員会,外郭団体の評価・監視に関する委員会及び大規模事業リスク管理会議の委員等を務めた。
これらの公職歴は,情報公開,外郭団体の経営評価及び大規模事業のリスク管理にわたる。
第4 就任記者会見で公表した主な弁護士業務
1 企業再編及び倒産手続
阿多裁判官は,平成10年10月,金融機関2社の特定合併に関与したと説明している。
この合併は,当時の商法上の新設合併に当たり,政府機関との調整を要したという。
平成12年4月の民事再生法施行直後に申し立てられた再生事件では,監督委員の補助を担当した。
また,平成13年6月1日には,会社分割制度の施行直後に上場会社の会社分割を担当したとしている。
2 地方公営企業の株式会社化及び大阪・関西万博
平成30年には,鉄道事業及びバス事業を営む地方公営企業の民営化に関与し,地方自治体が全株式を保有する株式会社の設立を担当したと説明している。
令和2年から令和7年までの約6年間は,公益社団法人2025年日本国際博覧会協会の法律顧問として,法人設立,定款・規則等の整備,契約書ひな形の作成その他の法律事務を担当した。
就任記者会見では,国,地方公共団体及び民間からの出向者で構成される組織内の調整や,博覧会国際事務局及び公式参加国等との関係で生じる調整が多い業務であったと説明している。
第5 最高裁判所判事への任命,国民審査及び定年
1 閣議決定及び就任
阿多博文最高裁判所判事任命の閣議書には,令和7年12月23日付けで阿多博文を最高裁判所判事に任命する人事が決定されたことが記録されている。
阿多裁判官は令和8年2月2日に就任し,第一小法廷に所属している。
日本国憲法79条1項及び裁判所法39条2項により,最高裁判所判事は内閣が任命する。
裁判所法41条は,識見の高い法律の素養のある40歳以上の者から任命し,少なくとも10人は所定の法律専門職経験者から選ぶことを定めている。
2 国民審査及び定年
日本国憲法79条2項により,最高裁判所判事の任命は,任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査へ付される。
国民審査の制度全般については,最高裁判所裁判官の国民審査を参照されたい。
阿多裁判官は昭和35年5月14日生まれである。
裁判所法50条により,最高裁判所の裁判官の定年は70歳である。
3 就任記者会見
阿多裁判官は就任記者会見で,最高裁判所の判断が法曹関係者だけでなく国民にも重く受け止められることを踏まえ,冷静かつ着実に職務へ取り組みたいと述べた。
弁護士時代に大切にした言葉として「怖れず侮らず」と「クールヘッド・ウォームハート」を挙げ,最高裁判所判事としても支えにすると説明している。
第6 裁判所ウェブサイトで確認できる関与裁判
1 検索範囲と役割の区別
令和8年8月28日に裁判所ウェブサイトで「阿多博文」を検索したところ,6件の裁判例が表示された。
このうち2件は最高裁判所判事就任後に第一小法廷の構成員として関与した判決であり,残る4件は就任前に訴訟代理人又は上告代理人として関与した判決である。
氏名が判決書に現れるという点は共通するが,裁判官としての関与と弁護士としての代理人関与は性質が異なる。
また,裁判所ウェブサイトの裁判例検索は全ての判決を収録するものではないため,6件を関与裁判の総数とみることはできない。
2 最高裁判所判事就任後の判決
最高裁判所第一小法廷令和8年7月13日判決(令和6年(行ヒ)第281号)は,公有水面埋立承認の撤回を取り消した国土交通大臣の裁決について,周辺住民が取消しを求める原告適格を判断した。
同判決は,航空機騒音等による著しい被害を直接受けるおそれの有無を,騒音予測区域との距離関係等から住民ごとに判断し,阿多裁判官を含む第一小法廷の全員一致で言い渡された。
最高裁判所第一小法廷令和8年7月16日判決(令和6年(オ)第720号,第721号)は,労働組合について代表権を欠く者を代表者として訴訟が提起・追行されたことを理由に原判決を破棄し,その後の代表者選任決議及び訴訟行為の追認の成否等を更に審理させるため差し戻した。
同判決も,阿多裁判官を含む第一小法廷の全員一致である。
3 弁護士時代に代理人として関与した判決
裁判所ウェブサイトで確認できる就任前の代理人関与は,次の4件である。
①大阪地方裁判所平成27年9月24日判決(平成25年(ワ)第1074号)―著作権侵害差止等請求事件における大阪市の訴訟代理人
②大阪地方裁判所平成13年11月30日判決(平成12年(ワ)第12540号)―否認決定に対する異議請求事件における被告側の訴訟代理人
③最高裁判所第二小法廷平成11年4月16日判決(平成10年(受)第153号)―後発医薬品の承認申請に必要な試験と特許法69条1項に関する事件の上告代理人
④最高裁判所第一小法廷平成6年1月27日判決(平成3年(行ツ)第18号)―大阪府知事交際費に関する公文書非公開処分取消請求事件の上告代理人
これら4件は,阿多裁判官が裁判官として判断を示した事件ではない。
経歴資料としては代理人として関与した事実を確認できるが,判決の結論を本人の見解と同一視することはできない。
第7 公刊された主な論考
有斐閣Onlineの著者ページでは,阿多博文名義の論考等として7件が整理されている。
内容は,民事訴訟手続のデジタル化,民事保全・執行,振替株式の共有持分に対する差押え及び将来預金債権の差押え等に及ぶ。
主なものとして,①「弁護士の視点から(1)―電子申立て等」(『ジュリスト』1620号),②「〔座談会〕民事訴訟手続のIT化―立法の経緯と論点」(『ジュリスト』1577号),③「民事保全・執行における不服申立て―賃金仮払いの仮処分を題材に」(『法学教室』450号),④「所有権移転登記請求権の保全と執行」(『法学教室』449号)がある。
著者ページは掲載誌及び記事単位の情報を確認できるが,会員向け本文については利用条件に従う必要がある。
第8 関連記事
阿多裁判官の所属小法廷及び任命資料については,次の記事も参照されたい。
①最高裁判所第一小法廷の裁判官(着任順)
②最高裁判所判事任命の閣議書
③親任式及び認証官任命式
④憲法週間における最高裁判所判事の視察
⑤大阪弁護士会出身の最高裁判所判事の一覧
⑥司法修習42期の記事一覧
第9 出典・参考資料
1 法令
①e-Gov法令検索「日本国憲法」79条
②e-Gov法令検索「裁判所法」39条,41条及び50条
2 公文書及び公式資料
①最高裁判所「阿多博文」
②最高裁判所「阿多博文最高裁判事就任記者会見の概要」令和8年2月2日
③阿多博文最高裁判所判事任命の閣議書令和7年12月23日,8頁
④裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
⑤同志社大学法科大学院「研究科長メッセージ(阿多博文先生の最高裁判所裁判官任命に際して)」令和7年12月23日
3 裁判例
①最高裁判所第一小法廷令和8年7月13日判決・令和6年(行ヒ)第281号
②最高裁判所第一小法廷令和8年7月16日判決・令和6年(オ)第720号,第721号
③大阪地方裁判所平成27年9月24日判決・平成25年(ワ)第1074号
④大阪地方裁判所平成13年11月30日判決・平成12年(ワ)第12540号
⑤最高裁判所第二小法廷平成11年4月16日判決・平成10年(受)第153号
⑥最高裁判所第一小法廷平成6年1月27日判決・平成3年(行ツ)第18号
4 ウェブ資料
阿多博文最高裁判所判事(42期)の経歴・弁護士実務・関与裁判(AIリライト)が関与した公開判例 (裁判所HPの判例検索で 6 件ヒット)
| 裁判所 | 裁判年月日 | 事件番号・事件名 | 全文 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| 最高裁判所 第一小法廷判決 | 令和8年 7月16日 |
令和6(オ)720
損害賠償請求本訴、同反訴事件 | 最高裁判例 | |
| 最高裁判所 第一小法廷判決 | 令和8年 7月13日 |
令和6(行ヒ)281
公有水面埋立撤回処分に対し国土交通大臣が なした裁決の取消請求事件 | 最高裁判例 | |
| 大阪地方裁判所 | 平成27年 9月24日 |
平成25(ワ)1074
著作権侵害差止等請求事件 | 知的財産裁判例 | |
| 大阪地方裁判所 | 平成13年 11月30日 |
平成12(ワ)12540
否認決定に対する異議請求 | 下級裁裁判例 | |
| 最高裁判所 第二小法廷判決 | 平成11年 4月16日 |
平成10(受)153
医薬品販売差止請求事件 | 最高裁判例 | |
| 最高裁判所 第一小法廷判決 | 平成6年 1月27日 |
平成3(行ツ)18
行政処分取消 | 最高裁判例 |
出典: 裁判所HPの判例検索(阿多博文) / 名寄せは姓名一致による自動取得のため、同姓同名の他裁判官の判例が含まれる場合があります / 任官前・退官後の判決 (上告代理人等の誤検出) は在任期間で自動除外しています / 最終取得: 2026.08.30