第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,テレビを持たずにスマートフォンやパソコンを使っている人が,日本放送協会(以下「NHK」という。)と受信契約を締結しなければならないのはどのような場合かを扱う。
令和7年10月1日に施行された放送法の改正により,NHKのインターネット配信が必須業務となり,NHKの配信の「受信を開始した者」も受信契約の締結義務を負うことになった(放送法64条1項2号)。
本記事では,この規定が何を要件としているのかを,条文,総務大臣の認可を受けた日本放送協会受信規約(以下「受信規約」という。),国会答弁及びワンセグ機能付き携帯電話等をめぐる裁判例によって整理する。
調査基準日は令和8年9月25日である。
放送法の条文はe-Gov法令検索の現行条文(令和7年10月1日施行分まで反映したもの),受信規約はNHKが公表している令和7年10月1日施行のものを確認した。
NHKが公表しているNHKインターネットサービス利用規約(以下「利用規約」という。)は,令和8年4月1日最終改定のもの及び同年10月1日改定予定のものを確認した。
受信料の消滅時効はNHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点で,訪問集金と弁護士法72条の関係はNHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断で扱っている。
2 結論
結論は次のとおりである。
①スマートフォンやパソコンを持っているだけでは,受信契約の締結義務は生じない。
②締結義務が生じるのは,NHKのテレビジョン放送の番組の同時配信・見逃し配信・番組関連情報の配信(ラジオ等を除く。)について,通信端末機器の操作を行って視聴又は閲覧を始めたときである(放送法64条1項2号,受信規約1条3項)。
③同じ世帯で既にテレビについて受信契約を締結しているときは,配信を利用しても新たな契約は要らない(放送法64条2項1号,受信規約2条1項4号)。
④ワンセグ機能付き携帯電話やテレビを受信できるカーナビは,配信ではなく放送の受信設備の問題であり,裁判例は,これらを持つことも「設置」に当たるとして締結義務を認めている。
⑤配信の受信を開始した人は,開始した月の翌々月の末日までに受信契約書を提出する必要があり,正当な理由なく遅れると割増金の対象になり得る(受信規約3条1項,12条2項2号)。
⑥配信の利用をやめても,解約の届出をしてNHKが事実を確認するまでは受信契約は終わらない(受信規約9条)。
第2 受信契約を締結しなければならない者
1 放送法64条1項の二つの類型
(1) 受信設備の設置と配信の受信開始
放送法64条1項は,「次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。」と定める。
1号は「特定受信設備を設置した者」,2号は「特定必要的配信の受信を開始した者」である。
改正前の同項は受信設備を設置した者だけを対象にしていたから,2号が令和7年10月1日の施行で加わった部分である。
(2) 特定受信設備
「特定受信設備」とは,NHKの放送を受信することのできる受信設備のうち,放送の受信を目的としない受信設備と,ラジオ放送又は多重放送に限り受信することのできる受信設備を除いたものをいう(放送法64条8項3号)。
テレビのほか,ワンセグ機能付きの携帯電話やカーナビのように放送を受信できる機器がこれに当たるかは,後記第4の裁判例の問題である。
(3) 特定必要的配信
NHKは,放送する全ての番組を放送と同時に配信し,放送した全ての番組を一定期間配信し,番組関連情報を配信する業務を行う(放送法20条1項3号~5号)。
これが必要的配信であり,そのうちラジオ放送,多重放送,国際放送及び協会国際衛星放送の番組等の配信を除いたものが「特定必要的配信」である(同法20条の3第9項)。
NHKの説明でも,「らじる★らじる」などラジオ関連サービスは受信契約の対象外とされている。
2 世帯で既に受信契約があるとき
放送法64条2項1号は,住居内設置等を行った者のうち,既に他の住居内設置等について受信契約を締結している者や,住居等及び生計を共にする者が既に受信契約を締結している者は,受信契約の締結を要しないと定める。
受信規約2条1項4号も,同一の世帯で住居にテレビ等の受信機を設置し,かつ,NHKの配信の受信を開始した場合は,一つの受信契約とすると定めている。
したがって,テレビについて受信契約がある世帯の家族がスマートフォンでNHKの配信を見ても,別の契約や追加の受信料は要らない。
NHKの説明によれば,本人や同居家族が別荘など自宅外で配信を利用する場合も,同一世帯内の利用として新たな受信契約は不要とされている。
3 契約の種別と受信料の額
テレビ等の受信機を設置せず,NHKの配信の受信を開始した者が締結するのは地上契約である(受信規約1条3項)。
受信料は地上契約で月額1,100円(沖縄県は月額965円)である(同規約5条1項・2項,別表1)。
受信料の免除の基準は,テレビ等の受信機を設置した場合と同じ枠組みで適用される(同規約10条)。
第3 「配信の受信を開始した」とはどういう状態か
1 受信規約の定義とNHKの義務
(1) 受信規約1条3項
受信規約1条3項は,「NHKの配信の受信を開始(通信端末機器の操作を行ないNHKの配信の視聴または閲覧を開始することをいう。以下同じ。)した者は地上契約を締結しなければならない。」と定める。
同項は続けて,NHKは,配信の受信を開始しようとする者に対し,利用の意思を確認するための措置として通信端末機器の操作を求めるものとしている。
つまり,受信契約の締結義務の要件は,機器を持っていることではなく,操作を行ってNHKの配信の視聴又は閲覧を始めたことである。
(2) 放送法20条の3第9項の誤受信防止措置
放送法20条の3第9項は,NHKに対し,特定必要的配信の受信を開始しようとする者に対して「通信端末機器の操作を求める措置その他の特定必要的配信の受信を目的としない者が誤つてその受信を開始することを防止するための措置を講じなければならない。」と義務付けている。
受信の意思がない人がウェブサイトやアプリを開いただけで受信を開始したことにならないよう,法律の段階で手当てをしたものである。
利用規約は,この措置としてNHKが特定必要的配信の受信を開始しようとする者に求める確認を「ご利用意向の確認」と呼んでいる(利用規約2条6号)。
なお,放送法20条の3第10項は,NHKが,受信契約を締結していない者による試行的な受信を可能とする措置を講ずることができるとし,その場合は配信の品質の制限その他の総務省令で定める措置を講じなければならないとしている。
利用規約31条1項は,NHKが,ご利用意向を確認していない利用者に対し,特定必要的配信の放送番組及び番組関連情報の一部を試行的に受信可能とする措置を講ずることがあり,その際は,試行的な措置であることが明確に伝わるよう,その旨を画面上に相当程度の大きさで常時表示するなどの措置を行うと定める。
同条2項は,災害その他の緊急事態において,公衆の生命又は身体の安全の確保のために必要な情報を提供するときは,この表示を必要最小限度のものとすることがあるとしている。
2 国会答弁
(1) 総務大臣の答弁
令和6年4月9日の衆議院本会議で,松本剛明総務大臣は,「本法案では、スマートフォン等が汎用的な機器であることを踏まえ、当該機器の保有だけでなく、例えば、アプリのダウンロードやIDの入力等の一定の操作等を行うことにより、受信契約の対象となるインターネット配信の受信を開始した者を受信契約締結義務の対象とすることとしております。」と答弁した。
同大臣は,具体的な手続はNHKが受信契約において定めることになるとも述べている。
(2) 総務省情報流通行政局長の答弁
令和6年4月25日の衆議院総務委員会で,小笠原陽一総務省情報流通行政局長は,IDやパスワードの取得,入力など,通信端末機器の一定の操作等を経て配信の受信を開始した者を締結義務の対象としていると説明し,「スマートフォン、PC等、通信端末を保有しているだけで契約義務が発生することはない」と答弁した。
同局長は,ワンセグ機能付き携帯電話は放送受信機能を有するため客観的に放送を目的としないとは認め難いとされたのに対し,配信の受信に使うスマートフォンやパソコンは基本的に汎用的な機器であるから,保有だけではなく,NHKの放送を受信できる環境と同等の受信環境に至る一定の行為を要件にしたと説明している。
(3) NHKの答弁
令和6年5月16日の参議院総務委員会では,NHKの小池英夫専務理事が,スマートフォンやパソコン等の通信端末を保有しているだけでは受信契約の締結義務は生じず,締結義務は特定必要的配信の受信を開始したところから生じると答弁した。
同専務理事は,受信を開始しようとする人に誤って受信を開始することがないよう一定の操作を求めることがNHKに義務付けられていると述べている。
3 NHKの運用
(1) 受信料の窓口の案内と受信規約7条の2
NHKの「受信料の窓口」の新規契約の案内は,NHKの配信サービスのウェブサイトやアプリにアクセスした際には,受信契約が必要であることを確認してもらうため,一定の操作を行った後にサービスの利用を開始してもらうと説明し,「スマホやパソコンを持っているだけでは受信契約の対象とはなりません」と明記している。
受信規約7条の2は,NHKが配信の受信を開始した者や通信端末機器に識別情報を付与し,受信契約を締結していることを確認するため,所定の情報の提供や手続を促す文字等を配信の画面に表示できると定める。
NHKの案内では,NHKの配信サービスのアカウントと受信料のアカウントを登録・連携すると受信契約が確認され,利用中のメッセージが表示されなくなるとされている。
(2) 利用規約の定め
受信規約7条の2第3項は,NHKが,識別情報の付与及びその利用方法並びに受信契約の確認を促す文字等の表示や同時に受信することのできる数等の制限(同条2項各号)について定めた利用規約を公表すると定めている。
利用規約は「識別情報」という語を用いていないが,受信契約の確認を促す文字等の表示や同時視聴等の制限に当たる定めは,その第3章「特定必要的配信の利用」に置かれている。
NHKは,特定必要的配信の受信を開始しようとする者に対してご利用意向を確認し,用途(世帯向け,事業向け又は学校向け)と地域(放送局)の設定を求める(利用規約17条)。
世帯で利用する場合,NHKは,世帯を代表する利用代表者に対し,メールアドレス及びパスワードを入力して行うNHK ONEアカウントの登録と,受信契約の締結の確認手続を求める(同規約19条1項,20条1項)。
1つの世帯で利用できるNHK ONEアカウントは1つであり,利用代表者は同じ世帯の者にアカウント及びこれに連携するプロファイルを利用させることができるが,世帯構成員以外の者に利用させてはならない(同規約20条2項,21条2号)。
NHKは,ご利用意向を確認した上で,NHK ONEアカウントの登録及びNHK ONEアカウントと「受信料の窓口」の受信料アカウントとの連携が確認できていない利用者に対し,配信の画面に手続等を促す文字等を表示することがある(同規約22条1項)。
利用代表者が受信契約者であれば自ら,受信契約者でなければ受信契約者に依頼してこの連携を行うと,ログインした状態では表示を停止させることができる(同条2項)。
同時視聴については,同一の通信端末機器又はブラウザで同時に視聴できる放送番組は1つとされ,1つのNHK ONEアカウントに作成できるプロファイルは最大5つ,同一のプロファイルで同時に視聴できる放送番組は1つとされている(同規約18条,20条2項3号)。
令和8年10月1日の改定後は,18条が同時に視聴できる放送番組等の数を制限することがあるとの定めに改められ,1つのNHK ONEアカウントで同時に視聴できる放送番組は最大5つとされる(改定後の同規約20条2項4号)。
もっとも,これらはNHKの運用や利用規約上の定めであり,どの画面でどの操作をした時点が放送法64条1項2号の「受信を開始した」に当たるかを法令が一義的に定めているわけではない。
利用規約も,ご利用意向の確認を受信を「開始しようとする者」に求めるものとして位置付けており(同規約2条6号,17条),確認をした時点で受信を開始したものとみなす旨の定めは置いていない。
4 スマホを持っているだけでは足りない理由
改正前から,NHKの放送を受信できる設備を「設置」すれば,実際に視聴するかどうかにかかわらず締結義務が生じる仕組みであった。
これに対し,配信の受信に使うスマートフォンやパソコンは,放送受信機能を持たない汎用機器であり,これを持っているだけでNHKの配信を受信できる環境にあるとはいえない。
そこで,改正法は,機器の保有ではなく,操作を経て受信を開始したことを,テレビを設置した者と「同等の受信環境」にあることの目印にしたと整理できる(放送法64条3項参照)。
第4 ワンセグ・カーナビ等の「設置」についての裁判例
1 ワンセグ機能付き携帯電話
(1) さいたま地裁平成28年8月26日判決
さいたま地方裁判所平成28年8月26日判決(平成27年(ワ)第1802号,判例時報2309号48頁)は,ワンセグ機能付き携帯電話を所有するがテレビを置いていない原告が,受信契約の締結義務の不存在確認を求めた事件である。
同判決は,放送法64条1項の「設置」は「携帯」の意味を含まないと解するのが相当であるとして,請求を認容した。
(2) 東京高裁平成30年3月26日判決
控訴審の東京高等裁判所平成30年3月26日判決(平成28年(ネ)第4426号,判例時報2379号56頁)は,原判決を取り消した。
同判決は,放送法の制定当時から「設置」には携帯型受信機を携行する場合も含まれていたと解され,その後の改正でこれが変更されたと解すべき事情もないとして,「設置」には「携帯」も含むとした。
また,放送の受信を目的としない受信設備に当たるかは設置者の主観的な目的ではなく客観的に判断すべきであり,ワンセグ機能がある携帯電話を客観的に放送を目的としないものと認めることはできないとした。
(3) 最高裁の決定
判例秘書には,放送受信契約締結義務不存在確認請求上告・上告受理申立事件について,最高裁判所第三小法廷平成31年3月12日決定(平成30年(オ)第1038号,平成30年(受)第1277号)が,上告を棄却し,上告審として受理しないとした決定が登載されている。
この決定の文面には原審の表示がないため,前記東京高裁判決に対する上告審であることは決定の文面だけからは確認できない。
また,決定の理由は,上告理由が民訴法312条1項・2項の事由に当たらず,上告受理申立ての理由も同法318条1項により受理すべきものとは認められないという定型の文言だけであり,ワンセグ機能付き携帯電話が「設置」に当たるかについて最高裁判所が理由を示して判断したものではない。
2 ワンセグ放送を受信できるカーナビ
東京地方裁判所令和元年5月15日判決(平成30年(ワ)第27892号)は,自家用自動車にワンセグ放送を受信できるカーナビを取り付けた原告について,受信設備を使用できる状態に置いたものであるから「設置した者」に当たるとした。
同判決は,カーナビを道案内のために購入し,ワンセグ放送を受信したことがないという主観的事情があっても,放送の受信を目的としない受信設備には当たらないとした。
なお,受信規約2条1項は,世帯構成員の自家用自動車等については住居の一部とみなすとしているから,世帯で受信契約があれば自家用車のカーナビについて別の契約は要らない。
3 NHKだけ映らないように加工したテレビ
(1) 東京地裁令和2年6月26日判決
東京地方裁判所令和2年6月26日判決(平成30年(ワ)第35011号,判例時報2512号13頁)は,NHKの放送の信号だけを減衰させるフィルターを取り付ける加工がされたテレビについて,元に戻すことは専門的知識を要し困難であるなどとして,NHKの放送を受信できる受信設備には当たらないとし,締結義務の不存在確認請求を認容した。
(2) 東京高裁令和3年2月24日判決
控訴審の東京高等裁判所令和3年2月24日判決(令和2年(ネ)第2643号,判例時報2512号8頁)は,原判決を取り消し,請求を棄却した。
同判決は,テレビジョン受信機にNHKの放送だけを受信できなくする付加機器を取り付けても,付加機器を取り外したり働かなくしたりすることでNHKの放送を受信できる状態にできる場合には,「その難易を問わず」,放送法64条1項の受信設備に当たるとした。
この控訴審判決に対する上告審の判断は,判例秘書では確認できなかった。
4 裁判例の射程
これらの裁判例は,いずれも令和7年10月の改正前の放送法64条1項(受信設備を設置した者についての規定)に関するもので,当時の同項ただし書は,放送の受信を目的としない受信設備等のみを設置した者を締結義務の対象から除いていた。
現行法では,放送の受信を目的としない受信設備は「特定受信設備」の定義から除かれている(放送法64条8項3号イ)。
他方,配信の受信を開始した者についての同条1項2号は,機器の性能や設置ではなく受信の開始を要件としているから,ワンセグ携帯やカーナビについての「設置」の解釈は,スマートフォンでの配信の利用にそのまま当てはまるものではない。
ワンセグ機能付きのスマートフォンを持っている場合には,配信を利用していなくても1号の問題になり得る点に注意を要する。
第5 手続,受信料の発生時期,割増金及び解約
1 受信契約書の提出期限と契約の成立
受信規約3条1項は,NHKの配信の受信を開始した者は,受信開始の月の翌々月の末日までに,氏名・住所,受信開始の日,契約種別等を記載した受信契約書を提出しなければならないと定める。
提出は書面のほか,電話やインターネット等の所定の方法でもできる(同条3項)。
受信契約は,受信開始者とNHKの双方の意思表示の合致の日に成立する(同規約4条)。
2 受信料が発生する月
受信契約者は,「受信機の設置またはNHKの配信の受信開始により受信契約の締結を要することとなった月の翌月から」,解約となった月の前月まで受信料を支払う(受信規約5条1項)。
また,配信だけの受信契約について,NHKが配信を月のうち半分以上行わなかった場合は,その月の受信料は徴収しないとされている(同規約13条4項)。
3 割増金
放送法64条5項4号ロは,正当な理由がなくて期限までに受信契約の申込みをしなかった場合に徴収することができる割増金の額等を受信契約の条項で定めるものとし,同条6項はその上限を総務省令で定める倍数で画している。
これを受けて受信規約12条2項2号は,NHKの配信の受信を開始した者が正当な理由なく期限までに受信契約書を提出せず,期限を経過した後に受信契約を締結した場合,受信開始の月の翌月から受信契約を締結した月の前月までの期間について,受信料に加えてその2倍に相当する額の割増金を請求できると定める。
割増金の制度一般と消滅時効との関係は,NHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点の第5で扱っている。
4 配信の利用をやめたとき
(1) 受信規約上の「終了」と解約の届出
受信規約3条2項は,NHKの配信の受信の「終了」を,「NHKの配信を以後、視聴または閲覧しなくなることをいう。」と定義している。
そして同規約9条は,受信機を廃止すること,NHKの配信の受信を終了すること等により受信契約を要しないこととなったときは,直ちに所定の事項を届け出なければならないとし,NHKにおいて事実を確認できたときに,届出の日に解約されたものとすると定める。
令和6年4月9日の衆議院本会議で,総務大臣も,配信の受信を開始した者がテレビ等を設置した者と同等の受信環境にある状態でなくなったときに締結義務はなくなると答弁しつつ,具体的な要件や手続はNHKが受信契約において定めると述べていた。
なお,利用代表者はいつでもNHK ONEアカウントを削除することができる(利用規約23条1項)が,利用規約には,アカウントの削除を受信規約9条の届出として扱う旨の定めは置かれていない。
(2) 一方的な解除の効力
名古屋地方裁判所令和8年4月21日判決(令和7年(ワ)第208号,裁判所HP未掲載)は,テレビを自宅に設置したまま受信規約9条の届出をせずに受信契約を解除する旨を通知した受信契約者に対し,NHKが約10年分の受信料の支払を求めた事件である。
同判決は,放送法64条1項が受信設備の設置により契約の締結を義務付けるものである以上,一度締結された受信契約を解除するには受信設備の撤去が必要であると解するのが自然であるとして,一方的な解除の効力を認めず,請求を全部認容した。
この事案はテレビについての受信契約であるが,配信の受信を開始して締結した受信契約でも,受信規約上は届出と事実の確認が解約の要件になっている点は同じである。
5 事業所の場合
事業所等の世帯以外の場合,配信の受信についての受信契約は,通信端末機器の数にかかわらず,配信の受信の本拠を設置場所とみなして,その設置場所ごとに締結する(受信規約2条2項3号)。
事業の用に供するため世帯構成員以外の者に視聴させ又は閲覧させることを目的として配信の受信を開始した場合は,事業所契約になる(同条3項2号)。
放送法64条8項5号ロも,他の者に視聴させ又は閲覧させることを目的としていることが明らかであるとNHKが認める場合を,世帯内の重複を免除する「住居内設置等」から除外している。
利用規約上,事業目的で特定必要的配信を受信する事業者は,NHK ONEアカウントを登録して事業所コードを取得し,受信契約を締結していることを確認するためにNHKが求める情報を提供して確認キーを取得する(利用規約25条1項)。
1つの事業所コード及び確認キーを入力できる通信端末機器の数は,その手続で事業者がNHKに提供した情報に記載した通信端末機器の数が上限とされる(同条6項3号)。
有効な事業所コード等の入力がない利用者には,入力を促す文字等が配信の画面に表示されることがある(同規約27条1項)。
第6 大法廷平成29年判決との関係と残る論点
1 大法廷平成29年判決の合憲判断
最高裁判所大法廷平成29年12月6日判決(平成26年(オ)第1130号ほか,民集71巻10号1817頁)は,受信料の仕組みを,現実に放送を受信するか否かを問わず,受信設備を設置することにより放送を受信することのできる環境にある者に「広く公平に負担を求める」ものと位置付けた。
そのうえで,放送法64条1項は,同法に定められたNHKの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして,憲法13条,21条,29条に違反しないと判断した。
この判断は,受信設備を設置した者に関する改正前の規定についてのものである。
2 配信への拡大についての政府の説明
令和6年4月9日の衆議院本会議で,総務大臣は,大法廷平成29年判決が受信料制度を,NHKの放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めるものとしていることに触れ,インターネット配信を受信できる環境になった者を締結義務の対象とすることは受信料制度の考え方にのっとったものであると説明した。
放送法64条3項が,受信設備の設置者と配信の受信開始者を「互いに同等の受信環境にある者」として,受信契約の内容を公平に定めることをNHKに求めているのも,同じ考え方による。
3 残る論点
配信の受信を開始した者に対する締結義務について,大法廷平成29年判決の合憲判断がそのまま及ぶのか,受信契約を締結しない配信の受信開始者に対してNHKが承諾の意思表示を命ずる判決を求めることができるのかを判断した裁判例は,本記事の調査の範囲(判例秘書で令和7年6月1日から令和8年9月25日までの「受信契約」を含む裁判例を検索)では見当たらなかった。
名古屋地方裁判所令和8年4月21日判決は,テレビ放送の受信契約とインターネットでNHKの番組を視聴できるサービスの位置付けの違いについて,後者はスマートフォンやパソコンを持っているだけでは受信可能とならないのに対し,前者は受信設備を設置すれば直ちに受信が可能となる点で前提が異なると述べている。
改正法の附則9条は,政府が施行後5年を経過した場合に施行状況を検討し,必要があると認めるときは所要の措置を講ずると定めている。
第7 関連記事
①NHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点
②NHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断
③最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧
第8 出典・参考資料
1 法令・受信規約・利用規約
①放送法(昭和25年法律第132号)2条,20条,20条の3,64条(e-Gov法令検索の現行条文及び令和7年9月30日時点の条文),附則(令和6年法律第36号)9条
②日本放送協会受信規約(令和7年10月1日施行)1条~5条,7条の2,9条,10条,12条,13条
③NHKインターネットサービス利用規約(最終改定日令和8年4月1日)2条,17条~23条,25条,27条,31条
④NHKインターネットサービス利用規約(令和8年10月1日改定予定)18条,20条(改定の概要はNHK「NHKインターネットサービス利用規約」の令和8年9月1日のお知らせ)
2 裁判例
①最高裁判所大法廷平成29年12月6日判決(平成26年(オ)第1130号,平成26年(受)第1440号,第1441号,民集71巻10号1817頁)
②さいたま地方裁判所平成28年8月26日判決(平成27年(ワ)第1802号,判例時報2309号48頁,裁判所HP未掲載・判例秘書で確認)
③東京高等裁判所平成30年3月26日判決(平成28年(ネ)第4426号,判例時報2379号56頁)
④最高裁判所第三小法廷平成31年3月12日決定(平成30年(オ)第1038号,平成30年(受)第1277号,裁判所HP未掲載・判例秘書で確認)
⑤東京地方裁判所令和元年5月15日判決(平成30年(ワ)第27892号)
⑥東京地方裁判所令和2年6月26日判決(平成30年(ワ)第35011号,判例時報2512号13頁)
⑦東京高等裁判所令和3年2月24日判決(令和2年(ネ)第2643号,判例時報2512号8頁)
⑧名古屋地方裁判所令和8年4月21日判決(令和7年(ワ)第208号,裁判所HP未掲載・判例秘書で確認)
3 国会会議録
①第213回国会衆議院本会議第19号(令和6年4月9日)松本剛明総務大臣の答弁
②第213回国会衆議院本会議第19号(令和6年4月9日)松本剛明総務大臣の答弁(受信契約の解約)
③第213回国会衆議院総務委員会第17号(令和6年4月25日)小笠原陽一政府参考人の答弁
④第213回国会衆議院総務委員会第17号(令和6年4月25日)小笠原陽一政府参考人の答弁(ワンセグとの違い)
⑤第213回国会参議院総務委員会第14号(令和6年5月16日)小池英夫参考人の答弁