目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 管理台帳に関する違反の範囲1 派遣元管理台帳2 派遣先管理台帳3 作成義務の例外を誤らない第3 指導・助言,報告及び立入検査1 指導・助言は派遣元と派遣先の双方が対象となる2 報告徴収と立入検査3 行政調査時に提出する資料第4 派遣元事業主に対する行政処分1 改善命令2 事業停止命令3 許可取消し4 処分命令違反には別の罰則がある第5 派遣先管理台帳の不備に対する効果1 派遣先にも指導・助言と罰則がある2 勧告・公表の対象条文を区別する3 派遣元への影響を分けて考える第6 刑事罰と両罰規定1 30万円以下の罰金2 両罰規定第7 不備が見つかったときの是正手順1 原記録を保全して対象を確定する2 補正記録を別に残す3 派遣元・派遣先間で差異を照合する4 再発防止策を運用に組み込む第8 関連記事第9 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,派遣元管理台帳又は派遣先管理台帳について,未作成,記載漏れ,保存期間不足又は派遣元への通知漏れが判明した場合の行政上・刑事上の効果と,実務上の是正手順を説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。
厚生労働省は同年10月1日適用版の業務取扱要領も公表しているため,同日以後の調査又は処分では適用版を改めて確認する必要がある。
本記事でいう「不備」には,単なる誤字だけでなく,法定事項の全部又は一部を作成・記載しないこと,所定期間保存しないこと及び派遣先が所定事項を派遣元へ通知しないことを含む。
2 結論
派遣元管理台帳の作成・記載・保存義務違反と,派遣先管理台帳の作成・記載・保存・通知義務違反は,いずれも30万円以下の罰金の対象となり得る。
法人等の従業者が業務に関して違反行為をした場合は,行為者だけでなく法人等にも罰金刑を科す両罰規定がある。
行政対応は一律ではない。
厚生労働大臣又は都道府県労働局長による指導・助言は派遣元及び派遣先の双方を対象とし得るが,改善命令,事業停止命令及び許可取消しは,派遣元事業主の事業運営又は許可に対する制度である。
したがって,派遣先管理台帳の一つの記載漏れが直ちに派遣元の許可取消し又は派遣先の事業停止になる,という関係にはない。
不備を発見したときは,事実に反する作成日を記載して遡及的に整った外観を作らず,原記録を保存した上で,判明日,対象者,対象期間,確認資料,補正内容,補正者及び再発防止策を記録することが重要である。
第2 管理台帳に関する違反の範囲
1 派遣元管理台帳
労働者派遣法37条は,派遣元事業主に対し,事業所ごとに派遣元管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求めている。
同条2項は,対象となる労働者派遣の終了日から3年間の保存を求めている。
違反となり得るのは,台帳を一切作成しない場合だけではない。
対象者又は派遣期間が欠けている,法定事項の一部を記載していない,出来事の都度記載すべき苦情処理や教育訓練等を記録していない,派遣終了後3年を経過する前に廃棄した,必要な電磁的記録を表示・出力できないなど,作成・記載・保存義務を実質的に果たしていない場合も問題となる。
2 派遣先管理台帳
労働者派遣法42条は,派遣先に対し,就業場所ごとに派遣先管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載し,3年間保存することを求めている。
派遣先は,日ごとの始業・終業時刻,休憩時間,実際に従事した業務,責任の程度及び就業場所等の所定事項を,原則として1か月ごとに1回以上派遣元へ通知する必要もある。
個別派遣契約に記載された予定をそのまま転記するだけでは,日々の就業実績を記録したことにならない。
勤怠,入退館記録,業務日報又は請求明細と異なる定型値を記載し続けている場合は,形式上欄が埋まっていても,実態を正確に記録しているかを確認する必要がある。
3 作成義務の例外を誤らない
労働者派遣法施行規則35条3項は,派遣先の事業所等における派遣労働者数と派遣先が雇用する労働者数の合計が5人以下である場合について,派遣先管理台帳の作成・記載義務の例外を定めている。
「派遣労働者が5人以下」であれば常に作成不要という基準ではない。
例外に該当すると判断した場合は,事業所等の範囲,判定時点,派遣労働者数,派遣先雇用労働者数及び合計人数を記録する。
台帳作成の例外に該当しても,労働時間管理,苦情処理,契約遵守その他の義務が当然に消滅するものではない。
第3 指導・助言,報告及び立入検査
1 指導・助言は派遣元と派遣先の双方が対象となる
労働者派遣法48条1項により,厚生労働大臣は,労働者派遣事業の適正な運営又は適正な派遣就業を確保するために必要があると認めるとき,労働者派遣をする事業主及び派遣を受ける者に対して指導・助言をすることができる。
この権限は,原則として都道府県労働局長が行使する。
厚生労働省の業務取扱要領は,違法行為が軽微である場合に直ちに行政処分又は司法処分を行わず自主的改善を促す場面のほか,法の趣旨に反する行為の改善や違法行為の予防にも指導・助言を用いると説明している。
したがって,指導を受けたことと,刑罰又は許可取消しを受けたことは同じではない。
2 報告徴収と立入検査
労働者派遣法50条により,厚生労働大臣は必要な限度で,派遣元及び派遣先に必要事項の報告を求めることができる。
同法51条1項による立入検査では,関係者への質問や帳簿・書類その他の物件の検査が行われ得る。
業務取扱要領は,検査対象となる重要書類の例として,派遣元管理台帳,派遣先管理台帳及び労働者派遣契約を明示している。
報告をしない,又は虚偽の報告をすること,立入検査を拒み,妨げ,若しくは忌避し,又は質問に答弁せず若しくは虚偽の陳述をすることは,台帳の元の不備とは別の罰則対象となり得る。
3 行政調査時に提出する資料
台帳だけを切り離して提出すると,作成単位,更新時期及び実績との一致を説明できないことがある。
対象期間の基本契約,個別契約,派遣元から派遣先への通知,勤怠,派遣元への月次通知,請求書,苦情記録,変更契約及び訂正履歴をそろえ,どの資料から各記載を確認できるかを示す。
欠落がある場合は,不存在を隠すために資料を作り替えず,欠落期間,原因,代替資料の有無及び現在の補正状況を説明する。
提出した版,提出日,提出先及び説明内容を記録し,後の説明と矛盾しないようにする。
第4 派遣元事業主に対する行政処分