第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,裁判官の早期退職と依願退官に関して,最高裁判所に司法行政文書の開示を申し出た次の4件について,不開示通知書,理由説明書,答申書及び苦情対応通知の内容を整理するものである。
①早期退職が認められなかった裁判官の人数が年度別に分かる文書(令和6年~令和7年)
②早期退職への応募を考えている裁判官又は職員から手続の問合せがあった場合の受け答えに使用しているマニュアル(令和2年~令和3年)
③裁判官の辞表の書式を定めた文書(令和2年~令和3年)
④早期退職した裁判官のうち公証人に就いている人数が分かる文書(令和元年~令和2年)
いずれの文書も,当ブログに掲載しているPDF(第9の2)又は裁判所HPに掲載された答申書(第9の3)で確認したものである。
早期退職の制度そのものは,裁判官の早期退職とは―50歳以上(簡易裁判所判事は55歳以上)の募集,応募と認定,退職手当の割増し及び関係資料で整理している。
2 結論の要旨
4件とも,最高裁判所は「作成又は取得していない」ことを理由に不開示とし,苦情の申出を受けて諮問された情報公開・個人情報保護審査委員会も,いずれも不開示の判断を妥当とした。
不存在とされた理由は,①は作成又は取得を要する事情がないこと,②は問合せには個別に対応しており,募集実施要項に手続が詳細に記載されていること,③は退官を願い出る際の書式は定められていないこと,④は退官後に公証人に任命された者の人数を最高裁判所が把握する必要がないことである。
そのため,早期退職を希望したのに認められなかった裁判官の人数は,最高裁判所の開示文書からは分からない。
第2 開示の申出と苦情の申出の流れ
裁判所の保有する司法行政文書の開示は,「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱」(以下「取扱要綱」という。)に基づいて行われている。
各答申書は,開示の申出が取扱要綱記第2に定めるものであり,不開示の判断に対して取扱要綱記第11の1に定める苦情が申し出られ,最高裁判所事務総長から情報公開・個人情報保護審査委員会に諮問がされたという形で事案を説明している。
本記事の4件では,次の順で手続が進んでいる。
①開示の申出に対する最高裁判所事務総長の不開示通知
②苦情の申出を受けた最高裁判所の諮問と,同委員会からの諮問番号の通知及び理由説明書の写しの送付
③同委員会の答申と答申書の写しの送付
④答申を踏まえた最高裁判所事務総長の苦情対応通知
第3 早期退職が認められなかった裁判官の人数(令和6年~令和7年)
1 開示の申出の内容
令和6年11月20日付の開示の申出の対象は,次の文書である。
「早期退職を希望したものの、『引き続き職務に従事することが公務の能率的運営を確保し、又は長期的な人事管理を計画的に推進するために特に必要であると認める場合』に該当するとして早期退職が認められなかった裁判官の人数が年度別に分かる文書(平成25年度以降のもの)」
かぎ括弧内の文言は,裁判官向けの募集実施要項(令和8年4月28日付のものでは6項(2)エ)が掲げる不認定の事由の一つであり,国家公務員退職手当法8条の2第5項4号の「応募者を引き続き職務に従事させることが公務の能率的運営を確保し、又は長期的な人事管理を計画的に推進するために特に必要であると認める場合」に対応する。
2 最高裁判所の判断と理由説明書
最高裁判所事務総長は,令和6年12月20日付で,1の文書は作成又は取得していないとして不開示とした。
苦情の申出(令和6年12月27日受付)を受けて,最高裁判所は令和7年1月27日に諮問し,同委員会は令和6年度(最情)諮問第51号として受理した。
同日付の理由説明書は,最高裁判所において本件開示申出に係る文書を探索したところ存在しなかったとし,苦情申出人は本件開示申出文書が本当に存在しないかどうか不明である旨主張するが,その作成又は取得を要する事情がなく,実際にも作成又は取得していないと説明している。
3 答申(令和7年度(最情)答申第24号)
同委員会は,令和7年7月31日,令和7年度(最情)答申第24号で,原判断を妥当とした。
答申は,最高裁判所事務総長は本件開示申出文書を探索したが存在しなかったこと,及び作成し又は取得する必要性もないことを説明しているとし,同委員会の庶務を通じて確認した事実に照らしても,作成又は取得を要する事情があるとは認められず,その説明に特段不合理な点はないと判断している。
最高裁判所事務総長は,令和7年9月5日付の苦情対応通知で,この答申を受けたことを踏まえ,不開示の判断を相当と通知した。
4 読み方
国家公務員退職手当法8条の2第6項は,認定をしない旨の決定をした場合は理由を含めて応募者に書面で通知するものとしているが,不認定の件数を集計することまでは定めていない。
同条9項が内閣総理大臣への報告を求めているのも,認定を受けた応募者の数であり,認定されなかった応募者の数ではない。
答申の判断は,この条文の構造とも整合していると考えられる。
不認定の人数が分からない以上,実際に依願退官した裁判官の人数と時期から推し量るほかない。
50歳以上で依願退官した裁判官の一覧は,50歳以上の裁判官の依願退官の情報にまとめている。
第4 応募手続の問合せに使用しているマニュアル(令和2年~令和3年)
1 開示の申出と不開示
令和2年9月15日付で,次の2件の開示を申し出た。
①早期退職への応募を考えている裁判官から応募等の手続に関する問い合わせがあった場合の受け答えに使用している,人事局任用課実施係のマニュアルその他の文書(最新版)
②早期退職への応募を考えている職員から応募等の手続に関する問い合わせがあった場合の受け答えに使用している,人事局総務課退職給与係のマニュアルその他の文書(最新版)
最高裁判所事務総長は,①については令和2年10月16日付で,②については同月19日付で,いずれも作成又は取得していないとして不開示とした。
人事局任用課(実施係)は裁判官向けの募集実施要項の,人事局総務課(退職給与係)は一般職向けの募集実施要項の問合せ先である。
2 理由説明書
①の不開示に対する苦情の申出(令和2年10月22日受付)について,最高裁判所は令和2年11月24日に諮問した(令和2年度(最情)諮問第24号)。
苦情申出人は,毎年4回作成される最高裁判所長官名義の「早期退職希望者の募集実施要項」には,応募等の手続に関する問合せ先として人事局任用課(実施係)の電話番号が記載されているから,本件対象文書は存在するといえると主張した。
同日付の理由説明書は,早期退職希望者の募集手続に関する問合せがあった場合に備えてマニュアルその他の文書を組織的に作成することを予定するような定めはなく,また,問合せがあった場合は個別に対応していることから,マニュアルその他の文書を作成する必要もないと説明している。
3 答申(令和2年度(最情)答申第57号)
同委員会は,令和3年3月23日,令和2年度(最情)答申第57号で,原判断を妥当とした。
答申は,同委員会の庶務を通じて「早期退職希望者の募集実施要項」を確認した結果,同要項には募集の対象や人数,期間,応募等の手続について詳細に記載されていることが認められるとし,その記載内容も踏まえれば,本件開示申出文書を作成する必要はなく,作成又は取得していないとする説明が不合理とはいえないと判断している。
最高裁判所事務総長は,令和3年4月26日付の苦情対応通知で,不開示の判断を相当と通知した。
②(一般職の問合せ)について当ブログに掲載しているのは,令和2年10月19日付の不開示通知書である。
第5 裁判官の辞表の書式(令和2年~令和3年)
1 開示の申出と不開示
令和2年10月5日付で「裁判官の辞表の書式を定めた文書(最新版)」の開示を申し出たところ,最高裁判所事務総長は,令和3年3月8日付で,作成又は取得していないとして不開示とした。
2 答申(令和3年度(最情)答申第20号)
苦情の申出を受けて,最高裁判所は令和3年4月14日に諮問した(令和3年度(最情)諮問第3号)。
最高裁判所事務総長は,本件開示申出を「裁判官が最高裁判所に任期中の退官を願い出る際の書式を定めた文書(最新版)」と整理した上で,任期中の退官を願い出る際の書式は定められておらず,本件開示申出に係る文書は作成又は取得していないと説明した。
同委員会は,令和3年9月28日,令和3年度(最情)答申第20号で,原判断を妥当とした。
答申は,開示申出書の記載を踏まえれば上記の整理は合理的であるとし,裁判官が退官を願い出る際の書式については,その事柄の性格上,作成する必要性は認められないから,書式は定められていないとする説明が不合理とはいえないと判断している。
最高裁判所事務総長は,令和3年11月4日付の苦情対応通知で,不開示の判断を相当と通知した。
3 読み方
答申によれば,裁判官が任期中の退官を願い出る際の決まった書式は存在しない。
早期退職に応募する場合は,募集実施要項が示す応募申請書(別記様式第一)を提出するのであり,辞表の書式とは別のものである。
依願退官の手続は,50歳以上の裁判官の依願退官の情報の第1で説明している。
第6 早期退職した裁判官のうち公証人になった人数(令和元年~令和2年)
1 開示の申出と不開示
令和元年5月23日付で「早期退職した裁判官のうち,何人が公証人に就いていることが分かる文書(最新版)」の開示を申し出たところ,最高裁判所事務総長は,令和元年8月19日付で,作成又は取得していないとして不開示とした。
2 理由説明書
苦情の申出を受けた令和元年9月18日付の理由説明書によれば,苦情申出人は,5月にされた読売新聞の報道からすれば本件対象文書は存在するはずであると主張した。
理由説明書は,本件開示申出を「定年前に裁判官を退官した者のうち,公証人に任命されたものが何人いるかが分かる文書(最新版)」と整理した上で,定年前に裁判官を退官し,退官後に公証人に任命された者の人数を最高裁判所が把握する必要はなく,本件申出に係る文書は作成又は取得していないと説明している。
3 答申(令和2年度(最情)答申第11号)
同委員会は,令和2年8月24日,令和2年度(最情)答申第11号で,原判断を妥当とした(諮問は令和元年度(最情)諮問第38号)。
答申は,公証人は法務大臣が任命するものとされ(公証人法11条),公証人となるための資格も同法に規定されているとした上,同委員会の庶務を通じて確認した結果によれば,現在,公証人の任用については公募制度が採用され,公証人を希望する者は公募に応じて所要の審査を経て法務大臣に任命される必要があり,最高裁判所は公証人の公募及び任命には関与しておらず,裁判官に公証人ポストをあっせんすることはないことが認められると述べている。
その上で,定年前に裁判官を退官して公証人に任命された者の人数を最高裁判所が把握する必要はないから,文書を作成又は取得していないとの説明は不合理とはいえないとし,報道を根拠とする苦情申出人の主張については,当該報道は説明の合理性を覆すものではないとして採用しなかった。
最高裁判所事務総長は,令和2年10月1日付の苦情対応通知で,この答申を受けたことを踏まえ,不開示の判断を相当と通知した。
4 同じ日の答申第12号・第13号
同じ令和2年8月24日には,公証人に関する次の2件の答申も出されており,いずれも文書の不存在を理由とする不開示の判断を妥当としている。
①令和2年度(最情)答申第12号:公証人の公募前に,現職の裁判官に対し,公証人ポストをあっせんする際のマニュアル(最高裁判所は裁判官に公証人ポストをあっせんしていないとの説明)
②令和2年度(最情)答申第13号:最高裁が法務省から受領した,公募前の公証人の空きポストが書いてある文書(最高裁判所は法務省からそのような文書を受領していないとの説明)
答申の判断の理由は,第11号と同じく,公証人の任用は公募制度によっており,最高裁判所は公募及び任命に関与していないというものである。
裁判官を退官した後に公証人に任命された人の状況は,平成18年度以降の,公証人の任命状況にまとめている。
第7 4件に共通する読み方
4件とも,不開示の理由は文書の不存在であり,その説明は「作成又は取得していない」というものである。
同委員会は,最高裁判所がその文書を作成し又は取得する必要があるかという観点から説明の合理性を検討しており,問合せへの個別対応,募集実施要項の記載,書式の不要性,人数を把握する必要の不存在といった事情を挙げて,いずれも不合理とはいえないとしている。
早期退職に関して公表されている数字としては,国家公務員退職手当法8条の2第10項に基づき,内閣官房内閣人事局が,各年度の募集実施要項と国家公務員全体で認定を受けた職員の総数を「早期退職募集制度について」に掲載している。
退職準備等説明会の配布資料についての開示申出と答申は,裁判所の退職準備等説明会―最高裁・大阪高裁等の不開示と答申,東京高裁の令和元年10月30日の配布資料で整理している。
第8 関連記事
①裁判官の早期退職とは―50歳以上(簡易裁判所判事は55歳以上)の募集,応募と認定,退職手当の割増し及び関係資料
②令和8年4月の裁判所の早期退職募集実施要項2通を読む―裁判官6人・一般職29人の募集,認定の順位,応募の締切及び退職手当の割増し
③早期退職希望者の募集実施要項(裁判官向け)
④裁判所の退職準備等説明会―最高裁・大阪高裁等の不開示と答申,東京高裁の令和元年10月30日の配布資料
⑤50歳以上の裁判官の依願退官の情報
⑥裁判官の退官情報
⑦平成18年度以降の,公証人の任命状況
第9 出典
1 法令
①国家公務員退職手当法8条の2(e-Gov法令検索)
②公証人法11条(e-Gov法令検索)
2 開示関係文書
①R061220 最高裁の不開示通知(早期退職が認められなかった裁判官の人数が年度別に分かる文書)
②R070127 最高裁の諮問通知(早期退職が認められなかった裁判官の人数)
③R070203 最高裁の理由説明書(早期退職が認められなかった裁判官の人数)
④R070203 最高裁の諮問番号通知(早期退職が認められなかった裁判官の人数)
⑤R070731 最高裁の答申書(裁判官の早期退職)
⑥R070905 最高裁の苦情対応通知(裁判官の早期退職の不承認)
⑦R021016 最高裁の不開示通知書(早期退職への応募を考えている裁判官から応募等の手続に関する問い合わせがあった場合の受け答え)
⑧R021019 最高裁の不開示通知書(早期退職への応募を考えている職員から応募等の手続に関する問い合わせがあった場合の受け答え)
⑨R021124-R021201 最高裁の理由説明書等(早期退職への応募を考えている裁判官から応募等の手続に関する問い合わせがあった場合の受け答えに使用しているマニュアル)
⑩R030323 答申書(早期退職への応募を考えている裁判官から応募等の手続に関する問い合わせがあった場合の受け答えに使用している,人事局任用課実施係のマニュアルその他の文書)
⑪R030426 最高裁の苦情対応通知(早期退職への応募を考えている裁判官から応募等の手続きに関する問い合わせがあった場合の受け答え)
⑫R030308 最高裁の不開示通知書(裁判官の辞表の書式を定めた文書)
⑬R030928 答申書(裁判官の辞表の書式を定めた文書)
⑭R031104 最高裁の苦情対応通知(裁判官の辞表の書式を定めた文書)
⑮R010819 不開示通知書(早期退職した裁判官のうち,何人が公証人に就いていることが分かる文書)
⑯R010918 理由説明書(早期退職した裁判官のうち,何人が公証人に就いていることが分かる文書)
⑰R0201001 最高裁の苦情対応通知(早期退職した裁判官のうち,何人が公証人に就いていることが分かる文書)
3 裁判所HPに掲載された答申書
①令和7年度(最情)答申第24号(令和7年7月31日)
②令和2年度(最情)答申第57号(令和3年3月23日)
③令和3年度(最情)答申第20号(令和3年9月28日)
④令和2年度(最情)答申第11号(令和2年8月24日)
⑤令和2年度(最情)答申第12号(令和2年8月24日)
⑥令和2年度(最情)答申第13号(令和2年8月24日)
4 募集実施要項
①早期退職希望者の募集実施要項(令和8年4月28日付の最高裁判所長官の文書)