第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,裁判所で退職を控えた職員向けに開かれる「退職準備等説明会」について,最高裁判所,大阪地方裁判所,大阪高等裁判所及び東京高等裁判所に対して配布資料の開示を申し出た経過と,当ブログに掲載している東京高等裁判所の令和元年10月30日の説明会の資料の内容を整理するものである。
いずれの文書も,当ブログに掲載しているPDF(第7の2・3)又は裁判所HPに掲載された答申書(第7の4)で確認したものである。
2 結論の要旨
①最高裁判所は,裁判官を対象とした退職準備等説明会は実施しておらず,最高裁判所では裁判官以外の職員を対象とした説明会も実施していないと説明し,情報公開・個人情報保護審査委員会もその説明を不合理とはいえないとした(令和2年度(最情)答申第32号)。
②同委員会は,裁判官の定年退職の日は生年月日により定まるもので,多くの者が一時に退職することは想定し難いことも踏まえて,裁判官を対象とした説明会を実施していないとの説明を不合理とはいえないとしている。
③大阪高等裁判所は,少なくとも直近の数年間は裁判官を含む裁判所職員を対象とした説明会を実施しておらず,それ以前の実施状況も不明であるとして,配付資料は存在しないとした(令和4年度(情)答申第8号で妥当)。
④説明会の実施の要否は各庁の判断に委ねられており,最高裁判所が概算要求で経費を要求していても,各庁で必ず実施されるものではないとされている。
⑤東京高等裁判所の令和元年10月30日の説明会の資料は,退職手当と税金,早期退職募集制度,再任用制度と再就職規制,資産運用,共済組合の医療保険と年金を内容としている。
第2 最高裁判所に対する開示の申出(令和元年~令和2年)
1 開示の申出と不開示
令和元年11月12日付で,次の2件の開示を申し出た。
①裁判官向けの,退職準備等説明会における配布資料(最新版)
②裁判所の一般職向けの,退職準備等説明会における配布資料(最新版)
最高裁判所事務総長は,令和元年12月5日付で,いずれも作成又は取得していないとして不開示とした。
2 理由説明書
苦情の申出(令和2年1月8日受付)について,最高裁判所は,令和2年2月7日付で,対応の準備等に時間を要しているため30日以内に諮問できないと通知した上,同年3月9日に情報公開・個人情報保護審査委員会に諮問した(令和元年度(最情)諮問第61号)。
同日付の理由説明書は,①を「裁判官を対象とした退職準備等説明会で配布した資料(最新版)」と整理し,裁判官を対象とした退職準備等説明会は実施していないので,対象文書は作成又は取得していないと説明している。
②については「裁判官以外の裁判所職員を対象とした退職準備等説明会で配布した資料(最新版)」と整理し,最高裁判所において裁判官以外の裁判所職員を対象とした退職準備等説明会は実施しておらず,下級裁判所における同説明会の配布資料も取得していないと説明している。
3 答申(令和2年度(最情)答申第32号)
同委員会は,令和2年11月26日,令和2年度(最情)答申第32号で,原判断を妥当とした。
①について,答申は,裁判官の定年退職の日は当該裁判官の生年月日により定まるものであることからも(日本国憲法79条5項,80条1項,裁判所法50条参照),多くの者が一時に退職することは想定し難いことも踏まえれば,裁判官を対象とした説明会は実施していないとの説明は不合理とはいえないとしている。
②について,答申は,同委員会の庶務を通じて確認した結果によれば,最高裁判所において退職する職員は多くないことが認められ,下級裁判所の同説明会の実施はそれぞれの下級裁判所に委ねられ,最高裁判所においてその状況を掌握する必要があるものとは推察されないとして,説明は不合理とはいえないとしている。
最高裁判所事務総長は,令和2年12月25日付の苦情対応通知で,この答申を受けたことを踏まえ,不開示の判断を相当と通知した。
第3 下級裁判所に対する開示の申出(令和2年~令和4年)
1 大阪地方裁判所と大阪高等裁判所
令和2年12月6日付で,大阪地方裁判所と大阪高等裁判所に対し,次の2件の開示を申し出た。
①裁判官を対象とした退職準備等説明会における配付資料(最新版)
②裁判官以外の裁判所職員を対象とした退職準備等説明会における配付資料(最新版)
大阪地方裁判所長は令和3年3月1日付で,大阪高等裁判所長官は同年8月19日付で,いずれも各文書は存在しないとして不開示とした。
2 大阪高等裁判所の不開示に対する苦情と理由説明書
大阪高等裁判所の不開示に対する苦情の申出(令和3年11月11日受付)について,最高裁判所は,同年12月13日付で30日以内に諮問できないと通知した上,令和4年1月13日に諮問した(令和3年度(情)諮問第41号)。
苦情申出人は,最高裁判所が令和4年度概算要求においても退職準備等説明会に要する経費を要求していることからすれば,本件対象文書は存在すると主張した。
同日付の理由説明書は,大阪高等裁判所において文書を探索したが見つからなかったとした上,同庁では過去に裁判官を含む裁判所職員を対象とした退職準備等説明会を実施した可能性はあるものの,少なくとも直近の数年間は同説明会を実施しておらず,それ以前の実施状況も不明であり,文書を作成又は取得したか否か及び作成又は取得後に廃棄したのか否かが判然としないことから,不開示の理由を「存在しない。」としたと説明している。
また,最高裁判所は概算要求において退職準備等説明会に要する経費を要求しているものの,同説明会の実施の要否等は各庁の実情に応じた各庁の判断に委ねられており,同説明会が実施されないこともあるから,予算措置がされても同庁で必ず実施されるものではないとしている。
3 答申(令和4年度(情)答申第8号)
同委員会は,令和4年5月24日,令和4年度(情)答申第8号で,原判断を妥当とした。
答申は,同委員会の庶務を通じて確認したところ,大阪高等裁判所において少なくとも直近の数年間は同説明会を実施していないこと及び以前に実施した可能性はあるもののその実施状況は不明であることが認められたとし,最高裁判所事務総長の説明に特段不自然な点は見当たらないとしている。
概算要求の主張については,同委員会の庶務を通じて確認した結果によれば,直近において説明会が実施されたことのある裁判所もあったとした上,同説明会が当該裁判所において退職することとなる職員の退職準備の支援を目的として実施されるものであることを踏まえると,実施の要否等が各庁の判断に委ねられているとの説明は不合理とはいえないとしている。
最高裁判所事務総長は,令和4年6月29日付の苦情対応通知で,大阪高等裁判所がした不開示の判断を相当と通知した。
4 東京高等裁判所
東京高等裁判所長官は,令和4年1月13日付で,「令和元年度中に作成した裁判官を対象とした退職準備等説明会における配付資料」について,作成又は取得していないとして不開示とした。
第4 東京高等裁判所の令和元年10月30日の説明会の資料
1 資料の構成
当ブログに掲載している令和元年10月30日開催の退職準備等説明会の資料(東京高裁)は全134頁であり,おおむね次の資料から成っている。
| PDFの頁 | 資料 | 作成者等 |
|---|---|---|
| 1頁~16頁 | 退職手当及び税金等について(退職手当額の計算方法,税金,早期退職募集制度,退職手当支給率早見表(抜粋)等の参考資料,退職手当額試算ワークシート) | 東京高等裁判所事務局人事課給与第一係 |
| 17頁~22頁 | 再任用制度(制度の概要)及び再就職規制について(令和元年10月30日) | 東京高等裁判所人事課任用第二係 |
| 23頁~41頁 | 再就職に関する規制Q&A(平成21年3月作成,平成30年1月一部改定) | 最高裁判所事務総局人事局 |
| 42頁~53頁 | 退職後の生活設計と資産運用~主な金融商品の特徴・選び方~(2019年10月30日,東京高等裁判所(合同開催)) | 日本証券業協会 |
| 54頁~91頁 | 退職準備説明会資料(退職後の医療保険制度,任意継続組合員制度,退職時に必要な諸手続,年金制度の概要等)及び医療保険制度についての説明資料 | 裁判所共済組合東京支部,東京高等裁判所会計課共済組合第三係 |
| 92頁~134頁 | 令和元年度退職準備説明会(年金について),年金請求書の様式等 | 裁判所共済組合東京支部,東京高等裁判所会計課共済組合第三係 |
共済組合の資料の一部は,令和元年10月30日開催の退職準備説明会資料(裁判所共済組合東京支部),令和元年度退職準備説明会(医療保険制度について)及び令和元年度退職準備説明会(年金について)としても掲載している。
2 早期退職募集制度の説明
「退職手当及び税金等について」は,説明の順序として「退職手当額の計算方法」「税金について」「早期退職募集制度について」を挙げている。
早期退職募集制度の部分では,応募認定退職の基本額は退職日俸給月額に支給率を乗じたもので,支給率は定年退職と同率であるとし,定年前早期退職特例措置による加算として,原則として定年と退職日における年齢との差に相当する年数1年につき3%加算し,その年数が1年の場合は2%加算すると説明している。
退職日が定年に達する日から6月前の日の翌日以後となる場合,勤続期間が20年に満たない場合,年齢が定年から15年を減じた年齢に満たない場合は,要件を満たさず加算はないとされている。
この説明は令和元年当時のものである。
一般職の職員の定年は令和5年4月以降段階的に引き上げられており,現在の読み方は令和8年4月の裁判所の早期退職募集実施要項2通を読む―裁判官6人・一般職29人の募集,認定の順位,応募の締切及び退職手当の割増しの第6で整理している。
3 再任用と再就職規制の説明
「再任用制度(制度の概要)及び再就職規制について」は,定年退職者等を対象とする再任用の任用・任期,諸手当,選考の時期等と,在職中の求職の規制,再就職の約束をした場合の届出,管理職職員であった者が再就職する場合の届出等を説明している。
これに続く最高裁判所事務総局人事局の「再就職に関する規制Q&A」は,裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の再就職規制を問答形式で説明したものである。
再就職の状況の公表と関係文書は,裁判所職員の再就職にまとめている。
第5 資料を読む際の留意点
①最高裁判所の説明と答申によれば,裁判官を対象とした退職準備等説明会は実施されておらず,裁判官の退職準備に向けた説明会の配布資料は開示の対象として存在しない。
②下級裁判所の説明会は各庁の判断で実施されるものであり,実施の有無と内容は庁によって異なり得る。
③東京高等裁判所の令和元年10月30日の資料は,再任用制度の説明など,裁判官以外の職員を念頭に置いた内容を含む。
④資料の数値と制度の説明は令和元年当時のものであり,退職手当の割増しの要件,年金,医療保険等は,その後の改正を確かめる必要がある。
裁判官の早期退職の制度と退職手当の割増しは,裁判官の早期退職とは―50歳以上(簡易裁判所判事は55歳以上)の募集,応募と認定,退職手当の割増し及び関係資料で整理している。
第6 関連記事
①裁判官の早期退職とは―50歳以上(簡易裁判所判事は55歳以上)の募集,応募と認定,退職手当の割増し及び関係資料
②裁判官の早期退職に関する最高裁の情報公開―不認定の人数,辞表の書式,応募手続のマニュアル及び公証人になった人数
③令和8年4月の裁判所の早期退職募集実施要項2通を読む―裁判官6人・一般職29人の募集,認定の順位,応募の締切及び退職手当の割増し
④裁判官以外の裁判所職員の早期退職希望者の募集実施要項(一般職向け)
⑤裁判所職員の再就職
⑥裁判所の指定職職員
⑦裁判官の退官情報
第7 出典
1 法令
①日本国憲法79条・80条(e-Gov法令検索)
②裁判所法50条(e-Gov法令検索)
2 開示関係文書
①R011205 最高裁の不開示通知書(退職準備等説明会における配布資料)
②R020207-R020313 最高裁判所の理由説明書等(退職準備等説明会における配布資料)
③R021204 答申書(裁判官又は裁判所の一般職向けの,退職準備等説明会における配布資料)
④R021225 最高裁の苦情対応通知(裁判官向けの,退職準備等説明会における配布資料)
⑤R030301 大阪地裁の不開示通知書(裁判官を対象とした退職準備等説明会における配布資料 他)
⑥R030819 大阪高裁の不開示通知書(裁判官又は裁判所職員を対象とした退職準備等説明会における配布資料)
⑦R031213-R040120 最高裁の理由説明書等(大阪高裁の退職準備等説明会における配布資料)
⑧R040524 答申書(大阪高裁における退職準備等説明会の配布資料)
⑨R040629 最高裁の苦情対応通知(退職準備等説明会における配布資料)
⑩R040113 東京高裁の不開示通知書(裁判官を対象とした退職準備等説明会における配布資料等)
3 説明会の資料
①令和元年10月30日開催の退職準備等説明会の資料(東京高裁)
②令和元年10月30日開催の退職準備説明会資料(裁判所共済組合東京支部)
③令和元年度退職準備説明会(医療保険制度について)
④令和元年度退職準備説明会(年金について)