第1 裁判所の指定職職員の法的位置付け
1 一般職給与法が準用される
裁判所職員臨時措置法は,裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員について,一般職の職員の給与に関する法律その他の一般職国家公務員法制を準用している。
そのため,裁判所の文書は,行政機関の指定職俸給表の「適用」ではなく,指定職俸給表の「準用」を受ける職員と表現している。
指定職は,事務次官,外局の長その他の職務と責任が特に重い官職に用いられる俸給制度であり,一般の行政職俸給表のような職務の級は設けられていない。
2 官職別号俸,級別定数,人事上の昇進及び叙勲は別の制度である
官職別の指定職号俸は,その官職の職務と責任に対応する給与上の区分である。
これに対し,級別定数は行政職俸給表等の各級に配置できる定員を定める制度であり,指定職官職ごとの号俸対応とは異なる。
また,特定の官職への就任が人事運用上どのような昇進段階に当たるかという評価や,退職後にどの勲章を受章したかという実績も,指定職号俸とは別に検討する必要がある。
本記事では,指定職号俸から叙勲の種類が当然に決まるとは扱わない。
第2 平成30年6月6日裁判官会議議決における官職別号俸
1 公開資料で確認できる基準時点
指定職俸給表の準用を受ける職員の号俸について(平成30年6月6日付の最高裁判所裁判官会議議決)は,次の25官職について8号俸,3号俸又は2号俸を対応させている。
今回確認した公開資料の範囲では,同議決を改廃した後続の裁判官会議議決を確認できなかった。
したがって,以下は平成30年6月6日時点の公開議決に基づく対応であり,令和8年現在の官職別号俸であるとまでは断定できない。
2 8号俸の官職
(1) 最高裁判所事務総長
8号俸は,最高裁判所事務総長1人である。
3 3号俸の官職
(1) 最高裁判所関係
① 最高裁判所審議官
② 大法廷首席書記官
③ 最高裁判所家庭審議官
(2) 下級裁判所関係
① 東京高等裁判所事務局次長
3号俸は,以上の4官職である。
4 2号俸の官職
(1) 最高裁判所関係
① 第一小法廷,第二小法廷及び第三小法廷の各首席書記官
② 訟廷首席書記官
③ 裁判所職員総合研修所事務局長
(2) 下級裁判所関係
① 大阪,名古屋,広島,福岡,仙台,札幌及び高松の各高等裁判所事務局次長
② 東京地方裁判所事務局長
③ 東京,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台及び札幌の各家庭裁判所の首席家庭裁判所調査官
2号俸は,以上の20官職である。
大阪高等裁判所事務局次長は,他の東京高裁以外の高裁事務局次長と同じ2号俸であり,大阪高裁だけを別区分とする根拠は同議決にない。
また,高松家庭裁判所の首席家庭裁判所調査官は,同議決の対象に含まれていない。
5 叙勲ランクの目安
内閣府は,瑞宝章の授与対象を「公務等に長年にわたり従事し,成績を挙げた方」と説明しており,特定の官職又は指定職号俸だけで受章する勲章が決まるものではない。
もっとも,裁判所関係者及び弁護士に対する叙勲の相場及び勲章受章者名簿に掲載した過去の受章例からは,裁判所の指定職官職と叙勲ランクとの間に一定の傾向がある。
過去の受章例に基づく目安では,大法廷首席書記官,最高裁判所審議官,最高裁判所家庭審議官及び東京高等裁判所事務局次長は,瑞宝中綬章に対応する官職群として扱うことができる。
最高裁判所訟廷首席書記官及び大阪高等裁判所事務局次長も,過去の受章例に基づく目安では,瑞宝中綬章に対応する官職群である。
これに対し,各小法廷首席書記官,裁判所職員総合研修所事務局長,大阪を除く東京高裁以外の高裁事務局次長,東京地方裁判所事務局長及び指定職となる首席家庭裁判所調査官は,過去の受章例に基づく目安では,瑞宝小綬章に対応する官職群である。
この整理は,指定職号俸又は官職から受章を法的に導くものではなく,個人の全経歴,功績,推薦及び選考によって異なる結果となる可能性がある。
第3 指定職俸給表の現行月額
1 令和8年4月1日以後の月額
令和8年4月1日施行の一般職給与法別表第11による指定職俸給表の月額は,次のとおりである。
① 1号俸は73万6000円である。
② 2号俸は79万4000円である。
③ 3号俸は85万2000円である。
④ 4号俸は93万3000円である。
⑤ 5号俸は100万6000円である。
⑥ 6号俸は107万8000円である。
⑦ 7号俸は115万3000円である。
⑧ 8号俸は122万4000円である。
2 判事4号との金額比較
裁判官の報酬等に関する法律による判事4号の報酬月額は85万2000円であるため,令和8年4月1日以後も指定職3号俸と判事4号の月額は同額である。
これは俸給又は報酬の月額が一致するという意味にとどまり,身分,任用又は職務上の序列が同一であることを意味しない。
3 高等検察庁事務局長との比較
令和8年3月31日付の人事院意見では,最高検察庁事務局長並びに東京,福岡及び仙台の各高等検察庁事務局長が2号俸とされている。
同意見では,大阪,名古屋及び広島の各高等検察庁事務局長が1号俸とされている。
高等検察庁の官職別号俸は人事院意見の改定対象となり得るため,比較する場合は資料の日付を明示する必要がある。
第4 幹部職員名簿及び予算定員との違い
1 令和7年8月1日現在の一般職幹部職員名簿は24人である
裁判所の指定職職員の名簿(一般職)に掲載している令和7年8月1日現在の幹部職員一覧表には,最高裁判所関係8人,高等裁判所事務局次長8人,東京地方裁判所事務局長1人及び首席家庭裁判所調査官7人の合計24人が掲載されている。
最高裁判所事務総長は,同一覧表に含まれていない。
この24人は,平成30年議決の対象25官職から最高裁判所事務総長1官職を除いた範囲と対応する。
2 令和8年度予算上の準用定員は44人である
令和8年度一般会計歳出予算各目明細書では,指定職俸給表の準用を受ける職員の予算定員として,最高裁判所20人及び下級裁判所24人の合計44人が計上されている。
3 三つの数字は集計目的が異なる
平成30年議決の25官職,一般職幹部職員名簿の24人及び予算上の準用定員44人は,それぞれ集計目的と対象範囲が異なる。
予算定員44人だけから,令和8年現在の個別官職と号俸との対応を推定することはできない。
第5 主な指定職官職の設置根拠
1 裁判所法に設置根拠がある官職
裁判所法53条は,最高裁判所に最高裁判所事務総長を置いている。
裁判所法59条は,各高等裁判所,地方裁判所及び家庭裁判所に事務局長を置いている。
裁判所法60条は,各裁判所に裁判所書記官を置いている。
裁判所法61条の2は,各家庭裁判所及び各高等裁判所に家庭裁判所調査官を置いている。
2 最高裁判所規則等に設置根拠がある官職
大法廷首席書記官等に関する規則は,最高裁判所の大法廷首席書記官,各小法廷首席書記官及び訟廷首席書記官,並びに下級裁判所の首席書記官及び次席書記官を定めている。
最高裁判所事務総局規則は,最高裁判所審議官及び最高裁判所家庭審議官を定めている。
下級裁判所事務処理規則24条は,高等裁判所事務局に事務局次長を置くことができると定めている。
首席家庭裁判所調査官等に関する規則は,家庭裁判所に首席家庭裁判所調査官及び次席家庭裁判所調査官を置くことができると定めている。
裁判所職員総合研修所規程は,裁判所職員総合研修所の組織及び所掌事務を定めている。
第6 定年引上げ,役職定年及び60歳超の処遇
1 原則定年は段階的に65歳まで引き上げられる
国家公務員法及び裁判所職員臨時措置法により,裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の原則定年は,令和5年4月から2年ごとに1歳ずつ引き上げられる。
原則定年は,令和5・6年度が61歳,令和7・8年度が62歳,令和9・10年度が63歳,令和11・12年度が64歳,令和13年度以後が65歳である。
したがって,令和8年度に一般の裁判所職員の定年を一律60歳と説明することはできない。
2 指定職の管理監督職勤務上限年齢は原則60歳である
令和5年4月1日以後の国家公務員法81条の2は,定年ではなく,管理監督職勤務上限年齢制を定める条文である。
指定職は管理監督職に含まれ,原則として60歳に達した日後の最初の4月1日に,管理監督職以外の官職へ異動する。
したがって,職員としての定年と,指定職その他の管理監督職に在職できる年齢は区別する必要がある。
3 60歳超の給与及び再任用
定年の引上げ等に係る裁判所の運用資料は,60歳を超える職員の給与を当分の間60歳時点の7割水準とする措置,定年前再任用短時間勤務制及び暫定再任用制度を説明している。
同資料によれば,指定職官職への暫定再任用は行わない取扱いである。
4 最高裁判所事務総長の定年規則は改正された
令和5年4月1日施行前の「裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の定年に関する規則」2条は,最高裁判所事務総長の定年を65歳と明記していた。
しかし,令和4年最高裁判所規則第19号による改正で旧2条は削除され,現行規則は管理監督職勤務上限年齢及び経過措置を扱う構造へ変更された。
日本法令索引でも,同規則が令和4年最高裁判所規則第19号により改正され,現在も有効であることを確認できる。
今回確認した公開資料からは,令和8年度における最高裁判所事務総長の具体的な定年相当年齢を定めた文書を確認できなかった。
そのため,現在も最高裁判所事務総長だけが65歳であるとは断定できない。
5 早期退職希望者の募集
指定職を含む裁判所一般職の早期退職制度及び募集実施要項は,裁判官以外の裁判所職員の早期退職希望者の募集実施要項(一般職向け)で整理している。
第7 指定職職員等が簡易裁判所判事に任命される場合
1 辞職日及び任命日の例
官報及び裁判所の再就職状況資料で確認できる例では,裁判所の指定職職員又はこれに準ずる幹部職員が7月30日付けで辞職し,8月1日付けで簡易裁判所判事に任命されている。
令和2年には,8月30日付けで辞職し,同年9月1日付けで簡易裁判所判事に任命された例もある。
これらは確認できた任命例であり,すべての年に共通する法定の任命日ではない。
簡易裁判所判事の資格任用,選考任用,筆記・口述試験及び再任については,簡易裁判所判事の採用選考―任命資格,筆記・口述試験,推薦外候補者及び再任(AI作成)で整理している。
2 簡易裁判所判事となった後の報酬
平成30年12月12日付け最高裁判所事務総長の理由説明書は,裁判所書記官又は裁判所事務官から簡易裁判所判事に任命された場合の報酬決定根拠が分かる文書について,人事管理及び個人の報酬に関する不開示情報に当たるとして全部不開示とした。
したがって,公開資料から個別の報酬決定方法を確認することはできない。
3 任命状況を官報で確認する方法
官報発行サイトでは,発行から原則90日間,官報全体を無料で閲覧できる。
特定の個人に対する処分等の記事は90日経過後に閲覧できなくなる場合があるため,過去の任命を長期間にわたり横断検索する場合は,国立印刷局の官報情報検索サービスを利用する必要がある。
同サービスは,昭和22年5月3日以後の官報を日付又はキーワードで検索できる会員制有料サービスである。
第8 退職準備等説明会に関する過去の資料
1 令和4年度概算要求書の記載
最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)225頁は,退職後の生活に必要な情報の提供,相談及び退職管理上の要望把握を目的とする「退職準備等説明会」の経費を要求していた。
2 情報公開答申の記載
令和2年度(最情)答申第32号は,最高裁判所では裁判官以外の裁判所職員を対象とした退職準備等説明会を実施しておらず,下級裁判所の同説明会の配布資料も取得していない旨を記載している。
令和8年度概算要求書から同じ名称の制度の継続は確認できなかったため,令和4年度の資料を現在も実施されている制度として引用することはできない。
もっとも,公開資料に同じ名称が見当たらないことは,説明又は相談の取組自体が存在しないことを意味しない。
第9 関連記事
③ 司法行政部門における役職と,裁判部門における裁判所書記官の役職の対応関係
④ 首席書記官の職務
第10 出典
① 裁判所職員臨時措置法,国家公務員法,一般職の職員の給与に関する法律,裁判官の報酬等に関する法律及び裁判所法の各現行条文(e-Gov法令検索)
② 最高裁判所裁判官会議「指定職俸給表の準用を受ける職員の号俸について」(平成30年6月6日議決)
③ 裁判所「令和8年度一般会計歳出予算各目明細書」2頁及び8頁
④ 最高裁判所事務総局人事局「裁判所における運用の骨子~定年の引上げ等について~」4頁,6頁,13頁~15頁,20頁,25頁~26頁及び29頁
⑤ 令和4年最高裁判所規則第19号新旧対照条文(裁判所時報第1804号別添1頁~4頁)
⑥ 人事院「各府省の指定職の号俸についての意見」(令和8年3月31日)
⑦ 内閣府「官報発行サイト」及び独立行政法人国立印刷局「官報情報検索サービス」
⑧ 平成30年12月12日付け最高裁判所事務総長理由説明書
⑨ 内閣府「勲章の種類及び授与対象」,「裁判所関係者及び弁護士に対する叙勲の相場」及び「勲章受章者名簿」