目次
第1 結論―統計の差だけでは弁護人の効果を比較できない第2 令和6年の国選弁護人の有無別統計第3 「国選なし」は「私選あり」と同じではない第4 因果関係を示さない四つの理由1 事件構成が異なる2 資力及び選任条件が異なる3 保釈請求の有無が分からない4 個別の弁護活動及び判断理由が分からない第5 国選弁護人選任率は罪名によっても異なる第6 国選弁護人と私選弁護人の役割第7 個別の保釈請求で確認すべき事項第8 統計の限界と適切な使い方第9 一次資料及び関連記事1 一次資料2 関連記事
第1 結論―統計の差だけでは弁護人の効果を比較できない
令和6年の地方裁判所通常第一審では,国選弁護人が選任された区分の保釈率は27.4%,国選弁護人が選任されなかった区分の保釈率は70.7%である。
しかし,この差から「私選弁護人なら70.7%の割合で保釈される」「国選弁護人は私選弁護人より能力が低い」と結論付けることはできない。
表の「国選弁護人が選任されなかった人員」は「私選弁護人が選任された勾留被告人」と同じ集団ではなく,事件の内容,資力,勾留の有無,保釈請求の有無等の条件もそろっていないからである。
裁判所の刑事事件Q&Aも,国選弁護人と私選弁護人とで弁護人としての役割に違いはないと説明している。
統計上の関連と,制度上の役割又は個々の弁護活動の評価は分けて考える必要がある。
第2 令和6年の国選弁護人の有無別統計
令和8年9月の開示文書の表7によれば,令和6年の人員は次のとおりである。
区分終局人員勾留人員勾留率保釈人員保釈率国選弁護人が選任された人員4万410人3万124人74.5%8254人27.4%国選弁護人が選任されなかった人員7148人3823人53.5%2702人70.7%
表7の保釈率の分母は勾留人員である。
したがって,27.4%は8254人を3万124人で割った値であり,70.7%は2702人を3823人で割った値である。
保釈請求をした被告人又は保釈請求件数を分母にした許可率ではない。
第3 「国選なし」は「私選あり」と同じではない
表7の区分は,「国選弁護人が選任された人員」と「国選弁護人が選任されなかった人員」である。
後者を,注記等による裏付けなく「私選弁護人が選任された人員」と読み替えることはできない。
また,二つの集団は,国選か私選かだけが異なる比較実験ではない。
国選弁護人の選任には,手続段階,事件類型,法定刑,資力,弁護人の有無その他の制度上・事実上の条件が関係する。
終局人員のうち勾留された割合自体も,国選あり74.5%,国選なし53.5%と異なる。
このように入口の集団が異なる以上,その後の保釈率の差を弁護人の選任形態だけの効果と説明することはできない。
第4 因果関係を示さない四つの理由
1 事件構成が異なる
罪名,事件の重大性,共犯関係,認否,証拠関係等の構成が二つの集団で同じとは限らない。
重い事件又は身柄拘束の必要性が問題となりやすい事件が一方に多ければ,弁護活動とは別に保釈率へ影響する。
2 資力及び選任条件が異なる
国選弁護人制度は,資力や私選弁護人の選任状況等と関係する。
表7は,資力,保証金の調達可能性,家族・監督者による支援等を調整していない。
3 保釈請求の有無が分からない
表7の保釈率の分母は勾留人員であり,保釈請求をした人ではない。
各区分で,何人が保釈を請求したか,何回請求したか,どの時期に請求したかは表から分からない。