第1 保釈は起訴後いつ認められるのか
令和6年に地方裁判所の通常第一審で保釈された1万956人のうち,8209人(74.9%)は第1回公判期日前に保釈されている。
ただし,この74.9%は「勾留された被告人全体のうち初公判前に保釈された割合」ではなく,「最終的に保釈された被告人のうち初公判前に保釈された割合」である。
刑事訴訟法88条は,勾留されている被告人について,被告人本人,弁護人等が保釈を請求できると定めている。
したがって,保釈は起訴後,第1回公判期日前にも請求できる。
反対に,起訴前の被疑者勾留については刑事訴訟法上の保釈制度はない。
実際にいつ判断され,いつ釈放されるかは,請求の時期,検察官の意見,裁判所の審理,保釈保証金の納付,不服申立ての有無等によって異なる。
統計上の割合を,個別事件の所要日数又は保釈の見込みに置き換えることはできない。
第2 令和6年の保釈時期―全体・自白・否認別
令和8年9月の開示文書の表6は,地方裁判所の通常第一審で終局した事件について,勾留人員,保釈人員及び保釈の時期を自白・否認別に集計している。
令和6年欄は次のとおりである。
| 区分 | 勾留人員 | 保釈人員 | 保釈率 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 3万3947人 | 1万956人 | 32.3% |
| 自白 | 2万9105人 | 9913人 | 34.1% |
| 否認 | 3596人 | 984人 | 27.4% |
保釈された人員を,釈放の日と第1回公判期日との前後で分けると,次のとおりである。
| 区分 | 第1回公判前 | 第1回公判と同日 | 第1回公判後 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 8209人・74.9% | 111人・1.0% | 2578人・23.5% |
| 自白 | 7779人・78.5% | 98人・1.0% | 2036人・20.5% |
| 否認 | 430人・43.7% | 13人・1.3% | 541人・55.0% |
表6の時期別割合の分母は,各区分の保釈人員である。
全体の74.9%は8209人を1万956人で割った値であり,自白の78.5%は7779人を9913人で,否認の43.7%は430人を984人で割った値である。
なお,表6の自白・否認は終局段階の区分である。
起訴時の認否がその後一度も変わらなかったことまで示す統計ではない。
第3 74.9%と24.2%は分母が違う
初公判前に保釈された8209人を,保釈人員1万956人ではなく,勾留人員3万3947人で割ると24.2%になる。
この24.2%は,開示文書に印字された割合ではなく,本記事が表6の人数から計算した値である。
したがって,次の二つは別の質問に答える数字である。
①74.9%:保釈された人のうち,第1回公判前に保釈された人の割合
②24.2%:勾留された人のうち,第1回公判前に保釈された人の割合(本記事による計算)
また,令和6年の保釈率32.3%の分母は勾留人員であって,保釈請求をした人又は保釈請求件数ではない。
32.3%の残りを「保釈請求の却下率」と説明することもできない。
第4 「否認すると保釈されない」とはいえない
表6では,否認区分の保釈率は27.4%であり,自白区分の34.1%より低い。
また,保釈された否認区分984人のうち,第1回公判後の保釈が541人(55.0%)を占める。
もっとも,この差だけから「否認したことが原因で保釈されにくくなった」と結論付けることはできない。
表6は,罪名,事件の重大性,共犯者の有無,証拠の状況,争点,審理期間,住居・監督体制,保釈請求の有無又は請求時期等の条件をそろえた比較ではないからである。
否認事件では,証拠関係や争点の整理に時間を要する事件が含まれ得る。
しかし,それは否認一般を不利益に扱ってよいという意味ではない。
個別事件では,証拠隠滅又は逃亡のおそれを基礎付ける事情と,住居,監督者,接触禁止その他の保釈条件によって危険を抑えられるかを具体的に検討する必要がある。
第5 第1回公判前であることと最高裁判例
最高裁令和8年8月31日決定(令和8年(し)第770号),最高裁平成26年11月18日決定(平成26年(し)第560号)及び最高裁平成27年4月15日決定(平成27年(し)第223号)は,裁量保釈に関する原判断を不服申立審が覆す場面で,原判断の不合理性を具体的に検討する必要があることを示している。
これらの決定から,第1回公判前という審理段階だけを形式的に取り出して,罪証隠滅又は逃亡のおそれが高いと決めることはできない。
証拠関係,被告人と関係者との関係,保釈条件等を個別に見る必要がある。
ただし,最高裁判例が表6の統計を引用して判断したわけではない。
表6は全国の終局人員を集計した統計資料であり,三つの最高裁決定は個別事件の保釈判断と不服申立審の審査方法に関する裁判例である。
本記事は両者を別の一次資料として並べている。
最高裁決定の事案と審査基準の詳細は,裁量保釈に対する検察官準抗告の審査基準―最高裁令和8年8月31日決定と平成26年・平成27年決定で整理している。
第6 保釈請求から実際の釈放までに確認する事項
保釈請求の準備では,統計上の平均像よりも,個別事件の事情を具体化することが重要である。
例えば,次の事項を事件記録と本人・関係者からの聴取により確認する。
①起訴事実,争点及び証拠の構造
②接触を避けるべき共犯者,証人,被害者その他の関係者
③釈放後の住居,監督者,通院・就労等の生活基盤
④裁判所への出頭を確保する方法
⑤接触禁止,通信制限,居住制限その他の条件で危険を抑えられるか
⑥保釈保証金を誰が,どの方法で納付するか
⑦決定後の不服申立て,執行停止及び施設側の釈放手続の状況
この一覧は,表6又は最高裁決定にそのまま記載された定型チェックリストではなく,法令・裁判例と実務上の確認事項を踏まえた本記事の整理である。
保釈の要件,保証金,納付,還付及び不服申立ての全体像は,被告人の保釈を参照されたい。
起訴前の被疑者勾留との区別は,被疑者及び被告人の勾留で整理している。
第7 この統計から個別事件の結果を予測できない理由
表6を利用するときは,少なくとも次の限界を意識する必要がある。
①集計対象は,令和6年中に地裁通常第一審で終局した事件の人員である。
②保釈率の分母は勾留人員であり,保釈請求をした人又は請求件数ではない。
③自白・否認以外の事件条件は統制されていない。
④何回目の請求で認められたか,請求から決定・納付・釈放までの日数は表から分からない。
⑤個々の保釈条件,保証金額及び判断理由は表から分からない。
このため,「否認事件なら初公判前に保釈される確率は43.7%」などと,表の構成比を個別事件の予測確率に置き換えることはできない。
第8 一次資料及び関連記事
1 一次資料
①表6 通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期(令和8年9月の開示文書)
②刑事訴訟法(e-Gov法令検索)
③裁判所・刑事事件に関するQ&A
④最高裁令和8年8月31日第二小法廷決定(令和8年(し)第770号)
⑤最高裁平成26年11月18日第一小法廷決定(平成26年(し)第560号)
⑥最高裁平成27年4月15日第三小法廷決定(平成27年(し)第223号)
2 関連記事
①保釈率の読み方―勾留率・保釈許可率との違いと令和6年の統計
②被告人の保釈
③裁量保釈に対する検察官準抗告の審査基準―最高裁令和8年8月31日決定と平成26年・平成27年決定
④被疑者及び被告人の勾留