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被告人の保釈(AIリライト)

保釈は,起訴された後の被告人について,保釈保証金の納付を条件に勾留の執行を停止し,身体拘束を解く制度です。本記事は,刑事訴訟法が定める保釈の3類型(権利保釈・裁量保釈・義務的保釈),保証金と手続,不服申立て,失効と還付までの仕組みを条文に即して整理し,あわせて保釈に関する統計,最高裁判所の開示文書,カルロス・ゴーンの国外逃亡を受けた令和5年改正,保釈保証金をめぐる債権回収の裁判例など,参照しやすい資料を集めたものです。条文は令和7年6月1日の拘禁刑一本化を反映しています。

第1 保釈制度の概要

1 保釈とは何か

保釈とは,勾留を観念的には維持しながら,保釈保証金の納付を条件として被告人に対する勾留の執行を停止し,その身体拘束を解く裁判及びその執行をいいます。
その狙いは,被告人が召喚を受けても出頭しなかったり逃亡したりした場合に保証金を没取することとし,被告人に経済的・精神的な負担を与えることで出頭を確保する点にあります。

保釈は起訴後の被告人についての制度である点に注意が必要です。被疑者段階の身体拘束については,被疑者の逮捕被疑者及び被告人の勾留を参照してください。

身体拘束を解くことは無罪推定との関係でも語られますが,実務ではこの点の理解自体が対立の火種になります。

2 保釈の3類型と請求権者

保釈には次の3類型があります。呼称は文献により異なりますが,本記事では条文の順に沿って次のとおり整理します。

  • ① 必要的保釈(権利保釈・刑訴法89条)。除外事由がない限り,被告人の権利として保釈を許さなければならないもの。
  • ② 任意的保釈(裁量保釈・刑訴法90条)。権利保釈の要件を満たさない場合でも,裁判所の裁量により職権で許すもの。
  • ③ 義務的保釈(刑訴法91条)。勾留による拘禁が不当に長くなったときに,請求又は職権で許さなければならないもの。

保釈の請求ができるのは,勾留されている被告人のほか,その弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹です(刑訴法88条1項)。

裁判官の判断をAIが補助する場面が語られることもありますが,予断・偏見の抑制と,差別的な学習データの取り込みという相反するリスクが指摘されています。

第2 必要的保釈(権利保釈・刑訴法89条)

1 原則と6つの除外事由

保釈の請求があったときは,裁判所は次のいずれかに当たる場合を除き,保釈を許さなければなりません(刑訴法89条)。これが権利保釈です。令和7年6月1日の拘禁刑一本化により,条文の「懲役若しくは禁錮」は「拘禁刑」に改められています。

  • ① 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。
  • ② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
  • ③ 被告人が常習として長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。
  • ④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
  • ⑤ 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
  • ⑥ 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

実務上は④の罪証隠滅のおそれが争点になりやすく,その対象と方法をどこまで広げて審査するかによって権利保釈の可否が大きく変わります。この点は,裁判所の運用への批判としてしばしば指摘されます。

2 判決宣告後は権利保釈が使えない

拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があった後は,刑訴法89条は適用されません(刑訴法344条1項)。したがって,第一審や控訴審で実刑判決を受けた後の再保釈には,権利保釈の主張はできず,裁量保釈(後記第3)で判断されます。控訴審に権利保釈がないことは実務上の初歩ですが,見落とされることもあります。

第3 裁量保釈(任意的保釈・刑訴法90条)

1 意義と考慮要素

権利保釈(必要的保釈)の要件を満たさない場合でも,裁判所は,職権で保釈を許すことができます(刑訴法90条)。これが裁量保釈です。

平成28年の改正により,考慮要素が条文上明示されました。すなわち,裁判所は,保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか,身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上,経済上,社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し,適当と認めるときに,保釈を許すことができます。逃亡・罪証隠滅のおそれの「程度」と,拘束継続による不利益の「程度」とを比較衡量する枠組みです。

否認すると身体拘束が続きやすいという運用は「人質司法」と呼ばれ,その存在自体を争う訴訟も提起されています。

否認・自白と保釈の関係は,被害者の立場からも問題提起されています。

逃亡・再犯の予測が不可能な中で,「保釈すれば社会的非難を受けるリスク」を判断者が負うという構造的な問題も指摘されています。

2 余罪の扱いと最高裁昭和44年7月14日決定

被告人が甲・乙・丙の3個の公訴事実で起訴され,そのうち甲事実についてのみ勾留状が発せられている場合について,最高裁昭和44年7月14日決定は,甲事実が刑訴法89条3号に当たり権利保釈が認められないとしたうえで,同法90条により保釈が適当かどうかを審査するにあたっては,甲事実の内容・性質や被告人の経歴・行状・性格等の事情を考察することが必要であり,その一資料として,勾留状の発せられていない乙・丙各事実をも考慮することを禁ずべき理由はない,と判示しました(刑集23巻8号1057頁)。勾留が事件単位で判断される一方,裁量保釈の相当性判断では余罪も一資料となり得ることを示したものです。

第4 義務的保釈(刑訴法91条)

勾留による拘禁が不当に長くなったときは,裁判所は,保釈請求権者の請求により,又は職権で,決定をもって勾留を取り消し,又は保釈を許さなければなりません(刑訴法91条1項)。

この規定の背景には憲法上の要請があります。憲法38条2項は,不当に長く抑留・拘禁された後の自白の証拠能力を否定しており,直接ではないにせよ,被告人を不当に長く拘禁することを禁じる趣旨を含むと解されます。刑訴法91条は,この趣旨を受けて,拘禁が不当に長くなったときに勾留の取消し又は保釈を義務づけたものと位置づけられます。

第5 保釈の手続

1 検察官の意見と意見書の謄写

裁判所は,保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには,検察官の意見を聴かなければなりません(刑訴法92条1項)。

この求意見の運用をめぐっては,弁護人が第1回公判期日前に申請した保釈請求に対する検察官の意見書について,その謄写を許可しなかった裁判官の処分が許されないとされた事例があります(最高裁平成28年10月25日決定・刑集70巻7号609頁)。求意見手続の迅速化が被告人の利益になる一方で,その過程が弁護人に開示されないことへの批判もあります。

捜査重視・公判軽視の姿勢が身柄拘束の運用に影響しているという,元検察官による指摘もあります。

2 保釈保証金の額と付随条件

裁判所は,保釈を許す場合には保証金額を定めなければなりません(刑訴法93条1項)。保証金額は,犯罪の性質及び情状,証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して,被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければなりません(同条2項)。

あわせて,裁判所は,保釈を許す場合に,被告人の住居を制限し,その他適当と認める条件を付けることができます(同条3項)。実務上は,召喚された場合の出頭,旅行の制限,罪証隠滅を疑われる行為の禁止,善行の保持,再犯の禁止といった条件が付されることが多いです。なお,令和5年改正により,住居制限を受けた被告人がその住居を離れることについて裁判所の許可を要する仕組み等が同条4項以下に加えられました(後記第11)。

3 納付・代納・保証書

保釈を許す決定は,保証金の納付があった後でなければ執行することができません(刑訴法94条1項)。裁判所は,保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができ(同条2項),有価証券又は裁判所が適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書をもって保証金に代えることを許すこともできます(同条3項)。保釈の保証書には,保証金額及びいつでもその保証金を納める旨を記載しなければなりません(刑訴規則87条)。

電子納付は年末年始も可能ですが,受領書の発行時期によって釈放が遅れることがあり,現金納付の方が確実な場面もあります。

第6 保釈の判断に対する不服申立てと抗告審

保釈却下決定に対する不服申立ては,第1回公判期日前は管轄地方裁判所への準抗告(刑訴法429条1項2号),第1回公判期日後は高等裁判所への抗告となり,これらの判断に対しては最高裁判所への特別抗告(同法433条1項)ができます。特別抗告の提起期間は5日間である点に注意が必要です(同条2項)。

抗告審の審査方法について,最高裁平成26年11月18日決定は,受訴裁判所がした刑訴法90条による保釈の判断に対し,抗告審は,受訴裁判所の判断が委ねられた裁量の範囲を逸脱していないか,すなわち不合理でないかを審査すべきであり,その判断を覆すには,判断が不合理であることを具体的に示す必要がある,と判示しました(刑集68巻9号1020頁)。抗告審が独自の裁量で判断を置き換えるのではなく,受訴裁判所の裁量の逸脱・不合理性を審査する枠組みを示したものです。

第7 保釈の失効と保釈保証金の還付

1 保釈が失効する場合

拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があったときは,保釈はその効力を失います(刑訴法343条1項前段)。このため,実刑判決の宣告により保釈中の被告人はそのまま収容されることになります。被告人を収容する場合には,言い渡した刑並びに判決宣告の年月日及び裁判所を記載し,かつ裁判長又は裁判官が相違ないことを証明する旨を付記して認印した勾留状の謄本が被告人に示されます(刑訴規則92条の2)。

他方,無罪,免訴,刑の免除,刑の全部の執行猶予,公訴棄却,罰金又は科料の裁判の告知があったときは,勾留状はその効力を失います(刑訴法345条)。一部執行猶予の判決では実刑部分があるため勾留状は失効しない点に注意が必要です。

2 保釈保証金の還付

没取されなかった保釈保証金は還付されます。実刑判決により保釈が失効して被告人が収容されたときは刑訴規則91条1項2号に基づき,無罪等により勾留状が失効したときは同項1号に基づき,それぞれ還付されます。

国庫帰属の時期や,原審裁判所が保管中の保釈保証金を上訴裁判所で没取した場合の手続については,昭和45年7月17日付けの最高裁判所刑事局長及び経理局長の通知が参考になります。

第8 被告人の保釈に関する統計

1 裁判所ウェブサイトの統計

裁判所ウェブサイトの「刑事事件Q&Aの更新について」に,保釈に関する統計が掲載されています。保釈率や保釈の時期の推移を確認できます。

保釈をめぐる議論では,個別事例の増加をとらえて裁判官を批判するのではなく,保釈無事故率が99パーセント台を維持していることを根拠に,より広く保釈を認めるよう求めるべきだという見解も示されています。

2 最高裁判所の開示文書

本記事の作成者は,最高裁判所の開示文書として次の統計文書等を掲載しています。ファイル名は「通常第一審における勾留率,保釈率等(地裁)」で始まる一連の文書(令和7年6月の開示文書)といった形式です。

勾留率・保釈率等の統計

保釈の取消しに関する統計

  • 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(令和4年分・令和3年・令和2年・2019年・平成30年)

保釈に関する人員数

  • 被告人の保釈に関する人員数(令和5年分)
  • 被告人の保釈に関する人員数-裁判所種別(令和4年・令和3年・令和2年・令和元年)
  • 被告人の保釈に関する人員数-全裁判所及び裁判所種別(平成14年から平成30年まで)

第9 保釈者等の視察(犯罪捜査規範)

保釈された者等については,警察による視察の定めがあります。犯罪捜査規範第17章「保釈者等の視察」は,警察署長が,検察官から,管轄区域内に居住する保釈中の者又は勾留の執行を停止された者の通知を受けたときは,適当な警察官を指定してその行動を視察させなければならないとし(253条1項),この視察は1月につき少なくとも1回行うものとしています(同条2項)。視察に当たり,逃亡や罪証隠滅のおそれ,条件違反等の事由があるときは,通知をした検察官に速やかに通知しなければならず(254条),視察は穏当適切な方法により行い,本人や家族の名誉・信用を不当に害しないよう注意するものとされ(255条),視察を行ったときは視察簿に記録するものとされています(256条)。

もっとも,犯罪捜査規範が「おそれ」という語を用いるのに対し,刑訴法60条1項は「疑うに足りる相当な理由」と規定しており,要件の表現が一致していない点は指摘されています。

第10 出国確認の留保とカルロス・ゴーンの国外逃亡

1 出国確認の留保

外国人が国外に出国する場合には,入国審査官から出国の確認を受けなければならず,その確認を受けなければ出国できません(入管法25条)。そして,死刑・無期又は長期3年以上の拘禁刑に当たる罪で訴追されている場合や,逮捕状・勾引状・勾留状等が発せられている場合などには,出国の確認を受けるための手続がされた時から24時間を限り,出国の確認が留保されます(入管法25条の2)。実務上の取扱いは,外国人被告人の出国確認留保の通知に係る事務の取扱いについて(平成12年8月28日付けの最高裁判所刑事局長・家庭局長通達)に示されています。

関連資料として,外国人被告人の出国確認留保の通知に係る事務の取扱いについてを掲載しています。

2 カルロス・ゴーンの密出国

東京地裁刑事第14部の裁判長であった島田一 裁判官は,平成31年3月5日,保釈保証金10億円でカルロス・ゴーンの保釈を許可し(同月6日釈放),同年4月25日には,保釈保証金5億円で再び保釈を許可しました(外部の「保釈をめぐる事件経過一覧」参照)。

その後,カルロス・ゴーンは,保釈の条件に違反して国籍国であるレバノンに出国していたことが令和元年12月31日に発覚し,同日付けで合計15億円の保釈保証金が没取されました。国外出国については,高野隆弁護士のブログ「彼が見たもの」(令和2年1月4日付け)等でも論じられています。

出入国在留管理庁の佐々木聖子長官(略歴書)は,令和2年1月30日の参議院予算委員会で,一定の罪で訴追されている等の外国人が出国しようとした場合には入国審査官が24時間に限り出国の確認を留保でき,出国審査ブースで分かる仕組みになっていること,カルロス・ゴーンが出国確認手続を経ていれば出国を止める体制ができていたことを答弁しました。

ゴーン元会長の逃亡事件に関する法務省の文書についても資料を掲載しています。

3 国外逃亡被疑者の追跡と犯人蔵匿・証拠隠滅の教唆

令和元年警察白書(第2部第4章第3節「来日外国人犯罪対策」)は,「国外逃亡被疑者等の追跡」として,被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合には出入国在留管理庁に手配して出国前の検挙に努め,逃亡した場合には関係国の捜査機関との協力を通じて所在確認や犯罪人引渡しを行っていること,平成30年中は出国直前の外国人被疑者17人のほか国外逃亡被疑者113人(うち外国人64人)を検挙したことなどを記載しています。

逃亡をめぐる刑事責任については,犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは,刑法103条の罪の教唆犯が成立します(最高裁令和3年6月9日決定・集刑329号85頁。先例として最高裁昭和35年7月18日決定・刑集14巻9号1189頁)。これと区別すべきものとして,犯人が他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させたときは,刑法104条の罪の教唆犯が成立します(最高裁令和5年9月13日決定・集刑332号201頁)。いずれの決定にも裁判官山口厚の反対意見が付いています。

また,逃亡犯罪人引渡法に基づく仮拘禁許可状の発付に対しては,特別抗告をすることができません(最高裁令和5年11月6日決定)。関連資料として,逃亡犯罪人引渡法に関する書式例(平成12年10月31日付けの法務大臣訓令)を掲載しています。

外国人被告人の量刑をめぐる問題は,古くから指摘されてきました。

諸外国の保釈制度との比較も論じられています。

第11 保釈中の逃亡防止をめぐる令和5年改正

カルロス・ゴーンの国外逃亡等を受け,保釈中の被告人の逃亡を防止するための法整備が進められました。最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)には,位置情報端末(GPS端末)を装着させて逃亡を防止する制度の導入を見据え,端末の実証実験に係る業務委託経費が計上されています(462頁)。装着対象者による取り外しや機能の無効化が困難で,それらが行われた時は直ちに関係機関が検知可能であるなど,既存製品にない性能が求められる旨が記載されています。

その後成立した令和5年の改正刑事訴訟法等は,保釈等をされた被告人の出国を制限する制度(裁判所の許可を受けなければ本邦から出国してはならないとする制度),監督者制度,位置測定端末を用いた制度など,逃亡を防止するための複数の仕組みを新設しました。制度は段階的に施行され,位置測定に関する部分は準備を経て運用が開始される予定です。

第12 保釈保証金をめぐる債権回収

1 弁護士会照会による保証金の調査

被告人以外の者が保釈保証金若しくはこれに代わる有価証券を納付し,又は保証書を差し出すのは,直接に国に対してするものであり,それによってその者と国との間に直接の法律関係が生じ,その還付もまた国とその者との間で行われます(最高裁大法廷昭和43年6月12日決定・刑集22巻6号462頁。同決定は,保釈保証金の没取決定に対しては,これを納付した被告人以外の者も刑訴法352条により抗告できるとしたものです)。この理解を前提に,仮差押え又は差押えのために保釈保証金の有無を調べたい場合には,被告人の刑事事件が係属している地方裁判所に対し,事件番号や被告人名を特定したうえで,保証金の金額,提出者の氏名・住所,納付方法,競合する仮差押え・差押えの有無等を照会事項とする弁護士会照会が用いられます。

2 預託金返還請求権の帰属と回収方法

実務では,弁護人名義で保釈保証金が納付された場合,国に対する返還請求権は弁護人に帰属すると理解されています。これは,前記の最高裁大法廷昭和43年6月12日決定が,納付者と国との間に直接の法律関係が生じ還付も両者間で行われると判示していることに沿う理解です。そのため,実質的な出捐者である被告人(又はその関係者)の債権者が回収を図る場合には,国に対する被告人の返還請求権を差し押さえるのではなく,被告人が弁護人に対して有する預託金返還請求権を差し押さえる方法が用いられます。

債務者が実質的な出捐者として保釈保証金に充てる金銭を弁護人に提供した場合には,弁護士会照会で保証金の存在を確認したうえで,債務者が弁護人に対して有する預託金返還請求権を差し押さえ又は仮差押えして回収を図ることができます。裁判例としては,債務名義を有する債権者が弁護人に対する預託金返還請求権の差押えを通じて回収した京都地裁平成19年9月25日判決や,被告人が弁護人に対して有する預託金返還請求権を仮差押えした東京地裁平成18年1月18日判決があります(いずれも判例秘書で全文確認。裁判所ウェブサイト未掲載)。とりわけ京都地裁平成19年9月25日判決は,保釈保証金の還付を条件とする条件付給付判決の主文の書き方としても参考になります。

弁護人の立場からは,保釈保証金を用意できそうな被告人の関係者が債務名義を負っているような場合には,当該関係者から直接金銭を預かることを避け,日本保釈支援協会の立替システムや全国弁護士協同組合連合会の保釈保証書発行事業を利用する方が無難と考えられます。

第13 保管金事務処理システムと電子納付

保釈保証金の受払いは,裁判所の保管金事務処理システムによって電子的に処理されています。最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)331頁によれば,同システムは,裁判所内の事件処理システムと連携し,刑事事件の保釈保証金や民事執行の予納金等の保管金事務を処理する基盤システムであり,財務省所管の歳入金電子納付システム及び官庁会計システムと連携して保管金の電子受払を可能にしているとされます。平成17年4月から運用が始まり,平成19年度までに全ての裁判所への導入が完了しています。

第14 関連資料・掲載文献

本記事に関連して,次の資料・文献があります。

  • 判例タイムズ1484号(2021年7月号)「捜査に対する司法審査の在り方等に関する研究〔大阪刑事実務研究会〕令状1・近時における勾留及び保釈の運用等について」
  • 全国弁護士協同組合連合会ウェブサイトの「保釈保証書発行事業」(発行に関する2件の東京高裁決定が紹介されています。)
  • 二弁フロンティア2021年10月号「トリビアではない!?東京拘置所あれこれ」
  • 自由と正義2023年7月号21頁から28頁「保釈保証書発行事業の成り立ちと利用の仕方,課題等」
  • 刑の執行猶予の言渡し取消し請求において,被請求人が選任した弁護人に取消決定の謄本が送達されても,被請求人への送達と同じ法的効果は生じません(最高裁平成29年1月16日決定・刑集71巻1号1頁)。

本記事の作成者は,参照の便宜のため,次の資料も掲載しています。

あわせて,刑事手続に関する次の記事も参照してください。

保釈をめぐる弁護活動の在り方については,実務家の間でも様々な議論があります。

出典

1 法令

  • 刑事訴訟法88条・89条・90条・91条・92条・93条・94条・343条・344条・345条・352条・429条・433条(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
  • 刑法103条・104条(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
  • 出入国管理及び難民認定法25条・25条の2(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
  • 刑事訴訟規則87条・91条・92条の2
  • 犯罪捜査規範253条・254条・255条・256条
  • 日本国憲法38条2項

2 裁判例

  • 最高裁大法廷昭和43年6月12日決定・刑集22巻6号462頁(裁判所ウェブサイト
  • 最高裁昭和44年7月14日決定・刑集23巻8号1057頁
  • 最高裁平成26年11月18日決定・刑集68巻9号1020頁(裁判所ウェブサイト
  • 最高裁平成28年10月25日決定・刑集70巻7号609頁
  • 最高裁平成29年1月16日決定・刑集71巻1号1頁(裁判所ウェブサイト
  • 最高裁令和3年6月9日決定・集刑329号85頁(裁判所ウェブサイト
  • 最高裁昭和35年7月18日決定・刑集14巻9号1189頁
  • 最高裁令和5年9月13日決定・集刑332号201頁(裁判所ウェブサイト
  • 最高裁令和5年11月6日決定(逃亡犯罪人引渡法に基づく仮拘禁許可状の発付に対する特別抗告)
  • 京都地裁平成19年9月25日判決・東京地裁平成18年1月18日判決(いずれも判例秘書で全文確認。裁判所ウェブサイト未掲載)

3 公文書・統計

  • 最高裁判所の開示文書(勾留率・保釈率等の統計,保釈の取消しに関する統計,保釈に関する人員数の各文書)
  • 最高裁判所令和4年度概算要求書(説明資料)331頁・462頁
  • 令和元年警察白書 第2部第4章第3節
  • 昭和45年7月17日付け最高裁判所刑事局長・経理局長通知,平成12年8月28日付け最高裁判所刑事局長・家庭局長通達,平成12年10月31日付け法務大臣訓令

4 文献

  • 判例タイムズ1484号(2021年7月号)
  • 二弁フロンティア2021年10月号,自由と正義2023年7月号
  • 刑事法ジャーナル64号