被疑者及び被告人の勾留


目次
第1 総論
第2 勾留質問
第3 勾留状の執行等
第4 勾留と弁護人等への通知
第5 勾留と,弁護人等以外の者との接見交通
第6 勾留理由開示
1 総論
2 勾留理由開示に関する判例
第7 勾留の取消
第8 勾留の執行停止
第9 被疑者勾留特有の事情
第10 被告人勾留特有の事情
第11 第一審裁判所の無罪判決後の勾留
第12 代用監獄及び被告人の移送
第13 未決勾留による拘禁関係に信義則上の安全配慮義務はないこと等
第14 未決拘禁者については施設内免許再取得試験を実施していないこと
第15 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計
第16 関連記事その他

第1 総論
1 勾留とは,被告人又は被疑者を刑事施設に拘禁する裁判及びその執行をいいます。
2(1) 勾留の要件は以下のとおりです。
① 犯罪の嫌疑(刑訴法60条1項柱書)
被告人が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があることです。
② 勾留の理由(刑訴法60条1項各号)
(a)被告人が定まった住居を有しないとき(住居不定),(b)罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(罪証隠滅のおそれ),(c)逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき(逃亡のおそれ)のいずれかが存在することです。
③ 勾留の必要性(刑訴法87条1項参照)
(2) 少年法48条1項は「勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。」と定めています。
3 勾留に対しては,犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告又は準抗告をすることはできません(刑訴法420条3項・429条2項)。
4 弁護士は,身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について,必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努めます(弁護士職務基本規程47条)。
5 裁判所HPの「Q.勾留とは何ですか。」には以下の記載があります。
A. 勾留は,身柄を拘束する処分ですが,その中にも被疑者の勾留と被告人の勾留とがあります。被疑者の勾留は,逮捕に引き続き行われるもので,罪を犯したことが疑われ,かつ,証拠を隠滅したり逃亡したりするおそれがあるなどの理由から捜査を進める上で身柄の拘束が必要な場合に,検察官の請求に基づいて裁判官がその旨の令状(勾留状)を発付して行います。勾留期間は10日間ですが,やむを得ない場合は,検察官の請求により裁判官が更に10日間以内の延長を認めることもあります。また,内乱等のごく例外的な罪に関する場合は,更に5日間以内の延長が認められています。
   これに対し,被告人の勾留は,起訴された被告人について裁判を進めるために身柄の拘束が必要な場合に行われますが,罪を犯したことが疑われ,かつ,証拠を隠滅したり逃亡したりするおそれがあるなどの理由が必要な点は,被疑者の勾留の場合と同様です。勾留期間は2か月で,特に証拠を隠滅するおそれがあるなど必要性が認められる限り,1か月ずつ更新することが認められています。


第2 勾留質問
1 勾留は,被疑者に対しては被疑事実を告げ,被告人に対しては被告事件を告げ,これに関する陳述を聴いた後でなければ,これをすることができません(刑訴法61条・207条1項)。
2 被告事件を告げるとは,事件の同一性を明らかにし,かつ,被告人がこれに対して適切な弁解をすることができる程度に,具体的に事案の内容を告げることをいい,公訴事実の要旨の告知(刑訴法76条1項,203条1項,204条1項)と同じことです。
3 勾留をする裁判所が,すでに被告事件の審理の際,被告事件に関する陳述を聞いている場合には,改めて刑訴法61条のいわゆる勾留質問をしなければならないものではありません(最高裁昭和41年10月19日決定)。
4 勾留質問には裁判所書記官を立ち会わせ(刑訴規則69条),調書を作成しなければなりません(刑訴規則39条,42条)。
    この場合の調書が勾留質問調書であり,①読み聞かせ及び②供述者の署名押印がなされる(刑訴規則39条2項・38条3項及び6項)ことから,被告人の供述を録取した書面として証拠能力を有します(刑訴法321条1項1号,322条1項)。
5 憲法32条は,すべて国民は憲法または法律に定められた裁判所によってのみ裁判を受ける権利を有し,裁判所以外の機関によって裁判をされることはないことを保障したものであって,裁判を行なう場所についてまで規定したものではありません。
    そのため,裁判官が裁判所の庁舎外において勾留質問を行ったとしても,憲法32条に違反しません(最高裁昭和44年7月25日決定)。


第3 勾留状の執行等
1(1) 勾留状は,検察官の指揮によって,検察事務官又は司法警察職員がこれを執行します(刑訴法70条1項本文)。
(2)   刑事施設にいる被告人に対して発せられた勾留状は,検察官の指揮によって,刑事施設職員がこれを執行します(刑訴法70条2項)。
2 検察官の指揮により勾引状又は勾留状を執行する場合には,これを発した裁判所又は裁判官は,その原本を検察官に送付しなければなりません(刑訴規則72条)。
    原本を検察官に送付するのは,勾留状の執行に当たって,原本を被告人に示す必要があるからです(刑訴法73条1項及び2項)。
3 遠隔の地で勾引状・勾留状の執行をした場合,引致すべき場所との距離等との関係で長時間を要し,あるいは利用する交通機関との関係で待ち時間ができたりすることが考えられ,そのようなとき,近接地にある刑事施設に一時的に身柄を留置することができます(刑訴法74条)。
4 勾留状の執行を受けた被告人は,その謄本の交付を請求することができます(刑訴規則74条)ところ,この場合,刑事訴訟法46条の摘要はなく,被告人は自己の費用を支払う必要はないと解されています(弁護士弓田竜の刑事事件ブログ「勾留状謄本交付請求」参照)。


第4 勾留と弁護人等への通知
1(1) 被疑者又は被告人が勾留された場合,接見交通(刑訴法39条1項),勾留理由開示請求(刑訴法82条2項),勾留取消請求(刑訴法87条1項)及び保釈請求(刑訴法88条1項)等,護人の活動すべき範囲は広く,弁護人が被告人の勾留されたことを直ちに知ることは人権保障の上で極めて重要ですから,刑訴法79条1項・207条1項による通知は弁護人依頼権を実質化するものです。
    被告人に弁護人がないときは,被告人の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者一人に通知しなければならないとされる(刑訴法79条2項・207条1項)のも,これらの者は独立して弁護人を選任することができる者である(刑訴法30条2項)から,弁護人依頼権を実質化しようとするものであるとともに,これらの者が被告人の所在を知って接見し(刑訴法80条),勾留理由開示請求(刑訴法82条2項,勾留取消請求(刑訴法87条1項)及び保釈請求(刑訴法88条1項)等をなし得るようにするものです。
(2) 弁護士弓田竜の刑事事件ブログ「勾留状謄本交付請求」には以下の記載があります。
東京地方裁判所では、平成28年7月から、勾留状謄本交付請求があった場合に勾留状のコピーの回付を受けて弁護人に交付する運用となりました。弁護人は、勾留状のコピーを受領する際に勾留状謄本交付請求を取り下げます。この運用により、弁護人は勾留状の記載内容を従来よりも早く確認することができるようになります。
2 被告人を勾留した場合において被告人に弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹がないときは,被告人の申出により,その指定する者1人にその旨を通知しなければなりません(刑訴規則79条)。


第5 勾留と,弁護人等以外の者との接見交通
1 勾留されている被疑者又は被告人は,弁護人等以外の者と,法令の範囲内で接見し,又は書類若しくは物の授受をすることができます(刑訴法80条前段)。
2 接見しようとする者が弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者である場合,その者は通常,刑事司法の目的及び運営に暗い者であるから,法令による各種の制限を置くことはやむを得ないといわれています。
3 ①逮捕状により留置中の被告人(逮捕中公判請求の場合),及び②被疑者(刑訴法209条は同法80条を準用していない)については,弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者との接見は認められていません。
4 裁判所は,逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは,検察官の請求により又は職権で,勾留されている被告人と弁護人等以外の者との接見を禁じ,又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し,その授受を禁じ,若しくはこれを差し押えることができ(刑訴法81条本文),これを接見等禁止決定といいます。


第6 勾留理由開示
1 総論
(1) 勾留理由開示は憲法34条後段の要請に基づく制度です。
(2) 勾留されている被疑者又は被告人は,裁判所に勾留の理由の開示を請求することができます(刑訴法82条1項・207条1項)。
(3) 勾留されている被疑者又は被告人の弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族,兄弟姉妹その他利害関係人も,裁判所に勾留の理由の開示を請求することができます(刑訴法82条2項・207条1項)。
(4) 勾留理由開示は,公開の法廷でなされ(刑訴法83条1項・207条1項),裁判官及び裁判所書記官が列席して開かれます(刑訴法83条2項・207条1項)。
なお,被告人及びその弁護人が出頭しないときは,原則として開廷することができません(刑訴法83条3項・207条1項)。
(5) 裁判長は,勾留理由開示の法廷において,勾留の理由を告げる必要があります(刑訴法84条1項・207条1項)。
(6) 検察官,弁護人等は,10分以内で意見を述べることができますし(刑訴法84条2項本文・207条1項,刑訴規則85条の3第1項),書面を差し出すことができます(刑訴法84条2項ただし書・207条1項,刑訴規則85条の3第2項)。
2 勾留理由開示に関する判例
(1) 刑訴法86条の趣旨に徴すれば,既に一度勾留理由の開示がなされたときは,その同一勾留の継続中は重ねて勾留理由の開示を請求することを許されません(最高裁昭和28年10月15日決定)。
    なお,刑訴法86条は同一時点における請求の競合について規定するものに対し,最高裁昭和28年10月15日決定は異なる時点における請求の競合について判示するものです。
(2) 勾留理由開示の請求を却下する決定で高等裁判所がしたものに対しては,たとえ判決後にしたものであっても,刑訴法428条2項により,その高等裁判所に通常の抗告に代る異議の申立てをすることができます(最高裁昭和31年12月13日決定)。
(3) 勾留理由開示の請求は,同一勾留については,勾留の開始せられた当該裁判所において一回にかぎり許されます(最高裁昭和44年4月9日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年8月5日決定,最高裁昭和29年9月7日決定参照)。
(4) 裁判官が勾留理由開示の請求を却下した裁判に不服がある者は,刑訴法429条1項2号により,その取消又は変更を請求することができます(最高裁昭和46年6月14日決定)。
(5) 簡易裁判所の裁判官が発した勾留状により勾留されている被疑者の事件が地方裁判所に起訴された場合には,第一回公判期日前における勾留理由の開示は,その地方裁判所の裁判官が行なうべきものです(最高裁昭和47年4月28日決定)。
(6) 勾留理由開示の請求は,勾留の開始された当該裁判所にのみなすことを許されます(最高裁昭和48年6月20日決定及び最高裁昭和50年10月18日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年8月5日決定,最高裁昭和29年9月7日決定参照)。
    そのため,被告人に対する勾留が第一審で開始されたものである場合,上告審において勾留理由開示の請求をすることはできません(最高裁昭和50年10月18日決定)。
(7)  最高裁判所がした勾留理由開示請求却下決定に対し,特別抗告をすることはできません(最高裁昭和60年12月12日決定)。
(8)ア 勾留理由の開示は,公開の法廷で裁判官が勾留の理由を告げることであるから,その手続においてされる裁判官の行為は,刑訴法429条1項2号にいう勾留に関する裁判には当たらないため,準抗告の対象とはなりません(最高裁平成5年7月19日決定)。
イ 勾留理由の開示は,公開の法廷で裁判官が勾留の理由を告げることであるから,刑訴法433条1項にいう「決定又は命令」に当たらないため,特別抗告の対象とはなりません(最高裁令和5年5月8日決定。なお,先例として,最高裁平成5年7月19日決定)。
(9)  公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した起訴前の勾留理由開示の期日調書の謄写について裁判官が刑訴法40条1項に準じて行った不許可処分に対しては,同法429条1項2号による準抗告を申し立てることはできず,同法309条2項により異議を申し立てることができるにすぎません(最高裁平成17年10月24日決定)。


第7 勾留の取消
1 勾留の理由又は勾留の必要がなくなったときは,裁判所は,検察官,勾留されている被告人若しくはその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により,又は職権で,決定を以て勾留を取り消す必要があります(刑訴法87条1項・207条1項)。
2 ①勾留に対する不服申立てが勾留の裁判自体に内在する瑕疵を原因とする勾留の否定であり,②保釈及び勾留の執行停止が勾留後の事情を考慮しての一時的効力の停止であるのに対し,③勾留の取消は,勾留後の事情を原因とするその撤回です。
3 刑訴法60条1項の勾留の理由は元々,勾留の必要のある場合の典型的な例ですから,勾留の理由がある以上,勾留の必要性も推定されます。
    そのため,勾留の理由があって必要性のない場合としては,住居不定ではあるものの確実な身元引受人がある場合が考えられるにすぎません。
4 勾留取消決定(ただし,刑訴法207条,280条の場合は勾留取消命令)をする場合,それが検察官の請求によるものでない限り,急速を要する場合を除き,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴法92条2項)。

第8 勾留の執行停止
1 裁判所は,適当と認めるときは,決定で,勾留されている被告人を親族,保護団体その他の者に委託し,又は被告人の住居を制限して,勾留の執行を停止することができます(刑訴法95条・207条1項)。
2 勾留の執行停止は実務上,被告人の病気療養のための入院,親族の冠婚葬,就職試験といった場合に限り,認められているにすぎません。
    また,執行停止の期間は実務上ほとんどの場合に付されています。
3 勾留の執行停止をする場合は必ず,親族,保護団体その他の者に委託するか(刑訴規則90条参照),又は被告人の住居を制限しなければなりません。
    なお,ハイジャック犯からの要求で超実定法的に被告人の勾留の執行を一時停止するといったように,委託も住居制限もできない場合に勾留の執行を停止することは,刑訴法95条とは無関係です。
4 勾留の執行停止決定をする場合,急速を要する場合を除き,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴規則88条)。


第9 被疑者勾留特有の事情
1 被疑者の勾留は原則として10日以内であり(刑訴法208条1項),やむを得ない事由があると認められる場合に限り,20日以内となります(刑訴法208条2項)。
2 刑訴法208条2項の「やむを得ない事由」とは,①被疑者若しくは被疑事実の多数,計算複雑,被疑者・関係人らの供述その他の証拠の食い違い,取調べが必要と見込まれる関係人・証拠物多数等,又は,②重要参考人の病気,旅行,所在不明若しくは鑑定等証拠収集の遅延,困難等により,起訴,不起訴の決定が困難な場合を指し,その存否の判断には,関連する事件も相当の限度で考慮に入れることができます(最高裁昭和37年7月3日判決)。
3 勾留期間の延長請求書には,勾留状と期間延長のやむを得ない事由があることを認めるべき資料を添付しなければなりません(刑訴規則152条)。
    通常は,取調べを要する関係者多数,重要参考人が遠隔地のため取調べ未了及び事案複雑等,その事由を具体的に記載し,一件捜査記録を資料として添付しています。
4 勾留の期間延長の裁判は,延長する期間及び理由を記載した勾留状を検察官に交付することによって効力を生じます(刑訴規則153条1項ないし3項)。
5 検察官は,勾留状の交付を受けたときは,ただちに刑事施設職員を通じてこれを被疑者に示す必要があります(刑訴規則153条4項)。


第10 被告人勾留特有の事情
1 被告人の勾留の目的は,①被告人の公判廷への出頭を確保し,罪証隠滅を防止する点,及び②有罪判決がなされた場合の刑を執行するために身柄を確保する点にあります。
2 第1回公判期日前の勾留は裁判官が行います(刑訴法280条1項)。
3 被告人勾留の場合,裁判所が職権で行うのであって,被疑者勾留の場合のように検察官の請求によって行う(刑訴法207条)わけではありません。
4 逮捕中の被疑者について逮捕の基礎となった犯罪事実につき公訴を提起する場合において,その者を勾留する必要があると認めるときに,実務上,検察官が被告人の勾留を求めること(逮捕中求令状)がありますものの,これは裁判官に対してその職権の発動を促す意思表示にすぎません。
5 勾留の期間は原則として2ヶ月である(刑訴法60条2項本文前段)ものの,特に継続の必要がある場合においては,具体的に理由を付した決定で,1ヶ月ごとにこれを更新することができます(刑訴法60条2項本文後段)。
    ただし,罪証隠滅,住居不定等の場合を除き,勾留の更新は1回しかできません(刑訴法60条2項ただし書)。
6 刑訴法60条2項本文前段の「勾留の期間」とは,勾留状の執行として拘禁できる期間をいいます。
7 勾留状の有効期間(刑訴法64条1項,刑訴規則300条)とは,勾留状を執行する有効期間をいい,被告人を交流すべき期間をいうものではありません(最高裁昭和25年6月29日決定)。
8 起訴前の勾留中における捜査官の取調べの当否は起訴後の勾留の効力に影響を及ぼしません(最高裁昭和44年9月27日決定。なお,先例として,最高裁昭和42年8月31日決定)。
9 勾留期間更新決定に関する抗告申立ての利益は,右決定による勾留の期間の満了により失われます(最高裁平成6年7月8日決定)。

第11 第一審裁判所の無罪判決後の勾留
1 刑訴法345条は,無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾留状が失効する旨規定しており,特に,無罪判決があったときには,本来,無罪推定を受けるべき被告人に対し,未確定とはいえ,無罪の判断が示されたという事実を尊重し,それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから,被告人が無罪判決を受けた場合においては,同法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求されます(最高裁平成19年12月13日決定)。
2 第1審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合であっても,控訴審裁判所は,第1審裁判所の判決の内容,取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果,なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても,勾留の理由及び必要性が認められるときは,その審理の段階を問わず,被告人を勾留することができます(最高裁平成23年10月5日決定。なお,先例として,最高裁平成12年6月27日決定,最高裁平成19年12月13日決定参照)。


第12 代用監獄及び被告人の移送
1 被疑者及び被告人の勾留場所は本来,刑事施設としての拘置所です(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(=刑事収容施設法)3条3号)。
    しかし,拘置所の収容能力に限界があることから,被疑者の勾留場所はほぼ常に警察署留置場であり,被告人の勾留場所も当初は警察署留置場となっており(刑事収容施設法15条1項参照),これを代用監獄といいます。
2 検察官は,裁判長の同意を得て,勾留されている被告人を他の刑事施設に移すことができます(刑訴規則80条1項)。
3 検察官は,被告人を他の刑事施設に移したときは,直ちにその旨及びその刑事施設を裁判所及び弁護人に通知しなければなりません(刑訴規則80条2項前段)。
   被告人に弁護人がないときは,被告人の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者一人にその旨及びその刑事施設を通知しなければなりません(刑訴規則80条2項後段)。
4 勾留に関する処分を行う裁判官は職権により被疑者又は被告人の勾留場所を変更する旨の移監命令を発することができます(最高裁平成7年4月12日決定)。


第13 未決勾留による拘禁関係に信義則上の安全配慮義務はないこと等
1 最高裁平成17年12月8日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
拘置所に勾留中の者が脳こうそくを発症し重大な後遺症が残った場合について,第1回のCT撮影が行われて脳こうそくと判断された時点では血栓溶解療法の適応がなかったこと,それより前の時点では適応があった可能性があるが,その適応があった間に,同人を外部の医療機関に転送して,血栓溶解療法を開始することが可能であったとは認め難いこと,拘置所において,同人の症状に対応した治療が行われており,そのほかに,同人を速やかに外部の医療機関に転送したとしても,その後遺症の程度が軽減されたというべき事情は認められないことなど判示の事情の下においては,同人が,速やかに外部の医療機関へ転送され,転送先の医療機関において医療行為を受けていたならば,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたとはいえず,拘置所の職員である医師の転送義務違反を理由とする国家賠償責任は認められない。
2 
最高裁平成28年4月21日判決は,以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
   未決勾留は,刑訴法の規定に基づき,逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として,被疑者又は被告人の居住を刑事施設内に限定するものであって,このような未決勾留による拘禁関係は,勾留の裁判に基づき被勾留者の意思にかかわらず形成され,法令等の規定に従って規律されるものである。
   そうすると,未決勾留による拘禁関係は,当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係とはいえない。
   したがって,国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わないというべきである(なお,事実関係次第では,国が当該被勾留者に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合があり得ることは別論である。)。
3 最高裁令和3年6月15日判決は,以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
 拘置所を含む刑事施設においては,これに収容されている者(以下「被収容者」という。)の健康等を保持するため,社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとされ(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条),刑事施設の長は,被収容者が負傷し,若しくは疾病にかかっているとき,又はこれらの疑いがあるとき等には,速やかに,刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療を行い,その他必要な医療上の措置を執るなどとされている(同法62条1項等)。
 そして,刑事施設の中に設けられた病院又は診療所にも原則として医療法の規定が適用され(同法30条の2,医療法施行令3条2項参照),これらの病院又は診療所において診療に当たる医師等も医師法又は歯科医師法の規定に従って診療行為を行うこととなる。
 そうすると,被収容者が収容中に受ける診療の性質は,社会一般において提供される診療と異なるものではないというべきである。


第14 未決拘禁者については施設内免許再取得試験を実施していないこと
・ 日弁連の未決勾留期間中の運転免許失効に関する人権救済申立事件(令和3年9月22日付の要望)には以下の記載があります。
 同所(山中注:東京拘置所のこと。)では、2004年11月16日付け法務省矯保第5794号通知(「矯正施設における特定失効者に対する運転免許試験の実施について(通知)」、以下「本件通知」という。)に基づき、受刑者については上記3年の期間内に、施設内において技能試験等が免除された運転免許試験(以下「施設内免許再取得試験」という。)を年1回実施しているところ、未決勾留中の者を含む未決拘禁者については、本件通知がこれを対象としていないことから、施設内免許再取得試験を実施していない。そのため、運転免許失効後3年が経過した未決拘禁者は、将来運転免許を再取得するためには全ての試験を再受験しなければならなくなる。


第15 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計
 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計(地簡裁総数)は以下のとおりです。
・ 平成25年から令和4年まで
・ 令和2年分及び令和3年分
・ 平成30年分及び令和元年分
・ 平成30年分
→ 全国の地裁管内ごとの統計が含まれています。
・ 昭和49年から平成29年まで


第16 関連記事その他
1(1) リーガラスHP「「ある弁護士の獄中体験記」記事一覧(留置所・拘置所・刑務所での生活と出所の記録)」(筆者は44期の山本至 元弁護士(東弁))が載っています。
同人は,平成18年11月9日に突然,宮崎県警に逮捕され,宮崎地裁平成21年4月28日判決(判例秘書)により懲役1年6月・未決勾留日数50日算入の実刑判決となり,福岡高裁平成22年12月16日判決(判例秘書)により控訴棄却となり,最高裁平成24年10月22日決定により上告棄却となり,同年12月10日に福岡高検宮崎支部に出頭し,平成26年4月20日に刑期満了となり,翌日,大分刑務所を出所しました
(2) 東京弁護士会は,平成19年10月11日,「山本至会員に対する第1回公判にあたっての会長談話」を出しました(弁護士自治を考える会ブログの「山本至弁護士【東京】二審も実刑判決。別に犯人いると虚偽」参照)。)。
2 新刑事手続Ⅰ・257頁には「今後の捜査に応じるかどうか,将来の起訴状等の送達・公判廷への出廷が確実かどうかまでを含めて検討し,これが容易でないのが「逃亡のおそれ」であるということになろう。」(筆者は30期の渡辺咲子検事)と書いてあります。
3(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 勾留質問手続における遠隔通訳について(令和3年3月26日付の最高裁刑事局第二課長等の事務連絡)
3(2) 以下の記事も参照してください。
・ 被疑者の逮捕
・ 被告人の保釈
・ 保釈保証金の没取
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧


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