目次
第1 外国送達の費用は一律ではない1 国際郵便の送料だけでは総額が決まらない2 本記事の対象第2 見積りで分ける費用の内訳第3 送達条約の費用原則と米国の具体例1 条約による送達がすべて無料という意味ではない2 米国の95米ドルは処理手数料である第4 翻訳費用は文書の範囲と言語を確定して見積もる1 要請書の使用言語と送達文書の翻訳を分ける2 中国本土では送達する文書・証拠の中国語が問題になる3 認証や翻訳の証明も別に確認する第5 見積り前にそろえる資料と費用を抑える際の注意点第6 費用・翻訳についてのよくある質問1 外国送達の費用はいくらですか2 訴状だけを翻訳すれば足りますか3 日本人が相手なら翻訳は不要ですか4 受領拒否や転居で再送達になれば追加費用がかかりますか第7 出典
第1 外国送達の費用は一律ではない
1 国際郵便の送料だけでは総額が決まらない
海外送達(外国送達)の費用は,送達先の国・地域,送達方法,翻訳する文書の種類・分量及び住所の確認状況によって異なる。
訴状等を外国で適法に送達する手続の費用であり,荷物を海外へ送るための送料だけで総額を判断することはできない。
見積りでは,翻訳費,受領国での送達実施費,住所確認や再送達に伴う費用を区別し,弁護士に依頼する場合の報酬も別に確認する必要がある。
例えば,後記の米国の95米ドルは一定の送達要請の処理手数料であり,日本での訴訟や海外送達に必要な費用の総額ではない。
2 本記事の対象
本記事は,令和8年10月17日に確認した送達条約と公式案内に基づき,日本の裁判所から外国にいる者へ民事裁判の書類を送達する場合の費用と翻訳を整理する。
外国の裁判所から日本に書類を送る場合の手続や,日本判決を外国で執行するための費用は,同じ問題ではない。
送達方法,所要期間,受領拒否,住所不明及び公示送達の全体像は,外国送達の方法,送達条約及び公示送達で説明している。
私は外国送達に関する個別の法律相談を取り扱っていない。
第2 見積りで分ける費用の内訳
費用を比較するときは,同じ範囲の作業を比較しているかを確認する必要がある。
次の各項目が常にすべて発生するわけではなく,採用する手続と必要な作業に応じて見積りを確認する。
費用の区分確認する内容増減する主な事情翻訳・翻訳確認対象文書,言語,分量,証明の要否訴状・証拠の量,専門性,修正現地での送達実施当局・実施機関の料金と支払条件国・経路,特別な方法の指定住所確認・再送達調査の範囲,再試行の料金条件住所誤記,転居,不奏功の理由書類作成・送付必要部数,作成・送付の実費書類の追加,補正,送付方法弁護士報酬等委任範囲に含む作業と別途費用訴訟代理,外国法調査,現地対応
翻訳料金を単純に1頁当たりで比較しても,原文頁・訳文頁・文字数・単語数のどれを単位にするかが違えば,同じ条件の比較にならない。
訳文の確認,修正,納期及び税の取扱いを含め,見積書に何が含まれるかを確認するのが実務上の出発点となる。
第3 送達条約の費用原則と米国の具体例
1 条約による送達がすべて無料という意味ではない
ハーグ送達条約12条は,受託国の役務について租税又は費用の支払・償還を生じさせない原則を置く一方,司法官等の利用又は特別な送達方法によって生じた費用は,申請者が支払・償還すると定めている。
この原則から,翻訳業者に依頼する費用や弁護士報酬まで無料になると考えることはできない。
条約本文はHCCHの公式ページで確認できる(3条,5条,7条,12条)。
https://www.hcch.net/en/instruments/conventions/full-text/?cid=17
2 米国の95米ドルは処理手数料である
米国司法省は,米国内の民間の個人・会社に対する送達要請を,委託先のABC Legal Servicesが実施すると案内している。
送達条約又は外交経路の嘱託による要請には,ABC Legal宛ての95米ドルの処理手数料を伴わせるとしている(令和8年10月17日確認)。
この95米ドルを,翻訳費,弁護士報酬,日本側の実費等も含めた「海外送達の総費用」と表示するのは適切でない。
同省は米国政府に対する要請等について別の取扱いも示しており,送達先と経路を特定してから費用を確認する必要がある。
公式案内の該当箇所は「I. Inbound Service Requests」の「A. Service on Private Litigants and Companies」である。