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裁判手続の実務

民事訴訟の当事者が死亡したとき―訴訟手続の中断・受継,訴訟代理人がいる場合,中断中の判決と控訴期間(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断1 中断と受継の条文2 中断は法律上当然に生じる3 相続の対象にならない権利と人事訴訟第3 訴訟代理人がいる場合1 中断しない2 訴訟代理人は承継人の代理人になる3 中断しない理由と例外4 上訴には特別の委任が要る第4 受継の手続1 相続の放棄をすることができる間は受け継げない2 受継の申立てと裁判所の調査3 相続放棄と受継決定の当否4 判決の送達後に中断した場合第5 中断中の判決と控訴期間1 中断中は期間が止まる2 判決の言渡しは中断中でもできる3 中断を見落としてされた判決4 死亡を知ったときに確かめること第6 関連記事第7 出典・参考資料1 裁判例2 法令3 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,民事訴訟の係属中に原告又は被告が死亡した場合に,訴訟手続がどうなるかを整理する。
具体的には,訴訟手続の中断と受継,訴訟代理人がいる場合の扱い,相続の放棄との関係,中断中の判決と控訴期間,中断を見落としてされた判決の是正方法を扱う。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し,判例秘書で判決の全文を読んだものに限って紹介している。

2 結論

①訴訟代理人がいない当事者が死亡すると,訴訟手続は法律上当然に中断し,相続人等が訴訟手続を受け継ぐ(民事訴訟法124条1項1号)。
②訴訟代理人がいる間は,当事者が死亡しても訴訟手続は中断せず(同条2項),訴訟代理人は,その審級では相続人等の訴訟代理人として訴訟を続ける。
③相続人は,相続の放棄をすることができる間は,訴訟手続を受け継ぐことができない(同条3項)。
④受継の申立ては相手方もすることができ,裁判所は,申立てに理由があるかを職権で調べる。
⑤中断中は,控訴期間を含む期間の進行が止まり,受継の通知又は続行の時から新たに全期間が進行する(同法132条2項)。
⑥判決の言渡しは中断中でもすることができる(同条1項)が,中断を見落として口頭弁論期日を開き,弁論を終結して判決を言い渡すことは法令違反であり,最高裁判所は,旧民事訴訟法の下で,上告審でそのような判決を破棄している。
⑦離婚訴訟のような人事訴訟では,当事者の死亡によって訴訟そのものが終了する場合がある(人事訴訟法27条)。

第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断
1 中断と受継の条文

民事訴訟法124条1項は,各号の事由があるときは訴訟手続は中断し,各号に定める者が訴訟手続を受け継がなければならないと定める。
当事者の死亡について,同項1号は,受け継ぐべき者を「相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人その他法令により訴訟を続行すべき者」としている。
中断の間に口頭弁論期日を開いて手続を進めることは,法令違反となる(第5の3)。

2 中断は法律上当然に生じる

中断は,裁判所の決定を待たずに生じる。
最高裁判所第三小法廷平成19年3月27日判決(第7の1①)は,外国国家の代表権の消滅による中断について,「訴訟手続の中断は,中断事由の存在によって法律上当然に生ずるもの」であると述べている。
そのため,裁判所や相手方が死亡を知らないまま手続が進むと,後で手続のやり直しが必要になることがある(第5の3)。

3 相続の対象にならない権利と人事訴訟

相続人は,相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するが,被相続人の一身に専属したものは承継しない(民法896条)。
訴訟の対象が相続される権利義務であれば,相続人が訴訟手続を受け継ぐことになる。

人事訴訟については,人事訴訟法27条1項が,人事訴訟の係属中に原告が死亡した場合には,特別の定めがある場合を除き,当該人事訴訟は当然に終了すると定める。
同条2項は,離婚,嫡出否認(父を被告とする場合を除く。)又は離縁を目的とする人事訴訟の係属中に被告が死亡した場合にも,当該人事訴訟は当然に終了すると定める。
人事訴訟の係属中に当事者が死亡したときは,受継を考える前に,同法の規定で訴訟が終了していないかを確かめる必要がある。

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民事裁判で公開されない手続と公開停止―弁論準備手続の傍聴,裁判所外の尋問,当事者尋問等の公開停止及び記録の閲覧制限(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 公開が求められる範囲1 憲法82条と民事訴訟法2 公開が求められるのは純然たる訴訟事件の裁判第3 口頭弁論の公開停止1 憲法82条2項と裁判所法70条2 公開を禁止した口頭弁論の記録第4 当事者尋問等の公開停止1 人事訴訟法22条2 特許法105条の7等3 秘密保持命令との違い第5 口頭弁論以外の手続1 弁論準備手続2 書面による準備手続3 和解4 裁判所外の証拠調べと受命裁判官等による尋問5 文書提出命令のインカメラ手続6 決定で完結すべき事件第6 家事事件と非訟事件第7 公開の法廷で行う尋問での保護の措置第8 記録の閲覧制限との違い第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,民事裁判のうち,公開の法廷で行われない手続と,公開の法廷で行う審理を例外的に公開しない制度(公開停止)を整理する。
依頼者から「裁判は誰でも傍聴できるのか」「家族や会社の担当者は期日に同席できるのか」「私生活上の秘密や営業秘密を公開の法廷で話さなければならないのか」と尋ねられたときに確認すべき条文と判例をまとめている。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトに掲載された判決・決定の全文で確認したものに限って紹介している。

2 結論

①憲法82条1項は,裁判の対審及び判決を公開法廷で行うと定め,民事訴訟法は,訴訟について裁判所で口頭弁論をしなければならないとし(87条1項本文),口頭弁論の公開の規定に違反したことを上告の理由としている(312条2項5号)。
②最高裁判所の大法廷は,憲法82条にいう裁判は,当事者の主張する実体的権利義務の存否を終局的に確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判のみを指すとしている。
③口頭弁論の対審は,裁判官の全員一致で公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には公開しないで行うことができるが,判決を言い渡すときは再び公衆を入廷させなければならない。
④人事訴訟,特許権・実用新案権・育成者権の侵害に係る訴訟並びに不正競争防止法及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律の不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟には,私生活上の重大な秘密又は営業秘密に係る事項の尋問を公開しないで行う制度(当事者尋問等の公開停止)がある。
⑤弁論準備手続は,当事者双方が立ち会うことができる期日で行われ,第三者の傍聴は裁判所が許した場合に限られるが,当事者が申し出た者は,手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認められる場合を除いて傍聴を許される。
⑥書面による準備手続は当事者の出頭なしに書面の提出等で争点等を整理する手続であり,裁判所外の証拠調べや受命裁判官等による尋問は裁判所外で行われ,文書提出命令のインカメラ手続で提示された文書は何人も開示を求めることができない。
⑦決定で完結すべき事件では,口頭弁論をするか否かを裁判所が定め,家事事件と非訟事件の手続は法律上公開しないとされている。
⑧期日を公開しないことと訴訟記録の閲覧を制限することは別の制度であり,公開の法廷で審理された事件でも,秘密保護のための閲覧等の制限により,秘密が記載された部分の閲覧等を請求できる者が当事者に限られることがある。

第2 公開が求められる範囲
1 憲法82条と民事訴訟法

憲法82条1項は,「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と定める。
民事訴訟法は,当事者は訴訟について裁判所において口頭弁論をしなければならないとし(87条1項本文),口頭弁論の公開の規定に違反したことを上告の理由の一つとしている(312条2項5号)。
このため,公開が問題となる中心は口頭弁論と判決の言渡しである。

最高裁判所大法廷平成元年3月8日判決(レペタ事件)は,憲法82条1項の趣旨を「裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある」とした。
同判決は,同項が「各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより」,傍聴人がメモを取ることを権利として保障するものでもないとしている。
同判決は,裁判の公開を,傍聴人の個別の権利としてではなく,制度として保障されるものと位置付けている。

2 公開が求められるのは純然たる訴訟事件の裁判

最高裁判所大法廷昭和35年7月6日決定は,憲法は「純然たる訴訟事件の裁判については、前記のごとき公開の原則の下における対審及び判決によるべき旨を定めたのであつて」と述べ,純然たる訴訟事件についてされた調停に代わる裁判を憲法82条及び32条に照らし違憲とした。

最高裁判所大法廷昭和40年6月30日決定は,「法律上の実体的権利義務自体につき争があり、これを確定するには、公開の法廷における対審及び判決によるべきものと解する」とした上で,夫婦の同居に関する審判は「本質的に非訟事件の裁判であつて、公開の法廷における対審及び判決によつて為すことを要しない」とした。
同決定は,審判の前提となる同居義務等自体については,公開の法廷における対審及び判決を求める途が閉ざされているわけではないことも理由に挙げている。

最高裁判所大法廷昭和41年3月2日決定は,遺産の分割に関する処分の審判について同じ判断をした上で,前提となる相続権,相続財産等の権利関係は,「その存否を終局的に確定するには、訴訟事項として対審公開の判決手続によらなければならない」とした。

最高裁判所大法廷昭和45年6月24日決定は,破産宣告決定及びこれに対する抗告事件についての抗告棄却決定は,口頭弁論を経ないでされても憲法82条に違反しないとした。

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電子署名法3条の推定とは―民事訴訟法228条4項との関係,立会人型電子署名のQ&A及び立証の実務(AI作成)

目次第1 本記事の対象と基準日1 対象2 基準日と資料第2 条文の構造1 電子署名法3条の文言2 「電子署名」の定義3 民事訴訟法228条4項との対応第3 3条の推定が働くための要件1 3条Q&Aが示す2つの要件2 固有性の要件3 本人の意思に基づくこと第4 立会人型の電子契約サービスの位置付け1 どのようなサービスか2 2条の電子署名に当たるための条件3 3条の電子署名に当たるための条件4 「符号及び物件」の適正な管理第5 訴訟で成立の真正が争われたときの立証1 利用者と作成名義人の同一性2 身元確認の水準とサービスの選択3 推定以外の立証手段4 実務上の留意点第6 認定認証業務との関係第7 出典1 法令2 公的資料3 文献
第1 本記事の対象と基準日
1 対象

本記事は,電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)3条が定める電磁的記録の真正な成立の推定について,条文の構造,民事訴訟法228条4項との関係,いわゆる立会人型(事業者署名型)の電子契約サービスに関する政府のQ&A,及び訴訟で成立の真正が争われたときの立証の考え方を整理するものである。
紙の契約書では,本人の署名又は押印があれば文書が真正に成立したものと推定されるが,電子契約では,どのような電子署名があれば同じような推定が働くのかが問題になる。

2 基準日と資料

本記事の調査基準日は令和8年9月26日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で同日に確認した。
電子契約サービスについては,総務省・法務省・経済産業省が令和2年9月4日に公表し,デジタル庁・法務省が令和6年1月9日に一部改定した「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(以下「3条Q&A」という。)の原文による。
電子署名法3条の推定の成否を判断した裁判例については,本記事では調査の対象としていない。

第2 条文の構造
1 電子署名法3条の文言

電子署名法3条は,「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
推定の対象は,公務員が職務上作成したものを除く電磁的記録であり,推定が働くための前提は,本人による電子署名であって,本人だけが行うことができることとなるものが行われていることである。

2 「電子署名」の定義

電子署名法2条1項は,「電子署名」を,電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって,「当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。」及び「当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。」の2つの要件のいずれにも該当するものと定義している。
3条の電子署名は,この2条1項の電子署名に当たることを前提に,さらに「本人だけが行うことができることとなるもの」に限定されている。
電子署名法1条は,同法の目的として,電子署名に関し,電磁的記録の真正な成立の推定,特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めることを掲げている。

3 民事訴訟法228条4項との対応

民事訴訟法228条1項は,「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と定め,同条4項は,「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
電子署名法の法律案を内閣法制局第四部長として審査した山本庸幸元内閣法制局長官は,回想録の中で,同法3条を民事訴訟法228条4項のいわばデジタル版として置いたと説明している(山本庸幸『元内閣法制局長官・元最高裁判所判事回想録』(弘文堂,令和6年)265頁~266頁)。
押印された私文書について,印影が本人の印章によるものであれば本人の意思に基づく押印と事実上推定され,その上で228条4項の推定が働くという「二段の推定」については,二段の推定とはで扱っている。

第3 3条の推定が働くための要件
1 3条Q&Aが示す2つの要件

3条Q&A問1は,電子署名法3条の規定が適用されるためには,次の2つの要件が満たされる必要があるとしている。
①電子文書に電子署名法3条に規定する電子署名が付されていること。
②その電子署名が本人(電子文書の作成名義人)の意思に基づき行われたものであること。

2 固有性の要件

3条Q&A問1は,3条の電子署名が2条の電子署名よりも要件を加重されているのは,3条が電子文書の成立の真正を推定するという効果を生じさせるものだからであると説明している。
その上で,この効果を生じさせるためには,「暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないと認められることが必要であり」,これを「固有性の要件」と呼んでいる。
同問は,例えば,十分な暗号強度を有し他人が容易に同一の鍵を作成できないものである場合には,①の要件を満たすとしている。

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上告不受理決定は原判決を正しいと認めたことになるか―受理の判断要素,軽審議及び反対意見付きの不受理(AI作成)

目次第1 本記事の概要1 結論2 資料と基準日第2 上告受理申立て制度の仕組み1 上告と上告受理申立ての違い2 申立ての期間と理由書3 上告審の調査範囲第3 最高裁判所の審理の流れ1 約95%は持ち回り審議で処理される2 第三小法廷の軽審議3 期日審議第4 受理・不受理の判断要素1 条文上の要件2 宇賀氏が挙げる七つの判断要素3 判断の機が熟していないことを理由とする不受理4 経験則違反・採証法則違反による受理第5 不受理決定の意味と読み方1 不受理決定は原審判断を是認したものではない2 不受理決定に反対意見を付けることをめぐる議論3 反対意見付きの不受理の件数と令和3年の表記変更第6 受理決定と論旨の排除・職権調査1 受理決定での論旨の一部排除2 申立て理由に書かれていない誤りは取り上げられない3 職権調査事項は申立て理由に拘束されない4 条約違反の主張の扱い第7 口頭弁論期日の指定の意味1 口頭弁論が開かれる場合2 棄却見込みでも弁論を開く運用3 期日指定後の和解・取下げ第8 代理人・当事者の実務上の留意点1 理由書では七つの判断要素に即して重要性を示す2 拾ってほしい誤りはすべて論旨にする3 依頼者への説明第9 出典1 法令2 裁判例3 文献第10 関連記事
第1 本記事の概要
1 結論

上告不受理決定は,最高裁判所が原判決の判断を正しいと認めたことを意味するものではない。
不受理決定は,上告受理の申立ての理由に「法令の解釈に関する重要な事項」を含むとは認められないとして,最高裁判所が事件に介入しないことを示すものにとどまる。
宇賀克也最高裁判所判事(当時。令和7年7月定年退官)も,著書で,原審の判断に問題があると考えつつ介入するほどではないとして不受理とされることや,判断の機が熟していないことを理由に不受理とされることがあると説明している(宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)35頁~36頁)。

本記事は,上告受理の申立てをした当事者,申立てを受けた相手方及びその代理人を読者として想定し,①上告受理申立て制度の条文上の仕組み,②最高裁判所の内部での審理の流れ,③受理・不受理の判断要素,④不受理決定の意味と反対意見付きの不受理,⑤受理決定での論旨の排除と職権調査,⑥口頭弁論期日の指定の意味,⑦依頼者への説明を含む実務上の留意点を順に説明する。
本記事は,AIを用いて作成したものである。

2 資料と基準日

条文は,令和8年9月25日にe-Gov法令検索で確認した民事訴訟法及び裁判所法の現行条文による。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し,判決文は同サイト掲載の全文PDFから引用した。

最高裁判所の内部の運用については,宇賀氏の前掲書に依拠する。
同氏は,平成31年3月に最高裁判所判事に就任し,令和7年7月に定年退官するまで第三小法廷に所属していた(宇賀・前掲2頁,10頁)。
内部の運用は公的資料では裏付けられないため,本記事では,本書に依拠する部分を「宇賀氏は……と述べている」などの形で示し,条文や判決文から確認できる事項と区別する。
本書が説明する運用は,著者の在任期間中のもの,特に第三小法廷のものであり,他の小法廷や現在の運用が同じであるとは限らない。

第2 上告受理申立て制度の仕組み
1 上告と上告受理申立ての違い
(1) 上告の理由は憲法違反と絶対的上告理由に限られる

高等裁判所の判決に対して最高裁判所に不服を申し立てる方法には,上告と上告受理の申立ての二つがある。
民事訴訟法312条1項は,「上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。」と定める。
同条2項は,判決裁判所の構成の違法,代理権の欠缺,判決の理由不備・理由の食違い等の事由(いわゆる絶対的上告理由)を掲げる。
最高裁判所への上告では,単なる法令違反は上告の理由にならない。

(2) 上告受理は最高裁判所の裁量による

法令違反を最高裁判所に主張する手段が上告受理の申立てである。
民事訴訟法318条1項は,「上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。」と定める。
同条2項は,上告受理の申立てにおいては「第三百十二条第一項及び第二項に規定する事由を理由とすることができない。」と定めており,憲法違反等は上告で,法令違反は上告受理の申立てで主張するという役割分担になっている。
条文は「受理することができる」と定めており,受理するかどうかは最高裁判所の判断に委ねられている。
宇賀氏も,受理のハードルは高く,大半の申立ては不受理になると述べている(宇賀・前掲32頁)。

2 申立ての期間と理由書
(1) 申立ては2週間の不変期間内にする

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配当を受けた債権者に不当利得返還請求はできるか―抵当権者と一般債権者で結論が分かれる最高裁判例と配当異議(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論の要旨第2 配当の手続と配当異議の条文1 配当表の作成2 配当異議の申出3 配当異議の訴えと1週間の期間4 担保不動産競売への準用第3 抵当権者は不当利得返還請求ができる―最高裁平成3年3月22日判決1 判示2 理由第4 一般債権者は不当利得返還請求ができない―最高裁平成10年3月26日判決1 判示2 理由3 二つの判決の比較第5 配当異議の手続で注意すべき点1 配当表に記載されていない者―最高裁平成6年7月14日判決2 訴え提起の証明―最高裁平成6年12月6日判決3 受益者の返還義務の範囲第6 当事者ごとの確認事項1 抵当権者2 一般債権者3 配当表に記載されなかった債権者4 配当を受けた債権者第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
(1) 問題となる場面

不動産の競売手続では,配当期日に配当表が作成され,これに基づいて各債権者に配当が実施される。
ところが,実際には債権を持っていない者や,優先権がないのに優先して扱われた者が配当を受けてしまうことがある。
配当期日に異議を述べなかった債権者が,配当が終わった後に,配当を受けた者に対して自分が受け取るはずだった分の返還を求めて不当利得返還請求をすることができるかが問題となる。
本記事は,この問題について,抵当権者と一般債権者とで結論が分かれた二つの最高裁判所の判決を中心に,配当異議の手続とあわせて整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文により,裁判例は裁判所ウェブサイトに全文が掲載された最高裁判所の判決により確認した。
強制執行や配当要求と消滅時効の関係は,強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求で扱っている。

2 結論の要旨

①配当表に記載された債権又は配当の額に不服のある債権者及び債務者は,配当期日において配当異議の申出をすることができる(民事執行法89条1項)。
配当異議の申出をした債権者は配当異議の訴えを提起しなければならず,配当期日から1週間以内に訴えを提起したことを執行裁判所に証明しないと,配当異議の申出は取り下げたものとみなされる(同法90条1項・6項)。
②抵当権者は,配当期日に配当異議の申出をしなかった場合でも,債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対して,その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の返還を請求することができる(最高裁平成3年3月22日判決)。
③これに対し,配当期日に配当異議の申出をしなかった一般債権者は,配当を受けた他の債権者に対して,自己が配当を受けることができなかった額に相当する金員の不当利得返還請求をすることができない(最高裁平成10年3月26日判決)。
④平成10年判決は平成3年判決に言及していないが,両判決の理由付けを対比すると,抵当権者が抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有するのに対し,一般債権者は特定の執行の目的物について優先弁済を受けるべき実体的権利を有しておらず,他の債権者が配当を受けたというだけでは民法703条の「損失」が生じたとはいえないことが,結論の違いにつながっていると考えられる。
⑤配当表に債権者として記載されなかった者は,配当異議の訴えを提起する原告適格を有しないとされている(最高裁平成6年7月14日判決)。
⑥配当異議の訴えを提起したことの証明は,配当異議の申出をした者が自らの責任において,法定の期間内に執行裁判所に対してする必要がある(最高裁平成6年12月6日判決)。

第2 配当の手続と配当異議の条文
1 配当表の作成

民事執行法85条1項は,執行裁判所は,配当期日において,同法87条1項各号に掲げる各債権者について,その債権の元本及び利息その他の附帯の債権の額,執行費用の額並びに配当の順位及び額を定めると規定している。
同条2項は,「執行裁判所は、前項本文の規定により配当の順位及び額を定める場合には、民法、商法その他の法律の定めるところによらなければならない。」と定め,同条5項は,これらの事項が定められたときは,裁判所書記官が配当期日において配当表を作成しなければならないとしている。
同法84条1項は,「執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。」と定めている。

2 配当異議の申出

民事執行法89条1項は,「配当表に記載された各債権者の債権又は配当の額について不服のある債権者及び債務者は、配当期日において、異議の申出(以下「配当異議の申出」という。)をすることができる。」と定めている。
同条2項は,「執行裁判所は、配当異議の申出のない部分に限り、配当を実施しなければならない。」と定めている。
配当異議の申出がなければ,その部分は配当表のとおりに配当が実施されることになる。

3 配当異議の訴えと1週間の期間

(続きを読む...)配当を受けた債権者に不当利得返還請求はできるか―抵当権者と一般債権者で結論が分かれる最高裁判例と配当異議(AI作成)

訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備え(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 訴訟告知の要件と方式1 誰が誰に告知できるか2 告知書の記載3 告知の時期第3 告知の効力―参加的効力1 条文2 既判力とは異なる効力3 効力が及ぶ理由中の判断の範囲4 法律上の利害関係がなければ効力は生じない5 効力が及ばない場合(46条各号)6 既判力と参加的効力の比較第4 効力はどちらの向きに働くか第5 訴訟告知を検討する場面1 敗訴すると第三者へ請求することになる場合2 共同被告との関係3 告知だけでは相手に対する債務名義にならない第6 法律が訴訟告知を義務付けている場面第7 訴訟告知を受けた側の対応第8 告知書を出す前の確認事項第9 本記事で扱わなかった事項第10 関連記事第11 出典
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,民事訴訟の当事者が,訴訟の係属中に第三者へ訴訟告知をするのはどのような場合か,告知をするとどのような効力が生じるかを扱う。
典型は,敗訴した場合に第三者へ求償又は損害賠償を請求することになる当事者が,後の訴訟で同じ事実を一から争われないようにするために告知をする場面である。

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文を,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で全文を確認した最高裁判例を用いた。
前の訴訟の判決を後の訴訟でどう使うか(既判力,裁判上の自白及び証拠価値)は別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるかで,補助参加の具体例は遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加で扱っている。

2 結論

①訴訟告知は,当事者が,訴訟の係属中に,その訴訟に参加することができる第三者に対してするものであり,理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してする(民事訴訟法53条1項・3項)。
②告知を受けた者が参加しなかった場合も,参加することができた時に参加したものとみなされ,補助参加人に対する裁判の効力を受ける(同法53条4項,46条)。
③この効力は既判力ではなく,判決の確定後に,補助参加人(告知を受けた者)が被参加人(告知をした者)に対して,その判決が不当であると主張することを禁ずる効力である。
判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の判断にも及ぶ(最高裁昭和45年10月22日判決)。
④もっとも,効力が及ぶ理由中の判断は,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限られ,傍論には及ばない。
また,告知を受けた者が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合でなければ,効力は生じない(最高裁平成14年1月22日判決)。
⑤既判力は当事者等の間に生じるもので(同法115条1項),同じ原告から訴えられた共同被告どうしの間には当然には生じない。
後で求償や損害賠償を請求する相手との関係は,前の訴訟の段階で手当てを考える必要がある。
⑥債権者代位訴訟,詐害行為取消訴訟及び株主代表訴訟では,法律が訴訟告知を義務付けている(民法423条の6,424条の7第2項,会社法849条4項)。

第2 訴訟告知の要件と方式
1 誰が誰に告知できるか

民事訴訟法53条1項は,「当事者は、訴訟の係属中、参加することができる第三者にその訴訟の告知をすることができる。」と定める。
告知をするのは訴訟の当事者であり,告知を受けるのは,その訴訟に参加することができる第三者である。
訴訟告知を受けた者は,更に訴訟告知をすることができる(同条2項)。

「参加することができる第三者」の中心は,補助参加をすることができる者である。
補助参加は,「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」が,当事者の一方を補助するためにする参加である(同法42条)。
最高裁平成14年1月22日判決は,ここにいう法律上の利害関係を有する場合とは,「当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合」をいうとしている(同判決は最高裁平成13年1月30日決定を参照している。)。
単に事実上又は経済上の影響を受けるというだけでは足りない。

2 告知書の記載

訴訟告知は,その理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してしなければならない(民事訴訟法53条3項)。
「理由」には,告知を受ける者がなぜその訴訟に参加することができるのか,すなわち,その訴訟の判決が告知を受ける者のどの法的地位に影響するのかを具体的に書く。

(続きを読む...)訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備え(AI作成)

請求の追加・変更で裁判上の自白はどうなるか―主要事実・間接事実・不利益要件・自白の撤回(AI作成)

目次第1 結論第2 裁判上の自白の対象と効果第3 請求の追加・変更で事実の役割が変わる第4 先行自白と不利益要件第5 自白の撤回が許される場合第6 実務上の主張整理第7 出典と調査範囲

第1 結論

ある事実を認めた時点では請求原因と直接関係しない間接事実であっても、その後に請求が追加又は変更されると、新しい請求の主要事実になることがある。この場合、以前の陳述が新しい請求との関係でも裁判上の自白として拘束力を持つかが問題となる。

結論を出すには、①いつ、どの手続で、どの文言を陳述したか、②陳述時と請求追加後の各訴訟物・要件事実、③相手方がその陳述を援用したか、④裁判上の自白に「陳述時に自己に不利益であること」を必要とするか、⑤相手方が証明不要との信頼を形成したか、⑥撤回原因があるかを順に確認する。

単に「一度認めたから撤回できない」とも、「当時は間接事実だったから自由に撤回できる」とも即断できない。事実の同一性、陳述の訴訟上の意味及び相手方の手続的信頼を具体的に分析する必要がある。

第2 裁判上の自白の対象と効果

民事訴訟法179条は、裁判所において当事者が自白した事実は証明を要しないと定めている。一般に、裁判上の自白が成立すると、相手方はその事実を証明する必要がなくなり、裁判所も当事者間に争いのない主要事実として扱う。

対象は具体的な事実である。法律関係の存否、法的評価、証拠の信用性に関する意見又は単なる抽象的評価は、それ自体として自白の対象にならない。陳述を切り取らず、準備書面の前後、認否の対象となった相手方の主張、期日調書及び釈明応答を併せて読む。

また、主要事実についての自白と、間接事実又は補助事実を認める陳述は区別される。間接事実についての陳述は証拠評価を拘束しないのが原則であるが、後に訴訟構造が変われば、同一の具体的事実が新請求の要件事実になることがある。

第3 請求の追加・変更で事実の役割が変わる
1 陳述時の位置付け

まず、従前の請求について訴訟物と要件事実を特定し、問題の事実が主要事実、間接事実又は背景事情のいずれであったかを確認する。答弁書で「認める」と記載されていても、何を認めたのかが抽象的であれば、自白の対象となる具体的事実を特定できない場合がある。

2 請求追加後の位置付け

次に、追加された請求の法律要件を分解し、以前に認めた事実がどの要件を基礎付けるかを示す。例えば、当初は契約上の請求だけが審理されていたところ、後に不法行為請求が追加されると、行為主体、故意・過失又は因果関係に関する事実の重要性が変わり得る。

3 事実の同一性

以前の陳述と相手方が新請求で援用する事実が本当に同一かを確認する。「関与した」「了承した」「受領した」などの表現は、時期、対象、行為態様及び認識内容を欠くことがある。新請求の要件事実として必要な具体性を備えなければ、以前の抽象的陳述をそのまま自白とすることはできない。

4 請求追加の時点

請求追加前に陳述が撤回されたか、相手方が援用する前か後か、裁判所が争いのない事実として整理したかを時系列で確認する。請求追加と同時に認否を整理し直す機会が与えられたかも重要である。

第4 先行自白と不利益要件

相手方が主張する前に、自らある事実を陳述し、後に相手方がこれを援用する場合は先行自白が問題となる。裁判上の自白を「相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述」と捉える見解では、後の援用によって自白が成立し得る。

他方、裁判上の自白を「相手方の主張する不利益事実を争わない旨の陳述」と捉える見解では、陳述時に自己に不利益な事実として認識されず、争う対象にもなっていなかった場合に、自白の成立を否定する余地がある。

請求の追加によって初めて不利益性が生じた場合、前者は事実の同一性と相手方の援用を重視し、後者は陳述時の争点と不利益性の認識を重視することになる。どちらの立場でも、相手方が証明活動を省略したか、争点整理で争いのない事実として扱われたかは、撤回制限の根拠を考える上で重要である。

裁判所公開裁判例の中には、抽象的な「保育への関与」が過失を基礎付ける具体性を欠く間接事実にとどまり、撤回前に相手方が援用していなかったことから、自白の成立を否定した下級審判決がある。これは事案判断であり、請求追加により事実の法的役割が変わる全場面を一律に解決するものではない。

第5 自白の撤回が許される場合

司法研修所の教材は、要件事実について成立した自白の撤回が許される場合として、①相手方の同意があるとき、②自白の内容が真実に反し、かつ錯誤によってされたとき、③刑事上罰すべき他人の行為によって自白したときを挙げている。

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執行事件の地裁本庁・拠点支部への集約-不動産執行,債権執行等の状況と理由(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 不動産執行だけを扱うものではない2 結論の要点第2 「本庁集約」の法的な意味1 法定管轄の変更とは限らない2 本庁だけでなく拠点支部への集約もある第3 執行事件の種類によって取扱庁が異なる1 裁判所が扱う主要な手続2 執行官が扱う現地執行第4 現在確認できる集約の五つの型1 主要四手続を本庁へ集約する型2 不動産執行だけを集約する型3 不動産執行と債権執行を集約する型4 本庁ではなく拠点支部へ集約する型5 裁判所取扱事件を原則として全部集約する型第5 近年も集約先は変わっている1 令和7年及び令和8年の変更例2 基準日を明示して申立先を確認する必要がある第6 裁判所が明示した集約理由1 専門部による迅速かつ効率的な処理2 改善効果の説明とその限界第7 集約の実質的な背景1 事件量と人的資源の配分2 専門知識と事務処理経験の蓄積3 経費削減や支部廃止を本音と断定できない第8 司法アクセス上の不利益1 記録閲覧,書面提出及び移動の負担2 地域に残る手続とデジタル化3 大阪地裁堺・岸和田両支部についての検討第9 申立先を確認する実務上の手順1 手続名を特定して公式表を確認する2 BITだけでは債権執行等の取扱いを確認できない3 関連する裁判所組織の記事第10 出典・参考資料1 規則及び司法行政資料2 裁判所の取扱庁及び変更告知3 統計資料4 職能団体・労働組合等の資料
第1 この記事の対象と結論
1 不動産執行だけを扱うものではない

民事執行には,不動産に対する強制執行・担保権実行だけでなく,預貯金・給与等を対象とする債権執行,自動車執行,財産開示手続,第三者からの情報取得手続,動産執行,建物明渡し等の執行がある。本記事は,令和8年9月24日現在の裁判所の公式ウェブサイト,司法行政資料,司法統計及び弁護士会の正式な決議を基礎として,これらの執行事件が地方裁判所の本庁又は拠点となる支部へ集約されている状況と,その理由を整理するものである。
集約の範囲は全国一律ではない。管轄区域が同じように支部の区域であっても,不動産執行だけを本庁で扱う地域,不動産執行と債権執行を集約する地域,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続まで集約する地域,これらを本庁ではなく別の拠点支部へ集約する地域がある。

2 結論の要点

裁判所が明示している集約理由は,専門部による迅速かつ効率的な処理である。札幌地方裁判所委員会では,不動産競売事件及び債権執行事件を支部から本庁へ集約した理由として,専門部で迅速かつ効率的に処理することが説明され,集約後に売却率が改善し,処理期間も短縮したと報告されている。
これを全国の支部運営に関する司法行政資料と併せて読むと,集約の実質的な背景は,少数又は変動の大きい事件を各支部へ分散させるより,裁判官,書記官及び執行部門の知識・経験を本庁又は拠点支部へ集中し,担当体制を安定させることにあると考えられる。ただし,これは公開資料から導く分析であり,裁判所が秘密の目的を公表したという意味ではない。また,経費削減や支部廃止が主目的であると裏付ける一次資料は確認できない。

第2 「本庁集約」の法的な意味
1 法定管轄の変更とは限らない

地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則3条1項は,地方裁判所がその支部で取り扱う事務を自ら処理し,又は管内の他の支部で処理させることができる旨を定めている。したがって,支部区域内の事件を本庁又は別の支部で扱う集約は,法律による裁判所の管轄区域そのものの変更ではなく,同じ地方裁判所内部における事務分配として実施されることがある。
このため,申立人が民事執行法の管轄規定だけを読んでも,実際の提出先を確定できない場合がある。対象となる所在地の地方裁判所ウェブサイトにある「管轄区域表」,「民事執行事件の取扱い」又は最新のお知らせを,手続の種類ごとに確認する必要がある。

2 本庁だけでなく拠点支部への集約もある

集約先は必ずしも地方裁判所本庁ではない。広島地方裁判所尾道支部の区域では,不動産執行,債権執行,財産開示及び第三者からの情報取得を福山支部が扱い,熊本地方裁判所人吉支部の区域では不動産執行を八代支部が扱う。神戸地方裁判所豊岡支部で扱っていた不動産競売事件等も,令和8年4月1日から姫路支部へ集約された。
したがって,「本庁集約」という語は実務上便利な略称ではあるが,正確には「本庁又は拠点支部への集約」と捉えるべきである。地域単位ではなく,地方裁判所の管内全体で専門処理体制を組み替える現象だからである。

第3 執行事件の種類によって取扱庁が異なる
1 裁判所が扱う主要な手続

裁判所の民事執行案内は,金銭執行として不動産執行,動産執行,債権執行,自動車執行等を挙げるほか,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続を案内している。不動産競売では物件の評価,現況調査,売却手続及び配当が連続する一方,債権執行では差押命令の発令,第三債務者への送達,取立て又は配当等が中心となるため,同じ「執行事件」であっても必要な事務は異なる。
財産開示手続は,債務者を裁判所へ呼び出して財産を陳述させる手続である。第三者からの情報取得手続は,登記所,金融機関等又は市町村等から一定の財産情報を取得する手続であり,取扱庁の表では債権執行と別項目にされることが多い。

2 執行官が扱う現地執行

動産執行,建物明渡し,土地明渡し等は,執行官への申立てによって現地で実施される。裁判所の管轄区域表では,裁判所が受け付ける不動産執行や債権執行等と,執行官が取り扱う事件とが区別されている。
裁判所部門の事件を本庁へ集約しても,執行官取扱事件を地域に残す例がある。令和8年10月1日から実施される青森地方裁判所及び福島地方裁判所相馬支部の集約告知も,執行官に申し立てる動産執行事件等を集約対象から除外している。この例外は,目的物の所在地で行う現地執行には,書面審査中心の事件とは異なる地理的制約があることを示している。

第4 現在確認できる集約の五つの型
1 主要四手続を本庁へ集約する型

北海道の一部の支部区域では,不動産執行,債権執行,財産開示及び第三者からの情報取得を札幌地方裁判所本庁等で扱い,その他の民事執行事件を区域の支部で扱う。千葉地方裁判所八日市場支部の区域でも,この四手続を本庁が扱い,その他の民事執行事件は八日市場支部が扱う。
この型では,裁判所内部の審査・管理を要する代表的な手続がまとめて集約される一方,すべての執行事件が本庁へ移るわけではない。「債権執行も集約されたか」だけでなく,財産開示及び第三者情報取得の欄も別に確認する必要がある。

2 不動産執行だけを集約する型

千葉地方裁判所佐倉支部,一宮支部,木更津支部,館山支部及び佐原支部の各区域では,不動産執行を本庁が扱う一方,その他の民事執行事件は各支部が扱う。熊本地方裁判所人吉支部の区域も,不動産執行は八代支部へ集約されるが,その他の民事執行事件は人吉支部で扱う。
不動産競売は,評価人,執行官,登記,売却及び配当を含む一連の処理が必要である。専門的な担当体制をまとめる効果が大きいことが,不動産執行のみを集約する地域が存在する理由の一つと考えられる。

3 不動産執行と債権執行を集約する型

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争点整理後に新しい主張・証拠が出た場合―民事訴訟法157条・167条と却下申立て(AI作成)

目次

第1 結論
第2 時機に後れた攻撃防御方法の三要件
第3 「時機に後れた提出」を時系列で示す
第4 故意又は重大な過失
第5 訴訟完結の遅延を具体化する
第6 理由説明要求と提出期限徒過の説明
第7 却下申立ての書き方
第8 新主張・証拠を提出する側の対応
第9 実務チェックリスト
第10 関連記事
第11 出典と調査範囲

第1 結論

争点整理後又は口頭弁論終結に近い時期に,新しい主張・証拠が出たというだけで,当然に却下されるわけではない。民事訴訟法157条1項による却下には,①時機に後れて提出したこと,②提出者に故意又は重大な過失があること,③その提出により訴訟の完結が遅延することが必要である。

相手方としては,「もっと早く出せたはずだ」と抽象的に述べるのではなく,入手時期,従前の釈明・争点整理,提出予告,必要となる反論・反証,再尋問又は追加鑑定及び予定していた審理終結への影響を一つの時系列で示す。

準備的口頭弁論又は弁論準備手続の終結後であれば,同法167条・174条により,整理手続終了前に提出できなかった理由の説明を求めることができる。説明の拒絶又は不合理な説明は,却下を自動的に生じさせるものではないが,時機後れ又は重大な過失を認定する資料となり得る。

第2 時機に後れた攻撃防御方法の三要件

民事訴訟法157条1項は,当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法について,それにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたとき,裁判所が申立て又は職権で却下できると定める。

三要件は累積的に検討する。提出が遅く見えても,新たな証拠調べを要せず予定期日に弁論を終結できるなら,遅延要件を欠くことがある。反対に,法律構成だけの追加でも,相手方の防御のため審理続行が必要なら,攻撃防御方法として問題となり得る。

第3 「時機に後れた提出」を時系列で示す

次の時点を表にする。

主張又は証拠の基礎事実を知った時期
資料を入手できた時期
裁判所又は相手方が関連事項を指摘した時期

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訴訟中に目的物・権利を譲り受けた者への訴訟引受け―民事訴訟法50条と訴訟状態承認義務(AI作成)

目次

第1 結論
第2 民事訴訟法50条・51条の手続
第3 誰が「承継人」に当たるか
第4 紛争の主体たる地位を三段階で確認する
第5 訴訟状態承認義務(承継効)
第6 承継効の例外を検討する場合
第7 申立て前に固定する事実と証拠
第8 申立てを受けた側の反論
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論

訴訟の係属中に,目的物,権利又は義務に関係する地位が第三者へ移った場合,従前の当事者との訴訟をそのまま続けても,判決による実効的解決ができないことがある。民事訴訟法50条・51条は,一定の場合に,その第三者を訴訟へ引き受けさせる仕組みを置いている。

ただし,「紛争を一回で解決できるから」という理由だけで承継人とすることはできない。①従前の当事者を適切な当事者にしていた実体法上の地位,②その地位を第三者へ移した事実,③その地位が第三者を新たな請求の適切な当事者にする理由を順に示す必要がある。

引受け後の第三者が従前の訴訟状態にどこまで拘束されるかは,「訴訟状態承認義務」又は「承継効」の問題である。相手方が従前訴訟で得た地位の保護と,前主に与えられた主張立証機会によって承継人の手続保障を代替できるかを中心に,承継原因発生時を基準として検討する。

第2 民事訴訟法50条・51条の手続

民事訴訟法50条1項は,訴訟係属中に第三者が訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したとき,当事者の申立てにより,裁判所が決定で第三者に訴訟を引き受けさせることができると定める。裁判所は,当事者と第三者を審尋しなければならない(同条2項)。

同法51条は,義務承継人による参加と,訴訟係属中に第三者が訴訟の目的である権利の全部又は一部を譲り受けた場合の訴訟引受けについて,47条から50条までの規定を準用する。誰が申立人となり得るか,権利承継か義務承継か,引受決定後に従前当事者が残るかという手続は,具体的な申立ての種類と準用条文を確認する。

訴訟引受けは,当事者表示を単に書き換える手続ではない。引受決定を求める申立書では,係属事件,従前の請求,承継原因,承継した地位及び第三者に対する請求内容を特定する。

第3 誰が「承継人」に当たるか

「訴訟の目的である権利又は義務」を,従前の訴訟物と完全に同一の権利義務だけに限定すると,訴訟中の処分によって相手方が従前訴訟で得た地位を失う場合がある。他方,紛争に関係する第三者を広く承継人にすると,第三者の手続保障を害する。

そこで,形式的な訴訟物の同一性だけでなく,従前当事者が紛争の適切な主体であった実体法上の地位が第三者へ移り,その第三者が同じ紛争について適切な相手方となったかを検討する。例えば,建物所有者に対する建物収去・土地明渡請求の係属中に第三者が建物を取得して占有した場合,第三者への請求が建物退去・土地明渡しとなり,給付内容が完全には一致しないことがある。それでも,建物所有・占有を通じて土地明渡義務を現実に左右する地位が移ったかが問題になる。

第4 紛争の主体たる地位を三段階で確認する

申立てでは,次の三段階を一文ずつ示すと,抽象的な「紛争主体の承継」で終わりにくい。

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訴訟資料に著作物を利用する場合の著作権―複製・mints提出・引用・事件外共有を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける
第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
第3 裁判手続のための複製
第4 mints提出と公衆送信等
第5 引用として利用する場合
第6 鑑定書・意見書と画像
第7 事件外共有・広報・研修への転用
第8 提出前チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける

訴状、準備書面、証拠説明書、鑑定書又は意見書に他人の論文、写真、図面、ウェブ画面等を使う場合、「裁判だから自由に使える」と一括してはいけない。少なくとも、①資料を取得する、②紙又はPDFへ複製する、③裁判所・相手方へ提出又は送信する、④法廷で表示する、⑤事件外で依頼者・関係者・研修参加者等へ共有する、という行為を分ける。

著作権法41条の2は裁判手続に必要な利用を認める重要な規定であるが、必要な限度と著作権者の利益を不当に害しないことが条件である。違法に入手した資料の取得を適法化したり、事件外の公表・二次利用を当然に許したりする規定ではない。

第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
確認事項具体例
著作物性論文本文、写真、図表、設計図、地図、ソフト画面の創作的表現
保護されない部分単なる事実、法令、裁判所の判決そのもの、ありふれた短文
権利者著作者、勤務先、出版社、写真提供者、共同著作者
利用行為複製、公衆送信、上映・口述、譲渡、翻案
入手経路正規購入、契約DB、依頼者提供、公開ウェブ、第三者からの流出
契約条件データベース利用規約、ライセンス、秘密保持、個人情報

著作権法上利用できる場合でも、契約上の利用制限、営業秘密、個人情報、プライバシー、訴訟記録の閲覧等制限は別に検討する。

第3 裁判手続のための複製

著作権法41条の2第1項は、裁判手続のために必要と認められる場合、必要と認められる限度で著作物を複製できる旨を定める。ただし、著作物の種類・用途、複製部数・態様等に照らして著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。

「必要」は、争点との関連性だけでなく、全文が必要か該当頁で足りるか、カラー高精細画像が必要か、提出部数が適切かという範囲にも及ぶ。証明対象、立証趣旨、必要部分を先に書き出すと、過剰な複製を避けやすい。

裁判手続のための複製は、資料を適法に取得する権利まで与えるものではない。ID・パスワードの不正使用、アクセス制御の回避、秘密情報の不正取得等は別問題である。

第4 mints提出と公衆送信等

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行政処分の執行停止―重大な損害,緊急の必要,疎明資料及び裁判例(AI作成)

目次

第1 執行停止は何を止める手続か
第2 執行不停止の原則と三つの停止対象
第3 申立ての要件
第4 「重大な損害」の判断要素
第5 申立人自身の損害と第三者の不利益
第6 損害類型ごとの疎明資料
第7 東京高裁平成19年7月19日決定
第8 公共の福祉と本案に理由がないとみえるとき
第9 他の仮の救済との違い
第10 受任直後の実務チェックリスト
第11 調査範囲,出典及び関連記事

第1 執行停止は何を止める手続か

行政処分を取り消す訴訟を提起しても,それだけで処分の効力や執行は止まらない。処分が実行されると本案判決までに事業停止,資格喪失,信用毀損又は契約解約等が進む事件では,取消訴訟と同時に行政事件訴訟法25条の執行停止を申し立てる。

執行停止は本案の最終判断ではなく,取消訴訟の係属中に処分の効力,執行又は手続の続行を暫定的に止める制度である。したがって,処分書を受け取った後は,出訴期間だけでなく,処分がいつからどのように実行されるかを直ちに確認する。

第2 執行不停止の原則と三つの停止対象

行政事件訴訟法25条1項は,処分の取消しの訴えの提起が,処分の効力,処分の執行又は手続の続行を妨げないと定める。これが執行不停止の原則である。

同条2項の停止対象は,①処分の効力,②処分の執行,③手続の続行である。効力停止は,他の方法による停止では目的を達成できない場合に限られる。申立書では,何がいつ進むため,どの停止対象を選ぶのかを特定する。

第3 申立ての要件

執行停止には,適法な取消訴訟が係属していることを前提として,処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることを要する。

他方,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき,又は本案について理由がないとみえるときは,執行停止をすることができない。実務上は,①本案訴訟の適法性,②重大な損害,③緊急の必要,④公共の福祉,⑤本案の見通しを分けて主張・疎明する。

第4 「重大な損害」の判断要素

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抵当権者は転貸賃料を差し押さえられるか―民法371条・物上代位・最高裁平成12年4月14日決定(AI作成)

抵当不動産が賃貸され,さらに転貸されている場合,抵当権者が当然に転貸賃料まで差し押さえられるわけではない。所有者の賃料債権と,賃借人が取得する転貸賃料債権を分け,例外的に所有者と同視できる事情があるかを確認する必要がある。

本記事では,民法304条・371条・372条と最高裁平成12年4月14日決定を軸に,差押えの可否と調査事項を整理する。

目次
第1 まず三つの当事者と二つの賃料を分ける
第2 所有者の賃料債権への物上代位
第3 転貸賃料は原則として対象外である
第4 所有者と同視できる例外
第5 平成15年改正後の条文関係
第6 不履行前に発生した賃料
第7 差押えまでの実務チェック
第8 出典・関連記事

第1 まず三つの当事者と二つの賃料を分ける

転貸借があるときは,少なくとも次の関係を図にする。

抵当不動産の所有者兼原賃貸人
原賃借人兼転貸人
転借人

所有者が原賃借人に対して有する原賃料債権と,原賃借人が転借人に対して有する転貸賃料債権は,債権者も発生原因も異なる。抵当権者がどちらを差し押さえようとしているかを最初に固定する。

第2 所有者の賃料債権への物上代位

民法372条は抵当権に304条を準用し,同条1項ただし書は,払渡し又は引渡し前に差し押さえることを求める。賃料債権への物上代位は,所有者が受ける賃料について抵当権を実行する方法であり,差押命令を得る必要がある。

現行民法371条は,被担保債権について不履行があったとき,抵当権の効力がその後に生じた抵当不動産の果実に及ぶと定める。371条を実体的根拠とみるか,372条が準用する304条を物上代位の実体的根拠とみるかで,不履行前の賃料等の説明が変わり得る。

第3 転貸賃料は原則として対象外である

最高裁平成12年4月14日第二小法廷決定(平成11年(許)第23号・民集54巻4号1552頁)は,抵当権者は,抵当不動産の賃借人を所有者と同視することが相当な場合を除き,賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使できないとした。

原則否定の理由として,賃借人は抵当不動産をもって物的責任を負う所有者ではなく,自己の転貸賃料債権を所有者の被担保債権の弁済に供する立場にないこと,正常な転貸借における転貸人の利益を不当に害し得ること,民法304条1項の「債務者」という文言が挙げられる。

したがって,原賃料が低く転貸賃料が高いという差額だけで,直ちに転貸賃料全額を差し押さえられるとはいえない。

第4 所有者と同視できる例外

前記最高裁決定は,賃借人を所有者と同視することが相当な場合には,例外的に転貸賃料債権への物上代位を認める余地を示した。決定文は,所有者の取得すべき賃料を減少させ,又は抵当権の行使を妨げるため,法人格を濫用し,又は賃貸借を仮装して転貸借関係を作出した場合等を挙げる。

実務上は,次の事情を時系列で確認する。

(続きを読む...)抵当権者は転貸賃料を差し押さえられるか―民法371条・物上代位・最高裁平成12年4月14日決定(AI作成)

AIで証拠説明書を作成・監査する方法―原資料・援用箇所・立証趣旨・頁の四点照合(AI作成)

目次

第1 AIで証拠説明書を作るときの基本方針
第2 原資料・援用箇所・立証趣旨・頁を四点照合する
第3 作成前に証拠台帳を作る
第4 各欄を原資料に基づいて記載する

1 号証
2 標目
3 原本・写し・電磁的記録の区別
4 作成年月日及び作成者
5 立証趣旨

第5 準備書面の援用箇所から逆算する
第6 引用頁を二つの資料で照合する
第7 内部確認表と提出用書面を分ける
第8 完成ファイルを開き直して確認する
第9 提出直前と提出後に確認する
第10 AIを使っても人が判断すべき事項
第11 出典・参考資料

AIは,書証の候補を整理し,証拠説明書の下書きを作り,号証・標目・頁の不一致を探す作業に利用できる。
しかし,提出する書証の採否,立証すべき事実の選択及び完成版の確認は,事件記録と原資料を確認できる人が行う必要がある。

本記事は,AIを利用して民事訴訟の証拠説明書を作成・監査するときの一般的な手順を扱う。
調査の基準日は令和8年9月23日であり,同日に施行されている民事訴訟法及び民事訴訟規則並びに同日までに公表された裁判所資料を確認した。

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同名会社・商号変更がある民事訴訟の当事者確定―自白の撤回・法人格濫用・別訴併合(AI作成)

第1 結論―名称より先に法人そのものを特定する
第2 同名会社・商号変更を見分ける資料
第3 表示の訂正と別法人への請求は異なる
第4 法人格濫用による責任追及
第5 裁判上の自白を撤回できる場合
第6 訴訟中に別法人を追加したい場合
第7 実務チェックリスト
第8 法令・裁判例

第1 結論―名称より先に法人そのものを特定する

同じ商号の会社が複数存在する場合や、契約後に商号・本店・代表者が変わった場合には、現在の商号だけで被告を決めてはならない。訴えを提起する前に、契約時から提訴時までの法人の同一性を、法人番号、会社法人等番号、設立年月日、本店及び商号の履歴によって確認する必要がある。

訴状では、当事者欄だけでなく、請求の趣旨、請求原因、契約日、契約書上の表示、振込先及び履行主体が同じ法人を指すように記載する。名称の誤記を直す場合と、別の法人へ請求相手を変更する場合とでは、手続が異なる。

第2 同名会社・商号変更を見分ける資料

国税庁法人番号公表サイトで確認できる13桁の法人番号は、商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地と法人を照合するために有用である。ただし、訴訟上の代表権や過去の登記履歴を証明するものではない。

株式会社については、現在事項証明書だけで判断せず、必要に応じて履歴事項全部証明書及び閉鎖事項証明書を取得する。12桁の会社法人等番号、設立年月日、組織変更、合併、会社分割、本店移転、商号変更及び代表者の就退任を時系列にする。

登記だけでなく、契約書、注文書、請求書、領収書、振込口座名義、電子メールのドメイン、店舗の占有、ウェブサイト及び顧客向け通知も照合する。事業を行っていた会社と、代金を受領した会社が異なる場合には、その理由を確認する。

第3 表示の訂正と別法人への請求は異なる

民事訴訟法133条2項1号は、訴状に当事者の表示を記載することを求めている。表記の一部に誤りがあっても、訴状全体から当初から意図された法人が一つに定まるときは、表示の訂正として扱う余地がある。

最高裁平成19年3月27日第三小法廷判決は、訴状の原告欄に「中華民国」と表示されていた事件で、訴状の表示のほか、訴訟代理権を授与した者や当事者の主張の経過等の事実も踏まえて、原告として確定されるべき者を国家としての中国とした。このように、当事者の確定では、訴状の表示を出発点としつつ、その記載全体と関係する事実が考慮されることがある。同判決の内容は、光華寮訴訟とは―中国政府の承認,原告の確定及び訴訟手続の中断・受継で整理している。

これと異なり、本人の知らないうちに、偽造の委任状によって訴訟がされる場合もある。大審院昭和10年10月28日判決(昭和7年(オ)第2872号、大審院民事判例集14巻20号1785頁)の判決要旨は、偽造の委任状による訴訟代理人が訴えを提起し、裁判所が本人に対して言い渡した判決が確定したときは、本人は再審の訴えを提起できるとしている。本人が関与しないまま判決が確定した場合の救済は、訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)の「追完の期間も過ぎた場合」で整理している。

これに対し、訴状全体が旧会社を被告としており、後から新会社も責任を負うと分かった場合には、単なる商号訂正ではない。別法人を被告とする訴えを提起し、その法人へ訴状を送達して防御の機会を保障する必要がある。

誤った法人について得た判決を、別法人の財産に当然に執行できるわけではない。訴訟開始時に法人の同一性を固定することは、送達、判決の効力及び強制執行の対象を一致させるために重要である。

第4 法人格濫用による責任追及

最高裁昭和48年10月26日第二小法廷判決は、旧会社が債務免脱の意図で企業の形態・内容を実質的に維持した新会社を設立した事案で、法人格の濫用を理由に、新会社が旧会社と別法人であることを債権者に主張できないとした。

この法理は、二つの会社を同一法人として表示訂正するものではない。別法人であることを前提に、設立目的、支配者、事業、従業員、店舗、資産、取引先及び債務処理の連続性から、別法人であることを盾に責任を免れる主張が許されるかを判断するものである。

したがって、訴状では、当事者の確定と法人格濫用の主張を分ける。法人格濫用を主張する場合には、会社間の関係を抽象的に述べるだけでなく、資産移転の時期・対価、営業主体の表示、債権者への説明及び旧会社に残された財産を具体化する。

第5 裁判上の自白を撤回できる場合

民事訴訟法179条により、当事者が裁判所で自白した事実については証明を要しない。答弁書や準備書面で「認める」と述べた事実を、訴訟上不利になったという理由だけで自由に撤回することはできない。

相手方の同意がある場合のほか、自白が真実に反し、かつ錯誤によってされたことを立証した場合などには撤回が問題となる。法人の同一性を誤認して認否したときは、いつ、どの資料によって誤認し、どの登記事項又は取引資料によって反真実が判明したのかを示す。

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刑訴法328条の弾劾証拠と公判前整理手続終了後の証拠請求(AI作成)

目次第1 刑訴法328条の位置付け1 伝聞例外ではなく証明力を争うための規定2 要証事実を先に固定する第2 自己矛盾供述に限られるという最高裁判例1 最高裁平成18年11月7日判決2 第三者の供述で他人の供述を弾劾できない3 厳格な証明が必要である4 一致供述による証明力の回復と単なる増強第3 公判前整理手続終了後の証拠請求1 刑事訴訟法316条の322 弾劾対象となる公判供述が出た後に必要性が生じる場合3 公判供述を予測できた場合の反対方向の検討第4 両条文を組み合わせた検討手順1 刑事訴訟法328条の要件2 刑事訴訟法316条の32の要件第5 弁護実務での準備1 公判前整理手続中2 公判で供述が現れた後第6 証拠等関係カードの読み方第7 関連する山中弁護士ブログの記事第8 出典
第1 刑訴法328条の位置付け
1 伝聞例外ではなく証明力を争うための規定

刑事訴訟法328条は、同法321条から324条までにより証拠とすることができない書面又は供述でも、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには証拠とすることができると定める。
弾劾証拠は、その内容が真実であることを主要事実の証明に用いるものではなく、公判供述の信用性を争う限度で用いる。

2 要証事実を先に固定する

同じ書面でも、記載内容どおりの事実があったことを証明するために用いるのか、供述者が以前は異なる供述をしていたことを示すために用いるのかで、証拠能力の検討が変わる。
証拠請求書、立証趣旨、証拠等関係カード及び尋問内容を照合し、実質的に内容の真実性を証明しようとしていないかを確認する。

第2 自己矛盾供述に限られるという最高裁判例
1 最高裁平成18年11月7日判決

最高裁平成18年11月7日第三小法廷判決(平成17年(あ)第378号、刑集60巻9号561頁)は、刑事訴訟法328条により許容される証拠を、信用性を争われている供述者自身の矛盾供述、すなわち自己矛盾供述を内容とするものに限るとした。
その証明方法も、法が定める要件を満たす供述書、供述録取書、以前の供述を聞いた者の公判供述又はこれらと同視できる証拠による必要がある。

2 第三者の供述で他人の供述を弾劾できない

A証人の公判供述とBの供述が食い違うというだけでは、Bの供述を刑事訴訟法328条によってA証人の弾劾に用いることはできない。
それを許すと、伝聞法則の要件を満たさない第三者供述を内容の真実性に近い形で利用することになり、伝聞法則を潜脱するおそれがある。

3 厳格な証明が必要である

以前の自己矛盾供述が存在したことは証拠によって認定すべき事実であり、自由な証明で足りるという扱いではない。
最高裁平成18年判決の事案では、弁護人が、証人の証言を弾劾するため、消防司令補がその証人から火災発見時の状況を聴き取って記載した「聞込み状況書」の取調べを請求した。
この書面は、聴き取りの相手に読み聞かせて署名押印を求める形式ではなく、実際にも署名押印がなかった。
最高裁は、この書面は供述を録取した書面に当たらず、これと同視し得る事情もないとして、刑事訴訟法328条が許容する証拠に当たらないとした。
弁護人が請求する場合にも、同じ限定がかかることに注意を要する。

4 一致供述による証明力の回復と単なる増強

弾劾された公判供述と一致する以前の供述を、刑事訴訟法328条の「証明力を争う」ための証拠として、証明力の回復に用いることができるかについて、最高裁判所の判例はない(法務省「平成29年司法試験論文式試験出題の趣旨」刑事系科目第2問)。
公判供述が弾劾される前に、一致供述を示して信用性を高めるだけの使い方(いわゆる増強)は、同条の「争う」という文言から離れる。

弾劾された後の回復についても、一致供述が一つ増えれば当然に証明力が回復するわけではない。
矛盾供述の方が例外であり、基本的には一致した供述をしていたことが明らかになるのであれば、証明力の回復を認める方向の理由になり得る。
反対に、公判外の供述の間でも食い違いがあり、その時々で供述を変える者であることがかえって明らかになるのであれば、証明力は回復しないという評価もあり得る。
平成29年司法試験の採点実感も、回復証拠と増強証拠を区別した上で、文言解釈にとどまらず、証明力を回復する証拠となり得るか否かの実質的な理由を示すことを求めている。

一致供述の調書が回復のための証拠として請求された場合、弁護人は、①どの弾劾に対応する証拠か、②その弾劾の理由を具体的に弱めるものか、③作成の時期と経緯、④内容の真実性を証明する証拠として実質的に使われるおそれがないかを確認して、意見を述べることになる。

下級審の裁判例では、東京高裁昭和54年2月7日判決(昭和53年(う)第1322号・判例時報940号138頁、判例タイムズ391号144頁)が、刑事訴訟法328条の弾劾証拠には、弾劾証拠により減殺された供述証拠の証明力を回復するためのものも含まれるとした。

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逮捕に伴う無令状捜索・差押え―逮捕の現場・第三者の身体・連行後の捜索(AI作成)

目次第1 逮捕に伴う無令状捜索・差押えの枠組み1 刑事訴訟法220条2 制度趣旨からの二つの説明第2 第三者の身体・所持品を捜索する場合1 刑事訴訟法102条2項の準用2 身体捜索の方法と相当性3 居合わせた第三者の身体と「必要な処分」第3 逮捕地点から移動して捜索する場合1 最高裁平成8年1月29日決定2 近い場所なら常に適法というわけではない第4 適法性を判断するチェックポイント1 時間的接着性2 場所的接着性と移動の必要性3 対象物との関連性第5 弁護活動で確保すべき資料1 初回接見で確認する事項2 客観資料第6 関連する山中弁護士ブログの記事第7 出典
第1 逮捕に伴う無令状捜索・差押えの枠組み
1 刑事訴訟法220条

刑事訴訟法220条1項2号は、通常逮捕、現行犯逮捕又は緊急逮捕をする場合に必要があるとき、逮捕の現場で差押え、捜索又は検証をすることを認め、同条3項は令状を不要としている。
もっとも、逮捕があれば場所・人・物を無限定に捜索できるわけではない。
逮捕との時間的・場所的な結び付き、対象と押収すべき物との関連性、処分の必要性及び方法の相当性を分けて検討する必要がある。

2 制度趣旨からの二つの説明

逮捕の現場には証拠物が存在する蓋然性が一般に高いとする説明と、逮捕者の安全確保や逃亡・証拠隠滅の防止という緊急の必要性を重視する説明がある。
具体的事案では、いずれかの標語だけで結論を出さず、捜索対象、距離、時間、移動理由、代替手段及び危険性を事実に即して評価する。

第2 第三者の身体・所持品を捜索する場合
1 刑事訴訟法102条2項の準用

刑事訴訟法222条1項は、逮捕に伴う捜索について同法102条を準用する。
同法102条2項は、被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所について、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合に限って捜索できると定める。
被疑者の隣にいただけ、同じ車に乗っていただけという抽象的な関係では足りず、対象者が証拠物を受け取った、隠した、保持していると疑わせる具体的状況を検討する必要がある。

2 身体捜索の方法と相当性

衣服の外側からの確認、ポケット内の確認、衣服を脱がせる処分では、権利侵害の程度が異なる。
押収すべき物の種類・大きさ、対象者の行動、場所の公開性、同性の捜査官の有無、遮蔽の有無、より侵害の小さい方法で目的を達成できたかを記録する。

3 居合わせた第三者の身体と「必要な処分」

逮捕に伴う無令状の捜索が許される根拠を、逮捕の現場や被逮捕者の身体・所持品に証拠が存在する蓋然性が類型的に高いことに求めると、たまたま現場に居合わせた第三者が逮捕事実に関連する証拠を持っている蓋然性は、類型的に高いとはいえない。
そこで、居合わせた第三者の身体は逮捕に伴う捜索の対象にならないとする考え方(消極説)がある。
この考え方でも、場所の捜索の実施中又はその開始の直前に、居合わせた者が捜索・差押えの目的物を身体や衣服に隠した疑いが十分に認められるときは、場所に対する捜索に付随する「必要な処分」(刑事訴訟法222条1項が準用する同法111条1項前段)として、その妨害を排除し、目的物を取り戻す限度で身体に有形力を加えることができるかが問題となる。

他方、刑事訴訟法220条1項2号は捜索の対象を文言上限定しておらず、同法222条1項は被疑者以外の者の身体を除外することなく同法102条2項を準用しているとして、居合わせた第三者の身体の捜索も許され得るとする考え方(積極説)もある。
この考え方では、前記1の「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が要件となる。
令和7年司法試験刑事系科目第2問では、逮捕の現場に居合わせた被疑者の交際相手の上着のポケットに捜査官が手を入れて中の物を取り出した事実が置かれ、法務省の出題の趣旨及び採点実感は、いずれの考え方を採るにしても、逮捕に伴う捜索が認められる趣旨と矛盾しない論述を求めている。

第3 逮捕地点から移動して捜索する場合
1 最高裁平成8年1月29日決定

最高裁平成8年1月29日第三小法廷決定(平成5年(あ)第518号、刑集50巻1号1頁)は、逮捕現場で直ちに身体を捜索することが、被逮捕者の名誉を害し、抵抗による混乱を生じ、又は交通を妨げるおそれがあるなど不適当な場合に、速やかに、その場から最も近い適当な場所へ連行して実施する捜索を「逮捕の現場」での捜索と同視できる場合があるとした。
同決定の事案では、警察署までの距離、移動時間、被逮捕者の抵抗、現場の交通上の危険等が具体的に考慮された。

2 近い場所なら常に適法というわけではない

重要なのは移動距離だけではなく、現場で実施しなかった理由、途中により近く適切な場所がなかったか、移動後直ちに捜索したかである。

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民事訴訟の証明妨害―証拠廃棄・民訴法224条・信義則・事実認定(AI作成)

目次第1 証明妨害の意味と検討順序1 証明妨害とは2 自動的な立証責任転換ではない第2 民事訴訟法224条による処理1 文書提出命令に従わない場合2 相手方の使用を妨げる目的で文書を失わせた場合第3 民事訴訟法224条の外側にある証明妨害1 訴訟上の信義則を基礎とする考え方2 主観面は具体的事実から認定する第4 証明妨害の効果1 複数の処理を区別する2 他の証拠との総合評価第5 裁判例から見た考慮要素1 名古屋高裁金沢支部昭和51年6月16日判決2 令和7年司法試験の事例が示す着眼点第6 訴訟実務のチェックリスト1 証拠を失わせた側を追及する場合2 証拠を失わせたと主張された側の対応第7 関連する山中弁護士ブログの記事第8 出典
第1 証明妨害の意味と検討順序
1 証明妨害とは

証明妨害とは、訴訟当事者が証拠を破棄し、隠匿し、改変し、又は提出を拒むことによって、相手方の証明を不可能又は著しく困難にする行為をいう。
民事訴訟法には文書提出命令違反等について明文の効果があるが、証明妨害の問題は同法224条だけでは尽くされない。
まず同条が直接適用されるかを検討し、直接適用されない場合に民事訴訟法2条の訴訟上の信義則を基礎とする評価が可能かを検討するのが分かりやすい。

2 自動的な立証責任転換ではない

証明妨害が認められても、常に立証責任が転換し、又は相手方の主張が当然に真実となるわけではない。
問題となる証拠の重要性、代替証拠の有無、妨害行為の時期・態様、行為者の認識、他の証拠との整合性を踏まえて、どの程度の不利益な評価をするかを具体的に論じる必要がある。

第2 民事訴訟法224条による処理
1 文書提出命令に従わない場合

民事訴訟法224条1項は、当事者が文書提出命令に従わないとき、裁判所が当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができると定める。
同条3項は、相手方が文書の記載について具体的な主張をし、かつ、その文書によって証明すべき事実を他の証拠で証明することが著しく困難な場合には、その事実に関する相手方の主張まで真実と認めることができるとする。

2 相手方の使用を妨げる目的で文書を失わせた場合

同条2項は、当事者が相手方の使用を妨げる目的で、提出義務のある文書を滅失させるなど使用不能にした場合にも1項と同じ効果を認める。
したがって、提出義務、使用妨害目的、文書の滅失又は使用不能化を区別して事実を主張する必要がある。
単に保管ミスや廃棄があったというだけでは、同項の要件を当然に満たさない。

第3 民事訴訟法224条の外側にある証明妨害
1 訴訟上の信義則を基礎とする考え方

民事訴訟法2条は、当事者に対し、信義に従い誠実に民事訴訟を追行する義務を課している。
提出義務のある文書に当たらない場合や、使用妨害目的を直接認定しにくい場合でも、証拠の収集・提出を不可能又は困難にした行為を訴訟上の信義則に反する証明妨害として評価し、事実認定に反映させる考え方がある。
令和7年司法試験民事系科目第3問の出題の趣旨及び採点実感は、この法理について、客観的に相手方の立証を困難にする行為と、行為者の主観的な認識又は予見可能性を検討させている。

なぜ信義則違反と評価できるのかについて、同年の採点実感は、一例として、「妨害行為によって証明困難な状況に置かれたにもかかわらず、証明責任の法理等の適用によりそのような状況に置かれた者が不利益を受け、妨害者が利益を得るのは不公平・不公正であり、このような事態を容認することは信義に従った訴訟追行を求める民事訴訟法第2条の趣旨に沿わない」という説明を挙げている。
評価を基礎付ける要素としては、妨害行為によって相手方を証明困難な状況にしたという客観的な要素と、行為者がそのような結果を認識し又は認識し得たという主観的な要素(故意又は重過失)の双方を挙げる必要がある。
また、証明妨害は文書に限られず、物や電子データを含む証拠一般について問題となり、採点実感も、民事訴訟法224条2項に引きずられて文書の場合に限定した答案が散見されたと指摘している。

2 主観面は具体的事実から認定する

証拠廃棄の時点で紛争が既に顕在化していたか、相手方が証拠の保存又は開示を求めていたか、当該証拠が争点判断に重要であると認識できたかを確認する。
保存期間、通常の廃棄運用、廃棄指示の経緯、バックアップの有無も、故意、過失又は予見可能性を判断する重要な資料となる。

第4 証明妨害の効果
1 複数の処理を区別する

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裁判所・法廷で写真撮影,録音又は録画はできるか(AI作成)

目次

第1 結論
第2 場所と立場を分けて考える
第3 裁判所の敷地・庁舎内
第4 民事訴訟の期日
第5 刑事事件の公判廷
第6 報道機関の法廷内カメラ取材
第7 法廷内撮影に関する最高裁判例
第8 肖像・プライバシーは別に確認する
第9 撮影等を希望するときの確認事項
第10 一次資料及び関連記事

第1 結論
1 裁判所で写真撮影,録音又は録画ができるかは,①敷地・玄関・廊下等の庁舎共用部か,②民事訴訟の期日か,③刑事事件の公判廷かをまず分けて考える必要があります。
2 一般来庁者については,各裁判所の案内により,敷地又は庁舎内での写真撮影・録音等が禁止されていることがあります。東京地方裁判所は前庭を含む敷地内で撮影・録音等はできないと案内し,横浜地方裁判所も法廷内に限らず裁判所内での撮影・録音を一切禁止すると案内しています。
3 民事訴訟の期日における撮影,速記,録音,録画又は放送には,民事訴訟規則77条により裁判長等の許可が必要です。刑事事件の公判廷における撮影,録音又は放送には,刑事訴訟規則215条により裁判所の許可が必要です。
4 報道機関の冒頭カメラ撮影は,一般傍聴人が自由に撮影できることの根拠ではありません。代表取材,撮影時間,機材,位置及び対象等の条件の下で,各裁判体が許否を判断する別の運用です。

第2 場所と立場を分けて考える
1 同じ「裁判所での撮影」でも,適用される根拠及び判断主体は同じではありません。
2 敷地,玄関,廊下,待合スペースその他の庁舎共用部では,庁舎管理権者による施設管理と各庁の案内・個別運用が中心となります。
3 民事訴訟の期日及び刑事事件の公判廷では,庁舎管理に加えて,訴訟規則と裁判長又は裁判所の手続運営上の判断が問題となります。
4 報道機関向けの運用基準は,司法行政上の取材対応を整える資料です。当事者,代理人,傍聴人その他の一般来庁者に同一の撮影機会を与えるものではありません。

第3 裁判所の敷地・庁舎内
1 裁判所の庁舎等の管理に関する規程は,裁判所の用に供する建物,土地及び附帯施設を「庁舎等」とし,その管理の仕組みを定めています。撮影への対応は,執務への支障,一般来庁者のプライバシー,裁判所の中立性・公平性,撮影目的及び当該庁の運用等を踏まえて判断されます。
2 東京地方裁判所の「個人での裁判傍聴」は,法廷だけでなく,庁舎内廊下及び庁舎外の前庭を含む裁判所敷地内では写真撮影・録音等はできないと案内しています。横浜地方裁判所の「傍聴のルール」も,法廷内に限らず裁判所内での写真撮影・録音は一切禁止と案内しています。

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行政庁の勧告・指示・公表に対する争い方―処分性,差止め,執行停止及び重大な損害(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最初に行為の連鎖を特定する
第3 勧告・指示・公表の処分性
第4 最高裁平成17年7月15日判決―病院開設中止勧告
第5 取消訴訟・差止め・執行停止の選択
第6 最高裁平成24年2月9日判決―「重大な損害を生ずるおそれ」
第7 公表が予定される場合の時間軸

1 法人自身の重大な損害を具体化する

第8 本案の主張―要件解釈と裁量審査を分ける
第9 受任直後の確認事項
第10 令和7年司法試験から得られる学び
第11 調査範囲と留保
第12 関連記事
第13 出典

第1 結論

行政庁から「勧告」「指導」「指示」又は「公表」と呼ばれる行為を受けても,名称だけで抗告訴訟の対象となる処分かどうかは決まらない。
根拠法令・条例の仕組み,当該行為が生じさせる具体的な法的効果,後続行為との結び付き及び後の段階で救済を受けられるかを確認する必要がある。

また,勧告,指示及び公表が段階的に予定されているときは,それぞれを別の行為として分析する。
勧告に処分性がなくても,指示に義務を課す法的効果があり,不服従に対する公表が制度上予定されているなら,指示の処分性が認められる可能性がある。
反対に,社会的・経済的な圧力が強いだけでは,直ちに処分性が認められるわけではない。

救済手段も時間軸で変わる。
処分前なら差止め,処分後なら取消訴訟と執行停止が中心となるが,「処分が出た後でも公表前に執行停止を得られるか」が差止めの必要性を左右する。

第2 最初に行為の連鎖を特定する

受任直後は,行政庁の文書名よりも,次の連鎖を図にすることが有用である。

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民事訴訟における法的観点指摘義務―弁論主義・釈明権・事実主張を促すこととの違い(AI作成)

目次

第1 結論
第2 弁論主義・釈明権・法的観点指摘義務の区別
第3 最高裁昭和55年2月7日判決―主張のない主要事実を認定できない場合
第4 最高裁平成22年10月14日判決―不意打ちとなる法的構成を採用する場合
第5 法的観点を指摘すべき必要性が高まる事情
第6 事実主張を促すこととの違い
第7 代理人がとるべき実務対応
第8 令和7年司法試験から得られる学び
第9 確認用チェックリスト
第10 調査範囲と留保
第11 関連記事
第12 出典

第1 結論

民事訴訟では,裁判所が当事者の主張していない主要事実を判決の基礎にすることと,当事者が主張した事実に別の法的評価を与えることは,同じ問題ではない。

前者は弁論主義の第一原則との関係で問題となる。
後者は,法律の適用が原則として裁判所の職責に属するとしても,当事者にとって予測できない法的構成によって結論を出すなら,反論・反証の機会を実質的に保障するために,裁判所がその法的観点を指摘すべき場合がある。

もっとも,「法的観点指摘義務」は,裁判所が当事者に代わって請求原因や抗弁の事実を作る義務ではない。
事実の提出主体と法律評価の主体を分け,さらに,訴訟の経過から本当に不意打ちとなるかを具体的に検討する必要がある。

第2 弁論主義・釈明権・法的観点指摘義務の区別

民事訴訟法149条1項は,裁判長が訴訟関係を明瞭にするため,事実上及び法律上の事項について当事者に問いを発し,又は立証を促すことができると定めている。
これが釈明権である。

これに対し,弁論主義の第一原則(主張原則)は,裁判所が当事者の主張していない主要事実を判決の基礎にしてはならないという原則である。
条文に同じ表現の規定があるわけではなく,民事訴訟の基本原則として判例・学説上認められている。

また,民事訴訟法246条は,裁判所が当事者の申し立てていない事項について判決できないと定める。
これは処分権主義に関する規定であり,請求の範囲の問題である。
主要事実の提出に関する弁論主義とは区別しなければならない。

法的観点指摘義務は,当事者が提出した事実に裁判所が予想外の法律構成を与えようとする場面で,釈明権の適切な行使や当事者の弁論権の実質的保障が問題となるものである。
名称だけを暗記するより,①誰が提出すべき事実か,②どの法的構成が審理の対象になっていたか,③反論・反証の機会が与えられたかを分けて考える方が実務的である。

第3 最高裁昭和55年2月7日判決―主張のない主要事実を認定できない場合

(続きを読む...)民事訴訟における法的観点指摘義務―弁論主義・釈明権・事実主張を促すこととの違い(AI作成)

任意的訴訟担当とは―最高裁大法廷昭和45年11月11日判決と共同事業・多数債権者の訴え(AI作成)

第1 任意的訴訟担当とは第2 最高裁大法廷昭和45年11月11日判決第3 認められるための三つの確認第4 共同事業・共有者・多数債権者での使い分け第5 訴訟代理との違いと実務資料第6 出典・参考資料
第1 任意的訴訟担当とは

任意的訴訟担当とは,権利義務の主体ではない者が,本人から訴訟追行権の授与を受け,自己の名で本人の権利について訴訟を追行する仕組みである。
訴訟代理人は本人の名で訴訟行為をするのに対し,訴訟担当者は自らが当事者となる点が異なる。

民事訴訟法には任意的訴訟担当を一般的に認める明文規定はない。
しかも,同法54条1項本文は地方裁判所以上の訴訟代理人を原則として弁護士に限り,信託法10条は訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止している。
そのため,本人が自由に第三者を「名目上の原告」にできるわけではない。

第2 最高裁大法廷昭和45年11月11日判決

最高裁大法廷昭和45年11月11日判決(昭和42年(オ)第1032号,民集24巻12号1854頁,判例秘書L02510245)は,民法上の組合の業務執行組合員が,他の組合員から訴訟追行権を授与されて組合財産に関する給付訴訟を追行できるかを扱った。

判決は,弁護士代理の原則又は訴訟信託禁止の趣旨を回避・潜脱するおそれがなく,かつ,任意的訴訟担当を認める合理的必要性がある場合には,許容されることがあるとした。
その上で,業務執行組合員が組合財産について実体法上の管理権・対外的業務執行権を有し,訴訟追行権も授与されていた事案で原告適格を認めた。

この判例の意味は,「授権があれば足りる」とした点にはない。
実体法上の地位,訴訟をまとめて追行する必要性,弁護士代理原則等を潜脱しないことを組み合わせて判断した点にある。

第3 認められるための三つの確認

検討順序では,まず本人から訴訟追行権を授与されたかという前提要件を確認し,次に,授権があっても任意的訴訟担当を許容できるかを判断する。授権の存否と,非潜脱要件・合理的必要性を満たすかは別の問題であり,「委任状があるから適法」とはならない。

第1に,権利主体から訴訟追行権が授与されている必要がある。
対象となる権利,請求,相手方及び審級を特定した授権書を作成し,担当者が和解・請求放棄・控訴等をどこまで行えるかも明らかにする。

第2に,担当者の実体法上の地位と訴訟追行の必要性を確認する。
共同事業の業務執行者,債券管理者など,権利の管理や回収を継続的に担う者であることは重要な事情になる。
単に本人より訴訟に詳しい,本人が出廷を面倒に感じるというだけでは足りない。

第3に,弁護士代理原則又は訴訟信託禁止の潜脱にならないことを確認する。
訴訟だけを目的に権利者と無関係の者を当事者に据えること,報酬目的で多数の他人の請求を集めること,本人と担当者の利益相反を放置することは,否定方向の事情となる。

第4 共同事業・共有者・多数債権者での使い分け

共同事業では,組合契約,業務執行者の選任,財産管理権及び対外的権限を確認する。
最高裁判決は民法上の組合の業務執行組合員を扱ったものであり,名称だけが「代表者」である者に当然に原告適格を認めたものではない。

共有物に関する訴えでは,保存行為として各共有者が単独で行える請求,共有者全員でなければならない請求,代表者による任意的訴訟担当を検討する請求を分ける。
まず実体法上,誰が請求権を行使できるかを確認すべきであり,任意的訴訟担当を最初から万能な解決策として用いない。

多数の債権者については,最高裁第一小法廷平成28年6月2日判決(平成26年(受)第949号)が,ソブリン債の管理会社について,債券保有者からの授権,債券の性質,管理会社の規制・監督,公平誠実義務及び善管注意義務等を踏まえて任意的訴訟担当を認めた。
多数人の権利行使が事実上困難で,適切な管理主体に集約する制度的必要があることが重視されている。

合理的必要性は,任意的訴訟担当を使わない場合と比較して判断する。各権利者が個別に提訴できるか,民事訴訟法30条の選定当事者を利用できるか,全員が弁護士へ委任すれば足りるか,人数・地域・費用・管理権限・利益相反の点で集約する必要があるかを比較する。権利者が数名にすぎず,一人の提訴でも目的を達成できる場合は,合理的必要性を弱める事情になり得る。

第5 訴訟代理との違いと実務資料

任意的訴訟担当が成立すると,担当者が当事者となり,判決の効力は民事訴訟法115条1項2号により担当された本人にも及ぶ。
誰が費用を負担し,和解内容を誰が承認し,回収金をどう分配するかを内部契約で定めておく必要がある。

実務では,①本人と担当者の関係を示す契約書・規約,②実体法上の管理権限を示す資料,③訴訟追行権授与書,④合理的必要性を示す人数・地域・管理実態,⑤利益相反を管理する条項を揃える。
これらが欠けると,本案に入る前に当事者適格を争われ,訴えを却下される危険がある。

令和6年司法試験公式資料による補足:授権と許容要件の区別,個別提訴・選定当事者・弁護士委任との比較及び合理的必要性に関する補足は,第3問設問1の公式整理に基づく。
民事系科目の論文式試験問題,論文式試験出題の趣旨(民事系科目)及び採点実感(民事系科目)(法務省)を確認した。

第6 出典・参考資料

①民事訴訟法54条,115条(e-Gov法令検索)
②信託法10条(e-Gov法令検索)
③最高裁大法廷昭和45年11月11日判決(昭和42年(オ)第1032号,民集24巻12号1854頁,判例秘書L02510245。
裁判所ウェブサイトで判決本文の直接掲載を確認できなかった。
)
④最高裁第一小法廷平成28年6月2日判決(平成26年(受)第949号,民集70巻5号1157頁,裁判所ウェブサイト)

別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるか――既判力,裁判上の自白,証拠価値及び証拠説明書

目次第1 判決主文と判決理由中の認定の違い第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味第4 先行訴訟の準備書面・上申書・陳述書の扱い第5 「その主張をした事実」と「主張内容が真実であること」の区別第6 裁判上の自白と単なる不利益陳述の区別第7 後訴で引用する前に確認する記録第8 証拠説明書の立証趣旨の記載例第9 先行主張と現在の主張が異なる場合の説明方法第10 まとめ第11 出典・関連記事

別件判決又は先行訴訟の準備書面を現在の訴訟で使うときは,①確定判決の主文に生じる既判力,②先行訴訟でされた主張又は判断という訴訟経過,③記載内容が真実かという証拠評価,④現在の訴訟における裁判上の自白を区別する必要がある。本記事では,判決書,準備書面,上申書及び陳述書を後訴で利用する前に確認すべき記録と,証拠説明書の立証趣旨の書き方を整理する。

第1 判決主文と判決理由中の認定の違い

判決書は,主文と理由から成る。主文は,当事者の請求について,認容,棄却又は訴えの却下等の結論を示す部分である。理由は,その結論に至った事実認定及び法律判断を示す。

民事訴訟法114条1項は,「確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する。」と定めている。したがって,前訴判決の理由中にある個々の事実認定又は法律判断が,その記載だけで一律に後訴を拘束するわけではない。

もっとも,どの権利又は法律関係について判断されたかを確定するには,主文だけでなく,請求の趣旨,請求原因及び判決理由を読み,前訴の訴訟物と基準時を特定する必要がある。「理由に書いてあるから既判力がない」と短絡することも,「前の判決が認定したから後の裁判所も従う」と短絡することもできない。

判決理由だけを不服として控訴できるかという別の問題は,全部勝訴した当事者に民事控訴の利益はあるか――判決理由だけを争える場合と争えない場合で説明している。

第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外

既判力が生じるのは,原則として,前訴の口頭弁論終結時を基準として主文に包含された訴訟物についての判断である。後訴が前訴と同じ訴訟物を対象とするとき,又は前訴の判断を先決関係として覆すことになるときは,既判力との抵触を検討する。

判決理由中の判断については,民事訴訟法114条2項が明文の例外を置いている。同項は,「相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は,相殺をもって対抗した額について既判力を有する。」と定めている。

例えば,被告が反対債権を自働債権として相殺を主張し,裁判所がその成立又は不成立を判断した場合は,相殺に供された額の範囲で,その理由中判断にも既判力が生じる。相殺の抗弁に関する整理は,相殺の抗弁に関するメモ書きで説明している。

このほか,既判力の範囲外であっても,前訴で十分に争われた事項を後訴で蒸し返すことが信義則に反すると評価される場合がある。これは114条の既判力そのものとは別の問題であるため,前訴と後訴の当事者,請求,争点,審理の程度及び訴訟経過を個別に確認する。

前訴基準時前に存在した事由は,原則として後訴での主張を遮断される。もっとも,遮断効の実質的根拠を,前訴で十分な主張立証の機会を与えられながら行使しなかった自己責任に求め,前訴での主張立証がおよそ期待できなかった事実には遮断効が及ばないとする「期待可能性説」がある。

この説には,①既判力による法的安定と勝訴者の地位を害する,②民事訴訟法338条1項5号は刑事罰を科される他人の行為で主張立証を妨げられた場合にも再審制度で処理しており,単なる期待可能性欠如で既判力を縮小すると境界が曖昧になる,③後訴裁判所の審理負担が重くなるとの批判がある。採用する場合も,「知らなかった」「思い付かなかった」だけで例外とせず,資料へのアクセス,前訴の争点・進行,主張を妨げた事情及び相手方の信頼を具体的に検討する必要がある。

また,基準時後に形成権を行使したという形式だけで,基準時前から存在した解除原因等を当然に後訴へ持ち込めるとは限らない。形成権行使の時期と,その基礎となる事由が基準時前後のいずれに存在したかを分け,期待可能性説,制度的効力説及び信義則を相互に混同しない。

既判力が及ぶ人の範囲も限られる。確定判決は,当事者,当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人,口頭弁論終結後の承継人等に対して効力を有する(民事訴訟法115条1項)。同じ原告から訴えられた共同被告どうしの間には,当然には既判力は生じない。前訴の共同被告の一方が他方へ求償や損害賠償を請求する後訴で,前訴判決の理由中の認定を既判力によって持ち込むことはできないのが出発点である。

これとは別に,補助参加人に対する裁判の効力(民事訴訟法46条)がある。訴訟告知を受けた者が参加しなかった場合も,参加することができた時に参加したものとみなされる(同法53条4項)。最高裁昭和45年10月22日判決は,この効力は既判力ではなく,判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であり,判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断にも及ぶとした。最高裁平成14年1月22日判決は,その理由中の判断を,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限り,訴訟告知を受けたが参加しなかった者に効力が及ぶのは,その者が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られるとした。

したがって,前訴で敗訴した場合に第三者へ求償又は損害賠償を請求する見込みがあるときは,前訴の係属中にその第三者へ訴訟告知をしておくことが,後訴で前訴の判断を争わせないための基本的な手段となる。自分が相手方の訴訟に補助参加しても,それは参加した自分の側が判断を争えなくなる関係であり,自分が求償しようとする相手を拘束する手段にはならない。効力の向きは,「誰が誰に対して,前訴のどの判断を援用するか」で確認する。訴訟告知の方式,効力の範囲及び告知を検討する場面は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えで整理している。公証人の補助参加を例にした説明は,遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加でも扱っている。

第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味

別件判決の理由中の認定に既判力がない場合でも,判決書を後訴で書証として提出することはできる。後訴の裁判所は,民事訴訟法247条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により事実を判断する。

別件判決書から直接分かるのは,まず,別の裁判所が,特定の当事者及び請求について,記載された主文及び理由の判断をしたという事実である。判決が確定していれば,確定した主文の範囲では既判力の問題が加わる。未確定判決であれば,その時点の判決が存在することは示せても,確定判決としての既判力は生じていない。

他方,判決理由に認定された基礎事実が後訴でも真実であるかは,別の問題である。前訴で用いられた証拠,争点,認否,反対尋問の有無及び当事者の範囲が後訴と異なることがある。後訴の裁判所は別件判決書の証拠価値を評価するが,理由中認定だけを切り出して現在の争点が当然に証明されたものとして扱うべきではない。

特に,別件判決が一方当事者の準備書面又は陳述書を引用している場合は,その文書が実際に提出又は取調べされたのか,単に当事者の主張として摘示されたのかを,前訴記録で区別する。

第4 先行訴訟の準備書面・上申書・陳述書の扱い

準備書面は,当事者の主張又は認否を記載する書面である。上申書は,用途が一定せず,進行に関する連絡,事情説明又は実質的な主張を含むことがある。陳述書は,作成者の体験又は認識を供述内容として記載し,書証として提出されることが多い。

前訴の準備書面又は上申書を後訴で利用するときは,前訴でその書面が提出され,期日においてどのように扱われたかを確認する。裁判所へ送ったファイルが手元にあることと,正式に提出され,主張として陳述され,又は証拠として取り調べられたことは同じではない。

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東京地裁医療集中部とは-担当部,発足経緯,審理運営及び鑑定制度(AI作成)

目次第1 東京地裁医療集中部の概要1 医療集中部の意味2 本記事の基準時と資料の読み方第2 現在の担当部1 民事第14部,第30部,第34部及び第35部2 担当裁判官と担当部の確認第3 発足までの経緯1 平成10年から平成13年まで2 発足の目的第4 医療集中部の審理運営1 提訴前の調査と訴状2 診療経過と争点の可視化3 証人尋問の位置付け第5 医学的知見を審理へ取り入れる方法1 医学文献と協力医の意見書2 専門委員3 鑑定とカンファレンス方式第6 和解と統計の読み方1 和解の機能2 令和7年の全国統計第7 制度を利用する際の注意点1 集中部であることと立証責任2 古い運用資料と現在情報の区別第8 主な出典及び参考資料1 裁判所及び国会図書館の資料2 判例タイムズ掲載論文
第1 東京地裁医療集中部の概要
1 医療集中部の意味

東京地裁医療集中部とは,医療行為の当否が争点となり,審理に医学的知見を要する民事事件を集中的に担当する東京地方裁判所の民事部である。独立した裁判所又は特別な訴訟類型ではなく,専門性の高い事件について知識と審理運営の経験を蓄積するための事件配点上の仕組みである。
医療集中部に配点されたこと自体は,医療機関の過失,因果関係又は患者側の請求が認められることを意味しない。責任の有無は,各事件の主張及び証拠に基づいて判断される。

2 本記事の基準時と資料の読み方

本記事は,令和8年(2026年)9月22日現在の裁判所公開資料と,判例タイムズ1495号及び1497号に掲載された令和4年(2022年)のシンポジウム記録を区別して整理するものである。
シンポジウム記録にある件数,割合及び運用は,当時の実務報告であり,現在も同一であると断定できない。現在の担当部は最新の裁判所資料で確認し,個別事件の進行は担当部の指示に従う必要がある。

第2 現在の担当部
1 民事第14部,第30部,第34部及び第35部

東京地裁が公開している霞が関庁舎のダイヤルイン一覧では,民事第14部,第30部,第34部及び第35部に「通常・医療部」と表示されている。したがって,東京地裁本庁の医療事件を集中的に担当する部は,この4か部であると確認できる。
東京地裁霞が関庁舎のダイヤルイン一覧には各部の係別電話番号も掲載されている。ただし,問い合わせ先は事件の係属部及び担当係を確認した上で選ぶ必要がある。

2 担当裁判官と担当部の確認

東京地方裁判所の民事部担当裁判官一覧は,令和8年4月24日現在のものとして,民事第14部,第30部,第34部及び第35部の担当裁判官を掲載している。同一覧自体には各部が医療集中部であるとの表示がないため,医療部であることは前記ダイヤルイン一覧と突き合わせて確認するのが安全である。
裁判官の異動,部の担当事務及び電話番号は変更され得る。提出又は照会の直前に裁判所ウェブサイトの最新版を再確認すべきである。

第3 発足までの経緯
1 平成10年から平成13年まで

国立国会図書館の調査資料によれば,平成10年(1998年)に医療関係訴訟の運営に関する司法研究が始まり,平成11年(1999年)に東京地裁の委員会が医療事件の集中処理を提案した。東京地裁は平成12年(2000年)4月から民事第14部,第30部,第34部及び第35部で試行し,平成13年(2001年)4月に医療集中部を発足させた。
判例タイムズ1495号21頁のシンポジウム記録も,1年間の試行を経て平成13年4月に4か部が発足したと説明している。発足時には,裁判長が争点整理に主体的に関与できるよう配点を調整し,4か部で早期に共通の審理運営を形成することが意識されていた。

2 発足の目的

最高裁判所医事関係訴訟委員会の答申は,東京及び大阪の地方裁判所に平成13年4月から医療関係訴訟の集中部が設けられたとし,審理上のノウハウを蓄積するとともに,地域の医療界との連絡窓口として機能することが期待されると述べている。
したがって,集中部の意義は,単に事件を同じ部へ集める点だけにない。争点整理,医学的知見の獲得,鑑定人確保及び医療界との継続的な協議を一体として改善するところにある。

第4 医療集中部の審理運営
1 提訴前の調査と訴状

判例タイムズ1497号19頁から20頁では,医療事件では,提訴前に診療録に基づく診療経過の整理,医学文献の調査,協力医への相談及び医療機関への照会を行い,具体的な注意義務違反と因果関係を絞り込む必要性が繰り返し指摘されている。
集中部は当事者の調査又は立証を代行する制度ではない。争点を特定しないまま提訴すると,争点整理に長期間を要し,専門委員を早期に選任しても,当事者が負う主張立証の不足を当然に補えるわけではない。

2 診療経過と争点の可視化

判例タイムズ1495号21頁から22頁によれば,医療集中部の審理は,基本的書証を早期に提出し,診療経過一覧表によって時系列を共有し,当事者が参加して争点整理表を作成した上で,集中証拠調べへ進むという考え方を基礎としている。
同号25頁は,令和4年当時の取組として,訴え提起後2,3か月以内に実質的な答弁を踏まえた第1回期日を開くこと,ウェブ会議前に注意義務違反の内容等を記載したアジェンダを共有し,期日後に議論の到達点と次回までの準備事項を共有することを紹介している。これらは,期日間の準備を明確にし,争点整理を口頭議論だけで終わらせないための工夫である。

3 証人尋問の位置付け

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和解のために出した試算書は後の訴訟で不利に使われるか――裁判上の自白との違いと,自分の書面を書証にするときの注意(AI作成)

目次第1 結論第2 裁判上の自白とは何か1 条文2 対象は「事実」である3 「裁判所において」された陳述であること4 争わないことによる効果も当該訴訟限りである5 場面ごとの対照第3 前の訴訟で出した書面は,後の訴訟の自白にならない1 訴訟が違えば陳述にならない2 書証として出された場合の扱い3 和解の過程の譲歩を証拠から排除する規定はない4 和解が成立した場合との違い第4 書面に書いた数字がどう読まれるか1 上限の表示2 仮定の表示3 前提が変われば上限も動く4 主張額,上限額及び和解の提示額を混ぜない第5 自分が作った書面を自ら書証にするときの注意1 全部が相手方の目に入る2 立証趣旨で前提を特定する3 書面の一部だけを引用しない4 抄本で出すかどうか5 書証の申出の仕方第6 相手方が前の訴訟の書面を出してきたとき1 文書の成立の真正2 書面の全体を読ませる3 反対の記載を探す4 相手方又は第三者が持っている書面を出させる方法第7 和解のための書面を作るときの書き方第8 指摘を受けたときの返し方第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例の引用について
第1 結論

和解の協議の中で,「こちらの計算では,多めに見積もっても相手方の損害は○円にとどまる」という趣旨の試算書を出すことがある。
その事件が和解で終わらず,あるいは別の事件が後から起きたとき,この試算書が相手方の手に渡り,「相手方自身が○円を認めている」と主張される場面がある。

結論としては,次の三つを分けて考えるのが整理しやすい。

①その書面は,後の訴訟における裁判上の自白ではない。裁判上の自白は,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続における陳述であることを要するからである(民事訴訟法179条参照)。

②しかし,書証として提出されれば,裁判所の自由な心証の対象にはなる。民事訴訟法には,和解の過程における譲歩を証拠から排除する規定が置かれていない。

③したがって,実際に効いてくるのは「自白かどうか」ではなく,「その書面が何を前提とした,どういう性質の数字を示したものとして読まれるか」である。

本記事では,この三つを条文に即して整理し,和解のための書面を作るとき,自分の書面を自ら書証として提出するとき及び相手方が前の訴訟の書面を出してきたときの実務上の注意を示す。

第2 裁判上の自白とは何か
1 条文

民事訴訟法179条は,「裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は,証明することを要しない。」と定めている。

同法159条1項は,「当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には,その事実を自白したものとみなす。ただし,弁論の全趣旨により,その事実を争ったものと認めるべきときは,この限りでない。」と定めている。
同条2項は,「相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は,その事実を争ったものと推定する。」としている。

自白が成立すると,その事実について証明が不要になる。
争点整理の場面では,どの事実に自白が成立しているかが,証拠調べの対象を決める。

2 対象は「事実」である

179条も159条1項も,対象を「事実」としている。
そのため,法律上の効果に関する意見,計算方法の当否についての見解及び評価の当否は,それ自体では自白の対象にならない。

遺留分侵害額,損害額,過失割合のような数字は,その内実が①算定の基礎となる事実と②その事実への法規の当てはめとに分かれる。
「○円である」という記載が,どこまで事実の陳述で,どこからが当てはめの結論かは,書面の文脈で決まる。

したがって,相手方から「その書面で○円を認めているではないか」と言われたときは,まずその数字がどの層の主張なのかを切り分ける。

3 「裁判所において」された陳述であること

179条は「裁判所において当事者が自白した事実」としている。
すなわち,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続の期日における陳述であることが前提になる。

訴訟の外で作った文書,交渉の場で相手方に渡した書面,別の事件で提出した書面は,この要件を満たさない。
これらは,講学上,裁判外の自白として,証拠資料の一つとして扱われるにとどまる。

もっとも,弁論準備手続には,民事訴訟法170条5項により,争うことを明らかにしない事実を自白したものとみなす159条等が準用される。
したがって,弁論準備手続で準備書面の事実主張を正式に陳述し,相手方がそれを争わないときは,裁判上の自白又は擬制自白が問題となり得る。

同じ期日で和解協議が行われても,協議用の試算を示しただけのことと,準備書面の事実主張を訴訟上の主張として陳述したことは区別する。

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建築訴訟の審理モデル―東京地裁民事第22部が示した6類型の主張立証と一覧表・付調停による2年審理(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 審理モデルとは2 6本の論稿第2 審理モデルのねらいと全体像1 2年で終えるためのスケジュール2 一覧表は「手段」であり,二往復で打ち止める3 専門的知見は調停で取り入れる第3 追加変更工事1 要件と典型的な争点2 追加性3 有償合意4 代金額の相当性5 追加変更工事一覧表第4 工事の瑕疵1 瑕疵の意義と主張の組み立て2 設計の瑕疵と施工の瑕疵3 審理計画と瑕疵一覧表第5 出来高1 出来高の審理の流れ2 既施工部分の証拠3 報酬額の算定方式4 中途終了の原因と着地点第6 設計・監理1 報酬請求と契約の成否2 設計・監理の債務不履行第7 第三者被害型(振動・地盤沈下による近隣被害)第8 付調停と現地調査1 付調停の時期と訴訟との並進2 現地調査第9 一覧表の書式第10 代理人の実務上の対応第11 関連記事第12 出典1 法令2 論稿3 裁判所の資料4 裁判例
第1 この記事の対象と資料
1 審理モデルとは

東京地方裁判所民事第22部は,建築訴訟を専門に扱う部である。
同部に所属し又は所属していた裁判官らが,建築訴訟の審理を効率化するため,事件の類型ごとに「審理モデル」を作り,判例タイムズに6回に分けて発表している。
最高裁判所の建築関係訴訟委員会でも,東京地裁が基本3類型の審理モデルを判例タイムズに掲載したことが報告されている(第19回議事要旨)。

本記事は,この6本の論稿を判例秘書の判例タイムズ電子復刻版で読み,代理人が訴状の作成から和解・調停までの各段階で押さえるべき点を整理するものである。
論稿の中の法解釈や手続に関する意見は,執筆した裁判官らの私見であるとされている。

2 6本の論稿

①「建築訴訟の審理モデル~追加変更工事編~」判例タイムズ1453号5頁(2018年12月)
②「建築訴訟の審理モデル~工事の瑕疵編~」判例タイムズ1454号5頁(2019年1月)
③「建築訴訟の審理モデル~出来高編~」判例タイムズ1455号5頁(2019年2月)
④「建築訴訟の審理モデル~設計・監理の報酬請求編~」判例タイムズ1489号5頁(2021年12月)
⑤「建築訴訟の審理モデル~設計・監理の債務不履行・不法行為編~」判例タイムズ1490号5頁(2022年1月)
⑥「建築訴訟の審理モデル~不法行為(第三者被害型)編~」判例タイムズ1495号5頁(2022年6月)

①から③は,民法の債権法改正(令和2年4月1日施行)の前に執筆され,改正の内容は盛り込まれていない。
「瑕疵担保責任」「民法634条」等の記述は,現行民法の契約不適合責任(民法559条,562条~564条)に読み替える必要がある。
④から⑥は,改正後の民法を前提としている。

建築訴訟で鑑定人や専門家がどう選ばれるかは,建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるかで,統計は建築訴訟の統計(令和6年)で扱っている。

第2 審理モデルのねらいと全体像
1 2年で終えるためのスケジュール

審理モデルは,建築訴訟についても,知財訴訟や医療訴訟のように効率的な審理のやり方を確立し,「2年で終える」ことを目指すものとされている(判タ1453号6頁)。
論稿は,建築訴訟が長くかかる背景として,中小規模の裁判所では建築事件のノウハウが蓄積されにくいことと,「建築訴訟は時間がかかっても仕方がない」という意識が当事者にも裁判所にもあることを挙げている。

基本3類型(追加変更工事,工事の瑕疵,出来高)について示された進行の目安は,次のとおりである(判タ1453号7頁)。
①訴状の審査:1か月程度
②主張の整理:最長8か月程度
③調停:6か月から10か月程度
④人証調べ:5か月程度
⑤判決:2か月程度

2 一覧表は「手段」であり,二往復で打ち止める

(続きを読む...)建築訴訟の審理モデル―東京地裁民事第22部が示した6類型の主張立証と一覧表・付調停による2年審理(AI作成)

建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるか―建築関係訴訟委員会の推薦ルート,鑑定料の考え方及び専門家選定の情報(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 使用した資料と読み方の注意第2 建築関係訴訟委員会とは1 設置の経緯と規則2 推薦の流れ第3 推薦依頼の件数と期間1 件数2 期間第4 推薦依頼書と専門分野の伝え方1 推薦依頼書の記載事項2 専門分野を具体的に伝える3 利害関係の確認第5 鑑定料の考え方1 「鑑定料の検討に当たり考慮することが考えられる要素」2 代理人の対応第6 鑑定以外の手段―専門家調停と専門委員第7 事件類型の動向第8 代理人の実務上の対応第9 関連記事第10 出典1 法令・規則2 建築関係訴訟委員会の資料
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,建築紛争の訴訟で鑑定が必要になったとき,裁判所がどのように鑑定人を探すのか,鑑定料はどう決まるのか,調停委員や専門委員を含む建築の専門家をどう選ぶのかを,最高裁判所の建築関係訴訟委員会の公開資料から整理するものである。
施主側と施工者・設計者側のどちらの代理人にとっても,鑑定や専門家調停を申し出る前に知っておくと見通しを立てやすくなる事項である。

建築関係訴訟の件数,審理期間,終局区分,瑕疵の種別,鑑定率及び付調停率は,建築訴訟の統計(令和6年)にまとめた。
医療訴訟について同じ仕組みを扱った記事として,医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるかがある。

2 使用した資料と読み方の注意

資料は,最高裁判所の建築関係訴訟委員会のページに掲載された,第1回(平成13年7月19日)から第21回(令和6年12月19日)までの議事要旨,分科会の議事要旨,添付資料,平成17年6月の答申,中間取りまとめ,委員会規則及び統計である(令和8年9月20日に取得)。
議事要旨の発言は委員又はオブザーバーの意見であり,委員会の結論や裁判所の運用そのものではない。
本記事では,資料に書かれた事実と,委員等の意見とを区別して書く。

期間や件数の一部は,議事要旨に添付された「鑑定人候補者推薦依頼一覧」から本記事で集計したものである。
一覧は月単位でしか日付を示していないため,集計した期間には1か月程度の誤差がある。

第2 建築関係訴訟委員会とは
1 設置の経緯と規則

建築関係訴訟委員会は,建築関係訴訟委員会規則(平成13年最高裁判所規則第6号)に基づき,平成13年に最高裁判所に置かれた委員会である。
設置の前から,最高裁判所事務総局民事局と日本建築学会との間で意見交換が行われ,平成12年6月には学会の中に司法支援建築会議が作られていた(答申)。

規則2条は,民事訴訟事件又は民事調停事件のうち争点若しくは証拠の整理又は裁判をするについて建築の専門的知識経験を必要とするものを「建築紛争事件」と定め,委員会の事務として,運営に関する共通的な事項の調査審議のほか,次の3つの候補者の選定を掲げている。
①鑑定人の候補者(2条3号)
②民事調停委員の候補者(同条4号)
③専門委員の候補者(同条5号)

規則は委員を20人以内とし(3条),鑑定人等候補者選定分科会を置いている(7条)。
令和6年12月19日現在の委員名簿には,建築系の研究者を中心に,実務家,弁護士及び法学研究者の11名が掲載されている。

2 推薦の流れ

推薦の流れは,概略図と第3回委員会(平成14年3月5日)の資料によれば,次のとおりである。
①事件を担当する地方裁判所等が,推薦依頼を最高裁判所事務総局民事局(委員会の事務局)に送る。
②事務局が,日本建築学会(司法支援建築会議)等に推薦を依頼する。
③学会の推薦は,同じ経路を逆にたどって裁判所に届く。
④裁判所が候補者に連絡し,鑑定人に選任するかを判断する。

概略図には,推薦は法的な強制によるものではなく,推薦された候補者を選任するかどうかは各裁判所の判断に委ねられることが注記されている。

(続きを読む...)建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるか―建築関係訴訟委員会の推薦ルート,鑑定料の考え方及び専門家選定の情報(AI作成)

医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるか―医事関係訴訟委員会の推薦ルート,期間,費用及び鑑定人質問の実情(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 使用した資料と読み方の注意第2 医事関係訴訟委員会とは1 設置の経緯2 現在の位置付け第3 鑑定人候補者の推薦ルート1 手続の流れ2 委員会ルートを使う事案3 推薦依頼書に書かれる事項4 「推薦に当たっての希望」欄の書き方第4 件数,依頼先の学会及び所要期間1 件数の推移2 依頼先の学会3 所要期間4 推薦が難航する類型第5 医療過誤以外の事件での利用第6 鑑定事項と鑑定資料1 答えにくい鑑定事項2 複数の診療科にまたがる事案3 鑑定資料の渡し方第7 鑑定の方式と費用1 単独鑑定,複数鑑定及びカンファレンス鑑定2 鑑定料と費用負担第8 鑑定書が出た後―補充鑑定と鑑定人質問1 鑑定人質問はほとんど行われていない2 補充鑑定と鑑定人質問の条文第9 代理人の実務上の対応1 受任時と鑑定の申出前の説明2 鑑定の申出で準備しておくこと第10 関連記事第11 出典1 法令2 医事関係訴訟委員会の資料3 統計・報告書
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,医療訴訟で鑑定が必要になったのに鑑定人が見つからないとき,裁判所がどのような経路で鑑定人候補者を探すのかを,最高裁判所の医事関係訴訟委員会の公開資料から整理するものである。
あわせて,鑑定事項の立て方,鑑定資料の渡し方,鑑定の方式と費用,鑑定書が出た後の補充鑑定と鑑定人質問について,同委員会で議論された内容を紹介する。
患者側と医療機関側のどちらの代理人にとっても,鑑定の申出の前に知っておくと見通しを立てやすくなる事項である。

鑑定事項書そのものの書き方は,民事訴訟の鑑定事項書の作り方で扱っている。
医療訴訟の件数,審理期間,和解率及び認容率は,医療訴訟の統計(令和7年)にまとめた。

2 使用した資料と読み方の注意

資料は,最高裁判所の医事関係訴訟委員会についてのページに掲載された,第1回(平成13年7月13日)から第37回(令和8年5月27日)までの議事要旨とその添付資料,平成17年6月頃の答申,委員会の規則及び統計である(令和8年9月19日に取得)。
議事要旨の「主な発言」は委員又はオブザーバーの意見であり,委員会の結論や裁判所の運用そのものではない。
本記事では,資料に書かれた事実と,委員等の意見とを区別して書く。

期間や件数の一部は,議事要旨に添付された「推薦依頼事案の経過一覧表」から本記事で集計したものである。
一覧表は月単位でしか日付を示していないため,集計した期間には1か月程度の誤差がある。
この種の数値には,本文で「本記事の集計」と明記する。

第2 医事関係訴訟委員会とは
1 設置の経緯

医事関係訴訟委員会は,医事関係訴訟委員会規則(平成13年最高裁判所規則第5号)に基づき,平成13年7月に最高裁判所に置かれた委員会である。
医学界の委員,法曹界の委員及び一般の有識者で構成され,医事関係訴訟の運営に関する一般的な問題を審議することと,鑑定人候補者を選ぶことを主な任務とする。
鑑定人候補者の選定は,委員会に置かれた鑑定人等候補者選定分科会と合同で行われ,第3回以降の会議は分科会との合同開催になっている。

委員会の答申によれば,設置前の意見交換で,医学界の側から,医師が鑑定人を引き受けない理由として次のような事情が挙げられていた。
①時間をかけて鑑定をしても裁判の結果が知らされず,鑑定が役に立ったのかが分からないこと
②法廷で,人格を非難されたと受け取られるような質問がされることがあったこと
③要約書面もなしに記録の写しをそのまま送られ,不適切な鑑定事項について鑑定を求められること

これを受けて,事件が終わったときに裁判所から鑑定人へ結果を通知する運用が定着し,委員会からも学会と鑑定人に結果を通知して礼状を送るようになった。
後で見る鑑定人質問の運用の変化も,この経緯と関係している。

2 現在の位置付け

委員会の規則は,委員を20人以内とし(3条),鑑定人等候補者選定分科会を置くことを定めている(7条)。
令和8年9月14日現在の委員名簿には,委員長を含む12名が掲載されている。

委員会ルートは,各裁判所の努力で鑑定人を見つけられない事案のための仕組みである。

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民事裁判はどのくらいかかるか―事件類型別・代理人の有無別の平均審理期間と長くなる要因(令和6年)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 使用する資料と対象期間2 平均値を依頼者への説明に使うときの前提第2 民事第一審全体の審理期間1 令和6年の平均と分布2 平均を押し下げている事件第3 代理人・人証調べ・合議で変わる期間1 代理人の付き方2 人証調べ・鑑定・合議3 訴額第4 事件類型別の審理期間第5 手続段階と期日1 第1回口頭弁論期日までの期間2 期日の回数と間隔第6 大阪地方裁判所管内の数値第7 代理人の活動で審理期間が変わる場面1 訴状と初期の書面2 期日間の投稿と書面の提出期限3 合議体と付合議の上申第8 依頼者へ見通しを説明するときの注意1 数値を選ぶ順序2 控訴審を含めた期間第9 関連記事第10 出典1 法令2 統計・データ
第1 この記事の対象と資料
1 使用する資料と対象期間

本記事は,最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)の統計を基に,地方裁判所の民事第一審訴訟がどのくらいの期間で終わっているかを整理するものである。
対象は令和6年に終局した事件であり,統計は令和7年4月15日現在の数値である。
同報告書は,裁判の迅速化に関する法律8条1項に基づき,最高裁判所が2年ごとに公表している検証結果である。
事件類型ごとの細かな数値は,同報告書の資料2-2-1(事件類型別平均審理期間等)及び資料2-6・2-9(地方裁判所管内別の数値)から取った。

「民事第一審訴訟」には,地方裁判所の通常訴訟のほか人事訴訟も含まれる(報告書45頁注1)。
平均審理期間は,訴えの受理から終局までの期間の平均である。
報告書の本文が「前回」と書くときは第10回報告書,すなわち令和4年の数値を指し,前年の令和5年の数値ではない。

2 平均値を依頼者への説明に使うときの前提

裁判の迅速化に関する法律2条1項は,「第一審の訴訟手続については二年以内のできるだけ短い期間内にこれを終局させ」ることを目標として掲げている。
これは目標であり,個々の事件を2年以内に終わらせる義務を裁判所に課す規定ではない。
平均審理期間は既に終わった事件の平均であり,係属中の事件がいつ終わるかを示すものでもない。

平均値は,短期間で終わる事件が多いと大きく下がる。
そのため,本記事では,全体の平均よりも,代理人の付き方・人証調べの有無・事件類型に分けた数値を重視する。

第2 民事第一審全体の審理期間
1 令和6年の平均と分布

令和6年の既済事件は13万9370件で,平均審理期間は9.2月であった(報告書47頁)。
平均審理期間は,平成20年の6.5月まで短くなった後に長期化し,令和3年・4年の10.5月を経て,令和6年は9.2月に短縮した。

審理期間の分布は,6月以内が58.1%,6月超1年以内が17.8%,1年超2年以内が16.5%,2年超が7.6%であった(報告書49頁,資料2-6)。
2年を超える割合は,前回(令和4年)の9.9%から下がっている。

2 平均を押し下げている事件

全体の平均が9.2月にとどまるのは,争いがほとんどなく短期間で終わる事件が多いためである。
例えば,建物の明渡し等の「建物」事件は4万0474件あり,平均審理期間は3.8月であった(資料2-2-1)。
判決で終局した事件のうち,被告が出頭しない欠席判決は平均3.4月で終わっている。

報告書は,第9回報告書から,過払金返還請求等の事件を統計から除く処理をやめ,全体の統計だけを分析している(報告書45頁注2)。
したがって,「民事裁判の平均は9.2月」という数値を,当事者双方が争う事件の目安として使うことはできない。

第3 代理人・人証調べ・合議で変わる期間
1 代理人の付き方

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民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)(AI作成)

目次第1 本記事の対象と資料1 資料と対象期間2 「代理事件数」と「代理割合」第2 地方裁判所の民事第一審通常訴訟1 代理事件数の推移2 令和6年の代理の状況3 建物事件の増加4 事件類型別の代理割合第3 簡易裁判所の民事第一審訴訟1 双方本人が8割を超える2 「双方本人」には司法書士が代理した事件を含む第4 人事訴訟と家事事件1 人事訴訟(離婚訴訟を含む)2 遺産分割事件(調停・審判)3 婚姻関係事件(調停・審判)第5 数字を読むときの注意1 全国の数値であること2 出典の時点による差3 平成15年以前の地裁の合計第6 関連記事第7 出典・参考資料1 統計・データ
第1 本記事の対象と資料
1 資料と対象期間

本記事は,法務省が法曹養成制度改革連絡協議会の第26回(令和8年3月3日開催)に提出した資料1-2「裁判事件数調査関係資料」に基づき,民事訴訟と家事事件で弁護士が代理人に付いている割合の推移を整理するものである。
資料1-2の代理人に関する図表は,いずれも司法統計を基に作成されたもの(令和7年6月時点)であり,平成元年から令和6年までの36年分の全国の数値を掲げている。
大阪地裁その他の裁判所ごとの数値は,この資料には含まれていない。

2 「代理事件数」と「代理割合」
(1) 代理事件数

資料1-2の「代理事件数」は,既済事件を,双方に弁護士が付いた事件(双方代理),原告側だけに付いた事件(原告代理),被告側だけに付いた事件(被告代理)及びどちらにも付いていない事件(双方本人)の4つに分けて数えたものである。
本記事では,この4区分の件数と,その合計に対する割合(本記事で計算したもの)を示す。

(2) 代理割合

資料1-2の「代理割合」は,弁護士が当事者に代理人として付いた数(双方代理の事件は2,一方だけの事件は1と数える)を,既済事件数の2倍で割ったものである。
代理割合は当事者の側ごとに数えた指標であり,「少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合」とは異なる。
例えば,令和6年の地裁の代理割合は約66%であるが,少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合は約91.5%である。

第2 地方裁判所の民事第一審通常訴訟
1 代理事件数の推移

表1は,資料1-2の図表17(地裁の民事第一審通常訴訟の代理事件数)の全年を並べたものである。
括弧内の割合は,4区分の合計に対する割合を本記事で計算したものである。
平成9年までは再審の件数を含むと注記されている。

年双方代理原告だけ代理被告だけ代理双方本人計平成元年51,660(47.4%)37,301(34.2%)3,351(3.1%)16,755(15.4%)109,067平成2年53,235(50.4%)34,367(32.6%)3,191(3.0%)14,730(14.0%)105,523平成3年51,689(49.2%)35,336(33.6%)3,035(2.9%)15,046(14.3%)105,106平成4年51,676(44.5%)40,710(35.1%)3,543(3.1%)20,101(17.3%)116,030平成5年53,336(40.7%)46,358(35.4%)4,137(3.2%)27,200(20.8%)131,031平成6年54,546(39.7%)48,761(35.5%)4,753(3.5%)29,384(21.4%)137,444平成7年57,000(40.9%)48,901(35.1%)4,690(3.4%)28,818(20.7%)139,409平成8年57,610(41.6%)48,829(35.3%)4,809(3.5%)27,236(19.7%)138,484平成9年58,270(41.7%)48,767(34.9%)4,847(3.5%)27,719(19.9%)139,603平成10年59,671(40.1%)51,148(34.4%)5,625(3.8%)32,183(21.7%)148,627平成11年59,137(40.5%)49,234(33.7%)6,115(4.2%)31,548(21.6%)146,034平成12年60,876(40.6%)48,688(32.5%)6,893(4.6%)33,478(22.3%)149,935平成13年57,002(38.4%)51,251(34.6%)7,371(5.0%)32,699(22.0%)148,323平成14年55,463(38.0%)50,922(34.9%)7,192(4.9%)32,486(22.2%)146,063平成15年55,492(37.3%)51,423(34.6%)7,124(4.8%)34,626(23.3%)148,665平成16年53,906(38.4%)49,849(35.5%)6,499(4.6%)30,170(21.5%)140,424平成17年52,963(39.8%)47,678(35.8%)5,719(4.3%)26,645(20.0%)133,005平成18年54,305(38.0%)52,258(36.6%)5,989(4.2%)30,424(21.3%)142,976平成19年56,262(32.5%)68,153(39.4%)7,308(4.2%)41,162(23.8%)172,885平成20年58,420(30.4%)77,157(40.1%)8,426(4.4%)48,230(25.1%)192,233平成21年59,812(27.9%)91,243(42.5%)9,086(4.2%)54,370(25.3%)214,511平成22年63,148(27.8%)102,983(45.3%)8,390(3.7%)52,914(23.3%)227,435平成23年63,672(30.0%)92,114(43.3%)8,721(4.1%)47,985(22.6%)212,492平成24年63,308(37.6%)65,070(38.7%)7,382(4.4%)32,469(19.3%)168,229平成25年60,700(40.5%)58,080(38.7%)5,849(3.9%)25,301(16.9%)149,930平成26年60,124(42.6%)54,430(38.6%)5,012(3.6%)21,442(15.2%)141,008平成27年62,286(44.2%)54,899(38.9%)4,689(3.3%)19,099(13.5%)140,973平成28年64,197(43.4%)55,582(37.5%)4,389(3.0%)23,855(16.1%)148,023平成29年64,686(44.3%)54,391(37.3%)4,032(2.8%)22,874(15.7%)145,983平成30年63,055(45.5%)53,490(38.6%)3,803(2.7%)18,336(13.2%)138,684令和元年61,750(46.9%)54,719(41.6%)3,896(3.0%)11,193(8.5%)131,558令和2年54,635(44.5%)54,796(44.6%)3,440(2.8%)9,892(8.1%)122,763令和3年67,397(48.5%)57,296(41.2%)4,146(3.0%)10,181(7.3%)139,020令和4年63,169(47.9%)54,904(41.7%)4,005(3.0%)9,725(7.4%)131,803令和5年58,959(42.8%)64,524(46.9%)3,953(2.9%)10,173(7.4%)137,609令和6年56,385(40.5%)67,205(48.2%)3,978(2.9%)11,802(8.5%)139,370
2 令和6年の代理の状況
(1) 9割を超える事件で少なくとも一方に弁護士が付いている

令和6年の地裁の既済事件139,370件のうち,双方に弁護士が付いた事件は56,385件(40.5%),原告側だけに付いた事件は67,205件(48.2%),被告側だけに付いた事件は3,978件(2.9%)であった。
どちらにも弁護士が付いていない事件は11,802件(8.5%)であり,少なくとも一方に弁護士が付いた事件は91.5%になる。
少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合は,令和元年から令和6年まで毎年91%から93%の間にある。

(2) 双方本人の減少

双方本人の割合は,平成21年の25.3%(54,370件)が最も高く,令和元年に8.5%(11,193件)へ下がった後は,7%から9%の間で推移している。
平成21年前後は過払金返還請求訴訟の多かった時期であり,資料1-2は,その多くが含まれる事件類型を「金銭のその他」と説明している。

(3) 双方代理の割合の低下

双方代理の割合は,令和3年の48.5%から令和6年の40.5%へ下がり,代わりに原告だけに弁護士が付いた事件の割合が41.2%から48.2%へ上がっている。

(続きを読む...)民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)(AI作成)

強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 民法148条の構造1 条文2 改正前民法との対応3 財産開示手続と第三者からの情報取得手続第3 債権執行の差押えと債務者の了知(最高裁令和元年9月19日判決)1 事案2 判示3 現行法での読み方第4 物上保証人に対する競売と債務者への通知(民法154条)1 競売開始決定正本の送達が通知に当たる(最高裁昭和50年11月21日判決)2 効力が生ずる時点(最高裁平成8年7月12日判決・平成7年9月5日判決)3 連帯保証人の債務の物上保証人に対する競売(最高裁平成8年9月27日判決)第5 申立ての取下げ1 改正前民法の下での判例(最高裁平成11年9月9日判決)2 一部の満足を得た後の取下げ(最高裁平成30年12月18日決定)3 現行法の下での取下げ第6 配当要求と時効(最高裁令和2年9月18日判決)1 事案と判示2 実務上の意味第7 時効管理の実務上の注意1 判決確定後の時効期間2 日付による例3 確認事項第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,強制執行,担保権の実行,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続によって消滅時効の完成が猶予され,又は更新される仕組み(民法148条)と,物上保証人に対する担保権の実行の場合の通知(民法154条)を,裁判所ウェブサイトで全文を確認できた最高裁判例に沿って整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行条文によっている。

判決を得た後の回収の場面を主に想定している。
訴えの提起による完成猶予・更新は「訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更」,仮差押え・仮処分(民法149条)は「仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効」で扱う。
消滅時効全体の見取り図は「消滅時効に関するメモ書き」にある。

2 結論

強制執行・担保権の実行・財産開示手続・第三者からの情報取得手続を申し立てると,手続が終わるまでは時効が完成せず(完成猶予),手続が終わった時から時効が新たに進行を始める(更新)。
財産開示手続や第三者からの情報取得手続は,財産を差し押さえる手続ではないが,これらも完成猶予・更新の事由として条文に明記されている(民法148条1項4号)。

ただし,申立てを取り下げ,又は法律の規定に従わないことにより取り消されて手続が終わったときは,更新の効果は生じず,終了の時から6か月の完成猶予が残るだけである(民法148条1項括弧書・2項ただし書)。
改正前民法の下では,申立てを取り下げると(少なくとも請求債権の満足を得ないまま取り下げた場合には),時効中断の効力は初めから生じなかったことになるとされていた(改正前民法154条,最高裁平成11年9月9日判決)。

債権執行の差押えによって請求債権の時効が中断するためには,債務者が差押えを知り得る状態に置かれている必要はない(最高裁令和元年9月19日判決)。
これに対し,物上保証人の不動産に対する競売のように,時効の利益を受ける債務者以外の者に対して手続がされたときは,債務者に通知をした後でなければ完成猶予・更新の効力は生じない(民法154条)。
判例上,この通知は競売開始決定正本の債務者への送達で足り,その効力は送達の時(付郵便送達のときは到達の時)に生ずる。

マンションの管理組合が区分所有法の先取特権に基づいて配当要求をした場合,法定文書で先取特権が証明されれば,差押えに準ずるものとして時効中断の効力が生じ,債務者が配当異議を出さずに配当が実施されることまでは要しない(最高裁令和2年9月18日判決)。

第2 民法148条の構造
1 条文

民法148条1項は,「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。」と定める。
掲げられた事由は,①強制執行,②担保権の実行,③民事執行法195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売,④民事執行法196条に規定する財産開示手続又は同法204条に規定する第三者からの情報取得手続である。

同条2項は,「前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。」と定める。
すなわち,これらの手続は,係属中は完成猶予の効果を持ち,取下げ・取消し以外の事由で終了したときに更新の効果を持つ。
訴えの提起(民法147条)と違い,権利が判決等で確定することは更新の要件とされていない。

2 改正前民法との対応

改正前民法は,「差押え、仮差押え又は仮処分」を時効の中断事由とし(改正前民法147条2号),「差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。」と定めていた(改正前民法154条)。
現行法は,差押え等を完成猶予と更新に分けた上,財産開示手続と第三者からの情報取得手続を明文で掲げ,取下げ・取消しの場合にも終了の時から6か月の完成猶予を認めた。
仮差押え・仮処分は,現行法では完成猶予だけの事由とされた(民法149条)。

施行日(令和2年4月1日)前に改正前民法147条の中断事由が生じた場合,その効力はなお従前の例による(平成29年法律第44号附則10条2項)。
以下で紹介する判例は,いずれも改正前民法の下での時効中断について判断したものである。

(続きを読む...)強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求(AI作成)

訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 訴えの提起による完成猶予と更新(民法147条)1 条文の構造2 完成猶予が始まる時点3 改正前民法との対応第3 明示的一部請求と残部の時効1 最高裁昭和34年2月20日判決(先例)2 最高裁昭和43年6月27日判決(踏襲)3 一部であることを明示していない場合(最高裁昭和45年7月24日判決)4 残部についての裁判上の催告(最高裁平成25年6月6日判決)5 現行法の下での考え方第4 訴えの取下げと却下1 現行法の規律2 最高裁昭和50年11月28日判決(取下げ後も効力が存続する場合)第5 訴えの変更・別の請求権と裁判上の請求1 不法行為から不当利得への変更(最高裁平成10年12月17日判決)2 手形金請求と原因債権(最高裁昭和62年10月16日判決)3 被告として権利を主張する場合(最高裁昭和38年10月30日大法廷判決)第6 支払督促・和解・調停・倒産手続参加1 支払督促2 訴え提起前の和解と調停3 破産手続参加等第7 時効管理の実務上の注意1 提訴前に確認すること2 訴訟係属中に確認すること3 判決確定後第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,訴えの提起その他の裁判上の請求等(民法147条)によって消滅時効の完成が猶予され,又は更新される仕組みを,裁判所ウェブサイトで全文を確認できた最高裁判例に沿って整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行条文によっている。

扱うのは,①訴えの提起による完成猶予と更新の基本構造,②債権の一部だけを請求した場合(一部請求)の残部の時効,③訴えの取下げ,④訴えの変更・請求の追加,⑤支払督促・和解・調停等である。
催告(民法150条)と協議を行う旨の合意(民法151条)の詳細は「内容証明による催告と協議を行う旨の合意―6か月の完成猶予,再度の催告及び民法151条の使い方」,強制執行等による完成猶予・更新は「強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求」で扱う。
消滅時効全体の見取り図は「消滅時効に関するメモ書き」にある。

2 結論

訴えを提起すると,訴訟が続いている間は時効が完成せず(完成猶予),判決等で権利が確定すると,訴訟が終わった時から時効が新たに進行を始める(更新)。
権利が確定しないまま訴えを取り下げ,又は訴えが却下されたときでも,その時から6か月を経過するまでは時効が完成しない(民法147条1項括弧書)。

債権の一部だけを,一部であることを明示して請求した場合,裁判上の請求としての効力はその一部についてだけ生じ,残部には及ばない(最高裁昭和34年2月20日判決。最高裁昭和43年6月27日判決もこれを踏襲した)。
一部であることを明示していなければ,債権の同一性の範囲内で全部に効力が及ぶ(最高裁昭和45年7月24日判決)。
明示的一部請求の訴えは,特段の事情のない限り,残部について「裁判上の催告」としての効力を持つが,時効期間が経過した後の再度の催告にすぎない場合には時効の完成を妨げない(最高裁平成25年6月6日判決)。

したがって,残部を請求する可能性があるなら,時効期間が満了する前に請求を拡張するか,残部について別に訴えを提起しておくことが最も確実である。
施行日(令和2年4月1日)前に生じた時効の中断事由の効力は,なお改正前民法による(平成29年法律第44号附則10条2項)。

第2 訴えの提起による完成猶予と更新(民法147条)
1 条文の構造

民法147条1項は,「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。」と定める。
掲げられた事由は,①裁判上の請求,②支払督促,③民事訴訟法275条1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停,④破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加の4つである。

同条2項は,「前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。」と定める。
すなわち,裁判上の請求等は,手続の係属中は完成猶予の効果を持ち,権利が確定すれば更新の効果を持つ。
確定判決等によって確定した権利の時効期間は,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても10年となる(民法169条1項)。
この点は「判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違い」で扱う。

2 完成猶予が始まる時点

民事訴訟法147条は,「訴えが提起されたとき、又は第百四十三条第二項(第百四十四条第三項及び第百四十五条第四項において準用する場合を含む。)の書面が裁判所に提出されたときは、その時に時効の完成猶予又は法律上の期間の遵守のために必要な裁判上の請求があったものとする。」と定める。
訴状が被告に送達された時ではなく,訴えを提起した時が基準である。
訴訟の途中で請求を拡張し,又は新たな請求を追加する場合は,訴えの変更の書面(民事訴訟法143条2項)を裁判所に提出した時が基準となる。

3 改正前民法との対応

改正前民法は,「請求」を時効の中断事由とし(改正前民法147条1号),「裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。」と定めていた(改正前民法149条)。

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判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違い(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 民法169条の内容1 条文2 趣旨3 起算点と計算例4 10年に延びない場合第3 改正前民法169条・174条の2との関係1 改正前民法174条の22 改正前民法169条(定期給付債権)3 経過措置第4 「確定判決と同一の効力を有するもの」1 主なもの2 公正証書(執行証書)は含まれない3 裁判外の合意は含まれない第5 民法169条の適用範囲1 確定の時に弁済期が到来していない債権2 保証人・原因債権への影響第6 判決確定から10年が近づいたときの対応1 債権者側の手段2 債務者側の対応第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,判決や裁判上の和解等によって確定した債権の消滅時効が何年になるかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行条文と,平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)の条文で確認し,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。
消滅時効全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きにまとめている。

2 結論

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利は,本来の時効期間が10年より短くても,確定の時から10年で時効にかかる(民法169条1項,147条2項)。
例えば,5年で時効になる売買代金債権でも,判決が確定すれば,確定の日の翌日から10年間は時効が完成しない。

「確定判決と同一の効力を有するもの」には,裁判上の和解・請求の認諾の調書,民事調停・家事調停の調書,督促異議のなかった仮執行宣言付支払督促,確定した破産債権についての破産債権者表の記載等が含まれる。
これに対し,強制執行認諾文言付きの公正証書(執行証書)は,強制執行はできるが確定判決と同一の効力を有するものではないから,民法169条による10年への延長はない。

確定の時に弁済期が到来していない債権(和解で定めた将来の分割金等)には,民法169条1項は適用されない(同条2項)。
主たる債務について判決が確定して時効期間が10年に延びると,保証人の債務の時効期間も10年になるとするのが改正前民法の下での判例である。

条番号には注意を要する。
改正前民法169条は,年又はこれより短い時期によって定めた給付を目的とする債権(定期給付債権)の5年の短期消滅時効の規定であり,現行民法169条とは内容がまったく異なる。
現行民法169条に当たる規定は,改正前は民法174条の2に置かれていた。

第2 民法169条の内容
1 条文

民法169条1項は,「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。」と定める。
同条2項は,「前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。」と定める。

同条は,時効期間を10年に延ばす規定であるが,時効が新たに進行を始めること自体は,民法147条2項による。
民法147条1項は,裁判上の請求,支払督促,裁判上の和解・調停,破産手続参加等の事由がある場合,その事由が終了するまで時効は完成しないとし,同条2項は,「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。」と定める。
つまり,訴えの提起によって時効の完成が猶予され(完成猶予),判決の確定によって時効が新たに進行を始め(更新),その新たな時効期間が民法169条によって10年となる。

2 趣旨

確定判決等によって権利の存在が公的に確認された後も,本来の短い時効期間(例えば5年)がそのまま適用されると,債権者は短期間のうちに再び時効の完成を防ぐ手段を講じなければならなくなる。
民法169条は,権利の存在が確定した以上,証拠の散逸を理由とする短期の時効を維持する必要は乏しいという考え方に基づき,時効期間を一律に10年としたものと考えられる。
後記第5の2の最高裁昭和53年判決も,時効期間が延長されたのに原因債権の時効完成によって債務名義の執行力が排除されることがあっては「手形債権者の通常の期待に著しく反する結果となる」と述べており,判決等による確定後の権利行使への期待を保護する趣旨がうかがわれる。

3 起算点と計算例

判決確定後の10年は,判決が確定した日の翌日から起算する。
最高裁判所第二小法廷昭和46年7月23日判決(昭和45年(オ)第622号,集民103号457頁)は,求償金請求訴訟の勝訴判決が昭和36年9月5日の経過とともに確定した事案について,求償金債権は「判決確定の日の翌日である昭和三六年九月六日から、さらに一〇年の時効期間に服することになつた」と述べている。

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売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるか―民事訴訟法5条1号の義務履行地と振込払いの裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の結論と対象1 結論2 本記事の対象と基準日第2 義務履行地の裁判籍の仕組み1 民事訴訟法4条及び5条1号2 売買代金債務の履行場所3 持参債務の原則と義務履行地の裁判籍第3 振込みによる支払と義務履行地に関する裁判例1 東京高裁昭和53年4月21日決定(売掛代金)2 大阪高裁平成10年4月30日決定(賃金の口座振込)3 松山地裁宇和島支部昭和60年8月8日決定(送金債務)4 金融機関の支店の所在地が義務履行地とされた例第4 振込先の支店の所在地を義務履行地と主張できる場合1 弁済場所についての明示の合意がある場合2 「振り込んで支払う」とだけ定める条項3 約款で支払場所を定める条項の限界第5 実務上の対応1 売主が訴えを提起する場合2 買主が訴えられた場合3 契約書を作成する段階第6 出典1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の結論と対象
1 結論

売買代金を売主の指定する預金口座へ振り込んで支払う約束があるだけでは,その口座を管理する金融機関の支店の所在地は,民事訴訟法5条1号の義務履行地にはならないと考えられる。
大阪高裁平成10年4月30日決定は,銀行振込を義務履行のための一つの方法にすぎないとし,東京高裁昭和53年4月21日決定は,売掛代金が売主本店の口座への振込みで支払われていたことから支払場所を本店とする暗黙の合意の成立を推認することは困難であるとしており,いずれもこの考え方に沿うものである。

売買代金債務の履行場所は,弁済場所についての別段の意思表示がない限り,民法484条1項により債権者の現在の住所となり,商行為によって生じた債務であれば商法516条により債権者の現在の営業所となる。
したがって,売主は,自らの住所又は営業所の所在地を義務履行地として民事訴訟法5条1号の管轄を主張するのが通常であり,これとは別に振込先の支店の所在地を管轄の根拠とする意味は乏しい。

振込先の支店の所在地が義務履行地となり得るのは,その支店を弁済場所とする明示の合意がある場合など,当事者の意思表示によって弁済場所が特定されている場合に限られると考えられる。
もっとも,売買代金の事案で振込先の支店の所在地を義務履行地と認めた裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらなかった。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,令和8年9月18日現在の法令並びに本記事で確認した裁判例及び文献に基づき,国内の売買代金(売掛金)請求訴訟の土地管轄を対象とする。
国際裁判管轄,手形又は小切手による金銭の支払の請求(民事訴訟法5条2号),消費者契約に特有の問題及び個別の契約条項の有効性の判断は,本記事の対象外とする。

本記事で取り上げる裁判例には,賃金,保険金,銀行取引等,売買代金以外の債務に関するものが含まれる。
これらは義務履行地の考え方を示すものとして参照するものであり,売買代金の事案にそのまま当てはまるとは限らない。

第2 義務履行地の裁判籍の仕組み
1 民事訴訟法4条及び5条1号

民事訴訟法4条1項は,訴えは被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属すると定め,同条4項は,法人の普通裁判籍は主たる事務所又は営業所により定まるとしている。
これに対し,同法5条柱書き及び1号は,財産権上の訴えについて,義務履行地を管轄する裁判所にも訴えを提起することができると定めている。

売買代金の支払を求める訴えは財産権上の訴えであるから,買主の普通裁判籍の所在地のほか,代金支払債務の義務履行地にも管轄が生じる。
そのため,代金支払債務の義務履行地がどこかが,売主がどこの裁判所に訴えを提起できるかを左右する。

2 売買代金債務の履行場所
(1) 民法484条1項

民法484条1項は,「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」と定めている。
金銭債務である売買代金債務は「その他の弁済」に当たるから,別段の意思表示がなければ,売主の現在の住所が履行場所となり,これを持参債務の原則という(我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権―〔第6版〕』(日本評論社,2019年)968頁)。

同書は,別段の意思表示がない場合にも,債権発生行為の性質上弁済地が特定される場合には,民法484条の適用はないと説明している(同書969頁)。

(2) 商法516条

商法516条は,商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質又は当事者の意思表示によって定まらないときは,特定物の引渡し以外の債務の履行は「債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)」においてしなければならないと定めている。
事業者間の売掛金は通常これに当たるから,売主の現在の営業所が履行場所となる。

(3) 民法574条

民法574条は,売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならないと定めている。

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民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法―弁護士会照会・調査嘱託・文書送付嘱託・文書提出命令の使い分け(AI作成)

目次第1 証拠収集手段を選ぶ前に整理する事項1 本記事の対象2 立証命題から逆算する3 事実の回答と既存資料の送付を区別する第2 本人による取得と任意の開示請求1 取得できることと取得してよいことを分ける2 本人取得と任意請求を具体化する第3 弁護士会照会1 制度の仕組み2 回答が保証される制度ではない第4 提訴前照会と提訴前の証拠収集処分1 提訴前照会2 提訴前の証拠収集処分第5 当事者照会第6 調査嘱託第7 文書送付嘱託第8 文書提出命令1 申立てに必要な事項2 提出義務と除外文書3 命令に従わない場合第9 各制度の比較第10 電磁的記録,個人情報及び秘密への対応1 電磁的記録2 個人情報を含むことだけで取得できなくなるわけではない3 法律相談通信と既存資料を混同しない第11 よくある失敗と申立て前の確認事項1 よくある失敗2 申立て前の確認事項第12 証拠収集法制の見直しとの関係第13 一次資料と裁判例の確認範囲第14 出典1 法令・裁判例2 法改正関係資料
第1 証拠収集手段を選ぶ前に整理する事項
1 本記事の対象

民事事件で必要な資料が相手方や第三者の手元にある場合,利用できる制度は一つではない。
弁護士会照会,提訴前照会,提訴前の証拠収集処分,当事者照会,調査嘱託,文書送付嘱託及び文書提出命令は,対象,利用できる時期,求める内容,強制力及び不回答時の効果が異なる。

本記事は,これらの制度を現行の民事訴訟法及び弁護士法に沿って比較し,制度を選ぶ前に整理すべき事項をまとめるものである。
条文は令和8年9月17日時点のe-Gov法令検索で確認した。
申立てさえすれば裁判所や弁護士会が必要な証拠を網羅的に探してくれる制度はないから,最初に「何を証明するため,誰が,どの資料又は情報を持っているか」を具体化し,本人による取得や任意交渉で足りるかを確認した上で,目的に合う制度を選ぶ必要がある。

2 立証命題から逆算する

最初に決めるべきなのは制度名ではなく,証明したい事実である。
例えば「取引の経過」を証明する場合でも,契約書,注文履歴,入出金記録,電子メール,アクセスログ等では,保有者,保存期間及び適切な取得手段が異なる。

資料候補ごとに,少なくとも次の事項を整理する。
① 証明すべき事実
② 資料又は情報の名称,内容及び対象期間
③ 作成者,保有者,担当部署及び保存システム
④ 契約番号,口座,端末,日時等の識別情報
⑤ 本人が取得できるか,既に取得を試みたか
⑥ 保存期間,上書き又は消去の可能性
⑦ 第三者の個人情報,営業秘密その他の秘密を含むか

3 事実の回答と既存資料の送付を区別する

「特定日の登録住所を回答してほしい」という要求と,「特定期間の取引明細を送ってほしい」という要求は性質が違う。
前者は一定事項の報告を求める照会又は調査嘱託に適し,後者は既存文書の送付嘱託又は提出命令が問題になりやすい。
新しい意見書や調査報告書を作らせることと,既に存在する資料を送らせることも分けて検討する。

第2 本人による取得と任意の開示請求
1 取得できることと取得してよいことを分ける

資料を物理的・技術的に開けることと,その資料を取得・閲覧・複製してよい権限があることは別である。本人取得を選ぶ前に,端末・アカウント・媒体の名義及び管理者,ロック又はパスワードの有無,同意の有無と範囲,業務用か私用か,第三者の秘密を含むかを確認する。

対象を期間・相手・ファイル名等で絞り,取得前の状態,日時,取得者及び取得方法を記録する。電子データは原本を上書きせず,必要に応じて複製のハッシュ値を保存する。第三者の医療・家族・営業情報を含む場合や,退職者の会社端末,死亡者のロック端末,共有アカウント等は,裁判上の必要性だけで正当化できるとは限らないため,任意開示,照会,嘱託又は提出命令という代替手段も比較する。

取得方法に問題がある資料については,証拠能力・証明力の問題と,取得者の民事・刑事・懲戒上の責任を分けて検討する。日本の民事訴訟で違法収集証拠が常に一律排除されるとの明文規定はないが,具体的な許容限界は事案依存である。判例秘書を含む関連裁判例の網羅検索は本記事の今回の追記では実施していないため,個別事件では取得前に追加調査を行う。

2 本人取得と任意請求を具体化する

本人が法令,契約又は事業者の開示手続によって取得できる資料については,まずその方法を検討する。

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ウェブ会議による民事裁判期日を録音・録画・撮影できるか―民事訴訟規則77条と弁護士の確認事項(AI作成)

目次
第1 結論
第2 令和8年5月21日施行の民事訴訟規則77条
第3 ウェブ会議にも許可が必要となる理由
第4 裁判所が作成する録音・録画との違い
第5 刑事事件及び庁舎内撮影との区別
第6 弁護士の実務チェックリスト
第7 一次資料及び関連記事

第1 結論
1 本記事が扱うのは,当事者又は代理人が,ウェブ会議その他の民事裁判期日を私物端末等で録音,録画又は画面撮影する場面です。報道機関による法廷内カメラ取材は,「法廷内写真撮影」及び「最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領」で扱います。
2 現行の民事訴訟規則77条は,民事訴訟に関する手続の期日における写真撮影,速記,録音,録画又は放送について,裁判長,受命裁判官又は受託裁判官の許可を必要としています。
3 規制対象は従前の「法廷」に限られません。ウェブ会議で参加する弁論準備手続その他の期日でも,無断の録音,録画又はスクリーンショットをしてよいことにはなりません。
4 当事者双方が同意していること,端末に録画機能があること又は自分の発言だけを記録する目的であることは,裁判長等の許可に代わるものではありません。必要がある場合は,目的,方法,保存期間及び利用範囲を示して事前に許可を求めるべきです。

第2 令和8年5月21日施行の民事訴訟規則77条
1 裁判所が公表する現行民事訴訟規則77条は,対象を「民事訴訟に関する手続の期日」と定め,写真撮影,速記,録音,録画又は放送について許可を要求しています。
2 同条後段は,期日外の審尋及び民事訴訟法176条2項に基づく書面による準備手続の協議についても同じ扱いとしています。
3 令和8年5月21日より前の条文は「法廷における」撮影等を対象としていました。古い条文を現在のウェブ会議にそのまま当てはめると,適用範囲を誤るおそれがあります。

第3 ウェブ会議にも許可が必要となる理由
1 民事規則制定諮問委員会資料は,ウェブ会議等の利用場面が拡大する一方で,旧条文では裁判所が行う弁論準備手続期日や書面による準備手続の協議に一律の規律が及ばないという問題を説明しています。
2 画面撮影又は録画には,裁判官,裁判所職員,当事者,代理人,証人,通訳人,資料及び画面通知などが記録される可能性があります。情報漏えいだけでなく,発言萎縮,手続運営及び証人隔離への影響も生じ得ます。
3 規則77条は許可制であり,条文上「常に不許可」とされているわけではありません。ただし,許可の有無及び条件は個別の手続で確認する必要があります。

第4 裁判所が作成する録音・録画との違い
1 民事訴訟規則76条は,裁判所が必要と認めるときに,申立て又は職権で口頭弁論の陳述を録音装置により録取できることを定めています。
2 簡易裁判所では,所定の場合に裁判所書記官が証人等の陳述又は検証結果を録音・録画した電磁的記録を作成する制度もあります。
3 これらは裁判所が訴訟記録又は当事者の裁判上の利用のために作成する公式記録の制度です。当事者又は代理人が私物端末で記録することとは,根拠,管理主体,利用目的及び開示範囲が異なります。

(続きを読む...)ウェブ会議による民事裁判期日を録音・録画・撮影できるか―民事訴訟規則77条と弁護士の確認事項(AI作成)

仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押えと差押えの比較表第3 仮差押えの効力―処分禁止1 不動産の仮差押え2 債権の仮差押え第4 仮差押えではできないこと1 換価・取立て・転付による満足はできない2 優先弁済権はない第5 本執行への移行1 移行の要件と手続2 最高裁平成28年12月1日判決(法定地上権)第6 時効への効果1 現行民法では完成猶予にとどまる2 「その事由が終了した時」はいつか3 令和2年4月1日より前の仮差押え4 仮差押えの対象となった債権自体の時効第7 破産手続開始による失効と再生・更生手続での中止1 破産法42条1項・2項2 債権者から見た意味3 民事再生・会社更生との比較第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権の強制執行を保全するための仮差押え(民事保全法20条1項)と,債務名義に基づく強制執行としての差押え(本執行)との違いを,効力の面から整理するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により確認した。

仮差押えの要件,申立ての流れ,担保の額,解放金,債務者の対抗手段等の各論は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像及び同記事からリンクする各記事で扱う。
係争物に関する仮処分,仮の地位を定める仮処分,国税滞納処分,個人再生及び特別清算の各手続における扱いは,本記事の対象外である。
民事再生と会社更生は,破産との違いが分かる範囲で条文の骨格だけを紹介する。

2 結論

①仮差押えも差押えも,債務者による目的財産の処分を制限する点では共通するが,仮差押えは将来の強制執行に備えて財産を確保する手続にすぎず,それだけで債権を回収することはできない。
②仮差押えは債務名義なしに,被保全権利と保全の必要性を疎明して発令を受けるものであり(民事保全法13条2項),通常は担保を立てる必要がある(同法14条1項)。
これに対し,差押えは,確定判決等の債務名義に基づいて行う(民事執行法22条)。

③仮差押えの処分禁止の効力は,処分を絶対的に無効とするものではなく,処分をしても仮差押債権者に対抗できないという相対的なものである(最高裁判所第三小法廷令和3年1月12日判決の理由中の判示参照)。
④仮差押債権者は,取立て,転付命令,換価による満足を得ることができず,担保権者のような優先弁済権もない。
配当等に加わる場合も,仮差押債権者に対する配当等の額は供託される(民事執行法91条1項2号)。
回収するには,本案訴訟等で債務名義を得た上で,改めて本執行を申し立てる必要がある。

⑤時効について,現行民法では,仮差押えは時効の完成猶予事由にとどまり,その事由が終了した時から6か月を経過するまで時効が完成しないだけである(民法149条1号)。
時効の更新を得るには,本案訴訟を提起して確定判決等により権利を確定させる等の手続が別に必要である(民法147条)。
令和2年4月1日より前に仮差押えがされた場合は,改正前の「時効の中断」の規定による(平成29年法律第44号附則10条2項)。
「その事由が終了した時」がいつかについて,改正後の民法の下で判断した最高裁判例は見当たらない。
完成猶予の効力が及ぶのは被保全債権とされた範囲であり,仮差押えの対象となった債権(被仮差押債権)自体の時効を止めるものではない。

⑥債務者について破産手続開始の決定があると,破産財団に属する財産に対して既にされている破産債権に基づく仮差押えは,破産財団に対してその効力を失う(破産法42条2項)。
強制執行(差押え)も同様に失効するが,破産管財人が強制執行の手続を続行することは妨げられないのに対し,仮差押えにはこの続行の定めがない。
これに対し,再生手続開始の決定や更生手続開始の決定があった場合,既にされている仮差押えは直ちに失効するのではなく中止し,再生計画認可の決定の確定又は更生計画認可の決定があったときに効力を失う(民事再生法39条1項・184条,会社更生法50条1項・208条)。

第2 仮差押えと差押えの比較表

次の表は,本記事で確認した条文と教材の記載に基づき,両者の違いを要約したものである。

項目仮差押え差押え(本執行)目的将来の金銭債権の強制執行の保全金銭債権の強制的な実現債務名義不要(被保全権利と保全の必要性を疎明する)必要(執行文の付された債務名義の正本等に基づく)担保通常は立てる必要がある保全命令の担保のような担保はない(仮執行宣言が担保を条件とする場合はある)処分の制限あり(手続相対効)あり債権の場合の効力発生仮差押命令が第三債務者に送達された時差押命令が第三債務者に送達された時換価・取立て・転付できないできる優先弁済なし(配当等の額は供託される)担保権者のような優先弁済権はないが,取立て・配当等により満足を得られる時効完成猶予(事由終了から6か月)完成猶予,手続終了時に更新(取下げ等による終了を除く)破産手続開始破産財団に対して失効破産財団に対して失効(破産管財人は続行できる)再生手続・更生手続開始中止(計画認可で失効)中止(計画認可で失効)主な条文民事保全法13条・14条・20条・47条・50条,民法149条,破産法42条,民事再生法39条,会社更生法50条民事執行法22条・25条・45条・145条・155条・159条,民法148条,破産法42条

表の「差押え(本執行)」欄は,不動産の強制競売と債権執行を念頭に置いたものである。
担保の欄の仮執行宣言については,民事訴訟法259条1項が,裁判所は「担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる」と定めている。

第3 仮差押えの効力―処分禁止

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仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押解放金の意味と根拠1 民事保全法22条2 供託できるもの,供託所及び供託する者3 担保との違い第3 解放金の額の決まり方1 基本的な考え方2 目的物の種類ごとの基準3 解放金の額に不服がある債務者第4 債務者が解放金を供託した場合の効果1 仮差押えの執行の取消し(民事保全法51条)2 目的物ごとの執行の解放3 供託後も仮差押えの効力が残ること第5 債権者の回収方法1 本案で勝訴してから供託金取戻請求権を差し押さえる2 差押えが競合しない場合3 差押えが競合した場合4 債権者の立場からみた解放金の意味第6 みなし解放金(民事保全法50条3項)1 第三債務者が供託した場合2 債務者がみなし解放金を取り戻す手続第7 債務者が解放金を取り戻す方法1 取戻事由2 手続の流れ3 取戻事由を作る方法第8 解放金の供託と他の対抗手段の使い分け1 解放金の供託と保全異議・保全取消し2 担保の取戻しとの区別3 仮処分解放金は別の制度第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令に定められる仮差押解放金(民事保全法22条)について,金額の決まり方,債務者が供託したときの効果,債権者が最終的に回収する方法及び債務者が供託金を取り戻す方法を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文(民事保全法は令和8年5月21日施行の改正を反映したもの)で確認し,裁判例は裁判所HPで確認したものを挙げ,裁判所HPで確認できなかったものは文献が引用するものとして示している。

主な文献は,岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年。以下「岡口マニュアル」という。)86頁~89頁と,司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)である。
いずれもその後の法改正(民法(債権関係)改正(令和2年4月1日施行),令和元年の民事執行法改正等)との時点差があるので,条番号は現行条文で書いている。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

仮処分命令で定められる仮処分解放金(民事保全法25条)は,要件も還付の仕組みも異なるので,本記事の対象外とする。

2 結論

①仮差押解放金とは,債務者が仮差押えの執行の停止又は既にした執行の取消しを得るために供託すべき金銭の額であり,仮差押命令で必ず定められる(民事保全法22条1項)。
②供託できるのは金銭に限られ,有価証券や支払保証委託契約(いわゆるボンド)によることはできず,管外供託も認められない(教材36頁,岡口マニュアル88頁)。
第三者による供託も,東京地方裁判所民事第9部の案内では認められていない。
③金額は,解放金が目的物に代わるものであることから,原則として目的物の価額を基準とし,目的物の価額が被保全債権の額を上回るときは被保全権利の額を基準とする(岡口マニュアル86頁~87頁,教材36頁)。
債権の仮差押えは仮差押債権額,目的物を特定しない動産の仮差押えは被保全債権の額,不動産の仮差押えは目的物の価額(基本的に固定資産評価額)と被保全権利の額のいずれか低い方が基準とされる(岡口マニュアル87頁)。
④債務者は,供託書正本及びその写しを添付して保全執行裁判所に執行取消しを申し立て,保全執行裁判所は仮差押えの執行を取り消さなければならない(民事保全法51条1項)。
取消決定は即時に効力を生じ,取り消されるのは執行であって仮差押命令そのものは残る。
⑤執行が取り消されても,仮差押えの執行保全の効力は債務者の供託金取戻請求権の上に存続する(最高裁判所第三小法廷平成6年6月21日判決)。
債権者は,本案で勝訴した後,この取戻請求権を差し押さえ,取立て又は転付命令により供託所から払渡しを受け,他の差押えと競合したときは配当等を受ける。
⑥債権の仮差押えで第三債務者が債権額相当額を供託したときは,解放金の額の限度で,債務者が解放金を供託したものとみなされる(民事保全法50条3項。みなし解放金)。
⑦債務者が供託した解放金を取り戻すには,仮差押命令の申立ての取下げ又は仮差押命令を取り消す決定が必要であり,東京地方裁判所民事第9部の案内では,発令裁判所に取戻許可申立書を出す手続とされている。

第2 仮差押解放金の意味と根拠
1 民事保全法22条

民事保全法22条1項は,「仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。」と定めている。
「定めなければならない」とされているから,解放金の額は仮差押命令の必要的記載事項であり,裁判所は職権で定める(岡口マニュアル86頁)。
教材35頁~36頁によれば主文中に記載される。

仮差押えは,本案で勝訴したときの強制執行に備えて,債務者の特定の財産の処分を暫定的に禁止する制度である。
債務者からみると,不動産の売却や預金の払戻しが止まることの不利益が大きい場合がある。
解放金は,債務者が目的物に代わる金銭を供託することで,目的物を仮差押えから解放する仕組みである。

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大阪地裁で仮差押命令を得るまでの流れ―申立て,債権者面接,担保提供及び午後4時の発令(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 申立ての準備1 管轄2 申立書,疎明資料及び目録3 申立ての費用4 電子申立てはできるか第3 申立てから担保決定まで1 申立ての受付2 債権者面接3 担保決定第4 担保の提供と発令1 担保の提供方法2 証明書の提出3 午後4時までの提出と発令第5 発令後の仮差押えの執行1 執行の申立ては原則として不要2 不動産の仮差押え3 債権の仮差押え4 保全執行期間は2週間第6 発令に至らなかった場合と担保の取戻し1 却下と即時抗告2 申立ての取下げ3 担保の取戻し第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権を保全するために大阪地方裁判所に仮差押命令を申し立て,仮差押命令の発令を受け,不動産の仮差押えの登記又は第三債務者への送達によって仮差押えの執行がされるまでの流れを説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。

大阪地方裁判所の運用として書く事項は,同日に確認した大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の裁判所ウェブサイト上の案内に記載があるものに限っている。
案内に記載のない面接の時間帯や,申立てから発令までの日数の目安は,本記事では取り上げない。
運用は変更されることがあるから,実際に申し立てる際は,最新の案内を確認し,不明な点は担当書記官に問い合わせる必要がある。

仮差押えの要件,効力及び債務者側の手続を含む全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

2 結論

大阪地方裁判所で仮差押命令(不動産又は債権の仮差押え)を得るまでの流れは,おおむね次のとおりである。

段階内容根拠①管轄の確認本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる民事保全法12条②申立て申立書に疎明資料及び添付資料を添えて第1民事部の受付窓口(本館3階)へ持参する民事保全法13条,大阪地裁の案内③債権者面接原則として全件で実施され,申立ての翌日に行われることが多い(代理人弁護士の申立事件はウェブ会議も可)大阪地裁の案内④担保決定担保提供の期間は原則として7日民事保全法14条1項,大阪地裁の案内⑤担保の提供法務局への現金供託又は許可を得た上での支払保証委託契約の締結民事保全法4条1項,民事保全規則2条,大阪地裁の案内⑥証明書の提出午後4時までに提出すれば原則として同日中に発令大阪地裁の案内⑦保全執行不動産は裁判所書記官が仮差押えの登記を嘱託し,債権は第三債務者に仮差押命令を送達する民事保全法47条3項,50条1項⑧執行期間債権者に保全命令が送達された日から2週間民事保全法43条2項

実務上特に注意すべき点は,次のとおりである。
①債権者面接は申立ての翌日に行われることが多く,差支え日時は受付の場で聞かれるから,申立日後2,3日分の予定を把握しておく必要がある。
②担保提供期間内に担保提供の証明書を提出しないと,申立ては却下される。
③証明書の提出が午後4時を過ぎると,発令は翌日以降になる。
④供託金を電子納付する場合は,供託所で入金が確認されてから供託書正本が交付されるので,その時間を見込んでおく必要がある。
⑤東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,保全事件の申立ては令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外とされており,大阪地方裁判所第1民事部の案内も申立書を受付窓口に持参するよう求めている。

第2 申立ての準備
1 管轄
(1) 民事保全法の定め

民事保全法12条1項は,「保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。」と定める。
本案の管轄裁判所は第一審裁判所であり,本案が控訴審に係属するときは控訴裁判所である(同条3項)。
仮に差し押さえるべき物が債権であるときは,その債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(同条4項)。

(2) 大阪地方裁判所の管轄チェックチャート

大阪地方裁判所第1民事部の案内は,大阪地方裁判所に管轄がないのに申立てをする例が比較的多く見られるとして,管轄の有無を十分に検討してから申し立てるよう求めている。
同部が公表している「管轄チェックチャート(仮差押え)」は,大阪市,豊中市,吹田市,高槻市,枚方市,東大阪市等の地域を大阪地方裁判所本庁の管轄区域とし,堺市等は堺支部,岸和田市等は岸和田支部に申し立てるべき事件としている。
同チャートでは,すべての対象不動産等の所在地又は第三債務者の住所地が本庁の管轄区域内にあれば,本庁に管轄があるとされている。
これに対し,債務者の住所地や義務履行地等の本案の管轄を根拠とする場合は,請求債権額が140万円を超えていなければ,管轄する簡易裁判所へ申し立てる流れになっている。
売掛金を被保全権利とする場合に,振込先口座がある銀行支店の所在地が義務履行地として本案の管轄の根拠となるかについては,売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるか―民事訴訟法5条1号の義務履行地と振込払いの裁判例で整理している。

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仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押えを知る時点と最初に確認すること1 債務者の審尋なしに発令され,送達で知ること2 事件記録の閲覧3 最初に確認する事項第3 債務者の対抗手段の全体像1 選択肢の一覧2 特別事情による保全取消しは仮差押えに使えないこと3 手段の選び方第4 保全異議1 申立て2 異議の理由3 審理4 決定5 保全執行の停止の裁判(民事保全法27条)6 取下げと判事補の権限第5 起訴命令による保全取消し(民事保全法37条)1 起訴命令2 本案の訴えとみなされる手続3 期間内に書面が出ない場合の取消し4 起訴命令を使う場面第6 事情変更による保全取消し(民事保全法38条)1 要件と申立先2 事情の変更の例3 弁済しただけでは仮差押えの執行は止まらないこと4 決定第7 保全異議と保全取消しの関係1 主張できる事由の違い2 同一手続での主張と申立ての競合第8 保全抗告(民事保全法41条)1 期間と対象2 手続の特徴3 取消決定の効力の停止(民事保全法42条)4 保全抗告についての決定に対する特別抗告・許可抗告第9 期限の早見表1 民事保全の主な期間2 民事訴訟の即時抗告・執行抗告との違い第10 その他の対抗手段1 仮差押解放金の供託2 本案で争う3 不当な仮差押えによる損害賠償4 保全執行の手続上の違法を争う場合第11 関連記事第12 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令を受けた債務者が取り得る対抗手段について,保全異議(民事保全法26条),起訴命令による保全取消し(同法37条),事情変更による保全取消し(同法38条)及び保全抗告(同法41条)を中心に,申立先,期間,審理の方法及び決定の効力を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文(民事保全法は令和8年5月21日施行の改正を反映したもの)で,民事保全規則は裁判所HPに掲載された規則のPDFで確認した。

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)は平成25年時点の資料である。
その後の法改正で条番号や名称が変わった箇所は,現行条文に合わせて記載する。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

本案の判決等に基づく強制執行(本執行)に対する対抗手段は,強制執行に対する債務者の対抗手段―執行抗告,請求異議の訴え,執行停止,差押禁止債権の範囲変更で説明しており,本記事の対象外とする。

2 結論

①仮差押命令は,通常,債務者の審尋を経ずに発令され,債務者は保全命令の送達(民事保全法17条)によって初めて仮差押えを知ることが多い。
送達を受けた後は,事件の記録を閲覧して,債権者の主張と疎明資料を確認できる(同法5条ただし書)。
②仮差押命令に不服がある債務者は,発令裁判所に保全異議を申し立てることができる(同法26条)。
被保全権利や保全の必要性が発令時から無かったこと,担保の額が低すぎること,解放金の額が高すぎること等を主張でき,申立てに期間の制限は無い(教材89頁,96頁)。
③債権者がまだ本案の訴えを起こしていないときは,起訴命令を申し立てることができる。
裁判所は2週間以上の期間を定めて本案の訴えの提起等を命じ,債権者が期間内に証する書面を出さなければ,債務者の申立てにより仮差押命令は取り消される(同法37条1項~3項)。
④発令後に弁済等で被保全債権が消滅した場合や,保全の必要性が無くなった場合は,事情変更による保全取消しを申し立てることができる(同法38条)。
⑤特別の事情による保全取消し(同法39条)は,条文上「仮処分命令」に限られており,仮差押えには使えない。
⑥保全異議や保全取消しの申立てについての決定に不服がある当事者は,その送達を受けた日から2週間の不変期間内に保全抗告をすることができ,保全抗告についての裁判に対しては更に抗告をすることができない(同法41条1項・3項)。
もっとも,高等裁判所がした保全抗告についての決定は許可抗告の対象となり(最高裁判所第一小法廷平成11年3月12日決定),憲法違反を理由とする特別抗告もでき,いずれも告知を受けた日から5日の不変期間内にしなければならない(民事訴訟法336条2項,337条6項)。
⑦保全異議を申し立てても仮差押えの執行は当然には止まらない。
保全執行の停止の裁判(同法27条)は要件が厳格なので,目的物を早く解放したいときは仮差押解放金の供託(同法22条・51条)を併せて検討することになる。
⑧保全抗告の2週間は,民事訴訟法の即時抗告の1週間(同法332条)とは異なる。
起算点も,即時抗告は「告知を受けた日」,保全抗告は「送達を受けた日」である。

第2 仮差押えを知る時点と最初に確認すること
1 債務者の審尋なしに発令され,送達で知ること

仮差押命令は,口頭弁論を経ないで発することができる(民事保全法3条)。
仮の地位を定める仮処分については,原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければならないとされているが(同法23条4項),仮差押えにはこのような規定はない。
教材14頁は,債権者の立場では,密行性の観点から,任意的口頭弁論及び債務者審尋を避け,書面審理又は債権者(代理人)審尋のみで保全命令を得ることが望ましいと説明している。

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不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 責任の根拠と過失の推認1 民法709条による不法行為責任2 最高裁昭和43年12月24日判決の過失の推認3 推認が覆るその他の場合4 違法とされる場面(被保全権利又は保全の必要性の欠如)第3 損害の範囲と因果関係1 民法416条の類推適用(最高裁昭和48年6月7日判決)2 信用毀損・取引停止による損害3 平成26年~27年の下級審裁判例(消費者庁資料)4 令和元年以降の下級審裁判例(判例秘書登載)5 損害項目ごとの整理6 過失相殺と消滅時効7 損害賠償請求の方法第4 担保(供託金)からの回収1 担保の性質と債務者の優先弁済権2 供託金の還付請求3 支払保証委託契約で担保が立てられている場合4 権利行使催告を受けたときの対応5 担保取消しに同意する前の注意第5 債権者側の注意点1 被保全権利の疎明と調査2 債務者の取違え3 過大な仮差押えと保全の必要性4 取引先・勤務先への影響への配慮第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押えや仮処分(以下,併せて「保全処分」ということがある。)が後に取り消され,又は本案訴訟で債権者が敗訴した場合に,保全処分を受けた債務者が債権者に損害賠償を請求できるか,どのような損害が認められやすいか,債権者が立てた担保(供託金等)からどのように回収するかを説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で確認し,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載のPDFで確認した。
最高裁判所の裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で書誌事項と全文を確認したものを挙げている。

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)は平成25年時点の資料である。
岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年。以下「岡口マニュアル」という。)は,担保からの回収,過失相殺及び消滅時効の説明に用いる。
平成26年~27年の下級審裁判例は,消費者庁の検討会資料「不当な仮差押命令に関する損害賠償請求についての近時の裁判例」(平成28年4月22日・参考資料1。国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)の保存版)に基づいて紹介する。
令和元年以降の下級審裁判例は,判例秘書で内容を確認したもの(いずれも裁判所ウェブサイト未掲載)を紹介する。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

2 結論

①不当な保全処分による損害賠償責任の根拠は,民法709条の不法行為であり,債権者に故意又は過失がなければ責任は生じない。
保全処分が取り消されたこと自体から当然に責任が生ずるわけではない。
②もっとも,保全命令が異議若しくは上訴手続で取り消され,又は本案訴訟で債権者敗訴の判決が確定した場合には,特段の事情のない限り,債権者に過失があったものと推認される(最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決)。
③この推認は覆ることがある。
債務者を会社とすべきか代表者個人とすべきかが極めてまぎらわしかった事案や,遺言の解釈が分かれうる事案では,取消しや本案敗訴の一事で過失があるとはいえないとされている(同判決,最高裁判所第二小法廷平成2年1月22日判決)。
④損害の範囲については,民法416条が類推適用され,特別の事情による損害は予見可能性がある場合に限られる(最高裁判所第一小法廷昭和48年6月7日判決)。
債権の仮差押え後に第三債務者との新たな取引がなくなったことによる逸失利益について,相当因果関係が否定された最高裁判決がある(最高裁判所第一小法廷平成31年3月7日判決)。
⑤消費者庁資料が紹介する平成26年~27年の東京地裁判決7件では,保全異議の弁護士費用,仮差押解放金の調達費用・利息,自己資金の法定利率相当額等が認められる一方,不動産の売却機会の喪失,信用毀損の慰謝料,上場廃止による損害等は否定されている。
令和元年以降の東京地裁判決でも,保全異議等の弁護士費用5,303万円余りが全額認められた例や,給料の仮差押えについて慰謝料50万円が認められた例がある一方,取引の途絶による逸失利益は否定され,本案の第一審で請求債権の存在が認められた事案等では過失が否定されている。
⑥過失相殺(民法722条2項)は,債務者が通常とり得た損害拡大防止措置をとらなかった場合に問題となりうるが,保全異議を申し立てなかっただけでは過失相殺事由にならないとした裁判例がある(岡口マニュアル397頁)。
消滅時効は損害及び加害者を知った時から3年であり(民法724条1号),本案判決の確定日を起算点とした例がある(同頁)。
⑦債務者は,債権者が供託した担保について他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有する(民事保全法4条2項,民事訴訟法77条)。
回収するには,債権者の同意書と印鑑証明書を添付するか,損害賠償請求権の存在を認める確定判決(存在確認の判決でもよく,執行文は不要)又はこれと同一の効力を有する和解調書等を得て,供託所に還付請求をする(教材107頁,岡口マニュアル397頁~398頁)。
担保が支払保証委託契約で立てられているときは,債務名義又は損害賠償請求権の存在を確認する確定判決等に表示された額を,裁判所が定めた金額を限度として銀行等から支払を受ける(民事保全規則2条1号)。
⑧債権者から権利行使催告(民事訴訟法79条3項)を受けたのに期間内に権利を行使しないと,担保取消しに同意したものとみなされ,担保から優先的に回収する機会を失う。
東京地裁では催告期間を催告書の送達を受けた日から14日としており(岡口マニュアル377頁),同書380頁が紹介する東京地裁の催告書の書式によれば,権利を行使したときは期間の満了日から5日以内に,訴状等の写しを添付した証明書を添えて申し出る必要がある。

第2 責任の根拠と過失の推認

(続きを読む...)不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収(AI作成)

仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻し(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 取下げが問題になる場面1 目的を達した場合2 仮差押えが空振りに終わった場合3 本案で敗訴した場合又は本案を断念した場合第3 取下げに債務者の同意は要らない1 民事保全法18条2 同意が不要とされる理由3 保全異議等の申立て後の取下げ第4 取下げの方式1 書面でする2 債務者への通知3 保全執行の申立ての取下げ4 取下書と添付書類5 取下げの証明6 一部の取下げ第5 取下げと執行の解放1 執行機関によって手続が異なる2 不動産の仮差押え3 債権の仮差押え4 動産など執行官による執行5 債権者が取り下げない場合第6 取下げと担保の取戻し1 取下げだけでは担保は戻らない2 簡易の取戻し3 送達・登記の後に取り下げた場合第7 和解で取り下げる場合の条項1 和解だけでは足りない2 入れておくべき条項3 債務者側からみた条項第8 取下げ後の再申立て1 既判力が生じないこと2 再申立ての注意点第9 時効との関係1 現行民法2 令和2年4月1日より前の仮差押え第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,債権者が仮差押命令の申立てを取り下げる場合について,債務者の同意の要否,取下げの方式,取下げによる仮差押えの執行の解放(登記の抹消や第三債務者への通知),担保の取戻し,和解条項,再申立て及び時効との関係を扱う。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法律の条文はe-Gov法令検索の現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の規則本文で確認した。
東京地方裁判所民事第9部(保全部)と大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の運用は,いずれも令和8年9月17日に確認した各部の案内による。

仮差押えの全体像は仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像を参照されたい。
仮処分の取下げ,債務者側が申し立てる保全異議の取下げ及び本案訴訟の訴えの取下げは,本記事の対象外である。

2 結論

① 仮差押命令の申立ての取下げに,債務者の同意は要らない(民事保全法18条)。
保全異議や保全取消しの申立てがされた後でも同じである。
保全命令の申立てに対する裁判には既判力が生じず,取下げによって債務者が特段の不利益を受けないからである(司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』23頁)。

② 取下げは,口頭弁論又は審尋の期日でする場合を除き,書面でしなければならない(民事保全規則4条1項)。
審尋期日の呼出し又は保全命令の送達を受けた債務者には,裁判所書記官が取下げを通知する(同条2項)。
東京地方裁判所民事第9部の案内によれば,保全事件の取下げは令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外であり,書面を提出する。

③ 不動産や債権の仮差押えは発令裁判所が執行機関となるため,保全命令の申立ての取下書を出せば,保全執行の申立ても同時に取り下げたものとして扱われる(東京地方裁判所民事第9部の案内)。
不動産は裁判所書記官が仮差押登記の抹消を嘱託し,債権は裁判所が第三債務者に取下げを通知する。
抹消登記には,東京・大阪の案内とも,物件1個(大阪の案内では1筆)につき1,000円の登録免許税(収入印紙)と郵便切手が必要とされている(登録免許税法別表第一の一(十五))。

④ 取下げをしただけでは担保(供託金)は戻らない。
登記の嘱託前や第三債務者への送達の着手前に取り下げた場合等は,民事保全規則17条1項の簡易の取戻しで担保を取り戻せる。
第三債務者に送達された後の取下げでは,陳述書で預金等が無いと回答されていても簡易の取戻しは認められない運用であり(同教材114頁),担保取消し(民事訴訟法79条)によることになる。

⑤ 和解で取り下げるときは,仮差押命令の申立ての取下げ,担保取消しへの同意及び担保取消決定に対する抗告権の放棄を条項に入れておくと,担保を早く取り戻せる。

⑥ 取下げによって仮差押えが終了すると,時効の完成猶予はその時から6か月で終わる(民法149条1号)。
終了の時点を登記の抹消時等とみる余地もあるが,改正後に取下げの場面を判断した裁判例は確認した範囲で見当たらないので,取下書の提出時から6か月で管理するのが安全である。
令和2年4月1日より前にした仮差押えは改正前の民法により,取下げによって時効中断の効力が生じなかったことになる可能性もある(改正前の民法154条)。
いずれにしても,取下げの前に,本案訴訟の提起など時効の完成を防ぐ手当てが済んでいるかを確認する必要がある。

第2 取下げが問題になる場面
1 目的を達した場合

債務者と和解が成立した場合や,債務者が被保全債権を弁済した場合には,仮差押えを続ける理由がなくなる。
この場合,債務者からは,不動産の仮差押登記の抹消や預金口座の凍結の解除を早く求められることが多い。

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債務名義があっても仮差押えはできるか―保全の必要性と東京高裁平成24年11月29日決定(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 債務名義があるだけでは強制執行を始められない1 債務名義の種類2 強制執行を始めるための手順3 仮差押えの執行との違い第3 仮差押えの要件と「権利保護の必要性」1 保全の必要性2 債務名義がある場合の問題第4 東京高裁平成24年11月29日決定1 書誌と事案2 判旨―原則と例外3 当てはめ4 結論は差戻しである5 本決定の位置付け第5 無剰余取消しに関する高裁の裁判例1 紹介する裁判例と確認の範囲2 無剰余取消しの「おそれ」では足りないとした東京高裁平成20年4月25日決定3 無剰余取消し後は保全の必要性を認めた名古屋高裁平成20年10月14日決定4 二つの高裁決定の関係5 仮差押命令の後に債務名義を得た場合(事情変更による保全取消し)第6 特別の事情が問題になり得る場面1 承継執行文の付与に時間がかかる場合2 条件成就執行文が必要な場合3 送達により強制執行の準備が知られる場合4 差し押さえるべき債権の弁済期が迫っている場合5 被保全債権の期限が到来していない場合6 仮執行宣言付判決に対して控訴があった場合7 強制競売が無剰余で取り消された場合第7 仮差押えが認められにくい場面1 直ちに差押えができる場合2 財産の所在が分からないだけの場合3 財産の隠匿・処分のおそれが具体的でない場合第8 申立書に書くべき事情1 記載の原則2 債務名義がある場合に記載すべき事項3 担保と発令後の手続4 却下されたとき第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,確定判決,執行証書(公正証書)等の債務名義を既に持っている債権者が,重ねて仮差押命令を申し立てることができるかを扱うものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により確認した。

仮差押えの要件,手続の流れ,担保,効力等の全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で扱う。
係争物に関する仮処分,仮の地位を定める仮処分及び国税滞納処分は,本記事の対象外である。

2 結論

①債務名義を持っている債権者は,遅滞なく強制執行の手続をとれば,特別の事情がない限り速やかに強制執行に着手できるのが通常であるから,原則として,仮差押えという民事保全制度を利用する権利保護の必要性は認められない(東京高裁平成24年11月29日決定)。
②もっとも,債権者が強制執行を望んでも速やかに行うことができない特別の事情があり,強制執行までの間に債務者が財産を隠匿又は処分するなどして強制執行が不能又は困難となるおそれがあるときは,権利保護の必要性が認められ,仮差押えが許される(同決定)。

③同決定は,破産管財人が承継執行文の付与を受け,承継執行文付きの公正証書を相手方に送達しなければ債権執行を申し立てられず,その送達によって強制執行の準備が相手方に知られる上,差し押さえるべき債権の弁済期限が迫っていた事案で,特別の事情を認めた。
ただし,同決定の結論は原決定の取消しと東京地方裁判所への差戻しであり,高裁自身が仮差押命令を発したものではない。

④本記事の整理としては,承継執行文や条件成就執行文の付与に時間がかかる場合,強制執行の前提となる送達によって債務者に準備が知られる場合,差し押さえるべき債権の弁済期が迫っている場合等に,特別の事情が問題となり得る。
これに対し,執行文の付与も送達も済んでいて直ちに差押えができる場合には,仮差押えの必要性は認められにくいと考えられる。

⑤不動産の強制競売が無剰余を理由に取り消される「おそれ」があるだけでは保全の必要性がないとした東京高裁平成20年4月25日決定と,強制競売が無剰余を理由に実際に取り消された後は保全の必要性があるとした名古屋高裁平成20年10月14日決定があり,高裁の結論の方向は分かれている(事案の段階は異なる)。
また,仮差押命令の後に債務名義を得て本執行をしたが無剰余で取り消された場合に,事情変更による仮差押命令の取消しができるかについても,これを否定した大阪高裁平成11年7月15日決定と,旧法下でこれを肯定した名古屋高裁金沢支部平成3年5月27日判決がある。

⑥申立書では,債務名義があることを隠さず,強制執行に直ちに着手できない具体的な理由と,その間に財産が隠匿・処分されるおそれを,証拠とともに具体的に記載する必要がある(民事保全規則13条2項)。

第2 債務名義があるだけでは強制執行を始められない
1 債務名義の種類

強制執行は,民事執行法22条各号に掲げる債務名義により行う。
主なものは,確定判決(1号),仮執行の宣言を付した判決(2号),仮執行の宣言を付した支払督促(4号),執行証書(5号),確定判決と同一の効力を有するもの(7号。和解調書・調停調書等)である。

執行証書とは,金銭の一定の額の支払等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され,又は記録されているものである(民事執行法22条5号)。
仮執行の宣言が付されていない確定前の判決は債務名義に当たらないので,その段階の債権者が仮差押えを申し立てる場面は,本記事の問題とは異なる通常の仮差押えである。

電子化された判決・和解調書等を債務名義とする場合の事件特定情報,記録事項証明書及び執行文については,電子化された債務名義と強制執行―事件特定情報・執行文・自動車登録・特許権等登録で扱う。

2 強制執行を始めるための手順
(1) 執行文の付与

強制執行は,原則として,執行文の付された債務名義の正本(電子化されたものは記録事項証明書等)に基づいて実施する(民事執行法25条本文)。
少額訴訟の確定判決,仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決又は支払督促により,これに表示された当事者に対し,又はその者のためにする強制執行は,執行文を要しない(同条ただし書)。

執行文は,執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が,執行証書については原本を保存する公証人が付与する(民事執行法26条1項)。

(2) 条件成就執行文と承継執行文

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預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 債権仮差押えの基本1 管轄2 申立書の記載3 執行の方法と効力の発生4 保全執行期間と送達の順序第3 預金債権の仮差押え1 取扱店舗の特定2 複数の金融機関・複数の口座3 預金の種類による順位付け4 どの時点の預金が対象になるか5 銀行による相殺第4 給料債権の仮差押え1 差押禁止の範囲2 継続的給付への効力と期間の限定3 仮差押債権目録の記載例4 差押禁止債権の範囲の変更5 勤務先への影響第5 第三債務者に対する陳述催告1 申立てと催告2 陳述の意味と不陳述の責任3 「預金なし」の陳述と担保の取戻し4 仮差押えを受けた債権自体の消滅時効第6 第三債務者の供託とみなし解放金1 権利供託と義務供託2 みなし解放金第7 預金・給料の仮差押えの担保の額第8 債務者側への影響第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権の強制執行を保全するための仮差押え(民事保全法20条1項)のうち,債務者の預金債権と給料債権を対象とする場合の注意点を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,民事保全規則及び民事執行規則は裁判所ウェブサイト掲載のPDFにより確認した。

仮差押えの要件,手続全体の流れ,担保,解放金,債務者の対抗手段等の総論は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で扱う。
債務名義を得た後の債権差押え(本執行)は,債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務で扱う。
家事事件の審判前の保全処分,国税の滞納処分,倒産手続における扱いは,本記事の対象外である。

2 結論

①債権の仮差押命令事件は,本案の管轄裁判所のほか,仮に差し押さえるべき債権の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し,債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(民事保全法12条1項・4項)。
申立書には第三債務者を記載し,仮差押債権は「債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項」を明らかにして特定しなければならない(民事保全規則18条1項,19条2項1号)。

②預金債権は,取扱店舗を示して特定するのが裁判所の書式である。
東京地方裁判所民事第9部及び大阪地方裁判所第1民事部の書式は,「○○支店扱い」と店舗を示した上で,先行の差押え・仮差押えの有無,円貨建て・外貨建ての別,預金の種類(定期預金から当座預金まで)及び口座番号の順に順位を付けている。
最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定は,差押えの事案で,大規模な金融機関の全ての店舗を対象として順位付けをする方式は差押債権の特定を欠き不適法であるとした。
最高裁判所第三小法廷平成24年7月24日決定も,差押えの事案で,普通預金債権のうち送達後1年間の入金によって生ずる部分(将来預金)を対象とする申立ては特定を欠き不適法であるとした。
ゆうちょ銀行の貯金は,店舗ではなく貯金事務センターを示して特定する記載例である。
なお,第三債務者である銀行が債務者に貸付金を有する場合,仮差押えを受けた預金と相殺されて仮差押えの実益がなくなることがある(民法511条)。

③給料債権の仮差押えには,民事執行法152条の差押禁止の規定が準用される(民事保全法50条5項)。
原則として手取額の4分の3(支払期が毎月の場合,その額が33万円を超えるときは33万円)は仮差押えの対象とならず,扶養義務等に係る金銭債権を請求する場合は「四分の三」が「二分の一」となる(民事執行法152条3項,民事執行法施行令2条)。
民事保全法50条5項は民事執行法146条から153条までを一括して準用しているので,151条の2(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)も準用範囲に含まれる。
給料のような継続的給付に係る債権に対する効力は後に受けるべき給付に及ぶが(民事執行法151条の準用),仮差押えの実務では期間を1年程度に限定する扱いが多いとされる。

④第三債務者に対する陳述の催告は,債権者の申立てがあるときに行われ,第三債務者は送達の日から2週間以内に,債権の存否・種類・額,弁済の意思,優先権者,他の差押え・仮差押え,滞納処分による差押えの有無等を書面で陳述する(民事保全法50条5項,民事執行法147条1項,民事保全規則41条2項,民事執行規則135条)。
故意又は過失による不陳述・不実陳述には損害賠償責任がある(民事執行法147条2項)。
もっとも,陳述書に「預金なし」と記載されても,そのことだけでは担保の簡易の取戻しは認められない運用である(司法研修所の教材114頁)。

⑤第三債務者は仮差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託することができ,その供託は仮差押解放金の供託とみなされる(民事保全法50条3項・5項,民事執行法156条1項)。

⑥保全執行は債権者に保全命令が送達された日から2週間を経過したときはすることができないため(民事保全法43条2項),第三債務者への送達が不能になったときは速やかに対応する必要がある。

⑦担保の額は目的物の価格を基準とし,司法研修所の教材が紹介する基準では,貸金・賃料・売買代金その他を被保全債権とする預金・給料の仮差押えで10~30%とされている(同教材28頁)。

第2 債権仮差押えの基本
1 管轄

保全命令事件は,本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し(民事保全法12条1項),この管轄は専属である(同法6条)。

(続きを読む...)預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告(AI作成)

仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 担保の趣旨と法的根拠1 担保は債務者の損害を担保するためのもの2 担保の要否と額は裁判所が裁量で決める3 担保を立てる時期は2通りある第3 担保額の算定基準―目的物の価格1 目的物の価格を基準とする理由2 目的物の価格(時価)の出し方3 被保全債権額との関係4 動産の仮差押えは請求債権額が基準第4 担保基準表(一応の目安)1 基準表の性格2 代表的な数値3 計算例4 預金・給料の仮差押えの比率第5 担保額を左右する要素1 疎明の程度2 疎明不足を担保で補うことはできない3 債務者の損害の大きさ第6 担保の立て方1 担保を立てる方法2 供託する供託所3 担保提供期間4 供託金の納付方法5 証明書の提出と発令6 第三者による担保の提供第7 担保金以外にかかる費用第8 担保の行方1 本案で勝訴した場合等は担保を取り戻す2 和解で解決する場合は担保取消しの同意を条項に入れる3 仮差押えが不当であった場合は損害賠償の引当てになる第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権を保全するための仮差押命令を申し立てる債権者が,裁判所から立てるよう命じられる担保(いわゆる担保金・保証金)について,その趣旨,額の決まり方,一応の目安及び立て方を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の条文で確認した。
担保額の算定基準及び基準表は,司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行)24頁~33頁の頁画像で確認した記載に基づいている。
同書は平成25年時点の教材であり,担保基準を公表した裁判所はないとされているから,個別の事件で命じられる担保額は,担当裁判官の判断によって以下の目安と異なることがある。

仮差押え全体の要件,手続の流れ及び効力は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で整理している。

2 結論

仮差押えの担保金についての結論は,次のとおりである。
① 仮差押命令は,通常,担保を立てさせて発令される(民事保全法14条1項)。
担保は,不当な仮差押えによって債務者が被るおそれのある損害を担保するためのものであり,要否及び額は裁判所の裁量で決まる。
② 担保額は,仮差押えの目的物の価格(時価)を基準とし,これに被保全債権の種類,目的物の種類及び疎明の程度に応じた比率を乗じる形で定められるのが一般的である(前記教材26頁~27頁)。
③ 被保全債権額が目的物の価格より高くても,基準は目的物の価格であり,請求額を減らして内金請求にする必要はない(同26頁)。
④ 一応の目安として,貸金・賃料・売買代金等を被保全債権とする場合,不動産は目的物の価格の10~25%,預金・給料は10~30%,交通事故の損害賠償請求権を被保全債権とする不動産の仮差押えは5~15%とされている(同28頁)。
もっとも,給料の仮差押えは被保全権利を問わず30%以上,預金の仮差押えは20%以上(交通事故の場合は15%程度)とすべきとする実務書の見解もあり,預金・給料の仮差押えでは表の下限より高い比率を想定しておくのが無難である。
⑤ 担保は,法務局(供託所)への金銭又は有価証券の供託のほか,裁判所の許可を得て銀行等と支払保証委託契約を締結する方法でも立てられる(民事保全法4条1項,民事保全規則2条)。
保険会社の支払保証委託契約(いわゆるボンド)には保証料率が公表されている例があるが,保証料は掛け捨てであり,供託金と異なり戻ってこない。
⑥ 大阪地方裁判所及び東京地方裁判所の案内では,担保提供期間は原則又は一般に7日であり,その期間内に供託書正本等の証明書を提出しないと,申立ては却下される。
⑦ 立てた担保は,本案勝訴や債務者の同意等により担保取消決定を得て取り戻すのが原則であり,仮差押えが不当であった場合は債務者の損害賠償請求権の引当てになる。

第2 担保の趣旨と法的根拠
1 担保は債務者の損害を担保するためのもの

民事保全法14条1項は,「保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。」と定めている。
仮差押命令は,債務者の言い分を聴かないまま,債権者の疎明だけで発令されることが多い手続であるから,後に被保全債権が存在しなかったことが判明するなどして仮差押えが不当であったときに備え,債務者の損害をあらかじめ担保しておく必要がある。

前記教材24頁は,担保は民事保全により債務者の被る可能性のある損害を担保する性質を有すると説明している。
債務者は,供託された金銭又は有価証券について,他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する(民事保全法4条2項が準用する民事訴訟法77条)。
もっとも,同頁によれば,債務者がこの権利を行使するには,債権者に対する損害賠償請求権の存在を認める確定判決又はこれと同一の効力を有する和解調書等を添付して還付請求をする必要があり,実際に行使されることは比較的少ないとされている。

2 担保の要否と額は裁判所が裁量で決める

民事保全法14条1項は,担保を立てさせるかどうか,立てさせる場合の額について,具体的な基準を定めていない。
前記教材25頁は,担保額は裁判所の自由な裁量によって決定されると説明した上で,どのように疎明が完全であっても,債権者の生活が窮迫して直ちに生活保持に不可欠な金員の仮払を命じなければならないような特殊な場合を除き,全く担保を立てないで民事保全が許されることはほとんどないとしている。

(続きを読む...)仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方(AI作成)

仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 担保を取り戻す手続の全体像1 担保は債務者の損害賠償請求権を担保するもの2 担保取消しと簡易の取戻しの違い3 手続を選ぶときの考え方第3 担保の事由の消滅による担保取消し(民事訴訟法79条1項)1 「担保の事由が消滅したこと」の意味2 勝訴的和解に頼らず同意条項を入れる3 必要書類と所要期間第4 担保権利者の同意による担保取消し(民事訴訟法79条2項)1 同意の意味と証明方法2 和解条項に同意と抗告権放棄を入れる3 同意書による場合の書類と所要期間4 債務者が破産した場合第5 権利行使催告による担保取消し(民事訴訟法79条3項)1 「訴訟の完結後」の意味2 保全事件では保全命令の申立ての取下げも必要3 本案訴訟の係属中は使えない4 催告期間と権利が行使された場合5 必要書類と所要期間第6 担保の簡易の取戻し(民事保全規則17条)1 要件2 運用基準3 申立書と添付書類4 債務者が債権者の権利を承継した場合第7 担保取消決定確定後の供託金の払渡し1 供託原因消滅証明書の交付を受ける2 法務局への供託物払渡請求3 受取方法4 簡易の取戻しの場合第8 支払保証委託契約(ボンド)と担保の変換1 ボンドで担保を立てた場合の解放手続2 保証料は返ってこないことがある3 供託した担保を支払保証委託契約に変換する方法第9 所要期間の目安と注意点1 東京地方裁判所の目安2 大阪地方裁判所3 資金計画上の注意点第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令を得るために債権者が立てた担保(法務局に供託した金銭等)を,後日,債権者が取り戻す方法を扱う。
調査基準日は令和8年9月17日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の規則本文で確認した。
仮差押えの全体像は仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像を,担保の金額の決まり方は仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方を参照されたい。

債務者が仮差押えの執行を免れるために供託する仮差押解放金の取戻しは,本記事の対象外である(仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法を参照)。
控訴に伴う強制執行停止の担保など,民事保全以外の担保も対象外である。

2 結論

仮差押えの担保を取り戻す方法は,次の4つである。
① 担保の事由が消滅したことを証明して担保取消しを受ける方法(民事保全法4条2項,民事訴訟法79条1項)
② 担保権利者(債務者)の同意を得たことを証明して担保取消しを受ける方法(同条2項)
③ 訴訟の完結後に権利行使催告をし,債務者が権利を行使しないことで同意があったものとみなして担保取消しを受ける方法(同条3項)
④ 保全執行が空振りに終わった場合等に,裁判所の許可を得て担保を取り戻す方法(民事保全規則17条1項。担保の簡易の取戻し)

どれを選ぶかは,概ね次の順で判断する。
① 登記・送達ができなかった,執行に着手する前に取り下げた等,債務者に損害が生じないことが明らかであれば,簡易の取戻しを検討する。
② 債務者の同意が得られるなら,同意による担保取消しが最も早い。
③ 本案で債権者が全部勝訴して確定し,又は請求の認諾があったときは,事由消滅による担保取消しを使う。
④ それ以外(一部敗訴,本案未提起,本案の取下げ等)は,保全命令の申立てを取り下げた上で,権利行使催告による担保取消しを使う。

東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,担保取消しの申立てから供託原因消滅証明書の交付までの目安は,同意が約1週間,事由消滅が約1か月,権利行使催告が約2か月とされている。
大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の案内には,所要日数の記載はない。
担保取消決定が確定した後(簡易の取戻しでは許可を得た後),法務局に供託物払渡請求をして,初めて供託金が戻ってくる。

権利行使催告の催告期間は,東京地方裁判所の取扱いでは,催告書の送達を受けた日から14日とされ,さらに権利行使の証明書の提出期間として5日が加えられている(岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)377頁)。
本案訴訟の係属中で債務者の同意も得られないときは,担保を支払保証委託契約に変換する手続(民事保全法4条2項,民事訴訟法80条)もあるが,それで資金が手元に戻るかどうかは,保証を引き受ける銀行等の条件による。

第2 担保を取り戻す手続の全体像
1 担保は債務者の損害賠償請求権を担保するもの

保全命令は,担保を立てさせて発することができる(民事保全法14条1項)。
この担保には民事訴訟法77条,79条及び80条が準用され(民事保全法4条2項),債務者は,保全命令の執行によって損害を被ったときは,担保について他の債権者に先立って弁済を受けることができる(司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』107頁)。

そのため,債権者が担保を取り戻すには,債務者の損害賠償請求権を担保しておく必要がなくなったことを,法定の手続で裁判所に確認してもらわなければならない。
同教材107頁も,債権者が担保の取戻しを受けるには,担保の取消決定又は担保取戻許可決定を得なければならないとしている。

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控訴権の濫用―民訴法303条の金銭納付命令と代理人弁護士の懲戒(AI作成)

目次

第1 民訴法303条の目的

1 濫用的控訴への手続的対応
2 敗訴見込みだけでは足りない

第2 金銭納付命令

1 命令の内容
2 不納付の効果

第3 濫用判断の資料

1 控訴理由と訴訟経過
2 正当な権利行使との区別

第4 代理人弁護士の懲戒との区別

1 当事者の控訴と弁護士の職務行為
2 懲戒判断

第5 根拠資料及び注意

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民事控訴における必要的共同訴訟と共同訴訟的補助参加―当事者の地位,控訴期間及び取下げ(AI作成)

目次第1 必要的共同訴訟の控訴1 一部の者による控訴の効力2 形式的な当事者表示だけで決めない第2 主要な最高裁判例1 全員が控訴人となる例2 被控訴人となる例3 いずれにもならない例第3 共同訴訟的補助参加1 通常の補助参加との違い2 控訴の取下げと期間第4 実務上の確認事項1 当事者目録2 控訴期間と取下げ第5 根拠資料及び注意
第1 必要的共同訴訟の控訴
1 一部の者による控訴の効力

必要的共同訴訟では,共同訴訟人の一人の訴訟行為が他の者にも影響し得る。ただし,一部の者が控訴した場合に全員が控訴人となるか,被控訴人となるか,又はいずれにもならないかは,訴訟の類型と紛争構造により異なる。

2 形式的な当事者表示だけで決めない

固有必要的共同訴訟か類似必要的共同訴訟か,誰の権利関係を合一に確定すべきかを確認し,当事者の地位を決める。

第2 主要な最高裁判例
1 全員が控訴人となる例

最高裁昭和38年3月12日判決は,事案の必要的共同訴訟性を踏まえ,一人の被告の控訴により他の被告も控訴人の地位を取得するとした。

2 被控訴人となる例

最高裁平成11年11月9日判決は,境界確定訴訟の当事者関係を踏まえ,共有者の一部が被控訴人の地位に立つとした。

3 いずれにもならない例

最高裁平成9年4月2日大法廷判決は,住民訴訟で自ら上訴しなかった共同訴訟人をその意思に反して上訴人にする効力までは生じないとした。

第3 通常の補助参加と共同訴訟的補助参加
1 まず参加の根拠を三層に分ける

通常の補助参加は,民事訴訟法42条が定める「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」に認められる。ここでいう法律上の利害関係は,判決主文が直接及ぶ場合だけに限られないが,単なる事実上・経済上の影響とも区別される。参加人の法的地位にどのような影響が及ぶかを具体化する。

これとは別に,確定判決の効力が第三者にも及ぶため,共同訴訟人に準じた地位を与えるべき共同訴訟的補助参加が問題となる。①判決効が及ぶか,②通常の補助参加に必要な法律上の利害関係があるか,③後の別訴でどの事項が争われるかを分け,名称だけで参加類型を決めない。訴訟告知を受けた第三者が参加しなかった場合の効力(民事訴訟法53条4項)は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えで整理している。

2 控訴行為と被参加人との抵触

通常の補助参加人は,民事訴訟法43条2項により上訴審でも参加でき,同法45条1項により上訴その他の訴訟行為をすることができる。ただし,同条2項により,参加人の訴訟行為が被参加人の訴訟行為と抵触するときは効力を有しない。

共同訴訟的補助参加では,判決効の拡張を根拠に,参加人の独立性を通常の補助参加より強く認めるべきかが問題となる。最高裁昭和40年6月24日判決などを踏まえ,誰が控訴したか,被参加人が控訴又は取下げをしたか,両者の行為がどの点で抵触するか,判決効が参加人へ及ぶ根拠は何かを個別に確認する。

第4 実務上の確認事項
1 当事者・参加人と判決効の一覧

第一審の当事者,参加人,控訴をした者,控訴の効力が及ぶ者及び送達先を一覧化する。その際,①判決効,②参加の法律上の利害関係,③後の別訴への影響を別欄にし,補助参加決定があるというだけで共同訴訟的補助参加と扱わない。

2 行為者・時点・効果・救済

各人の判決送達日,控訴状提出日,独立した控訴期間の有無,控訴又は取下げをした者,必要な授権及び他の当事者・参加人への効力を時系列で確認する。期間徒過や取下げが問題になるときは,誰のどの行為がいつ効力を生じ,その後に残る救済が何かまで分ける。

第5 根拠資料及び注意

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び上記最高裁判例を確認した。
必要的共同訴訟の分類と当事者関係により結論が変わるため,事件記録に即した確認が必要である。

民事控訴の利益とは―全部勝訴判決でも控訴できる場合と上訴の適法性(AI作成)

目次第1 控訴の利益の基本1 第一審主文と申立てを比較する2 理由中の判断だけを争うことはできない3 相殺判断に既判力が生じる場合第2 最高裁令和5年3月24日判決1 事案の特殊性2 一般化には注意が必要である第3 控訴の利益を確認する手順1 申立てと主文を対照する2 不利益の法的性質を特定する第4 不適法控訴のリスク1 期間内でも利益がなければ却下される2 相手方の附帯控訴第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴の利益の基本
1 第一審主文と申立てを比較する

控訴の利益は,原則として第一審で求めた裁判と実際の主文を比較して判断する。請求が全部認容された原告は,理由に不満があっても通常は控訴できない。

2 理由中の判断だけを争うことはできない

判決理由に不利な認定があっても,主文で全部勝訴していれば,その理由だけの変更を求める控訴は原則として許されない。既判力その他の効果が問題となる場合は,別途検討する。

3 相殺判断に既判力が生じる場合

民事訴訟法114条1項により,判決理由中の判断には原則として既判力が生じない。しかし,同条2項は,相殺のため主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額の範囲で既判力を認める。

そのため,第一審と控訴審で給付額が同じでも,相殺に供した債権の存否判断に既判力が生じるかが変わる場合,判決の法的効果は同じではない。控訴審は,第一審判決を取り消して改めて請求認容判決をすべき場合があり,給付主文の見た目だけで控訴棄却と決めることはできない。

控訴の利益,控訴審の審判範囲,判決主文及び既判力の範囲は別々に確認する。相殺の既判力については,相殺の抗弁に関するメモ書き―既判力・再訴・相殺の抗弁相互の関係も参照されたい。

第2 最高裁令和5年3月24日判決
1 事案の特殊性

最高裁令和5年3月24日判決は,事件を審理した裁判官が判決書の原本に基づかずに判決を言い渡したという重大な手続問題がある事案で,全部勝訴した原告の控訴の利益を認めた。

2 一般化には注意が必要である

この判決は,全部勝訴者が理由に不満を持つだけで控訴できるとしたものではない。判決としての適法性に関わる特殊な事情を踏まえて理解する必要がある。

第3 控訴の利益を確認する手順
1 申立てと主文を対照する

第一審の最終的な請求の趣旨,訴えの変更,請求の放棄・認諾及び主文を対照する。予備的請求がある場合は,主位的請求との関係も確認する。

2 不利益の法的性質を特定する

経済的不満ではなく,主文又は判決の法的効力による不利益を特定する。控訴以外の手段で解決すべき問題かも検討する。

第4 不適法控訴のリスク
1 期間内でも利益がなければ却下される

控訴期間内の申立てであっても,控訴の利益を欠けば不適法となる。控訴状では,どの主文部分についてどのような変更を求めるかを明示する。

2 相手方の附帯控訴

自分の控訴により,相手方が附帯控訴をして第一審判決より有利な変更を求める可能性がある。控訴の利益と訴訟戦略は分けて検討する。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索)114条・304条,最高裁令和5年3月24日判決,令和5年司法試験論文式試験出題の趣旨及び同年度の民事系採点実感を確認した。
不利益変更禁止は,民事控訴審の不利益変更禁止を参照されたい。

民事控訴審の審理の流れ―原審口頭弁論の結果陳述,一回結審及び和解(AI作成)

目次第1 控訴提起から第一回期日まで1 控訴状と記録送付2 控訴理由書と答弁書第2 第一審口頭弁論の結果陳述1 控訴審へ第一審の訴訟資料を引き継ぐ2 陳述範囲を曖昧にしない第3 一回結審と続行1 第一回期日で終結することがある2 続行が必要な場合第4 和解1 控訴審でも和解は可能である2 仮執行・担保・関連紛争も確認する第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴提起から第一回期日まで
1 控訴状と記録送付

控訴状は第一審裁判所に提出され,適法な控訴として整理された後,記録が控訴裁判所へ送られる。電子事件ではmintsによる提出・送達等の現行運用を確認する。

2 控訴理由書と答弁書

控訴人は定められた期間内に控訴理由書を提出し,被控訴人はこれに対する答弁を準備する。新証拠,訴えの変更又は附帯控訴がある場合は,第一回期日前に手続を明確にする。

第2 第一審口頭弁論の結果陳述
1 控訴審へ第一審の訴訟資料を引き継ぐ

民事訴訟法296条2項により,当事者は第一審の口頭弁論の結果を陳述する。これは第一審で提出した主張・証拠を控訴審の判断資料として引き継ぐための手続である。

2 陳述範囲を曖昧にしない

最高裁昭和41年11月10日判決は,「第一審判決事実摘示のとおり」との陳述では,判決の事実摘示に記載されていない主張が控訴審で陳述されたことにならないとした。判決に現れていない重要主張は,控訴審書面で明示するのが安全である。

第3 一回結審と続行
1 第一回期日で終結することがある

控訴審は提出書面と原審記録を事前に検討し,第一回期日で弁論を終結することがある。重要な主張・証拠を「期日後に出す」前提で準備してはならない。

2 続行が必要な場合

新たな争点,証拠調べ,訴えの変更又は和解協議が必要なときは続行され得る。続行を求める場合は,必要な審理事項と予定期間を具体的に示す。

第4 和解
1 控訴審でも和解は可能である

控訴審では第一審判決を踏まえて法的・経済的リスクが具体化しているため,和解が試みられることがある。

2 仮執行・担保・関連紛争も確認する

和解条項では,支払方法,遅延時の取扱い,仮執行による既払金,強制執行の停止・取下げ,訴訟費用及び関連事件を漏れなく確認する。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法296条以下(e-Gov法令検索)を確認した。
手続の現行化は,大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法及びmintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法を参照されたい。