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裁判手続の実務

医療記録の文書送付嘱託―申立ての対象指定、カルテ・画像の回収確認、患者同意と提出拒否(AI作成)

目次第1 医療記録の文書送付嘱託で最初に決めること1 何を証明するための記録かを先に決める2 送付嘱託・調査嘱託・提出命令を区別する第2 申立ての対象を具体的に指定する1 患者・医療機関・診療範囲・種類・期間を組み合わせる2 診療録等と画像を分け,他院作成資料の扱いも明らかにする3 対象期間と全診療科の必要性を説明する4 対象文書の表示を作る際の整理例第3 患者同意と医師の黙秘義務1 個人情報保護法上の第三者提供の例外2 同意の内容と提出を拒む理由を確認する3 名古屋高裁平成25年5月27日決定の射程第4 送付に応じてもらえない場合1 未回答・不保有・一部送付・提出拒否を分ける2 提出命令を検討する際の整理第5 カルテ・画像の回収確認1 送付されたことと必要な資料が揃ったことを分ける2 CD-Rを受け取った後の確認3 費用を三つに分ける4 返還対象を区別する第6 令和8年改正とmintsによる証拠提出1 新旧法と紙・電磁的記録を区別する2 所定形式に変換できないデータと証拠説明書第7 取得後の秘密保護と実務上の確認順序第8 出典
第1 医療記録の文書送付嘱託で最初に決めること

医療記録の文書送付嘱託では,必要な記録を裁判所に取り寄せる対象指定と,届いた資料の不足確認を一続きで考える必要がある。
本記事では,民事訴訟における医療記録の収集について,カルテ・看護記録・画像の指定,患者同意,送付に応じてもらえない場合及び証拠提出までを説明する。
法令・裁判所資料の確認基準日は令和8年9月10日であり,対象の指定例と回収管理表は実務上の提案である。

1 何を証明するための記録かを先に決める

収集の出発点は,傷病名,症状の推移,治療内容,事故との因果関係,既往症との区別など,争点となる具体的な事実である。
まず手元の診断書,診療記録,通院一覧等から不足を整理し,どの医療機関の,いつの,どの種類の記録を追加すればその不足を埋められるかを検討する。
病院にある全資料の取得自体を目的にすると,無関係な病歴まで対象とする問題と,必要な画像等が抽出されない問題の双方が生じ得る。

患者側で既に必要な資料を持っている場合は,取得済み資料の利用や,本人による追加開示の手続を先に検討することが考えられる。
私立病院等の個人情報取扱事業者に対する本人開示については,個人情報保護法33条が保有個人データの開示請求を定め,同法39条はその請求に係る訴えを予定している。

もっとも,民事訴訟法226条ただし書が送付嘱託の対象から除くのは,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合である。
個人情報保護法33条の対象は保有個人データであり,開示方法の変更や一部不開示があり得るため,病院が本人開示に応じるというだけで同ただし書が当然に適用されるとは考えにくい。

電磁的記録について,民事訴訟法231条の3第1項は,同ただし書の「正本又は謄本の交付」を,情報の内容の全部を証明した書面の交付又は電磁的記録の提供と読み替えている。
本人開示で得られるものが,対象記録の全内容を証明したものか,閲覧又は一部をマスキングした複製にとどまるかを確認する必要がある。
この関係を直接判断した公刊裁判例は確認できず,以上は条文構造に基づく整理である。

なお,国立大学法人や地方独立行政法人等が開設する病院では,個人情報保護法の公的部門の規律が適用される場合がある。
開設主体を確認し,適用条文と交付方法を個別に確認する必要がある。

2 送付嘱託・調査嘱託・提出命令を区別する

民事訴訟法226条は,文書の所持者に送付を嘱託することを申し立てる方法を定めている。
同条ただし書は,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合を除いている。
既存の診療録等を取り寄せる場面では,まず対象文書とその所持者を特定することになる。

これに対し,同法186条の調査嘱託は,裁判所が官公署その他の団体等に必要な調査を嘱託する制度である。
既存資料の送付を求めたいのか,記録中の不明点について回答を得たいのかを整理して申出の内容を決めるべきであり,送付嘱託の名目で新しい医学意見書の作成まで当然に求められるものとは扱わない。

文書提出命令は,同法220条の提出義務等を前提に,同法223条により裁判所が提出を命ずる手続である。
第三者が文書提出命令に従わない場合の20万円以下の過料は同法225条に規定されているが,この制裁を,送付嘱託に応じなかったというだけの段階へそのまま当てはめることはできない。

第2 申立ての対象を具体的に指定する
1 患者・医療機関・診療範囲・種類・期間を組み合わせる

対象文書の表示は,病院が患者と記録を特定でき,裁判所と相手方が必要性を検討できる内容にする。
次の表は,申立て前に情報を整理するための例であり,全国共通の必須様式を示すものではない。

確認する項目
記載・確認の内容
避けたい不明確さ

患者
氏名・ふりがな・生年月日,必要に応じ住所・患者番号
「本件原告」だけで病院に特定を委ねること

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民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方-確認・給付・清算・執行のチェックリスト(AI作成)

第1 和解案と和解条項案は分けて作る1 和解案は「何を交換して事件を終わらせるか」を決めるもの2 和解条項案は「合意を実現できる文言」にするもの3 依頼者の承認と代理権を最後に確認する4 条項を作る前に支払原資を確認する第2 条項は七つの層に分けて点検する1 当事者及び対象を特定する2 確認条項又は形成条項を置く3 給付条項は主語,相手方,目的物及び給付文言を明確にする4 期限,方法,費用及び履行順序を決める5 不履行時の効果を独立して書く6 請求放棄,清算及び費用を分ける7 関連する手続及び資料の処理を残さない第3 金銭支払条項の作り方1 一括払いの基本形2 分割払いは合計額と各回を照合する3 和解成立前までの利息及び遅延損害金を忘れない第4 非金銭給付条項の作り方1 明渡し,収去及び撤去2 登記手続3 不作為,秘密保持及び廃棄第5 清算条項は最も慎重に作る1 「誰と誰の間」を明記する2 「何に関する債権債務か」を定義する3 履行と清算の効力発生時期をそろえる第6 裁判所を介した成立方法を選ぶ1 ウェブ会議等を利用する和解2 和解条項案の書面による受諾3 裁判所が定める和解条項第7 最終チェックリスト1 合意内容2 給付及び不履行3 紛争の終了範囲4 事件終了後の実行第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所公表実務資料4 書籍
第1 和解案と和解条項案は分けて作る

本記事は,民事訴訟の係属中に解決条件を検討し,裁判所へ提出する和解条項案を作成する場面を扱う。
初回調査の基準日は令和8年9月15日である。
以下の追補では,令和8年10月24日に確認した大阪地裁令和8年6月11日判決,保証に関する国会会議録及び和解条項の解説書も参照した。
初回の調査基準日と追補資料の確認日を区別する。

訴訟を提起する前又は訴訟外で紛争を解決するための和解契約書・合意書の設計,履行確保及び債務名義化(公正証書,訴え提起前の和解,民事調停)は,裁判外の和解契約書・合意書の作り方-和解条項と債務名義化で扱う。

1 和解案は「何を交換して事件を終わらせるか」を決めるもの

和解は,当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約することによって効力を生ずる(民法695条)。
裁判所は訴訟のどの段階でも和解を試みることができる(民事訴訟法89条)。

和解案は,金額だけを示す書面ではない。
誰が,誰に対し,何を,いつまでに行うか,その代わりに何を免除し,どこまで紛争を終了させるかという解決条件の組合せである。
最初に,①対象となる請求及び反対請求,②支払額その他の給付,③履行時期及び方法,④同時履行又は先履行の関係,⑤不履行時の処理,⑥放棄又は清算の範囲,⑦別訴,保全,担保及び供託等の処理を一枚の条件表に整理するとよい。

2 和解条項案は「合意を実現できる文言」にするもの

訴訟上の和解が電子調書に記録されると,その記載は確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法267条)。
しかし,抽象的な約束が書かれていれば,どのような内容でもそのまま強制執行できるわけではない。

実務上は,強制執行の対象,給付の内容,期限又は条件に疑問が残る箇所を,成立前の確認事項として書き出す。
裁判所から条項案が示されても,義務者,権利者,目的物及び不履行時の処理を依頼者の承認内容と照合し,疑問を解消してから成立させることが望ましい。

「いったん成立させ,文言は後で直す」という進め方を予定せず,確認が済んでいない条項とその理由を明示して,条項の調整に必要な時間を確保する。
ここでは,成立前の作業手順として提案している。

和解条項案では,合意内容を,①確認条項又は形成条項,②給付条項,③期限・条件等の付款,④違反時の条項,⑤請求放棄・清算・費用,⑥関連手続の処理という順序で,特定可能な文言へ変換する。
司法研修所民事弁護教官室の「民事弁護実務の基礎~はじめての和解条項~」は,まず和解対象の権利関係を定め,給付請求権の存在を明らかにする確認条項又は形成条項を置いた後に,給付条項を置くという論理的順序を示している(6頁~7頁)。

3 依頼者の承認と代理権を最後に確認する

訴訟代理人が和解をするには特別の委任が必要である(民事訴訟法55条2項2号)。
実務上は,委任状に和解の特別授権があることだけでなく,金額,支払時期,非金銭条項,清算範囲及び不履行時の効果について,依頼者が最終案を理解して承認したことを確認する。
法人その他の団体では必要な内部決裁の有無を確認し,訴訟当事者でない保証人,共同債務者その他の者にも義務又は利益を及ぼすのであれば,その者を合意の当事者又は利害関係人として参加させる必要があるかを検討する。

事業のために負担した貸金等債務について個人の保証人を新たに加える場合には,民法第465条の6・第465条の9も確認する。
法定の例外に当たらない限り,裁判上の和解でも,保証契約に先立つ保証意思宣明公正証書が必要となる。
裁判官の面前で意思を示すことだけで代替できるとはされていない。
対象となる債務,作成時期及び例外は,裁判上の和解で連帯保証人を付けるときの注意点(AI作成)で整理している。

依頼者の承認を確認するときは,「金額は承認済みだが,清算範囲は確認中」のように,条件ごとの状態を区別して記録するとよい。
次の表は,交渉中の条件と最終条項案を対応させるための内部確認例である。

条件の区分対応する条項と確認事項承認済み条項番号,承認した金額・期限・非金銭条件,案の版,確認日時・記録の所在未承認清算範囲,分割条件,秘密保持等のうち未確認の事項,追加説明と確認期限変更された条件裁判所又は相手方からの修正内容,旧案との相違,依頼者の再確認の要否最終照合依頼者が承認した条件と,成立させる条項案・別紙・計算表の一致

書記官から調整の連絡があったことと,依頼者が条件を承認したことや和解が成立したことは区別する。
平成12年の指針の解説が説明する和解条件の聴取・条項案の点検(紙面13頁・20~22頁,PDF18頁・25~27頁)を参考にしつつ,成立方法は現行法と個別の手続に即して確認する。

和解条件の判断と,条項の作成を分けて記録する

和解を検討するときは,「どの条件なら受け入れるか」という判断と,「合意した条件をどう条項にするか」という作成作業を分けて記録する方法が考えられます。提案者,提案日,金額・支払条件,有効期限として示された内容,まだ確認できていない条件を整理します。

裁判所から受けた説明についても,暫定的な見通しなのか,具体的な和解案なのか,どの前提に基づく説明だったのかを記録しておくと,後の検討で混同を防ぎやすくなります。支払原資や履行条件の確認,訴訟を続ける場合の見通し,依頼者の希望は,同じ欄へ押し込まず,別々に示します。

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民事訴訟の鑑定事項書の作り方-鑑定人が答えやすく裁判所が評価できる質問設計(AI作成)

目次

第1 鑑定事項書の位置付け1 当事者が案を出し、裁判所が鑑定事項を定めること2 鑑定申出書、私的鑑定書及び専門委員との違い第2 鑑定事項書を作る前の三つの整理1 専門的判断がなければ決められない事実を特定すること2 前提事実を三つに分けること3 必要な専門分野と人数を先に確かめること第3 鑑定事項書の基本構成1 事件表示、鑑定の目的及び資料2 前提事実と資料の対応を示すこと3 鑑定事項を階層化すること第4 答えやすく検証可能な質問文の作り方1 対象、時点及び判断基準を明記すること2 観察、原因、評価及び代替仮説を分けること3 法的結論を丸ごと委ねないこと4 方法、根拠資料、不確実性及び回答限界を求めること第5 鑑定事項書の汎用書式例1 冒頭部分のひな形2 鑑定事項のひな形3 質問文の書換え例第6 鑑定人候補者との協議と資料の渡し方1 鑑定事項を確定する前に実行可能性を確認すること2 記録全体ではなく、質問に対応する資料地図を渡すこと第7 鑑定書提出後の補充と質問1 補充意見を求める場合2 口頭で質問する場合第8 裁判例から分かる鑑定事項と鑑定書の関係1 甲府地方裁判所平成17年9月16日判決の鑑定事項2 裁判所が鑑定結果を採用しなかった理由第9 提出前のチェックリスト1 質問と資料の点検2 提出を急がず協議すべき場合第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令及び最高裁判所規則2 裁判例3 裁判所の答申、報告書及び運用資料

第1 鑑定事項書の位置付け

1 当事者が案を出し、裁判所が鑑定事項を定めること

鑑定事項書は、民事訴訟で鑑定人に何を判断してもらうかについて、当事者が具体的な案を示す書面である。
民事訴訟規則129条1項は、鑑定の申出をするときは、やむを得ない事由がある場合を除き、同時に鑑定を求める事項を記載した書面を提出しなければならないと定めている。
もっとも、最終的に鑑定事項を定めるのは裁判所であり、同条4項は、裁判所が相手方の意見を考慮して鑑定事項を定め、その内容を鑑定人に送付するとしている。

民事訴訟法213条によれば、鑑定人を指定するのも裁判所である。
したがって、鑑定事項書は、当事者が選んだ専門家に一方的な結論を求める依頼書ではなく、裁判所と相手方の検討を経て中立な鑑定人に渡される質問案として作る必要がある。

2 鑑定申出書、私的鑑定書及び専門委員との違い

鑑定の申出では、鑑定の必要性や立証趣旨を説明する部分と、鑑定人への質問を具体化する部分を分けると理解しやすい。
鑑定事項書が主として後者を担うのに対し、鑑定書は、確定した鑑定事項に対して鑑定人が意見と根拠を示す書面である。

当事者が依頼した専門家の意見書である私的鑑定書と、裁判所が指定した鑑定人による鑑定も区別される。
この区別については、文書鑑定(AIリライト)で説明している。

専門委員は、専門的知見に基づく説明によって手続を補助する者であるが、その説明自体は証拠資料ではない。
これに対し、鑑定人は裁判所が定めた鑑定事項について意見を述べ、その意見は証拠資料となると知的財産高等裁判所の専門委員制度と鑑定人制度の説明に明記されている。
専門委員制度については、裁判所の専門委員制度-専門的知見による手続補助と鑑定との違い(AI作成)も参照されたい。

第2 鑑定事項書を作る前の三つの整理

1 専門的判断がなければ決められない事実を特定すること

最初に、要件事実や争点をそのまま鑑定事項へ移すのではなく、裁判所の法的判断と専門家の専門的判断との境界を引く必要がある。

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反訳書の作り方―記載事項,全部反訳と抜粋反訳,AI文字起こしの照合(AI作成)

目次

第1 反訳書は常時必須ではないが,先に出す方が合理的な場合が多い第2 反訳書に記載する事項第3 全部反訳と抜粋反訳1 抜粋反訳が許される場合2 抜粋では足りなくなる場合第4 AIによる文字起こしを用いる場合1 外部処理に先立つ確認2 逐語の反訳と要約を区別する第5 元データの保全と変換の記録第6 mintsのどの区分へ提出するか1 独立の書証として出す場合2 内容説明書面としてだけ出す場合第7 提出前の確認第8 関連記事出典・参考資料
反訳書は,録音又は録画の内容を文字にした書面である。
民事訴訟規則149条は,録音又は録画の証拠調べについて,裁判所又は相手方の求めがあるときに,録音又は録画された内容を説明する書面を提出すべきものとしている。

したがって,音声又は動画を出す全事件で,同時に全文反訳書を提出することを全国一律に義務付けた条文はない。
もっとも,裁判所ごとの案内又は事件担当部の指示により反訳書を求められることがある。

本記事では,反訳書に何を書くか,全部反訳と抜粋反訳をどう使い分けるか,AIによる文字起こしをどう扱うか,そして提出時にどの区分へアップロードするかを説明する。
第1 反訳書は常時必須ではないが,先に出す方が合理的な場合が多い
民事訴訟規則149条の規定は,同規則149条の4により,電磁的記録に記録された録音・録画情報の証拠調べにも準用される。

大津地方裁判所民事部の公開案内は,会話を録音した電子データ等を書証として提出する場合に反訳書を提出するよう求めている。
争点部分を迅速に把握できるようにするため,重要な会話については,求めを待たずにタイムコード付き反訳書を提出するのが通常は合理的である。
第2 反訳書に記載する事項
反訳書には,少なくとも次の事項を記載するのが分かりやすい。

①対応する音声・動画の証拠番号及びファイル名
②録音・録画の全長
③反訳対象の開始時刻及び終了時刻
④各発言のタイムコード
⑤話者名又は話者記号
⑥聴取不能・不明瞭・同時発話・物音等の表示
⑦全部反訳か抜粋反訳かの別
⑧反訳者及び反訳日

聞き取れない箇所を推測で補わず,「[聴取不能]」又は「[不明瞭]」と表示する。
話者の特定に確信がない場合も断定せず,話者記号を用いるなどして不確実性を示す必要がある。

反訳書そのものの記載事項とは別に,証拠説明書の記載事項にも規則上の定めがある。
民事訴訟規則148条は,写真又は録音テープ等の証拠調べの申出をするときは,その証拠説明書において,撮影,録音,録画等の対象並びにその日時及び場所をも明らかにしなければならないと定めている。

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無断録音の証拠能力―民事訴訟における採否の枠組みと東京高裁判決(AI作成)

目次

第1 「常に有効」でも「常に無効」でもない
第2 同じ判決の中で結論が分かれた例

1 排除された録音
2 排除されなかった録音
3 読み取れること

第3 mintsが受け付けたことは採否の判断ではない
第4 提出を検討するときの確認事項
第5 関連記事
出典・参考資料

民事訴訟では,無断録音であるという一事だけで,録音及び反訳書が常に証拠から排除されるわけではない。

他方,録音の目的・態様,侵害される秘密又は人格的利益,録音者が会話の当事者か,録音範囲が包括的・探索的か,証拠としての重要性等により,訴訟上の信義則に反するとして排除されることがある。

本記事では,無断録音の採否を判断する際の視点と,一つの判決の中で録音の対象と態様によって結論が分かれた例を説明する。

録音の取得方法に法的問題がないか,裁判で証拠として採用されるか,採用された録音が何をどの程度証明するかは,別の問題である。
最高裁平成12年7月12日決定(平成11年(あ)第96号)は,詐欺被害を疑った会話当事者が後日の証拠とするために録音した事案で,無同意でも違法ではなく,証拠能力を争う主張に理由はないとした(裁判所公開原文)。
この判断を,第三者による探索的な録音や社内調査全般の秘密録音まで一律に許可するものとして扱わない。
録音告知と個人情報の管理,録音拒否時の代替調査,調査協力義務及び労働者の録音禁止については,秘密録音の適法性と証拠利用・拒否時対応を参照されたい。
第1 「常に有効」でも「常に無効」でもない
無断録音の証拠能力は,録音であることだけで決まらない。
考慮される主な要素は,次のとおりである。

①録音の目的

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控訴理由書・上告理由書の提出期限―50日の性質と原裁判所の審査範囲(AI作成)

目次

第1 三つの理由書の比較
第2 控訴理由書
第3 上告理由書及び上告受理申立て理由書
第4 50日は不変期間ではない
第5 原裁判所ができる審査の範囲

1 期限内に法定理由がない場合
2 記載方式違反で補正対象となる場合
3 原裁判所が判断できない場合
4 三つの場面の読み分け
5 理由書を自足的にする

第6 期限管理の手順
第7 関連記事
出典・参考資料

控訴理由書と上告理由書は,いずれも「50日」という期間で語られることが多い。
しかし,起算点も提出先も異なり,「50日」がどの期間なのかも同じではない。

控訴理由書は控訴を提起した日から起算して控訴裁判所へ,上告理由書は上告提起通知書の送達を受けた日から起算して原裁判所へ提出する。
いずれの50日も不変期間ではない。

本記事では,控訴理由書,上告理由書及び上告受理申立て理由書について,起算点,提出先,期間の性質,並びに原裁判所ができる審査の範囲を説明する。
第1 三つの理由書の比較

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支払督促の督促異議と仮執行宣言―期間,効果及び通常訴訟への移行(AI作成)

目次

第1 発付から確定までの流れ
第2 裁判所書記官の審査と却下処分
第3 仮執行宣言前の督促異議

1 申立先と期間
2 通常訴訟への移行

第4 仮執行宣言の申立て

1 2週間経過後から30日以内
2 手続費用と支払状況

第5 仮執行宣言後の督促異議と効力
第6 当事者別の確認事項

1 債権者
2 債務者

第7 関連記事
出典・参考資料

支払督促は,裁判所書記官が債務者を審尋せずに発する。
そのため,債務者が争う手段として督促異議が,債権者が執行力を得る手段として仮執行宣言が,それぞれ用意されている。

督促異議は,仮執行宣言の前と後で期限の意味が異なる。最初の支払督促には送達から2週間以内に対応する必要があるが,仮執行宣言が付されるまでは異議が可能である。仮執行宣言後は,その送達から2週間の不変期間が問題となる。

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訴額の算定に関する最高裁判例―付加金,複数請求の同一利益及び不足手数料の追完(AI作成)

目次

第1 訴額算定の条文上の枠組み

訴額の具体的な算定方法と個別例

第2 付加金請求を訴額へ算入しなかった決定

第3 複数請求を同一利益と認めなかった決定

第4 不足手数料の追完を認めた旧制度下の決定

第5 実務上の帰結

第6 関連記事

出典・参考資料

申立手数料は訴額に応じて決まる。
しかし,請求書に記載した金額の合計がそのまま訴額になるとは限らない。

請求の法的性質によって訴額へ算入されない部分があり,複数請求を同一の利益とみるかどうかでも結論が変わる。
その判断を誤ると,手数料の過納又は不足が生じる。

本記事では,訴額の算定の条文上の枠組み,裁量算定と基準時,訴額通知に基づく土地・住民訴訟の例に加え,付加金,複数請求及び手数料の追完に関する最高裁判例を説明する。
第1 訴額算定の条文上の枠組み

手数料の額の算出の基礎となる訴訟の目的の価額は,民事訴訟費用等に関する法律4条1項により,民事訴訟法8条1項及び9条の規定によって算定する。

(続きを読む...)訴額の算定に関する最高裁判例―付加金,複数請求の同一利益及び不足手数料の追完(AI作成)

訴訟手数料の還付―取下げ・過納の場合の金額,申立期限及び異議(AI作成)

目次

第1 還付には二つの場面がある
第2 過納による還付
第3 取下げ等による還付

1 「最初にすべき口頭弁論期日の終了前」であること
2 還付額は常に半額ではない
3 一部取下げの場合

第4 申立期間と異議期間

1 差押債権者による還付申立て

第5 還付処分と支払請求を分けて処理する

1 二段階の手続である
2 還付請求書の記載事項
3 mints上の提出方法

第6 手数料再使用証明との違い
第7 確認の手順

1 返金についてよくある疑問

第8 関連記事

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振り込め詐欺救済法の「被害者からの権利行使の届出」―法定分配を止めて口座名義人訴訟・預金差押えに進む手続(AI作成)

目次第1 この記事が扱う問題1 「権利行使の届出」とは何か2 最初に確認すべき結論第2 権利行使の届出が法定分配を止める仕組み1 預金等債権の消滅手続と公告2 被害者も届出をすることができる3 届出があると口座全体の消滅手続が終了する第3 法定分配と個別回収のどちらを選ぶか1 両経路の違い2 個別回収を検討しやすい場合3 他の被害者への影響第4 公告期間内に行う権利行使の届出1 公告と対象口座を特定する2 金融機関と提出方法を事前協議する3 期限内到達と受領記録を残す第5 口座名義人への訴訟と預金仮差押え1 請求原因を事案ごとに選ぶ2 被告の特定と送達を先に見通す3 判決前の預金仮差押え第6 債務名義取得後の預金差押え1 銀行を第三債務者として申し立てる2 取立てまでの手続3 凍結口座でも競合差押えは起こり得る第7 銀行を被告とする債権者代位訴訟1 制度上考えられる構成2 常に必要な訴訟ではない第8 受任時の判断手順と撤退基準1 低負担の調査を先に行う2 進める条件3 法定分配を維持し,又は受任しない条件第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例・国会答弁3 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料4 関連記事
第1 この記事が扱う問題

詐欺送金に気付いたばかりで,まだ金融機関への連絡等をしていない場合は,詐欺で送金してしまった直後の対応―組戻し・口座凍結・被害回復分配金・銀行補償の違い(AI作成)を先に参照されたい。
本記事の「権利行使の届出」は,単なる被害申告や分配金の支払申請と同じものではなく,初動として全被害者に一律に勧める手続ではない。
銀行の補償規定による請求は,インターネットバンキングの不正払戻しの記事に分けて整理している。

1 「権利行使の届出」とは何か

振り込め詐欺救済法は,犯罪利用預金口座等の預金等債権を消滅させ,残った資金から被害者に被害回復分配金を支払う制度である。
もっとも,同法は,口座名義人だけでなく,口座名義人に対する債権を有する被害者が金融機関に「権利行使の届出」をする経路も設けている。

本記事は,この届出によって法定分配の手続を終わらせ,口座名義人に対する訴訟,預金債権の仮差押え又は差押えによる個別回収へ進む場合を扱う。
法令及び公的資料は令和8年8月29日現在のものを確認した。

2 最初に確認すべき結論

権利行使の届出は,被害金の支払申請でも,預金債権の差押えでもない。
期間内に適法な届出がされると,対象口座について預金等債権の消滅手続が終了し,同法に基づく被害回復分配金は支払われなくなるが,届出をした被害者が口座残高を取得するわけではない。

したがって,届出を選ぶ前に,①口座名義人に対する請求権を立証できるか,②口座名義人を特定して訴状を送達できるか,③預金残高が訴訟費用や保全担保を上回るか,④競合する差押えがあるか,⑤届出後直ちに訴訟・保全へ進めるかを確認する必要がある。
この準備がないまま届出をすると,自分だけでなく他の被害者についても法定分配を止めながら,自分も回収できない結果になり得る。

第2 権利行使の届出が法定分配を止める仕組み
1 預金等債権の消滅手続と公告

金融機関は,犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めた場合,警察等から提供された情報,口座名義人の所在,取引状況その他の事情を考慮し,預金保険機構に預金等債権の消滅手続開始を求めるかを判断する。
払戻請求訴訟,強制執行,仮差押え又は仮処分の手続が既に行われている場合には,金融機関は消滅手続開始を求めることができない(振り込め詐欺救済法4条2項1号)。

消滅手続開始の公告には,口座名義人その他の預金等債権に係る債権者が,金融機関へ届出をし,払戻請求訴訟を提起し,又は強制執行等を行うべき期間及び方法が記載される。
その期間は,公告日の翌日から起算して60日以上である(同法5条1項5号・6号,同条2項)。

2 被害者も届出をすることができる

金融庁は,振込利用犯罪行為の被害者が口座名義人に対する債権を有する場合,その被害者も金融機関へ権利行使の届出等をすることができるとの見解を示している。
単に当該口座へ振り込んだというだけでなく,口座名義人に対して損害賠償請求権,不当利得返還請求権その他の債権を有することが前提となる。

直接の振込先口座だけでなく,その口座から資金が移転した先の口座も,資金が実質的に同じであると認められる場合には,法律上の「犯罪利用預金口座等」に含まれ得る(同法2条4項)。
もっとも,後続口座の名義人に対する被害者の請求権まで当然に成立するわけではなく,資金移転の経路,口座名義人の関与及び利得を個別に立証する必要がある。

3 届出があると口座全体の消滅手続が終了する

金融機関は,公告期間内に権利行使の届出,払戻請求訴訟,強制執行等があったことを預金保険機構へ通知し,預金保険機構は消滅手続が終了した旨を公告する(同法6条)。
この場合,口座名義人の預金等債権は同法7条によって消滅せず,同法に基づく支払手続へ進まない。

金融庁のパブリックコメント回答は,預金債権の一部について強制執行等が行われた場合でも,預金債権全体について消滅手続を開始できないとの解釈を示している。
また,被害者による権利行使の届出も支払申請として扱うのではなく,司法手続を選ぶ被害者のために消滅手続の終了事由とされたと説明している。

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電子記録債権(でんさい)の仮差押え―債権の特定,送達及び決済停止の実務(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象とする手続

2 最初に押さえる結論

第2 当事者と命令の構造

1 四者と窓口金融機関

2 仮差押命令が禁止する行為

3 通常の差押命令との相違

第3 管轄,申立て及び執行期間

1 管轄裁判所

2 申立書と疎明資料

3 申立方法と2週間の執行期間

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破産直前の賃金支払は否認されるか――通常の給料日・支払不能後・期限前払の違い(AI作成)

第1 結論と本記事の対象

第2 破産法162条による否認の要件

1 支払不能後又は破産申立て後の賃金支払

2 支払不能前30日以内の期限前払

3 一般従業員と内部者の違い

第3 賃金債権の順位が否認に与える影響

1 破産手続開始前3か月間の給料等

2 財団債権とならない賃金

3 財団の充足状況と有害性

第4 賃金支払に関係する裁判例

1 支払停止後に未払給料等を受領した事例

2 賃金支払資金の借入れのために担保を設定した事例

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債権者による法人破産申立て―要件・予納金・回収リスク(AI作成)

第1 債権者申立てを検討する場面

1 債権者も法人破産を申し立てることができる

2 申立ての目的を先に定める

第2 申立ての要件と管轄裁判所

1 債権と開始原因の二重の疎明が必要である

2 支払不能と支払停止

3 法人の債務超過

4 管轄は主たる営業所所在地の地方裁判所が原則である

第3 債権者側で準備する資料

1 自己の債権を示す資料

2 開始原因を示す資料

3 債権者が債務者の内部資料を入手できない場合

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暗号資産に対する強制執行――取引所預託分と自己管理分で何が変わるか(AI作成)

第1 暗号資産は差し押さえられるか
第2 暗号資産に対する強制執行の法的な位置づけ

1 民事執行法167条「その他の財産権」という受け皿
2 暗号資産が「物」として差し押さえられるわけではない理由

第3 交換業者に預けている暗号資産に対する強制執行

1 権利の性質による手続の違い
2 交換業者(第三債務者)の特定という実務上の壁
3 海外の交換業者に対する差押えの難しさ

第4 債務者が自己管理している暗号資産

1 秘密鍵という壁
2 財産開示手続・第三者からの情報取得手続は及ぶか

第5 実務上のポイント

1 現状は個別事例ごとの判断にとどまる
2 判決を得た後は時効に注意する
3 債権者が最初に確認すべきこと

出典

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地方裁判所の自庁処理―簡易裁判所管轄事件の審理,移送申立て及び即時抗告(AI作成)

第1 地方裁判所の自庁処理の意味

1 民事訴訟法16条2項の仕組み

2 この記事の対象と基準時

第2 自庁処理の対象となる訴訟

1 簡易裁判所の事物管轄

2 管轄区域と専属管轄

第3 自庁処理の判断基準

1 事件内容に即した合理的な裁量判断

2 最高裁平成20年7月18日決定

3 書面に具体化すべき事情

第4 自庁処理を求める方法

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最高裁判所長官は裁判で一番強いのか-大法廷・小法廷,裁判官会議及び事務総局との関係(AI作成)

目次

第1 最高裁判所長官の一票は他の裁判官より重くない

1 この記事が扱う「強さ」の意味

2 裁判長であることと結論を決めることは別である

第2 大法廷・小法廷で長官が持つ権限

1 大法廷では長官が裁判長となる

2 小法廷では出席した場合に裁判長となる

3 裁判は過半数で決まり,長官も一票である

4 違憲判断にも長官の特別な拒否権はない

第3 長官は事件を単独で大法廷へ回付できない

1 大法廷で裁判すべき事件は法令と規則が定める

2 長官は回付の通知を受けるが,単独で決定しない

3 一裁判官だけでは判例変更のための回付を決められない

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民事裁判における証拠の目的外使用禁止――導入検討の経緯と予想される影響(AI作成)

目次第1 この記事が扱う対象1 報道の内容と検討の時点2 この記事の範囲第2 訴訟記録は「何人も」閲覧できるという現行法の原則1 民訴法91条・91条の2による公開原則2 92条による例外は私生活の重大な秘密と営業秘密に限られる3 刑事訴訟法にはすでに「目的外使用」を禁じる規定がある第3 法務省が民事訴訟法の見直しを検討する契機1 国家賠償請求訴訟での取調べ映像の法廷再生2 法務省が示していた内部方針3 検察の捜査を違法と認めた国家賠償請求訴訟の広がり第4 商事法務研究会報告書が示していた「秘密保持命令」の構想1 研究会報告書の位置付け2 秘密保持命令の要件と効果3 8月21日の報道が伝える内容との異同第5 先行する刑事再審手続の改正が示す対立の構造1 再審法改正が導入した目的外使用の罰則2 袴田事件の再審無罪を支えた市民の検証活動3 日弁連・日本新聞協会が示した懸念第6 証拠の目的外使用制限をめぐる外国法制1 アメリカ――「正当な事由」による個別審査2 ドイツ――秘密保持命令の民事訴訟一般への拡大第7 目的外使用が制限された場合に予想される弊害1 冤罪救済に向けた市民の検証活動が妨げられる2 捜査・行政の適法性に対する社会的な検証が及びにくくなる3 報道機関への情報提供が萎縮する4 対抗利益としてのプライバシー・営業秘密の保護5 現時点の到達点第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 報道5 文献
第1 この記事が扱う対象
1 報道の内容と検討の時点
共同通信は,2026年8月21日,法務省が民事訴訟法の見直しを法制審議会に諮問する方向で検討していると報じた。
焦点は,民事裁判に提出された証拠を裁判外の目的で利用できる現行制度を変更し,刑事裁判の証拠に適用されている「目的外使用」の禁止を,民事裁判にも導入するか否かにある。
同記事は,背景として,検察官から違法な取調べを受けたとする元被告らによる国家賠償請求訴訟において,事情聴取の様子が報道機関などを通じて公開されるケースが増えていることを挙げ,制度が実現すれば外部検証が困難になるという懸念と,証拠提出のハードルが下がるという期待の両方に触れている。

本記事は,AIを用いてこの報道の背景事情,現行法の到達点,直近の類似の立法例及びこれに対する反応,並びに外国法制を調査し,論評するものである。
法務省・法制審議会の公式サイトを2026年8月22日時点で確認したところ,民事訴訟の証拠使用制限に関する部会は設置されておらず,正式な諮問文も公表されていない。
したがって,本記事が扱う制度は,なお検討の初期段階にあるものであり,具体的な条文案や施行時期は明らかになっていない。

その後,2026年9月14日に開催された法制審議会第206回会議において,法務大臣から発せられた「民事訴訟制度の見直しに関する諮問第131号」を,新設の「民事訴訟法(証拠収集等関係)部会」に付託して審議することとされた。
同会議の配布資料は,主な検討事項の一つとして「民事訴訟手続における当事者等の秘密の保護を可能にする方策」を挙げている。
上記の「部会は設置されておらず,正式な諮問文も公表されていない」との記載は2026年8月22日時点の確認結果であり,現在の検討は法制審議会の部会での審議に移っている。
2 この記事の範囲
この記事では,まず民事訴訟記録の閲覧に関する現行法の原則を確認したうえで,今回の検討の契機となったとみられる具体的な出来事,公益社団法人商事法務研究会に設置された研究会がすでに示していた関連する制度提案,そして,ほぼ同時期に成立した刑事再審手続の改正をめぐって現に生じている対立を取り上げる。
刑事再審手続の改正は,民事訴訟の見直しとは別の手続で成立した別個の法律であるが,「証拠の目的外使用を一律に禁止することの当否」という同じ論点をめぐって,賛否双方の主張がすでに具体的な形で示されており,民事訴訟の議論の行方を考えるうえで参考になる。
最後に,同種の制度を持つ外国法制を確認したうえで,目的外使用が制限された場合に具体的に予想される弊害を,これまでに確認した事実に即して整理する。
個別の事件について,捜査や裁判所の判断の当否そのものを論評することは,この記事の目的ではない。
第2 訴訟記録は「何人も」閲覧できるという現行法の原則
1 民訴法91条・91条の2による公開原則
民事訴訟法91条1項は,紙媒体等の非電磁的訴訟記録について,「何人も,裁判所書記官に対し,……その閲覧を請求することができる」と定める。
令和4年の民事訴訟法改正で新設された91条の2第1項も,電磁的訴訟記録について同じく「何人も」閲覧を請求できるとしている。
訴訟の当事者であるかどうかを問わず,第三者が広く閲覧できるのがこの制度の骨格であり,令和4年改正後の現行法においても維持されている原則である。
謄写や複写は当事者又は利害関係を疎明した第三者に限られるが,閲覧そのものは何人にも開かれている。
民事記録の閲覧・謄写の手続の詳細は,「民事事件記録の閲覧・謄写」で扱っている。

この公開原則は,憲法82条が定める裁判公開の原則を徹底したものと位置付けられている。
昭和23年の民事訴訟法改正で,訴訟記録の閲覧が当事者及び利害関係のある第三者に限られていた旧規定が改められ,何人も閲覧できる制度になった経緯があり,家事事件手続法や非訟事件手続法が当事者にも裁判所の許可を要求しているのとは対照的である。
2 92条による例外は私生活の重大な秘密と営業秘密に限られる

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労働審判員の任命,役割,権限及び裁判例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と労働審判員の位置付け1 この記事が扱う範囲2 非常勤の裁判所職員であること3 労働審判委員会の構成第2 任命,任期,推薦及び事件ごとの指定1 任命資格と欠格事由2 労使団体による推薦の法的位置付け3 2年の任期,所属裁判所及び事件指定4 解任第3 期日,調停及び労働審判における役割と権限1 事情聴取と争点・証拠の整理2 調停による解決3 評議と議決4 労働審判書への署名押印第4 中立性,除斥及び忌避1 法定の除斥原因2 忌避制度がないこと3 専門性と中立性の緊張関係第5 守秘義務,記録管理,手当及び旅費1 在職中及び退職後の守秘義務2 記録の事前検討と情報管理3 手当及び旅費第6 人数,事件数及び手続の終了状況1 全国の労働審判員数2 令和6年の事件処理3 利用者評価の読み方第7 労働審判員に関係する裁判例1 裁判例の全体像2 大阪地裁平成25年11月26日判決3 長崎地裁令和2年12月1日判決4 重要な隣接裁判例第8 現在の制度上の論点1 代表性と多様性2 労働法知識と労使実務知識3 記録のデジタル化と遠隔期日第9 類似する裁判所制度との違い1 調停委員との違い2 専門委員との違い3 裁判員及び労働委員会委員との違い第10 出典・参考資料1 法令及び最高裁判所規則2 裁判例3 裁判所資料,国会会議録及び統計4 調査報告,論文及び書籍
第1 この記事の対象と労働審判員の位置付け
1 この記事が扱う範囲

労働審判員は,個別労働紛争を扱う労働審判委員会に,労働審判官である裁判官とともに加わる専門家である。本記事は,令和8年8月20日現在の法令及び公表資料に基づき,労働審判員の任命,任期,事件ごとの指定,役割,議決権,除斥,守秘義務及び解任を説明し,労働審判員を含む委員会の職務を扱った裁判例と現在の制度上の論点を整理するものである。

労働審判法は平成16年法律第45号として成立し,平成18年4月に施行された。労働審判手続は,労働者と事業主との間の個別民事紛争を対象とし,労働関係の専門家が参加する審理,調停及び必要な場合の労働審判を一つの手続に組み合わせている。

2 非常勤の裁判所職員であること

労働審判法9条によれば,労働審判員は,労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから最高裁判所が任命し,非常勤とされる。裁判所の公式説明は,これを「非常勤の裁判所職員」と表現している。労働審判員は,当事者の代理人でも,推薦した労働団体又は使用者団体の利益代表でもなく,中立かつ公正な立場で職務を行う。

この地位は,労働委員会の労働者委員又は使用者委員,民事・家事調停の調停委員,専門訴訟で裁判所を補助する専門委員,一定の重大刑事事件を審理する裁判員とは異なる。裁判所で働く者の全体像との関係は,裁判所における一般職の職員―職種・身分・定員・採用で整理している。

3 労働審判委員会の構成

労働審判法7条は,労働審判委員会を労働審判官1人及び労働審判員2人で組織すると定める。労働審判員2人を形式的な助言者にとどめず,労使実務の知識経験を審理と判断へ直接取り込むことが,この制度の中心的な特徴である。

実務上は,労働者側の実務経験を持つ者1人と使用者側の実務経験を持つ者1人を組み合わせる運用が,各地の地方裁判所委員会議事概要から確認できる。ただし,「労使各1人」は法律に明記された構成要件ではない。法律が求めるのは,事件ごとの知識経験その他の事情を総合考慮し,委員会の適正な構成を確保することである。

第2 任命,任期,推薦及び事件ごとの指定
1 任命資格と欠格事由

労働審判員規則1条によれば,労働審判員は,原則として68歳未満で,労働関係に関する専門的な知識経験を有する者から任命される。特に必要がある場合には年齢要件の例外があるため,「68歳以上は一律に任命できない」とするのは正確でない。

同規則2条は,①拘禁刑以上の刑に処せられた者,②労働関係法令違反により罰金刑に処せられた者,③公務員として懲戒免職となり,処分の日から2年を経過しない者,④中立・公正を害する行為等を理由として労働審判員を解任された者を欠格者としている。令和7年施行の刑法改正後は,旧来の「禁錮以上」ではなく「拘禁刑以上」という現行条文を用いる必要がある。

2 労使団体による推薦の法的位置付け

労働審判法及び労働審判員規則は,労働組合又は使用者団体による推薦を任命の法定要件としていない。他方,立法時の国会答弁及び地方裁判所委員会の議事概要によれば,実務では,連合,経団連その他の労使団体を通じた推薦が,候補者を確保する主要な経路となっている。

推薦は,専門的知識経験を持つ候補者を発掘するための仕組みであり,推薦団体から事件処理について指揮を受ける関係を作るものではない。労働審判員は,その経歴にかかわらず,個々の事件では中立かつ公正に職務を行わなければならない。推薦実務と中立性を区別することが,制度を理解する上で重要である。

3 2年の任期,所属裁判所及び事件指定

労働審判員の任期は2年であり,最高裁判所が所属する地方裁判所を定める。特に必要がある場合には,最も近い共通の上級裁判所が,所属外の地方裁判所で職務を行わせることもできる。

最高裁判所による任命と,個別事件への指定は別の段階である。任命された労働審判員の中から,事件ごとに裁判所が2人を指定し,知識経験その他の事情を総合考慮して委員会の適正な構成を確保する。労働審判法10条の指定主体は「裁判所」であるため,一般的な制度説明として「労働審判官が指定する」と言い換えるのは正確でない。

労働審判を取り扱う庁は,全国50地裁本庁と立川,浜松,松本,福山及び小倉の5支部である。従って,労働審判員の「所属裁判所」と当事者の住所地に最も近い支部とが一致するとは限らない。本庁集約と開廷日割の全国比較は,全国の地方裁判所支部における本庁集約と開廷頻度―合議・裁判員・労働審判・民事執行の比較(AI作成)参照。

4 解任

労働審判員が欠格事由に該当したとき,最高裁判所は解任しなければならない。また,心身の故障により職務を行えないとき,職務上の義務に違反したとき,中立かつ公正に職務を行えないと認めるに足りる行為があるとき,又は品位を害して適任でないときは,最高裁判所が解任することができる。

最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会令和7年3月5日答申からは,令和5年1月から4月までに福岡地方裁判所所属の労働審判員1人について解任関係文書が作成されたことを確認できる。ただし,氏名,具体的理由及び適用条項の一部は不開示であり,解任原因は公表資料から確定できない。

第3 期日,調停及び労働審判における役割と権限
1 事情聴取と争点・証拠の整理

労働審判員は,期日に出席し,当事者から事情を聴き,争点及び証拠を整理する。労働審判委員会は,職権で事実を調査し,申立て又は職権で必要な証拠調べをすることができる。労働審判員も,労働現場の実情,労使慣行及び人事労務管理の知識を踏まえて質問し,事実の意味を評価する。

労働審判手続は,原則として3回以内の期日で審理を終結し,第1回期日は特別の事情がない限り申立ての日から40日以内に指定される。当事者は第2回期日の終了までに主張及び証拠を提出することが求められるため,労働審判員には,短期間で書面と証拠を把握し,法律上の争点と職場の実情を結び付けて検討する役割がある。

2 調停による解決

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裁判所の専門委員制度―関与手続,鑑定人との違い及び説明の証拠上の扱い(AI作成)

第1 専門委員制度の対象と記事の射程

1 専門委員は裁判所の理解を補助する外部専門家であること
2 平成15年改正で「意見」ではなく「説明」とされたこと

第2 任命,事件指定及び公正性の保障

1 任期,所属及び事件ごとの指定
2 除斥,忌避及び関与決定の取消し

第3 三つの関与場面と当事者の同意

1 関与場面ごとに同意要件が異なること
2 期日外の準備と当事者の反論機会
3 遠隔関与及び令和8年のデジタル化

第4 鑑定人,裁判所調査官等との違い

1 選任主体,役割及び証拠性の比較
2 専門委員の説明は鑑定の代用にならないこと
3 医療訴訟における評価的説明

第5 利用分野と令和7年司法統計

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相続放棄の手続きを自分でするには―必要書類・費用・申述書の書き方(AI作成)

第1 この記事の対象と手続の全体像

1 自分で進めやすい相続放棄

2 最初に確認する三つの事項

第2 3か月の期限と申述前にしてはいけないこと

1 死亡日から一律に3か月ではない

2 遺産の処分を止める

3 調査が終わらないときは期間伸長を申し立てる

第3 誰がどの家庭裁判所へ申述するか

1 申述人と未成年者の利益相反

2 提出先は被相続人の最後の住所地で決まる

第4 相続順位別の必要書類

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民事訴訟の機動的審理運営とは――てん補裁判官によるウェブ会議活用の仕組みと法的根拠(AI作成)

第1 この記事が扱う対象1 最高裁判所事務総局が作成した文書とその出所2 検討の対象と時点第2 機動的審理運営の仕組み1 てん補による事件処理と運用のイメージ2 対象となる事件3 書記官の関与第3 対象となる手続の限定とその理由1 「書面による準備手続の協議」及び「事実上の打合せ」に限られること2 口頭弁論期日及び弁論準備手続期日が除外される理由第4 制度を支える法的根拠1 書面による準備手続と協議(民事訴訟法175条・176条)2 てん補と裁判官の配置(下級裁判所事務処理規則6条・10条)3 支部の位置づけ(裁判所法31条)第5 民事訴訟IT化の中での位置づけ1 ウェブ会議を用いた争点整理及び口頭弁論の拡大の経緯2 令和8年5月21日の全面施行との時期的な関係第6 運用の実際――担当裁判官へのヒアリング結果1 期日間隔の短縮という効果2 代理人の反応と対面手続の併用第7 法定審理期間訴訟手続との異同第8 制度の射程と現時点で明らかでない点出典・参考資料1 法令2 最高裁判所規則3 公文書・行政資料4 国会議事録
第1 この記事が扱う対象
1 最高裁判所事務総局が作成した文書とその出所
弁護士山中理司のX(旧Twitter)アカウントには,2026年7月16日,「民事訴訟の機動的運営について(令和8年4月の最高裁事務総局の文書)を添付しています」との投稿とともに,画像4枚が添付されている。4枚はそれぞれ「民事訴訟の機動的審理運営について(その1)」「同(その2)」「(参考)民訴フェーズ3前の実践を担当した裁判官からのヒアリング結果(その1)」「同(その2)」と題する資料であり,作成者は最高裁判所事務総局,作成時期は令和8年4月と記載されている。本記事作成時点で,この文書は裁判所ウェブサイト上には公表が確認できず,PDFファイルとして参照できる(4頁)。本記事は,生成AIを用いてこの文書の画像を読み取り,記載内容を条文及び関連の公的資料と照合した上で,機動的審理運営という取組みの内容と法的な位置づけを整理するものである。
2 検討の対象と時点
本記事が対象とするのは,2026年8月現在で確認できる文書の記載内容,これに関連する民事訴訟法及び最高裁判所規則の条文,並びに民事訴訟のIT化に関する裁判所及び法務省の公表資料である。文書自体が裁判所の内部説明資料であることから,記載されている運用の対象範囲や実施状況が今後変更される可能性がある点に留意されたい。
第2 機動的審理運営の仕組み
1 てん補による事件処理と運用のイメージ
文書は,機動的審理運営を「裁判官がてん補による事件処理をしている場合,事件係属庁以外の庁に在庁しながら,ウェブ会議を利用して手続(書面による準備手続の協議等)を実施することにより,てん補日の制約を受けることなく柔軟に手続の日時を指定することを可能にし,当事者の利便性向上と裁判の迅速化を図るという運用」と説明している。「てん補」とは,ある裁判官が本来所属する庁(本務庁)以外の庁の事件処理も担当する司法行政上の運用を指す実務上の呼称であり,人的資源が限られる支部において判事の配置を補う目的で行われている。文書が示す例では,裁判官が月・水・木曜は本務庁に,火曜はてん補庁に在庁して事件を担当するという配置が前提とされており,機動的審理運営が実施される前は,てん補庁に係属する事件の手続を火曜以外の曜日に指定することが難しかった。文書が示す実施後のイメージは,本務庁に在庁していてもてん補庁に係属する事件の手続をウェブ会議で行い,逆にてん補庁に在庁していても本務庁に係属する事件の手続を行うというものであり,執務場所と手続対象事件の組合せが曜日を問わず柔軟になる点に眼目がある。
2 対象となる事件
文書は,対象となる事件を,地方裁判所及び家庭裁判所に係属する合議事件及び単独事件の民事訴訟(人事訴訟を含む)としている。中心となるのはてん補裁判官が担当する事件であるが,双方代理人が選任されていない本人訴訟についても,双方当事者の意向等を総合考慮して適切な事件を選定すれば対象とし得るとされている。新規に提起される事件に限定されず,民訴フェーズ3の全面施行前に紙媒体で記録が作成された既存事件も対象となり得る。
3 書記官の関与
書記官が協議等に立ち会う場合には,ウェブ会議を利用し,本務庁に係属する事件については本務庁所属の書記官が,てん補庁に係属する事件についててん補庁所属の書記官が立ち会うことが原則とされている。もっとも,本務庁所属の書記官がてん補庁に係属する事件の手続にウェブ会議で立ち会うこともあるとされており,文書は,裁判官と書記官の所在が物理的に離れる場合が生じることから,双方のコミュニケーション方法を工夫する必要があると留意点を付している。
第3 対象となる手続の限定とその理由
1 「書面による準備手続の協議」及び「事実上の打合せ」に限られること
文書が対象とする手続は,当事者双方とウェブ会議で接続して実施する「書面による準備手続の協議」又は「事実上の打合せ」に限られている。具体的な事件において手続の日時を指定するに当たっては,実施する手続の種別及び裁判官が所在する庁を当事者に説明し,その理解を得ることとされており,同一事件であっても,手続の回ごとに裁判官の所在する庁(本務庁又はてん補庁)が変わることがあり得るとされている。ウェブ会議と対面手続の使い分けについては,事案の性質や当事者の意向等を踏まえて進行に留意すべきものとされており,対面でコミュニケーションを行うべき場合には対面での手続を実施するなど,一律にウェブ会議へ切り替えることは想定されていない。
2 口頭弁論期日及び弁論準備手続期日が除外される理由
文書は,口頭弁論期日及び弁論準備手続期日を対象から明示的に除外し,その理由として「事件係属庁以外の庁に在籍する裁判官による期日の実施には法的課題あり」と付記している。この「法的課題」の具体的な内容そのものは文書には記載されていないが,後記第4のとおり,書面による準備手続における「協議」(民事訴訟法176条2項)が当事者の出頭を前提としない手続として設計されているのに対し,口頭弁論及び弁論準備手続の「期日」は当事者の出頭を観念する訴訟行為の場である点に,両者の取扱いを分ける手がかりがあると考えられる。
第4 制度を支える法的根拠
1 書面による準備手続と協議(民事訴訟法175条・176条)
民事訴訟法175条は,書面による準備手続を「当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続」と定義する。同法176条2項は,「裁判所は,書面による準備手続を行う場合において,必要があると認めるときは,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について,当事者双方と協議をすることができる。この場合においては,協議の結果を裁判所書記官に記録させることができる」と定めており,この「協議」が機動的審理運営の対象手続の一つに当たる。書面による準備手続がそもそも当事者の出頭を要しない手続として設計されている以上,同条に基づく協議も,裁判所という場所への当事者の物理的な出頭を前提としない手続であるといえる。文書が「事実上の打合せ」と呼ぶもう一つの対象は,175条以下が定める法定の手続にも該当しない,当事者との連絡調整に類する非公式なやりとりを指すものと考えられ,この点でも当事者の出頭という概念とは無縁である。

これに対し,口頭弁論の期日(民事訴訟法87条の2)及び弁論準備手続の期日(同法170条3項)は,いずれも裁判所及び当事者双方が現実に又は映像・音声の送受信を通じて相手の状態を認識しながら関与する訴訟行為の場として構成されている。同法170条3項は,弁論準備手続の期日について「裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,弁論準備手続の期日における手続を行うことができる」と定めており,176条2項の文言と類似するものの,175条の外側にある「弁論準備手続」という独立の手続類型に属する点で異なる。本記事では,事件係属庁以外の庁に在庁する裁判官による「期日」の実施に法的課題があるとされているのは,「期日」という訴訟法上の概念が,当事者の出頭を観念する以上,その実施の場所と裁判官の所在場所との関係について,「協議」とは異なる整理を要するためではないかと考えられるが,この点を正面から論じた公的資料は確認できておらず,今後の運用の集積を待つ必要がある。
2 てん補と裁判官の配置(下級裁判所事務処理規則6条・10条)
「てん補」という語自体は,裁判所法にも最高裁判所規則にも定義されていない。もっとも,下級裁判所事務処理規則(昭和23年最高裁判所規則第16号)6条1項は,「高等裁判所,地方裁判所及び家庭裁判所における裁判事務の分配,裁判官の配置及び裁判官に差支のあるときの代理順序については,毎年あらかじめ,当該裁判所の裁判官会議の議により,これを定める」と定めており,てん補は,この「裁判官の配置」の一環として,ある裁判官を本務庁以外の庁の事件処理にも充てる司法行政上の運用であると理解される。同規則10条は「裁判官が,その勤務する裁判所の所在地外で職務を行おうとするときは,当該裁判所にその旨を届け出なければならない」と定めており,てん補裁判官が本務庁以外で職務を行う場合の届出義務の根拠となり得る規定である。
3 支部の位置づけ(裁判所法31条)
裁判所法31条は,「①最高裁判所は,地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるため,その地方裁判所の管轄区域内に,地方裁判所の支部又は出張所を設けることができる。②最高裁判所は,地方裁判所の支部に勤務する裁判官を定める」と定めている。この条文が示すとおり,支部は独立した裁判所ではなく,地方裁判所という一つの官署の内部組織として位置づけられている。この構造を踏まえると,てん補による支部での事件処理も,法的には当該地方裁判所自体の事務処理の一環であって,別の裁判所の事務を代行しているのではないと整理できる。
第5 民事訴訟IT化の中での位置づけ
1 ウェブ会議を用いた争点整理及び口頭弁論の拡大の経緯
民事訴訟のIT化は,令和2年2月頃からMicrosoft Teams等を利用したウェブ会議による争点整理の先行運用(実務上「フェーズ1」と呼ばれる段階)に始まり,令和4年法律第48号による民事訴訟法等の改正を経て,弁論準備手続及び和解期日へのウェブ会議参加(令和5年3月1日),口頭弁論期日へのウェブ会議参加(令和6年3月1日,家庭裁判所は令和7年3月1日),人事訴訟及び家事調停への拡大(令和7年3月1日)という順序で段階的に施行されてきた。この経緯は,別稿「裁判手続のデジタル化」でも取り上げている。

(続きを読む...)民事訴訟の機動的審理運営とは――てん補裁判官によるウェブ会議活用の仕組みと法的根拠(AI作成)

相続財産清算人と破産管財人の違い――地位,権限,弁済・配当,報酬及び免責の比較(AI作成)

第1 この記事が扱う対象1 問題の所在2 破産管財人の選任及び報酬の基本と,相続財産清算人が破産手続に移行する場面は別稿に譲ること第2 両制度の基本的な位置付け1 根拠規定と選任機関2 法的地位の違い第3 管理処分権限の範囲1 相続財産清算人の権限2 破産管財人の権限3 許可を要する行為と金額基準の違い第4 破産手続に特有で相続財産清算手続に存在しない制度1 双方未履行双務契約の処理2 相殺の禁止3 否認権4 担保権消滅の許可第5 債権の確定と弁済・配当の方法1 相続財産清算手続における請求申出の催告と弁済2 破産手続における債権届出・調査・確定と配当第6 報酬の決定方法の違い1 相続財産清算人の報酬2 破産管財人の報酬3 報酬決定に対する不服申立ての可否という違い第7 免責制度の射程1 破産法248条の「個人である債務者」2 相続財産清算手続に免責という概念がないこと第8 両制度の交わる場面――相続財産の破産第9 制度の沿革1 令和3年改正による名称変更2 国会審議における言及の有無出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国会会議録第1 この記事が扱う対象1 問題の所在

相続人のあることが明らかでない相続財産と,債務者一般の財産とは,いずれも財産の清算を担う機関を裁判所が選任するという点で共通する。前者は家庭裁判所が選任する相続財産清算人(民法951条及び952条)が担い,後者は地方裁判所が選任する破産管財人(破産法)が担う。両者は選任の根拠法が異なるだけでなく,法的地位,管理処分権限の範囲,債権確定・弁済の方法,報酬の決定手続及び免責制度の有無という点でも制度設計が大きく異なる。本記事は,民法及び破産法の条文並びに公表された裁判例を確認した上で,相続財産清算人と破産管財人の制度上の違いを整理するものである。

比較事項相続財産清算人破産管財人対象と選任機関相続人のあることが明らかでない相続財産。家庭裁判所が選任する破産財団。破産事件を担当する地方裁判所が選任する管理・処分の権限保存・性質を変えない利用・改良を超える行為には家庭裁判所の許可を要する財団の管理処分権が専属するが,法78条2項の行為には原則として許可を要する弁済・配当と否認民法の清算手続による。破産法上の否認権はない債権調査・法定順位による配当を行い,否認制度がある個人の免責清算人の選任自体に個人の免責制度は伴わない個人の破産では別途免責の審理がある。法人・相続財産の清算とは区別する

相続財産に関する管理人には,相続財産清算人のほかにも,民法897条の2の相続財産管理人,不在者財産管理人,遺産分割中の財産管理者及び特別代理人という,似た名称の複数の制度が併存している。これらの選び方及び相互の違いについては,「相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違いと代位による相続登記」で整理しており,本記事では立ち入らない。本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)を対象とし,これを破産管財人と比較する。清算手続の流れそのものは,「相続財産清算人とは」で整理している。

2 破産管財人の選任及び報酬の基本と,相続財産清算人が破産手続に移行する場面は別稿に譲ること

破産管財人の選任基準及び報酬の決定要素の詳細は,「破産管財人の選任基準と報酬の決まり方」で整理している。また,相続財産清算人が選任されている事件が相続財産の破産(破産法222条以下)に移行する場面,すなわち個人の破産事件の係属中に破産者が死亡した場合の取扱いについては,「破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続」で詳細に整理している。本記事は,これらと重複する説明を避け,相続財産清算人と破産管財人という二つの制度そのものの違いに絞って記述する。

第2 両制度の基本的な位置付け1 根拠規定と選任機関

相続財産清算人は,相続人のあることが明らかでないときに,利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所が選任する(民法951条及び952条1項)。これに対し,破産管財人は,破産法74条1項に基づき裁判所が選任する。破産財団に属する財産の管理処分権が管財人に専属することは,同法78条1項に定められている。破産事件の管轄は地方裁判所であるから(同法5条),破産管財人を選任するのは地方裁判所である。相続財産清算人は家庭裁判所,破産管財人は地方裁判所という選任機関の違いは,前者が相続法及び家事事件手続の枠組みに属し,後者が倒産法の枠組みに属することの帰結である。

2 法的地位の違い

相続人のあることが明らかでない場合,権利義務の帰属主体は,相続財産清算人個人ではなく,民法951条により法人とされた相続財産(相続財産法人)である。相続財産清算人は,この相続財産法人の代表者として管理・清算に当たる。これに対し,破産管財人は,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利そのものが専属する者である(破産法2条12項及び78条1項)。破産者自身は,破産手続開始の決定によってこの管理処分権を失う。

破産管財人の法的地位については,担保価値保存義務との関係で最高裁判所の判断が示されている。最高裁判所第一小法廷平成18年12月21日判決(平成17年(受)第276号,損害賠償請求事件,民集60巻10号3964頁)は,破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で開始決定後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をし,質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害した事案について,当時破産財団に賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており現実に支払うことに支障がなかったなどの事情の下では,担保価値を維持すべき義務に違反すると判断した。この判断は,破産管財人が破産財団に属する財産の管理処分権者として,個別の担保権者との関係でも独自の注意義務を負う立場にあることを示している。相続財産清算人について,これに対応する義務の内容を正面から論じた公表裁判例は,本記事の調査の範囲では見当たらなかった。

第3 管理処分権限の範囲1 相続財産清算人の権限

民法953条は,不在者の財産の管理人に関する民法27条から29条までの規定を,相続財産清算人について準用する。このうち28条は,「管理人は,第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは,家庭裁判所の許可を得て,その行為をすることができる」と定める。同法103条は,権限の定めのない代理人がすることのできる行為を,保存行為並びに物又は権利の性質を変えない範囲内での利用又は改良を目的とする行為に限っている。したがって,相続財産清算人の権限は,保存行為及び利用・改良行為が原則であり,これを超える行為,例えば不動産の売却,訴えの提起又は権利の放棄をするには,家庭裁判所の許可(権限外行為許可)を得なければならない。この許可を得ずにした権限外の行為は,代理権の範囲を超えた行為として,民法113条1項の無権代理の規律に服することになる。預金の解約や不動産・株式の売却など,行為の類型ごとの許可の要否は,「相続財産清算人の権限外行為許可」で整理している。

2 破産管財人の権限

これに対し,破産法78条1項は,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利が破産管財人に専属すると定める。相続財産清算人が保存行為及び財産の性質を変えない利用・改良の範囲を超える行為について家庭裁判所の許可を要するのに対し,破産管財人は当初から破産財団の包括的な管理処分権を有している。もっとも,この権限にも一定の制約がある。同条2項は,不動産に関する物権の任意売却,営業又は事業の譲渡,訴えの提起,権利の放棄など15類型の行為について,裁判所の許可を要すると定める。このうち第七号から第十四号までの行為,すなわち動産の任意売却,債権又は有価証券の譲渡,双方未履行契約の履行請求,訴えの提起,和解,権利の放棄,取戻権・別除権の承認及び別除権の目的財産の受戻しについては,最高裁判所規則で定める額以下の価額のものであれば許可を要しない(同条3項1号)。許可を得ないでした行為は無効であるが,善意の第三者に対しては対抗することができない(同条5項)。

3 許可を要する行為と金額基準の違い

破産管財人について,破産法78条3項1号が許可を不要とする価額は,破産規則25条により100万円と定められている。単なる実務上の目安ではなく,同法78条2項7号から14号までの行為に限って適用される法令上の基準である。不動産に関する物権の任意売却や事業譲渡などへ,この金額だけを理由に例外を広げることはできない。

相続財産清算人については,民法953条が準用する28条と103条により,保存行為及び財産の性質を変えない利用・改良の範囲を超える行為に家庭裁判所の許可が必要になる。全国一律の「100万円以下なら許可不要」という例外は定められていない。まず行為の内容を確認し,許可の要否や申立資料に疑問がある場合は,選任した家庭裁判所に確認する。

管財人の権限と本人・債権者の対応の基本は,破産管財人とは―役割・権限・手続の流れに整理している。

第4 破産手続に特有で相続財産清算手続に存在しない制度

破産法には,相続財産清算手続の根拠となる民法951条から959条まで及び953条が準用する27条から29条までには対応規定のない制度が複数置かれている。以下の4点は,いずれも相続財産清算人の権限を定める民法の規定には現れない。

1 双方未履行双務契約の処理

破産法53条1項は,破産者の相手方との間の双務契約について,破産者及び相手方の双方がまだ履行を終えていないときは,破産管財人が契約の解除をするか,破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求するかを選択することができると定める。この選択権は,破産手続に特有の制度であり,相続財産清算人にはこれに相当する明文の権限は与えられていない。相続財産清算人が被相続人の締結した契約の帰趨を処理する場合には,個別の権限外行為許可の枠組みで対応することになる。

2 相殺の禁止

破産法71条及び72条は,一定の時期以後に生じた債務負担又は債権取得を理由とする相殺を禁止する。例えば,同法71条1項1号は,破産債権者が破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担した場合の相殺を,善意悪意を問わず一律に禁止している。これは,破産手続開始後に生じた事情を利用して他の債権者に優先して満足を得ることを防ぐための強行規定である。相続財産清算手続には,これに相当する明文の相殺禁止規定はない。民法957条2項が準用する928条は,請求申出の期間が満了する前に清算人が弁済を拒むことができるとする規定であり,相続債権者が一方的な意思表示によってする相殺(民法505条1項)を止める規定ではない。そのため,例えば金融機関が被相続人に対する貸付金債権と相続財産法人の預金債権とを相殺した場合,相殺の要件を満たす限り,その債権者は他の相続債権者に先立って回収する結果となり得る。清算人が相殺の効力を争うには,相殺の要件を欠くことを個別に主張するほかない。これに対し,相続財産について破産手続が開始されれば,破産法71条及び72条の相殺禁止規定が問題となる。

3 否認権

破産法160条は,破産者が破産債権者を害することを知ってした行為を,破産手続開始後,破産財団のために否認することができると定める。同法162条は,支払不能になった後の既存債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為についても,債権者の悪意を要件として否認の対象とする。相続財産清算手続には,これに対応する否認権の制度がない。相続財産清算人が清算の過程で不当に財産を減少させる行為をしても,清算手続そのものの枠内でこれを取り消す手段は用意されていない。

もっとも,相続財産清算人が管理する相続財産について破産法上の相続財産の破産(同法222条以下)が開始された場合には,話が別になる。同法234条は,「相続財産について破産手続開始の決定があった場合における第六章第二節の規定の適用については,被相続人,相続人,相続財産の管理人,相続財産の清算人又は遺言執行者が相続財産に関してした行為は,破産者がした行為とみなす」と定めており,相続財産清算人が管理処分権に基づいてした行為も,否認権の対象となり得る。この場面の詳細は,前記「破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続」を参照されたい。

4 担保権消滅の許可

破産法186条1項は,破産財団に属する財産に担保権が存する場合において,その財産を任意に売却して担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合するときは,破産管財人が,売却代金等に相当する金銭を裁判所に納付することによって当該財産に存する全ての担保権を消滅させることについて,裁判所の許可を申し立てることができると定める。相続財産清算手続には,これに相当する制度がない。そのため,相続財産である不動産に複数の抵当権が設定されている場合,清算人が任意売却をするには,後順位の担保権者を含む全ての担保権者から抹消について同意を得る必要があり,同意が得られなければ,担保権の実行による競売に委ねることになる。相続財産清算人による任意売却の進め方,担保権・差押えの処理及び売買契約の条項は,「相続財産清算人による不動産の任意売却」で整理している。

第5 債権の確定と弁済・配当の方法1 相続財産清算手続における請求申出の催告と弁済

相続財産清算人が選任され,家庭裁判所が相続人捜索の公告をしたときは,清算人は,全ての相続債権者及び受遺者に対し,2箇月以上の期間を定めて,その期間内に請求の申出をすべき旨を公告しなければならない(民法957条1項)。この請求申出の期間は,家庭裁判所が定めた相続人捜索の公告期間内に満了するものでなければならない。同条2項は,民法927条2項から4項まで及び928条から935条まで(932条ただし書を除く。)の規定を準用している。清算人は,請求申出の期間が満了するまでは,相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる(民法957条2項,928条)。もっとも,これは弁済を拒む権利を定めたものであり,期間内の弁済を禁止する規定ではない。期間内に弁済したことによって他の相続債権者又は受遺者に弁済をすることができなくなったときは,清算人は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う(同法957条2項,934条1項)。期間が満了した後は,期間内に申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に,それぞれの債権額の割合に応じて弁済しなければならないが,優先権を有する債権者の権利を害することはできない(同法957条2項,929条)。

期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者であっても,清算人に知れていた者は,清算から除かれない。除かれるのは,期間内に申出をせず,かつ,清算人に知れなかった者であり,その者は,相続財産について特別担保を有する場合を除き,残余財産についてのみ権利を行使することができる(同法957条2項,935条)。さらに,相続人捜索の公告期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは,清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は,その権利を行使することができなくなる(同法958条)。届出のない債権が配当から当然に外れる破産手続とは,この点でも仕組みが異なる。

相続財産が全ての債務を弁済するに足りない場合,相続財産清算人は,各債権者の債権額の割合に応じて弁済(按分弁済)をすることになるが,破産手続のように裁判所の決定によって配当を実施する制度ではない。清算人が按分弁済を実施するに当たっては,個々の債権者との関係を整理し,実務上は債権者の同意を得た上で弁済を進める取扱いがされている。

2 破産手続における債権届出・調査・確定と配当

これに対し,破産手続には,破産債権の届出,調査及び確定という一連の手続が制度化されている。破産債権者は,裁判所が定めた期間内に債権を届け出て(破産法111条),破産管財人がこれを認めるか否かを判断する(同法117条以下)。管財人が認め,届出をした破産債権者から異議のない事項は確定し,破産債権者表の記載は,破産債権者の全員に対して確定判決と同一の効力を有する(同法124条1項・3項)。破産者本人に対する効力は,同法221条の要件と免責の効力を別に確認する必要がある。異議等のある債権は,原則として破産債権査定の申立てにより額等を確定する(同法125条)。ただし,開始時に訴訟が係属している場合や,執行力ある債務名義又は終局判決のある債権では,同法127条・129条による訴訟手続を確認する必要がある。

配当は,この確定手続を経た破産債権について実施される。破産法194条1項は,配当の順位を,優先的破産債権,一般の破産債権,劣後的破産債権及び約定劣後破産債権の順に定め,同一順位の債権については債権額の割合に応じて配当をすると定める(同条2項)。この配当は,破産債権者の個別の同意を要件とせず,裁判所が定める手続に従って実施される。相続財産清算手続における按分弁済が実務上債権者の同意を前提として進められるのに対し,破産手続における配当は法定の順位及び手続に従って実施されるという点で,両者は異なる。

第6 報酬の決定方法の違い1 相続財産清算人の報酬

民法953条が準用する29条2項は,「家庭裁判所は,管理人と不在者との関係その他の事情により,不在者の財産の中から,相当な報酬を管理人に与えることができる」と定める。相続財産清算人の報酬は,この規定に基づき,清算人からの申立てを受けて家庭裁判所が審判で定める。

2 破産管財人の報酬

破産法87条1項は,「破産管財人は,費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる」と定める。破産管財人の報酬についても,裁判所が審判類似の決定によって定める点は相続財産清算人と共通する。もっとも,同条2項は,「前項の規定による決定に対しては,即時抗告をすることができる」と明文で定めている。報酬額の決定要素及び地方裁判所ごとの運用の違いについては,前記「破産管財人の選任基準と報酬の決まり方」で整理している。

3 報酬決定に対する不服申立ての可否という違い

家事事件手続法85条1項は,「審判に対しては,特別の定めがある場合に限り,即時抗告をすることができる」と定める。破産法87条2項のように報酬決定に対する即時抗告を明文で認める規定は,相続財産清算人の報酬付与審判については見当たらない。したがって,家事事件手続法85条1項の原則に従う限り,相続財産清算人に対する報酬付与の審判については,即時抗告をすることができないと解される。破産管財人の報酬決定には明文で即時抗告が認められているのに対し,相続財産清算人の報酬付与審判にはこれに相当する規定が見当たらないという違いは,両制度の不服申立ての構造の違いを示している。

第7 免責制度の射程1 破産法248条の「個人である債務者」

破産法248条1項は,免責許可の申立てをすることができる者を,「個人である債務者(破産手続開始の決定後にあっては,破産者。)」と定める。免責は,破産手続によって弁済されなかった破産債権について,破産者が引き続き負う責任を免れさせる制度であり,個人(自然人)の経済生活の再生を目的とする。したがって,法人が免責を受けることは制度上想定されていない。

2 相続財産清算手続に免責という概念がないこと

相続財産清算人が管理する相続財産法人は,自然人ではない。相続財産清算手続は,清算後に残余財産があれば特別縁故者への分与(民法958条の2)を経て,なお残った財産を国庫に帰属させる(同法959条)ことによって終了するのであり,「免責」という概念そのものが登場しない。相続財産清算人が相続財産の破産(破産法222条以下)を申し立てた場合についても,破産者と扱われるのは相続財産自体であって自然人ではないため,免責という制度の適用を観念する余地に乏しい。この場面における相続人の免責申立ての可否をめぐる議論及び高松高等裁判所平成8年5月15日決定の判断については,前記「破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続」で詳細に扱っているため,本記事では立ち入らない。

第8 両制度の交わる場面――相続財産の破産

相続財産清算人と破産管財人は,別々の法律に根拠を持つ別個の制度であるが,破産法第10章「相続財産の破産等に関する特則」(222条から244条まで)によって,相続財産が債務超過である場合には両者が接続する場面が用意されている。

破産法224条1項は,相続財産についての破産手続開始の申立権者として,相続債権者及び受遺者のほか,「相続人,相続財産の管理人,相続財産の清算人又は遺言執行者」を挙げている。相続財産清算人自身が,管理する相続財産について破産手続開始の申立てをすることができる。破産手続開始の原因は,相続財産をもって相続債権者及び受遺者に対する債務を完済することができないと認めるとき(債務超過)であり(同法223条),支払不能は要件とされていない。

同項は申立権を定める規定であり,相続財産が債務超過であることが判明した場合に,清算人に破産手続開始の申立てを義務付ける規定は現行の破産法にはない。破産手続によるかどうかは,破産手続に要する費用及び期間,債権の存否や額についての争いの有無,按分弁済について債権者の同意が得られるかどうか等を踏まえて検討することになる。

もっとも,相続財産清算人が選任されている事件が実際に相続財産の破産へ移行した場合の具体的な手続,相続財産清算人の任務がどのように扱われるか,及び相続人が固有財産で負う責任と熟慮期間との関係については,本記事では詳細に立ち入らない。これらの論点は,前記「破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続」で,破産法226条及び227条の規定並びに関連する公表裁判例を含めて整理済みである。

これとは逆に,相続人自身について破産手続が開始されており,開始決定前に生じた相続について開始決定後に破産者が相続放棄をする場面もある。この場合に適用されるのは,相続財産自体の破産に関する破産法222条以下ではなく,相続人の破産に関する同法238条及び242条である。破産管財人は相続財産清算人になるのではなく,相続財産を破産者の固有財産と分別して管理及び処分する。相続不動産の売却・登記・税務は「破産手続開始後の相続放棄と破産法238条」で整理している。

第9 制度の沿革1 令和3年改正による名称変更

相続財産清算人は,令和3年法律第24号による民法の改正前は「相続財産管理人」と呼ばれていた。この改正は令和5年4月1日に施行され,相続人捜索の公告手続が一本化されるなどの変更もされている。この改正によって,民法897条の2に基づく別の相続財産管理人(相続財産の保存を目的とする制度)も新設されたため,現行法上は「相続財産の管理人」(民法897条の2)と「相続財産の清算人」(同法952条以下,旧「相続財産管理人」)とが並存することになった。破産法224条1項,230条1項及び234条も,この改正に伴って「相続財産の清算人」を独立の類型として明記するよう改められている。

2 国会審議における言及の有無

国会会議録検索システムを用いて,前記の令和3年改正を審議した第204回国会の衆議院及び参議院の各法務委員会の会議録を確認したが,「相続財産管理人」から「相続財産清算人」への名称変更の理由,相続人捜索の公告手続を一本化した趣旨,又は相続財産清算人制度と破産管財人制度との役割分担について,これらを正面から述べた政府答弁又は委員の発言は見当たらなかった。国会審議では,同じ改正の一部である所有者不明土地管理制度の必要性を説明する文脈で,従来の相続財産管理人及び不在者財産管理人について,管理の対象となる財産の範囲が広く,申立人や管理人の調査の負担及び予納金が大きくなりやすいという問題点が指摘されている(参議院法務委員会第9号,令和3年4月20日,豊田俊郎委員及び小出邦夫法務省民事局長の各発言)。名称変更及び公告一本化そのものの立法趣旨は,国会審議の会議録の範囲では確認することができなかった。

出典・参考資料1 法令

①民法(明治29年法律第89号)27条・28条・29条・103条・113条・505条・897条の2・927条・928条~935条・951条・952条・953条・957条・958条・958条の2・959条(e-Gov法令検索)
②破産法(平成16年法律第75号)2条・5条・53条・71条・72条・74条・78条・87条・111条・117条・124条・125条・127条・129条・160条・162条・186条・194条・221条・222条・223条・224条・226条・227条・230条・234条・248条(e-Gov法令検索)
③家事事件手続法(平成23年法律第52号)85条(e-Gov法令検索)

④ 破産規則25条(裁判所掲載PDF)。破産法78条3項1号の価額を100万円と定める。掲載先は裁判所の民事事件関係規則集で確認できる。

2 裁判例

①最高裁判所第一小法廷平成18年12月21日判決(平成17年(受)第276号,損害賠償請求事件,民集60巻10号3964頁,裁判所ウェブサイト)

3 国会会議録

①参議院法務委員会第9号(令和3年4月20日,国立国会図書館国会会議録検索システム)

電子化された債務名義と強制執行―事件特定情報・執行文・自動車登録・特許権等登録(AI作成)

目次

第1 本記事の位置付け
第2 電子化された債務名義と登記手続

1 登記手続を命ずる判決における記録事項証明の要否
2 記録事項証明の取得方法と登記申請時の注意点
3 和解調書等を債務名義とする場合の留意点

第3 強制執行と事件特定情報

1 書面による申立原則と事件特定情報の活用
2 執行文付与等の電子申立て及び手続上の留意点
3 mintsにおける執行文付与申立ての流れ
4 電子化された債務名義による自動車登録及び特許権等登録

第4 出典

第1 本記事の位置付け

令和8年10月3日追補:本記事に関係する準備の手引の10月2日改訂事項を反映した。改訂の全体と事務所内の確認方法は,mints準備の手引の令和8年10月2日改訂―法律事務所が見直す7つの運用を参照されたい。

本記事は,電子化された債務名義,記録事項証明,事件特定情報及び各種登録手続を扱う分割記事である。

本記事でいう「電子化された債務名義」は,裁判所が作成して事件記録のファイルに記録する電子判決書・電子調書等を中心とする。公証人が電磁的記録で作成する執行証書は,裁判所作成の電子債務名義に用いる事件特定情報とは別の経路となる。令和8年9月29日現在,電子公正証書に基づく債権執行では,公証人法44条1項2号の書面,執行文及び送達証明書を準備する必要があり,詳しくは電子公正証書を債務名義として強制執行する方法―公正証書正本情報,執行文,送達及び紙申立て(AI作成)で整理している。

mintsの全体像と論点別の入口は,mints(ミンツ)とは―料金・対象事件・登録・ログイン・提出・送達の実務Q&Aにまとめている。

画面上のクリック,入力,アップロード,ダウンロードその他の操作手順は,mints操作マニュアル~当事者ユーザ編~の解説を参照されたい。

証拠の提出方法,証拠説明書の作成及び証拠原本の取扱いは,mints後の証拠説明書を参照されたい。

第2 電子化された債務名義と登記手続

(続きを読む...)電子化された債務名義と強制執行―事件特定情報・執行文・自動車登録・特許権等登録(AI作成)

民事書記官実務必携の解説(AI作成)

目次

第1 民事書記官実務必携の概要1 文書名、作成部局及び基準日2 文書全体の構成3 略語例第2 上告事件及び上告受理事件の事務1 事件の受付、分配及び配てん2 新件調査と資料の作成3 審議、審理及び口頭弁論4 判決、決定及び記録返還5 大法廷書記官室における事務第3 特別抗告事件及び許可抗告事件の事務1 受付、記録及び関連事件2 決定手続、告知及び報告第4 再審事件その他の事件の事務1 立件の対象と受付2 配てん、審理及び人身保護事件の報告第5 別紙の内容1 別紙一覧2 新件点検メモと会社代表者チェックシート3 回付通知等の書式第6 本書から読み取れる実務上の特徴1 事件処理を段階ごとに管理する構成2 当事者側から見た留意点3 令和6年分の留意事項との関係第7 出典
第1 民事書記官実務必携の概要

本記事は、最高裁判所裁判部「民事書記官実務必携(令和7年4月1日現在)」(以下「本件文書」という。)の構成と、最高裁判所における民事事件の書記官事務を、原文の印字頁を示して整理するものである。
原資料と旧版の一覧は、最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携に掲載している。

本記事は同基準日の資料解説であり、現在の提出方法、費用、記録媒体及びシステムの利用方法を一律に示すものではない。
個別事件では、適用法令、裁判所の最新の案内及び担当部の取扱いを確認する必要がある。
代理人側の確認事項は、上告審から逆算する民事上訴の提出前チェックリストを参照されたい。

1 文書名、作成部局及び基準日
本件開示文書の表紙には、「民事書記官実務必携」、「最高裁判所裁判部」及び「令和7年4月1日現在」と記載されている(本件文書1頁)。

本記事では、本書を、最高裁判所裁判部が最高裁判所における民事事件の書記官事務を取りまとめた実務資料であり、令和7年4月1日現在の取扱いを示す文書として位置付ける。

本書は表紙を含めて全69頁であり、表紙、目次、略語例、3編の本文及び別紙1-1から別紙6までの書式等から成る(本件文書1頁~69頁)。
2 文書全体の構成
本書の構成は、次のとおりである。
表の「主な内容」は、本記事による要約である。

区分
表題
印字頁
主な内容

前付
表紙、目次、略語例

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平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)

◯以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 許可抗告理由書の書き方―5日・14日の期限と「法令の解釈に関する重要な事項」(AI作成)
・ 医療法人の社員が臨時社員総会を開く方法―最高裁令和6年3月27日決定と補足意見(AI作成)
・ (AI作成)平成21年度から令和6年度までの最高裁民事破棄判決の分析
・ 令和6年度最高裁民事破棄判決等の実情-19判決・2決定の一覧と判旨の読み方(AI作成)
・ 双方連続不出頭による訴え取下げ擬制-民訴法263条後段と期日の延期(最高裁令和5年9月27日決定)
・ 1筆の土地の一部を保全する処分禁止仮処分-土地全部を対象とできる場合(最高裁令和5年10月6日決定)

目次

第1 はじめに——本記事の目的と対象

1 本記事が対象とする資料と期間
2 許可抗告制度の意義

(1) 民事訴訟法337条の仕組み
(2) 制度の沿革と合憲性

3 弁護士にとっての実務的意義

第2 統計から見た平成21年度から令和6年度までの動向

1 決定件数と判例集登載割合の推移

(1) 一覧表
(2) 数値の読み方

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尾島明補足意見(最高裁令和8年6月5日判決)の判例理解についての検証(AI作成)

目次

第1 はじめに

1 本稿の目的

(1) 検証の主題
(2) 検証に用いる資料

2 結論の要旨

(1) 総括的な評価
(2) 留保すべき2点

第2 前提となる3つの判決

1 平成8年3月26日判決

(1) 判示の内容
(2) 被侵害利益の意味

2 平成31年2月19日判決

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強制執行に対する債務者の対抗手段―執行抗告,請求異議の訴え,執行停止,差押禁止債権の範囲変更(AIリライト)

目次

第1 執行抗告

1 執行抗告の対象と申立期間
2 執行抗告をしても強制執行は原則として止まらない
3 執行抗告の理由と調査の範囲
4 差押債権の不存在・消滅は執行抗告の理由にならない
5 財産開示手続の実施決定と請求異議

第2 請求異議の訴えと執行停止の申立て

1 請求異議の訴えの意義と管轄
2 執行停止の申立て
3 請求異議の訴えで主張できる事由

(1) 相殺
(2) 不執行の合意
(3) 免責許可決定の確定
(4) 保証人に対する確定判決,主債務者の相殺及び既判力

4 執行文付与の訴えとの関係
5 不当な執行停止の申立てと損害賠償

第3 差押禁止債権の範囲変更の申立て

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債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務(AIリライト)

第1 債権差押えの仕組みと手続の流れ

1 債権差押えとは何か
2 申立て前の回収可能性の見極め

第2 債務名義,管轄及び申立書類

1 債務名義と執行開始の要件
2 管轄,住所のつながり及び資格証明
3 申立費用と請求債権目録

第3 差押対象の選択と財産調査

1 代表的な差押対象
2 財産開示と第三者からの情報取得

第4 預貯金債権等の特定

1 金融機関と取扱店舗の特定
2 最高裁判例が示した特定の限界

第5 発令,送達及び第三債務者の陳述

1 差押命令の効力と送達

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仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像(AIリライト)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押えの意義と要件1 仮差押えの意義2 被保全債権と保全の必要性3 管轄裁判所4 同一被保全債権による追加仮差押え第3 申立てから発令・執行までの流れ1 申立てから発令まで2 執行と効力の発生3 事件記録の閲覧第4 担保1 担保の趣旨と額2 担保の立て方3 担保の取戻し4 不当な仮差押えによる損害賠償第5 仮差押えの効力と限界1 処分禁止の効力2 仮差押えではできないこと3 時効の完成猶予4 破産手続開始による失効第6 仮差押解放金1 解放金の意味と供託の効果2 供託後の効力第7 債務者の対抗手段と取下げ1 保全異議・保全取消し・保全抗告2 仮差押えの取下げ第8 担保(供託金)の払渡しを受ける方法第9 関連する既存記事第10 論点ごとの個別記事第11 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論

仮処分を含む民事保全の3類型と選択の考え方は,民事保全とはで説明している。

1 本記事の対象

本記事は,金銭債権の強制執行を保全するための仮差押えについて,要件,申立てから発令までの流れ,担保,効力,仮差押解放金,債務者の対抗手段及び担保の取戻しの全体像を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文(民事保全法は令和8年5月21日施行の改正を反映したもの)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイト又は判例秘書で本文を確認したものだけを挙げている。

本記事は,令和8年9月17日に全面的に改訂し,論点ごとの詳しい説明を後記第10の個別記事に分けた。
本記事では各論点の結論と根拠を簡潔に示し,詳細は個別記事へのリンクで案内する。

2 結論

①仮差押命令は,金銭の支払を目的とする債権について,強制執行をすることができなくなるおそれ又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに,債務者の特定の財産の処分を暫定的に禁止する裁判所の決定である(民事保全法20条1項,21条)。
②債権者は,被保全債権と保全の必要性を疎明し(同法13条),通常は担保を立てた上で発令を受ける(同法14条1項)。
③担保の額は,実務上,仮差押えの目的物の価格を基準として,被保全債権の種類,目的物の種類及び疎明の程度に応じて定められる。
④仮差押えは処分を禁止するにとどまり,換価や取立てによる回収はできず,優先弁済権も生じない。
⑤仮差押えは,現行民法では時効の完成猶予事由であり(民法149条1号),債務者について破産手続開始の決定があると,破産財団に対してその効力を失う(破産法42条2項)。
⑥債務者が仮差押解放金を供託すると,保全執行裁判所は仮差押えの執行を取り消さなければならない(民事保全法51条1項)。
⑦債務者は,保全異議,起訴命令による保全取消し及び事情変更による保全取消しで争うことができ,これらの裁判に対する保全抗告の期間は送達を受けた日から2週間である(同法26条,37条,38条,41条1項)。
⑧債権者が立てた担保は,担保の事由の消滅,担保権利者の同意,権利行使催告による担保取消し(同法4条2項,民事訴訟法79条)又は担保の簡易の取戻し(民事保全規則17条)によって取り戻す。

第2 仮差押えの意義と要件
1 仮差押えの意義

民事保全法1条は,民事訴訟の本案の権利の実現を保全するための仮差押え,係争物に関する仮処分及び仮の地位を定める仮処分を「民事保全」と総称している。
このうち仮差押えは,金銭債権について,判決を得るまでの間に債務者が財産を処分してしまい,強制執行ができなくなることを防ぐための手続である。

仮差押命令は,特定の物について発しなければならない(民事保全法21条本文)。
ただし,動産の仮差押命令は,目的物を特定しないで発することができる(同条ただし書)。
対象となる主な財産は,不動産,預金債権・給料債権・売掛金債権その他の債権,動産等である。

2 被保全債権と保全の必要性
(1) 被保全債権

仮差押えで保全される権利は,金銭の支払を目的とする債権である(民事保全法20条1項)。

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裁判所書記官の処分に対する異議申立て―民訴法121条・通常抗告・調書の更正(AIリライト)

目次第1 本記事が扱う異議申立て1 民訴法121条の位置付け2 特別規定を先に確認する必要3 訴訟指揮等への異議,責問権及び調書への異議との区別第2 民訴法121条による異議申立て1 対象となり得る処分2 申立人,申立先及び方式3 申立書に記載する事項4 500円の手数料と納付方法第3 異議についての決定と抗告1 所属裁判所の決定2 通常抗告3 高等裁判所の決定に対する不服申立て第4 口頭弁論調書の記載に対する異議1 新法事件と旧法事件2 異議の方式及び時期3 調書の証明力と公開違反4 弁論準備手続調書にも異議を述べられること5 経過措置は調書の作成時点だけで判断しない第5 口頭弁論調書の更正1 民訴法160条の2による更正2 更正処分に対する異議3 更正できる範囲4 旧法事件の更正方式と異議の区別第6 申立て前の確認手順1 どの処分を争うかを特定すること2 低負担の資料確認を先に行うこと3 異議申立てをしない場合第7 出典・参考資料1 法令・規則2 裁判例3 公的資料・ウェブ資料4 文献
第1 本記事が扱う異議申立て
1 民訴法121条の位置付け

裁判所書記官が独立の権限に基づいてした処分に不服がある場合,その裁判所書記官の所属する裁判所に異議を申し立てることができる。民訴法121条は,異議について所属裁判所が決定で裁判をすることを定めている。本記事では,通常の民事訴訟における同条の異議申立てを中心に,その決定に対する通常抗告,口頭弁論調書の記載に対する異議及び調書の更正を説明する。

2 特別規定を先に確認する必要

裁判所書記官の処分であっても,すべてが民訴法121条の対象となるわけではない。次の処分には期間又は効力を含む特別規定があるため,民訴法121条及び期間の定めのない通常抗告という一般論をそのまま当てはめてはならない。

① 訴訟費用額確定処分に対する異議は,現行民訴法71条5項により告知から1週間の不変期間内にする必要があり,異議には執行停止の効力があり,異議についての決定には即時抗告ができる。
② 訴え提起手数料の納付命令に対する異議は,民訴法137条の2第3項により告知から1週間の不変期間内にする必要があり,異議には執行停止の効力がある。
③ 口頭弁論調書の更正処分に対する異議は,民訴法160条の2第3項が準用する71条4項,5項及び8項に従う。
④ 民事執行,支払督促,家事事件,非訟事件及び倒産事件には,それぞれの法律に特別の不服申立てがある。

訴訟費用額確定処分については,民訴法71条の特別規定により,告知から1週間の不変期間内の異議,その執行停止効及び異議についての決定への即時抗告を確認する。費用計算書から回収までの手順は,訴訟費用額確定処分の申立てを参照されたい。

3 訴訟指揮等への異議,責問権及び調書への異議との区別

民訴法121条の対象は,裁判所書記官の処分である。これに対し,150条の異議は,口頭弁論の指揮に関する裁判長の命令又は149条1項・2項による裁判長若しくは陪席裁判官の処置を対象とする。裁判所のすべての判断が150条の対象になるわけではない。

民訴法90条は,訴訟手続に関する規定の違反を知り,又は知ることができた当事者が,遅滞なく異議を述べない場合の異議権喪失を定める。ただし,放棄できないものについては例外がある。90条の問題は,書記官の処分に対する121条の異議の問題と同一ではない。

調書の内容についての160条の異議は,記録内容を対象とする。期日での訴訟指揮や手続違反に対する異議とは対象が異なり,後日調書への異議を述べれば,その場で必要だった異議が当然にさかのぼって補われるとはいえない。
書記官への連絡についても,連絡の相手と内容だけでなく,裁判所にどの異議を述べたのかを明確にし,記録を確認する必要がある。求釈明・訴訟指揮への異議・責問権の使い分けは,民事訴訟の進行に異議があるとき―求釈明・訴訟指揮への異議・責問権と期日の記録を参照されたい。

第2 民訴法121条による異議申立て
1 対象となり得る処分

民訴法121条の対象となり得る典型例は,裁判所書記官が独立の権限に基づいてする訴訟記録の閲覧等又は証明に関する処分である。令和8年5月21日に全面施行された改正民訴法の下では,非電磁的訴訟記録の閲覧,謄写,謄本若しくは抄本の交付又は複製は91条,電磁的訴訟記録の閲覧,複写又は記録事項証明は91条の2,訴訟に関する事項の証明は91条の3に分かれている。民訴規則48条に基づく判決確定証明の請求に対する処分も,裁判所書記官の権限に属する。

もっとも,裁判所が民訴法92条に基づいて訴訟記録の閲覧等を制限し,裁判所書記官がその決定に従って閲覧等を拒絶した場合,争うべき対象は裁判所の閲覧制限決定である。この場合は,同条3項の取消申立て又は同条4項の即時抗告によるべきであり,民訴法121条の異議によって裁判所の先行判断を迂回することはできない。

2 申立人,申立先及び方式

異議を申し立てることができるのは,対象となる請求をする資格があり,裁判所書記官の拒絶その他の処分によって不利益を受けた者である。申立先は,処分をした裁判所書記官の所属する裁判所であり,常に「受訴裁判所」と表現できるとは限らない。処分日,処分内容及び所属裁判所が不明確な場合は,まず担当係に処分の内容を確認すべきである。

申立ては,事件の適用法及び提出者に応じて,mintsによる電子申立て又は書面提出の方法で行う。手数料を納付すべき申立書はファクシミリ提出の対象外であるため,提出方法を担当係に確認する必要がある。令和8年5月21日以後に提起された新法事件では,弁護士等の訴訟代理人は原則としてmintsの利用が義務付けられている。

3 申立書に記載する事項

申立書では,裁判所が対象処分及び求める結論を短期間で特定できるようにする。少なくとも,①対象事件,②処分をした裁判所書記官の所属及び処分日,③異議の対象となる処分,④求める裁判,⑤処分が違法又は不当である理由,⑥閲覧等を求める記録又は証明事項を記載するのが相当である。拒絶理由を記載した書面又は担当係との連絡記録がある場合は,その内容も特定する。

4 500円の手数料と納付方法

裁判所書記官の処分に対する異議申立ての手数料は,民事訴訟費用等に関する法律3条及び別表第2の13の項により500円である。ただし,現在は常に申立書へ500円の収入印紙を貼るわけではない。

裁判所の民事訴訟手続デジタル化案内によれば,令和8年5月21日以後に提起された新法事件では,申立手数料は原則としてペイジーを利用して現金で納付し,送達のための郵便費用は申立手数料へ一本化された。同日前に提起された旧法事件では,収入印紙及び予納郵券による従前の取扱いが残る。控訴事件又は抗告事件が新法事件か旧法事件かは上訴又は抗告の日ではなく,原審事件の申立日を基準に判定されるため,裁判所のmints利用案内及び担当係の案内を確認すべきである。

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上告不受理決定等と一緒に送られてくる予納郵券に関する受領書

目次
1 総論
2 予納郵便切手の返却時の取扱い
3 受領書の未提出と督促に関する資料
4 関連記事その他

1 総論

この記事は,上告不受理決定や特別抗告棄却決定等とともに予納郵券が返還された場合の受領書について,平成18年の事務連絡,令和3年の理由説明書及び令和4年の私の経験を整理するものです。
これらの資料の説明と現在の個別事件の取扱いは区別し,実際の提出先・提出方法は,同封された書面と担当係の案内を確認して下さい。

(1)ア 従来,最高裁判所から簡易書留で送付される上告不受理決定には,上告受理申立てに際して予納した郵券の残りと,郵便切手内訳表が記載された返還書兼受領書が同封されていました。
当時,封筒や受領書にはFAX番号の記載がなく,本記事では持参又は郵送による提出を案内していました。
イ 特別抗告棄却決定についても,同様の取扱いでした。
(2) 私の経験では,令和4年12月15日付の特別抗告棄却決定と一緒に入っていた返還書兼受領書にはFAX番号が書いてありました。

(3) 令和4年の上記事例でFAX番号が記載されていたことから,現在のすべての事件でFAX提出が認められるとまではいえません。
受領書の宛先,FAX提出の可否及び原本郵送の要否は,実際に届いた書面の記載と担当係の案内に従って確認して下さい。

R030621 最高裁の不開示通知書(民事事件の上告棄却決定に対する予納郵券の受領書の提出に利用できるファックス番号を事件当事者に告知しない理由が書いてある文書)を添付しています。 pic.twitter.com/rYo8CJ273a

— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) June 26, 2021

2 予納郵便切手の返却時の取扱い
(1) 予納郵便切手の取扱いに関する規程(昭和46年6月14日最高裁判所規程第4号)7条は以下のとおりです。
① 訟廷管理官又は主任書記官は、その保管する予納郵便切手について返還すべき事由が生じたときは、これを返還を受けるべき者に交付し、その者から受領書を受け取らなければならない。
② 主任書記官は、所在不明その他の理由により予納郵便切手を返還することができないときは、これを訟廷管理官に引き継がなければならない。
(2) 予納郵便切手の取扱いに関する規程の運用について(平成7年3月24日付の最高裁判所事務総長の通達)には「主任書記官は,予納郵便切手を郵便により送付して返還するときは,返還を受ける者に予納郵便切手及び返還書とともに受領書の用紙を送付し,これに所要の事項を記載させた上提出させる。」と書いてあります。

裁判所から予納郵券の余り61円分が送られてきた。
その受領書をFAXしたところ、「FAXではなく、原本を郵送してくれ」と書記官に言われた。

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相殺の抗弁と既判力―審理順序,一部請求,別訴・反訴及び相殺の再抗弁(AIリライト)

目次第1 訴訟上の相殺の抗弁と既判力1 訴訟上の相殺の抗弁の意義2 判決理由中の判断に既判力が生ずる唯一の例外3 既判力が生ずる範囲4 既判力が生じない場合と審理の順序第2 相殺の抗弁が許されるとされた最高裁判例1 一部請求の残部を自働債権とする相殺2 反訴請求債権を自働債権とする相殺3 時効消滅した本訴請求債権を自働債権とする相殺4 本訴請求債権を自働債権とし反訴請求債権を受働債権とする相殺第3 相殺の抗弁が許されないとされた最高裁判例1 別訴で訴訟物となっている債権を自働債権とする相殺2 訴訟上の相殺の再抗弁3 抗弁先行型の扱い第4 一部請求における相殺の充当と既判力第5 相殺の抗弁と上訴1 相殺の抗弁により勝訴した被告の上訴の利益2 不利益変更禁止の原則第6 相殺の担保的機能と第三者との関係1 差押えと相殺2 債権譲渡と相殺3 抵当権に基づく物上代位と相殺第7 倒産手続における相殺1 破産手続2 民事再生手続3 三者間相殺4 破産法71条と72条の見分け方5 支払不能を知った後に作られた預金債権第8 実体法上の相殺の要件及び制限1 相殺適状2 相殺が禁止される場合3 賃金債権を受働債権とする相殺4 同時履行の抗弁付き債権と請負報酬の相殺第9 訴訟上の相殺の抗弁の法的性質第10 基準時後の相殺と請求異議の訴え第11 実務で整理する資料と訴訟方針1 国際取引の相殺では管轄と準拠法も分ける第12 関連記事第13 出典1 法令2 裁判例3 文献4 ウェブ資料第1 訴訟上の相殺の抗弁と既判力1 訴訟上の相殺の抗弁の意義

訴訟上の相殺の抗弁とは,被告が口頭弁論において自己の債権(自働債権)を相殺に供することにより,原告の主張する債権(受働債権)を対当額で消滅させ,原告の請求を理由のないものとする抗弁をいう。相殺の意思表示そのものは民法505条1項に基づく実体法上の行為であるが,これを訴訟の場で防御方法として提出する点に特殊性がある。なお,民訴法114条2項が既判力を認める「相殺のために主張した請求」は,訴訟の場で相殺の意思表示をした場合に限られず,訴訟外で既にした相殺を訴訟上主張した場合も含まれると解されている。既判力を認める趣旨は,いずれの場合にも等しく妥当するからである。

相殺の抗弁,同時履行の抗弁及び反訴は,反対債権に関わる場合でも効果が異なる。相殺は対当額で債権を消滅させる防御方法であり,そのために主張した請求の成立又は不成立の判断に民訴法114条2項の既判力が生じる。同時履行の抗弁は反対給付の提供まで履行を拒むもので,通常は引換給付判決につながるが,反対給付額について当然に同項の既判力を生じさせたり,その支払を回収する債務名義を与えたりするものではない。反訴は自分の請求を審判対象とし,給付請求が認容されればその給付について債務名義を得るための手続である。相殺に使わなかった残額の回収も,相殺の主張だけで当然に命じられるわけではない。

関連する実務上の整理は,引換給付判決で何が確定するか―同時履行の抗弁,反対債権の既判力,代金回収と強制執行及び反訴か別訴か―重複起訴,併合審理,請求の関連性と債務名義から考える選択を参照。

2 判決理由中の判断に既判力が生ずる唯一の例外

既判力は,本来,判決主文に包含するものに限って生ずる(民訴法114条1項)。判決理由中でされる前提問題の判断に既判力が生じないのは,当事者間の紛争解決としてはそれで足りること,理由中の判断については当事者の手続保障が十分でない場合があること,及びそのように解することが審理の簡易化・弾力化に資することによる。

これに対し,民訴法114条2項は「相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は,相殺をもって対抗した額について既判力を有する」と定め,判決理由中の判断に既判力を生じさせる例外を置いている。相殺の抗弁は,訴求債権とは別個の,それ自体が訴訟物となり得る反対債権を持ち出すものであって,いわば反訴に近い機能を有する。そのため,これに既判力を認めておかないと,訴求債権をめぐる紛争が反対債権をめぐる紛争として蒸し返され,判決による紛争解決の実効性が失われる。最高裁も,同項について「判決の理由中の判断に既判力を生じさせる唯一の例外を定めたものである」と述べ,その適用範囲を無制限に拡大することは相当でないとしている(最高裁平成10年4月30日判決・民集52巻3号930頁)。

3 既判力が生ずる範囲

既判力が生ずるのは「相殺をもって対抗した額について」であり,このことは相殺の抗弁が排斥された場合であると認容された場合であるとを問わない。反対債権が存在しないとして相殺の抗弁が排斥された場合には,敗訴した被告が後に反対債権を主張することを防ぐため,対抗額の限度で反対債権の不存在について既判力が生ずる。

反対債権が存在するとして相殺の抗弁が認容され,原告の請求が棄却された場合については,同じく反対債権の不存在についてのみ既判力が生ずるとするのが一般的な理解である。基準時における権利関係の存否を確定するのが既判力の作用であるところ,訴求債権及び反対債権が存在したことは基準時前の事由であって確定の対象とならないうえ,反対債権の不存在についてのみ既判力を認めれば,原告からの「反対債権は初めから存在しなかった」とする不当利得返還請求は請求棄却判決の既判力によって,被告からの「訴求債権は別の理由で存在しなかった」とする不当利得返還請求は反対債権不存在の既判力によって,それぞれ封じることができるからである。もっとも,訴求債権と反対債権がともに存在し相殺によって消滅したことについて既判力が生ずるとする有力な見解もあり,この点は決着をみていない。

金額例として,原告の請求債権(甲)が200万円,被告の相殺に供する債権(乙)が300万円で,甲の存在が認められ相殺の判断に進んだ場合,乙が全部弁済済みとして抗弁が排斥されても,乙の不存在判断の既判力は対抗額200万円の範囲に限られ,残100万円に当然には及ばない。
さらに,原告が別の丙債権300万円によって乙300万円全部を有効に訴訟外相殺した場合,乙・丙は実体法上各300万円消滅する一方,乙についての相殺判断の既判力は200万円に限られる。丙について別個の請求をしていない限り,再抗弁の判断だけで丙に既判力が生じるものではない。
この金額例は民訴法114条を踏まえた整理である。実体法上の消滅額,理由中で検討された金額及び既判力の範囲を同一視してはならない。残100万円の後訴では,証拠評価と信義則を別途検討する。

4 既判力が生じない場合と審理の順序

相殺の抗弁が弁論に上程されれば常に既判力が生ずるわけではなく,既判力が生ずるのは,裁判所が反対債権の存否を実質的に審理判断した場合に限られる。具体的には,相殺の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法として却下された場合(民訴法157条1項),相殺適状の要件(民法505条)を欠く場合,及び受働債権が民法509条所定の債権であるために相殺が許されない場合には,反対債権の存否についての判断はされないから,既判力は生じない。

相殺の抗弁の判断に既判力が生ずることは,審理の順序にも影響する。弁済や免除の抗弁であれば,訴求債権の存在を仮定したまま抗弁を認めて請求を棄却してもよい。抗弁についての判断が理由中の判断にとどまり既判力を生じない以上,被告にとってはいかなる理由で勝訴しても利害に差がないからである。これに対し,相殺の抗弁については,訴求債権の存在を仮定したまま相殺を認めて請求を棄却することは許されない。被告は,相殺が容れられて勝訴しても反対債権を失うという出捐を伴うからであり,裁判所は,他の抗弁を先に判断し,なお訴求債権が存在すると確定した後に,はじめて相殺の抗弁を判断することになる。この意味で,相殺の抗弁は性質上予備的な抗弁である。

第2 相殺の抗弁が許されるとされた最高裁判例1 一部請求の残部を自働債権とする相殺

一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起している場合において,当該債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは,債権の分割行使をすることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り,許される(最高裁平成10年6月30日判決・民集52巻4号1225頁)。明示的一部請求の訴訟物は当該一部に限られ,残部は別訴の訴訟物となっていないから,後記第3の1の判例法理が及ばないという理解である。

2 反訴請求債権を自働債権とする相殺

本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許される(最高裁平成18年4月14日判決・民集60巻4号1497頁)。反訴請求債権は反訴の訴訟物であるから,形式的には後記第3の1の場面に当たるが,反訴を予備的反訴に変更するものと構成することによって既判力の抵触を避け,同一手続内での清算を認めた点に意義がある。

3 時効消滅した本訴請求債権を自働債権とする相殺

本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許される(最高裁平成27年12月14日判決・民集69巻8号2295頁)。この相殺の抗弁は,本訴請求債権が時効消滅すると判断されることを前提とする仮定的な抗弁であって,本訴請求が認容される限りそもそも判断の対象とならないという特殊性がある。実体法上の根拠は,時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には相殺をすることができるとする民法508条である。

4 本訴請求債権を自働債権とし反訴請求債権を受働債権とする相殺

最高裁令和2年9月11日第二小法廷判決(平成30年(受)第2064号,民集74巻6号1693頁)は,請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方が本訴,他方が反訴の請求債権となった場合に,本訴原告からの相殺の抗弁を認めた。

両債権の清算的調整は当事者双方の便宜と公平にかない,この場合には本訴・反訴の弁論を分離することも許されないとしたためである。

本判決を,本訴と反訴が対向するだけで一般に双方向の相殺ができるという意味に広げてはならない。

同一の請負契約から生じた両債権の関係,現実の相互履行を求める特別の利益がないこと及び弁論分離の禁止を踏まえた判示である。

清算後の残代金の遅延損害金については,雨漏り・施工不良と工事代金を参照されたい。

第3 相殺の抗弁が許されないとされた最高裁判例1 別訴で訴訟物となっている債権を自働債権とする相殺

以下の判例は,別訴で訴訟物となっている債権を,相殺の自働債権として別の訴訟にも持ち込む場面を対象とする。代金支払請求と目的物引渡請求が同じ売買契約に基づくというだけで,その別訴が一律に重複起訴になるという意味ではない。同時履行の抗弁には,相殺に関する114条2項の規律をそのまま当てはめない。

係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されない(最高裁昭和63年3月15日判決・民集42巻3号170頁,最高裁平成3年12月17日判決・民集45巻9号1435頁)。別訴が先行し相殺の抗弁が後から提出される類型であることから,抗弁後行型と呼ばれる。

平成3年判決は,その理由を,重複起訴を禁止する規定(現行の民訴法142条。同判決当時は旧民訴法231条)の趣旨から説明する。すなわち,重複起訴禁止の理由は,審理の重複による無駄を避けることと,複数の判決において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止することにあるところ,相殺の抗弁について提出された自働債権の存否の判断は相殺をもって対抗した額について既判力を有するとされていること,及び相殺の抗弁の場合にも自働債権の存否について矛盾する判決が生ずるのを理論上も実際上も防止することが困難であることを考えると,同条の趣旨は,同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず,既に係属中の別訴において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する場合にも同様に妥当する,というのである。そして同判決は,「このことは右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され,両事件が併合審理された場合についても同様である」と述べており,実際の事案も,同一の高等裁判所の同一部で併合審理中の別事件の訴求債権を自働債権とする相殺が主張されたものであった。すなわち,併合審理されていることは,この判例法理を回避する理由にならない。

なお,昭和63年判決は,賃金の仮払を命ずる仮処分の執行に係る仮払金の返還請求訴訟において,仮処分債権者が本案訴訟で訴求中の賃金債権を自働債権とする相殺の抗弁を提出することは許されないとしたものである。仮払金の返還をめぐる法律関係については,残業代請求訴訟における仮執行宣言に基づく仮払い後の取扱いも参照されたい。

2 訴訟上の相殺の再抗弁(1) 最高裁平成10年4月30日判決

被告による訴訟上の相殺の抗弁に対し,原告が訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは,不適法として許されない(最高裁平成10年4月30日判決・民集52巻3号930頁)。同判決は,その理由として三点を挙げている。①訴訟上の相殺の意思表示は,当該訴訟において裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の効果が生ずるものであるから,相殺の抗弁に対して更に相殺の再抗弁を主張することを許すと,仮定の上に仮定が積み重ねられて当事者間の法律関係を不安定にし,いたずらに審理の錯雑を招くこと,②原告が訴訟物である債権以外の債権を有するのであれば,訴えの追加的変更により当該訴訟で請求するか,別訴を提起することによってこれを行使することが可能であり,仮に消滅時効が完成しているような場合であっても訴訟外で相殺の意思表示をした上でこれを訴訟において主張することができるから,訴訟上の相殺の再抗弁を許さなくとも格別不都合はないこと,③民訴法114条2項は判決理由中の判断に既判力を生じさせる唯一の例外を定めたものであり,その適用範囲を無制限に拡大することは相当でないこと,である。

(2) 訴訟外の相殺は再抗弁として主張できる

もっとも,同判決は,右の①の理由を述べる前提として,「訴訟外において相殺の意思表示がされた場合には,相殺の要件を満たしている限り,これにより確定的に相殺の効果が発生するから,これを再抗弁として主張することは妨げない」と明示している。訴訟外の相殺は裁判所の判断を条件とせず確定的に効力を生ずるため,仮定の上に仮定を重ねるという弊害が生じないからである。したがって,禁じられているのはあくまで訴訟上の相殺を再抗弁として主張することであって,相殺の抗弁に供された債権が訴訟外の相殺によって既に消滅したという主張は,再抗弁として適法である。

この理解を実際に適用した下級審裁判例として,東京地方裁判所令和3年2月17日判決(令和元年(ワ)第28852号・受信料請求事件)がある。被告が別件訴訟で取得した訴訟費用償還請求権を自働債権とする訴訟上の相殺の抗弁を主張したのに対し,原告が,訴訟外で,自らの訴訟費用償還請求権を自働債権とし被告の同請求権を受働債権とする相殺の意思表示をしたという事案で,同判決は,原告の訴訟外の相殺の再抗弁を適法とし,被告が訴訟上の相殺に供した自働債権は口頭弁論終結時には既に消滅しているとして相殺の抗弁を排斥した。判決は,被告が平成10年最高裁判決の趣旨に照らして不適法であると主張したのに対し,「訴訟外において相殺の意思表示がされた場合には,相殺の要件を満たしている限り,これにより確定的に相殺の効果が発生するのであるから,訴訟上の相殺の抗弁に対して訴訟外の相殺を再抗弁として主張したとしても,仮定の上に仮定が積み重ねられて審理の錯雑を招くという事態に陥るおそれはなく,平成10年最高裁判決も同旨であることが明らかである」と判示した。従前は判例秘書(LLI/DB判例秘書登載)で全文を確認していたが,令和8年10月3日の更新時に東京地裁令和3年2月17日判決の公式全文(14頁)も確認した。訴訟費用額確定処分の告知と相殺の意思表示の時期を具体的に検討した事案であり,その金額確定・弁済期の判断を他の種類の債権に直ちに一般化してはならない。

もっとも,この結論には検討の余地がある。同一の自働債権・受働債権について同一の時期に同一の目的でされる相殺であるにもかかわらず,訴訟上でされれば不適法,訴訟外でされれば適法という正反対の帰結になるからである。学説には,相殺の意思表示が訴訟外でされたか訴訟上でされたかという外形で区別するのではなく,訴訟とは無関係にされた相殺と,訴訟係属後に当該訴訟で主張することを目的としてされた相殺とを区別し,後者には訴訟上の相殺と同じ規律を及ぼすべきであるとする指摘がある。

この東京地方裁判所判決については,次のとおり紹介されている。

φ(..)メモメモ

東京地判R3.2.17https://t.co/cqaUyNmhgq

訴訟上の相殺の抗弁に対し、訴訟外で相殺の意思表示をし、これを訴訟上再抗弁として主張することは許される(H10最判に反しない)。

— venomy (@idleness_venomy) May 12, 2023

3 抗弁先行型の扱い

相殺の抗弁として既に提出した債権を,後から別訴の訴訟物として請求するのが抗弁先行型である。

前記1の,別訴の請求を先に提起し,後から別の訴訟で相殺に使う抗弁後行型とは区別する。

相殺の抗弁は他の防御方法の後に判断される予備的な性質を持つため,判断されるか,民訴法114条2項の既判力が生ずるかは,提出時点では確定していない。

この不確実性を理由に別訴を許容する見解と,判断の抵触や審理の重複を重視する見解の対立がある。

前記1の最高裁判決の結論を,提出順序の異なるこの類型にそのまま移してはならない。

実務では提出・係属の順序,他の抗弁,相殺の判断範囲を確認し,反訴・別訴・予備的請求の構成を検討する。

手続の選択は,反訴か別訴かを参照されたい。

第4 一部請求における相殺の充当と既判力

特定の金銭債権の一部を請求する訴訟において相殺の抗弁が理由がある場合には,当該債権の総額を確定し,その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上,請求額が残存額の範囲内であるときは請求の全額を,残存額を超えるときは残存額の限度でこれを認容すべきである(最高裁平成6年11月22日判決・民集48巻7号1355頁)。相殺を債権総額の外側から充当するという意味で外側説と呼ばれる。同判決は併せて,一部請求訴訟において相殺のため主張された自働債権の存否の判断は,当該金銭債権の総額から一部請求の額を控除した残額部分に対応する範囲については既判力を生じないと判示しており,第1の3で述べた「相殺をもって対抗した額」の意味を一部請求の場面で具体化したものといえる。

ここでいう相殺の抗弁と,被害者の過失を考慮して損害賠償額を減額する過失相殺(民法722条2項)は,別の制度である。
過失相殺は,被告の反対債権によって原告の債権を消滅させるものではないため,過失相殺をしたことを理由に,反対債権の存否について民訴法114条2項の既判力が生じるという問題にはならない。

不法行為による一個の損害賠償請求権の一部請求で過失相殺をする場合も,認定した損害の全額から過失割合による減額をし,その残額と請求額を比較する(最高裁昭和48年4月5日判決・民集27巻3号419頁)。
例えば,認定損害額が2500万円,被害者の過失割合が5割,明示的一部請求額が2000万円で,他に減額・消滅事由がない場合,認容額は1250万円となる。
請求額2000万円の5割である1000万円と計算するのではない。

相殺の抗弁における反対債権の存否に関する審判と過失割合による損害額の算定とを混同せず,適用条文と計算の対象を区別する必要がある。

数量的一部請求で敗訴した原告による残部請求は,特段の事情がない限り信義則に反して許されない(最高裁平成10年6月12日判決の公式全文・民集52巻4号1147頁)。
他方,最高裁平成10年6月30日判決の公式全文(同号1225頁)の法廷意見は,係属中の別件一部請求の残部を相殺に使うことについて,権利濫用などの特段の事情がない限り許容する一般論を示し,具体的には,別件の売買代金低落分とは実質的な発生事由を異にする弁護士報酬相当額の損害による相殺を許容した。
同判決の補足意見は,数量的一部4000万円の請求を棄却する別件判決が同日確定した後の,同じ売買代金低落分の残債権による相殺について,当該事案では特段の事情がなく不適法になったと述べている。
したがって,「残部の別訴は制限されるが,相殺なら常に許される」とは整理できない。係属中か敗訴確定後か,数量的残部か別種の損害か,法廷意見か補足意見かを区別する必要がある。

第5 相殺の抗弁と上訴1 相殺の抗弁により勝訴した被告の上訴の利益

被告が弁済や免除の抗弁により勝訴した場合には,申立てどおりの請求棄却判決がされている以上,上訴の利益は認められない(形式的不服説)。これに対し,相殺の抗弁によって勝訴した場合には,被告は反対債権を失うという出捐を伴い,実質的には敗訴判決を受けたに等しい。相殺の抗弁の判断には既判力が生ずるため,後訴でその点を争うこともできない。そこで,この場合には例外的に上訴の利益が認められると解されている。

2 不利益変更禁止の原則

もっとも,上訴した結果として被告が常に有利になるわけではない。原告の訴求債権の存在を認めながら被告の相殺の抗弁を容れて原告の請求を棄却した第一審判決に対し,原告のみが控訴し,被告が控訴も附帯控訴もしなかった場合において,控訴審が,被告の相殺の抗弁について判断するまでもなく訴求債権の不存在を理由に原告の請求を棄却すべきときは,不利益変更禁止の原則に従い,第一審判決を維持して原告の控訴を棄却するにとどめなければならない(最高裁昭和61年9月4日判決・集民148号417頁)。控訴した原告にとって,反対債権不存在の既判力が失われる判決は第一審判決より不利益となるからである。

これと表裏の場面として,訴求債権が存在しないとして請求を棄却した第一審判決に対し,控訴審が訴求債権は存在するが反対債権による相殺が成り立つと判断する場合には,同じ請求棄却でも既判力の範囲が民訴法114条1項によるか同条2項によるかで異なるから,第一審判決を取り消して改めて控訴審の判決をすべきであるとされている。相殺の抗弁が絡む場合には,主文が同じでも判決の効力が異なりうることに注意を要する。

第6 相殺の担保的機能と第三者との関係

相殺には,相手方の資力が悪化しても自働債権を実質的に回収できるという担保的機能がある。この機能を第三者に対してどこまで対抗できるかが,以下の各場面で問題となる。

1 差押えと相殺

通常の債権差押えでは,差押え前に取得した反対債権による相殺を対抗できる。

現行民法511条2項は,差押え後の取得でも差押え前の原因に基づく債権を保護するが,差押え後に他人の債権を取得した場合は除外する。

取得時,弁済期,相殺適状,差押命令の送達及び改正附則の検討は,差し押さえられた債権と相殺できるか―民法511条,債権取得時と弁済期(AI作成)にまとめた。

2 債権譲渡と相殺

債権譲渡では,民法468条の抗弁と469条の相殺を分ける。

対抗要件具備時より前に取得した債権だけでなく,前の原因に基づく債権や,譲渡対象債権と同一契約に基づく債権にも保護の規定がある。

請負代金の譲渡後の損害賠償,契約の同一性及び経過措置は,債権譲渡の通知後でも相殺できるか―民法468条・469条と同一契約から生じた反対債権(AI作成)を参照されたい。

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文書鑑定(AIリライト)

目次

第1 文書鑑定とは

1 文書鑑定の種類

(1) 筆者識別(筆跡鑑定)
(2) 印影鑑定
(3) 不明文字鑑定
(4) 事務機文字鑑定
(5) 印刷物鑑定

2 民事訴訟における筆跡鑑定の位置づけ

(1) 私的鑑定は「鑑定」ではなく書証である
(2) 自由心証主義のもとでの評価

第2 筆跡鑑定の証明力に関する裁判例

1 伝統的筆跡鑑定方法の証拠能力(最高裁昭和41年2月21日決定)
2 断定的な別人鑑定への慎重論(東京高裁平成12年10月26日判決)
3 鑑定人の側から公表されている見解
4 狭山事件に関する最高裁平成17年3月16日決定

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二段の推定とは──私文書の成立の真正(民事訴訟法228条4項)と実印・認印,立証の実務(AIリライト)

目次

第1 二段の推定とは(意味・根拠・法的性質)

1 二段の推定の意味──一段目と二段目
2 法的根拠──民事訴訟法228条4項
3 リーディングケース(最判昭和39年5月12日)
4 推定の法的性質と立証責任──「反証」で足りる

第2 実印・認印と「本人の印章」

1 「本人の印章」は実印に限らないが,共有・共用の印章は含まない
2 印鑑証明書による印影の一致の立証(実印と認印の差)
3 「実印だから推定力が強い」を無批判に用いない

第3 二段の推定が意味を持つ場面と,推定を破る事情

1 成立の真正と記載内容の信用性は別問題──処分証書と報告文書
2 証明の負担が軽減される程度は限定的
3 第一段目の推定を破る事情の類型(盗用型・冒用型・不自然型)
4 具体的事案で推定の成否が判断された例

第4 作成者の判断能力(意思能力)と文書の成立の真正

1 高齢・判断能力低下の主張の位置づけ
2 意思無能力の抗弁(民法3条の2)
3 形式的証拠力と契約の成立

第5 二段の推定以外に成立の真正を証明する手段の確保

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訴訟提起で原告の住所・氏名を秘匿する方法(AIリライト)

目次

第1 現在の取扱いの結論

1 令和5年2月20日以後の新件
2 令和8年5月21日以後の電子提出
3 旧来の秘匿措置との区別

第2 秘匿決定の対象及び要件

1 秘匿対象者
2 住所等及び氏名等
3 社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ
4 相手方が秘匿事項を知らないこと

第3 訴え提起時の提出方法

1 訴状と同時に提出する書類
2 訴状の当事者欄
3 秘匿事項届出書面だけは紙で提出すること
4 疎明資料及び漏えい点検
5 手数料及び却下後の処理

第4 秘匿決定だけでは足りない場合

1 秘匿事項届出書面以外の記録

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民事訴訟の送達――補充送達,付郵便送達,公示送達及びシステム送達(AIリライト)

目次

第1 民事訴訟における送達の基本1 送達の意味と本記事の対象2 職権送達,送達事務及び送達実施機関第2 送達場所と交付の方法1 住所等,就業場所及び送達場所の届出2 書記官送達と出会送達3 補充送達と差置送達第3 法人に対する送達1 代表者と送達場所2 支店の受付係への交付と企業の期限管理第4 付郵便送達と住所等調査1 要件と効力発生時期2 住居所及び就業場所の調査第5 公示送達1 公示送達を利用できる場合2 オンライン公告と効力発生時期3 公示送達で被告が欠席した場合の主張立証第6 出力書面による送達とシステム送達1 二つの送達方法2 効力が生じる時点3 届出義務者と無届出時の特例第7 送達の瑕疵と当事者の救済1 補充送達の有効性と再審事由は別であること2 誤った住所等調査と損害賠償3 送達受取人の受領記録の誤りと訴訟行為の追完4 送達報告書の誤記と控訴期間第8 銀行口座情報しか分からない相手への訴え1 名古屋高裁金沢支部平成16年決定2 決定の射程と調査嘱託第9 送達を要しない例外第10 判決・和解調書,外国送達及び関連資料1 判決と和解・放棄・認諾調書2 外国送達3 送達実務に関する裁判所事務連絡第11 出典・参考資料1 法令・規則2 裁判例3 裁判所その他の公的資料4 文献及びウェブ資料
第1 民事訴訟における送達の基本
1 送達の意味と本記事の対象

送達は,訴状,判決その他の訴訟関係書類又は電磁的記録を,法定の方式によって当事者その他の受送達者に告知する手続である。通常の郵送や当事者間の直送とは異なり,どこで誰に交付したか,又はシステム上のどの時点で効力が生じたかが,上訴期間その他の手続期間に影響する。

本記事は,民事訴訟法上の国内送達を中心に,送達場所,補充送達,差置送達,付郵便送達,公示送達及びシステム送達を整理する。令和8年5月21日以後に提起された訴訟等には全面デジタル化後の規定が適用される一方,同月20日以前に提起された事件は原則として従前の規定で処理されるため,係属事件の適用法を最初に確認する必要がある。

2 職権送達,送達事務及び送達実施機関

送達は,特別の定めがある場合を除き,裁判所が職権で行い,送達に関する事務は裁判所書記官が取り扱う(民訴法98条)。書類の送達は,特別の定めがある場合を除き,郵便又は執行官によって行い,郵便による送達では郵便業務従事者が送達をする者となる(同法101条)。裁判所書記官は,所属裁判所の事件について出頭した者に自ら送達することもできる(同法102条)。

郵便による送達では,郵便法49条の特別送達が用いられる。郵便法66条は旧条文の番号であり,現行法上の根拠条文ではない。また,送達をした者が作成する送達報告書の根拠は,現行民訴法100条であり,書面の提出に代えて所定の電子情報処理組織又は記録媒体を用いることもできる。

送達事務を担当する書記官の職務全体や,裁判所事務官との違いは,裁判所書記官とはで説明している。
送達に関する事務を取り扱う職員と,実際に書類を交付する者は,前記の法令上の役割に即して区別する必要がある。

第2 送達場所と交付の方法
1 住所等,就業場所及び送達場所の届出

書類は,受送達者の住所,居所,営業所又は事務所で送達するのが原則である。これらの場所が知れないとき,又はその場所で送達するのに支障があるときは,雇用,委任その他の法律関係に基づく就業場所で送達できる(民訴法103条)。

当事者,法定代理人又は訴訟代理人は,日本国内の送達場所を受訴裁判所へ届け出なければならず,送達受取人を併せて届け出ることもできる。届出後は,原則として届出場所で送達する(民訴法104条)。

2 書記官送達と出会送達

裁判所書記官は,所属裁判所の事件について出頭した者に書類を交付できる。これに対し,国内に住所等を有することが明らかでない者には出会った場所で送達でき,国内住所等が明らかな者又は送達場所を届け出た者には,受領を拒まない場合に出会送達ができる(民訴法105条)。

郵便業務従事者が日本郵便の営業所で受送達者本人に交付する場合も,送達場所で本人に交付する場合と同様に処理される。本人に会えず,補充送達の要件を満たす者が郵便局窓口に出頭した場合には,民訴法106条1項後段による交付が問題となる。

3 補充送達と差置送達

就業場所以外の送達場所で本人に会えないときは,使用人その他の従業者又は同居者で,書類の受領について相当のわきまえがある者に交付できる(民訴法106条1項)。就業場所では,雇用主,その法定代理人又は従業者等が相当のわきまえを有し,受領を拒まない場合に限って補充送達ができる(同条2項)。就業場所で補充送達がされたときは,裁判所書記官がその旨を本人へ通知する(民事訴訟規則43条)。

本人又は住居所等にいる補充送達受領資格者が正当な理由なく受領を拒んだときは,書類を送達場所に差し置くことができる(民訴法106条3項)。もっとも,就業場所にいる雇用主や従業者等が受領を拒んだ場合には同項の差置送達はできないため,住居所等に宛てた付郵便送達を含む別の方法を検討することになる。

第3 法人に対する送達
1 代表者と送達場所

法人が当事者であるときは,法人の代表者が受送達者となる(民訴法37条及び99条)。代表者の住所等に加え,本人である法人の営業所又は事務所も送達場所になる(同法103条1項ただし書)。代表者が受送達者であることと,法人の本店,支店その他の営業所又は事務所が送達場所になることは,区別して理解する必要がある。

法人の営業所又は事務所で代表者本人に会えない場合でも,その場所で勤務し,書類の受領について相当のわきまえがある従業者等に交付すれば,補充送達が成立し得る。形式的な所属だけでなく,当該送達場所との関係,担当業務,年齢及び書類を名宛人へ渡すことを期待できる立場であるかを具体的に検討する。

国が当事者であるときは,国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律1条により法務大臣が国を代表する。
法務省大臣官房訟務部門の「訟務事務入門(第6版)」(平成18年3月)によれば,国を被告とする訴状は裁判所から法務大臣に送達され,法務省から担当の法務局又は地方法務局に事件が移される(PDF34頁~35頁)。
広島高裁平成3年1月31日判決(平成2年(ネ)第84号,判例秘書の判例番号 L04620028)は,国を相手方とする証拠保全手続の呼出状等は法務大臣の住所又は事務所に送達すべきものとし,指定代理人に指定されていない国立病院長への送達は違法であるとした。
最高裁平成3年12月5日第一小法廷判決(平成3年(オ)第652号,判例秘書の判例番号 L04610093)は,この原審の判断を正当として是認し,上告を棄却した。
国側の手続の流れは,国を被告とする訴訟で国側は何をしているかで説明している。

2 支店の受付係への交付と企業の期限管理

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訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人(AIリライト)

目次

第1 訴訟能力を判断するための基本区分

1 訴訟能力,行為能力及び意思能力の違い

2 通常の民事訴訟における未成年者及び成年被後見人

(1) 未成年者

(2) 成年被後見人

3 被保佐人及び被補助人

4 後見開始の審判がない意思無能力者

第2 訴状その他の裁判書類の受送達者

1 現行民事訴訟法99条の原則

2 類型別の受送達者

(1) 未成年者及び成年被後見人

(2) 被保佐人及び被補助人

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上告審に関するメモ書き(AIリライト)

目次

第1 上告審の全体像

1 上告審は法律審であること
2 上告審となる裁判所——二つの三審構造

(1) 地方裁判所を第一審とする事件(最高裁判所が上告審)
(2) 簡易裁判所を第一審とする事件(高等裁判所が上告審)

3 上告制度の目的

第2 「上告」と「上告受理申立て」の区別

1 最高裁判所に対する不服申立ては二本立てであること
2 上告の理由(民事訴訟法312条1項・2項)

(1) 憲法違反(312条1項)
(2) 絶対的上告理由(312条2項)
(3) 単なる法令違反は上告の理由とならないこと

3 上告受理申立ての理由(民事訴訟法318条1項)

(1) 「法令の解釈に関する重要な事項」を含むこと
(2) 憲法違反・絶対的上告理由は受理申立ての理由とならないこと

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即時抗告・執行抗告・再抗告・特別抗告・許可抗告の期限,理由書期限及び執行停止(AIリライト)

目次

第1 結論――抗告期限と理由書期限の早見表

1 最初に確認すべき3点
2 期限管理早見表
3 期間計算の基本

(1) 告知又は送達によって始まる期間
(2) 破産手続の公告によって始まる期間
(3) 末日が休日の場合
(4) 郵送は消印日ではなく到達日が基準となること

第2 抗告制度の全体像

1 抗告の対象
2 通常抗告と即時抗告
3 抗告状の宛先及び提出先
4 令和8年5月21日以後の民事裁判手続のデジタル化

第3 民事訴訟法に基づく即時抗告

1 即時抗告期間は1週間
2 抗告理由を後から提出する場合は抗告後14日

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控訴審の手続と主要論点―民事・刑事の総合案内(AI作成)

目次第1 本記事の使い方第2 最初に確認する控訴の入口1 控訴提起・期間・委任2 控訴理由書第3 民事控訴審の各論1 審理・不服の範囲2 請求変更・反訴・共同訴訟3 仮執行・濫用的控訴第4 刑事控訴審の各論1 量刑不当と事実誤認2 裁判員裁判・破棄後の処理・未決算入3 統計・現行実務第5 判例・高裁資料の読み方1 判例の位置付け2 大阪高裁資料の現行化第6 根拠法令
第1 本記事の使い方

控訴審は,民事事件と刑事事件で審理構造,提出書面及び破棄理由が大きく異なる。本記事は総合案内であり,各論は独立記事で確認されたい。
旧来の紙記録・郵便切手・ファクシミリ等を前提とする資料は,作成当時の実務を示す資料である。令和8年5月21日以後の新事件については,現行法令,mints及び各裁判所の公式案内を確認する必要がある。

第2 最初に確認する控訴の入口
1 控訴提起・期間・委任

民事控訴の提出方法は,mintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法を参照されたい。期間を過ぎた場合は,訴訟行為の追完を参照されたい。

2 控訴理由書

提出期限は,控訴理由書・上告理由書の提出期限を参照されたい。書き方は,民事控訴審の控訴理由書の書き方で整理している。

第3 民事控訴審の各論
1 審理・不服の範囲

民事控訴審の審理の流れ,民事控訴の利益及び民事控訴審の不利益変更禁止を参照されたい。

2 請求変更・反訴・共同訴訟

民事控訴審で請求を追加・変更する方法,民事控訴審における反訴及び必要的共同訴訟と共同訴訟的補助参加を参照されたい。

3 仮執行・濫用的控訴

民事訴訟法260条2項の原状回復及び控訴権の濫用を参照されたい。

第4 刑事控訴審の各論
1 量刑不当と事実誤認

刑事控訴の量刑不当及び刑事控訴の事実誤認を参照されたい。

2 裁判員裁判・破棄後の処理・未決算入

裁判員裁判の控訴審,破棄後の自判と差戻し及び控訴審の未決勾留日数の算入を参照されたい。

3 統計・現行実務

東京高裁の刑事控訴(令和7年度)及び刑事事件の上訴及び不服申立てを参照されたい。

第5 判例・高裁資料の読み方
1 判例の位置付け

最高裁判例の拘束力と下級審判決の位置付けを参照されたい。

2 大阪高裁資料の現行化

大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法では,旧紙運用と現行制度の区別を整理している。

第6 根拠法令

民事訴訟法(e-Gov法令検索),民事訴訟規則(e-Gov法令検索)及び刑事訴訟法(e-Gov法令検索)を確認した。

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地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合(AIリライト)

第1 この記事でいう「尋問調書の作成省略」第2 令和8年5月21日前後の適用関係1 新旧制度を分ける基準2 現行制度と旧制度の対応第3 裁判によらないで訴訟が完結した場合の省略1 省略の要件2 省略される事項と残る事項3 完結を知った日から1週間以内の申出第4 録音・録画を電子調書の記録に代える場合1 規則67条2項の省略との違い2 当事者の意見と同意の要否3 当事者の申出により作る追加の記録第5 録音反訳方式との違い1 規則76条に基づく録音反訳2 補助録音の保存と消去第6 簡易裁判所の省略制度との違い第7 旧様式,国会答弁及び旧法下の裁判例1 旧様式の「調書省略」欄2 録音反訳方式と速記に関する国会答弁3 最高裁昭和26年2月22日判決の射程第8 関連記事出典・参考資料1 法令・規則2 裁判例3 裁判所資料・国会会議録4 文献第1 この記事でいう「尋問調書の作成省略」

地方裁判所の民事訴訟では,証人尋問,当事者尋問又は鑑定人尋問を実施した後に訴訟上の和解等によって訴訟が裁判によらずに完結した場合,裁判長の許可を得て,証人等の陳述部分及び検証の結果の記載又は記録を省略することがある。この取扱いが,実務上「尋問調書の作成省略」又は「調書省略」と呼ばれることがある。

もっとも,民事訴訟法160条は,裁判所書記官が口頭弁論について期日ごとに電子調書を作成することを定めている。民事訴訟規則67条2項が省略の対象とするのは電子調書全体ではなく,証人,当事者本人及び鑑定人の陳述並びに検証の結果の部分であるため,尋問期日の電子調書自体が存在しなくなるわけではない。

第2 令和8年5月21日前後の適用関係1 新旧制度を分ける基準

裁判所の民事訴訟手続デジタル化の説明によれば,令和8年5月21日以後に提起された訴えにはオンライン手続及び電子化された訴訟記録が適用され,同日前に提起された訴えは原則として従前どおり書面により審理される。したがって,新旧制度を分ける基準は尋問日ではなく,原則として訴えの提起日である。

2 現行制度と旧制度の対応

令和8年5月21日以後に提起された訴えでは,民事訴訟法160条の電子調書が作成され,民事訴訟規則67条2項は証人等の陳述及び検証結果の「記録」の省略を定める。同日前に提起された訴えでは,従前の紙の口頭弁論調書が作成され,改正前の同項に基づいて同じ部分の「記載」を省略することがある。

項目
令和8年5月21日以後に提起された訴え
同日前に提起された訴え

基本となる調書
電子調書
紙の調書

規則67条2項による省略
陳述等の記録を省略
陳述等の記載を省略

規則68条1項による代替
録音・録画の電磁的記録をファイルに記録
録音テープ又はビデオテープ等に記録

当事者の申出後に作る文字情報
規則67条1項3号の事項を記録した電磁的記録

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新様式判決とは何か―従来様式との違い,成立経緯と現在の課題(AIリライト)

目次第1 新様式判決の意味1 法令上の書式名ではないこと2 従来様式判決との違い3 単なる短縮版ではないこと第2 1990年の共同提言1 新しい様式案の公表日2 共同提言が掲げた基本方針3 共同提言の原型第3 修正型の成立と現在の典型的構成1 1992年の大阪報告と1994年の東京報告2 現在の典型的構成3 原型と修正型の違い第4 現行民事訴訟法と電子判決書1 電子判決書の必要的記録事項2 電子化と判決様式は別の問題であること第5 新様式判決の長所と課題1 中心的争点と判断過程を示しやすいこと2 長文化,重複及び理由説示の不足3 全事件に一つの様式を当てはめるものではないこと第6 文書の成立の真正と最高裁判例1 最高裁平成9年5月30日判決2 重要争点である場合の留保第7 争点整理と判決作成の関係1 争点整理結果を要約した書面2 判決準備は争点整理段階から始まること第8 新様式判決を読むときの確認点第9 関連記事第10 出典1 法令・裁判例2 公文書・歴史資料・ウェブ資料3 文献

新様式判決とは,民事判決の「事実」及び「理由」を,請求,事案の概要,争点,当事者の主張及び争点に対する判断を中心に構成し,事件の中心と結論に至る過程を分かりやすく示そうとする判決様式である。

もっとも,「新様式判決」は法令上の用語ではなく,法律が一つの固定書式を指定しているわけではない。

また,現在一般に新様式判決と呼ばれている様式は,1990年(平成2年)の共同提言が示した原型そのものではなく,1992年(平成4年)の大阪報告及び1994年(平成6年)の東京報告を経て定着した修正型である。

本記事では,新様式判決の意味,従来様式との違い,成立後の変化,現在の典型的構成,電子判決書との関係及び理由説示をめぐる最高裁判例を,原典に即して整理する。

第1 新様式判決の意味
1 法令上の書式名ではないこと

現行民事訴訟法は,判決に記録すべき事項を定めているが,「新様式判決」又は「従来様式判決」という名称を用いていない。

これらの名称は,民事判決の事実及び理由をどのような順序と密度で記載するかを区別する実務上の呼称である。

したがって,「新様式」という名称から,新旧の法令が切り替わったとか,従来様式が法的に廃止されたと理解するのは正確でない。

2 従来様式判決との違い

従来様式判決は,当事者の主張を請求原因,請求原因に対する認否,抗弁,抗弁に対する認否,再抗弁などに分け,法律要件及び立証責任の構造に従って「事実」欄へ記載する。

この方式は,訴訟物,攻撃防御方法及び立証責任の所在を確認しやすい反面,法律実務家以外の当事者には事件の全体像と中心的争点が分かりにくく,事実欄と理由欄の記載が重複しやすいとの問題が指摘されていた。

これに対し,新様式判決は,紛争の概要と中心的争点を先に示し,その争点についての認定及び判断を読み進めやすい順序で記載することを目指す。

3 単なる短縮版ではないこと

新様式判決は,法律要件,主要事実,立証責任又は証拠評価を省略してよいという考え方ではない。

共同提言が前提としたのは,充実した審理と的確な争点整理を行った上で,形式的記載や無用な重複を除き,中心的争点については証拠と認定事実の関係を示しながら丁寧に理由を記載することである。

判決が短いかどうかと,理由が十分かどうかは別の問題である。

第2 1990年の共同提言
1 新しい様式案の公表日

東京高等・地方裁判所民事判決書改善委員会及び大阪高等・地方裁判所民事判決書改善委員会は,1990年(平成2年)1月16日,新しい様式の民事判決書案を公表した。

共同提言の本文は,「民事判決書の新しい様式について」として判例タイムズ715号4頁~35頁(PDFビューア1頁~32頁)に掲載されている。

同号の発行日は1990年2月25日であるが,提言案の公表日は同年1月16日であるため,両日を区別する必要がある。

2 共同提言が掲げた基本方針

共同提言4頁~6頁(PDFビューア1頁~3頁)が掲げた基本方針は,次のように要約できる。

① 当事者のための判決であることを重視し,中心的争点とそれに対する判断を,平易で分かりやすい文章によって示す。

② 特殊な文体に習熟していなくても起案できるよう,常識的な文章作成能力で書ける判決書を目指す。

③ 形式的記載と重複記載を除き,事実と理由を一体的に記載することも含めて,簡潔な構成を工夫する。

④ 主文に至る論理過程が分かる記載を確保し,中心的争点については,主張と証拠を示しながら具体的に理由を記載する。

3 共同提言の原型

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「2000円上告」の方法と現在の手数料―旧法事件は2000円,新法事件の電子申立ては3100円(AIリライト)

第1 「2000円上告」の対象と現在の結論1 旧法事件と新法事件では手数料が異なる2 利用を検討できるのは数量的に可分な一個の金銭請求である3 申立手数料を抑えても受理要件は変わらない第2 訴訟物の価額10万円の場合の申立手数料1 新法事件と旧法事件の金額2 新法事件の納付方法3 旧法事件の郵便費用第3 上告受理申立てから理由書提出まで1 申立書は原裁判所へ提出する2 申立範囲と訴訟物の価額を一致させる3 上告受理申立て理由書は通知書送達から50日以内である第4 不服申立ての範囲を後から拡張する場合1 最高裁昭和44年7月10日判決2 上告受理申立てに当てはめる場合の注意3 「拡張予定」と別個請求の追加を区別する第5 訴額10万円とする旧法事件の申立書記載例1 この記載例の対象2 記載例第6 委任状と特別授権1 上告受理申立てには特別の委任が必要である2 特別授権がある場合の代理権と提出実務第7 原裁判所による審査の範囲1 受理要件の実質判断は最高裁判所が行う2 形式的な不備は別に審査される第8 申立て前後の確認事項第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所の手続資料4 文献

第1 「2000円上告」の対象と現在の結論
1 旧法事件と新法事件では手数料が異なる

数量的に可分な一個の金銭請求について,上告受理申立ての対象を控訴審請求額のうち10万円に限定すれば,訴訟物の価額10万円に対応する申立手数料で申立てをすることが考えられる。

ただし,「2000円の収入印紙を貼付する」という説明が当てはまるのは,原則として第一審の訴えが令和8年5月21日より前に提起された旧法事件である。
同日以後に提起された新法事件では,訴訟物の価額10万円の場合,電子申立ての手数料は3,100円であり,紙による申立てが許される場合の手数料は4,700円である。
裁判所の民事事件の手数料額早見表にも,この3区分が掲載されている。

旧法事件か新法事件かは,上告受理申立てをする日ではなく,原則として第一審の訴えを提起した日によって区別する。
具体的な経過措置については,mints対象事件の記事で説明している。

2 利用を検討できるのは数量的に可分な一個の金銭請求である

この方法は,一個の金銭請求のうち10万円の部分だけを当初の不服申立ての範囲とする場面を想定している。
複数の別個の請求を後から追加する場合,金銭請求とは性質が異なる請求を追加する場合又は数量的に分けられない請求には,そのまま利用できない。

申立書,上告受理申立て理由書及び後に提出する範囲拡張の書面では,どの請求のどの部分を不服申立ての対象としているかが一致していなければならない。
単に訴訟物の価額を10万円と記載するだけで,不服申立ての範囲が当然に特定されるわけではない。

3 申立手数料を抑えても受理要件は変わらない

民事訴訟法318条1項によれば,最高裁判所は,判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる事件について,上告審として受理することができる。
申立ての対象を10万円に限定しても,この受理要件は変わらない。

申立手数料を低くした場合に上告受理決定の可能性が上がることを示す公的資料は確認できない。
この方法は費用負担を限定する方法であって,理由の乏しい申立てを適法又は有力にする方法ではない。

第2 訴訟物の価額10万円の場合の申立手数料
1 新法事件と旧法事件の金額

訴訟物の価額10万円の場合の申立手数料は,次のとおりである。

適用手続申立方法申立手数料郵便費用の扱い
旧法事件紙による申立て2,000円別途予納する
新法事件電子申立て3,100円1,100円相当が手数料に含まれる
新法事件許容される紙申立て4,700円2,700円相当が手数料に含まれる

民事訴訟費用等に関する法律3条及び別表によれば,訴訟物の価額10万円に対応する第一審手数料1,000円の2倍が,上告及び上告受理申立ての基礎となる2,000円である。
新法事件では,電子申立てについて1,100円,紙による申立てについて2,700円の郵便費用相当額が加わる。

2 新法事件の納付方法

新法事件の弁護士等には,原則として電子提出義務がある。
電子申立ての方法,提出先及び提出後に保存すべき受付情報については,mintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法の記事で説明している。

民事訴訟費用等に関する法律8条1項では,新法対象手続の手数料は原則として現金で納めることとされている。
収入印紙による納付が認められるのは,紙による申立てが許され,かつ,やむを得ない事由がある場合である。
そのため,新法事件を「収入印紙を貼付する手続」と説明するのは正確でない。

3 旧法事件の郵便費用

旧法事件では,2,000円の申立手数料とは別に郵便費用を予納する。
必要額は裁判所,事件及び送達を受ける相手方の人数等によって確認する必要があるため,過去の特定の裁判所における固定額を現在の一般的な金額として使用すべきではない。

上告と上告受理申立てを同時に行う場合,両者の利益が共通する範囲では,一方について納めた手数料が他方についても納付されたものとみなされることがある。
民事訴訟費用等に関する法律3条4項の適用範囲は,不服申立ての対象が両手続で一致しているかを含め,個別事件ごとに確認する必要がある。

第3 上告受理申立てから理由書提出まで

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陳述書作成の注意点(AIリライト)

民事訴訟で当事者や証人予定者が作成する陳述書は,主尋問を補い,争点を整理し,相手方の反対尋問の準備を可能にする重要な書面です。本稿では,民事訴訟で裁判所に信用される陳述書を作成するための注意点を,作成の基本方針,記載すべき内容,信用性を高める工夫,記憶やあいまいな記憶・伝聞の扱い,事実と意見の区別,弁護士が関与する際の留意点に分けて整理します。刑事訴訟の供述調書ではなく,民事訴訟の陳述書を対象とします。

目次

第1 陳述書とは何か

1 陳述書の意義(書証としての報告文書)
2 陳述書が果たす機能
3 陳述書の限界(作為の可能性と自由心証)

第2 陳述書作成の基本方針

1 直接体験した生の事実を,時系列で,自分の言葉で書く
2 段落ごとに番号を振り,小見出しを付ける
3 動かしがたい事実をつなぐストーリーを示す

第3 記載すべき内容

1 争点に関係する生の事実と背景事情
2 経歴の記載が必要になる場合
3 重要な事実は一通り書いておく
4 都合の悪い事実はフォローとともに書く
5 分量の目安と提出の時期

第4 信用性を高めるための工夫

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陳述書の機能及び裁判官の心証形成(AIリライト)

陳述書は,証人尋問や当事者尋問に先立って提出される書面で,民事訴訟の事実認定に大きな役割を果たします。もっとも,反対尋問を経ていない陳述書がどこまで信用されるのか,裁判官はどのように心証を形成するのか,という点は,条文だけを読んでも分かりにくいところです。この記事では,陳述書の機能,反対尋問を経ていない陳述書の証明力,裁判官の心証形成の仕組み,陳述書中心の審理への批判と実務の受け止め方,そして陳述書を作成・活用するときの留意点を,最高裁判例と実務文献に即して整理します。

目次

第1 陳述書の意義と機能

1 陳述書とは何か
2 主要な機能——主尋問の代用・補完と証拠開示
3 その他の機能

第2 反対尋問を経ていない陳述書の証明力

1 証拠能力は当然には否定されない
2 反対尋問前の陳述書の証明力は個別に判断される
3 作成者の属性及び反対尋問の機会

第3 裁判官の心証形成の仕組み

1 動かし難い事実とストーリーの整合性
2 心証は数値で表せない
3 心証形成の時点と「心証のなだれ」

第4 陳述書中心の審理への批判と実務の受け止め

1 陳述書で人証に代える運用への懸念
2 直接主義・口頭主義との緊張と反論

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私文書と陳述書の違い―民事訴訟で証明力を判断する基準(AIリライト)

目次

第1 私文書と陳述書の関係

1 陳述書も私文書の一種である

2 成立の真正と記載内容の信用性は別の問題である

第2 一般に信用性が高い私文書

1 類型的に信用性が高い文書

2 それ以外の一般に信用性が高い文書

3 文書の種類だけで結論は決まらない

第3 最高裁昭和45年11月26日判決

第4 陳述書の証明力

1 陳述書の機能

2 陳述書の信用性を慎重に検討する理由

3 陳述書は個々の供述部分ごとに評価する

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文書提出命令に関する最高裁判例(AIリライト)

本記事は,民事訴訟法219条,220条及び223条を中心に,文書提出命令に関する主要な最高裁判例を条文・除外事由別に整理し,インカメラ手続,即時抗告,申立人側・所持者側の主張立証及び電磁的記録提出命令の実務上の要点をまとめたものです。判例の結論は,対象文書の作成目的,記載内容,所持に至る経緯,証拠調べの必要性及び開示による不利益等の具体的事情によって異なるため,個別事件への適用に当たっては各事案の判示事情も併せて確認する必要があります。

目次
1 民事訴訟法219条(書証の申出)に関する最高裁判例
2 民事訴訟法220条3号(法律関係文書)に関する最高裁判例
3 除外事由としての民事訴訟法220条4号ロ(公務秘密文書)に関する最高裁判例
4 除外事由としての民事訴訟法220条4号ハ(職務上知り得た事実で黙秘すべきもの,技術又は職業の秘密に関する文書)に関する最高裁判例
5 除外事由としての民事訴訟法220条4号ニ「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に関する最高裁判例
6 除外事由としての民事訴訟法220条4号ホ(刑事事件に係る訴訟に関する書類)に関する最高裁判例
7 民事訴訟法223条1項に関する最高裁判例
8 民事訴訟法223条6項(インカメラ手続)に関する最高裁判例等
9 民事訴訟法223条7項(即時抗告)に関する最高裁判例等
9の2 申立て,反論及び企業秘密保護の実務上の要点
10 文書提出命令に関する下級審判例
11 民事訴訟法の条文
12 関連記事その他
1 民事訴訟法219条(書証の申出)に関する最高裁判例
・ 地方公共団体は,その機関が保管する文書について,文書提出命令の名宛人となる文書の所持者に当たります(最高裁平成29年10月4日決定)。
2 民事訴訟法220条3号(法律関係文書)に関する最高裁判例
(1) 総論
・ 刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合であっても,当該文書が民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当し,かつ,当該文書の保管者によるその提出の拒否が,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる被告人,被疑者等の名誉,プライバシーの侵害等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,当該保管者の有する裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであるときは,裁判所は,その提出を命ずることができます(最高裁平成16年5月25日決定)。
・ 公務員の職務上の秘密に関する文書であって,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるものについては,民訴法220条3号に基づく提出義務を認めることはできません(最高裁平成16年2月20日第二小法廷決定・平成15年(許)第48号・集民213号541頁)。
・ 捜査に関して作成された書類の写しが民訴法220条1号所定の引用文書又は同条3号所定の法律関係文書に該当し,当該写しを所持する都道府県による提出の拒否が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものであるときは,裁判所は,その提出を命ずることができます(最高裁平成31年1月22日決定)。
(2) 該当する例
・ 警察官が文書提出命令の申立人の住居等において行った捜索差押えに係る捜索差押許可状及び捜索差押令状請求書は,いずれも,当該警察官が所属し,上記各文書を所持する地方公共団体と文書提出命令申立人との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当します(最高裁平成17年7月22日決定)。
・ 検察官が被疑者の勾留請求に当たって刑訴規則148条1項3号所定の資料として裁判官に提供した告訴状及び被害者の供述調書は,いずれも,上記各文書を所持する国と上記請求により勾留された者との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当します(最高裁平成19年12月12日決定)。
・  鑑定のために必要な処分としてされた死体の解剖の写真に係る情報が記録された電磁的記録媒体は,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当します(最高裁令和2年3月24日決定・令和元年(許)第11号・民集74巻3号455頁)。
・ 10(3)記載の取調べ録音録画記録媒体のうち,申立人に係る刑事事件の公判で取り調べられなかった部分は,民訴法220条3号所定の法律関係文書に該当します。また,その部分が取調べの具体的状況及び内容を立証するのに最も適切で,反訳書面や人証では代替が困難であること,供述者のプライバシー保護について訴訟上の和解で合意されていること,申立人について無罪判決が確定し,他の関係者について捜査又は公判が継続していることもうかがわれないことなどの事情の下では,刑訴法47条に基づく国の提出拒否は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとされました(最高裁令和6年10月16日第二小法廷決定・令和6年(許)第5号・集民271号147頁)。
3 除外事由としての民事訴訟法220条4号ロ(公務秘密文書)に関する最高裁判例
(1) 総論

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民事執行事件担当者等の協議会及び事務打合せの資料

目次
1 民事執行事件担当者等協議会及び事務打合せの資料
2 関連記事

1 民事執行事件担当者等協議会及び事務打合せの資料
・ 令和6年度の協議結果要旨
・ 令和 3年度の事前アンケート資料(倒産,執行官,執行),協議結果要旨(事務打合せ)
・ 令和 元年度の事前アンケート資料(倒産,執行,子の引渡し),統計資料(倒産,民事執行),協議結果要旨(事務打合せ)
・ 平成30年度の協議結果要旨及び資料(協議会)
・ 平成29年度の協議結果要旨(協議会)
・ 平成28年度の配布資料1/2,2/2及び協議結果要旨(協議会)

2 関連記事
・ 裁判所の協議会等開催計画
・ 民事事件担当裁判官の協議会及び事務打合せの資料

外国送達の方法,送達条約及び公示送達(AIリライト)

目次

第1 外国送達の基本

1 外国送達とは何か

2 国内送達で足りる場合を先に確認すること

3 最初に確認すべき公式情報

第2 外国送達の主な方法

1 領事送達

2 送達条約に基づく中央当局送達

3 民訴条約に基づく指定当局送達

4 外交ルート又は受領国の管轄裁判所等への嘱託

5 送達条約10条(a)の直接郵便送付

第3 国別条件,翻訳及び所要期間

1 ブラジル,フィリピン及びシンガポールの条約加入

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