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仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令に定められる仮差押解放金(民事保全法22条)について,金額の決まり方,債務者が供託したときの効果,債権者が最終的に回収する方法及び債務者が供託金を取り戻す方法を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文(民事保全法は令和8年5月21日施行の改正を反映したもの)で確認し,裁判例は裁判所HPで確認したものを挙げ,裁判所HPで確認できなかったものは文献が引用するものとして示している。

主な文献は,岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年。以下「岡口マニュアル」という。)86頁~89頁と,司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)である。
いずれもその後の法改正(民法(債権関係)改正(令和2年4月1日施行),令和元年の民事執行法改正等)との時点差があるので,条番号は現行条文で書いている。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

仮処分命令で定められる仮処分解放金(民事保全法25条)は,要件も還付の仕組みも異なるので,本記事の対象外とする。

2 結論

①仮差押解放金とは,債務者が仮差押えの執行の停止又は既にした執行の取消しを得るために供託すべき金銭の額であり,仮差押命令で必ず定められる(民事保全法22条1項)。
②供託できるのは金銭に限られ,有価証券や支払保証委託契約(いわゆるボンド)によることはできず,管外供託も認められない(教材36頁,岡口マニュアル88頁)。
第三者による供託も,東京地方裁判所民事第9部の案内では認められていない。
③金額は,解放金が目的物に代わるものであることから,原則として目的物の価額を基準とし,目的物の価額が被保全債権の額を上回るときは被保全権利の額を基準とする(岡口マニュアル86頁~87頁,教材36頁)。
債権の仮差押えは仮差押債権額,目的物を特定しない動産の仮差押えは被保全債権の額,不動産の仮差押えは目的物の価額(基本的に固定資産評価額)と被保全権利の額のいずれか低い方が基準とされる(岡口マニュアル87頁)。
④債務者は,供託書正本及びその写しを添付して保全執行裁判所に執行取消しを申し立て,保全執行裁判所は仮差押えの執行を取り消さなければならない(民事保全法51条1項)。
取消決定は即時に効力を生じ,取り消されるのは執行であって仮差押命令そのものは残る。
⑤執行が取り消されても,仮差押えの執行保全の効力は債務者の供託金取戻請求権の上に存続する(最高裁判所第三小法廷平成6年6月21日判決)。
債権者は,本案で勝訴した後,この取戻請求権を差し押さえ,取立て又は転付命令により供託所から払渡しを受け,他の差押えと競合したときは配当等を受ける。
⑥債権の仮差押えで第三債務者が債権額相当額を供託したときは,解放金の額の限度で,債務者が解放金を供託したものとみなされる(民事保全法50条3項。みなし解放金)。
⑦債務者が供託した解放金を取り戻すには,仮差押命令の申立ての取下げ又は仮差押命令を取り消す決定が必要であり,東京地方裁判所民事第9部の案内では,発令裁判所に取戻許可申立書を出す手続とされている。

第2 仮差押解放金の意味と根拠

1 民事保全法22条

民事保全法22条1項は,「仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。」と定めている。
「定めなければならない」とされているから,解放金の額は仮差押命令の必要的記載事項であり,裁判所は職権で定める(岡口マニュアル86頁)。
教材35頁~36頁によれば主文中に記載される。

仮差押えは,本案で勝訴したときの強制執行に備えて,債務者の特定の財産の処分を暫定的に禁止する制度である。
債務者からみると,不動産の売却や預金の払戻しが止まることの不利益が大きい場合がある。
解放金は,債務者が目的物に代わる金銭を供託することで,目的物を仮差押えから解放する仕組みである。

2 供託できるもの,供託所及び供託する者

(1) 金銭に限られること

教材36頁は,解放金は仮差押えの目的物に代わって金銭債権の執行を保全するためのものであるから,供託すべきものは金銭に限られると説明している。
岡口マニュアル88頁も,解放金の供託は金銭に限られ,支払保証委託契約(ボンド)によることもできないとしている。
担保(民事保全法4条1項)のように,裁判所が相当と認める有価証券で供託したり,支払保証委託契約を締結したりすることはできない。

(2) 供託所(管外供託はできない)

供託する場所について,民事保全法22条2項は,「仮差押命令を発した裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。」と定めている。
担保については,遅滞なく供託することが困難な事由があるときに裁判所の許可を得て債権者の住所地等の供託所に供託する管外供託(民事保全法14条2項)が認められているが,岡口マニュアル88頁は,解放金についてはこれも認められないとしている。
東京地方裁判所民事第9部の「その他の手続」の案内(令和8年9月17日確認)のQ&Aも,九州に住む債務者が九州の法務局に解放金を供託することはできず,発令裁判所又は保全執行裁判所が東京地方裁判所の場合は東京法務局に供託すると説明している。

(3) 第三者による供託

岡口マニュアル88頁は,第三者による解放金の供託は認められないとし,同書が引用する高松高等裁判所昭和57年6月23日決定(判例時報1057号76頁,判例タイムズ474号110頁)を挙げている。
東京地方裁判所民事第9部の上記Q&Aも,第三者は供託できず,債務者本人が供託する必要があるとしつつ,債務者本人の代理人として弁護士が供託することは可能であると説明している。
教材36頁も,第三者による供託は供託実務上認められていないとしている。

もっとも,岡口マニュアル88頁は,債務者の一般債権者が債権者代位(民法423条)により解放金を供託することはできるとし,同書が引用する東京高等裁判所昭和55年9月25日決定を挙げている。
なお,上記2件の決定は,本記事の調査範囲では裁判所HPで確認できなかった(裁判所HP未掲載)。

(4) 供託の方法(オンライン申請と電子納付)

法務省の「供託書等の記載例」は,執行供託の一つとして「仮差押解放金の供託」の記載例を掲げており,供託書の法令条項欄は「民事保全法第22条」とされている。
同じ記載例には「オンライン申請の入力例」も掲載されている。
法務省の「オンラインによる供託手続について」は,オンラインによる供託の対象を金銭又は振替国債の供託及び払渡しの請求とし,オンラインで供託したときの供託金は,受理決定の日から7日の間にインターネットバンキングやATM等で電子納付するものとしている。
書面の供託書正本は,供託所で入金を確認した後に交付される。
したがって,解放金もオンライン申請と電子納付により供託することができると考えられるが,執行取消しの申立てには供託書正本が必要になるので(後記第4の1の「執行取消しの申立ての手続」),正本の受領までの日数を見込んでおく必要がある。

3 担保との違い

仮差押えでは,債権者が立てる「担保」と,債務者が供託する「解放金」の2種類の金銭が登場するので,混同しないようにする必要がある。

項目担保仮差押解放金
誰が立てるか債権者債務者
根拠民事保全法4条・14条民事保全法22条
目的違法・不当な仮差押えにより債務者が被る損害の担保目的物に代わって被保全債権の執行を保全
立てる方法金銭,裁判所が相当と認める有価証券又は支払保証委託契約金銭の供託のみ
管外供託許可を得てできる(民事保全法14条2項)できない
供託の効果保全命令の発令又は保全執行の条件を満たす仮差押えの執行の停止又は取消し

教材36頁は,解放金は,執行の停止・取消しによって債権者が被るべき損害を担保するものではないとも説明している。
担保の額の決め方は仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方で,担保の取戻しは仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間で説明している。

第3 解放金の額の決まり方

1 基本的な考え方

(1) 目的物の価額と被保全権利の額

民事保全法22条1項は,解放金の額をどう決めるかについて基準を定めていない。

岡口マニュアル86頁~87頁は,解放金は目的物に代わるものであるから,原則として目的物の価額が解放金の額を決定するための基準となるが,仮差押えは被保全権利が保全されれば足りるものであるから,目的物の価額が被保全債権の額を上回る場合は被保全権利の額が基準となると説明している。
同書87頁は,この「被保全権利の額」には仮差押えの執行費用の見込額も含まれるとしている。
教材36頁も,原則として目的物の価格が基準となり,目的物の価格より被保全債権額が低い場合は被保全債権額が基準となると説明している。

つまり,目的物の価額と被保全権利の額のうち低い方が基準になる。
目的物の価値を超える金額を債務者に求める理由はなく,また,債権者は被保全債権額を超えて保全される立場にはないからである。

(2) 担保の額の基準との違い

担保の額は,目的物の価格に一定の比率を掛けて定めるのが一般的であり(教材26頁~27頁),被保全債権額が目的物の価格より高くても目的物の価格が基準になる。
解放金の額は,これと異なり,目的物の価額と被保全権利の額のいずれか低い方が基準になり,比率を掛けることもない。
同じ仮差押命令の中で,担保は債権者の立てる金額,解放金は債務者の供託する金額として別々に定められる。

2 目的物の種類ごとの基準

(1) 債権の仮差押え

岡口マニュアル87頁は,債権の仮差押えでは仮差押債権額を基準とするとしている。
被保全債権の額を超える額の債権の仮差押えは原則として認められていないので,通常は仮差押債権額が被保全債権の額以下になる。
また,数口の債権を一度に仮差押えする場合でも,個別に解放金の額を定めることは通例しないとされている。
東京地方裁判所民事第9部の上記Q&Aも,第三債務者が複数いる債権仮差押えで一部の第三債務者の分だけ解放金を供託して執行取消しを求めることはできず,決定書に記載された解放金全額を供託して全部の執行取消しを求める必要があると説明している。

(2) 動産の仮差押え

岡口マニュアル87頁は,目的物を特定せずに発する動産の仮差押え(民事保全法21条ただし書)では,被保全債権の額を基準とするとしている。
発令の段階では目的物の価額が分からないからである。

(3) 不動産の仮差押え

岡口マニュアル87頁は,不動産の仮差押えでは,目的物の価額と被保全権利の額のいずれか低い方を基準とし,目的物の価額は基本的に固定資産評価額によるとしている。
抵当権等が設定されていて目的物の価額の把握が困難なときは,債権者に見積額を記載した上申書を求め,その額を基準とするとされる。
上申された額がゼロであれば,仮差押えをする保全の必要性はないから,申立て自体を取り下げるべきであるともされている。

(4) 教材の主文例との関係

教材巻末の主文例1頁の不動産仮差押えの主文例は,債務者が「上記請求債権額を供託するときは」執行の停止又は執行処分の取消しを求めることができる,という形で解放金を定めている。
その注③は,被差押物件価額が請求債権額を下回ることが明らかな場合には,被差押物件価額を解放金額とする取扱いもあると述べている。

これは,前記の不動産の仮差押えについての「いずれか低い方」という基準と矛盾するものではなく,請求債権額(被保全権利の額)の方が低い事案を主文例の基本形とし,目的物の価額の方が明らかに低い事案では目的物の価額を解放金の額とする,という書き分けと読むことができる。
不動産の仮差押えで請求債権額よりも不動産の価額が明らかに低い事案では,債権者が申立ての段階で固定資産評価証明書や上申書を出していれば,それが解放金の額に反映されることになる。

3 解放金の額に不服がある債務者

岡口マニュアル86頁は,解放金の額の定めに対する不服は保全異議(一部取消し)によるとしている。
教材89頁も,保全異議の異議事由の例として,担保の額が低額すぎること等と並べて「解放金が高額すぎること」を挙げている。
したがって,債務者は,解放金の額が目的物の価額に比べて過大であると考えるときは,保全異議(民事保全法26条)の中でその変更を求めることが考えられる。
保全異議の手続は,仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告で説明している。

第4 債務者が解放金を供託した場合の効果

1 仮差押えの執行の取消し(民事保全法51条)

(1) 取り消されるのは執行であること

民事保全法51条1項は,「債務者が第二十二条第一項の規定により定められた金銭の額に相当する金銭を供託したことを証明したときは、保全執行裁判所は、仮差押えの執行を取り消さなければならない。」と定めている。
同条の見出しも「仮差押解放金の供託による仮差押えの執行の取消し」である。

ここで取り消されるのは仮差押えの執行であり,仮差押命令そのものではない。
仮差押命令が残っているからこそ,後記第4の3のとおり,仮差押えの効力が供託金取戻請求権の上に存続するという整理が成り立つ。
「解放金を積めば仮差押命令が取り消される」という説明は,条文の文言とずれている。

取消しは裁判所の裁量ではなく,供託の証明があれば「取り消さなければならない」とされている。
債務者は,解放金の額の当否や被保全債権の存否を争わなくても,供託によって目的物を早期に解放できる。

(2) 取消決定は即時に効力を生ずること

民事保全法46条は民事執行法12条を保全執行に準用している。
民事執行法12条1項は,民事執行の手続を取り消す旨の決定に対しては執行抗告をすることができると定め,同条2項は,執行抗告をすることができる裁判は確定しなければ効力を生じないと定めている。
しかし,民事保全法51条2項は,解放金の供託による執行取消しの決定は,この規定にかかわらず「即時にその効力を生ずる。」と定めている。
解放金という代わりの財産が既に確保されているから,確定を待つ必要がないという趣旨と考えられる。

岡口マニュアル88頁は,取消決定に対しては債権者が執行抗告をすることができるとしている(民事保全法46条,民事執行法12条1項)。
執行抗告の期間は,裁判の告知を受けた日から1週間の不変期間である(民事執行法10条2項)。
もっとも,取消決定は即時に効力を生ずるから,執行抗告がされても,それだけで執行取消しの効力が止まるものではないと考えられる。

(3) 執行取消しの申立ての手続

東京地方裁判所民事第9部の「その他の手続」の案内(令和8年9月17日確認)は,債務者は解放金を供託した後,解放金供託による保全執行取消しの申立書に供託書正本とその写しを添付して,保全執行裁判所に執行取消しを申し立てるとしている。
岡口マニュアル88頁も,同じく供託書正本及びその写しを添付するとしている。
同部の「執行取消し(取下げ等)」の案内の表では,解放金の供託による場合は,①保全執行取消しの申立て,②保全執行取消決定と当事者双方への告知,③抹消登記等の嘱託(登記の方法による保全執行の場合)又は第三債務者等への通知(債権等の保全執行の場合),という流れで処理される。
いずれの手続も,令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外であり,書面で申し立てる必要がある。

同部が掲載している書式38(執行取消申立書)には,用意する添付書類等として,次のものが挙げられている。
①供託書正本及びその写し1通
②郵便切手(債権者・債務者・第三債務者の人数×1,220円)
③取消決定用の当事者目録及び物件目録(仮差押債権目録)(当事者の人数に1を加えた数)
④不動産で法務局への登記抹消嘱託が必要な場合は,法務局1か所につき,登記権利者義務者目録及び物件目録各2通,郵便切手590円×2,不動産1個につき1,000円の収入印紙
⑤代理人弁護士が申し立てる場合は委任状,債務者本人が申し立てる場合は実印で作成した申立書と印鑑証明書
⑥保全命令の発令から1年を経過している場合は,1か月以内の不動産登記記録の全部事項証明書

2 目的物ごとの執行の解放

(1) 不動産の仮差押え

不動産に対する仮差押えの執行は,仮差押えの登記をする方法等により行われ,仮差押えの登記は裁判所書記官が嘱託する(民事保全法47条1項・3項)。
同条5項は,仮差押えの登記をする方法による執行について民事執行法54条を準用している。
民事執行法54条1項は,手続を取り消す決定が効力を生じたときは,裁判所書記官が差押えの登記の抹消を嘱託しなければならないと定めているので,解放金の供託による執行取消決定が効力を生ずると,裁判所書記官が仮差押えの登記の抹消を嘱託することになる。
債務者は,これにより仮差押えの登記の付いていない不動産として売却や担保設定を進められる。

抹消登記の登録免許税は,登録免許税法別表第一の一の(十五)により不動産1個につき1,000円(同一の申請書により20個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合は,申請件数1件につき2万円)である。
前記の書式38のとおり,解放金の供託による執行取消しの場合は,債務者が申立ての際に収入印紙を納める。
大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の「保全執行解放に必要な書類」の案内(令和8年9月17日確認)も,抹消登記が必要な場合の登録免許税を物件1筆につき1,000円(区分所有建物の敷地権も1筆とする)としている。
債権者が申立てを取り下げる場合の抹消登記の費用は,仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻しで説明している。

(2) 債権の仮差押え

債権に対する仮差押えの執行は,保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行われる(民事保全法50条1項)。
その執行裁判所は仮差押命令を発した裁判所である(同条2項)。
解放金の供託によってこの執行が取り消されると,東京地方裁判所民事第9部の上記の表のとおり第三債務者等に通知され,弁済禁止の拘束が外れて,債務者は預金の払戻しや売掛金の回収を受けられる状態に戻る。

3 供託後も仮差押えの効力が残ること

(1) 最高裁昭和45年7月16日判決

最高裁判所第一小法廷昭和45年7月16日判決(昭和42年(オ)第342号,民集24巻7号965頁)の判示事項は,「抵当権の物上代位と抵当不動産に代わる仮差押解放金の取戻請求権」である。
裁判要旨は,抵当権者が被担保債権を被保全債権として抵当不動産の仮差押えをした場合において,仮差押債務者が仮差押解放金を供託して仮差押執行の取消しを得たときには,抵当権の効力は,物上代位の規定の趣旨により,仮差押解放金の取戻請求権に及ぶとするものである。

判決理由は,取戻請求権が「本件仮差押の目的である本件抵当建物に代わるものである」ことを理由としている。
岡口マニュアル86頁も,解放金が供託されると,債務者が国に対して有する供託金取戻請求権が仮差押えの目的物の代わりとして取り扱われるとして,この判決を引用している。

(2) 最高裁平成6年6月21日判決

最高裁判所第三小法廷平成6年6月21日判決(平成2年(オ)第1211号,民集48巻4号1101頁)は,仮差押解放金の供託により仮差押えの執行が取り消された場合でも,仮差押えによる時効中断の効力はなお継続すると判断した。

判決理由は,解放金の供託による執行取消しでは,供託された解放金が仮差押執行の目的物に代わるものとなり,債務者は仮差押命令の取消しなどを得なければ供託金を取り戻すことができないと述べている。
そして,「債権者は、本案訴訟で勝訴した場合は、債務者の供託金取戻請求権に対し強制執行をすることができる」ことを挙げたうえで,「仮差押えの執行保全の効力は右供託金取戻請求権の上に存続している」と判示した。
この判決は,解放金の供託の前後を通じて仮差押えの実質が失われていないことを示すものであり,後記第5の債権者の回収方法及び第7の債務者の取戻しの前提となる。

なお,同判決の事案は,昭和57年に仮差押決定を得て昭和58年に執行が取り消されたもので,裁判所HPの参照法条には旧民法147条2号・157条1項のほか民事保全法51条が挙げられている。

(3) 現行民法での時効の扱い

平成29年法律第44号による改正後の民法では,仮差押えは時効の中断事由ではなく,時効の完成猶予事由である(民法149条1号)。
同条は,仮差押えについて,「その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」と定めている。
令和2年4月1日より前に仮差押えがされた場合には,改正前の規定(時効中断)が適用される(平成29年法律第44号附則10条2項)。

改正後の民法149条の「その事由が終了した時」について,解放金が供託された場面を直接判断した最高裁判例は,本記事の調査範囲では見当たらない。
もっとも,法制審議会民法(債権関係)部会第79回会議の議事録24頁では,事務当局の関係官が,保全執行の効力が継続している限り時効中断の効力が継続するという判例法理を変更する意図はなく,「その事由が終了した時」は従来の判例法理の終了時点と同じ時点を指すと説明している。
この説明に従えば,解放金の供託によって執行が取り消されても,執行保全の効力が取戻請求権の上に存続している間は,「その事由が終了した」とはいえないと考えられる。
時効の問題は,仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効でも説明している。

第5 債権者の回収方法

1 本案で勝訴してから供託金取戻請求権を差し押さえる

解放金が供託されても,債権者が供託金から直接支払を受けられるわけではない。
債権者は,本案訴訟で勝訴して債務名義を得た後,債務者の供託金取戻請求権に対して強制執行をすることになる(最高裁平成6年6月21日判決の理由中)。
岡口マニュアル89頁も,仮差押債権者は,まず債権差押命令の申立てをして,供託金取戻請求権を差し押さえるとしている。

金銭債権に対する強制執行は,執行裁判所の差押命令により開始する(民事執行法143条・145条1項)。
債権差押命令の申立てから取立てまでの一般的な流れは,債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務で説明している。

2 差押えが競合しない場合

(1) 取立権を行使する方法

金銭債権を差し押さえた債権者は,債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは,その債権を取り立てることができる(民事執行法155条1項)。
岡口マニュアル89頁によれば,この方法による場合,債権者は,供託所に対し,次の書面を添付して供託金の払渡しを請求する(同書は平成2年11月13日付け法務省民四第5002号民事局長通達を引用している)。
①仮差押えの被保全債権と差押えの執行債権が同一であることを証する書面(仮差押決定正本と本案の確定判決正本等)
②差押命令が債務者に送達された日から1週間を経過したことを証する書面(裁判所書記官による送達通知書)

同書は,これらの書面が,供託物の取戻しをしようとする者が添付すべき「取戻しをする権利を有することを証する書面」(供託規則25条1項)に当たるとしている。
なお,上記通達は,法務省ウェブサイトの「供託関係の主な法令・通達等」には掲載されておらず,本記事では原文を確認していない。

(2) 転付命令を得る方法

債権者は,差し押さえた取戻請求権について転付命令(民事執行法159条1項)を得ることもできる。
転付命令は確定しなければ効力を生じないので(同条5項),岡口マニュアル89頁によれば,この場合は転付命令の確定証明書を添付して払渡しを請求する。

3 差押えが競合した場合

岡口マニュアル89頁によれば,差押えが競合した場合は,第三債務者である供託官が,その供託を持続する旨の事情届を差押命令を発した裁判所に提出し,仮差押債権者は,執行裁判所の配当等の実施としての支払委託によって払渡しを受ける。
事情届について,同書は民事執行法156条3項を挙げているが,令和元年の改正で同条3項に供託命令の規定が加わったため,現行法では事情の届出は同条4項に定められている。
配当等のために供託物を払い渡す場合は,執行裁判所が供託所に支払委託書を送付し,払渡しを受けるべき者に証明書を交付する(供託規則30条1項)。

前記の最高裁昭和45年7月16日判決の事案では,仮差押債権者が本案で勝訴して取戻請求権の差押命令・転付命令を得たが,それより前に債務者の別の債権者も同じ取戻請求権の差押命令・転付命令を得ていた。
最高裁は,両者の差押命令は競合しているから転付命令はいずれも効力を有しないとし,配当手続の中で,抵当権者でもあった仮差押債権者に抵当権の順位に応じた優先を認めるべきであるとして,原判決を破棄した。
この判決は仮差押債権者が抵当権者であった点を理由に優先を認めたものであり,抵当権等を持たない仮差押債権者は,解放金の取戻請求権が他の債権者に差し押さえられると,配当手続で他の債権者と分け合うことになり得ることに注意が必要である。

4 債権者の立場からみた解放金の意味

債権者にとって,解放金の供託は必ずしも不利益ではないと考えられる。
目的物が不動産であれば,本執行に移行した後も競売手続を経て換価する必要があるのに対し,解放金は金銭で供託されているからである。

他方で,解放金の額が請求債権額より低く定められていた場合には,取戻請求権からの回収は解放金の額が上限になる。
債権者は,仮差押えの申立ての段階で,目的物の価額に関する資料が解放金の額に影響し得ることを意識しておく必要がある。

第6 みなし解放金(民事保全法50条3項)

1 第三債務者が供託した場合

債権の仮差押えを受けた第三債務者は,弁済を禁止される一方で,弁済期を過ぎると履行遅滞の責任を免れないので,仮差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託することができる(民事保全法50条5項,民事執行法156条1項。教材52頁~53頁)。

民事保全法50条3項は,「第三債務者が仮差押えの執行がされた金銭の支払を目的とする債権の額に相当する金銭を供託した場合には、債務者が第二十二条第一項の規定により定められた金銭の額に相当する金銭を供託したものとみなす。」と定めている。
同項ただし書により,解放金の額を超える部分は,解放金の供託とはみなされない。
これを実務上「みなし解放金」という。
解放金の額を超える部分を債務者がどのような手続で受け取るかについては,東京地方裁判所民事第9部の案内には記載がなく,本記事では立ち入らない。

みなし解放金の場合,債務者は,第三債務者が供託した供託金の還付請求権を取得する(東京地方裁判所民事第9部の案内)。
最高裁平成6年6月21日判決の考え方に照らせば,仮差押えの執行保全の効力はこの債務者の権利の上に及んでおり,債権者は本案で勝訴した後にこれに対して強制執行をすることになると考えられる。
電子記録債権(でんさい)の仮差押えでの扱いは,電子記録債権(でんさい)の仮差押え―債権の特定,送達及び決済停止の実務で説明している。

2 債務者がみなし解放金を取り戻す手続

東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)によれば,債務者が第三債務者の供託した供託金の還付請求権を行使するには,仮差押えの執行の効力が消滅することが必要である。
具体的には,仮差押命令の申立てが取り下げられ,かつ,仮差押えの執行が取り消された事実を証明する必要があり,保全執行裁判所から「取下げ及び執行取消証明書」の交付を受ける。
その後の払渡しは供託所の手続となる。

第7 債務者が解放金を取り戻す方法

1 取戻事由

東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)によれば,債務者が解放金を取り戻すには,発令裁判所に取戻許可申立書を提出する。
取戻事由として挙げられているのは,①保全命令の申立てが取り下げられた場合と,②保全命令を取り消す旨の決定がされた場合(民事保全法施行前の事件では仮執行宣言付取消判決)の2つである。

これは,最高裁平成6年6月21日判決が,債務者は仮差押命令の取消しなどを得なければ供託金を取り戻すことができないと述べていることと対応している。
解放金を供託しただけでは仮差押命令は残っているから,債務者は,命令そのものをなくさない限り供託金を取り戻せない。

2 手続の流れ

案内によれば,取戻事由②の場合は,取消決定の正本又は謄本を申立書に添付する。
承継人が申し立てる場合には追加の添付書類が必要であり,法人の合併の場合は印鑑証明書も必要とされている。

裁判所が解放金の取戻しを許可すると,債務者は供託原因消滅証明書の交付を受け,これを供託物払渡請求書に添付して供託所に払渡しを請求する。
供託規則25条1項も,供託物の取戻しをしようとする者は,取戻しをする権利を有することを証する書面を添付しなければならないと定めている。

東京地方裁判所民事第9部の案内上,解放金の取戻しは,令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外であり,電子申立てはできず,書面を提出する必要がある。
同部の案内には,解放金の取戻許可申立書(書式27)及び承継人による申立書(書式28)の書式も掲載されている。

3 取戻事由を作る方法

取戻事由を作る方法としては,次のものがある。
①債権者に仮差押命令の申立てを取り下げてもらう(民事保全法18条)
②保全異議を申し立てて仮差押命令の取消決定を得る(民事保全法26条・32条)
③起訴命令を得て,債権者が期間内に本案の訴えを提起しないときに保全取消しを得る(民事保全法37条)
④事情変更による保全取消しを得る(民事保全法38条)

債権者が本案訴訟で敗訴した場合でも,上記案内の取戻事由に本案敗訴そのものは挙げられていない。
教材101頁は,本案訴訟で債権者が敗訴した場合,その確定前であっても被保全権利の存在が否定される蓋然性があるときは事情変更による取消しの事由となし得ると説明している。
したがって,債務者は,本案で勝訴したときは,事情変更による保全取消しを申し立てるか,債権者に取下げを求めることで,取戻事由を作ることになる。

取下げについては仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻しで,保全異議・保全取消しについては仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告で説明している。

第8 解放金の供託と他の対抗手段の使い分け

1 解放金の供託と保全異議・保全取消し

解放金の供託は,被保全債権や保全の必要性を争うことなく,目的物を早く解放するための手段である。
その代わり,債務者は解放金の額の金銭を用意しなければならず,その金銭は仮差押命令がなくなるまで取り戻せない。

保全異議や保全取消しは,仮差押命令そのものをなくすための手段であり,認められれば執行も解放され,供託した解放金の取戻事由にもなる。
ただし,審理には時間がかかるので,目的物の売却期限が迫っている場合等には,まず解放金を供託して執行を取り消させ,並行して保全異議等で命令を争うという使い方が考えられる。

2 担保の取戻しとの区別

債権者が立てた担保の取戻し(担保取消し・簡易の取戻し)は,債権者側の手続である。
債務者が供託した解放金の取戻しは,これとは別の手続であり,前記第7のとおり発令裁判所の取戻許可を得て供託所に請求する。
東京地方裁判所民事第9部の案内でも,担保取消し,担保の簡易の取戻し及び解放金の取戻しは別々のページで説明されている。

3 仮処分解放金は別の制度

仮処分解放金(民事保全法25条)は,保全すべき権利が金銭の支払を受けることをもってその行使の目的を達することができるものであるときに限り,債権者の意見を聴いて定めることができるものである(教材36頁)。
仮差押解放金のように必ず定められるものではなく,還付請求権者の記載等の点でも仕組みが異なるので,本記事の説明はそのまま当てはまらない。

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第10 出典・参考資料

1 法令・裁判所規則

民事保全法(e-Gov法令検索)4条,14条,18条,21条,22条,25条,26条,32条,37条,38条,46条,47条,50条,51条
民事執行法(e-Gov法令検索)10条,12条,54条,143条,145条,155条,156条,159条
民法(e-Gov法令検索)149条,423条,平成29年法律第44号附則10条2項
供託規則(e-Gov法令検索)25条,30条
登録免許税法(e-Gov法令検索)別表第一の一の(十五)

2 裁判例

最高裁判所第一小法廷昭和45年7月16日判決(昭和42年(オ)第342号,民集24巻7号965頁)
最高裁判所第三小法廷平成6年6月21日判決(平成2年(オ)第1211号,民集48巻4号1101頁)
③高松高等裁判所昭和57年6月23日決定(判例時報1057号76頁,判例タイムズ474号110頁。岡口マニュアル88頁が引用。裁判所HP未掲載)
④東京高等裁判所昭和55年9月25日決定(岡口マニュアル88頁が引用。裁判所HP未掲載)

3 裁判所等の案内

東京地方裁判所民事第9部「解放金の取戻し(電子申立て不可)」(令和8年9月17日確認)
東京地方裁判所民事第9部「その他の手続(電子申立て不可)」(解放金供託による執行取消し,Q&A及び書式38。令和8年9月17日確認)
東京地方裁判所民事第9部「執行取消し(取下げ等)(電子申立て不可)」(令和8年9月17日確認)
大阪地方裁判所第1民事部「保全執行解放に必要な書類」(令和8年9月17日確認)
法務省「供託書等の記載例」(第3の「仮差押解放金の供託」。令和8年9月17日確認)
法務省「オンラインによる供託手続について」(令和8年9月17日確認)
法制審議会民法(債権関係)部会第79回会議議事録24頁
法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」

4 文献

①岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)86頁~89頁
②司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行)26頁~27頁,35頁~36頁,52頁~53頁,89頁,101頁,巻末「主文例」1頁