目次
1 債権差押命令の申立て前の留意点
2 債権差押えにおける工夫例
2の2 執行費用
3 差押債権えの特定を欠くとされた事例
3の2 差押えの対象とならない財産
4 債権差押えにおける送達先
5 債権差押命令の申立て後の留意点
6 金融機関の陳述書
7 取立権
8 転付命令
9 供託及び配当手続
9の2 改正民事執行法等に関する資料
10 債権差押えと時効中断
11 その他債権差押に関する判例
12 公務の執行を妨害する罪
13 関連記事その他
1 債権差押命令の申立て前の留意点
(1) 強制執行は依頼した弁護士限りで対応できますから,依頼者が裁判所に出頭する必要が生じることはまずありません。
(2) 強制執行を申し立てる場合,所定の書式の委任状に改めて署名押印する必要があります。
(3)ア 強制執行を申し立てるためには,前提として,執行文の付与を受けた上で(民事執行法26条),判決正本が相手方に送達済であること(民事訴訟法255条)を裁判所において確認する必要があります(民事執行法29条)から,強制執行の申立ては早くとも判決が言い渡されてから1週間程度後になります。
イ 執行文というのは,強制執行ができるという証明書です。
(4)ア 債権者又は債務者について,債務名義上の住所と,現在の住所が異なる場合,現住所とは別に「債務名義上の住所」を併記する必要がありますし,旧住所等と新住所等のつながりを示す証明書(例えば,住民票,履歴事項証明書)の原本を裁判所に提出する必要があります。
イ 管理組合が債権者の場合,定款又は管理規約,及び代表者を証する書面(例えば,管理組合の議事録)を提出する必要があります。
(5) 債権差押命令の申立ては債務者の住所地を管轄する地方裁判所の専属管轄です(民事執行法19条,144条)。
例えば,債務者が2名で管轄が異なる場合,それぞれの管轄裁判所に別々に申立てをする必要があります。
(6)ア 債権者又は債務者に承継があった場合,承継執行文の付与(民事執行法27条2項),並びに執行文及び承継を証する文書の謄本の送達証明書が必要となります(民事執行法29条後段)。
イ 承継を証する文書を提出できない場合,債権者は執行文付与の訴えを提起する必要があります(民事執行法33条1項)。
(7) インターネット上のみで営業しているネットバンクの場合,一般の金融機関で想定される現実の支店が存在しないことから,支店を特定せずに債権差押命令が発令されます。
ただし,ネットバンクであるということは裁判所にとって明らかでない場合もあるため,申立てにあたっては,ネットバンクであることを資料等で明らかにする必要があります。
(8) 給料なり賃金なり家賃なりといった継続的給付の差押えの場合,差押命令送達後に発生する債権も差押えができます(民事執行法151条)。
しかし,大阪地裁の取扱い上,継続的給付と認められない売掛代金,請負代金等の将来分については,6ヶ月分しか認めてもらえません。
(9) 債権差押え(本差押え)に先行して仮差押命令を取得している場合,その旨を差押債権目録の末尾に記載する必要があります。
なぜなら,この記載がないと,仮差押えと本差押えが競合したものとして取り扱われ(民事執行法165条参照),配当手続に移行することがあるからです。
(10) 判決書の主文,和解調書の和解条項等に表示されていない場合,年5%の法定利息による遅延損害金を請求債権に含めることはできません。
(11) 預貯金債権の場合,常に譲渡禁止特約が付いています(最高裁昭和48年7月19日判決参照)ものの,債権差押えの場合,譲渡禁止特約は適用されません(令和2年3月31日以前につき最高裁昭和45年4月10日判決,同年4月1日以降につき民法466条の5第2項)から,問題なく債権差押えの対象になります。
執行については、だいたいのマチベンから見える債権者は依頼人である個人債権者だけであるのに対し、裁判所から見えるのはほとんどがサービサーであるというのが、感覚の違いのようなものを産んでいる気もしないではない。
— 心の貧困 (@mental_poverty) September 25, 2023
最高裁作、債権差押命令プログラムに誤りがありました。
✕「請求権」
◯「請求債権」
内容に影響しないですが、全国で誤った書式で発令されていたはず。昨年秋、修正済み。
(種々のうちヤバくないやつ。無難な投稿っす) pic.twitter.com/7Q2YXLQjX0— Jの犬C🐶 (@VpFgXjDXzzpcfJc) April 5, 2023
2 債権差押えにおける工夫例
(1) 相手方が居住している区又は市町村にある日本銀行歳入代理店である金融機関の預金口座全部を差し押さえることで,預貯金の有無を探す場合があります。
なお,日本銀行「歳入」代理店(日本銀行法45条及び日本銀行法施行令12条に基づく日本銀行業務方法書28条参照)は,国債の元利金の支払等まで行う日本銀行「一般」代理店と異なり,国庫金の受入(=国税,国民年金保険料,交通反則金等の受領)のみを専門的に行う日本銀行の代理店であり,郵便局及び民間金融機関のほぼすべてがこれに該当します。
(2) 差押えの申立てをする時点で存在する債権額の全部を請求債権として差押えをした場合,当該差押えを取り下げない限り,後日,債務者に新たな財産が発見されたとしても差押えをすることができなくなります。
そのため,債権額の一部だけを請求債権として差押えをし,もって,後日,債務者に新たな財産が発見されたときに改めて差押えをできるようにすることがあります。
この場合,請求債権額は,差押えの申立てをする時点で存在する債権額よりも少ないものとなります。
2の2 執行費用
・ 強制執行の申立てをした債権者が,当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において,当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されません(最高裁令和2年4月7日判決)。
3 差押債権の特定を欠くとされた事例
(1) 差押債権を表示するに当たり,各第三債務者の全ての店舗を対象として順位付けをし(=全店一括順位付け方式), その上で,同一の店舗の預貯金債権については,先行の差押え又は仮差押えの有無,預貯金の種類等による順位付けをした申立ては,差押債権の特定を欠いて不適法となります(最高裁平成23年9月20日決定,及び同決定の裁判官田原睦夫の補足意見)。
(2) 債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなりません(最高裁平成24年7月24日決定。なお,先例として,最高裁昭和23年9月20日決定参照)。
その関係で,普通預金債権のうち差押命令送達時後同送達の日から起算して1年が経過するまでの入金によって生ずることとなる部分を差押債権として表示した債権差押命令の申立てが,差押債権の特定を欠き不適法となります(最高裁平成24年7月24日決定)。
3の2 差押えの対象とならない財産
(1) 給料及び退職金は,債務者の生活権の保護等のため,原則としてその4分の3の部分について,差押えが禁止されています(民事執行法152条1項及び2項)。
ただし,給料が月額44万円を超える場合,33万円の差押えが禁止されるに過ぎず,33万円を超える全額の差押えが認められています(民事執行法施行令2条)。
(2) 請求債権が扶養義務等に係る定期金債権(例えば,養育費,婚姻費用)の場合,給料及び退職金の2分の1に限り,差押えが禁止されているにすぎません(民事執行法152条3項)し,確定期限(民事執行法30条1項参照)が到来していなくても強制執行が可能です(民事執行法151条の2)。
ただし,給料が月額66万円を超える場合,33万円の差押えが禁止されるに過ぎず,33万円を超える全額の差押えが認められています(民事執行法施行令2条)。
(3) 公的年金については一切,差押えが禁止されています(例えば,国民年金につき国民年金法24条本文)。
(4) 敗訴した相手方の同居の親族名義の不動産等に対しては,それが敗訴した相手方所有の財産であることを書面等の客観的資料で証明できない限り,強制執行をすることはできません。
(5) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条の定める作業報奨金の支給を受ける権利に対して強制執行をすることはできません(最高裁令和4年8月16日決定)。
4 債権差押えにおける送達先
(1) 執行手続は本案手続とは別個独立の手続ですから,本案における「送達の場所」を前提とした固定的効力の影響は受けません。
そのため,執行手続において不送達となれば,一から再送達の手順を踏むことになり,改めて切手を納付する必要があります。
(2) 大阪地裁の取扱い上,判決等が公示送達によって終了した場合,判決言渡し日から1ヶ月以内であれば申し出により第1回目から公示送達が可能です。
5 債権差押命令の申立て後の留意点
(1) 大阪地裁の取扱い上,差押命令正本は,原則として発令日に第三債務者に発送され,その2日後ぐらいに債務者に発送されます。
そして,第三債務者に差押命令が発令されると差押えの効力が生じ(民事執行法145条4項),債務者に送達されて1週間が経過すると取立権が発生します(民事執行法155条1項)。
(2) 債権差押命令の送達ができなかった場合,裁判所書記官から,送達すべき場所について必要な調査を求められることがあります(民事執行規則10条の3)。
(3) 債務者及び第三債務者に差押命令が送達されたのが裁判所で確認できた後,債権者に対し,裁判所から差押命令正本及び送達通知書(民事執行規則134条)が送付されます。
(4) 債務者が個人の場合,預金口座の名義人に該当するかどうかが厳格に問われますから,本人確認書類として事前に住民票を取り寄せることで,正確な生年月日及び住所を確認することがあります。
6 金融機関の陳述書
(1) 債権執行の対象となった預金が存在するかどうかは,債権差押命令の発令(申立てをしてから1週間後ぐらいに出ます。)から2週間以内に提出される,金融機関の陳述書を見れば分かります(民事執行法147条,民事執行規則135条参照)。
(2) 金融機関の陳述書は事実の報告たる性質を有するにすぎないものであり,当該陳述において第三債務者が被差押債権の存在を認めて支払の意思を表明し,将来において相殺する意思がある旨を表明しなかったとしても,これによって債務の承認又は抗弁権の喪失というような実体上の効果を生ずることはありません(旧法時代の仮差押命令における陳述書に関する最高裁昭和55年5月12日判決参照)。
つまり,事実上の報告に過ぎないということです。
7 取立権
(1) 差押命令が送達されたことを前提として,債務者に差押命令が送達されてから一定の期間が経過すると,第三債務者に対し,支払を求めることができるようになります。
(2) 第三債務者から支払を受けた場合,直ちにその旨を裁判所に届ける必要があります(民事執行法155条3項,民事執行規則137条)。
(3) 生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた債権者は,これを取り立てるため,民事執行法155条1項所定の取立権に基づき,債務者の有する解約権を行使することができます(最高裁平成11年9月9日判決)。
(4)ア 債権差押えが競合していない場合,一応は任意に支払ってくれますものの,金融機関(特に,株式会社ゆうちょ銀行)に対する取立ての手続は,依頼者本人の実印が押印されている委任状,及び印鑑登録証明書が必要になる関係で非常に面倒な手続が必要となります。
イ 金融機関は通常,窓口扱いの振込手数料を控除した金額しか振り込んでくれません。
(5) 取立権は取立債務ですから,第三債務者に対して取立訴訟(民事執行法157条)を提起する場合,第三債務者の住所地を管轄する裁判所に提起する必要があります。
8 転付命令
(1)ア 債権者が差押え後,別の債権者が同じ債権を差し押さえると,差押えが競合することとなります。
それを避けるために,申立てにより支払に代えて差押債権を券面額で転付する命令の発令を求めることもでき(転付命令。民事執行法159条),転付命令が確定した場合,請求債権は差押債権の券面額で弁済されたものとみなされます(民事執行法160条)。
イ 被転付債権(差押債権)が存在しなかったときは,請求債権は消滅しなかったことになります(民事執行法160条参照)ところ,再度,債権差押えを申し立てる場合,第三債務者作成の差押債権が存在しない旨の証明書が必要となる点で非常にリスクを伴いますから,転付命令を利用しない弁護士もいます。
(2) 「質権が設定されている金銭債権は,券面額ある債権として被転付適格を有する。」と判示した最高裁平成12年4月7日決定の最高裁判所判例解説には以下の記載があります。
転付命令は、差押債権者の申立てに基づいて、支払に代えて券面額で差し押さえられた金銭債権を当該差押債権者に移転することにより、右金銭債権が存する限り、券面額について同人の執行債権及び執行費用が弁済されたものと扱う制度である(民事執行法(以下「法」という。)159、160条)。転付命令を得た転付債権者は、他の債権者が競合する機会を排除して被転付債権から独占的な満足を受けることができる反面、第三債務者の無資力等によって被転付債権が回収不能であっても執行債権は消滅してしまうという危険を負担する。このように、転付命令は、被転付債権を目的物とする代物弁済の実質を持つとともに、執行における平等主義の例外となる制度である。
(3)ア 弁済供託の供託金取戻請求権が転付命令により供託者の他の債権者に転付されただけでは,被供託者の供託金還付請求権に消長をきたすものではありませんから,供託の効力が失われるものではありません(最高裁昭和37年7月13日判決)。
イ 自動車損害賠償保障法3条の規定による損害賠償請求権を執行債権とし,右損害賠償義務の履行によつて発生すべき同法15条所定の自動車損害賠償責任保険金請求権(つまり,加害者請求権)につき転付命令が申請された場合,右保険金請求権は,券面額ある債権として被転付適格を有します(最高裁昭和56年3月24日判決)。
ウ 第三債務者が差押命令の送達を受ける前に被差押債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合,上記被差押債権についての転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払がされたときは,上記支払によって上記転付命令の執行債権等の弁済の効果は妨げられません(最高裁令和5年3月29日決定)。
(4) 家屋の賃貸借終了後であっても,その明渡し前においては,敷金返還請求権を転付命令の対象とすることはできません(最高裁昭和48年2月2日判決)。
(5) 甲が,乙に対する債権に基づいて,乙の丙に対する債権を差し押えて取立命令を得た後に,乙に対する他の債権者丁が,同一債権を重ねて差し押えて無効な転付命令を得た場合には,たとい丙が善意無過失で丁に弁済しても,甲は,民法481条1項の規定に基づき,丙に対して重ねて弁済を請求することができます(最高裁昭和40年11月19日判決)。
(6) 抵当権の物上代位の目的となる債権に対する転付命令は,これが第三債務者に送達される時までに抵当権者により当該債権の差押えがなされなかったときは,その効力を妨げられません(最高裁平成14年3月12日判決)。
9 供託及び配当手続
(1) 債権差押えが競合した場合,債権差押えの対象となった口座を管理する金融機関の支店は,法務局に対し,差し押さえられた預金を供託し(民事執行法156条2項参照),裁判所に対し,事情届(民事執行規則138条)を提出します(民事執行法156条3項)。
そのため,裁判所の配当手続(民事執行法166条1項1号参照)を通じて,差し押さえた預金を法務局まで取りに行くこととなります。
(2) 裁判所からの配当期日呼出状(民事執行法166条2項・85条3項)の記載にかかわらず,裁判所の配当期日には通常,誰も来ません。
そのため,債権計算書(民事執行規則145条・60条)等を郵送したり,配当表(民事執行法166条2項・85条)及び払渡証明書(民事執行法166条2項・91条2項参照)を裁判所から郵送してもらったりするだけであり,その関係で1,000円程度の切手代がかかります。
(3) 配当手続は,差し押えた口座を管理する金融機関の支店単位で行われます。
(4) 債権差押えをしてから法務局でお金を回収するまでに,3ヶ月から半年ぐらいかかるのが通常です。
(5)ア 裁判所の配当手続では,債権差押命令の請求債権目録に記載された合計金額(=請求債権)に加えて,配当期日までの利息・損害金を請求することができます(民事執行法166条2項・85条1項及び2項,最高裁平成21年7月14日判決参照)。
しかし,配当期日までの利息・損害金を請求する場合,請求債権の管理事務に膨大な手間が発生しますし,請求債権のせいぜい1%から3%までの金額に過ぎません。
そのため,依頼した弁護士によっては,「債権計算書で請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額として配当を受けることを求める意思」(最高裁平成21年7月14日判決参照)を明らかにすることで,配当期日までの利息・損害金は請求しない人もいます。
イ 債権差押命令の申立書には請求債権中の遅延損害金につき申立日までの確定金額を記載させる執行裁判所の取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者が差押債権の取立てとして金員の支払を受けた場合,申立日の翌日以降の遅延損害金も上記金員の充当の対象となります(最高裁平成29年10月10日決定)。
(6) すべての差押債権について配当手続が終了した場合,債権差押命令の申立てを取り下げることとなります。
この場合,裁判所書記官が,差押命令の送達を受けた債務者及び第三債務者に対し,取下げを通知することとなります(債務者につき民事執行規則14条,第三債務者につき民事執行規則136条1項)。
そのため,債務者及び第三債務者の数だけ84円切手が必要となります。
9の2 改正民事執行法等に関する資料
(1) 令和2年4月等施行の改正民事執行法に関する資料
・ 引渡実施及び解放実施における事前ミーティングの実施要領について(令和元年12月12日付の最高裁判所民事局第三課長等の事務連絡)
・ 引渡実施及び解放実施に係る申立書及び調書の記載例について(令和元年12月12日付の最高裁判所民事局第三課長の事務連絡)
・ 引渡実施又は解放実施に係る警察上の援助について(令和2年2月17日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法等の改正に伴う民事執行手続等における事務処理上の留意点について(1)(令和2年1月17日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法等の改正に伴う民事執行手続等における事務処理上の留意点について(2)(令和2年3月2日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法等の改正に伴う民事執行手続等における事務処理上の留意点について(令和2年7月改訂版)(令和2年7月17日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法等の改正に伴う民事執行手続等における事務処理上の留意点について(令和3年3月改訂版)(令和3年3月5日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 民事執行法第205条第1項に規定する法務省令で定める登記所を定める省令の公布について(令和3年4月14日付の最高裁民事局長等の通知)
・ 子の返還の執行手続に関する民事執行規則の特則
・ ハーグ条約実施法等の制定に伴う規程の制定等について(令和2年3月6日付の最高裁総務局第三課長の事務連絡)
(2) 表題部適正化法に関する資料
・ 特定不能土地等管理命令等の手続における事務処理上の留意点について(令和2年10月28日付の最高裁民事局第三課長の事務連絡)
・ 表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律の施行に伴う登記嘱託書の様式について(令和2年10月30日付の最高裁民事局長の通知)
・ 「事件記録等保存規程等の改正の概要」の送付について(令和2年9月2日付の最高裁総務局第三課長の事務連絡)
10 債権差押えと時効中断
(1) 債権執行における差押えによる請求債権の消滅時効の中断の効力が生ずるためには,その債務者が当該差押えを了知し得る状態に置かれることを要しません(最高裁令和元年9月19日判決)。
(2) 債権差押命令が債務者及び第三債務者に送達されたものの,被差押債権が不存在のため,債権者が債権差押命令の取下げをした場合,債権差押えによる時効中断の効力は失効しないと解されています(京都地裁昭和38年12月19日判決。なお,先例として,大審院大正15年3月25日判決参照)。
(3) 債権執行の申立てをした債権者が当該債権執行の手続において配当等により請求債権の一部について満足を得た後に当該申立てを取り下げた場合,当該申立てに係る差押えによる時効中断の効力が民法154条により初めから生じなかったことになるわけではない(高松高裁平成29年11月30日決定)のであって,このように解することは最高裁平成11年9月9日判決と相反するものではありません(最高裁平成30年12月18日決定)。
11 債権差押えに関するその他の判例
・ 保険医療機関,指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が社会保険診療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権は,基本となる同一の法律関係に基づき継続的に発生するものであり,民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」に当たります(最高裁平成17年12月6日決定)。
・ 振替口座簿に開設された被相続人名義の口座に記載又は記録がされている振替株式,振替投資信託受益権及び振替投資口が共同相続された場合において,その共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は,当該振替株式等について債務者名義の口座に記載又は記録がされていないとの一事をもって違法であるということはできません(最高裁平成31年1月23日決定)。
・ 民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが上記部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできません(最高裁令和3年5月25日決定)。
メモメモφ(..)
なるほど💡
賃貸借契約書🤝でなく🙅、賃貸の申込書📨を、賃貸管理会社🏘️に弁護士会🌻照会🕵️で手に入れて、勤務先🏢と収入💴を把握するのか😆
全く思い付きませんでした😳
オパンピオス先生に「条文にない債権回収のはなし」第二版📙を書いて欲しいです🤔#執行#財産調査 https://t.co/LJKVxT1RG0
— 姉弁の知恵🦉 (@wakatesigyou) October 8, 2023
12 公務の執行を妨害する罪
(1) 平成23年6月24日法律第74号(平成23年7月14日施行)による改正後の刑法は,公務の執行を妨害する罪として以下のものを定めています。
① 公務執行妨害罪(刑法95条1項)
公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処せられます。
② 職務強要罪(刑法95条2項)
公務員に,ある処分をさせ,若しくはさせないため,又はその職を辞させるために,暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処せられます。
③ 封印等破棄罪(刑法96条)
公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し,又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にした者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがあります。
④ 強制執行妨害目的財産損壊等の罪(刑法96条の2)
強制執行を妨害する目的で,以下のいずれかに該当する行為をした者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがありますし,情を知って,(c)に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も,同様です。
(a) 強制執行を受け,若しくは受けるべき財産を隠匿し,損壊し,若しくはその譲渡を仮装し,又は債務の負担を仮装する行為
(b) 強制執行を受け,又は受けるべき財産について,その現状を改変して,価格を減損し,又は強制執行の費用を増大させる行為
(c) 金銭執行(=金銭の支払を目的とする債権についての強制執行)を受けるべき財産について,無償その他の不利益な条件で,譲渡をし,又は権利の設定をする行為
⑤ 強制執行行為妨害等の罪(刑法96条の3)
(a)偽計又は威力を用いて,立入り,占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した者,及び(b)強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で,申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがあります。
⑥ 強制執行関係売却妨害罪(刑法96条の4)
偽計又は威力を用いて,強制執行において行われ,又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがあります。
→ 例えば,不動産の競売における入札により最高価買受申出人となった者に対し,威力を用いてその入札に基づく不動産の取得を断念するよう要求する場合があります(最高裁平成10年11月4日決定参照)。
⑦ 加重封印等破棄等の罪(刑法96条の5)
報酬を得,又は得させる目的で,人の債務に関して,②ないし⑥の罪を犯した者は,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられ,併科されることがありあす。
⑧ 公契約関係競売等妨害罪(刑法96条の6)
(a)偽計又は威力を用いて,公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者,及び(b) 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で,談合した者は,3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処せられ,併科されることがあります。
(2)ア 平成18年5月8日法律第36号(平成18年5月28日施行)による刑法改正により,公務執行妨害罪及び窃盗罪の法定刑に罰金が追加されました。
イ 平成23年6月24日法律第74号による改正後の刑法では,以下の強制執行妨害行為が新たな処罰対象となりました。
① 封印等が除去された後に行われる妨害行為(刑法96条)
② 目的建物への廃棄物の搬入等による価格減損行為(刑法96条の2第2号)
③ 目的財産の無償譲渡(刑法96条の2第3号)
④ 執行官の執行行為に対する偽計・威力による妨害行為(刑法96条の3第1項)
⑤ 強制執行の申立てをさせない目的等による暴行・脅迫(刑法96条の3第2項)
(3) 刑法96条の2ないし4の「強制執行」には,民事執行法1条所定の「担保権の実行としての競売」が含まれます(最高裁平成21年7月14日決定)。
(4)ア 弁護士が,会社経営者らに対し,強制執行を免れるための仮装の手段による財産隠匿行為として,別の会社に賃貸人を変更したように装い,テナントをして,その会社の口座に賃料を振り込ませる方策を助言した場合,強制執行妨害幇助罪が成立します(最高裁平成23年12月6日決定参照)。
イ 最高裁平成23年12月6日決定は上告棄却決定でしたが,裁判官田原睦夫が詳細な反対意見を書いています。
13 関連記事その他
(1) 強制執行の記録は,当事者を含む利害関係人の閲覧・謄写の対象となります(民事執行法17条)。
そのため,競合する債権執行事件の記録を取り寄せることで,債務者が他に預貯金口座を持っていないかどうかを調査することはできます。
(2) 法務省HPに,令和元年5月17日法律第2号に関する「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律について」が載っていますところ,この改正法は,一般社団法人金融財政事情研究会HPに掲載されている,平成28年6月作成の「民事執行手続に関する研究会報告書」を元とする改正でした。
(3)ア 同一の債権について,差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合,差押債権者と債権譲受人とは,互いに自己が優先的地位にある債権者であると主張することができません(最高裁平成5年3月30日判決)。
イ 健康保険法上の保険医療機関,生活保護法上の指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が社会保険診療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権は,民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」に当たります(最高裁平成17年12月6日決定)。
ウ 大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法です(最高裁平成23年9月20日決定)。
エ 執行処分が,民事執行法39条1項8号にいう債権者が債務名義の成立後に弁済を受けた旨を記載した文書(いわゆる弁済受領文書)の提出による強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても,そのことにより当該執行処分が当然に無効となるものではありません(最高裁令和5年3月2日判決)。
(4)ア 最高裁平成29年5月10日決定は,銀行が,輸入業者の輸入する商品に関して信用状を発行し,当該商品につき譲渡担保権の設定を受けた場合において,上記輸入業者が当該商品を直接占有したことがなくても,上記輸入業者から占有改定の方法によりその引渡しを受けたものとされた事例です。
イ 1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を有する債権者において当該一部分について分筆の登記の申請をすることができない又は著しく困難であるなどの特段の事情があるときは,当該土地の全部についての処分禁止の仮処分命令は直ちに保全の必要性を欠くものではありません(最高裁令和5年10月6日決定)。
(5) 国税庁,国税局,税務署又は税関に所属する職員で国税に関する事務に従事する職員は,換価の目的となつた財産を,直接であると間接であるとを問わず,買い受けることができません(国税徴収法92条)。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 強制執行に対する債務者の対抗手段
・ 倒産事件に関するメモ書き
・ 消滅時効に関するメモ書き
財産開示は最初の期日に相手方が来なかったからと言って諦めてはいけない。
裁判所にゴネて意地でも続行期日をねじ込むのである。
2回、3回と欠席すれば刑事罰の発動条件である正当な理由なしも基礎付けられやすいというもの。
バックレる債務者を追い込むものは執念以外にない。
— スロー弁護士 (@Slowlife2B) March 28, 2023
財産開示前置は大きいと思います。不開示(不出頭)直後に情報取得申立てはもはやデフォルト。
督促の割合が多いとは感じません。
一律申立ての貸金会社・債権回収会社が増えて、件数が一気に増えました。
勤務先判明して回収に繋がった例もチラホラです。
— Jの犬C🐶 (@VpFgXjDXzzpcfJc) August 1, 2023