訴訟の途中で別の者にも責任があると分かったとき,既存事件の準備書面にその者を追加するだけでよいとは限らない。別訴の提起と裁判所による弁論の併合を分け,手数料,送達,従前の訴訟状態及び防御の機会を確認する必要がある。
第1 被告の追加と請求の変更を分ける
最高裁昭和62年7月17日第三小法廷判決(昭和59年(オ)第1382号,民集41巻5号1402頁)は,既存の被告に対する訴訟の係属後に,別の被告に対する請求を追加して一個の判決を求める場合,まず別訴を提起し,裁判所に口頭弁論の併合を促して,併合について裁判所の判断を受けるべきであるとした。
共同訴訟の要件を満たしていても,新訴が既存事件へ当然に併合される効果は認められない。現在の民事訴訟法38条は共同訴訟の要件を,152条1項は裁判所が口頭弁論の併合等を命じる権限を定める。両者は別の問題である。
また,143条の請求又は請求原因の変更と,新しい被告を訴訟に入れることは区別する。請求変更の要件を論じたことだけで,別の者に対する訴訟が当然に成立するものとしてはならない。本記事は,特別の参加・承継制度の要件によらず,被告を追加して当然併合を求める場面を対象とする。
第2 昭和62年判決が挙げた懸念を原文で確認する
判決は,明文の規定がないことに加え,旧訴訟の訴訟状態を当然に利用できるか,訴訟経済に適うか,複雑化,軽率な提訴・濫訴及び遅延を問題としている。次の4点は,判決原文の理由を実務向けに分けたものである。
1 従前の訴訟状態を当然に利用できるか
新しい被告が加わっても,それまでの主張,認否,自白,証拠調べが,どの範囲でその被告との関係に引き継がれるかが問題になる。既存の証拠を使えるということと,別の当事者の自白に拘束されるということは同じではない。
通常共同訴訟について,民事訴訟法39条は,共同訴訟人の一人の訴訟行為等が他の共同訴訟人に影響を及ぼさないと定める。従前の被告がある事実を認めたことだけを理由に,新しい被告もその事実を争えないと扱うべきではない。
2 紛争処理がかえって複雑にならないか
被告を増やせば一回で解決できるとは限らない。被告ごとに請求原因,抗弁,証拠及び審理の進行状況が異なると,一緒に審理することが争点整理を難しくする場合もある。併合の上申では,共通する争点と,被告ごとに別に審理すべき争点を示すことが有用である。
3 軽率な提訴・濫訴を増やさないか
後から被告を追加すれば足りるという運用を前提に,提訴前の相手方の特定や責任根拠の調査を省いてはならない。法人を被告にするときは,商号だけでなく,契約時から提訴時までの法人の同一性と,その法人に対する請求原因を確認する。
4 訴訟の遅延を招かないか
新しい被告に訴状を送達し,認否・反論・証拠申出の機会を与えるには時間を要する。既存事件がどの段階にあるか,新訴との争点・証拠の重複はどの程度かを確認する。審理をまとめる便益と,新たに生じる手続負担の両方を示す必要がある。
第3 別訴と弁論併合では何を確認するか
1 新しい被告に対する訴えを独立して整える
新訴について,被告の表示,請求の趣旨・原因,管轄,手数料,送達に必要な情報を確認する。昭和62年判決は,新訴の訴訟の目的の価額に応じた手数料の納付が必要であり,手数料納付命令に応じなかったため訴えを却下した原審を是認している。既存請求と経済的利益が共通するというだけで,新訴の手数料が当然に不要となるとはいえない。
現行民事訴訟法138条1項は,訴状を被告に送達しなければならないと定める。新しい被告に対する送達と防御の機会を,既存被告への送達で代替したものとして扱わない。
時効や提訴期間に関する判断も請求及び相手方ごとに行う。既存事件の提訴日,新訴の提訴日,送達日を別に記録し,期間の問題がある場合はその制度の要件と効果を個別に確認する。
2 裁判所の併合判断に必要な事情を示す
152条1項による弁論の併合は,裁判所が命じるものである。併合を上申したことだけで,併合済みとして審理や書面の提出先を扱わない。事件番号,係属部,共通争点,既に提出・取調べ済みの証拠,今後必要な証拠及び期日の状況を整理する。
次の表は,法定の一律な提出様式ではなく,代理人が準備書面や併合上申を作るための確認事項である。
| 確認する事項 | 既存事件と新訴で区別するもの | 書面に具体化する内容 |
|---|---|---|
| 当事者・請求 | 被告,請求原因,抗弁 | 誰に何を請求し,共通又は固有の争点がどれか |
| 提訴・送達 | 提訴日,送達日,期間の判断 | 新訴について履践した手続と,期間に関する根拠 |
| 証拠と主張 | 書証・証人・認否・自白 | 共通利用を求める証拠と,各当事者の主張・認否 |
| 手続保障 | 証人尋問の機会,反論の機会 | 既に誰がどの証人を尋問し,誰に機会がなかったか |
| 審理の進行 | 既存事件の段階,新訴の準備状況 | 併合の便益,追加期日・証拠調べの必要性 |
第4 併合後も証拠・認否・自白を一括しない
1 尋問の機会がなかった当事者を確認する
民事訴訟法152条2項は,当事者を異にする事件の口頭弁論を併合した場合,併合前に尋問した証人について,尋問の機会がなかった当事者が尋問を申し出たときは,その尋問をしなければならないと定める。
「既に尋問が終わっている」という理由だけで申出を処理しない。誰が尋問の機会を持っていたか,対象証人は誰か,併合前の取調べはどの事件のものかを確認する。
2 共通の証拠と各被告の認否を分ける
同じ契約書等を提出していても,被告ごとの請求原因と認否は別に整理する。179条の裁判上の自白による証明不要と,証拠の内容を裁判所が評価することを混同しない。通常共同訴訟の独立を定める39条と併せ,自白した当事者,対象事実,その当事者に対する請求との関係を明示する。
主張・立証を後から追加する場合も,156条の適時提出義務と,157条1項の故意又は重大な過失,時機に後れた提出,訴訟の完結を遅延させることという要件を確認する。「遅い」という評価だけで全ての反論を排除できるわけではない。
第5 試験で指定された肯定立論を実務上の一般ルールにしない
令和4年司法試験民事系第3問は,昭和62年判決の懸念を踏まえ,特定の事実関係の下で主観的追加的併合を認める立論を求めている。出題の趣旨・採点実感は,その指定に沿った理由付けを評価する公表資料である。
このことは,最高裁がその例外を認めたことや,現実の事件で2条の信義則だけから被告追加が当然に認められることを意味しない。通常原則,誤認を生じさせた事情,例外を基礎付ける理由,新しい当事者への手続保障及び求める効果を分けて論じる。別訴・弁論併合による対応も併せて検討する。
第6 関連記事・出典
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2 出典と適用範囲
①e-Gov法令検索「民事訴訟法」2条,38条,39条,138条,143条,152条,156条,157条,179条。令和8年10月8日現在の施行版を確認した。
②最高裁昭和62年7月17日第三小法廷判決の公式属性及び判決原文。昭和59年(オ)第1382号,民集41巻5号1402頁。原文全2頁を確認した。原文の旧民訴法59条・132条と,現在の共同訴訟・弁論併合に関する38条・152条を区別した。
③法務省令和4年司法試験問題(民事系第3問),出題の趣旨(PDF13~15頁の本問部分),採点実感(PDF19~25頁の本問・総論部分)。試験の指定立論の説明に限って用い,現在の実務で当然に採用される法理としては扱っていない。
本記事の確認表や書面整理は,これらの公開資料に基づく実務上の提案である。個別の併合の許否や期間の効果は,対象事件の法的構成と手続の経過に即して判断する必要がある。