目次
第1 結論第2 まず救急性を確認する第3 しびれる部位から考える障害部位1 母指・示指・中指側2 小指・環指側3 手の甲と手首・指の伸ばしにくさ4 手全体,前腕・上腕又は両手第4 頚椎・腕神経叢・末梢神経を分ける視点1 頚椎神経根2 頚髄3 腕神経叢4 末梢神経第5 診察時に伝える事項第6 診察と検査1 神経学的診察2 画像検査3 神経伝導検査・針筋電図第7 受診先と医療機関の連携第8 日常生活での注意第9 よくある質問1 小指と環指がしびれれば尺骨神経麻痺で確定するか2 頚椎MRIに異常があれば原因は頚椎か3 神経伝導検査が正常なら神経障害はないか4 しびれを記録するときは強さだけでよいか第10 出典・参考資料
第1 結論
交通事故後に手がしびれる場合は,しびれる指と手の表裏,前腕・上腕への広がり,首の動きとの関係,筋力低下及び歩行症状を整理し,整形外科等で神経学的診察を受けることが重要である。
小指・環指側のしびれは尺骨神経,母指・示指・中指側のしびれは正中神経を疑う手掛かりになるが,症状の場所だけで診断は確定しない。頚椎神経根,頚髄,腕神経叢,肘・手関節付近の末梢神経,脳その他の病変で似た症状が生じるため,筋力,反射,感覚分布,事故状況,画像及び電気診断等を組み合わせる必要がある。
突然の片側の手足のしびれ又は脱力,顔のゆがみ,ろれつの異常等がある場合は119番を検討する。手の不器用さが進む,両手足がしびれる,歩きにくい,排尿・排便の異常がある,又は急速に筋力が落ちる場合も,通常の予約を待つべきか医療機関へ速やかに相談する。
第2 まず救急性を確認する
厚生労働省は,突然のしびれ,突然片方の腕や足に力が入らない,顔半分が動きにくい又はしびれる,ろれつが回らない等を,迷わず119番を利用すべき症状として案内している。手のしびれが脳血管障害等の症状である場合,受診の遅れが治療機会に影響し得るためである。
また,事故後に首の強い痛みとともに四肢のしびれ・脱力がある,しびれが急速に広がる,手指が急に動かしにくくなる,歩行が不安定になる等の場合は,頚髄又は神経の緊急評価が必要となることがある。
救急性がないように見えても,一過性ではないしびれを放置しない。日本整形外科学会も,一過性のものを除く上肢のしびれについて,整形外科医への相談を勧めている。
第3 しびれる部位から考える障害部位
1 母指・示指・中指側
母指,示指,中指及び環指の母指側半分の掌側がしびれる場合は,正中神経の障害が候補となる。手関節部での手根管症候群が代表的であるが,より近位の正中神経障害,腕神経叢障害又は頚椎神経根障害でも似た症状が生じ得る。
2 小指・環指側
小指と環指の小指側半分の掌側・手背側のしびれは,尺骨神経障害を疑う手掛かりになる。肘部管での圧迫・牽引,肘の直接外傷,骨折・脱臼,手関節のGuyon管付近の障害等を検討する。
尺骨神経障害が進むと,手の筋肉のやせ,つまみ動作の低下,小指・環指の変形等が現れることがある。交通事故による尺骨神経障害の局在,検査及び後遺障害評価は,交通事故による尺骨神経麻痺の後遺障害等級で詳しく説明している。
3 手の甲と手首・指の伸ばしにくさ
母指・示指・中指側の手背がしびれ,手首又は指を反らしにくい場合は,橈骨神経障害が候補となる。上腕骨周囲の外傷,圧迫又は骨折等との関係を確認する。
4 手全体,前腕・上腕又は両手
手背,前腕又は上腕まで広がるしびれ,両手のしびれ,首の動きで変化するしびれでは,頚椎神経根,頚髄,胸郭出口又は腕神経叢等を検討する。複数の末梢神経領域にまたがる症状を,一つの指の神経だけで説明しないことが重要である。
第4 頚椎・腕神経叢・末梢神経を分ける視点
1 頚椎神経根
頚椎神経根障害では,首から肩・腕・手へ放散する痛み又はしびれ,特定の筋力低下,反射の変化等がみられることがある。MRIに変性所見があるだけで事故との関係が決まるわけではなく,症状の側・分布,診察所見及び事故前の症状と照合する。
2 頚髄
頚髄の障害では,両手のしびれ,ボタンの掛け外し・箸・書字等の細かい動作の不器用さ,足のもつれ又は歩行障害等が現れることがある。日本整形外科学会は,画像上の脊髄圧迫が無症状の人にもみられるため,検査所見だけで診断できないと説明している。症状,反射及び画像を併せて評価する必要がある。
3 腕神経叢
腕神経叢は,頚部から出た神経が上肢の各末梢神経へ分かれる途中の神経網である。肩周辺の強い牽引,鎖骨・肩甲帯周囲の外傷等で障害されると,複数の末梢神経領域にまたがる感覚・運動障害が生じ得る。単一の指だけでなく,肩・肘・手関節を含む筋力と感覚分布を診察する。
4 末梢神経
正中神経,尺骨神経及び橈骨神経等の末梢神経は,骨折・脱臼,直接打撲,牽引,圧迫,血腫,瘢痕又は開放創等で障害され得る。障害部位によって,感覚症状の範囲と弱くなる筋が異なる。事故後に症状が遅れて現れた場合は,二次的圧迫等の医学的説明と経過を確認する。
第5 診察時に伝える事項
診察前に,手の図へしびれる範囲を塗り,次の事項を記録しておくと説明しやすい。