第1 この記事の対象と結論
1 障害名が複数でも直ちに併合とはならない
大腿骨骨折後に,股関節又は膝関節の可動域制限,大腿骨の変形,下肢短縮及び疼痛が同時に残っても,診断名又は等級候補の数だけ自動的に併合されるものではない。
最終的な評価は,各障害が異なる系列に属するか,同じ身体障害を別の観点から評価したものか,又は一方から他方が通常派生する関係にあるかによって分かれる。
厚生労働省の障害等級認定基準は,異なる系列の障害を併合する一方,①一つの身体障害を複数の観点から評価している場合,②一つの身体障害から他の身体障害が通常派生する場合には,いずれか上位の等級だけを採るとしている。
したがって,「12級と13級があるから11級」という計算は,二つが独立した障害であると確認した後に初めて行う。
この記事は,自動車事故による大腿骨骨折後の可動域,変形,短縮及び疼痛について,現行法令,行政基準及び裁判例を照合してAIが作成した一般的な説明である。
個別事案では,骨折部位,術式,症状固定時の画像,測定方法及び疼痛原因によって結論が変わる。
2 判定は四段階で行う
複数後遺障害の評価は,①各障害が単独で等級要件を満たすか,②同じ下肢の機能障害等を同一系列として先に準用評価すべきか,③同一障害の多面的評価又は通常派生する障害を除くべきか,④残った別系列の等級を自賠責の規則で繰り上げるか,という順に行う。
四つの候補を最初から一つの併合表へ入れると,同じ障害を二重に数え,又は同一系列の準用評価を飛ばすことになる。
結論を先に示すと,可動域制限と独立した変形又は短縮は併合できる場合がある。
これに対し,同じ変形癒合が生じさせた短縮,同じ関節機能障害に伴う運動痛及び同じ骨折部の変形・偽関節に伴う疼痛は,原則として別の等級として重ねない。
第2 自賠責における等級の繰上げ
1 自賠責が労災認定基準を参照する理由
自動車損害賠償保障法施行令別表第二は,可動域制限,長管骨変形,下肢短縮及び神経症状の等級を定めるが,障害の系列,準用及び通常派生の具体的な判定をすべて書き込んでいるわけではない。
自賠責保険金等支払基準は,後遺障害の等級を原則として労災保険の障害等級認定基準に準じて認定するとしているため,厚生労働省の認定基準を併せて確認する必要がある。
労災と自賠責では,同じ内容の障害でも号数が一部異なる。
例えば,下肢の関節に著しい機能障害を残すものは労災で10級10号,自賠責で10級11号であり,局部に頑固な神経症状を残すものは労災で12級12号,自賠責で12級13号であるため,本記事の等級表は自賠責の号数で示す。
2 13級以上・8級以上・5級以上の繰上げ
自動車損害賠償保障法施行令2条1項3号は,別表第二の後遺障害が複数ある場合について,①5級以上が二つ以上なら重い方を3級繰り上げ,②8級以上が二つ以上なら重い方を2級繰り上げ,③13級以上が二つ以上なら重い方を1級繰り上げ,④これらに当たらない場合は重い方の等級に応ずる金額とする。
13級以上の繰上げ額が各障害の保険金額の合計を超えるときは,その合計額が上限となる。
ここで数えるのは,前節の整理後に独立して残った後遺障害である。
14級の障害は「13級以上が二つ以上」という条件に入らないため,12級と14級が別系列で残っても支払上は12級のままであり,二つの14級が残る場合も14級のままである。
3 大腿骨骨折で問題となる等級と計算例
| 障害 | 自賠責の主な等級 | 別系列として独立する場合の組合せ例 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 股関節又は膝関節の機能障害 | 10級11号又は12級7号 | 10級11号+12級8号 | 9級相当の支払区分 |
| 長管骨の変形 | 12級8号 | 12級7号+12級8号 | 11級相当の支払区分 |
| 下肢短縮 | 8級5号,10級8号又は13級8号 | 12級7号+10級8号 | 9級相当の支払区分 |
| 頑固な神経症状 | 12級13号 | 12級7号+12級13号 | 11級相当の支払区分 |
| 局部の神経症状 | 14級9号 | 12級7号+14級9号 | 12級相当の支払区分 |
この表の計算結果は,左欄の二つが別系列であり,かつ,同一障害の多面的評価又は通常派生の関係にないことを前提とする。
12級8号の変形と13級8号の短縮でも,短縮がその変形自体から生じた場合は11級へ繰り上げず,後記のとおり12級8号だけを採る。
また,自賠責の等級は保険金額の区分であり,民事上の後遺障害逸失利益又は慰謝料が機械的に決まるものではない。
等級認定後の損害額は,具体的な職務,収入,労働能力への影響及び喪失期間を別に検討する。
第3 併合できる組合せ
1 可動域制限と独立した変形障害
厚生労働省の下肢障害認定基準は,同一下肢の三大関節の機能障害と長管骨の変形障害が併存する場合を併合対象としている。
同基準は,足関節の12級7号と脛骨の12級8号が独立して残る例を11級としており,この考え方は,股関節又は膝関節の可動域制限と大腿骨変形についても,各要件と独立性を満たす限り当てはまる。
必要なのは,可動域制限を生じさせる関節又は周囲軟部組織の障害と,認定基準に該当する大腿骨変形を,別の残存障害として説明できることである。
同じ画像所見を「変形」と「可動域制限」の両方へ置くだけでは足りず,関節可動域の測定値,制限原因及び長管骨変形の状態をそれぞれ示す。
2 可動域制限と独立した短縮障害
下肢障害認定基準は,同じ下肢の膝関節機能障害と3cm以上の短縮が独立して残る例を,労災の12級7号と10級7号から9級としている。
自賠責では3cm以上の短縮が10級8号であるため,股関節又は膝関節の12級7号と別系列で認められれば,同じ計算により9級相当の支払区分となる。
もっとも,手術又は変形癒合という一つの状態が,関節機能障害と短縮を同時に生じさせた場合には,常に別系列とはならない。
関節部での骨切除が短縮と機能障害の双方を生じさせた場合等は,厚生労働省基準が上位等級だけを採る類型に挙げているため,原因の独立性を先に確かめる。
3 独立した疼痛又は神経障害
疼痛又は神経障害は,関節機能障害又は大腿骨変形から通常派生するものではなく,別の部位又は別の神経損傷に基づくことを資料で示せる場合に,独立した系列として併合を検討できる。
厚生労働省基準が,踵骨骨折後の疼痛と足関節機能障害を別系列として併合する例を示していることからも,同じ下肢にあるというだけで疼痛が常に機能障害へ吸収されるわけではない。
大腿骨骨折では,例えば骨折部から離れた神経の器質的損傷又は固定材による独立した局所障害が疑われるとき,疼痛部位,知覚・筋力所見,画像上の原因及び可動域制限の原因を分けて検討する。
別原因が明らかでなければ,同じ股関節痛又は膝痛を可動域制限と疼痛の二つに分けることはできない。
第4 併合できない組合せ
1 大腿骨の変形が生じさせた短縮
厚生労働省の障害等級認定基準は,大腿骨に12級8号の変形を残した結果,同じ下肢が1cm短縮して13級8号にも該当する場合について,一つの身体障害を異なる観点から評価したものとして,12級8号だけを採る例を明示している。
したがって,変形12級8号と短縮13級8号を機械的に併合して11級とすることはできない。
下肢障害認定基準も,長管骨の骨折部が不正癒合した結果,変形又は偽関節と下肢短縮が残った場合は,いずれか上位の等級によるとしている。
変形角,骨長及び下肢長は別々に測定する必要があるが,測定項目が複数であることと,独立した後遺障害が複数あることは同じではない。
2 可動域制限又は変形から通常派生する疼痛
厚生労働省基準は,器質的又は機能的障害に12級又は14級程度の疼痛等が伴う場合,二つを個別の障害として捉えず,上位の等級だけを採るとしている。
大腿骨又は下腿骨の骨折部に偽関節又は長管骨変形があり,同じ部位に疼痛が残る場合も,同基準は上位等級だけを採る類型としている。
股関節又は膝関節の可動域制限と,その関節を動かしたときに生じる運動痛が,同じ器質的・機能的障害から生じている場合も,通常は疼痛を別に併合しない。
疼痛が強いという事実は,可動域測定の信用性,生活・就労上の支障又は民事上の損害を検討する資料にはなり得るが,同じ機能喪失を二重に等級化する根拠にはならない。
3 同一下肢の複数関節に残る可動域制限
同じ下肢の股関節,膝関節及び足関節の機能障害は,同一系列の複数障害として扱われる。
厚生労働省基準は,例えば同じ下肢の膝関節に10級相当,足関節に12級相当の機能障害がある場合,併合の方法を用いて準用9級を定めるとしており,これは別系列を最終併合する処理とは区別される。
同一下肢の複数関節について準用等級を定めた後,独立した長管骨変形又は短縮等が残る場合に,その準用等級と別系列の障害を併合する。
処理順を逆にすると,同じ下肢の機能障害を個別に数えたまま別系列の障害へ重ねることになる。
4 同じ原因から複数の障害が生じた場合の例外
同じ事故又は同じ骨折から生じたというだけで,すべての障害が派生関係になるわけではない。
厚生労働省基準は,同一下肢の関節機能障害と長管骨変形・短縮を併合する例を明示しているため,事故原因の同一性ではなく,残存する身体障害の系列と医学的な発生関係で判断する。
反対に,別々の等級表項目へ形式上該当しても,一つの変形を外観と脚長差から見たにすぎない場合又は主たる機能障害に通常伴う疼痛である場合は,上位等級だけとなる。
「原因が同じか」だけでなく,「失われた機能又は形態が別か」「一方がなくても他方が残るか」という問いに分ける必要がある。
第5 独立性を確認する資料
1 四つの障害を同じ表に整理する
| 障害候補 | 主に証明する事実 | 基礎資料 | 他障害との関係を確認する点 |
|---|---|---|---|
| 可動域制限 | 症状固定時の股関節又は膝関節の機能 | 左右の自動・他動可動域,測定肢位,画像,診療録 | 制限が疼痛だけによるか,関節・軟部組織の器質的原因があるか |
| 大腿骨変形 | 長管骨に法定の変形が残ること | 正面・側面単純X線,必要に応じたCT,診察所見 | 同じ変形を短縮として二重に評価していないか |
| 下肢短縮 | 症状固定時に1cm,3cm又は5cm以上の差があること | 後遺障害診断書の左右下肢長,測定記録,必要に応じた全長画像 | 変形又は骨切除の結果を別障害として重ねていないか |
| 疼痛・神経障害 | 疼痛又は神経症状の部位,原因及び持続性 | 診療録,画像,圧痛・知覚・筋力所見,治療経過 | 機能障害又は変形から通常派生する症状か,別原因か |
後遺障害診断書へ四つの項目が記載されていても,この表の最後の列が空白であれば,併合の可否を判断できない。
特に疼痛は,「痛みが残る」という記載だけでなく,どの部位のどの障害から生じるかを他の候補と対応させる。
2 被害者側が最初に集める資料
被害者側が最初に集める低負担の資料は,①後遺障害診断書,②症状固定時までの診療録とリハビリテーション記録,③受傷時・術後・症状固定時の画像,④手術記録,⑤関節可動域と左右下肢長の測定記録である。
これらは通常,医療機関が作成又は保有するため,被害者側は開示又は写しの交付を求めることになるが,保存状況及び交付範囲は医療機関ごとに確認する。
資料は障害ごとに分けるだけでなく,一つの時系列へ置く。
大腿骨の整復位,骨癒合又は変形がいつ確定し,可動域と下肢長がいつ測定され,疼痛部位が治療中から一貫していたかを並べると,一つの障害を重複評価しているのか,別の障害が残ったのかを検討しやすい。
3 想定される反論と追加調査の停止基準
想定される反論は,①短縮は変形癒合を脚長差から見ただけである,②疼痛は可動域制限又は変形に通常伴う症状である,③可動域は痛みで自動運動だけが制限され,他動測定に器質的制限がない,④短縮値又は可動域値の測定条件がそろっていない,というものである。
被害者側は,反論ごとに,別原因,別部位,測定条件又は経時変化を示す既存資料があるかを先に確認する。
既存の単純X線,診療録及び測定記録で独立性を判断できないときでも,直ちにCT,再測定又は医学意見書へ進むものではない。
追加手段により,変形の実在,真の下肢長差,関節制限の器質的原因又は疼痛の別原因のいずれが判明すれば等級処理が変わるかを具体化できる場合に限って検討する。
同じ変形が短縮を生じさせ,同じ器質的障害が疼痛を生じさせたことが資料上明らかで,別原因を示す所見もない場合は,併合を求めるための高負担調査を続けない。
この場合でも,各症状の存在を記録する意味はあるが,等級の二重評価を求める根拠にはならない。
第6 裁判例と厚生労働省審査事例
1 機能障害から派生する疼痛を別算しなかった福岡高裁判決
福岡高等裁判所昭和53年8月17日判決・昭和51年(行コ)第6号は,大腿骨骨折後に右膝関節の機能障害と疼痛が残った労災保険の行政事件を扱った。
判決は,右膝の疼痛が同じ部位の器質又は機能障害を原因として随伴したものであるとして,機能障害の一症状に含め,別個の併合繰上げをしなかった。
この判決が扱ったのは当時の労災等級と行政解釈であり,自賠責の個別認定を直接決めるものではない。
もっとも,現行の厚生労働省基準も,器質的・機能的障害と通常派生する神経症状のうち上位等級だけを採ると明記しており,判決の中心的な整理と一致する。
2 同一系列・派生関係・別系列の処理順を示す審査事例
厚生労働省が公表した審査事例は,右股関節・膝関節・足関節の機能障害,足指機能障害,疼痛及び醜状が残った事案について,最終的に併合8級とした。
審査官は,①同じ下肢の関節と足指の機能障害を同一系列とみなして準用8級を定め,②神経症状はそれらの機能障害から通常派生するため別算せず,③別系列の醜状障害を最後に併合した。
この事例は,列挙された六つの等級を最初から一括して併合したものではない。
同一系列をまとめ,派生症状を除き,別系列だけを最後に併合するという処理順を,公表資料から確認できる。
3 裁判例と審査事例の射程
福岡高裁判決と厚生労働省審査事例は,障害名の数ではなく,系列及び派生関係を確定してから等級を計算するという点で共通する。
他方,前者は昭和期の労災行政事件であり,後者も大腿骨骨折だけを対象とした自賠責事例ではないため,個別の大腿骨骨折について特定の併合結果を保証する資料ではない。
裁判所ウェブサイトで全文を確認できた本テーマに直接関係する判決は福岡高裁判決であり,裁判所ウェブサイトは全裁判例を収録していない。
二次資料だけで存在を確認した交通事故判決は判旨を記事へ採用せず,少数の事例から認定傾向又は成功率を推測しない。
第7 関連する既存記事
大腿骨骨折の部位別の等級経路は,大腿骨骨折の後遺障害等級と認定方法で整理している。
骨幹部の偽関節,回旋変形及び短縮の資料は,大腿骨骨幹部骨折の後遺障害を参照されたい。
股関節の可動域測定と12級7号の要件は,股関節の可動域制限と後遺障害12級7号で説明している。
疼痛を12級13号又は14級9号として評価する要件は,大腿骨骨折後の痛みの後遺障害を参照されたい。
併合後の等級と民事上の損害額は同じ問題ではない。
慰謝料,逸失利益,労働能力喪失率及び喪失期間は,大腿骨骨折の後遺障害慰謝料・逸失利益で別に検討している。
第8 出典・参考資料
1 法令
①自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)2条及び別表第二(e-Gov法令検索)
②労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)14条及び別表第一(e-Gov法令検索)
2 行政・認定実務資料
①金融庁・国土交通省「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年12月21日告示)
②労働省労働基準局長「障害等級認定基準について」(昭和50年9月30日基発第565号,第1の4・5及び第2の10)
③厚生労働省労働基準局長「障害等級認定基準の一部改正について」(平成16年6月4日基発第0604002号,第1の4・5,第2の5及び第2の10)
④厚生労働省「審査請求人に残存する障害は障害等級併合8級に該当するとして,障害等級第9級とした原処分を取り消した事例」全2頁
3 裁判例
①福岡高等裁判所昭和53年8月17日判決(昭和51年(行コ)第6号,玉名労基署長障害等級決定取消請求控訴事件,裁判所ウェブサイト)