第1 困っている場面に応じて相談先を確認する
司法修習生がハラスメントや対人関係で困った場合は,修習中の問題なのか,法律事務所等への就職活動中の問題なのかを分けて,相談先を確認することが出発点となる。
修習先での教育上の問題と,求人への応募・採用面接での問題では,関係する制度や窓口の対象が異なるからである。
本記事は,令和8年10月5日現在の大阪弁護士会及び厚生労働省の公表情報と,司法研修所の第77期向け案内,令和3年度の情報公開答申に基づくものである。
研修所の当期の担当者・直通電話・受付方法を示すものではないため,修習中の連絡先は自身に配布された当期の案内を確認する必要がある。
| 困っている場面 | 確認する相談先・資料 | 対象範囲の注意 |
|---|---|---|
| 修習中のハラスメント・対人関係 | 当期の研修所の相談窓口案内。配属先で示された相談先も確認する | 過去の案内の連絡先を現在の連絡先と決めつけない |
| 大阪弁護士会所属の法律事務所への就業活動での差別的言動等 | 大阪弁護士会の苦情相談窓口 | 全国の法律事務所や修習中の全問題を扱う窓口と一般化しない |
| 求職活動等におけるセクシュアルハラスメント | 求人を行う事業主の相談窓口,都道府県労働局雇用環境・均等部(室) | 令和8年10月1日施行の制度の要件を確認する |
| 欠席・修習停止や兼業・兼学の手続 | 当期資料の担当部署・配属先の手続案内 | 悩みの相談と,承認・許可の申請は別に確認する |
第2 司法研修所の相談窓口を示す公表資料
司法研修所の令和6年2月7日付「司法修習生相談窓口の御案内」は,第77期の採用選考申込者を宛先とする1頁の文書である。
同案内は,実務修習期間を含む修習期間全体にわたり,セクシュアルハラスメントや対人関係など,誰に相談してよいか分からない悩みに応じる窓口を説明している。
窓口として企画第二課課長補佐が記載され,相談内容やプライバシーに関する秘密を厳守すること,男女双方の担当者がおり担当の希望を伝えられることが示されている。
ただし,公開された文書では電話番号が黒塗りである。黒塗り部分を推測したり,採用選考等の別の問い合わせ番号を相談窓口の直通番号として使ったりしてはならない。
当期の案内が手元にない場合は,配属先の修習担当者等に,研修所の相談窓口案内の入手方法を確認することが考えられる。
相談相手が問題の当事者であるなど,その経路を利用しにくい事情がある場合は,その事情も含め,別の相談経路を確認する必要がある。
第3 就職活動中の大阪弁護士会の窓口
大阪弁護士会の「司法修習生の就業活動における差別的言動に対する苦情相談窓口」は,同会に所属する法律事務所に対して就業活動をしていた司法修習生が,その活動中に差別的言動等の人権侵害を受けた場合の申出先を示している。
匿名での相談も可能とされ,掲載された電話・電子メールのほか,同会司法修習委員会担任委員に連絡する方法も案内されている。
担当者や連絡先は変更され得るため,連絡時には上記公式ページを確認する。
この窓口の説明を,修習中の全てのトラブルや他の弁護士会所属の法律事務所にもそのまま当てはめることはできない。他地域では,当該弁護士会の案内と受付対象を確認する必要がある。
第4 令和8年10月1日からの求職者等のセクハラ対策
男女雇用機会均等法13条1項は,事業主が雇用する労働者による求職者等への性的言動について,相談対応の体制整備その他の必要な措置を事業主に義務付けている。厚生労働省の制度説明によれば,この制度は令和8年10月1日から施行されている。
求職者等には採用面接・就職説明会の参加者や,職業選択に資する実習等の参加者が含まれるが,専ら教育を目的とする活動の参加者は含まれないと説明されている。
したがって,司法修習生であることだけを理由に就職活動中の保護を否定することも,司法修習の教育活動全体が当然にこの制度の対象になるとすることも適切ではない。
職業選択のための活動か,問題となった言動をした者と事業主の関係はどうかなど,個別の場面に即した確認が必要である。
相談先としては,事業主が設けた窓口のほか,都道府県労働局雇用環境・均等部(室)も厚生労働省の説明に挙げられている。
事業主の窓口を利用しにくい場合には,外部の相談先に制度の対象となるかも含めて確認することが考えられる。
第5 相談前に整理する事項
以下は相談を円滑に進めるための整理例であり,窓口が一律に要求する提出書類ではない。
①修習中か就職活動中か,いつ・どこで生じた出来事か。
②発言・行為の内容,自分が直接経験したことと他人から聞いたことの区別。
③メール等の資料があるか,現在の修習・応募への影響,まず相談だけを希望するのか対応も希望するのか。
④匿名で相談したいか,連絡しやすい方法,情報共有について確認したい点。
相談のためであっても,事件記録や第三者の個人情報を無制限に持ち出してよいわけではない。
初回は出来事の概要を伝え,資料が必要な場合には,相談先と配属先の情報管理上の取扱いを確認してから,必要な範囲と方法で提出することが考えられる。
第6 秘密保持と情報共有についての確認
第77期向け案内が秘密の厳守を示すことと,あらゆる相談内容がどのような事情でも一切共有されないこととは,同じではない。
令和3年度(最情)答申第32号1頁~3頁は,窓口が知った司法修習生の非違行為を事務局に連絡するかどうかの判断基準を記載した文書が作成・取得されていないとする不開示判断を妥当としたものである。
この答申は相談窓口の存在も確認しており,判断基準文書の不存在を,窓口や相談対応そのものの不存在と読むことはできない。
答申では,非違行為を把握した場合は内容等により個別に対応するとの説明が扱われている。
自身や他の修習生の行為に関する相談,具体的な対応を求める相談では,誰が相談内容を扱うのか,事実確認や情報共有を行う場合の範囲・方法を,詳細を伝える前に確認することが考えられる。
相談したことだけから処分の有無や相談の結論を予測することはできない。
第7 関連記事と出典
司法修習・司法修習生とは
民間労働者と司法修習生との比較
司法修習生の欠席・休暇・修習停止
司法修習生の修習専念義務
①司法研修所「司法修習生相談窓口の御案内」(令和6年2月7日,第77期向け,1頁。第2参照)。
②裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「令和3年度(最情)答申第32号」(令和3年11月22日,1頁~3頁。第6参照)。
③大阪弁護士会「司法修習生の就業活動における差別的言動に対する苦情相談窓口」(第3参照)。
④厚生労働省「求職活動等をする方を守るために―求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の新ルール」(令和8年9月1日,第4参照)。