目次
1 総論
2 無利息で修習資金の貸与を受けることができるという法的地位
3 一定の場合,インターンシップに参加している学生は労働者に該当すること
4 修習専念義務は,給費制に基づく給与と何ら対価関係に立つものではないこと
5 関連記事その他
1 総論
・ 平成24年11月当時の,「修習生活へのオリエンテーション」には,以下の記載があります。
司法修習生は,修習期間中,その全力を修習のために用いて,これに専念すべき義務があります(裁判所法67条2項)。
これは,司法修習が,法曹養成に必須の課程として,国が多大な人的,物的資源を投入して運営しているものであることや,法律実務についての基本的な知識と技法や法曹としての職業意識と倫理観を定められた期間内に修得するためには,これに全力を投入してもらう必要があることなどから導かれるものです。このような観点から,司法修習生は,国民に対し,法の支配の立派な担い手となるよう修習に専念すべき義務を負うことになります。
2 無利息で修習資金の貸与を受けることができるという法的地位
(1) 修習専念義務を定めた裁判所法67条2項に関する法務省の説明については,「司法修習生の給費制及び修習手当」を参照してください。
法務省の説明によれば,新65期ないし70期の司法修習生は,給費制時代と同じ修習専念義務を負っている代わりに,無利息で修習資金の貸与を受けることができるという法的地位にあるみたいです。
(2) 新発10年国債利回りは,平成28年2月から同年11月までは0%以下となっていましたし,その後も0.1%未満ですから,以前と比べると,無利息で修習資金(71期以降は「修習専念資金」です。)の貸与を受けることができるメリットは小さくなっています(日本相互証券株式会社HPの「長期金利推移グラフ」参照)。
3 一定の場合,インターンシップに参加している学生は労働者に該当すること
(1) 鈴与シンワート株式会社HPの「第004回 インターン生であれば労働者ではないのか」で引用されている厚生労働省労働基準局の通達には,以下の記載があります。
「一般に、インターンシップにおいての実習が見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者には該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生との間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられ、また、この判断は、個々の実態に即して行う必要がある」(平成9・9・18 基発636号)
(2) 修習専念義務を負っている司法修習生の場合,実務修習庁会における使用従属関係が認められるものの,書面の起案,取調べ等による利益・効果が当該実務修習庁会に帰属するとはいいがたいことから,労働者ではないということなのかもしれません。
4 修習専念義務は,給費制に基づく給与と何ら対価関係に立つものではないこと
・ 東京高裁平成30年5月16日判決(判例秘書に掲載)は,以下の判示をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
① 司法修習は,司法修習生が法曹資格を取得するために国が法律で定めた職業訓練課程であり,高度の専門的実務能力と職業倫理を備えた質の高い法曹を確保するために必須な臨床教育課程として,実際の法律実務活動の中で実施されるところ,最高裁判所がその基本的内容を定め,司法修習生が司法修習を修了しないと法曹資格が与えられないものであるから,司法修習生は,修習過程で用意されているカリキュラムに出席し,その教育内容を全て履修することが本来要請されている。
司法修習生は,指導に当たる法曹と同様の姿勢で法律実務の修習に努め,その専門的な実務能力を涵養するとともに,法曹と同様な職業倫理の習得に努めることが期待され,かつ,それが重要である。
そして,司法修習が実際の法律実務活動の中で実施される臨床教育課程であることから,法曹同様,それぞれの立場で求められる中立性・公正性を保ち,利益相反行為を避けることが求められているのであって,司法修習を効果的に行うために法曹の活動を間近で体験,経験する機会が与えられることから,法曹実務家同様の姿勢で修習に専念することが求められる。
② 修習専念義務は,こうしたことから,司法修習の本質から求められるものであって,給費制に基づく給与と何ら対価関係に立つものではない。
そして,給費制は,以上のとおり,司法修習生に修習専念義務があることを前提に,司法修習生が司法修習に専念し,その実を上げることができるように,立法府が,認定事実(1)イのとおりの昭和22年裁判所法制定当時の社会情勢を踏まえて,立法政策上設けた制度にすぎない(乙19,20)。
5 関連記事その他
(1) 東京地裁平成18年7月26日判決(判例秘書に掲載)は,「原告と被告との婚約関係が破綻したのは,被告(山中注:57期の男性修習生)が原告との間で婚約関係にあるにもかかわらず,前期修習中に司法研修所で知り合った女性修習生と肉体関係を持って原告に対して冷たい態度をとるようになり,被告の不倫を知った原告が被告と別れることを決意した」という事案に関して,被告に対し,330万円の損害賠償を命じました。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の兼業の状況
・ 司法修習生の兼業・兼職の禁止
・ 裁判官の兼職
R030929 最高裁の不開示通知書(岡口基一裁判官の罷免に反対する共同声明に司法修習生が賛同することが,司法修習生の修習専念義務に違反するかどうかが分かる文書)を添付しています。 pic.twitter.com/qQU0ayS1uW
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) September 30, 2021