第1 司法修習の位置付け
1 法曹になる前の統一的な実務教育
司法修習は,司法試験に合格した者が,裁判官,検察官又は弁護士に共通して必要となる法律実務の基礎を学ぶ養成課程である。
最高裁判所の「司法修習の概要」は,実務で必要な知識・技法に加え,法曹倫理の修得も重要なテーマと位置付けている。
司法修習は,司法研修所で行う修習と,全国の裁判所,検察庁及び弁護士会を単位とする実務修習地で行う修習とを組み合わせた制度である。
実際の事件を素材とする実務修習が含まれる点で,司法試験までの学修とは性格が異なる。
2 本記事が扱う範囲
本記事は,初めて司法修習を調べる人に向けて,採用要件,約1年間の順序,各課程の内容,実務修習地と住居,修習給付金,修習中の義務及び司法修習生考試の全体像を説明するものである。
各期の開始日,申込期限,配属及び提出書類は変わるため,制度の骨格と年度別の手続を分けて記載する。
司法修習制度の改正と修習期間の変遷については,「司法修習制度の改正経緯」で整理している。
本記事では現在の制度を対象とし,旧制度の給費制や2年間・1年6か月の修習は扱わない。
第2 司法修習生の採用要件と申込み
1 司法試験合格と法科大学院修了条件
裁判所法66条1項は,司法修習生を司法試験合格者の中から最高裁判所が採用するものと定めている。
ただし,司法試験法4条2項の在学中受験資格で合格した者については,合格発表年の4月1日以降に法科大学院の課程を修了した者に限られる。
したがって,司法試験の合格だけで司法修習生の身分が当然に生じるわけではない。
最高裁判所による採用が必要であり,採用選考には別途公表される司法修習生採用選考審査基準が適用される。
同審査基準は,所定の資格を有する申込者を原則として採用するとした上で,①心身の故障により修習が困難であること,②拘禁刑以上の刑に処せられたこと,③破産手続開始決定を受けて復権を得ていないこと,④品位を辱める行状により司法修習生として適しないことなどを不採用事由としている。
過去に司法修習生であった者についての成績・修習態度・二回試験の受験状況や,採用選考要項に定める手続の不遵守についても,別の基準が置かれている。
2 採用選考への申込み
最高裁判所の「司法修習生採用選考」は,司法試験合格後に採用選考へ別途申し込む必要があると案内している。
同案内は,申込期間を守らなかった場合には不採用となることがあるとしているため,合格発表後は申込方法,受付期間及び提出書類を最優先で確認する必要がある。
令和8年度の採用選考については,2026年8月28日現在,申込方法及び申込期間等を同年9月中旬頃に掲載する予定と案内されている。
第80期の公表済み情報と今後の日程は,「第80期司法修習の日程」で確認できる。
第3 約1年間の流れ
1 法律上の修習期間
裁判所法67条1項によれば,司法修習生は,少なくとも1年間修習をした後,試験に合格したときに修習を終える。
「約1年間」は単なる目安ではなく,法律が少なくとも1年間の修習を修了要件としていることに基づく。
もっとも,各課程の開始日と終了日,集合修習と選択型実務修習の順序は修習期や実務修習地によって異なる。
年度別の手引を確認せず,一般的な月数だけで転居や退職の日程を決めることはできない。
2 修習の基本的な順序
現在の司法修習は,おおむね次の順序で進む。
①司法研修所で行う導入修習
②全国の実務修習地で行う分野別実務修習
③選択型実務修習及び集合修習
④修習期間の最後に行う司法修習生考試である。
分野別実務修習の後は,実務修習地によって,集合修習を先に行う班と選択型実務修習を先に行う班に分かれる。
両方を終えた後に司法修習生考試を受ける点は共通する。
3 第79期の日程例
最高裁判所の第79期申込みの手引によれば,第79期は,①2026年3月19日から4月10日までが導入修習,②同月14日から11月20日までが分野別実務修習,③その後は集合修習と選択型実務修習が約1か月半ずつという構成である。
集合修習と選択型実務修習のどちらが先になるかは,指定された実務修習地によって異なる。
最高裁判所の一般的な制度説明は,導入修習を約1か月,分野別実務修習を約8か月,選択型実務修習と集合修習をそれぞれ約2か月と説明しているが,第79期の手引に示された実日程とは幅がある。
個々の修習生が準備に使うべき日付は,採用される修習期の手引に記載された日程である。
第79期の日程と公式資料へのリンクは,「第79期司法修習の日程」にもまとめている。
修習開始前の提出期限や給付金の届出期限は,同記事だけでなく,最高裁判所から交付される最新の手引で再確認する必要がある。
第4 各課程の修習内容
1 導入修習
導入修習は,司法修習の開始直後に司法研修所で行う課程である。
最高裁判所は,修習生が自らに不足する実務基礎知識・能力に気付き,その後の分野別実務修習を効果的かつ円滑に行えるようにすることを目的としている。
導入修習は,司法試験知識の総復習だけを行う期間ではない。
事件記録の読み方,事実認定,法律文書の作成その他の実務修習に入るための共通基礎を整える位置付けにある。
2 分野別実務修習
分野別実務修習は,民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護の4分野を,裁判所,検察庁及び弁護士会の実務現場で学ぶ課程である。
最高裁判所は,各分野をそれぞれ約2か月と説明しており,実務家の個別的な指導の下で実際の事件の取扱いを体験的に学ぶことを中心としている。
(1) 民事裁判修習
民事裁判修習では,民事事件の記録と法廷でのやり取りを検討し,事実上・法律上の問題点や判決内容について考える。
検討結果を文書にまとめて講評を受けることも含まれ,争点整理,事実認定及び判決起案につながる基本的な思考過程を学ぶ。
修習内容と準備資料の詳細は,「民事裁判修習」で整理している。
(2) 刑事裁判修習
刑事裁判修習では,刑事事件の記録と公判を素材として,争点,証拠及び事実認定を検討する。
裁判手続を観察するだけでなく,記録に基づく検討と文書作成を通じて,裁判官の立場から刑事事件を判断する基礎を学ぶ。
修習内容と準備資料の詳細は,「刑事裁判修習」で整理している。
(3) 検察修習
検察修習では,指導担当の検察官等の下で,証拠収集,被疑者・参考人の取調べ,起訴・不起訴の処分及び公判立会について学ぶ。
最高裁判所の制度説明は,実際の犯罪事件について捜査を学び,処分意見を述べ,検察官の公判立会を傍聴することを内容として挙げている。
修習内容と準備資料の詳細は,「検察修習」で整理している。
(4) 弁護修習
弁護修習では,個別指導弁護士の下で,法律相談や法廷に立ち会い,法律文書を作成して講評を受け,弁護士会の活動を体験する。
民事・刑事の双方を含む弁護士業務を,依頼者に助言し事件を処理する立場から学ぶ課程である。
修習内容と準備資料の詳細は,「弁護修習」で整理している。
3 選択型実務修習
選択型実務修習は,4分野の分野別実務修習を終えた後,進路,興味及び関心に応じて修習内容を選択・設計する課程である。
分野別実務修習の成果を深め,又は同修習では体験できなかった領域を学ぶことを目的とする。
各実務修習地の裁判所,検察庁及び弁護士会が提供するプログラムのほか,全国の修習生を対象とするプログラムがある。
法曹の活動と密接に関係する分野について,修習生が自ら修習先を開拓する方法も制度上用意されている。
4 集合修習
集合修習は,実務修習の体験を補い,法律実務の共通基準を体系的に学ぶため,司法研修所で行う課程である。
民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の5科目について,修習用に構成された事件記録を用いた起案,講評及び討論を中心に進められる。
分野別実務修習が実際の事件と個別指導を重視するのに対し,集合修習は各地で得た経験を共通の教材で整理し直す役割を持つ。
二回試験だけを目的とする課程ではないが,5科目について記録を検討し,制限時間内に文書を作成する経験は,修習の到達度を確認する基礎にもなる。
第5 実務修習地と住居
1 実務修習地
分野別実務修習と選択型実務修習は,指定された実務修習地の裁判所,検察庁及び弁護士会で行う。
実務修習地を検討する際は,希望順位だけでなく,転居の要否,住居費,交通,集合修習時の移動及び就職活動との関係を分けて考える必要がある。
各地の人数など,修習地選択の基礎資料は,「司法修習の場所を選ぶ際の基礎データ」に掲載している。
年度によって配属人数や運用は変わり得るため,過年度の数値は将来の配属を保証するものではない。
2 住居の確保
第79期の手引は,指定された実務修習地における住居を各自で確保するとしている。
採用結果と配属を確認した後,賃貸借契約,転居日,導入修習・集合修習中の滞在方法及び住居給付金の要件を一体として検討することになる。
住居給付金は,賃貸住宅に住んでいれば無条件に支給されるものではない。
自己居住用住宅を借りて家賃を支払い,所定の届出をすることなどの要件があるため,契約前後に最新の修習給付金案内を確認する必要がある。
第6 修習給付金と修習専念資金
1 3種類の修習給付金
裁判所法67条の2は,修習給付金を基本給付金,住居給付金及び移転給付金の3種類としている。
これは給与ではなく,司法修習生が通常修習期間中に受ける法定の給付である。
基本給付金は給付期間ごとに13万5000円である。
住居給付金は,自己居住用の住宅を借り,家賃を支払って所定の届出をした場合に,給付期間ごとに3万5000円が支給され,移転給付金は,修習に伴う移転が必要と認められる場合に路程に応じた定額が支給される。
2 届出期限と詳細の確認
基本給付金と異なり,住居給付金及び移転給付金には,個別の要件と届出がある。
第79期の修習給付金案内は,期限後の届出では原則として修習給付金を支給できないと明記している。
届出期限は,修習期,給付の種類及び要件を具備した時点によって異なるため,本記事に過年度の固定日を転載しない。
採用される期の最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」から最新案内を開き,自分に該当する頁を確認する必要がある。
給付制・貸与制の改正経緯,税務及び社会保険を含む関連情報は,「司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金」で整理している。
3 無利息の修習専念資金
修習給付金の支給を受けてもなお資金が必要な場合には,裁判所法67条の3に基づき,申請により修習専念資金の無利息貸与を受ける制度がある。
最高裁判所の制度説明によれば,基本額は貸与単位期間ごとに10万円であり,扶養親族がいて増額を希望する場合は12万5000円となる。
修習専念資金は返還を要する貸付であり,返還不要の修習給付金とは異なる。
貸与を選ぶときは,保証方法,修習終了後の据置期間,返還期間及び返還猶予・免除の要件まで確認する必要がある。
第7 修習中の身分と義務
1 修習専念義務と兼職・兼業・兼学
裁判所法67条2項は,司法修習生に対し,修習期間中,最高裁判所の定めるところにより修習に専念することを義務付けている。
第79期の手引は,公務員となること,他の職業に就くこと又は財産上の利益を目的とする業務を行うことには最高裁判所の許可が必要であり,これら以外の学業その他の業務にも司法研修所長の許可が必要であると説明している。
したがって,在職したまま休職扱いにすること,副業を続けること,大学等へ在籍し続けることが当然に認められるわけではない。
やむを得ず兼職,兼業又は兼学を続ける必要がある場合は,採用期の手引を確認し,所定の許可申請を行うことになる。
兼職・兼業・兼学の具体的な取扱いは,「司法修習生の兼業禁止」及び「司法修習生の修習専念義務」で整理している。
2 秘密保持義務
司法修習生は実際の事件を素材として修習するため,秘密保持義務を負う。
最高裁判所は,法曹の守秘義務と同様に,秘密を保持する法的義務が司法修習生にも課されると説明している。
具体的な事例は,「司法修習生の守秘義務違反が問題となった事例」で整理している。
第8 二回試験と修習終了後の資格
1 二回試験の位置付けと科目
修習期間の最後に行われる司法修習生考試は,一般に「二回試験」と呼ばれる。
1回目の司法試験に続く試験という通称であり,裁判所法67条1項が修習終了の要件とする試験に当たる。
法務省司法法制部の「第2回 法曹の質に関する検証結果について」103頁によれば,二回試験は,民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の5科目について行われる。
試験は司法修習生考試委員会が実施し,修習の成績と二回試験の結果によって合否が決定される。
2 評価と不合格後の取扱い
同報告書は,各科目を優・良・可・不可の4段階で評価し,不可を不合格とする仕組みを説明している。
二回試験を受験して不合格となった者は,次回以降に行われる二回試験を受験でき,合格すれば修習終了者としての資格を取得する。
二回試験の日程,応試心得,過去の結果その他の個別資料は,「二回試験に関する記事の一覧」から確認できる。
実際に受験する期の方法と日程は,司法研修所から示される当該期の資料を優先する必要がある。
3 修習終了後に得る資格
裁判所法43条は,判事補を司法修習生の修習を終えた者の中から任命すると定め,検察庁法18条1項1号は,司法修習生の修習を終えた者を二級の検察官の任命資格者としている。
弁護士法4条は,司法修習生の修習を終えた者が弁護士となる資格を有すると定めている。
したがって,約1年間在籍しただけでは足りず,所定の修習を行い,二回試験に合格して修習を終えることが法曹資格への共通の出口となる。
もっとも,修習終了によって個別の任官,採用又は弁護士登録まで自動的に成立するわけではなく,それぞれ別の手続が必要である。
第9 出典・参考資料
1 法令
①e-Gov法令検索「裁判所法」43条,66条,67条,67条の2及び67条の3
②e-Gov法令検索「検察庁法」18条1項1号
③e-Gov法令検索「弁護士法」4条
2 最高裁判所の制度説明・年度別運用資料
①最高裁判所「司法修習の概要」
②最高裁判所「司法修習生採用選考」
③最高裁判所「司法修習生採用選考審査基準」(2025年8月27日)1頁~2頁
④最高裁判所「第79期司法修習生採用選考申込みの手引」資料2頁及び資料8頁
⑤最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」
⑥司法研修所事務局「修習給付金案内(第79期)」表紙,資料(1)頁及び資料2頁(PDF1頁~2頁及びPDF6頁)
⑦最高裁判所「司法修習生に対する修習専念資金の貸与制の概要(第71期以降)」
3 政府調査報告書
①法務省司法法制部「第2回 法曹の質に関する検証結果について」(2025年3月)103頁(PDF111頁)