第1 兼業・兼職・兼学の基本ルール
司法修習は,通常の会社勤務を続けながら自由に受けられる制度ではない。
勤務先に籍を残して休職することと,修習中に報酬を得る仕事を行うことは,区別して確認する必要がある。
在籍継続は兼職,アルバイト等は兼業の問題として,修習専念義務と事前の許可手続を確認する。
日常語の「副業」「アルバイト」「休職」「在学」を,兼業・兼職・兼学のどの問題として確認するかは次のとおりである。
下表は許可結果を約束するものではなく,本記事の該当箇所への案内である。
会社員が休職と退職を検討する場合の確認順序は,第3の4から確認できる。
| よくある質問 | 区分と参照先 |
|---|---|
| アルバイト・副業を続けたい | 兼業許可。教育活動等の類型と非典型の活動を区別し,具体的な仕事,報酬及び修習への影響を確認する。 |
| 会社を休職して籍を残したい | 兼職許可。休職して無報酬でも,在籍を残す場合の許可を別に確認する。 |
| 大学を休学して籍を残したい | 兼学許可及び兼学許可の専門記事。休学期間,単位・論文と申請の要否を確認する。 |
| 生活費が足りない | 入金前・転居月の資金繰り。経済的支援の制度と,予定する活動が許可されるかを別々に検討する。 |
1 修習専念義務と二つの許可制度
裁判所法67条2項は,司法修習生が,修習期間中,最高裁判所の定めるところにより,修習に専念しなければならないと定めている。
裁判所ウェブサイトの「司法修習生」は,司法修習生は国家公務員ではないが,これに準じた身分にあるものとして取り扱われ,兼業・兼職の禁止,修習専念義務及び守秘義務等を負うと説明している。
一般の会社員に関する就業規則上の副業ルールを,そのまま司法修習生に当てはめることはできない。
第79期司法修習生採用選考申込手続の手引8頁は,司法修習生に関する規則2条と「司法修習生の規律等について」第7の2を併記している。
規則2条は,最高裁判所の許可を受けなければ,公務員となり,他の職業に就き,又は財産上の利益を目的とする業務を行うことができないと定めている。
「司法修習生の規律等について」第7の2は,規則2条に当たらない場合でも,司法研修所長の許可を受けなければ,学業その他の業務に就くことができないと定めている。
したがって,無報酬又は一時的な活動であることだけから,許可が不要であると判断することはできない。
2 兼職・兼業・兼学の区分
第79期手引8頁は,兼職の例として,現在の会社等への在籍継続及び成年後見人等の継続を挙げている。
同頁は,兼業の例として所有不動産の賃貸を挙げるほか,10頁では,財産上の利益を目的とする答案添削・採点,講師,教材作成その他の教育活動及び関連業務について申請方法を案内している。
同手引は,大学又は大学院等への在籍継続を兼学として扱っている。
これらの区分は,日常語の「副業」と必ずしも一致せず,勤務先に籍を残すだけでも兼職となり得る一方,不動産管理を外部へ委託していても,賃貸は兼業として扱われる。
3 無許可の場合と規制の終期
第79期手引8頁は,採用日以降の無許可の兼職・兼業・兼学が,非違行為として,罷免,修習の停止,戒告又は注意の対象となることがあると明記している。
許可の要否に疑問がある場合は,活動開始後に説明するのではなく,採用前又は活動開始前に照会すべきである。
裁判所法67条1項によれば,司法修習生は,所定の修習をした後,試験に合格したときに修習を終える。
考試日,合格発表日及び修習終了日は同じとは限らないため,兼職先の休職期間その他の関係書類では,実際の修習終了日までを対象にする必要がある。
令和8年度司法修習生採用選考要項は,令和8年9月4日に公表された。
以下の通常採用者に関する具体的手続は,公表済みの前年度手引に基づくため,令和8年度の申込者は,同年度の手引等が公表された後に,様式,期限及び提出方法を改めて確認する必要がある。
4 考試再受験のため再採用された者の特則
最高裁判所の司法修習生採用選考ページは,司法修習生考試を再受験するため再採用された者について,通常の司法修習生とは別の兼職・兼業の取扱いを案内している。
同ページによれば,再採用後の司法修習生としての期間は,考試の初日から修習終了日までである。その期間中に他の職に就いている場合,又は考試最終日の翌日から修習終了日まで財産上の利益を目的とする業務を行う場合は,最高裁判所の許可を受けなければならない。
考試期間中に財産上の利益を目的とする業務を行うことは認められない。また,考試の受験に支障を生じさせる行為及び弁護士でない者が弁護士業務を行っているとの疑いを招く行為も認められない。
令和8年度の再採用選考では,申込期間が令和8年10月19日から同月30日まで,考試初日である令和9年3月上旬が採用日と案内されている。申請様式,提出期限及び予定する活動の取扱いは,最高裁判所事務総局人事局任用課試験係に事前確認すべきである。
5 働きながらの修習・副業・休職のよくある質問
(1)司法修習は仕事をしながら受けられるか
司法修習生には修習専念義務があり,通常の会社勤務と修習を自由に両立できる制度ではない。
会社を休職して籍を残す場合は兼職許可,修習中にアルバイト等を行う場合は兼業許可の要否を確認する。
許可される活動と条件は個別に判断されるため,勤務先の承認だけで仕事を続けてよいとはいえない。
(2)司法修習生はバイトできるか
最高裁判所の許可を受けなければ,財産上の利益を目的とする業務を行うことはできない。
公表された第79期の採用選考申込手続の手引き・10頁は,答案添削・採点,講師,教材作成等の教育活動について申請方法を案内しているが,自営として行う場合を除く。
この類型に当たれば自動的に許可されるという意味ではなく,仕事内容,報酬,日時及び修習への影響を整理して,第4の1と照会先を確認する必要がある。
(3)司法修習生は副業できるか
「副業」という呼び方や,休日だけの活動であることから,許可不要とは判断できない。
実際の仕事,契約関係,報酬,活動時間及び修習への影響を確認し,職場への在籍継続と,利益を目的とする業務とを分けて許可の要否を確認する。
教育活動以外の業務や,自営として行う活動を一律に許可又は不許可と判断せず,非典型の活動と事前照会の説明を参照されたい。
(4)社会人は会社を休職して司法修習を受けられるか
勤務先が休職を認め,在籍を続ける場合でも,修習側の兼職許可を別に確認する必要がある。
第79期の手引き9頁~10頁は,民間企業の従業員等の在籍継続について申請を案内し,休職証明書の提出を求めている。
同手引きは,休職期間,業務を行わないこと及び無報酬であることを証明書に記載することが望ましいと説明している。
実際の対象,申請期限及び提出方法は当期の案内で確認し,申請書と休職証明書及び勤務先との確認順序を参照されたい。
(5)無報酬なら許可を受けなくてもよいか
無報酬という事情だけから許可不要とは判断できない。
同手引き8頁は,司法修習生に関する規則2条に当たらない場合でも,司法研修所長の許可を受けなければ学業その他の業務に就けないという規律を示している。
職場への在籍継続,学業その他の活動の内容と修習への影響を確認し,判断が難しい活動は実施前に担当係へ照会する。
第2 採用前に整理すべき在職・在学・資格登録
1 退職・卒業・退学が原則であること
第79期手引8頁は,原則として採用日前日までに,在職中の者は退職し,大学又は大学院在学中の者は卒業,修了又は退学する必要があると説明している。
この「在職中」には休職中が含まれ,「在学中」には休学中が含まれる。
在籍を残す必要がある場合に初めて,兼職又は兼学の許可を申請する。
採用申込みで在職又は在学の事実を申告したこと自体は,兼職又は兼学の許可を意味しない。
2 資格登録の抹消等に関する書類
第79期手引7頁~8頁は,司法書士,行政書士,宅地建物取引業,不動産鑑定業,公認会計士,税理士,弁理士,社会保険労務士及び外国法事務弁護士の登録等について,登録抹消又は業務廃止の届出をする場合の受理証明書を求めている。
採用日までに登録抹消又は業務廃止の届出をしない場合は,資格に係る申述書を提出する。
資格を取得しているだけの場合,名簿登録を継続する場合及び資格に基づく業務を実際に行う場合は区別する必要がある。
必要書類と兼職又は兼業の許可の要否は,各資格の登録状況及び予定する活動に即して確認すべきである。
第3 兼職許可
1 標準的に案内されている対象
第79期手引9頁~10頁が標準的な申請方法を案内しているのは,民間企業の従業員及び司法修習のために休職できる地方公務員が,現在の就業先に在籍したまま修習を受ける場合である。
手引の標準類型にいう民間企業からは,弁護士事務所が除かれている。
この除外は,弁護士事務所への在籍が当然に許可される,又は常に不許可になるという意味ではなく,標準手続の対象外であることを示す。
2 申請書と休職証明書
第79期では,採用選考申込フォームの自動返信メールに添付された入力要領に従い,専用フォームから申請する。
兼職許可申請書の定型書式はなく,Word又はPDF形式で,宛名を最高裁判所として作成する。
申請書には,兼職先の名称及び所在地,兼職の必要性並びに司法修習生の中立性・公正性が守られ,修習に支障がないことを記載する。
手引は,修習に支障がないことの例として,修習期間中は休職して業務を一切行わず,手当を含め無報酬とすることを挙げている。
休職証明書には,採用日から修習終了日までの休職期間,修習期間中に業務を行わないこと及び無報酬であることを記載することが望ましい。
地方公務員は,休職辞令書の写しでも差し支えない。
3 役員・成年後見人等の非典型類型
民間企業の役員等は,第79期手引が示す従業員向けの標準類型に含まれておらず,最高裁判所事務総局人事局任用課試験係への問合せが必要である。
成年後見人等を続けることは兼職の例として明記されているが,従業員の休職証明書による手続をそのまま利用できるとは限らない。
役員,成年後見人その他の地位については,名義だけを残すのか,意思決定,報告,財産管理又は報酬受領を伴うのかを区別し,予定する行為を具体的に示して照会すべきである。
4 会社を休職して在籍を続ける場合の確認順序
会社員が司法修習を検討するときは,勤務先との相談と修習側への申請を分け,次の順序で確認するとよい。
以下は確認の順序を示すものであり,会社に休職制度があることや,兼職許可が得られることを保証するものではない。
① 勤務先に,司法修習のための休職が可能か,予定する採用日から修習終了日までを休職期間にできるか,復職の条件及び証明書の発行方法を確認する。
② 休職中の業務,給与・手当の扱いを具体的に整理する。
名称が休職であっても,仕事の依頼に応じる予定や報酬を受け取る予定がある場合は,その事情を省略せず照会する。
③ 第3の2の申請事項と疎明資料を確認し,勤務先の証明内容と修習側へ申告する内容が一致するようにする。
④ 当期の案内による提出先・期限・必要書類を確認して申請し,許可の有無と条件を確認する。
採用選考への申込み,在職の申告又は勤務先の休職承認を,兼職許可と取り違えない。
第79期の手引き9頁~10頁の標準的な案内は,民間企業の従業員等が在籍を続ける場合を対象としている。
勤務先が弁護士事務所である場合,民間企業の役員である場合その他標準類型に当たらない場合は,同じ書類だけで足りると判断せず,担当係へ確認する必要がある。
休職中に保険料等の負担が生じるか,いつどの方法で支払うかは,勤務先や加入する保険者に確認する。
採用前の退職・在職整理と手続の順序は,司法試験合格後から司法修習開始まで,給与の入金がなくなる期間と転居月の計算は,会社員の入出金確認を参照されたい。
第4 兼業許可
1 答案添削・採点・講師・教材作成
第79期手引10頁は,財産上の利益を目的とする業務のうち,答案添削・採点,授業の講師,教材作成その他の教育活動及び関連業務について,専用フォームによる申請を案内している。
この定型的な案内は,自営として行う場合を除く。
教育関係の業務であっても自動的に許可されるわけではなく,業務内容,業務量,業務時間,精神的・身体的負担,中立性・公正性,品位及び守秘義務との関係を踏まえて個別に判断される。
2 所有不動産の賃貸
所有不動産の賃貸については,最高裁判所宛ての兼業許可申請書をWord又はPDF形式で提出する。
申請書には,賃貸借の当事者,契約期間,不動産,賃料,兼業の必要性並びに中立性・公正性及び修習への支障がないことを記載する。
第79期手引は,修習への支障がないことの例として,不動産の管理を不動産会社に委託し,申請者が管理業務を行わないことを挙げている。
賃料収入が受動的であるという理由だけで,許可手続が不要になるわけではない。
3 ブログ・動画配信・投資等の非典型類型
広告収入のあるブログ,収益化された動画配信,アフィリエイト,反復継続する物品販売,執筆,暗号資産又は株式の取引等について,第79期手引は一律の結論を示していない。
単に資産を保有することと,継続的又は組織的に財産上の利益を得る業務を行うこととは区別して検討する必要がある。
過去の司法行政文書不開示通知が,特定の活動について判断基準を記載した文書の不存在を示していても,そのことは,当該活動が許可不要である,又は許可されることを意味しない。
収益の有無だけでなく,契約関係,作業内容,頻度,所要時間,第三者との関係及び修習で知った情報を扱う可能性を整理して照会すべきである。
第5 兼学許可
1 典型的に案内されている二類型
第79期手引12頁~13頁は,兼学について,修習専念義務に反しないか,すなわち司法修習に支障を生じるおそれのある学業に当たるかを個別具体的に判断すると説明している。
標準的に案内されているのは,次の二類型である。
- ① 修習終了後に復学するため,大学又は大学院を休学した上で在籍を続ける場合
- ② 卒業に必要な単位を修得済みで,卒業論文の作成も不要であり,学位取得のため形式的に在籍を続ける場合
これら以外の在学形態は,公開手引だけで許否を判断せず,司法研修所事務局企画第二課調査係へ確認すべきである。
2 申請書に記載する遵守事項
兼学許可申請書には,大学又は大学院の名称,学部等,兼学の理由及び必要性を記載する。
同申請書には,次の事項を遵守する旨も記載する。
- ① 司法修習に専念すること
- ② 大学又は大学院の講義等に出席しないこと
- ③ 学業のために司法修習のカリキュラムを欠席しないこと
- ④ 修習に支障のある一切の行為をしないこと
- ⑤ 修習期間中に論文作成に関する一切の行為をしないこと
- ⑥ 休学して在籍を続ける場合は,大学又は大学院を休学すること
休学して在籍を続ける場合は,休学証明書を提出する。
形式的在籍の場合は,卒業見込証明書,卒業要件表及び学業成績証明書等によって,単位の取得状況と卒業論文が不要であることを示す。
3 法科大学院在学中受験資格による合格者
法科大学院在学中受験資格に基づいて司法試験を受けて合格した者は,その法科大学院について兼学許可申請を要しない。
ただし,第79期手引は,採用後に卒業式,修了式又は学位授与式等へ参加する場合,欠席承認が必要になると説明しており,無断で修習を欠席してよいわけではない。
休学中の在籍,学位取得のみを目的とする在籍,法科大学院在学中受験資格による合格者の取扱い並びに申請書・疎明資料は,司法修習生の兼学許可-休学中の在籍・学位取得・法科大学院在学中合格者(AI作成)で整理している。
第6 許可判断と事前照会
1 公表資料から確認できる考慮要素
最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会平成28年度(最情)答申第3号は,兼業許可の詳細な具体的基準を定めた文書は保有されていないとした。
同答申によれば,修習専念義務,品位保持義務,中立公正性及び守秘義務に抵触しないかが判断の基礎となる。
第26回司法修習委員会議事録1頁~2頁は,業務内容,業務量及び業務時間,精神的・身体的負担,修習への専念,中立公正性並びに守秘義務との関係を,事例ごとに確認すると説明している。
公表資料に許可例があることは参考になるが,許否は個別事情によって異なる。
2 担当係と照会時の整理事項
第79期手引では,兼職,所有不動産の賃貸及びその他の兼業については最高裁判所事務総局人事局任用課試験係,教育関係の兼業及び兼学については司法研修所事務局企画第二課調査係を問合せ先としている。
電話番号,申請期間,様式及びフォームURLは変更され得るため,申請時点の採用選考手引又は内定通知に付属する案内を確認すべきである。
照会に当たっては,活動の相手方,契約形態,具体的業務,報酬,期間,頻度,所要時間,実施場所,修習への影響及び秘密情報との関係を整理すると,許可区分と必要資料を確認しやすい。
第79期の事務便覧は,実務修習中に兼業等の申請又は学業その他の兼業の申請について相談があった場合,司法研修所へ連絡し,申請方法及び提出書類等の指示を受けるよう案内するものとしている(本文10頁,PDF14枚目)。
これは採用前の申請方法を説明した手引とは,対象となる時点が異なる。
原稿作成,講演又は取材を受けること等についても,修習専念義務等に違反するおそれがある場合又は兼業に当たるか疑義がある場合は,司法研修所に報告する。
その際は,司法研修所又は配属庁会の指示があるまで業務を行わないよう,本人に告知する取扱いである(本文10頁~11頁,PDF14枚目~15枚目)。
疑義の照会を送ったことと,活動を開始してよいとの指示を受けたことを区別し,回答待ちの間に予定した活動を始めないことが必要である。
同便覧は,兼職等許可申請等の取扱いについて令和7年9月25日司研企二第502号の司法研修所事務局長事務連絡を参照している。
無報酬又は休日の活動でも,具体的な内容と修習への影響を示し,当期の指示を確認する。
第7 運用の沿革
1 昭和51年の司法修習生心得
昭和51年4月発行の『司法修習生心得』15頁~16頁は,当時の2年間の修習について,兼業又は兼職を可能にするほど容易ではないと説明していた。
同書は,アパート経営,たばこ小売業,各種委員又は役員,家庭教師及び司法試験答案練習の継続的受託等を例示している。
これは昭和51年当時の説明であり,現在の許可手続を示す資料ではない。
2 平成19年事務連絡による届出処理
平成19年12月6日付け司法研修所事務局長事務連絡「司法修習生の兼業届出の取扱いについて」は,出身大学又は法科大学院から依頼された原稿,座談会,インタビュー又は講話等について,一定の場合の届出処理を示している。
対象は,原則として一人一回で,無報酬又は交通費・昼食代等の実費だけを受け取る場合であった。
同事務連絡は,修習時間外に行うこと,秘密を漏らさないこと及び品位を落とさないことを求めている。
第79期手引はこの届出処理を説明していないため,現在も同じ書式及び手続で処理されると断定せず,担当係へ確認する必要がある。
3 第67期からの教育関係兼業の緩和
第26回司法修習委員会議事録1頁~2頁によれば,第67期から兼業許可の運用が緩和された。
その背景には,司法修習生の経済的支援の一環として,法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動による収入を,修習に支障を生じない範囲で認めるとの検討があった。
同議事録は,当時,法科大学院の講義・ゼミの講師又はアシスタント,司法試験予備校の答案添削・採点及び一般の学習塾での指導について許可申請があり,修習に支障がないと判断されたものは許可されたと報告している。
緩和されたのは許可運用であり,修習専念義務そのものが廃止又は緩和されたわけではない。
4 第74期以降の手続の明文化
第74期向けの令和3年2月26日付け事務連絡は,収入を伴う教育関係のアルバイトについて,個別事情の確認を前提としつつ,休日等に行う限り許可して差し支えない場合が多いとの当時の運用を説明した。
第75期向けの令和3年10月15日付け事務連絡は,答案添削・採点,講師,教材作成その他の教育活動及び関連業務を対象として定型申請書を示し,自営として行う場合を対象外とした。
これらは第67期からの運用緩和を申請者向けに具体化した資料であり,現在の申請方法及び提出先については第79期手引を優先すべきである。
第8 公表された兼業許可の件数
1 第65期・第66期と第67期以降の違い
情報公開資料によれば,平成25年の運用緩和前に当たる新第65期の兼業許可は2件,第66期は1件であった。
第67期以降は,教育関係の兼業許可運用が緩和され,申請及び許可の件数が大幅に増加した。
2 第67期から第70期までの申請状況
「司法修習生の兼業の状況」に掲載した公表資料によれば,第67期から第70期までの兼業許可申請の状況は,次のとおりである。
| 期 | 申請 | 許可 | 不許可 | 取下げ | 審査中 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第67期 | 272件 | 254件 | 4件 | 14件 | ― |
| 第68期 | 304件 | 288件 | 3件 | 13件 | ― |
| 第69期 | 199件 | 184件 | 3件 | 6件 | 6件 |
| 第70期 | 236件 | 214件 | 0件 | 4件 | 18件 |
第69期では,教育関係以外の申請16件のうち,許可9件,不許可3件及び取下げ4件であった。
第70期では,教育関係以外の申請14件のうち,許可9件,不許可0件,取下げ4件及び審査中1件であった。
3 統計を読む際の限界
第69期及び第70期の数値は,それぞれ平成28年1月31日及び同年12月22日時点の集計であり,審査中の申請を含む。
第71期,第72期及び第73期については,許可状況が分かる文書を保有していない旨の不開示通知があり,第71期以降の現在の許可率を示す公表資料は確認できない。
申請の具体的内容,許可条件,申請者数と申請件数の関係及び最終結果の全てが公表されているわけではないため,過去の許可率だけから現在の許可可能性を推測することは適切でない。
第9 不許可通知・不服申立て・裁判例
1 平成26年から平成28年までの不許可通知
平成29年7月3日付け開示文書には,平成26年4月11日から平成28年6月22日までの不許可通知12件が含まれている。
各通知は,結論として「許可しない」と記載するが,具体的理由を記載していない。
理由が記載されていないことだけから,個々の不許可が直ちに違法であるとはいえない。
どのような理由提示義務又は不服申立手段があるかは,不許可の法的性質,適用法令及び個別の手続経過を踏まえて別途検討を要する。
2 行政不服審査委員会との関係
最高裁判所行政不服審査委員会は,行政不服審査法に基づく審査請求について,最高裁判所又は最高裁判所長官の諮問に応じて調査審議する機関である。
同委員会が存在することだけで,司法修習生の兼職又は兼業の不許可が行政不服審査法上の審査請求対象になるとはいえない。
同委員会平成29年度答申第1号は,裁判官が裁判所法52条2号に基づき,共同住宅の一括貸付けについて兼職許可を申請した事案である。
同答申は,司法修習生に関する規則2条に基づく不許可の事案ではないため,司法修習生の不服申立ての先例として扱うことはできない。
公開資料を調査した範囲では,司法修習生の兼職・兼業・兼学の不許可について,行政不服審査法上の審査請求を認めた公表例は確認できない。
実際に不許可を受けた場合は,期間徒過を避けるため,通知書,申請書,照会回答及び申請経過を保全し,直ちに個別の法的検討を行う必要がある。
3 給費制廃止訴訟の下級審判決
東京地方裁判所平成29年9月27日判決(平成25年(ワ)第20444号,裁判所ID87149)は,給費制廃止に関する国家賠償等請求事件である。
同判決は,司法修習生に課された修習専念義務は,立法により創設された法曹養成制度の本質から導かれた結果であり,修習専念義務を課すことによってその反面で司法修習生の諸権利が制約されることについては,法曹の重要性及び司法修習の意義に照らせば違憲の疑いが生じる余地はなく,権利の制約に対して何らかの対応を執るべきか否かも立法府に委ねられた制度設計上の問題であるとした(判決書91頁)。
なお,「自らの意思で司法修習生となることを選択したことに伴う内在的制約あるいは憲法上許容される公共の福祉による権利制約」という表現は,同判決のうち被告(国)の主張を摘示した部分(判決書37頁~38頁)にあるものであり,裁判所の判断として示されたものではない。
福岡地方裁判所平成29年10月17日判決(平成25年(行ウ)第73号,裁判所ID87233)も,給費制廃止に関する国家賠償等請求事件であり,司法修習生の身分,修習専念義務及び規則2条の許可制を前提に判断している。
いずれも個別の兼業不許可の適法性を判断した判決ではないため,特定の不許可が当然に適法又は違法であるとの根拠にはならない。
第10 修習給付金・修習専念資金との関係
1 現在の経済的支援
裁判所ウェブサイトの「司法修習生の修習給付金について」によれば,修習給付金には,基本給付金,住居給付金及び移転給付金がある。
基本給付金は給付期間ごとに13万5000円,住居給付金は所定の要件を満たす場合に給付期間ごとに3万5000円であり,移転給付金は修習に伴う住所又は居所の移転が必要と認められる場合に,路程に応じた定額が支給される。
第71期以降の修習専念資金貸与制度では,申請により,一貸与単位期間につき10万円を基本額とする無利息の貸与を受けることができる。
扶養親族を有し貸与額の変更を希望する場合は,貸与額を12万5000円へ変更できる。
2 経済的支援と許可判断の区別
兼業許可運用の緩和には経済的支援の観点があったが,現在の給付金額,貸与制度又は個人の生活状況だけで許否が決まるわけではない。
兼職又は兼業の必要性は申請理由の一つであり,修習への支障,中立性・公正性,品位及び守秘義務等と併せて判断される。
兼業・兼職の制限を含む司法修習全体の制度については,「司法修習とは―採用要件,1年間の流れ,修習内容,給付金及び二回試験」を参照されたい。
第11 出典・参考資料
司法研修所事務局「第79期司法修習生の司法修習に関する事務便覧」(令和8年3月)本文10頁(PDF14枚目)。
本文10頁~11頁(PDF14枚目~15枚目)に,実務修習中の相談及び指示待ちの取扱いが記載されている。
1 法令・現行手続
- ① e-Gov法令検索「裁判所法」
- ② 最高裁判所「第79期司法修習生採用選考申込手続の手引」PDF実頁7頁~13頁
- ③ 最高裁判所「司法修習生採用選考」(通常採用及び考試再受験のため再採用された者の特則)
- ④ 最高裁判所「令和8年度司法修習生採用選考要項」(令和8年9月4日公表)
- ⑤ 裁判所「司法修習生」
- ⑥ 最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」
- ⑦ 最高裁判所「司法修習生に対する修習専念資金の貸与制の概要(第71期以降)」
2 公文書・議事録・統計
- ① 司法修習委員会(第26回)議事録1頁~2頁
- ② 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会平成28年度(最情)答申第3号2頁~5頁
- ③ 司法研修所事務局長「司法修習生の兼業届出の取扱いについて」(平成19年12月6日付け)PDF実頁1頁~4頁
- ④ 司法研修所事務局長「司法修習生の兼業(収入を伴うアルバイト)について」(令和3年2月26日付け)PDF実頁1頁~4頁
- ⑤ 司法研修所事務局長「司法修習生の兼業(答案添削等のアルバイト)について」(令和3年10月15日付け)PDF実頁1頁~4頁
- ⑥ 「司法修習生の兼業の状況」掲載の第67期から第70期までの開示資料
- ⑦ 平成29年7月3日付け開示文書「司法修習生の兼業許可申請に対する不許可通知書」
- ⑧ 最高裁判所行政不服審査委員会平成29年度答申第1号1頁~2頁
3 裁判例
4 歴史資料
- ① 司法研修所『司法修習生心得』(昭和51年4月発行)PDF実頁15頁~16頁