目次
1 総論
2 67期以降の司法修習生に対する兼業・兼職の禁止の緩和
3 74期以降の司法修習生に対する兼学の禁止の緩和(令和3年8月9日追加)
4 最高裁判所行政不服審査委員会
5 昭和51年当時,司法修習は兼業・兼職を可能にするほどなまやさしいものではなかったこと等
6 厚生労働省の,副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和5年1月17日追加)
7 関連記事その他
1 総論
(1) 司法修習生は,最高裁判所の許可を受けなければ,公務員となり,又は他の職業に就き,若しくは財産上の利益を目的とする業務を行うことはできません(司法修習生に関する規則2条)。
(2) 令和3年度司法修習生採用選考申込書の記載要領5頁及び6頁からすれば,兼職,兼業及び兼学の定義は以下のとおりと思います。
① 兼職とは,民間企業(弁護士事務所を除く。)の従業員又は役員等及び地方公務員(司法修習のために休職することができる場合)の方が,現在の就業先に在籍したまま司法修習を受けることをいいます。
② 兼業とは,大学や予備校(塾)での答案添削・採点・授業の講師及び教材作成等をいいます。
③ 兼学とは,大学等に在籍を続けることをいいます。
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改訂されました。「副業・兼業を許容しているか否か、また条件付許容の場合はその条件について、自社のホームページ等において公表することが望ましい。」とされました。https://t.co/GyoY56r6Gy
— 弁護士 西川暢春 弁護士法人咲くやこの花法律事務所 新刊『問題社員トラブル円満解決の実践的手法』 (@nobunobuno) July 15, 2022
2 司法修習生に対する兼業・兼職の禁止の緩和(1) 67期以降の司法修習生に対する兼業・兼職の禁止の緩和
ア 「法曹養成制度改革の推進について」(平成25年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定)第4には以下の記載がありますところ,67期以降,司法修習生に対する兼業・兼職の禁止が緩和されることとなりました。
司法修習生の兼業の許可について、法の定める修習専念義務を前提に、その趣旨や司法修習の現状を踏まえ、司法修習生の中立公正性や品位を損なわないなど司法修習に支障を生じない範囲において従来の運用を緩和する。具体的には、司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認める。
イ 平成25年12月3日の第26回司法修習委員会議事録には以下の記載があります(吉崎幹事は,吉崎佳弥司法研修所事務局長のことです。)。
吉崎幹事から司法修習の実施状況等について報告がされた。
また,同幹事から,前々回の司法修習委員会で,司法修習生に対する経済的支援の一環として,兼業許可の運用を緩和する方向で検討していることを報告したが,その後検討を進め,第67期修習生から兼業許可の運用を緩和することとした旨,具体的な兼業の許否の判断においては,これまでと同様に,業務内容や業務量,業務時間から見て,修習専念義務が定められた趣旨に反しないといえるかどうかの観点,すなわち,精神的・身体的負担が重いために修習への専念を困難にするかどうか,中立公正性の要請や守秘義務の関係で問題がないかどうかといった観点から,事例ごとに個別具体的な事情を確認した上で,兼業を許可するかどうか判断することとしている旨,これまでに,法科大学院における講義やゼミの講師,アシスタント等の教育指導のほか,司法試験予備校における答案添削,採点等,一般の学習塾における指導などの許可申請があり,現在までのところ,いずれについても,その内容,業務量,業務時間から見て,修習に支障が生じるようなものではなく,問題がないと考えられたことから,許可することとし,その旨の当該修習生への通知も行われている旨の報告がされた。同じく経済的支援措置の一環である移転料の支給については,第67期の修習生から,分野別実務修習の開始に当たって現住居地から実務修習地への転居を要する者本人について移転料を支給することとした旨の報告がされた。
(2) 74期以降の司法修習生に対する兼業・兼職の禁止の緩和
ア 74期司法修習生の場合
・ 民間企業(弁護士事務所を除く。)の従業員及び地方公務員(司法修習のために休職することができる場合)の方が,現在の就業先に在籍したまま司法修習を受けることの許可を求める場合の提出書類等が司法修習生採用選考申込書の記載要領に明記されるようになりました(令和2年度司法修習生採用選考申込書の記載要領9頁及び10頁)。
イ 75期以降の司法修習生の場合
・ 司法修習生採用選考の申込みに際して,退職証明書の提出が不要となり,採用選考申込書の「7 現在の職業等」につき,「A:採用日までに退職,卒業(修了),退学する」,「B:自営業であるが,修習中は業務を行わない」及び「C:兼職,兼業,兼学許可申請を行う予定」のいずれかを選ぶこととなりました(令和3年度司法修習生採用選考申込書の記載要領11頁)。
これは知らない修習生が多い!
他にも修習生があまり知らない話がある!
・罷免されても、次年以降に再採用可能
・修習前に勤めている場合、退職せずに、休職も可能
・修習地は途中から変更になることがある(メンバーと良好な関係を築くのが極めて難しい場合) https://t.co/ae2yb4TzgW— ハードボイルド弁護士 (@EktDFDEOZSJjmoY) January 18, 2022
R020928 R020925 最高裁の不開示通知書(司法修習生に対する兼業許可書の書式が分かる文書)を添付しています。 pic.twitter.com/79lAkGzRsL
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) September 29, 2020
3 74期以降の司法修習生に対する兼学の禁止の緩和
(1) 73期までの司法修習生の場合,司法修習生の兼学について申請の予定がある場合,司法研修所事務局企画第二課調査係に速やかに連絡し,申請方法や提出書類等の指示を受けることとされていました(令和元年度司法修習生採用選考申込書の記載要領7頁参照)。
(2) 74期司法修習生の場合,司法修習生の兼学について申請の予定がある場合,採用選考申込書に申請方法や提出書類等が記載されるようになるとともに,典型的な兼学の類型として以下の場合があることが明示されるようになりました(令和2年度司法修習生採用選考申込書の記載要領6頁並びに11頁ないし13頁)。
① 修習終了後に復学等するために,休学した上で在籍する場合
② 令和3年4月1日以降に卒業(修了)予定の方で,在籍期間以外の卒業要件を満たしており(卒業必要単位修得済み及び卒業論文作成不要),学位取得のために休学することなく形式的に在籍する場合
(3)ア 75期司法修習生の場合,司法修習生の兼学について申請の予定がある場合,採用選考申込書に申請方法や提出書類等が記載されるようになるとともに,典型的な兼学の類型として以下の場合があることが明示されるようになりました(令和3年度司法修習生採用選考申込書の記載要領9頁及び10頁)。
① 修習終了後に復学するために,休学した上で在籍を続ける場合
② 在籍期間以外の卒業要件を満たしており,学位取得のために休学することなく形式的な在籍を続ける場合(卒業に必要な単位を修得済みかつ卒業論文の作成が不要な場合)
イ 採用選考申込書の「7 現在の職業等」につき,「A:採用日までに退職,卒業(修了),退学する」,「B:自営業であるが,修習中は業務を行わない」及び「C:兼職,兼業,兼学許可申請を行う予定」のいずれかを選ぶこととなりました。
ということで、今は兼業・兼学のハードルはかなり低くなっていると思います。
ただ、兼学は原則として休学していないと認められません。ちなみに、私が兼業を申請した3つの業務は、いずれも教育関係のものです。教育関係なら認められやすいみたい。https://t.co/8dmSTEVBUV— そらいと(74期) (@sora_bethere) August 9, 2021
4 最高裁判所行政不服審査委員会
(1) 平成28年4月1日,最高裁判所行政不服審査委員会が設置されました(裁判所HPの「最高裁判所行政不服審査委員会」参照)。
そのため,司法修習生が兼職等の不許可処分に対して不服がある場合,最高裁判所に対する審査請求ができるかもしれません(最高裁判所行政不服審査委員会規則1条参照)。
(2) 行政不服審査法に基づく審査請求をした場合の取扱いは,「行政不服審査法に基づく審査請求書の受付等に関する事務処理要領」(平成28年7月20日付)に書いてあります。
ただし,平成29年3月21日付の司法行政文書不開示通知書によれば,司法修習生の兼職等の不許可が行政不服審査法の対象となるかどうかが分かる文書は存在しません。
(3) 平成29年7月3日付の開示文書によれば,兼業許可申請に対して不許可となった場合,不許可理由の説明はありません。
ちなみに,一般旅券発給拒否処分の通知書に,発給拒否の理由として,「旅券法一三条一項五号に該当する。」と記載されているだけで,同号適用の基礎となった事実関係が具体的に示されていない場合,理由付記として不備であって,当該処分は違法です(最高裁昭和60年1月22日判決)。
京都地裁H24.7.13
「労働者は,勤務時間以外の時間については,事業場の外で自由に利用することができるのであり,使用者は,労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを,原則として許されなければならない。」と判示し、不合理な兼業不許可は不法行為として事業主に賠償命令
— 弁護士 西川暢春 弁護士法人咲くやこの花法律事務所 新刊『問題社員トラブル円満解決の実践的手法』 (@nobunobuno) March 27, 2022
最「現時点では不許可見込みです」
わ「……(話通じねぇなこの人)。この電話の趣旨が知りたいんですが?」
最「準備等に時間がかかるかと」
わ「え?不許可出たら辞めるだけなんですけど、、」
最「えぇ」
わ「それでこの電話を聞いたわいは何を求められてるんでしょうか?」— 未来←みらみらみらこすた🥺 (@mirai_light8) October 20, 2022
R050124 最高裁の不開示通知書(司法修習予定者の兼業許可申請が不許可見込みの場合,事前に電話をすることで兼業許可申請の取り下げを促すことになっていることが分かる文書)を添付しています。 pic.twitter.com/BwXyDhEvDJ
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) January 29, 2023
5 昭和51年当時,司法修習は兼業・兼職を可能にするほどなまやさしいものではなかったこと等
(1) 司法修習生心得(昭和51年4月発行)末尾10頁及び11頁には「4 兼職,兼業の禁止」以下の記載があります。
司法修習生は,許可がない限り,兼業,兼職することができないものとされている。
司法修習生は,前述のとおり,修習に専念すべき義務を負うものであるから,この禁止は当然のことであり,また2年間の修習は,兼業,兼職を可能にするほどなまやさしいものではない。司法研修所における前期修習中の起案が多すぎると批判しながら,他方において司法試験の答案練習を引き受けこれに相当の時間を費やしている事例があるが,論外である。アパート経営,たばこ小売業,各種の委員,役員に就任すること,家庭教師,右の司法試験の答案練習を継続して引き受けること等は,いずれも兼業または兼職に該当する。したがって,所定の許可を受けなければ,規律違反に問われることになる。
(2) 東弁リブラ2022年7・8月合併号の「一度は体験したい修習生活 40期 高須順一」に「前期・後期の各修習は文京区湯島の司法研修所での修習でした。午前中に授業が一つ,午後も授業が一つで3時10分には研修所を退出することができました。」とか,「私たちは3時10分に帰れることの利益を満喫するために,少しでも早く酒を飲む術を模索しました。幸い湯島界隈には気の利いた飲み屋が数多くあり,起案等のない日には3時30分には開店するなどのサービスに努めてくれました。」と書いてあります。
これ、旧試験の、しかも修習がむちゃくちゃ余裕のあるカリキュラム時代の話で、2年間の人生最後のモラトリアムという時代のこと
1年半になってから合格したが、忙しくてかわいそうとマジに言われたからなぁ
だから給(誰か来た https://t.co/TH9NOitxV3— 坂本正幸 (@sakamotomasayuk) February 16, 2021
6 厚生労働省の,副業・兼業の促進に関するガイドライン
・ 厚生労働省HPの「副業・兼業」に載ってある「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月8日改定版)には「副業・兼業の現状」として以下の記載があります。
(1) 副業・兼業を希望する者は年々増加傾向にある。副業・兼業を行う理由は、収入を増やしたい、1つの仕事だけでは生活できない、自分が活躍できる場を広げる、様々な分野の人とつながりができる、時間のゆとりがある、現在の仕事で必要な能力を活用・向上させる等さまざまであり、また、副業・兼業の形態も、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による自営業主等さまざまである。
(2) 副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、例えば、 ① 労務提供上の支障がある場合 ② 業務上の秘密が漏洩する場合 ③ 競業により自社の利益が害される場合 ④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合 に該当する場合と解されている。
(3) 厚生労働省が平成30年1月に改定したモデル就業規則においても、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」とされている。
なんと、ひどい話です。
僕は、二回試験終了直後から内定先でお給料をもらいながら、登録後に担当予定の記録読み・起案をしていたのですが、兼業許可の申請をしてないです。
同じような同期はたくさんいましたが、誰も兼業許可の申請をしてないと思いますよ。— やつはし (@yatsuhashidayo) April 28, 2023
7 関連記事その他
(1) 日弁連は,平成20年7月17日,在職者の司法修習生採用制限に関する意見書を公表し,同月28日,最高裁判所に提出したものの,特に取扱いが変わることはありませんでした。
(2) 平成29年5月19日付の司法行政文書不開示通知書によれば,平成22年11月頃,社会人で合格した修習生が民間企業などに身分を残したまま,休職扱いで修習できるよう,兼職許可の運用を見直した際に作成した文書は存在しません。
(3) 令和2年2月16日付の司法行政文書不開示通知書によれば,司法修習生が自分の運営するブログでアフィリエイト収入を得る場合,兼業許可を受けておく必要があるかどうかについては,司法修習生に関する規則を見れば分かるみたいです。
(4) 一般に許可制は,単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので,職業の自由に対する強力な制限であるから,その合憲性を肯定し得るためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要します(最高裁令和4年2月7日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和50年4月30日判決参照)。
(5)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 司法修習生の兼業届出の取扱いについて(平成19年12月6日付の司法研修所事務局長の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の兼職
・ 司法修習生の兼業の状況
【前代未聞】最高裁判所に「プロゲーマーのまま司法修習に参加していいか」聞いてみた。ついでに配信やブログのことも。 https://t.co/Mdqi4pyQLw
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) September 28, 2020
R030624 最高裁の不開示通知書(司法修習生が株式投資をする場合,兼業許可を受ける必要があるかどうかが分かる文書)を添付しています。 pic.twitter.com/WNqKu0E4wy
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) June 26, 2021