本稿は,弁護修習――分野別実務修習のうち,弁護士会に配属されて行われる実務修習――について,指導担当弁護士による個別指導の体制,個別修習及び合同修習で実際に行われている内容,並びに成績評価の方法を整理するものである。弁護修習は,裁判所法66条から68条の2まで及び最高裁判所規則である「司法修習生に関する規則」(昭和23年最高裁判所規則第15号)に基づき,最高裁判所が実施する司法修習のうち,分野別実務修習の1分野として行われる。司法修習制度の創設から給費制の変遷,法科大学院制度の導入に至る沿革及びこれに関連する裁判例は,別稿「司法修習制度の改正経緯」に譲り,本稿では立ち入らない。地域ごとの配属人数・日程等の生活情報についても,大阪修習やさいたま修習の記事など,地域別の記事を参照されたい。
弁護修習の内容を具体的に伝える資料として,本稿は第二東京弁護士会(二弁)の機関誌『NIBEN Frontier』2017年11月号及び同12月号に掲載された特集記事「司法修習はこう変わった」(前編・後編)を主たる資料として用いる。前編は,同会司法修習委員会委員長の松村太郎会員(50期)ほか同委員会所属会員が執筆し,同誌2017年11月号30頁から39頁に掲載されている。後編は,同会広報室が,最高裁判所司法研修所の弁護教官を退任したばかりの黒河内明子会員(46期,民事弁護教官)及び小林剛会員(51期,刑事弁護教官)へのインタビュー形式で構成し,同誌2017年12月号10頁から17頁に掲載されている。両記事は,第70期(2017年当時の現行司法修習)を基準とする第二東京弁護士会の実務報告であり,全国の弁護士会に一律に当てはまる制度ではない点に留保が必要である一方,司法修習生に関する規則が定める修習の目的規定を引用した上で,指導担当弁護士の具体的な指導方法や成績評価の配点まで踏み込んで説明した資料は少なく,資料価値が高い。本稿は,AIを用いてこれらの特集記事及び関連する一次資料を検討し,整理したものである。
弁護修習の指導のよりどころとなる公式の手引書としては,日本弁護士連合会司法修習委員会が作成した「弁護実務修習指導のしおり」があり,その内容は別稿「弁護実務修習指導のしおりの解説」で扱った。本稿で紹介する二弁の運用は,同しおりが定める全国共通の枠組みを,各弁護士会がどのように具体化しているかを示す一事例として位置づけられる。
第1 弁護修習の指導体制
1 弁護士会への配属と指導担当弁護士
分野別実務修習は,民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護の4分野について,全国の実務庁会で各2か月間行われる。最高裁判所も,弁護修習について「個別指導弁護士の下で,法律相談や法廷などに立ち会ったり,様々な法律文書を起案」する修習であると説明しており,司法修習生は原則として1人の指導担当弁護士の下に配属され,マンツーマンで指導を受ける。二弁の場合,会員が「指導担当弁護士」として協力し,約2か月弱の弁護修習期間を通じて司法修習生の指導及び育成に当たっている。
2 指導のよりどころとなる指針類
指導担当弁護士による指導方法の指針としては,日本弁護士連合会が平成26年3月に策定した「弁護実務修習ガイドライン」がある。同ガイドラインは,最高裁判所司法修習委員会が分野別実務修習をさらに充実させるため,裁判実務修習,検察実務修習及び弁護実務修習のそれぞれについてガイドラインを作成し,指導に当たる担当官・担当弁護士に指導方法の指針を示すこととしたことを受けて策定されたものである。二弁は,これに先行して独自の「個別修習指導要領」(二弁指導要領)を作成しており,日弁連ガイドラインはこれを具体化・詳細化したものと位置づけられている。司法研修所民事弁護教官室及び刑事弁護教官室も,指導担当弁護士に考慮してもらいたい要望事項をまとめた「弁護実務修習に対して望むこと」と題するペーパーを作成しており,平成20年の初版に続き,平成28年9月に改訂版が発出されている。日弁連司法修習委員会が平成29年12月に改訂した「弁護実務修習指導のしおり」も同様の位置づけの手引書であり,その内容は前記別稿で扱った。これらのガイドライン及びペーパーの本文は,本稿執筆時点でインターネット上に公開されておらず,内容は上記特集記事の紹介にとどまることには留保が必要である。
3 指導担当弁護士へのガイダンス
二弁では,各クールの弁護修習開始の約2週間前に,司法修習委員会の担当部会長(副委員長)による指導担当弁護士向けの修習ガイダンスを実施しているほか,同じ時期に,両性の平等に関する委員会から講師を派遣してセクシュアル・ハラスメントに関するガイダンスも行っている。指導担当弁護士に対する指導時間の目安は,指導担当弁護士の事務所と同じ時間に開始し,終了時刻は午後5時を一応の目安とするが,被疑者・被告人との接見等,個別修習の都合上必要があり,かつ司法修習生の同意があるときは,これを超過しても差し支えないとされている。
第2 弁護修習における個別修習の内容
1 法律相談,起案及び法廷への同行
個別修習の内容は,法律相談への同席,訴訟書面の起案及びその添削,並びに法廷への同行・同席が中心となる。二弁指導要領は,個別修習の目的を,依頼者の要請を適正かつ迅速に実現することを考えること,及び考える素材が具体的な事実であることの2点に置き,法律構成される前の具体的な事実を素材として指導担当弁護士と司法修習生とが十分な討議を行うことによって,司法修習生が弁護士の内面的な思考過程を修得することを目指すものと説明している。起案についても,指導担当弁護士が討議を経ずに単独で方針を決定するのではなく,司法修習生との討議を踏まえて起案させ,論旨が明確になるまで修正させるよう指導することが望まれるとされる。保全事件や執行事件のように短い修習期間中には経験する機会が少ない事件については,二弁司法修習委員会が指導担当弁護士のメールアドレスを共有し,他の指導担当弁護士の下で修習している司法修習生の同行を依頼できるようにするなどの工夫がされている。
2 国選弁護事件及び当番弁護士活動
二弁指導要領は,国選弁護事件と当番弁護士のいずれか一件(可能であれば両方)を担当させ,修習の機会を与えることを原則としており,このため,修習期間中は指導担当弁護士に国選弁護事件の割当てや当番弁護士の出動が優先的に割り振られるよう配慮しているという。もっとも,刑事事件は必ずしも修習期間中に回ってくるとは限らないため,接見後にどのような問題点があり,今後どのような弁護活動をしていくかを整理した検討メモの作成も,起案の一種として位置づけられている。
第3 合同修習による補完――二弁における実例
1 冒頭修習,研修旅行及び刑事弁護のロールプレイング
二弁司法修習委員会は,指導担当弁護士による個別指導を補完する目的で,民事及び刑事の合同修習を実施している。民事の合同修習としては,各クール初日に,司法修習委員会が作成したオリジナルの事案を用いて内容証明郵便の起案や簡単な訴状の起案を行わせる「冒頭修習」(民事起案①)と,弁護修習開始から第1週又は第2週の金曜日から1泊2日で箱根や上総一ノ宮のホテル・旅館において実施する「研修旅行」(民事起案②)があり,研修旅行では,司法修習生自身が依頼者役の委員から事情聴取を行い,これに基づいて答弁書を起案させることで,事情聴取の進め方や構成について実践的な視点を持たせることを狙っている。刑事の合同修習としては,神山啓史会員を講師とする合同講義「刑事弁護」があり,司法修習生を9名前後の2班に分けた上,丸1日をかけて実際の東京地方裁判所の法廷を借り,司法修習生が弁護人役,講師が被疑者・被告人役や裁判官役となるロールプレイング方式で,初回接見から弁護団会議,公判段階までの一連の弁護活動を体験させている。これに続けて,強盗致傷被告事件を題材とした自宅起案(刑事弁護)と,裁判員センター委員を講師とする合同講義「刑事起案講評」も実施されている。
2 中間報告会及び中間連絡会
弁護修習の開始から概ね1か月ほど経過した段階で,司法修習生と司法修習委員会委員が出席する「中間報告会」,及び指導担当弁護士と同委員会委員が出席する「中間連絡会」が実施される。指導担当弁護士の手持ち事件は当然のことながら均一ではないため,各司法修習生が経験する事件にはどうしてもばらつきが生じるが,中間報告会では絶対数の少ない保全事件・執行事件について同委員会委員が関与する事件の傍聴を案内し,中間連絡会では指導担当弁護士に担当外の司法修習生の傍聴・同行への協力を依頼するなどして,配属された司法修習生全員が多種多様な事件を経験できるよう努めているという。中間連絡会は指導担当弁護士間の情報交換の場でもあり,後述する成績評価のばらつきの調整も議題とされている。
第4 成績評価の方法
二弁における成績評価は,指導担当弁護士による評価と司法修習委員会による評価を総合して行われる。指導担当弁護士は,各クールの弁護修習終了後,担当した司法修習生について,事情聴取能力,事実把握能力,法律知識,法律構成力,方針決定能力,書面作成能力,口頭説明能力及び処理能力の8項目を各10点満点(合計80点満点)で評価して報告する。指導担当弁護士ごとの評価が大きくばらつくことを防ぐため,各項目の平均値を7点とした上で,9点又は10点を与える場合には理由書の提出を求め,前記の中間連絡会でも暫定的な成績の報告書を提出させて調整を図っている。司法修習委員会も,合同修習の結果等に基づいて合計60点満点で評価し,最終的に同委員会の成績会議において両者の評価を合算した点数に応じて「優・良・可・不可」の4段階の成績を付し,司法研修所へ報告する。この4段階評価の枠組み自体は,日弁連司法修習委員会が定める「弁護実務修習指導のしおり」にも定められている全国共通の様式であるが(弁護実務修習指導のしおりの解説参照),二弁の8項目・140点満点という具体的な配点は,同しおりの解説記事には現れない同会独自の運用として紹介する価値がある。
第5 弁護修習をめぐって指摘されている限界
1 修習期間の短さと経験できる事件の範囲
分野別実務修習における弁護修習の期間は各2か月であるが,実日数は土曜日・日曜日を除いて40日弱にとどまる。二弁司法修習委員会は,このため裁判案件は1回か多くて2回出廷できるかどうかというところであり,証人尋問や保全・執行案件を経験できない司法修習生も少なくないと指摘している。また,修習期間の短期化と弁護士の専門化により,配属先によっては経験する事件に偏りが生じているとの指摘もある。司法修習生考試(二回試験)の不合格者数についても,旧司法試験時代は長らくゼロか一桁程度であったのに対し,現行司法修習の導入に伴って増加傾向にあることが懸念されているという。なお,二回試験は5科目について1日1科目・5日間連続で実施され,口述試験はなく,1科目でも不合格であれば全体が不合格となる仕組みであり,不合格となった場合の一般的な取扱いは別稿「二回試験不合格時の一般的な取扱い」で扱っている。
2 指導担当弁護士ごとの事件の偏り
この点は,前述の中間報告会・中間連絡会による調整の対象でもあるが,指導担当弁護士の実務家自身が「弁護修習は,指導担当弁護士がかかわっている事件を司法修習生が一緒に経験させてもらうことで成り立っている」ため,「指導担当弁護士の手持ちの事件は当然のことながら均一でない」と明言している点は,制度の構造的な限界を示すものとして注目に値する。また,司法修習生が法科大学院ごとに異なる教育を受けて修習に入ってくることについて,前記の元弁護教官は,ロースクールごとに教育内容にばらつきがあることが,修習生の基礎知識の幅を広げている一因ではないかと指摘している。
第6 ハラスメント防止に関する規範
1 日弁連指針(令和8年2月18日全部改正)
日本弁護士連合会は,「性を理由とする差別的取扱い及びセクシュアル・ハラスメントの禁止に関する規則」(規則第211号)5条1号に基づき,同規則の運用指針を定めている。この指針は令和8年2月18日に全部改正され,同日から施行されている。同指針は,セクシュアル・ハラスメントであることについて相手からいつも明確な意思表示があるとは限らない理由の一つとして「弁護士と司法修習生……といった力関係」を挙げ,また,「会員に対するセクシュアル・ハラスメントに注意するのみでは不十分であって,司法修習生,法律事務所で研修する者,法律相談の相談者等,会員がその職務に従事する際に接することになる者との関係にも十分注意する必要がある」と明記している。さらに,法律事務所への就職活動のための面接,採用及び就業について,「弁護士,事務職員,司法修習生等……において何人も平等であり,性別,性的指向又は性自認によらず,互いの人格を尊重し合うべきである」とも定めており,弁護修習中の司法修習生と,修習後に就職活動を行う司法修習生の双方を明示的に念頭に置いた規範となっている。
2 パワーハラスメントに関する規範の現状
他方,パワーハラスメントについて司法修習生を名指しした同種の日弁連の規則・指針は見当たらない。これは,司法修習生が指導担当弁護士や配属先の弁護士会の「労働者」に当たらないとされていることと関係する。司法修習生の労働者性をめぐる法的位置づけと,労働施策総合推進法上のパワーハラスメント防止措置義務が司法修習生に直接及ばないことの詳細は,別稿「民間労働者と司法修習生との比較」に譲る。
第7 出典・参考資料
1 法令
- 裁判所法(昭和22年法律第59号)66条から68条の2まで。e-Gov法令検索(裁判所法)
- 「司法修習生に関する規則」(昭和23年最高裁判所規則第15号)。日本法令索引(最高裁判所規則のためe-Gov法令検索には未収録)
2 公文書・ウェブ資料
- 最高裁判所「司法修習の概要」
- 日本弁護士連合会「司法修習の支援(司法修習委員会)」
- 日本弁護士連合会「性を理由とする差別的取扱い及びセクシュアル・ハラスメントの禁止に関する指針」(令和8年2月18日全部改正)