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自治体の補助金や公有財産の無償使用は憲法89条後段に違反するか―「公の支配」の判断基準と住民訴訟の裁判例(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,地方公共団体が私立学校,各種学校,幼児教室,特定非営利活動法人(NPO法人)等の事業に補助金を交付し,又は土地・建物を無償で使用させた場合に,憲法89条後段に違反するかを扱う。
住民監査請求や住民訴訟の手続(監査請求前置,4つの請求類型及び出訴期間)は「住民訴訟とは―住民監査請求前置・出訴期間・4類型と主要判例」で扱っているので,本記事は,住民訴訟で主張される違法事由のうち憲法89条後段に絞って整理する。

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトに掲載された判決の全文及び判例秘書で確認した。

2 結論

①憲法89条は,前段で宗教上の組織・団体のための公金支出等を,後段で「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業」に対する公金支出等を禁止している。
②下級審裁判例は,後段の規制を前段ほど厳格に解する必要はないとし,「公の支配」の程度は,公の権力が事業の運営・存立に影響を及ぼし,事業が公の利益に沿わない場合にこれを是正しうる途が確保され,公の財産の濫費を防止できれば足り,事業の人事・予算への直接の関与までは要しないとしている(東京高裁平成2年1月29日判決)。
③最高裁は,この東京高裁判決に対する上告を棄却し,原審の判断を正当として是認したが(最高裁平成5年5月27日判決),自ら一般的な判断基準を示してはいない。
④学校法人や各種学校を設置する法人への助成については,学校教育法,私立学校法及び私立学校振興助成法による所轄庁の監督があることを理由に「公の支配」が肯定されている。
⑤学校法人以外の団体についても,補助金交付規則による報告・調査・交付決定の取消し,監査委員の監査,用途指定,業務委託協定,役員の構成等を組み合わせて「公の支配」を肯定した裁判例がある。
⑥本記事の調査範囲では,後段違反を認めて支出等を違法とした裁判例は見当たらなかった。

後段違反を主張する側は,是正の途が確保されていないことを,交付の仕組みと運用の実態に即して具体的に示す必要がある。

第2 憲法89条の構造

1 条文

憲法89条は,「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」と定める。
禁止される行為は,公金を「支出」することと,公の財産を「利用に供する」ことであり,補助金の交付だけでなく,土地・建物の無償使用や無償譲渡も問題になる。

2 前段と後段の違い

東京高裁平成2年1月29日判決は,前段について,「国家と宗教の分離を財政面からも確保することを目途とするものであるから、その規制は厳格に解すべき」であるとした。
これに対し,後段の教育の事業に対する規制については,教育は国家の最も重要な任務の一つで国や地方公共団体も自ら営みうるものであり,私的な教育事業への公的な援助も一般的には公の利益に沿うものであるから,「同条前段のような厳格な規制を要するものではない」とした。
東京地裁平成25年12月19日判決も,慈善,教育又は博愛の事業に公金を支出することは一般的には公の利益に沿い,実際上の必要性があることも少なくないとして,後段の禁止を前段のように厳格に解すべきではないとしている。

前段(政教分離)が問題になった最高裁判例は,「最高裁判所における違憲判決の一覧」や「大嘗祭の裁判例――平成の国費支出・公職者参列と令和の後続訴訟」で扱っている。
本記事の対象は後段である。

3 「慈善、教育若しくは博愛の事業」に当たるか

後段が適用されるのは,支出等の相手方の事業が慈善,教育又は博愛の事業である場合に限られる。
東京高裁平成2年1月29日判決は,後段の「教育の事業」を「人の精神的又は肉体的な育成をめざして人を教え、導くことを目的とする組織的、継続的な活動」とし,幼稚園とほぼ同じように幼児を保育する幼児教室の事業はこれに当たるとした。
大津地裁平成14年4月22日判決は,慈善の事業を身体的又は経済的弱者を主として物質的に援助する事業,教育の事業を人の精神的又は身体的育成を目指して人を教え導くことを主たる目的とする事業,博愛の事業を疾病,戦禍,天災等の災厄に苦しむ者を人道主義的見地から救済・援護することを主たる目的とする事業と整理し,自治会はそのいずれの事業を行うものでもないとして,自治会への支出に後段は適用されないとした。
東京高裁昭和59年6月27日判決も,大学附属病院の誘致のための支出について,地域医療の振興を目的とする面は医療の事業に対する助成であって教育の事業に対する助成とはいえず,その限りで後段の問題は生じないとしている。

第3 「公の支配」の判断基準

1 後段の趣旨をどう理解するか

(1) 公の財産の濫費の防止を中心に据える裁判例

東京高裁平成2年1月29日判決は,後段の趣旨を,教育の事業はそれを営む者の教育についての信念,主義,思想の実現であるから,公の支配に属しない教育事業に公の財産が支出されると,公教育の趣旨・目的に合致しない教育活動に公の財産が使われるおそれがあり,ひいては公の財産が濫費される可能性がある点に求めた。
福岡地裁平成25年2月15日判決は,後段の解釈は「公費濫用防止」の観点から行うのが相当であるとした上で,私立学校の教育事業が「公の支配」に属するかは,「公の財産が濫費されることを防止できるような公的規制のシステムが構築されているか否かという観点から判断すれば足り,その教育内容等に介入してこれを是正できる途が確保されているか否かという観点までは必要ではない」とした。

(2) 事業の自主性の確保も趣旨に含める裁判例

大津地裁平成14年4月22日判決は,後段には,私人の行う慈善,教育及び博愛の事業に公権力が干渉する危険を防止し,これらの事業の自主性を確保する趣旨も含まれるとした。
東京地裁平成25年12月19日判決も,公の支配に属しない事業に公の財産を提供すると事業の自主性・独立性を侵害するおそれがある一方,公の財産が濫費されるおそれもあるとして,二つの趣旨を併せて述べている。
もっとも,同判決も,支配の程度は公の財産の濫費防止の観点から判断し,人事・予算への直接の関与を要しないとしている。

(3) 厳格な支配を求める主張

幼児教室事件の上告理由は,後段の趣旨は第一義的には私人の事業の自主性を保障することにあるとし,「公の支配」とは事業の予算を定め,その執行を監督し,人事に関与するなど,事業の根本的な方向に重大な影響を及ぼすことのできる権力をいうと主張した。
しかし,最高裁はこの上告を棄却している(後記3)。

2 必要な支配の程度

東京高裁平成2年1月29日判決は,教育の事業に公の財産を支出し,又は利用させるには,その事業が公の支配に服することを要するとした上で,「その程度は、国又は地方公共団体等の公の権力が当該教育事業の運営、存立に影響を及ぼすことにより、右事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され、公の財産が濫費されることを防止しうることをもって足りるものというべきである。」とした。
続けて,「右の支配の具体的な方法は、当該事業の目的、事業内容、運営形態等諸般の事情によって異なり、必ずしも、当該事業の人事、予算等に公権力が直接的に関与することを要するものではない」とした。
同判決は,さらに,憲法89条は規制が法律によるものであることまでは求めておらず,私立学校法や私立学校振興助成法の定める助成の方法以外による助成が許されないわけでもないとした。

同判決の判断を要素ごとに分けると,次のとおりである。

観点東京高裁平成2年1月29日判決の判断
趣旨公教育の趣旨・目的に合致しない教育活動への支出と,公の財産の濫費の防止
支配が及ぶべき対象事業の運営・存立
最低限必要なもの事業が公の利益に沿わない場合にこれを是正しうる途の確保と,濫費の防止
必要とされなかったもの人事・予算への直接の関与,法律による規制,私立学校振興助成法等の定める助成方法によること
具体的な帰結町の関与を受ける幼児教室の事業は「公の支配」に服する

千葉地裁昭和61年5月28日判決も,後段の「公の支配」に属する事業とは,国又は公共団体が人事組織,予算等について根本的に支配していることまで必要とする趣旨ではなく,それよりも軽度の法的規制を受けていることで足りるとした。
他方,同判決は,私立学校に対する公的助成が,その目的及び効果において私立学校の自主性・独立性を害し,又は私立学校の基礎となっている特定の信念,主義,思想等を助長することにより,思想,良心及び学問に対する国家等の公正・中立性を損なう場合には許されないとも述べている。

3 最高裁平成5年5月27日判決

幼児教室事件の上告審である最高裁平成5年5月27日第一小法廷判決(平成2年(行ツ)第69号,判例秘書登載)は,「所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」とした。
その上で,「原審の適法に確定した事実関係の下では、本件教室が吉川町の具体的な監督に服しているものとはいえないとして本件教室に対する公費助成等が憲法八九条に違反するとする所論の違憲主張は失当である。」として,上告を棄却した。
同判決は,東京高裁平成2年1月29日判決の結論を是認したものであるが,「公の支配」の一般的な判断基準を自ら述べたものではない。

第4 幼児教室事件の事実関係と町の関与

1 事案

東京高裁平成2年1月29日判決(昭和61年(行コ)第51号,高民集43巻1号1頁)の事案では,町議会が住民の公立幼稚園設置の請願を趣旨採択し,公立幼稚園の開設は財政上困難なので幼児教室の開設に協力すべきであるとの委員会報告を承認した。
町長は,土地を賃借して建物を建て,これを幼児教室に無償で利用させ,設備・遊具のほとんども町の費用で設置した。
幼児教室は保護者と教員で構成される権利能力なき社団が運営し,運営資金は保護者の負担金と町の補助金で大部分を賄っていた。
問題となった昭和58年度の補助金は258万8000円で,幼児教室の消費支出の約17パーセントを占めていた。

2 「公の支配」を肯定した事情

同判決は,次の事情を認定した。
①町の補助金等の交付手続に関する規則により,補助事業の適格性の調査を経た上,補助金を受けた者には状況報告義務と実績報告義務が課され,計画どおり遂行されない場合の遂行命令,交付決定の取消し及び返還命令が定められていた。
②町は,幼児教室に毎年予算書・決算書を提出させて監査し,毎月月別収支表を提出させていた。
③町の監査委員は,財政的援助を与えている団体の出納その他の事務の執行を監査することができ,現に幼児教室は町の監査を受けていた。
④町の福祉課の職員が月1,2回程度幼児教室を見回り,施設の利用状況を確認し,運営について報告を受けて指導していた。
⑤町が会計の分離と運営委員会の構成の見直しを文書で勧告し,幼児教室がこれを受け入れたこともあった。

その上で,同判決は,幼児教室の予算・人事に町が直接関与していないのは,幼児教室の目的が町の方針に一致し,特定の教育思想に偏するものでなく,保護者による民主的な意思決定の方法が確保されているため,直接関与する必要がないからであるとした。
そして,幼児教室は町の公立施設に準じた施設として町の関与を受けており,その関与により,事業が公の利益に沿わない場合にこれを是正しうる途が確保され,公の財産の濫費を避けることができるとして,「公の支配」に服するとした。

現行の地方自治法でも,監査委員は,普通地方公共団体が補助金その他の財政的援助を与えているものの出納その他の事務の執行で当該財政的援助に係るものを監査することができ(199条7項),長は,予算の執行の適正を期するため,補助金等の交付を受けた者に対し,その状況を調査し,又は報告を徴することができる(221条2項)。

第5 学校法人・準学校法人に対する助成

1 私立学校法と私立学校振興助成法

私立学校法132条は,「国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる。」と定める。
この規定は,令和7年4月1日施行の改正前は59条に置かれていたもので,後記の裁判例は改正前の条番号で引用している。
私立学校振興助成法10条は,国又は地方公共団体が学校法人に対し,補助金を支出し,又は通常の条件よりも有利な条件で貸付金をし,その他の財産を譲渡し,若しくは貸し付けることができると定める。

同法12条は,助成を受ける学校法人に対する所轄庁の権限として,①業務若しくは会計の状況に関する報告の徴収又は帳簿等の検査,②学則に定めた収容定員を著しく超えて入学させた場合の是正命令,③予算が助成の目的に照らして不適当である場合の変更の勧告,④役員又は評議員が法令等に違反した場合の解職の勧告を定めている。
同法16条は,これらの規定を,各種学校の設置のみを目的とする法人(私立学校法152条5項の法人。いわゆる準学校法人)に準用している。

2 私立大学等への助成についての裁判例

市が私立大学の附属病院の誘致のために病院用地を無償で提供し,造成費等を支出しようとした事案については,支出の差止めを求める仮処分申請事件の控訴審である東京高裁昭和59年6月27日判決と,本案の千葉地裁昭和61年5月28日判決がある。
東京高裁昭和59年6月27日判決は,私立学校にも学校教育法,私立学校法及び私立学校振興助成法等による各種の公的支配が及んでおり,支出された公金の使途について管理支配が及んでいる限り,私立大学に対する助成が後段に違反するとはいえないとした。
同判決は,市が大学の所轄庁でないことについても,市が基本約定書によって無償提供する用地の使用処分等につき管理支配権限を有しているほか,所轄庁である文部省が大学全体に必要な監督権を行使しうる以上,支出は違法とならないとした。

新潟地裁平成4年11月26日判決は,市が学校法人の4年制大学の設置のために寄付金を交付し,土地を無償で譲渡した事案で,東京高裁平成2年1月29日判決と同じ基準を採った。
その上で,学校法人が私立学校法,学校教育法,私立学校振興助成法及び市の補助金等交付規則による規制を受け,無償譲渡契約で土地の用途が大学の施設敷地に指定され,目的違反の場合は契約を解除して返還を求めることができるとされていたことから,「公の支配」は十分に及んでいるとした。

大分地裁平成11年3月29日判決は,市が学校法人の大学用地の造成費等として42億円を限度に補助金を交付することとした事案で,私立学校法・私立学校振興助成法による文部大臣の監督と,地方自治法,土地の譲与契約,補助金交付規則及び交付要綱による市長の監督(概算払い,事業状況の報告,実地検査,実績報告,交付決定の取消し等)があることから,公の財産の濫費を防止しうる程度の監督が及んでいるとして,後段に違反しないとした。

3 各種学校への補助金についての裁判例

福岡地裁平成25年2月15日判決は,県が,各種学校を設置する準学校法人に対し,県の私立外国人学校教育振興費補助金として800万円を交付した事案である。
同判決は,各種学校について,設置廃止等の許可,校長・教員の配置と欠格事由,法令違反等の場合の閉鎖命令(学校教育法),準学校法人について,設立・寄附行為変更の認可,役員の定数と選任の制限,解散命令(私立学校法),助成を受ける法人に対する報告徴収,是正命令,予算変更の勧告及び役員解職の勧告(私立学校振興助成法)があることを挙げ,是正の途が確保され,公の財産の濫費を防止できるとして,「公の支配」に属するとした。
控訴審の福岡高裁平成25年7月17日判決も,これらの法規制により,補助金の交付が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保されているとして,「公の支配」を肯定した。
同判決は,地方自治法232条の2の「公益上必要がある場合」の判断については地方公共団体の長に一定の裁量があるとし,補助金交付の目的や過去の調査結果等を考慮して,裁量の逸脱・濫用も認めなかった。

第6 学校法人以外の団体への補助金・無償使用

1 人権教育の推進協議会への補助金

神戸地裁平成13年12月19日判決は,町が同和教育・人権教育を推進する協議会の住民学習等の活動に補助金を支出した事案で,東京高裁平成2年1月29日判決と同じ基準を採った。
同判決は,協議会の規約上,町議会や町行政から常任理事・理事が選出され,現に町議会議員の常任理事が会計監査を担当していたという役員構成から,町が事業の運営に影響を与え,事業が公の利益に沿わない場合にこれを是正する途が確保されているとして,「公の支配」に属するとした。

2 NPO法人への業務委託と公有施設の無償使用

東京地裁平成25年12月19日判決は,区が青少年健全育成に関する事務の一部をNPO法人に委託し,委託費用の支払に代えて区の施設の一部を無償で使用させた事案である。
住民側は,NPO法人は認証制度により設立されるから公の支配に属しないと主張したが,同判決は,仮に委託に係る事業が慈善,教育又は博愛の事業に当たるとしても,区の職員が月2,3回程度施設を訪れて打合せをし,委託者として意見を述べていたこと,協定を再締結しないことで関係を見直すこともできたこと,所轄庁である都知事に事情を申述して特定非営利活動促進法上の監督権限を行使させることもできたことから,「公の支配」に属していたとした。
同判決は,区がNPO法人の人事・予算や事業の具体的内容に関与していなかった点について,それは法人の主体性・創造性を損なわないためであったことがうかがわれるとしている。

3 町の講座の修了者によるサークル

津地裁平成16年8月12日判決は,町の生涯学習講座の修了者によるサークルに町民文化会館の使用料を免除した事案で,当時のサークルは生涯学習講座の延長で事業主体は町であったとして,「公の支配」に服することは明らかであるとした。

4 社会福祉法人への助成

慈善・博愛の事業を行う社会福祉法人への助成については,社会福祉法58条が,国又は地方公共団体は,必要があると認めるときは,厚生労働省令又は条例で定める手続に従い,社会福祉法人に補助金を支出し,又は有利な条件で財産を貸し付ける等の助成ができると定める。
同条2項は,助成をしたときの権限として,①事業又は会計の状況に関する報告の徴収,②予算が不適当な場合の変更の勧告,③役員が法令等に違反した場合の解職の勧告を定め,同条3項は,社会福祉法人がこれらの措置に従わなかったときの補助金等の返還命令を定めている。
私立学校振興助成法12条と同様の監督の仕組みである。

第7 住民訴訟で争うときの検討項目

後段違反を理由に補助金の交付や公有財産の無償使用を争う場合,又は交付する側で適法性を点検する場合は,少なくとも次の点を確認する。
①相手方の事業が,慈善,教育又は博愛の事業に当たるか(自治会,医療事業その他これに当たらない事業への支出であれば,後段の問題にはならない)。
②地方公共団体が事業の運営・存立に影響を及ぼす手段があるか(補助金交付規則・交付要綱による報告,調査,遂行命令,交付決定の取消し及び返還,監査委員の監査(地方自治法199条7項),長の調査権(同法221条2項),譲与・貸付契約の用途指定と解除,業務委託協定,役員の選任,所轄庁の監督(私立学校振興助成法12条,社会福祉法58条2項)等)。
③それらの手段が,報告書・決算書の提出,実地調査,指導及び勧告の実績として,交付後に実際に機能しているか。
④後段とは別に,地方自治法232条の2の「公益上必要がある場合」に当たるか,その判断に裁量の逸脱・濫用がないか。
⑤住民監査請求の前置と期間,住民訴訟の出訴期間を満たしているか。

本記事で確認した裁判例は,いずれも交付の仕組みと監督の実態を具体的に認定した上で「公の支配」を肯定している。
後段違反を主張する側は,法令上の監督権限の不存在だけでなく,交付規則・契約上の手当ても実際の監督も欠けていることを,証拠に基づいて示す必要がある。

第8 確認範囲と残る論点

判例秘書で「公の支配」を含む最高裁判所の裁判を検索したところ6件が該当し,後段について判断したものは前記最高裁平成5年5月27日判決だけであった。
同判決も原審の判断を是認したにとどまり,最高裁が「公の支配」の一般的な判断基準を示した裁判は,この検索の範囲では見当たらなかった。

裁判所ウェブサイトで「公の支配」を含む裁判例を検索したところ21件が該当し,そのうち後段について裁判所が判断を示したものとして本記事で紹介した裁判例を確認した。
該当した裁判例には,前段(政教分離)の事件や,社会教育法10条の「公の支配に属しない団体」を引用する租税事件なども含まれている。
裁判所ウェブサイトに掲載されない裁判例もあるため,後段違反を認めた裁判例が存在しないとまではいえない。
また,後段をめぐる学説の整理は,本記事では扱っていない。

第9 関連記事

①住民訴訟とは―住民監査請求前置・出訴期間・4類型と主要判例
②最高裁判所における違憲判決の一覧
③神道指令とは何か――国家神道の廃止と信教の自由・政教分離
④大嘗祭の裁判例――平成の国費支出・公職者参列と令和の後続訴訟

第10 出典・参考資料

1 法令

①日本国憲法89条
②地方自治法199条,221条,232条の2
③私立学校法132条,152条
④私立学校振興助成法10条,12条,16条
⑤社会福祉法58条
⑥学校教育法134条

2 裁判例

①最高裁判所第一小法廷平成5年5月27日判決(平成2年(行ツ)第69号,裁判所ウェブサイト未掲載・判例秘書で確認)
②東京高等裁判所平成2年1月29日判決(昭和61年(行コ)第51号,高民集43巻1号1頁)
③東京高等裁判所昭和59年6月27日判決(昭和58年(ネ)第1325号)
④千葉地方裁判所昭和61年5月28日判決(昭和57年(行ウ)第6号ほか)
⑤新潟地方裁判所平成4年11月26日判決(平成4年(行ウ)第1号)
⑥大分地方裁判所平成11年3月29日判決(平成9年(行ウ)第7号ほか)
⑦神戸地方裁判所平成13年12月19日判決(平成9年(行ウ)第46号)
⑧大津地方裁判所平成14年4月22日判決(平成12年(行ウ)第7号ほか)
⑨津地方裁判所平成16年8月12日判決(平成14年(行ウ)第4号)
⑩福岡地方裁判所平成25年2月15日判決(平成23年(行ウ)第25号)
⑪福岡高等裁判所平成25年7月17日判決(平成25年(行コ)第11号)
⑫東京地方裁判所平成25年12月19日判決(平成22年(行ウ)第278号)