第1 この記事の対象と読み方1 文書の種類は「合意の有効性」ではなく「支払われないときに何ができるか」で選ぶ2 この記事で扱わない事項第2 四つの選択肢の法的性質1 私的な合意書(共同養育計画書を含む)2 執行認諾文言付き公正証書3 調停調書4 審判・離婚判決の附帯処分及び訴訟上の和解第3 法務省の共同養育計画書とは何か1 制度の目的と作成の手順2 記載する事項の全体像3 私署証書としての証拠力を高める工夫第4 先取特権が新設された後も公正証書等を作成する実益1 月額8万円という分岐点2 履行勧告とワンストップ化という分岐点第5 条項の設計―何を,どこまで具体的に決めるか1 金額,支払開始月及び終期2 毎月の支払日及び振込先3 私学費・大学費用・医療費という特別な出費4 収入変動時の再協議5 監護者変更及び連絡先変更第6 文書の選び方(まとめ)第7 弁護士・公証人に相談すべき場面出典1 法令2 裁判所及び法務省の案内
第1 この記事の対象と読み方
1 文書の種類は「合意の有効性」ではなく「支払われないときに何ができるか」で選ぶ
養育費の取決めは,口約束でも契約として有効である。
しかし,支払われなかったときに何を経由せずに強制執行へ進めるか,そして先取特権を実行するための証拠として使えるかという点で,文書の種類によって使える手段が異なる。
本記事は,令和8年に法務省が公表した共同養育計画書を中心に,私的な合意書,執行認諾文言付き公正証書,調停調書という四つの選択肢を比較し,条項として何をどこまで具体的に決めておくべきかを整理するものである。
先取特権(民法308条の2)が新設された後も公正証書等を作成する実益がどこに残るかという点は,第4で正面から扱う。
2 この記事で扱わない事項
養育費の適正額の算定方法及び算定表の見方は,養育費算定表の見方,計算方法及び法定養育費との違い(AI作成)で説明している。
法定養育費及び養育費債権の先取特権の発生要件,金額の基準,経過措置は,法定養育費と養育費債権の先取特権(AI作成)で詳しく説明している。
本記事は,この要件論を前提とした上で,取決めの段階でどの文書を選ぶかという予防法務の視点に焦点を当てる。
取決めをしたにもかかわらず養育費が支払われなくなった場合の履行勧告,差押えの優遇,財産開示・情報取得のワンストップ化,消滅時効及び一部弁済の充当は,養育費を払わない場合の回収方法―履行勧告・給与差押え・先取特権・ワンストップ執行(AI作成)で説明している。
本記事と同記事は表裏の関係にあり,本記事は「これから取り決める」場面,同記事は「取決め後に支払われない」場面を扱う。
第2 四つの選択肢の法的性質
養育費の取決めの文書には,主に,私的な合意書(共同養育計画書を含む),執行認諾文言付き公正証書,調停調書,審判・離婚判決の附帯処分という四つの選択肢がある。
以下,それぞれの法的性質を条文に即して整理する。
1 私的な合意書(共同養育計画書を含む)
父母双方が署名・押印した合意書は,契約として有効であり,養育費の分担義務(民法766条)を発生させる。
もっとも,これは民事執行法22条が定める債務名義のいずれにも該当しない。
そのため,合意書に記載された金額が支払われない場合,合意書それ自体を根拠として直ちに強制執行を申し立てることはできず,別途,養育費請求調停・審判等を申し立てて債務名義を取得する必要がある。
他方で,合意書は,養育費債権の先取特権(民法308条の2)を実行するための「担保権の存在を証する文書」(民事執行法193条1項)として用いることができる。
この点の具体的な範囲は,第4で扱う。
2 執行認諾文言付き公正証書
民事執行法22条5号は,債務名義の一類型として次のとおり定める。
「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され,又は記録されているもの(以下「執行証書」という。)」
養育費は金銭の支払を目的とする請求であるから,この執行証書の要件を満たす公正証書(実務上「執行認諾文言付き公正証書」と呼ばれる)を作成すれば,合意された金額について,訴訟や調停を経ることなく直ちに強制執行を申し立てることができる。
作成には公証人の関与を要し,原則として父母双方(又はその代理人)が公証役場に赴く必要がある。
[根拠:民法308条の2,民事執行法22条5号,193条1項(e-Gov法令検索)/確度:原本逐語確認済]
3 調停調書
家事調停で養育費の合意が成立し,これが調書に記載されると,家事事件手続法268条1項により,次の効力が生じる。
「調停において当事者間に合意が成立し,これを調書に記載したときは,調停が成立したものとし,その記載は,確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては,確定した第三十九条の規定による審判)と同一の効力を有する。」
養育費の分担は家事事件手続法別表第二の事項に当たるため,調停調書は,確定した家事審判と同一の効力を持つという特則が適用される。
調停の成立には家庭裁判所への出頭を要するため,公正証書よりも手続的な負担がかかり得るが,家庭裁判所が関与した取決めであるため,後述する履行勧告の対象となる。
[根拠:家事事件手続法268条1項(e-Gov法令検索)/確度:原本逐語確認済]
(続きを読む...)養育費の取り決め方―共同養育計画書・合意書・公正証書・調停調書の違い(AI作成)