第1 結論第2 制度の位置付けと施行時期1 改正前は三つの申立てを別々にする必要があった2 令和6年法律第33号による新設と経過措置第3 利用できる債権者1 対象となる請求権2 債務名義を有する債権者3 子の監護費用の先取特権を証する文書を提出した債権者第4 財産開示手続から入る場合1 申立ての要件と手続の流れ2 開示された給与債権に対する差押え3 債務者が財産を開示しなかった場合の市町村への情報提供命令第5 給与債権に係る情報取得手続から入る場合1 情報の提供を命じられる第三者2 3年以内に財産開示期日が実施されていること3 手続の流れ第6 差し押さえるべき給与債権を特定できない場合第7 銀行口座(預貯金)は対象外である1 条文と裁判所の書式による限定2 預貯金が対象から外された経緯3 国会答弁の表現の変化4 預貯金を差し押さえたい場合の手順第8 申立ての前後で注意すべき点1 ワンストップ執行手続を使わない場合の意思表示2 手数料の納付時期と額3 債務者に手続が知られる時点4 取下げの制限5 市町村の情報の基準時と自営業者の限界6 消滅時効との関係第9 どちらの入口を選ぶか第10 出典1 法令2 公文書(法制審議会資料・国会会議録)3 所管行政機関及び裁判所の解説・運用資料
第1 結論
令和8年4月1日から,養育費,婚姻費用その他の扶養義務等に係る請求権に基づいて財産開示手続又は給与債権に係る第三者からの情報取得手続を申し立てると,その申立てと同時に,これらの手続で判明した給与債権に対する差押命令の申立てもしたものとみなされるようになった(民事執行法167条の17第1項)。
裁判所は,この仕組みを「ワンストップ執行手続」と呼んでいる。
財産開示手続から入った場合に,債務者が財産を開示しなかったときは,債権者が別段の意思を表示しない限り,執行裁判所は,債務者の住所のある市町村に対し,勤務先等の給与に関する情報の提供を命じなければならない(同条2項)。
これにより,財産開示,勤務先の特定及び給与の差押えを,1回の申立てで連続して進めることができる。
もっとも,差押命令の申立てをしたものとみなされるのは,給与債権(民事執行法206条1項各号に規定する債権)に限られる。
銀行口座の預貯金は対象外であり,預貯金を差し押さえるには,預貯金債権に係る第三者からの情報取得手続(同法207条)と差押命令の申立てを別に行う必要がある。
財産開示から勤務先の特定,銀行口座の差押えまでを1回の申立てで行えるという理解は,銀行口座の部分について条文と一致しない。
本記事は,令和8年9月11日時点の法令,裁判所の手続案内及び公表されている立法資料に基づき,この制度を利用できる債権者,二つの入口(財産開示手続と情報取得手続),給与債権に限られた経緯及び申立ての前後で注意すべき点を整理するものである。
養育費の回収方法全体(履行勧告,給与差押えの範囲,将来分の差押え,消滅時効等)は養育費を払わない場合の回収方法―履行勧告・給与差押え・先取特権・ワンストップ執行(AI作成)で,先取特権の要件と上限額は養育費債権の先取特権とは―対象範囲,子1人当たり月額8万円の上限及び差押え(AI作成)で説明している。
第2 制度の位置付けと施行時期
1 改正前は三つの申立てを別々にする必要があった
強制執行を申し立てるには,差し押さえる財産を特定する必要がある。
相手の勤務先や財産が分からない場合は,財産開示手続や第三者からの情報取得手続を使って財産を調べ,判明した財産に対する差押えを改めて申し立てることになる。
法務省民事局長は,令和6年4月5日の衆議院法務委員会で,これらの手続についてそれぞれ別個に申立てをしなければならず,一人親家庭にとっての負担となっているとの指摘があると答弁しており,ワンストップ執行手続はこの申立ての負担を軽減するために設けられた。
2 令和6年法律第33号による新設と経過措置
民事執行法167条の17は,民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)による改正で新設された。
同法は令和6年5月24日に公布され,167条の17は令和8年4月1日に施行された。
同法附則7条は,改正後の167条の17(193条2項において準用する場合を含む。)の規定は,施行日以後に申し立てられる民事執行の事件について適用すると定めている。
基準は申立ての日であるから,令和8年3月31日以前に成立した調停調書や公正証書に基づく場合でも,令和8年4月1日以後に申し立てるのであれば,この仕組みを利用できると考えられる。
東京地方裁判所民事執行センターの書式案内も,令和8年3月31日までの養育費に関する調停調書,審判書,公正証書等がある場合を,債務名義に基づく申立書の例として挙げている。
これに対し,子の監護費用の先取特権は,施行日以後に生じた各期の定期金についてのみ適用される(同法附則3条1項)。
そのため,先取特権に基づいてワンストップ執行手続を利用する場合に請求できるのは,令和8年4月1日以後に生じた分に限られる。
第3 利用できる債権者
1 対象となる請求権
対象となるのは,民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権であり,具体的には次の四つである。
①夫婦間の協力及び扶助の義務(民法752条)
②婚姻から生ずる費用の分担の義務(民法760条)
③子の監護に関する義務(民法766条及び766条の3。749条,771条及び788条において準用する場合を含む。)
(続きを読む...)養育費のワンストップ執行手続とは-財産開示から給与差押えまでの一括申立てと,銀行口座が対象外である理由(AI作成)