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令和2年度最高裁民事破棄判決等の実情―35判決・5決定から学ぶ訴えの利益・時効中断・同一労働同一賃金と差戻審実務(AI作成)

令和2年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、家原尚秀・池原桃子「最高裁民事破棄判決等の実情―令和2年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲

1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、令和2年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2498号16頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨等を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 35判決・5決定という数字の読み方

年次解説によれば、令和2年の新受件数は、上告事件1789件、上告受理申立て事件2169件の合計3958件であり、並行申立てを1件と換算すると2392件である。既済件数は、上告事件1862件、上告受理申立て事件2296件の合計4158件であり、換算後は2517件である。許可抗告事件は新受28件(このほかに最高裁判所に直接申し立てられた事件が19件ある。)、既済23件であった。

破棄判決は35件(判決書単位)であり、換算後の既済件数2517件を分母とした割合は1・4%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)、平成30年24件(0・9%)、令和元年27件(1・0%)、令和2年35件(1・4%)と示している。
破棄判決35件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が15件、自判(一部自判を含む。)が20件である。論旨に基づく破棄が34件、職権による破棄が1件であり、民集に登載されたものが7件、集民に登載されたものが21件、いずれにも登載されなかったものが7件である。

破棄決定は5件(決定書単位)であり、全て許可抗告事件(うち1件は特別抗告事件を兼ねる。)である。許可抗告事件の既済件数23件を分母とした割合は21・7%である。結果は差戻し4件、自判1件であり、論旨に基づく破棄が4件、職権による破棄が1件である。

これらは特定年度の判決書・決定書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 35判決・5決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも令和2年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果
1月21日・三小平成30年(受)第1711号盗難自動車による物損事故について盗難に遭った会社に過失があるか自判
2月25日・三小平成30年(行ヒ)第215号経過観察を受けている被爆者が被爆者援護法10条1項の「現に医療を要する状態」にあるか自判
2月25日・三小平成30年(行ヒ)第191号同上(別件)自判
2月28日・二小平成30年(受)第1429号被用者が使用者の事業の執行について第三者に加えた損害を賠償した場合における被用者の使用者に対する求償の可否差戻し
3月6日・二小平成31年(受)第6号所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士の委任者以外の者との関係における注意義務違反差戻し
3月19日・一小平成31年(行ヒ)第99号固定資産評価基準の画地計算法を適用する場合の各筆の宅地の評点数の算出方法自判
3月24日・三小平成30年(受)第388号家屋の評価の誤りによる固定資産税等の過大決定と損害賠償請求権の除斥期間の起算点一部差戻し
3月24日・三小平成31年(行ヒ)第96号同上(別件)差戻し
3月24日・三小平成30年(行ヒ)第422号取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項の「その時における価額」の評価方法差戻し
3月30日・一小平成30年(受)第908号歩合給の計算に当たり残業手当等相当額を控除する賃金規則に基づく残業手当等の支払により割増賃金が支払われたといえるか差戻し
3月30日・一小平成30年(受)第761号同上(別件)差戻し
3月30日・一小令和元年(受)第1922号同上(別件)差戻し
4月7日・三小平成31年(受)第606号強制執行の費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号の費目のものを不法行為の損害として主張することの許否一部自判
6月26日・二小令和元年(行ヒ)第252号被相続人に既に告知された地方団体の徴収金につき相続人に納付等を求める通知と消滅時効の中断一部自判
6月30日・三小令和2年(行ヒ)第68号ふるさと納税制度に係る平成31年総務省告示第179号2条3号の規定の法適合性自判
7月2日・一小平成31年(行ヒ)第61号制限超過利息等の不当利得返還請求権に係る破産債権が確定した場合に受領日の属する事業年度の益金の額を減額する計算方法の適否自判
7月6日・一小平成31年(行ヒ)第97号いじめで受傷した生徒に医師へ虚偽の説明をするよう指示したこと等を理由とする市立中学校教諭の停職処分の適否自判
7月7日・三小平成31年(受)第184号法例改正法(平成元年法律第27号)施行前の嫡出でない子と母との間の分娩による親子関係の成立の準拠法一部差戻し
7月14日・三小平成31年(行ヒ)第40号複数の公務員が国家賠償法1条2項による求償債務を連帯して負う場合一部自判
9月3日・一小平成31年(受)第558号事業協同組合の理事選挙の取消しの訴えに後任理事等を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合における先行選挙の取消しを求める訴えの利益の有無差戻し
9月7日・二小平成31年(受)第619号特許権者の第三者に対する特許権侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴えの確認の利益一部自判
9月8日・三小平成31年(受)第133号不当利得返還請求訴訟の係属中に不法行為に基づく損害賠償請求を追加したことにより消滅時効中断効が生ずるか一部自判
9月8日・三小平成31年(受)第61号破産者の支払停止前の請負契約に基づく注文者の違約金債権と破産法72条2項2号の「前に生じた原因」、相殺の許否自判
9月11日・二小平成30年(受)第2064号請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴、他方を反訴の請求債権とする本訴・反訴の係属中に、反訴請求債権を自働債権とする相殺の抗弁の許否自判
9月18日・二小平成31年(受)第310号区分所有法所定の先取特権を有する債権者の配当要求により消滅時効中断効が生ずるための要件一部差戻し
10月9日・二小令和元年(受)第877号・第878号少年保護事件を題材として家庭裁判所調査官が執筆した論文の公表とプライバシー侵害一部自判
10月9日・二小平成30年(受)第2032号家庭裁判所調査官が執筆した論文の執筆届の決裁に係る家庭裁判所職員の注意義務の有無等自判
10月13日・三小令和元年(受)第1055号・第1056号賞与に関する労働条件の相違と労働契約法(平成30年法律第71号による改正前)20条一部自判
10月13日・三小令和元年(受)第1190号・第1191号退職金に関する労働条件の相違と同条一部自判
10月15日・一小令和元年(受)第777号・第778号私傷病による病気休暇に関する労働条件の相違と同条一部差戻し
10月15日・一小令和元年(受)第794号・第795号年末年始勤務手当等に関する労働条件の相違と同条一部差戻し
10月20日・三小令和2年(行ツ)第130号訴えの利益の消滅自判
11月27日・二小令和元年(受)第1900号公認会計士協会の上場会社監査事務所名簿への登録を認めない旨の決定の前提となる監査の基準不適合の事実差戻し
12月15日・三小令和2年(受)第887号同一当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務がある場合の充当指定のない一部弁済と消滅時効の中断一部自判
12月22日・三小平成30年(受)第1961号有価証券届出書の虚偽記載と元引受けの金融商品取引業者等の金商法21条2項3号による免責の要件一部差戻し

破棄決定5件は、年次解説の破棄事件決定一覧表によれば、次のとおりである(9月2日の決定は職権による破棄である。)。

決定日・法廷事件番号内容結果
1月23日・一小平成31年(許)第1号婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚した場合における婚姻費用分担請求権の帰すう差戻し
3月24日・三小令和元年(許)第12号捜査段階の鑑定書の法律関係文書該当性差戻し
4月16日・一小令和元年(許)第14号ハーグ条約実施法117条1項の類推適用の可否差戻し
8月6日・一小令和元年(許)第16号財産分与における給付命令の許否差戻し
9月2日・二小令和2年(ク)第275号・令和2年(許)第11号売却許可決定に対する執行抗告の許否自判

第3 40件から見える五つの監査領域

1 訴えの利益・確認の利益

令和2年度は、訴えの利益・確認の利益に関する破棄が目立つ。市道に越境する樹木等の除却命令の差止めの訴えは、原判決言渡し後に除却命令がされたことにより訴えの利益が失われたとして、最高裁が職権で原判決を破棄し、訴えを却下した(10月20日第三小法廷判決)。年次解説によれば、上告審で訴えが不適法になった場合にも、口頭弁論を経ずにその旨の判決をすることができると説明されている。

このほか、事業協同組合の理事選挙の取消しの訴えに後任理事等を選出する後行選挙の効力を争う訴えが併合されている場合の訴えの利益(9月3日第一小法廷判決)、特許権者の第三者に対する損害賠償請求権の不存在確認の利益(9月7日第二小法廷判決)、本訴・反訴の係属中の相殺の抗弁の許否(9月11日第二小法廷判決)等、手続の入口に関する判断が続いた。

受任時と上訴前には、訴訟の係属中に処分がされるなどして訴えの利益が失われていないか、確認の対象が適切かを、請求の内容とは別に点検しておくとよい。

2 時効の中断と期間の起算点

時効に関しては、不当利得返還請求訴訟の係属中に不法行為に基づく損害賠償請求を追加した場合(9月8日第三小法廷判決)、区分所有法上の先取特権に基づく配当要求(9月18日第二小法廷判決)、充当の指定のない一部弁済(12月15日第三小法廷判決)、地方団体の徴収金の相続人に対する納付の通知(6月26日第二小法廷判決)と、いずれも「時効の中断」が問題となる判断が4件ある。家屋の評価の誤りによる固定資産税等の過大決定についての損害賠償請求権の除斥期間の起算点(3月24日第三小法廷判決2件)も破棄されている。

これらは時効の「中断」や除斥期間といった判決当時の制度を前提とする判断であるから、現在の事件で用いるときは、現行の規定と経過措置を確認する必要がある。

3 不法行為と使用者・専門家の責任

被用者が第三者に損害を賠償した場合の使用者に対する求償(2月28日第二小法廷判決、第4の1)のほか、盗難自動車による物損事故と盗難に遭った会社の過失(1月21日第三小法廷判決)、登記申請の委任を受けた司法書士の委任者以外の者に対する注意義務(3月6日第二小法廷判決)、有価証券届出書の虚偽記載と元引受けの金融商品取引業者等の免責(12月22日第三小法廷判決)等、責任の主体と範囲を問う判断が多い。

家庭裁判所調査官が少年保護事件を題材に執筆した論文の公表とプライバシー侵害(10月9日第二小法廷判決2件)も破棄されている。

4 割増賃金と同一労働同一賃金

労働分野では、タクシー乗務員の歩合給から残業手当等相当額を控除する賃金規則に基づく割増賃金の支払(3月30日第一小法廷判決3件、第4の3)と、労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条に関する4件(10月13日第三小法廷判決2件、10月15日第一小法廷判決2件)がある。後者は、賞与、退職金、病気休暇、年末年始勤務手当等について、正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるかを判断したものである(第4の4・5)。

本記事で全文を確認した2件(第4の4・5)では、手当や休暇ごとにその趣旨・目的を確認し、職務の内容、配置の変更の範囲その他の事情と対応させて判断するという方法がとられている。

5 行政・税・家事

行政・税の分野では、ふるさと納税の指定制度(6月30日第三小法廷判決、第4の2)、経過観察中の被爆者の原爆症認定(2月25日第三小法廷判決2件)、取引相場のない株式の譲渡価額(3月24日第三小法廷判決)、教諭の停職処分(7月6日第一小法廷判決)、国家賠償法上の求償債務の連帯(7月14日第三小法廷判決)等が破棄された。

破棄決定5件のうち3件は家事・ハーグ条約関係であり、婚姻費用分担審判の申立て後の離婚(1月23日第一小法廷決定)、財産分与における給付命令(8月6日第一小法廷決定)及びハーグ条約実施法117条1項の類推適用(4月16日第一小法廷決定)が問題となった。

第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決

1 被用者から使用者への求償―損害の公平な分担という見地から求償できる

最高裁令和2年2月28日第二小法廷判決(平成30年(受)第1429号、民集74巻2号106頁)は、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、使用者の事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるとした。
貨物運送を業とする会社のトラック運転手が業務中の交通事故で第三者に賠償した事案で、使用者は事業に使用する車両の全てについて自動車保険契約等を締結していなかった。原判決中被用者の本訴請求に関する部分を破棄し、大阪高裁に差し戻した。

判決は、使用者が賠償した後に被用者に求償する場合(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決)と、被用者が第三者の損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でないとしている。

2 ふるさと納税の不指定―総務省告示の規定の一部は委任の範囲を逸脱して無効

最高裁令和2年6月30日第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第68号、民集74巻4号800頁)は、ふるさと納税制度に係る平成31年総務省告示第179号2条3号の規定のうち、地方税法を改正する平成31年法律第2号の規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、改正後の地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であるとした。原判決を破棄し、総務大臣が泉佐野市に対してした指定をしない旨の決定を取り消した。

法律の委任に基づく告示等が問題となる事件では、委任の範囲を条文の文言と趣旨から特定し、告示等がその範囲内にあるかを検討する必要がある。

3 タクシー乗務員の歩合給―残業手当等の額がそのまま歩合給の減額につながる仕組み

最高裁令和2年3月30日第一小法廷判決(平成30年(受)第908号、民集74巻3号549頁)は、歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則に基づく残業手当等の支払につき、時間外労働等に伴い発生する残業手当等の額がそのまま歩合給の減額につながり、歩合給が0円となることもあるなどの事情の下では、これにより労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえないとして、原判決を破棄し、東京高裁に差し戻した。

この事件は、最高裁平成29年2月28日第三小法廷判決(平成27年(受)第1998号)で差し戻された後の第2次上告審判決である。同日、同種の事件2件(平成30年(受)第761号、令和元年(受)第1922号)も破棄差戻しとされている(本記事では年次解説による確認にとどまる)。関連して、平成29年度最高裁民事破棄判決等の実情及び固定残業代が有効になる要件―判別可能性・対価性と最高裁7判決も参照されたい。

4 アルバイト職員の賞与―不支給が不合理とはいえないとされた事例

最高裁令和2年10月13日第三小法廷判決(令和元年(受)第1055号・第1056号、集民264号63頁)は、私立大学の教室事務を担当する無期契約労働者に賞与を支給する一方で、同事務を担当する時給制のアルバイト職員である有期契約労働者にこれを支給しないという労働条件の相違は、賞与の趣旨・目的、職務の内容の相違、職務の内容及び配置の変更の範囲の相違、教室事務を担当する正職員が極めて少数となっていた経緯、試験による登用制度の存在等の事情の下では、労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとした。賞与の相違を不合理とした原判決を変更し、第1審被告の支払義務を5万5110円及び遅延損害金の限度とした。

5 郵便局の時給制契約社員の病気休暇―有給と無給の相違は不合理

最高裁令和2年10月15日第一小法廷判決(令和元年(受)第777号・第778号、集民264号125頁)は、私傷病による病気休暇として、郵便の業務を担当する正社員に有給休暇を与える一方で、時給制契約社員には無給の休暇のみを与えるという労働条件の相違は、病気休暇が正社員の生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じてその継続的な雇用を確保するという目的によるものであること、契約社員も有期労働契約の更新を繰り返して相応に継続的な勤務が見込まれていることなどの事情の下では、労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとした。
主文では、使用者側の上告を棄却し、夏期休暇及び冬期休暇に係る損害賠償請求に関する部分を破棄して東京高裁に差し戻している。

賞与については不合理でないとされ、病気休暇については不合理とされたように、結論は手当・休暇ごとに分かれる。関連して、非正規社員から待遇差の説明を求められたときの回答手順と想定問答も参照されたい。

第5 破棄差戻し後まで見据える

35判決中15件が差戻し(一部差戻しを含む。)であり、破棄決定5件中4件も差戻しである。被用者の求償の事件でも、最高裁は求償が認められ得ることを示した上で、相当と認められる額を審理させるために差し戻している。

破棄差戻しは上告人の最終勝訴を意味しない。上告段階から、最高裁に求める法的判断と、差戻し後に追加で主張立証すべき事実を分けて準備しておくべきである。差戻審の初動については、民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証も参照されたい。

第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順

令和2年度の判決には、平成29年の民法改正前の時効・除斥期間の規定、平成30年法律第71号による改正前の労働契約法20条等を前提とするものが含まれている。

古い判決を現在の事件で用いるときは、①判決が示した一般的な法理を特定し、②その前提となった判決当時の条文、③現行の条文、④施行日・経過措置、⑤後続判例を順に確認する。判旨が現在も参考になることと、当時の条文がそのまま現在の事件を規律することとは別である。

第7 受任後に作る四つの実務台帳

① 入口台帳:訴えの利益・確認の利益、訴訟の係属中にされた処分等、本案に入る前の問題を記載する。
② 時効台帳:請求の追加、配当要求、一部弁済、通知等の日付と、それが時効に与える効果を、適用される法律(改正前か改正後か)とともに記載する。
③ 労働条件台帳:手当・休暇ごとに、規程の文言、趣旨・目的、職務の内容、配置の変更の範囲、登用制度の有無を記載する。
④ 差戻審台帳:最高裁が確定した法的判断、拘束される事項、残された争点、追加証拠及び想定される主文を記載する。

汎用的な点検項目は、最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリストも参照されたい。前年度については、令和元年度最高裁民事破棄判決等の実情がある。
平成元年度から令和2年度までの年度別記事の一覧は、最高裁民事破棄判決等の実情(平成元年度~令和2年度)―年度別記事と判例時報の掲載号の一覧を参照されたい。

第8 出典及び確認状態

① 家原尚秀・池原桃子「最高裁民事破棄判決等の実情―令和2年度―」判例時報2498号16頁以下(年度集計・事件索引として利用した二次資料。全頁を確認した)
② 最高裁令和2年2月28日第二小法廷判決(平成30年(受)第1429号。裁判所公式全文)
③ 最高裁令和2年6月30日第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第68号。裁判所公式全文)
④ 最高裁令和2年3月30日第一小法廷判決(平成30年(受)第908号。裁判所公式全文)
⑤ 最高裁令和2年10月13日第三小法廷判決(令和元年(受)第1055号・第1056号。裁判所公式全文)
⑥ 最高裁令和2年10月15日第一小法廷判決(令和元年(受)第777号・第778号。裁判所公式全文)
⑦ 上記以外の30判決及び破棄決定5件:年次解説を確認したが、個別の本文は未照合である。

個別事件でこれらの判決を用いるときは、原判決、訴訟記録、現行法令、後続判例及び利用可能な認証データベースの本文を改めて確認する必要がある。