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企業法務・民事実務

量子コンピューターで暗号は破られるのか―耐量子暗号と企業の備え(AI作成)

目次

第1 量子コンピューターの話が企業法務に関係する理由1 今すぐ全ての暗号が破られるという話ではない2 本記事の対象と資料第2 Willowの「5分」は何を意味するのか1 特定の計算実験と比較条件2 量子ビット数だけで暗号を破る能力は決まらない第3 影響を受ける暗号と用途を分ける1 RSA・楕円曲線暗号と電子署名2 AESまで同じ説明で扱わない第4 「今集め,将来解読する」リスク1 秘密を守る期間が長い情報2 保存期間と秘密保持が必要な期間第5 耐量子暗号(PQC)とは何か1 量子コンピューターを買うための標準ではない2 令和6年に承認された三つの標準3 「永久に破られない」という保証ではない第6 企業・法律事務所が準備する順序1 情報と暗号の利用箇所を棚卸しする2 提供事業者には対象範囲を具体的に尋ねる3 契約・費用・検証を移行計画につなぐ第7 電子契約の長期保存で確認すること1 秘密の保持と署名の検証は別の問題2 長期にわたり証拠を確認できるか第8 よくある質問1 AIによるサイバー攻撃と同じ問題なのか2 暗号化されていれば,長期保管しても安全なのか3 まず何から始めればよいのか第9 出典
第1 量子コンピューターの話が企業法務に関係する理由
1 今すぐ全ての暗号が破られるという話ではない

量子コンピューターの発展は,現在使われている暗号の一部に,将来の大きな影響を及ぼし得る。
しかし,「量子コンピューターが計算実験で優れた成績を出した」という発表と,「企業の通信や電子契約に使われている暗号が解読された」という事実は異なる。
対象となる暗号方式,必要な計算機の能力及び実験で解いた問題を分けて読む必要がある。

企業や法律事務所にとっての問いは,実用化の年を言い当てることよりも,長く秘密を守る必要のある情報と,変更に時間のかかるシステムを把握できているかである。
暗号方式の移行に備える作業には,情報システム部門だけでなく,情報の保有部門,法務,調達及びサービス提供事業者が関わる。

2 本記事の対象と資料

本記事は,令和8年11月2日までに確認したGoogle,米国国立標準技術研究所(NIST),金融庁及び電子署名に関する政府の公表資料に基づき,暗号への影響と準備の考え方を整理する。
令和6年のWillow発表は,計算実験と実務上の安全性を区別するための例として取り上げる。
特定製品の安全性や,量子コンピューターによる個別の被害を認定するものではない。

第2 Willowの「5分」は何を意味するのか
1 特定の計算実験と比較条件

Googleは,令和6年12月9日のWillowに関する発表で,ランダム回路サンプリングというベンチマークの計算を5分未満で行ったと説明した。
同社は,この計算を当時の有力なスーパーコンピューターで行う場合に必要な時間を,10の25乗年と推計して比較している。
これはGoogleの評価と推計に基づく比較であり,その年数にわたり実際に計算させた結果ではない。

ランダム回路サンプリングは,量子計算の能力を評価するための特定の課題である。
この数値から,企業の業務処理,配送経路の最適化又は暗号解読が,一律に同じ倍率で高速化すると読み替えることはできない。
出典はGoogleのWillow発表である。

2 量子ビット数だけで暗号を破る能力は決まらない

同発表は105量子ビットのチップと,量子誤り訂正の進展を説明している。
量子計算では誤りへの対応が重要であり,チップの量子ビット数と,長い計算を実行するための能力は同じ指標ではない。
「105量子ビットだから,特定の鍵長のRSAを解読できる」といった対応関係を,この発表だけから導くことはできない。

第3 影響を受ける暗号と用途を分ける
1 RSA・楕円曲線暗号と電子署名

十分な能力を持つ量子コンピューターが実現した場合,Shorのアルゴリズムは,RSAや楕円曲線に基づく暗号技術の安全性を支える問題に影響を及ぼす。
この問題は,秘密の通信だけに限られない。
通信で使う鍵を共有する仕組みや,電子署名にも関係する。

同じサービスでも,通信内容を暗号化する部分,その鍵を確立する部分,相手を認証する部分,保存文書に署名する部分で,使われる技術が異なる。

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難民申請の出身国情報(COI)とは―米国国務省報告・入管庁資料の探し方と使い方(AI作成)

目次

第1 出身国情報は何を確かめる資料か第2 入管庁の資料から原文へたどる第3 報告された事実と作成者の評価を分ける第4 日付と引用元の独立性を確認する第5 本人の供述・資料とどう結び付けるか第6 資料に見当たらない場合の注意点第7 資料を提出・引用する前の確認第8 主な出典
第1 出身国情報は何を確かめる資料か

難民申請でいう出身国情報(COI)は,出身国の政治,治安,人権状況など,保護の必要性を検討するための情報である。
国全体の情勢だけでなく,特定の地域,宗教,民族,政治活動などに関する情報も問題となる。
本記事では,資料の探し方と読み方を整理する(2026年11月2日時点)。

国についての報告と,申請者本人に起きた出来事とは,確かめる対象が異なる。
資料を読むときは,「その国で何が報告されているか」と「本人の事情がその報告にどう対応するか」を分けて整理する。
難民の要件については,難民条約上の難民とは|迫害・政治的意見・国家による保護の欠如(AI作成)を参照されたい。

第2 入管庁の資料から原文へたどる

資料を探す入口には,入管庁の国別の主な申立てに係る出身国情報や,米国国務省報告のページがある。
前者は入管庁が掲載日時点の出身国情報を収集・整理した資料を国別に掲載し,後者は米国国務省報告の仮訳を地域・国別に掲載している。
入管庁は,前者の資料について,トピックやテーマの網羅的な概要ではなく,特定の国や地域,トピックやテーマに関する同庁の見解を反映したものでもないと説明している。
掲載状況は閲覧時に確認し,目的の国・主題・期間に合う資料を選ぶ。
ページの紹介文だけで判断せず,個々の報告書の表紙,本文,注記まで開くことが出発点になる。

米国国務省の人権報告を探すときは「Country Reports on Human Rights Practices」,宗教の問題を調べるときは「Report on International Religious Freedom」という文書名に,国名と対象年を組み合わせる。
例えば,ecoi.netに掲載された米国国務省の2024年トルコ人権報告と,2023年パキスタン宗教自由報告は,別の主題・対象年の資料である。
これらは検索方法を示す例であり,各国について現在利用すべき最新版を指定するものではない。

仮訳を読む場合も,原文の文書名,対象年,該当節と対応させる。
入管庁も,掲載した翻訳は同庁の仮訳であり,「正確には原文に当たってください」と注記している。
結論を左右する語句,否定表現,人数,例外,発言の主体は,原文を併せて確認することを勧める。
原文を取得できない場合は,訳文との対応を確認済みとして引用しない。

第3 報告された事実と作成者の評価を分ける

政府が作成した報告書でも,他の団体や報道機関の情報を引用していることがある。
「誰が,どのような方法で確認したと記載しているか」を読み,重要な出来事については注やリンクから引用元へ戻る。
引用元にも別の出典がある場合は,確認できた範囲と,その先を確認できなかった範囲を分けて記録する。

英国政府の国別資料であるCPINには,出身国情報の部分と,英国の保護判断に関する政策評価であるAssessmentがある。
英国政府の作成方法の説明は,両者の役割を区別している。
この評価を紹介するときは英国側の評価として示し,日本の難民認定の結論と同一視しない。

記事や提出資料では,次の三つを分けて書くと出典を追いやすい。

区分書き分け方原資料にある記載報告者,出来事,時期,場所と,記載が断定か伝聞かを示す。原資料の作成者による評価どの機関・団体が,どの事実に基づいて評価したかを示す。自分の当てはめ・提案本人の事情との関係や,追加調査の必要性を自分の検討として示す。

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企業買収のデューデリジェンスにAIを使うには―資料管理,原文照合,秘密保持と弁護士の役割(AI作成)

目次

第1 買収DDでAIに任せる作業を先に決める第2 資料受領から買収判断までの役割分担第3 AIへ渡す前に資料の母集団を固定する1 目録は「読み込んだファイル」の一覧で終わらせない2 OCRと表・画像の確認を分ける第4 条項抽出と「該当なし」をどう検証するか1 抽出結果に根拠欄を持たせる2 「該当なし」は確認状態の一つにする第5 資料間の矛盾を質問票へつなげる第6 NDAと個人情報を分けて入力可否を判断する1 売主から受領できることとAIへ送れることを分ける2 個人情報保護委員会の説明が及ぶ範囲第7 AIサービスの導入前に確認する事項第8 弁護士法72条ガイドラインをどう読むか1 AIを使う行為を一括して適法・違法としない2 機能の中立性と管理体制を別に点検する3 弁護士の関与は実際の担当内容で確認する第9 AI事業者ガイドラインをDDの運用へ落とす第10 もっともらしい誤回答と資料中の指示に備える1 根拠の提示を求めても照合は残る2 売主資料は解析する情報であり,操作の許可ではない第11 導入試験は重大な見落としと総工数で評価する1 公表サービス,研究,実機試験を区別する2 同じ資料と確認項目で比較する第12 確認結果を価格・契約・PMIの検討へつなぐ1 論点ごとに次の判断を決める2 経営向け報告は確認状態を見えるようにする第13 停止条件と案件終了時の処理を決める第14 導入時によくある疑問1 学習オフの法人向けサービスなら,全資料を入力できるか2 AIが抽出した条項だけを弁護士に見てもらえばよいか3 少人数の法務では何から始めるか4 ツールが変わるたびにすべてのDDをやり直すのか第15 案件開始時に残す判断メモの例第16 出典
第1 買収DDでAIに任せる作業を先に決める

企業買収のデューデリジェンス(以下「DD」という。)でAIを使う場合は,資料の整理,契約条項の抽出,確認事項の一覧化などの作業を切り分け,原文に戻れる形で利用することが出発点となる。
AIの出力を受けて,何を追加調査し,どのリスクを買収条件に反映し,何を経営判断に残すかは,人が判断する工程として組み立てる。
契約書を大量に読み込ませたことと,必要な範囲のDDを終えたことを同じに扱わない。

本記事は,令和8年11月1日を基準に,日本企業の買主側でAIをDDの道具として使う場面を扱う。
「AIを使って対象会社を調べること」と,「対象会社のAI事業・AIシステムを調べること」は,先に区別しておく必要がある。
後者ではデータの権利関係,システムの安全性等が調査対象となるが,本記事の中心は前者の業務設計である。

以下で示す資料台帳,確認手順,試験方法,判断メモは,公表資料を踏まえた運用提案である。
個人情報保護に関する行政の説明,弁護士法72条に関する法務省の整理,AI事業者ガイドラインの推奨と,各社が採用する社内ルールは,それぞれ根拠と性質を分けて読む必要がある。

第2 資料受領から買収判断までの役割分担

AIの担当範囲は,「DD全体を任せる」という単位ではなく,入力資料,出力形式,確認者,次の判断を対応させて決める。
例えば,次のように分担すれば,抽出の漏れと判断の保留を区別しやすい。

工程AIに行わせる作業の例人が確認し,残すもの調査設計確認項目案の整理買収目的,重要性,対象・除外範囲,担当資料受領ファイル分類,目録案,重複候補の抽出正式な資料目録,版,欠落,読めない資料契約確認条項候補と所在の一覧化原文,定義・例外・変更契約,重要度追加調査不整合や質問案の整理売主への質問,回答根拠,未回答事項条件検討確認済み事項の比較表案価格,実行条件,契約上の手当ての選択引継ぎ未処理事項の一覧案経営判断,実行前後の期限,PMI担当

法務,財務・税務,労務,知財・IT,事業部門で調査事項が重なるときは,共通の論点番号を付けることが考えられる。
AIが財務資料と契約書の関係を指摘しても,数値の裏付けと法的な意味を一度に確認したことにはならない。
各専門分野の担当者が,自分の確認範囲と残る疑問を記録する。

第3 AIへ渡す前に資料の母集団を固定する
1 目録は「読み込んだファイル」の一覧で終わらせない

調査対象として必要な資料,実際に受領した資料,AIが処理できた資料,人が照合を終えた資料を分けて管理する。
受領ファイルをそのままAIへ渡すだけでは,未提出の契約や欠落した別紙を調査範囲から見失いやすい。
売主への資料依頼項目と受領目録を対応させ,未提出・該当なしとの回答・提出予定を別欄に置く。

目録には,資料ID,契約当事者,表題,締結日,効力の基準日,版,変更契約・覚書・別紙との関係を記録することが考えられる。
同じ題名のファイルが複数ある場合は,最終版か,署名済みか,案にすぎないかを人が確認する。
データルームの追加資料には受領日時を付け,どこまでを今回の報告に含めたかを後からたどれるようにする。

2 OCRと表・画像の確認を分ける

画像PDFの文字認識(OCR),縦書き,押印付近,別紙の表,手書きの訂正等は,取り込み時の点検項目とする。
AIが要約を返した場合でも,全文が正しく読み取られたと決めない。
ページ欠落,文字化け,表の列の取り違え等を発見した資料は,「処理済み」ではなく「原本確認待ち」などの状態に戻す。

AIへ渡すための加工版と受領原本は分けて保存する。

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勾留中の外国人の在留手続―入管との連絡、出頭申告、勾留執行停止(AI作成)

目次

第1 刑事勾留と入管収容を分ける第2 在留期限と手続の現在地を確認する第3 勾留中にも進められる入管手続第4 出頭申告と監理措置を同じ結果として扱わない第5 勾留執行停止を検討するときの準備第6 釈放後の担当と連絡を引き継ぐ第7 関連記事・根拠法令
第1 刑事勾留と入管収容を分ける

外国人が刑事事件で勾留されている場合には,刑事手続と在留・退去強制手続を並行して確認する必要がある。
不起訴や刑事手続上の釈放だけで,在留期間が更新されたり,別に存在する不法残留の問題が解消されたりするわけではない。
本記事は,令和8年11月1日に確認した法令に基づき,弁護人が釈放前から整理する事項を示す。

刑事訴訟法上の勾留と,入管法上の収容は,根拠と判断主体が異なる。
刑事事件の処分,刑事手続上の釈放,入管への身柄の引継ぎ,退去強制令書の発付及び送還を,一つの出来事として説明しないことが大切である。

入管法24条4号ロは,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して残留することを,退去強制事由の一つとしている。
刑事事件が不起訴になっても,この在留上の問題を別に検討する必要がある。
他方,不起訴という結果だけから,当該被疑事実について犯罪が成立したと扱うこともできない。

第2 在留期限と手続の現在地を確認する

最初に,在留カード,旅券,難民認定証明書,申請受付を示す資料,入管の通知書及び令書を確認する。
本人の説明に加え,書類に記載された資格・期間・処分日と,申請した手続の種類を時系列に整理する。
「更新を忘れた」という言葉だけで,既に期限を経過したのか,期限前の申請が審査中なのかを決めつけない。

難民認定歴がある場合にも,難民認定,在留資格,在留期間,認定取消しの有無を分けて確認する。
入管法50条1項4号は,難民又は補完的保護対象者の認定を受けていることを,在留特別許可に関する場合の一つとして掲げているが,同じ資格・期間の許可を当然に保障する規定ではない。
同項ただし書は,無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者等について,在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があるときに限るとしているため,刑事事件の結果もこの観点から確認する。

入管法61条の2の9第1項は,所定の許可を受けた時に存在した退去強制事由に関する特例を定めている。
この時間的な限定を外し,許可を受けた後に生じた不法残留にも当然に適用されると説明してはならない。
認定歴があることだけで,その後の在留管理を省略できるわけではない。

第3 勾留中にも進められる入管手続

本人が入管の窓口へ行けないことと,入管手続を一切進められないことは区別する。
入管法63条1項は,刑事手続等が行われる場合に,本人を入管法上収容せず,又は所定の監理措置に付さないときでも,退去強制手続を行うことができると定めている。
同項には,入管側が本人のもとへ出張する場合の読替えと,在留特別許可の申請に関する50条2項の読替えもある。

したがって,拘束中に進められる調査・審査・申請の有無を,入管側の担当部署に確認することが実務上の出発点となる。
単なる事前連絡,書類の提出,本人の窓口への出頭を同一視せず,予定する手続ごとに,申請主体,本人出頭の要否,代理・取次ぎの可否及び受付方法を確かめる。
63条があることから,すべての手続を本人の来庁なしで完了できると結論することもできない。

在留特別許可については,50条3項が,退去強制令書発付後の申請を認めていないことにも注意を要する。
申請を検討する段階を確認し,刑事事件の処分を待つだけで時期を失わないようにする必要がある。
これは,同令書発付後に処分を争う手段等がすべてなくなる,という意味ではない。

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親が行方不明になったときの年金―所在不明届と支払いの停止・再開(AI作成)

目次

第1 本人の所在が分からなくなったとき第2 1か月以上の所在不明と届出者1 公式案内の「1月以上」2 同一世帯でない家族が気付いた場合第3 年金受給権者所在不明届の準備1 提出先と用紙2 記入する事項と年金証書第4 届出後の現況申告書と支払いの一時停止第5 所在が分かったときの再開手続第6 似ている手続との違い1 誕生月の現況届との違い2 遺族年金の「所在が1年以上不明」との違い3 死亡が判明した場合第7 家族が窓口に伝える事項第8 出典
第1 本人の所在が分からなくなったとき

年金を受けている親などの所在が1か月以上分からないときは,年金について所在不明の届出を確認する必要がある。
日本年金機構は,所在が1月以上明らかでない場合,その世帯の世帯員に届出を求めている。
行方不明になったことと,死亡が確認されたことは分けて扱う。

本記事は,令和8年11月1日に確認した日本年金機構の公式案内と届書を基に,届出,その後の確認及び所在判明時の手続を整理したものである。
対象は日本年金機構の公表する手続であり,企業年金,国民年金基金及び共済等の取扱いまで同じであることを意味しない。
安否の確認や捜索に関する相談は,年金の届出とは別に進める必要がある。

第2 1か月以上の所在不明と届出者
1 公式案内の「1月以上」

日本年金機構の「年金を受けている方が所在不明になったとき」は,年金受給者の所在が1月以上明らかでない場合の手続を案内している。
「1年以上になるまでは年金の手続をしなくてよい」という意味ではない。

2 同一世帯でない家族が気付いた場合

同案内が届出を必要とする人として示しているのは,受給者の世帯の世帯員である。
別居の子が親の所在不明に気付いた場合には,自分が同一世帯であるか,いつから所在が分からないかを伝え,年金事務所に手続を相談するとよい。
家族というだけで届出義務の範囲を一律に広げたり,逆に同一世帯でなければ相談できないと考えたりしないことが大切である。

第3 年金受給権者所在不明届の準備
1 提出先と用紙

日本年金機構は,お近くの年金事務所を提出先として案内している。
用紙は,公式の様式案内から「年金受給権者所在不明届」を確認できる。
提出前に,その時点の用紙と記入上の注意を確認する。

2 記入する事項と年金証書

届書には,受給権者の氏名,生年月日,基礎年金番号・年金コード,所在不明となった年月日,同一世帯かどうか,届出者の住所・氏名・続柄・連絡先等の欄がある。
記入上の注意では,添付する書類として受給権者の年金証書が示されている。

もっとも,年金証書を提示できない場合の事由を選ぶ欄も設けられている。
証書が見つからない場合は,その事情を窓口に伝えて対応を確認する。
所在不明になった日の特定が難しい場合も,推測した日付を確実なものとして書かず,最後に所在を確認できた日などの事情を説明して相談するとよい。

第4 届出後の現況申告書と支払いの一時停止

所在不明届を提出した後は,受給権者本人宛てに現況申告書が送られる。
公式の届書は,その後1か月以内に本人から返信がない場合,年金の支払いが一時止まると案内している。

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年金の不正受給調査とは―質問・資料提出・支給停止への対応(AI作成)

目次

第1 調査の連絡を受けたときの確認事項第2 通常の届出と受給資格の調査1 書類の名称と確認目的を分ける2 連絡の内容を記録する第3 質問・資料提出と任意の協力1 法令に基づく受給権者への調査2 期限までに回答できない場合第4 回答しないと年金が止まるか第5 事実確認書・聴取調書に記載する内容第6 支給停止・返還・刑事手続を分ける1 過払いと不正利得の徴収2 行政上の調査と刑事手続第7 相談に持参する資料第8 出典
第1 調査の連絡を受けたときの確認事項

日本年金機構から受給資格について質問や資料提出を求められても,その連絡だけで不正受給が確定したわけではない。
最初に,対象となる年金,確認対象の期間と事実,書類の正式名称,提出期限及び法令上の根拠を確認する。
通常の届出,受給権者に対する調査,支給停止及び既払額の返還は,分けて検討する必要がある。

本記事は,令和8年11月1日に確認した国民年金法,厚生年金保険法及び日本年金機構の公表資料を基に,一般的な対応の順序を整理したものである。
平成22年の調査実施要領及び平成26年の不正受給対応手引きも参照するが,これらは当時の内部事務を知る資料であり,現在の内部運用全体を示すものとしては扱わない。

第2 通常の届出と受給資格の調査
1 書類の名称と確認目的を分ける

現況届,生計維持確認届及び障害状態確認届は,それぞれ確認する事項が異なる。
現況届等の提出を求める連絡と,特定の受給資格や過去の支給について説明を求める連絡を,同じものとして処理しない。
現況届の対象者や記入方法は,年金受給権者現況届の記事を参照されたい。

平成26年の手引きは,不正受給の疑いがある段階と,客観的資料によって事実を確認した段階を区別している。
この区別を踏まえると,回答を準備する際には,通報や推測の内容と,診断書,届出書,入出金記録等から確認できる事実を分けて整理することが有用である。
後半の整理方法は,本記事が提案する実務上の準備である。

2 連絡の内容を記録する

電話で連絡を受けた場合は,担当部署,担当者名,連絡日,提出を求められた資料及び期限を記録する。
対象期間や提出の趣旨が分からなければ,その点を問い合わせ,書面で届いた通知や封筒も残しておく。
連絡の真正性に疑問がある場合には,受け取った電話番号だけに頼らず,公式サイトで確認した年金事務所等の窓口へ確認する。

第3 質問・資料提出と任意の協力
1 法令に基づく受給権者への調査

国民年金法107条1項は,厚生労働大臣が必要と認めるとき,受給権者に対し,身分関係,障害の状態その他受給権の消滅,年金額の改定又は支給停止に関する書類等の提出を命じ,職員に質問させることができると定めている。
厚生年金保険法96条1項にも,実施機関による同種の調査の規定がある。

受給権者本人に対する調査でも,法令に基づく命令・質問と,任意の協力を求めるものとでは性質が異なる。
第三者への照会も,相手方の任意の協力を待つものである。
平成22年の実施要領も,受給権者本人に対する間接強制調査と,相手方の任意の協力を待つ任意調査を区別している。
平成26年の手引きは,任意調査の相手方に受給権者等も含めている。
したがって,「任意だからすべて放置してよい」「求められたものは内容に関係なくすべて提出義務がある」といった一括した理解を避け,個々の依頼の根拠と範囲を確認する。

2 期限までに回答できない場合

入院中である,古い取引記録の取得に時間がかかるなど,期限内の対応が難しい場合は,その事情と見通しを担当窓口へ具体的に伝える。

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著作権譲渡料・二次利用料はどう決めるか―制作費との区分,見積書及び交渉(AI作成)

目次

第1 著作権譲渡料・二次利用料は何に対する対価か第2 利用許諾と著作権譲渡の見積もりを比較する第3 価格を協議するために確認する事項第4 見積書・発注書に落とし込む記載例第5 追加利用と支払条件を決める第6 著作者人格権と実績紹介を別に確認する第7 関連記事第8 出典・参考資料
第1 著作権譲渡料・二次利用料は何に対する対価か

制作を依頼するときは,作品を作る作業への対価と,作品をどの範囲で使うかに対応する権利の対価を整理する。
著作権譲渡を含む見積もりと,一定の媒体・期間に限って利用を認める見積もりとでは,契約の内容が異なる。

公正取引委員会等の「知財取引指針」は,知財の価値を考慮し,十分に協議して対価を決めることを扱っている。
制作費に権利の対価を含める方法もあるため,別名目の請求書がないという一点だけで,無償の譲渡又は許諾であったとは決められない。
内訳と利用範囲を確認できることが大切である。

また,「二次利用」は契約で幅のある使われ方をする言葉である。
別の媒体への掲載,再放送,別商品への転用,改変後の利用などのうち,何を指すかを具体化する。
「二次利用料」という名称だけから,著作権法上の二次的著作物に関する権利の問題と同じであるとは扱わない。

以下は,令和8年11月1日現在の知財取引指針,同年10月1日改正資料及び文化庁資料に基づく契約・交渉の整理である。
ここで示す見積もりの比較例は,金額の相場や法定の料金表を示すものではない。

第2 利用許諾と著作権譲渡の見積もりを比較する

例えば,企業の広告用イラストを制作する場合には,次の3案を同じ条件表で比べる方法がある。
3案は当事者間の協議に使う例であり,法律がこの3区分を強制しているわけではない。

① 利用範囲を限定する案。
発注者の指定するウェブサイトと広告媒体で,定めた期間・地域に利用する。
著作権は制作者側に残し,追加媒体や期間延長は別途協議する。

② 広い利用許諾を与える案。
対象媒体,期間及び地域を広げる。
独占性,系列会社による利用,再許諾,改変及び別商品への転用をどこまで認めるかも定める。
利用範囲が広いことと,著作権そのものが移転することを区別する。

③ 著作権を譲渡する案。
対象作品と譲渡する権利を特定する。
27条・28条の権利も含めるのか,移転時期をいつにするのかを明記し,制作者自身の利用を残す必要があれば,その条件も定める。

完成版のほかに編集用ファイル,ラフ又は未使用素材を納品させるかは,3案のどれを選ぶかと併せて確認する。
著作権の対価を比較する際に,納品範囲や修正回数まで同時に変えてしまうと,価格差の理由が分からなくなる。

知財取引指針49頁以降の取組例には,著作権の譲渡を含む場合と含まない場合の見積もりを示すことや,利用範囲を明確にし,その範囲を超える利用の対価を別に扱うことが紹介されている。
これらを参考に,発注者が必要とする利用と予算をすり合わせることが考えられる。

第3 価格を協議するために確認する事項

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動画・デザインの元データは納品義務があるか―著作権譲渡,編集データ及び追加料金(AI作成)

目次

第1 元データの納品義務は,まず契約の納品範囲から確認する第2 完成版,編集データ及び撮影素材を分ける第3 著作権譲渡とファイルの引渡しを対応させる第4 納品後に追加要求を受けた場合の協議第5 第三者への再編集の引継ぎで確認する事項第6 発注前の確認事項と回答例第7 関連記事第8 出典・参考資料
第1 元データの納品義務は,まず契約の納品範囲から確認する

動画やデザインの完成版を納品した後に,「編集できる元データも渡してほしい」と求められたときは,契約書,仕様書,見積書及び発注時の説明から,何を納品する合意であったかを確認する。
完成版の納品と,制作に使った全ファイルの引渡しを一括りにしない。

「著作権を譲渡したから,手元にある制作データを例外なく無料で引き渡す」「元データという名前だから,必ず追加料金を取れる」という結論を先に置くことも避ける。
権利の移転条項,納品対象の条項,利用目的及び代金の算定範囲を対応させて,契約の内容を判断する必要がある。

公正取引委員会等の令和8年6月24日「知財取引指針」は,契約内容に含まれない中間成果物や素材データの無償提供を一方的に要請された事例や,他の事業者に再編集を依頼する目的で撮影素材データの無償提供を要請された事例を取り上げている。
これらは「問題となり得る事例」であり,「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」行われる場合に優越的地位の濫用として問題となるという行政上の整理である。
問題となるかは個別の事案ごとに判断されるものであり,すべての元データの追加要求が直ちに違法となるという意味ではない。

以下は,令和8年11月1日現在,指針,同年10月1日の取適法運用基準等の改正資料及び文化庁の契約資料を踏まえて,契約の確認と交渉の手順を整理したものである。

第2 完成版,編集データ及び撮影素材を分ける

「元データ」は,対象が曖昧になりやすい言葉である。
少なくとも,次のファイルを区別して一覧にするとよい。

① 完成版。
配信用の動画,印刷用の入稿データ,公開用の画像など,合意された用途で使うための納品物である。

② 編集用ファイル。
動画編集のプロジェクトファイル,レイヤーを保持したデザインデータ,編集可能なウェブ制作データなどである。
使用ソフトとバージョン,外部ファイルへの参照,フォント及び追加機能の有無も確認する。

③ 素材と中間成果物。
撮影した未使用の映像・写真,録音素材,絵コンテ,ラフ,不採用案などである。
完成版に使われなかった素材まで納品対象となっているかは,別に確認する。

④ 制作側の汎用資産。
過去から使っているテンプレート,独自の制作手順,他案件の素材などである。
今回の成果物と混在している場合には,納品対象を抽出し,第三者の情報や他案件の情報が含まれない形を協議する。

この分類は,納品範囲を合意するための実務上の整理である。
ファイルの拡張子や名称だけから,契約上の引渡義務や著作権の帰属が決まるものではない。

第3 著作権譲渡とファイルの引渡しを対応させる

文化庁の契約資料は,制作の報酬を支払ったことだけで依頼者が著作権を取得するわけではなく,利用許諾又は譲渡の内容を契約で定める必要があると説明している。
著作権の帰属と,どのファイルをどの形式で納めるかは,関連するが確認事項の異なる問題である。

例えば,完成した広告画像の著作権を譲渡する契約と,制作に使った全撮影素材や編集履歴まで引き渡す契約が,同じ内容であるとは限らない。

(続きを読む...)動画・デザインの元データは納品義務があるか―著作権譲渡,編集データ及び追加料金(AI作成)

偽の採用試験で暗号資産流出―DMM事件の手口と企業が備えること(AI作成)

目次

第1 DMM事件が示す偽採用試験の危険第2 捜査機関が公表した攻撃の流れ1 狙われたのはウォレット事業者の従業員2 なりすましと取引要求への介入第3 関東財務局の行政処分で指摘された問題1 外部サービスの導入後も管理は必要2 署名作業と証拠保全第4 企業が検討したい対策1 採用試験のコードを業務環境へ持ち込まない2 承認の独立性を点検する3 委託契約と事故対応をつなぐ第5 個人情報の漏えいと混同しない第6 主な出典
第1 DMM事件が示す偽採用試験の危険

DMM Bitcoinの暗号資産流出について,警察庁は令和6年12月24日,北朝鮮を背景とするTraderTraitorによる攻撃と公表した。
同庁が示した被害額は約482億円である(警察庁発表)。

この事件で注目すべきなのは,採用担当者を装った接触が,別の会社の従業員への侵害を経て,暗号資産を移転する業務に及んだと発表されている点である。
本記事は,捜査機関が公表した手口,関東財務局が指摘した管理上の問題,そこから企業が検討したい対策を分けて説明する。

第2 捜査機関が公表した攻撃の流れ
1 狙われたのはウォレット事業者の従業員

FBI・米国防総省サイバー犯罪センター・警察庁の共同発表によると,令和6年3月下旬,LinkedIn上で採用担当者を装う者が,ウォレットソフトウェア事業者Gincoの従業員に接触した。
対象者はウォレット管理システムへのアクセス権限を持っていた。

採用前の試験を装ってGitHub上の悪意あるPythonスクリプトへのURLが送られ,対象者がそのコードを個人のGitHubへ複製した後,侵害されたとされる。
「DMMの従業員が採用試験を受けた」と言い換えると,発表が説明する企業間の経路を取り違える。

2 なりすましと取引要求への介入

共同発表は,5月中旬以降,セッションCookie情報を利用した従業員へのなりすましによって,Gincoの通信システムへ侵入したと説明している。
その後,DMM従業員による正当な取引要求を改変した可能性が高く,4502.9BTCが流出したとしている。

取引要求への介入について,英語の共同発表は「likely」と表現し,警察庁の発表は「改ざんしたものと認められます」としている。
いずれも捜査機関の評価であり,公表資料だけから全ての操作手順が確定した,あるいは特定の個人の過失が認定されたとまではいえない。

第3 関東財務局の行政処分で指摘された問題

関東財務局の令和6年9月26日付行政処分は,DMM Bitcoinに対し,資金決済法63条の16に基づく業務改善命令を発出したものである。
同資料は,システムリスク管理の牽制,外部ウォレットの評価,署名作業,秘密鍵管理及びログ保全等に問題を指摘している。

1 外部サービスの導入後も管理は必要

同資料は,外部ウォレットの導入時に流出リスクを議論せず,セキュリティ管理状況の評価内容の妥当性を確認せず,問題が発生した場合の対応方法を理解しないまま利用を開始したと指摘する。
また,権限が一部に集中し,被監査部署に監査を実施させるなど,管理・監査の独立性の問題も挙げている。

2 署名作業と証拠保全

単独の署名作業,秘密鍵の一括管理,リスクに応じたウォレットの分散管理の検討不足に加え,証拠保全のためのログ保存期間等を検討していなかったことも指摘されている。
これは,端末を守るだけでなく,送信の承認方法と事故後に経路を確認できる資料を併せて整える必要性を考える材料となる。

ただし,この行政処分は12月の共同発表より前のものであり,処分資料自体は,当時まだ具体的手口の究明に至っていないと明記している。
指摘された各不備が今回の流出を直接引き起こしたと認定した資料や,利用者に対する民事責任を判断した判決として読むべきではない。

第4 企業が検討したい対策
1 採用試験のコードを業務環境へ持ち込まない

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バイナンス63億ドル流出―補填・資産凍結と利用者が確認すること(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論第2 公表資料で確認できること1 流出時刻と補填方針2 攻撃主体と侵入経路第3 補填・凍結・返還を分けて考える1 会社による補填2 発行者によるトークンの移転停止3 残高表示と利用できる状態第4 利用者が保存・確認したい資料第5 請求や差押えを考えるとき第6 主な出典
第1 この記事の対象と結論

バイナンスは,令和8年10月30日付の発表で,ホットウォレットへの侵害による約63億米ドル相当の流出を公表し,利用者に損失を負担させず会社側で補填する方針を示した。
本記事は,同年11月1日までの会社発表と同年10月31日のFBI発表を基準として,利用者が確認したい事項を整理する。

確認の中心は,①契約上の相手方と対象サービス,②自分の保有銘柄に関する補填条件,③実際の出金の可否である。
会社が資産を補充すること,流出先の資産を凍結すること,利用者への返還が実現することは,それぞれ別の問題として見る必要がある。

第2 公表資料で確認できること
1 流出時刻と補填方針

10月30日付の会社発表は,発生時刻を同月29日20時5分頃(UTC)としている。
日本時間では同月30日午前5時5分頃に当たる。
同発表は,会社の資金とSAFUという緊急準備基金を用いて流出の経済的影響を負担する方針を説明している。

翌31日付の更新は,資産の補充の進捗と,11月1日の出金再開を目指す予定を示している。
11月1日付の更新は,第1段階の出金を同日6時から9時(UTC)の間に再開する準備をしていると説明し,対象のネットワークと銘柄を挙げて,他は準備が整い次第追加するとしている。
同更新は,補充した額が影響額の約95%に達したとも説明している。
これらは会社の計画と説明であるから,自分の銘柄とネットワークで出金できるかは個別に確認する必要がある。

2 攻撃主体と侵入経路

FBIの10月31日付発表は,この流出を北朝鮮のTraderTraitorによるものと公表した。
これは捜査機関による攻撃主体の評価である。

一方,会社の10月30日付発表では,侵害された端末の可能性に加えて別の侵入箇所も見つかり,調査が継続しているとされた。
同発表の,現段階で秘密鍵の漏えいを示す証拠は見つかっていないという説明を,秘密鍵や署名処理が一切悪用されていないとの確定判断へ広げることはできない。

第3 補填・凍結・返還を分けて考える
1 会社による補填

補填の発表を読む際は,対象となる法人,口座,サービス,銘柄,数量,時点と,利用者側の手続の有無を確認したい。
グループ名が共通するだけで,自分の契約相手の義務や日本国内のサービスへの影響まで同じと決めつけないことが大切である。

また,会社が補填方針を示したことだけから,日本の預金保険や公的な補償が適用されるとは考えない。
利用者としては,発表の保存に加え,自分がどの法人に何を請求する立場かを契約資料と照らして整理するのが出発点になる。

2 発行者によるトークンの移転停止

会社の10月30日付発表は,法執行機関,ブロックチェーン分析会社,資産の発行者及び業界の協力先と連携して資産の追跡と凍結に取り組み,発表時点で約30億ドルがオンチェーンで凍結されたと説明している。
同発表は,どの発行者や事業者がどの銘柄を凍結したかを示しておらず,凍結された資産の返還についても述べていない。

ステーブルコインには,発行者側が一定のアドレスからの移転等を制限できるものがある。

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外国人が不起訴になった後も入管手続は続くか―収容・監理措置・退去強制の確認事項(AI作成)

目次

第1 不起訴と在留資格は,別々に確認する第2 刑事事件の結果と,残っている入管上の問題を分ける第3 刑事手続の釈放と,入管法上の収容を区別する第4 収容されるかは,監理措置を含めて確認する第5 在留特別許可には,申請できる段階の制限がある第6 難民認定等と,送還先での危険を別に確かめる第7 刑事弁護と入管事件の担当・費用を確認する第8 根拠・参考資料
第1 不起訴と在留資格は,別々に確認する

外国人の刑事事件が不起訴になっても,それだけで在留期間が更新されたり,退去強制事由がなくなったりするわけではない。
例えば,刑事事件とは別に不法残留の問題がある場合は,その在留状況に即した入管手続への対応が必要となる。
本記事は,令和8年11月1日に確認した入管法等に基づき,本人・家族と弁護士が確認すべき事項を整理する。

「不起訴になったから必ず帰宅できる」「在留資格がないから直ちに送還される」と,どちらも結果を決めつけないことが出発点である。
刑事手続上の身柄拘束と,入管法に基づく収容等の根拠・段階を,実際の書類から確認する必要がある。

第2 刑事事件の結果と,残っている入管上の問題を分ける

不起訴という結果だけから,その理由を推測してはならない。
不起訴の理由の確認と,在留資格・退去強制事由の検討を分ける。
入管法24条4号ロは,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して残留することを,退去強制事由の一つとしている。

不起訴の結果は,存在する退去強制事由を一括して消す制度ではない。
一方,刑事事件について犯罪が成立したことや有罪が確定したことを,不起訴という言葉から導くこともできない。
相談時には,検察官の処分を確認できる資料と,在留・入管手続に関する資料を別々にそろえるとよい。

第3 刑事手続の釈放と,入管法上の収容を区別する

入管法63条1項は,退去強制対象者に該当する外国人について,刑事訴訟に関する法令,刑の執行に関する法令又は少年院の在院者の処遇に関する法令の規定による手続が行われる場合には,その者を収容しないとき又は監理措置に付さないときでも,退去強制の手続を行うことができると定める。
刑事手続が終わるまで,入管手続が一切進まないという仕組みではない。

同条2項は,同条1項に基づいて退去強制令書が発付された場合,刑事訴訟,刑の執行等に関する手続が終了した後に執行するものと定める。
ただし,刑の執行中でも,検事総長又は検事長の許可があれば執行できるという例外がある。
刑事事件の処分,刑事手続上の釈放,入管への身柄の引継ぎ,退去強制令書の発付・執行は,同じ出来事として扱わないことが必要である。

弁護士が釈放前に確認する事項としては,入管側の担当部署・連絡先,発付された令書や決定の有無,引継ぎの予定,本人・家族への連絡方法が考えられる。
これは,手続の行き違いを減らすための実務上の提案であり,すべての事件で同じ引継ぎが行われるという説明ではない。

第4 収容されるかは,監理措置を含めて確認する

退去強制手続中の収容については,入管法上,監理措置の制度も設けられている。
同法44条の2は,主任審査官が逃亡や証拠隠滅のおそれの程度,収容による不利益その他の事情を考慮して,収容に代わる監理措置を決定する仕組みを定める。
既に収容された者(仮放免された者を含む。)からの請求に関する規定もある。
刑事事件が不起訴であるという事情だけで,収容又は監理措置の結論が自動的に決まるものではない。

本人の生活環境,逃亡等のおそれ,受入れ・支援の体制,現在の手続の段階を確認し,利用できる制度と要件を検討する。
収容令書に基づく段階と,退去強制令書が発付された後の段階(同法52条の2)では,確認すべき規定や手続を分ける必要がある。

身元や連絡先を把握し,医療・通訳等の必要を伝えることも重要である。

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在留期限が切れた・ビザ更新を忘れたら―特例期間との違いと初動対応(AI作成)

目次

第1 最初に「何の期限か」「申請済みか」を確かめる第2 期限内の申請に伴う特例期間は「更新忘れの猶予」ではない第3 申請しないまま在留期間が満了した場合第4 在留特別許可は,通常の更新と区別して検討する第5 「難民」という説明だけで在留資格を判断しない第6 相談先には,手続の段階と必要な支援を伝える第7 相談前にそろえる資料第8 根拠・参考資料
第1 最初に「何の期限か」「申請済みか」を確かめる

在留期限を過ぎたことに気付いたときは,在留期間の満了日,在留カードの有効期間,更新・変更申請の有無を分けて確認する必要がある。
期限内に申請して審査を待っている場合と,申請をしないまま在留期間が満了した場合では,法律上の扱いが異なる。
本記事は,令和8年11月1日に確認した入管法等に基づき,本人・家族が相談までに整理する事項を説明する。

まず,旅券,在留カード,許可に関する書類,申請の受付資料,入管から届いた通知を集める。
カードの見た目だけで判断せず,現在の在留資格,在留期間の満了日,申請の種類・受付日,処分の有無を一つずつ確かめる。

第2 期限内の申請に伴う特例期間は「更新忘れの猶予」ではない

入管法20条6項は,在留期間の満了日までに在留資格変更許可を申請し,満了日までに処分がされない場合の在留について特例を定めている。
この規定は,同法21条4項によって在留期間更新許可の申請にも準用される。
在留期間が30日以下の場合は,この特例の対象から除かれる。

特例によって従前の在留資格で在留できるのは,申請に対する処分がされる時と,もとの在留期間の満了の日から2か月を経過する日が終了する時の,いずれか早い時までである。
「申請したから処分が出るまで何か月でも大丈夫」「不許可でも満了日から2か月間は同じ状態が続く」という理解は正確でない。

申請しないまま満了した人には,この規定は適用されず,2か月の猶予は生じない。
また,窓口への相談,予約,申請書の作成だけでは,申請が受け付けられたことの確認にならない。
期限内に申請したか不明な場合は,受付記録を確かめることが先である。

審査中の就労と会社側の確認事項は,在留期間の更新申請中も働けるか―特例期間と会社の確認事項(AI作成)を参照されたい。

第3 申請しないまま在留期間が満了した場合

入管法24条4号ロは,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して残留する者を,退去強制事由の一つとして定める。
「忘れていた」という説明だけで在留資格が延びるものではなく,期限後に書類を出せば通常の更新として必ず扱われるともいえない。

一方,期限を過ぎたという情報だけで,個別事件の手続や許否を決めつけることもできない。
本人の在留履歴,期限を過ぎた経緯,家族関係,生活基盤,健康状態,帰国先での危険,現在の退去強制手続の段階を調べ,入管実務に詳しい弁護士に相談する必要がある。
就労の可否も,従前と同じ仕事だから続けられると判断せず,現在の法的な在留状態と許可の内容から確認する。

相談時には,いつ満了したか,いつ気付いたか,それまでにどの申請・相談をしたかを,資料で確認できる事実と記憶に基づく説明に分けて伝えるとよい。
申請日や事情を事実と異なる内容に直すことは避けなければならない。

第4 在留特別許可は,通常の更新と区別して検討する

退去強制事由に該当する場合でも,入管法50条に基づく在留特別許可が問題となることがある。
同条1項は,法務大臣が特別に在留を許可できる場合を定め,同項ただし書による制限も設けている。
許可が必ず得られる制度ではない。

申請の時期にも注意を要する。

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商業登記リモート署名の使い方―対応方式,GビズID,証明書取得と旧方式からの移行(AI作成)

目次

第1 何を選ぶための記事か第2 先に利用するサービスと連携方式を確認する1 署名ドライバソフト連携方式2 システム連携方式第3 GビズIDと電子証明書の準備1 アカウントとアプリを準備する2 発行申請とリモート署名システムへの登録を区別する第4 署名前に確認すること第5 旧ファイル形式から移行するときの注意点第6 導入時の社内確認表第7 出典
第1 何を選ぶための記事か

商業登記リモート署名は,会社・法人の代表者等が利用する商業登記電子証明書と署名鍵をクラウド環境に保管し,オンラインで電子署名を行う仕組みである。
法務省とデジタル庁は,令和8年7月21日に運用を開始した。

本記事は,令和8年11月1日までに確認できた公式資料に基づき,導入を検討する会社・法人の担当者が,対応方式,利用準備及び旧方式からの移行を整理するためのものである。
個別サービスの画面を順に操作するマニュアルではないため,実際の申請・署名では,利用するサービスと公式マニュアルの最新版を併せて確認する。

第2 先に利用するサービスと連携方式を確認する
1 署名ドライバソフト連携方式

法務省が提供する商業登記リモート署名ドライバソフトをWindowsのPCへ導入して利用する方式がある。
国税庁は,e-Taxでの利用に,GビズIDアカウント,GビズIDアプリを入れたスマートフォン,インターネット環境に加えて,同ドライバソフトが必要であると案内している。

ドライバソフトを入れるだけで,すべての行政手続や電子契約サービスで利用できると考えてはならない。
利用予定のサービス側が受け付ける電子証明書の方式,対応環境及び設定方法を先に確認することになる。

2 システム連携方式

行政サービスがリモート署名システムと直接連携して署名する方式もあり,この方式では署名ドライバソフトを利用せずに電子署名を行うことができる。
法務省は,商業登記電子証明書にはリモート署名,ファイル形式及びICカード形式があり,利用するサービスごとに対応方式・形式が異なると説明している。

公式の利用可能サービス一覧には,e-Tax,eLTAX,登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフト等が掲載されている。
ただし,掲載されたサービスのすべてがシステム連携方式で利用できるわけではない。
法務省の案内の表(令和8年11月1日確認)では,e-Tax,eLTAX及び申請用総合ソフト等は署名ドライバ方式の欄に,Gビズポータルはシステム連携方式の欄に「○」が付されている。
一覧に名前があることと,自社の端末・申請内容で必要な設定が済んでいることは分けて確認したい。

第3 GビズIDと電子証明書の準備
1 アカウントとアプリを準備する

商業登記電子認証ポータルの利用には,GビズIDの取得とログインが必要である。
法務省は,アカウントの種別によって利用可能な機能が異なると説明している。
署名時の認可に用いるGビズIDアプリについても,公式案内に従って準備する。

社内では,誰がアカウントを管理し,誰が署名要求を確認するのかをあらかじめ決めておくとよい。
社内の役割分担は,会社としての決裁や代理権の有無とは分けて確認する。

2 発行申請とリモート署名システムへの登録を区別する

ポータルは,商業登記電子証明書の発行申請準備,登録及び管理を行うためのサイトである。
発行を受けた電子証明書をリモート署名システムへ登録することで,リモート署名を利用する。

申請を準備した段階と,電子証明書の発行・登録が完了した段階を混同せず,必要な手続をポータルの利用者マニュアルで確認する。

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失踪宣告の申立て―要件,必要書類,費用,期間及び確定後の手続(AI作成)

目次

第1 この記事の対象1 失踪宣告と不在者財産管理人を選ぶ前に2 期間と日付の見取り図第2 失踪宣告の要件と死亡とみなされる日1 普通失踪と危難失踪2 7年が経てば自動的に死亡扱いになるわけではない第3 申立人と申立先1 申立てができる人2 申立先の家庭裁判所第4 必要書類と申立書の準備1 標準的な添付書類2 申立書と経過の整理第5 費用と納付する時期第6 申立てから確定後の届出まで1 申立てと家庭裁判所の調査2 公告と届出の催告3 審判の確定と証明書4 市区町村への失踪届第7 よくある質問1 申立てから何か月で終わるのか2 警察への届出だけで失踪宣告になるのか3 相続人が行方不明なら,失踪宣告を待つしかないのか4 失踪宣告後に本人の生存が分かったらどうするのか第8 関連記事と出典1 関連記事2 法令・公的資料
第1 この記事の対象

家族などの生死が長く分からないときは,家庭裁判所の失踪宣告によって,その人を法律上死亡したものとみなすことができる。
本記事は,日本国内で申立てを検討する人に向けて,制度の選び方から,要件,申立先,資料・申立書の準備,費用,審判確定後の届出までを整理する。

要件となる生死不明の期間,死亡したものとみなされる日,申立て後の手続に要する期間は,それぞれ異なる。
費用・書式は,令和8年11月1日に確認した裁判所の公開案内に基づく。

1 失踪宣告と不在者財産管理人を選ぶ前に

最初に,必要なのが「死亡したものとみなすこと」なのか,「行方不明者の財産を管理し,遺産分割等を進めること」なのかを整理する。

確認点失踪宣告不在者財産管理人制度の役割生死不明の者を法律上死亡したものとみなす不在者の財産を管理する相続との関係死亡とみなされる時点に応じて相続関係を判断する管理人が家庭裁判所の許可を得て,不在者に代わり遺産分割協議に加わる方法がある最初に整理すること生死不明の期間,危難の有無,死亡とみなされる時点管理が必要な財産と,遺産分割等で行おうとする行為

不在者財産管理人を選ぶ場合は,相続人が行方不明の場合の不在者財産管理人で,所在調査,選任,権限外行為許可,管理の終了までを確認されたい。
制度の根拠は,民法25条・28条・30条・31条及び裁判所の家事事件Q&A・第14で確認できる。

2 期間と日付の見取り図
確認するもの内容取り違えないもの申立ての要件となる期間普通失踪は7年間。危難失踪は危難が去った後1年間の生死不明申立てから結果が出るまでの期間死亡とみなされる時点普通失踪は7年間が満了した時。危難失踪は危難が去った時審判日・確定日・戸籍への届出日申立て後の催告期間普通失踪は3か月以上,危難失踪は1か月以上調査や確定までを含む総所要期間即時抗告の期間原則として2週間。起算点と抗告できる者は第6の3で説明する審判書の到着だけによる確定の判断確定後の失踪届裁判を請求した者が,確定日から10日以内に届け出る死亡とみなされる日から数える期限
第2 失踪宣告の要件と死亡とみなされる日
1 普通失踪と危難失踪

不在者の生死が7年間明らかでないときは,利害関係人の請求により,家庭裁判所が失踪宣告をすることができる。
これが普通失踪である。

戦地に臨んだ者,沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者については,戦争が止んだ後,船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後,1年間生死が明らかでない場合にも失踪宣告をすることができる。
これが危難失踪である(民法30条)。

種類要件となる生死不明の期間死亡とみなされる時点普通失踪生死が7年間明らかでないその7年間が満了した時危難失踪死亡の原因となる危難が去った後,1年間生死が明らかでない危難が去った時

死亡とみなされる時点は民法31条による。
危難失踪では,要件となる危難が去った後の1年間と,死亡したものとみなされる「危難が去った時」を分けて確認する。

単に長く連絡がないという説明だけで判断せず,最後に生存を確認した時期,その後の連絡や調査の経過,危難に遭遇した場合はその事情を資料と対応させて整理する。

2 7年が経てば自動的に死亡扱いになるわけではない

7年間が経過しただけで,失踪宣告がされたことにはならない。
利害関係人が申し立て,家庭裁判所の審理と審判の確定を経る必要がある(民法30条,家事事件手続法74条・148条)。

死亡とみなされる日と,親などが死亡した日との先後によって,誰が相続人になるかが変わる場合がある。
申立てを決める前に,行方不明となった経緯と,関係する相続の時系列を並べて確認する。

相続人の変動,相続税の申告期限・財産評価,取消し及び外国が関わる場合の詳しい説明は,失踪宣告と相続・相続税に分けている。

第3 申立人と申立先

(続きを読む...)失踪宣告の申立て―要件,必要書類,費用,期間及び確定後の手続(AI作成)

川崎民商事件判決と税務調査―任意調査,令状及び刑事利用を区別する(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論第2 川崎民商事件で判断されたこと第3 令状と間接的な強制をどう区別したか第4 自己負罪拒否の保障と調査の機能第5 現行法の質問検査権と罰則第6 犯罪捜査のための利用と後の証拠利用第7 弁護士・税理士が記録しておきたい事項第8 関連記事と出典
第1 この記事の対象と結論

税務調査に対応するときは,①実力で検査を強制できるか,②不答弁や検査拒否等に罰則があるか,③得られた資料が刑事手続で使われるかを分けて考える必要がある。
「任意調査だからすべて拒否できる」「行政調査だから憲法上の保障は問題にならない」という両極端の理解では,依頼者への助言を誤るおそれがある。

本記事は,川崎民商事件判決と現行の国税通則法を対照し,弁護士・税理士が調査の根拠と範囲を確認するための着眼点を整理するものである。
個々の質問や資料要求の適法性は,対象税目,調査の必要性,要求内容及び実際の調査状況に即して判断する必要がある。
法令の確認基準日は令和8年10月30日である。

第2 川崎民商事件で判断されたこと

最高裁大法廷昭和47年11月22日判決(昭和44年(あ)第734号,刑集26巻9号554頁)は,旧所得税法63条による帳簿書類の検査を拒んだ行為について,同法70条10号による処罰の憲法適合性等が争われた事件である。
ここでいう旧所得税法は昭和40年法律第33号による改正前の法律であり,現在の条番号として参照してはならない。
最高裁は上告を棄却した。

判決は,行政手続であることだけを理由に憲法35条・38条1項の保障を一律に除外したわけではない。
行政目的,質問検査の機能,対象・範囲,強制の程度等を検討して,問題となった制度の合憲性を判断している。

第3 令状と間接的な強制をどう区別したか

判決は,当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで,その手続における一切の強制が当然に憲法35条1項の保障の枠外にあると判断することは相当でないとした。
その上で,旧法の検査について,公平確実な課税徴収という目的,所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者の事業に関する帳簿等に対象を限定した制度,刑罰による間接的・心理的な強制にとどまること,実効性を確保する公益上の必要性等を考慮した。

判決は,検査拒否に対する罰則が検査の受忍を強制する作用を伴うことを認めつつ,その強制の度合いは,相手方の自由な意思を著しく拘束して実質上直接的物理的な強制と同視すべき程度には達していないとした。
最高裁は,これらの事情を総合し,この検査は,あらかじめ裁判官の発する令状によることを一般的要件としないからといって,憲法35条の法意に反するものとはいえないとした。
行政調査であればどのような立入りや身体拘束も無令状で許されるという判示へ広げてはならない。

第4 自己負罪拒否の保障と調査の機能

判決は,憲法38条1項の保障について,純然たる刑事手続だけでなく,実質上,刑事責任追及のための資料取得収集に直接結び付く作用を一般的に有する手続にも及ぶとした。
一方,旧法の質問検査は,適正な課税を目的とし,このような刑事資料の取得収集に一般的・直接的に結び付く作用を有するとは認められないとして,関連規定を違憲としなかった。

調査から税法違反の犯罪が発覚する可能性があることと,その手続が一般的に刑事責任追及へ直接結び付く機能を持つことは,判決上区別されている。
これは,個別の調査態様を問わず,刑事捜査への転用がすべて許されるという意味ではない。

第5 現行法の質問検査権と罰則

現行の国税通則法74条の2第1項は,所得税・法人税・地方法人税・消費税の調査について必要があるとき,所定の者への質問,帳簿書類等の検査,物件の提示・提出要求を認めている。
同条の権限があることと,どのような要求でも必要性や範囲を問わず適法であることは同じではない。

同法128条2号は,所定の質問に対する不答弁・虚偽答弁や,検査等の拒否・妨害・忌避を処罰対象とする。
同条3号は,所定の物件の提示・提出等の要求に正当な理由なく応じないことや,虚偽の物件の提示・提出等を処罰対象とする。
法定刑は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金である。

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会社設立前の契約・支払を会社に引き継ぐには―設立費用・財産引受と創立費の税務(AI作成)

目次

第1 契約の帰属・有効性・税務処理を分ける第2 設立費用は定款・契約・立替精算を照合する1 会社法の設立費用と例外2 立替払いの精算で残す資料第3 財産引受の効力と成立後の新契約を区別する1 現物出資・財産引受・成立後の購入2 評価証明や追認書だけで処理しない3 成立後に取得し直す場合の確認第4 法人税の創立費・開業費と設立期間中の損益1 創立費と開業費の範囲2 償却と損金経理を確認する3 設立期間中の損益の取扱いと例外第5 消費税の時期と担当者間の引継ぎ1 法人税の償却時期に合わせない2 弁護士・税理士へ渡す資料第6 関連記事第7 出典と確認範囲
第1 契約の帰属・有効性・税務処理を分ける

発起人が会社設立前に契約し,又は代金を立て替えた場合は,契約上の権利義務が誰に帰属するか,会社がその費用を負担できるか,法人税でいつ損金にできるかを分けて確認する。
帳簿に「創立費」と記載したことだけで,契約の相手方や会社法上の効力が決まるわけではない。

本記事は株式会社を中心に,令和8年10月30日に確認した会社法,法人税法令及び国税庁の通達に基づいて,弁護士・税理士と会社担当者が共有する確認事項を整理する。
契約書・請求書・送金履歴を同じ取引ごとに対応させるという手順は,これらの法源を踏まえた実務上の提案である。

確認する段階主な確認事項混同しやすい事項契約の帰属契約した名義,代表・代理の関係,成立後の会社を当事者とする合意の内容会社名の領収書があることだけで債務者を決めること会社法上の効力設立費用か財産引受か,定款の記載,調査・承認等の要否支払済み又は全株主賛成なら当然に有効と扱うこと法人税法人の負担に帰すべき費用か,資産取得費・前払費用か,損金算入時期設立前支出をすべて創立費として一括処理すること消費税課税仕入れ等の該当性,その時期,控除に必要な条件法人税の償却時期に合わせて仕入税額控除すること
第2 設立費用は定款・契約・立替精算を照合する
1 会社法の設立費用と例外

会社法28条4号は,株式会社が負担する設立に関する費用について,原則として定款に記載・記録しなければ効力を生じないと定める。
ただし,定款認証の手数料や法務省令で定める費用は除かれている。

会社法施行規則5条が挙げるのは,定款に係る印紙税,設立時発行株式に係る払込みを取り扱った銀行等の手数料・報酬,裁判所が決定した検査役の報酬及び設立登記の登録免許税である。
この例外を,設立に関係する専門家報酬や営業準備費用のすべてへ広げることはできない。

2 立替払いの精算で残す資料

発起人が自分の口座から支払ったという事実と,会社が相手方に対して契約上の債務を負うかという問題は区別する。
さらに,発起人から会社に対する精算請求の根拠と範囲も,契約の帰属とは別に整理する。

実務では,契約書の当事者・署名者,定款の費用額,費用の内訳,請求先,実際の支払者及び会社による精算の合意・決定を一覧にする。
定款に記載した額を超える場合や費用の性質が混在する場合は,全額を会社経費とする仕訳を先行させず,項目ごとに負担の根拠を確認する。

第3 財産引受の効力と成立後の新契約を区別する
1 現物出資・財産引受・成立後の購入

金銭以外の財産を出資する現物出資は会社法28条1号,会社成立後に譲り受けることを約した財産等は同条2号の定款記載事項である。
発起人が設立中の会社のために,会社の成立を条件として財産を譲り受け,権利義務を成立後の会社へ直接帰属させる契約は,財産引受として検討する。

これに対し,会社成立後に会社が新たに購入する契約とは,契約の成立時期と内容が異なる。
株式会社は本店所在地での設立登記により成立するため(会社法49条),設立登記の前後の書類を分けて確認する。

2 評価証明や追認書だけで処理しない

会社法33条10項は,一定の少額財産や専門家の価額証明等について検査役調査の例外を定める。
これは同法28条の定款記載を不要とする規定ではない。
税理士等の証明書があっても,財産引受の定款記載の欠落が補われるわけではない。

旧商法下の最高裁第一小法廷昭和28年12月3日判決(昭和26年(オ)第510号)は,定款に記載のない財産引受の無効を双方の当事者が主張でき,会社側の承認決議だけでは有効にならないとした。
最高裁第三小法廷昭和42年9月26日判決(昭和38年(オ)第147号)も,法定要件を欠く財産引受は成立後の会社の追認によって有効にならないとしている。

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民事判決・和解後の更正の請求―既判力,後発的事由と課税年度を分ける(AI作成)

目次

第1 民事事件の結論と税額の訂正を分ける第2 通常の請求期間と後発的事由の期間第3 判決・和解のどこを申告と照合するか第4 課税年度を変えられるかを別に検討する第5 弁護士と税理士で共有する資料第6 出典・関連記事
第1 民事事件の結論と税額の訂正を分ける

民事事件で代金,損害賠償金又は返還額が確定したときは,その結果を過去の申告へどう反映するかが問題となる。
ただし,判決又は和解が成立したことと,過年度の税額を減額できることは同じではない。

国税通則法23条1項は,申告した課税標準等又は税額等の計算が法令に従っていなかったこと,計算の誤りがあったことなどによって,納付税額が過大である場合等の更正の請求を定めている。
同条2項1号は,申告等の計算の基礎となった事実についての訴えに係る判決等により,その事実が計算の基礎としたところと異なることが確定した場合を扱う。
申告を減額する実体上の理由と,後発的事由による請求期間の要件を,それぞれ確認する必要がある。

本記事は,主に法人税の申告後に民事判決・和解が生じた場合を念頭に,確認の順序を整理する。
税目ごとの特則まで一律に同じ期限・処理になるとするものではない。

第2 通常の請求期間と後発的事由の期間

国税通則法23条1項による更正の請求の期間は,原則として法定申告期限から5年以内である。
同項2号の法人税の純損失等に係る所定の場合には10年の規定があり,個別税法の特則もあるため,まず税目,事業年度及び請求内容を特定する。

同条2項の後発的事由による請求は,同項に定める期間の終期が1項の期間の終期の後に来る場合に認められる。
1号の判決等による場合は,その事実が確定した日の翌日から起算して2月以内という期間である。
判決が出れば通常の5年がいつでも「2月」に短縮されるという読み方は適切ではない。

民事判決の言渡日と確定日を同一視せず,確定証明書などで起算点を確認する。
期限の計算では国税通則法10条による期間計算・休日の扱いも確認し,訴訟の終了を待つ間に通常の請求期間を過ぎないよう管理することが実務上の提案である。

第3 判決・和解のどこを申告と照合するか

国税通則法23条2項1号が対象とするのは,単に判決書に自分に有利な記載がある場合ではない。
「申告等の計算の基礎となった事実」と,判決等によって異なることが確定した事実の対応を明らかにする必要がある。

例えば,売買代金についての民事事件であれば,売上として申告した金額,訴訟物である請求,主文で命じられた給付,理由中の判断及び和解条項を分けて整理する。
引換給付判決の反対給付額の記載と,売主の代金請求についての確定判決を,同じものとして扱わないことが重要である。
民事訴訟法114条による既判力の範囲の検討と,更正の請求に必要な事実・実体要件の検討を対応させるのであって,「既判力があるから還付される」という一段の推論で済ませない。

同号は,判決と同一の効力を有する和解その他の行為も含めている。
しかし,当事者間の私的な合意書があれば当然に同号の要件を満たすわけではなく,どの手続で成立し,何が確定したかを確かめる必要がある。
契約解除その他の事情について別の後発的事由の規定が適用されるかは,その根拠と事実関係を分けて検討する。

第4 課税年度を変えられるかを別に検討する

最高裁第一小法廷令和2年7月2日判決(平成31年(行ヒ)第61号)は,貸金業者について,後の事業年度に破産手続で過払金返還請求権が確定したことを理由に,過去の事業年度の益金を減額できるかを判断した。
同判決は,法人税法の公正処理基準と事業年度ごとの所得計算を踏まえ,この事案で過年度の益金を減額する処理を認めなかった。
判決が適用したのは改正前の国税通則法及び法人税法であるため,第2で説明した現行法の請求期間とは区別して読む必要がある。

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土地・建物・駐車場の賃貸借と消費税―契約の当事者と貸付対象を分ける確認表(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論第2 まず契約の当事者と対象を分ける第3 土地・建物・駐車場の課税区分1 土地だけの貸付け2 事業用建物の家賃と敷地相当額3 駐車場は設備と管理も確認する第4 契約確認と請求書確認をつなぐ第5 確認表の使い方第6 関連記事第7 出典と適用範囲
第1 この記事の対象と結論

土地を借りて建物を所有する取引と,その建物を店舗・事務所・診療所として他人に貸す取引では,貸付けの対象が異なる。
消費税は,地主から借地人への地代と,建物所有者から建物利用者への家賃を分けて確認する。

住宅以外の建物の賃料は,敷地相当額を分けて表示しても総額が課税対象となる。
駐車場も,土地だけの貸付けか,整備された駐車場施設の利用かを確認する必要がある。
「地代」「駐車場代」という名称だけで非課税と決めない。

本記事は消費税の取引区分と契約確認の手順を扱う。
貸主の納税義務,具体的な税額,借主の仕入税額控除及び住宅の貸付けの詳しい要件は,個別に検討する。

第2 まず契約の当事者と対象を分ける

次の表は,Aが土地所有者,Bがその土地を借りて自己所有建物を建てた者,Cがその建物の利用者である場合の整理例である。
Bの支払地代とCの支払家賃を,一つの取引として扱わない。

取引確認する対象確認の出発点AからBへの貸付け建物敷地となる土地期間1か月以上で,施設利用に伴うものではない土地の貸付けなら非課税BからCへの貸付け店舗・事務所・診療所など住宅以外の建物建物の家賃として課税対象BなどからCへの駐車場所の提供土地だけか,駐車場施設か貸付期間,車両管理,地面の整備,フェンス・区画などを確認

これは取引を整理するための例であり,土地・建物の所有者と貸主が異なる場合や,建物を転貸する場合には,実際の契約ごとに当事者と対象を書き直す。

第3 土地・建物・駐車場の課税区分
1 土地だけの貸付け

土地や土地上の権利の貸付けは,原則として非課税となる。
ただし,契約上の貸付期間が1か月未満の場合と,駐車場その他の施設の利用に伴って土地を使用させる場合は,この非課税の対象から除かれる。

2 事業用建物の家賃と敷地相当額

国税庁は,事務所などの建物の家賃について,土地部分と建物部分を区分していても,総額を建物の貸付けの対価として扱うと説明している。
土地部分を請求書で別行にしたことだけで,その部分を非課税にはできない。

例えば,住宅以外の建物を敷地の利用とともに貸し,「建物賃料20万円,敷地相当額5万円」と表示する場合を考える。
いずれも消費税等相当額を加算する前の金額とすると,この建物の貸付けでは合計25万円が課税対象となる。
地主から借地人への別の土地貸付けの地代とは,取引の段階が違う。

3 駐車場は設備と管理も確認する

車両を管理する駐車場や,地面の整備又はフェンス・区画・建物の設置などをして利用させる駐車場は,施設の利用に伴う土地使用として課税対象となる。
建物と別筆の土地であることや,契約書に「土地賃貸借」と書いたことだけでは,非課税とは決まらない。

反対に,駐車に使う土地であっても,施設利用に伴う貸付けに当たるかを省略して判定しない。
土地自体の貸付けとして扱えるか,契約期間と貸付けの実態を確認する。

第4 契約確認と請求書確認をつなぐ

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会社のクレジットカードを私用に使われたら―利用権限,返還請求と税務処理を分ける確認表(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論第2 社内の承認とカード契約の権限を分ける1 個人カードの貸借と法人カードの使用者2 用途違反でも会社が支払う場合第3 取引ごとに作る確認表第4 会社の負担と税務上の経済的利益1 国税庁の説明が対象とする人と行為2 未回収,会社負担,免除を一つにしない3 損金算入と個人側の処理第5 発覚後に弁護士と税理士が確認すること第6 関連記事第7 出典と確認範囲
第1 この記事の対象と結論

会社のクレジットカードで,役員や従業員の私物が購入されていた場合を扱う。
最初に分けたいのは,カード会社との契約上その人が使えるカードか,会社がその買物を認めたか,会社が使った人へ返還を求めるか,会社が個人の費用を負担したと税務上評価されるかという四つの問題である。

会社の口座から引き落とされたという一事実だけで,社内承認,返還請求及び税務処理まで決めない。
逆に,社内規程に反したというだけで,カード会社への支払義務が消えるとも,店に対する詐欺罪が成立するとも決めない。
本記事は令和8年10月30日に確認した公表資料に基づく一般的な確認手順であり,個別契約の適用結果や具体的な申告処理を一律に示すものではない。

第2 社内の承認とカード契約の権限を分ける
1 個人カードの貸借と法人カードの使用者

最高裁平成16年2月9日第二小法廷決定(平成14年(あ)第1647号)は,他人名義の個人カードについて,名義人本人と装ってガソリンの交付を受けた事案で詐欺罪を認めた。
名義人の使用承諾と,加盟店に示した利用権限は別の問題である。

しかし,法人カードには,法人が指定しカード会社が承認した役職員をカード使用者とする契約もある。
その使用者が自分に発行されたカードを使う場合を,個人カードの名義人への成り済ましと同じ事実として扱うことはできない。
実際の利用者,カード上の名義,使用者登録,店員への説明,社内の承認及び購入品の用途を分けて確認する必要がある。

2 用途違反でも会社が支払う場合

JCBの会員規約(一般法人用)第1条は,指定・承認されたカード使用者と法人会員の関係を定めている。
同条8項は事業費の決済に利用目的を限る一方,その違反利用についても法人会員及び代表使用者が支払義務を負うと定める。
これは今回確認した規約の例であり,すべての法人カードに同一の条項があるという意味ではない。

会社とカード会社との支払関係と,会社内部で誰が最終負担するかは,分けて検討する。
契約の種類,利用時点の規約,使用者登録と利用停止等の届出を確認し,会社の社内規程だけでカード会社との関係を説明しない。

第3 取引ごとに作る確認表
確認する事項対応させる資料検討の目的誰のための購入か注文履歴,領収書,納品先,現物,受益者会社の費用か個人の費用かを調べる誰が何を承諾したか利用申請,承認記録,メッセージ,経費規程承認した商品・金額と追加購入を分ける契約上の利用者は誰か利用時点の会員規約,使用者登録,売上票社内権限と対外的な利用権限を分けるいつ債務・支出が生じたか購入日,請求書,引落記録購入,請求,引落しの日時をそれぞれ記録する(同日の場合を含む)会社は何を請求しているか請求書面,本人の回答,返済合意,入金請求額・認否・実際の回収を区別する会社が負担を引き受けたか経営判断の記録,免除合意,決算処理単なる未回収と利益供与の判断材料を分ける

一回の決済に事業用と私用が混在する場合は,明細単位で分ける。
承諾した金額,カード会社に対する利用額,社内の請求額及び回収額を一つの「被害額」にまとめず,差額の理由を記す。
購入後の追認や返金についても,その日付と内容を残し,当初から承諾があったという記録に書き換えない。

第4 会社の負担と税務上の経済的利益
1 国税庁の説明が対象とする人と行為

国税庁タックスアンサーNo.5202は,役員及び特殊関係使用人について,個人的費用の負担や債権の放棄・免除等を経済的利益の例として挙げる。
法人税基本通達9-2-9も,給与支給と同様の経済的効果をもたらすものという前提と,対象者・除外条件を示している。
この対象を,条件を確認せず普通の従業員全員へ広げない。

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企業の人権デュー・ディリジェンスとは―人権方針,リスク特定,サプライチェーン調査,救済及び情報開示(AI作成)

目次

第1 企業の人権デュー・ディリジェンスの全体像第2 日本企業が参照すべき主な文書第3 人権方針を策定する第4 負の影響を特定し,優先順位を付ける1 調査対象を自社の直接取引先だけに限定しない2 深刻度を中心に優先順位を決める3 影響を受ける当事者の視点を取り入れる第5 サプライチェーン調査を実務に落とす第6 防止・軽減措置を実施する第7 契約・社内体制・記録管理の要点第8 取組の実効性を評価する第9 情報を開示する第10 苦情処理・救済の仕組みを整える第11 よくある誤解1 ガイドラインに沿えばすべての法的義務を満たすとは限らない2 監査で違反が見つからなければリスクがないとは限らない3 取引停止が常に最善の解決とは限らない第12 まとめ第13 出典
第1 企業の人権デュー・ディリジェンスの全体像

企業活動による人権への負の影響は,自社の従業員だけでなく,取引先の労働者,地域住民,消費者その他の関係者にも及び得る。
人権デュー・ディリジェンスは,このような負の影響を継続的に把握し,防止・軽減し,取組の実効性を評価して説明するための一連のプロセスである。

日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」は,日本で事業活動を行うすべての企業を対象として,人権方針,人権デュー・ディリジェンス及び救済という取組の全体像を示している。
同ガイドラインは法的拘束力を有するものではないが,個人事業主を含む全ての企業が人権尊重の取組に最大限努めるべきものとしている。
個別の法令,契約,取引先からの要請,海外法制及び情報開示制度は,別途確認する必要がある。

人権デュー・ディリジェンスは,一度だけ調査票を配布して終了する手続ではない。
一般には,次の循環として整理できる。

① 人権への負の影響を特定し,評価する。
② 特定した負の影響を防止し,又は軽減する。
③ 取組の実効性を追跡し,評価する。
④ どのように対処したかを説明し,情報を開示する。

企業が負の影響を引き起こし,又は助長した場合には,救済に取り組むことも重要である。
自社が直接引き起こしていなくても,取引関係を通じて事業・製品・サービスが負の影響と直接結び付いている場合には,取引上の影響力を用いた防止・軽減などが問題となる。

第2 日本企業が参照すべき主な文書

実務上の出発点は,国連「ビジネスと人権に関する指導原則」,日本政府の人権尊重ガイドライン,経済産業省の実務参照資料及び「ビジネスと人権」に関する行動計画(改定版)である。
これらに加え,ガイドラインが踏まえている「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」及びILO多国籍企業宣言も参照する。

経済産業省の実務参照資料は,人権方針の策定及び負の影響の特定・評価について,検討ポイントと実施フローの例を示すものであるが,掲載された方法をそのまま実施することが唯一の正解であるとか,掲載例を実施すれば当然に十分であるという性質のものではない。
企業の規模,業種,地域,製品,取引構造及び人権リスクに応じた設計が必要である。

第3 人権方針を策定する

人権方針は,経営陣が企業としての基本姿勢を明確にし,社内外に示す文書である。
ガイドラインは,①企業のトップを含む経営陣で承認されていること,②企業内外の専門的な情報・知見を参照した上で作成されていること,③従業員,取引先及び関係者に対する人権尊重への企業の期待が明記されていること,④一般に公開され,社内外に周知されていること,⑤企業全体に定着させるために必要な事業方針・手続に反映されていることという要件を示している。

これに加え,実務上は次の項目の記載が考えられる。

① 国際的に認められた人権を尊重する旨
② 適用対象となる役員・従業員・事業活動の範囲
③ 取引先その他の関係者に対する期待
④ 人権デュー・ディリジェンス及び救済に取り組む旨
⑤ 最高責任者,所管部署及び取締役会・経営会議への報告経路
⑥ 定期的な見直しと情報開示

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産業医意見書の読み方――復職可・就業制限・口頭説明・再面談及び会社の最終判断(AI作成)

目次

第1 産業医意見書は復職日を自動的に決める文書ではない第2 意見書を読む順序1 判断の基準日と情報源2 結論と条件を分ける3 措置の期間と再評価時期第3 書面・口頭説明・本人申告・会社観察を分ける第4 短時間の面談と1日勤務の耐久性を分ける第5 体力回復プログラム・通勤訓練・試し出勤・正式復職の違い第6 再面談と会社の最終判断第7 会社が残す記録と健康情報の取扱い第8 よくある質問1 産業医が「大筋では問題ない」と述べた場合,復職させるべきか2 意見書に再面談日が書かれている場合,その日まで休業か3 本人がプログラムに同意すれば足りるか第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令に基づく指針2 厚生労働省の様式・手引き
第1 産業医意見書は復職日を自動的に決める文書ではない

産業医意見書は,労働者の健康状態と実際の職務を照合し,通常勤務,条件付き就業又は休業の継続について医学的見地から意見を示す重要な資料である。
しかし,「復職可」とあるだけで復職日,配属先及び具体的な就業条件が自動的に決まるわけではない。

会社は,意見書の作成時点,産業医が把握した仕事内容,判断の結論,必要な就業上の措置,措置を続ける期間及び再評価時期を確認し,本人の意向,主治医や産業医等の意見及び職場の意見を総合的に勘案して最終判断を行う(治療と就業の両立支援指針5(5)ウ)。
ただし,同指針は,事業主が一方的に判断しないよう,十分な話合い等を通じて本人の了解を得られるよう努めることを求めている。

「できる仕事から始める」「無理をさせない」といった表現は,対象作業,勤務時間,休憩,禁止作業,見直し日及び中止基準まで具体化して初めて実施可能な条件となる。

第2 意見書を読む順序
1 判断の基準日と情報源

最初に,面談日,意見書作成日及び会社が受領した日を分ける。
次に,産業医が確認した資料を確かめる。
本人との面談だけか,主治医の診断書,検査結果,服薬情報,勤務情報提供書,工程表又は職場巡視の情報まで確認したかによって,意見の前提は異なる。

産業医が想定した仕事が,実際の通常業務と一致しているかも重要である。
「製造業」「軽作業」「事務作業」という職種名だけでは,重量,姿勢,反復,移動,危険機械,運転,夜勤及び緊急時対応を評価できない。

2 結論と条件を分ける

次の区分は,手引きの様式例の「可・条件付き可・不可」を参考に,本記事が実務上整理したものである。

区分確認する内容通常勤務可従前業務を制限なく行える趣旨か,なお除外作業があるか条件付き就業可勤務時間,作業内容,重量,姿勢,危険作業,通院,休憩等の具体的条件現時点では就業不可休業を要する理由,再評価までに確認する事項及び見込み時期判断保留不足資料,追加検査又は試行で確認する事項

チェック欄に明確な選択がない場合や,本文の条件とチェック欄が整合しない場合は,空欄を会社に有利な結論へ補わず,産業医へ確認する。

3 措置の期間と再評価時期

短時間勤務,残業禁止,重量物回避その他の制限については,内容だけでなく開始日,予定期間及び見直し日を記録する。
再面談の予定日は,その日に必ず復職するという意味ではなく,次の判断に必要な情報をそろえて評価する日である。

第3 書面・口頭説明・本人申告・会社観察を分ける
情報意味と注意点産業医意見書産業医が書面に残した結論,条件及び再評価時期産業医の口頭説明書面の補足となり得るが,伝聞で意味が変わるおそれがある本人の申告症状,治療,生活状況及び復職意思を知る資料であるが,医学的所見そのものではない会社の観察歩行,面談時の応答等の事実を記録できるが,診断や1日勤務能力の判定ではない

口頭説明が重要な条件を含むときは,誰が,いつ,どのような質問に対して聞いたかを記録し,復職可否又は制限を左右する内容は産業医に書面で確認する。
会社担当者の要約を意見書の文言として扱わない。

第4 短時間の面談と1日勤務の耐久性を分ける

面談室まで歩けること,短時間座って話せること又は外見上の動作が改善したことは,有用な観察事実である。
しかし,通勤を含む1日の勤務,反復作業,午後の疲労,連日の勤務及び翌日までの回復を直接示すものではない。

身体負荷のある仕事では,連続可能時間,1日の累積負荷,休憩による回復,勤務後及び翌日の症状,予定外の動作・緊急時対応並びに週を通じた継続可能性を分けて確認する。

本記事は,危険機械,運転,高所作業又は重量物作業を,体力や機能を確かめるための試験にしない方向で整理する。

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フリーランス法と弁護士相談―行政への申出,無料相談及び和解あっせん(AI作成)

目次

第1 相談先の結論1 四つの目的を分ける2 最初に確認する三点第2 フリーランス法の対象になるか1 受注側の要件2 弁護士へ業務委託する場合第3 行政の相談と申出1 法の考え方について相談する場合2 法違反について行政の対応を求める場合3 申出と私法上の請求を分ける第4 フリーランス・トラブル110番1 無料の弁護士相談2 対象外と限界3 和解あっせん第5 個別に弁護士へ依頼する場合1 代理が必要な場面2 発注事業者が相談する場合第6 相談前に整理する資料1 事実の時系列2 契約と支払の資料第7 よくある質問1 フリーランス法は弁護士にも適用されるか2 フリーランス法の相談はどこにすればよいか3 110番へ相談せずに行政へ申し出られるか4 行政へ申し出れば未払報酬を必ず回収できるか5 フリーランス・トラブル110番の弁護士が代理人になるか6 発注事業者も相談できるか第8 関連記事第9 出典・参考資料
第1 相談先の結論
1 四つの目的を分ける

本記事は,令和8年10月30日現在の法令及び公表資料に基づき,フリーランス法に関する相談先を整理する。

相談先は,①法の解釈を確認する窓口,②法違反について行政の対応を求める申出,③フリーランス・トラブル110番による無料の弁護士相談及び和解あっせん,④請求・交渉・訴訟等を依頼する個別の弁護士に分けて選ぶ必要がある。

法違反か分からない段階では相談窓口を利用でき,行政機関の対応を求める場合は申出を選ぶことができる。

報酬の回収,相手方との交渉又は裁判手続まで代理してもらう必要がある場合は,フリーランス・トラブル110番の相談担当弁護士ではなく,別に弁護士へ委任する必要がある。

2 最初に確認する三点

最初に,①相談者が発注側か受注側か,②受注者がフリーランス法上の特定受託事業者に当たるか,③問題が取引条件・報酬・禁止行為に関するものか,就業環境に関するものかを確認する。

契約名が業務委託でも,働き方の実態がその発注事業者との関係で労働基準法上の労働者に当たる場合は,その関係ではフリーランス法の特定受託事業者に該当せず,労働関係法令の適用を検討する必要がある。

第2 フリーランス法の対象になるか
1 受注側の要件

フリーランス法上の特定受託事業者は,業務委託の相手方である個人であって従業員を使用しないもの,又は代表者一人以外に役員がなく従業員を使用しない法人である。

対象となる業種・業界の限定はなく,弁護士資格だけを理由に当然に対象外となるものではない。
公正取引委員会のQ&Aも,従業員を使用しない弁護士が企業から訴訟代理を受託する場合を対象例として挙げている。

「従業員を使用する」とは,原則として,週の所定労働時間が20時間以上であり,かつ,継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいう。
ただし,同居親族のみを使用する場合は該当しない(問16)。

派遣先として,週の所定労働時間が20時間以上であり,かつ,継続して31日以上労働者派遣の役務の提供を受けることが見込まれる派遣労働者を受け入れる場合も,「従業員を使用」に当たる。

2 弁護士へ業務委託する場合

企業との契約がフリーランス法上の業務委託に当たり,ほかの要件も満たす場合,従業員を使用しない個人弁護士は,訴訟代理,法律相談又は契約書作成等の受託について特定受託事業者となり得る。

詳しくは「フリーランス法は弁護士にも適用されるか―企業が訴訟代理・法律相談を委託する場合(AI作成)」を参照されたい。

契約当事者が弁護士法人で個人弁護士は担当者にすぎない場合は,その個人弁護士が企業から直接受託したとは限らないため,契約主体を確認する必要がある。

第3 行政の相談と申出
1 法の考え方について相談する場合

公正取引委員会は,フリーランス側か発注事業者側かを問わず,フリーランス法の考え方についての相談窓口を設けている。

取引条件の明示,報酬支払及び禁止行為等の第2章に関する相談は公正取引委員会の窓口へ,就業環境整備に関する第3章の相談は都道府県労働局へ問い合わせる。

相談窓口の回答だけで個別事案の最終的な法的評価が決まるとは限らないため,契約書,発注書及び実際の経過を整理して質問するのが適切である。

2 法違反について行政の対応を求める場合

特定受託事業者は,第2章に違反する事実があるときは公正取引委員会又は中小企業庁長官に,第3章に違反する事実があるときは厚生労働大臣に申し出て,適当な措置を求めることができる。

オンラインでは,公正取引委員会,中小企業庁及び厚生労働省に共通する申出受付フォームが設けられている。

(続きを読む...)フリーランス法と弁護士相談―行政への申出,無料相談及び和解あっせん(AI作成)

子会社管理とは―管理対象,親会社の事前承認・報告事項,関係会社管理規程及び監査(AI作成)

目次

第1 結論第2 子会社管理の法的な位置付け1 会社法上の子会社2 子会社は別法人である3 企業集団の内部統制第3 管理対象とリスクの棚卸し1 子会社台帳を作る2 管理項目を分類する3 重要性とリスクで濃淡を付ける第4 事前承認,協議及び報告の使い分け1 事前承認事項2 事前協議事項3 事後報告・定期報告事項第5 承認・報告事項と金額基準1 金額基準だけに依存しない2 累積取引と分割を捕捉する3 緊急時の事後承認と中止条件第6 関係会社管理規程と権限基準1 規程に置く事項2 子会社の機関決定を代替しない3 例外運用を記録する第7 モニタリングと内部監査1 日常管理と独立した確認を分ける2 内部監査の範囲3 取締役会等への報告第8 親会社取締役の責任と裁判例1 最高裁平成21年7月9日判決2 岡山地裁平成30年9月12日判決3 責任判断と実務設計を分ける第9 導入及び見直しの手順1 現状を可視化する2 リスク区分と管理類型を決める3 試行して見直す第10 実務チェックリスト第11 関連記事第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政資料・実務資料
第1 結論

子会社管理とは,親会社が,企業集団の方針とリスクに応じて,子会社の重要事項を把握し,必要な承認・報告・監査を行う仕組みである。
子会社の数だけで一律に管理方法が決まるものではなく,事業規模,業種,所在国,規制,財務的重要性,保有情報及び不祥事リスクを踏まえて設計する必要がある。

子会社は親会社とは別法人である。
そのため,親会社の事前承認やグループ方針があっても,法律又は定款上必要な子会社の株主総会,取締役会又は取締役の決定を当然に代替するものではない。
親会社は重要事項を把握して企業集団全体を監督し,子会社の役員は子会社のために必要な機関決定と判断を行うという二つの層を区別しなければならない。

実務上は,①管理対象となる子会社とリスクを棚卸しし,②事前承認,事前協議,事後報告及び定期報告を分け,③関係会社管理規程と権限基準に落とし込み,④例外運用を記録し,⑤内部監査その他の独立した確認によって運用を検証することが重要である。

第2 子会社管理の法的な位置付け
1 会社法上の子会社

会社法2条3号は,会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものを子会社と定義する。
会社法施行規則3条1項・3項は,財務及び事業の方針の決定を支配している場合をいうとし,議決権割合が過半数である場合のほか,40%以上(又は緊密な者等の議決権を合わせて過半数)であって,役員構成,支配契約,資金調達額等の要件に該当する場合を含めて判定する(支配していないことが明らかな場合等を除く。)。

したがって,子会社管理の対象を整理するときは,連結財務諸表上の範囲又は名称だけに依存せず,議決権,役員派遣,資金関係,契約関係及び実質的な意思決定への関与を確認する必要がある。

2 子会社は別法人である

親会社が子会社の全株式を保有していても,子会社は独立した法人である。
取締役会設置会社では,取締役会が業務執行の決定,取締役の職務執行の監督及び代表取締役の選定・解職を行い,重要な財産の処分・譲受け,多額の借財その他の重要な業務執行の決定を取締役へ委任できない(会社法362条2項及び4項)。
取締役会を置かない会社では,原則として取締役が業務を執行する(会社法348条)。

また,子会社の取締役は,法令,定款及び株主総会決議を遵守し,子会社のため忠実に職務を行う義務を負う(会社法355条)。
親会社の指示又は承認があることだけで,子会社役員の善管注意義務又は忠実義務の問題がなくなるわけではない。

3 企業集団の内部統制

大会社である取締役会設置会社の取締役会は,取締役の職務執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備を決定しなければならない(会社法362条4項6号及び5項)。
会社法施行規則100条1項5号は,当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するための体制を掲げ,同号ロは子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制,同号イは子会社の取締役等から親会社への職務執行の報告に関する体制を定めている。

この規定は,全ての企業集団に同じ承認事項又は同じ組織を要求するものではない。
会社の規模,事業内容,リスク及びグループ構造に応じて,実効性のある仕組みを設計する必要があり,体制の整備を決定した後の運用の監督は,取締役の善管注意義務及び監視義務の問題として求められる。

第3 管理対象とリスクの棚卸し
1 子会社台帳を作る

最初に,子会社ごとに,商号,所在地,事業内容,持株比率,機関設計,役員,従業員数,売上高,総資産,借入・保証,主要許認可,重要契約,個人情報・営業秘密の取扱い,情報システム及び内部監査の状況を一覧化する。
海外子会社については,現地法,外為・制裁,贈収賄,労務,税務及び送金規制も確認する。

台帳は会社の存在を記録するだけの名簿ではない。
承認・報告事項の閾値,監査頻度,担当部門及び有事連絡先を決める基礎資料として更新する必要がある。

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自己破産の免責不許可事由とは―11の類型,裁量免責及び申立前後の注意点(AI作成)

目次

第1 免責不許可事由とは1 破産手続と免責手続は別の手続である2 免責不許可事由があっても申立てはできる第2 破産法252条1項の11類型第3 問題になりやすい行為1 ギャンブル,投機及び浪費2 クレジットカードの現金化3 家族や知人だけへの返済4 財産や債権者を申告しないこと第4 裁量免責1 免責不許可事由があっても必ず不許可になるわけではない2 判断で考慮され得る事情第5 免責不許可事由と非免責債権の違い第6 申立前後にしてはならないこと,しておくこと1 独断で財産処分や一部返済をしない2 資料を捨てず,取引履歴を保存する3 不利な事実も最初から正確に伝える第7 よくある質問1 免責不許可事由があると必ず免責されないのか2 ギャンブルや浪費の借金でも自己破産できるのか3 カード現金化は免責不許可事由か4 特定の債権者だけに返済するとどうなるか5 過去7年以内に免責を受けていても申し立てられるのか6 免責不許可になったらどうなるのか7 免責不許可事由と非免責債権は同じか第8 まとめ第9 関連する一次資料・記事1 一次資料2 当ブログの関連記事
第1 免責不許可事由とは

自己破産を申し立てても,すべての場合に当然に借金の支払責任がなくなるわけではない。
破産法252条1項は,免責を許可しない原因となり得る11の「免責不許可事由」を定めている。

もっとも,免責不許可事由が一つでもあれば必ず免責されないわけではない。
裁判所は,破産に至った経緯,申立後の説明や協力,生活再建の状況など一切の事情を考慮し,裁量で免責を許可できる。
本記事では,11の類型,裁量免責,非免責債権との違い及び申立前後の注意点を整理する。

1 破産手続と免責手続は別の手続である

破産手続は,債務者の財産を調査・換価し,法律に従って債権者へ配当するための手続である。
これに対し,免責手続は,破産手続による配当を除いて,破産債権についての支払責任を免れさせるかを判断する手続である。

破産手続開始決定を受けただけでは,当然に支払責任がなくなるわけではない。
免責許可決定が確定して,初めて免責の効力が生じる。

2 免責不許可事由があっても申立てはできる

免責不許可事由は,自己破産の申立てそのものを禁止するものではない。
申立後,裁判所又は破産管財人が事情を調査し,裁判所が免責を許可するかを判断する。

千葉地方裁判所の説明書も,浪費やギャンブル等があると免責が許可されない場合がある一方,事情によっては裁判所の判断で免責を許可する場合があり,真実を明らかにすることが大切であると説明している。

第2 破産法252条1項の11類型
類型主な内容典型例・注意点①財産の不当な減少債権者を害する目的で,財産を隠す,壊す,債権者に不利益な処分をするなど,破産財団の価値を不当に減らす預金・現金・自動車等を申告しない,名義を移す②不利益な債務負担等破産を遅らせる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引で買った商品を著しく不利益な条件で処分する著しく高利の借入れ,クレジットカードで買った商品を安く換金する③不当な偏頗弁済等特定の債権者に特別の利益を与える目的等で,義務に属しない返済・担保提供をする親族・知人だけに期限前返済する④浪費・賭博等浪費,賭博その他の射幸行為で財産を著しく減らし又は過大な債務を負うギャンブル,投機,過度な買物・飲食等⑤詐術による信用取引申立ての1年前の日から開始決定までの間に,破産手続開始の原因があることを知りながら,それがないと信じさせる詐術で信用取引により財産を得る収入や借入残高を偽った借入れ⑥帳簿等の隠滅・偽造等業務・財産に関する帳簿や書類等を隠す,偽造する,変造する帳簿,通帳資料,取引記録を捨てる・書き換える⑦虚偽の債権者名簿虚偽の債権者名簿を提出する意図的に債権者を除外し又は架空債権を記載する⑧説明拒否・虚偽説明裁判所の調査で説明を拒み又は虚偽の説明をする資金使途や財産処分について事実と異なる説明をする⑨管財人等の職務妨害不正な手段で破産管財人等の職務を妨げる資料を隠す,関係者へ虚偽説明を求める⑩7年以内の再度免責等前の免責確定等から7年以内に再び免責を申し立てる過去の免責確定日等の確認が必要⑪法律上の義務違反説明義務,重要財産開示義務,調査協力義務等に違反する呼出しに応じない,必要資料を出さない

条文上は,目的,時期,程度その他の要件が類型ごとに異なる。
単に特定の債権者へ返済したことや,娯楽に支出したことだけで,直ちに免責不許可事由に該当すると決まるわけではない。
金額,時期,家計に対する割合,破産状態の認識,行為の目的等を具体的に確認する必要がある。

第3 問題になりやすい行為
1 ギャンブル,投機及び浪費

競馬,競艇,パチンコ等の射幸行為,オンラインカジノ等の賭博,FX・暗号資産等への過度な投機,収入に見合わない買物や飲食等により,財産を著しく減少させ又は過大な債務を負担した場合は,4号が問題になる。

重要なのは,取引履歴,期間,総額,借入れとの関係及び現在の中止状況を資料に基づいて説明することである。
履歴を削除したり,金額を少なく説明したりすると,別の免責不許可事由まで問題となり得る。

2 クレジットカードの現金化

カードで商品を購入して直ちに安価で転売する行為は,破産手続の開始を遅らせる目的があるなどの要件を満たす場合,2号の不利益な処分に該当し得る。
千葉地方裁判所の説明書も,カードで購入した商品を直ちに安値で転売・質入れする場合を例示している。

3 家族や知人だけへの返済

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LPガスの解約時に設備費用を請求できるか―最高裁令和7年12月23日判決と消費者契約法9条(AI作成)

目次

第1 結論と判決の位置付け1 最高裁の結論2 現在の消費者契約法との関係第2 最高裁判決の事案1 LPガス供給契約と設備費用条項2 設備費用とガス料金との関係第3 最高裁の判断1 解除に伴う違約金等条項に当たること2 平均的な損害が零円とされた理由3 判決の射程4 三部料金制との関係第4 同日の配管付合判決との違い第5 消費者が確認する事項第6 事業者が契約書と料金体系を確認する事項第7 消費者契約法見直しとの関係第8 関連記事第9 出典
第1 結論と判決の位置付け
1 最高裁の結論

最高裁令和7年12月23日第三小法廷判決(令和6年(受)第204号・民集79巻8号2869頁)は,戸建て住宅のLPガス供給契約を供給開始から10年未満で終了する場合に,配管等の設置費用に関する所定額を消費者が支払う旨の条項について,消費者契約法9条1項1号の対象となる違約金等条項に当たり,その全部が無効であると判断した。

ただし,同判決は,設備費用とガス料金との関係が明確でなかったこと等を前提とする事例判断である。
LPガス契約を解約すれば,どのような設備費用も常に請求できないという意味ではない。
条項の文言,設備の所有関係,設備費用とガス料金との関係,契約時の説明及び請求額の算定方法を確認する必要がある。

2 現在の消費者契約法との関係

判決が適用したのは改正前の消費者契約法9条1号であるが,現在は同条1項1号に相当する。
同号は,消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の合計額が,同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える場合に,その超過部分を無効とする。

第2 最高裁判決の事案
1 LPガス供給契約と設備費用条項

事案では,LPガス事業者が戸建て住宅へ配管等を設置し,消費者とLPガス供給契約を締結した。
契約書には,供給開始から一定期間内に契約が終了した場合,経過年数に応じて設備費用に関する所定額を消費者が支払う旨の条項があった。

契約終了後,事業者がこの条項に基づく支払を求めたため,条項が消費者契約法9条1項1号により無効となるかが争われた。

2 設備費用とガス料金との関係

最高裁が重視したのは,条項の名称だけではなく,契約の実質である。
事案では,設備費用がガス料金によってどのように回収されるのか,毎月のガス料金のうちどの部分が設備費用に対応するのか,契約終了時の所定額が未回収分とどのように対応するのかが明確ではなかった。

第3 最高裁の判断
1 解除に伴う違約金等条項に当たること

最高裁は,契約終了時に支払を求める設備費用条項を,単に既に発生していた独立の設備代金を精算する条項とは扱わなかった。
契約が一定期間内に終了したことによって支払義務が生じる仕組みに着目し,消費者契約法9条1項1号の「解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たるとした。

したがって,契約書で「設備費用」「貸付配管費用」等の名称を用いていても,解除又は契約終了を条件として支払義務が生じるのであれば,実質に応じて同号の適用を検討する必要がある。

2 平均的な損害が零円とされた理由

最高裁は,本件と同種の契約ではLPガスの価格に法令上の規制がなく,事業者がガス料金を自由に設定でき,設備費用の未回収リスクを見越して契約者全体の料金を設定できること,設備費用とガス料金との関係が明確でないこと等を考慮した。
その上で,同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害に当たり得るものは見当たらないとした。

この事案では平均的な損害が零円であるため,所定額のうち平均的な損害を超える一部だけでなく,条項に基づく請求額の全部が無効となった。

3 判決の射程

判決は,設備費用とガス料金との関係が不明確であった契約を前提としている。
設備代金がガス供給契約とは別の売買又は工事契約として明確に合意され,金額,支払方法,所有権及び中途精算方法が具体的に定められている場合まで,同じ結論になるとは限らない。

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試し出勤とは―復職前の流れ,期間,給与及び復職判断の基準(AI作成)

目次

第1 試し出勤とは何か1 結論2 通勤訓練及び模擬出勤との違い第2 試し出勤から復職までの流れ1 本人の申出と主治医の情報2 会社が実施の可否と計画を決める3 実施中の記録と見直し4 復職の判断と復職後の支援第3 試し出勤の期間と進め方1 一律の法定期間はない2 段階的に負荷を上げる場合第4 試し出勤中の給与,労災及び傷病手当金1 給与は名称ではなく実態で決まる2 労災と傷病手当金も個別に確認する第5 復職判断で確認する基準1 一回の成功又は中止だけで決めない2 疾患名ではなく機能と職務を照合する3 必要な配慮を含めて判断する第6 よくある質問1 試し出勤は復職扱いですか2 試し出勤は必ずしなければなりませんか3 主治医が復職可能と書けば会社は復職させなければなりませんか4 試し出勤は何日できれば合格ですか5 試し出勤中は無給ですか6 試し出勤に失敗すると退職になりますか第7 開始前の確認項目第8 出典・参考資料1 法令及び指針2 厚生労働省等の資料
第1 試し出勤とは何か
1 結論

本記事でいう試し出勤とは,長期間休業していた社員の円滑な職場復帰を支援するため,正式な復職決定の前に,勤務時間又は勤務日数を短縮して試験的に出勤する会社の自主的な制度である。
法律で全国一律の期間,回数又は合格基準が決められている制度ではない。
会社は,就業規則等の制度根拠と個別の実施計画を整え,本人,主治医,産業医等及び職場の情報を組み合わせて復職可否を判断する必要がある。

正式な復職決定後の短時間勤務,残業制限又は業務軽減は,通常の就労を前提とする復職後の配慮であり,本記事でいう復職前の試し出勤とは区別する。

試し出勤の目的は,社員を一回の出勤で合格又は不合格にすることではない。
通勤を続けられるか,予定時間を安定して過ごせるか,作業後の疲労が翌日までに回復するか,どのような配慮があれば働けるかなど,診察室だけでは分からない具体的な事実を安全に確認することにある。

本記事は,民間企業の私傷病休職からの復職を主な対象とし,令和8年10月30日現在の法令及び公表資料に基づいて,試し出勤の意味,復職までの流れ,期間,給与及び復職判断の基準を説明する。

2 通勤訓練及び模擬出勤との違い

厚生労働省の職場復帰支援の手引きは,正式な職場復帰決定前の取組を,①図書館やデイケア等で軽作業を行う模擬出勤,②自宅から職場付近まで移動して帰宅する通勤訓練,③本来の職場等へ試験的に継続して出勤する試し出勤に分けている。

この手引きは心の健康問題により休業した労働者を対象とする資料である。
他の私傷病については,令和8年の治療と就業の両立支援指針を基本とし,症状,治療,職務及び安全上の特性に応じて,この三分類及び復職支援の手順を参考にする。

通勤訓練は,決めた時刻に起きて通勤経路を移動できるかを確認する方法であり,通常は会社の仕事をしない。
職場での試し出勤では,滞在時間,行う活動,指揮命令の有無及び会社が成果を利用するかを明確にしなければならない。
名称が「リハビリ出勤」又は「慣らし勤務」であっても,実際の取扱いは内容に即して判断される。

第2 試し出勤から復職までの流れ
1 本人の申出と主治医の情報

令和8年4月1日から適用された厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」は,治療と就業の両立支援を,本人から支援を求める申出があったことを端緒に進めることを基本としている。
本人は,会社から職務内容や勤務条件の情報を受け,主治医に,現在の症状,治療予定,通勤及び業務に影響する症状や副作用,就業の可否並びに望ましい配慮について意見を求める。

主治医の「復職可能」という一文だけでは,具体的な職務に耐えられるかを判断できないことがある。
会社は,予定する勤務時間,作業内容,出張,夜勤,運転,危険作業等を主治医に伝え,どの活動を避けるべきか,制限をどのくらい続けるか,再評価時期はいつかを確認するのが望ましい。

2 会社が実施の可否と計画を決める

会社は,主治医の意見,本人の希望,産業医等の意見及び職場の状況を踏まえ,試し出勤を実施するかを決める。
全ての休職者に試し出勤を義務付けるのではなく,何を確認する必要があり,試し出勤によってその不確実性を減らせるかを検討する。

実施する場合は,開始前に,①目的,②休職中か正式復職後か,③開始日及び終了予定日,④出勤日,時間及び場所,⑤行う活動と禁止する業務,⑥給与及び交通費,⑦事故時の対応,⑧健康情報を扱う者,⑨中止・変更基準,⑩評価日及び復職判断の手続を文書にするのが望ましい。

3 実施中の記録と見直し

実施中は,「意欲がない」「問題行動があった」といった評価語ではなく,到着時刻,滞在時間,行った活動,休憩,症状,作業後及び翌日の回復状況等の事実を記録する。
体調が悪化した場合は,直ちに失敗と扱わず,計画どおり中止又は負荷を下げ,原因と再実施の可否を検討する。

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会社のパソコンに無断でソフトやアプリを入れた社員への対応―懲戒処分の有効性,損害賠償の限度及び会社が先に整えること(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論第2 無断インストールで問題になること1 安全の問題2 権利の問題3 使わなくなったソフトの放置第3 発覚したときに最初に行うこと第4 懲戒処分の根拠と相当性1 就業規則の定めと周知2 処分の重さを決める事情第5 裁判例1 規則も注意もなかった事案で減給が無効とされた例2 注意・指導がなかった点が考慮された例3 実害と繰り返しの有無が考慮された例4 三つの判決から読み取れること第6 損害賠償の請求1 請求できる額は信義則上相当な限度に限られる2 給料から一方的に差し引くことは原則としてできない3 取引先や顧客に損害が生じた場合第7 会社が先に整えること第8 関連する山中弁護士ブログの記事第9 出典1 法令2 裁判例3 公的資料等
第1 本記事の対象と結論
1 対象

本記事は,会社が貸与したパソコンやスマートフォンに,社員が会社の許可なく,業務と関係のないソフトやアプリを入れた場面を扱う。
例えば,画面の装飾(第2の1の4コマ漫画)やチャット(第5の1の裁判例)のためのソフト,動画再生ソフト,ブラウザーの拡張機能等が考えられる。
社員の私物の機器や個人のサービスを業務に使う場面は,社員が私用LINE・私物USB・個人メールで会社の情報を扱ったときで扱っている。
法令は令和8年10月30日時点の e-Gov 法令検索の条文により,裁判例は裁判所ウェブサイト又は判例秘書で本文を確認したものに限って紹介する。

2 結論

① 発覚したら,まずソフトを止めて記録を残し,ウイルスの感染や情報の流出がないかを確かめる。
処分を考えるのはその後である。

② 懲戒処分をするには,就業規則に懲戒の種別及び事由が定められ,社員に周知されている必要がある。
処分の重さは,行為の性質及び態様その他の事情に照らして相当でなければならず,相当性を欠く処分は無効になる(労働契約法15条)。

③ 裁判例では,パソコンの取扱いの規則がなく,注意や警告もされていなかった事案で減給処分が無効とされている。
他方で,セキュリティソフトを故意に繰り返し止めた行為は,解雇を有効とする事情の一つとされている。

④ 会社に損害が生じても,社員に請求できる額は,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限される。
給料から一方的に差し引くことも,原則としてできない(労働基準法24条1項本文)。

⑤ 会社の側にも,個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じ,個人データを扱う従業者を監督する義務がある(個人情報の保護に関する法律23条・24条)。
規則を定めて周知し,最初の発見時に注意を記録に残しておくことが,後の処分の有効性を支える。

第2 無断インストールで問題になること
1 安全の問題

NTT西日本の情報サイト「Biz Clip」の4コマ漫画(令和6年4月25日公開)は,新入社員が貸与パソコンの画面を好みのデザインにしようとフリーソフトを無断で入れ,それが不審な挙動として検知され,上司に叱られても理由が分からない,という場面を描いている。
無料のソフトであっても,会社の機器に入れれば,このように不審な挙動として検知されたり,サポートの終了後も更新されないまま残ったり(第2の3)することがある。
また,会社がどの機器に何が入っているかを把握できなくなると,第7で見る台帳による管理も成り立たなくなると考えられる。

2 権利の問題

ソフトの利用を許諾された者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において利用することができる(著作権法63条2項)。
「個人利用に限り無料」等の条件のソフトを業務に使えば,条件の範囲外の利用になるおそれがある。
ライセンスの数を超えた複製や不正にコピーされたソフトの使用について,会社が権利者から賠償を求められた裁判例は,ソフトの違法コピー・ライセンス数超過の損害賠償はいくらかで扱っている。

3 使わなくなったソフトの放置

同じサイトの別の記事(令和7年10月7日公開)は,入れたまま使われなくなったアプリが,サポートの終了後も残ることの危険を指摘している。
例えば,Adobe は,Flash Player のサポートを令和2年12月31日に終了し,令和3年1月12日以降は Flash Player での Flash コンテンツの実行をブロックした上で,すべての利用者に対し,システムを保護するために直ちにアンインストールすることを強く推奨している。

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ソフトの違法コピー・ライセンス数超過の損害賠償はいくらか―大阪地裁の3判決と著作権法113条5項・114条(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論第2 無料のソフトの利用条件第3 違法な複製になる場面1 許諾された台数を超えるインストール2 不正にコピーされたソフトの購入と使用3 社員が無断で入れた場合第4 賠償額の算定の仕組み第5 裁判例1 大阪地裁平成15年10月23日判決(標準小売価格と同額)2 大阪地裁平成28年3月24日判決(ライセンス料×台数)3 大阪地裁令和4年9月29日判決(違法複製の立証がなく棄却)4 三つの判決から読み取れること第6 会社が確認しておくこと第7 関連する山中弁護士ブログの記事第8 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 対象

本記事は,会社が業務で使うソフトについて,許諾された台数を超えてインストールした場合,不正にコピーされたソフトを買って使った場合,無料のソフトを利用条件の範囲外で使った場合に,ソフトの権利者からどのような請求を受け得るかを扱う。
法令は令和8年10月30日時点の e-Gov 法令検索の条文により,裁判例は裁判所ウェブサイト又は判例秘書で本文を確認したものに限って紹介する。

2 結論

① 著作者は,その著作物を複製する権利を専有する(著作権法21条)。
許諾された台数を超えてプログラムをインストールすることは,複製権の侵害になり得る。

② 賠償額については,故意又は過失により著作権を侵害した者に対し,著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できる(同法114条3項)。
大阪地裁の裁判例は,正規品の標準小売価格(平成15年判決。同年改正前の114条2項による)や,1台当たりのライセンス料に台数を掛けた額(平成28年判決)を基準に損害を算定している。

③ 平成15年判決は,標準小売価格の2倍の賠償を認めず,後から正規品を買っても既に生じた損害は填補されないとした。
利用期間に応じて損害を減らす主張は,平成15年判決と平成28年判決のいずれも採用しなかった。

④ 不正にコピーされたプログラムを業務上使用する行為は,そのプログラムを使用する権原を取得した時に情を知っていた場合に限り,著作権の侵害とみなされる(同法113条5項)。

⑤ 他方で,権利者の側も違法な複製を立証する必要があり,証拠がないとして請求が棄却された例もある。

第2 無料のソフトの利用条件

著作権者は,他人に対し,その著作物の利用を許諾することができ,許諾を得た者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において,その著作物を利用することができる(著作権法63条1項・2項)。
ソフトの使用許諾契約は,この許諾の範囲を定めるものである。

無料で配布されているソフトでも,利用規約等で「個人の非商用利用に限る」といった条件が付されていれば,その条件の範囲外での利用は,63条2項の許諾の範囲外の利用になるおそれがある。
会社で使う前には,配布元の利用規約やライセンスの文書で,商用・法人での利用が認められているか,台数や利用者の数に制限があるかを確かめ,その写しと確認日を残しておくことが考えられる。

第3 違法な複製になる場面
1 許諾された台数を超えるインストール

ライセンス契約で許された台数を超えてプログラムをパソコンにインストールすれば,許諾の範囲外の複製になる。
第5の1の大阪地裁平成15年10月23日判決は,プログラムの複製数と保有するライセンスの数との差を違法な複製と捉えて損害を算定している。
また,今回のバージョンのライセンスを受けずに不正コピー品をインストールした事案で,大阪地裁平成28年3月24日判決は,その行為について,「著作権者である原告からライセンスを受けずに,すなわち利用許諾を受けずになされたものであるから,複製権を侵害する違法な行為である」とした。
同判決は,被告が以前に古いバージョンのライセンスを受けていたことから,今回のインストールについてライセンスが必要であったことを認識していたと認め,少なくとも過失があることは明らかであるとした。

2 不正にコピーされたソフトの購入と使用

プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物を業務上電子計算機において使用する行為は,これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知っていた場合に限り,当該著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条5項)。
極端に安い価格や,正規の販売経路でない出品等,不正なコピーであることを疑わせる事情がある場合には,購入しないことが基本になる。

3 社員が無断で入れた場合

会社の機器に社員が無断でソフトを入れた場合も,会社の業務に使われていれば,権利者との関係で会社の責任が問題になり得る。

(続きを読む...)ソフトの違法コピー・ライセンス数超過の損害賠償はいくらか―大阪地裁の3判決と著作権法113条5項・114条(AI作成)

AIで商標調査はどこまでできるか―J-PlatPat,称呼検索,類似群コード及び人が判断する事項(AI作成)

目次

第1 結論1 AIが補助できること2 人が判断すべきこと第2 商標調査は名称だけの検索ではない1 商標と商品・役務を組み合わせて調べる2 登録可能性と使用リスクを分ける第3 J-PlatPatで行う基本的な調査1 商品・役務を具体化する2 表記・読み方を広げて検索する3 称呼検索と類似群コードを使う4 各案件の経過情報まで確認する第4 AIに任せやすい作業1 検索語と称呼候補の展開2 商品・役務と類似群コードの候補整理3 検索結果と調査記録の整理第5 AI商標調査の限界1 検索漏れと架空情報2 区分と類似群コードの誤解3 未登録の表示と他の権利4 情報の時点と秘密管理第6 人による法的評価1 識別力2 先行商標との類否3 出願・使用・応答の判断第7 実務での安全な使い方1 調査表を先に作る2 検索ログと根拠を残す3 人の確認を必須にする第8 調査結果の読み方第9 判例・データベースの確認状況第10 出典・参考資料
第1 結論
1 AIが補助できること

AIは,候補商標の表記揺れ,読み方及び検索語を広げ,商品・役務の区分又は類似群コードの候補を整理し,J-PlatPatの検索結果を比較表にまとめる作業を補助できる。

また,調査対象,検索式,検索日,ヒットした案件及び除外理由を同じ様式で記録する作業にも向いている。

2 人が判断すべきこと

AIだけで「登録できる」,「他人の権利を侵害しない」又は「使用して安全である」と結論付けることはできない。

商標の識別力,先行商標との類否,指定商品・指定役務の範囲,取引の実情及び不使用取消し等を含む対応方針は,原資料を確認した人が判断すべき事項である。

第2 商標調査は名称だけの検索ではない
1 商標と商品・役務を組み合わせて調べる

商標権の範囲は,登録された標章だけでなく,指定商品又は指定役務と組み合わせて定まる。

したがって,候補名称だけを検索してヒットの有無を見る方法では不十分であり,実際に提供する商品・役務,販売方法,利用者及び将来の事業展開を具体化した上で調べる必要がある。

2 登録可能性と使用リスクを分ける

特許庁に登録される可能性を調べることと,候補商標の使用が他人の権利を侵害する危険を調べることは,同じではない。

登録可能性の検討では商標法3条及び4条等が中心となる一方,使用リスクの検討では,登録商標の権利範囲,周知・著名表示,不正競争防止法,商号,著作権,ドメイン名その他の事情も問題となり得る。

第3 J-PlatPatで行う基本的な調査
1 商品・役務を具体化する

最初に,現在提供する商品・役務と,将来追加する可能性のある商品・役務を分けて書き出す。

国際分類の区分は出願書類を整理する枠組みであるが,同じ区分であることだけで商品・役務が類似すると決まるものではなく,異なる区分でも類似と扱われる場合がある。

2 表記・読み方を広げて検索する

文字商標では,完全一致だけでなく,漢字,ひらがな,カタカナ,ローマ字,長音の有無,濁音・半濁音,略称,語順及び分かち書きの違いを考慮する。

図形を含む商標又は結合商標は,文字部分だけを取り出した検索で終わらせず,構成全体と要部の双方を確認する。

3 称呼検索と類似群コードを使う

特許庁は,J-PlatPatの「称呼(類似検索)」によって,読み方が類似する可能性のある商標を検索できると案内している。

商品・役務については,特許庁の類似商品・役務審査基準が,類似すると推定する商品・役務をグループ化し,類似群コードを付している。

称呼検索と類似群コードは候補を絞る有力な道具であるが,検索結果に表示されたこと又は同じコードが付されたことだけで,最終的な商標の類否が決まるわけではない。

4 各案件の経過情報まで確認する

検索結果の一覧だけでなく,各商標の出願人・権利者,出願日,登録日,指定商品・指定役務,存続期間,拒絶・登録・消滅等の経過情報を開いて確認する。

J-PlatPatの情報には反映までの時間差があり得るため,重要案件では登録原簿,包袋その他の最新資料の確認が必要となる。

第4 AIに任せやすい作業

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証券口座を乗っ取られたら―補償の確認,証拠保存と相談の進め方(AI作成)

目次

第1 最初に証券会社へ連絡し,口座の状態を確認する第2 ログイン履歴,取引記録と連絡の経過を残す第3 補償は申し合わせと各社の条件を分けて読む第4 不正な売買の総額を損失額と取り違えない第5 警察と相談窓口へ持参する情報を整理する第6 認証情報を見直し,補償を装う連絡にも注意する第7 関連する個別事案
第1 最初に証券会社へ連絡し,口座の状態を確認する

証券口座で身に覚えのない売買や出金を見つけたら,まず証券会社の公式窓口へ連絡し,被害拡大を防ぐ手続と,記録の保存を進める必要がある。
補償については,業界の申し合わせ,各社の個別の方針,自分の取引についての回答を分けて確認することが大切である。
本記事は令和8年10月30日を基準に,金融庁,日本証券業協会,警察庁等の公表に沿って対応を整理する。

不審なメールやSMSのリンクからではなく,あらかじめ登録した公式サイトや公式アプリなど,正規の経路で証券会社の連絡先を確認する。
金融庁の注意喚起も,メール等のリンクを使わず,公式サイトをブックマークして利用することを求めている。

連絡時には,身に覚えのない取引を発見した日時,口座,取引の内容,現在ログインできるかを伝えると整理しやすい。
取引や出金の停止,口座の保護,認証情報の変更について,利用できる手続とその影響を確認することを勧める。
ログインできない場合も,自力での復旧に時間を費やさず,証券会社へ連絡する。

口座から外部への出金がなくても,被害がないとは限らない。
金融庁は,保有株式等を勝手に売却し,その代金で国内外の小型株等を買い付ける手口を説明している。
出金履歴だけでなく,売買履歴,注文,保有銘柄の変化も確認する必要がある。

第2 ログイン履歴,取引記録と連絡の経過を残す

警察庁の不正アクセス対策は,確認できるログイン履歴の保存・印字と,サービス提供会社とのメール等の保存を案内している。
証券会社への連絡を遅らせず,手元で確認できる範囲の記録を並行して残しておく。

相談用の整理方法として,①不審なログインや通知,②身に覚えのない注文・約定・出金,③その前後の残高・保有銘柄,④証券会社との連絡,⑤被害前の認証設定や心当たりのあるメール,を時系列にまとめることを勧める。
これは相談を円滑にするための整理例であり,この資料が全てそろわなければ連絡や相談ができないという条件ではない。

画面を保存する際は,日時,対象口座,取引内容が分かる状態で残し,取引報告書等の原本データも保管するとよい。
電話については,連絡日時,担当部署,受付番号,伝えた内容と回答をメモしておくと,後の説明に役立つ。
推測した侵入原因と,自分が実際に確認した出来事は,分けて記載する。

第3 補償は申し合わせと各社の条件を分けて読む

日本証券業協会が令和7年5月2日に公表した10社の申し合わせは,同年1月以降の今般のフィッシング詐欺等による不正アクセス等について,約款等の定めにかかわらず,一定の被害補償を行う方針を示した。
一方,顧客のID・パスワード等の管理状況と,証券会社の注意喚起等を含む対策などを勘案し,個別の事情に応じて対応するとしている。
全ての証券会社が,あらゆる時期・原因の被害を無条件に全額補償するという内容ではない。

自分の利用する会社について,対象となる期間・取引・被害,申出の期限と方法,提出資料,損失の計算,補償の条件を,最新の公式案内で確認する。
回答が分かりにくい場合は,自分の取引のどの部分が対象又は対象外とされたのか,理由と計算の内訳を説明してもらうと,検討すべき点が具体的になる。

企業が任意に示す補償方針の紹介と,個別事件の法律上の請求が認められるかという判断は,分けて検討する必要がある。
本記事の一般的な手順だけから,証券会社の法的責任や,自分の請求額が確定するわけではない。
回答に納得できない場合は,契約・取引記録と会社の回答をそろえ,個別の相談へ進むことが考えられる。

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GMOサイバー攻撃は何罪か―恐喝未遂・不正アクセス・FX不正取引を分ける(AI作成)

目次

第1 公表事実,攻撃者の主張及び法律上の評価を分ける1 会社が認めたことと,まだ推定できないこと2 成立し得る罪の見取り図第2 金銭を払っていなくても恐喝未遂罪が問題になる1 情報公開を材料とする金銭要求2 脅迫罪・強要罪との関係第3 不正アクセスと認証情報の取得は別々に検討する1 不正アクセス禁止法の要件2 盗んだパスワードをまだ使っていない場合第4 マルウェアと業務妨害は,検出だけで決めない1 不正指令電磁的記録に関する罪2 電子計算機損壊等業務妨害罪第5 FX口座の不正取引と電子計算機使用詐欺罪1 損失の発生と,不法な利益の取得は別の要件2 取引記録の不正作成・供用第6 関与者,罪数及び情報拡散の評価1 関与した全員に同じ罪が成立するわけではない2 会社の警告と,個々の投稿の違法性第7 被害の記録と,今後の公表を読むときの確認事項

「お名前.com デスクトップクラウド」へのサイバー攻撃では,侵入,情報の取得,金銭の要求及びFX口座の不正取引を分けて犯罪の成立を検討する必要がある。
身代金を受け取っていなくても恐喝未遂罪が問題になり得るが,会社の公表だけから全ての罪の成立や実行者の身元を確定することはできない。

本記事は,令和8年10月30日を基準として,GMOインターネットの公表と日本の刑罰法規から,何が確認されればどの罪が問題になるかを整理する。
個別事件についての起訴内容や裁判所の認定を紹介するものではなく,以下の当てはめは公表事実を前提とする条件付きの検討である。

第1 公表事実,攻撃者の主張及び法律上の評価を分ける
1 会社が認めたことと,まだ推定できないこと

GMOインターネットは,第2報で悪意あるプログラムの検出とサーバー停止の経緯を説明し,第4報ではセキュリティ上の問題,不正アクセス及び顧客情報の外部流出を認めている。
第4報には,一部の利用者から不正取引の報告を受けたことも記載されているが,個々の取引の実行者,権限の使われ方及び利益の帰属は,別に確かめる必要がある。
出典:第2報,第4報。

2万6739台という数は,不正アクセスの影響を受けた可能性があるサーバーの数である。
全台の情報流出や,その数の利用者の被害が確認されたという意味ではない。
70社以上の証券・FX会社に関する記述も,攻撃者の要求・主張を紹介する文脈を外し,全社のシステムへの侵入が確認されたという意味に読み替えることはできない。

第14報は,調査を進めている利用者の手元のPCについて,マルウェアやランサムウェアの痕跡が確認されていないと説明している。
侵害されたクラウド環境と,調査した手元のPCは別の対象であり,クラウド側での検出と直ちに矛盾するものではない。
出典:第14報。

2 成立し得る罪の見取り図
行為主に検討する罪個別に確認すべきこと無断で認証を突破し,利用できる状態にする不正アクセス禁止法違反アクセス制御,ネットワーク経由の操作,承諾の有無金銭を払わなければ情報公開等をすると告げる恐喝罪・恐喝未遂罪要求と害悪告知の内容,相手への到達,財物・利益の交付との関係マルウェアを作成・提供・実行させる不正指令電磁的記録に関する罪プログラムの内容,目的,作成・提供・供用等の行為コンピューターの正常な処理を妨げる電子計算機損壊等業務妨害罪異常な処理,業務妨害,両者の因果関係無断の取引等により自分又は他人に財産上の利益を得させる電子計算機使用詐欺罪等不実の記録,財産上の利益の取得及び故意権利義務等の証明に使う記録を不正に作成・使用する電磁的記録不正作出・供用罪記録の性質,事務処理を誤らせる目的,作出・供用の事実

この表は,現在分かっている罪名を積み上げたものではない。
同じ事件でも,侵入した者,マルウェアを提供した者,金銭を要求した者及び不正取引をした者が同一かどうかを確認する必要がある。

第2 金銭を払っていなくても恐喝未遂罪が問題になる
1 情報公開を材料とする金銭要求

刑法249条は,人を恐喝して財物を交付させる行為や,財産上不法の利益を得る行為等を処罰し,250条は未遂も処罰する。
「払わなければ盗んだ情報を公開する」という金銭要求についても,要求の内容や態様,相手方に与える害悪などから恐喝に当たるかを検討する。
恐喝罪の法定刑は10年以下の拘禁刑である。

会社が支払わず,実際の交付や利益取得に至っていなくても,恐喝の実行に着手していれば未遂罪が成立し得る。
暗号化をしていないことだけで,情報の公開を材料とする恐喝の可能性がなくなるわけでもない。
ただし,第三者が見付けた投稿や要求らしい文言があるだけで,誰にどのような要求が届き,どの段階まで実行されたかを確かめずに成立を断定することはできない。

GMOインターネットの第12報は要求に応じない方針を示し,第16報は攻撃・脅迫行為への刑事告訴を含む法的対応の方針を説明している。
これらは会社の対応方針を示す資料であり,捜査機関や裁判所が恐喝罪の成立を認定した資料とは区別する。

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公金受取口座の意向確認書が届いたら―年金口座の登録・不同意・期限後の対応(AI作成)

目次

第1 意向確認書が届いたときの判断1 登録したいか,記載された口座を使いたいかを確認する2 未登録でも年金が受け取れなくなるわけではない第2 誰に,どの口座について届くのか1 令和8年度の意向確認の対象と送付時期2 記載口座が現在の年金振込先と違う場合第3 同意・不同意・別口座の希望に応じた対応1 記載された口座の登録に同意する場合2 登録を望まない場合3 年金口座とは別の口座を登録したい場合第4 返送期限を過ぎた場合・書類をなくした場合1 印字された返送期限を過ぎただけで諦めない2 意向確認期間そのものが経過した場合3 書類の紛失・記載誤り・意向の変更第5 登録結果の確認と不審な連絡への注意1 完了通知と最新の登録状況を確認する2 暗証番号等を求める電話やメールに応じない第6 出典
第1 意向確認書が届いたときの判断
1 登録したいか,記載された口座を使いたいかを確認する

年金振込口座を公金受取口座として登録することについて,日本年金機構から意向確認書が届くことがある。
通常の任意登録と異なり,この意向確認書による手続では,所定の期間内に不同意を伝えなければ,記載された口座が登録される取扱いとなる。
書類を受け取った場合は,まず自分の希望と記載口座を確認する必要がある。

希望・状況基本的な対応確認すること記載された年金口座を登録したい同意の返送は不要である記載内容を確認し,後日の登録完了通知を確かめる公金受取口座として登録したくない同封の不同意の返信用はがきを返送する書面の返送期限を確認し,早めに対応する別の口座を登録したいこの書面での登録には不同意を返送し,別途マイナポータル・金融機関等で希望口座を登録するはがきに別口座を書き込むだけで変更できるとは扱わない返送期限を過ぎた,書類をなくした,記載内容が違う照会番号が分かるものを用意し,意向確認書の専用窓口へ確認する期限経過と登録完了の有無を区別する

この表は,令和8年10月30日に確認したデジタル庁の意向確認に関するFAQ及び日本年金機構の案内に基づくものである。
個別の書面に関する受付状況は,専用窓口で確認する必要がある。

2 未登録でも年金が受け取れなくなるわけではない

公金受取口座の登録は,給付金等の受取りに利用する本人名義の口座を国に登録する制度であり,登録しないことだけを理由に年金その他の給付を受けられなくなるわけではない。
また,公金受取口座として登録しただけで,すべての給付金の申請や受取りが自動的に完了するわけでもない。

制度全体のメリット・デメリット,口座の選び方及び通常の確認・変更方法は,公金受取口座の総合解説で整理している。
本記事は,意向確認書を受け取った後の判断と手続に絞って説明する。

第2 誰に,どの口座について届くのか
1 令和8年度の意向確認の対象と送付時期

日本年金機構の案内では,令和8年4月15日時点で原則として65歳以上であり,公金受取口座を登録していない年金受給者等を対象としている。
送付は令和8年8月から令和9年2月までの間に,生年月日等に応じて順次行う予定とされている。
対象には除外条件もあるため,年齢だけから全員に届くとは判断できない。

意向確認書が届いていない人の口座が,この意向確認の手続によって登録されるわけではない。
自分が通常の任意登録をする場面と,意向確認書への対応が必要な場面を区別することが大切である。

2 記載口座が現在の年金振込先と違う場合

日本年金機構のよくあるご質問・設問3では,意向確認書に記載された口座は,令和8年4月15日に年金を受け取った口座であると説明している。
その後に年金の振込先を変更した場合など,記載口座が現在使っている口座と異なることがある。

希望する口座と違う場合は,記載内容を確認せずに放置しないようにしたい。
不同意の返送や別途の登録が必要かについては,照会番号を用意して専用窓口へ確認するのが確実である。

第3 同意・不同意・別口座の希望に応じた対応
1 記載された口座の登録に同意する場合

記載された年金振込口座を公金受取口座として登録することに同意する場合,意向確認書の返送は不要と案内されている。
返送しなかった直後に登録が完了するわけではなく,登録完了までには意向確認書を受け取ってから3~4か月程度かかる見込みとされている。

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AIエージェントの導入・保守を外注するときの契約―検収,権限設定,更新及び障害対応(AI作成)

目次

第1 デモの成功を検収条件に置き換える第2 調査・設定・開発・運用の範囲を分ける1 スキルの作成,ツールとの連携及び継続運用を区別する第3 検収する環境と成功条件を固定する第4 承認を減らす設計と権限の拡大を分ける第5 エラーの種類と再開条件を試験する第6 更新と追加開発の費用・担当を決める第7 障害対応と記録の引渡しを具体化する第8 終了時は別の担当者が再開できるかを確かめる第9 発注前に確認したい事項第10 関連記事と資料の位置付け
第1 デモの成功を検収条件に置き換える

AIエージェントの導入を外注するときは,「このデモと同じことができる」「あとはAIに任せられる」という説明を,対象業務,利用環境,許す操作及び合否を確認する方法へ置き換えたい。
文章を生成できたこと,指定した場所へ保存できたこと,外部システムへ送信できたこと及び受信者が受領したことは,それぞれ別の確認事項である。

本記事は,PC上のファイル,ブラウザー又は外部サービスを操作するAIエージェントについて,導入を依頼する企業・士業事務所の側から,契約と検収で確認する事項を整理する。
以下の表は契約交渉と試験計画のための提案であり,法令が一律に定める検収方式,特定製品の動作保証又はそのまま締結できる契約書のひな型ではない。

まず合意したいのは,①何を納めるか,②どの環境で何ができれば合格か,③どこで人の承認へ戻すか,④更新・障害・終了に誰が対応するか,という事項である。
機能の追加要望と,合意済みの機能が動かない問題を分けて記録すると,検収時の話合いもしやすくなる。

第2 調査・設定・開発・運用の範囲を分ける

「AI導入一式」という名称だけで,調査,設定,個別開発及び継続保守の全てを含むと考えない。
発注書,仕様書,見積書及び適用されるサービス規約を対応させ,成果物と継続する作業を分けて確認する。

工程発注前に具体化すること受け取るものの例調査・実証対象業務,利用できる資料,試行条件,実現できない場合の終了条件調査結果,試行記録,制約と見積りの前提設定・連携対象端末・アプリ・アカウント,読み書きできる範囲,承認条件設定差分,構成一覧,権限表,復元手順個別開発入出力,外部サービスとの接続,異常時の処理,変更手続合意したプログラム・設定,試験結果,利用・改修に必要な資料運用・保守監視,問い合わせ,原因調査,修復,更新,利用料の管理対応範囲表,連絡先,作業記録,更新後の確認結果

利用料には,導入支援の対価のほか,モデル,API,クラウド又は連携サービスの費用が生じる構成もある。
契約上の費用負担者,利用量の警告を受ける者,上限到達時の扱い及び超過を認める者を確認する。

IPAの情報システム・モデル取引・契約書(第二版)は,仕様や検収方法等について当事者間で共通理解を深めるための参考資料になる。
AIを利用するという名称だけで工程の性質や責任範囲を決めず,実際に引き受ける作業と結果を契約書類へ対応させることが本記事の提案である。

1 スキルの作成,ツールとの連携及び継続運用を区別する

発注内容を具体化する例として,スキル一式の作成,外部のツールやサービスとの連携,定期実行・監視を含む継続運用を分けて記載する方法が考えられる。
これらは本記事の整理であり,一律の契約類型や全ての案件に必要な工程を示すものではない。

スキル一式の作成では,SKILL.md,参照資料,ひな型及び付属スクリプトのうち,何を納品するかを一覧にする。
ツールとの連携まで依頼する場合は,接続設定,必要な権限,依存するサービス及び試験記録も対応させる。

継続運用を依頼する場合は,起動・停止の条件,監視と問い合わせの窓口,更新後の確認及び障害時の対応範囲を具体化する。
指示ファイルの作成だけを依頼した見積りと,連携又は継続運用まで含む見積りを,名称だけで同じものとして比較しない。

第8の引渡しでは,この納品物一覧と実際に渡された版・設定・記録を突き合わせる。
受け取ったファイルがあることに加え,合意した環境で担当者が作業を再開できるかを,契約で定めた範囲に沿って確かめる。

根拠・参考資料は,OpenAIのSkills公式説明である。

用語の関係は,AIエージェントとスキルの違いとは―プロンプト・MCPとの関係と業務での使い方で整理している。

第3 検収する環境と成功条件を固定する

試験記録には,端末,OS,アプリ・拡張機能・モデル等の版,利用プラン,アカウントの役割,接続先及び設定の版を残す。
提供者の実演環境と発注者の実利用環境が違う場合は,その差を確認してから試験結果を評価する。

(続きを読む...)AIエージェントの導入・保守を外注するときの契約―検収,権限設定,更新及び障害対応(AI作成)

医師の当直免除と不公平感―育児・介護への配慮と代替勤務者の負担調整(AI作成)

目次

第1 当直免除と代替勤務者の負担は,一緒に検討する第2 法令による保護と,病院独自の配慮を区別する1 妊娠中・出産後の深夜業等2 育児・介護による深夜業の制限第3 厚労省の病院事例から分かること1 淀川キリスト教病院の取組2 事例を勤務先に当てはめる際の注意第4 当直回数だけでなく,実労働時間と休息を確認する第5 当直手当,基本給,役職は別々に検討する1 勤務の有無に対応する手当と,固定的な処遇2 妊娠中の軽易業務転換と降格の最高裁判例第6 「救急科の医師の約8割が男性」という数字の読み方第7 勤務体制を見直すための確認事項第8 関連記事と出典1 関連記事2 出典
第1 当直免除と代替勤務者の負担は,一緒に検討する

医師の当直免除について考えるときは,免除を必要とする事情と,代わりに勤務する医師の負担の両方を見る必要がある。
妊娠・出産,育児,介護に関する法的な保護を確認した上で,当直回数だけでなく,実際の労働時間,翌日の勤務,処遇を含めて勤務体制を組み立てることが重要である。

本記事では,厚生労働省が紹介した病院の取組,労働関係法令,裁判例及び医師統計を基に,勤務医と医療機関が確認する事項を整理する。
民間医療機関等で労働者として働く医師を主に想定しており,公務員である医師については,適用される法令や勤務条件を別に確認する必要がある。

厚生労働省の公表資料には,病院の産婦人科で,妊娠・出産期の医師を当直・オンコールから免除した結果,代わりを担う医師の労働時間が増え,不満が広がった事例が掲載されている。
この事例は,配慮の仕組みだけでなく,代替する側の勤務と休暇の仕組みも整える必要性を考える材料になる。

ただし,一つの病院の取組から,全国の女性医師の勤務状況や,当直免除を受ける医師の割合を推定することはできない。
個々の医師がどのような理由でどの勤務を免除されているかは,性別だけでは分からない。

第2 法令による保護と,病院独自の配慮を区別する
1 妊娠中・出産後の深夜業等

労働基準法66条は,妊産婦(妊娠中及び産後1年未満の女性)から請求があった場合の時間外労働,休日労働及び深夜業について制限を設けている。
また,同法65条3項は,妊娠中の女性が請求した場合の軽易な業務への転換を定めている。

深夜業の対象となる時間帯は,午後10時から午前5時までである。

これらは,すべての女性医師が,理由や手続に関係なく,あらゆる当直・救急業務を拒めるという制度ではない。
「当直」という勤務の名称だけで判断せず,対象となる労働者,請求の有無,勤務時間帯,実際の業務を確認する。

2 育児・介護による深夜業の制限

育児・介護休業法には,一定の要件を満たす労働者が請求した場合の深夜業の制限がある。
育児については小学校就学前の子の養育が対象となり,介護についても対象家族の介護に関する制度がある。

この制度は女性だけを対象とするものではない。
男性医師についても,雇用関係,勤続期間,所定労働日数,同居家族の状況等の要件を確認し,事業の正常な運営を妨げる場合の扱いを含めて検討する。

法令上の請求権による制限と,病院が独自に設ける当直免除・回数軽減は,根拠と要件を分けて整理する必要がある。
妊娠・育児等の事情について,勤務表を作成する職員全員に詳細な健康情報を共有する必要があるとは限らず,必要な情報と共有範囲も検討事項である。

第3 厚労省の病院事例から分かること
1 淀川キリスト教病院の取組

厚生労働省の「医師の働き方改革に関する好事例について」(2021年9月15日)には,淀川キリスト教病院の事例が掲載されている。
該当箇所は「事例7-3①:情報共有ツールの活用」で,資料の表示頁37である。

資料では,同院の産婦人科において,妊娠・出産期の医師の当直・オンコールを免除する一方,その他の医師が代替することで,代替勤務者の労働時間が増加し,不満が広がったという課題が紹介されている。
対応として,当直翌日の休暇,夏季の長期休暇,月2回の平日の有給休暇等とともに,情報共有やコミュニケーションの改善が取り上げられている。

(続きを読む...)医師の当直免除と不公平感―育児・介護への配慮と代替勤務者の負担調整(AI作成)

SCS評価制度の契約実務―★3・★4の取得,脆弱性対応期限及び委託先管理(AI作成)

目次

第1 SCS評価制度を契約実務で確認する理由第2 取得単位・適用範囲・有効期間を確かめる1 契約先と評価対象が一致するか2 除外対象と境界を図面で確認する3 取得時点だけでなく有効期間を管理する第3 「14日以内」の二つの場面を区別する1 通常運用では更新プログラムのリリースが起算点となる2 ★4の技術検証後は診断結果の受領日が起算点となる第4 委託契約で具体化する事項1 何の基準をどこまで求めるか2 脆弱性情報の受領から修正確認までを割り当てる3 期限に間に合わない場合の手続を決める4 費用,協力及び契約上の効果を分ける第5 診断を実施するときの合意と記録第6 契約条項を検討するためのたたき台第7 出典及び今後の確認事項
第1 SCS評価制度を契約実務で確認する理由

サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)は,取引先との間でセキュリティ対策の水準を確認するための制度である。
IPAは,令和9年3月に★3・★4の申請受付を開始する予定として,令和8年10月に要求事項・評価基準を更新し,評価に関するガイド及び解説書を公開した。
本記事は,令和8年10月30日時点の公表資料に基づき,発注者,受託者及び顧問弁護士が契約で確認する事項を整理する。

★の取得自体は任意であり,取引要件に採用するかは契約当事者が決める。
IPAのFAQも,取得を制度が義務付けるものではなく,要求事項を満たさないことだけを理由に直ちに取引停止を求める制度ではないと説明する。
したがって,「国の制度だから全取引先に取得義務がある」と説明することはできない。
以下の契約上の確認事項や条項例は,公式資料を踏まえた実務上の提案であり,IPAの指定書式又は全事業者に共通する法定条項ではない。

根拠:IPA「よくある質問」(SCS評価制度。以下「FAQ」という。)Q1-1~Q1-5。
公式FAQ

第2 取得単位・適用範囲・有効期間を確かめる
1 契約先と評価対象が一致するか

解説書は,法人又は個人事業主を原則的な取得単位とする一方,妥当性を確認した事業部や企業グループ等の単位も認めている。
適用範囲は取得単位に対応するIT基盤が基本であり,クラウドも含めて整理する。
事業者が便宜的に対象を狭めればよいものではなく,★3の確認責任者又は★4の評価機関による妥当性の確認が必要となる。

発注者は,契約相手の法人名だけでなく,実際に受託業務を行う部門,システム及び接続先が評価範囲に入るかを確認するとよい。
範囲外の再委託先やサービスがあれば,登録の表示だけで管理を終えず,別途の確認方法を決める必要がある。
この確認は,委託先の評価を全社・全サービスの安全性保証と受け取らないために行うものである。

2 除外対象と境界を図面で確認する

OTなどの除外には条件があり,接続関係や境界防護によっては適用範囲に含まれる。
また,業務に使う私物端末や在宅勤務用端末は,原則として適用範囲に含まれる。
通話・SMS・多要素認証だけに用いる個人機器等の除外もあるため,用途を区別する。
「工場設備だから」「私物だから」という呼び方だけで対象外と決めず,除外理由と接続関係を記録することが重要である。

3 取得時点だけでなく有効期間を管理する

登録の有効期間は,★3が1年,★4が3年とされている。
取引期間中に評価の維持を求めるなら,契約期間との対応,更新の確認時期,失効・取消し・適用範囲変更を知った場合の連絡方法を決めておくとよい。
★の取得によって,他の法制度の要件を満たすことまで保証されるものではない。

根拠:SCS-620「★3・★4 要求事項・評価基準 解説書」(以下「解説書」という。)4頁・6頁・7頁~11頁,FAQ Q1-5。
解説書(公式PDF)

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パワハラの加害者とされたが納得できないとき―反論書,録音,労働局相談,厳重注意及び配置転換への対応(AI作成)

目次

第1 「加害者とされた段階」と事実認定後を分ける1 申告を受けたことだけでパワハラが確定するわけではない2 反論と報復を混同しない第2 最初に会社へ確認する事項1 日時,場所,言動及び社内規程を特定する2 一連の出来事を場面ごとに分ける第3 反論書・上申書の作り方1 認める,否定する,覚えていないを分ける2 結論より先に根拠を示す3 相手方への非難は必要な範囲に絞る第4 面談録音と反訳をどう扱うか1 原音,要約及び反訳を区別する2 法定開示と任意の確認機会を分ける第5 調査担当者や上司の対応にも異議がある場合1 元の申告と調査手続への苦情を分ける2 資料の種類と決裁の経路を確認する第6 診断書と事実認定を混同しない1 診断書は健康状態を検討する重要資料である2 診断書だけで相手の行為が確定するわけではない第7 労働局へ相談するとき1 相談は事実認定や判決とは異なる2 どの手続を利用したいかを確認する第8 厳重注意書を受け取るとき1 懲戒処分か非懲戒の注意かを確認する2 受領と内容への同意を分ける第9 配置転換を命じられたとき1 注意・処分と配置転換の目的を分ける2 異動希望と具体的な配属先への同意を分ける第10 実務チェックリスト1 調査段階で行うこと2 会社の判断が示された後に行うこと第11 出典・参考資料1 法令・行政資料2 裁判例と確認範囲
第1 「加害者とされた段階」と事実認定後を分ける
1 申告を受けたことだけでパワハラが確定するわけではない

会社から「パワハラの申告があった」「加害者として名前が挙がった」と告げられても,その時点でパワーハラスメントの事実が確定したわけではない。会社は,申告者の保護に配慮しながら,被申告者からも具体的な事実を聴き,客観資料及び関係者の説明を照合する必要がある。

厚生労働省のパワーハラスメント防止指針は,会社に対し,相談に応じ,事実関係を迅速かつ正確に確認し,事実が確認できた場合に行為者及び被害者へ適切に対処することなどを求めている。申告の受付,暫定的な接触制限,事実認定,厳重注意,懲戒処分及び配置転換は,それぞれ目的と判断時点が異なる。

2 反論と報復を混同しない

事実に異論があるときは,具体的な反論を文書で提出してよい。他方で,申告者へ直接連絡して撤回を迫ること,周囲に申告内容を言いふらすこと,証拠の削除を求めること又は業務上の権限を使って不利益を与えることは避けるべきである。これらは反論とは別の行為であり,調査や職場環境をさらに悪化させるおそれがある。

会社に対しては,申告者との連絡経路,業務上やむを得ない接触の扱い,証拠保全及び反論の提出先を確認する。必要な業務連絡まで独自に止めるのではなく,会社が定めた暫定措置に従う。

第2 最初に会社へ確認する事項
1 日時,場所,言動及び社内規程を特定する

「威圧的だった」「継続的な嫌がらせだった」といった評価だけでは,何に反論すべきか分からない。可能な範囲で,対象となる日時,場所,参加者,具体的な言葉又は行動,前後の業務状況及び問題とされた社内規程を確認する。

会社が第三者情報や調査上の必要を理由に申告書そのものを交付しない場合でも,被申告者が意味のある説明をできる程度に,対象行為を具体化できないかを相談する。申告者や情報提供者の氏名を知ることと,反論対象の事実を知ることは同じではない。

2 一連の出来事を場面ごとに分ける

一日の面談に複数の話題が含まれる場合や,複数日にわたるやり取りが問題とされた場合は,場面ごとに整理する。業務上の指示,事実確認,評価の説明,私的・感情的な発言,面談後の連絡などを分けると,認める部分と争う部分が明確になる。

パワーハラスメントの該当性は,優越的な関係を背景とした言動か,業務上必要かつ相当な範囲を超えたか,就業環境を害したかという要素を,具体的な場面に即して検討する。役職名や本人の意図だけで結論を出すものではない。

第3 反論書・上申書の作り方
1 認める,否定する,覚えていないを分ける

反論書では,全てを一括して否定するより,事実ごとに「認める」「表現や文脈が違う」「発言していない」「記憶が明確でない」を分ける。記憶がない事項を断定的に否定した後で録音等と食い違うと,その他の説明まで信用されにくくなる。

謝罪する場合も,何を認め,何を認めていないかを明確にする。相手が不快に感じたことへの遺憾の意と,申告された全事実を認めることは同じではない。

2 結論より先に根拠を示す

反論書は,①対象となる行為,②自分の認否,③前後の経緯,④その認否を裏付ける資料又は関係者,⑤会社に確認してほしい事項,⑥今後の連絡方法の順に書くと整理しやすい。メール,チャット,勤怠記録,業務指示書,面談記録及び同席者など,会社が確認できる資料を具体的に挙げる。

例えば,「私はパワハラをしていません」とだけ書くのではなく,「令和○年○月○日の面談で納期の遅れを確認したことは認めます。しかし,退職を迫る発言はしていません。面談の全録音と同席者への聴取により,その発言の有無と前後の文脈を確認してください」と記載する。これは一般的な構成例であり,事実に合わない文言を用いてはならない。

3 相手方への非難は必要な範囲に絞る

相手方にも問題行動があったと考える場合は,日時,行為,業務への影響及び裏付け資料を示し,元の申告に対する反論と分けて記載する。「虚偽申告だ」「信用できない人だ」といった人格評価だけでは,反論の説得力は高まらない。

相手方の行為について別の相談や申告をする必要があるときは,会社に別案件として受け付け,担当者及び決裁経路を分けるよう求めることが考えられる。

第4 面談録音と反訳をどう扱うか
1 原音,要約及び反訳を区別する

会社が面談を録音している場合,原音,文字起こし,担当者の要約及び会社の評価は別の資料である。要約だけでは,発言の直前直後,口調,途中の訂正又は質問に対する応答関係が落ちることがある。重要な食い違いがあるときは,対象箇所の時刻を特定し,前後を含む原音又は反訳で確認するよう求める。

一方,当事者であるから常に録音全体の交付を受けられるとは限らない。個人情報保護法33条の開示対象となるかは,会社の管理・検索方法,本人に関する情報の範囲,第三者情報及び不開示事由等によって決まる。詳しくは,面談の録音データを従業員に渡す義務はあるか―開示請求,不開示理由と会社の回答手順(AI作成)で説明している。

2 法定開示と任意の確認機会を分ける

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2027年4月からの新リース会計基準―対象企業,契約の洗出し,経過措置及び対応準備(AI作成)

目次

第1 新リース会計基準の適用時期と対象企業1 強制適用は2027年4月1日以後に開始する事業年度から2 すべての法人に一律に強制されるわけではない3 適用の有無にかかわらず早めに対象契約を把握する意味第2 借手の会計処理はどのように変わるか1 原則として使用権資産とリース負債を計上する2 損益計算書と経営指標にも影響する3 貸手の処理と借手の準備を分ける第3 「リース契約」以外の契約も洗い出す1 契約の名称ではなく使用を支配する権利で判断する2 業務委託・サービス契約に含まれるリース3 契約台帳に集める情報第4 リース期間・リース料・割引率を決める1 更新・解約オプションを含むリース期間2 リース料に含める金額3 割引率と再測定第5 短期・少額リース等の簡便的な取扱い1 短期リース2 少額リース3 非リース構成部分等の会計方針第6 経過措置と適用初年度の期首残高1 遡及適用と累積的影響額を期首へ反映する方法2 旧オペレーティング・リースの期首測定3 適用開始までの逆算第7 開示・業務プロセス・システムの準備1 注記に必要なデータを最初から集める2 契約締結・変更情報を経理へつなぐ3 システムの試運転第8 法人税との違いを別管理する1 会計基準の変更だけで税務処理が同一になるわけではない2 税効果・申告調整を確認する第9 適用開始までのチェックリスト第10 適用準備で特に注意すべき点第11 関連記事第12 出典
第1 新リース会計基準の適用時期と対象企業
1 強制適用は2027年4月1日以後に開始する事業年度から

企業会計基準委員会(ASBJ)は,令和6年9月13日,企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」を公表した。
企業会計基準第34号第58項によれば,新基準は令和9年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用される。令和7年4月1日以後に開始する事業年度の期首から早期適用することもできる。
3月決算会社が強制適用する場合,令和9年4月1日に始まる事業年度から新基準による会計処理を行うため,その期首時点の使用権資産・リース負債等を準備する必要がある。
この記事は,令和8年10月29日現在の公表資料に基づき,新基準の適用対象,借手の会計処理及び適用開始までの準備を整理するものである。

2 すべての法人に一律に強制されるわけではない

「令和9年4月から強制適用」という説明は,日本の企業会計基準を適用する会社についてのものであり,すべての法人に一律に同じ会計処理を求めるという意味ではない。
国税庁の「令和7年度法人税関係改正の概要」は,監査対象法人以外の法人(中小企業など)について,引き続き「中小企業の会計に関する指針」又は「中小企業の会計に関する基本要領」に則った会計処理も可能であると注記している。
中小会計指針は,金融商品取引法の適用を受ける会社及びその子会社・関連会社,会計監査人を設置する会社及びその子会社等を対象外としている。他方,中小会計指針を利用できる会社であっても,親会社の連結方針,金融機関との契約,任意の会計方針等によって対応が必要になることがある。
したがって,最初に行うべきことは,自社が新基準を法定財務諸表又は連結報告で適用するかを,会社法・金融商品取引法上の位置付け,監査契約及びグループ会計方針に照らして確認することである。

3 適用の有無にかかわらず早めに対象契約を把握する意味

新基準の対象になる会社では,契約書の題名に「リース」と書かれていない契約も調査対象となり得る。また,契約条件,更新履歴,固定資産情報,支払データが経理部門以外に分散していることが多い。
適用の有無の確認と並行して,契約母集団,担当部署,更新時期及び金額情報の所在を整理しておけば,対象契約の判定,期首残高の試算及び監査対応を進めやすくなる。

第2 借手の会計処理はどのように変わるか
1 原則として使用権資産とリース負債を計上する

企業会計基準第34号第33項は,借手がリース開始日にリース負債と使用権資産を計上することを定めている。
リース負債は,原則として,リース開始日において未払いである借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除し,現在価値で算定する。使用権資産は,リース負債の計上額に前払リース料,付随費用等を調整して算定する。
従来,借手のオペレーティング・リースでは貸借対照表に資産・負債を計上せず支払リース料を費用処理することが多かった。新基準では,短期・少額リース等の簡便的な取扱いを除き,借手のリースを使用権資産とリース負債として貸借対照表に計上することが中心となる。

2 損益計算書と経営指標にも影響する

使用権資産は減価償却され,リース負債には利息相当額が配分される。従来の賃借料が減価償却費と利息費用に置き換わる取引では,営業利益,EBITDA,総資産,負債及び自己資本比率等が変化し得る。
影響の方向と金額は,契約数,残存期間,割引率,費用配分の方法及び簡便法の選択によって異なる。財務制限条項,社内業績指標,事業計画又は取引先への説明に会計数値を用いている会社は,単に仕訳を作るだけでなく,指標への影響も事前に試算する必要がある。

3 貸手の処理と借手の準備を分ける

新基準は貸手の会計処理も定めているが,借手について生じるオンバランス化ほど大きな変更ではないとされている。
契約の当事者として貸手・借手の双方になる会社は,契約ごとに立場を区別し,借手側の契約洗出しと貸手側の分類・開示を別々に管理することが適切である。

第3 「リース契約」以外の契約も洗い出す
1 契約の名称ではなく使用を支配する権利で判断する

企業会計基準第34号第25項以下及び適用指針第5項以下によれば,契約がリースを含むかどうかは,特定された資産の使用を支配する権利が,一定期間にわたり,対価と交換に移転するかによって判定する。
顧客が特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を持ち,その資産の使用方法を指図する権利を持つときは,契約の全部又は一部がリースに該当し得る。

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M&A後に売主経営者が残るとき―取締役・顧問・従業員の違い,任期,権限及び退任条件(AI作成)

目次

第1 残留の目的と期間を先に決める第2 取締役として残る場合1 会社法上の地位を理解する2 退任条件を契約期間と混同しない第3 顧問として残る場合1 助言業務と権限を限定する2 準委任契約の終了を設計する第4 従業員として残る場合1 肩書ではなく実態で整理する2 雇用終了は自由ではない第5 共通して定めるべき事項第6 M&A契約と個別契約を整合させる第7 PMIでは旧経営者の敬意と新体制を両立させる第8 関連記事及び公的資料

中小企業M&Aでは,顧客・従業員・技術の引継ぎのため,売主経営者がクロージング後も一定期間関与することがある。
しかし,「当面残る」とだけ合意すると,権限,報酬,終了時期及び責任が曖昧になり,新経営陣との対立や労働者性をめぐる紛争につながる。
本記事では,取締役,顧問及び従業員の違いと,契約で定めるべき事項を整理する。

第1 残留の目的と期間を先に決める

残留の目的は,顧客紹介,技術承継,許認可要件の維持,従業員の不安軽減又は買主への経営引継ぎ等,案件ごとに異なる。
目的を具体化すれば,必要な地位,権限,執務日数及び期間を選びやすい。

「必要な期間」や「当面」とせず,開始日,終了日,中間評価日及び延長方法を定める。
引継ぎ項目を別紙にし,完了基準を設ける方法も有効である。

第2 取締役として残る場合
1 会社法上の地位を理解する

会社法330条により,会社と役員との関係は委任に関する規定に従う。
取締役は,単なる助言者ではなく,会社法上の権限・義務を負う機関であるため,担当業務が狭くても取締役としての責任が当然に消えるわけではない。

代表権を残すか,業務執行権限をどこまで持たせるか,取締役会・株主総会との関係を明確にする。
対外的に代表者と誤認される肩書や名刺・ウェブサイト表示も見直す必要がある。

2 退任条件を契約期間と混同しない

会社法339条1項により,役員は株主総会の決議によっていつでも解任できる。
同条2項は,正当な理由がなく任期満了前に解任された役員の損害賠償請求を定めるため,M&A契約上の在任合意があっても,会社法上の解任可能性と損害処理を分けて考える必要がある。

在任期間,辞任事由,解任時の報酬・補償,競業避止の開始時期及び引継ぎ未了時の扱いを定める。
辞任届をクロージング時に預ける方法を採る場合は,使用条件と本人の意思を明確にし,無限定に利用できる状態にしない。

第3 顧問として残る場合
1 助言業務と権限を限定する

顧問には会社法上の機関としての権限がないため,契約で業務内容を定める。
顧客紹介,月例会議,技術相談,従業員説明等の具体的業務,稼働日数,報告先,会社を代理する権限の不存在及び秘密保持を記載する。

顧問が従業員へ直接指示し続けると,新しい指揮命令系統が機能しない。
助言はPMI責任者を通じて行うなど,意思決定権者を一本化する。

2 準委任契約の終了を設計する

顧問契約は,業務内容によって委任又は準委任として扱われることが多く,民法651条は各当事者がいつでも委任を解除できることを原則とする。
一定期間の関与を期待する場合でも,解除を全面的に禁止するだけでなく,予告期間,解除事由,報酬精算,引継ぎ及び損害の扱いを具体化する必要がある。

株式又は事業の譲渡対価を,実態のない高額な顧問報酬として後払いする設計は避ける。

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事業譲渡で許認可・取引契約は引き継げるか―再取得,承諾,通知及びクロージング条件(AI作成)

目次

第1 許認可と契約を分けて調べる第2 許認可の承継可否を個別に確認する1 新規取得・承継承認・届出を区別する2 許認可取得前の営業を前提にしない第3 取引契約は承諾条項を確認する1 契約上の地位の移転には承諾が必要である2 譲渡禁止・解除・通知条項を読む第4 優先順位を付けて承諾を取得する第5 前提条件と未取得時の処理を定める1 重要なものだけを停止条件にする2 代替措置と価格調整を用意する第6 独占禁止法上の届出も確認する第7 クロージングチェックリストへ落とし込む第8 関連記事及び公的資料

事業譲渡では,事業に必要な許認可や取引契約が当然に買主へ移るとは限らない。
資産の引渡しが完了しても,営業許可がなく,仕入先・販売先・賃貸人・システム会社との契約を利用できなければ,事業を開始できない。
本記事では,許認可と取引契約の承継をクロージングまでに管理する方法を整理する。

第1 許認可と契約を分けて調べる

許認可は法令と所管官庁の手続に従い,契約は契約条項と相手方の意思に従う。
両者を一つの「必要な承認」として扱うと,申請期限,審査期間,必要書類及び未取得時の効果が曖昧になる。

最初に,許認可一覧と契約一覧を別々に作り,事業継続に不可欠なもの,代替可能なもの及び譲渡後に対応できるものに分類する。

第2 許認可の承継可否を個別に確認する
1 新規取得・承継承認・届出を区別する

許認可には,事業譲渡によって買主が新規取得しなければならないもの,承継承認を受けられるもの,変更届等で足りるものがある。
申請主体,申請可能時期,標準処理期間,欠格要件,人的要件,施設要件及び営業開始可能日を所管官庁の公表資料と事前相談で確認する。

契約書には「法令上必要な許認可」と抽象的に書くだけでなく,許認可名と担当当事者を別紙に記載する。

2 許認可取得前の営業を前提にしない

買主が許認可を得る前に売主名義で営業を続ける方法は,法令違反,名義貸し及び事故時の責任問題を生じさせるおそれがある。
暫定運営が法令上可能かを確認できない場合,許認可取得をクロージング又は事業開始の前提条件とする。

許認可取得に時間がかかるときは,契約締結日とクロージング日を分け,申請協力,追加資料,延期可能期間及び最終期限を定める。

第3 取引契約は承諾条項を確認する
1 契約上の地位の移転には承諾が必要である

契約上の地位の移転には,原則として相手方の承諾が必要である(民法539条の2)。
承諾書を取得するのか,買主が新契約を締結するのか,売主が契約を終了するのかを契約ごとに決める。

基本契約だけでなく,個別注文,保守契約,リース,賃貸借,ライセンス,代理店契約,フランチャイズ契約,クラウドサービス及び決済契約も確認する。

2 譲渡禁止・解除・通知条項を読む

契約書には,地位・権利義務の譲渡禁止,事業譲渡時の解除権,事前承諾,事前通知又は秘密情報の返還等が定められていることがある。
契約書が見つからない場合は,注文書,利用規約,更新通知及び実際の請求関係から契約内容を確認し,相手方との確認書や新契約で補う。

株式譲渡のCOC条項と,事業譲渡における契約上の地位の移転は別の問題である。
株主が変わるだけで契約当事者が変わらない株式譲渡と異なり,事業譲渡では契約当事者を変更するための承諾が問題となる。

第4 優先順位を付けて承諾を取得する

すべての契約を同じ重要度で扱う必要はない。
売上・仕入れへの寄与,代替先の有無,解約時の影響,データ移行期間及び顧客離反の可能性から,重要契約を選定する。

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事業譲渡で従業員の同意は必要か―説明時期,転籍条件,不同意者及び労働組合への対応(AI作成)

目次

第1 個別同意が必要である第2 説明と協議の順序を設計する1 誰がいつ説明するかを決める2 労働組合等との協議を確認する第3 転籍条件を具体化する1 不利益変更を見える形にする2 承継対象者を公平に選定する第4 不同意者への対応を先に決める第5 事業譲渡契約書で分担を定める第6 個人情報の共有を管理する第7 クロージング後の定着を支援する第8 関連記事及び公的資料

事業譲渡では,従業員の労働契約が当然に買主へ移るわけではない。
個々の従業員の同意を得て雇用主を変更する必要があり,説明の内容や時期が不十分であれば,キーパーソンの離職や労使紛争によって事業継続が難しくなる。
本記事では,中小企業の事業譲渡における従業員承継の実務を整理する。

第1 個別同意が必要である

民法625条1項は,使用者が労働者の承諾を得なければ,その権利を第三者に譲り渡すことができないと定める。
事業譲渡でも,売主と買主の合意だけで労働契約を移転することはできず,承継対象となる従業員ごとの同意が必要である。

同意書には,転籍日,買主,勤務地,職務,賃金,労働時間,休日,勤続年数の取扱い,退職金,年次有給休暇及び社会保険等を記載する。
単に「転籍に同意する」とだけ記載すると,どの条件への同意かが不明確になりやすい。

第2 説明と協議の順序を設計する
1 誰がいつ説明するかを決める

公表前の秘密保持と,従業員が十分に検討するための時間を両立させる必要がある。
売主と買主は,説明対象,説明者,説明日,個別面談,質問窓口及び回答期限を事前に決めるべきである。

重要な事実を伏せたまま署名を求めたり,回答を不当に急がせたりする方法は避ける。
特に賃金・勤務地・職務が変わる場合は,変更前後を対比して説明する必要がある。

2 労働組合等との協議を確認する

労働組合がある場合は,労働協約及び団体交渉の必要性を確認する。
厚生労働省の事業譲渡等指針(令和8年1月20日改正)は,譲渡会社等に対し,過半数労働組合があるときはその組合,ないときは過半数代表者との協議その他これに準ずる方法により,関係労働者の理解と協力を得るよう努めることを求めている。
これは行政指針上の努力事項であり,個々の従業員から転籍について同意を得る手続に代わるものではない。
契約締結日,譲渡日,労働組合等との協議及び従業員説明の日程は,この指針と案件の事情を踏まえて逆算する必要がある。

第3 転籍条件を具体化する
1 不利益変更を見える形にする

買主の雇用条件が売主より不利になる場合,同意取得の難易度は高くなる。
基本給だけでなく,賞与,手当,固定残業代,退職金,企業年金,福利厚生,試用期間,定年及び転勤範囲を比較する。

勤続年数を通算するのか,売主で退職金を精算するのか,買主が過去勤務分を引き受けるのかは,従業員説明と売主・買主間の負担条項を一致させる。

2 承継対象者を公平に選定する

承継対象者の選定が恣意的であると,差別的取扱いや解雇紛争につながり得る。
対象事業への所属,担当業務,必要資格及び本人の希望など,合理的な基準を明確にする。

有期契約,休職者,育児・介護休業者,派遣労働者,兼務者及び業務委託者は,契約関係が異なるため個別に整理する。

第4 不同意者への対応を先に決める

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事業譲渡契約書のチェックポイント―売主・買主別に見る譲渡対象,代金,前提条件,表明保証及び補償(AI作成)

目次

第1 最初に取引の輪郭を固定する1 譲渡対象を「一切」だけで済ませない2 契約上の地位は相手方の承諾を前提にする3 許認可は承継の可否を個別に確認する第2 代金と精算方法を具体化する1 固定価格か価格調整かを選ぶ2 支払と引渡しを同時履行にする第3 締結からクロージングまでを管理する1 通常運営義務と禁止事項を限定する2 前提条件は当事者ごとに分ける3 クロージング書類を一覧にする第4 表明保証と開示を対応させる1 事業譲渡に必要な分野を選ぶ2 開示資料と例外を紐付ける第5 補償・解除・競業避止を調整する1 補償の対象,期間及び上限を決める2 クロージング後の解除を安易に予定しない3 競業避止は範囲を具体化する第6 売主と買主で最終確認する事項第7 関連記事及び公的資料

事業譲渡では,会社そのものではなく,合意した資産,負債,契約その他の事業要素を個別に移転する。
そのため,契約書の題名が「事業譲渡契約書」であっても,何が移り,何が残り,第三者の同意が得られない場合にどうするかまで定めなければ,事業を予定どおり開始できない。
本記事では,中小企業の事業譲渡契約書を確認するときの主要な論点を,売主と買主の双方の立場から整理する。

第1 最初に取引の輪郭を固定する
1 譲渡対象を「一切」だけで済ませない

譲渡対象は,不動産,機械設備,棚卸資産,売掛金,知的財産,契約上の地位,顧客情報,帳簿及びノウハウ等に分け,別紙で特定するのが基本である。
対象外とする現預金,租税債務,訴訟,過去の労務債務及び関連当事者との債権債務も,残存範囲を明示した方がよい。

資産名だけでなく,基準日,数量,所在,簿価,登記・登録番号及び契約相手方を記載すると,クロージング時の照合がしやすい。
売主は意図しない資産・債務の流出を防ぎ,買主は事業継続に不可欠な資産の漏れを防ぐという,双方の利益が一致する部分である。

2 契約上の地位は相手方の承諾を前提にする

契約上の地位の移転には,原則として契約相手方の承諾が必要である(民法539条の2)。
対象契約の一覧,承諾取得の担当者,期限,費用及び承諾が得られない場合の代替措置を定める必要がある。

重要契約の承諾をクロージングの前提条件とするか,承諾未取得契約を譲渡対象から外して代金を調整するかは,事業への重要性に応じて決める。
売主に結果保証を負わせる場合は,第三者の判断まで支配できないことを踏まえ,対象契約と努力義務の範囲を限定するのが相当である。

3 許認可は承継の可否を個別に確認する

許認可は,法令ごとに承継の可否,事前承認,届出及び人的・物的要件が異なる。
「必要な許認可をすべて取得する」とだけ書かず,許認可名,名義人,所管官庁,申請時期,取得見込み日及び取得までの暫定運営の可否を一覧化する必要がある。

第2 代金と精算方法を具体化する
1 固定価格か価格調整かを選ぶ

譲渡代金は,営業権,固定資産,棚卸資産及び承継債務等の内訳を確認する。
消費税,登録免許税,不動産取得税その他の税務・登記費用について,誰が負担するかも明記する。

基準日からクロージングまで資産・負債が変動する場合は,棚卸数量,売掛金,買掛金又は運転資本に応じた価格調整を設けることがある。
会計方針,資料提出期限,異議期間,専門家による紛争解決及び最終精算日まで定めなければ,計算式だけでは争いを防げない。

2 支払と引渡しを同時履行にする

買主による代金支払と,売主による資産引渡し,登記書類交付,契約承諾書交付及びデータ移管は,同一日に相互確認して行うのが基本である。
後払い又は分割払いを採用する場合,売主は担保,保証,期限の利益喪失及び相殺範囲を確認する必要がある。

第3 締結からクロージングまでを管理する
1 通常運営義務と禁止事項を限定する

契約締結後に売主の経営判断を全面的に拘束すると,通常の営業活動が止まるおそれがある。

(続きを読む...)事業譲渡契約書のチェックポイント―売主・買主別に見る譲渡対象,代金,前提条件,表明保証及び補償(AI作成)

契約書の危険負担条項―引渡し前後の滅失・損傷と民法536条・567条(AI作成)

目次

第1 危険負担とは何を決める問題か1 当事者の責任によらず履行できなくなった場面を扱う2 所有権の移転時期と同じとは限らない第2 民法536条の基本構造1 双方に責任がない履行不能では反対給付を拒める2 債権者側の事情が原因なら扱いが変わる第3 売買目的物の引渡し後は民法567条を確認する1 引渡し後の滅失・損傷では買主が代金支払を拒めない場合がある2 「引渡し」の内容を契約で明確にする第4 危険負担条項で定める事項1 対象となる事故と責任原因を分ける2 危険が移る基準時を客観的に定める3 費用と契約上の効果を具体化する第5 条項例を使うときの注意点1 当事者の表示と負担の方向を一文ずつ読む2 民法と異なる合意かどうかを明示する第6 不可抗力・債務不履行・解除との関係1 不可抗力条項だけで危険負担は完成しない2 売買以外の契約へそのまま転用しない第7 審査時の確認表第8 結論第9 出典・参考資料

売買の目的物が,当事者の責任ではない火災,水害,盗難その他の事故で滅失又は損傷したとき,代金を支払う必要があるかが問題になります。
契約書の危険負担条項を審査するときは,「どちらが危険を負担するか」という結論だけでなく,対象となる事故,危険が移る時点,代金請求,追完,解除及び保険との関係を分けて確認する必要があります。
本稿では,民法536条と567条の位置付けを確認し,契約条項を作る際の確認事項を整理します。

第1 危険負担とは何を決める問題か
1 当事者の責任によらず履行できなくなった場面を扱う

危険負担は,双務契約において,一方の債務が債務者の責任ではない事情により履行できなくなった場合に,反対給付をどう扱うかという問題です。
売買であれば,売主に責任のない事故で目的物を引き渡せなくなったとき,買主が代金支払を拒めるかが典型です。誰かの契約違反が原因である場合は,危険負担だけでなく,債務不履行,損害賠償,解除又は契約不適合責任を検討します。

2 所有権の移転時期と同じとは限らない

所有権がいつ移るか,物を誰が占有・管理しているか,危険を誰が負担するかは,それぞれ別の問題です。
契約書で「所有権は代金完済時に移転する」と定めても,危険負担まで当然に同じ時点になるとは限りません。引渡し,検収,代金完済,所有権移転及び保険開始の時点を別々に確認します。

第2 民法536条の基本構造
1 双方に責任がない履行不能では反対給付を拒める

民法536条1項は,当事者双方の責任によらない事由により債務を履行できなくなったとき,債権者は反対給付の履行を拒むことができると定めています。
例えば,特定の目的物を引き渡す債務が双方の責任によらず履行不能となった場合,反対給付である代金の支払を拒めるかを検討します。現行民法536条1項は,代金債務を当然に消滅させるのではなく,その履行を拒むことができると定めています。契約関係を解消するには,解除の要件を別に検討します。実際の結論は,契約類型,目的物の特定,引渡しの有無及び特約によって異なります。

2 債権者側の事情が原因なら扱いが変わる

民法536条2項は,債権者の責任による事由で履行できなくなった場合,債権者は反対給付を拒めないと定めています。他方,債務者が自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,その利益を債権者へ償還しなければなりません。
契約書では,原因を単に「不可抗力」と表示するだけでなく,受領遅滞,保管指示,搬入場所の不備など,相手方側の事情をどう扱うかも確認します。

第3 売買目的物の引渡し後は民法567条を確認する
1 引渡し後の滅失・損傷では買主が代金支払を拒めない場合がある

民法567条1項は,売買の目的として特定した物について,売主が買主に引き渡した後,双方の責任によらない事由でその物が滅失又は損傷した場合,買主はその滅失又は損傷を理由として履行の追完,代金減額,損害賠償又は解除をすることができず,代金支払を拒むこともできないと定めています。
同条2項は,契約内容に適合する目的物について売主が履行の提供をしたにもかかわらず,買主が受領を拒み,又は受領することができない場合に,その後双方の責任によらず目的物が滅失又は損傷した場面を定めています。

2 「引渡し」の内容を契約で明確にする

目的物を運送人へ渡した時,買主の指定場所へ到着した時,荷下ろしが終わった時,受領書へ署名した時又は検収が完了した時のどこを引渡しと扱うかは,取引によって異なります。
契約書では,引渡場所と方法を定めた上で,危険が移る時点をそれと同じにするか,別の時点にするかを明記します。貿易条件,運送契約及び保険契約がある場合は,それらとの整合性も確認します。

第4 危険負担条項で定める事項
1 対象となる事故と責任原因を分ける

火災,地震,風水害,盗難,運送中の事故,停電又はサイバー攻撃を列挙しても,それだけで責任関係が決まるわけではありません。保管義務又は安全管理義務の違反があれば,双方の責任によらない事故とはいえない場合があります。
「不可抗力」の定義,通知義務,被害拡大防止,代替履行及び証拠保存を合わせて定めます。不可抗力,責めに帰すべき事由及び履行不能は同じ概念ではないため,条項ごとに要件と効果を確認します。

2 危険が移る基準時を客観的に定める

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契約書の甲乙とは―どちらが上か,順番の決まり及び売主・買主など役割名の使い分け(AI作成)

目次

第1 甲乙は当事者を区別するための記号である1 甲が上で乙が下という法的な決まりはない2 甲乙を使わなくても契約は成立し得る第2 どちらを甲又は乙にするか1 一般的な順番はあっても絶対のルールではない2 同じ種類の契約では表示方法をそろえる第3 甲乙と役割名の使い分け1 役割名は条項の意味を理解しやすい2 一つの契約で表示方法を混在させない第4 甲乙の取り違えを防ぐ方法1 権利義務の方向を動詞で確認する2 一括置換後は原本と突き合わせる3 曖昧な条項は甲乙を直すだけでは解決しない第5 複数当事者及び保証人がいる契約1 丙・丁を増やす前に役割を分ける2 保証人は主契約と保証契約を分けて考える第6 契約書作成・審査時の確認表第7 結論第8 出典・参考資料

契約書では,当事者を「甲」「乙」と表示する例が多くあります。しかし,甲が法律上上位である,乙が不利な立場である,又は自社を必ず甲にしなければならないという決まりはありません。
重要なのは記号の順番ではなく,誰がどの権利を持ち,どの義務を負うかを契約書全体で一貫して読めることです。
本稿では,甲乙の意味,順番の考え方,売主・買主などの役割名との使い分け,複数当事者や保証人がいる場合の注意点及び取り違えを防ぐ確認方法を整理します。

第1 甲乙は当事者を区別するための記号である
1 甲が上で乙が下という法的な決まりはない

甲,乙,丙,丁は,契約書の当事者を繰り返し表示するための記号です。一般的な契約書の当事者表示について,甲乙の順番に法的な優劣を与える民法上の定めはありません。
したがって,甲であること自体から,契約上の権利が多い,交渉上の立場が強い,裁判で有利になる,又は契約書を作成した側であるという効果は生じません。実際の権利義務は,各条項の内容から判断します。

2 甲乙を使わなくても契約は成立し得る

民法522条2項は,法令に特別の定めがある場合を除き,契約の成立に書面その他の方式を必要としないと定めています。甲乙の表示は契約成立の要件ではありません。
もっとも,契約書を作る以上,当事者を正確に特定し,後から誰の権利義務かを確認できるようにする必要があります。個人であれば氏名・住所,法人であれば商号・本店・代表者等を確認し,本文中の略称と署名欄を対応させます。

口頭やメールによる合意と契約書の関係は,口頭の合意と契約書-書類を取り交わすまで契約成立を留保できるかで整理しています。

第2 どちらを甲又は乙にするか
1 一般的な順番はあっても絶対のルールではない

契約書を提示する側,自社,売主,貸主又は委託者を甲とする書式は見られます。しかし,これは書式や取引慣行による選択であり,すべての契約に共通する法的ルールではありません。
相手方のひな形を使えば自社が乙になることもあります。甲乙の順番だけを直すために契約書全体を置換すると,条項の一部や別紙だけが入れ替わる事故も起こり得ます。順番より,本文・別紙・署名欄の対応を優先すべきです。

2 同じ種類の契約では表示方法をそろえる

社内で繰り返し使う契約書では,例えば「当社=甲,相手方=乙」又は「発注者=甲,受注者=乙」という基準を決めておくと,審査や契約管理がしやすくなります。
ただし,基準を決めても,取引ごとの役割が逆になる場合があります。前回の契約書を流用するときは,会社名だけでなく,当事者表示,定義,通知先,振込先,署名欄及び別紙を確認します。

第3 甲乙と役割名の使い分け
1 役割名は条項の意味を理解しやすい

文化庁の契約書作成支援資料には,「発注者」「受注者」などの役割名を用いる例があります。文化庁委託事業の「劇場・音楽堂等 契約実務ガイドブック」は,甲乙丙等の略称が多く用いられるとしつつ,無理に用いず「劇作家」「劇団」等のイメージしやすい略称を用いてもよいと説明しています。
売主・買主,貸主・借主,委託者・受託者,開示者・受領者のような役割名は,その条項で誰が何をするかを理解しやすくします。

表示方法長所注意点甲・乙短く,複雑な契約でも表記を統一しやすい役割が直感的でなく,取り違えに気付きにくい売主・買主等権利義務の方向を理解しやすい一方が複数の役割を持つ契約では呼称が長くなる会社名の略称当事者を直接識別できる組織再編や契約承継の場面も含め,定義を正確に保つ必要がある
2 一つの契約で表示方法を混在させない

冒頭で甲乙と定義した後に,説明なく「売主」「委託者」「当社」へ切り替えると,同じ当事者を指すのか,新たな役割を示すのかが不明確になります。
役割名を併用する場合は,「売主である甲」のように対応を明示し,その後の用語を統一します。基本契約と個別契約,本文と仕様書,契約書と利用規約の間でも同じ対応を確認します。

第4 甲乙の取り違えを防ぐ方法
1 権利義務の方向を動詞で確認する

全文検索で「甲」「乙」の出現箇所を見るだけでは足りません。各条項について,誰が,誰に対し,何を,いつまでにするかを一文で言い換えます。

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タイムカードの打刻間はすべて労働時間か―雑談・片付け・出張移動・着替えの判断と立証(AI作成)

目次

第1 タイムカードの打刻間と労働時間は同じとは限らない第2 判断の出発点は使用者の指揮命令下かどうかである1 契約や規程の名称だけで決まらない2 労働から離れることが保障されていたか第3 タイムカードと他の記録をどう読むか1 打刻は重要な出発資料である2 打刻間を区間に分ける第4 雑談・休憩・片付け・清掃をどう区別するか1 雑談と業務上の打合せ2 片付けと清掃第5 着替え・保護具・準備行為1 事業場で行うことが義務付けられている場合2 任意の身支度との区別第6 出張移動時間と直行直帰1 移動しているだけでは一律に決まらない2 記録を旅程と対応させる第7 会社側と労働者側の立証資料1 会社側が確認する資料2 労働者側が整理する資料第8 実務上の確認順序第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 タイムカードの打刻間と労働時間は同じとは限らない

タイムカードの始業打刻から終業打刻までの時間は,労働時間を確認するための重要な客観的記録である。しかし,打刻間の全時間が当然に労働時間になるわけでも,会社が「休憩」「雑談」「自己都合」と記載すれば当然に除外されるわけでもない。

労働基準法上の労働時間は,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間である。名称や社内規程だけでなく,具体的な指示,業務上の必要性,場所の拘束,直ちに対応する義務及び実際の行動から客観的に判断する。

タイムカード,在館記録,パソコンのログ,日報,メール,チャット,予定表及び関係者の説明を勤務日ごとに照合し,「在館していた時間」「会社の都合で拘束された時間」「実際に業務をした時間」を分けることが重要である。

本記事は令和8年10月29日現在の法令,最高裁判例及び厚生労働省の公表資料に基づく。

第2 判断の出発点は使用者の指揮命令下かどうかである
1 契約や規程の名称だけで決まらない

最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決(三菱重工業長崎造船所事件)は,労働基準法上の労働時間を,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間とし,労働契約,就業規則等の定めだけで決めることはできないとした。

したがって,残業の事前許可がなかったこと,日報に休憩と書かれていたこと又は会社が労働時間として集計していなかったことだけで,実態上の労働時間を一律に除外することはできない。他方,事業場に残っていただけで自由に私用をしていた時間まで,当然に労働時間になるわけでもない。

2 労働から離れることが保障されていたか

待機時間や休憩時間でも,その場を離れられず,必要があれば直ちに電話,来客,機械又は顧客へ対応する義務がある場合は,労働から離れることが保障されていない可能性がある。

反対に,外出や私用が自由で,業務への対応を求められず,実際にも対応していない時間は,打刻間であっても労働時間から除かれることがある。

第3 タイムカードと他の記録をどう読むか
1 打刻は重要な出発資料である

厚生労働省の労働時間適正把握ガイドラインは,使用者が始業・終業時刻を確認・記録し,原則として現認又はタイムカード,ICカード,パソコン使用時間等の客観的記録を基礎とするよう求めている。

会社は,自己申告と客観的記録に著しい食い違いがあるときは,実態を調査して補正する必要がある。打刻後の業務を黙認しながら,申請がないという理由だけで切り捨てる運用は適切でない。

2 打刻間を区間に分ける

勤務日ごとに,少なくとも次の区間へ分けると検討しやすい。

区間確認する事項主な資料始業前朝礼,着替え,清掃,準備,資材受出しの指示と必要性打刻,入館,朝礼表,作業手順,証言所定時間内休憩,中抜け,待機,雑談と業務対応の有無日報,通話,メール,映像,予定表終業後片付け,清掃,日報,翌日の準備,私的滞在退館,PCログ,日報,チャット出張日移動中の自由,物品運搬,指示,現地業務の開始・終了旅程,乗車券,メール,日報

打刻間全体について一つの評価をするのではなく,短い区間ごとに業務の有無と拘束の程度を確認する。

第4 雑談・休憩・片付け・清掃をどう区別するか
1 雑談と業務上の打合せ

雑談という記載があっても,その場で上司が当日の作業,顧客対応又は翌日の段取りを指示していた場合は,業務上の打合せを含む可能性がある。誰が,どの場所で,何を話し,業務上の決定や指示があったかを確認する。

純粋な私的会話で,参加が自由であり,業務対応を求められていなかった時間は労働時間ではないことがある。長時間の一括控除をする前に,私的会話の具体的な時間帯と根拠を特定する。

2 片付けと清掃

作業場所の片付け,工具の返却,機械の停止,ごみの処理又は清掃が,会社の指示,安全手順又は翌日の作業のために必要であれば,労働時間となり得る。

従業員が自分の都合で私物を整理し,又は任意に長く残っていた時間とは区別する。会社が日常的な片付けを必要と認識しながら所定時間を割り当てていなかった場合は,黙示の指示がなかったかも検討する。

第5 着替え・保護具・準備行為
1 事業場で行うことが義務付けられている場合

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アパート大家の火災保険と賠償責任保険―建物の損害,漏水事故及び家賃損失(AI作成)

目次

第1 誰のどの損害を補償するか第2 建物,家財及び賠償責任を分ける1 建物そのものの損害2 入居者の家財と借家人賠償3 大家が第三者に負う賠償責任第3 漏水,雨漏り及び設備事故の確認第4 家賃損失の補償と空室保証の違い第5 保険金額と実際の支払額第6 地震保険と建物更生共済を区別する第7 契約を点検するときの確認表第8 事故が起きたときの対応第9 相続と管理会社変更のとき第10 よくある質問と関連記事1 火災保険に入っていれば,大家の賠償も補償されるか2 水濡れなら,漏水も雨漏りも同じか3 保険会社が払わないときは,修繕もしなくてよいか4 加入金額を見れば,地震の支払額が分かるか第11 出典
第1 誰のどの損害を補償するか

アパートの火災保険を確認するときは,建物を直す費用だけでなく,入居者や通行人に対する損害賠償,家賃収入の減少及び事故対応費用を分けて考える必要がある。
「火災保険に加入している」という情報だけでは,これらの損害がどこまで補償されるかは分からない。

本記事は,大家が賃貸建物の保険・共済を点検するための確認事項を,令和8年10月28日現在確認できる法令及び公開資料に基づいて整理するものである。
補償の有無は,商品,契約時期,被保険者,対象建物,事故原因及び特約で異なるため,保険証券・共済証書と適用約款を合わせて読む必要がある。

第2 建物,家財及び賠償責任を分ける
1 建物そのものの損害

建物を対象とする保険では,対象に含まれる建物や設備について,契約で定めた事故による損害を確認する。
火災,風災,水災,給排水設備の事故等は同じ条件で扱われるとは限らず,選択した補償と除外事項を照合する。

建物が損傷したこと,貸主に修繕義務があること及び保険金が支払われることは,それぞれ別の判断である。
民法606条の修繕義務の有無を,保険会社が支払うかどうかだけで決めることはできない。

2 入居者の家財と借家人賠償

大家の建物保険が,入居者の持ち物まで当然に補償するわけではない。
入居者自身の家財の損害と,入居者が借りた部屋を損傷して大家に対し負う賠償責任も別の問題である。

大家と入居者のどちらが契約者かだけでなく,被保険者,保険の対象及び賠償の相手方を確認する。
入居者側に保険加入を求めている場合も,加入の確認と,事故のときに使える補償の確認を分ける必要がある。

3 大家が第三者に負う賠償責任

施設賠償責任保険等は,施設の欠陥や業務に起因する事故について,法律上の損害賠償責任を負担した場合の損害を扱う。
建物自体の損害を補償する保険とは役割が異なり,特約として付帯する商品もある。

民法717条は,工作物の設置又は保存の瑕疵による損害について,占有者及び一定の場合の所有者の責任を定めている。
大家だからすべての事故について責任を負うとも,管理会社へ任せたから対外的な責任がなくなるともいえず,事故原因,管理状況及び法的な責任の要件を確認する必要がある。

損害の例最初に確認する補償・関係火災で大家所有の建物が損傷した建物を対象とする火災保険・共済の補償事故と支払条件事故で入居者の家具が損傷した入居者の家財保険と,原因者への賠償請求の関係建物の欠陥で通行人がけがをした大家等の法的責任と施設賠償責任保険等の条件借主が借りた部屋を損傷した借主の責任と借家人賠償責任の補償条件建物の損傷で家賃収入が減った家賃収入・家賃損失に関する特約の条件

この表は補償を探す順序を示すものであり,記載した事故で必ず保険金が出るという意味ではない。

第3 漏水,雨漏り及び設備事故の確認

水に関する事故では,給排水管からの漏水,屋根や外壁からの雨水の侵入,洪水等の水災及び経年劣化による設備故障を分ける。
見た目が同じ水濡れでも,原因と特約によって補償が異なることがある。

施設賠償責任の補償が付いていても,漏水又は雨水侵入による財物の損害が除外されていないか,追加特約でどの除外を補っているかを確認する。
漏水を補償する特約の名称だけから,雨漏りや壊れた配管自体の修理費まで含むと判断しないことが重要である。

確認する損害は,原因となった設備の修理,大家の建物の内装,入居者の家財,階下等の第三者への賠償及び休業・家賃損失に分ける。

(続きを読む...)アパート大家の火災保険と賠償責任保険―建物の損害,漏水事故及び家賃損失(AI作成)

賃貸管理委託契約書のチェックポイント―管理料,修繕,免責,解約及び引継ぎ(AI作成)

目次

第1 契約前に確認すること第2 管理委託,仲介及びサブリースを区別する1 誰が入居者の貸主になるか2 賃貸住宅管理業法の対象と登録第3 管理業務と追加費用を対応させる1 管理料に含まれる範囲を具体化する2 広告料を無制限に承諾しない第4 家賃,敷金及び報告を確認する1 家賃総額と実際の送金額を照合できるか2 分別管理と定期報告第5 修繕の承認と緊急対応を決める1 通常の修繕2 承認を待てない緊急対応第6 免責条項と保険加入義務を読む1 誰のどの行為について責任を制限する条項か2 保険で補償される損害と,管理会社への請求第7 契約更新,賃料改定及び交渉の権限を分ける第8 管理会社の変更と契約終了時の精算1 予告期間と解約金2 引継ぎの対象と期限第9 署名前に使う確認表第10 よくある質問1 標準契約書と違う条項は無効か2 管理会社へ任せれば貸主の責任はなくなるか3 管理会社を変える場合は入居者の賃貸借契約も終わるか第11 出典と関連記事
第1 契約前に確認すること

賃貸アパートの管理会社を選ぶときは,管理料率だけでなく,何を任せ,どの費用が別にかかり,事故や契約終了のときに誰が対応するかを確認する必要がある。
管理委託契約書,重要事項説明書,業務仕様書,料金表及び修繕の承認基準を一組で読み,説明と契約条件が一致しているかを確かめる。

本記事は,貸主が賃貸住宅の管理を委託するときの確認事項を,令和8年10月28日現在確認できる法令及び公開資料に基づいて整理するものである。
国土交通省の標準契約書は比較の手掛かりになるが,すべての条項がそのまま法律上強制されるものではなく,管理する物件と業務に合わせた合意が必要である。

署名前には,金額,送金日,承認基準及び予告期間などの空欄を埋めた最終版を受け取る。
別紙が契約内容に含まれる場合は,その名称と版,本文との優先関係も確かめ,署名した本文と同じ時点の資料を保管する。

第2 管理委託,仲介及びサブリースを区別する
1 誰が入居者の貸主になるか

通常の管理委託では,所有者が入居者との賃貸借契約の貸主であり,管理会社は契約で定めた仕事を受託する。
入居者募集の仲介は,賃貸借契約の成立に向けた別の業務である。
サブリースでは,事業者が所有者から建物を借り,入居者へ転貸する関係になるため,所有者と事業者の賃貸借条件を読む必要がある。

「家賃管理」「家賃保証」という名称だけで契約の仕組みを決めず,家賃を受け取る根拠,空室や滞納の負担,修繕の発注者及び契約終了後の入居者対応を確認する。
管理委託の変更と,サブリース契約の終了を同じ手続として扱わないことが重要である。

2 賃貸住宅管理業法の対象と登録

国土交通省は,賃貸住宅の維持保全を行う管理業について,管理戸数200戸以上の事業者に登録義務があると説明している。
200戸未満でも任意に登録でき,登録した事業者には登録業者としての規制が適用される。
家賃等の金銭管理だけを行う事業は,同法の賃貸住宅管理業の定義から除かれるため,受託内容も確認する必要がある。

登録業者については,契約締結前の重要事項説明と,締結後の契約条件を記載した書面交付を区別する。
法令上の説明対象の例外に当たる場合もあるため,すべての貸主・契約に同じ説明義務があると一律に判断せず,事業者の登録と相手方の属性を確認する。

第3 管理業務と追加費用を対応させる
1 管理料に含まれる範囲を具体化する

巡回,清掃,入居者からの連絡受付,家賃の回収,更新事務及び修繕の手配について,実施する仕事,頻度,対応時間及び報告方法を確認する。
「建物管理一式」という記載だけでは,夜間対応,法定点検の手配,又は実際の清掃まで含むかが分からないことがある。

管理料とは別に費用が生じる仕事は,発生条件,計算方法,消費税,支払時期及び事前承認の要否を料金表に対応させる。
新規契約,更新,賃料改定,退去立会い,原状回復及び広告について,同じ仕事を複数の名目で請求しないかも確認するとよい。

2 広告料を無制限に承諾しない

入居者募集の媒介報酬には宅地建物取引業法と報酬告示による規律があり,管理委託料とは区別して確認する必要がある。
「広告料」という名称が付いているだけで,媒介報酬の上限とは別に自由に請求できるわけではない。

(続きを読む...)賃貸管理委託契約書のチェックポイント―管理料,修繕,免責,解約及び引継ぎ(AI作成)

外国代理人登録制度とは―外国干渉防止法の国内検討と企業・研究者・弁護士への影響(AI作成)

目次

第1 外国代理人登録制度は何を目指すのか第2 日本ではどこまで決まっているのか1 会議資料は成立した法律ではない2 政党の提言と政府の検討を分ける第3 外国との関係だけで判断できない理由第4 企業・研究者・弁護士の確認事項1 企業・広報会社・動画制作者2 研究者・大学3 弁護士第5 表現・取材・政治活動との調整第6 よくある質問1 海外から報酬を受けたら,日本で直ちに登録が必要か2 登録すれば,他の法令に違反する活動も適法になるか3 国家情報局ができたことと,同じ制度なのか第7 出典

外国政府等との関係を明らかにさせる制度と,秘密の不正取得等を処罰する制度は,目的も要件も同じではない。日本で検討されている外国代理人登録制度についても,外国と関係があるという理由だけで,直ちに登録義務や刑事責任が生じると読むことはできない。

本記事は令和8年10月27日を基準に,内閣官房の「インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議」の資料を中心として,国内の検討内容と,企業・研究者・弁護士が確認しておきたい点を整理する。

第1 外国代理人登録制度は何を目指すのか

令和8年10月26日の第2回有識者会議に提出された警察庁資料「外国による不当な干渉を防止するための法制度について」は,外国からの働き掛けについて,政治・行政への影響と秘密情報の収集・取得等を分けている。

同資料のPDF6頁に示された対応の方向性は,外国との関係を背景に行われる一定の活動について,登録によって透明性を確保する仕組みと,悪質な行為への罰則等を検討するというものである。登録して関係を開示する仕組みと,行為そのものを犯罪として処罰する仕組みを区別する必要がある。

「外国代理人」は,ここでは外国との関係を背景に活動する者に関する制度上の議論であり,民法上の代理人や訴訟代理人と同じ意味とは限らない。誰を対象とし,どの活動について,いつ,何を登録させるかは,日本の具体的な制度設計を確認しなければ判断できない。

出典:警察庁提出資料(PDF6~8頁)

第2 日本ではどこまで決まっているのか
1 会議資料は成立した法律ではない

警察庁資料のPDF7・8頁は,規制の必要性・合理性,対象行為・対象者,義務の内容,権利への配慮,民主的統制等を検討課題として掲げている。資料に外国の制度や対応案が載っていることと,日本で同じ義務が成立したことは別である。

本記事が確認した会議資料から,日本の企業・研究者・弁護士について,外国代理人登録の具体的な対象,期限,例外及び違反時の効果が確定したとはいえない。外国の登録期限や専門職の例外を,日本で既に適用される規則として使うこともできない。

2 政党の提言と政府の検討を分ける

自由民主党インテリジェンス戦略本部の令和8年8月5日付提言は,登録制度等の制度設計を提案している。提言の表題は「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて―開かれた社会を、隠れた工作から守る―」である。担当組織についても,国家公安委員会が担当することが考えられるという提案である。担当機関が政府の制度として確定したとの説明に強めない方が正確である。

第1回有識者会議の議事要旨に記載された各委員の意見も,それだけで会議全体の結論や政府の決定になるわけではない。会議資料,議事要旨,政党の提言を,それぞれの作成主体と位置付けに即して読む必要がある。

出典:自民党の提言,第1回議事要旨

第3 外国との関係だけで判断できない理由

警察庁資料のPDF3頁は,通常の外国代理人による影響力活動は,民主主義社会における多角的な議論の促進に資するものと説明している。外国の団体から依頼を受けたこと,海外から資金が入ったこと,外国人と共同研究をしていることだけを,直ちに不当な干渉と同一視すべきではない。後半は,本記事の整理である。

同資料のPDF4頁は,外国との関係を隠した働き掛けとして,公職者への接触,情報の発信,利益の提供等の経路を示す。実務上の確認では,国籍だけでなく,誰が依頼し,誰が資金を出し,誰が活動内容を指示し,その関係を誰に明らかにするかを分けて考えることが有用である。後半は,資料の構造を踏まえた本記事の整理である。

第4 企業・研究者・弁護士の確認事項
1 企業・広報会社・動画制作者

本記事の提案として,依頼者,契約当事者,実際の支払者,編集・発信内容の指示者が一致するかを確認し,相違があれば理由を記録しておくことが考えられる。広告や動画の制作では,資金提供の開示,最終的な承認者,内容変更の指示方法も確認対象になる。

これらは契約上の問題を具体化するための確認事項であり,日本の外国代理人登録制度によって既に一律に義務付けられた手続という説明ではない。

2 研究者・大学

共同研究,寄附,研究成果の発表については,研究上の協力関係と,第三者への政治的な働き掛けや発信内容への指示を分けて把握することが考えられる。外国との研究協力が全て登録対象になると,今回の資料だけから判断することはできない。

営業秘密の持出しや情報管理については,登録制度の議論とは別に,既存の法令・契約に即して検討する必要がある。具体的な情報管理の問題は,社員による私用LINE・私物USB・個人メールの利用に関する記事を参照されたい。

3 弁護士

法律相談,訴訟代理,政策の変更を求める働き掛けは,業務の内容を分けて考える必要がある。外国法上の専門職の例外を参考にする場合も,どの活動を,どの条件で除外しているかを確認すべきであり,「弁護士なら全業務が対象外」と一括りにしない方がよい。

ただし,日本の具体的な対象と例外は今後の制度設計の問題である。本記事は,各国法の例外を網羅して紹介するものではない。日本の弁護士業務について,新たな登録義務の発生を断定することもしていない。

第5 表現・取材・政治活動との調整

(続きを読む...)外国代理人登録制度とは―外国干渉防止法の国内検討と企業・研究者・弁護士への影響(AI作成)

外国政府の関与を隠した動画制作依頼―米国の起訴状から考える契約時の確認事項(AI作成)

目次

第1 どのような事件として起訴されたのか第2 起訴状が主張する資金と指示の仕組み1 架空の投資家を用いた説明2 契約相手と異なる送金者3 出演者まで一括して共犯と扱わない第3 契約締結前に確認しておきたいこと1 四つの立場を分ける2 資金源・指示者の説明を確かめる3 編集・配信の指示と開示方針第4 契約に書いておきたい事項第5 日本の制度検討と比較するときの注意点第6 依頼内容に疑問が生じた場合第7 出典

動画の制作依頼で,契約書に書かれた依頼者と,実際の資金提供者や編集方針の指示者が違っていたら,どのような確認が必要になるのか。米国で令和6年に公表された起訴状は,この問題を具体的に考える材料になる。

本記事は,米司法省が公表したRT関係者2名に対する起訴状を読み,そこに記載された主張と,日本の契約実務に向けた本記事の提案を分けて整理する。起訴は有罪判決ではなく,以下の事件経過は,起訴状に記載された訴追側の主張を紹介するものである。

第1 どのような事件として起訴されたのか

米司法省は令和6年9月4日,ロシアのRTに関係する2名が,米国のコンテンツ制作会社へ資金を提供し,その関与を隠して動画等の制作・配信を指示したとする起訴を公表した。

起訴状は,外国代理人登録法(FARA)への違反に関する共謀及び資金洗浄の共謀を訴追している。これは米国法に基づく訴追であり,同じ事実関係が直ちに日本で同じ名称の犯罪になるという意味ではない。

出典:米司法省の発表,起訴状(PDF1~3頁,28~30頁)

第2 起訴状が主張する資金と指示の仕組み
1 架空の投資家を用いた説明

起訴状は,コンテンツ制作会社の資金源を説明するため,架空の投資家の人物像や経歴資料が用意されたと主張している。出演者への説明や投資家の本人確認をめぐるやり取りも記載されている。

ここで重要なのは,資料の体裁が整っていることだけで,その人物の実在や資金の出所まで確認できたことにはならないという点である。後者は,起訴状の事実主張を踏まえた本記事の読み取りである。

出典:起訴状(PDF9~16頁,14~20項)

2 契約相手と異なる送金者

起訴状は,約970万米ドルが複数の送金者から制作会社へ送金され,その送金者はいずれも制作会社の契約当事者ではなかったと主張している。また,動画制作等の対価であるのに,送金の説明に電子機器の購入に関する記載が使われたとも主張している。

金額や送金者に関するこれらの記載は,訴追側が主張する資金の流れであり,本記事が銀行記録を独自に検証した結果ではない。

出典:起訴状(PDF26~28頁,39~44項)

3 出演者まで一括して共犯と扱わない

起訴状の冒頭は,一部の出演者について,資金提供者等に関して欺かれたとの主張を含む。制作会社,指示を出す者,資金提供者,出演者の認識を区別して読む必要がある。

ある会社の番組に出演していたという事情だけで,出演者全員が関与を知っていた,あるいは全員が起訴されたと読み替えることはできない。個々人の認識と訴追の対象を確認することが大切である。

第3 契約締結前に確認しておきたいこと

以下は,日本の動画制作者,広報会社,出演者及び顧問弁護士に向けた本記事の提案である。起訴状にそのまま書かれた法的義務や,日本で一律に課される本人確認義務の一覧ではない。

1 四つの立場を分ける

依頼の窓口となる者,契約当事者,実際の支払者,内容を指示・承認する者を分けて記録する。同じでない場合には,それぞれがどのような権限や関係に基づいて関与するのか,説明を求めることが考えられる。

送金者が違うことだけで違法と決め付ける必要はないが,説明が曖昧なまま,請求書の名目を実態と異なるものにする依頼に応じることは避けたい。

2 資金源・指示者の説明を確かめる

資金提供者の実在や事業内容,説明に用いられた経歴資料の作成者,担当者の連絡先等を確認することが考えられる。確認ができなかった事項は,確認できたことにせず,契約判断の材料として残す。

出演者や再委託先にも説明する必要がある案件では,誰がどの範囲の説明を担うのかを決めておく。秘密保持の要請がある場合にも,その対象と理由を具体化することが有用である。

3 編集・配信の指示と開示方針

テーマ,台本,出演者,配信時期,修正,削除を誰が決めるかを確認する。単なる制作費の提供と,発信内容への継続的な指示を,契約書や連絡記録から区別できるようにすることが考えられる。

スポンサーや資金提供関係を視聴者等へどう示すかも,制作開始前の確認対象になる。個別の表示義務の有無は,媒体,広告の内容及び適用される法令に即した別の検討を要する。

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国家情報会議・国家情報局・対外情報庁構想の違い―成立した法律と今後の検討(AI作成)

目次

第1 三つの名称の位置付け第2 国家情報会議は何をするのか1 情報活動等を審議する会議体2 情報提供義務の主体を読み違えない第3 国家情報局は会議とどう違うのか第4 対外情報庁はどこまで決まった構想か第5 外国代理人登録制度・能動的サイバー防御との関係第6 組織改編のニュースを読む際の確認事項第7 出典

国家情報会議,国家情報局,対外情報庁構想は,いずれも情報機能の強化と関係するが,同じ組織を指す言葉ではない。法律によって設けられた会議体,その事務や情報の集約・分析を担う組織,今後の設置を目指す提案を分けて読む必要がある。

本記事は令和8年10月27日を基準に,国家情報会議設置法,内閣官房の組織説明及び有識者会議資料等で確認できた範囲を整理する。

第1 三つの名称の位置付け

国家情報会議は,重要な情報活動等について審議するため内閣に置かれる会議である。国家情報会議設置法に根拠がある。

国家情報局は,内閣官房に置かれ,情報の収集・分析・集約等や国家情報会議に関する事務を担う組織として,内閣官房の公式説明に示されている。

対外情報庁は,今回確認した政党の提言等で,対外情報収集機能の強化のために設置を目指すものとして述べられている構想である。国家情報会議・国家情報局が発足したという事実から,対外情報庁まで同時に発足したと読むことはできない。

出典:国家情報会議設置法,内閣官房「国家情報会議・国家情報局」,自民党の提言

第2 国家情報会議は何をするのか
1 情報活動等を審議する会議体

国家情報会議設置法2条は会議の設置を定め,3条は所掌事務を定める。情報活動の基本的な方針,重要な情報の分析及び評価等を,条文に定められた範囲で審議する仕組みである。

会議の設置と,個別の情報収集行為について法律上の権限が認められることは,同じ問題ではない。国家情報会議設置法だけを根拠に,民間企業や個人による情報取得の適法性まで判断することはできない。

2 情報提供義務の主体を読み違えない

同法7条は,内閣官房長官及び関係行政機関の長について,条文所定の資料・情報を会議へ提供する仕組みを定めている。この規定の主体を,一般の民間企業や国民全体へ広げて説明しないことが大切である。

「情報提供」という言葉があるから,全企業に包括的な報告義務が課されたと読むことはできない。企業について義務の有無を判断する際は,その企業や行為を対象にした別の法令上の根拠を確認する必要がある。

第3 国家情報局は会議とどう違うのか

内閣官房の公式説明は,令和8年7月31日に国家情報会議及び国家情報局が発足したとする。施行期日を定める政令の資料でも,同日が示されている。

国家情報会議が審議を行う会議体であるのに対し,国家情報局は,情報の収集・分析・集約等を担い,会議を支える事務を処理する組織として説明されている。名称が似ていても,審議する機関と事務を担う組織の役割を区別すると理解しやすい。

ただし,組織の設置から,あらゆる情報収集手段を無条件で用いられるとの結論は出ない。通信情報の取扱い,捜査,民間への義務付け等の個別問題は,それぞれの法的根拠と要件を確認すべきである。

出典:内閣官房の組織説明,国家情報会議設置法の施行期日を定める政令に関する資料

第4 対外情報庁はどこまで決まった構想か

自由民主党の提言は,令和9年度末までに独立した対外情報庁を創設することが連立政権合意に明記されていると説明し,有識者会議で設置に必要な法的措置等を検討するよう求めている。ここでは提言が説明する計画を紹介しており,連立政権合意そのものを独立に照合したものではない。

担当する大臣や監督の仕組みに関する案が書かれていても,提言に書かれた組織・権限・日程が,そのまま現行の法律上確定したことにはならない。具体的な設置法案や成立法を確認する段階で,目的,所掌,権限,統制,施行期日を改めて点検すべきである。

令和8年9月及び10月の有識者会議資料も,機能強化に関する検討の資料である。提出資料や委員の発言に示された選択肢を,既に行使できる権限として紹介しないことが重要である。

第5 外国代理人登録制度・能動的サイバー防御との関係

外国代理人登録制度等は,外国からの不当な干渉等に対処する仕組みとして検討されている。国家情報会議・国家情報局という組織の設置と,日本の民間事業者に新たな登録義務が生じることを一括りにしない方がよい。

能動的サイバー防御についても,情報機能の強化に関する提言と,個々の措置の根拠法,施行状況,実際の政府判断は分けて読む必要がある。企業の要請が政府の措置の決定を意味するかという問題は,GMOの公表事案に関する記事で扱っている。

民間企業自身による逆探知・ハックバックの適法性も,組織整備から直ちに結論が出るものではない。具体的な行為と権限の違いは,企業による逆探知・ハックバックの記事を参照されたい。

第6 組織改編のニュースを読む際の確認事項

最初に確認するのは,根拠となる文書の種類である。成立法,施行期日の政令,官庁の組織説明,政府の検討資料,政党の提言では,確認できることが異なる。

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弁護士の懇親会費・団体会費は必要経費になるか―判決と裁決の比較(AI作成)

目次

第1 領収書と「仕事のため」という説明だけで決まるか1 この記事が扱う範囲2 個別収入との対応費用と一般対応費用第2 東京高裁が示した一般対応費用の考え方1 業務との直接関係を別の要件として加えることを退けた2 会務活動費を一括して認めた判決ではない第3 懇親会・二次会等を分けて判断した理由1 認めた支出と認めなかった支出がある2 会費・選挙費用・交際費を別々に検討する第4 ロータリークラブ会費を否認した裁決1 実際の紹介受注があっても否認した事案2 弁護士会の事案と同じものとして扱わない第5 判決と裁決を比較するときの注意1 判断枠組みの表現にも違いがある2 別の事案へ当てはめる際の比較項目第6 支出時に残しておきたい記録第7 関連記事と出典1 関連記事2 一次資料3 関連する解説
第1 領収書と「仕事のため」という説明だけで決まるか
1 この記事が扱う範囲

弁護士の懇親会費や団体会費は、名目や領収書の有無だけで必要経費に当たると決まるものではない。
本記事は、個人の事業所得に関する東京高裁平成24年9月19日判決と、司法書士のロータリークラブ会費に関する平成26年3月6日裁決を比較し、支出の目的・活動内容・私的支出との区分をどう説明するかを整理する。

確認の基準日は令和8年10月28日である。
法人の損金、消費税の仕入税額控除、繰延資産等の個別処理は、それぞれ別の要件により確認する必要があり、本記事で所得税の必要経費と同じ結論になるとは扱わない。

2 個別収入との対応費用と一般対応費用

所得税法37条1項は、売上原価等の総収入金額を得るため直接に要した費用と、その年の販売費・一般管理費その他の業務について生じた費用を定めている。
国税庁の「必要経費の知識」もこの区別を説明し、家事上の費用や、家事と業務の双方に関係する費用の取扱いに注意を促している。

したがって、特定の売上との個別対応がないという理由だけで、すべての支出を必要経費から除くことはできない。
他方で、事業に何らかの利益があったという説明だけで、私的な交際や消費の支出がすべて必要経費になるわけでもない。

第2 東京高裁が示した一般対応費用の考え方
1 業務との直接関係を別の要件として加えることを退けた

東京高裁平成24年9月19日判決・平成23年(行コ)第298号は、弁護士の会務活動等に伴う支出の必要経費該当性を判断した。
一般対応の必要経費について、業務遂行上必要であることに加え、事業の業務と直接関係を持つことを要求する解釈を採用しなかった点に特徴がある。

判決は、活動の内容等を総合考慮し、社会通念に照らして客観的に判断する考え方を示している。
支出者が自分の仕事に役立つと考えたという主観だけを基準にしたものではない。

2 会務活動費を一括して認めた判決ではない

同判決は、弁護士会の会務活動そのものを個人の事業所得を生ずべき業務と認定したわけではない。
また、弁護士会に関係する支出というだけで一律に必要経費とせず、活動と支出ごとに判断している。

この判決から、任意団体の会費、個人的な交際、すべての選挙活動費等の必要経費算入を当然に導くことはできない。
どのような会合で、誰が参加し、どの活動に関連し、どの程度の支出をしたのかが重要となる。

第3 懇親会・二次会等を分けて判断した理由
1 認めた支出と認めなかった支出がある

同判決は、公式行事後や関係団体との協議後等の懇親会費について、会合の内容、参加者、支出額等を踏まえ、一部を必要経費と認めた。
一方、問題となった継続的な会食、慰労のための支出、二次会費等については、私的な側面や業務上必要な部分の区分・立証等を検討し、認めなかったものがある。

重要なのは、一次会なら必ず認められ、二次会なら法律上一律に認められないという区別ではない。
判決が扱った具体的支出についての認定を、すべての会食に共通する定額又は形式的な基準へ置き換えないようにする。

2 会費・選挙費用・交際費を別々に検討する

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