目次第1 残余利益方式とは何か――この記事の対象と時点第2 残余利益モデルの考え方1 残余利益とクリーンサープラス関係2 配当還元モデル・DCF法との比較第3 国税庁案の残余利益方式の算式1 算式の全体2 直前期末の純資産価額(D′0)は法人税法上の簿価3 年利益金額と年配当金額4 還元率(re)5 加算期間を5年とする理由6 ターミナルバリューを加算しない理由7 しんしゃく率8 子会社株式と従業員持株会株式第4 国税庁が示した計算例1 計算例①(年利益金額1,000万円・年配当金額200万円)2 計算例②(年利益金額500万円・年配当金額100万円)3 利益ゼロ・無配の会社の水準――「事実上の評価減効果」第5 算式から読み取れる性質(本記事の試算)1 内部留保が多いほど評価額が下がる2 ROEと還元率の関係3 5年での打切りとしんしゃく率の意味第6 残された論点1 減損・利益操作・役員報酬2 子会社・持株会・純資産価額による頭打ち第7 関連記事第8 出典1 法令2 有識者会議の資料3 関連記事
第1 残余利益方式とは何か――この記事の対象と時点
残余利益方式とは,取引相場のない株式(非上場株式)の相続税評価について,国税庁が有識者会議に示している新しい評価方式の案である。
直前期末の法人税法上の簿価純資産に,将来5年分の残余利益(利益から株主が通常期待する収益を差し引いた超過収益)の現在価値を加え,その合計にしんしゃく率を乗じて評価額を求める。
これは国税庁事務局のたたき台であり,採用が決まったものではない。
国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は,令和8年8月20日の第5回会議で,規模区分と類似業種比準方式・純資産価額方式による現行の評価体系を廃止し,原則的評価方式を残余利益方式に一本化する見直しの骨子を示した(第5回当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」1頁)。
続く令和8年9月16日の第6回会議では,残余利益方式の算式,加算期間及び計算例が具体的に示された(第6回資料6頁~8頁・26頁~27頁)。
もっとも,骨子自身が「評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」と明記しており(骨子1頁),還元率やしんしゃく率の値も決まっていない。
国税庁は,収益力の高い会社ほど評価額が高くなるのは相続税法22条の「時価」として自然であり,事業承継への配慮は政策税制で行うべきとの立場である(第5回議事要旨3頁~4頁)。
この記事は,令和8年9月19日現在で公表されている第5回までの議事要旨と第6回までの会議資料に基づき,残余利益方式の考え方,国税庁案の算式及び資料の計算例を整理し,算式から読み取れる性質を試算で確かめるものである。
第6回会議の議事要旨は,この記事の作成時点で公表されていない。
会議全体の経緯と論点は,親記事である取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめている。
現行の評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式)の全体像は遺産相続における非上場株式の評価方法を参照されたい。
第2 残余利益モデルの考え方
1 残余利益とクリーンサープラス関係
残余利益とは,ある期の利益から,期首の純資産に株主が通常期待する収益率(資本コスト)を乗じた額を差し引いたものである。
第6回資料8頁は,これを,利益から前期の簿価純資産に期待収益率を乗じた額を差し引いたものとして表し,差し引く部分を「株主が通常期待する収益=企業が株主に払うべきコスト」と説明している。
残余利益がプラスであれば,企業は株主の期待を上回る利益を上げていることになる(同頁)。
残余利益モデルは,株式の価値を「期首の純資産+将来の残余利益の現在価値の合計」として求める。
この計算の前提となるのがクリーンサープラス関係であり,第6回資料5頁は,これを「期首の自己資本から期末の自己資本への変化額が,会社の株主との間の資本取引を除いて,すべて損益計算書によって説明されている関係」と説明している。
国税庁案では「前期末の純資産価額+年利益金額-年配当金額=当期末の純資産価額」という形で用いられる(同資料7頁)。
2 配当還元モデル・DCF法との比較
第3回会議で櫻井久勝委員は,インカム・アプローチの3モデル(配当割引モデル・割引キャッシュフローモデル・残余利益モデル)は将来の予測が正しい限り理論上は同じ評価額に到達するとした上で,実践的な観点から残余利益モデルが優れていると報告した(親記事の紹介による)。
国税庁は,第5回資料1頁で3つの方式を次のように比較している。
項目配当還元方式DCF法残余利益方式適用ができない企業配当を操作している企業,配当をゼロに抑制している企業等成長期(スタートアップ等)の企業,設備投資等によりFCFがマイナスの企業特には見あたらない予測期間以降の残存価値相対的に最も大きい相対的に大きい明らかに小さい(現時点の保有資産を評価するため,将来予測への依存が小さい)将来予測の難易度配当の時期は裁量的に決定できるため予測は困難FCFの予測は困難将来利益の予測は比較的容易(過去の実績から一定の予測可能)
骨子は,これを受けて「適用可能範囲・将来予測への依存度・執行可能性の観点から『残余利益モデル』を採用」するとしている(骨子1頁)。
残余利益方式では直前期末の簿価純資産が評価額の大部分を占めるため,将来予測の誤差の影響が相対的に小さいというのが国税庁の説明である。
第6回資料11頁は,類似業種比準方式には「理論的な根拠や実証的な裏付けがなく,他分野でも徐々に使われなくなってきた」とし,学術上の理論的根拠を持つ残余利益モデルに税務上の評価としての一定の修正を加えた方式への見直しは「現行制度に比べて,より合理的な評価方法への見直しであると考える」と位置付けている。
類似業種比準方式の見直しの行方は,類似業種比準方式は廃止されるのかで扱う。
第3 国税庁案の残余利益方式の算式
(続きを読む...)残余利益方式とは――国税庁案の算式(簿価純資産+5年分の残余利益×しんしゃく率)と計算例(AI作成)