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企業法務・民事実務

賃貸管理委託契約書のチェックポイント―管理料,修繕,免責,解約及び引継ぎ(AI作成)

目次

第1 契約前に確認すること第2 管理委託,仲介及びサブリースを区別する1 誰が入居者の貸主になるか2 賃貸住宅管理業法の対象と登録第3 管理業務と追加費用を対応させる1 管理料に含まれる範囲を具体化する2 広告料を無制限に承諾しない第4 家賃,敷金及び報告を確認する1 家賃総額と実際の送金額を照合できるか2 分別管理と定期報告第5 修繕の承認と緊急対応を決める1 通常の修繕2 承認を待てない緊急対応第6 免責条項と保険加入義務を読む1 誰のどの行為について責任を制限する条項か2 保険で補償される損害と,管理会社への請求第7 契約更新,賃料改定及び交渉の権限を分ける第8 管理会社の変更と契約終了時の精算1 予告期間と解約金2 引継ぎの対象と期限第9 署名前に使う確認表第10 よくある質問1 標準契約書と違う条項は無効か2 管理会社へ任せれば貸主の責任はなくなるか3 管理会社を変える場合は入居者の賃貸借契約も終わるか第11 出典と関連記事
第1 契約前に確認すること

賃貸アパートの管理会社を選ぶときは,管理料率だけでなく,何を任せ,どの費用が別にかかり,事故や契約終了のときに誰が対応するかを確認する必要がある。
管理委託契約書,重要事項説明書,業務仕様書,料金表及び修繕の承認基準を一組で読み,説明と契約条件が一致しているかを確かめる。

本記事は,貸主が賃貸住宅の管理を委託するときの確認事項を,令和8年10月28日現在確認できる法令及び公開資料に基づいて整理するものである。
国土交通省の標準契約書は比較の手掛かりになるが,すべての条項がそのまま法律上強制されるものではなく,管理する物件と業務に合わせた合意が必要である。

署名前には,金額,送金日,承認基準及び予告期間などの空欄を埋めた最終版を受け取る。
別紙が契約内容に含まれる場合は,その名称と版,本文との優先関係も確かめ,署名した本文と同じ時点の資料を保管する。

第2 管理委託,仲介及びサブリースを区別する
1 誰が入居者の貸主になるか

通常の管理委託では,所有者が入居者との賃貸借契約の貸主であり,管理会社は契約で定めた仕事を受託する。
入居者募集の仲介は,賃貸借契約の成立に向けた別の業務である。
サブリースでは,事業者が所有者から建物を借り,入居者へ転貸する関係になるため,所有者と事業者の賃貸借条件を読む必要がある。

「家賃管理」「家賃保証」という名称だけで契約の仕組みを決めず,家賃を受け取る根拠,空室や滞納の負担,修繕の発注者及び契約終了後の入居者対応を確認する。
管理委託の変更と,サブリース契約の終了を同じ手続として扱わないことが重要である。

2 賃貸住宅管理業法の対象と登録

国土交通省は,賃貸住宅の維持保全を行う管理業について,管理戸数200戸以上の事業者に登録義務があると説明している。
200戸未満でも任意に登録でき,登録した事業者には登録業者としての規制が適用される。
家賃等の金銭管理だけを行う事業は,同法の賃貸住宅管理業の定義から除かれるため,受託内容も確認する必要がある。

登録業者については,契約締結前の重要事項説明と,締結後の契約条件を記載した書面交付を区別する。
法令上の説明対象の例外に当たる場合もあるため,すべての貸主・契約に同じ説明義務があると一律に判断せず,事業者の登録と相手方の属性を確認する。

第3 管理業務と追加費用を対応させる
1 管理料に含まれる範囲を具体化する

巡回,清掃,入居者からの連絡受付,家賃の回収,更新事務及び修繕の手配について,実施する仕事,頻度,対応時間及び報告方法を確認する。
「建物管理一式」という記載だけでは,夜間対応,法定点検の手配,又は実際の清掃まで含むかが分からないことがある。

管理料とは別に費用が生じる仕事は,発生条件,計算方法,消費税,支払時期及び事前承認の要否を料金表に対応させる。
新規契約,更新,賃料改定,退去立会い,原状回復及び広告について,同じ仕事を複数の名目で請求しないかも確認するとよい。

2 広告料を無制限に承諾しない

入居者募集の媒介報酬には宅地建物取引業法と報酬告示による規律があり,管理委託料とは区別して確認する必要がある。
「広告料」という名称が付いているだけで,媒介報酬の上限とは別に自由に請求できるわけではない。

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外国代理人登録制度とは―外国干渉防止法の国内検討と企業・研究者・弁護士への影響(AI作成)

目次

第1 外国代理人登録制度は何を目指すのか第2 日本ではどこまで決まっているのか1 会議資料は成立した法律ではない2 政党の提言と政府の検討を分ける第3 外国との関係だけで判断できない理由第4 企業・研究者・弁護士の確認事項1 企業・広報会社・動画制作者2 研究者・大学3 弁護士第5 表現・取材・政治活動との調整第6 よくある質問1 海外から報酬を受けたら,日本で直ちに登録が必要か2 登録すれば,他の法令に違反する活動も適法になるか3 国家情報局ができたことと,同じ制度なのか第7 出典

外国政府等との関係を明らかにさせる制度と,秘密の不正取得等を処罰する制度は,目的も要件も同じではない。日本で検討されている外国代理人登録制度についても,外国と関係があるという理由だけで,直ちに登録義務や刑事責任が生じると読むことはできない。

本記事は令和8年10月27日を基準に,内閣官房の「インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議」の資料を中心として,国内の検討内容と,企業・研究者・弁護士が確認しておきたい点を整理する。

第1 外国代理人登録制度は何を目指すのか

令和8年10月26日の第2回有識者会議に提出された警察庁資料「外国による不当な干渉を防止するための法制度について」は,外国からの働き掛けについて,政治・行政への影響と秘密情報の収集・取得等を分けている。

同資料のPDF6頁に示された対応の方向性は,外国との関係を背景に行われる一定の活動について,登録によって透明性を確保する仕組みと,悪質な行為への罰則等を検討するというものである。登録して関係を開示する仕組みと,行為そのものを犯罪として処罰する仕組みを区別する必要がある。

「外国代理人」は,ここでは外国との関係を背景に活動する者に関する制度上の議論であり,民法上の代理人や訴訟代理人と同じ意味とは限らない。誰を対象とし,どの活動について,いつ,何を登録させるかは,日本の具体的な制度設計を確認しなければ判断できない。

出典:警察庁提出資料(PDF6~8頁)

第2 日本ではどこまで決まっているのか
1 会議資料は成立した法律ではない

警察庁資料のPDF7・8頁は,規制の必要性・合理性,対象行為・対象者,義務の内容,権利への配慮,民主的統制等を検討課題として掲げている。資料に外国の制度や対応案が載っていることと,日本で同じ義務が成立したことは別である。

本記事が確認した会議資料から,日本の企業・研究者・弁護士について,外国代理人登録の具体的な対象,期限,例外及び違反時の効果が確定したとはいえない。外国の登録期限や専門職の例外を,日本で既に適用される規則として使うこともできない。

2 政党の提言と政府の検討を分ける

自由民主党インテリジェンス戦略本部の令和8年8月5日付提言は,登録制度等の制度設計を提案している。提言の表題は「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて―開かれた社会を、隠れた工作から守る―」である。担当組織についても,国家公安委員会が担当することが考えられるという提案である。担当機関が政府の制度として確定したとの説明に強めない方が正確である。

第1回有識者会議の議事要旨に記載された各委員の意見も,それだけで会議全体の結論や政府の決定になるわけではない。会議資料,議事要旨,政党の提言を,それぞれの作成主体と位置付けに即して読む必要がある。

出典:自民党の提言,第1回議事要旨

第3 外国との関係だけで判断できない理由

警察庁資料のPDF3頁は,通常の外国代理人による影響力活動は,民主主義社会における多角的な議論の促進に資するものと説明している。外国の団体から依頼を受けたこと,海外から資金が入ったこと,外国人と共同研究をしていることだけを,直ちに不当な干渉と同一視すべきではない。後半は,本記事の整理である。

同資料のPDF4頁は,外国との関係を隠した働き掛けとして,公職者への接触,情報の発信,利益の提供等の経路を示す。実務上の確認では,国籍だけでなく,誰が依頼し,誰が資金を出し,誰が活動内容を指示し,その関係を誰に明らかにするかを分けて考えることが有用である。後半は,資料の構造を踏まえた本記事の整理である。

第4 企業・研究者・弁護士の確認事項
1 企業・広報会社・動画制作者

本記事の提案として,依頼者,契約当事者,実際の支払者,編集・発信内容の指示者が一致するかを確認し,相違があれば理由を記録しておくことが考えられる。広告や動画の制作では,資金提供の開示,最終的な承認者,内容変更の指示方法も確認対象になる。

これらは契約上の問題を具体化するための確認事項であり,日本の外国代理人登録制度によって既に一律に義務付けられた手続という説明ではない。

2 研究者・大学

共同研究,寄附,研究成果の発表については,研究上の協力関係と,第三者への政治的な働き掛けや発信内容への指示を分けて把握することが考えられる。外国との研究協力が全て登録対象になると,今回の資料だけから判断することはできない。

営業秘密の持出しや情報管理については,登録制度の議論とは別に,既存の法令・契約に即して検討する必要がある。具体的な情報管理の問題は,社員による私用LINE・私物USB・個人メールの利用に関する記事を参照されたい。

3 弁護士

法律相談,訴訟代理,政策の変更を求める働き掛けは,業務の内容を分けて考える必要がある。外国法上の専門職の例外を参考にする場合も,どの活動を,どの条件で除外しているかを確認すべきであり,「弁護士なら全業務が対象外」と一括りにしない方がよい。

ただし,日本の具体的な対象と例外は今後の制度設計の問題である。本記事は,各国法の例外を網羅して紹介するものではない。日本の弁護士業務について,新たな登録義務の発生を断定することもしていない。

第5 表現・取材・政治活動との調整

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外国政府の関与を隠した動画制作依頼―米国の起訴状から考える契約時の確認事項(AI作成)

目次

第1 どのような事件として起訴されたのか第2 起訴状が主張する資金と指示の仕組み1 架空の投資家を用いた説明2 契約相手と異なる送金者3 出演者まで一括して共犯と扱わない第3 契約締結前に確認しておきたいこと1 四つの立場を分ける2 資金源・指示者の説明を確かめる3 編集・配信の指示と開示方針第4 契約に書いておきたい事項第5 日本の制度検討と比較するときの注意点第6 依頼内容に疑問が生じた場合第7 出典

動画の制作依頼で,契約書に書かれた依頼者と,実際の資金提供者や編集方針の指示者が違っていたら,どのような確認が必要になるのか。米国で令和6年に公表された起訴状は,この問題を具体的に考える材料になる。

本記事は,米司法省が公表したRT関係者2名に対する起訴状を読み,そこに記載された主張と,日本の契約実務に向けた本記事の提案を分けて整理する。起訴は有罪判決ではなく,以下の事件経過は,起訴状に記載された訴追側の主張を紹介するものである。

第1 どのような事件として起訴されたのか

米司法省は令和6年9月4日,ロシアのRTに関係する2名が,米国のコンテンツ制作会社へ資金を提供し,その関与を隠して動画等の制作・配信を指示したとする起訴を公表した。

起訴状は,外国代理人登録法(FARA)への違反に関する共謀及び資金洗浄の共謀を訴追している。これは米国法に基づく訴追であり,同じ事実関係が直ちに日本で同じ名称の犯罪になるという意味ではない。

出典:米司法省の発表,起訴状(PDF1~3頁,28~30頁)

第2 起訴状が主張する資金と指示の仕組み
1 架空の投資家を用いた説明

起訴状は,コンテンツ制作会社の資金源を説明するため,架空の投資家の人物像や経歴資料が用意されたと主張している。出演者への説明や投資家の本人確認をめぐるやり取りも記載されている。

ここで重要なのは,資料の体裁が整っていることだけで,その人物の実在や資金の出所まで確認できたことにはならないという点である。後者は,起訴状の事実主張を踏まえた本記事の読み取りである。

出典:起訴状(PDF9~16頁,14~20項)

2 契約相手と異なる送金者

起訴状は,約970万米ドルが複数の送金者から制作会社へ送金され,その送金者はいずれも制作会社の契約当事者ではなかったと主張している。また,動画制作等の対価であるのに,送金の説明に電子機器の購入に関する記載が使われたとも主張している。

金額や送金者に関するこれらの記載は,訴追側が主張する資金の流れであり,本記事が銀行記録を独自に検証した結果ではない。

出典:起訴状(PDF26~28頁,39~44項)

3 出演者まで一括して共犯と扱わない

起訴状の冒頭は,一部の出演者について,資金提供者等に関して欺かれたとの主張を含む。制作会社,指示を出す者,資金提供者,出演者の認識を区別して読む必要がある。

ある会社の番組に出演していたという事情だけで,出演者全員が関与を知っていた,あるいは全員が起訴されたと読み替えることはできない。個々人の認識と訴追の対象を確認することが大切である。

第3 契約締結前に確認しておきたいこと

以下は,日本の動画制作者,広報会社,出演者及び顧問弁護士に向けた本記事の提案である。起訴状にそのまま書かれた法的義務や,日本で一律に課される本人確認義務の一覧ではない。

1 四つの立場を分ける

依頼の窓口となる者,契約当事者,実際の支払者,内容を指示・承認する者を分けて記録する。同じでない場合には,それぞれがどのような権限や関係に基づいて関与するのか,説明を求めることが考えられる。

送金者が違うことだけで違法と決め付ける必要はないが,説明が曖昧なまま,請求書の名目を実態と異なるものにする依頼に応じることは避けたい。

2 資金源・指示者の説明を確かめる

資金提供者の実在や事業内容,説明に用いられた経歴資料の作成者,担当者の連絡先等を確認することが考えられる。確認ができなかった事項は,確認できたことにせず,契約判断の材料として残す。

出演者や再委託先にも説明する必要がある案件では,誰がどの範囲の説明を担うのかを決めておく。秘密保持の要請がある場合にも,その対象と理由を具体化することが有用である。

3 編集・配信の指示と開示方針

テーマ,台本,出演者,配信時期,修正,削除を誰が決めるかを確認する。単なる制作費の提供と,発信内容への継続的な指示を,契約書や連絡記録から区別できるようにすることが考えられる。

スポンサーや資金提供関係を視聴者等へどう示すかも,制作開始前の確認対象になる。個別の表示義務の有無は,媒体,広告の内容及び適用される法令に即した別の検討を要する。

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国家情報会議・国家情報局・対外情報庁構想の違い―成立した法律と今後の検討(AI作成)

目次

第1 三つの名称の位置付け第2 国家情報会議は何をするのか1 情報活動等を審議する会議体2 情報提供義務の主体を読み違えない第3 国家情報局は会議とどう違うのか第4 対外情報庁はどこまで決まった構想か第5 外国代理人登録制度・能動的サイバー防御との関係第6 組織改編のニュースを読む際の確認事項第7 出典

国家情報会議,国家情報局,対外情報庁構想は,いずれも情報機能の強化と関係するが,同じ組織を指す言葉ではない。法律によって設けられた会議体,その事務や情報の集約・分析を担う組織,今後の設置を目指す提案を分けて読む必要がある。

本記事は令和8年10月27日を基準に,国家情報会議設置法,内閣官房の組織説明及び有識者会議資料等で確認できた範囲を整理する。

第1 三つの名称の位置付け

国家情報会議は,重要な情報活動等について審議するため内閣に置かれる会議である。国家情報会議設置法に根拠がある。

国家情報局は,内閣官房に置かれ,情報の収集・分析・集約等や国家情報会議に関する事務を担う組織として,内閣官房の公式説明に示されている。

対外情報庁は,今回確認した政党の提言等で,対外情報収集機能の強化のために設置を目指すものとして述べられている構想である。国家情報会議・国家情報局が発足したという事実から,対外情報庁まで同時に発足したと読むことはできない。

出典:国家情報会議設置法,内閣官房「国家情報会議・国家情報局」,自民党の提言

第2 国家情報会議は何をするのか
1 情報活動等を審議する会議体

国家情報会議設置法2条は会議の設置を定め,3条は所掌事務を定める。情報活動の基本的な方針,重要な情報の分析及び評価等を,条文に定められた範囲で審議する仕組みである。

会議の設置と,個別の情報収集行為について法律上の権限が認められることは,同じ問題ではない。国家情報会議設置法だけを根拠に,民間企業や個人による情報取得の適法性まで判断することはできない。

2 情報提供義務の主体を読み違えない

同法7条は,内閣官房長官及び関係行政機関の長について,条文所定の資料・情報を会議へ提供する仕組みを定めている。この規定の主体を,一般の民間企業や国民全体へ広げて説明しないことが大切である。

「情報提供」という言葉があるから,全企業に包括的な報告義務が課されたと読むことはできない。企業について義務の有無を判断する際は,その企業や行為を対象にした別の法令上の根拠を確認する必要がある。

第3 国家情報局は会議とどう違うのか

内閣官房の公式説明は,令和8年7月31日に国家情報会議及び国家情報局が発足したとする。施行期日を定める政令の資料でも,同日が示されている。

国家情報会議が審議を行う会議体であるのに対し,国家情報局は,情報の収集・分析・集約等を担い,会議を支える事務を処理する組織として説明されている。名称が似ていても,審議する機関と事務を担う組織の役割を区別すると理解しやすい。

ただし,組織の設置から,あらゆる情報収集手段を無条件で用いられるとの結論は出ない。通信情報の取扱い,捜査,民間への義務付け等の個別問題は,それぞれの法的根拠と要件を確認すべきである。

出典:内閣官房の組織説明,国家情報会議設置法の施行期日を定める政令に関する資料

第4 対外情報庁はどこまで決まった構想か

自由民主党の提言は,令和9年度末までに独立した対外情報庁を創設することが連立政権合意に明記されていると説明し,有識者会議で設置に必要な法的措置等を検討するよう求めている。ここでは提言が説明する計画を紹介しており,連立政権合意そのものを独立に照合したものではない。

担当する大臣や監督の仕組みに関する案が書かれていても,提言に書かれた組織・権限・日程が,そのまま現行の法律上確定したことにはならない。具体的な設置法案や成立法を確認する段階で,目的,所掌,権限,統制,施行期日を改めて点検すべきである。

令和8年9月及び10月の有識者会議資料も,機能強化に関する検討の資料である。提出資料や委員の発言に示された選択肢を,既に行使できる権限として紹介しないことが重要である。

第5 外国代理人登録制度・能動的サイバー防御との関係

外国代理人登録制度等は,外国からの不当な干渉等に対処する仕組みとして検討されている。国家情報会議・国家情報局という組織の設置と,日本の民間事業者に新たな登録義務が生じることを一括りにしない方がよい。

能動的サイバー防御についても,情報機能の強化に関する提言と,個々の措置の根拠法,施行状況,実際の政府判断は分けて読む必要がある。企業の要請が政府の措置の決定を意味するかという問題は,GMOの公表事案に関する記事で扱っている。

民間企業自身による逆探知・ハックバックの適法性も,組織整備から直ちに結論が出るものではない。具体的な行為と権限の違いは,企業による逆探知・ハックバックの記事を参照されたい。

第6 組織改編のニュースを読む際の確認事項

最初に確認するのは,根拠となる文書の種類である。成立法,施行期日の政令,官庁の組織説明,政府の検討資料,政党の提言では,確認できることが異なる。

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弁護士の懇親会費・団体会費は必要経費になるか―判決と裁決の比較(AI作成)

目次

第1 領収書と「仕事のため」という説明だけで決まるか1 この記事が扱う範囲2 個別収入との対応費用と一般対応費用第2 東京高裁が示した一般対応費用の考え方1 業務との直接関係を別の要件として加えることを退けた2 会務活動費を一括して認めた判決ではない第3 懇親会・二次会等を分けて判断した理由1 認めた支出と認めなかった支出がある2 会費・選挙費用・交際費を別々に検討する第4 ロータリークラブ会費を否認した裁決1 実際の紹介受注があっても否認した事案2 弁護士会の事案と同じものとして扱わない第5 判決と裁決を比較するときの注意1 判断枠組みの表現にも違いがある2 別の事案へ当てはめる際の比較項目第6 支出時に残しておきたい記録第7 関連記事と出典1 関連記事2 一次資料3 関連する解説
第1 領収書と「仕事のため」という説明だけで決まるか
1 この記事が扱う範囲

弁護士の懇親会費や団体会費は、名目や領収書の有無だけで必要経費に当たると決まるものではない。
本記事は、個人の事業所得に関する東京高裁平成24年9月19日判決と、司法書士のロータリークラブ会費に関する平成26年3月6日裁決を比較し、支出の目的・活動内容・私的支出との区分をどう説明するかを整理する。

確認の基準日は令和8年10月28日である。
法人の損金、消費税の仕入税額控除、繰延資産等の個別処理は、それぞれ別の要件により確認する必要があり、本記事で所得税の必要経費と同じ結論になるとは扱わない。

2 個別収入との対応費用と一般対応費用

所得税法37条1項は、売上原価等の総収入金額を得るため直接に要した費用と、その年の販売費・一般管理費その他の業務について生じた費用を定めている。
国税庁の「必要経費の知識」もこの区別を説明し、家事上の費用や、家事と業務の双方に関係する費用の取扱いに注意を促している。

したがって、特定の売上との個別対応がないという理由だけで、すべての支出を必要経費から除くことはできない。
他方で、事業に何らかの利益があったという説明だけで、私的な交際や消費の支出がすべて必要経費になるわけでもない。

第2 東京高裁が示した一般対応費用の考え方
1 業務との直接関係を別の要件として加えることを退けた

東京高裁平成24年9月19日判決・平成23年(行コ)第298号は、弁護士の会務活動等に伴う支出の必要経費該当性を判断した。
一般対応の必要経費について、業務遂行上必要であることに加え、事業の業務と直接関係を持つことを要求する解釈を採用しなかった点に特徴がある。

判決は、活動の内容等を総合考慮し、社会通念に照らして客観的に判断する考え方を示している。
支出者が自分の仕事に役立つと考えたという主観だけを基準にしたものではない。

2 会務活動費を一括して認めた判決ではない

同判決は、弁護士会の会務活動そのものを個人の事業所得を生ずべき業務と認定したわけではない。
また、弁護士会に関係する支出というだけで一律に必要経費とせず、活動と支出ごとに判断している。

この判決から、任意団体の会費、個人的な交際、すべての選挙活動費等の必要経費算入を当然に導くことはできない。
どのような会合で、誰が参加し、どの活動に関連し、どの程度の支出をしたのかが重要となる。

第3 懇親会・二次会等を分けて判断した理由
1 認めた支出と認めなかった支出がある

同判決は、公式行事後や関係団体との協議後等の懇親会費について、会合の内容、参加者、支出額等を踏まえ、一部を必要経費と認めた。
一方、問題となった継続的な会食、慰労のための支出、二次会費等については、私的な側面や業務上必要な部分の区分・立証等を検討し、認めなかったものがある。

重要なのは、一次会なら必ず認められ、二次会なら法律上一律に認められないという区別ではない。
判決が扱った具体的支出についての認定を、すべての会食に共通する定額又は形式的な基準へ置き換えないようにする。

2 会費・選挙費用・交際費を別々に検討する

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株主総会の想定問答の作り方―質問例・回答例と根拠資料のそろえ方(AI作成)

目次

第1 想定問答は質問・資料・回答を一組にして準備する第2 最初にそろえる資料と質問の集め方1 当期の確定資料を起点にする2 質問の入口を複数にする第3 想定問答の管理表に入れる項目第4 質問例と回答例の作り方1 資本コスト・株価・株主還元2 役員候補者と取締役会の構成3 不祥事・サイバー事故等4 人的資本・サステナビリティ5 株主提案と会社側の見解第5 回答を控える案ほど根拠を確認する第6 生成AIを使う場合の確認事項第7 当日の運営と総会後の見直し1 当日は想定問答の文面と実際の質問を照合する2 総会後は質問と投票結果を次の検討に生かす第8 最終確認のチェックリスト第9 根拠資料と関連記事
第1 想定問答は質問・資料・回答を一組にして準備する

株主総会の想定問答は,質問例を多数集めるだけでは完成しません。質問がどの議案・報告事項に関係するか,どの資料で事実を確認したか,誰が説明するかを対応させることが重要です。

本記事では,質問の収集,根拠資料の確認,回答案の作成,当日の運営,総会後の見直しという順に,実務上の作り方を提案します。以下の質問例・回答例は検討用の型であり,特定の会社の事実や方針を示すものではありません。数値や方針を埋める前に,最新の確定資料との照合が必要です。

法令上の説明義務は会社法314条と会社法施行規則71条の問題です。想定問答を作成することや,以下の全項目を公表すること自体を,一律の法定義務として説明するものではありません。2026年10月27日時点で確認した資料に基づきます。

第2 最初にそろえる資料と質問の集め方
1 当期の確定資料を起点にする

招集通知,株主総会参考書類,事業報告,計算書類,有価証券報告書,決算説明資料,中期経営計画,適時開示,コーポレート・ガバナンス報告書等から,今回の議案と経営状況に関係する資料を集めます。

同じ数値でも連結・単体,期末・期中,実績・予想などの条件が違います。資料名,公表日,対象期間,該当箇所を記録し,古い想定問答の数値をそのまま転記しない運用を考えます。

2 質問の入口を複数にする

前年の質問,事前質問,投資家との対話で繰り返し出た事項,今回の議案の変更点,事業上の主要なリスクなどを入口にすると,質問を集めやすくなります。報道や市場の評価を取り上げる場合も,確認できた事実と,第三者の評価・推測を分けます。

株主総会における質問対応と,総会の外で継続的に行う対話は,目的も場面も同一ではありません。対話で寄せられた関心を準備に生かしながら,当日の質問に対する説明は別途検討します。

第3 想定問答の管理表に入れる項目

- 質問番号と質問の要旨
- 関係する議案・報告事項
- 事実確認の担当部署と最終確認者
- 根拠資料の名称・公表日・該当箇所
- 回答案と回答担当者
- 未確認の数値・前提と確認期限
- 説明を控えることを検討する部分と具体的な理由
- 最終確認日と版番号

質問の原文を要約する場合も,原文への参照を残すと,確認漏れを見つけやすくなります。未確認事項を埋めたように見せず,「未確認」と記録し,確認が済むまで確定回答として扱わない方法が考えられます。

第4 質問例と回答例の作り方
1 資本コスト・株価・株主還元

質問例は,「資本コストや株価をどのように分析し,成長投資と株主還元をどう配分していますか」です。PBRの数値だけで質問を終えず,現状分析,取締役会での検討,改善策の実施・見直しを確認する質問にすると,説明の構成を作りやすくなります。

回答例の型は,「対象期間と指標を示して現状分析を説明する。公表済みの投資・財務・還元方針との関係を説明する。実施状況と今後の検証方法を示す」です。自社の確定した方針がない部分を,回答例に合わせて作った事実として記載しないようにします。

東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」は,プライム市場・スタンダード市場の全上場会社を対象とする要請です。PBR1倍割れ企業だけを対象としたものでも,自己株式取得や増配だけを求めるものでもありません。法令上の一律の増配義務とは区別します。

2 役員候補者と取締役会の構成

質問例は,「この候補者を選んだ理由は何ですか。取締役会全体として,事業戦略に必要な知識・経験をどう確保しますか」です。

回答例の型は,「候補者の具体的な経験と期待する役割を示す。公表している選任方針やスキル情報との関係を説明する。取締役会全体の課題との対応を説明する」です。抽象的な『適任です』だけで終えず,資料のどの事実を説明に使うかを確認します。

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株主総会の事前質問と回答拒否―取締役の説明義務と会社側・株主側の対応(AI作成)

目次

第1 株主総会の事前質問と説明義務の関係第2 会社法314条の説明義務1 誰が,いつ,何を説明するのか2 説明を拒むことができる場合第3 事前質問が「調査を要する」という理由に与える影響1 施行規則71条の二つの例外2 「相当の期間前」は一律の日数ではない3 通知と,総会で説明を求めることを分ける第4 調査以外の説明拒絶理由第5 会社側の受付け・準備・当日の対応1 受付時に質問と回答方針を混ぜない2 質問の要旨と拒絶理由を対応させる3 事前のウェブ回答だけで当日の検討を終えない第6 株主側が質問状を準備するときの確認事項第7 公表例から分かることと,分からないこと第8 よくある質問1 事前質問を出せば,総会前の個別回答を必ず受けられますか2 会社が決めた事前質問の期限を過ぎると,調査を理由に説明を拒めますか3 事前質問なら,秘密に関わる内容でもすべて説明が必要ですか第9 根拠資料と関連記事
第1 株主総会の事前質問と説明義務の関係

株主総会の前に質問状を送れば,会社は必ず個別の回答書を送らなければならないのでしょうか。事前質問の受付けと,総会の席上での説明義務を分けると整理できます。

会社法314条は,株主総会で株主が特定の事項について説明を求めた場合の取締役等の説明義務を定めています。事前質問状の提出それ自体について,会社に総会前の個別書面回答を一律に義務付けた規定ではありません。ただし,事前の通知は,「説明するために調査が必要である」という説明拒絶理由の扱いに関わります。

本記事は2026年10月27日時点で確認した会社法314条と会社法施行規則71条を中心に,事前質問を受けた会社側と,質問する株主側の確認事項を説明します。受付方法や回答の公開方法についての提案は,法令上の義務と区別して記載します。

第2 会社法314条の説明義務
1 誰が,いつ,何を説明するのか

会社法314条によれば,取締役,会計参与,監査役及び執行役は,株主総会で株主から特定の事項について説明を求められた場合,その事項について必要な説明をしなければなりません。担当役員を決める実務と,法定の義務を負う者の範囲は区別しておく必要があります。

説明の対象を考えるときは,まず質問が当該総会の目的である事項に関係するかを確認します。例えば,役員選任議案の候補者の選任理由を尋ねる質問と,議題・報告事項との関係が示されていない質問とでは,検討の出発点が異なります。

2 説明を拒むことができる場合

会社法314条ただし書は,当該事項が株主総会の目的である事項に関しない場合,説明により株主の共同の利益を著しく害する場合,その他法務省令で定める正当な理由がある場合を例外としています。

したがって,会社にとって答えにくい質問であることと,法令上の説明拒絶理由があることは同じではありません。他方,質問が事前に届いていたという事情だけで,他の拒絶理由もすべて失われるわけではありません。

第3 事前質問が「調査を要する」という理由に与える影響
1 施行規則71条の二つの例外

会社法施行規則71条1号は,説明のために調査を要することを正当な理由の一つとしつつ,次の場合を除いています。

- 当該株主が株主総会の日より相当の期間前に,当該事項を会社に通知した場合
- 当該事項の説明に必要な調査が著しく容易である場合

第一の例外で条文が定めている通知者は「当該株主」です。単に同じ話題が新聞等に出ていた場合や,他の誰かが会社に照会していた場合を,この文言と同一に扱うことはできません。

2 「相当の期間前」は一律の日数ではない

同号には,何日前であれば常に足りるという日数は定められていません。質問の具体性,調査対象や資料の所在,会社に届いた時期などを確認し,調査を要するという理由を用いることができるかを検討する必要があります。

事前質問を受け付ける社内期限を設けても,その期限と同号の「相当の期間前」が当然に一致するわけではありません。また,期限後の提出であっても,調査が著しく容易であれば,第二の例外が問題になります。

3 通知と,総会で説明を求めることを分ける

事前通知の例外は,会社法314条の説明義務の場面で,調査を要するという拒絶理由を制限するものです。そこから直ちに,「すべての事前質問について総会前に回答書を送らなければならない」という結論にはなりません。

株主側は,総会で説明を求める予定の事項を具体的に通知し,到達の確認に使える記録を残すと,後で通知内容と時期を確認しやすくなります。これは実務上の備えであり,条文が特定の送付方法を一律に指定しているという説明ではありません。

第4 調査以外の説明拒絶理由

会社法施行規則71条は,調査を要する場合のほか,説明により会社その他の者の権利を侵害することとなる場合,当該総会で実質的に同一の事項について繰り返し説明を求める場合,その他説明しないことにつき正当な理由がある場合を定めています。

権利侵害の規定では,説明を求めた株主自身は「会社その他の者」から除かれています。この点を省いて「誰かの権利に触れれば説明不要」と一般化しないことが大切です。

例えば,第三者の個人情報や取引先の権利に関わる質問については,答えられる部分,抽象化すれば説明できる部分,説明を控える必要がある部分を検討する方法が考えられます。ただし,「個人情報」「秘密情報」とだけ述べれば当然に拒絶できるという意味ではありません。具体的にどの拒絶理由に当たるのかを検討します。

第5 会社側の受付け・準備・当日の対応
1 受付時に質問と回答方針を混ぜない

(続きを読む...)株主総会の事前質問と回答拒否―取締役の説明義務と会社側・株主側の対応(AI作成)

ランサムウェアの身代金を要求されたら―支払い判断,役員責任,保険と証拠保全(AI作成)

目次

第1 身代金の要求を受けた企業が最初に整理すること1 暗号化されていない場合の脅迫も対象になる2 支払わない方針と,対応をしないことは異なる第2 送金の検討に先立つ初動と証拠保全1 被害拡大を防ぎ,電源操作は慎重にする2 脅迫文と事実確認の資料を分けて残す3 バックアップからの復旧と暫定運用を比較する第3 支払いの前に確認する法令と相手方1 被害者からの送金にも規制の確認が必要である2 国内法の確認だけで取引全体を判断しない第4 取締役の責任と判断記録1 支払ったかどうかだけで責任は決まらない2 何を調べ,何を比較し,誰が決めたかを残す3 平時に受けた警告への対応も別に検証する第5 サイバー保険は費目と約款を確認する1 事故対応費用と身代金そのものを分ける2 相談・通知は支払い判断と並行して進める第6 身代金要求についてのよくある質問1 支払えば復旧や情報の削除は保証されるか2 支払わなければ取締役の責任を免れるか3 警察への相談と公表の判断は同じか第7 関連記事第8 出典
第1 身代金の要求を受けた企業が最初に整理すること

ランサムウェアの被害で金銭を要求されたときは,復旧の見込み,支払いの適法性,会社としての意思決定及び証拠保全を並行して検討する必要がある。
攻撃者が示した期限や「払えば解決する」という説明だけを基準に,現場の担当者が送金を約束することは避けたい。

本記事は,令和8年10月26日までに確認した法令と公的資料を基に,企業の初動と判断記録を整理する。
警察庁の案内,内閣官房国家サイバー統括室(NCO)の「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」Ver.3.0の解説と,本記事の実務上の提案を区別して示す。

1 暗号化されていない場合の脅迫も対象になる

警察庁は,データの暗号化と復号の対価要求に加え,暗号化せずに情報を盗んで金銭を要求する手口も紹介している。
したがって,「業務システムが動いているから問題は小さい」と決めず,情報の持出しや公開の脅迫も調査の対象にする。

2 支払わない方針と,対応をしないことは異なる

警察庁は,支払いが犯罪グループの活動資金になり得ること,支払っても復号が保証されないことを説明している。
支払わない方針を採る場合にも,隔離,代替復旧,被害の調査,相談及び必要な報告・通知の検討は進める。

第2 送金の検討に先立つ初動と証拠保全
1 被害拡大を防ぎ,電源操作は慎重にする

警察庁の案内では,感染した機器をネットワークから隔離し,調査に必要なログ等が失われる場合があるため,電源を落とさないよう求めている。
自社の担当者だけで操作を続けず,警察や調査担当者に,隔離済みの範囲と機器の状態を伝えて次の作業を相談する。

2 脅迫文と事実確認の資料を分けて残す

実務上は,要求のメール・画面,受信日時,指定された支払先,連絡の履歴,確認できた障害・情報持出しの状況を時系列で整理するとよい。
攻撃者の主張と,自社又は調査会社が確認した事実を同じ欄に書かず,未確認事項を残しておく。

ログや機器の調査・複製は,権限のある担当者が方法と実施時刻を記録して行う。
脅迫の添付ファイルや提示された復号プログラムを,通常の業務端末で不用意に開かない。
警察庁が挙げる提供資料には,ランサムノート,通信ログ,ディスクイメージ,メモリダンプ及びシステム構成図がある。

3 バックアップからの復旧と暫定運用を比較する

法務と技術部門は,「どの時点のデータが残っているか」「その環境まで侵害されていないか」「復旧に何日かかるか」「手作業等で維持できる業務は何か」を共通の資料にまとめたい。
復旧費用と停止の影響を具体化し,身代金の額だけを比較する状態を避けるためである。

第3 支払いの前に確認する法令と相手方
1 被害者からの送金にも規制の確認が必要である

外国為替及び外国貿易法16条は,一定の支払等について許可義務を課す仕組みを定めている。
財務省は,資産凍結等の経済制裁に関する支払規制では,制裁対象者への支払いに暗号資産によるものも含まれると説明している。

このため,「身代金だから支払ってよい」「暗号資産なら規制と無関係」と判断することはできない。

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パワハラは労基署と労働局のどちらに相談する?相談後の流れ・匿名性・解決手続(AI作成)

目次

第1 労基署・労働局・総合労働相談コーナーの違い1 相談場所と担当する仕事を分ける2 この記事で扱う人の範囲第2 パワハラを労働局に相談したらどうなる?1 最初の相談で事実と希望を整理する2 会社の防止措置に対する行政指導3 労働局長による紛争解決の援助4 紛争調整委員会による調停5 「あっせん」と「調停」を一括りにしない第3 労基にパワハラの相談をしたら会社にバレる?1 相談と,会社に対応を求める段階を分ける2 相談等を理由とする不利益な取扱い第4 相談前に整理することと持参資料1 「パワハラ」という評価と具体的な出来事を分ける2 資料が不十分でも,まず相談先に確認する第5 対応が進まないときに確認すること1 どの段階で止まっているかを確認する2 求める解決に合った手続を検討する第6 会社が連絡を受けたときの対応第7 よくある質問1 パワハラを労働局に相談したらどうなる?2 パワハラを労基署に訴えることはできますか?3 労基にパワハラの相談をしたらバレますか?4 職場でパワハラにあった場合,どこに訴えればいいですか?第8 出典・参考資料

パワハラの相談先に迷ったときは,都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)又は総合労働相談コーナーが入口になります。
総合労働相談コーナーは労働基準監督署の建物内にもありますが,そこでの相談と,監督署が行う労働基準法等に基づく監督業務は区別する必要があります。

相談しただけで直ちに会社への調査,パワハラの認定又は慰謝料の支払命令が行われるわけではありません。
相談,会社の防止措置に対する行政指導,労使間の紛争解決援助・調停,労災補償では,目的と進み方が異なります。

本記事は,令和8年10月27日現在の法令及び行政の公開資料に基づき,主として民間企業で働く人の相談先と手続の選び方を説明します。

第1 労基署・労働局・総合労働相談コーナーの違い
1 相談場所と担当する仕事を分ける

総合労働相談コーナーは,解雇,配置転換,いじめ・嫌がらせ,パワハラなど,幅広い労働問題を扱う相談窓口です。
厚生労働省は,労働者と事業主の双方からの相談を,面談又は電話で受け,無料で利用できると案内しています。
所在地と連絡先は厚生労働省の総合労働相談コーナー案内で確認できます。

「労基署に相談する」という言葉だけでは,建物内の総合労働相談コーナーを利用するのか,労働基準法等の違反について監督担当部署へ相談するのかが明確ではありません。
窓口では,誰のどのような行為に困っているか,会社がどう対応したか,何を求めているかを伝え,担当部署を確認すると整理しやすくなります。

困っていること・求めること主な入口区別する点パワハラの相談先や利用できる制度を知りたい総合労働相談コーナー,労働局の雇用環境・均等部(室)情報提供と,会社への働きかけを伴う手続は別である会社が相談を受け付けない,必要な確認や防止措置をとらない労働局の雇用環境・均等部(室)会社の防止措置等に対する行政指導と,労使間の紛争解決援助を分ける賃金不払など労働基準法等の違反も疑われる労働基準監督署の担当部署パワハラという名称だけでなく,疑われる具体的な法違反を伝える仕事による病気・けがについて労災保険給付を請求したい労働基準監督署の労災担当部署等労災給付の要件と,会社への慰謝料請求の要件は同一ではない

厚生労働省は,総合労働相談コーナーで受けた相談について,労働基準法等の違反が疑われる場合は,行政指導等の権限を持つ担当部署に取り次ぐと説明しています。
相談先が分からない段階で,自分だけで管轄を決め切る必要はありません。

2 この記事で扱う人の範囲

労働施策総合推進法35条から39条までの紛争解決制度等は,同法48条により国家公務員・地方公務員には適用されません。
公務員の場合は,所属先や任用関係に応じた相談・救済制度を別に確認する必要があります。

パワハラの定義や事業主の措置義務の全体像は,職場のハラスメント防止-種類・事業主の措置義務・主要最高裁判例で説明しています。

第2 パワハラを労働局に相談したらどうなる?
1 最初の相談で事実と希望を整理する

相談では,出来事の経緯,勤務先への相談の有無,勤務先の対応及び希望する解決を整理し,利用できる制度の案内を受けます。
最初に情報を得たいのか,会社への働きかけまで求めたいのかを伝えることが有用です。

例えば,「相手と接触せず働き続けたい」「会社に事実確認をしてほしい」「相談後の不利益な取扱いをやめてほしい」では,確認すべき事情が異なります。
これは相談内容を整理するための例であり,その希望どおりの措置が必ず実現するという意味ではありません。

2 会社の防止措置に対する行政指導

労働施策総合推進法31条は,事業主にパワハラに関する相談体制の整備その他の必要な措置を求めています。
同法42条は,法律の施行に必要がある場合の事業主に対する助言・指導・勧告を定めています。

長野労働局の案内では,会社への聴取りや書面提出により,防止対策や相談対応が適正に行われているかを確認し,法違反が確認された場合は是正を求める行政指導を行うと説明されています。

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建物明渡しの和解条項―明渡猶予・立退料・残置物・敷金・強制執行(AI作成)

目次

第1 建物明渡しの和解では物件・期限・金銭の順序を固定する第2 明渡対象と義務者を特定する1 物件目録2 明渡義務者と占有者3 契約終了の確認第3 明渡期限・鍵・使用条件1 明渡期限2 明渡しの完了基準3 明渡猶予中の使用第4 立退料・解決金・未払賃料・敷金1 未払賃料等の確定2 立退料又は解決金3 敷金第5 残置物と原状回復1 残置物を当然に処分できるわけではない2 所有権放棄と処分条項3 原状回復第6 不履行時の強制執行第7 訴え提起前の和解を利用する場合第8 条項案のチェックリスト第9 根拠資料と関連記事
第1 建物明渡しの和解では物件・期限・金銭の順序を固定する

建物明渡しの和解条項では、誰が、どの建物又は区画を、いつ、どの状態で明け渡すかを最初に特定します。その上で、未払賃料、明渡しまでの使用損害金、立退料又は解決金、敷金、原状回復及び残置物の処理を組み合わせます。

金額だけを合意しても、明渡しと支払の先後が決まっていなければ履行段階で止まります。「明渡しと引換えに支払う」のか、「先に一部を支払い、明渡し確認後に残額を支払う」のかを具体的に定める必要があります。

また、和解調書に記録する場合は、執行官が調書と物件目録から強制執行の対象を判断できるようにします。部屋番号、床面積、図面、附属設備又は敷地の一部など、特定に必要な資料を準備します。

第2 明渡対象と義務者を特定する
1 物件目録

土地・建物の所在、地番、家屋番号、種類、構造及び床面積を登記事項証明書に合わせます。建物の一部だけを対象にする場合は、階、区画、位置、面積及び図面を用いて特定します。

2 明渡義務者と占有者

契約名義人だけでなく、実際の居住者、同居人、従業員、転借人又は会社が占有している場合があります。和解当事者でない占有者に対して、その和解調書だけで明渡しを実現できるとは限りません。

誰が鍵を持ち、誰の荷物があり、転貸又は占有移転がないかを確認します。必要に応じて、明渡しまで第三者に占有を移転しない条項を置きます。

3 契約終了の確認

賃貸借、使用貸借その他の使用権原について、いつ、どの理由で終了したかを確認します。合意解除にする場合は、終了日と、それまでの使用条件を明記します。

第3 明渡期限・鍵・使用条件
1 明渡期限

年月日と時刻を明記し、休日や管理会社の営業時間も考慮します。「転居先が決まり次第」といった不確定な期限は、履行と執行の判断を困難にします。

2 明渡しの完了基準

人と荷物を退去させること、鍵・カードキー・リモコンを返還すること、電気・ガス・水道・通信を精算すること、必要な届出をすることを定めます。

鍵の返還だけで明渡しが完了するのか、立会確認書を作るのかを決めます。写真、鍵受領書及びメーター数値を記録すると、後日の争いを減らせます。

3 明渡猶予中の使用

明渡期限までの賃料又は使用損害金、共益費、光熱費、修繕義務、目的外使用、転貸及び占有移転の禁止を定めます。猶予期間中に再度不払いがあった場合の扱いも確認します。

第4 立退料・解決金・未払賃料・敷金
1 未払賃料等の確定

基準日までの賃料、共益費、更新料、遅延損害金その他の債務を一覧にし、争いのある項目を区別します。明渡日までの分を日割りにする場合は、算定方法を定めます。

2 立退料又は解決金

支払額だけでなく、支払時期と明渡しの関係を定めます。明渡し前に全額を払うと履行確保が弱くなり、明渡し後の後払いだけでは明渡義務者が転居費用を用意できないことがあります。

一部前払・残額同時履行、供託、代理人預りその他の方法を検討し、どの状態になれば残額を支払うかを明確にします。

3 敷金

敷金の額、未払賃料等への充当、原状回復費用の控除、残額の返還時期及び精算資料を定めます。立退料又は解決金に敷金返還を含むのか、別に精算するのかを明記します。

第5 残置物と原状回復

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知的財産訴訟の和解条項―製造停止・在庫廃棄・不争約束・実施許諾(AI作成)

目次

第1 知財和解では対象権利・対象製品・対象行為を特定する第2 侵害・非侵害・責任不承認の確認条項1 侵害を認める条項2 非侵害を確認する条項3 責任を認めないまま解決する条項第3 製造販売停止と在庫・設備の処理1 停止する行為を列挙する2 在庫・半製品・金型・データ3 廃棄又は処理の確認方法4 猶予期間と既存契約第4 損害賠償金・解決金・実施料第5 権利不行使・不争約束・実施許諾1 権利不行使の範囲2 不争約束3 実施許諾第6 関連訴訟・審判・税関手続の処理第7 秘密保持・公表・第三者への対応第8 違反時の確認と履行確保第9 条項案のチェックリスト第10 根拠資料と関連記事
第1 知財和解では対象権利・対象製品・対象行為を特定する

特許権、商標権、意匠権又は著作権をめぐる和解では、最初に対象権利、対象製品又は標章、対象行為、地域及び期間を特定します。「被告製品」「本件特許」といった略称は、別紙の製品目録、図面、型番、登録番号及び請求項と結び付けます。

東京地方裁判所知的財産権部は、知的財産権訴訟の和解条項例を公表しています。そこには、侵害又は非侵害の確認、製造販売の停止、在庫の廃棄、金銭支払、権利不行使、不争約束、実施許諾、秘密保持などの例があります。

公表例は、事件に適した条項を選ぶための参考資料です。例文を一括して転記するのではなく、訴訟物、対象製品、権利の残存期間、関連会社及び将来製品に合わせて組み立てる必要があります。

第2 侵害・非侵害・責任不承認の確認条項
1 侵害を認める条項

侵害を認める場合は、どの権利のどの範囲について、どの製品又は行為が侵害すると確認するのかを特定します。将来の別製品まで含むのか、過去の行為だけかも明確にします。

2 非侵害を確認する条項

設計変更後の製品について非侵害を確認する場合は、その仕様を別紙又は図面で固定します。製品名だけでは、将来の仕様変更や部品変更を含むかが争われるおそれがあります。

3 責任を認めないまま解決する条項

当事者が侵害又は損害額について見解を維持したまま、紛争解決のために金銭を支払うことがあります。その場合は、責任の承認ではないことと、どの請求を清算するのかを両立させます。

第3 製造販売停止と在庫・設備の処理
1 停止する行為を列挙する

製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出、輸入、譲渡等の申出、広告又はウェブ掲載のどこまで停止するかを、適用される知的財産法と事実関係に即して定めます。販売店、代理店、委託先又は海外関連会社への指示を含めるかも検討します。

2 在庫・半製品・金型・データ

完成品だけでなく、半製品、部品、包装、ラベル、金型、治具、設計データ及び広告素材の取扱いを決めます。廃棄、改造、権利者への引渡し又は第三者への転用のどれを認めるかを区別します。

3 廃棄又は処理の確認方法

廃棄期限、方法、費用負担、写真、廃棄証明書、数量表又は第三者証明の提出を定めます。抽象的な「廃棄する」という条項だけでは、履行確認が困難です。

4 猶予期間と既存契約

即時停止が困難な場合は、売り切り期間、納入済み製品の保守、回収、既存顧客への対応を定めます。猶予中に認める数量、販売先、価格又は報告義務を具体化します。

第4 損害賠償金・解決金・実施料

金銭条項では、損害賠償金、解決金、過去実施料又は将来の実施料のどれとして支払うかを整理します。名称だけで税務上又は会計上の取扱いが決まるとは限らないため、必要に応じて専門家に確認します。

支払額、期限、振込先、手数料、分割払い、期限の利益喪失及び遅延損害金を定めます。複数の権利又は国を含む場合は、金額の配分と対象期間を記録します。

売上連動の実施料を定めるときは、対象売上、控除項目、料率、最低保証、報告期間、帳簿閲覧又は監査、通貨及び為替換算を定めます。

第5 権利不行使・不争約束・実施許諾
1 権利不行使の範囲

権利者が特定の製品又は行為について権利を行使しないと約束する場合は、対象権利、対象者、製品、地域、期間及び条件を定めます。関連会社、顧客、販売店及び承継人まで含むかを明確にします。

2 不争約束

権利の有効性を争わない条項を置く場合は、対象権利、対象手続、期間及び例外を特定します。この条項の効力や競争法上の評価は、契約全体と個別事情によって検討を要するため、公表例があるという理由だけで一律に採用すべきではありません。

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訴え提起前の和解とは―費用・期間・公正証書・民事調停との違い(AI作成)

目次

第1 訴え提起前の和解は合意を和解調書にする手続第2 申立てから成立までの流れ1 合意内容を固める2 申立書と添付書類を提出する3 和解期日に出頭する4 合意に至らなかった場合第3 成立した和解調書の効力第4 期間と費用を確認するときの注意第5 私的な合意書・公正証書・民事調停との違い1 私的な合意書2 強制執行認諾文言付き公正証書3 民事調停4 通常訴訟第6 利用に適する場合と適しない場合第7 建物明渡しなど非金銭給付での使い方第8 申立て前のチェックリスト第9 根拠資料と関連記事
第1 訴え提起前の和解は合意を和解調書にする手続

訴え提起前の和解は、民事上の争いについて、訴訟を起こす前に簡易裁判所へ申立てをし、裁判所で合意を和解調書に記録する手続です。実務上「即決和解」と呼ばれることがあります。

当事者間で既に合意の見通しがあり、支払、明渡し又は物の引渡しなどを強制執行できる形にしたい場合に利用されます。相手方が内容自体を強く争っている事件を、裁判所が短期間で判決のように決める手続ではありません。

根拠は民事訴訟法275条です。申立先は、原則として相手方の普通裁判籍所在地を管轄する簡易裁判所です。管轄、必要書類及び申立方法は、申立先の簡易裁判所に事前確認する必要があります。

第2 申立てから成立までの流れ
1 合意内容を固める

申立て前に、争いの内容、確認する権利義務、給付の内容、期限、不履行時の効果、請求放棄及び清算条項を整理します。合意文案が未完成で主要条件も決まっていない場合は、民事調停や通常訴訟の方が適することがあります。

2 申立書と添付書類を提出する

申立書には、請求の趣旨及び原因に相当する事項と、予定する和解条項を記載します。資格証明書、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書その他の書類が必要になることがあります。

必要書類は事件類型と裁判所によって異なります。古い案内に記載された手数料、郵便料又は書式をそのまま使わず、申立時点の裁判所案内を確認します。

3 和解期日に出頭する

裁判所は、当事者双方の合意内容を確認し、相当と認めたときに和解を成立させます。代理人が出頭する場合は、和解権限を含む委任の範囲を確認します。法人では代表資格、社内決裁及び押印書類も準備します。

4 合意に至らなかった場合

和解が成立しなかったからといって、裁判所が直ちに本案の判決をするわけではありません。ただし、和解期日に当事者双方が申立てをした場合、裁判所は直ちに訴訟の弁論を命じることができ、その場合は和解申立時に訴えが提起されたものとみなされます(民事訴訟法275条2項)。

第3 成立した和解調書の効力

和解が調書に記録されると、確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。金銭支払や建物明渡しなど、内容が特定された給付条項は、強制執行の基礎となり得ます。

この効力があるため、和解条項は単なる覚書より厳密に作る必要があります。対象物、金額、支払期限、明渡期限、条件及び当事者を曖昧にすると、成立後の執行や解釈で問題になります。

また、和解調書には紛争を終わらせる効力があります。清算条項を広く書くと、当事者が意識していなかった別の請求まで対象かどうかが争われることがあります。

第4 期間と費用を確認するときの注意

東京簡易裁判所の案内は、申立てから和解期日までの期間を平均1か月半から2か月程度と説明しています。これは東京簡易裁判所の案内上の目安であり、全国一律の処理期間又は個別事件の期限を保証するものではありません。

申立手数料、郵便料及び納付方法は改定されることがあります。裁判所ウェブサイトも、令和8年5月21日以降の申立手数料等の変更を案内しています。過去の事件類型別PDFに記載された金額を現在の金額として引用せず、裁判手続の申立て等に係る手数料と申立先裁判所で確認してください。

弁護士費用、登記事項証明書等の取得費用、当事者の出頭費用及び和解条項の履行費用は、裁判所へ納める費用とは別です。

第5 私的な合意書・公正証書・民事調停との違い
1 私的な合意書

当事者だけで作る合意書は、柔軟かつ迅速に作成できます。しかし、相手方が履行しないときは、合意書だけでは直ちに強制執行できず、原則として訴訟等で債務名義を得る必要があります。

2 強制執行認諾文言付き公正証書

一定の金銭支払等について、債務者が直ちに強制執行に服する旨を記載した公正証書は、債務名義となります。建物明渡しなど金銭以外の給付をそのまま強制執行する点では、訴え提起前の和解と同じではありません。

3 民事調停

民事調停は、裁判官と調停委員会が当事者の話を聞き、解決を調整する手続です。まだ合意内容が固まっていない場合にも利用できます。調停が成立して電子調書に記録されると、その記録は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事調停法16条)。

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入院費はいくらか―高額療養費,差額ベッド代,食事代及びDPCの計算(AI作成)

目次

第1 入院費を5つに分ける第2 保険診療の自己負担と高額療養費第3 差額ベッド代・食事代・文書料第4 DPCによる包括評価第5 1泊2日と月またぎ入院第6 入院前・退院時の確認表第7 関西電力病院の案内を読む際の注意第8 資料の限界と判例確認状況第9 出典
第1 入院費を5つに分ける

入院費は一つの計算式で決まるものではない。少なくとも,次の5つに分けると理解しやすい。

①健康保険が適用される診療費の自己負担
②高額療養費による月ごとの自己負担上限
③入院時の食事療養に係る標準負担額
④差額ベッド代,文書料,日用品等の保険外費用
⑤支払保証,預り金,退院時精算等の病院独自の手続

「高額療養費が使えるから入院費は上限額だけ」と考えると,食事代や差額ベッド代を見落とす。反対に,病院から示された概算額をすべて保険診療の自己負担と考えると,高額療養費の対象範囲を誤る。

第2 保険診療の自己負担と高額療養費

健康保険が適用される医療費は,年齢・所得等に応じた一部負担割合で窓口負担を計算する。1か月の窓口負担が所得区分ごとの上限額を超えた場合,高額療養費として超過分が支給される。

マイナ保険証で限度額情報の提供に同意するか,限度額適用認定証を提示すれば,原則として窓口での支払を自己負担限度額までに抑えられる。もっとも,複数の医療機関の自己負担を世帯合算する場合等は,いったん支払った後に申請が必要になることがある。

高額療養費は暦月ごとに計算する。同じ入院が月をまたぐと,月ごとに別の自己負担上限が適用されるため,月内で退院する場合より負担が増えることがある。治療上の必要が優先されるのは当然であるが,予定入院では概算説明の前提となる月を確認するとよい。

令和8年8月から月額上限の一部が見直され,年間上限も導入された。令和9年8月には所得区分の細分化等が予定されているため,入院時点の厚生労働省資料と加入保険者の案内で最新額を確認する必要がある。

第3 差額ベッド代・食事代・文書料

入院時の食事療養に係る標準負担額,差額ベッド代,診断書等の文書料,病衣・日用品等は,原則として高額療養費の対象外である。

ただし,差額ベッド代は,個室に入ったという事実だけで常に請求できるわけではない。厚生労働省通知は,料金を明示した同意書がない場合,治療上の必要がある場合,又は満床・感染対策等で実質的に患者が選択していない場合に,料金を請求してはならないとしている。詳細は,差額ベッド代を払わなくてよい場合で扱う。

食事負担額には,住民税非課税世帯,指定難病患者等について軽減措置がある。入院前に,加入保険者へ必要な認定や申請を確認することが重要である。

第4 DPCによる包括評価

DPCは,急性期の入院医療について,診断群分類ごとに1日当たりの点数を設定し,入院日数等に応じて包括部分を計算する制度である。手術,麻酔,一部の処置等は出来高で算定され,包括評価部分と合算される。

DPC病院でも,患者が一切の診療明細を確認できないわけではない。退院時には診療明細書を受け取り,病名,入院期間,手術等の出来高部分,食事,保険外費用を区分して確認する。

DPCは病院が自由に決める定額制ではなく,厚生労働大臣が定める診断群分類・点数表等に基づく。ただし,どの診断群分類が適用されたか,副傷病や手術によって分類が変わるかは医学的・請求実務上の判断を含むため,疑問がある場合は病院の医事担当窓口に説明を求める。

第5 1泊2日と月またぎ入院

1泊2日の入院では,保険診療の入院料・DPC,食事,差額ベッド代が同じ「1泊」で計算されるとは限らない。特に差額ベッド代は,入院日と退院日を各1日とする暦日計算により,2日分となる病院が多い。

一方,高額療養費は暦月単位である。1月31日に入院して2月1日に退院した場合,短期入院でも1月分と2月分に分けて判定される。請求書では,保険診療,食事,差額ベッド代の日数・回数がそれぞれ何に基づくかを確認する。

第6 入院前・退院時の確認表

入院前には,次の事項を確認するとよい。

①マイナ保険証又は限度額適用認定証の利用方法
②高額療養費の所得区分と多数回該当
③病室の希望,差額ベッド代の日額及び同意書

(続きを読む...)入院費はいくらか―高額療養費,差額ベッド代,食事代及びDPCの計算(AI作成)

医療費保証会社による立替えとは―保証料0円でも未払医療費が消えない理由と個人情報の提供(AI作成)

目次

第1 医療費保証制度の仕組み第2 保証料0円と債務免除は違う第3 身元保証人・連帯保証人との違い第4 同意書で提供される個人情報第5 申込前後に確認する事項第6 入院拒否との関係第7 資料の射程と判例確認状況第8 出典
第1 医療費保証制度の仕組み

医療費保証制度は,患者が入院費等を支払わなかった場合に,保証会社が医療機関へ立替払いをし,その後,患者に立替金を請求する仕組みである。医療機関にとっては未収金対策となるが,患者にとって医療費が免除される制度ではない。

関西電力病院は,令和8年9月1日から,入院患者を対象にジェイリース株式会社の「医療費用保証制度」を導入した。同病院の案内では,患者の保証料負担はなく,未払金が生じた場合に同社が病院へ立替払いを行い,患者は同社に立替金を支払うとされている。

この仕組みは,病院・保証会社・患者の三者関係を契約書と同意書で設計した個別制度である。他の病院で同じ名称が使われていても,保証範囲,審査,個人情報の提供先,遅延損害金等は同一とは限らない。

第2 保証料0円と債務免除は違う

「保証料0円」は,保証サービスの利用料を患者が別途負担しないという意味である。未払医療費そのものが0円になるわけではない。

関西電力病院の案内によれば,保証の対象には,健康保険の自己負担分だけでなく,差額ベッド代,文書料その他の自費・実費分も含まれる。患者が病院に支払わず保証会社が立て替えたときは,支払先が病院から保証会社に変わるのであり,最終的な患者負担は残る。

したがって,高額療養費の自己負担限度額,差額ベッド代の請求可否,医療費保証による立替えは,別々に検討しなければならない。高額療養費の対象外となる費用が保証範囲に含まれることもあり,保証対象であることは請求の法的根拠が確定したことを意味しない。

第3 身元保証人・連帯保証人との違い

家族等が個人として入院費を保証する場合,将来発生する不特定の債務を保証する個人根保証契約に当たれば,民法465条の2により極度額を定める必要がある。

これに対し,医療費保証会社は法人であり,患者の家族に代わって身元引受,医療同意,退院時の引取り等を一括して行うとは限らない。少なくとも関西電力病院の案内が示す中心的機能は,未払医療費の立替えである。

「身元保証人がいないこと」と「医療費保証会社の制度を利用すること」は同義ではない。病院が患者に求めているのが,金銭債務の担保,緊急連絡,医療同意,退院支援,遺体・遺品の引取りのどれであるかを分解して確認する必要がある。

第4 同意書で提供される個人情報

関西電力病院が公表する個人情報取扱いに関する同意書は,保証会社が取得・利用し得る情報として,氏名,性別,生年月日,住所,電話番号,国籍,職業,勤務先,月収等を掲げる。さらに,診療費等支払契約の内容,支払状況,身分証明書,画像・音声,公開情報,生体認証情報,病名等も対象に含めている。

利用目的には,保証の審査,保証契約の締結・履行,立替後の求償,サービスの案内・品質向上等が含まれる。保険会社等への第三者提供が予定される場合もある。

同意書は,法令上の例外等を除き,提出された情報を返却・削除しない旨も定めている。患者は,単に病院へ氏名等を記入する書類と考えず,誰が,どの情報を,何の目的で,いつまで利用し,どの第三者に提供するのかを確認する必要がある。

病名や診療情報は要配慮個人情報に当たり得る。もっとも,本記事は公表同意書の内容を整理するものであり,個々の取得・提供が個人情報保護法上適法か,説明が十分かは,実際の取得経路,同意の態様,委託・共同利用・第三者提供の区別等を確認して判断する必要がある。

第5 申込前後に確認する事項

患者側は,少なくとも次の点を確認するとよい。

①保証会社,保証期間及び保証対象となる費用
②保証料,事務手数料,遅延損害金その他の追加負担
③立替えが実行される条件と,実行前に患者へ連絡があるか
④立替後の請求方法,分割払いや相談窓口
⑤取得される個人情報,利用目的,保存期間及び第三者提供先
⑥審査に通らなかった場合の入院・支払方法
⑦差額ベッド代等,請求自体に争いがある費用の取扱い

未払が生じた場合は,病院の請求書と保証会社の請求書を突き合わせ,対象期間,費目,立替日,立替額を確認する。二重払いを避けるため,病院へ直接支払った後に保証会社から請求を受けた場合は,領収書を示して精算状況を確認する。

第6 入院拒否との関係

厚生労働省は,入院による加療が必要であるにもかかわらず,身元保証人等がいないことのみを理由に入院を拒否することは,医師法19条1項に抵触すると通知している。

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差額ベッド代を払わなくてよい場合―同意書,治療上の必要,病院都合及び1泊2日の計算(AI作成)

目次

第1 差額ベッド代とは何か第2 差額ベッド代を請求できない3類型1 十分な説明と同意書がない場合2 治療上の必要がある場合3 病棟管理上の必要があり患者の選択でない場合第3 1泊2日でも2日分になる理由第4 請求を受けたときの確認手順第5 関西電力病院の案内から分かること第6 裁判例・判例秘書の確認状況第7 出典
第1 差額ベッド代とは何か

差額ベッド代は,健康保険が適用される入院基本料とは別に,患者が特別の療養環境にある病室を選んだ場合に医療機関が徴収する料金であり,正式には特別療養環境室の料金という。個室だけでなく,一定の要件を満たす2人室から4人室までが対象になることがある。

差額ベッド代は保険外の選定療養であるため,高額療養費の計算対象にならない。入院費の窓口負担が高額療養費の自己負担限度額まで下がっても,差額ベッド代,入院時の食事負担,文書料等は別に支払う必要がある。入院費全体の分け方は,入院費はいくらか―高額療養費,差額ベッド代,食事代及びDPCの計算で整理している。

もっとも,個室に入ったという事実だけで常に差額ベッド代を支払う義務が生じるわけではない。厚生労働省の通知は,医療機関が患者から料金を徴収してはならない場合を具体的に示している。

第2 差額ベッド代を請求できない3類型
1 十分な説明と同意書がない場合

厚生労働省通知は,特別療養環境室への入院について,患者側に病室の設備,構造,料金等を明確かつ懇切丁寧に説明し,患者側の同意を確認した上で入院させることを求める。同意の確認は,料金を明示した文書に患者側の署名を受ける方法によらなければならない。

したがって,料金の記載がない書面に署名しただけの場合,差額ベッド代が発生することを説明されていない場合,又は署名自体がない場合には,通知上,料金を請求してはならない類型に当たり得る。署名があっても,説明内容,署名時の患者の状態,希望した病室,空室状況等を併せて確認する必要がある。

2 治療上の必要がある場合

救急患者,術後患者等で病状が重篤であり安静を必要とする場合,又は常時監視を要して適時適切な看護・介助を必要とする場合など,患者を特別療養環境室に入院させることが治療上必要なときは,患者の選択による利用ではない。厚生労働省通知は,この場合に料金を請求してはならないとしている。

「治療上の必要」は個室の方が便利であるという程度ではなく,病状,感染管理,看護上の必要性等を医療記録から個別に判断する問題である。患者側では,診療録,看護記録,病室移動の記録,医療機関の説明等が確認資料となる。

3 病棟管理上の必要があり患者の選択でない場合

感染症患者を他の患者から隔離する場合,患者の状態から大部屋では安全な診療が困難な場合,又は一般病室が満床で特別療養環境室しか空いていない場合など,実質的に患者の選択によらない入室もある。

厚生労働省通知は,病棟管理上の必要性から特別療養環境室に入院させたため,実質的に患者の選択によらない場合には,料金を請求してはならないとする。ただし,患者側の希望があり,医療機関が料金等を説明して同意書を取得した場合まで一律に無料となるわけではない。誰が何を理由に病室を決めたかが重要である。

第3 1泊2日でも2日分になる理由

差額ベッド代は,ホテルの宿泊料のように泊数で計算されるとは限らない。医療機関の多くは,入院日と退院日をそれぞれ1日として暦日単位で計算する。例えば,午後に入院して翌朝に退院した1泊2日の場合も,2日分になる。

関西電力病院の入院案内も,個室料金を「1日につき」と表示し,1泊2日の入院は2日分になる旨を説明している。これは同病院の現行案内の例であり,料金額や計算方法は各医療機関の規程・同意書で確認する必要がある。

なお,入院日又は退院日の病室変更がある場合の計算,深夜入院・早朝退院の場合の取扱い等も医療機関の規程による。同意書の「1日」の定義と請求明細の日付を照合することが重要である。

第4 請求を受けたときの確認手順

差額ベッド代に疑問がある場合は,まず次の資料をそろえるとよい。

①特別療養環境室の利用申込書・同意書の写し
②入院案内と病室料金表
③入退院日,病室番号及び病室移動日が分かる請求明細
④個室を希望した者,説明者,説明内容及び説明日時の記録
⑤治療上又は感染管理上の必要を示す診療録・看護記録
⑥当時の一般病室の空床状況と,病院から病室を指定された経緯

その上で,患者が料金を理解して病室を選んだのか,治療上の必要があったのか,一般病室が満床で事実上選べなかったのかを分けて検討する。医療機関の相談窓口に,厚生労働省通知のどの類型に照らして請求したのか,文書で説明を求めることも考えられる。

高額療養費の対象外であることと,差額ベッド代の請求自体が適法・妥当であることは別問題である。「保険外だから必ず払う」という説明だけでは,上記3類型の検討を尽くしたことにならない。

第5 関西電力病院の案内から分かること

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従業員が取引先の物を盗んだ場合の会社の責任―民法715条の使用者責任,被害弁償,示談及び従業員への求償(AI作成)

目次

第1 先に被害者と請求権者を特定する1 会社の物か従業員個人の物かを分ける2 被害会社が従業員へ先に補償した場合第2 盗んだ従業員本人の損害賠償責任第3 雇用会社が使用者責任を負う条件1 民法715条の基本構造2 故意の窃盗だから当然に対象外とは限らない3 具体的に確認する事実第4 支払会社が支払う法律関係を区別する1 雇用会社自身の使用者責任に基づく支払2 従業員の債務を支払会社が第三者として支払う場合3 「支払会社が弁償する」という一文で終わらせない第5 被害額と既回収分を整理する第6 示談書・合意書に入れる条項1 当事者,事件及び支払根拠2 金額,期限及び支払方法3 清算条項は支払完了と連動させる4 刑事手続に関する約束は民事上の支払と分ける第7 雇用会社と従業員の内部負担1 雇用会社が支払っても内部負担は自動的に確定しない2 故意の窃盗では故意性を独立して評価する3 給与から当然に控除できるわけではない第8 実務上の確認事項第9 主な出典
第1 先に被害者と請求権者を特定する
1 会社の物か従業員個人の物かを分ける

従業員が取引先の事業所で金銭や物を持ち去った場合,最初に確認すべきことは,被害品の所有者,刑事上の占有者,管理者及び最終的に損失を負担する者である。
取引先会社の在庫,資材,現金その他の財産が被害品であれば,通常は取引先会社が直接の財産的被害者となる。
これに対し,ロッカー内の現金や私物など,取引先の従業員個人が所有する物が被害品であれば,直接の財産的被害者は原則としてその従業員であり,勤務先会社が当然に損害賠償請求権者になるわけではない。

所有者でない受寄者又は管理者が契約上損失を負担する場合もあり,刑事手続上の被害者,民事上の損害賠償請求権者及び示談金の受領権者は,所有名義だけで決められない。
本記事では,財物を持ち去られた側の会社を「被害会社」,不正をした従業員を雇用する会社を「雇用会社」,実際に金銭を支払う会社を「支払会社」と表記する。

刑事事件で被害届を出した者,検察庁から通知を受けた者,民事上の損害賠償請求権者及び示談金の受領権者が常に一致するとは限らない。
被害会社が従業員に代わって連絡窓口となる場合には,代理権や受領権限の範囲を確認し,示談書上の当事者及び振込先と対応させる必要がある。

2 被害会社が従業員へ先に補償した場合

被害従業員の勤務先である被害会社が見舞金又は補償金を支払っても,その一事だけで,従業員が有する損害賠償請求権の全部が当然に被害会社へ移転するとは限らない。
債権譲渡,代位,立替払又は被害会社独自の給付のいずれであるか,誰がどの範囲の請求権を行使し,誰が示談金を受領するのかを,支払時の合意と法的根拠に即して整理する必要がある。
被害従業員と被害会社の双方に支払う場合には,同じ損害について二重に支払うことがないよう,それぞれの請求の対象を分ける。

第2 盗んだ従業員本人の損害賠償責任

他人の物を故意に持ち去って損害を与えた従業員は,原則として民法709条の不法行為責任を負う。
損害には,返還されていない現金又は物の価額だけでなく,事案に応じ,回収又は代替調達のために通常かつ相当な範囲で必要となった費用が含まれることがある。
調査費用,社内人件費その他の対応費用は当然に全額が損害となるものではなく,費目ごとに行為との相当因果関係,外部支出の必要性,相当性及び金額を確認する必要がある。
社内対応に要した時間や信用低下を抽象的に加算できるわけではない。

被害品が返還された場合には,返還時の状態,使用可能性及び価値の低下を確認する。
転売代金を回収した場合,犯人又は第三者から一部弁済を受けた場合,保険金が支払われた場合も,誰にいくらの未填補損害が残っているかを整理する。
損害保険金については,保険法25条による請求権代位が生じることがあるため,保険の種類,保険者へ移転した請求権の範囲及び被保険者に残る請求権を確認する。

第3 雇用会社が使用者責任を負う条件
1 民法715条の基本構造

民法715条1項は,ある事業のために他人を使用する者について,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を定めている。
使用者が被用者の選任及び事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生じたときには免責される旨のただし書があるが,具体的な主張立証が必要となる。

雇用会社が責任を負うかは,従業員を雇用していたという事実だけでは決まらない。
問題となる行為が,外形上,従業員の職務の範囲内に属するものと見られるかを,職務内容,権限,行為の場所・時間,取引先への立入りや対象物への接触が認められた理由などから検討する。

雇用会社の責任は,民法715条だけで決まるとも限らない。
被害会社との契約上の保管・警備・管理義務に違反した場合の民法415条の責任,雇用会社自身の監督上の過失を理由とする民法709条の責任又は契約上の補償条項が問題となることもある。

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オンライン診療・即日発行の精神科診断書を会社はどう扱うか――信用性,就業可否及び主治医照会(AI作成)

目次

第1 結論第2 オンライン診療・即日発行だけで信用性を決めない1 オンライン診療は正式な診療方法である2 情報が不足するときは対面診療へ切り替える3 即日発行と情報量は同じではない第3 診断書の四つの層を分ける1 作成名義と成立の真正2 診断と治療に関する医学的意見3 原因となった出来事と因果関係4 具体的な仕事についての就業意見第4 「通院加療」と休業・就業制限を区別する第5 診断書提出後も通常勤務している場合第6 会社が追加確認する方法1 受領と是認を分ける2 追加診断書と主治医照会3 主治医,産業医等及び事業主の役割第7 本人への回答例第8 実務チェックリスト第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 結論

オンライン診療で作成されたこと又は診察当日に発行されたことだけを理由に,精神科・心療内科の診断書を無効又は無価値と扱うのは適切でない。

他方,医師名義の診断書が提出されたからといって,職場での出来事,疾病との因果関係,休業の要否,就業上の制限又は必要な配置まで当然に確定するわけでもない。会社は,①文書の作成名義,②診断・治療に関する医学的意見,③原因となった出来事と因果関係,④具体的な仕事についての就業意見を分けて確認する必要がある。

「通院加療を要する」との記載は,治療継続の必要性を示すが,それだけで休業又は配置転換を命ずべきことまで示すものではない。就業上の措置を検討するための情報が不足するときは,勤務情報を具体的に示し,本人の同意を得て主治医へ照会し,必要に応じて産業医等の意見を得た上で,事業主が本人の意向と職場の状況も踏まえて判断する。

追加診断書又は主治医照会を求めなかったことだけで,会社が診断書の全記載を認めたことになるとは通常いえない。ただし,判断に必要な情報の不足を把握しながら確認しないまま不利益な措置又は安全上重要な判断をした場合,判断過程の合理性を説明しにくくなる。受領した事実,確認した事項,未確認事項及び判断理由を記録することが重要である。

第2 オンライン診療・即日発行だけで信用性を決めない
1 オンライン診療は正式な診療方法である

オンライン診療は,情報通信機器を通して診察,診断及び処方等をリアルタイムに行う診療であり,厚生労働省の指針に基づいて実施される。オンラインであるという形式だけから,医師の診察がなかった又は診断書が偽造されたと推測することはできない。

診断書の評価では,オンラインか対面かという二者択一だけでなく,診察日,継続診療の有無,医師が得た情報,必要な検査,記載の具体性及び他の資料との整合性を確認する。

2 情報が不足するときは対面診療へ切り替える

厚生労働省のオンライン診療指針は,医師が診療前相談又はオンライン診療で十分な情報を得られないと判断した場合,対面診療へ切り替えることを求めている。また,触診その他の対面でなければ得られない情報が診断に必要な場合もある。

したがって,オンライン診療では情報の取得方法に限界があり得ることは,個々の記載の根拠を確認する際の一事情となる。しかし,その一般的な限界を,個別の診断書が誤っていることの証明へ置き換えることはできない。

3 即日発行と情報量は同じではない

診察当日に診断書を発行すること自体は,直ちに不適切とはいえない。診断に必要な情報がその時点で揃っていることもあれば,初診時の申告と限られた所見を中心に暫定的な判断が記載されていることもある。

会社が確認すべきなのは発行までの日数だけではなく,①初診か継続診療か,②診察の方法と時点,③本人の申告以外に確認した事項,④診断書の目的,⑤予定される検査又は再診,⑥就業意見の前提となった仕事内容である。

第3 診断書の四つの層を分ける
1 作成名義と成立の真正

まず,医療機関名,医師名,作成日,患者情報及び原本又は真正な写しであるかを確認する。疑問がある場合は,医療機関の公開連絡先,書式又は本人を通じた確認など,必要かつ相当な方法を選ぶ。

医師名義で真正に作成されたことは重要であるが,それは記載された出来事,因果関係又は就業意見が全て真実であることと同じではない。

2 診断と治療に関する医学的意見

病名,症状,治療の必要性,通院又は服薬に関する記載は,医師の専門領域に属する重要な資料である。会社が独自に疾病を診断したり,病名だけを理由に診断書を排斥したりすることは避けるべきである。

もっとも,記載が本人の申告を前提とする部分,医師が観察又は検査で確認した部分及び医師の医学的評価を分けて読むことはできる。診断名が同じでも,症状の程度と仕事への影響は人によって異なる。

3 原因となった出来事と因果関係

「上司に叱責された後から不眠が続くと本人が述べた」という記載と,「違法な叱責があり,それが疾病の原因である」という判断は別である。医師が本人の説明を診療情報として記録していても,職場での出来事の有無,具体的態様又は法的評価まで直接確認したとは限らない。

会社は,医学的意見を尊重しつつ,職場での出来事については面談記録,メール,勤務記録,関係者の説明その他の資料を別に確認する。医師に因果関係を尋ねる場合も,医師が把握した事実と医学的判断の範囲を分ける。

4 具体的な仕事についての就業意見

「休業を要する」「就業可能」「配置転換が望ましい」といった意見は,医師がどのような仕事を想定したかによって意味が変わる。職種名だけでは,作業時間,対人負荷,通勤,夜勤,残業,危険機械,車両運転又は一人作業の有無が分からないことがある。

会社は,実際の職務と実施可能な配慮を勤務情報提供書等で示し,就業の可否,避けるべき作業,勤務時間又は作業量の制限,措置を要する期間及び再評価時期を尋ねる。

第4 「通院加療」と休業・就業制限を区別する

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人事異動内示書の書き方―異動理由はどこまで書くか,社内記録との分け方と配置転換通知の文例

目次

第1 この記事の対象1 配置転換の内示書と異動辞令2 基準日第2 内示書を作る前の確認1 配転命令権と限定合意2 業務上の必要性と不利益第3 本人向け内示書の必要事項1 基本事項2 異動理由の基本的な書き方3 理由を短くする場合の限界第4 本人向け書面と社内記録を分ける1 社内記録に残す事項2 「社内記録が詳細,本人向け書面が簡潔」とする理由第5 注意・懲戒・ハラスメント対応と同時に異動する場合1 書面と判断を分ける2 本人が注意又は処分を争っている場合第6 作業内容が変わる場合の教育と引継ぎ第7 人事異動内示書の文例1 通常の人事異動2 欠員補充を伴う人事異動3 厳重注意と同日に異動を内示する場合第8 交付,受領及び異論の記録第9 実務チェックリスト第10 関連する山中弁護士ブログの記事第11 出典・参考資料1 法令及び行政資料2 裁判例
第1 この記事の対象
1 配置転換の内示書と異動辞令

本記事は,会社が同一の使用者の下で労働者の部署,勤務地又は担当職務を変更する場合の内示書及び辞令を対象とする。出向,転籍,降格,懲戒処分及び労働条件の不利益変更は,同じ書面で一括して処理せず,それぞれの根拠と手続を別に確認する必要がある。

本記事の文例は法定様式ではなく,配転命令権の根拠,職種・勤務地の限定合意,業務上の必要性及び労働者の不利益を別途検討した後に使う実務上の例である。書面の表現を整えるだけで,根拠のない配転命令又は権利濫用となる配転命令が有効になるものではない。

2 基準日

本記事は,令和8年10月28日現在の法令及び公開資料に基づく。

第2 内示書を作る前の確認
1 配転命令権と限定合意

内示書の作成前に,労働契約書,労働条件通知書,就業規則,採用時の募集・説明資料及び実際の運用を確認する。職種又は勤務地を限定する合意がある場合,会社は個別の同意なくその限定に反する配転を命ずる権限を当然に有するものではない。最高裁令和6年4月26日判決は,職種及び業務内容を限定する合意があった事案で,使用者は労働者の個別的同意なしにその合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないとした。

2 業務上の必要性と不利益

配転命令権がある場合でも,業務上の必要性がない場合,不当な動機・目的で行われた場合,又は労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合などは,配転命令が権利の濫用とされることがある。東亜ペイント事件最高裁昭和61年7月14日判決の判断枠組みに照らし,欠員,業務量,必要な技能,選定理由,代替案,賃金,通勤,健康,家庭生活及びキャリアへの影響を検討する。

第3 本人向け内示書の必要事項
1 基本事項

本人に交付する内示書には,発行日,宛名,発行者,異動先,発令日,主な担当職務,引継ぎ,勤務地・勤務時間・賃金等の取扱い及び問合せ先を記載する。労働条件が変わる場合は,内示書の短い記載だけで済ませず,変更後の条件と根拠を別途明らかにする。

内示書と正式な異動辞令を分ける場合は,内示の段階で予定である事項と,会社が最終的に命ずる事項を混同しない。内示段階で面談を行う場合も,本人の異論を聴くことと,同意を法的に必要とする場合の同意取得を区別する。

2 異動理由の基本的な書き方

本人向けの書面には,「組織体制の変更に伴う人員配置」,「当該部署の業務量に対応するための補充」又は「今後の業務運営と本人の経験を踏まえた配置」など,事後にも説明でき,実際の配属と整合する客観的な目的を簡潔に記載する。「諸事情」だけで終わらせるかどうかは,紛争性,不利益の程度,就業規則及び従前の運用を踏まえて判断する。

理由を長く書くこと自体が適法性を高めるものではない。選定の経緯,他の従業員の個人情報,未確定の人事評価,事実調査の詳細又は代替案の全部を本人向け書面に盛り込むと,不必要な対立,個人情報の過剰開示,記載と実際の意思決定との不整合又は新たな差別・報復の疑いを招くことがある。

3 理由を短くする場合の限界

本人向け書面を簡潔にすることは,社内で配転の必要性を検討しないこと又は本人への説明を拒むことを意味しない。面談では,異動先,主な職務,時期,処遇,教育計画及び配転の業務上の目的を説明し,健康,家庭,通勤,転居及びキャリアに関する具体的な不利益を聴き取る。書面の文量と説明責任の履行は同じ問題ではない。

第4 本人向け書面と社内記録を分ける
1 社内記録に残す事項

社内記録には,①配転先の要員数・業務量・補充時期,②必要な経験・技能と本人の経歴,③候補者及び候補部署の比較,④賃金・勤務時間・通勤・転居・健康・家庭生活への影響,⑤代替案と不利益軽減措置,⑥引継ぎ,研修,安全衛生教育及び資格の確認,⑦本人への説明内容と本人から聴取した事情を残す。資料の作成日,作成者及び判断日を付し,後の事情を当時の記録のように書き足さない。

この社内記録は,人事担当者が検討に使う資料であり,本人向け内示書の別紙としてそのまま交付することを予定するものではない。ハラスメント調査資料,健康情報,第三者の人事情報等は,利用目的,アクセス権及び保存範囲を限定する。

2 「社内記録が詳細,本人向け書面が簡潔」とする理由

第一の理由は,社内では配転命令の根拠と相当性を後から検証できる程度の記録が必要である一方,本人向け書面には最終的に決定した事項と説明可能な目的を正確に示す役割があるからである。検討過程の全てを通知書に転記すると,検討中の候補や未確定の評価まで会社の最終判断と読まれるおそれがある。

第二の理由は,本人向け書面に詳細を固定すると,実際の配属,教育計画又は業務量の変化と矛盾した場合に,後付けの理由又は不真実な説明であると主張される材料になり得るからである。この問題は,本人が先行する注意書又は懲戒処分に不満を持っているときに限らない。もっとも,後の紛争を恐れて曖昧な文言に終始するのではなく,客観的な目的と決定事項は明確にする。

第5 注意・懲戒・ハラスメント対応と同時に異動する場合
1 書面と判断を分ける

(続きを読む...)人事異動内示書の書き方―異動理由はどこまで書くか,社内記録との分け方と配置転換通知の文例

配置転換で作業内容を変更するときの安全衛生教育―労働安全衛生法59条,特別教育及び就業制限

目次

第1 この記事の対象1 配置転換と安全衛生教育2 基準日第2 作業内容変更時の安全衛生教育1 労働安全衛生法59条1項・2項2 「遅滞なく」と配置前の準備第3 教育すべき8項目1 十分な知識及び技能がある場合の省略第4 一般の安全衛生教育,特別教育と就業制限1 一般の安全衛生教育2 特別教育3 就業制限業務4 社内の作業認定との区別第5 配置転換を行うときの実務手順1 作業と危険・有害因子を特定する2 必要な教育と資格を照合する3 教育計画を作る4 実施と記録を分けない第6 教育記録の文例第7 配置転換の計画との連動第8 実務チェックリスト第9 関連する山中弁護士ブログの記事第10 出典・参考資料1 法令2 厚生労働省の公開資料
第1 この記事の対象
1 配置転換と安全衛生教育

配置転換,異動,応援,兼務又は工程変更によって労働者の作業内容が変わるときは,業務の引継ぎや一般的な研修だけでなく,労働安全衛生法上の安全衛生教育,特別教育及び就業制限の要否を確認する必要がある。人事異動の辞令が出ていることと,対象業務を安全に単独で行えることは別の問題である。

本記事では,一般の雇入れ時等教育,特別教育,就業制限業務の資格及び会社内部の作業認定を区別し,配置転換の準備に組み込む方法を説明する。

2 基準日

本記事は,令和8年10月28日現在の労働安全衛生法,労働安全衛生規則及び厚生労働省の公開資料に基づく。対象業務の範囲,特別教育の科目・時間及び就業制限の資格は改正されることがあるため,実際の配置前に最新の法令を確認する。

第2 作業内容変更時の安全衛生教育
1 労働安全衛生法59条1項・2項

労働安全衛生法59条1項は,事業者が労働者を雇い入れたときに,従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行うことを求める。同条2項は,この規定を労働者の作業内容を変更したときに準用している。

厚生労働省は,業種,職種,雇用形態などにかかわらず,事業者は,労働者を新たに雇い入れたとき又はその作業内容を変更したときは,遅滞なく安全衛生教育を実施しなければならないと説明している。配置転換という人事上の名称だけではなく,実際に従事する作業の内容が変わるかを確認する。

2 「遅滞なく」と配置前の準備

労働安全衛生規則35条は,作業内容を変更したときは遅滞なく教育を行うと定めている。この文言から,全ての教育を一律に異動発令日より前に完了しなければならないという単純な形式要件が導かれるわけではない。

しかし,教育を受けていない状態で新しい機械,原材料,保護具,作業手順又は緊急時対応を扱わせると,教育の目的である労働災害の防止を果たしにくい。実務上は,少なくとも新しい危険・有害因子に暴露する前及び単独作業を始める前に,必要な教育と理解・技能の確認を終えるよう計画することが相当である。これは,特別教育や就業制限のように法令上の厳密な前提条件がある制度とは分けて整理する。

第3 教育すべき8項目

労働安全衛生規則35条1項は,当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項として,次の8分類を掲げている。

①機械等及び原材料等の危険性又は有害性と,その取扱方法。

②安全装置,有害物抑制装置又は保護具の性能と,その取扱方法。

③作業手順。

④作業開始時の点検。

⑤業務に関して発生するおそれのある疾病の原因と予防。

⑥整理,整頓及び清潔の保持。

⑦事故時等の応急措置及び退避。

⑧その他の業務に関する安全又は衛生のため必要な事項。

作業内容変更時の教育は,一律の資料を読ませるだけではなく,当該労働者が実際に従事する作業,取り扱う機械・原材料,使用する保護具,立ち入る区域及び交代勤務の手順などに合わせる。

1 十分な知識及び技能がある場合の省略

労働安全衛生規則35条2項により,上の事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については,当該事項の教育を省略できる。

ただし,同種の仕事の経験があることだけで一律に省略せず,機械の型式,安全装置,原材料,作業手順,校内・構内ルール,緊急時の退避経路等の違いを確認する。省略した場合は,どの項目についてどの経験,資格又は技能確認を根拠としたかを記録しておく方法が有用である。

第4 一般の安全衛生教育,特別教育と就業制限
1 一般の安全衛生教育

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フレックスタイム制の残業代と不足時間―清算期間・繰越し・途中退職の注意点(AI作成)

目次

第1 フレックスタイム制でも残業代は発生する第2 就業規則と労使協定で定める事項1 始業・終業時刻を労働者に委ねる2 清算期間・総労働時間・標準となる1日の時間第3 清算期間が1か月以内の場合の残業代1 所定時間と法定の総枠を分ける2 休日労働・深夜労働は別に確認する第4 清算期間が1か月を超える場合の二段階の計算1 各1か月の週平均50時間を先に確認する2 清算期間全体の総枠超過から既算入分を除く第5 不足時間と超過時間を翌期へ繰り越せるか1 不足時間の繰越しには条件がある2 超過時間の賃金を翌期へ先送りしない3 会社の事情で働けなかった場合を区別する第6 途中入社・退職・異動がある場合第7 会社と労働者が残しておきたい資料第8 出典
第1 フレックスタイム制でも残業代は発生する

フレックスタイム制は,あらかじめ定めた期間の総労働時間の範囲で,労働者が各日の始業・終業時刻を決める制度である。
労働時間を記録しなくてよい制度でも,残業代を払わなくてよい制度でもない。
本記事は,令和8年10月27日を基準に,適法に導入されたフレックスタイム制の時間清算と賃金支払を説明する。

給与計算では,①制度の導入要件,②協定上の総労働時間,③法定労働時間の総枠,④不足・超過時間の取扱い,⑤途中入社・退職等による適用期間の短縮を,順に確認する必要がある。
とりわけ,会社が定める所定時間を超えたことと,労働基準法上の割増賃金が必要な時間外労働になったことは,同じではない。

第2 就業規則と労使協定で定める事項
1 始業・終業時刻を労働者に委ねる

労働基準法32条の3は,就業規則その他これに準ずるものにより,始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねることを要件としている。
さらに,過半数労働組合又は過半数代表者との書面による労使協定が必要である。
名称だけをフレックスタイム制とし,実際には始業・終業時刻を一律に指定する運用には注意を要する。

2 清算期間・総労働時間・標準となる1日の時間

労使協定では,対象労働者の範囲,清算期間及び清算期間における総労働時間などを定める。
清算期間の起算日は,就業規則等又は労使協定で明らかにする。
清算期間は3か月以内であり,1か月を超える場合には協定の有効期間を定め,労働基準監督署長への届出も必要となる。
コアタイムやフレキシブルタイムを設けるときは,それぞれの開始・終了時刻も定める。

標準となる1日の労働時間も協定事項である。
これは,1日単位の年次有給休暇を取得した場合の賃金清算等に使う時間であり,毎日の実労働時間を固定する趣旨ではない。
1日単位の年休取得日については,標準となる1日の労働時間を加えて賃金清算する。
実労働時間を基礎とする法定時間外労働の計算とは,区別する必要がある。

制度の根拠は,労働基準法32条の3並びに労働基準法施行規則12条の3及び25条の2である。
厚生労働省の手引きは,協定事項と年休取得日の取扱いを6頁~10頁で説明している。

第3 清算期間が1か月以内の場合の残業代
1 所定時間と法定の総枠を分ける

原則となる週40時間制の場合,清算期間の法定労働時間の総枠は,40時間にその期間の暦日数を掛け,7で割って求める。
この総枠を超える実労働時間は,法定時間外労働となる。
適法なフレックスタイム制では,ある日に8時間,又はある週に40時間を超えたという理由だけで,その超過時間が直ちに法定時間外労働となるわけではない。

例えば,28日間の清算期間であれば,原則的な総枠は160時間である。
協定上の総労働時間が140時間で実労働が150時間であった場合,所定の140時間を超えた10時間の賃金精算は必要になるが,そのことだけで10時間全部が法定時間外労働になるわけではない。

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金型保管料の覚書の作り方―過去分の精算と将来の保管条件(AI作成)

目次

第1 過去分の精算と将来の保管を一通で整理する第2 別紙の型一覧と精算明細を先に作る1 対象物と権限を特定する2 過去分と将来分の明細を分ける第3 未確定の過去分を残したまま将来分を整える第4 保管料と管理業務を対応させる1 料金の単位と費目を決める2 管理費率だけで必要な作業を曖昧にしない第5 金型保管料と過去分精算の覚書の条項例1 目的・対象と所有権2 過去分の精算と未確定分の留保3 将来の保管料と業務範囲4 回収・廃棄と契約終了5 基本契約との優先関係第6 将来分の合意だけで過去の是正を終えない第7 締結と支払いを台帳へ反映する第8 出典
第1 過去分の精算と将来の保管を一通で整理する

金型や治具の無償保管を見直すときは,過去に生じた負担の精算と,これから保管を続ける条件を分けて決める必要がある。
一通の覚書にまとめる場合も,対象の型,期間,金額及び未確定事項を別紙で対応させると,合意した範囲が明確になる。

本記事は,令和8年10月27日に確認した公正取引委員会の公表資料を踏まえ,製造委託に伴う金型等の保管条件を協議する際の書面の作り方を説明する。
以下の条項例と管理方法は,法定のひな形ではなく,当事者が条件を具体化するための提案である。
無償保管の違反判断,費用請求及び返却・廃棄の詳しい説明は,金型・治具の無償保管を解消する実務を参照されたい。

公取委の取適法運用基準第4の7は,長期間発注しない等の事情がある型等について,費用を支払わず保管させる行為を問題としている。
受注者所有の型でも,廃棄に発注者の承認を要するなど,発注者が事実上管理している場合を含む。
適用関係は,当事者の規模,取引類型及び個別発注の時点を確認する。
書面に「双方合意」と書くだけで,実際の不利益な負担が解消されたとは扱わない。

第2 別紙の型一覧と精算明細を先に作る
1 対象物と権限を特定する

型番号,名称,対応部品,数量,保管場所及び写真を一つの一覧にする。
所有者,貸与者,費用を負担する者及び廃棄を承認できる者も別欄に記録する。
上流の完成品メーカーが所有し,直接の発注者には処分権限がない場合もあるため,「甲の金型」と一括して処分権限まで認めない。

同じ型を複数の顧客や製品に使う場合は,費用をどの範囲で配賦するかを定める。
型自体の所有権と,図面・CADデータ・製造ノウハウの利用条件も区別する。

2 過去分と将来分の明細を分ける

過去分には,型番号,対象期間,費目,単価・数量,算定根拠,既払額,今回支払額及び支払日を記載する。
将来分には,適用開始日,料金の単位,含まれる管理業務,別料金の作業,支払日及び見直し時期を記載する。

最終発注日,最終使用日,量産終了日及び廃棄を申し入れた日は同じとは限らない。
それぞれの資料を残し,今回合意する対象期間を明示する。
現在の締結日と過去分の対象期間を分けて書き,過去に合意があったように締結日を遡らせない。

第3 未確定の過去分を残したまま将来分を整える

過去分の金額がすぐに確定しない場合には,対象と金額について争いのない部分を先に支払い,残りを留保する方法が考えられる。
ただし,暫定的な支払いで過去の負担全体が解消したとは扱わず,残る対象,追加資料の提出日,再協議日及び担当者を記録する。

「本件に関し一切の債権債務がない」と広く書くと,確認していない型や期間まで精算したのかが争点になる。
精算の終局性を求める場合も,何を対象に合意したかを先に特定する。
将来分だけを合意するなら,過去分について何も合意していないことが分かる留保を置く。

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融資実行前の公正証書で差押えできるか―諾成的消費貸借と追加証書(AI作成)

目次

第1 契約の成立と執行証書の効力を分ける第2 書面による消費貸借は交付前にも成立する第3 分割貸付に関する行政先例第4 現在の公証実務の案内第5 分割実行では交付済み額と予定額を管理する第6 公証役場への相談前に用意する資料第7 電子公正証書でも請求の範囲を先に確認する第8 出典
第1 契約の成立と執行証書の効力を分ける

融資の前に契約を公正証書にしておけば,後日返済が滞ったときに,その証書だけで直ちに差押えができるとは限らない。書面による消費貸借契約が成立することと,その公正証書が返還請求の強制執行に使えることは,分けて確認する必要がある。

一部だけを先に貸し付け,残額は工事の進捗等に応じて交付する契約では,契約書の貸付予定総額と,公正証書作成時に実際に交付された額を混同しないことが重要である。

本記事は貸金返還請求についての公正証書を扱い,未交付額の取扱いと,実行後の証書整備を整理する。

第2 書面による消費貸借は交付前にも成立する

民法587条の2第1項は,書面でする消費貸借について,一方が金銭等の引渡しを約し,相手方が受け取った物と同種・同品質・同数量の物の返還を約することで効力を生ずると定めている。同条4項は,契約内容を記録した電磁的記録についても書面による場合と同様に扱う。

現行法上,「まだ金銭を渡していないから,書面で合意しても消費貸借契約は一切成立しない」と説明するのは正確ではない。他方,契約が成立することから,未交付の金額について直ちに貸金返還の強制執行ができるという結論が当然に導かれるわけでもない。

民事執行法22条5号は,一定額の金銭の支払等を目的とする請求について作成された公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨を陳述したものを債務名義としている。契約の成立要件と,この執行証書の要件とは,検討の対象が異なる。

第3 分割貸付に関する行政先例

法務省民事局の『公証人法関係 解説・先例集(三訂版)先例編』(平成18年3月)には,昭和32年6月6日民事甲1067号通達に係る分割貸付の照会・回答が収録されている。

照会の事案は,船舶建造資金の貸付総額1000万円のうち,最初の250万円を契約時に交付し,残りの750万円を起工・進水・竣工の各時点に分けて交付するというものであった。将来の交付予定額についても,当初の公正証書により執行できるかが問題になっている。

収録された回答は,既に金銭の授受がある部分は執行証書となり得るが,未授受の部分については,公正証書作成当時に返還請求権が現存しないとして,両者を分けた。また,後の貸付について,執行認諾を伴う追加の公正証書を作成する取扱いを示している。

ただし,この回答は昭和32年のものである。そこで用いられた消費貸借の成立に関する説明を,民法587条の2のある現行法へそのまま移してはならない。現在の契約成立と執行実務は,それぞれ現在の資料で確かめる必要がある。

第4 現在の公証実務の案内

日本公証人連合会の「金銭消費貸借」Q2は,諾成的消費貸借の公正証書について,貸金返還請求権の執行力は認められないとの実務上の見解を示し,金銭を受け取った後に公正証書を作成するよう案内している。

これは公証実務の団体が示す案内として参照すべき資料である。同案内にある裁判所の見解についての説明を,特定の最高裁判決の判示と同じものとして紹介することはしない。

実務上は,融資前の公正証書だけで実行後の返還請求まで処理できると見込まず,貸付の時期と証書の作成時期を公証役場へ伝え,金銭交付後にどの証書を整えるかをあらかじめ相談することが適切である。

第5 分割実行では交付済み額と予定額を管理する

分割貸付では,貸付予定総額,各回の予定日・予定額,各回の実際の交付日・交付額,既存の証書が扱う範囲を別々に整理するとよい。予定が変更されたときは,実際の入出金と証書の対象を照合する。

例えば,総額1000万円の契約で初回250万円だけを交付した段階と,追加の250万円を交付した段階とでは,交付済み額が異なる。これは整理のための例であり,総額の記載や執行認諾文言があるだけで,未交付額も同様に執行できることを意味しない。

振込記録や受領書は,交付の事実・日付・金額を確かめるために保管する。他方,それらを持参すれば,当初の証書の未交付部分が当然に執行証書へ変わると考えてはならない。追加証書の要否と記載内容は,実行済みの貸付と当初の証書を公証人に示して確認する。

第6 公証役場への相談前に用意する資料

相談時には,契約案又は既存の公正証書,貸付日程表,交付済み額の資料,返済条件をまとめる。貸主・借主,元本,返済期日,分割返済の各回,利息・遅延損害金及び保証の有無が,資料間で一致しているかも確かめる。

まだ交付していない金額を,既に受領した金額として記載する案は避ける。予定日と実行日を区別し,実行の変更・中止があったときに,どの記載を見直すかを確認しておく。

代理人による手続を予定する場合も,借入れの合意,公正証書の作成及び強制執行認諾について,誰のどの権限を確認する必要があるかを公証役場へ相談する。契約書・委任状・受領資料を一体で点検することが,後の食い違いを防ぐために役立つ。

第7 電子公正証書でも請求の範囲を先に確認する

電子公正証書を利用する場合にも,作成媒体と,どの請求について執行できるかという問題を分けて考える。正本に相当する書面等,執行文及び送達に関する手続を整える前提として,対象の返還請求が執行証書でカバーされているかを確認する。

裁判所の債権執行の案内は,公証人が作成した電子の債務名義について,記録事項記載書面,執行文及び送達証明に関する提出方法を示している。具体的な申立資料は,電子公正証書を債務名義として強制執行する方法を参照されたい。

和解金等の債務名義化については,裁判外の和解契約書・合意書の作り方も参考になる。ただし,貸付の交付時期が問題となる場面を,既存債務の支払合意と同一に扱わない。

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サイバー被害の公表と金融不安をあおる投稿の読み方―事実・時系列・補償・予測を分ける(AI作成)

目次

第1 数字より先に、誰が何を確認したかを読む第2 対象数と被害確認数、脅迫内容と実行済みの被害を分ける1 26,739件は何を数えた数字か2 70社超のシステムが侵害されたという意味か第3 公表の更新と出来事の順序をそろえる第4 見舞金、補償条件、被害拡大防止を別に確認する第5 被害情報から金融移行の予測へ進むときに確認すること第6 サイバー被害の統計は期間、母集団と単位をそろえる1 報告書の順位は何を観測したものか2 不正アクセス件数、不正取引件数と損失額を分ける第7 当局のリスク分析とアンケートを区別する1 リスクの指摘を危機の発生断定へ変えない2 FRB報告書の50%は危機の発生確率か3 ストレステストの22%は現在の破綻率か
第1 数字より先に、誰が何を確認したかを読む

サイバー被害のニュースに、銀行の停止、金融制度の変更、特定サービスの宣伝が結び付けられることがある。企業の被害公表に書かれた事実と、投稿者がそこから導いた予測を分けることが、判断の出発点になる。

例えば、GMOインターネットグループとGMOインターネットが公表した「お名前.com デスクトップクラウド」の不正アクセスでは、公表の更新とともに、把握された事実と説明の範囲が変わっている。
本稿は、令和8年10月の同社の公表等を例に、事実、調査中の事項、公表主体の評価と投稿者の推測を分ける読み方を整理する。
被害状況や補償手続の最新案内を網羅するものではない。

企業の公表を読む際には、①企業が調査で確認したこと、②利用者から申告を受けたこと、③攻撃者とみられる者が主張・要求していること、④調査中のこと、を別々に書き出すとよい。公表したという事実と、公表内容のすべてが第三者によって検証されたということも分けて扱う。

本稿の従前の整理に加え、令和8年10月30日時点の追補として、第12報・第14報・第16報を中心に、補償の区分、調査対象及び会社の法的対応方針を確認する。
以下の追補は会社の公表の読み方を示すもので、個別の被害や犯罪の成立を独立して認定するものではない。

令和8年10月27日の第12報は、一律5000円の見舞金、不正取引による損失の補償とは別に、流出情報の公開が確認された場合の特別見舞金を説明している。
具体的な条件と補償の区別は、お名前.com デスクトップクラウドの不正アクセスとFX損失の記事を参照されたい。

第2報のクラウド環境での悪意あるプログラムの検出と、第14報の調査中の利用者PCで痕跡が確認されていないという説明は、調査対象が異なる。
後者を全利用者PCの安全確認に広げたり、前者と矛盾するという理由だけでどちらかを虚偽と決めたりすることはできない。

第16報は、情報提供を受けて内容の確認・精査を進めていることや、攻撃・脅迫行為への刑事告訴を含む法的対応の方針を説明している。
情報提供の件数、捜査協力及び特定に役立つ情報の取得を、犯人の検挙や有罪認定と同一視しないことも必要である。

出典:GMOインターネット第2報、第12報、第14報及び第16報。
成立し得る罪と確認すべき事実は、GMOサイバー攻撃の刑事責任の記事で分けて検討する。

第2 対象数と被害確認数、脅迫内容と実行済みの被害を分ける
1 26,739件は何を数えた数字か

第3報は、影響の可能性があるサーバーを26,739件としている。その直後に、対象となり得るサーバー数であって、不正アクセスや情報取得が確認された件数ではないと説明している。したがって、この数字を漏えいが確定した利用者数や、不正取引の被害者数として扱うことはできない。

数値をメモするときは、件数だけでなく、単位、対象期間、確認段階を一緒に残す。「可能性がある」という限定を落とすと、公表の意味が変わる。

2 70社超のシステムが侵害されたという意味か

第4報には、国内外の70を超える証券会社・FX会社等に開設された利用者の取引口座に対する不正操作の継続、情報の不正公開、ランサムウェア攻撃の実行等が記載されている。これは、攻撃者とみられる者から受けた金銭要求と、要求に応じない場合の行為を説明する箇所に置かれている。

この記載だけで、70社超の証券会社・FX会社のシステム自体がすべて侵害されたことや、列挙された攻撃がすべて実行済みであることまでは示されない。取引口座への不正操作と、口座を提供する金融機関のシステムへの侵入は、区別して読む必要がある。

第3 公表の更新と出来事の順序をそろえる

10月21日の初報は、不正プログラムの設置と情報閲覧の可能性を述べる一方、その時点では個人情報漏えいや閲覧情報の悪用を確認していないとしていた。これに対し、10月24日の第4報は、サービス環境への不正アクセスと情報の外部持出しを確認したと公表している。初報だけで、その後も漏えい未確認だったと説明することはできない。

別の注意点は、報道日と取材対象の出来事の時期である。ITmediaの展示会取材記事は、10月21日から23日の展示会の初日に複数の出展企業へ話を聞き、9月下旬以降の問い合わせ増加や、経営層からの相談の増加を報じている。GMO事件の第4報が記す調査開始日は10月19日である。

9月下旬からの問い合わせ増加を、その後に公表されたGMO事件の脅迫報道だけによる変化と説明するには、根拠が足りない。取材先で観察された変化を、全国の企業や経営者全体の実態へ広げる際にも、別の裏付けが必要になる。

投稿にある「今日」「明日正午」「数週間前」は、元の投稿日と時刻、タイムゾーンが分からなければ、具体的な日時へ置き換えられない。転載や翻訳を読むときには、読む側の今日を基準に期限や出来事を判断しないことが大切である。

10月29日の第15報も、確認の段階を読む例になる。

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技能実習制度とは―仕組み・期間と育成就労への移行(AI作成)

目次

第1 技能実習制度とはどのような制度か第2 企業単独型と団体監理型は何が違うか第3 技能実習は何年間できるか第4 技能実習・特定技能・育成就労は何が違うか第5 技能実習制度はいつ育成就労に変わるか1 令和9年4月1日から新制度が始まる2 既に来日している技能実習生はどうなるか3 施行後に来日する予定の者はどうなるか第6 技能実習生は転職・転籍できるか第7 受入れ企業と実習生が次に確認すること第8 出典・関連記事1 法令・公的資料2 当ブログの関連記事
第1 技能実習制度とはどのような制度か

技能実習制度は,日本で培われた技能・技術・知識を開発途上地域等へ移転し,その地域の経済発展を担う人材の育成に寄与する制度である。単に外国人を採用するための制度として理解すると,制度の目的と実際の手続を取り違える。

技能実習法3条2項は,「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。」と定める。雇用契約を結んで仕事に従事することと,技能実習が人手不足を埋めることを目的とする制度であるかどうかは,分けて考える必要がある。

本記事は,令和8年10月26日に取得した厚生労働省,出入国在留管理庁及び外国人技能実習機構等の公表資料に基づき,現行の技能実習制度の基本と,令和9年4月1日から始まる育成就労制度との関係を整理する。受入れ企業が新制度に向けて準備する具体的な事項は,育成就労の受入れ企業の準備と経過措置で扱っている。

第2 企業単独型と団体監理型は何が違うか

技能実習の受入れ方式には,企業単独型と団体監理型がある。企業単独型は,日本の企業等が海外の現地法人等の職員を受け入れる方式である。団体監理型は,営利を目的としない法人である監理団体が受け入れに関与し,その監理を受ける企業等で技能実習を行う方式である。

確認する点企業単独型団体監理型受入れの仕組み海外の事業所等との一定の関係を前提に,日本の企業等が受け入れる監理団体による受入れと実習監理の下で,企業等が実習を行わせる実習を行わせる者企業単独型実習実施者団体監理型実習実施者在留資格の区分技能実習1号イ・2号イ・3号イ技能実習1号ロ・2号ロ・3号ロ

技能実習法2条は,実習実施者と技能実習生との雇用契約を制度の定義に位置付けている。団体監理型でも,監理団体と,実際に雇用して実習を行わせる企業等とは役割が異なる。受入れ企業は,監理団体に依頼したというだけで自社の労務管理を終えたと考えず,雇用条件と認定を受けた技能実習計画を照合することが有用である。

第3 技能実習は何年間できるか

技能実習は,1号が1年以内,2号と3号がそれぞれ2年以内という構成である。1号から3号まで進む場合の実習期間は最長5年となるが,誰でも最初から5年間の実習を認められるわけではない。

区分実習期間段階の意味技能実習1号1年以内技能等を修得する段階技能実習2号2年以内1号を修了し,技能等に習熟する段階技能実習3号2年以内2号を修了し,技能等に熟達する段階

技能実習法9条1項は,期間のほか,技能実習計画の目標・内容,前段階の試験合格に係る目標の達成,実施体制,報酬等を認定基準としている。3号では実習実施者の高い水準の能力等も問題となるため,期間だけを見て移行できると判断してはならない。

さらに,育成就労制度の開始後は,技能実習3号への移行に経過措置上の制限がある。現行制度の一般的な「最長5年」という説明だけで,令和9年4月1日以降も全員が3号へ進めると理解しないことが重要である。

第4 技能実習・特定技能・育成就労は何が違うか

技能実習,特定技能及び育成就労は,目的と受入れ時点の技能の考え方が異なる。とりわけ,技能実習から特定技能への移行と,今後の育成就労から特定技能への移行を,同じ手続・同じ試験免除として扱わないようにする必要がある。

制度主な目的・位置付け確認する事項技能実習技能等の移転を通じた国際協力認定された実習計画,1号から3号への移行,経過措置特定技能一定の専門性・技能を有する人材を,人手不足分野で受け入れる分野・業務,技能・日本語能力の要件,受入れ機関の基準育成就労人手不足分野で,原則3年間の就労を通じて特定技能1号水準の人材を育成・確保する育成就労計画,対象分野,技能・日本語の育成,転籍の条件

入管庁の育成就労制度Q&Aは,育成就労から特定技能1号へ移行する場合について,技能に係る試験と,日本語能力A2.2相当以上の試験への合格が要件となると説明している。これに対し,技能実習2号を良好に修了した者の移行には,試験免除の取扱いがある。従事する業務と実習した職種・作業の関連性など,具体的な適用条件は別に確認する必要がある。

特定技能の審査と技能実習からの移行は,特定技能ビザの審査基準を参照されたい。

第5 技能実習制度はいつ育成就労に変わるか
1 令和9年4月1日から新制度が始まる

育成就労制度の運用開始日は令和9年4月1日である。制度の開始に向けた申請受付と,実際に育成就労外国人として受け入れることができる日は同一ではない。

「技能実習制度の廃止」という言葉から,その日に全ての技能実習が終わり,全員の在留資格が自動的に変わると理解するのは正確でない。既存の技能実習には経過措置がある。

2 既に来日している技能実習生はどうなるか

入管庁Q&Aは,令和9年4月1日に既に来日している技能実習生について,引き続き認定計画に基づいて技能実習を続けることができると説明している。1号から2号への移行についても,技能実習計画の認定を受けることが前提となる。

他方,3号への移行については,施行日時点に技能実習2号で在留している者のうち,同日の時点で技能実習2号の活動を1年以上行っていることが必要とされる。経過措置の条件だけで通常の移行要件を全て満たすわけではないため,個人ごとの計画,在留資格及び実習期間を確認する必要がある。

3 施行後に来日する予定の者はどうなるか

入管庁Q&Aは,施行後も技能実習を継続できる者として,令和9年4月1日時点で既に来日している者のほか,同年3月31日までに技能実習計画の認定申請がなされ,原則として同年6月30日までに技能実習を開始する者を説明している。

申請日,認定日,入国日及び実習開始日はそれぞれ異なる。新たな受入れを計画するときは,どの日付の条件が問題となるかを区別し,公式の経過措置資料と照合することが必要である。具体的な準備時期は,育成就労の受入れ企業の準備と経過措置で整理している。

第6 技能実習生は転職・転籍できるか

(続きを読む...)技能実習制度とは―仕組み・期間と育成就労への移行(AI作成)

会社分割で債務を取り残されたら―残存債権者の直接請求と詐害行為取消し(AI作成)

目次

第1 最初に確認するのは,誰に債務が残ったか第2 残存債権者が承継会社へ直接請求できる場合1 吸収分割では承継会社が知らなかった場合にも注意する2 新設分割についても直接請求の規定がある3 適用除外と債権者保護手続を確認する第3 直接請求には期限と倒産時の制約がある第4 最高裁平成24年10月12日判決が認めたこと第5 株式を受け取ったから回収に影響がないとは限らない第6 相談前に整理しておきたい資料第7 関連資料

取引先の事業や不動産が別会社に移ったのに,未払代金や保証債務だけが旧会社に残っている。この場合,事業を続けている会社へ当然に全額請求できるとは限りません。しかし,債務を承継しなかったという説明だけで,回収の検討が終わるわけでもありません。

会社分割では,承継する権利義務を定めた契約・計画と,債権者を保護する規定を確認します。本記事では,事業を受ける側が株式会社である場合を中心に,残存債権者の直接請求と,最高裁判決が認めた詐害行為取消しの違いを整理します。

第1 最初に確認するのは,誰に債務が残ったか

吸収分割承継株式会社は,効力発生日に吸収分割契約の定めに従って権利義務を承継します。新設分割設立株式会社は,その成立の日に新設分割計画の定めに従って権利義務を承継します(会社法759条1項・764条1項)。会社の名称や営業場所が似ているという事情だけで,個々の債務の承継を決めないことが出発点です。

確認する資料は,元の契約書・請求書・保証契約書,分割前後の会社の登記事項,吸収分割契約又は新設分割計画,承継する権利義務を特定する資料です。資料を並べ,債権の発生原因,債務者,未払額,分割の効力発生日を一つずつ対応させます。

事業譲渡は会社分割と異なる取引です。事業譲渡で譲受会社へ請求する問題は,事業譲渡における残存債権者の請求を参照してください。

第2 残存債権者が承継会社へ直接請求できる場合
1 吸収分割では承継会社が知らなかった場合にも注意する

会社法759条4項は,吸収分割会社が残存債権者を害することを知って吸収分割をした場合に,残存債権者が承継株式会社へ債務の履行を請求できる旨を定めています。請求できる責任の範囲には,承継した財産の価額という限度があります。

ただし,承継株式会社が分割の効力発生時に残存債権者を害することを知らなかったときは,同項による責任は生じません。旧会社の認識だけを調べて,承継会社側の認識を検討しないのは不十分です。

2 新設分割についても直接請求の規定がある

会社法764条4項は,新設分割会社が残存債権者を害することを知って新設分割をした場合に,新設分割設立株式会社への履行請求を認めています。ここでも,承継した財産の価額が責任の限度です。759条4項ただし書のような承継会社の善意による除外は,同条項には置かれていません。

両制度とも,単に分割後の支払が滞ったというだけで要件を満たすとは判断できません。分割前後に旧会社へ残った財産・債務,移った財産とその評価,分割の対価,分割時の関係者の認識を具体的に調べます。

3 適用除外と債権者保護手続を確認する

759条5項・764条5項には,それぞれ適用除外があります。分割契約・計画に,分割の効力発生日・新会社成立の日に承継会社の株式を対価とする一定の自己株式取得又は株式の配当を行う定めがある場合は,4項の直接請求をそのまま適用できません(758条8号・763条1項12号)。

また,異議を述べることができる債権者が各別の催告を受けなかった場合には,759条2項・3項,764条2項・3項などの検討も必要です。「催告がなかった」という一点から,全ての残存債権者が同じ請求をできると結論付けず,異議を述べられる立場か,公告・催告がどのように行われたかを分けて確認します。

根拠条文は,e-Gov掲載の会社法の758条・759条・763条・764条・789条・810条です。

第3 直接請求には期限と倒産時の制約がある

759条4項・764条4項の責任については,分割会社が残存債権者を害することを知って分割したことを知った時から2年以内に,請求又は請求の予告をしない残存債権者に対する責任が消滅します。吸収分割では効力発生日から,新設分割では設立株式会社の成立の日から10年を経過した場合も同様です(各条6項)。

「分割を知った日」と「害することを知って分割したことを知った日」を,説明を簡単にするために同じものへ置き換えないことが大切です。通知,登記,決算書,説明を受けたメールなどを日付順に整理し,どの時点で何を知ったのかを確認します。

さらに,分割会社について破産・再生・更生手続開始の決定があったときは,残存債権者は4項による直接請求権を行使できません(各条7項)。これは全ての債権や倒産手続内の回収可能性が消えるという説明ではありません。手続開始後は,その手続で取り扱う債権と回収方法を確認する必要があります。

第4 最高裁平成24年10月12日判決が認めたこと

最高裁第二小法廷平成24年10月12日判決・平成22年(受)第622号は,新設分割で不動産を別会社へ移し,保証債務を旧会社に残した事案です。旧会社は,分割後には新会社等の株式以外の資産を保有しない状態になっていました。

最高裁は,債務が新会社に承継されず,その新設分割に異議を述べることもできない旧会社の債権者が,民法424条により詐害行為取消権を行使できると判断しました。否定できるのは,債権保全に必要な限度での新会社への権利承継の効力です。新会社の設立そのものを無効にするという判断ではありません。

この判決は,現在の会社法759条4項・764条4項の直接請求制度を適用した判決ではありません。当時の法律に基づく判決の説明と,現在の直接請求の説明を分けて読む必要があります。現行法上の取消しの要件や期間は,個々の分割と債権について改めて検討します。

第5 株式を受け取ったから回収に影響がないとは限らない

同判決の須藤正彦裁判官の補足意見は,分割の対価が相当であることと,残存債権の引当てとなる財産が維持されることを区別しています。分割後の株式価値という見方だけでは,どの債権者がどの財産から回収できるのかという変化を見落とします。

実務上の検討では,分割前後の貸借対照表の差額だけで判断せず,担保の付いた不動産の残余価値,手元資金,回収できる売掛金,取得した株式の換価可能性を別々に確認する方法が考えられます。これは同補足意見を踏まえた資料整理の提案であり,全ての事件で同じ評価額になるという趣旨ではありません。

第6 相談前に整理しておきたい資料

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育成就労制度の転籍はいつできるか―本人意向・やむを得ない事情と企業の対応(AI作成)

目次

第1 育成就労では転籍できるが,要件と手続がある第2 やむを得ない事情と本人意向の転籍を分ける1 暴力・ハラスメントや事業の終了などがある場合2 本人の希望を理由とする場合第3 転籍制限期間は分野と計画を確認する第4 転籍希望は書面で申し出る第5 会社の受付と転籍先の認定は別の手続である第6 初期費用の補填と本人への違約金を混同しない第7 よくある質問1 1年働けば,別の業種へ自由に移れるか2 ハラスメントを受けても,転籍制限期間まで待つ必要があるか3 民間の紹介会社に転籍先を探してもらえるか第8 関連記事と出典
第1 育成就労では転籍できるが,要件と手続がある

育成就労制度では,やむを得ない事情による転籍に加え,一定の要件を満たした場合の本人意向による転籍が認められる。
「3年間は会社を変えられない」という説明も,「1年働けば自由に転職できる」という説明も正確ではない。
本人の事情,転籍制限期間,技能・日本語能力,転籍先の基準及び新たな育成就労計画の認定を分けて確認する必要がある。

制度の運用開始は令和9年4月1日である。
本記事は,公表されている育成就労制度運用要領の令和8年8月5日改正版に基づき,通常の監理型育成就労における転籍を説明する。
単独型,労働者派遣等及び密接関係法人による共同実施には別途確認すべき取扱いがあり,以下の説明をそのまま当てはめない。

受入れ全体の準備と技能実習の経過措置は,令和9年4月開始の育成就労―受入れ企業の準備,施行日前申請と技能実習の経過措置を参照されたい。

第2 やむを得ない事情と本人意向の転籍を分ける
1 暴力・ハラスメントや事業の終了などがある場合

運用要領は,暴行・暴言・各種ハラスメント,倒産・廃業等による継続困難,重大悪質な法令違反や契約違反等を,やむを得ない事情を認め得る場面として説明している。
個々の事情と必要な事実確認は同じではなく,賃金不払いなどの問題があれば全て同じ手順で処理できるという意味ではない。

やむを得ない事情が認められる場合は,本人意向の転籍に固有の転籍制限期間,技能・日本語能力及び転籍先の追加基準を満たす必要はない。
一方,新たな育成就労計画の認定等,共通する基準まで不要になるわけではない。
根拠は,運用要領第4章4―190頁~4―197頁である。

2 本人の希望を理由とする場合

やむを得ない事情による取扱いに当たらない本人意向の転籍では,次の事項を併せて確認する必要がある。
就労期間だけ,試験合格だけ,又は転籍先との雇用契約だけで要件がそろうわけではない。

確認事項確認する内容業務区分転籍前後の業務区分が同一であること転籍制限期間分野別運用方針と現在の育成就労計画に定める期間技能・日本語能力等分野別運用方針で定める試験等の要件と,育成就労期間の延長中でないこと転籍先受入れ実績,優良要件,本人意向転籍者の割合等の基準紹介・情報提供関与できる機関と,民間職業紹介事業者等の関与制限初期費用転籍元に対する補填の要否と算定方法新たな計画転籍先による育成就労計画の作成・認定

この表は確認項目の概要である。
転籍先の人数割合には,指定区域内から指定区域外への転籍に関する基準や計算から除く者等があるため,総人数だけで判断しない。
詳しくは,運用要領第4章4―197頁~4―205頁を確認する必要がある。

第3 転籍制限期間は分野と計画を確認する

本人意向の転籍に関する転籍制限期間は,1年以上2年以下の範囲で分野ごとに定められる。
1年を超える期間が定められた分野でも,受入れ企業が1年とする旨を育成就労計画で定めている場合があるため,分野名だけで決め付けない。
また,一度転籍した後の再転籍では,直近の育成就労実施者の下での期間を改めて確認する必要がある。

申出や転籍先探しを始める時点と,新たな計画に基づいて働き始める時点は区別する。
運用要領は,申出の時点で転籍制限期間を経過していなくても,転籍先を探す等の支援が必要となることを説明している。
期間未経過を理由に相談や申出の受付自体を一律に拒む運用は採らず,監理支援機関と要件の確認時点及び開始予定日を整理することが有用である。

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在留期間の更新申請中も働けるか―特例期間と会社の確認事項(AI作成)

目次

第1 「期限が過ぎた」「申請中」だけでは判断できない第2 特例期間が続くのは,二つの時点の早い方まで第3 続けられるのは,従前の在留資格で認められる活動第4 会社は受付と処分の両方を確認する第5 在留資格の取消しとは別の問題第6 根拠資料
第1 「期限が過ぎた」「申請中」だけでは判断できない

在留期間の満了日を過ぎても,一定の要件を満たす更新・変更申請の審査中には,従前の在留資格で在留できる「特例期間」がある。
ただし,申請すれば無期限に働けるわけではなく,申請先の新しい資格での就労が先に許されるわけでもない。

この記事は,令和8年10月27日時点の出入国在留管理庁の案内に基づき,在留カードを所持し,通常の就労資格を持つ従業員について,特例期間と会社の確認事項を整理する。

確認の際には,①期限内に更新・変更を申請して審査中である場合,②申請をしないまま在留期間を経過した場合,③永住者の在留カードの有効期間が満了する場合を分ける。
②に特例期間は適用されず,③は在留期間の更新とは異なる手続である。

更新を忘れた場合の資料整理と相談は,在留期限が切れた・ビザ更新を忘れたら―特例期間との違いと初動対応(AI作成)を参照されたい。
永住者と定住者の違いは,「永住者」と「定住者」の在留資格――許可要件,在留期間の更新及び相互の関係(AI作成)で説明している。

第2 特例期間が続くのは,二つの時点の早い方まで

もとの在留期間が満了するまでに在留資格変更許可申請又は在留期間更新許可申請を行い,満了日までに処分がされない場合には,原則として,次のいずれか早い時点まで,従前の在留資格をもって在留することができる。

- 申請に対する処分がされる時。
- もとの在留期間の満了の日から2か月を経過する日が終了する時。

ただし,在留期間が30日以下の場合は,入管法20条6項及び21条4項によるこの特例の対象から除かれる。

例えば,満了日の1か月後に処分がされた場合,処分後も「2か月経過までは審査中扱い」として働けるわけではない。
反対に,2か月を経過しても処分がされていないことだけを理由に,この特例がさらに延びるわけではない。

不許可後の在留・就労の取扱いは,実際の処分内容や新たな在留資格等の有無を確認する必要がある。
審査中の特例期間の説明を,不許可後の就労許可に置き換えないことが必要である。

第3 続けられるのは,従前の在留資格で認められる活動

特例期間は,従前の在留資格で在留するための仕組みである。
会社が確認すべきなのは,「申請をしたか」だけでなく,「いま行わせる仕事が,従前の資格で認められるか」である。

例えば,現在の就労資格で認められる業務を続けながら更新審査を待つ場合と,別の資格への変更許可を待ちながら新しい種類の業務を始める場合は,結論が異なる。
後者について,申請中であることだけを理由に新業務へ配置することはできない。

転職時の確認方法と就労資格証明書については,外国人が転職するときの手続を参照されたい。

第4 会社は受付と処分の両方を確認する

窓口で申請した場合には,在留カード裏面の申請中の記載などが確認資料になる。
一方,オンライン申請では,在留カード裏面に申請中である旨は記載されない。
出入国在留管理庁の案内に沿って,申請受付番号等が記載された受付完了メールと在留カードを併せて確認する必要がある。

会社の管理では,次の事項を記録する方法が考えられる。
これは確認漏れを防ぐための提案である。

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外国人が転職するときの手続―在留資格変更・就労資格証明書・届出の違い(AI作成)

目次

第1 転職では「仕事内容」と「手続の目的」を分けて確認する第2 同じ在留資格の範囲か,変更許可が必要か第3 就労資格証明書は任意の確認手段第4 本人の届出と会社の届出を混同しない第5 採用担当者の確認記録第6 根拠資料
第1 転職では「仕事内容」と「手続の目的」を分けて確認する

外国人を中途採用するときは,在留カードの有効期限だけでなく,採用後の仕事が現在の在留資格で認められる活動に当たるかを確認する必要がある。
転職したから必ず在留資格を変更するわけでも,同じ職種名だから必ず手続不要になるわけでもない。

この記事は,令和8年10月27日時点の出入国在留管理庁の案内に基づき,主に「技術・人文知識・国際業務」などの就労資格で働く人の転職について整理する。
「特定技能」など受入れ機関との関係が許可内容に組み込まれる資格には,別の確認が必要である。

手続確認する問題注意点在留資格変更許可申請新しい仕事に別の在留資格が必要か許可申請をしただけで,新しい活動ができるわけではない在留期間更新許可申請現在の資格のまま在留期間を延ばすか転職による所属機関の届出とは別である就労資格証明書の交付申請新しい仕事が現在の資格で認められる活動か新たな就労許可を得る手続ではない所属機関に関する届出契約の終了・新たな契約等の変更を知らせるか本人の届出と,会社の外国人雇用状況の届出を区別する
第2 同じ在留資格の範囲か,変更許可が必要か

「技術・人文知識・国際業務」などでは,新しい会社で行う活動が現在の在留資格の範囲に入っているかが出発点である。
会社が変わったという事実だけでなく,具体的な担当業務,契約内容,求められる知識・技能などを確認する。

出入国在留管理庁の在留審査Q&Aは,在留期間が間もなく満了する人について,新しい活動が従来の資格で認められる活動なら更新許可申請,認められない活動なら変更許可申請をするよう案内している。
変更が必要な場合には,許可前に新しい活動を始めないことが重要である。

一方,「特定技能」では,受入れ機関が変わる場合に在留資格変更許可申請が必要と案内されている。
在留カードに同じ資格名が書かれる場合でも,「資格名が変わらないから届出だけでよい」とは判断できない。
詳細は特定技能ビザの審査基準を参照されたい。

第3 就労資格証明書は任意の確認手段

就労資格証明書は,外国人が行うことのできる収入を伴う事業の運営又は報酬を受ける活動を証明する文書である。
証明書そのものが,新しい仕事を許可するわけではない。

出入国在留管理庁は,転職後の活動が現在の在留資格に該当するかを確認するために,交付申請ができると案内している。
仕事内容と在留資格の対応が分かりにくい場合の確認方法になる。

ただし,取得は義務ではない。
入管法19条の2第2項は,就労可能であることが明らかな場合に,証明書を提示・提出しないことを理由として,就労に関して不利益な取扱いをすることを禁じている。
「転職者は全員,証明書がなければ採用不可」とする運用には注意が必要である。

第4 本人の届出と会社の届出を混同しない

対象となる中長期在留者は,所属機関との契約の終了や新たな契約の締結などについて,原則として事由が生じた日から14日以内に届出をする必要がある。
対象となる資格と届出事由は,出入国在留管理庁の手続案内で確認する必要がある。

同庁の所属機関等に関するQ&Aでは,転職に伴って在留期間更新許可を受けた場合には届出が必要である一方,転職に伴って在留資格変更許可を受けた場合には,その転職についての届出は不要とされている。
「入管へ何か申請したから届出も済んだ」と一括して扱わず,更新と変更を区別する。

これとは別に,会社には外国人雇用状況の届出がある。
「外交」「公用」の在留資格を持つ人及び特別永住者は対象から除かれる。

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家族滞在の外国人はパチンコ店で働けるか―令和8年10月開始の個別許可(AI作成)

目次

第1 家族滞在の人は,個別許可を受ければ働ける場合がある第2 対象となる店舗と許可の条件第3 掛け持ちの勤務時間も合算する第4 申請書類と就労開始までの流れ第5 採用時の在留確認と雇用管理第6 根拠資料
第1 家族滞在の人は,個別許可を受ければ働ける場合がある

令和8年10月1日から,在留資格「家族滞在」で在留する人は,資格外活動の個別許可を受けることで,対象となる遊技場営業店舗(ぱちんこ店等)で働ける取扱いとなった。

従来からある週28時間以内の資格外活動の包括許可だけで,当然にパチンコ店で働けるようになったわけではない。
また,この取扱いの対象には,「留学」の人や,扶養を受ける配偶者・子としての日常的活動等を指定された「特定活動」の人は含まれない。

この記事は,令和8年10月27日時点の出入国在留管理庁・厚生労働省の案内に基づき,対象と必要な確認を整理する。

第2 対象となる店舗と許可の条件

対象となるのは,風営法2条1項4号・5号の営業について,同法3条1項の許可を受けている活動先である。
「風俗営業の店なら,家族滞在の人を一律に雇える」という制度ではない。

出入国在留管理庁は,資格外活動許可の一般原則のうち(1),(2),(5),(6)の要件を満たすことを求めている。
現在の在留資格の活動を行っており,その遂行を妨げないこと,収容令書の発付や意見聴取通知書の送達・通知を受けていないこと,素行が不良でないことである。

予定する活動が法令違反に当たらないことなどに加え,勤務先の誓約書も必要である。
勤務先の誓約事項には,次の内容がある。

- 外国人雇用状況の届出など,外国人を雇用する事業主に義務付けられた法令を守ること。
- 雇用した外国人に対し,特定在留カードの取得を推奨すること。
- 複数の資格外活動をする人について,すべての資格外活動の合計が週28時間以内であることを定期的に確認すること。

特定在留カードについては,「取得を推奨する」という誓約事項と,申請者本人が既に取得していなければならないという条件を混同しないことが必要である。

第3 掛け持ちの勤務時間も合算する

週28時間という上限は,パチンコ店1店舗ごとに使える枠ではない。
包括許可・個別許可を問わず,すべての資格外活動の活動時間を合計する。

例えば,コンビニで週15時間,対象店舗で週13時間なら,単純な合計は週28時間である。
コンビニで週18時間,対象店舗で週14時間なら,合計は週32時間となり,上限を超える。
これは時間合算の説明例であり,前者について他の許可要件まで満たすと判断したものではない。

勤務先は,自社のシフトだけで判断せず,本人が行っている他の資格外活動とその時間も確認する必要がある。
出入国在留管理庁の案内は,ほかの店舗分の個別許可などを受けることも可能としつつ,合計時間の条件を維持している。

第4 申請書類と就労開始までの流れ

出入国在留管理庁が案内する書類は,次のとおりである。
様式は同庁の案内ページから取得できる。

- 資格外活動許可申請書。
- 活動内容・活動時間・報酬等を説明する文書。

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量産終了後の補修部品はいつまで供給する必要があるか―供給期間・価格・金型の整理(AI作成)

目次

第1 供給期間だけを決めても問題は残る第2 家電の補修用性能部品の保有期間との違い1 表示規約に品目ごとの保有期間がある2 部品供給契約の終期と同じとは限らない第3 供給終了までの条件を具体化する1 起算点と終期2 数量と最終注文3 少量生産の価格第4 金型・治具の保管と処分を対応させる第5 供給が困難になった場合と取引終了合意第6 根拠資料と関連記事
第1 供給期間だけを決めても問題は残る

量産が終わった製品について,補修用の部品をいつまで供給するかが問題になることがある。完成品メーカーの補修対応と,部品メーカーが負う契約上の供給条件を分けて確認する必要がある。

「補修部品を必要な期間供給する」とだけ定めると,終期,数量,少量生産の単価,材料の入手難及び金型の保管費が曖昧になる。供給期間の長短だけでなく,供給できる体制と費用を対応させることが重要である。

第2 家電の補修用性能部品の保有期間との違い
1 表示規約に品目ごとの保有期間がある

全国家庭電気製品公正取引協議会が公表する製造業表示規約の別表3には,補修用性能部品の表示対象品目と保有期間が示されている。例えば,電気冷蔵庫は9年,電気洗濯機は6年,カラーテレビは8年であり,表示例は製造打切後の年数を基準としている。

資料の名称,対象品目及び起算点を確認することが必要であり,すべての製品について同じ年数が定められているわけではない。

2 部品供給契約の終期と同じとは限らない

この資料は家庭電気製品の表示に関する規約のものである。これだけを根拠に,あらゆる部品メーカーが,あらゆる製品について同じ年数だけ,従来の価格で部品を製造・供給する義務を負うとはいえない。

完成品側の保有・補修方針を踏まえつつ,部品供給契約では,対象品番,供給形態,数量及び終期を具体的に取り決める必要がある。製造を続ける方法と,必要数量を最終生産して在庫として保有する方法も区別して検討する。

第3 供給終了までの条件を具体化する
1 起算点と終期

量産終了日,完成品の製造打切日,最終納入日及び最終販売日は同じ日とは限らない。どの日を起算点にするか,誰が終了を通知するか,製造再開・追加販売で期間を延ばすのかを明記することが有用である。

例えば「2027年3月31日を量産終了日とし,2034年3月31日までの注文を対象とする」と合意する場合でも,最終注文品の納入日をいつまでとするかは別に定める必要がある。これは条件を具体化するための仮例であり,法定の供給期間を示すものではない。

2 数量と最終注文

年間の見込数量,最低発注数量,発注の予告期間,製造ロット及び最終注文日を確認する。数量の予測は確定注文と区別し,在庫を先に作る場合には,誰が発注し,売れ残りをどう処理するかを合意する。

最終注文の通知方法と回答期限を定め,回答がないことを直ちに在庫の全量購入への同意と扱わないようにすることも考えられる。余剰在庫・材料・仕掛品の引取りは,対象と金額を確認して合意する。

3 少量生産の価格

量産終了後も量産時の単価を維持できるかは,数量,段取り,検査,材料の最低購入単位,設備維持及び保管等の条件で変わる。

単価だけで処理せず,製品代,段取り費,保管費及び必要な更新費を分ける方法もある。価格の見直し時期,根拠資料,合意までの発注・供給の扱いを取り決めておけば,価格交渉と欠品への対応を整理しやすい。

第4 金型・治具の保管と処分を対応させる

部品を供給する義務を残したまま,その製造に必要な金型を直ちに返却・廃棄する合意になっていないかを確認する。反対に,供給終了後も処分の承認を得られず,保管だけが続く状態にも注意したい。

公正取引委員会の取適法Q&AのQ119は,長期間発注がない金型等の無償保管について説明している。保管料の請求をしていないことだけで問題がなくなるという扱いではなく,所有名義だけでなく実質的な管理・支配も確認する必要がある。

部品供給の期間があるから金型等の保管はすべて無償でよい,という理由にはならない。供給の必要性と,保管・維持の費用及び処分条件をそれぞれ検討する。

実務上は,部品ごとの一覧に,供給終期,最終注文日,最終納入日,在庫の引取日,金型の返却・廃棄承認日及び実施日を並べる方法が考えられる。異なる部署が管理している日付も照合しておくことが有用である。

保管費を補修部品の単価への上乗せだけで回収する場合は,発注のない年や発注量が少ない年にも,実際の保管・維持費が賄えるかを確認する。
別建ての保管料を定める場合は,適用開始日,料金に含む作業,回収・廃棄までの費用及び過去分の精算範囲を合意する。
供給終期だけで費用負担が自動的に確定したとは扱わない。
覚書の条項例は,金型保管料の覚書の作り方―過去分の精算と将来の保管条件を参照されたい。

(続きを読む...)量産終了後の補修部品はいつまで供給する必要があるか―供給期間・価格・金型の整理(AI作成)

支給材の不良で加工し直した費用は誰が負担するか―民法636条と契約実務(AI作成)

目次

第1 材料を交換すれば加工費の問題も解決するか第2 民法636条が定めていること1 注文者の材料・指図に起因する不適合2 不適当だと知って告げなかった場合3 加工し直した費用の全額請求まで当然に決まるわけではない第3 費用ごとに整理する第4 支給材条項で確認する事項1 受入検査の内容と限界2 加工途中で不良が分かった場合3 精算条件の記載例第5 代金から一方的に差し引く前に第6 根拠資料と関連記事
第1 材料を交換すれば加工費の問題も解決するか

発注者から支給された材料を加工したところ,材料の不良が原因で完成品を使えなくなった。代替材料は支給されたが,加工済みの費用,選別費,手直し費,廃棄費及び納期の遅れをどう扱うかが残る。このような場合には,材料そのものと,加工等により生じた費用を分けて整理する必要がある。

本記事は,注文者が材料を供した請負についての民法636条を出発点に,支給材の受入れから不良発見後の精算までの確認事項を説明する。すべての製造取引が請負になるわけではなく,売買その他の契約との区別も必要である。

第2 民法636条が定めていること
1 注文者の材料・指図に起因する不適合

民法636条は,請負人が,注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって,種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を引き渡した場合について,注文者による追完,報酬減額,損害賠償及び解除の制限を定めている。

重要なのは,単に支給材を使ったことではなく,問題となる不適合が,その材料の性質又は指図によって生じたかという点である。支給材を使っていても,加工方法や保管方法の問題が原因であれば,同じ結論になるとは限らない。

2 不適当だと知って告げなかった場合

同条ただし書は,請負人が材料又は指図の不適当であることを知りながら注文者に告げなかった場合を例外としている。

そのため,不良を発見した時期,知っていた内容,発注者への連絡及びその後の指示を記録する必要がある。「支給材だから受注者は何も確認しなくてよい」という意味ではない。一方,同条の「知りながら」という要件を,契約上の検査義務の検討をせずに,あらゆる潜在不良を発見すべきだったという義務へ置き換えるべきでもない。

3 加工し直した費用の全額請求まで当然に決まるわけではない

同条は,注文者の請負人に対する権利行使を制限する規定である。支給材に不良があれば,受注者が支出したすべての費用を当然に発注者へ請求できると直接定めた規定ではない。

報酬の支払,追加加工費,材料不良に関する契約違反及び損害賠償については,契約内容,原因,必要な対応及び費用の根拠を別に検討する。損害賠償を求める場合には,民法415条・416条の要件や範囲も問題になる。

第3 費用ごとに整理する

費用を一括して「不良対応費」とすると,原因や合意との関係が分かりにくくなる。次のように分けて記録することが考えられる。

- 不良発見までに実施した加工の数量,工程,工数及び既発生費用
- 不良品と使用可能品を分けるための検査・選別費
- 再加工,手直し及び再検査の費用
- 代替材料の手配,運送及び保管の費用
- 不良材,仕掛品及び完成品の返却・廃棄費
- 生産計画の変更及び納期変更に関する対応費

受注者側で判断して支出した費用と,発注者が依頼・承認した費用も区別する。緊急時の対応を妨げないようにしつつ,対応方法と見積額を確認できる連絡手順を設けることが有用である。

第4 支給材条項で確認する事項
1 受入検査の内容と限界

誰がどの検査を行うか,検査に必要な仕様・品質証明を誰が提供するか,不良を発見した場合の通知先及び加工を止める判断を定める。

通常の受入検査で確認できる外観・数量と,破壊試験等をしなければ分からない性質を区別する。受入時に異議を述べなかったことが,潜在的な材料不良の責任まで引き受ける合意になるかも,条項の文言に即して確認する必要がある。

2 加工途中で不良が分かった場合

疑わしい材料・仕掛品を識別し,対象ロット,工程,現物及び試験結果を保存する。追加加工を続けるか,選別や再加工を行うかについて,指示を記録する。

納期に影響する場合には,不良通知と同時に,代替材の到着予定,作業再開に必要な日数及び新しい納期を協議する。従来の納期を据え置いたまま,遅延の扱いだけが残る状態を避けたい。

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特採品で不具合・事故が起きたら誰が責任を負うか―検査不合格品の受入条件(AI作成)

目次

第1 特採の承認だけで責任の範囲は決まらない第2 特採品で分けて確認する3つの関係1 発注者と受注者の契約上の関係2 完成品の利用者その他の第三者との関係3 事故後の当事者間の費用精算第3 承認書に残しておきたい事項第4 特採に伴う減額は別に検討する第5 不具合が発生したときの進め方第6 根拠資料と関連記事
第1 特採の承認だけで責任の範囲は決まらない

特採とは,本記事では,通常の検査基準には合格しない製品について,対象や条件を定めて例外的に受け入れる取扱いをいう。社内での呼び方だけでなく,実際に何を例外的に受け入れたかを確認する。

「特採で受け入れたのだから,後の不具合はすべて発注者の責任である」「不合格品なのだから,承認後も受注者がすべて負担する」と一律に決めることは適切ではない。何を不合格とし,どの範囲で受入れを承認したか,契約と実際の記録を確認する必要がある。

例えば,塗装の色差だけを承認した場合と,強度の不足を認識して用途を限定した場合では,承認対象も必要な安全確認も異なる。対象ロット,逸脱した仕様及び使用条件を曖昧にしないことが出発点となる。

第2 特採品で分けて確認する3つの関係
1 発注者と受注者の契約上の関係

まず,承認した逸脱について契約内容を変更したのか,仕様は維持したまま一部の請求を行わないと合意したのか,選別・手直しを条件に受け入れただけなのかを確認する。これらは同じ処理ではない。

承認書に「使用可」とだけ記載されている場合には,承認の対象が生産ラインへの投入だけなのか,最終製品での使用や出荷まで含むのかも問題になる。品質部門の承認と,価格変更・責任分担について合意する権限も区別しておく必要がある。

2 完成品の利用者その他の第三者との関係

発注者・受注者間で責任分担を決めても,その合意だけで第三者の権利を処分できるわけではない。

製造物責任法は,製造物の欠陥により生命,身体又は他の財産に生じた損害について,法律所定の製造業者等の責任を定めている。被害が当該製造物だけにとどまる場合は,同法3条の責任の対象から除かれる。契約責任等の検討とは分ける必要がある。

部品メーカー,完成品メーカー,輸入者又は表示をした事業者が同法上のどの立場になるかも,実際の製造・輸入・表示等に即して確認する。特採承認書に「発注者が一切責任を負う」と書くだけで,この検討を省略することはできない。

3 事故後の当事者間の費用精算

第三者への対応と,発注者・受注者間で最終的にどの費用を負担するかは,別に整理する。

事故調査,選別,回収,代替品,修理,出張及び廃棄等のどの費用が発生したかを記録し,原因との関係,契約上の合意及び対応を決めた経緯を確認する。「特採品に関する費用」という名目だけで,すべてを一方に請求する扱いは避けるべきである。

第3 承認書に残しておきたい事項

承認書は,後日の責任争いだけでなく,現場で誤った製品を使わないための記録でもある。少なくとも次の事項を対応させることを検討されたい。

- 品名,品番,図面の版,ロット及び数量
- 適合しなかった基準と,実測値・写真・試験結果
- 承認する逸脱の範囲及び承認しない事項
- 使用できる用途・条件・期間と,出荷前に必要な確認
- 選別・手直しの内容,担当者,費用及び完了確認
- 単価・数量・納期の変更の有無
- 保証や事故対応について残る義務と,別途協議する事項
- 申請者,技術・品質面の承認者及び契約条件の合意者

承認の対象を「今回のロットの外観上の色差に限る」と具体化すれば,別の強度不足や将来のロットまで承認したかという争いを減らしやすい。ただし,この記載例だけで安全性を判断できるわけではなく,必要な技術的評価は別に行う。

第4 特採に伴う減額は別に検討する

特採を理由に値引きする場合には,不合格となった原因,受注者の責任,合意内容及び減額の根拠を確認する。特採承認書に定率の値引きを書いたというだけで,当然に適法になるものではない。

取適法の適用がある取引では,公正取引委員会の運用基準に従い,減額禁止との関係を検討する必要がある。同委員会のQ&Aには,事前の合意があっても,中小受託事業者に責任がない減額は問題になることが示されている。

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仕入価格を公表されたら止められるか―営業秘密と秘密保持契約(AI作成)

目次

第1 仕入価格の公表では何を確認するか第2 大正製薬とダイコクの事件で判断されたこと1 対象となった価格と裁判の結論2 適法な秘密保持の合意まで否定していない第3 営業秘密の問題と契約違反の問題1 不正競争防止法の要件を確認する2 契約上の秘密保持義務は別に検討する第4 価格公表が判明したときの証拠と対応第5 契約段階で価格情報を守るための工夫1 守る価格情報を具体化する2 表示と運用を一致させる第6 関連資料・関連記事
第1 仕入価格の公表では何を確認するか

取引先が自社からの仕入価格を公表した場合,価格が非公表だったという事情だけで,直ちに差止めや損害賠償が認められるとは限らない。公表された情報の内容,取得の経緯,秘密保持の合意及び公表の態様を分けて検討する必要がある。

例えば,双方が交渉して決めた契約価格と,交渉のために渡した原価計算表・利益率・他社向け価格表では,情報の性質も取得経緯も異なる。「価格情報」という一括りで扱うと,守りたい情報と契約上の義務が対応しなくなる。

本記事は,東京高裁平成16年9月29日判決と現行の不正競争防止法を踏まえ,価格公表が問題になった場合の確認事項と,契約段階の備えを説明する。

第2 大正製薬とダイコクの事件で判断されたこと
1 対象となった価格と裁判の結論

東京高裁平成16年9月29日判決(平成14年(ネ)第1413号)は,医薬品等のメーカーと販売店の取引について,仕入価格の開示等をめぐって判断した裁判例である。メーカーが一方的に提供した内部資料の漏えい一般を扱った事件ではない。

裁判所は,当該取引で当事者の合意により成立した仕入価格(売買代金額)について,販売店がメーカーから営業秘密を「示された」場合に当たるとはいえないと判断した。また,本件の契約関係等の下で,販売店に当該価格の秘密保持義務があるとの主張も認めなかった。

判決が採った判断は,情報の成り立ちと,本件で秘密保持義務を認める根拠があるかを検討したものである。「価格はすべて営業秘密にならない」「秘密保持契約はすべて無効」という結論ではない。

2 適法な秘密保持の合意まで否定していない

判決末尾では,価格に関する秘密保持の合意が適法に行われることまで否定する趣旨ではないことが示されている。価格の公表や仕入価格に近い販売を,どのような場合でも適法とする判断でもない。

したがって,この裁判例を理由に,既存の秘密保持条項を確認せず「公表してよい」と判断することも,反対に秘密保持条項があるだけで差止めが確実だと判断することも避けるべきである。根拠は裁判所公開の判決原文で確認できる。

第3 営業秘密の問題と契約違反の問題
1 不正競争防止法の要件を確認する

不正競争防止法2条6項は,営業秘密について,秘密として管理されていること,事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること,公然と知られていないことを要件としている。

さらに,同条1項7号を根拠にする場合には,保有者から営業秘密を示されたという取得経緯に加え,不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的で使用・開示したかという要件も問題になる。単に「秘密の情報を公表された」と説明するだけでは,これらの検討を尽くしたことにならない。

公表されたものが契約価格そのものか,リベート等を含めて算出した実質的な仕入価格か,原価その他の内部情報かも特定する。資料名だけでなく,情報の内容ごとに取得経緯と管理方法を整理することが必要である。

2 契約上の秘密保持義務は別に検討する

営業秘密としての保護を主張できるかという問題と,契約でどの範囲の秘密保持義務を負わせたかという問題は,検討する根拠が異なる。

秘密保持契約では,対象情報の定義,秘密表示の要否,口頭開示後の確認方法,既知情報・公知情報等の除外,利用目的,開示できる相手及び存続期間を確認する。「本取引に関する一切の情報」という文言だけで,当該価格が当然に対象になると決め付けるべきではない。

価格情報を守る条項であっても,競争法その他の問題がなくなるわけではない。販売価格を拘束する目的や運用がある場合には,秘密保持の合意とあわせて個別に検討する必要がある。

第4 価格公表が判明したときの証拠と対応

まず,公表された文章・画像・掲載場所・掲載日時を保存する。ウェブ上の表示では,URL,画面全体,当該箇所及び確認日時を対応させ,転載先と元の掲載先を区別する。画面を削除させる連絡を先にすると,後から内容や範囲を確かめにくくなることがある。

そのうえで,次の資料を時系列で整理する。

- 価格交渉のメール,見積書,価格表,リベート等の合意
- 秘密保持契約,基本契約,個別契約及び後日の変更合意
- 情報を渡した相手・方法・日時と,秘密であることを伝えた記録
- 公表前に同じ情報が開示されていた範囲
- 公表後の顧客対応,取引への影響及び具体的な損害に関する資料

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事前確定届出給与を届出どおり払えなかった場合―役員賞与の減額・支給日変更と損金算入(AI作成)

目次

第1 問題の所在第2 事前確定届出給与の基本要件1 所定の時期と確定した額2 当初の届出期限第3 届出額・支給日と実際の支払が違うとき1 減額・不支給2 支給日の変更3 年2回など複数回の支給第4 業績悪化などによる変更届出1 変更が認められる理由2 変更届出の期限第5 紛争を防ぐための資料確認第6 従業員の決算賞与との違い第7 出典
第1 問題の所在

役員賞与について,支給額と支給日を決めて税務署に届け出た後,資金繰りや業績の変化を理由に一部だけ支払ったり,支払日を変更したりすることがある。
その場合,決議と届出が存在するだけで損金算入が認められるわけではない。
届出内容,変更の理由・手続,実際の支給を,対象となる役員と職務執行期間ごとに照合する必要がある。

本稿は法人税法上の一般的な要件を整理する。
個別年度への適用は,その年度に適用される法令・通達と事実関係を確認して判断する。

第2 事前確定届出給与の基本要件
1 所定の時期と確定した額

法人税法34条1項2号は,役員給与のうち,所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与について,届出など所定の要件を定めている。
役員賞与という会計上の名称だけでは,この要件を満たすかどうかは決まらない。
過大な役員給与の損金不算入など,同条の別の制限も残る。

2 当初の届出期限

以下は届出を要する金銭給与を対象とする。
非同族会社が定期給与を支給しない役員に金銭給与を支給する場合など,届出不要の例外もある。
法人税法施行令69条と国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」によれば,通常は,株主総会等の決議日(決議日が職務執行開始日より後なら職務執行開始日)から1か月を経過する日と,会計期間開始日から4か月を経過する日のうち,早い日までに届け出る。
申告期限延長の指定を受けた法人などには,4か月に代わる期限もある。
新設法人などには別の期限があるため,設立日,職務執行開始日,決議日を先に確定する。

第3 届出額・支給日と実際の支払が違うとき
1 減額・不支給

法人税基本通達9-2-14は,事前確定届出給与として届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合,原則としてその支給額の全額が損金不算入となる旨を示している。
「届出額より少ないので,支払った部分だけは当然に損金となる」という扱いはできない。
不支給の場合も,実際に交付がないことと,未払計上・支払義務・他の支給回への影響とを分けて確認する。

2 支給日の変更

所定の支給時期も要件である。
予定日に支払わず後日に振り込んだ場合は,単に最終的な金額が一致したという理由だけで届出どおりの支給とはいえない。
決議書・届出書に記した支給日と振込記録を照合し,変更の理由,制度上許される変更の範囲と届出期限を調べる。
業績悪化改定事由による変更届出は支給額の減額等を対象とするため,支給日だけの延期を当然に認めるものではない。

3 年2回など複数回の支給

複数回の支給を定めたときは,各支給を単独で見るだけでなく,同じ役員の同じ職務執行期間について,決議と届出がどのように組まれているかを確認する。

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面談の録音データを従業員に渡す義務はあるか―開示請求,不開示理由と会社の回答手順(AI作成)

目次

第1 本人の録音でも,交付義務は管理方法と内容で決まる1 最初に確認すること2 会社の判断の全体像第2 録音が保有個人データに当たるか1 会話に氏名が含まれるだけでは足りない2 会社の権限と法令上の除外を確認する第3 本人の情報と第三者の情報を分ける1 本人面談と第三者聴取2 第三者の声が入っている場合第4 全部又は一部を不開示にできる条件1 三つの法定事由2 人事資料や調査資料だから一括して拒めるわけではない第5 音声ファイル,反訳又は再生のどれで開示するか1 本人が請求した方法が原則である2 希望方法が困難な場合と反訳の要求第6 受付から回答までの会社の手順1 対象と手続を確認する2 回答期限,理由説明と手数料3 会社からの回答文例第7 関連記事第8 出典と確認範囲
第1 本人の録音でも,交付義務は管理方法と内容で決まる
1 最初に確認すること

従業員から会社に対し,人事面談やハラスメント調査の録音データを渡してほしいと求められることがある。
会社は,①録音が個人情報保護法上の保有個人データに当たるか,②請求者本人に関する情報の範囲,③法定の不開示事由,④開示する方法の順に確認する必要がある。
社内資料だから一律に拒否できるわけでも,会話に参加した本人だから全記録を無条件に受け取れるわけでもない。

本記事は民間企業が保管する録音について,本人から交付を求められた場面を扱う。
行政機関等への開示請求,裁判所の提出命令,録音の取得方法の適法性及び裁判での証拠評価は,それぞれ別の検討である。
法令及び個人情報保護委員会の資料は,令和8年10月26日に確認した。

2 会社の判断の全体像
確認する事項判断の要点次の対応管理・検索の実態個人情報データベース等を構成する録音かファイル名,フォルダー,台帳・索引との対応を確認する本人の情報と開示権限請求者が識別される保有個人データか対象部分と会社の権限,法令上の除外を確認する不開示の理由権利利益の侵害,業務への著しい支障,他法令違反があるか対象部分と具体的な事情を記録する開示方法と回答本人が請求した方法で開示できるか全部・部分開示,不開示等を決めて通知・交付する

この表は法令を実務に当てはめるための整理である。
ファイル名や保存媒体の一つだけで,開示義務の有無を決めるものではない。

第2 録音が保有個人データに当たるか
1 会話に氏名が含まれるだけでは足りない

個人情報保護法16条は,個人情報データベース等,個人データ及び保有個人データを区別している。
個人を識別できる録音であっても,直ちに全てが本人開示の対象となる保有個人データになるわけではない。

個人情報保護委員会Q1-42は,会話に氏名が含まれていても,その氏名によって容易に検索できるよう整理されていない限り,個人情報データベース等に該当しないと説明している。
会社は,録音ファイル単独だけでなく,社員番号,氏名別フォルダー,面談台帳,案件索引等を含む実際の管理・検索方法を確認する。

例えば,社員番号別に面談録音を整理し,従業員名簿と対応させて対象者の記録を探せる仕組みは,データベース該当性を判断する材料になる。
一方,日時だけで保存された音声があるという事情だけでは結論は出ず,他の台帳との対応や検索の仕組みも確認する必要がある。
これらの例は記事上の具体化であり,個人情報保護委員会が個々の保存方法を一律に判定したものではない。

2 会社の権限と法令上の除外を確認する

保有個人データに当たるには,会社が開示,訂正,利用停止等を行う権限を有することなど,同法16条4項の要件を満たす必要がある。
担当者のスマートフォンに保存されていることだけで会社の管理外とは決めず,業務として録音した経緯,管理責任及び会社の権限を確認する。

同項と個人情報保護法施行令5条には,存否が明らかになるだけで本人又は第三者の生命・身体・財産に危害が及ぶおそれがあるもの等の除外がある。
これは,内容を開示した場合の害を理由とする同法33条2項の不開示事由とは区別する。

データベース等を構成しない場合など,同法33条の対象でなければ,同条に基づく開示義務は生じない。
ただし,交付の約束,社内規程の手続又は裁判手続上の提出義務等は別に確認する必要があり,開示義務の検討を理由に原記録を消去・改変してよいわけではない。

第3 本人の情報と第三者の情報を分ける

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医師の学会参加・発表準備は労働時間か―自己研鑽,大学病院の教育・研究及び旅費支給の判断(AI作成)

目次

第1 「自己研鑽」という名称だけでは決まらない第2 所定労働時間内と時間外を分ける1 所定労働時間内の研鑽2 所定労働時間外の研鑽第3 学会参加・発表準備で確認すること1 自由な研究と業務上必須の研究2 経験や担当業務との関係第4 大学病院の教育・研究を一括して自己研鑽にしない第5 旅費支給・参加者の職種だけでは決まらない第6 院内の手続と実際の勤務を一致させる第7 出典
第1 「自己研鑽」という名称だけでは決まらない

医師の学会参加や研究発表の準備について,「本人の勉強だから労働時間ではない」「病院が費用を出すから全て労働時間である」と一律に判断することは適切でない。実際の業務内容,使用者の指揮命令及び参加を断れるかという事情を確認する必要がある。

本記事は,厚生労働省の令和元年7月1日付け基発0701第9号と,令和6年1月15日付け基監発0115第2号による運用通知の改正を基に,令和8年10月26日時点の基本的な区別を整理する。後者は,労働基準法の解釈を変更するものではなく,医師への適用を明確にするものと説明している。

第2 所定労働時間内と時間外を分ける
1 所定労働時間内の研鑽

令和元年通知は,所定労働時間内に,使用者に指示された勤務場所において行う研鑽の時間を,労働時間として扱う。研鑽という呼び方だけを理由に,通常の勤務時間から控除することにはならない。

2 所定労働時間外の研鑽

時間外の研鑽では,本来業務と直接の関連がなく,上司の明示又は黙示の指示がない場合は,院内で行っても一般に労働時間に当たらない。他方,上司の明示又は黙示の指示によって行う場合は,本来業務との直接の関連がなくても一般に労働時間に当たる,という整理が示されている。

同じ院内に残っていたという事情だけでは結論は出ない。診療の準備・後処理など,業務上必須の行為を,単に「自分の勉強」として扱わないことが出発点となる。

第3 学会参加・発表準備で確認すること
1 自由な研究と業務上必須の研究

令和元年通知は,博士の学位,専門医資格の取得,学会発表,臨床研究等に関する研究活動などを具体例として扱う。通常業務上必須ではなく,本人の自由な意思で,上司の指示なく行うものは,上司が奨励していても一般に労働時間に当たらないとする。

これに対し,行わないことによって就業上の制裁等の不利益が課される場合,業務上必須の行為として行う場合,上司の指示で行う場合は,労働時間としての取扱いが問題となる。診療科の研究課題があることだけで,各医師の活動を一律に分類するのではなく,本人への割当てや実際の運用を確かめる必要がある。

2 経験や担当業務との関係

令和6年の改正後の運用通知は,医師の経験,職位,担当業務等を踏まえ,求められる知識・技能の水準に応じて個別に判断する考え方を示す。ある医師にとって通常の自己学習であっても,別の医師に割り当てられた業務の遂行に必須の学習であれば,同じ扱いになるとは限らない。

実務上は,学会名だけで処理せず,参加,発表,資料作成,指導,診療業務を区分し,誰から何を求められたかを記録すると判断しやすい。これは通知を業務管理に落とし込むための本記事の提案である。

第4 大学病院の教育・研究を一括して自己研鑽にしない

大学病院等で教育・研究を本来業務とする医師について,令和6年の運用通知は,診療だけでなく,教育・研究も本来業務に含まれることを明確にしている。

授業,試験,学生への指導,教育・研究に関する事務など,本来業務として行う行為と,その遂行に必須の準備・後処理は,所定労働時間外でも労働時間となる。これらの業務そのものと,それに関連する研鑽とは,分けて考える必要がある。

関連する研鑽については,所定労働時間内に指示された勤務場所で行う場合や,時間外でも上司の指示によって行う場合など,前記の基準に沿って判断する。大学病院に勤務しているという属性だけで,研究の全てが労働時間になるという意味でも,研究の全てが自由な研鑽になるという意味でもない。

第5 旅費支給・参加者の職種だけでは決まらない

令和6年の運用通知は,医療機関による旅費の支給の有無が,労働時間該当性を直接左右するものではないとする。旅費の会計上の支出科目も,それだけで結論を決めるものではない。

同じく,医師以外の者が参加するかどうかも,直接の判断基準にはならない。費用負担や参加者の構成を確認することはできるが,実際の業務性と指揮命令の検討に代えることはできない。

なお,学会への参加時間,発表準備の時間及び移動時間は,まず実態を分けて記録すべきである。旅費の支給から,移動中の全時間まで当然に労働時間とする結論を導くことはできない。

第6 院内の手続と実際の勤務を一致させる

令和元年通知は,労働に該当しない研鑽を行うための手続を明確にし,不利益がないことや業務から離れてよいことを確認する運用を示している。また,通常業務を担当しない取扱い,勤務との区別を明確にする環境整備,関係する職員への周知及び記録の保存も示す。

したがって,書類に「自主参加」と書くだけで処理を終えるべきではない。実際には断れない発表の割当て,診療の担当,研究報告の義務などがある場合は,その実態を確認する必要がある。医師と上司の認識がずれる場合も,業務と研鑽の内容を具体的に整理することが有用である。

労働時間に該当しない活動でも,長時間の活動による負担を把握することは別の課題である。日本医事新報の荒木優子氏の論考が示す問題提起は,この負担にも目を向けたものである。本記事の労働時間の法的な分類と,健康面・業務配分の改善という評価を区別して読む必要がある。

一般の研修・Web学習については,研修・勉強会・Web学習は労働時間かを参照されたい。

(続きを読む...)医師の学会参加・発表準備は労働時間か―自己研鑽,大学病院の教育・研究及び旅費支給の判断(AI作成)

企業はサイバー攻撃を逆探知・ハックバックできるか―追跡プログラム,不正アクセスとコインハイブ判決(AI作成)

目次

第1 企業の防御と第三者の機器への介入を分ける第2 「逆探知」の仕組みを先に確かめる1 ログの記録と端末内の情報収集2 委託先に依頼する場合第3 追跡プログラムと不正指令電磁的記録1 無断実行という一点だけでは結論は出ない2 コインハイブ判決は追跡プログラムの適法判決ではない第4 不正アクセスと正当防衛・緊急避難1 他人の認証情報やアクセス制御の突破2 被害企業であることは包括的な免責ではない第5 政府のアクセス・無害化措置との関係第6 調査を依頼する前の確認事項第7 出典
第1 企業の防御と第三者の機器への介入を分ける

サイバー攻撃を受けた企業には,攻撃元を特定し,被害の拡大を止めたいという切実な必要がある。しかし,「能動的サイバー防御」という名称だけで,第三者の機器に侵入し,情報を取得し,プログラムやデータを消去できるようになるわけではない。

自社が管理するサーバーのログを調べること,自社の権限で接続を遮断すること,第三者の機器で追跡プログラムを動かすこと,他人の認証を突破して攻撃用サーバーを操作することは,行為の内容が異なる。適法性の検討も分ける必要がある。本記事は令和8年10月26日を基準に,民間企業の措置を検討する際の基本的な区別を整理し,同月27日のGMOの懸賞金制度の公表を踏まえた説明を追記したものである。

第2 「逆探知」の仕組みを先に確かめる
1 ログの記録と端末内の情報収集

自社のサーバーに届いた通信の記録を,管理権限の範囲内で分析する場合と,相手の端末でプログラムを実行させ,端末内の情報を送信させる場合とでは,対象となる機器も処理も異なる。契約書や製品説明に「追跡」「検知」と書かれていても,その名称だけで同じ行為として扱うべきではない。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業の令和7年9月の解説は,持ち出された文書を開くとプログラムが作動し,端末情報等を取得する仕組みを示して論じている。これは解説上の設計例であり,特定製品の実装や合法性が実証されたという資料ではない。

2 委託先に依頼する場合

調査会社やセキュリティ会社に依頼しても,自社が持っていない第三者の機器の管理権限が,委託契約だけで生じるわけではない。実務上は,実行場所,取得項目,送信先,認証情報の使用,処理の継続時間,停止方法及び第三者の機器に及ぶ影響を,実行前に説明できるようにすることが有用である。これは,行為を具体化するための本記事の提案である。

第3 追跡プログラムと不正指令電磁的記録
1 無断実行という一点だけでは結論は出ない

刑法168条の2は,正当な理由がないのに,他人の電子計算機で実行させる目的で,不正な指令を与える電磁的記録等を作成・提供する行為などを定めている。取得・保管には同法168条の3の検討も必要になる。

最高裁第一小法廷令和4年1月20日判決(令和2年(あ)第457号,コインハイブ事件)は,利用者の意図に反することと,刑法上の不正性とを区別した。判決は,機能,影響,利用方法などを踏まえ,社会的に許容し得るかという観点から不正性を判断している。

同事件では,閲覧中の端末の計算資源を使うプログラムについて,意図に反する点は認めながら,端末の機能や情報処理への影響などの事情から不正性を否定した。利用者の明示の同意がないプログラムが全て犯罪になる,という判決ではない。

2 コインハイブ判決は追跡プログラムの適法判決ではない

最高裁が判断したのは,当該マイニングプログラムとその利用状況である。端末内の情報を収集・送信する追跡プログラムを,そのまま適法とした判決ではない。

追跡の目的が被害防止であっても,取得する情報の範囲,継続性,端末への影響や利用者に認識できる仕組みなどを検討する必要がある。前記法律事務所の解説が追跡プログラムへの当てはめを示している部分は,最高裁の判断枠組みを使った解説者の分析として読むべきである。

第4 不正アクセスと正当防衛・緊急避難
1 他人の認証情報やアクセス制御の突破

不正アクセス禁止法3条は不正アクセス行為を禁止し,同法2条4項はその類型を定める。他人の識別符号を使う場合や,アクセス制御による制限を免れる情報・指令を入力する場合などについて,通信回線,アクセス制御機能,承諾及び利用可能になる状態を確認する必要がある。

したがって,「攻撃者が使ったサーバーだから操作してよい」とはならない。他方,端末が一定情報を自動送信する仕組みについて,その名称だけで直ちに同法の不正アクセスに当たるともいえない。具体的な接続と制御の仕組みに即した検討が必要である。

2 被害企業であることは包括的な免責ではない

刑法36条の正当防衛には急迫不正の侵害と防衛のためやむを得ずした行為という要件があり,同法37条の緊急避難にも現在の危難,やむを得なさ,生じた害と避けようとした害の比較などの要件がある。

攻撃の継続,対象機器の管理者,危険の切迫性,代替手段及び措置の影響を確かめず,「攻撃された企業なら逆侵入できる」と一般化することはできない。これらの規定が個別事案で成立するかは,事実関係に即した判断を要する。

第5 政府のアクセス・無害化措置との関係

令和7年法律第43号による警察官職務執行法6条の2等は,警察等の措置について主体,要件及び手続を定めている。これらの規定から,民間企業や委託先に第三者のサーバーを操作する一般的な権限が与えられるとは読めない。

令和8年9月の政府の施行説明は,官民連携とアクセス・無害化措置を同年10月1日から,通信情報の利用を翌年秋からの施行と整理している。制度全体が一度に施行されたという説明は適切でない。政府の制度と個々の企業の防御を分けて検討する必要がある。

企業による要請と政府の判断の違いは,能動的サイバー防御は企業の要請で発動するのかを参照されたい。

国家情報会議・国家情報局と,対外情報庁構想の位置付けについては,成立した法律と今後の検討を整理した記事を参照されたい。

(続きを読む...)企業はサイバー攻撃を逆探知・ハックバックできるか―追跡プログラム,不正アクセスとコインハイブ判決(AI作成)

オンライン診療の法的ルール―初診・処方の制限と令和8年の受診施設制度(AI作成)

目次

第1 オンライン診療で確認すべき制度の全体像1 法律・省令と指針を区別する2 映像と音声による診療が基本となる第2 初診から受けられる場合と対面診療への切替え1 患者の希望と医師の判断の双方が必要である2 オンラインに適さないときは中止・受診案内が必要となる第3 初診時の処方制限と診療計画1 薬の種類と患者の情報によって制限が異なる2 診療計画の保存と診療録の保存を混同しない第4 オンライン診療受診施設の新制度1 自宅で受ける場合と,事業者が場所を提供する場合を分ける2 届出だけで安全管理が完了するわけではない3 既存医療機関の経過措置は届出に関するものである第5 責任の分担と,関連する制度との区別1 オンラインという形式だけで適法性や責任は決まらない2 死亡診断書の取扱いには別の確認が必要である第6 患者がオンライン診療を受けるまでの手順1 受診先と,対面診療に切り替える場合の対応を確認する2 本人確認,費用及び通信環境を準備する3 医師の説明を受け,診察と処方の判断を受ける4 薬の受取方法と,診察後の連絡先を確かめる第7 オンライン診療についてよくある質問1 オンライン診療はどうやって行うのですか2 オンライン診療の欠点は何ですか3 オンライン診療が「怪しい」と感じるときは,何を確認すればよいですか4 チャットだけで診察を受けることはできますか5 初診でも受けられますか。薬は必ず出ますか6 周囲に診察内容を聞かれたくない場合は,どうすればよいですか第8 出典
第1 オンライン診療で確認すべき制度の全体像

オンライン診療は,初診であるという理由だけで一律に禁止されるものではない。
ただし,患者が希望し,アプリで予約できるというだけで実施できるわけでもない。
医師が必要な情報を集め,オンラインで適切な診療ができると判断し,処方の制限や対面診療への切替えに対応する必要がある。

令和8年4月1日から,医療法にオンライン診療及びオンライン診療受診施設の規定が設けられた。
本記事は,令和8年10月26日現在の医療法,医療法施行規則及び厚生労働省の指針に基づき,患者,医療機関及び受診場所を提供する事業者が確認すべき基本事項を説明する。
診療報酬の個別の点数・算定要件や,各疾患の治療方法は対象としない。

1 法律・省令と指針を区別する

医療法2条の2及び14条の3~14条の5は,オンライン診療の定義や実施の仕組みを定めている。
医療法施行規則9条の6の2以下には,患者の意思確認,医師の判断,処方,診療計画,安全管理等の基準がある。
同法14条の4により,オンライン診療を行う医療機関の管理者には,その医師又は歯科医師が省令の基準に従って実施するための措置を講ずる義務がある。

これに加え,厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(令和8年4月)を確認する必要がある。
指針中の最低限遵守する事項と推奨される事項を区別し,指針の記述すべてを同じ法律上の義務として説明しないことが重要である。

2 映像と音声による診療が基本となる

医療法上のオンライン診療は,医師又は歯科医師が情報通信機器を通じ,患者の状態を映像及び音声で相互に認識しながら診察し,診断等を行うものである。
したがって,この制度でいうオンライン診療と,電話だけの対応,メール又はチャットだけの相談は区別する必要がある。

厚生労働省は,新型コロナウイルス感染症に伴う電話・情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いが令和6年3月末で終了したことを案内している。
過去の特例の記事を,現在も電話だけで初診から処方を受けられる一般的な根拠として使わないことが必要である。
現行資料の入口は,厚生労働省の「オンライン診療に関するホームページ」である。

第2 初診から受けられる場合と対面診療への切替え
1 患者の希望と医師の判断の双方が必要である

オンライン診療は,患者の明示的な希望を踏まえ,医師と患者が合意して行う。
医療機関側の都合だけでオンラインに固定したり,患者の希望だけで実施の可否を決めたりする仕組みではない。
本人確認,オンラインでは得られる情報に限界があることの説明及び対面診療と組み合わせる体制も必要となる。

初診では,かかりつけの医師による実施が基本となる。
かかりつけの医師以外が実施する場合も,診療情報提供書,診療録,健康診断の結果等から必要な情報を把握できるかを確認する。
十分な情報がない場合には,映像・音声を用いた診療前相談等を通じ,症状や医学的情報を把握し,オンライン診療が可能かを判断することになる。

診療前相談は,オンライン診療の適否を判断するための過程であり,単なる予約受付と同じものではない。
医師が把握した情報や判断の根拠を記録し,診療計画について説明した上で診療につなげる必要がある。

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プール・水泳教室でも熱中症になるか―指導者の給水義務と大阪地裁平成29年6月23日判決(AI作成)

目次

第1 結論―水中にいても熱中症の危険はなくならない第2 プールで熱中症が起こる理由1 水温が高ければ水による冷却を期待できない2 水泳は運動強度があり,喉の渇きにも気付きにくい第3 大阪地裁平成29年6月23日判決の事案1 水泳教室と参加者の状況2 裁判所が重視した事情第4 認められた義務と因果関係1 定期的に退水・給水させる義務2 死亡との因果関係と生存の相当程度の可能性第5 判決を一般化するときの注意1 すべてのプールに同じ義務を定めた判決ではない2 現在の公的資料と判決当時の事情を分ける第6 水泳教室・プールイベントの確認事項1 活動前2 活動中3 異変が生じた後第7 労働者・学校・一般利用者で適用関係を分ける第8 出典と確認範囲
第1 結論―水中にいても熱中症の危険はなくならない

プールに入っていれば体が冷えるため,熱中症にはならないと思われがちである。
しかし,水温が高い場合,頭部が直射日光を受ける場合,運動強度や活動時間が大きい場合には,水泳中でも体温が上昇する。
口の中が水でぬれて喉の渇きを感じにくくても,発汗によって水分は失われる。

日本スポーツ振興センターの学校屋外プールに関する資料は,水温が中性水温である33度から34度より高い場合には,水中でじっとしていても体温が上がると説明している。
水温が高いときは,こまめにプールから出て日陰で休み,シャワーや送風で体を冷やし,発汗量に応じて水分を補給することが重要である。

大阪地裁平成29年6月23日判決は,障害者を対象とする水泳教室で参加者が熱中症を発症して死亡した事案について,指導者に定期的な退水と給水をさせる義務を認めた。
もっとも,これは参加者の障害特性,意思表示の困難,指導環境,室温及び水温等を踏まえた個別判断である。
すべての水泳指導者について,同じ間隔・方法による退水や給水が常に法的義務になると一般化することはできない。

第2 プールで熱中症が起こる理由
1 水温が高ければ水による冷却を期待できない

水は空気より熱を伝えやすいため,適切な水温では体を冷やす方向に働く。
しかし,水温が高くなると,運動によって生じた熱を十分に逃がせなくなる。
屋外プールでは,日射,気温及びプールサイドからの輻射熱が水温の上昇にも影響する。

水温だけを見れば足りるわけでもない。
プールサイドや更衣室の温度,直射日光,風通し及び休憩場所の環境も確認する必要がある。

2 水泳は運動強度があり,喉の渇きにも気付きにくい

日本スポーツ振興センターの資料は,ゆっくり泳いだ場合でも安静時の4倍以上の代謝量になるとし,水泳教室や部活動では活動時間が長くなり得ることを指摘している。

水中運動でも発汗する。
ところが,口の中が水でぬれるため,喉の渇きを感じにくいことがある。
本人から「喉が渇いた」と申告がないことだけで,給水の必要がないとは判断できない。

第3 大阪地裁平成29年6月23日判決の事案
1 水泳教室と参加者の状況

大阪地裁平成29年6月23日判決(平成26年(ワ)第9333号,判例秘書の判例番号 L07250660)は,水泳教室に参加した24歳の男性が熱中症を発症して死亡した事案である。

参加者には重度の知的障害等があり,自分で体調を管理し,異常を言葉で伝え,又は自ら休憩を選択することが容易ではなかった。
他方,水泳経験があり,泳ぐ能力自体が低かったという事案ではない。

判決が認定したプール室内の室温は約36度,水温は約32度であった。
指導者は,室内が暑いことと水分補給の重要性を認識していたが,定まった休憩時間は設けられていなかった。

2 裁判所が重視した事情

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社内運動会・屋外イベントの熱中症対策―安衛則612条の2,WBGTと中止判断(AI作成)

目次

第1 結論―法令の適用対象とイベント全体の安全判断を分ける第2 安衛則612条の2が直接適用される場面1 対象となる暑熱な場所と作業時間2 報告体制と対応手順を事前に定める3 一般参加者に同条が当然に直接適用されるわけではない第3 WBGTは何を示し,何を決めないか1 気温だけで判断しない2 スポーツ指針と法的義務を混同しない3 中止・延期・内容変更の基準を事前に決める第4 成人の任意参加でも主催者の中止義務が問題となった判決1 大阪地裁平成27年4月17日判決2 裁判所が中止義務違反を認めた事情3 請求棄却という主文だけでは判決を理解できない第5 主催者が準備しておく事項1 開催前2 開催中3 事故発生後第6 労働時間,返金・保険及び写真公開は別に検討する第7 出典と確認範囲
第1 結論―法令の適用対象とイベント全体の安全判断を分ける

社内運動会や屋外イベントの熱中症対策では,少なくとも三つの場面を分けて考える必要がある。
第一は,会社の指示で設営,受付,進行,警備又は片付け等を行う労働者に対する労働安全衛生法令上の措置である。
第二は,外注先の従業員や個人事業者を含む運営スタッフ間の役割分担である。
第三は,一般参加者,招待者及びボランティア等を含むイベント全体の安全確保である。

令和7年6月1日施行の労働安全衛生規則612条の2は,一定の暑熱環境下で行われる作業について,報告体制及び症状悪化防止の手順を事前に整備し,作業者へ周知するよう事業者に求めている。
しかし,同条は,すべての屋外イベントについてWBGTが一定値になれば自動的に中止すると定めた規定ではない。
また,一般参加者全員に対する主催者の義務が,同条だけで決まるわけでもない。

主催者は,労働者に対する法令上の措置と,参加者を含むイベント全体の安全判断を重ねて準備する必要がある。

第2 安衛則612条の2が直接適用される場面
1 対象となる暑熱な場所と作業時間

厚生労働省の令和7年5月20日付け通達は,「暑熱な場所」をWBGT28度以上又は気温31度以上の場所とし,その場所で連続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業を,対象となる「熱中症を生ずるおそれのある作業」と説明している。

定常的な業務に限られず,臨時の設営,撤去又は誘導等でも,この条件を満たすことが見込まれれば対象になり得る。
会場内の一地点だけでなく,出張先,複数の作業場所及び作業場所間の移動も対象になり得る。

原則は実際の作業場所でWBGT又は気温を測ることである。
通風のよい屋外作業など,天気予報や環境省の熱中症予防情報サイトで判断できる場合には,それらを使うことも認められている。
ただし,同じ会場内でも,直射日光,地面からの照り返し,風通し及びテントの有無によって条件は変わる。

2 報告体制と対応手順を事前に定める

対象作業を行わせる事業者は,作業者本人に熱中症の自覚症状がある場合又は他の作業者に熱中症の疑いがあることを発見した場合の報告体制を,あらかじめ整備して周知しなければならない。

さらに,作業場ごとに,作業からの離脱,身体の冷却,必要に応じた医師の診察・処置その他症状の悪化を防ぐ措置と,その実施手順を定めて周知する必要がある。
緊急連絡網,搬送先の連絡先及び誰が救急要請を判断するかまで具体化しておくことが重要である。

飲料水を用意しただけで,この二つの義務を履行したことにはならない。

3 一般参加者に同条が当然に直接適用されるわけではない

厚生労働省通達は,周知等の対象となる「作業者」について,労働者だけでなく,労働者と同じ場所でその作業に従事する労働者以外の者も含むと説明している。

他方,安衛則612条の2の義務主体は事業者である。
競技や催しに参加するだけの一般参加者と,会社の指示で運営作業をする従業員とを一括して,「全員に同条が直接適用される」と説明するのは正確でない。

一般参加者についても,主催者と参加者の関係,主催者が管理する危険の範囲,イベントの内容,参加者の年齢・健康状態,実際の指示及び危険の具体的な予見可能性によって,契約上又は不法行為法上の安全確保義務が問題となり得る。

第3 WBGTは何を示し,何を決めないか
1 気温だけで判断しない

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自社サーバーが乗っ取られて他社への攻撃に使われたら―不法行為責任,裁判例,警察からの通知及び事前の備え(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 踏み台にされるとはどういうことか1 乗っ取られたサーバーの使われ方2 公的機関の資料の記載第3 被害を受けた他社への不法行為責任の枠組み1 民法709条2 過失の中身3 因果関係と損害4 契約関係がある相手との違い第4 裁判例1 東京地裁令和3年3月10日判決2 東京地裁平成29年9月15日判決3 責任を認めた裁判例は見当たらない第5 警察から命令・通知が届く場合1 警察官職務執行法6条の22 通知の方法3 通知を受けたときに確認すること第6 事前の備え1 法律上の努力義務2 社内規程と外部への義務を分けて考える3 ログを残す4 委託契約で役割を決める第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 公的機関の資料4 脆弱性の修正の公式発表
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

ウェブサイトやサーバーが外部から乗っ取られ,他の組織への攻撃の中継地点として使われることがある。
このように,攻撃者が自分の身元を隠すために他人の機器を経由させることを,一般に「踏み台」という。
令和8年10月には,PHP,Node.js,Java及びGitLabで深刻度の高い脆弱性の修正が相次いで公表された。

本記事は,自社のサーバーが踏み台にされ,その結果として他社に損害が生じた場合に,サーバーの管理者が被害を受けた他社に対して損害賠償責任を負うかを,民法の条文,裁判例及び公的機関の資料から整理するものである。
基準日は令和8年10月25日である。
条文はe-Gov法令検索で現行の版を確認し,裁判例は判例秘書で本文を確認するとともに,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で掲載の有無を調べた。

2 結論

①踏み台にされたサーバーの管理者が被害を受けた他社に負う責任は,契約関係がなければ,主に民法709条の不法行為の問題であり,乗っ取られたという事実だけで責任が決まるわけではない。
②責任が問われるのは,管理者に過失がある場合であり,後記の裁判例のように,被害を受けた側が,管理者の採るべきだった具体的な対策と,その対策を怠ったことと損害との因果関係を主張・立証することになる。
③東京地裁令和3年3月10日判決は,インターネット上に拡散されていた学生のID等を使って第三者がログインし,掲示板に原告の名誉を毀損するとされる記事を投稿した事案で,内部のセキュリティポリシーの違反は直ちに第三者に対する不法行為上の義務違反にならないとし,管理者の責任を否定した。
④本記事の基準日までに裁判所ウェブサイトと判例秘書で確認した範囲では,踏み台にされたサーバーの管理者に第三者への損害賠償責任を認めた裁判例は見当たらない。
⑤もっとも,国の資料は,取引先等の対策が不十分であると,そこを踏み台にして自社が攻撃され,その結果,他社の二次被害を誘発して加害者となるおそれがあると指摘しており,令和8年10月1日からは,一定の要件の下で,警察が攻撃に使われているサーバーの管理者に措置を命じ,又は自ら措置をとって通知する制度も始まっている。
⑥管理者としては,更新と監視を続けること,社内規程と委託契約で役割を決めておくこと,ログを残しておくことが,被害を防ぐとともに,後に責任を問われたときの説明の材料にもなる。

第2 踏み台にされるとはどういうことか
1 乗っ取られたサーバーの使われ方

攻撃者は,脆弱性を突いたり,流出したIDとパスワードを使ったりして,他人のサーバーに侵入する。
侵入したサーバーは,そのサーバーの情報を盗む目的だけでなく,別の組織への攻撃の中継やコンピュータウイルスの配布のために使われることがある。
攻撃を受けた側から見ると,攻撃の通信は乗っ取られたサーバーから来ているので,そのサーバーの管理者が加害者のように見える。

2 公的機関の資料の記載

情報処理推進機構(IPA)は,令和6年7月5日の注意喚起「PHPの脆弱性(CVE-2024-4577)を狙う攻撃について」で,国内の複数の組織のウェブサービスに不正な操作を行うプログラムが設置されていたとの指摘を紹介し,そこから組織内への侵入が試みられたり,他の組織への攻撃の踏み台として使われたりするおそれを説明している。
この注意喚起の対象は,Windows上で動作するPHPであり,踏み台の説明も攻撃の手口一般の説明である。

経済産業省とIPAの「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0」は,指示9の「対策を怠った場合のシナリオ」で,取引先等の対策が不十分であると,「これらの企業を踏み台にして自社が攻撃されることもある。その結果、他社の2次被害を誘発し、加害者となるおそれもある」としている。
国家サイバー統括室の「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」Ver3.0のQ53も,サプライチェーンのリスクとして,他社の二次被害を誘発して加害者となるおそれを挙げている(296頁)。
いずれも,企業が想定すべきリスクの説明であり,踏み台にされた企業が法的にどのような要件で損害賠償責任を負うかを述べたものではない。

IPAの「ウェブサイト運営者のための脆弱性対応ガイド」(第3版第2刷,平成29年3月)も,運営者が利用者から訴訟の対象とされ得ることや,サイトを止めたことで取引先から契約により損害賠償を求められ得ることを説明する一方,コンピュータウイルスを撒き散らす「加害者」となった場合については,社会的責任を果たしていないと非難されるとするにとどまる(5頁)。

第3 被害を受けた他社への不法行為責任の枠組み
1 民法709条

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七会約款の2025年改正―資材高騰による請負代金・工期の変更と労務費の確保(AI作成)

目次

第1 対象となる約款と最初に確認すること第2 資材価格の高騰と請負代金額の変更1 変更請求と協議の申出2 増減額の根拠を分けて示す3 1年を超える契約に関する条項第3 工期延長と価格変更は別々に整理する第4 建設業法の契約前通知との関係第5 適正な労務費の確保と確認書面1 内訳書と支払の確認2 提出を求める資料と理由を特定する第6 協議を始めるときに整理する事項第7 関連記事・出典
第1 対象となる約款と最初に確認すること

民間(七会)連合協定工事請負契約約款の2025年12月改正では,資材価格の高騰等に対応する請負代金・工期の変更協議と,適正な労務費の確保に関する規定が整備された。工事の発注者・受注者が確認すべきなのは,採用した約款の版,個別の特約,変更を必要とする事実及びその根拠資料である。

本記事は,令和8年10月26日時点で公表されている約款委員会の2025年12月改正新旧対照表のうち,第4条,第4条の2,第28条及び第29条を中心に説明する。2020年版を解説した書籍の記述を,そのまま2025年改正後の規定として扱うものではない。

改正された標準約款の公表と,個々の契約の内容とは区別する必要がある。既に締結した契約については,契約書に添付された約款,採用する版の指定及び特約を確認する。旧版の契約へ改正後の条番号や文言を当然に当てはめてはならない。

第2 資材価格の高騰と請負代金額の変更
1 変更請求と協議の申出

改正後の第29条1項eは,建設業法20条の2第2項に定める資材価格の高騰その他の請負代金額に影響する事象の発生を,代金変更の事由に加えている。同条1項は,契約に別段の定めがある場合を除き,所定の事由があるときに,発注者又は受注者が理由を示して必要な代金変更を請求し,必要に応じて協議を申し出るという構成である。

同条3項は,協議の申出を受けた側について,申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き,誠実に協議に応じるよう努めると定める。これを,相手方が請求額を全額承認する義務や,請求書の送付だけで変更額が確定する仕組みと読むことはできない。

約款委員会の2025年12月改正に関するFAQは,請負代金の変更請求権そのものを今回新設したのではなく,従来からの権利を明確にしたと説明している。
変更を請求できる事由と,請求額が認められるかどうかは分けて確認する必要がある。

2 増減額の根拠を分けて示す

第29条2項aは,適切な価格転嫁による適正な代金設定のため,工事に係る価格等の変動内容その他の事情を考慮することを定める。同項bは,工事の減少部分には監理者の確認を受けた内訳書の単価を,増加部分には変更時の時価を用いることを原則としている。減少と増加を一つの率で処理する前に,どの部分を変更するのかを分ける必要がある。

協議資料としては,当初見積りと変更後見積り,対象資材の数量・単価,仕入先の価格改定通知,発注時期及び既に購入した数量を対応させると検討しやすい。ここで挙げた資料は実務上の整理例であり,これらをそろえれば必ず増額が認められるという要件表ではない。

例えば,追加工事の代金と,当初の工事範囲に属する資材の値上がり分が同時に請求されている場合には,請求の根拠と計算を分ける。同じ数量や費用を双方へ計上していないかも照合する。

3 1年を超える契約に関する条項

第29条1項gは,契約締結から目的物の引渡しまで1年を超える契約について,法令の制定・改廃又は物価・賃金等の変動により,契約締結から1年経過後の未履行の工事部分に対応する代金額が適当でなくなった場合を定める。

したがって,「工事が1年を超えた」という事情だけで,完成済み部分を含む代金全体を一律に増額する条項として扱うことはできない。1年経過時点の施工状況と未履行部分を区分した資料が重要になる。

同FAQは,第29条1項gの1年という条件を満たさなくても,同項の他の号に該当すれば誠実協議の努力義務が生じるとの考えを示している。
資材価格の高騰等については,同項eその他の該当する事由を個別に検討する。

第3 工期延長と価格変更は別々に整理する

第28条6項は,契約に別段の定めがある場合を除き,追加変更工事,不可抗力,主要資材の供給の著しい減少等,関連工事の調整,受注者に責任のない協議の長期化,近隣住民との紛争その他正当な理由について,理由を示した必要な工期延長の請求と,必要に応じた協議の申出を定める。同条7項には,根拠のない申出等を除く発注者の誠実協議の努力義務が置かれた。

工期に影響する事象が発生したことと,何日延長する必要があるかは,分けて説明する。資材の納入予定と実際の納入日,その資材を使う工程,並行して進められる工事及び変更後の工程表を確認するのが実務上の出発点となる。

また,第28条3項は,発注者と受注者の双方に対し,変更後の工期を,通常必要と認められる期間に比して著しく短くしてはならないと定める。納期だけを据え置く案を検討するときも,変更後の作業量と施工に必要な期間を合わせて確認する必要がある。

同じ資材不足でも,代金の増額を求める理由と,工期を延ばす理由・日数が同じになるとは限らない。協議書では,金額,完成予定日及び各変更の理由を別々の項目として整理するとよい。

第4 建設業法の契約前通知との関係

建設業法20条の2第2項は,建設業者が主要な資材の供給減少,価格高騰等の所定の事象が発生するおそれを認める場合,請負契約の締結までに,その旨と状況把握に必要な情報を注文者へ通知することを求める。

同条3項は,この通知をした建設業者について,契約締結後に通知対象の事象が発生したとき,契約で定めた工期・工事内容・請負代金額の変更に関する協議を申し出ることができると定める。同条4項は,根拠のない申出等を除く注文者の誠実協議の努力義務を定める。

建設業法20条の2第3項による契約変更の協議申出は,同条2項に基づき契約前に通知した事象が生じた場合を対象としている。
他方,約款委員会の2025年12月改正FAQは,契約前のリスク通知がなかった場合でも,約款第28条・第29条に基づく工期延長・代金変更の請求や協議の申出が妨げられないと説明している。

(続きを読む...)七会約款の2025年改正―資材高騰による請負代金・工期の変更と労務費の確保(AI作成)

採用課題を装うWaterPlumの攻撃とは―IT技術者がコード実行前と感染後に確認すること(AI作成)

目次

第1 WaterPlumはどのように採用活動を装うのか第2 コードを実行する前の確認1 相手の身元と,求められている操作を分けて確認する2 普段の作業環境をそのまま使わない第3 VS Codeの「信頼する」に注意する第4 実行してしまった・感染が疑われる場合1 通信の遮断と,安全な端末での対応2 初期化の前に調査・証拠保全も考える第5 勤務先・発注元へ伝える事項第6 資料と関連記事

転職や業務受注のために届いたコーディング課題でも,送信者が本物の採用担当者とは限らない。
面接ツールの不具合を直すよう求められた場面でも,指示されたプログラムを実行する前の確認が必要である。
警察庁等は,令和8年9月18日,IT技術者を標的とするWaterPlumの攻撃について共同注意喚起を公表した。
この記事は求職者・フリーランス側の対策を扱う。
企業が偽装ITワーカーを採用・委託する問題は,北朝鮮IT労働者への業務委託を防ぐための確認事項で扱う。

第1 WaterPlumはどのように採用活動を装うのか

共同注意喚起によれば,WaterPlumは,正規のAI企業,暗号資産関連企業,人材紹介サービス等になりすまし,SNS,求人サイト,フリーランス向けのサービス等でIT技術者へ接触する。
技術面接やコーディング課題に参加させ,不正なプログラムをダウンロード・実行させる手口である(同2~3頁)。
課題の実施を求めるだけでなく,オンライン会議の不具合を診断・修正するという名目でファイルを使わせることも説明されている。
悪意あるNPMパッケージや開発用リポジトリも攻撃の入口となる。
共同開発サービスに置かれているという理由だけで,その課題の安全性が確認されたことにはならない。
窃取の対象として,ブラウザ内の認証情報,暗号資産ウォレットの秘密鍵・シードフレーズ,身分証画像,PCや共有フォルダのファイル等が挙げられている。
また,窃取した認証情報を使い,勤務先のネットワークへ侵入する手口も説明されている(同3~4頁)。
個人の求職活動をきっかけに,勤務先や発注元へ影響が広がり得る点に注意が必要である。

第2 コードを実行する前の確認
1 相手の身元と,求められている操作を分けて確認する

警察庁等は,業務用PCや暗号資産・個人情報を扱うPCで,むやみに第三者の関与したコードを実行しないよう求め,仮想マシン等のサンドボックスでの実行や,コードに難読化された部分・動作を理解できない部分がないかの確認を挙げている(共同注意喚起4頁)。
求職者側では,会社名の実在だけで終わらせず,公式サイト等から独立して確認した連絡先を使い,その担当者と課題の実在を確かめる方法が考えられる。
これは本記事の確認手順の提案である。
相手から届いたリンクだけを確認経路にすると,なりすまし側が用意した場所を再び見ている可能性が残る。
「すぐに面接を再開したい」「提出期限に間に合わせたい」と思う場面でも,理解できない修復コマンドや追加ツールを,案内されたまま実行しないことが大切である。

2 普段の作業環境をそのまま使わない

サンドボックスを使う場合でも,「仮想マシンなら何を実行しても安全」と考えるべきではない。
共同注意喚起の推奨は,任意の設定で安全を保証する記載ではない。
実務上は,会社の認証情報,秘密鍵,顧客資料等を持ち込まない検証環境を用意できるかを,勤務先等の担当者に確認することが考えられる。
個人の判断で業務用PCに検証環境を追加したり,会社のルールを外して課題を実行したりすることは避けたい。

第3 VS Codeの「信頼する」に注意する

共同注意喚起は,他人から渡されたVS Codeのプロジェクトを開く際の注意を具体的に説明している。
関与していないプロジェクトを開くよう求められた場合は制限モードを利用し,作成者を信頼するかという警告には「いいえ」を選ぶことなどを勧めている(同4~5頁)。

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北朝鮮IT労働者への業務委託を防ぐには―なりすまし,ラップトップ・ファームと企業の対策(AI作成)

目次

第1 警察庁の注意喚起が対象とする二つの入口第2 ラップトップ・ファームと国内で把握された事例1 国内の名義・端末を経由する手口2 公表された被害と,読み分けるべき事実第3 採用・委託の前に確認する事項第4 契約とアクセス権限に落とし込む1 再委託のルールを実際に確認できる形にする2 正規のアカウントにも権限の上限を設ける第5 疑いが生じたときの初動第6 制裁・法的責任を判断するときの注意第7 資料と関連記事

採用した人や業務を委託した相手が,申告された人物とは違う。
正規のアカウントを渡した後に,ソースコードや顧客情報へのアクセスを悪用される。
このような問題は,外部からの不正侵入対策だけでは捉えにくい。
警察庁等は,令和8年9月18日の共同注意喚起で,北朝鮮IT労働者による日本国内での外貨獲得活動,国内支援者の自宅に遠隔操作用PCを置く手口及び企業への採用応募の実例を公表した。
本記事では,その公表内容と,それを踏まえた企業側の確認事項を分けて整理する。

第1 警察庁の注意喚起が対象とする二つの入口

共同注意喚起は,①採用担当者を装って求職者に不正なプログラムを実行させる攻撃と,②身元や作業場所を偽って企業からIT業務を受注する活動を扱っている。
この記事は②を対象とする。
①の求職者側の対処は,偽の採用課題によるWaterPlumの攻撃で扱う。
警察庁とFBIは,WaterPlumと一部の北朝鮮IT労働者が北朝鮮の313総局の指揮下で運用されていると評価している。
「一部」という範囲を外し,全ての関係者が同一の組織又は同一の手口で活動すると読むことはできない。
これは捜査機関の評価を紹介するものであり,裁判所の認定を紹介するものではない。

第2 ラップトップ・ファームと国内で把握された事例
1 国内の名義・端末を経由する手口

警察庁等によれば,国内支援者から提供された身分証明書の画像を悪用した受注,支援者が受注した業務の請負,支援者の銀行口座を使った報酬受領が確認されている。
支援者宅に遠隔操作用PCを設置するラップトップ・ファームや,支援者が借りたVPSを利用して,居場所・作業場所を偽装する手口も説明されている(共同注意喚起5~6頁)。
したがって,国内の振込先や国内からの接続があることだけを,実際の作業者が申告どおりである証明にするのは十分ではない。
契約名義,実際の作業者,端末の管理者及び再委託関係をつなげて確認することが,企業側の点検課題になる。

2 公表された被害と,読み分けるべき事実

共同注意喚起6頁は,北朝鮮IT労働者と知らずに開発業務を一部外注した企業で,報酬の支払をめぐるトラブルの際に,担当プログラムのソースコードがインターネットへ公開された事例を紹介している。
また,北朝鮮IT労働者が作成に関わったWebサイトが,後に改ざんされ正常に表示されなくなった事例も紹介する。
ただし,この記載だけから,その改ざんの実行者や原因まで確定したとはいえない。
一方,bitFlyerへの応募事例は,同社が不審点に気づいて対応し,採用にも被害にも至らなかった事例である。
「国内暗号資産取引所に侵入した事例」と読み替えないことが必要である(同7頁)。

第3 採用・委託の前に確認する事項

共同注意喚起は,連絡先の確認,経歴に記載されたスキルについての具体的な質問,資格の確認等を勧めている。
企業では,これを一度の面接だけで終わらせず,次の事項を照合する運用が考えられる。
以下は本記事の実務上の整理であり,法令が一律に義務付けたチェック項目という意味ではない。

確認する関係確認事項の例契約名義と実作業者誰が作業し,変更時に誰へ知らせるのか。法人への発注でも担当者と再委託先を把握できるか経歴と技能書面の記載について,担当した作業や判断過程を具体的に説明できるか作業場所と端末申告された作業環境と実態が整合するか。第三者による遠隔操作を許していないか報酬と取引主体契約名義と異なる第三者口座への変更等について,合理的な説明と確認資料があるか提出資料の取扱い確認目的に必要な範囲の資料を求め,閲覧者と保管方法を決めているか

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社内で禁止した生成AIに個人データを入力したら漏えい等報告は必要か―ガイドラインの「自らの意図」,クラウド例外,委託及び協会けんぽの公表事例(AI作成)

目次

第1 本記事の概要第2 問題の所在1 承認したサービスと禁止したサービス2 検討の順序第3 漏えい等報告の仕組み1 個人情報保護法26条と施行規則7条2 「おそれ」の判断3 報告の期限と「知った」時点第4 生成AIへの入力は提供か委託か1 委託に伴う提供2 クラウド例外3 個人情報保護委員会の注意喚起第5 禁止された生成AIへの入力は漏えいに当たるか1 漏えいの定義と「自らの意図」2 承認の有無で評価が分かれる理由3 学習に利用しない設定の意味4 報告が必要になるのは報告対象の事態に当たる場合第6 協会けんぽの公表事例1 公表の内容2 この事例から読み取れること第7 実務上の対応1 平時の備え2 禁止された入力が判明したとき第8 出典
第1 本記事の概要

本記事は,社内で業務利用を禁止している生成AIサービスに従業者が個人データを入力した場合に,個人情報保護委員会への漏えい等報告(個人情報保護法26条)が必要になるかを整理するものである。
基準日は令和8年10月25日であり,個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(令和8年6月一部改正)と,「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」を参照した。

結論を先に述べると,生成AIサービスへの入力が直ちに漏えいになるわけではない。
しかし,事業者が自らの意図に基づいて提供したといえない入力は,個人データの漏えい又はそのおそれと評価される余地があり,施行規則7条の4つの事態のいずれかに当たれば報告が必要になると考えられる。
ただし,個人情報保護委員会が,社内で禁止された生成AIへの入力について報告の要否を直接示した資料は,基準日現在,確認できない。

学習に利用しない設定の生成AIに秘密情報を入力することの評価は学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるかで,社内の禁止ルールと懲戒はシャドーAIの問題点――営業秘密,個人情報保護法及び懲戒処分をめぐる法的枠組みで説明している。

第2 問題の所在
1 承認したサービスと禁止したサービス

同じ生成AIサービスでも,会社が契約して業務利用を認めている場合と,社内規程で利用を禁止している場合とがある。
社内規程による禁止の対象には,従業者が個人で契約したアカウントを業務に使う場合や,正式な審査の前に試験的な利用を始める場合も含まれ得る。
サービスの仕様や入力データの扱いが同じであっても,会社が承認しているかどうかで個人情報保護法上の評価が変わるのかが,本記事の問いである。

2 検討の順序

この問いは,次の順に検討すると整理しやすい。
①生成AIサービスへの入力が,第三者提供,委託に伴う提供又はクラウド例外のどれに当たるか
②社内で禁止された入力が,個人データの漏えい又はそのおそれに当たるか
③当たるとして,施行規則7条の報告対象の事態に当たるか

第3 漏えい等報告の仕組み
1 個人情報保護法26条と施行規則7条

個人情報保護法26条1項本文は,「個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失、毀損その他の個人データの安全の確保に係る事態であって個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして個人情報保護委員会規則で定めるものが生じたときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該事態が生じた旨を個人情報保護委員会に報告しなければならない。」と定める。
同条2項は,この場合に本人への通知も求めている。

報告の対象となる事態は,個人情報の保護に関する法律施行規則7条が定める次の4つである。
①要配慮個人情報が含まれる個人データ(高度な暗号化等の措置を講じたものを除く。)の漏えい等が発生し,又は発生したおそれがある事態(1号)
②不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えい等が発生し,又は発生したおそれがある事態(2号)
③不正の目的をもって行われたおそれがある当該個人情報取扱事業者に対する行為による個人データの漏えい等が発生し,又は発生したおそれがある事態(3号)
④個人データに係る本人の数が千人を超える漏えい等が発生し,又は発生したおそれがある事態(4号)

2 「おそれ」の判断

ガイドライン(通則編)3-5-3-1の(※2)は,「報告対象事態における「おそれ」については、その時点で判明している事実関係に基づいて個別の事案ごとに蓋然性を考慮して判断することになる。」とする。
その上で,漏えい等が発生したおそれについては,「その時点で判明している事実関係からして、漏えい等が疑われるものの漏えい等が生じた確証がない場合がこれに該当する。」としている。

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パブリシティ権侵害の損害賠償額はどう決まるか―使用料相当額の算定方法と裁判例7件の金額(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 損害額の決まり方の要点2 対象とした裁判例と調査基準日第2 損害の種類1 逸失利益と著作権法114条の類推2 パブリシティ権侵害による慰謝料は認められにくい3 肖像権侵害の慰謝料は別に認められ得る第3 算定方法の型1 売上に使用料率を掛ける方法2 一定期間当たりの額を定める方法3 諸事情を総合して相当な額を定める方法第4 裁判例7件の算定方法と金額1 契約終了後の利用は過去の契約が基準になる2 第三者による無断利用は許諾料の相場が基準になる第5 法務省報告書の表を読むときの注意1 控訴審の判断と表の記載が異なる事件2 権利の根拠が分かれる事件第6 請求する側・される側が確認する資料1 本人・事務所の側2 利用した側第7 出典1 法令2 裁判例3 検討会報告書
第1 本記事の対象と結論
1 損害額の決まり方の要点
(1) 中心は使用料相当額

パブリシティ権の侵害による損害賠償の中心は,侵害がなければ得られたはずの利益であり,裁判例の多くは,肖像等の使用を許諾したならば通常受け取るはずの金額(使用料相当額)を基準にしている。
算定の型は,①商品の売上に使用料率を掛ける方法,②一定期間当たりの額に利用期間を掛ける方法,③諸事情を総合して相当な額を定める方法の三つに大きく分かれる。
本人が過去に結んだ契約の使用料率や出演料,侵害者が提案していた対価が,金額を決める重要な資料になっている。

(2) 慰謝料と肖像権侵害の関係

パブリシティ権は肖像等それ自体の商業的価値に基づく権利であるため,その侵害を理由とする慰謝料(精神的損害)は,裁判例上認められにくい。
これに対し,肖像等をみだりに利用されない権利(肖像権)の侵害が別に成立する場合には,その侵害による慰謝料がパブリシティ権侵害の損害と並んで認められることがある。

2 対象とした裁判例と調査基準日

本記事は,令和8年10月25日を調査基準日として,法務省の「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」の取りまとめ報告書(令和8年8月7日公表,同年10月22日補訂の第1.1版)が33頁~35頁の表で損害額の算定例として挙げた8件の裁判例のうち,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した7件を取り上げ,判決本文から算定方法と金額を整理するものである。
表の知的財産高等裁判所平成25年10月16日判決は,判断を維持した原審の東京地方裁判所の判決と合わせて1件と数えている。
同報告書の表には,後記第5のとおり,控訴審の判断と異なる金額が記載された箇所があるため,本記事の金額は判決本文によっている。
パブリシティ権の成立要件(顧客吸引力や「専ら」の要件)は,パブリシティ権の要件と裁判例-顧客吸引力,「専ら」要件及び肖像権との違い(AI作成)で扱っている。

第2 損害の種類
1 逸失利益と著作権法114条の類推
(1) 推定規定がないこと

パブリシティ権は判例上の権利であり,侵害による損害賠償は民法709条によるため,被害者が侵害と因果関係のある損害額を立証しなければならない。
著作権法114条は,著作権等の侵害について,侵害者が受けた利益の額を損害額と推定する規定(2項)や,権利の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害額として請求できる規定(3項)を置いているが,パブリシティ権について同様の明文の規定はない。

(2) 類推適用を認めた裁判例

知的財産高等裁判所令和5年9月13日判決(令和5年(ネ)第10025号)は,著作権法114条3項を類推適用してパブリシティ権侵害による損害額を算定した。
法務省の報告書は,学説や最高裁判所の調査官解説に類推適用を肯定する見解があることを紹介した上で,明示的に類推適用するか否かにかかわらず,使用料相当額を基礎に損害額が算定されている事案が多いとしている(同報告書31頁~32頁)。

2 パブリシティ権侵害による慰謝料は認められにくい

東京地方裁判所平成25年4月26日判決(平成22年(ワ)第46450号)は,パブリシティ権は人格権に由来する権利の一内容であっても,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,精神的損害を認めることは困難であるとして,パブリシティ権に係る慰謝料を否定した。
知的財産高等裁判所令和5年9月13日判決も,特段の事情のない限りパブリシティ権侵害による精神的損害を認めることは困難であるとし,その事件では肖像権等の侵害による慰謝料を別に認めたことも理由に挙げて,パブリシティ権侵害を理由とする精神的損害を否定した。

3 肖像権侵害の慰謝料は別に認められ得る
(1) パブリシティ権侵害と並んで認められた例

知的財産高等裁判所令和5年9月13日判決は,音楽グループの元メンバーらの肖像等を専属契約の終了後も公式ショップとしてグッズ販売サイトに掲載した行為について,パブリシティ権侵害の損害とは別に,肖像権等の侵害による慰謝料を控訴人らそれぞれについて15万円と認めた。

(2) 合成画像で肖像権侵害だけが認められた例

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医学部入試の得点調整と損害賠償―東京医大・順天堂など7判決の受験慰謝料と不合格慰謝料(AI作成)

目次

第1 医学部入試の得点調整をめぐる判決の全体像第2 得点調整等はなぜ違法とされたか1 判決は私立大学にも公法上の規定の趣旨の尊重を求めた2 不法行為の構成は受験校を選択する自由の侵害3 控訴審は不合格とされた者への差別的取扱い自体も不法行為とした4 年齢を理由とする不合格判定も違法とされた第3 損害として認められたもの・認められなかったもの1 入学検定料・交通費・宿泊費2 受験したこと自体についての慰謝料3 不合格とされたことについての慰謝料4 他大学との学費の差額,逸失利益,予備校費用第4 訴訟で注意すべき点1 受験年度ごとに請求を特定し,時効に注意する2 大学の補償の申出や追加の合格判定との関係3 共通義務確認の訴えでは対象が限られた第5 関連記事第6 出典1 法令2 裁判例
第1 医学部入試の得点調整をめぐる判決の全体像

平成30年に,複数の大学の医学部入試で,受験者の性別や浪人年数・年齢によって得点を調整し,又は合格判定の基準を変えていたことが明らかになった。
その後,受験者本人による損害賠償請求と,特定適格消費者団体による共通義務確認の訴えが起こされ,判決が出ている。
本記事は,裁判所ウェブサイトと判例秘書で本文を確認できた7件の判決を,違法とされた理由,損害として認められたもの,訴訟で注意すべき点に分けて整理する。
本記事では,得点の調整と合格判定基準の差を併せて「得点調整等」という。
これらの判決で問題となった入試は,いずれも平成30年度以前のものである。

基準日は令和8年10月25日である。
東京地裁令和4年9月9日判決が控訴され,東京高裁令和5年5月30日判決で変更されたことを除き,各判決の上訴の有無と確定の有無は確認していない。
判決が大学名を伏せているものは,本記事でも大学名を書かない。
ここで扱うのは私立大学の医学部入試をめぐる民事の判決であり,入試に関係した文部科学省幹部の刑事事件は扱わない。

判決大学訴えの種類主な判断東京地裁令和2年3月6日判決東京医科大学共通義務確認入学検定料等の支払義務を確認し,旅費・宿泊費の部分は却下東京地裁令和3年9月17日判決順天堂大学共通義務確認入学検定料等の支払義務を確認し,旅費・宿泊費の部分は却下東京地裁令和4年5月19日判決順天堂大学損害賠償受験1年度当たり慰謝料30万円と,入学検定料・受験者本人の交通費・宿泊費東京地裁令和4年9月9日判決東京医科大学損害賠償受験1年度当たり慰謝料20万円,不合格慰謝料100万円~150万円(控訴人の分は控訴審で変更)東京高裁令和5年5月30日判決東京医科大学損害賠償(控訴審)不合格慰謝料を200万円~300万円とし,予備校費用の一部を認容東京地裁令和5年8月10日判決判決が名称を伏せた私立大学損害賠償年齢を理由とする不合格判定につき慰謝料150万円(ほかに記者会見での発言につき10万円)東京地裁令和5年12月25日判決判決が名称を伏せた私立大学損害賠償女性受験者への得点調整につき受験慰謝料40万円,合格の相当程度の可能性があった者は140万円(受験の分を含む)
第2 得点調整等はなぜ違法とされたか
1 判決は私立大学にも公法上の規定の趣旨の尊重を求めた

憲法14条1項は,「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定める。
教育基本法4条1項は,「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」と定める。
大学設置基準2条の2は,入学者の選抜を「公正かつ妥当な方法により、適切な体制を整えて行うものとする。」と定めている。

東京地裁令和4年9月9日判決は,私立大学を設置する学校法人も,入学者の選抜に当たり,憲法並びに教育基本法及び学校教育法をはじめとする公法上の諸規定の趣旨を尊重する義務を負うとした。
そのうえで,小論文試験の点数に性別と高校卒業からの経過年数に応じて差をつけた措置について,「性別という自らの努力や意思によっては変えることのできない属性を理由として、女性の受験者を一律に不利益に扱うものであって、性別による不合理な差別的取扱いを禁止した教育基本法4条1項及び憲法14条1項の趣旨に反する」とし,「公正かつ妥当な方法」による入学者の選抜とはいえないと判断した。
順天堂大学の損害賠償の判決(東京地裁令和4年5月19日判決)と東京地裁令和5年12月25日判決も,私立大学が公法上の諸規定の趣旨を尊重すべき立場にあることを前提に,女性受験者を不利に扱った判定基準や得点調整を不合理な差別と評価している。

2 不法行為の構成は受験校を選択する自由の侵害

東京地裁令和4年9月9日判決は,得点の調整を公表しないまま受験させた行為を,受験者が「自らの意思によって受験校を選択する自由を侵害するものとして、原告らに対する不法行為に該当する」とした。
東京地裁令和4年5月19日判決は,大学には受験者が誤った情報の下で出願を決めることがないよう必要な情報を提供すべき信義則上の義務があったとし,判定基準を秘して受験させた行為は,受験するか否か,他の大学を受験するか否かについての意思決定の自由を侵害する不法行為に当たるとした。
東京地裁令和5年12月25日判決は,入試で合理性を欠く差別を受けないという利益を,大学選択の意思決定の自由の基盤をなすものと位置づけている。

これら3件の判決では,得点調整等によって合否が変わったかどうかにかかわらず,調整のある試験を受験した原告らについて不法行為の成立が認められている。
合否が変わった者には,これに加えて不合格とされたことによる精神的苦痛が問題となる。
なお,共通義務確認の2件の判決は,属性による調整や判定基準を事前に告知し,又は明らかにすべき信義則上の義務に反したという構成をとっている。

3 控訴審は不合格とされた者への差別的取扱い自体も不法行為とした

東京高裁令和5年5月30日判決(東京医科大学の控訴審)は,第一審の構成を補正した。
得点の調整を公表せずに学生を募集し,調整を実施した行為は,合否への影響の有無にかかわらず受験校を選択する自由を侵害する不法行為に当たるとともに,調整がなければ合格と判定されていたのに不合格とされた者との関係では,「性別による不合理な差別的な取扱いとして不法行為に該当する」とした。

(続きを読む...)医学部入試の得点調整と損害賠償―東京医大・順天堂など7判決の受験慰謝料と不合格慰謝料(AI作成)

電子書籍のキャプチャー防止を外すソフトは違法か―最高裁令和3年3月1日決定と不正競争防止法・著作権法(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 最高裁令和3年3月1日決定1 どのような事案か2 弁護人の主張と最高裁の判断3 原審(大阪高裁)の判断4 決定の射程第3 現行の不正競争防止法の規律1 技術的制限手段の定義2 装置・プログラムの提供の禁止3 刑事罰と適用除外第4 著作権法の規律1 技術的保護手段と技術的利用制限手段2 利用者の複製と30条1項2号3 みなし侵害と刑事罰第5 画面キャプチャー型のソフトを使う前に確認すること1 防止機能を外す処理があるか2 提供者の説明を確かめる3 利用規約と業務利用第6 関連記事第7 出典
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

電子書籍の閲覧ソフトには,表示した画面の取り込みや保存を防ぐ機能を備えたものがある。
この記事は,そのような防止機能を外して画面を画像やPDFとして保存できるようにするソフトを提供する行為と,利用者が画面を取り込む行為が,不正競争防止法と著作権法の上でどう扱われるかを扱う。

法令は令和8年10月25日にe-Gov法令検索で確認した条文(不正競争防止法は令和8年5月21日施行の版,著作権法は令和8年6月24日施行の版で,いずれもその後同日までに施行された改正はない。)によった。
裁判例は,同日に裁判所ウェブサイトで全文を確認したものによった。
画面を自動で取り込んでPDFにし,生成AIで要約するソフトについての複製の主体や私的使用の問題は第6の関連記事で扱っており,この記事ではキャプチャー防止との関係に絞る。

2 結論

最高裁令和3年3月1日決定は,電子書籍の閲覧ソフトに組み込まれた記録・保存の防止機能を無効化し,閲覧ソフト以外でも読めるようにするプログラムを提供した行為が,不正競争防止法上の不正競争に当たり,刑事罰の規定に該当すると判断し,罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断を結論において正当とした。
プログラムに暗号を解く機能がないから技術的制限手段の効果を妨げていない,という弁護人の主張は退けられた。

他方,この決定が判断したのはプログラムを提供した側の責任であり,利用者が自分の端末で画面を取り込む行為そのものを判断したものではない。
利用者の行為は,著作権法30条1項2号(技術的保護手段の回避による複製)と,電子書籍サービスの利用規約によって別に検討することになる。

第2 最高裁令和3年3月1日決定
1 どのような事案か

決定が示した,原判決が是認した第1審判決の認定等によれば,事案は次のとおりである。
電子書籍の配信事業者は,ライセンスの発行を受けた特定の機器にインストールされた専用の閲覧ソフト(ビューア)でなければ復号できないよう,電子書籍の影像を暗号化して配信していた。
Windows対応版のビューアには,復号後の影像の記録・保存を防止する機能を持つプログラム「G」が組み込まれており,Gのない状態ではビューアは起動せず,ライセンスの発行を受けることも影像の視聴もできないようにされていた。

ソフトウェアの開発・販売会社の代表取締役と販売責任者は,同社のプログラマーと共謀の上,Gの機能を無効化し,復号後の影像を記録・保存することによりビューア以外での視聴を可能とするプログラム「F3」を,平成25年9月10日頃と同年11月23日頃に,顧客2名へダウンロードさせて提供した。

2 弁護人の主張と最高裁の判断

弁護人は,この技術的制限手段は暗号化の方式によるものであり,F3は復号の機能を有しないから,技術的制限手段の効果を妨げるプログラムではないと主張した。

最高裁は,上告趣意は刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとした上で,職権で判断し,Gの機能,Gとビューアの関係及びF3の機能を認めた上で,「Gの上記機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり,これを無効化するF3は,技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認められる。」と判断した。
そして,F3を提供した被告人両名の行為は平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法2条1項10号の不正競争に当たり,同法21条2項4号に該当するとし,同号の罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は結論において正当であるとして,上告を棄却した。

3 原審(大阪高裁)の判断
(1) 技術的制限手段の「効果」の捉え方

原審の大阪高裁平成29年12月8日判決は,電子書籍の暗号化について,「この技術的制限手段の効果は,本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということであるというべきである。」とした。
その上で,Gは表示される影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラムであり,これと反対の制御を行って影像のキャプチャを再び可能にするF3は,その効果を妨げるプログラムであると判断した。
暗号を解く機能があるかどうかではなく,配信事業者が技術的制限手段によって実現している状態,すなわちビューアがインストールされた機器以外の機器では表示できないという状態を妨げるかどうかに着目した判断である。

(2) 画面を取り込んでPDFに保存する仕組み

大阪高裁は,証拠に基づき,「F3は,本件ビューアが端末の画面に表示する画像をキャプチャしてpng形式ファイルやpdf形式ファイルなどのファイルに保存することにより,本件ビューアを用いないでその画像を視聴することができるようにするものであると認められる。」と認定した。

(続きを読む...)電子書籍のキャプチャー防止を外すソフトは違法か―最高裁令和3年3月1日決定と不正競争防止法・著作権法(AI作成)

お名前.com デスクトップクラウドの不正アクセスでFX口座に損失が出たら―GMOの補償,FX会社との関係と利用規約の免責条項(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と基準日第2 GMOが公表した事実と,公表されていないこと1 経緯2 影響範囲の数字の読み方3 第4報で同社が認めたこと4 公表されていないこと第3 GMOの見舞金と損失補償の内容1 見舞金2 不正取引による損失の補償3 補償の範囲と法律上の損害賠償の範囲は同じではない4 補償を装う連絡に注意する第4 FX会社との関係―不正な取引は誰の取引か1 本人の意思によらない取引の効果2 本人に責任を負わせる外観法理3 FX会社の認証の仕組み4 FX会社の約款の免責条項5 海外のFX業者の口座だった場合第5 GMOに対する法的責任と利用規約1 利用規約の免責条項と責任の上限2 消費者である利用者の場合3 事業者会員の場合4 同社の責任を判断するために必要な事実第6 被害を受けた利用者が今すること第7 よくある質問1 被害がなくても見舞金は受け取れるか2 含み損や,取引で得られたはずの利益も補償されるか3 海外のFX業者の口座でも補償の対象になるか4 利用規約に「責任を負わない」とあれば請求できないか第8 出典
第1 本記事の対象と基準日

GMOインターネット株式会社が提供するFX自動売買向けの仮想デスクトップサービス「お名前.com デスクトップクラウド」が第三者による不正アクセスを受け,利用者の取引口座で身に覚えのない取引が行われたとの報告が同社に寄せられている。
本記事は,この事案で取引口座に損失が出た利用者が,同社の補償,FX会社との関係,利用規約の免責条項をどう整理すればよいかを扱う。

初稿の基準日は令和8年10月25日であり,今回の追補の基準日は同月30日である。
以下の初稿の事実関係は,同社が令和8年10月21日から同月24日までに公表した第1報から第5報まで,同社の同月23日・24日の適時開示及びGMOの代表者の同月25日付公式ブログに基づいて記載する。
その後,同月27日の第12報と同月29日の第15報による追記を加え,従前の経緯・補償方針の説明と,その後に公表された特別見舞金等を,発表時点が分かる形で記載している。
補償の申請方法等について,第4報では同年11月6日までに案内する予定とされていたが,予定の記載と,その後に案内・支払が実施されたこととは区別する必要がある。

本記事は同社の調査・報告の内容を紹介するものであり,被害の全容,侵入経路又は個々の取引と不正アクセスとの因果関係を独立して認定したものではない。
能動的サイバー防御の要請については,能動的サイバー防御は企業の要請で発動するのか―GMOの公表事案と政府の判断を分けて読む(AI作成)で扱っている。

第2 GMOが公表した事実と,公表されていないこと
1 経緯

同社の第4報によれば,経緯は次のとおりである。

①令和8年10月19日,利用者からの問合せを受けて調査を開始した。
②同月20日,不正なプログラムの設置を確認し,新規申込みとコントロールパネルを停止した。
③同月21日午前4時,被害拡大防止のため全プランのサーバーを順次停止し,第1報を掲載した。
④同日以降,取引口座での身に覚えのない操作等の報告を受け付けた。
⑤同月22日,警察に相談した。

2 影響範囲の数字の読み方

同社は,影響の可能性があるサーバーを26,739件としている。
もっとも,第3報はこの数について「上記は対象となり得るサーバー数であり、不正アクセスまたは情報取得が確認された件数ではありません。」と注記している。
この数を,情報が流出した件数や被害者の数と読むことはできない。

同社は,決済情報(クレジットカード情報を含む。)を本サービスのサーバー上で保有していないと説明する一方,「他方、お客様ご自身がサーバー内に保存された情報は、影響範囲に含まれます。」としている。
同社は,影響の可能性がある情報として,取引ツール等に保存された取引口座のログイン情報等を挙げている。

3 第4報で同社が認めたこと

第1報(令和8年10月21日午前4時時点)は,同社が預かる個人情報の漏えいや,閲覧された情報が悪用された事実は確認されていないとしていた。
これに対し,第4報(同月24日午前11時50分時点)は,「本サービスのシステムにセキュリティ上の問題が存在し、本サービスの環境に対する不正なアクセスと、お客様の情報が外部に持ち出された事実を確認しております。」と述べている。
同じ第4報は,一部の利用者から取引口座での身に覚えのない取引の報告を受けているとしている。

同社は,10月27日の第12報で,自分の情報が公開されたことを同社が確認した利用者に対する特別見舞金を公表し,確認した対象者には個別に連絡すると説明した。
同社による確認・連絡の説明であり,全利用者の情報公開が確認されたことを意味しない。

(続きを読む...)お名前.com デスクトップクラウドの不正アクセスでFX口座に損失が出たら―GMOの補償,FX会社との関係と利用規約の免責条項(AI作成)

漏えい等の本人通知は殺害予告や営業メールの送り主にも必要か―個人情報保護法26条2項ただし書の「通知が困難な場合」とStudio事案(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論3 基準日と資料第2 Studio事案で公表されていること1 不正アクセスと流出のおそれがある情報2 サイト運営者とStudio社の関係3 本人通知についての同社の案内第3 本人通知が必要になる場面1 報告対象事態と本人通知2 フォームの回答は個人データか3 委託先やクラウド事業者が関わる場合第4 送り主の目的や内容で通知の対象外にできるか1 営業メールやスパムの送り主2 法人の担当者が送信した場合第5 危険な相手への通知と「本人への通知が困難な場合」1 条文とガイドラインの例2 他の規定との比較3 身の危険を「困難」と整理する見解4 先に検討すべき通知の時期と方法5 「困難」と整理するときの記録第6 代替措置としての公表1 代替措置の例2 どこに何を公表するか第7 委託元が行政機関等である場合第8 令和8年改正法の施行後第9 関連記事第10 出典1 法令2 個人情報保護委員会の資料3 事業者の公表資料等
第1 本記事の対象と結論
1 対象

令和8年10月,Webサイト作成サービス「Studio」の運営会社(以下「Studio社」という。)は,同社が利用するクラウド環境への不正アクセスにより,同サービスで作られたサイトのフォームに送信された内容が外部に流出した可能性があると公表した。
フォームで問い合わせ,予約,採用応募等を受け付けていた事業者は,送信者への本人通知を検討することになるが,送信者の中には,殺害予告を送ってきた者や,営業メールを繰り返し送ってきた者も含まれ得る。
本記事は,このような送り主にも個人情報保護法26条2項の本人通知が必要か,通知することが危険なときにどう扱うかを,条文,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン及びQ&A並びにStudio社の公表資料に沿って整理する。
特定の事業者に通知義務があるかどうかを判断するものではない。

2 結論

① 送信の目的や内容が営業やスパムであることだけを理由に,本人通知の対象外とすることはできない。
氏名やメールアドレス等によって特定の個人を識別できる回答であれば,原則として通知の対象になる。
② 法26条2項ただし書の「本人への通知が困難な場合」について,通則編ガイドラインが挙げる例は,連絡先が含まれていない場合と,連絡先が古いために連絡できない場合である。
通則編ガイドライン及びQ&Aで「通知が困難」に触れる箇所には,通知すると事業者側に危害が及ぶおそれがある場合を「困難」に当たるとした記載は見当たらない。
③ 危険な相手への通知は,まず通知の時期と方法で調整する。
施行規則10条は「当該事態の状況に応じて速やかに」通知するとしており,警察への相談,通知の名義,通知事項の範囲を検討したうえで通知する方法がある。
④ それでも直接の通知が危険な場合に,「困難」と整理して公表等の代替措置で対応する考え方もあるが,明文の裏付けがないので,危険の根拠と判断の経過を記録しておく必要がある。
⑤ 委託元が国の行政機関や地方公共団体の機関である場合は,法68条2項が適用され,民間事業者とは例外の定め方が異なる。
⑥ 令和8年改正法の施行後も,「本人への通知が困難な場合」の枠組みは維持され,これに加えて,本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合として委員会規則で定める場合にも代替措置によることができるようになる。

3 基準日と資料

本記事は,令和8年10月25日時点で,e-Gov法令検索で取得した個人情報保護法及び同法施行規則の現行条文,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン(令和8年6月一部改正)及びQ&A(令和7年7月1日更新)に基づく。
Studio社の対応は,同社の「Studioにおける不正アクセスに関するご案内」の令和8年10月20日12時30分の更新までの記載による。
同社の調査は続いており,今後の続報によって事実関係が変わる可能性がある。

第2 Studio事案で公表されていること
1 不正アクセスと流出のおそれがある情報

Studio社の案内によれば,令和8年9月30日から10月1日にかけて,第三者が同サービスの一部機能の脆弱性を悪用して不正にアクセスし,環境内のデータを外部から取得できる状態にしており,この状態は同月14日に同社が対処するまで続いた。
同社は,実際に第三者に取得された事実は確認できていないが,取得されたものとみなして対応を進めているとしている。

流出した可能性がある情報には,同サービスの利用者のアカウント情報のほか,各サイトのフォームに送信された内容が含まれる。
暗号化して保存していたものについても,復号に必要な鍵が同じ不正アクセスで読み出されたため,内容を知られた可能性があるとされている。
フォームに添付されたファイルは,ファイル名だけが対象とされている。

2 サイト運営者とStudio社の関係

同社は,フォームの送信内容について,「弊社は、運営者からの委託を受けて、送信内容の保管などを行っています。」と説明している。

(続きを読む...)漏えい等の本人通知は殺害予告や営業メールの送り主にも必要か―個人情報保護法26条2項ただし書の「通知が困難な場合」とStudio事案(AI作成)