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種類株式の相続税評価――配当優先の無議決権株式・社債類似株式・拒否権付株式と国税庁の取扱い(AI作成)

第1 この記事が扱う対象と時点

1 対象とする株式と税目

この記事は,非上場会社が発行する種類株式を相続,遺贈又は贈与により取得した場合に,相続税・贈与税の計算上その株式をどのように評価するかを扱う。
中心となるのは,国税庁が平成19年に文書回答で評価方法を示した三つの類型,すなわち配当優先の無議決権株式,社債類似株式及び拒否権付株式である。
それ以外の種類株式と,非公開会社が定款で定める株主ごとの異なる取扱い(いわゆる属人的株式)については,国税庁の公表資料で確認できる範囲を示す。
会社法上の価格決定や遺産分割における株式の評価は,相続税評価とは別の問題である。

2 調査基準日と資料

本記事は,令和8年9月17日時点で,e-Gov法令検索に掲載された会社法の条文,国税庁の財産評価基本通達,文書回答事例,情報及び質疑応答事例,中小企業庁の公表資料並びに国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の資料を確認して作成した。
裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,公表裁決は国税不服審判所の公表裁決事例で確認した。
個別の会社の株式の評価額は,株主構成,議決権の数,配当の実績及び財務内容によって異なる。

第2 会社法上の種類株式

1 内容の異なる9つの事項

会社法108条1項は,「株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。」と定めている。
その事項は,①剰余金の配当,②残余財産の分配,③株主総会において議決権を行使することができる事項,④譲渡による取得に会社の承認を要すること,⑤株主が会社に取得を請求できること,⑥一定の事由が生じたことを条件に会社が取得できること,⑦株主総会の決議によって会社が全部を取得すること,⑧株主総会等の決議のほか種類株主総会の決議を必要とすること,⑨種類株主総会において取締役又は監査役を選任することである。
同項ただし書により,指名委員会等設置会社及び公開会社は,⑨の定めがある種類の株式を発行することができない。
種類株式を発行するには,同条2項により,内容と発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。

2 株主ごとの異なる取扱い

会社法109条2項は,「公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。」と定めている。
対象となる権利は,剰余金の配当を受ける権利,残余財産の分配を受ける権利及び株主総会における議決権である(同法105条1項各号)。
この定めがある株式は,同法109条3項により,会社法の一部の規定の適用については内容の異なる種類の株式とみなされる。
中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版)資料上105頁は,「「株主ごとの異なる取扱い」は種類株式と異なって登記されないため、外部からその存在や内容を知られることがないという特徴がある。」と説明している。

3 導入の手続

会社の成立後に種類株式を設けるには,株主総会の決議による定款の変更が必要であり(会社法466条),その決議は特別決議である(同法309条2項11号)。
発行する各種類の株式の内容は登記事項である(同法911条3項7号)。
既に発行した普通株式を種類株式に変える場合について,事業承継ガイドライン(第3版)資料上106頁は,「登記実務上、当該株主との合意と、他の株主の利益を害するおそれがある場合には当該他の株主の同意が必要であるという取扱いである。」としている。

4 議決権制限株式の発行数の制限

会社法115条は,議決権制限株式の数が発行済株式の総数の2分の1を超えるに至ったときに,2分の1以下にするための措置をとらなければならないと定めている。
この規律は「種類株式発行会社が公開会社である場合」に限られるから,公開会社でない中小企業には及ばない。

第3 評価の前提となる考え方

1 議決権の有無は原則として評価額に影響しない

国税庁の「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日)資料上4頁は,「無議決権株式を発行している会社の無議決権株式及び議決権のある株式については、原則として、議決権の有無を考慮せずに評価する。」としている。
したがって,後継者以外の相続人に無議決権株式を取得させても,それだけで無議決権株式の評価額が下がり,議決権のある株式の評価額が上がるわけではない。
例外は,後記第4の2(2)の調整計算を選択した場合である。

2 株主区分は議決権で判定する

取引相場のない株式を原則的評価方式で評価するか,配当還元方式で評価するかは,取得者とその同族関係者の議決権の数によって判定する(財産評価基本通達188)。
評価会社が種類株式を発行している場合について,同通達188-5は,「種類株式のうち株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権の数を含めるものとする。」と定めている。
前記の情報資料上5頁は,同族株主に当たるかどうかの判定は「持株割合ではなく議決権割合により行う」とし,無議決権株式を多く持っていても議決権の割合によっては同族株主に当たらない場合があることを示している。
配当還元方式が適用される株主の範囲は,同通達188の(1)から(4)までの要件で決まるから,議決権割合の数字だけで判断することはできない。

第4 国税庁の文書回答が示す三つの類型

1 文書回答の位置付け

中小企業庁事業環境部長は,平成19年2月19日,国税庁課税部長に対し,事業承継での活用が期待される種類株式の評価方法について照会した。
国税庁課税部長は,平成19年2月26日,「ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません。」と回答した。
回答は,「この回答内容は国税庁としての見解であり、個々の納税者の申告内容等を拘束するものではありません。」としており,通達の改正ではない。
照会の対象は,平成19年1月1日以降に,相続,遺贈又は贈与により,原則的評価方式が適用される同族株主等が取得した種類株式である。

2 配当優先の無議決権株式

(1) 配当優先株式

類似業種比準方式で評価する場合,照会文は,財産評価基本通達183の(1)の「1株当たりの配当金額」について「株式の種類ごとに計算して評価する。」としている。
前記の情報資料上2頁~3頁によれば,種類ごとに分けるのは1株当たりの配当金額だけであり,利益金額と純資産価額は区分しない。
純資産価額方式で評価する場合は,照会文のとおり「配当優先の有無にかかわらず、財産評価基本通達185(純資産価額)の定めにより評価する。」。

(2) 無議決権株式の調整計算

照会文は,議決権の有無によって株式の価値に差が生じるという考え方もあることを考慮し,同族株主が無議決権株式を相続又は遺贈により取得した場合には,一定の条件の下で,無議決権株式の評価額から5%を控除し,控除した金額を議決権のある株式の価額に加算して申告することを選択できるとしている。
条件は,次の三つを全て満たすことである。
①当該会社の株式について,相続税の法定申告期限までに遺産分割協議が確定していること。
②当該相続又は遺贈により当該会社の株式を取得した全ての同族株主から,法定申告期限までに,調整計算による申告についての届出書が所轄税務署長に提出されていること。
③相続税の申告に当たり,評価明細書に算定根拠を記載して添付していること。

この選択は相続又は遺贈による取得が対象であり,贈与による取得には使えない。
また,無議決権株式から控除した金額は議決権のある株式に加算されるから,同族株主が取得した株式の評価額の合計は変わらない。
前記の情報資料上5頁の設例では,調整計算前の評価額が普通株式3,500円,無議決権株式3,600円で,長男が普通株式2万株,次男と三男が無議決権株式を各2万株相続した場合,無議決権株式は3,600円×0.95=3,420円,加算額は3,600円×4万株×0.05=720万円,議決権のある株式は(3,500円×2万株+720万円)÷2万株=3,860円となる。
調整計算は,後継者と他の相続人の間で評価額の配分を変える仕組みであり,相続税の総額を減らすものではない。

3 社債類似株式

照会文は,次の5つの条件を全て満たす株式を社債類似株式とし,「財産評価基本通達197−2(利付公社債の評価)の(3)に準じて、発行価額により評価するが、株式であることから、既経過利息に相当する配当金の加算は行わない。」としている。
①配当金は優先して分配し,ある事業年度の配当金が優先配当金に達しないときは不足額を翌事業年度以降に累積するが,優先配当金を超えて配当しないこと。
②残余財産の分配は,発行価額を超えて行わないこと。
③一定期日において,発行会社が株式の全部を発行価額で償還すること。
④議決権を有しないこと。
⑤他の株式を対価とする取得請求権を有しないこと。

社債類似株式を発行している会社の他の株式を評価するときは,社債類似株式を社債として計算する。
前記の情報資料上6頁によれば,類似業種比準方式では,社債類似株式に係る配当金を利益金額から費用として控除し,発行価額を簿価純資産価額から負債として控除する。
同資料上7頁の純資産価額方式の設例は評価差額に対する法人税額等相当額を42%で計算しているが,これは当時の割合であり,現行の財産評価基本通達186-2は38%である。

配当優先の無議決権株式であっても,償還の定めや累積・非参加の条件を欠けば社債類似株式には当たらない。

4 拒否権付株式

照会文は,「拒否権付株式(会社法第108条第1項第8号に掲げる株式)については、拒否権を考慮せずに評価する。」としている。
前記の情報資料上9頁も,「拒否権の有無にかかわらず普通株式と同様に評価する。」としている。
先代経営者が拒否権付株式を保有し続けても,そのことだけで評価額が加算されることはなく,拒否権のない株式が減額されることもない。

第5 三つの類型以外の株式と裁判例

1 国税庁の公表資料で確認できない類型

取得条項付株式,全部取得条項付株式,譲渡制限株式,取得請求権付株式,役員選任権付株式及び株主ごとの異なる取扱いについて,その相続税評価の方法を個別に示した文書回答,情報又は質疑応答事例は,国税庁の財産評価に関するそれぞれの一覧では確認できない。
事業承継ガイドライン(第3版)資料上107頁も,「種類株式の承継等に関する税務上の取扱いが明確でない部分も存在するため、早期に弁護士、司法書士、税理士等の士業等専門家等に相談すべきである。」としている。
これらの株式を事業承継の設計に使う場合,評価方法が定まっていると前提して計画を立てることはできない。

2 上場会社が発行した非上場の優先株式

国税庁の質疑応答事例「種類株式の評価(その1)」は,上場会社が発行した利益による消却が予定されている非上場株式について,「利付公社債の評価方法(財産評価基本通達197-2(3))に準じて、払込金額である1株当たり500円と課税時期において残余財産の分配が行われるとした場合に分配を受けることのできる金額とのいずれか低い金額により評価します。」としている。
これは上場会社が発行した優先株式の事例であり,発行価額で評価する社債類似株式の取扱いとは評価の方法が異なる。

3 裁判例と公表裁決

裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,「無議決権株式」「社債類似株式」「拒否権付株式」「種類株式」を財産評価基本通達又は相続税・贈与税と組み合わせて検索した範囲では,これらの株式の相続税・贈与税評価そのものを判断した裁判例は掲載されていなかった。
国税不服審判所の平成18年4月11日裁決(裁決事例集No.71)は,評価会社が保有する上場会社発行の非上場の優先株式について,「評価通達には本件優先株式に直接適用できる評価方法が定められてないところ、評価通達5によれば、評価通達に定めのない場合は、類似する資産の評価方法に準じて評価することとしている。」とし,払込価額により評価するのが相当とした。
同審判所の平成16年3月23日裁決(裁決事例集No.67)は,株主区分の判定で議決権のない株式を発行済株式数から除く扱いを示したが,議決権割合による現行の判定に改められる前の通達の事案である。

第6 評価見直しの議論と実務上の注意

1 有識者会議で示された見直しの案

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回資料(令和8年8月20日)資料上7頁は,配当還元方式の濫用によるスキームとして,株主構成の操作や一時的な第三者への株式譲渡とともに「無議決権株式を用いた世代間譲渡」を挙げている。
同日の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」資料上7頁は,社債類似株式について,条件の一部に該当しない場合であっても,株式の取得の経緯,株主構成,株主間の関係性,議決権の行使の状況,株式の取引実態及び評価会社の経営実態等から「社債類似株式に準じて評価するのが合理的と認められる株式については同様に評価してはどうか?」との案を示している。
同じ頁と第6回資料(令和8年9月16日)資料上16頁は,一定の要件を満たす固定価格の従業員持株会の株式を固定価格で評価する案を示している。
これらは検討段階の案であり,骨子は,評価水準や税負担の在り方も含めて最終的には税制改正プロセスにおいて決定するとしている。
見直しの全体像は,取引相場のない株式の評価に関する有識者会議――国税庁が示した見直しの骨格と論点で整理している。

2 設計の段階で確認すること

種類株式を事業承継に使う場合には,次の点を確認する必要がある。
①無議決権株式の5%の調整計算は相続・遺贈に限られ,全ての同族株主の届出が必要であり,評価額の合計は変わらないこと。
②社債類似株式の取扱いは5つの条件を全て満たす場合に限られること。
③株主区分は議決権で判定されるため,無議決権株式の配分によって,他の株主が配当還元方式の対象になるかどうかが変わり得ること。
④法人版事業承継税制の特例措置の対象は議決権に制限のない株式に限られ,無議決権株式は納税猶予の対象にならないこと。
⑤3類型以外の種類株式と株主ごとの異なる取扱いは,評価方法を示した国税庁の公表資料が確認できないこと。

事業承継税制の期限は法人版事業承継税制の特例措置の期限で,現行の評価方法の全体は遺産相続における非上場株式の評価方法で,評価明細書の記載は取引相場のない株式(出資)の評価明細書の書き方で扱っている。

第7 出典

1 法令・通達

会社法105条1項,108条1項・2項,109条2項・3項,115条,309条2項11号,466条,911条3項7号(e-Gov法令検索)
②国税庁「財産評価基本通達」185,186-2,188,188-5
③国税庁「財産評価基本通達」183
④国税庁「財産評価基本通達」197-2

2 国税庁の文書回答・情報・質疑応答事例

①国税庁文書回答事例「相続等により取得した種類株式の評価について」(中小企業庁事業環境部長の照会・平成19年2月19日,国税庁課税部長の回答・平成19年2月26日)及び照会文
②国税庁資産評価企画官情報第1号ほか「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日)別添(資料上1頁~5頁),(資料上6頁~8頁),(資料上9頁)
③国税庁質疑応答事例「種類株式の評価(その1)-上場会社が発行した利益による消却が予定されている非上場株式の評価

3 公表裁決・裁判例の検索

①国税不服審判所「平成18年4月11日裁決」(裁決事例集No.71)
②国税不服審判所「平成16年3月23日裁決」(裁決事例集No.67)
③裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(全文検索。令和8年9月16日確認)

4 中小企業庁の資料

①中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月)104頁~107頁

5 評価見直しに関する資料

①国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)資料」(令和8年8月20日)7頁
②国税庁「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」(第5回当日机上配付資料)1頁,7頁
③国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料」(令和8年9月16日)16頁